説明

高分子化合物、配向膜用組成物、配向膜、光学素子および光ヘッド装置

【課題】液晶性化合物に対する配向能を十分に有するとともに、機械的な強度と耐熱性を有し、液晶性化合物が配向して得られる光学異方性膜、特に配向状態で重合した重合性液晶性化合物の重合体を含む光学異方性膜との密着性にも優れる配向膜を形成可能な、新規な高分子化合物、およびこれを含有する配向膜用組成物、ならびにこれを用いて得られる配向膜、光学素子、光学ヘッド装置を提供する。
【解決手段】フマル酸ジエステルに基づく重合単位と、側鎖にラジカル重合性基を有する重合単位を含む高分子化合物を提供する。この高分子化合物を用いて配向膜を作製する。この配向膜と光学異方性膜を有する光学素子を作製し位相差板4とする。位相差板4は、機械的な強度と耐熱性を有し、剥離なく信頼性が良好であり、これを用いて光ヘッド装置を構成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子化合物、配向膜用組成物、配向膜、光学素子および光ヘッド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の光記録媒体、例えば、CD(Compact Disk)、DVD(Digital Versatile Disk)や青色光による高密度光記録媒体(以下、「BD」という)が開発され、これら光記録媒体への情報の記録および/または再生を行うための光ヘッド装置が広く普及している。
【0003】
このような光ヘッド装置には、通常、光源からの入射光(レーザ光)を変調(偏光、回折、位相調整など)させる位相差板や回折素子等の光学素子が用いられている。また、光ヘッド装置においては、位相差板として、例えば、直線偏光を円偏光とする1/4波長板、直線偏光を偏光面が90度傾いた直線偏光とする1/2波長板等が一般的に使用されている。
【0004】
また、上記のような入射光を変調させる光学素子は、液晶表示装置にも組み込まれており、液晶表示装置を構成する吸収型円偏光板(λ/4位相差層,λ/2位相差層)や、直線偏光板、各種液晶モードの視角補償層として広く用いられている。
【0005】
ここで、位相差板や回折素子等の光学素子は、一般的には液晶材料を配向させた光学異方性材料を用いて作製される。光学異方性材料は、メソゲン骨格に由来する屈折率異方性などの光学異方性を有する材料である。なお、このような光学異方性材料を用いて作製される光学素子では、均一かつ適正なRd値(屈折率異方性(Δn)と光の伝播方向の厚さ(d)を用いて、Rd=Δn×dで示される)を有することが重要である。
【0006】
上記光学異方性材料を製造する方法として、重合性の液晶性化合物を、配向膜を用いて配向させた状態で重合させ、この配向状態を固定化して膜状の光学異方性材料とする方法が知られている。例えば、液晶性骨格を有する(メタ)アクリレート化合物は、反応性が高いことから、上記方法で光学異方性材料を作製すると、均一なRd値を有し、透明性にも優れる光学異方性材料が得られることが、特許文献1や特許文献2に記載されている。なお、特許文献1や特許文献2では単官能の(メタ)アクリレート化合物が用いられている。
【0007】
しかし、上記液晶性骨格を有する(メタ)アクリレート化合物を用いて作製される光学異方性膜は、機械的な強度および耐熱性において十分ではなく、これらを向上させるための各種提案がなされている。例えば、特許文献3には、単官能の(メタ)アクリレート化合物に液晶性骨格を有する多官能の(メタ)アクリレートを添加して架橋を行う方法が記載されている。また、特許文献4および特許文献5には液晶性骨格を有する多官能のアクリレートのみからなる重合性液晶組成物にて光学素子を作製する方法が記載されている。しかしながら、多官能(メタ)アクリレートの含有量の増加に伴い、隣接する配向膜との密着力が乏しくなり、密着力不足に起因する剥離の発生が問題であった。
【0008】
ここで、液晶性化合物を配向させるための配向膜としては、液晶性化合物に対する配向能に優れるとともに十分な耐熱性、機械的強度を有することから一般にポリイミド膜が使用されている。さらには、配向膜の薄膜化を目的として、特許文献6にはフマル酸ジエステル重合体の単分子膜(LB膜)を用いた配向膜基板が記載されている。また、上記同様の目的で特許文献7にはフマル酸ジエステル重合体薄膜をラビング法により配向処理する方法が記載されている。しかしながら、これらのフマル酸ジエステル重合体の配向膜はポリイミド配向膜と同様に、上記配向能や耐熱性、機械的強度を有するものの、多官能の(メタ)アクリレート化合物重合体と密着性の点で脆弱であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−17910号公報
【特許文献2】特開平8−3111号公報
【特許文献3】特開平11−80081号公報
【特許文献4】特開2005−272560号公報
【特許文献5】特開2008−9284号公報
【特許文献6】特開平02−214731号公報
【特許文献7】特開平03−21919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、液晶性化合物に対する配向能を十分に有するとともに、液晶性化合物が配向して得られる光学異方性膜、特に配向状態で重合した重合性液晶性化合物の重合体を含む光学異方性膜との密着性にも優れる配向膜を形成可能な、新規な高分子化合物、およびこれを含有する配向膜用組成物、ならびにこれを用いて得られる配向膜の提供を目的とする。
本発明は、また、このような配向膜と光学異方性膜を用いて得られる、機械的強度と耐熱性を有するとともに、配向膜の剥離がなく信頼性が良好な光学素子および、これを用いた信頼性の高い光ヘッド装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の[1]〜[8]の構成を有する高分子化合物、[9]の構成を有する配向膜用組成物、[10]の構成を有する配向膜、[11]、[12]の構成を有する光学素子および[13]の構成を有する光ヘッド装置を提供する。
[1]フマル酸ジエステルに基づく重合単位と、側鎖にラジカル重合性基を有する重合単位を含む高分子化合物。
[2][1]に記載の高分子化合物であって、下記式(1)で表される高分子化合物。
【0012】
【化1】

【0013】
ただし、式(1)中の記号は、以下の通りである。
およびRはそれぞれ独立に、炭素数1〜12の直鎖、分岐または環状構造を有するアルキル基であり、炭素−炭素結合間にエーテル結合性の酸素原子を有していてもよく、水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換されていてもよい。
は水素原子、メチル基またはフッ素原子を示す。
SpおよびSpはそれぞれ独立に、単結合または炭素数1〜12の炭化水素基であり、炭素−炭素結合間または主鎖側の末端にエーテル結合、スルフィド結合、エステル結合、アミド結合、チオエステル結合、チオアミド結合、ジチオカルボン酸エステル結合、炭酸エステル結合、ウレタン結合、ウレア結合、アミノ基、−O−CH−CH(OH)−CH−OCO−、−COO−CH−CH(OH)−CH−O−を有していてもよく、水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換されていてもよい。
はラジカル重合性基を末端に有する1価の有機基を示す。
はヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基、カルボキシル基またはグリシジルオキシ基を示す。
l、mおよびnはモル%を表し、l+m+n=100、30≦l≦95、5≦m≦70、0≦n≦30である。
【0014】
[3]前記式(1)におけるSpが下記式(2−1)で示され、Spが下記式(2−)で示され、かつRが下記式(3−1)〜(3−6)からなる群から選ばれる式で示される基である[2]に記載の高分子化合物。
−W−R11−[Z−R12− …(2−1)
−W−R11− …(2−2)
ただし、式(2−1)および式(2−2)中の記号は、以下の通りである。
Wは、単結合、エーテル結合、スルフィド結合、エステル結合、アミド結合、チオエステル結合、またはアミノ基を示す。
11およびR12は、それぞれ独立に水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換されていてもよい炭素数0〜12の2価炭化水素基であり、炭素−炭素結合間または主鎖側の末端にフェニレン基またはエーテル性酸素を有してもよい。
Zは、単結合、エーテル結合、スルフィド結合、エステル結合、アミド結合、チオエステル結合、チオアミド結合、ジチオカルボン酸エステル結合、炭酸エステル結合、ウレタン結合、ウレア結合、アミノ基(−NH−)、−O−CH−CH(OH)−CH−OCO−、または−COO−CH−CH(OH)−CH−O−を示す。
sは0〜6の整数を示し、R11の炭素数とR12の炭素数にsを乗じた値の合計は0〜12である。
【0015】
【化2】

ただし、式(3−1)〜(3−6)中、Xは水素原子、フッ素原子またはメチル基を、Yは酸素原子、硫黄原子またはアミノ基(−NH−)を、Aは水素原子、塩素原子またはシアノ基をそれぞれ示す。
【0016】
[4]前記式(1)におけるRおよびRが、それぞれ独立に炭素数3〜12の分岐または環状構造を有するアルキル基であり、炭素−炭素結合間にエーテル結合性の酸素原子を有していてもよく、水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換されていてもよい、[2]または[3]記載の高分子化合物。
[5]前記式(2−1)および式(2−2)におけるWが、単結合、エーテル結合またはエステル結合であり、前記式(2−1)におけるZが、単結合、エーテル結合、スルフィド結合、エステル結合、アミド結合、チオエステル結合、炭酸エステル結合、ウレタン結合、ウレア結合、−O−CH−CH(OH)−CH−OCO−、または−COO−CH−CH(OH)−CH−O−である[3]または[4]記載の高分子化合物。
【0017】
[6]前記式(1)におけるRが、下記式(3−11)、(3−21)、(3−4)、(3−51)、(3−52)または(3−61)で示される基である[2]〜[5]のいずれかに記載の高分子化合物。
【化3】

ただし、式(3−11)、(3−21)、(3−4)および(3−61)中、Xは水素原子、フッ素原子またはメチル基を示す。
[7]前記式(1)におけるRとRが同一の基である[2]〜[6]のいずれかに記載の高分子化合物。
[8]前記式(1)におけるRがアクリロキシ基またはメタクリロキシ基である請求項2〜7のいずれか1項に記載の高分子化合物。
【0018】
[9][1]〜[8]のいずれかに記載の高分子化合物を含有する配向膜用組成物。
[10][9]に記載の配向膜用組成物を用いて形成した薄膜を配向処理してなる配向膜。
[11][10]に記載の配向膜と、少なくとも1種の重合性液晶性化合物を配向状態で重合して得られる重合体を含む光学異方性膜を有する光学素子。
[12]前記重合体が、2以上の重合性基を有する重合性液晶性化合物の重合単位を含有する[11]記載の光学素子。
[13]光記録媒体に情報を記録する、および/または、光記録媒体に記録された情報を再生する光ヘッド装置であって、[11]または[12]に記載の光学素子を有する光ヘッド装置
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、液晶性化合物に対する配向能を十分に有するとともに、液晶性化合物が配向して得られる光学異方性膜、特に配向状態で重合した重合性液晶性化合物の重合体を含む光学異方性膜との密着性にも優れる配向膜を形成可能な、新規な高分子化合物、およびこれを含有する配向膜用組成物、ならびにこれを用いて得られる配向膜を提供できる。
また、本発明によれば、前記配向膜と光学異方性膜を用いて得られる、機械的強度と耐熱性を有するとともに、配向膜の剥離がなく信頼性が良好な光学素子および、これを用いた信頼性の高い光ヘッド装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の光ヘッド装置の実施形態の一例を模式的に示す構成図である。
【図2】実施例で得られた光学素子C1の左右円偏光における透過率スペクトルを示す図である。
【図3】比較例で得られた光学素子C2の左右円偏光における透過率スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本明細書の記載において使用される用語は、下記にしたがって解釈するものとする。また、式で表される化合物は、その式の番号を付した化合物としても表記し、例えば、式(1)で表される高分子化合物は、高分子化合物(1)とも表記する。
【0022】
「液晶性化合物」とは、「単独で液晶相を示し得る化合物もしくは、それ自体は液晶相を持たなくても、他の液晶化合物と混合したときに、液晶組成物の成分として使用できる化合物」を意味し、「重合性液晶性化合物」とは、「重合性を有し、単独で液晶相を示し得る化合物もしくは、それ自体は液晶相を持たなくても、他の液晶化合物と混合したときに、液晶組成物の成分として使用できる化合物」を意味する。また、「液晶性組成物」とは、「液晶性化合物を1種以上含有し、該液晶性化合物のそれぞれが単独で液晶相を示し得る、または、該液晶性化合物を含む組成物が含有する各種成分が、反応して得られた反応生成物が液晶相を示し得る組成物」を意味する。メソゲンとは、棒状または板状の分子鎖(脂環、芳香環を含む。)のような剛性の分子鎖部分をいう。
「Δn」は、「屈折率異方性」の略記である。なお、以下の記載における波長の値は、記載値±2nmの範囲を含み得るものとする。
【0023】
「(メタ)アクリ…」の表記は、「アクリ…」と「メタクリ…」の両者を意味する総称として使用する。例えば、「(メタ)アクリロキシ基」は、「アクリロキシ基」と「メタクリロキシ基」の両者を意味する。また、化学式における−COO−は、−C(=O)O−を示し、−OCO−は、−OC(=O)−を示す。
【0024】
[高分子化合物]
本発明の高分子化合物は、フマル酸ジエステルに基づく重合単位と、側鎖にラジカル重合性基を有する重合単位を含む高分子化合物である。このような高分子化合物を用いて配向膜を作製すれば、主にフマル酸ジエステルに基づく重合単位の作用により、液晶性化合物に対する配向能に優れる配向膜となる。また、高分子化合物は側鎖にラジカル重合性基を有することから、重合性液晶性化合物を配向状態で重合して得られる重合体(光学異方性材料)、特に多官能の重合性液晶性化合物を含有する液晶性組成物から得られる光学異方性材料に対する密着性に優れる。
【0025】
このような本発明の高分子化合物として、具体的には、下記式(1)で表される高分子化合物が挙げられる。
【0026】
【化4】

【0027】
ただし、式(1)中の記号は、以下の通りである。
およびRはそれぞれ独立に、炭素数1〜12の直鎖、分岐または環状構造を有するアルキル基であり、炭素−炭素結合間にエーテル結合性の酸素原子を有していてもよく、水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換されていてもよい。
は水素原子、メチル基またはフッ素原子を示す。
SpおよびSpはそれぞれ独立に、単結合または炭素数1〜12の2価炭化水素基であり、炭素−炭素結合間または主鎖側の末端にエーテル結合、スルフィド結合、エステル結合、アミド結合、チオエステル結合、チオアミド結合、ジチオカルボン酸エステル結合、炭酸エステル結合、ウレタン結合、ウレア結合、アミノ基、−O−CH−CH(OH)−CH−OCO−、−COO−CH−CH(OH)−CH−O−を有していてもよく、水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換されていてもよい。
はラジカル重合性基を末端に有する1価の有機基を示す。
はヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基、カルボキシル基またはグリシジルオキシ基を示す。
l、mおよびnはモル%を表し、l+m+n=100、30≦l≦95、5≦m≦70、0≦n≦30である。
【0028】
上記式(1)に示される高分子化合物は、フマル酸ジエステルに基づく重合単位(以下、重合単位(a1)という)と、側鎖にラジカル重合性基を有する重合単位(以下、重合単位(a2)という)と、側鎖に上記所定の官能基を有する重合単位(以下、重合単位(a3)という)とで構成された共重合体であり、共重合体を構成する全構成単位を100モル%とした際の各重合単位のモル%が、重合単位(a1)についてはlモル%、重合単位(a2)についてはmモル%、重合単位(a3)についてはnモル%で表される共重合体である。
【0029】
高分子化合物(1)において、重合単位(a1)が占める割合、すなわちlモル%の範囲は、30≦l≦95であり、重合単位(a2)が占める割合、すなわちmモル%の範囲は、5≦m≦70であり、重合単位(a3)が占める割合、すなわちnモル%の範囲は、0≦n≦30である。
重合単位(a1)すなわちフマル酸ジエステルに基づく重合単位の割合lが30モル%未満では、高分子化合物(1)を用いて得られる配向膜が液晶性化合物を十分に配向させられないことがある。一方、重合単位(a2)すなわち側鎖にラジカル重合性基を有する重合単位の割合mが5モル%未満では、高分子化合物(1)を用いて得られる配向膜と、液晶性化合物が配向した光学異方性材料、特に配向状態で重合した多官能の重合性液晶性化合物を重合単位として含む光学異方性材料との間の密着性が十分に得られないことがある。配向特性と密着性のバランスから高分子化合物(1)における上記各重合単位の割合(モル%)は、特に50≦l≦80、20≦m≦50(モル%)であることが好ましい。
【0030】
ここで、高分子化合物(1)において、重合単位(a3)は上記の通り任意の重合単位である。高分子化合物(1)は、光学素子の配合膜に使用される場合には、重合単位(a1)と重合単位(a2)のみで構成されることが好ましい。このような場合には、高分子化合物(1)は、重合単位(a3)のような任意の重合単位を、その効果が損なわれない範囲で、具体的には、上記に示す30モル%以下の範囲で含んでもよい。重合単位(a3)は、例えば、高分子化合物(1)を製造する際に、側鎖にラジカル重合性基を導入するために用いられる重合単位であって、最終的に得られる高分子化合物(1)に、上記割合であれば残留してもよい重合単位である。
【0031】
高分子化合物(1)中の重合単位(a1)におけるRおよびRは、単量体としてのフマル酸ジエステルにおいてフマル酸とエステル化反応したアルコール残基を示す。RおよびRはそれぞれ独立に、炭素数1〜12の直鎖、分岐または環状構造を有するアルキル基であり、炭素−炭素結合間にエーテル結合性の酸素原子を有していてもよく、水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換されていてもよい。高分子量体作製の観点から、RおよびRは、炭素数3〜12の非置換の分岐アルキル基または環状アルキル基であることが好ましい。このようなアルキル基として、具体的には、イソプロピル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、sec−ペンチル基、tert−ペンチル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。特に配向特性に優れたものとなることからイソプロピル基が好ましい。また、配向特性の観点から、RとRは同一の基であることが好ましい。
【0032】
高分子化合物(1)中の重合単位(a2)および重合単位(a3)における、Rは水素原子、メチル基またはフッ素原子を示す。また、重合単位(a2)および重合単位(a3)における、SpおよびSpは、それぞれラジカル重合性基を末端に有する1価の有機基を示すRおよびヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基、カルボキシル基またはグリシジルオキシ基を示すRと、主鎖の炭素を連結する基または単結合である。
【0033】
SpおよびSpは、具体的には、それぞれ独立に、単結合または炭素数1〜12の炭化水素基であり、炭素−炭素結合間または主鎖側の末端にエーテル結合、スルフィド結合、エステル結合、アミド結合、チオエステル結合、チオアミド結合、ジチオカルボン酸エステル結合、炭酸エステル結合、ウレタン結合、ウレア結合、アミノ基、−O−CH−CH(OH)−CH−OCO−、−COO−CH−CH(OH)−CH−O−を有していてもよく、水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換されていてもよい。なお、上記各結合において左右対称でないものについては、その結合の向きは制限されない。例えば、エステル結合であれば、−OCO−、−COO−のいずれも適用可能である。
【0034】
このようなSpとして具体的には、以下の式(2−1)で示される基が、またSpとして、具体的には、以下の式(2−2)で示される基が好ましく用いられる。
−W−R11−[Z−R12− …(2−1)
−W−R11− …(2−2)
式(2−1)および式(2−2)においては、左側に示すWが主鎖の炭素に結合する。式(2−1)においては、右側に示す[Z−R12がラジカル重合性基を末端に有する1価の有機基(R)と結合し、式(2−2)においては、右側に示すR11が上記官能基のいずれか(R)と結合する。
【0035】
また、式(2−1)および式(2−2)においてWは、単結合、エーテル結合(−O−)、スルフィド結合(−S−)、エステル結合(COO−、−OCO−)、アミド結合(−NH−CO−、−CO−NH−)、チオエステル結合(−CO−S−、−S−CO−)、またはアミノ基(−NH−)を示す。これらのうちでも、本発明においては高分子化合物の作製の観点から、Wとして、単結合、エーテル結合およびエステル結合が好ましい。
【0036】
11は、水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換されていてもよい炭素数0〜12の2価炭化水素基であり、炭素−炭素結合間または主鎖側の末端にフェニレン基またはエーテル性酸素を有してもよい。R11としては、非置換の2価炭化水素基(−(CH−、ただしフェニレン基を含んでいてもよくtは0〜12の整数を示す。)が好ましく、1,4−フェニレン基(以下、「Ph」と示す。)、W側にPhが結合しさらにPhに非置換の炭素数1〜6の2価炭化水素基が結合した基、炭素数0〜6の非置換の直鎖アルキレン基(炭素数が2以上の場合、炭素−炭素間にエーテル性酸素を有してもよい)、がより好ましい。特に、Ph、および非置換の炭素数0〜4の直鎖アルキレン基が好ましい。
【0037】
Zは、単結合、エーテル結合(−O−)、スルフィド結合(−S−)、エステル結合(−COO−、−OCO−)、アミド結合(−NH−CO−、−CO−NH−)、チオエステル結合(−CO−S−、−S−CO−)、チオアミド結合(−NH−CS−、−CS−NH−)、ジチオカルボン酸エステル結合(−CS−S−、−S−CS−)、炭酸エステル結合(−O−CO−O−)、ウレタン結合(−NH−COO−、−OCO−NH−)、ウレア結合(−NH−CO−NH−)、アミノ基(−NH−)、−O−CH−CH(OH)−CH−OCO−、または−COO−CH−CH(OH)−CH−O−を示す。これらのうちでも、本発明においては高分子化合物の作製の観点から、Zとして、単結合、エーテル結合、スルフィド結合、エステル結合、アミド結合、チオエステル結合、炭酸エステル結合、ウレタン結合、ウレア結合、−O−CH−CH(OH)−CH−OCO−、および−COO−CH−CH(OH)−CH−O−が好ましい。
【0038】
12は、水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換されていてもよい炭素数0〜12の2価炭化水素基であり、炭素−炭素結合間または末端にフェニレン基を有してもよい。R12としては、非置換の2価炭化水素基(−(CH−、ただしフェニレン基を含んでいてもよくuは0〜12の整数を示す。)が好ましく、炭素数0〜6の非置換の直鎖アルキレン基がより好ましい。特に、非置換の炭素数0〜4の直鎖アルキレン基が好ましい。[Z−R12]の繰り返し数を示すsは0〜6の整数である。sの値は好ましくは、0〜4であり、0〜2がより好ましい。
【0039】
また、式(2−1)において、R11の炭素数とR12の炭素数にsを乗じた値の合計は0〜12である。高分子化合物(1)を用いて得られる配向膜が液晶性化合物を水平に配向させる配向能の観点から、この合計数は0〜6が好ましい。
【0040】
高分子化合物(1)におけるSpおよびSpとして、より好ましくは、それぞれ独立に、下記(Sp−1)、(Sp−2)でそれぞれ示される基が挙げられる。また、さらにSpとしては、下記(Sp−3)で示される基も好ましい基として挙げられる。
−O−(CH− (Sp−1)
−COO−(CH− (Sp−2)
−O−(CH−OCO−NH−(CH− (Sp−3)
上記各式において、tおよびuは、それぞれ独立に0〜12の整数を示し、t+uは0〜12である。好ましくは、tおよびuは0〜4、t+uは0〜6である。
これらのうちでも、上記式(1)中のSpおよびSpとして特に好ましくは、−O−(CH−、−COO−(CH−等が挙げられる。Spとしては、さらに−O−(CH−OCO−NH−(CH−等も好ましい。
【0041】
高分子化合物(1)中の重合単位(a2)において、上記Spと連結して側鎖の末端を構成しているRとしては、ラジカル重合性基を末端に有する1価の有機基であれば特に制限されない。ラジカル重合性基として具体的には、置換されていてもよいビニル基等が挙げられる。Rにおいて、末端のラジカル重合性基とSpを連結する構成としては、単結合、エーテル結合(−O−)、スルフィド結合(−S−)、アミノ基(−NH−)、エステル結合(−COO−、−OCO−)、チオエステル結合(−CO−S−、−S−CO−)、置換または非置換のアミド結合(−NH−CO−、−CO−NH−)、1,4−フェニレン基等が挙げられる。
このようなRとして、好ましくは、下記式(3−1)〜(3−6)にそれぞれ示される1価の有機基が挙げられる。
【0042】
【化5】

【0043】
ただし、式(3−1)〜(3−6)中、Xは水素原子、フッ素原子またはメチル基を、Yは酸素原子、硫黄原子またはアミノ基(−NH−)を、Aは水素原子、塩素原子またはシアノ基をそれぞれ示す。
これらのうちでも、Rとしては、以下の式(3−11)、(3−21)、(3−4)、(3−51)、(3−52)または(3−61)で示される、末端にラジカル重合性基を有する1価の有機基がより好ましい。なお、下記式中のXは上記と同様の意味を表す。
【0044】
【化6】

【0045】
さらにこれらのうちでも、上記式(1)中のRとしては、上記式(3−11)に示される基であって、Xが水素原子またはメチル基である(メタ)アクリロキシ基が好ましい。Rが、(メタ)アクリロキシ基であれば、高分子化合物(1)を用いて得られる配向膜と、液晶性化合物が配向した光学異方性材料、特に配向状態で重合した多官能の重合性液晶性化合物を重合単位として含む光学異方性材料との間の密着性に優れる効果が顕著となる。
【0046】
高分子化合物(1)中の重合単位(a3)において、上記Spと連結して側鎖の末端を構成しているRは、ヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基、カルボキシル基またはグリシジルオキシ基である。これらのうちでも、Rとしては、ヒドロキシル基およびカルボキシル基が好ましい。なお、通常、重合単位(a2)は、重合性基(a3)におけるRに、これと反応性の官能基と上記Rを共に有する化合物を反応させ結合させた構成を有する。したがって、重合単位(a2)におけるSpのZは、単結合以外の場合に、Rの残基を含む構成となる。
【0047】
本発明の高分子化合物(1)は、フマル酸ジエステルに基づく重合単位(a1)と、側鎖にラジカル重合性基を有する単量体に基づく重合単位(a2)と、側鎖に上記所定の官能基を有する重合単位(a3)が、モル%で上記l:m:nの割合で含まれる組成であれば特に制限されない。また、高分子化合物(1)は、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト重合体等のいずれであってもよい。製造方法は以下に説明する。
高分子化合物(1)の分子量は、数平均分子量(Mn)として、1,000〜1,000,000が好ましく、これを用いて配向膜とした際の上記配向特性の観点から5,000〜1,000,000が特に好ましく、さらに、配向膜を薄膜として作製する観点から5,000〜300,000がとりわけ好ましい。なお、本明細書において数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法でポリスチレンを標準として測定したものをいう。
【0048】
<高分子化合物(1)の合成>
本発明の高分子化合物(1)の合成方法について、Rが(メタ)アクリロキシ基である下記式(1A)で示される高分子化合物を例にして、具体的に説明する。ただし、以下に説明する方法以外の方法によっても合成できる。
【0049】
【化7】

【0050】
ここで、上記化合物(1A)におけるR、R、R、R、Sp、Spおよびl、m、nは、式(1)における各記号と同様であり、Xは水素原子またはメチル基である。
化合物(1A)の合成方法は、式(1A)中のSp、Sp−Rの構成により適宜選択される。以下、SpおよびSpがそれぞれ上記式(2−1)および式(2−2)で示される場合の数種の構成に対応した化合物(1A)の合成方法を説明する。
まず、Spにおいて[Z−R12のsが0、すなわちSp=Sp=−W−R11−であって、Rがヒドロキシル基である場合については、例えば、以下の反応式に示す合成方法が挙げられる。
【0051】
【化8】

【0052】
上記反応式に示される通り、まず、重合単位(a1)を構成するための単量体としてフマル酸ジエステルと、重合単位(a2)および重合単位(a3)を構成するための単量体として側鎖に−W−R11−OH基を持つビニル化合物を、モル%でl:m+nの割合で重合して高分子化合物(M1)を得る。重合はラジカル重合法で行う。ラジカル重合法としては、従来公知のラジカル重合法、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法のいずれも採用できる。なお、最終的に得られる高分子化合物における分子量は、ここで行われるラジカル重合の重合度により調整される。
【0053】
ラジカル重合法を行う際の重合開始剤としては、例えばベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等の有機過酸化物;2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビ(2−ブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)等のアゾ系開始剤が挙げられる。
【0054】
また、溶液重合法や沈殿重合法を行う場合、使用する溶媒は特に制限はなく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族溶媒;メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコールなどのアルコール系溶媒;シクロヘキサン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、酢酸イソプロピル等が挙げられ、これらの混合溶媒を使用してもよい。
また、ラジカル重合を行う際の重合温度は、重合開始剤の分解温度に応じて適宜設定でき、40〜150℃の範囲で行うことが好ましい。
【0055】
次に、上記で得られた高分子化合物(M1)に、式(11)で示される無水(メタ)アクリル酸を反応させて、高分子化合物(M1)中の側鎖に−W−R11−OH基を有する重合単位のmモル%を側鎖の末端に(メタ)アクリロキシ基を有する重合単位(a2)に変換することで、上記反応式中の高分子化合物(1A−1)が得られる。ここで、高分子化合物(M1)において、側鎖に−W−R11−OH基を有する重合単位のうち上記反応に供しなかった重合単位(nモル%)が、高分子化合物(1A−1)における重合単位(a3)となる。
【0056】
また、Spが有する官能基Rがヒドロキシル基であって、Spにおいて[Z−R12のsが1であり、ZがRのヒドロキシル基との反応により得られるウレタン結合である場合については、例えば、以下の反応式に示す合成方法が挙げられる。
【0057】
【化9】

【0058】
上記反応式において、重合単位(a1)を構成するための単量体としてフマル酸ジエステルと、重合単位(a2)および重合単位(a3)を構成するための単量体として側鎖に−W11−OH基を持つビニル化合物をモル%でl:m+nの割合で重合し高分子化合物(M1)を得る工程は、上記と同様に行うことができる。
【0059】
次に、上記で得られた高分子化合物(M1)に、式(12)で示されるイソシアネート基を有する(メタ)アクリレートを反応させることで、上記反応式中の高分子化合物(1A−2)が得られる。この反応により、高分子化合物(M1)中の側鎖に−W−R11−OH基を有する重合単位のmモル%が、イソシアネート基を有する(メタ)アクリレートとウレタン結合し、側鎖の末端に(メタ)アクリロキシ基を有する重合単位(a2)に変換される。また、高分子化合物(M1)において、側鎖に−W−R11−OH基を有する重合単位のうち上記反応に供しなかった重合単位(nモル%)が、高分子化合物(1A−2)における重合単位(a3)となる。
【0060】
さらに、化合物(12)のイソシアネート基を、ヒドロキシル基と反応性のその他の官能基、例えば、カルボキシル基に換えて、公知の反応条件で反応させることによりZとしてエステル結合を有する高分子化合物を合成することができる。
【0061】
また、Spが有する官能基Rがカルボキシル基であって、Spにおいて[Z−R12のsが1であり、ZがRのカルボキシル基との反応により得られる−COO−CH−CH(OH)−CH−O−で示される基である場合については、例えば、以下の反応式に示す合成方法が挙げられる。
【0062】
【化10】

【0063】
上記反応式に示される通り、まず、重合単位(a1)を構成するための単量体としてフマル酸ジエステルと、重合単位(a2)および重合単位(a3)を構成するための単量体として側鎖に−W11−COOH基を持つビニル化合物をモル%でl:m+nの割合で重合して高分子化合物(M2)を得る。重合はラジカル重合法で行う。ラジカル重合の方法は、上記高分子化合物(M1)を得る場合と同様である。
【0064】
次に、上記で得られた高分子化合物(M2)に、式(13)で示されるグリシジルオキシ基を有する(メタ)アクリレートを反応させることで、上記反応式中の高分子化合物(1A−3)が得られる。この反応により、高分子化合物(M2)中の側鎖に−W−R11−COOH基を有する重合単位のmモル%が、グリシジルオキシ基を有する(メタ)アクリレートとエステル結合し、側鎖の末端が(メタ)アクリロキシ基を有する重合単位(a2)に変換される。また、高分子化合物(M2)において、側鎖に−W−R11−COOH基を有する重合単位のうち上記反応に供しなかった重合単位(nモル%)が、高分子化合物(1A−3)における重合単位(a3)となる。
【0065】
さらに、化合物(13)のグリシジルオキシ基を、カルボキシル基と反応性のその他の官能基、例えば、ヒドロキシル基、アミノ基等に換えて、それぞれに公知の反応条件で反応させることによりZとしてエステル結合やアミド結合を有する高分子化合物を合成することができる。
【0066】
さらに、以下の反応式に示すように、フマル酸ジエステルと、末端に3−ブロモプロピオン酸エステルまたは3−ブロモ−2−メチルプロピオン酸エステル構造を有し、連結基として上記式(2−1)に示されるSpを有するビニル化合物とを重合させ、これを脱HBrによるアクリル化処理する方法を用いれば、連結基Spの種類によらず同様の方法で、高分子化合物(1A)を合成できる。
【0067】
【化11】

【0068】
この方法においては、上記反応式に示す通り、まず、重合単位(a1)を構成するための単量体としてフマル酸ジエステルと、重合単位(a2)を構成するための単量体として末端に3−ブロモプロピオン酸エステルまたは3−ブロモ−2−メチルプロピオン酸エステル構造を有し、連結基として上記式(2−1)に示されるSpを有するビニル化合物をモル%でl:mの割合で重合して高分子化合物(M3)を得る。重合はラジカル重合法で行う。ラジカル重合の方法は、上記高分子化合物(M1)を得る場合と同様である。
次に、この高分子化合物(M3)を、脱HBrによるアクリル化処理をすることで高分子化合物(1A−4)が得られる。なお、この方法で得られる高分子化合物(1A−4)は、フマル酸ジエステルに基づく重合単位:重合単位(a1)と、側鎖にラジカル重合性基を有する重合単位:重合単位(a2)のみで構成され、側鎖に上記所定の官能基を有する重合単位:重合単位(a3)を有しない共重合体である。
【0069】
なお、上記各反応式において、lで示されるフマル酸ジエステルに基づく重合単位:重合単位(a1)のモル%は、出発物質、例えば、高分子化合物(M1)、(M2)と、反応生成物である高分子化合物(1A−1)〜(1A−3)の間で増減する場合もある。これは、反応過程において、フマル酸ジイソプロピルのホモポリマーが合成されることがあり、精製過程において、これと高分子化合物(1)の溶解度の違いに起因する増減である。
【0070】
本発明の高分子化合物は、これを薄膜化すれば、液晶性化合物を配向させて光学異方性材料とする配向膜として用いることができる。さらに、重合性液晶性化合物を配向状態で重合して重合体(光学異方性材料)を得るための配向膜、特には、多官能の重合性液晶性化合物を含有する重合性液晶性組成物から重合体(光学異方性材料)を得るための配向膜として用いることが好ましい。
【0071】
[配向膜用組成物・配向膜]
上記本発明の高分子化合物を用いて配向膜を作製するには、まず、上記本発明の高分子化合物を含有する配向膜用組成物を作製する。
配向膜用組成物は、上記本発明の高分子化合物、好ましくは高分子化合物(1)を必須成分で含有し、さらに、通常、これを十分に溶解し配向膜形成が可能な状態とするために有機溶媒を含有する。有機溶媒としては、上記本発明の高分子化合物を溶解可能な有機溶媒であれば、特に制限されない。具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族溶媒;メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコールなどのアルコール系溶媒;シクロヘキサン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、酢酸イソプロピル等が挙げられ、これらの混合溶媒も好ましく挙げられる。また、必要に応じて各種添加剤を用いてもよい。配向膜用組成物における、上記本発明の高分子化合物と有機溶媒の配合割合は、配向膜を形成する方法により適宜選択される。
【0072】
上記配向膜用組成物を用いて配向膜を作製するには、通常、液晶性化合物を配向させて光学異方性材料とするための配向膜を作製する際に用いられる、基板上に配向膜を作製する方法が適用できる。基板はその上に形成された配向膜とともに、液晶性化合物の配向に用いられるが、その後もそのまま光学素子を構成する要素となることが多い。したがって、光学素子の構成要素として好適な基板使用が好ましい。
【0073】
基板としては、透明基板が好ましい。透明基板としては、例えば、可視光に対する透過率が高い材料からなる基板が好ましい。具体的には、アルカリガラス、無アルカリガラスおよび石英ガラスなどの無機ガラスの他に、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、および、ポリフッ化ビニルなどのフッ素含有ポリマーなどの透明樹脂からなる基板が挙げられる。剛性が高い点で、無機ガラスからなる基板を用いることが好ましい。透明基板の厚みは、特に限定はないが、通常は0.2mm〜1.5mmとすることができ、0.3mm〜1.1mmが好ましい。この透明基板には、必要に応じて、アルカリ溶出防止、接着性向上、反射防止またはハードコートなどを目的とした、無機物または有機物などからなる表面処理層が設けられていてもよい。その場合、本発明の配向膜はこの表面処理層上に作製される。
【0074】
次に、透明基板の表面に上述の方法により得られた本発明の高分子化合物を含有する配向膜用組成物をスピンコート法、ラングミュアー・ブロージェット法、印刷法などの方法により塗布し、乾燥等により溶媒を除去して、薄膜を形成する。膜厚は1〜100nmが液晶性化合物の配向制御の点で好ましい。膜厚は、さらには10〜100nmが好ましく、10〜50nmが特に好ましい。
【0075】
このようにして得られた薄膜に配向処理を行うことにより配向膜とする。配向処理としては、従来公知の配向膜、例えば、ポリイミド膜やフマル酸ジエステル重合体薄膜に行われる配向処理と同様の方法が、特に制限なく使用可能である。このような配向処理として、例えば、ナイロンやレーヨンなどのラビング布で、配向膜の表面を一方向にラビングすることによって、その方向に液晶性化合物が配向する処理方法が挙げられる。ラビングの条件としては、特に制限されないが、例えば、トルク1〜10kgf/cmによるラビング処理等が挙げられる。
なお、配向膜は液晶性化合物を配向させて光学異方性材料とした後に、この光学異方性材料と分離されることもある。その場合は、必要に応じて配向膜の表面に離型処理を行う。離型処理としては、離型剤、例えば、フルオロシラン系または含フッ素脂肪族環構造を有する含フッ素重合体などで配向膜表面を処理する方法が挙げられる。
【0076】
[光学素子]
本発明の光学素子は、上記により得られた配向膜と少なくとも1種の重合性液晶性化合物を配向状態で重合して得られる重合体を含む光学異方性膜を有する。
このような光学異方性膜は、重合性液晶性化合物を含有する重合性液晶性組成物を用いて上記配向膜の作用を利用して形成される。
【0077】
<重合性液晶性組成物>
本発明の光学素子の作製に用いる重合性液晶性組成物は、少なくとも1種の重合性液晶性化合物を含有する。
重合性液晶性化合物として、具体的には、メソゲン骨格を有し、ラジカル重合性基を有する基、例えば、上記高分子化合物(1)におけるRで示される基と同様の基を1個有する単官能の重合性液晶性化合物、同様にメソゲン骨格を有し、ラジカル重合性基を有する基を2個有する2官能の重合性液晶性化合物等が用いられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明においては、2官能の重合性液晶性化合物を含有する重合性液晶性組成物を用いた場合に、得られる光学異方性膜と上記配向膜との密着性に優れる効果がより顕著であり好ましい。
【0078】
本発明に用いられる重合性液晶性化合物として、例えば、以下に示す(メタ)アクリロキシ基を1個有する単官能の化合物(2A)や、(メタ)アクリロキシ基を2個有する2官能の化合物(2B)等が挙げられる。
【0079】
CH=CR21−COO−R22−A−Y−A−A−A−R23 (2A)
CH=CR24−COO−R25−A−Y−A−Y−A−Y−A−R26−OCO−CR27=CH (2B)
【0080】
式(2A)および式(2B)における各記号は、以下の意味を示す。
21、R24およびR27は、それぞれ独立して水素原子またはメチル基を表す。
22、R25およびR26は、それぞれ独立して単結合または炭素数が1〜15のアルキレン基を表し、アルキレン基の場合には、それぞれ独立してアルキレン基の炭素−炭素結合間または環基と結合する末端にエーテル結合性の酸素原子を有していてもよく、また、環基と結合する末端にカルボキシル基を有していてもよく、さらにこのアルキレン基中の炭素原子に結合した水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換されていてもよい。
【0081】
23は、炭素数が1〜12のアルキル基、炭素数が1〜12のアルコキシ基、炭素数が1〜12のアルキルカルボニルオキシ基またはフッ素原子であり、アルキル基、アルコキシ基またはアルキルカルボニルオキシ基の場合には、これらの基中の炭素原子に結合した水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換されていてもよい。
およびYは、それぞれ独立して単結合または−COO−を表し、Yは、単結合または−CH−CH−を表し、Yは、単結合または−OCO−を表す。
【0082】
、A、A、A、A、A、AおよびAは、それぞれ独立して、単結合、トランス−1,4−シクロヘキシレン基または1,4−フェニレン基を表す。ただし、A、AおよびAのうち1つは、ナフタレン−1,4−ジイル基、ナフタレン−1,5−ジイル基、ナフタレン−2,6−ジイル基またはトランス−2,6−デカヒドロナフタレン基であってもよい。A、A、AおよびAの組み合わせ、およびA、A、AおよびAの組み合わせにおいて、それぞれ独立して単結合は2個以下であり、かつ、1,4−フェニレン基が3個連続することはない。また、上記トランス−1,4−シクロヘキシレン基、1,4−フェニレン基、ナフタレン−ジイル基またはトランス−2,6−デカヒドロナフタレン基の水素原子の一部または全部がフッ素原子もしくはメチル基に置換されていてもよい。
【0083】
重合性液晶性組成物は、上記重合性液晶性化合物の少なくとも1種を含有するが、さらに必要に応じて非液晶性の重合性化合物や非重合性化合物を含むことができる。重合性液晶性組成物における重合性液晶性化合物の含有量は、重合性液晶性組成物の全量に対して50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。
【0084】
非液晶性の重合性化合物としては、重合性カイラル剤が挙げられる。これを重合性液晶性組成物に添加することによって、重合性コレステリック液晶性組成物を得ることができる。コレステリック液晶は、ネマチック液晶やスメクチック液晶とは異なる光学的性質を有するため、コレステリック液晶性組成物を用いれば、ネマチック液晶性組成物またはスメクチック液晶性組成物等の重合性液晶性組成物では実現できない光学素子が作製できる。
【0085】
コレステリック液晶は、多数の層の重なりからなり、その一つの薄い層内において、液晶分子は長軸を層と平行にするとともに方向を揃えて並んでいる。また、分子の方向は、隣接する層ごとに少しずつ異なっており、全体として螺旋構造をなしている。このため、液晶性化合物は特異な光学的性質を示す。具体的には、液晶性化合物が螺旋状に捩れた配向を有する結果、螺旋ピッチに対応して左/右円偏光成分のいずれか一方を選択的に反射する。例えば、選択反射を示す方の円偏光を用いてコレステリック液晶の透過率測定を行うと、急峻な波長依存性を有する透過スペクトル、すなわち、選択反射を持つ波長帯域に矩形を有するスペクトルが得られる。この性質は、特定波長の光を反射するミラー、反射型回折格子、反射帯を利用した屈折率異常分散による円偏光回折素子などに適用できる。
【0086】
重合性カイラル剤としては、従来公知の重合性カイラル剤が特に制限なく使用できる。具体的には、上記同様のラジカル重合性基を有する基、例えば、上記高分子化合物(1)におけるRで示される基と同様の基を1個有する単官能のまたは2個有する2官能のイソソルビド誘導体やイソマンニド誘導体が挙げられる。このような重合性カイラル剤のうちでも、本発明においては、下記(C1−1)〜(C1−4)に示すイソソルビド誘導体またはイソマンニド誘導体からなる重合性カイラル剤が好ましい。
【0087】
【化12】

【0088】
ただし、上記各式における、R31〜R33は、それぞれ独立に直鎖または分岐状の炭素数1〜8のアルキル基を、r、v、x、yは、それぞれ独立に2〜8の整数を示す。
なお、重合性カイラル剤を用いる場合の重合性液晶性組成物における重合性カイラル剤の含有量は、重合性液晶性組成物全量に対して50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0089】
上記非液晶性の非重合性化合物としては、例えば、重合開始剤、重合禁止剤、非重合性カイラル剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤および色素などの各種添加剤が挙げられる。これら添加剤の量は、重合性液晶性組成物の全量に対して5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましい。
【0090】
上記重合性液晶性組成物における重合性液晶性化合物による重合反応としては、光重合反応および熱重合反応等が挙げられる。重合性液晶性組成物が液晶相を示す状態で重合性液晶性化合物の配向状態を保持したまま、これを重合させやすい点から、光重合反応が好ましい。光重合反応に用いる光としては、紫外線または可視光線が好ましい。光重合反応を行う場合は光重合開始剤を用いることが好ましい。光重合開始剤は、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ベンゾイン類、ベンジル類、ミヒラーケトン類、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルジメチルケタール類、およびチオキサントン類等から適宜選択され、1種または2種以上を使用できる。光重合開始剤の含有量は、重合性液晶性組成物の全量に対して0.01〜5質量%が好ましく、0.01〜2質量%が特に好ましい。
【0091】
<光学素子>
本発明の光学素子は、上記本発明の配向膜と、上記重合性液晶性組成物がこの組成物が液晶相を示す状態で、かつ含有する重合性液晶性化合物が上記配向膜の作用により配向した状態で重合することにより得られる重合体を含む光学異方性膜を有する。なお、上記本発明の配向膜を用いることにより、重合に際して重合性液晶性化合物は、この配向膜表面と略平行な方向に十分に一軸配向し、光学異方性膜はこの配向が固定された状態で得られる。
【0092】
ここで、光学異方性膜の形成に際して、重合性液晶性組成物を液晶相を示す状態に保つためには、雰囲気温度をネマチック相−等方相における相転移温度(Tc)℃以下にすればよい。ただし、Tcに近い温度では重合性液晶性組成物のΔnが極めて小さくなるため、雰囲気温度の上限は(Tc−10)以下が好ましい。
【0093】
本発明の光学素子は、上記で作製した本発明の配向膜付き基板と、上記重合性液晶性組成物を用いて、例えば、以下の(i)〜(iii)に示す方法により作製できる。
【0094】
(i)セルに注入する方法
本発明の配向膜付き基板を一対準備し、これらを配向膜が対向するように間隔をおいて重ね合わせて接着してセルを作製する。得られる光学異方性膜の膜厚は、この一対の配向膜付き基板の間隔により制御される。ここで、セルを作製する際、外部から重合性液晶性組成物を充填可能な開口部を設けておく。
得られたセル内に開口部から重合性液晶性組成物を注入する。注入には、真空注入法を用いてもよく、大気中で毛細管現象を利用した方法を用いてもよい。また、重合性液晶性組成物をその相転移温度(Tc)以上の温度に加熱して注入することが好ましい。Tc以上に加熱すると重合性液晶性組成物の粘度が低下し、注入時間が短くなる。また、Tc以下で注入すると注入むらが生じるため、Tc以上での注入が好ましい。また、重合性液晶組成物が重合しないように、重合性液晶組成物は重合禁止剤を含有することが好ましい。
【0095】
セルへの重合性液晶性組成物の注入後、組成物中の重合性液晶性化合物の配向が可能な温度、例えば(Tc−10)℃程度の温度で1〜10分間程度アニールすると、該化合物の配向度が高くなり好ましい。その後、光重合や熱重合により重合性液晶組成物中の重合性化合物を重合させて、光学異方性膜を得る。必要に応じて、重合後さらに加熱処理を行ってもよい。このようにして得られた光学素子は、例えば、位相板のようにさらに加工をする必要がない用途に使用できる。
【0096】
ここで、上記セルを作製する際に、配向膜付き基板の一方に、配向膜表面が離型処理されたものを使用し、2枚の基板の接着を仮接着としておけば、光学異方性膜を形成した後に、離型処理した配向膜付き基板を取り除くことができる。このようにして得られる光学素子は、本発明の配向膜付き基板の配向膜表面に光学異方性膜を有する構成の光学素子である。
【0097】
(ii)溶融キャスト法
本発明の配向膜付き基板を一対準備する。その一方の基板上の配向膜表面に重合性液晶性組成物を滴下する。この際、配向膜付き基板は、重合性液晶性組成物の相転移温度(Tc)以上の温度に加熱しておくことが好ましい。その後、上記準備されたもう一方の配向膜付き基板を、配向膜面が重合性液晶性組成物の側になるようにして、上記配向膜付き基板と重ね合わせる。その際基、板ギャップを一定にするために、必要に応じてシリカスペーサー等のスペーサーを2枚の基板間に配設してもよい。
【0098】
次いで、重合性液晶性組成物中の重合性液晶性化合物の配向が可能な温度、例えば(Tc−10)℃程度の温度で1〜10分間程度アニールすると、該化合物の配向度が高くなり好ましい。その後、光重合や熱重合により重合性液晶組成物中の重合性化合物を重合させて、光学異方性膜を得る。必要に応じて、重合後さらに加熱処理を行ってもよい。
【0099】
この方法においても、配向膜付き基板の一方に、配向膜表面が離型処理されたものを使用すれば、光学異方性膜を形成した後に、離型処理した配向膜付き基板を取り除くことができる。このようにして得られる光学素子は、本発明の配向膜付き基板の配向膜表面に光学異方性膜を有する構成の光学素子である。
【0100】
(iii)溶液キャスト法
本発明の配向膜付き基板の配向膜表面に重合性液晶性組成物を塗布する。次いで、重合性液晶性組成物中の重合性液晶性化合物の配向が可能な温度、例えば(Tc−10)℃程度の温度で1〜10分間程度アニールすると、該化合物の配向度が高くなり好ましい。その後、必要に応じて酸素を遮断した状態で、光重合や熱重合により重合性液晶組成物中の重合性化合物を重合させて、光学異方性膜を得る。必要に応じて、重合後さらに加熱処理を行ってもよい。
重合性液晶組成物を基板配向膜表面に塗布する際の方法としては、スピンコーティング、ダイコーティング、エクストルージョンコーティング、ロールコーティング、ワイヤーバーコーティング、グラビアコーティング、スプレーコーティング、ディッピング、プリント法等が挙げられる。
【0101】
またコーティングの際、重合性液晶組成物に有機溶媒を添加してもよい。有機溶媒としては、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、トルエン、ヘキサン、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド、塩化メチレン、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、セロソルブ類を挙げることができる。これらは単独でも、組み合わせて用いてもよく、その蒸気圧と重合性液晶組成物の溶解性を考慮し、適宜選択すればよい。また、有機溶媒の添加量は、重合性液晶性組成物と有機溶媒の総量に対して90質量%以下が好ましい。また、添加した有機溶媒を揮発させる方法としては、自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥、減圧加熱乾燥が使用できる。なお、乾燥は通常重合の前に行われる。
【0102】
上記のようにして得られた本発明の配向膜付き基板の配向膜表面に光学異方性膜が形成された構成を有する光学素子は、本発明の配向膜の特性により配向膜・光学異方性膜間の密着性が良好であり、剥離等の不具合の発生が抑制された信頼性のある光学素子である。また、本発明の高分子化合物、好ましくは高分子化合物(1)を用いて得られる本発明の配向膜は、機械的な強度と耐熱性を有するものであり、この点においても光学素子の信頼性の向上に寄与できる。
【0103】
本発明の光学素子は、本発明の配向膜、通常は配向膜付き基板と、その配向膜表面に形成され光学異方性膜を有する光学素子であり、必要に応じて、さらに光学特性制御の目的で電極を設けた構成や、反射型素子として使用する目的で反射膜を設けた構成とすることができる。さらに、目的に応じて、上記構成の光学素子に、フレネルレンズ構成、回折格子用の格子、色調調整用の着色層または迷光抑制用の低反射層などを設けることが可能である。
【0104】
本発明の光学素子は、その2個が組み合わされて用いられてもよい。また、本発明の光学素子に他の光学素子、例えば、レンズ、波面補正面、位相差板、絞りまたは回折格子等を組み合わせて用いてもよい。光学素子を2個組み合わせる場合には、それぞれ2枚の基板を用いた光学素子を形成してから重ねてもよく、3枚の基板の中に2層の光学異方性膜を形成してもよい。
【0105】
このような本発明の光学素子は、例えば、以下に説明する光ヘッド装置に利用した場合に、その信頼性の高さから良好な光の利用効率が得られる。
【0106】
[光ヘッド装置]
本発明の光学素子は、光記録媒体に情報を記録する、および/または、光記録媒体に記録された情報を再生する光ヘッド装置に用いるのに適する。具体的には、本発明による光学素子は、光ヘッド装置のレーザ光の光路中に、例えば、偏光ホログラムなどの回折格子、位相差板または波面補正素子等として、好ましく配置される。
【0107】
偏光ホログラムとしては、レーザ光源からの出射光が光記録媒体の情報記録面で反射されて発生する信号光を分離し、受光素子へと導光する例が挙げられる。具体的には、本発明の光学素子として作製された偏光ホログラム等の回折格子を備えた光ヘッド装置では、光記録媒体から反射された光は、回折格子によって回折される。なお、この光ヘッド装置は、回折格子の他に、回折格子に入射する光を発生させる光源、光源から出射された光を光記録媒体に集光する対物レンズ、光記録媒体で反射された光を検出する検出器などを有することができる。
【0108】
また、位相差板としては、1/2波長板として使用し、レーザ光源からの出射光の位相差制御を行う例や、1/4波長板として光路中に設置し、レーザ光源の出力を安定化する例などが挙げられる。光ヘッド装置が、本発明の光学素子として作製された位相差板を有する場合、この位相差板は、光源からの光を透過した後、光記録媒体で反射された光の偏光状態を変える役割を果たす。例えば、位相差板を1/4波長板とした場合、光源からの光または光記録媒体で反射した光の偏光状態は、この位相差板によって、直線偏光であれば円偏光または楕円偏光に、円偏光であれば直線偏光に偏光面が変えられる。また、1/4波長板に代えて1/2波長板とした場合には、P偏光であればS偏光に、S偏光であればP偏光に、円偏光(右旋)であれば円偏光(左旋)に、円偏光(左旋)であれば円偏光(右旋)に変えられる。
【0109】
具体例として、図1に、本発明の光学素子を1/4波長の位相差を有する位相差板4として搭載した光ヘッド装置の一例を示す。この光ヘッド装置では、次のようにして、光記録媒体に記録された情報が読み出される。
【0110】
光源1から出射された直線偏光は、ビームスプリッタ2、コリメータレンズ3、位相差板4および対物レンズ5を透過した後に、光記録媒体6の情報記録面に到達する。この間に、直線偏光は、偏向方向を変えずにビームスプリッタ2を透過した後、1/4波長の位相差を有する位相差板4で円偏光に変換される。その後、光記録媒体6の情報記録面で反射されて逆回りの円偏光となり、往路とは逆に、対物レンズ5、位相差板4およびコリメータレンズ3の順で復路を辿ることになる。ここで、復路における位相差板4で、円偏光は、入射前と直交する直線偏光に変換される。これにより、復路の光は、直線偏光の方向が往路の光に対して90度ずれるので、ビームスプリッタ2を通過する際に進行方向が90度曲げられて光検出器7に到達する。
【0111】
なお、図1に示す光ヘッド装置において、ビームスプリッタ2を用いる替わりに、本発明の光学素子を偏光依存性の回折格子として配置することができる。これにより、往路の偏光方向の光に対しては透過率を高めることができ、それとは直交する偏光方向を有する復路の偏光方向の光に対しては回折効率を高めることができるので、光ヘッド装置全体の光の利用効率をさらに向上できる。
【0112】
以上、本発明の光学素子を光ヘッド装置に適用した場合について説明したが、本発明の光学素子は、これ以外にも、例えば、プロジェクタ用途などにおけるイメージング素子や、波長可変フィルタ用途などにおける通信用デバイスなどでも位相差板や偏光子などとして好ましく用いられる。
【実施例】
【0113】
以下、本発明の実施例について記載するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、数平均分子量(Mn)はテトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするGPC装置(HLC8220、東ソー社製)を用いて測定した。また、共重合組成比は、重クロロホルムを溶媒とし、H−NMR(AL400、日本電子社製)を用いて測定した。また、ネマチック相−等方相の相転移温度(Tc)は、メトラー(FP90、TOLEDO社製)と偏光顕微鏡を用いて測定した。リタデーション(Rd)は、リタデーション測定装置(RETS−100、大塚電子社製)を用いて測定した。
【0114】
[実施例1]高分子化合物(1)の合成−1
(工程1−1)
下記の反応式にしたがって、化合物(21)と化合物(22)とを重合させて化合物(23−a)を合成した。
【0115】
【化13】

【0116】
30mLのバイアルに、フマル酸ジイソプロピル(21)を3.0g(15.0ミリモル)、エチレングリコールモノビニルエーテル(22)を0.57g(6.4ミリモル)、日油社製の「パーロイルTCP」(商品名)を10mg加え、40℃で16時間反応を行った。反応終了後、室温に戻して、THFの13mLに溶解させ、ヘキサンの250mLに滴下した。析出した固体をろ過にて回収、減圧乾燥し、2.3gの高分子化合物(23−a)を得た。収率は64%であった。GPCによる数平均分子量(Mn)は19,800であった。また、高分子化合物(23−a)におけるフマル酸ジイソプロピル(21)に基づく重合単位とエチレングリコールモノビニルエーテル(22)に基づく重合単位の組成比は、56モル%:44モル%であり、上記式にはこの組成(モル%)を記載した。
【0117】
(工程1−2)
次に、上記で得られた高分子化合物(23−a)を用い、下記の反応式にしたがって、本発明の高分子化合物である化合物(1A−11)を合成した。
【0118】
【化14】

【0119】
50mLのなすフラスコに、上記(工程1−1)で得られた高分子化合物(23−a)の0.5g、THFの5mLを加え、さらに、窒素雰囲気下、0℃にてジラウリン酸ジ−n−ブチル錫の0.11mL(0.18ミリモル)、アクリル酸−2−イソシアナトエチル(24)の0.6mL(4.5ミリモル)を順次加えた。室温に戻し、24時間撹拌した後、反応溶液を蒸留水100mLに滴下した。析出した固体をろ過にて回収後、トルエン5mLに溶解させ、ヘキサン250mLに滴下し、再度析出した固体をろ過にて回収、減圧乾燥し、0.36gの高分子化合物(1A−11)を得た。収率は57%であった。得られた高分子化合物(1A−11)におけるGPCによる数平均分子量(Mn)は、20,900であった。また、高分子化合物(1A−11)におけるフマル酸ジイソプロピルに基づく重合単位(a1)と側鎖末端にアクリロキシ基を有する重合単位(a2)の組成比は、上記高分子化合物(23)と同様56モル%:44モル%であり、上記式にはこの組成(モル%)を記載した。
【0120】
[実施例2]高分子化合物(1)の合成−2
(工程2−1)
下記の反応式にしたがって、化合物(21)と化合物(22)を重合させて化合物(23−b)を合成した。
【0121】
【化15】

【0122】
すなわち、20mLのバイアルに、フマル酸ジイソプロピル(21)の0.5g(2.5ミリモル)、1,4−ジオキサンの0.3g、日油社製の「パーロイルTCP」(商品名)の25mgを加え、50℃で1.5時間反応を行った。そこに、フマル酸ジイソプロピル(21)の0.38g(1.9ミリモル)、エチレングリコールモノビニルエーテル(22)の0.16g(1.9ミリモル)、1,4−ジオキサンの0.3gで構成される混合溶液を添加し、50℃でさらに16時間反応を行った。反応終了後、室温に戻して、トルエンを3g加えて溶解させ、ヘキサン120gに滴下した。析出した固体をろ過にて回収、減圧乾燥し、0.6gの高分子化合物(23−b)を得た。収率は59%であった。GPCによる数平均分子量(Mn)は9,900であった。また、高分子化合物(23−b)におけるフマル酸ジイソプロピル(21)に基づく重合単位とエチレングリコールモノビニルエーテル(22)に基づく重合単位の組成比は、61モル%:39モル%であり、上記式にはこの組成(モル%)を記載した。
【0123】
(工程2−2)
次に、上記で得られた高分子化合物(23−b)を用い、下記の反応式にしたがって、本発明の高分子化合物である化合物(1A−12)を合成した。
【0124】
【化16】

【0125】
50mLのなすフラスコに、上記(工程2−1)で得られた高分子化合物(23−b)の0.57g、メタクリル酸無水物の5.7g、触媒量のジブチルヒドロキシトルエンの26mgを加え、70℃にて22時間反応を行った。反応終了後、反応溶液をヘキサン100gに滴下し、析出した固体をろ過にて回収後、ピリジン2.5gに溶解させ、蒸留水60gに滴下し、再度析出した固体をろ過にて回収した。再度、トルエン3gに溶解させ、ヘキサン60gに滴下、析出した固体をろ過にて回収後、減圧乾燥し、0.28gの高分子化合物(1A−12)を得た。収率は48%であった。GPCによる数平均分子量(Mn)は12,300であった。また、高分子化合物(1A−12)におけるフマル酸ジイソプロピルに基づく重合単位(a1)、側鎖末端にメタクリロキシ基を有する重合単位(a2)およびエチレングリコールモノビニルエーテル(22)に基づく重合単位(a3)の組成比は、50モル%:20モル%:30モル%であり、上記式にはこの組成(モル%)を記載した。
【0126】
なお、上記反応式において、出発物質である高分子化合物(23−b)と反応生成物である高分子化合物(1A−12)において、反応に寄与しないフマル酸ジイソプロピルに基づく重合単位が61モル%と50モル%と減少しているが、これは反応過程において、フマル酸ジイソプロピルのホモポリマーのみが単離されることに起因する。
【0127】
[実施例3]高分子化合物(1)の合成−3
(工程3−1)
下記の反応式にしたがって、化合物(24)と化合物(25)を反応させて化合物(26)を合成した。
【化17】

【0128】
500mLの3つ口フラスコに、ヒドロキシエチルアクリレート(24)の7.0g(60.3ミリモル)、ジクロロメタンの200mL、ピリジンの5.36mL(66.3ミリモル)を加え、窒素気流下で、内温が20℃を越えないように氷冷しながら、3−ブロモブチリルクロリド(25)を6.08mL(60.3ミリモル)滴下して、室温で5時間撹拌を行った。反応終了後、ジクロロメタンを減圧除去し、ヘキサン/酢酸エチル(4:1、容量比)を展開液としたカラムクロマトグラフィーで精製し、7.5gのアクリレート化合物(26)を得た。収率は50%であった。
【0129】
(工程3−2)
次に、下記の反応式にしたがって、化合物(21)と上記で得られたアクリレート化合物(26)を重合させて高分子化合物(27)を合成した。
【0130】
【化18】

【0131】
20mLのバイアルに、フマル酸ジイソプロピル(21)の0.8g(4.0ミリモル)、1,4−ジオキサンの0.4g、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオン酸)ジメチル(MAIB)の40mgを加え、70℃で1.5時間反応を行った。ついで、上記で得られたアクリレート化合物(26)の0.43g(1.9ミリモル)、1,4−ジオキサンの0.3gで構成される混合溶液を添加し、70℃でさらに3.5時間反応を行った。反応終了後、室温に戻して、トルエンを5g加えて溶解させ、メタノール180gに滴下した。析出した固体をろ過にて回収、減圧乾燥し、0.65gの高分子化合物(27)を得た。収率は53%であった。GPCによる数平均分子量(Mn)は19,600であった。また、高分子化合物(27)におけるフマル酸ジイソプロピル(21)に基づく重合単位と上記で得られたアクリレート化合物(26)に基づく重合単位の組成比は、56モル%:44モル%であり、上記式にはこの組成(モル%)を記載した。
【0132】
(工程3−3)
次に、上記(工程3−2)で得られた高分子化合物化(27)を用い、下記の反応式にしたがって、本発明の高分子化合物である化合物(1A−13)を合成した。
【0133】
【化19】

【0134】
50mLのなすフラスコに、上記で得られた高分子化合物(27)の0.6g、1,4−ジオキサンの5.4g、トルエンの6.0gを加え、80℃に加熱し高分子化合物(27)を溶解させた。室温に戻した後、トリエチルアミン0.51mLを滴下し、室温で14時間撹拌を行った。反応終了後、反応溶液をメタノール200gに滴下し、析出した固体をろ過にて回収した。その後、THF5gに溶解させ、蒸留水120gに滴下し、再度析出した固体をろ過、メタノール洗浄により、回収、減圧乾燥し、0.17gの高分子化合物(1A−13)を得た。収率は32%であった。GPCによる数平均分子量(Mn)は21,400であった。また、高分子化合物(1A−13)におけるフマル酸ジイソプロピルに基づく重合単位(a1)、側鎖末端にアクリロキシ基を有する重合単位(a2)の組成比は、上記高分子化合物(27)と同様56モル%:44モル%であり、上記式にはこの組成(モル%)を記載した。
【0135】
[実施例4]配向膜付き基板の作製
信越化学社製の「KBM−503」(商品名)で処理された6インチ石英基板上に、上記実施例1で得られた高分子化合物(1A−11)の0.05gをトルエン5gに溶解させた配向膜用組成物を、3000rpmで30秒間スピンコートした後、100℃で30分間乾燥させることにより、石英基板上に高分子化合物薄膜を得た。この薄膜をナイロンクロスで一定方向にトルク4kgf/cmでラビング処理して配向膜付き基板1を作製した。
【0136】
[実施例5、6]光学素子の作製
実施例4で得られた配向膜付き基板1の2枚を、配向処理を施した配向膜の面が向かい合うように接着剤を用いて貼り合わせてセル1を作製した。接着剤には、直径5.3μmのガラスビーズを添加し、上記2枚の配向膜付き基板1間の間隔が5.3μmになるように調整した。
【0137】
次に、以下に構造式を示す5種類の重合性液晶性化合物(4−1)〜(4−5)を、(4−1):(4−2):(4−3):(4−4):(4−5)=7.5:7.5:22.5:22.5:40(モル比)で混合した混合物に、重合開始剤をこの混合物に対して0.1質量%となるように添加し、重合性液晶性組成物A(Tc=76℃)を得た。
また、重合性液晶性化合物として、BASF社製の「LC242」(商品名)を用い、重合開始剤をこの重合性液晶性化合物に対する割合として0.1質量%となるように添加し、重合性液晶性組成物B(Tc=120℃)を得た。なお、光重合開始剤としては、上記重合性液晶性組成物A、Bにおいて、ともにチバスペシャリティーケミカルズ社製の「DAROCUR TPO」(商品名)を用いた。
【0138】
【化20】

【0139】
次に、上記で作製したセル1内に重合性液晶性組成物Aを90℃の温度で注入し、65℃に温度を下げたところ、重合性液晶性組成物Aは、クロスニコル下での観察により、基板のラビング方向に一軸配向していることがわかった。
上記と同様にして作製したセル1内に重合性液晶性組成物Bを120℃の温度で注入し、30℃に温度を下げたところ、重合性液晶性組成物Bはクロスニコル下での観察により、基板のラビング方向に一軸配向していることがわかった。
その後、これらに65℃で強度50mW/cmの紫外線を積算光量が9000mJ/cmとなるよう照射して光重合を行い、光学素子A1および光学素子B1を得た。
【0140】
光学素子A1および光学素子B1において、液晶はいずれもクロスニコル下での観察により、基板のラビング方向に一軸配向していることがわかった。また、光学素子A1および光学素子B1は、いずれも可視域で透明であり、散乱も認められなかった。
さらに、光学素子A1は波長405nmのレーザ光に対するRdが202.2nm、波長660nmのレーザ光に対するRdが197.5nmであった。光学素子B1は波長405nmのレーザ光に対するRdが751.3nm、波長660nmのレーザ光に対するRdが638.8nmであった。
【0141】
[実施例7]コレステリック液晶組成物の調製および光学素子の作製
実施例6で調製した重合性液晶性組成物Bに、下記式(7−1)に示す重合性カイラル剤を上記重合性液晶性組成物Bに対する割合として10.18質量%となるように添加して、コレステリック液晶組成物Cを得た。
【0142】
【化21】

【0143】
次に、実施例5と同様にして作製したセル1内にコレステリック液晶組成物Cを90℃の温度で注入し、35℃に温度を下げたところ、重合性液晶性組成物Cは安定なコレステリック相を示した。その後、35℃で強度130mW/cmの紫外線を積算光量が23400mJ/cmとなるよう照射して光重合を行い、光学素子C1を得た。
【0144】
図2は、光学素子C1の一定波長領域での、左右円偏光における光透過率のスペクトルを示す。(a)は右円偏光による光透過率のスペクトルであり、(b)は左円偏光による光透過率のスペクトルである。この結果から、右円偏光による光透過率のスペクトルは下側に大きく選択反射帯を有するのに対して、左円偏光による光透過率のスペクトルは全測定波長領域において特に反射帯を有しないことがわかる。これらより、光学素子C1においては、コレステリック液晶組成物Cが、選択反射帯が良好に維持された状態に重合していることがわかる。
これは後述のポリイミド配向膜を用いて得られるコレステリック液晶層を有する光学素子と同様の結果であり、本発明の高分子化合物による配向膜はポリイミド配向膜と同様に配向性に優れる。
【0145】
なお、上記光透過率のスペクトルの測定は、光源の先に設置した偏光子に、光源が発する無偏光の光を通して直線偏光を取り出し、この直線偏光を所定の角度でλ/4波長板に入射させて偏光変換(右円偏光化または左円偏光化)し、この偏光を測定試料に透過させて、得られた透過光を分光計で測定することにより行った。
【0146】
[比較例1〜3]配向膜付き基板および光学素子の作製
6インチの石英基板に、ポリイミド溶液(SE510(商品名)、日産化学社製)をスピンコータで塗布し乾燥した後、得られた薄膜をナイロンクロスで一定方向にトルク4kgf/cmでラビング処理して比較例の配向膜付き基板2を作製した。
配向膜付き基板2の2枚を、配向処理を施した配向膜の面が向かい合うように接着剤を用いて貼り合わせてセル2を3個作製した。接着剤には、直径5.3μmのガラスビーズを添加し、上記2枚の配向膜付き基板2間の間隔が5.3μmになるように調整した。
【0147】
次に、セル1のかわりにセル2を用いた以外は、実施例5と同様にして、重合性液晶性組成物A、重合性液晶性組成物B、コレステリック液晶組成物Cを、上記3個のセル2内にそれぞれ注入、重合させて、光学素子A2、B2、C2を作製した。
【0148】
このようにして得られた光学素子A2および光学素子B2において、液晶はいずれもクロスニコル下での観察により、基板のラビング方向に一軸配向していることがわかった。また、光学素子A2および光学素子B2は、いずれも可視域で透明であり、散乱も認められなかった。
さらに、光学素子A2は、波長405nmのレーザ光に対するRdが226.1nm、波長660nmのレーザ光に対するRdが220.9nmであった。また、光学素子B2は波長405nmのレーザ光に対するRdが749.7nm、波長660nmのレーザ光に対するRdが638.1nmであった。
【0149】
図3は、光学素子C2の一定波長領域での、左右円偏光における光透過率のスペクトルを示す。(a)は右円偏光による光透過率のスペクトルであり、(b)は左円偏光による光透過率のスペクトルである。この結果から、右円偏光による光透過率のスペクトルは下側に大きく選択反射帯を有するのに対して、左円偏光による光透過率のスペクトルは全測定波長領域において特に反射帯を有しないことがわかる。これらより、光学素子C2は、コレステリック液晶組成物Cが、選択反射帯が良好に維持された状態に重合していることがわかる。
【0150】
<密着性の評価>
(1)評価用サンプルの作製
実施例4で得られた配向膜付き基板1と、この配向膜に離型処理を施した配向膜付き基板1’とを、実施例5と同様にして、接着剤を用いて貼り合わせてセル3を3個作製した。接着剤には、直径5.3μmのガラスビーズを添加し、2枚の配向膜付き基板1、1’間の間隔が5.3μmになるように調整した。
実施例4で得られた配向膜付き基板1のかわりに比較例で得られた配向膜付き基板2を用い、これと、この配向膜に離型処理を施した配向膜付き基板2’を用いて、上記同様にセル4を3個作製した。
【0151】
次に、3個のセル3内に、上記実施例5と同様にして、重合性液晶性組成物A、重合性液晶性組成物B、コレステリック液晶組成物Cをそれぞれ注入し、光重合させて、実施例の光学素子A3、B3、C3を作製した。
同様にして、3個のセル4内に、上記実施例5と同様にして、重合性液晶性組成物A、重合性液晶性組成物B、コレステリック液晶組成物Cをそれぞれ注入し、光重合させて、比較例の光学素子A4、B4、C4を作製した。
【0152】
光学素子A3から離型処理を施した基板を剥がし、JIS K5600−5−6 第5部 第6節:付着性(クロスカット法)に則って、密着性試験を行った。なお、テープは、3M社製の「スコッチ はってはがせるテープ」(商品名)を用いた。実施例の光学素子B3、C3、比較例の光学素子A4、B4、C4についても同様の密着性試験を行った。
【0153】
実施例4で得られた配向膜付き基板1を用いた光学素子A3、B3、C3については、試験結果はいずれも「1」に分類され、良好な密着性が確認できた。
一方、比較例で得られた配向膜付き基板2を用いた光学素子A4、B4、C4から、離型処理を施された基板2’を剥がしたところ、いずれも、ポリイミドと液晶性組成物重合体の界面に剥離が見られた。また、光学素子A4、B4、C4における上記試験結果はいずれも「5」に分類され、密着性は不十分であった。
なお、本発明に係る高分子化合物を用いて作製される配向膜は、分子内にフマル酸ジエステルに基づく重合単位を有する化合物からなることから、従来のフマル酸ジエステル重合体からなる配向膜と同様な機械的強度と耐熱性を有するものと想定される。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本発明に係る高分子化合物を用いて作製される配向膜は、機械的な強度と耐熱性を有し、液晶性化合物に対する配向能を十分に有するとともに、液晶性化合物が配向して得られる光学異方性膜、特に配向状態で重合した重合性液晶性化合物の重合体を含む光学異方性膜との密着性にも優れる。したがって、本発明に係る高分子化合物を利用して作製される配向膜を用いた光学素子は、光ヘッド装置、液晶表示装置及び通信用デバイス等に利用される回折素子および位相差板等として有効に用い得る。
【符号の説明】
【0155】
1…光源、2…ビームスプリッタ、3…コリメータレンズ、4…位相差板、5…対物レンズ、6…光記録媒体、7…光検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フマル酸ジエステルに基づく重合単位と、側鎖にラジカル重合性基を有する重合単位を含む高分子化合物。
【請求項2】
請求項1に記載の高分子化合物であって、下記式(1)で表される高分子化合物。
【化1】

ただし、式(1)中の記号は、以下の通りである。
およびRはそれぞれ独立に、炭素数1〜12の直鎖、分岐または環状構造を有するアルキル基であり、炭素−炭素結合間にエーテル結合性の酸素原子を有していてもよく、水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換されていてもよい。
は水素原子、メチル基またはフッ素原子を示す。
SpおよびSpはそれぞれ独立に、単結合または炭素数1〜12の炭化水素基であり、炭素−炭素結合間または主鎖側の末端にエーテル結合、スルフィド結合、エステル結合、アミド結合、チオエステル結合、チオアミド結合、ジチオカルボン酸エステル結合、炭酸エステル結合、ウレタン結合、ウレア結合、アミノ基、−O−CH−CH(OH)−CH−OCO−、−COO−CH−CH(OH)−CH−O−を有していてもよく、水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換されていてもよい。
はラジカル重合性基を末端に有する1価の有機基を示す。
はヒドロキシル基、アミノ基、メルカプト基、カルボキシル基またはグリシジルオキシ基を示す。
l、mおよびnはモル%を表し、l+m+n=100、30≦l≦95、5≦m≦70、0≦n≦30である。
【請求項3】
前記式(1)におけるSpが下記式(2−1)で示され、Spが下記式(2−2)で示され、かつRが下記式(3−1)〜(3−6)からなる群から選ばれる式で示される基である請求項2に記載の高分子化合物。
−W−R11−[Z−R12− …(2−1)
−W−R11− …(2−2)
ただし、式(2−1)および式(2−2)中の記号は、以下の通りである。
Wは、単結合、エーテル結合、スルフィド結合、エステル結合、アミド結合、チオエステル結合、またはアミノ基を示す。
11およびR12は、それぞれ独立に水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換されていてもよい炭素数0〜12の2価炭化水素基であり、炭素−炭素結合間または主鎖側の末端にフェニレン基またはエーテル性酸素を有してもよい。
Zは、単結合、エーテル結合、スルフィド結合、エステル結合、アミド結合、チオエステル結合、チオアミド結合、ジチオカルボン酸エステル結合、炭酸エステル結合、ウレタン結合、ウレア結合、アミノ基、−O−CH−CH(OH)−CH−OCO−、または−COO−CH−CH(OH)−CH−O−を示す。
sは0〜6の整数を示し、R11の炭素数とR12の炭素数にsを乗じた値の合計は0〜12である。
【化2】

ただし、式(3−1)〜(3−6)中、Xは水素原子、フッ素原子またはメチル基を、Yは酸素原子、硫黄原子またはアミノ基(−NH−)を、Aは水素原子、塩素原子またはシアノ基をそれぞれ示す。
【請求項4】
前記式(1)におけるRおよびRが、それぞれ独立に炭素数3〜12の分岐または環状構造を有するアルキル基であり、炭素−炭素結合間にエーテル結合性の酸素原子を有していてもよく、水素原子の一部または全部がフッ素原子に置換されていてもよい、請求項2または3記載の高分子化合物。
【請求項5】
前記式(2−1)および式(2−2)におけるWが、単結合、エーテル結合またはエステル結合であり、前記式(2−1)におけるZが、単結合、エーテル結合、スルフィド結合、エステル結合、アミド結合、チオエステル結合、炭酸エステル結合、ウレタン結合、ウレア結合、−O−CH−CH(OH)−CH−OCO−、または−COO−CH−CH(OH)−CH−O−である請求項3または4記載の高分子化合物。
【請求項6】
前記式(1)におけるRが、下記式(3−11)、(3−21)、(3−4)、(3−51)、(3−52)または(3−61)で示される基である請求項2〜5のいずれか1項に記載の高分子化合物。
【化3】

ただし、式(3−11)、(3−21)、(3−4)および(3−61)中、Xは水素原子、フッ素原子またはメチル基を示す。
【請求項7】
前記式(1)におけるRとRが同一の基である請求項2〜6のいずれか1項に記載の高分子化合物。
【請求項8】
前記式(1)におけるRがアクリロキシ基またはメタクリロキシ基である請求項2〜7のいずれか1項に記載の高分子化合物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の高分子化合物を含有する配向膜用組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の配向膜用組成物を用いて形成した薄膜を配向処理してなる配向膜。
【請求項11】
請求項10に記載の配向膜と、少なくとも1種の重合性液晶性化合物を配向状態で重合して得られる重合体を含む光学異方性膜を有する光学素子。
【請求項12】
前記重合体が、2以上の重合性基を有する重合性液晶性化合物の重合単位を含有する請求項11記載の光学素子。
【請求項13】
光記録媒体に情報を記録する、および/または、光記録媒体に記録された情報を再生する光ヘッド装置であって、請求項11または12に記載の光学素子を有する光ヘッド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−224734(P2012−224734A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93096(P2011−93096)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】