高分子化合物またはその複合体の細胞透過性評価装置およびその細胞透過性評価方法
【課題】 高分子化合物またはその複合体の細胞透過性を簡便かつより正確に評価する装置および高分子化合物またはその複合体の細胞透過性を簡便かつより正確に評価する方法を提供する。
【解決手段】 高分子化合物またはその複合体の細胞透過性を評価する装置であって、高分子化合物またはその複合体を投入する第1領域部と、この第1領域部に隣接されており当該第1領域部から透過される高分子化合物またはその複合体を収容する第2領域部と、第1領域部と第2領域部との境界上に配置された透過性基材とを有しており、透過性基材は、ゼラチンを用いた電界紡糸法により作製された繊維で構成されているとともに、第1領域部側の片面に密着結合した単層細胞を形成可能であって高分子化合物またはその複合体を透過可能に構成されている。
【解決手段】 高分子化合物またはその複合体の細胞透過性を評価する装置であって、高分子化合物またはその複合体を投入する第1領域部と、この第1領域部に隣接されており当該第1領域部から透過される高分子化合物またはその複合体を収容する第2領域部と、第1領域部と第2領域部との境界上に配置された透過性基材とを有しており、透過性基材は、ゼラチンを用いた電界紡糸法により作製された繊維で構成されているとともに、第1領域部側の片面に密着結合した単層細胞を形成可能であって高分子化合物またはその複合体を透過可能に構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子化合物またはその複合体の細胞透過性評価装置およびその細胞透過性評価方法、特に、ゼラチンを用いた電界紡糸法により作製された繊維で構成されているとともに第1領域部側の片面に密着結合した単層細胞を形成可能であって高分子化合物またはその複合体を透過可能に構成されている透過性基材を有する細胞透過性評価装置およびこの透過性基材を用いた細胞透過性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質、薬物、あるいは遺伝子などの物質を、生物個体の標的部位に確実に送達するためのベクターやキャリアーの開発が盛んに行われている。例えば、目的の遺伝子を標的細胞へ導入するためのベクターとして、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルスなどのウイルスベクターが開発されている。しかしながら、ウイルスベクターは、大量生産の困難性、抗原性、毒性などの問題があるため、このような問題点が少ないリポソームベクターやペプチドキャリアーが注目を集めている。リポソームベクターは、その表面に抗体、タンパク質、糖鎖などの機能性分子を導入することにより、標的部位に対する指向性を向上させることができるという利点も有している。
【0003】
一方、リポソームベクターや物質を内包したリポソームベクターなどの高分子化合物またはその複合体を血中に投与する場合、血中から標的部位への到達が大きな課題となる。血管内皮細胞は多くの組織において細胞間に密着結合を形成しており、血管内皮細胞間の間隙は約0.4nmから約4nmと極めて狭いため、血中に投与された高分子化合物またはその複合体が、この間隙を通過して標的部位へ到達することは困難である。そこで、細胞の有するトランスサイトーシスなどの機能を利用して、高分子化合物またはその複合体を細胞内透過させ、標的部位へ到達させる手法が研究開発されている。
【0004】
このような研究開発においては、物質の細胞透過性、特に、高分子化合物またはその複合体の細胞透過性を評価する技術が重要である。従来の高分子化合物の細胞透過性を評価する方法として、従来用いられている細胞透過性評価装置であるMillicell(ミリポア社)、セルカルチャーインサートやマルチウェルインサート(いずれもBD Biosciences社)、あるいはトランスウェル(Corning社)などを用いる方法が行われている。これら従来用いられている細胞透過性評価装置はいずれも同様の構造を有しており、図2に示すように、従来の細胞透過性評価装置5は、ポリエチレンテレフタラート(PET)などのポリエステルやポリカーボネートなどから形成されたメンブレン8を基底部に備えるインサート9、インサート9によって上下仕切られた上層領域6と下層領域7、および下層領域7を囲むウェルプレート10からなり、メンブレン8は直径0.4μm、1.0μm、3.0μmあるいは8.0μmの微小な貫通孔を有している。従来の細胞透過性評価装置5を用いて高分子化合物などの細胞透過性を評価する場合は、上層領域6側においてメンブレン8を基材として細胞を単層培養した後、単層培養した細胞に試料を接触させる。試料が細胞透過性を有する場合、試料が細胞およびメンブレン8を透過して下層領域7へと移行するため、下層領域7において試料を検出することにより、試料の細胞透過性を評価することができる。
【0005】
さらに、上記の構成に加え、下層領域7に移行した物質を検出するセンサーを備えた装置(特許文献1)や、上層領域6から下層領域7に移行した物質を吸着する吸着剤を備えた装置(特許文献2)が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2006−505278号公報
【特許文献2】特開2009−5608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の細胞透過性評価装置5が備えるメンブレン8において、メンブレン8の有する微小な貫通孔の直径(孔径)が1.0μm以下の場合、リポソームなどの高分子化合物またはその複合体はメンブレン8をほとんど透過することができない。また、メンブレン8の孔径が3.0μm以上の場合、培養した細胞がメンブレン8の上層領域6側に単層を形成することができず、さらに、メンブレン8の孔内やメンブレン8の下層領域7側にまで及んでしまうため、従来の細胞透過性評価装置5を用いて高分子化合物またはその複合体の細胞透過性の評価を正確に行うことは困難である。
【0008】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、高分子化合物またはその複合体の細胞透過性を簡便かつより正確に評価する装置、および高分子化合物またはその複合体の細胞透過性を簡便かつより正確に評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ゼラチンを用いた電界紡糸法により作製された繊維で構成された透過性基材が高分子化合物またはその複合体を透過させること、その透過性基材の片面に密着結合した単層細胞を形成することができることを見出し、下記の各発明を完成した。
【0010】
(1)高分子化合物またはその複合体の細胞透過性を評価する装置であって、高分子化合物またはその複合体を投入する第1領域部と、この第1領域部に隣接されており当該第1領域部から透過される高分子化合物またはその複合体を収容する第2領域部と、前記第1領域部と前記第2領域部との境界上に配置された透過性基材とを有しており、前記透過性基材は、ゼラチンを用いた電界紡糸法により作製された繊維で構成されているとともに、前記第1領域部側の片面に密着結合した単層細胞を形成可能であって高分子化合物またはその複合体を透過可能に構成されている、前記装置。
【0011】
(2)ゼラチンを用いて電界紡糸法により作製した繊維の直径Dが500nm≦D≦1000nmであり、前記繊維間の距離Iが5μm≦I≦20μmである、(1)に記載の装置。
【0012】
(3)高分子化合物またはその複合体が脂質または脂質膜構造体である、(1)または(2)に記載の装置。
【0013】
(4)高分子化合物またはその複合体の細胞透過性を評価する方法であって、ゼラチンを用いた電界紡糸法により作製された繊維で構成されているとともに高分子化合物またはその複合体を透過可能に構成されている透過性基材の片面に密着結合した単層細胞を形成させる工程と、前記単層細胞に高分子化合物またはその複合体を接触させる工程と、前記単層細胞に高分子化合物またはその複合体を接触させて前記単層細胞と前記透過性基材とを透過した高分子化合物またはその複合体から細胞透過性を評価する工程とを有する、前記方法。
【0014】
(5)高分子化合物またはその複合体の細胞透過性を評価する方法であって、ゼラチンを用いた電界紡糸法により作製された繊維で構成されているとともに高分子化合物またはその複合体を透過可能に構成されている透過性基材の片面に高分子化合物またはその複合体を接触させて前記透過性基材を透過した高分子化合物またはその複合体を取得する工程と、前記透過性基材の片面に密着結合した単層細胞を形成させる工程と、前記単層細胞に高分子化合物またはその複合体を接触させて前記単層細胞および前記透過性基材を透過した高分子化合物またはその複合体を取得する工程と、取得した前記透過性基材を透過した高分子化合物またはその複合体と、取得した前記単層細胞および前記透過性基材を透過した高分子化合物またはその複合体とを比較して細胞透過性を評価する工程とを有する、前記方法。
【0015】
(6)ゼラチンを用いて電界紡糸法により作製した繊維の直径Dが500nm≦D≦1000nmであり、前記繊維間の距離Iが5μm≦I≦20μmである、(4)または(5)に記載の方法。
【0016】
(7)高分子化合物またはその複合体が脂質または脂質膜構造体である、(4)から(6)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来の細胞透過性評価装置では評価することができなかった高分子化合物またはその複合体の細胞透過性を簡便に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態における高分子化合物またはその複合体の細胞透過性評価装置1の基本構成を示す概念図である。
【図2】高分子化合物の細胞透過性を評価する際に従来用いられている、従来の細胞透過性評価装置5の態様を示す概念図である。
【図3】ゼラチンナノファイバーシートを電子顕微鏡で観察した図(写真)である。
【図4】本実施形態に係る細胞透過性評価装置1の透過性基材4および従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレン8における無細胞リポソーム透過率を示す図である。
【図5】本実施形態に係る細胞透過性評価装置1の透過性基材4において培養したMBEC4細胞層の断面図(写真)である。
【図6】本実施形態に係る細胞透過性評価装置1の透過性基材4において培養したMBEC4細胞のZO−1タンパク質および核を検出した図(写真)である。
【図7】本実施形態に係る細胞透過性評価装置1においてTER測定を行う方法の一態様を示す模式図である。
【図8】本実施形態に係る細胞透過性評価装置1の透過性基材4において培養したMBEC4細胞、従来の細胞透過性評価装置5のPET製のメンブレン8において培養したMBEC4細胞および従来の細胞透過性評価装置5のPET製のメンブレン8において培養したMFLN4細胞のTER測定結果を示す図である。
【図9】メンブレンの孔径がそれぞれ0.4μm、1.0μm、3.0μmおよび8.0μmの、従来の細胞透過性評価装置5のPET製のメンブレン8における無細胞リポソーム透過率を示す図である。図中、縦軸は無細胞リポソームの透過率(%)を示し、横軸は移行時間(時)を示す。
【図10】従来の細胞透過性評価装置5のPET製のメンブレン8(孔径0.4μm)において培養したMBEC4細胞のZO−1タンパク質を、メンブレン8上部からメンブレン8下部に至るまで、観察深度を2.0μmずつ変化させて観察した図(写真)である。
【図11】従来の細胞透過性評価装置5のPET製のメンブレン8(孔径1.0μm)において培養したMBEC4細胞のZO−1タンパク質を、メンブレン8上部からメンブレン8下部に至るまで、観察深度を2.0μmずつ変化させて観察した図(写真)である。
【図12】従来の細胞透過性評価装置5のPET製のメンブレン8(孔径8.0μm)において培養したMBEC4細胞のZO−1タンパク質を、メンブレン8上部からメンブレン8下部に至るまで、観察深度を2.0μmずつ変化させて観察した図(写真)である。
【図13】従来の細胞透過性評価装置5のPET製のメンブレン8(孔径8.0μm)において培養したMBEC4細胞のZO−1タンパク質および核を、メンブレン8上部からメンブレン8下部に至るまで観察深度を1.0μmずつ変化させて観察した図(写真)である。
【図14】ゼラチンコーティングしたPET製のメンブレン8およびコラーゲンコーティングしたPET製のメンブレン8(いずれもメンブレンの孔径は3.0μm)において培養したMBEC4細胞のZO−1タンパク質を、メンブレン8の上部、メンブレン8の内部、メンブレン8の下部において観察した図(写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る高分子化合物またはその複合体の細胞透過性評価装置およびその細胞透過性評価方法について詳細に説明する。
【0020】
まず、本発明に係る高分子化合物またはその複合体の細胞透過性評価装置の実施形態について、図面を用いて説明する。図1は、本実施形態における細胞透過性評価装置1の基本構成を説明する概念図である。図1に示すように、細胞透過性評価装置1は、主として、高分子化合物またはその複合体を投入する第1領域部2と、第1領域部2に隣接されており第1領域部2から透過される高分子化合物またはその複合体を収容する第2領域部3と、第1領域部2と第2領域部3との境界上に配置された透過性基材4とから構成されている。すなわち、第1領域部2と第2領域部3とは互いに隣接している。
【0021】
第1領域部2は、高分子化合物またはその複合体を投入する領域であり、投入された高分子化合物またはその複合体を一定時間、保持する構成を有していればよい。そのような構成としては、例えば、液体を保持することができる容器などの態様を挙げることができる。容器を構成する素材としては特に限定されず、耐水性、耐食性、耐薬品性などに優れた素材が好ましいが、そのような素材としては、例えば、ガラス、プラスチック、ステンレスなどを挙げることができる。
【0022】
本発明における高分子化合物としては、例えば、脂質、タンパク質、ペプチド、核酸、多糖類、プラスチック、シリコン、合成ゴムなどを挙げることができるが、脂質であることが好ましい。また、高分子化合物の複合体としては、例えば、脂質膜構造体、低分子化合物や高分子化合物を内包した脂質膜構造体、2分子のタンパク質が疎水性ドメインで結合した二量体タンパク質などを挙げることができる。脂質膜構造体としては、例えば、リポソーム、O/W型エマルション、W/O/W型エマルション、球状ミセル、ひも状ミセル、不定型の層状構造物などを挙げることができ、リポソームとしては、例えば、SUV(small unilamellar vesicle)、LUV(large unilamellar vesicle)、GUV(giant unilamellarvesicle)などの一枚膜リポソーム、多重膜リポソーム(MLV)、あるいはこれらに機能性分子を導入したもの、さらにはこれらに薬物、タンパク質、遺伝子などを内包させたものなどを挙げることができる。
【0023】
第1領域部2に高分子化合物またはその複合体を投入する方法としては、当業者が適宜選択可能な方法を用いることができる。そのような方法としては、例えば、高分子化合物またはその複合体をHEPES緩衝液などの緩衝液に溶解または懸濁させ、ピペットなどを用いてこの懸濁液を注入する方法などを挙げることができる。
【0024】
第2領域部3は、第1領域部2に投入されて、後述する形成された単層細胞および透過性基材4、あるいは透過性基材4を透過した高分子化合物またはその複合体を収容する領域であり、透過した高分子化合物またはその複合体を保持する構成を有していればよい。そのような構成としては、上述の第1領域部2と同様の態様を挙げることができる。
【0025】
透過性基材4は、ゼラチンを用いた電界紡糸法により作製された繊維で構成されている。電界紡糸法は、極細の繊維(ナノファイバー)を作製する方法のひとつであり、原料である高分子溶液を充填する注射シリンジを有するシリンジ針と繊維を回収する電極とを対面に配置し、注射シリンジに高分子溶液を充填した後、シリンジ針と電極との間に高い電圧を印加しながらシリンジポンプを用いて充填された高分子溶液をシリンジ針から押し出すことにより、シリンジ針から電界に沿って螺旋状に飛び出した繊維電極に集積する方法である。
【0026】
本発明において、ゼラチンを用いた電界紡糸法による繊維の作製は、当業者が適宜選択可能な器具や手法を組み合わせることにより行うことができ、注射シリンジ、シリンジポンプ、シリンジ針、高電圧発生器などを組み合わせて電界紡糸装置を作製し、これを用いて行ってもよく、市販の電界紡糸装置を用いて行ってもよい。また、原料のゼラチンの由来、ゼラチン溶液の調製に用いる溶媒の種類、ゼラチン溶液の濃度、シリンジ針の内径、ゼラチン溶液を押し出す速度、繊維を回収する電極の種類や形状、シリンジ針先端と繊維を回収する電極との距離、印加する電圧の大きさなどは、電界紡糸法による繊維の作製に用いる器具や手法、繊維の必要量、評価する高分子化合物またはその複合体の種類などに応じて適宜設定することができる。
【0027】
ゼラチンを用いて電界紡糸法により作製した繊維の直径および繊維間の距離は、適宜常法に従い測定することができ、例えば、電子顕微鏡を用いて測定することができる。本発明において、ゼラチンを用いて電界紡糸法により作製した繊維の直径Dの値や繊維間の距離Iの値は特に限定されないが、500nm≦D≦1000nm、あるいは5μm≦I≦20μmであることが好ましい。また、透過性基材の厚さTの値もまた、特に限定されないが、150μm≦T≦250μmであることが好ましい。
【0028】
透過性基材4は第1領域部2と第2領域部3との境界上に配置されるが、その態様は、第1領域部2と第2領域部3とを仕切るような態様でもよく、第1領域部2と第2領域部3との境界上の一部となるような態様でもよい。透過性基材4が第1領域部2と第2領域部3との境界上の一部にとなるような態様としては、例えば、ガラス、プラスチック、ステンレスなど、高分子化合物またはその複合体を透過させない素材で第1領域部2と第2領域部3とを仕切り、その一部を透過性基材4に置き換えるような態様を挙げることができる。
【0029】
透過性基材4は、高分子化合物またはその複合体を透過可能に構成されているが、本発明において、「高分子化合物またはその複合体を透過可能に構成」されているとは、高分子化合物またはその複合体の一部または全部が透過するように構成されていることをいう。
【0030】
透過性基材4は、さらに、第1領域部2側の片面に密着結合した単層細胞を形成可能に構成されている。ここで、「単層細胞」とは、細胞同士が重なり合わずに並ぶことにより1つの層を形成している細胞群のことをいう。また、「密着結合」とは、隣り合って並んだ細胞間の隙間に、オクルディン、クローディンなどの密着結合形成タンパク質が高密度に並ぶことで細胞間の隙間を覆い、物質の通過を防ぐことができる、細胞間の結合様式である。
【0031】
単層細胞を形成したか否かを確認する方法としては、例えば、培養した細胞の核をHoechst33342により染色した後、蛍光顕微鏡を用いて観察深度を変化させて画像を取得し、これらの画像をもとに構築した細胞層の断面図において、細胞層が一層を形成しているか否かを確認する方法の他、培養した細胞の細胞膜タンパク質であるZO−1タンパク質を免疫蛍光染色した後、共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察深度を変化させて観察し、透過性基材やメンブレンなどの培養基材の内部または下部(裏側)にあたる観察深度において蛍光が観察されるか否かを確認する方法を挙げることができる。
【0032】
また、密着結合を形成したか否かを確認する方法としては、例えば、密着結合マーカータンパク質であるZO−1タンパク質を免疫蛍光染色した後、蛍光顕微鏡を用いて確認する方法を挙げることができる他、培養した細胞について膜間電気抵抗(TER)測定を行うことにより確認する方法を挙げることができる。
【0033】
TER測定とは、細胞層を挟んで配置した電極間の電気抵抗を測定することにより、当該細胞層における密着結合形成状態を確認する方法である。この測定方法は、細胞間に密着結合が形成されている場合、細胞膜の有する非導電性により電気抵抗が高くなることに基づいている。本発明においてTER測定を行う場合、図7に示すように、上層側の領域(図1においては第1領域部2が、図2においては上層領域6がそれぞれ該当する)と下層側の領域(図1においては第2領域部3が、図2においては下層領域7がそれぞれ該当する)とにそれぞれ電極を配置し、電気抵抗を測定すればよい。
【0034】
本発明において、透過性基材の片面に密着結合した単層細胞を形成させる方法は、適宜、常法に従い行うことができる。そのような方法としては、例えば、透過性基材の片面に細胞懸濁液を接触させた状態で、適当な培養条件のもとでインキュベートする方法を挙げることができる。単層細胞を形成させるための細胞の培養条件は、用いる細胞の種類、培養液の種類、培養初期の細胞濃度、透過性基材の面積などに応じて適宜設定することができる。また、用いる細胞の種類は、密着結合が可能な細胞であれば特に限定されず、例えば、血管内皮細胞や皮膚上皮細胞などの上皮細胞を挙げることができる。
【0035】
透過性基材4の第1領域部2側に密着結合した単層細胞が形成されている場合、第1領域部2に投入された高分子化合物またはその複合体は、透過性基材4の片面に形成された単層細胞を透過した後、透過性基材4を透過して第2領域部3に収容される。
【0036】
なお、透過性基材4における高分子化合物またはその複合体の透過率を求める場合、例えば、第1領域部2に高分子化合物またはその複合体を投入し、一定時間置いた後、第2領域部3に存在する高分子化合物またはその複合体の量を測定し、投入した量に対する測定した量の割合を百分率で算出することにより求めることができる。
【0037】
次に、本発明に係る高分子化合物またはその複合体の細胞透過性評価方法は、高分子化合物またはその複合体の細胞透過性を評価する方法であって、
(i)ゼラチンを用いた電界紡糸法により作製された繊維で構成されているとともに高分子化合物またはその複合体を透過可能に構成されている透過性基材の片面に密着結合した単層細胞を形成させる工程(単層細胞形成工程)
(ii)前記単層細胞に高分子化合物またはその複合体を接触させる工程(試料接触工程)
(iii)前記単層細胞に高分子化合物またはその複合体を接触させて前記単層細胞と前記透過性基材とを透過した高分子化合物またはその複合体から細胞透過性を評価する工程(細胞透過性評価工程)
以上(i)〜(iii)の工程を有する。
【0038】
(ii)試料接触工程において、透過性基材において培養した単層細胞に高分子化合物またはその複合体を接触させる方法は、適宜、常法に従い行うことができる。そのような方法としては、例えば、細胞の培養液をKrebs緩衝液に交換した後、HEPES緩衝液に溶解または懸濁させた高分子化合物またはその複合体を、ピペットなどを用いて添加する方法などを挙げることができる。
【0039】
(iii)細胞透過性評価工程において細胞透過性を評価する方法としては、例えば、(ii)試料接触工程において単層細胞に接触させた高分子化合物またはその複合体の量と、その後、それら単層細胞および透過性基材を透過した高分子化合物またはその複合体の量とを比較する方法を挙げることができる。
【0040】
次に、本発明に係る高分子化合物またはその複合体の細胞透過性評価方法の異なる態様の一つは、高分子化合物またはその複合体の細胞透過性を評価する方法であって、
(iv)ゼラチンを用いた電界紡糸法により作製された繊維で構成されているとともに高分子化合物またはその複合体を透過可能に構成されている透過性基材の片面に高分子化合物またはその複合体を接触させて前記透過性基材を透過した高分子化合物またはその複合体を取得する工程(第1透過試料取得工程)
(v)前記透過性基材の片面に密着結合した単層細胞を形成させる工程(単層細胞形成工程)
(vi)前記単層細胞に高分子化合物またはその複合体を接触させて前記単層細胞および前記透過性基材を透過した高分子化合物またはその複合体を取得する工程(第2透過試料取得工程)
(vii)取得した前記透過性基材を透過した高分子化合物またはその複合体と、取得した前記単層細胞および前記透過性基材を透過した高分子化合物またはその複合体とを比較して細胞透過性を評価する工程(細胞透過性評価工程)
以上(iv)〜(vii)の工程を有する。
【0041】
(vii)細胞透過性評価工程において細胞透過性を評価する方法としては、例えば、(iv)第1透過試料取得工程において取得した高分子化合物またはその複合体の量を測定し、続いて、(vi)第2透過試料取得工程において取得した高分子化合物またはその複合体の量を測定した後、これら測定した量を比較する方法を挙げることができる。この場合、(iv)第1透過試料取得工程において取得した高分子化合物またはその複合体の量に対する(vi)第2透過試料取得工程において取得した高分子化合物またはその複合体の量の比が大であるほど、試料である高分子化合物またはその複合体の細胞透過性は大であると評価することができる。
【0042】
高分子化合物またはその複合体の量の測定は、適宜、当業者によって選択可能な方法に従って行うことができる。そのような方法としては、例えば、あらかじめ高分子化合物またはその複合体を放射性同位体(RI)、蛍光色素、あるいは検出可能な抗体により認識されるペプチドなどにより標識し、それぞれ、液体シンチレーションカウンター、実体顕微鏡、蛍光顕微鏡、免疫染色法などを用いて標識を検出して測定することができる。
【0043】
以下、本発明に係る高分子化合物またはその複合体の細胞透過性評価装置、および高分子化合物またはその複合体の細胞透過性評価方法について、実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例】
【0044】
<実施例1>実験材料の作製と調製
(1)透過性基材の作製
ゼラチン(新田ゼラチン社;牛骨由来;分子量100000;等電点5)をヘキサフルオロイソプロパノール(和光純薬工業社)に7%(w/w)となるよう溶解することによりゼラチン溶液を調製し、本発明者が作製した電界紡糸装置の5mLの注射シリンジに充填した。注射シリンジには内径0.51mmのシリンジ針を接続し、繊維を回収する電極としてアルミホイルで覆った5cm×5cmの正方形の金属板を設置した。電極であるシリンジ針先端と金属板とを22cm離して配置し、これらの電極間に14kVの電圧を印加しながら注射シリンジに充填したゼラチン溶液を9mL/時間の速度で押し出し、金属板のアルミホイル上にゼラチン繊維の集積物を得た。得られたゼラチン繊維集積物を、160℃、24時間、真空乾燥器(真空乾燥装置DN−30S;佐藤真空株式会社)を用いて熱処理を行い、ゼラチンを熱脱水架橋させてゼラチンナノファイバーシートを得た。
【0045】
熱処理後、電子顕微鏡を用いてゼラチンナノファイバーシートを観察した結果を図3に示す。図3に示すように、ゼラチンナノファイバーシートは、ゼラチン繊維がランダムに絡み合ってシートを形成していることが確認された。
【0046】
また、ゼラチンナノファイバーシートの繊維の直径、繊維間の距離および厚さを、電子顕微鏡を用いて測定したところ、繊維の直径Dは500nm≦D≦1000nm、繊維間の距離Iは5μm≦I≦20μm、ゼラチンナノファイバーシートの厚さTは150μm≦T≦250μmであったことから、ゼラチンナノファイバーシートは透過性を有することが確認された。
【0047】
(2)細胞透過性評価装置の作製
従来の細胞透過性評価装置5{Millicell;ミリポア社、メンブレン材質;ポリエチレンテレフタラート(PET)製、メンブレン孔径;3.0μm、24ウェル}のインサートに設置されたPET製メンブレンを、カッターナイフを用いて切除した。続いて、本実施例(1)で作製したゼラチンナノファイバーシートを、PET製メンブレンを切除した部位にプラスチック用アロンアルファ(東亞合成社)を用いて接着することにより、PET製メンブレンに代えてゼラチンナノファイバーシートから構成された透過性基材4を有するインサートを作製した。このインサートを24ウェルプレートに設置することにより、PET製メンブレンに代えてゼラチンナノファイバーシートから構成された透過性基材4を有する細胞透過性評価装置1を作製した(図1)。
【0048】
(3)Krebs緩衝液の調製
滅菌水を溶媒として、以下の組成のKrebs緩衝液(pH7.3)を調製した。
【0049】
Krebs緩衝液の組成
KCl(和光純薬工業社) 4.8mmol/L
KH2PO4(和光純薬工業社) 1.0mmol/L
MgSO4(和光純薬工業社) 1.2mmol/L
2−[4−(2−Hydroxyethyl)−1−piperazinyl]ethanesulfonic acid(HEPES)(和光純薬工業社)
12.5mmol/L
CaCl2(和光純薬工業社) 1.5mmol/L
NaCl(ナカライテスク社) 120.0mmol/L
NaHCO3(和光純薬工業社) 23.8mmol/L
グルコース(和光純薬工業社) 5.0mmol/L
【0050】
(4)RI標識リポソームの調製
卵黄フォスファチジルコリン{L−α−Phosphatidylcholine, Egg(Powder);Avanti Polar Lipids社}とコレステロール{Cholesterol(Powder);Avanti Polar Lipids社}とを卵黄フォスファチジルコリン:コレステロール=7:3となるように混合して混合脂質粉末を調製した。続いて、調製した混合脂質粉末を、1nmol/μLとなるようにエタノールに溶解し、これをガラス製試験管に137.5μL入れ、放射性同位体(RI)である3H−cholesteryl hexadecyl ether(CHE)250万dpm〜500万dpmと、クロロホルム112.5μLとを添加して、短時間ボルテックス処理した後、常法に従い窒素ガス気流を用いてエタノール溶媒を除去した。続いて、250mLのエタノールを添加して脂質を溶解し、常法に従い窒素ガス気流を用いてエタノール溶媒の除去を再度行うことにより、RIで標識した脂質膜を調製した。HEPES(和光純薬工業社)を用いて常法に従い調製した10mmol/LのHEPES緩衝液(pH7.4)をこの脂質膜に250μL添加し、室温で15分間置いて水和させた後、ソニケーターを用いて30秒間ソニケーションを行うことにより、RI標識リポソームを調製した。
【0051】
(5)RI標識リポソームのサイズの確認
RIを添加せずに、本実施例(4)に記載の方法によりRI非標識リポソームを調製し、動的光散乱測定装置(Zetasizer Nano ZS;Malvern社)によりサイズを測定したところ、リポソームの直径は約100nmであった。このことから、本実施例(4)で調製したRI標識リポソームのサイズは、直径約100nmであることが明らかになった。
【0052】
<実施例2>細胞透過性評価装置1の透過性基材4における無細胞リポソーム透過率の確認
実施例1(2)で作製した細胞透過性評価装置1およびメンブレン孔径が異なる3種類の従来の細胞透過性評価装置5(Millicell;ミリポア社、メンブレン材質;PET製、24ウェル、メンブレン孔径;0.4μm、3.0μm、8.0μm)の上層側の領域に、実施例1(3)で調製したKrebs緩衝液を100μL/ウェル入れ、実施例1(4)で調製したRI標識リポソームを100μL(約100万〜200万dpm)/ウェル添加した。2時間後に下層側の領域からKrebs緩衝液を回収し、液体シンチレーションカウンターTRI−CARB 1600TR(PACKARD社)を用いて、回収したKrebs緩衝液に含まれるRI量を測定した。上層側の領域に添加したリポソームのRI量に対する、測定したRI量の割合を百分率で算出することにより、細胞透過性評価装置1の透過性基材4あるいは従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおける、細胞が培養されていない場合のリポソーム透過率(無細胞リポソーム透過率)とした。その結果を図4に示す。
【0053】
図4に示すように、無細胞リポソーム透過率は、細胞透過性評価装置1では約17.5%であったのに対し、メンブレン孔径が0.4μmの従来の細胞透過性評価装置5では約0.17%、メンブレン孔径3.0μmの従来の細胞透過性評価装置5では約12%、メンブレン孔径8.0μmの従来の細胞透過性評価装置5では約19%であった。
【0054】
以上の結果から、培養細胞が存在しない細胞透過性評価装置1の透過性基材4は、培養細胞が存在しない従来の細胞透過性評価装置5におけるメンブレン孔径8.0μmのPET製メンブレンと同程度に高い無細胞リポソーム透過率を有しており、約17.5%のリポソームが透過性基材4を透過することが確認された。
【0055】
<実施例3>細胞透過性評価装置1の透過性基材4において培養した細胞の状態確認
(1)細胞透過性評価装置1の透過性基材4および従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおける細胞の培養
国立大学法人東京大学分子細胞生物学研究所の鶴尾隆氏および内藤幹彦氏より供与されたマウス脳毛細血管内皮細胞由来のMBEC4細胞、および、血管内皮細胞の前駆細胞であって密着結合を形成しないマウス胎児肺由来血管内皮細胞{Mouse Fetal Lung Mesenchyme−4(MFLN4)細胞;Seven hills bioreagents社}をDulbecco’s Modified Eagle’s Medium (DMEM培地) に、それぞれ300000cell/mLとなるよう懸濁した。MBEC4細胞の懸濁液を、細胞透過性評価装置1および従来の細胞透過性評価装置5(Millicell;ミリポア社、メンブレン材質;PET製、メンブレン孔径;0.4μm、24ウェル)の上層側の領域に、それぞれ400μL/ウェルとなるように入れた。また、MFLN4細胞の懸濁液は、従来の細胞透過性評価装置5(Millicell;ミリポア社、メンブレン材質;PET製、メンブレン孔径;0.4μm、24ウェル)の上層側の領域に400μL/ウェルとなるように入れた。これらを5%CO2雰囲気下、37℃で3日間〜5日間、ゼラチンナノファイバーシート上またはPET製メンブレン上で静置培養した。
【0056】
(2)MBEC4細胞の、細胞透過性評価装置1の透過性基材4における存在部位の確認
核を染色する蛍光色素であるHoechst33342(DAIJINDO社)を1μg/mLとなるよう、本実施例(1)でMBEC4細胞を培養した細胞透過性評価装置1の上層側の領域に添加し、本実施例(1)に記載の培養条件にて、15分間培養した。続いて、EM−CCDカメラ(浜松ホトニクス社)および蛍光顕微鏡(TE2000;Nikon社)を用いて、観察深度を15μmずつ変化させてHoechst33342の蛍光を検出し、画像を取得した。その後、取得した画像に基づいて、透過性基材4における細胞層の断面図を構築した。その結果を図5に示す。
【0057】
図5に示すように、透過性基材4におけるMBEC4細胞層では、Hoechst33342の蛍光で示される核がほぼ一層となっていることが明らかになった。この結果から、細胞透過性評価装置1の透過性基材4においてMBEC4細胞を培養すると、単層細胞を形成できることが確認された。
【0058】
(3)細胞透過性評価装置1の透過性基材4において培養したMBEC4細胞の密着結合の確認
[3−1]ZO−1タンパク質の免疫染色による確認
本実施例(1)で細胞透過性評価装置1の透過性基材4において培養したMBEC4細胞を、透過性基材4ごと4%パラホルムアルデヒド/リン酸緩衝液(和光純薬工業社)に15分間浸漬して固定した後、一次抗体として密着結合マーカーであるZO−1タンパク質の抗体(Rabbit anti−ZO−1;invitrogen社)および二次抗体としてAlexa546で標識した抗ウサギ抗体(Goat anti−rabbit IgG;invitrogen社)を用いて、常法に従い免疫染色を行った。続いて1μg/mLとなるようHoechst33342(DAIJINDO社)を添加し、室温、遮光下にて15分間静置した後、PBSにより洗浄した。その後、EM−CCDカメラ(浜松ホトニクス社)および蛍光顕微鏡(TE2000;Nikon社)を用いてAlexa546およびHoechst33342の蛍光を検出した。その結果を図6に示す。
【0059】
図6に示すように、透過性基材4において培養したMBEC4細胞では、Hoechst33342の蛍光で示される核と核との間に、Alexa546の蛍光で示されるZO−1タンパク質が存在することが明らかになった。この結果から、細胞透過性評価装置1の透過性基材4において培養したMBEC4細胞は密着結合を形成することが確認された。
【0060】
[3−2]膜間電気抵抗(TER)の測定による確認
本実施例(1)でMBEC4細胞を培養した細胞透過性評価装置1、MBEC4細胞を培養した従来の細胞透過性評価装置5およびMFLN4細胞を培養した従来の細胞透過性評価装置5について、MILLICELL−ERS(ミリポア社)を用いて、上層側の領域および下層側の領域にそれぞれ電極を入れ、膜間電気抵抗(TER)を測定した。TER測定方法を図7に、測定結果を図8にそれぞれ示す。
【0061】
細胞透過性評価装置1の透過性基材4あるいは従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおいて、図7に示すような、培養された細胞間に密着結合が形成されている場合は、電気抵抗が発生するためTERの値は高くなる。測定の結果、図8に示すように、MFLN4細胞を培養した従来の細胞透過性評価装置5では、TERの値は約10Ω/cm2であったのに対し、MBEC4細胞を培養した従来の細胞透過性評価装置5では約210Ω/cm2、MBEC4細胞を培養した細胞透過性評価装置1では約230Ω/cm2の高い値がそれぞれ測定された。
【0062】
これらの結果から、細胞透過性評価装置1の透過性基材4において培養したMBEC4細胞では、従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおいて培養したMBEC4細胞と同程度に電気抵抗性を有する、高密度の密着結合が形成されることが確認された。
【0063】
<比較例1>従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおける無細胞リポソーム透過率の確認
メンブレン孔径が異なる4種類の従来の細胞透過性評価装置5(Millicell;ミリポア社、メンブレン材質;PET製、24ウェル、メンブレン孔径;0.4μm、1.0μm、3.0μm、8.0μm)について、実施例2に記載の方法により、無細胞リポソーム透過率を算出した。ただし、移行時間(上層側の領域にリポソームを添加後、下層側の領域からKrebs緩衝液を回収するまでの時間)は、3時間、6時間および9時間とした。その結果を図9に示す。
【0064】
図9に示すように、メンブレン孔径0.4μmにおいて、いずれの移行時間の場合も、無細胞リポソーム透過率は約0.17%から約0.25%の間であり、メンブレン孔径1.0μmにおいては、移行時間が3時間および6時間の場合では、無細胞リポソーム透過率は約0.23%から約0.5%の間であり、移行時間が9時間の場合では、無細胞リポソーム透過率は約1.75%であった。一方、メンブレン孔径3.0μmにおいて、移行時間が3時間の場合では、無細胞リポソーム透過率は約12%であり、移行時間が6時間および9時間の場合では、無細胞リポソーム透過率は約17%から約18%の間であった。また、メンブレン孔径8.0μmにおいて、移行時間が3時間の場合では、無細胞リポソーム透過率は約19%であり、移行時間が6時間および9時間の場合では、無細胞リポソーム透過率は約9%から約10%の間であった。
【0065】
これらの結果から、培養細胞が存在しない従来の細胞透過性評価装置5においては、メンブレン孔径が3.0μmおよび8.0μmの場合、10%〜20%のリポソームがPET製メンブレンを透過することが確認された。一方、メンブレン孔径が0.4μmおよび1.0μmの場合は、ほとんどのリポソームがPET製メンブレンを透過しないことが確認された。
【0066】
<比較例2>PET製メンブレンにおけるMBEC4細胞の存在部位の確認
(1)従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおけるMBEC4細胞の培養
メンブレン孔径が異なる3種類の従来の細胞透過性評価装置5(Millicell;ミリポア社、メンブレン材質;PET製、24ウェル、メンブレン孔径;0.4μm、1.0μm、8.0μm)において、実施例3(1)に記載の方法によりMBEC4細胞を培養した。
【0067】
(2)PET製メンブレンにおけるMBEC4細胞の存在部位の確認
[2−1]サンプルの調製
本比較例(1)で培養したMBEC4細胞について、実施例3(3)[3−1]に記載の方法によりZO−1タンパク質の免疫染色を行った。メンブレン孔径が8.0μmの従来の細胞透過性評価装置5において培養したMBEC4細胞については、ZO−1タンパク質の免疫染色の後、Hoechst33342を用いた核の染色も行った。染色した細胞をメンブレンごと、グリセロールを90%(v/v)含むリン酸緩衝生理食塩水を用いてスライドガラスに封入することにより、サンプルを調製した。
【0068】
[2−2]ZO−1タンパク質の検出による細胞の存在部位の確認
本比較例(2)[2−1]で調製したサンプルについて、共焦点レーザー顕微鏡(LSM510−META;Zeiss社)を用いてAlexa546の蛍光を検出した。検出はメンブレンの上部からメンブレンの下部(裏側)に至るまで、観察深度を変化させて行い、観察深度が最も小さい場合の画像をAとし、観察深度が大きくなるに従って、B、C、D、E、F、G、H、I、J、K、L、M、N、Oとして、画像を取得した。メンブレン孔径が0.4μmの従来の細胞透過性評価装置5における観察結果を図10に、メンブレン孔径が1.0μmの従来の細胞透過性評価装置5における観察結果を図11に、メンブレン孔径が8.0μmの従来の細胞透過性評価装置5における観察結果を図12にそれぞれ示す。
【0069】
図10に示すように、メンブレン孔径が0.4μmの従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおいてMBEC4細胞を培養した場合、メンブレン上部を示すパネルC〜LにおいてAlexa546の蛍光が検出され、メンブレン内部を示すパネルM〜Oにおいては、Alexa546の蛍光は検出されなかった。この結果から、メンブレン孔径が0.4μmの従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおいてMBEC4細胞を培養すると、単層細胞を形成できることが確認された。
【0070】
また、図11に示すように、メンブレン孔径が1.0μmの従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおいてMBEC4細胞を培養した場合、メンブレン上部を示すパネルC〜Iのみならず、メンブレン内部を示すパネルJ〜Oにおいても、Alexa546の蛍光が検出された。この結果から、メンブレン孔径が1.0μmの従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおいてMBEC4細胞を培養すると、単層細胞は形成できず、MBEC4細胞がメンブレン上部のみならずメンブレンの孔内にまで存在するようになることが確認された。
【0071】
さらに、図12に示すように、メンブレン孔径が8.0μmの従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおいてMBEC4細胞を培養した場合、メンブレン上部を示すパネルC〜Gのみならず、メンブレン内部を示すパネルH〜Jおよびメンブレン下部を示すパネルK〜Oに至るまでAlexa546の蛍光が検出された。この結果から、メンブレン孔径が8.0μmの従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおいてMBEC4細胞を培養すると、単層細胞は形成できず、MBEC4細胞がメンブレン上部のみならずメンブレンの孔内やメンブレン下部にまで存在するようになることが確認された。
【0072】
[2−3]ZO−1タンパク質および核の検出による細胞の存在部位の確認
続いて、本比較例(2)[2−1]で調製した、メンブレン孔径が8.0μmの従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおいて培養したMBEC4細胞のサンプルについて、Alexa546の蛍光およびHoechst33342の蛍光を、本比較例(2)[2−2]に記載の方法により観察深度を変化させて検出し、AからNまでの画像を取得した。その結果を図13に示す。
【0073】
図13に示すように、メンブレン孔径が8.0μmの従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおいてMBEC4細胞を培養した場合、メンブレン上部を示すパネルB〜Hのみならず、メンブレン内部を示すパネルI〜NにおいてもAlexa546の蛍光およびHoechst33342の蛍光が検出された。特に、パネルI〜Nにおいてはメンブレンの孔内にAlexa546の蛍光およびHoechst33342の蛍光が検出され、メンブレンの孔に核が詰まっている様子が見られた。この結果から、メンブレン孔径が8.0μmの従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおいてMBEC4細胞を培養すると、単層細胞は形成できず、MBEC4細胞がメンブレン上部のみならずメンブレンの孔内にまで存在するようになることが確認された。
【0074】
<比較例3>ゼラチンあるいはコラーゲンでコーティングしたPET製メンブレンにおけるMBEC4細胞の存在部位の確認
(1)コーティングしたPET製メンブレンを有する従来の細胞透過性評価装置5の作製
[1−1]ゼラチンコーティングしたPET製メンブレンを有する従来の細胞透過性評価装置5の作製
リン酸緩衝生理食塩水にゼラチンパウダー(MP Biomedicals社)を2%(w/w)となるよう添加し、121℃にて10分間オートクレーブに供して、ゼラチン溶液を調製した。メンブレン孔径が3.0μmの従来の細胞透過性評価装置5(Millicell;ミリポア社、メンブレン材質;PET製、24ウェル)の上層側の領域に、メンブレン全体が覆われる程度の量のゼラチン溶液を注ぎ、37℃にて4時間インキュベートした後、ゼラチン溶液を除去した。
【0075】
[1−2]コラーゲンコーティングしたPET製メンブレンを有する従来の細胞透過性評価装置5の作製
pH3.0の希塩酸水溶液に0.3mg/mLとなるようコラーゲン(新田ゼラチン社)を添加し、コラーゲン溶液を調製した。メンブレン孔径が3.0μmの従来の細胞透過性評価装置5(Millicell;ミリポア社、メンブレン材質;PET製、24ウェル)の上層側の領域に、メンブレン全体が覆われる程度の量のコラーゲン溶液を注ぎ、室温にて1時間インキュベートした後、コラーゲン溶液を除去し、リン酸緩衝生理食塩水を用いてメンブレンを2度洗浄した。
【0076】
(2)従来の細胞透過性評価装置5のコーティングしたPET製メンブレンにおける細胞の培養
本比較例(1)[1−1]で作製したゼラチンコーティングしたPET製メンブレンを有する従来の細胞透過性評価装置5および本比較例(1)[1−2]で作製したコラーゲンコーティングしたPET製メンブレンを有する従来の細胞透過性評価装置5に代えて、細胞透過性評価装置1において、実施例3(1)に記載の方法によりMBEC4細胞を培養した。
【0077】
(3)コーティングしたPET製メンブレンにおけるMBEC4細胞の存在部位の確認
本比較例(2)で培養した細胞について、比較例2(2)[2−1]に記載の方法によりZO−1タンパク質の免疫染色を行った後、サンプルを調製した。その後、比較例2(2)[2−2]に記載の方法によりAlexa546の蛍光の検出を行った。観察深度はメンブレン上部、メンブレン内部、メンブレン下部の3段階に分けて、画像を取得した。その結果を図14に示す。
【0078】
図14に示すように、いずれのコーティングをしたPET製メンブレンにおいても、メンブレン上部の画像において全体的にAlexa546の蛍光が検出されるのみならず、メンブレン内部の画像において、メンブレンの孔内にAlexa546の蛍光が検出された。これらの結果から、ゼラチンコーティングしたPET製メンブレンまたはコラーゲンコーティングしたPET製メンブレンにおいてMBEC4細胞を培養すると、単層細胞を形成できず、MBEC4細胞がメンブレン上部のみならずメンブレンの孔内にまで存在するようになることが確認された。
【符号の説明】
【0079】
1 細胞透過性評価装置
2 第1領域部
3 第2領域部
4 透過性基材
5 従来の細胞透過性評価装置
6 上層領域
7 下層領域
8 メンブレン
9 インサート
10 ウェルプレート
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子化合物またはその複合体の細胞透過性評価装置およびその細胞透過性評価方法、特に、ゼラチンを用いた電界紡糸法により作製された繊維で構成されているとともに第1領域部側の片面に密着結合した単層細胞を形成可能であって高分子化合物またはその複合体を透過可能に構成されている透過性基材を有する細胞透過性評価装置およびこの透過性基材を用いた細胞透過性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質、薬物、あるいは遺伝子などの物質を、生物個体の標的部位に確実に送達するためのベクターやキャリアーの開発が盛んに行われている。例えば、目的の遺伝子を標的細胞へ導入するためのベクターとして、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルスなどのウイルスベクターが開発されている。しかしながら、ウイルスベクターは、大量生産の困難性、抗原性、毒性などの問題があるため、このような問題点が少ないリポソームベクターやペプチドキャリアーが注目を集めている。リポソームベクターは、その表面に抗体、タンパク質、糖鎖などの機能性分子を導入することにより、標的部位に対する指向性を向上させることができるという利点も有している。
【0003】
一方、リポソームベクターや物質を内包したリポソームベクターなどの高分子化合物またはその複合体を血中に投与する場合、血中から標的部位への到達が大きな課題となる。血管内皮細胞は多くの組織において細胞間に密着結合を形成しており、血管内皮細胞間の間隙は約0.4nmから約4nmと極めて狭いため、血中に投与された高分子化合物またはその複合体が、この間隙を通過して標的部位へ到達することは困難である。そこで、細胞の有するトランスサイトーシスなどの機能を利用して、高分子化合物またはその複合体を細胞内透過させ、標的部位へ到達させる手法が研究開発されている。
【0004】
このような研究開発においては、物質の細胞透過性、特に、高分子化合物またはその複合体の細胞透過性を評価する技術が重要である。従来の高分子化合物の細胞透過性を評価する方法として、従来用いられている細胞透過性評価装置であるMillicell(ミリポア社)、セルカルチャーインサートやマルチウェルインサート(いずれもBD Biosciences社)、あるいはトランスウェル(Corning社)などを用いる方法が行われている。これら従来用いられている細胞透過性評価装置はいずれも同様の構造を有しており、図2に示すように、従来の細胞透過性評価装置5は、ポリエチレンテレフタラート(PET)などのポリエステルやポリカーボネートなどから形成されたメンブレン8を基底部に備えるインサート9、インサート9によって上下仕切られた上層領域6と下層領域7、および下層領域7を囲むウェルプレート10からなり、メンブレン8は直径0.4μm、1.0μm、3.0μmあるいは8.0μmの微小な貫通孔を有している。従来の細胞透過性評価装置5を用いて高分子化合物などの細胞透過性を評価する場合は、上層領域6側においてメンブレン8を基材として細胞を単層培養した後、単層培養した細胞に試料を接触させる。試料が細胞透過性を有する場合、試料が細胞およびメンブレン8を透過して下層領域7へと移行するため、下層領域7において試料を検出することにより、試料の細胞透過性を評価することができる。
【0005】
さらに、上記の構成に加え、下層領域7に移行した物質を検出するセンサーを備えた装置(特許文献1)や、上層領域6から下層領域7に移行した物質を吸着する吸着剤を備えた装置(特許文献2)が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2006−505278号公報
【特許文献2】特開2009−5608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の細胞透過性評価装置5が備えるメンブレン8において、メンブレン8の有する微小な貫通孔の直径(孔径)が1.0μm以下の場合、リポソームなどの高分子化合物またはその複合体はメンブレン8をほとんど透過することができない。また、メンブレン8の孔径が3.0μm以上の場合、培養した細胞がメンブレン8の上層領域6側に単層を形成することができず、さらに、メンブレン8の孔内やメンブレン8の下層領域7側にまで及んでしまうため、従来の細胞透過性評価装置5を用いて高分子化合物またはその複合体の細胞透過性の評価を正確に行うことは困難である。
【0008】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、高分子化合物またはその複合体の細胞透過性を簡便かつより正確に評価する装置、および高分子化合物またはその複合体の細胞透過性を簡便かつより正確に評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ゼラチンを用いた電界紡糸法により作製された繊維で構成された透過性基材が高分子化合物またはその複合体を透過させること、その透過性基材の片面に密着結合した単層細胞を形成することができることを見出し、下記の各発明を完成した。
【0010】
(1)高分子化合物またはその複合体の細胞透過性を評価する装置であって、高分子化合物またはその複合体を投入する第1領域部と、この第1領域部に隣接されており当該第1領域部から透過される高分子化合物またはその複合体を収容する第2領域部と、前記第1領域部と前記第2領域部との境界上に配置された透過性基材とを有しており、前記透過性基材は、ゼラチンを用いた電界紡糸法により作製された繊維で構成されているとともに、前記第1領域部側の片面に密着結合した単層細胞を形成可能であって高分子化合物またはその複合体を透過可能に構成されている、前記装置。
【0011】
(2)ゼラチンを用いて電界紡糸法により作製した繊維の直径Dが500nm≦D≦1000nmであり、前記繊維間の距離Iが5μm≦I≦20μmである、(1)に記載の装置。
【0012】
(3)高分子化合物またはその複合体が脂質または脂質膜構造体である、(1)または(2)に記載の装置。
【0013】
(4)高分子化合物またはその複合体の細胞透過性を評価する方法であって、ゼラチンを用いた電界紡糸法により作製された繊維で構成されているとともに高分子化合物またはその複合体を透過可能に構成されている透過性基材の片面に密着結合した単層細胞を形成させる工程と、前記単層細胞に高分子化合物またはその複合体を接触させる工程と、前記単層細胞に高分子化合物またはその複合体を接触させて前記単層細胞と前記透過性基材とを透過した高分子化合物またはその複合体から細胞透過性を評価する工程とを有する、前記方法。
【0014】
(5)高分子化合物またはその複合体の細胞透過性を評価する方法であって、ゼラチンを用いた電界紡糸法により作製された繊維で構成されているとともに高分子化合物またはその複合体を透過可能に構成されている透過性基材の片面に高分子化合物またはその複合体を接触させて前記透過性基材を透過した高分子化合物またはその複合体を取得する工程と、前記透過性基材の片面に密着結合した単層細胞を形成させる工程と、前記単層細胞に高分子化合物またはその複合体を接触させて前記単層細胞および前記透過性基材を透過した高分子化合物またはその複合体を取得する工程と、取得した前記透過性基材を透過した高分子化合物またはその複合体と、取得した前記単層細胞および前記透過性基材を透過した高分子化合物またはその複合体とを比較して細胞透過性を評価する工程とを有する、前記方法。
【0015】
(6)ゼラチンを用いて電界紡糸法により作製した繊維の直径Dが500nm≦D≦1000nmであり、前記繊維間の距離Iが5μm≦I≦20μmである、(4)または(5)に記載の方法。
【0016】
(7)高分子化合物またはその複合体が脂質または脂質膜構造体である、(4)から(6)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来の細胞透過性評価装置では評価することができなかった高分子化合物またはその複合体の細胞透過性を簡便に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本実施形態における高分子化合物またはその複合体の細胞透過性評価装置1の基本構成を示す概念図である。
【図2】高分子化合物の細胞透過性を評価する際に従来用いられている、従来の細胞透過性評価装置5の態様を示す概念図である。
【図3】ゼラチンナノファイバーシートを電子顕微鏡で観察した図(写真)である。
【図4】本実施形態に係る細胞透過性評価装置1の透過性基材4および従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレン8における無細胞リポソーム透過率を示す図である。
【図5】本実施形態に係る細胞透過性評価装置1の透過性基材4において培養したMBEC4細胞層の断面図(写真)である。
【図6】本実施形態に係る細胞透過性評価装置1の透過性基材4において培養したMBEC4細胞のZO−1タンパク質および核を検出した図(写真)である。
【図7】本実施形態に係る細胞透過性評価装置1においてTER測定を行う方法の一態様を示す模式図である。
【図8】本実施形態に係る細胞透過性評価装置1の透過性基材4において培養したMBEC4細胞、従来の細胞透過性評価装置5のPET製のメンブレン8において培養したMBEC4細胞および従来の細胞透過性評価装置5のPET製のメンブレン8において培養したMFLN4細胞のTER測定結果を示す図である。
【図9】メンブレンの孔径がそれぞれ0.4μm、1.0μm、3.0μmおよび8.0μmの、従来の細胞透過性評価装置5のPET製のメンブレン8における無細胞リポソーム透過率を示す図である。図中、縦軸は無細胞リポソームの透過率(%)を示し、横軸は移行時間(時)を示す。
【図10】従来の細胞透過性評価装置5のPET製のメンブレン8(孔径0.4μm)において培養したMBEC4細胞のZO−1タンパク質を、メンブレン8上部からメンブレン8下部に至るまで、観察深度を2.0μmずつ変化させて観察した図(写真)である。
【図11】従来の細胞透過性評価装置5のPET製のメンブレン8(孔径1.0μm)において培養したMBEC4細胞のZO−1タンパク質を、メンブレン8上部からメンブレン8下部に至るまで、観察深度を2.0μmずつ変化させて観察した図(写真)である。
【図12】従来の細胞透過性評価装置5のPET製のメンブレン8(孔径8.0μm)において培養したMBEC4細胞のZO−1タンパク質を、メンブレン8上部からメンブレン8下部に至るまで、観察深度を2.0μmずつ変化させて観察した図(写真)である。
【図13】従来の細胞透過性評価装置5のPET製のメンブレン8(孔径8.0μm)において培養したMBEC4細胞のZO−1タンパク質および核を、メンブレン8上部からメンブレン8下部に至るまで観察深度を1.0μmずつ変化させて観察した図(写真)である。
【図14】ゼラチンコーティングしたPET製のメンブレン8およびコラーゲンコーティングしたPET製のメンブレン8(いずれもメンブレンの孔径は3.0μm)において培養したMBEC4細胞のZO−1タンパク質を、メンブレン8の上部、メンブレン8の内部、メンブレン8の下部において観察した図(写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る高分子化合物またはその複合体の細胞透過性評価装置およびその細胞透過性評価方法について詳細に説明する。
【0020】
まず、本発明に係る高分子化合物またはその複合体の細胞透過性評価装置の実施形態について、図面を用いて説明する。図1は、本実施形態における細胞透過性評価装置1の基本構成を説明する概念図である。図1に示すように、細胞透過性評価装置1は、主として、高分子化合物またはその複合体を投入する第1領域部2と、第1領域部2に隣接されており第1領域部2から透過される高分子化合物またはその複合体を収容する第2領域部3と、第1領域部2と第2領域部3との境界上に配置された透過性基材4とから構成されている。すなわち、第1領域部2と第2領域部3とは互いに隣接している。
【0021】
第1領域部2は、高分子化合物またはその複合体を投入する領域であり、投入された高分子化合物またはその複合体を一定時間、保持する構成を有していればよい。そのような構成としては、例えば、液体を保持することができる容器などの態様を挙げることができる。容器を構成する素材としては特に限定されず、耐水性、耐食性、耐薬品性などに優れた素材が好ましいが、そのような素材としては、例えば、ガラス、プラスチック、ステンレスなどを挙げることができる。
【0022】
本発明における高分子化合物としては、例えば、脂質、タンパク質、ペプチド、核酸、多糖類、プラスチック、シリコン、合成ゴムなどを挙げることができるが、脂質であることが好ましい。また、高分子化合物の複合体としては、例えば、脂質膜構造体、低分子化合物や高分子化合物を内包した脂質膜構造体、2分子のタンパク質が疎水性ドメインで結合した二量体タンパク質などを挙げることができる。脂質膜構造体としては、例えば、リポソーム、O/W型エマルション、W/O/W型エマルション、球状ミセル、ひも状ミセル、不定型の層状構造物などを挙げることができ、リポソームとしては、例えば、SUV(small unilamellar vesicle)、LUV(large unilamellar vesicle)、GUV(giant unilamellarvesicle)などの一枚膜リポソーム、多重膜リポソーム(MLV)、あるいはこれらに機能性分子を導入したもの、さらにはこれらに薬物、タンパク質、遺伝子などを内包させたものなどを挙げることができる。
【0023】
第1領域部2に高分子化合物またはその複合体を投入する方法としては、当業者が適宜選択可能な方法を用いることができる。そのような方法としては、例えば、高分子化合物またはその複合体をHEPES緩衝液などの緩衝液に溶解または懸濁させ、ピペットなどを用いてこの懸濁液を注入する方法などを挙げることができる。
【0024】
第2領域部3は、第1領域部2に投入されて、後述する形成された単層細胞および透過性基材4、あるいは透過性基材4を透過した高分子化合物またはその複合体を収容する領域であり、透過した高分子化合物またはその複合体を保持する構成を有していればよい。そのような構成としては、上述の第1領域部2と同様の態様を挙げることができる。
【0025】
透過性基材4は、ゼラチンを用いた電界紡糸法により作製された繊維で構成されている。電界紡糸法は、極細の繊維(ナノファイバー)を作製する方法のひとつであり、原料である高分子溶液を充填する注射シリンジを有するシリンジ針と繊維を回収する電極とを対面に配置し、注射シリンジに高分子溶液を充填した後、シリンジ針と電極との間に高い電圧を印加しながらシリンジポンプを用いて充填された高分子溶液をシリンジ針から押し出すことにより、シリンジ針から電界に沿って螺旋状に飛び出した繊維電極に集積する方法である。
【0026】
本発明において、ゼラチンを用いた電界紡糸法による繊維の作製は、当業者が適宜選択可能な器具や手法を組み合わせることにより行うことができ、注射シリンジ、シリンジポンプ、シリンジ針、高電圧発生器などを組み合わせて電界紡糸装置を作製し、これを用いて行ってもよく、市販の電界紡糸装置を用いて行ってもよい。また、原料のゼラチンの由来、ゼラチン溶液の調製に用いる溶媒の種類、ゼラチン溶液の濃度、シリンジ針の内径、ゼラチン溶液を押し出す速度、繊維を回収する電極の種類や形状、シリンジ針先端と繊維を回収する電極との距離、印加する電圧の大きさなどは、電界紡糸法による繊維の作製に用いる器具や手法、繊維の必要量、評価する高分子化合物またはその複合体の種類などに応じて適宜設定することができる。
【0027】
ゼラチンを用いて電界紡糸法により作製した繊維の直径および繊維間の距離は、適宜常法に従い測定することができ、例えば、電子顕微鏡を用いて測定することができる。本発明において、ゼラチンを用いて電界紡糸法により作製した繊維の直径Dの値や繊維間の距離Iの値は特に限定されないが、500nm≦D≦1000nm、あるいは5μm≦I≦20μmであることが好ましい。また、透過性基材の厚さTの値もまた、特に限定されないが、150μm≦T≦250μmであることが好ましい。
【0028】
透過性基材4は第1領域部2と第2領域部3との境界上に配置されるが、その態様は、第1領域部2と第2領域部3とを仕切るような態様でもよく、第1領域部2と第2領域部3との境界上の一部となるような態様でもよい。透過性基材4が第1領域部2と第2領域部3との境界上の一部にとなるような態様としては、例えば、ガラス、プラスチック、ステンレスなど、高分子化合物またはその複合体を透過させない素材で第1領域部2と第2領域部3とを仕切り、その一部を透過性基材4に置き換えるような態様を挙げることができる。
【0029】
透過性基材4は、高分子化合物またはその複合体を透過可能に構成されているが、本発明において、「高分子化合物またはその複合体を透過可能に構成」されているとは、高分子化合物またはその複合体の一部または全部が透過するように構成されていることをいう。
【0030】
透過性基材4は、さらに、第1領域部2側の片面に密着結合した単層細胞を形成可能に構成されている。ここで、「単層細胞」とは、細胞同士が重なり合わずに並ぶことにより1つの層を形成している細胞群のことをいう。また、「密着結合」とは、隣り合って並んだ細胞間の隙間に、オクルディン、クローディンなどの密着結合形成タンパク質が高密度に並ぶことで細胞間の隙間を覆い、物質の通過を防ぐことができる、細胞間の結合様式である。
【0031】
単層細胞を形成したか否かを確認する方法としては、例えば、培養した細胞の核をHoechst33342により染色した後、蛍光顕微鏡を用いて観察深度を変化させて画像を取得し、これらの画像をもとに構築した細胞層の断面図において、細胞層が一層を形成しているか否かを確認する方法の他、培養した細胞の細胞膜タンパク質であるZO−1タンパク質を免疫蛍光染色した後、共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察深度を変化させて観察し、透過性基材やメンブレンなどの培養基材の内部または下部(裏側)にあたる観察深度において蛍光が観察されるか否かを確認する方法を挙げることができる。
【0032】
また、密着結合を形成したか否かを確認する方法としては、例えば、密着結合マーカータンパク質であるZO−1タンパク質を免疫蛍光染色した後、蛍光顕微鏡を用いて確認する方法を挙げることができる他、培養した細胞について膜間電気抵抗(TER)測定を行うことにより確認する方法を挙げることができる。
【0033】
TER測定とは、細胞層を挟んで配置した電極間の電気抵抗を測定することにより、当該細胞層における密着結合形成状態を確認する方法である。この測定方法は、細胞間に密着結合が形成されている場合、細胞膜の有する非導電性により電気抵抗が高くなることに基づいている。本発明においてTER測定を行う場合、図7に示すように、上層側の領域(図1においては第1領域部2が、図2においては上層領域6がそれぞれ該当する)と下層側の領域(図1においては第2領域部3が、図2においては下層領域7がそれぞれ該当する)とにそれぞれ電極を配置し、電気抵抗を測定すればよい。
【0034】
本発明において、透過性基材の片面に密着結合した単層細胞を形成させる方法は、適宜、常法に従い行うことができる。そのような方法としては、例えば、透過性基材の片面に細胞懸濁液を接触させた状態で、適当な培養条件のもとでインキュベートする方法を挙げることができる。単層細胞を形成させるための細胞の培養条件は、用いる細胞の種類、培養液の種類、培養初期の細胞濃度、透過性基材の面積などに応じて適宜設定することができる。また、用いる細胞の種類は、密着結合が可能な細胞であれば特に限定されず、例えば、血管内皮細胞や皮膚上皮細胞などの上皮細胞を挙げることができる。
【0035】
透過性基材4の第1領域部2側に密着結合した単層細胞が形成されている場合、第1領域部2に投入された高分子化合物またはその複合体は、透過性基材4の片面に形成された単層細胞を透過した後、透過性基材4を透過して第2領域部3に収容される。
【0036】
なお、透過性基材4における高分子化合物またはその複合体の透過率を求める場合、例えば、第1領域部2に高分子化合物またはその複合体を投入し、一定時間置いた後、第2領域部3に存在する高分子化合物またはその複合体の量を測定し、投入した量に対する測定した量の割合を百分率で算出することにより求めることができる。
【0037】
次に、本発明に係る高分子化合物またはその複合体の細胞透過性評価方法は、高分子化合物またはその複合体の細胞透過性を評価する方法であって、
(i)ゼラチンを用いた電界紡糸法により作製された繊維で構成されているとともに高分子化合物またはその複合体を透過可能に構成されている透過性基材の片面に密着結合した単層細胞を形成させる工程(単層細胞形成工程)
(ii)前記単層細胞に高分子化合物またはその複合体を接触させる工程(試料接触工程)
(iii)前記単層細胞に高分子化合物またはその複合体を接触させて前記単層細胞と前記透過性基材とを透過した高分子化合物またはその複合体から細胞透過性を評価する工程(細胞透過性評価工程)
以上(i)〜(iii)の工程を有する。
【0038】
(ii)試料接触工程において、透過性基材において培養した単層細胞に高分子化合物またはその複合体を接触させる方法は、適宜、常法に従い行うことができる。そのような方法としては、例えば、細胞の培養液をKrebs緩衝液に交換した後、HEPES緩衝液に溶解または懸濁させた高分子化合物またはその複合体を、ピペットなどを用いて添加する方法などを挙げることができる。
【0039】
(iii)細胞透過性評価工程において細胞透過性を評価する方法としては、例えば、(ii)試料接触工程において単層細胞に接触させた高分子化合物またはその複合体の量と、その後、それら単層細胞および透過性基材を透過した高分子化合物またはその複合体の量とを比較する方法を挙げることができる。
【0040】
次に、本発明に係る高分子化合物またはその複合体の細胞透過性評価方法の異なる態様の一つは、高分子化合物またはその複合体の細胞透過性を評価する方法であって、
(iv)ゼラチンを用いた電界紡糸法により作製された繊維で構成されているとともに高分子化合物またはその複合体を透過可能に構成されている透過性基材の片面に高分子化合物またはその複合体を接触させて前記透過性基材を透過した高分子化合物またはその複合体を取得する工程(第1透過試料取得工程)
(v)前記透過性基材の片面に密着結合した単層細胞を形成させる工程(単層細胞形成工程)
(vi)前記単層細胞に高分子化合物またはその複合体を接触させて前記単層細胞および前記透過性基材を透過した高分子化合物またはその複合体を取得する工程(第2透過試料取得工程)
(vii)取得した前記透過性基材を透過した高分子化合物またはその複合体と、取得した前記単層細胞および前記透過性基材を透過した高分子化合物またはその複合体とを比較して細胞透過性を評価する工程(細胞透過性評価工程)
以上(iv)〜(vii)の工程を有する。
【0041】
(vii)細胞透過性評価工程において細胞透過性を評価する方法としては、例えば、(iv)第1透過試料取得工程において取得した高分子化合物またはその複合体の量を測定し、続いて、(vi)第2透過試料取得工程において取得した高分子化合物またはその複合体の量を測定した後、これら測定した量を比較する方法を挙げることができる。この場合、(iv)第1透過試料取得工程において取得した高分子化合物またはその複合体の量に対する(vi)第2透過試料取得工程において取得した高分子化合物またはその複合体の量の比が大であるほど、試料である高分子化合物またはその複合体の細胞透過性は大であると評価することができる。
【0042】
高分子化合物またはその複合体の量の測定は、適宜、当業者によって選択可能な方法に従って行うことができる。そのような方法としては、例えば、あらかじめ高分子化合物またはその複合体を放射性同位体(RI)、蛍光色素、あるいは検出可能な抗体により認識されるペプチドなどにより標識し、それぞれ、液体シンチレーションカウンター、実体顕微鏡、蛍光顕微鏡、免疫染色法などを用いて標識を検出して測定することができる。
【0043】
以下、本発明に係る高分子化合物またはその複合体の細胞透過性評価装置、および高分子化合物またはその複合体の細胞透過性評価方法について、実施例に基づいて説明する。なお、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。
【実施例】
【0044】
<実施例1>実験材料の作製と調製
(1)透過性基材の作製
ゼラチン(新田ゼラチン社;牛骨由来;分子量100000;等電点5)をヘキサフルオロイソプロパノール(和光純薬工業社)に7%(w/w)となるよう溶解することによりゼラチン溶液を調製し、本発明者が作製した電界紡糸装置の5mLの注射シリンジに充填した。注射シリンジには内径0.51mmのシリンジ針を接続し、繊維を回収する電極としてアルミホイルで覆った5cm×5cmの正方形の金属板を設置した。電極であるシリンジ針先端と金属板とを22cm離して配置し、これらの電極間に14kVの電圧を印加しながら注射シリンジに充填したゼラチン溶液を9mL/時間の速度で押し出し、金属板のアルミホイル上にゼラチン繊維の集積物を得た。得られたゼラチン繊維集積物を、160℃、24時間、真空乾燥器(真空乾燥装置DN−30S;佐藤真空株式会社)を用いて熱処理を行い、ゼラチンを熱脱水架橋させてゼラチンナノファイバーシートを得た。
【0045】
熱処理後、電子顕微鏡を用いてゼラチンナノファイバーシートを観察した結果を図3に示す。図3に示すように、ゼラチンナノファイバーシートは、ゼラチン繊維がランダムに絡み合ってシートを形成していることが確認された。
【0046】
また、ゼラチンナノファイバーシートの繊維の直径、繊維間の距離および厚さを、電子顕微鏡を用いて測定したところ、繊維の直径Dは500nm≦D≦1000nm、繊維間の距離Iは5μm≦I≦20μm、ゼラチンナノファイバーシートの厚さTは150μm≦T≦250μmであったことから、ゼラチンナノファイバーシートは透過性を有することが確認された。
【0047】
(2)細胞透過性評価装置の作製
従来の細胞透過性評価装置5{Millicell;ミリポア社、メンブレン材質;ポリエチレンテレフタラート(PET)製、メンブレン孔径;3.0μm、24ウェル}のインサートに設置されたPET製メンブレンを、カッターナイフを用いて切除した。続いて、本実施例(1)で作製したゼラチンナノファイバーシートを、PET製メンブレンを切除した部位にプラスチック用アロンアルファ(東亞合成社)を用いて接着することにより、PET製メンブレンに代えてゼラチンナノファイバーシートから構成された透過性基材4を有するインサートを作製した。このインサートを24ウェルプレートに設置することにより、PET製メンブレンに代えてゼラチンナノファイバーシートから構成された透過性基材4を有する細胞透過性評価装置1を作製した(図1)。
【0048】
(3)Krebs緩衝液の調製
滅菌水を溶媒として、以下の組成のKrebs緩衝液(pH7.3)を調製した。
【0049】
Krebs緩衝液の組成
KCl(和光純薬工業社) 4.8mmol/L
KH2PO4(和光純薬工業社) 1.0mmol/L
MgSO4(和光純薬工業社) 1.2mmol/L
2−[4−(2−Hydroxyethyl)−1−piperazinyl]ethanesulfonic acid(HEPES)(和光純薬工業社)
12.5mmol/L
CaCl2(和光純薬工業社) 1.5mmol/L
NaCl(ナカライテスク社) 120.0mmol/L
NaHCO3(和光純薬工業社) 23.8mmol/L
グルコース(和光純薬工業社) 5.0mmol/L
【0050】
(4)RI標識リポソームの調製
卵黄フォスファチジルコリン{L−α−Phosphatidylcholine, Egg(Powder);Avanti Polar Lipids社}とコレステロール{Cholesterol(Powder);Avanti Polar Lipids社}とを卵黄フォスファチジルコリン:コレステロール=7:3となるように混合して混合脂質粉末を調製した。続いて、調製した混合脂質粉末を、1nmol/μLとなるようにエタノールに溶解し、これをガラス製試験管に137.5μL入れ、放射性同位体(RI)である3H−cholesteryl hexadecyl ether(CHE)250万dpm〜500万dpmと、クロロホルム112.5μLとを添加して、短時間ボルテックス処理した後、常法に従い窒素ガス気流を用いてエタノール溶媒を除去した。続いて、250mLのエタノールを添加して脂質を溶解し、常法に従い窒素ガス気流を用いてエタノール溶媒の除去を再度行うことにより、RIで標識した脂質膜を調製した。HEPES(和光純薬工業社)を用いて常法に従い調製した10mmol/LのHEPES緩衝液(pH7.4)をこの脂質膜に250μL添加し、室温で15分間置いて水和させた後、ソニケーターを用いて30秒間ソニケーションを行うことにより、RI標識リポソームを調製した。
【0051】
(5)RI標識リポソームのサイズの確認
RIを添加せずに、本実施例(4)に記載の方法によりRI非標識リポソームを調製し、動的光散乱測定装置(Zetasizer Nano ZS;Malvern社)によりサイズを測定したところ、リポソームの直径は約100nmであった。このことから、本実施例(4)で調製したRI標識リポソームのサイズは、直径約100nmであることが明らかになった。
【0052】
<実施例2>細胞透過性評価装置1の透過性基材4における無細胞リポソーム透過率の確認
実施例1(2)で作製した細胞透過性評価装置1およびメンブレン孔径が異なる3種類の従来の細胞透過性評価装置5(Millicell;ミリポア社、メンブレン材質;PET製、24ウェル、メンブレン孔径;0.4μm、3.0μm、8.0μm)の上層側の領域に、実施例1(3)で調製したKrebs緩衝液を100μL/ウェル入れ、実施例1(4)で調製したRI標識リポソームを100μL(約100万〜200万dpm)/ウェル添加した。2時間後に下層側の領域からKrebs緩衝液を回収し、液体シンチレーションカウンターTRI−CARB 1600TR(PACKARD社)を用いて、回収したKrebs緩衝液に含まれるRI量を測定した。上層側の領域に添加したリポソームのRI量に対する、測定したRI量の割合を百分率で算出することにより、細胞透過性評価装置1の透過性基材4あるいは従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおける、細胞が培養されていない場合のリポソーム透過率(無細胞リポソーム透過率)とした。その結果を図4に示す。
【0053】
図4に示すように、無細胞リポソーム透過率は、細胞透過性評価装置1では約17.5%であったのに対し、メンブレン孔径が0.4μmの従来の細胞透過性評価装置5では約0.17%、メンブレン孔径3.0μmの従来の細胞透過性評価装置5では約12%、メンブレン孔径8.0μmの従来の細胞透過性評価装置5では約19%であった。
【0054】
以上の結果から、培養細胞が存在しない細胞透過性評価装置1の透過性基材4は、培養細胞が存在しない従来の細胞透過性評価装置5におけるメンブレン孔径8.0μmのPET製メンブレンと同程度に高い無細胞リポソーム透過率を有しており、約17.5%のリポソームが透過性基材4を透過することが確認された。
【0055】
<実施例3>細胞透過性評価装置1の透過性基材4において培養した細胞の状態確認
(1)細胞透過性評価装置1の透過性基材4および従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおける細胞の培養
国立大学法人東京大学分子細胞生物学研究所の鶴尾隆氏および内藤幹彦氏より供与されたマウス脳毛細血管内皮細胞由来のMBEC4細胞、および、血管内皮細胞の前駆細胞であって密着結合を形成しないマウス胎児肺由来血管内皮細胞{Mouse Fetal Lung Mesenchyme−4(MFLN4)細胞;Seven hills bioreagents社}をDulbecco’s Modified Eagle’s Medium (DMEM培地) に、それぞれ300000cell/mLとなるよう懸濁した。MBEC4細胞の懸濁液を、細胞透過性評価装置1および従来の細胞透過性評価装置5(Millicell;ミリポア社、メンブレン材質;PET製、メンブレン孔径;0.4μm、24ウェル)の上層側の領域に、それぞれ400μL/ウェルとなるように入れた。また、MFLN4細胞の懸濁液は、従来の細胞透過性評価装置5(Millicell;ミリポア社、メンブレン材質;PET製、メンブレン孔径;0.4μm、24ウェル)の上層側の領域に400μL/ウェルとなるように入れた。これらを5%CO2雰囲気下、37℃で3日間〜5日間、ゼラチンナノファイバーシート上またはPET製メンブレン上で静置培養した。
【0056】
(2)MBEC4細胞の、細胞透過性評価装置1の透過性基材4における存在部位の確認
核を染色する蛍光色素であるHoechst33342(DAIJINDO社)を1μg/mLとなるよう、本実施例(1)でMBEC4細胞を培養した細胞透過性評価装置1の上層側の領域に添加し、本実施例(1)に記載の培養条件にて、15分間培養した。続いて、EM−CCDカメラ(浜松ホトニクス社)および蛍光顕微鏡(TE2000;Nikon社)を用いて、観察深度を15μmずつ変化させてHoechst33342の蛍光を検出し、画像を取得した。その後、取得した画像に基づいて、透過性基材4における細胞層の断面図を構築した。その結果を図5に示す。
【0057】
図5に示すように、透過性基材4におけるMBEC4細胞層では、Hoechst33342の蛍光で示される核がほぼ一層となっていることが明らかになった。この結果から、細胞透過性評価装置1の透過性基材4においてMBEC4細胞を培養すると、単層細胞を形成できることが確認された。
【0058】
(3)細胞透過性評価装置1の透過性基材4において培養したMBEC4細胞の密着結合の確認
[3−1]ZO−1タンパク質の免疫染色による確認
本実施例(1)で細胞透過性評価装置1の透過性基材4において培養したMBEC4細胞を、透過性基材4ごと4%パラホルムアルデヒド/リン酸緩衝液(和光純薬工業社)に15分間浸漬して固定した後、一次抗体として密着結合マーカーであるZO−1タンパク質の抗体(Rabbit anti−ZO−1;invitrogen社)および二次抗体としてAlexa546で標識した抗ウサギ抗体(Goat anti−rabbit IgG;invitrogen社)を用いて、常法に従い免疫染色を行った。続いて1μg/mLとなるようHoechst33342(DAIJINDO社)を添加し、室温、遮光下にて15分間静置した後、PBSにより洗浄した。その後、EM−CCDカメラ(浜松ホトニクス社)および蛍光顕微鏡(TE2000;Nikon社)を用いてAlexa546およびHoechst33342の蛍光を検出した。その結果を図6に示す。
【0059】
図6に示すように、透過性基材4において培養したMBEC4細胞では、Hoechst33342の蛍光で示される核と核との間に、Alexa546の蛍光で示されるZO−1タンパク質が存在することが明らかになった。この結果から、細胞透過性評価装置1の透過性基材4において培養したMBEC4細胞は密着結合を形成することが確認された。
【0060】
[3−2]膜間電気抵抗(TER)の測定による確認
本実施例(1)でMBEC4細胞を培養した細胞透過性評価装置1、MBEC4細胞を培養した従来の細胞透過性評価装置5およびMFLN4細胞を培養した従来の細胞透過性評価装置5について、MILLICELL−ERS(ミリポア社)を用いて、上層側の領域および下層側の領域にそれぞれ電極を入れ、膜間電気抵抗(TER)を測定した。TER測定方法を図7に、測定結果を図8にそれぞれ示す。
【0061】
細胞透過性評価装置1の透過性基材4あるいは従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおいて、図7に示すような、培養された細胞間に密着結合が形成されている場合は、電気抵抗が発生するためTERの値は高くなる。測定の結果、図8に示すように、MFLN4細胞を培養した従来の細胞透過性評価装置5では、TERの値は約10Ω/cm2であったのに対し、MBEC4細胞を培養した従来の細胞透過性評価装置5では約210Ω/cm2、MBEC4細胞を培養した細胞透過性評価装置1では約230Ω/cm2の高い値がそれぞれ測定された。
【0062】
これらの結果から、細胞透過性評価装置1の透過性基材4において培養したMBEC4細胞では、従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおいて培養したMBEC4細胞と同程度に電気抵抗性を有する、高密度の密着結合が形成されることが確認された。
【0063】
<比較例1>従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおける無細胞リポソーム透過率の確認
メンブレン孔径が異なる4種類の従来の細胞透過性評価装置5(Millicell;ミリポア社、メンブレン材質;PET製、24ウェル、メンブレン孔径;0.4μm、1.0μm、3.0μm、8.0μm)について、実施例2に記載の方法により、無細胞リポソーム透過率を算出した。ただし、移行時間(上層側の領域にリポソームを添加後、下層側の領域からKrebs緩衝液を回収するまでの時間)は、3時間、6時間および9時間とした。その結果を図9に示す。
【0064】
図9に示すように、メンブレン孔径0.4μmにおいて、いずれの移行時間の場合も、無細胞リポソーム透過率は約0.17%から約0.25%の間であり、メンブレン孔径1.0μmにおいては、移行時間が3時間および6時間の場合では、無細胞リポソーム透過率は約0.23%から約0.5%の間であり、移行時間が9時間の場合では、無細胞リポソーム透過率は約1.75%であった。一方、メンブレン孔径3.0μmにおいて、移行時間が3時間の場合では、無細胞リポソーム透過率は約12%であり、移行時間が6時間および9時間の場合では、無細胞リポソーム透過率は約17%から約18%の間であった。また、メンブレン孔径8.0μmにおいて、移行時間が3時間の場合では、無細胞リポソーム透過率は約19%であり、移行時間が6時間および9時間の場合では、無細胞リポソーム透過率は約9%から約10%の間であった。
【0065】
これらの結果から、培養細胞が存在しない従来の細胞透過性評価装置5においては、メンブレン孔径が3.0μmおよび8.0μmの場合、10%〜20%のリポソームがPET製メンブレンを透過することが確認された。一方、メンブレン孔径が0.4μmおよび1.0μmの場合は、ほとんどのリポソームがPET製メンブレンを透過しないことが確認された。
【0066】
<比較例2>PET製メンブレンにおけるMBEC4細胞の存在部位の確認
(1)従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおけるMBEC4細胞の培養
メンブレン孔径が異なる3種類の従来の細胞透過性評価装置5(Millicell;ミリポア社、メンブレン材質;PET製、24ウェル、メンブレン孔径;0.4μm、1.0μm、8.0μm)において、実施例3(1)に記載の方法によりMBEC4細胞を培養した。
【0067】
(2)PET製メンブレンにおけるMBEC4細胞の存在部位の確認
[2−1]サンプルの調製
本比較例(1)で培養したMBEC4細胞について、実施例3(3)[3−1]に記載の方法によりZO−1タンパク質の免疫染色を行った。メンブレン孔径が8.0μmの従来の細胞透過性評価装置5において培養したMBEC4細胞については、ZO−1タンパク質の免疫染色の後、Hoechst33342を用いた核の染色も行った。染色した細胞をメンブレンごと、グリセロールを90%(v/v)含むリン酸緩衝生理食塩水を用いてスライドガラスに封入することにより、サンプルを調製した。
【0068】
[2−2]ZO−1タンパク質の検出による細胞の存在部位の確認
本比較例(2)[2−1]で調製したサンプルについて、共焦点レーザー顕微鏡(LSM510−META;Zeiss社)を用いてAlexa546の蛍光を検出した。検出はメンブレンの上部からメンブレンの下部(裏側)に至るまで、観察深度を変化させて行い、観察深度が最も小さい場合の画像をAとし、観察深度が大きくなるに従って、B、C、D、E、F、G、H、I、J、K、L、M、N、Oとして、画像を取得した。メンブレン孔径が0.4μmの従来の細胞透過性評価装置5における観察結果を図10に、メンブレン孔径が1.0μmの従来の細胞透過性評価装置5における観察結果を図11に、メンブレン孔径が8.0μmの従来の細胞透過性評価装置5における観察結果を図12にそれぞれ示す。
【0069】
図10に示すように、メンブレン孔径が0.4μmの従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおいてMBEC4細胞を培養した場合、メンブレン上部を示すパネルC〜LにおいてAlexa546の蛍光が検出され、メンブレン内部を示すパネルM〜Oにおいては、Alexa546の蛍光は検出されなかった。この結果から、メンブレン孔径が0.4μmの従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおいてMBEC4細胞を培養すると、単層細胞を形成できることが確認された。
【0070】
また、図11に示すように、メンブレン孔径が1.0μmの従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおいてMBEC4細胞を培養した場合、メンブレン上部を示すパネルC〜Iのみならず、メンブレン内部を示すパネルJ〜Oにおいても、Alexa546の蛍光が検出された。この結果から、メンブレン孔径が1.0μmの従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおいてMBEC4細胞を培養すると、単層細胞は形成できず、MBEC4細胞がメンブレン上部のみならずメンブレンの孔内にまで存在するようになることが確認された。
【0071】
さらに、図12に示すように、メンブレン孔径が8.0μmの従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおいてMBEC4細胞を培養した場合、メンブレン上部を示すパネルC〜Gのみならず、メンブレン内部を示すパネルH〜Jおよびメンブレン下部を示すパネルK〜Oに至るまでAlexa546の蛍光が検出された。この結果から、メンブレン孔径が8.0μmの従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおいてMBEC4細胞を培養すると、単層細胞は形成できず、MBEC4細胞がメンブレン上部のみならずメンブレンの孔内やメンブレン下部にまで存在するようになることが確認された。
【0072】
[2−3]ZO−1タンパク質および核の検出による細胞の存在部位の確認
続いて、本比較例(2)[2−1]で調製した、メンブレン孔径が8.0μmの従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおいて培養したMBEC4細胞のサンプルについて、Alexa546の蛍光およびHoechst33342の蛍光を、本比較例(2)[2−2]に記載の方法により観察深度を変化させて検出し、AからNまでの画像を取得した。その結果を図13に示す。
【0073】
図13に示すように、メンブレン孔径が8.0μmの従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおいてMBEC4細胞を培養した場合、メンブレン上部を示すパネルB〜Hのみならず、メンブレン内部を示すパネルI〜NにおいてもAlexa546の蛍光およびHoechst33342の蛍光が検出された。特に、パネルI〜Nにおいてはメンブレンの孔内にAlexa546の蛍光およびHoechst33342の蛍光が検出され、メンブレンの孔に核が詰まっている様子が見られた。この結果から、メンブレン孔径が8.0μmの従来の細胞透過性評価装置5のPET製メンブレンにおいてMBEC4細胞を培養すると、単層細胞は形成できず、MBEC4細胞がメンブレン上部のみならずメンブレンの孔内にまで存在するようになることが確認された。
【0074】
<比較例3>ゼラチンあるいはコラーゲンでコーティングしたPET製メンブレンにおけるMBEC4細胞の存在部位の確認
(1)コーティングしたPET製メンブレンを有する従来の細胞透過性評価装置5の作製
[1−1]ゼラチンコーティングしたPET製メンブレンを有する従来の細胞透過性評価装置5の作製
リン酸緩衝生理食塩水にゼラチンパウダー(MP Biomedicals社)を2%(w/w)となるよう添加し、121℃にて10分間オートクレーブに供して、ゼラチン溶液を調製した。メンブレン孔径が3.0μmの従来の細胞透過性評価装置5(Millicell;ミリポア社、メンブレン材質;PET製、24ウェル)の上層側の領域に、メンブレン全体が覆われる程度の量のゼラチン溶液を注ぎ、37℃にて4時間インキュベートした後、ゼラチン溶液を除去した。
【0075】
[1−2]コラーゲンコーティングしたPET製メンブレンを有する従来の細胞透過性評価装置5の作製
pH3.0の希塩酸水溶液に0.3mg/mLとなるようコラーゲン(新田ゼラチン社)を添加し、コラーゲン溶液を調製した。メンブレン孔径が3.0μmの従来の細胞透過性評価装置5(Millicell;ミリポア社、メンブレン材質;PET製、24ウェル)の上層側の領域に、メンブレン全体が覆われる程度の量のコラーゲン溶液を注ぎ、室温にて1時間インキュベートした後、コラーゲン溶液を除去し、リン酸緩衝生理食塩水を用いてメンブレンを2度洗浄した。
【0076】
(2)従来の細胞透過性評価装置5のコーティングしたPET製メンブレンにおける細胞の培養
本比較例(1)[1−1]で作製したゼラチンコーティングしたPET製メンブレンを有する従来の細胞透過性評価装置5および本比較例(1)[1−2]で作製したコラーゲンコーティングしたPET製メンブレンを有する従来の細胞透過性評価装置5に代えて、細胞透過性評価装置1において、実施例3(1)に記載の方法によりMBEC4細胞を培養した。
【0077】
(3)コーティングしたPET製メンブレンにおけるMBEC4細胞の存在部位の確認
本比較例(2)で培養した細胞について、比較例2(2)[2−1]に記載の方法によりZO−1タンパク質の免疫染色を行った後、サンプルを調製した。その後、比較例2(2)[2−2]に記載の方法によりAlexa546の蛍光の検出を行った。観察深度はメンブレン上部、メンブレン内部、メンブレン下部の3段階に分けて、画像を取得した。その結果を図14に示す。
【0078】
図14に示すように、いずれのコーティングをしたPET製メンブレンにおいても、メンブレン上部の画像において全体的にAlexa546の蛍光が検出されるのみならず、メンブレン内部の画像において、メンブレンの孔内にAlexa546の蛍光が検出された。これらの結果から、ゼラチンコーティングしたPET製メンブレンまたはコラーゲンコーティングしたPET製メンブレンにおいてMBEC4細胞を培養すると、単層細胞を形成できず、MBEC4細胞がメンブレン上部のみならずメンブレンの孔内にまで存在するようになることが確認された。
【符号の説明】
【0079】
1 細胞透過性評価装置
2 第1領域部
3 第2領域部
4 透過性基材
5 従来の細胞透過性評価装置
6 上層領域
7 下層領域
8 メンブレン
9 インサート
10 ウェルプレート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子化合物またはその複合体の細胞透過性を評価する装置であって、
高分子化合物またはその複合体を投入する第1領域部と、
この第1領域部に隣接されており当該第1領域部から透過される高分子化合物またはその複合体を収容する第2領域部と、
前記第1領域部と前記第2領域部との境界上に配置された透過性基材とを有しており、
前記透過性基材は、ゼラチンを用いた電界紡糸法により作製された繊維で構成されているとともに、前記第1領域部側の片面に密着結合した単層細胞を形成可能であって高分子化合物またはその複合体を透過可能に構成されている、前記装置。
【請求項2】
ゼラチンを用いて電界紡糸法により作製した繊維の直径Dが500nm≦D≦1000nmであり、前記繊維間の距離Iが5μm≦I≦20μmである、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
高分子化合物またはその複合体が脂質または脂質膜構造体である、請求項1または請求項2に記載の装置。
【請求項4】
高分子化合物またはその複合体の細胞透過性を評価する方法であって、
ゼラチンを用いた電界紡糸法により作製された繊維で構成されているとともに高分子化合物またはその複合体を透過可能に構成されている透過性基材の片面に密着結合した単層細胞を形成させる工程と、
前記単層細胞に高分子化合物またはその複合体を接触させる工程と、
前記単層細胞に高分子化合物またはその複合体を接触させて前記単層細胞と前記透過性基材とを透過した高分子化合物またはその複合体から細胞透過性を評価する工程と
を有する、前記方法。
【請求項5】
高分子化合物またはその複合体の細胞透過性を評価する方法であって、
ゼラチンを用いた電界紡糸法により作製された繊維で構成されているとともに高分子化合物またはその複合体を透過可能に構成されている透過性基材の片面に高分子化合物またはその複合体を接触させて前記透過性基材を透過した高分子化合物またはその複合体を取得する工程と、
前記透過性基材の片面に密着結合した単層細胞を形成させる工程と、
前記単層細胞に高分子化合物またはその複合体を接触させて前記単層細胞および前記透過性基材を透過した高分子化合物またはその複合体を取得する工程と、
取得した前記透過性基材を透過した高分子化合物またはその複合体と、取得した前記単層細胞および前記透過性基材を透過した高分子化合物またはその複合体とを比較して細胞透過性を評価する工程と
を有する、前記方法。
【請求項6】
ゼラチンを用いて電界紡糸法により作製した繊維の直径Dが500nm≦D≦1000nmであり、前記繊維間の距離Iが5μm≦I≦20μmである、請求項4または請求項5に記載の方法。
【請求項7】
高分子化合物またはその複合体が脂質または脂質膜構造体である、請求項4から請求項6のいずれかに記載の方法。
【請求項1】
高分子化合物またはその複合体の細胞透過性を評価する装置であって、
高分子化合物またはその複合体を投入する第1領域部と、
この第1領域部に隣接されており当該第1領域部から透過される高分子化合物またはその複合体を収容する第2領域部と、
前記第1領域部と前記第2領域部との境界上に配置された透過性基材とを有しており、
前記透過性基材は、ゼラチンを用いた電界紡糸法により作製された繊維で構成されているとともに、前記第1領域部側の片面に密着結合した単層細胞を形成可能であって高分子化合物またはその複合体を透過可能に構成されている、前記装置。
【請求項2】
ゼラチンを用いて電界紡糸法により作製した繊維の直径Dが500nm≦D≦1000nmであり、前記繊維間の距離Iが5μm≦I≦20μmである、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
高分子化合物またはその複合体が脂質または脂質膜構造体である、請求項1または請求項2に記載の装置。
【請求項4】
高分子化合物またはその複合体の細胞透過性を評価する方法であって、
ゼラチンを用いた電界紡糸法により作製された繊維で構成されているとともに高分子化合物またはその複合体を透過可能に構成されている透過性基材の片面に密着結合した単層細胞を形成させる工程と、
前記単層細胞に高分子化合物またはその複合体を接触させる工程と、
前記単層細胞に高分子化合物またはその複合体を接触させて前記単層細胞と前記透過性基材とを透過した高分子化合物またはその複合体から細胞透過性を評価する工程と
を有する、前記方法。
【請求項5】
高分子化合物またはその複合体の細胞透過性を評価する方法であって、
ゼラチンを用いた電界紡糸法により作製された繊維で構成されているとともに高分子化合物またはその複合体を透過可能に構成されている透過性基材の片面に高分子化合物またはその複合体を接触させて前記透過性基材を透過した高分子化合物またはその複合体を取得する工程と、
前記透過性基材の片面に密着結合した単層細胞を形成させる工程と、
前記単層細胞に高分子化合物またはその複合体を接触させて前記単層細胞および前記透過性基材を透過した高分子化合物またはその複合体を取得する工程と、
取得した前記透過性基材を透過した高分子化合物またはその複合体と、取得した前記単層細胞および前記透過性基材を透過した高分子化合物またはその複合体とを比較して細胞透過性を評価する工程と
を有する、前記方法。
【請求項6】
ゼラチンを用いて電界紡糸法により作製した繊維の直径Dが500nm≦D≦1000nmであり、前記繊維間の距離Iが5μm≦I≦20μmである、請求項4または請求項5に記載の方法。
【請求項7】
高分子化合物またはその複合体が脂質または脂質膜構造体である、請求項4から請求項6のいずれかに記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−115097(P2011−115097A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275877(P2009−275877)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】
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