説明

高分子化合物前駆体、高透明性ポリイミド前駆体、高分子化合物、これらを用いた樹脂組成物及び物品

【課題】π電子軌道を含む不飽和結合と単結合が交互に連続する部分を有するにもかかわらず、電磁波に対して、より短波長領域まで高い透過率を示す高分子化合物前駆体を提供する。
【解決手段】π電子軌道を含む不飽和結合と単結合が交互に連続する部分を有する、高分子化合物前駆体であって、分子内反応により最終生成物の高分子骨格を構成する繰り返し単位を形成する第1の官能基と第2の官能基を有し、分子内のπ電子軌道により形成される共役状態の少なくとも一部が、分子の立体構造により切断され、又は希薄となり、少なくとも436nm、405nm、365nm、248nm及び193nmの波長のうち1つの波長の電磁波に対する透過率を向上させた高分子化合物前駆体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外領域の電磁波に対して透明性に優れる高分子化合物前駆体に関し、特に、電磁波によるパターニング工程を経て形成される製品又は部材の材料(例えば、光学製品、光学部品の成形材料、絶縁材料、層形成材料又は接着剤など)として好適に利用できる高分子化合物前駆体、当該高分子化合物前駆体から誘導される高分子化合物、当該高分子化合物前駆体を含有する樹脂組成物、及び、当該高分子化合物前駆体、当該高分子化合物又は当該樹脂組成物を用いて作製した物品に関するものである。
好適には、本発明は、紫外領域の電磁波に対して透明性に優れるポリイミド前駆体に関し、特に、電磁波によるパターニング工程を経て形成される製品又は部材の材料(例えば、光学製品、光学部品の成形材料、絶縁材料、層形成材料又は接着剤など)として好適に利用することが出来ることに加えて、イミド化後の耐熱性と透明性に優れる高透明性ポリイミド前駆体に関し、さらには、当該高透明性ポリイミド前駆体から誘導される高透明性ポリイミド、当該高透明性ポリイミド前駆体を含有する樹脂組成物、及び、当該高透明性ポリイミド前駆体、当該高透明性ポリイミド又は当該樹脂組成物を用いて作製した物品にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子材料は、加工が容易、軽量などの特性から身の回りのさまざまな製品に用いられている。1955年に米国デュポン社で開発されたポリイミドは、耐熱性に優れることから航空宇宙分野などへの適用が検討されるなど、開発が進められてきた。以後、多くの研究者によって詳細な検討がなされ、耐熱性、寸法安定性、絶縁特性といった性能が有機物の中でもトップクラスの性能を示すことが明らかとなり、航空宇宙分野にとどまらず、電子部品の絶縁材料等への適用が進められた。現在では、半導体素子の中のチップコーティング膜や、フレキシブルプリント配線板の基材などとしてさかんに利用されてきている。
また、近年、ポリイミドの有する課題を解決する為に、類似の加工工程を有し、低吸水性で低誘電率を示すポリベンゾオキサゾールや、基板との密着性に優れるポリベンゾイミダゾール等も精力的に研究されている。
【0003】
ポリイミドは、ジアミンと酸二無水物から合成される高分子である。ジアミンと酸二無水物を溶液中で反応させることで、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸(ポリアミック酸)となり、その後、脱水閉環反応を経てポリイミドとなる。一般に、ポリイミドは溶媒への溶解性に乏しく加工が困難なため、前駆体のポリアミド酸の状態で所望の形状にし、その後、加熱を行うことでポリイミドとする場合が多い。ポリアミド酸は熱や水に対し不安定な場合が多く、保存安定性がよくない。この点を考慮し、分子構造に溶解性に優れた骨格を導入し、ポリイミドとした後に溶媒に溶解して成形又は塗布できるように改良が施されたポリイミドも開発されたが、これを用いる場合には前駆体方式に比べ耐薬品性や、基板との密着性に劣る傾向にある。そのため、目的に応じて前駆体を用いる方式と溶媒溶解性ポリイミドを用いる方式とが使い分けられている。
【0004】
また、技術の進歩に従いポリイミドを所望の形状にパターニングしたいとの要求も出てきた。その為、紫外線等の電磁波を用い、露光・現像等のプロセスを通してパターン形成できるポリイミドも開発された。ポリイミドをパターニングするためには、いくつかの手法が提案されている。そのひとつが、ポリイミド前駆体の状態でパターニングを行い、その後熱処理等によりイミド化を行い、ポリイミドのパターンを得る方法であり、もうひとつが、ポリイミド自身に有機物や金属等でレジストパターンを形成し、その開口部をヒドラジン、無機アルカリ、有機アルカリ等の溶液や有機極性溶媒、またはそれらの混合物で処理することによって、分解または溶出させることによりパターンを得る方法である。
前者は、溶媒溶解性に優れる前駆体を用いることで加工特性に優れ、後者は、高温の熱処理等が必要とされるイミド化のプロセスをパターン形成後に行う必要が無いという利点があり、それぞれの用途に応じて使い分けられている。
【0005】
20世紀後半から目覚しい発展を遂げてきた半導体分野において、現在、主に前駆体を利用するタイプのパターニング可能なポリイミドが用いられている。それは、シリコンウェハ上にポリイミドを形成するため、イミド化に必要な300℃〜400℃という高温の熱処理にも基板が耐えられることが、その理由のひとつとして挙げられる。
前駆体を利用するタイプのポリイミドのパターニングをする手段としても、種々の手法が提案されている。その代表的な手法は、以下の2つに大別される。
【0006】
(1) ポリイミド前駆体自身にはパターニング能力がなく、感光性樹脂層をその表面に形成し、その感光性樹脂のパターンによってポリイミド前駆体がパターニングされる手法。
(2) ポリイミド前駆体自身に感光性部位を結合や配位させて導入し、その作用によりパターン形成する手法、または、ポリイミド前駆体に感光性成分を混合し樹脂組成物とし、その感光性成分の作用でパターン形成する手法。さらには、感光性部位の導入と感光性成分の混合の両方を組み合わせた手法。
【0007】
上記(1)のグループに属する手法の代表的なものとして、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸がアルカリ溶液に可溶であることを利用し、その塗膜上にアルカリ現像可能なレジストを塗布し、所望の形状に電磁波を照射後、レジストの現像と同時に、現像によって現れたレジストの開口部から露出したポリアミド酸も現像液に溶出させパターンを形成した後、ポリアミド酸が不溶なアセトン等の有機溶媒で表面のレジスト層を剥離し、その後にイミド化を行い、ポリイミドパターンを得る手法がある。
【0008】
一方、上記(2)のグループに属する手法の代表的なものとして:
(a) ポリイミドの前駆体のポリアミド酸に、電磁波の露光前は溶解抑止剤として作用し、露光後は、カルボン酸を生成し溶解促進剤となる、ナフトキノンジアジド誘導体を混合し、露光部と未露光部の現像液に対する溶解速度のコントラストを大きくすることでパターン形成を行い、その後、イミド化を行い、ポリイミドパターンを得る手法;
(b) ポリイミドの前駆体のポリアミド酸に、電磁波の露光によりイミド化の触媒作用を示す塩基性物質となるニフェジピン誘導体等の化合物を混合し、露光後に、適度な温度で加熱することにより、露光部に発生した塩基性物質の作用で露光部は部分的にイミド化されるため、現像液に対する溶解性が低下し、露光部と未露光部の現像液に対する溶解速度のコントラストを大きくすることでパターン形成を行い、その後、完全にイミド化を行い、ポリイミドパターンを得る手法;
(c) ポリイミド前駆体としてラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する骨格を結合させたものを用い、そこに光ラジカル発生剤を混合することで露光部に架橋構造を形成して現像液に対する溶解性を低下させ、露光部と未露光部の現像液に対する溶解速度のコントラストを大きくすることでパターン形成を行い、その後、イミド化を行い、ポリイミドパターンを得る手法;
(d) ポリイミド前駆体のポリアミド酸と塩基性部位を有するラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する骨格を混合することで、両者をイオン結合させ、そこに光ラジカル発生剤を混合することで露光部に架橋構造を形成して現像液に対する溶解性を低下させ、露光部と未露光部の現像液に対する溶解速度のコントラストを大きくすることでパターン形成を行い、その後、イミド化を行い、ポリイミドパターンを得る手法;
及び、
(e) ポリイミドの前駆体のポリアミド酸に、光酸(または光塩基)発生剤と架橋剤を混合し、露光後、加熱することで露光によって発生した酸(または塩基)の作用によって架橋を進行させ、現像液に対する溶解性が低下させることで、露光部と未露光部の現像液に対する溶解速度のコントラストを大きくしパターン形成を行い、その後、イミド化を行い、ポリイミドパターンを得る手法、などの手法が提案されている。
【0009】
上記(1)のグループに属する手法は、プロセスが煩雑になるものの、用いるポリイミド前駆体の組成の自由度が大きく、また、感光性成分等を混合していないため最終的なポリイミドにはポリイミド以外の不純物を含まず、信頼性が高いという特徴がある。
一方、(2)のグループに属する手法では、ポリイミド前駆体(または、ポリイミド前駆体樹脂組成物)自身がパターン形成能を有するため、(1)のグループで用いたようなレジスト層が必要なく、プロセスが大幅に簡便になるという特徴があるが、ポリイミド前駆体自身が露光波長を十分に透過しないと、感光性成分に電磁波が届かず感度の低下や、パターンが形成できない等の問題が発生するため、露光波長に対し透過率の高い骨格を選ぶ必要がある。
より微細なパターンを形成したいという市場の要求に伴い、露光波長も436nmから405nm、365nmへと段階的に短波長化している。これらの手法に用いられるポリイミド前駆体は、その化学構造によって吸収波長が異なるが、一般に450nm付近から短波長側にかけては吸収を有する場合が多い。特に芳香族構造を多く有し、それらの一部、または、大部分が共役状態にあるものについては、その傾向が強い。また、それらの吸収を小さくする為に工夫されたものについても、400nm以下の波長に吸収を有する場合が多く、より微細な加工が可能である365nm以下の波長による露光に対応させる為、より短い波長に対する透過率を向上させるために検討がされてきた。
【0010】
特に、耐熱性が高く、低膨張率を示す芳香族骨格を有するポリイミド前駆体は、より長波長領域に吸収をもつ傾向がある。
ポリイミド前駆体の吸収の原因は、電荷の移動によるものと言われており、最近では、特にその分子内の電荷移動が着色に大きく関わっていると報告されている(非特許文献1)。 つまり、分子内の電荷移動をなくすことで、吸収をより短波長領域にシフトさせたポリイミド前駆体を作ることができる。この原理に基づき、これまでにポリイミド前駆体の吸収を短波長化させる手法として、大きく2つの手法が提案されている。
一つは、通常、芳香族骨格が多いポリイミド前駆体の骨格内に脂肪族構造、特に脂環構造を導入し、骨格内のπ電子の共役を断ち切ることで骨格内の電荷の移動を阻害し、吸収の短波長化を図るというものである。特に、原料であるジアミンに脂環骨格を導入することが効果的であるといわれている。(非特許文献1、特許文献1)
もう一つは、ポリイミド前駆体骨格内にフッ素を導入し、骨格内の電子状態を電荷移動しにくくすることで透明性を付与するものである。(特許文献2)
【0011】
2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を酸成分として用いたポリイミド前駆体に関しては、非特許文献2に、1968年アメリカのGoinらは2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4'-ジアミノジフェニルエーテルをジメチルアセトアミド中で反応させて得られたポリアミド酸を、ジエチルエーテルを用い再沈殿精製を行った後、再びジメチルアセトアミドに溶解させてできたポリアミド酸溶液をキャストし、300℃まで徐々に加熱することでポリイミドを得たことが記載されているが、ここにはポリイミドの熱分解温度が記載されているだけであり、それ以外の物性の詳細は記載されていない。
【0012】
また、特許文献3には、同じく2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と4,4'-ジアミノジフェニルエーテルを用いて合成したポリイミドを、液晶配向膜として利用する事が記載されているが、ここには液晶を配向する能力が記載されているだけであって、それ以外の物性については記載されていない。
特許文献4には、実施例に2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いたポリイミドが記載されているが、ここではポリイミドはポリマー重合容器へのポリマーの付着を防ぐ保護膜として用いられており、その保護膜を施した重合容器で製造されたポリマーの初期着色性について述べられているものの、ポリイミド前駆体そのものの物性について何ら述べられていない。
【0013】
特許文献5には、ポリイミドの成形体の製造方法が開示されており、原料の代表例として2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が記載されているが、化合物名の単なる列挙であり実際の合成例は記載されていないため、具体的な物性を知ることはできない。
特許文献6には、ポリイミド微粒子の製造方法が開示されており、ここにも原料の代表例として2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が記載されているが、化合物名の単なる列挙であり実際の合成例は記載されていないため、具体的な物性を知ることはできない。
【0014】
特許文献7には、ポリイミドとそれを用いて得られた粘着テープが開示されており、ここにも原料の代表例として2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が記載されているが、化合物名の単なる列挙であり実際の合成例は記載されていないため、具体的な物性を知ることはできない。
特許文献8には、光導電性高分子の製造方法が開示されており、ここにも原料の代表例として2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が記載されているが、化合物名の単なる列挙であり実施例としては記載されていないため、具体的な物性を知ることはできない。
【0015】
【特許文献1】特開平10-310639号公報
【特許文献2】特開平05-1148号公報
【特許文献3】特開昭56-52722号公報
【特許文献4】特開平6-41205号公報
【特許文献5】特開平6-329799号公報
【特許文献6】特開平11-140181号公報
【特許文献7】特開2002-60489号公報
【特許文献8】特開平3-275725号公報
【非特許文献1】Polymer Preprints, Japan 48 [5] 939 (1999)
【非特許文献2】POLYMER LETTERS Vol.6, p821-825 (1968)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
ポリイミド前駆体の透明性を向上させるために従来とられていた上記いずれの手法とも、それらの手法を採用することによって、最終的に得られるポリイミドの物性の低下を招いている。
前記第一の手法では、脂環式構造は、芳香族構造に比べ酸化されやすく、空気中で加熱すると酸化により着色をしてしまうという問題がある。その為、脂環式構造を導入したポリイミドは、不活性雰囲気下での加熱が推奨されている。また、脂環式構造を導入したポリイミドは、芳香族ポリイミドに比べ熱分解温度も低いため、耐熱性に劣る。さらに、線熱膨張係数が大きくなり、金属、金属酸化物あるいはシリコンウェハ等の熱膨張率の小さな物質と界面を形成する場合には、熱履歴がかかることによって反りの発生や密着不良などの原因となる。
【0017】
また、原料に脂環構造を有するジアミンを用いる場合には、芳香族ジアミンに比べ脂環構造のジアミンの方が塩基性が高いため、酸二無水物との重合反応の際に、生成したポリアミド酸のカルボン酸と塩を形成し、分子量を大きくすることを難しくする。その為、シリル化法(アミノ基をシリル化してから酸二無水物と重合する方法)などが提案されているが、合成の工程が1工程増えるためコスト増の原因となる。
【0018】
一方、前記第二の手法では、ポリイミドにフッ素を導入することで原料の価格が上昇しコストが高くなるという問題がある。また、フッ素の導入により界面の密着性が低下し、基材から剥がれやすい。また、耐溶剤性も低下し、ガラス転移温度も低下する。さらに、線熱膨張係数が大きくなることで、熱膨張率の小さな基材上へ形成した場合、基材の反りや密着性低下の原因となる。
【0019】
また、従来ポリイミド前駆体の1種であるポリアミド酸は、用いられているテトラカルボン酸二無水物が芳香族の場合、最終的にイミド結合を形成する2つのカルボニル基がπ共役状態にある同一の芳香族環に結合しており、ジアミンと反応しポリイミド前駆体となった状態において、アミド結合とカルボン酸が近傍に存在し、しかもそれらの芳香族環との結合位置が固定されている。酸無水物とアミンの反応は可逆反応である為、このような状態であると、より逆反応が進行しやすい。その為、長期の保存や加熱によって逆反応が進行し、分子鎖の切断が起こり分子量が低下したり、逆反応によって精製した反応性末端が種々の部位と反応することによるゲル化を引き起こす。その為、ポリアミド酸に代表されるポリイミド前駆体は低温保存、冷凍保存が推奨されており取り扱い上の問題があった。
【0020】
本発明は、上記実情を鑑みて成し遂げられたものであり、その高分子化合物前駆体の目的は、π電子軌道を含む不飽和結合と単結合が交互に連続する部分を有するにもかかわらず、電磁波に対して、より短波長領域まで高い透過率を示すことにある。
【0021】
本発明の感光性樹脂組成物の目的は、電磁波に対して短波長領域まで透過率が高く、且つ/又は、保存安定性が良好な上記高分子化合物前駆体を用いて、高感度であり、より短波長の電磁波によって露光が可能となることにある。
【0022】
本発明の別の目的は、電磁波に対して短波長領域まで透過率が高く、且つ/又は、保存安定性が良好な上記高分子化合物前駆体を用いて、該前駆体から誘導される高分子化合物から形成されるか又は該高分子化合物を含有する様々な製品や部材を提供することにある。
【0023】
本発明のポリイミド前駆体の目的は、最終的に得られるポリイミドが耐熱性等のポリイミドが本来有する特性を損なわずに、電磁波に対してより短波長領域に高い透過率を有することにある。
【0024】
本発明の感光性樹脂組成物の目的は、透明性の高い、及び/又は保存安定性が良好な上記ポリイミド前駆体を用いて、高感度であり、より短波長の電磁波によって露光が可能となることにある。
【0025】
本発明の別の目的は、電磁波に対して短波長領域でも高い透過率を有し、且つ/又は、保存安定性が良好な上記ポリイミド前駆体を用いて、該前駆体から誘導されるポリイミドから形成されるか又は該ポリイミドを含有する様々な製品や部材を提供することにある。
本発明は、これらの目的のうち少なくともひとつを解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記課題を解決するための本発明に係る高分子化合物前駆体は、π電子軌道を含む不飽和結合と単結合が交互に連続する部分を有する、それ自体が高分子である高分子化合物前駆体であって、
分子内反応により最終生成物の高分子骨格を構成する繰り返し単位を形成する第1の官能基と第2の官能基を有し、
分子内のπ電子軌道により形成される共役状態の少なくとも一部が、分子の立体構造により切断され、又は希薄となり、少なくとも436nm、405nm、365nm、248nm及び193nmの波長のうち1つの波長の電磁波に対する透過率が、共役状態が切断されず希薄ともならなかったと仮定した場合に予想される透過率よりも大きいことを特徴とする。
【0027】
π電子軌道を含む不飽和結合と単結合が交互に連続する部分を有する高分子は、通常であれば分子内のπ電子軌道により共役状態が形成されやすいが、本発明に係る高分子化合物前駆体においては、通常であれば形成されるであろう共役状態が、分子の立体構造により切断又は希薄にされるため、π電子軌道の安定化が阻害される。その結果、長波長領域の吸収がなくなり、または、小さくなり、電磁波に対してより短波長領域まで高い透過率を示す高分子化合物前駆体となる。
【0028】
本発明に係る高分子化合物前駆体の好ましい一形態においては、π電子軌道を含む不飽和結合と単結合が交互に連続する前記部分に互いに異なる第1の位置と第2の位置が存在し、該第1の位置に前記第1の官能基および該第2の位置に前記第2の官能基がそれぞれ直接又は他の原子を介して結合しており、該第1の位置と該第2の位置の間に形成される前記共役状態が、分子の立体構造により切断され、又は希薄となる高分子化合物前駆体が提供される。
同一のπ電子軌道を含む不飽和結合と単結合が交互に連続する部分に、第1の官能基と第2の官能基が存在する場合には、接近しあった一定の位置関係に固定されるので、反応条件を調節しない状態、例えば長期の保存や加熱によって副反応が進行し、高分子鎖の切断やゲル化を生じるなど、保存安定性が悪い場合がある。これに対して、分子内の第1の官能基が結合している第1の位置と、第2の官能基が結合している第2の位置の間に通常であれば形成されるであろう共役状態が、分子の立体構造により切断又は希薄にされる場合には、第1の官能基と第2の官能基が立体的に離れることから、保存時においては第1の官能基と第2の官能基との副反応の進行が阻止される。その結果、高分子化合物前駆体の保存安定性が向上する。そして、高分子化合物前駆体を最終生成物である高分子化合物に誘導したい時には、反応条件を調節することにより、本来必要とされる分子内反応のみ進行させることが出来る。
【0029】
本発明に係る高分子化合物前駆体の他の好ましい一形態においては、440nm以下の波長を有する放射線の照射により、高分子化合物前駆体それ自体が硬化するか、又は、高分子化合物前駆体それ自体の溶解性を変化させる作用を発現するか、又は、440nm以下の波長を有する電磁波に吸収を有する化合物の作用によって、高分子化合物前駆体それ自体が硬化するか、又は、高分子化合物前駆体それ自体の溶解性を変化させる作用を発現する部位を分子内に有する高分子化合物前駆体が提供される。
高分子化合物前駆体が、その分子内に上記したような反応性部位を有する場合には、放射線、特に短波長領域の電磁波によるパターニングを行うことが可能である。
【0030】
次に、本発明に係る高分子化合物前駆体樹脂組成物は、上記本発明に係る高分子化合物前駆体を含有することを特徴とする。
本発明に係る高分子化合物前駆体樹脂組成物の好ましい一形態においては、前記高分子化合物前駆体が、その分子内に440nm以下の波長を有する電磁波の照射によって、高分子化合物前駆体樹脂組成物を硬化させるか、高分子化合物前駆体樹脂組成物の溶解性を変化させる感光性部位を有する高分子化合物前駆体であるか、及び/又は、該感光性部位を有する感光性成分をさらに含有する高分子化合物前駆体樹脂組成物が提供される。
高分子化合物前駆体樹脂組成物が感光性部位を有する高分子化合物前駆体、及び/又は、該感光性部位を有する感光性成分を含有する場合には、放射線、特に短波長領域の電磁波によるパターニングを行うことが可能である。
【0031】
次に、本発明に係る高分子化合物は、上記本発明に係る高分子化合物前駆体を反応させて得られた高分子化合物であることを特徴とする。
さらに、本発明に係る高分子化合物樹脂組成物は、上記本発明に係る高分子化合物前駆体樹脂組成物を反応させて得られた高分子化合物樹脂組成物であることを特徴とする。
高分子化合物前駆体から得られた最終生成物である高分子化合物、及び、高分子化合物前駆体樹脂組成物から得られた最終生成物である高分子化合物樹脂組成物は、パターン形成材料(レジスト)、コーティング材、塗料、印刷インキ、接着剤、充填剤、電子材料、成形材料、レジスト材料、建築材料、3次元造形、フレキシブルディスプレー用フィルム、光学部材など、樹脂材料が用いられる公知の全ての分野・製品に利用できる。
本発明に係る高分子化合物及び高分子化合物樹脂組成物は、通常、前駆体だった段階と同様に最終生成物となった後も分子内の共役状態が切断され又は希薄となっているので、高い透明性を有する。そのため、特に、透明性が要求される分野・製品、例えば、塗料、印刷インキ、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、その他の光学部材又は建築材料を形成するのに適している。
【0032】
また、本発明に係る高透明性ポリイミド前駆体は、上記本発明に係る高分子化合物前駆体に属する好適なものの一つであり、下記式(1a)又は(1b)で表される繰り返し単位のいずれか、又は、両方を有することを特徴とする。
【0033】
【化1】

【0034】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子又は1価の有機基であり、それらは互いに結合していても良い。R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、又は1価の有機基であり、Xは、2価の有機基であり、R、R10はそれぞれ独立に、水素原子、又は1価の有機基である。同一分子内に存在する繰り返し単位間において同一符号で表される基同士は異なる原子又は構造であっても良い。)
【0035】
上記式(1a)又は式(1b)の繰り返し単位に含まれる骨格は、平面に配置しようとすると不安定であるため、当該骨格に含まれる酸二無水物由来のビフェニル構造のベンゼン環の相対的位置がねじれ、π結合の共役が立ち切られる。
本発明に係る高透明性ポリイミド前駆体は、このような分子構造の空間配置を有するため、ポリイミド前駆体分子鎖上のπ共役が阻止され、より短波長に吸収を有するポリイミド前駆体となる。また、これらのポリイミド前駆体から最終的に得られるポリイミドは芳香族ポリイミドゆえの耐熱性を有する。また、その構造にもよるが、多くのジアミンとの組み合わせにおいて400nm以上に吸収を有さず構造の選択の幅が広い。その結果、吸収波長に制限されることなく、低熱膨張や低吸湿、低誘電率や低誘電正接など、求める物性に応じて、骨格を選択できる。
また、最終的にイミド結合を形成するカルボニル基とアミド基が、π共役構造となっている同一の芳香族環に結合していない為、ポリイミド前駆体となった場合にそれらの間の距離が立体的に離れることから、従来のポリアミド酸等に比べ保存安定性が良好である。
【0036】
本発明に係る高透明性ポリイミド前駆体の他の好ましい一形態においては、440nm以下の波長を有する電磁波の照射によって、高透明性ポリイミド前駆体それ自体が硬化するか、又は、高透明性ポリイミド前駆体それ自体の溶解性を変化させる作用を発現するか、又は、440nm以下の波長を有する電磁波に吸収を有する化合物の作用によって、高透明性ポリイミド前駆体それ自体が硬化するか、又は、高透明性ポリイミド前駆体それ自体の溶解性を変化させる作用を発現する部位を、分子内に有する、高透明性ポリイミド前駆体が提供される。
高透明性ポリイミド前駆体が、その分子内に上記したような反応性部位を有する場合には、放射線、特に短波長領域の電磁波によるパターニングを行うことが可能である。
【0037】
次に、本発明に係るポリイミド前駆体樹脂組成物は、上記本発明に係る高透明性ポリイミド前駆体を含有することを特徴とする。
本発明に係るポリイミド前駆体樹脂組成物の好ましい一形態においては、前記高透明性ポリイミド前駆体が、その分子内に440nm以下の波長を有する放射線の照射によって、ポリイミド前駆体樹脂組成物を硬化させるか、ポリイミド前駆体樹脂組成物の溶解性を変化させる感光性部位を有する高透明性ポリイミド前駆体であるか、及び/又は、該感光性部位を有する感光性成分をさらに含有するポリイミド前駆体樹脂組成物が提供される。これらは、ポリイミド前駆体樹脂組成物中に単独で含有されても良いし、または2種以上を同じポリイミド前駆体樹脂組成物に含有させても良い。
ポリイミド前駆体樹脂組成物が感光性部位を有する高透明性ポリイミド前駆体、及び/又は、該感光性部位を有する感光性成分を含有する場合には、放射線、特に短波長領域の電磁波、更には400nm以下の波長の電磁波によるパターニングを行うことが可能である。
【0038】
次に、本発明に係るポリイミドは、上記本発明に係る高透明性ポリイミド前駆体を反応させて得られたポリイミドであることを特徴とする。
さらに、本発明に係るポリイミド樹脂組成物は、上記本発明に係るポリイミド前駆体樹脂組成物を反応させて得られたポリイミド樹脂組成物であることを特徴とする。
【0039】
高透明性ポリイミド前駆体から得られた最終生成物であるポリイミド、及び、ポリイミド前駆体樹脂組成物から得られた最終生成物である高透明性ポリイミドは、パターン形成材料(レジスト)、コーティング材、塗料、印刷インキ、接着剤、充填剤、電子材料、成形材料、レジスト材料、建築材料、3次元造形、フレキシブルディスプレー用フィルム、光学部材など、樹脂材料が用いられる公知の全ての分野・製品に利用できる。
【0040】
本発明に係るポリイミド及びポリイミド樹脂組成物は、主にパターン形成材料(レジスト)として用いられ、それによって形成されたパターンは、耐熱性や絶縁性を付与する永久膜として機能する。また、本発明に係るポリイミド及びポリイミド樹脂組成物は、前駆体だった段階と同様に最終生成物となった後も分子内の共役状態が切断され又は希薄となっているので、高い透明性を有する。
そのため、特に、耐熱性や絶縁性とともに透明性が要求される分野・製品、例えば、塗料、印刷インキ、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、その他の光学部材又は建築材料を形成するのに適している。
【発明の効果】
【0041】
以上に述べたように、本発明に係る高分子化合物前駆体は、π電子軌道を含む不飽和結合と単結合が交互に連続する部分を有するゆえに前駆体の分子内で形成されやすい共役状態を、分子の立体構造によって切断又は希薄にすることで、長波長領域の吸収がなくなり、または、小さくなり、電磁波に対してより短波長領域まで高い透過率を示す高分子化合物前駆体となる。
従って、本発明の高分子化合物前駆体に感光性部位を導入するか、又は、該高分子化合物前駆体と感光性成分を用いて樹脂組成物を調製し、それらを、高感度であり、より短波長の電磁波によって露光が可能な感光性樹脂材料として用いることができる。
このような手段によれば、分子内に他の化学構造や置換基を導入することによって光の吸収波長領域が短波長化する場合と比べて、最終生成物である高分子化合物が本来備えている有用な特性を低下させずに、優れた透明性が得られる。
【0042】
また、本発明に係る高透明性ポリイミド前駆体は、フッ素や脂環骨格を導入しなくても良好な透明性を示す。従って、本発明の高透明性ポリイミド前駆体に感光性部位を導入するか、又は、該高分子化合物前駆体と感光性成分を用いて樹脂組成物を調製し、高感度の感光性ポリイミド前駆体又は感光性ポリイミド前駆体樹脂組成物として用いることできる。
そのメカニズムから、反応するジアミンの種類によらず透明性を維持でき、従来のフッ素や脂環骨格を導入する方法では最終的にポリイミドとなったときに避けられなかった、耐熱性、寸法安定性等のポリイミド本来の物性が低下する問題や、コスト高となる問題を解消することができ、従来の芳香族ポリイミドと同等の耐熱性を有するポリイミドの塗膜、フィルム或いは成形品を得ることできる。
【0043】
また、上記本発明に係るポリイミド前駆体を含有する樹脂組成物は、高感度であり、それによって得られるポリイミドは、耐熱性、寸法安定性、絶縁性を有することから、ポリイミドが適用されている公知の全ての部材用のフィルムや塗膜として好適であり、例えば、半導体素子、光回路部品、電子部品、カラーフィルター等のディスプレー部材等の高耐熱性のフィルムや構造物、塗膜としての利用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下において本発明を詳しく説明する。発明者は、全く新しい考え方に基づきポリイミ
ドの分子設計を行い、高耐熱という特徴を有する芳香族ポリイミド、特に好ましくは全芳
香族ポリイミドの前駆体でありながら、フッ素を導入せずに高い透明性を有するポリイミド前駆体を発明するに至った。つまり、電磁波の吸収の原因となるポリイミド前駆体分子鎖上でのπ共役をひき起こさないようにする為に、異なったπ平面を有する芳香族環に結合するアミド結合とカルボン酸および、その誘導体によってイミド結合を形成するようなメカニズムを導入し、ポリイミド前駆体の分子鎖のπ電子の共役構造を、骨格の立体配座を制御することで断ち切るという考え方をポリイミド前駆体に適用した。
【0045】
さらに発明者は、上記の考え方はポリイミド前駆体に限らず、π電子軌道を含む不飽和結合と単結合が交互に連続する部分を有するゆえに分子内に共役状態が形成されやすい高分子化合物前駆体に広く適用できることも見出し、本発明に至った。
【0046】
上記考えに基づく本発明の高分子化合物前駆体は、π電子軌道を含む不飽和結合と単結合が交互に連続する部分を有する、それ自体が高分子である高分子化合物前駆体であって、
分子内反応により最終生成物の高分子骨格を構成する繰り返し単位を形成する第1の官能基と第2の官能基を有し、
分子内のπ電子軌道により形成される共役状態の少なくとも一部が、分子の立体構造により切断され、又は希薄となり、少なくとも436nm、405nm、365nm、248nm及び193nmの波長のうち1つの波長の電磁波に対する透過率が、共役状態が切断されず希薄ともならなかったと仮定した場合に予想される透過率よりも大きいことを特徴とするものである。
なお、本発明の高分子化合物前駆体は、0℃〜50℃の範囲で、分子内のπ電子軌道により形成される共役状態の少なくとも一部が、分子の立体構造により切断され、又は希薄となるものであり、通常20℃における、立体配座によって共役状態を見積もり、判断できる。
【0047】
本発明の高分子化合物前駆体は、π電子軌道を含む不飽和結合と単結合が交互に連続する部分を有するので、通常であれば分子内のπ電子軌道により共役状態が形成されやすく、電子軌道が安定化される為、長波長の電磁波に吸収を持ちやすい。
一般に不飽和結合が単結合を介して連結している場合にπ共役構造が見受けられる。その場合、単結合は不飽和結合間の相互作用により2重結合性を有する。単結合を介して連結されている不飽和結合のπ結合に関与する電子(π電子)は、共通のπ電子の軌道を有すると安定となる。その為、本来単結合であるべき結合上に存在するようになった電子も含めて、同一平面状に存在するようになる。
【0048】
この場合の不飽和結合とは、炭素原子間に形成されたものに限定されず、カルボニル基などのヘテロ原子を含むものなども含む。
さらに、広義にはπ共役構造を示すものとして、不飽和結合がアミノ基や、エーテル基等の非共有電子対を有する原子で構成されるような官能基で連結されているものも挙げられる。
これらの例も含め、これまで公知であるすべてのπ共役構造を有する構造に対して、本発明は適用可能である。
π共役構造の典型例としては、芳香族構造が挙げられる。本発明における芳香族構造とは、一般的な芳香族と定義される化学構造であり、その中にはベンゼンやナフタレンのように、その構造内に含まれる不飽和結合が環状に連結し、π共役し平面構造となった芳香族環状構造を含む。
【0049】
本発明においては、上記高分子化合物前駆体の分子内に存在するπ電子軌道により通常であれば形成されるはずの共役状態の少なくとも一部を、分子の立体構造により切断又は希薄にする。ここで、高分子化合物前駆体の平面的な一次構造式を描いたときに、π結合を含む2重結合とσ結合のみからなる単結合とが交互に並んでいる部分が、通常であれば共役状態が形成されるはずの部分である。
このように、通常であれば形成されるはずの共役状態の少なくとも一部を切断又は希薄にすることによって、高分子化合物前駆体の分子内に存在するπ電子軌道の安定化を阻害する。すなわち、π電子軌道の一体化による分子内での電荷移動が阻害される。
その結果、長波長領域の吸収がなくなり、または、小さくなり、電磁波に対してより短波長領域まで高い透過率を示す高分子化合物前駆体となる。
【0050】
本発明における立体構造とは、分子の立体配置及び立体配座の両方を含む。立体配置とは、不斉炭素原子に結合する原子や原子団が、その不斉炭素原子のまわりでとる空間的配列、又は、例えばシス−トランス異性体におけるように、分子中の動きにくい構造のまわりで、それに結合する原子や原子団のとる空間的配列を意味する。また、立体配座とは、分子中のある単結合を軸として、この結合で結ばれている2つの原子団が回転することにより実現する、分子中の諸原子の種々の空間配置を意味する。
【0051】
本発明で述べられる、π共役構造を切断、又は希薄にするとは、不飽和結合が単結合を介して連結し、通常共役構造となるものを、置換基の導入による立体障害等の作用でπ電子の軌道が相互作用できない、または、しにくくすることをいう。
具体的には、単結合の両端にある2つの不飽和結合のπ電子の軌道が、同一平面状にない状態のことをいい、一般にその平面同士の角度が0度から90度に近づくほど相互作用しにくくなり、90度となったとき、最も相互作用がしにくくなると考えられている。
2つのπ電子の軌道は、一般に同一平面状にあるときがもっとも相互作用しやすく安定であると思われ、2つのπ電子の軌道の角度が直行するときが相互作用が最も希薄で不安定であると思われる。安定な電子軌道は低エネルギーの電磁波、つまり長波長の電磁波によって励起されるようになる為、その部分の吸収が大きくなる。つまり、π電子の軌道の安定化を阻害する程度が大きければ大きいほど、本来の吸収波長よりも単波長側へ吸収波長がシフトする。
【0052】
ここで、立体障害の作用とは、分子の立体構造に起因して、隣接しあう2つ以上のπ電子軌道を安定化、すなわち一体化させるためにπ平面、すなわち共役状態を形成しようとする傾向またはドライビングフォースと、π電子軌道の安定化以外の原因によって立体配置の安定性を高めようとする傾向またはドライビングフォースとが、分子構造内の共通位置において競合し、結果として、π平面の形成を完全に阻止するか或いはπ平面を歪ませることを意味する。
【0053】
立体障害の原因としては、例えば、環状構造の歪みや比較的大きい置換基による空間的な障害が挙げられる。
高分子化合物の分子内において、共役状態が分子の立体構造により切断又は希薄にされるかどうかは、当該高分子化合物又はそれに類似するモデル化合物の分子軌道計算の結果から推測することが出来る。
例えば、後述する高透明性ポリイミド前駆体のモデル化合物に該当する2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニルは、2位および,2’位に導入された2つのメチル基によってベンゼン環の間にある単結合の自由回転が阻害されメチル基が導入されていない、4,4’−ジアミノビフェニルと比較して共役しにくくなっている。
【0054】
以上のように、高分子化合物前駆体の共役状態が切断又は希薄にされる結果、長波長領域の吸収がなくなり、または、小さくなり、電磁波に対してより短波長領域まで透過率を向上させることができる。
望ましくは、本発明の高分子化合物前駆体は、分子内のπ電子軌道により形成される共役状態の少なくとも一部が分子の立体構造により切断され、又は希薄となることにより、436nm、405nm、365nmのいずれか一つの波長の電磁波に対する透過率が、共役状態が切断されず希薄ともならなかったと仮定した場合に予想される透過率よりも大きいことが、一般的に感光性樹脂の露光等に利用される高圧水銀ランプの発光波長の感度が高くなる点から好ましい。
ここで、少なくとも436nm、405nm、365nm、248nm及び193nmの波長のうち1つの波長の電磁波に対する透過率が共役状態が切断されず希薄ともならなかったと仮定した場合に予想される透過率よりも大きくなったかどうかは、当該高分子化合物前駆体又はそれに類似するモデル化合物の共役状態が切断されていない立体配置を有する構造について、MM2やAM1、PM5といった分子力学的、分子軌道的計算によって推測される吸収波長領域及び/又は強度の概算値と、当該高分子化合物前駆体の実測値とを比較することで確認できる。なお、類似するモデル化合物としては、例えば、高分子化合物前駆体の繰り返し単位を取り出して、繰り返し単位の末端に水素を配置した構造が挙げられる。
【0055】
その他の手法としては、共役構造が連続する類似構造のモデル化合物が安定に存在する場合は、そのモデル化合物と、共役構造を切断又は希薄にした化合物の吸収波長を比較し、確認しても良い。例えば、化合物の骨格に導入された置換基の立体障害によって、共役安定化を抑制している場合は、類似構造としては、骨格が同じで置換基がより立体障害の小さい置換基(例えば水素など)に置換された構造などが挙げられる。
また、比較対象となる化合物が存在しない場合は、少なくともπ共役構造の切断、および/または、希薄になった状態が、分子力学的、分子軌道的計算結果の最安定構造であることが確認でき、且つ、当該高分子化合物前駆体は436nm、405nm、365nm、248nm及び193nmの波長のうち少なくとも1つの波長の電磁波に対して透過率が目安として厚み1μmのフィルムに成膜した時に、簡易的には厚み1μm〜5μm程度のフィルムに成膜した時に20%以上あることが確認できれば良い。すなわち、分子内のπ電子軌道により形成される共役状態の少なくとも一部が、分子の立体構造により切断され、又は希薄となる場合には、共役構造による電子状態の安定化が抑制されることで電子の軌道のエネルギー準位が上がる。その為、より大きなエネルギーを有する電磁波(波長の短い電磁波)しか吸収できなくなり、結果的に、その構造が有する吸収のうち、エネルギー準位の低い電子軌道に由来する長波長側の吸収がなくなる。それ故、π共役構造の切断、および/または、希薄になった状態は、共役状態が切断されず希薄ともならなかったと仮定した場合に比べ、通常は、より短い波長の電磁波まで透過することが可能、すなわち、光の吸収波長領域が短波長側にシフトすると考えられる。
【0056】
以上のように、本発明に係る高分子化合物前駆体は、分子内のπ電子軌道により形成される共役状態の少なくとも一部が、分子の立体構造により切断され、又は希薄となっているため、共役構造が連続している類似構造の化合物を透過する電磁波に比べ、より短い波長の電磁波まで透過することが可能である。言い換えれば、本発明の高分子化合物前駆体は、共役構造が連続している類似構造の化合物を透過する電磁波に比べ、ある一定の透過率を示す波長(例えば20%の透過率を示す電磁波)の波長が短くなる。電磁波は、波長が短いほど持っているエネルギーが強く、化合物によって吸収されやすくなる。その為、ある一定の透過率を示す波長の波長が短くなるということは、より多くの電磁波を透過することになる。従って、本発明の高分子化合物前駆体は、透明性が高くなる。
本発明によれば、分子内に他の化学構造やフッ素等の置換基を導入することによって電磁波の透過率を高める場合と比べて、高分子化合物前駆体から誘導される最終生成物である高分子化合物が本来備えている有用な特性を低下させずに、優れた感度が得られる。
【0057】
本発明によれば、高分子化合物前駆体の分子内にπ電子軌道を含む不飽和結合と単結合が交互に連続する部分が非常に多く含まれる場合でも、高分子化合物前駆体を厚み1μmのフィルムに成膜した時に、少なくとも436nm、405nm、365nm、248nm及び193nmの波長のうち1つの波長の電磁波に対する透過率を、20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、特に好ましくは70%以上とすることができる。高分子化合物前駆体は、厚み1μmのフィルムに成膜した時に、436nm、405nm、365nmのいずれの波長においても透過率が、20%以上、更に30%以上、より更に50%以上、特に70%以上であることが好ましい。
透過率は膜厚が厚いほど低くなるものであるため、本発明に係る高分子化合物前駆体の高透明性の効果は、膜厚が厚い場合に、より顕著に現れる。本発明に係る高分子化合物前駆体は、更に厚み2μm以上、具体的には3μm、5μm、10μmのフィルムに成膜した時であっても、少なくとも436nm、405nm、365nm、248nm及び193nmの波長のうち1つの波長の電磁波に対する透過率、望ましくは436nm、405nm、365nmの全ての波長の電磁波に対する透過率が、20%以上、更に30%以上、より更に50%以上であることが好ましい。
【0058】
π共役構造の典型例である芳香族構造が高分子化合物前駆体の分子内に豊富に含まれている場合には、各芳香族構造のπ共役連鎖が一体化して、さらに安定な共役状態を形成しやすい。本発明においては、このような高分子化合物前駆体に対しても非常に効果がある。
具体的には、芳香族構造が分子構造全体の50重量%以上を占める高分子化合物前駆体は、通常であれば分子内のπ電子軌道により共役状態が形成されやすいものの典型例であるが、本発明に係る高分子化合物は、芳香族構造が分子構造全体の50重量%以上を占める場合であっても、光の吸収波長領域を短波長化することができる。
【0059】
ここで、「芳香族構造が全体の50重量%以上を占める」とは、高分子中で、芳香族構造を形成する構成単位の重量が、高分子の全重量に占める割合が50%以上であることをいう。芳香族構造を形成する構成単位とは、芳香族構造を形成している、不飽和結合に関与するπ電子を有する原子とその原子に直接結合している水素原子、ハロゲン原子からなり、具体例を例示すると、CH−C−CHという化学構造を有するキシレンの場合、Cの部分が芳香族構造ということになる。また、CH−CCl−CHという化学構造を有する場合、CClの部分が芳香族構造ということになる。
芳香族構造が全体の50重量%以上を占めているかどうかを確認する手法は特に限定されないが、例えば、固体・液体のH−、及び13C−NMRスペクトル(核磁気共鳴スペクトル)あるいは、赤外分光スペクトル、ガスクロマトグラフィーといった手法を用いることができる。
【0060】
π電子軌道を含む不飽和結合と単結合が交互に連続する部分を、高分子骨格の一部として含んでいる場合には、当該分子内に長い分子鎖にわたって共役状態が形成されやすいことから、本発明を適用して吸収波長を短波長化することにより得られる利益がそれだけ大きくなる。
かかる観点から、本発明に属する好ましい態様の一つとしては、π電子軌道を含む不飽和結合と単結合が交互に連続する前記部分が、高分子化合物前駆体の高分子骨格を構成する2つ以上の繰り返し単位の連鎖構造を含み、該連鎖構造の途中で共役状態を切断又は希薄にした高分子化合物が挙げられる。
【0061】
また、高分子骨格の一部として多数の芳香族環を含んでいる場合には、当該分子内に共役状態が極めて形成されやすいことから、本発明を適用して透明性を向上させることにより得られる利益がそれだけ大きくなる。
かかる観点から、本発明に属する他の好ましい態様としては、高分子化合物前駆体の高分子骨格を構成する繰り返し単位の50モル%以上が、該高分子化合物前駆体の高分子骨格の一部となる芳香族環又は芳香族環を含む縮合環を含む繰り返し単位によって占められ、該高分子骨格の一部となる該芳香族環又は該縮合環の間の共役状態の少なくとも一部が、分子の立体構造により切断され、又は希薄となった高分子化合物前駆体が挙げられる。
この場合、前記高分子化合物前駆体の一部となる芳香族環又は芳香族環を含む縮合環を含む前記繰り返し単位の量に対する、共役状態を切断又は希薄にする前記分子の立体構造のモル比が、50%以上であることが好ましい。
【0062】
本発明の高分子化合物前駆体は、それ自体が高分子であり、分子内反応を引き起こして最終生成物の高分子骨格を構成する繰り返し単位を形成する反応性及び位置関係を有する第1の官能基と第2の官能基を有する。
このような第1の官能基及び第2の官能基としては、分子内閉環反応によって互いに結合しあって高分子骨格の一部となる環状構造を形成する官能基を挙げられる。
例えば、第1の官能基がアミド基であり、第2の官能基がカルボキシル基である場合には、ポリイミド骨格を形成し、第1の官能基がアミド基であり、第2の官能基がヒドロキシル基である場合には、ポリオキサゾール骨格を形成し、第1の官能基がアミド基であり、第2の官能基がアミノ基である場合には、ポリイミダゾール骨格を形成する。
ポリオキサゾール骨格の基本骨格であるオキサゾール骨格が形成される反応を下記式(5)に、また、ポリイミダゾール骨格の基本骨格であるイミダゾール骨格が形成される反応を下記式(6)に示す。
【0063】
【化2】

【0064】
これら、3種の骨格を形成する前駆体化合物は、分子内閉環反応に伴い、水分子やアルコール分子の離脱を伴う。
これら3種の化合物としては、主に用いられている耐熱性の必要とされる用途には、芳香族骨格を多く含むものを用いる。一方で、芳香族構造を多く含むことによって生じる共役構造によって、長波長領域まで吸収を有し、露光光源に対する透過率が低く感度低下を招いている。
【0065】
高分子化合物前駆体の保存安定性の観点から、π電子軌道を含む不飽和結合と単結合が交互に連続する部分に互いに異なる第1の位置と第2の位置が存在し、該第1の位置に前記第1の官能基および該第2の位置に前記第2の官能基がそれぞれ直接又は他の原子を介して結合しており、該第1の位置と該第2の位置の間に形成される前記共役状態が、分子の立体構造により切断され、又は希薄となる高分子化合物前駆体であることが好ましい。
同一のπ電子軌道を含む不飽和結合と単結合が交互に連続する部分に、第1の官能基と第2の官能基が存在する場合には、それらは同一平面状に存在し接近しあった一定の位置関係に固定されるので、反応条件を調節しない状態、例えば長期の保存や加熱によって副反応が進行し、高分子鎖の切断やゲル化を生じるなど、保存安定性が悪い場合がある。これに対して、分子内の第1の官能基が結合している第1の位置と、第2の官能基が結合している第2の位置の間に通常であれば形成されるであろう共役状態が、分子の立体構造により切断又は希薄にされる場合には、第1の官能基と第2の官能基が立体的に離れることから、保存時においては副反応の進行が阻止される。その結果、高分子化合物前駆体の保存安定性が向上する。そして、高分子化合物前駆体を最終生成物である高分子化合物に誘導したい時には、反応条件を調節することにより、本来必要とされる分子内反応のみ進行させることが出来る。
【0066】
一例として、π電子軌道を含む不飽和結合と単結合が交互に連続する部分が少なくとも2つの芳香族環を含んでおり、そのうちの第1の芳香族環上に前記第1の位置が存在し、第2の芳香族環上に前記第2の位置が存在し、該第1の芳香族環と該第2の芳香族環の間に形成される前記共役状態が、分子の立体構造により切断され、又は希薄となる高分子化合物前駆体が挙げられる。
より具体的な例として、高分子化合物前駆体が、異なるπ平面を有する芳香族環に直接又は他の原子を介して結合するカルボキシル基同士で無水物基を形成している酸無水物から誘導される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体である場合には、前駆体から酸無水物への逆反応が抑制されるので、保存安定性が向上する。
本発明に係る高分子化合物前駆体は、逆反応が進行しにくくなるように立体構造を制御することにより、良好な保存安定性を有する。具体的に保存安定性としては、高分子化合物前駆体が0.5重量%以上溶解する、実質的に水を含む良溶媒を用いた0.5重量%溶液を23℃で25時間保存した後の、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel permiation chromatography:GPC)によるポリスチレン換算の重量平均分子量の変化率が20%以下、更に10%以下であることが好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。更にまた、上記0.5重量%溶液を23℃で50時間、150時間、300時間保存した後のゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算の重量平均分子量の変化率が20%以下、更に10%以下であることが好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。ここで、重量平均分子量の変化率とは、保存前の重量平均分子量に対する、保存前と保存後の重量平均分子量の差(保存前と保存後の重量平均分子量の差/保存前の重量平均分子量)をいう。また、”実質的に水を含む”とは、上記良溶媒が空気中の水を含有しやすい性質の場合に脱水されていない状態を意味し、溶媒中の含水率が0.001重量%〜10重量%、更に0.005重量%〜1重量%程度である状態をいう。
【0067】
π電子軌道を含む不飽和結合と単結合が交互に連続する部分が、高分子化合物前駆体の高分子骨格を構成する2つ以上の繰り返し単位の連鎖構造を含む場合には、第1の官能基を有する第1の芳香族環と第2の官能基を有する第2の芳香族環とが異なる繰り返し単位に含まれ、該第1の芳香族環と該第2の芳香族環の間を連結している高分子骨格の途中で共役状態が分子の立体構造により切断され又は希薄となっていてもよい。
【0068】
また、π電子軌道を含む不飽和結合と単結合が交互に連続する部分が高分子化合物前駆体の高分子骨格を構成する同じ繰り返し単位内に含まれる場合には、第1の官能基を有する第1の芳香族環と第2の官能基を有する第2の芳香族環が両方とも同じ繰り返し単位内に含まれ、その繰り返し単位のいずれかの位置で共役状態が分子の立体構造により切断され又は希薄となっていてもよい。
この場合には、第1の官能基を有する第1の芳香族環と第2の官能基を有する第2の芳香族環を両方とも含む繰り返し単位が、前記高分子化合物前駆体の高分子骨格を構成する繰り返し単位の50モル%以上を占めていることが好ましい。
【0069】
以上に述べた本発明に係る高分子化合物前駆体は、そのままで、或いは、他の成分を混合して前駆体樹脂組成物を調製して、様々なパターン又は形状を有する塗膜、製品又は部材を形成するための樹脂材料として用いることができる。特に、本発明に係る高分子化合物前駆体は、電磁波の吸収をより短波長領域にシフトさせた為、長波長領域の電磁波の透過率が向上していることから、感光性樹脂として好適に用いられる。
【0070】
本発明の高分子化合物前駆体を感光性樹脂として用いる方法としては、高分子化合物前駆体の分子内に、440nm以下の波長を有する放射線の照射によって、高分子化合物前駆体それ自体を硬化させるか、又は、高分子化合物前駆体それ自体の溶解性を変化させる感光性部位を導入する方法がある。
また、他の方法としては、高分子化合物前駆体の分子内に、440nm以下の波長を有する電磁波に吸収を有する化合物の作用によって活性化され、高分子化合物前駆体それ自体が硬化するか、又は、高分子化合物前駆体それ自体の溶解性を変化させる作用を発現する反応性部位(すなわち、間接的な感光性部位)を導入する方法がある。
また、他の方法としては、上記したような感光性部位を導入していない高分子化合物前駆体と感光性部位を有する感光性成分を混合して、感光性の高分子化合物前駆体樹脂組成物を調製し、用いても良い。
さらに、感光性部位を導入した高分子化合物前駆体と、感光性成分を混合して、感光性の高分子化合物前駆体樹脂組成物を調製し、用いても良い。
【0071】
このような感光性の高分子化合物前駆体樹脂組成物の塗膜を所定の波長を有する放射線、特に電磁波により露光、および、必要に応じて所定の操作を行い、現像した後、加熱や触媒の作用により、高分子化合物前駆体が有する第1の官能基と第2の官能基を分子内反応させることによって、最終生成物である高分子化合物に転換すると、高分子化合物又は該高分子化合物を含有する樹脂組成物からなる所定パターン状の塗膜が完成する。
【0072】
以下において、本発明の高分子化合物前駆体の一例として、高透明性ポリイミド前駆体を詳しく説明する。以下、高透明性ポリイミド前駆体に関して説明される特徴、利点及びその他の内容は、特に矛盾しない限り、本発明に係る高分子化合物前駆体全般に共通する説明である。
【0073】
本発明の高透明性ポリイミド前駆体は、下記式(1a)又は(1b)で表される繰り返し単位のいずれか、又は、両方を有することを特徴とし、最終生成物として7員環ポリイミド構造を含むポリイミドを与える前駆体である。
【0074】
【化3】

【0075】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子又は1価の有機基であり、それらは互いに結合していても良い。R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、又は1価の有機基であり、Xは、2価の有機基であり、R、R10はそれぞれ独立に、水素原子、又は1価の有機基である。同一分子内に存在する繰り返し単位間において同一符号で表される基同士は異なる原子又は構造であっても良い。)
【0076】
ピロメリット酸二無水物由来のポリイミド前駆体に代表される芳香族5員環酸2無水物由来のポリイミド前駆体と、1,4,5,8,-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物由来のポリイミド前駆体に代表される芳香族6員環酸2無水物構造を有するポリイミド前駆体は、最終的にイミド結合を形成するカルボニル基が同一π平面状に配置するため、π電子の共役構造がポリイミド前駆体分子鎖上に広がりやすい。
3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に由来されるポリイミド前駆体も、分子内閉環反応可能なアミド基とカルボキシル基が、同じベンゼン環に結合している為、それら2種の置換基の位置が固定されており、逆反応が進行しやすい。
また、酸無水物由来の2つのベンゼン環を結ぶ単結合は自由回転が可能であり、それらがπ共役構造を形成することが可能である為、低波長領域の電磁波の透過率が低い場合が多い。
2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に由来されるポリイミド前駆体も、分子内閉環反応可能なアミド基とカルボキシル基は、同一のベンゼン環に結合しており、逆反応が進行しやすい。
また、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物に由来されるポリイミド前駆体は、酸無水物由来の2つの芳香環は立体的に共役しにくいが、その前駆体から誘導されるポリイミドは、5員環のイミド構造を有することから着色が大きく、さらに、分子鎖が屈曲性の構造である為、膨張率を低下させにくく、適用できる用途が限定される。
特に、酸成分として芳香族酸二無水物を用いるだけでなく、ジアミン成分も芳香族ジアミンを用いる全芳香族ポリイミドの場合には、共役構造がポリイミド分子鎖上の広い範囲に亘り広がりやすいので、着色現象を生じやすい。
【0077】
これに対して、式(1a)及び式(1b)の繰り返し単位は、2,2',6',6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物又はその芳香族環上に置換基を有する化合物から誘導される構造を有しており、テトラカルボン酸由来の2つの芳香族環が平面に配置しようとすると立体的に不安定となる。そのため、ポリイミド前駆体に含まれるビフェニル構造のベンゼン環の相対的位置がねじれ、π結合の共役が立ち切られる。
【0078】
図1に、式(1a)の骨格を有するモデル化合物の分子軌道計算の結果から推測される空間配置を示す。2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物は、ビフェニル骨格のベンゼン環同士を結ぶ結合が回転できることから、アミンと反応しポリイミド前駆体となると、立体障害により2つのベンゼン環が同一平面内に存在せず、ベンゼン環同士が互いに直行した立体配置を取ることがMM2分子軌道計算の結果から推測される。以下にモデル化合物とそのMM2計算によるコンフォメーションを示す。
本発明に係る高透明性ポリイミド前駆体は、このような分子構造の空間配置を有するため、最終的なイミド化物は芳香族ポリイミドゆえの耐熱性を有しながら、ポリイミド前駆体分子鎖上のπ共役が阻害され、吸収波長がより短波長化したポリイミド前駆体となる。
【0079】
また、本発明に係る高透明性ポリイミド前駆体は、逆反応が進行しにくい為、良好な保存安定性も示す。さらに、原料の2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物は、ピレンの酸化反応などの比較的簡単な合成手法により得ることができるため、安価に入手が可能である。
【0080】
2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いて製造したポリイミド前駆体は、従来知られていたが、その物性は詳細には知られておらず、特に透明性が良好である、保存安定性が良好であるという特性は過去において全く知られていなかった。
【0081】
本発明は、ポリイミド前駆体の透明性を高めるための新規な分子設計に基づいて、2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いて製造したポリイミド前駆体が、これまでの高透明性ポリイミド前駆体にないメカニズムにより透明性が良好であることを見出し、ポリイミド前駆体本来の性質と共に、その高い透明性を生かすことが出来る分野での好適な応用を示す。
【0082】
上記式(1a)又は式(1b)で表される繰り返し単位において、R〜Rの位置には、水素原子以外の置換基が導入されていてもよい。本発明におけるポリイミド前駆体は、式(1a)又は式(1b)の繰り返し単位が2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物由来の骨格を有していれば、透明性が良好となり、R〜Rに置換基が導入されても同様の効果が期待できる。
水素原子以外にR〜Rの位置に導入し得る1価の有機基としては、例えば、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、シアノ基、シリル基、シラノール基、アルコキシ基、ニトロ基、カルボキシル基、アセチル基、アセトキシ基、スルホン基、飽和又は不飽和アルキル基、飽和又は不飽和ハロゲン化アルキル基、又は、フェニル、ナフチル等の芳香族基、アリル基等が挙げられる。R〜Rは、互いに同一であっても異なっていても良い。R〜Rのうちの2つ又は3つ以上の基、特に、R〜Rのうちの2つ又は3つ、及び/又は、R〜Rのうちの2つ又は3つは、互いに結合して環状構造を形成していても良い。
【0083】
置換基R〜Rは、原料の状態で導入し、酸二無水物の状態で既に置換基が導入されたものを用いても良いし、ジアミンと反応させてポリイミドやポリアミド酸の状態で導入しても良い。また、置換基を導入することで吸収する光の波長を調整することが可能であり、置換基を導入することで所望の波長を吸収させるようにすることもできる。
【0084】
所望の波長に対して吸収波長をシフトさせる為に、どのような置換基を導入したら良いかという指針として、Interpretation of the Ultraviolet Spectra of Natural Products(A.I.Scott 1964)や、有機化合物のスペクトルによる同定法 第5版(R.M.Silverstein 1993)に記載の表を参考にすることができる。
【0085】
式(1a)又は式(1b)中のXは2価の有機基であり、その具体例としては、後述する各ジアミン成分に対応する2価の有機基、すなわち、ジアミン成分からポリイミド鎖の形成に関与する両末端アミノ基を取り除いた構造が挙げられる。なお、同じポリイミド鎖内に存在する各繰り返し単位間において、同一符号で表される基同士は異なる原子又は構造であっても良い。
式(1a)又は式(1b)中のRおよびRは、水素原子および/または、1価の有機基であり、その具体例としては、1価の有機基としては、例えば、水酸基、ハロゲン原子、メルカプト基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、シアノ基、シリル基、シラノール基、アルコキシ基、ニトロ基、カルボキシル基、アセチル基、アセトキシ基、スルホン基、飽和又は不飽和アルキル基、飽和又は不飽和ハロゲン化アルキル基、又は、フェニル、ナフチル等の芳香族基、アリル基、エチレン性不飽和結合含有基等が挙げられる。R〜Rは、互いに同一であっても異なっていても良く、各繰り返し単位ごとに複数種が混合していても良い。
エチレン性不飽和結合含有基とは、エチレン性不飽和結合を1つ以上有する置換基であり、具体的に例示すると、アリルオキシ基、2‐アクリロイルオキシエチルオキシ基、2‐メタクリロイルオキシプロピルオキシ基、2‐アクリロイルオキシエチルアミノ基、2‐メタクリロイルオキシエチルアミノ基、2‐アクリロイルオキシプロピルアミノ基、2‐ヒドロキシ‐3‐メタクリロイルオキシプロピルオキシ基、2‐ヒドロキシ‐3‐アクリロイルオキシプロピルオキシ基、2‐ヒドロキシ‐4‐ペンテニルオキシ基、2‐アクリロイルオキシエチル・ジメチルアンモニウム基、2‐メタクリロイルオキシプロピル・トリメチルアンモニウム基およびその誘導体が挙げられる。
、R10はそれぞれ独立に、水素原子、及び/又は1価の有機基である。その具体例としては、1価の有機基としては、例えば、水酸基、ハロゲン原子、メルカプト基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、シアノ基、シリル基、シラノール基、アルコキシ基、ニトロ基、カルボキシル基、アセチル基、アセトキシ基、スルホン基、飽和又は不飽和アルキル基、飽和又は不飽和ハロゲン化アルキル基、又は、フェニル、ナフチル等の芳香族基、アリル基、エチレン性不飽和結合含有基等が挙げられる。R〜Rは、互いに同一であっても異なっていても良く、各繰り返し単位ごとに複数種が混合していても良い。
【0086】
本発明に係る高透明性ポリイミド前駆体は、最終的に得られるポリイミドの耐熱性及び寸法安定性を優れたものとする観点から、酸二無水物由来の部分が芳香族構造を有し、さらにジアミン由来の部分も芳香族構造を含む全芳香族ポリイミド前駆体であることが好ましい。それゆえ、ジアミン成分由来の構造であるXも芳香族ジアミンから誘導される構造であることが好ましい。ここで、全芳香族ポリイミド前駆体とは、芳香族酸成分と芳香族アミン成分の共重合、又は、芳香族酸/アミノ成分の重合により得られるポリイミド前駆体である。また、芳香族酸成分とは、ポリイミド骨格を形成する4つの酸基が全て芳香族環上に置換している化合物であり、芳香族アミン成分とは、ポリイミド骨格を形成する2つのアミノ基が両方とも芳香族環上に置換している化合物であり、芳香族酸/アミノ成分とはポリイミド骨格を形成する酸基とアミノ基がいずれも芳香族環上に置換している化合物である。ただし、後述する原料の具体例から明らかなように、全ての酸基又はアミノ基が同じ芳香族環上に存在する必要はない。
【0087】
本発明の高透明性ポリイミド前駆体は、分子構造中に置換基を導入することで溶解性を向上させることもできる。この観点からは、上記置換基R〜Rは、炭素数1〜15の飽和及び不飽和アルキル基、炭素数1〜15の飽和及び不飽和アルコキシ基、ブロモ基、クロロ基、フルオロ基、ニトロ基、1〜3級アミノ基等が好ましい。また、これらの基が、上記2価の有機基Rに存在していても良い。
【0088】
本発明の高透明性ポリイミド前駆体は、最終的に得られるポリイミドの透明性・耐熱性・寸法安定性等の特性を向上させるという本発明の目的を達成できる範囲内であれば、式(1a)又は式(1b)以外の繰り返し単位を有していても良い。
例えば、本発明のポリイミド前駆体は、式(1a)又は式(1b)以外の構造を持つ繰り返し単位を含んでいてもよいし、アミド構造の繰り返し単位(ポリアミドの繰り返し単位)のようなイミド構造ではない繰り返し単位を含んでいても良い。
【0089】
式(1a)又は式(1b)以外の構造を持つ繰り返し単位としては、例えば、下記式(2)で表すものが挙げられる。
【0090】
【化4】

【0091】
(式中、R11、R12はそれぞれ独立に、水素原子、又は1価の有機基であり、R13、R14はそれぞれ独立に、水素原子、又は1価の有機基であり、Yは4価の有機基であり、Zは2価の有機基である。同一分子内に存在する繰り返し単位間において同一符号で表される基同士は異なる原子又は構造であっても良い。)
【0092】
式(1a)及び/又は式(1b)で表される繰り返し単位と、式(2)で表される繰り返し単位を含むポリイミドは、下記式(3)で表すことができる。なお、式(3)で表されるポリイミドは、式(1a)及び/又は式(1b)と式(2)以外の繰り返し単位を含んでいても良い。
【0093】
【化5】

【0094】
(上記式(3)において、各符号は式(1a)及び/又は式(1b)又は式(2)と同じである。同一分子内に存在する繰り返し単位間において同一符号で表される基同士は、異なる原子又は構造であっても良い。o、又はpの少なくともひとつは1以上の自然数であるという条件の下、o、pおよびqは0以上の自然数である。式(1a)、式(1b)及び式(2)の各単位は、ランダムな配列であっても良いし規則性を持った配列であっても良い。)
【0095】
式(1a)又は式(1b)以外のイミド構造は、2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物やその誘導体以外の酸二無水物を用いることによりポリイミド前駆体鎖内に導入される。
【0096】
本発明のポリイミド前駆体を製造する方法としては、従来公知の手法を適用することができる。例えば、(1)酸二無水物とジアミンから前駆体であるポリアミド酸を合成する手法;(2)酸2無水物に1価のアルコールやアミノ化合物、エポキシ化合物等を反応させて合成した、エステル酸やアミド酸モノマーのカルボン酸に、ジアミノ化合物やその誘導体を反応させてポリイミド前駆体を合成する手法などが挙げられるが、これに限定されない。
【0097】
先に述べた様に、ここで用いる酸二無水物は2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物だけでなく、目的に応じて予めR〜Rのいずれか一箇所以上に置換基が導入された誘導体を用いても良い。また、酸二無水物としては、2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体以外のものを併用しても良い。2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体、さらに、その他の酸二無水物は、ポリイミド前駆体の透明性を確保できる範囲内であれば2種以上を併用することができる。
2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と併用できる酸二無水物は、耐熱性の観点から芳香族酸二無水物が好ましいが、目的の物性に応じて、酸二無水物全体の50モル%、好ましくは30モル%を超えない範囲で2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物以外の酸二無水物を用いても良い。
【0098】
2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及び/又はその誘導体と併用可能な他の酸二無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,3−ビス〔(3,4−ジカルボキシ)ベンゾイル〕ベンゼン二無水物、1,4−ビス〔(3,4−ジカルボキシ)ベンゾイル〕ベンゼン二無水物、2,2−ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}プロパン二無水物、2,2−ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}プロパン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、4,4’−ビス〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕ビフェニル二無水物、4,4’−ビス〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕ビフェニル二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルフィド二無水物、ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}スルフィド二無水物、2,2−ビス{4−〔4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルプロパン二無水物、2,2−ビス{4−〔3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ〕フェニル}−1,1,1,3,3,3−プロパン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ぺリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらは単独あるいは2種以上混合して用いられる。そして、特に好ましく用いられるテトラカルボン酸二無水物としてピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物が挙げられる。
【0099】
併用する酸二無水物としてフッ素が導入された酸二無水物や、脂環骨格を有する酸二無水物を用いると、透明性をそれほど損なわずに溶解性や最終的に得られるポリイミドの熱膨張率等の物性を調整することが可能である。また、ピロメリット酸無水物や、3,3’、4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸2無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物などの剛直な酸二無水物を用いると、最終的に得られるポリイミドの線熱膨張係数が小さくなるが、透明性の向上を阻害する傾向があるので、目的に応じて共重合割合に注意しながら併用してもよい。
【0100】
一方、アミン成分も、1種類のジアミン単独で、または2種類以上のジアミンを併用して用いることができる。用いられるジアミン成分は限定されるわけではないが、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ジ(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)プロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ジ(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,1−ジ(3−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ジ(4−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1−(3−アミノフェニル)−1−(4−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゾニトリル、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ピリジン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、
【0101】
ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、4,4’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(4−アミノーα,αージメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’−ビス[4−(4−アミノーα,αージメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、4,4’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ]ジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、6,6’−ビス(3−アミノフェノキシ)−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン、6,6’−ビス(4−アミノフェノキシ)−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビインダン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3−ビス(4−アミノブチル)テトラメチルジシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノブチル)ポリジメチルシロキサン、ビス(アミノメチル)エーテル、ビス(2−アミノエチル)エーテル、ビス(3−アミノプロピル)エーテル、ビス(2−アミノメトキシ)エチル]エーテル、ビス[2−(2−アミノエトキシ)エチル]エーテル、ビス[2−(3−アミノプロトキシ)エチル]エーテル、
【0102】
1,2−ビス(アミノメトキシ)エタン、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、1,2−ビス[2−(アミノメトキシ)エトキシ]エタン、1,2−ビス[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]エタン、エチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、1,3−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、1,4−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロへキシル)メタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、また、上記ジアミンの芳香族環上水素原子の一部若しくは全てをフルオロ基、メチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基、又はトリフルオロメトキシ基から選ばれた置換基で置換したジアミンも使用することができる。さらに目的に応じ、架橋点となるエチニル基、ベンゾシクロブテン−4’−イル基、ビニル基、アリル基、シアノ基、イソシアネート基、及びイソプロペニル基のいずれか1種又は2種以上を、上記ジアミンの芳香族環上水素原子の一部若しくは全てに置換基として導入しても使用することができる。
【0103】
ジアミンは、目的の物性によって選択することができ、p−フェニレンジアミンなどの剛直なジアミンを用いれば、この高透明性ポリイミド前駆体から誘導されるポリイミドは低膨張率となる。
剛直なジアミンとしては、同一の芳香環に2つアミノ基が結合しているジアミンとして、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、2、6−ジアミノナフタレン、2,7−ジアミノナフタレン、1,4―ジアミノアントラセンなどが挙げられる。
さらに、2つ以上の芳香族環が単結合により結合し、2つ以上のアミノ基がそれぞれ別々の芳香族環上に直接又は置換基の一部として結合しているジアミンが挙げられ、例えば、下記式(4)により表されるものがある。具体例としてには、ベンジジン等が挙げられる。
【0104】
【化6】

【0105】
(aは1以上の自然数、アミノ基はベンゼン環同士の結合に対して、メタ位または、パラ位に結合する。)
【0106】
さらに、上記式(4)において、他のベンゼン間との結合に関与せず、ベンゼン環上のアミノ基が置換していない位置に置換基を有するジアミンも用いることができる。これら置換基は、1価の有機基であるがそれらは互いに結合していてもよい。
具体例としては、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル等が挙げられる。
また、本発明のポリイミド前駆体、および、それより誘導されるポリイミドを光導波路、光回路部品として用いる場合には、芳香環の置換基としてフッ素を導入すると1μm以上の波長の電磁波に対しての透過率を向上させることができる。
【0107】
一方、ジアミンとして、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサンなどのシロキサン骨格を有するジアミンを用いると、本発明のポリイミド前駆体、および、それより誘導されるポリイミドは弾性率が低下し、ガラス転移温度を低下させることができる。
ここで、選択されるジアミンは耐熱性の観点より芳香族ジアミンが好ましいが、目的の物性に応じてジアミンの全体の60モル%、好ましくは40モル%を超えない範囲で、脂肪族ジアミンやシロキサン系ジアミン等の芳香族以外のジアミンを用いても良い。
【0108】
次に、本発明に係る高透明性ポリイミド前駆体の原料となる2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を合成する手法、及び、高透明性ポリイミド前駆体を合成する手法をこれより具体的に例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0109】
酸成分原料のなかで最も基本的な構造をもつ2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物は、ピレンの酸化反応により得ることができる。すなわち、先ず、ピレンをジクロロメタンに溶解させる。完全に溶解したら、アセトニトリルと水を加え、撹拌する。そこへ酸化剤の過よう素酸ナトリウムと触媒の3塩化ルテニウムを加え、室温で10〜30時間撹拌する。反応終了後、沈殿物を濾過し、その沈殿物をアセトンで抽出、濾過する。抽出したアセトンを濃縮し乾燥させた後、ジクロロメタンで4〜10時間還流を行う。それを濾過し得られた白い固体が、2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の前駆体である2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸である。こうして得られた2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸を無水酢酸で3時間還流後、溶媒を留去し、得られた固形物を0.8mmHg(106.4Pa)の圧力で230℃の条件で昇華精製することで、目的物である2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を得ることができる。
【0110】
次に、酸成分として上記2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、及び、アミン成分として4,4'-ジアミノジフェニルエーテルを用いてポリイミド前駆体を合成する例を述べる。先ず、4,4'-ジアミノジフェニルエーテルを溶解させたN−メチルピロリドンなどの有機極性溶媒を冷却しながら、反応液の液温が上昇しないように等モルの2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を徐々に加え撹拌する。2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物は、アミノ化合物と反応すると、ピロメリット酸2無水物や、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物などよりも強く発熱する。これは、2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物の反応性が良好である為、反応の進行が早い為であると推測される。その為、酸無水物基が水分とも容易に反応し、ジカルボン酸となってしまうので高分子量のポリイミド前駆体を得るには脱水状態で反応を行うことが好ましい。
反応溶液の温度は、溶液の凝固点以上の温度において低ければ低いほど高分子量体が得られるが、反応中に80℃以上にならないことが好ましく、40℃以上にならないことが特に好ましい。また、分子量10000以上の高分子量体を得るには10℃以下を維持することが好ましい。
冷却下1〜20時間程度撹拌した後、撹拌した脱水されたジエチルエーテルに反応液を滴下し再沈殿し、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を得る。そのポリアミド酸を再びN−メチルピロリドン等の有機極性溶媒に溶解し、ガラスなどの基板上に塗布乾燥し、ポリアミド酸の塗膜を成形できる。また、それを加熱することでポリイミドの塗膜が得られる。
【0111】
また、加熱脱水のかわりに化学的イミド化を行う場合には、脱水触媒としてピリジンやβ―ピコリン酸等のアミン、ジシクロヘキシルカルボジイミドなどのカルボジイミド、無水酢酸等の酸無水物等、公知の化合物を用いても良い。酸無水物としては無水酢酸に限らず、プロピオン酸無水物、n−酪酸無水物、安息香酸無水物、トリフルオロ酢酸無水物等が挙げられるが特に限定されない。また、その際にピリジンやβ―ピコリン酸等の3級アミンを併用してもよい。
【0112】
このようにして合成される本発明のポリイミド前駆体は、最終的に得られるポリイミド本来の耐熱性及び寸法安定性を優れたものとするために、芳香族酸成分及び/又は芳香族アミン成分の共重合割合ができるだけ大きいことが好ましい。具体的には、イミド構造の繰り返し単位を構成する酸成分に占める芳香族酸成分の割合が50モル%以上、特に70モル%以上であることが好ましく、イミド構造の繰り返し単位を構成するアミン成分に占める芳香族アミン成分の割合が40モル%以上、特に60モル%以上であることが好ましく、全芳香族ポリイミドであることが特に好ましい。
【0113】
また、透明性を達成する観点から、本発明の高透明性ポリイミド前駆体は、高分子骨格に存在するポリイミド前駆体構造の繰り返し単位の50モル%以上、特に70モル%以上が式(1a)又は式(1b)で表される繰り返し単位であることが好ましい。また、耐熱性及び寸法安定性の観点から、式(1a)又は式(1b)で表される繰り返し単位は、全芳香族ポリイミド前駆体の繰り返し単位であることが好ましい。
【0114】
このようにして合成される本発明のポリイミド前駆体は、最終的に得られるポリイミドが、耐熱性や寸法安定性に優れるにもかかわらず、高い透明性を有することを特徴としており、少なくとも436nm,405nm、365nm、248nm、193nmの波長の電磁波のうち、1つの波長の電磁波に対する透過率が、厚み1μmのフィルムに成膜した時で20%以上、好ましくは30%、更に好ましくは50%以上、特に好ましくは70%以上である。本発明のポリイミド前駆体は、厚み1μmのフィルムに成膜した時に、436nm、405nm、365nmのいずれの波長においても透過率が、20%以上、更に30%以上、より更に50%以上、特に70%以上であることが好ましい。
本発明のポリイミド前駆体の高透明性の効果は、膜厚が厚い場合に、より顕著に現れる。本発明のポリイミド前駆体は、更に厚み2μm以上、具体的には3μm、5μm、10μmのフィルムに成膜した時であっても、少なくとも436nm、405nm、365nm、248nm及び193nmの波長のうち1つの波長の電磁波に対する透過率、望ましくは436nm、405nm、365nmの全ての波長の電磁波に対する透過率が、20%以上、更に30%以上、より更に50%以上であることが好ましい。
436nm、405nm、365nmは、一般的に感光性樹脂の露光に利用される高圧水銀ランプの発光波長であり、248nm、193nmはそれぞれKrF,ArFといったレーザーの発光波長である。これらの波長に対して透過率が高いということは、それだけ、光のロスが少なく、高感度の感光性樹脂組成物を得ることができる。
【0115】
また、本発明の高透明性ポリイミド前駆体から最終的に得られるポリイミドは、高い透明性を有することを特徴としており、1μm好ましくは2μmの厚みのフィルムに成膜した時に400nm〜800nmの波長領域の各波長において光の透過率が85%以上とすることができる。この時、最終生成物であるポリイミドは、可視光領域に透明性を要求されるフィルムなどの用途の場合、全光線透過率(JIS K7105)が90%以上であることが、好ましい。
【0116】
本発明のポリイミド前駆体の重量平均分子量は、その用途にもよるが、3,000〜1,000,000の範囲であることが好ましく、5,000〜500,000の範囲であることがさらに好ましく、10,000〜500,000の範囲であることがさらに好ましい。重量平均分子量が3,000以下であると、塗膜又はフィルムとした場合に十分な強度が得られにくい。また、加熱処理等を施しポリイミドとした際の膜の強度も低くなる。10,000以下であると着色の原因になるポリマー末端の数が相対的に多くなることから、得られるポリイミドが着色する場合がある。一方、1,000,000を超えると粘度が上昇し、溶解性も落ちてくるため、表面が平滑で膜厚が均一な塗膜又はフィルムが得られにくい。
ここで用いている分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の値のことをいい、ポリイミド前駆体そのものの分子量でも良いし、無水酢酸等で化学的イミド化処理を行った後のものでも良い。
本発明に係るポリイミド前駆体は、逆反応が進行しにくい為、良好な保存安定性を有する。具体的に保存安定性としては、実質的に水を含むN−メチルピロリドンを用いた0.5重量%溶液を23℃で25時間保存した後の、ゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算の重量平均分子量の変化率が20%以下、更に10%以下であることが好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。更にまた、上記0.5重量%溶液を23℃で50時間、150時間、300時間保存した後のゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算の重量平均分子量の変化率が20%以下、更に10%以下であることが好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。なお、”実質的に水を含む”とは、前述のようにN−メチルピロリドンが脱水されていない状態を意味し、N−メチルピロリドン中の含水率が0.001重量%〜10重量%、更に0.005重量%〜1重量%である状態をいう。
【0117】
本発明のポリイミド前駆体より得られるポリイミドは、耐熱性、寸法安定性、絶縁性等のポリイミド本来の特性も損なわれておらず、良好である。
例えば、本発明のポリイミド前駆体から得られるポリイミドの窒素中で測定した5%重量減少温度は、250℃以上が好ましく、300℃以上がさらに好ましい。特に、はんだリフローの工程を通るような電子部品等の用途に用いる場合は、5%重量減少温度が300℃以下であると、はんだリフローの工程で発生した分解ガスにより気泡等の不具合が発生する恐れがある。ここで、5%重量減少温度とは、熱重量分析装置を用いて重量減少を測定した時に、サンプルの重量が初期重量から5%減少した時点(換言すればサンプル重量が初期の95%となった時点)の温度である。同様に10%重量減少温度とはサンプル重量が初期重量から10%減少した時点の温度である。
【0118】
本発明のポリイミド前駆体から得られるポリイミドのガラス転移温度は、耐熱性の観点からは高ければ高いほど良いが、光導波路のように熱成形プロセスが考えられる用途においては、120℃〜380℃程度のガラス転移温度を示すことが好ましく、200℃〜380℃程度のガラス転移温度を示すことがさらに好ましい。ここで本発明におけるガラス転移温度は、動的粘弾性測定によって、tanδ(tanδ=損失弾性率(E’’)/貯蔵弾性率(E’))のピーク温度から求められるものである。動的粘弾性測定としては、例えば、粘弾性測定装置Solid Analyzer RSA II(Rheometric Scientific社製)によって、周波数3Hz、昇温速度5℃/minにより行うことができる。
【0119】
本発明のポリイミド前駆体から得られるポリイミドの寸法安定性の観点から線熱膨張係数は、70ppm以下が好ましく、60ppm以下が更に好ましく、40ppm以下がより更に好ましい。半導体素子の用いる場合等で、シリコンウェハ上形成する場合には、密着性、基板のそりの観点から20ppm以下がさらに好ましい。ここで本発明における線熱膨張係数は、熱機械的分析装置(例えばThermo Plus TMA8310(リガク社製)によって、昇温速度を10℃/min、評価サンプルの断面積当たりの加重が同じになるように引張り加重を1g/25000μm2として得られる値である。
【0120】
以上に述べたように、本発明に係るポリイミド前駆体から得られるポリイミドは、フッ素や脂環骨格を導入しなくても良好な透明性を示す。従って、従来、フッ素や脂環骨格の導入により避けられなかった耐熱性、寸法安定性等の最終的に得られるポリイミド本来の物性が低下する問題や、コスト高となる問題を解消することができ、従来の芳香族ポリイミドと同等の耐熱性を有するポリイミドの塗膜、フィルム或いは成形品を得ることできる。
【0121】
本発明に係る前駆体であるポリアミド酸は、そのまま製品や部材を作製するためのコーティングや成形プロセスに供してもよいが、これらポリアミド酸を、必要に応じて溶剤に溶解又は分散させ、さらに、光又は熱硬化性成分、本発明に係るポリイミド前駆体以外の非重合性バインダー樹脂、その他の成分を配合して、ポリイミド前駆体樹脂組成物を調製してもよい。
【0122】
ポリイミド前駆体樹脂組成物を溶解、分散又は希釈する溶剤としては各種の汎用溶剤を用いることが出来る。また、前駆体であるポリアミド酸を用いる場合には、ポリアミド酸の合成反応により得られた溶液をそのまま用い、そこに必要に応じて他の成分を混合しても良い。
【0123】
使用可能な汎用溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールモノエーテル類(いわゆるセロソルブ類);メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、前記グリコールモノエーテル類の酢酸エステル(例えば、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート)、メトキシプロピルアセテート、エトキシプロピルアセテート、修酸ジメチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル類;エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のアルコール類;塩化メチレン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン、1−クロロプロパン、1−クロロブタン、1−クロロペンタン、クロロベンゼン、ブロムベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;N−メチルピロリドンなどのピロリドン類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、その他の有機極性溶媒類等が挙げられ、更には、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、及び、その他の有機非極性溶媒類等も挙げられる。これらの溶媒は単独もしくは組み合わせて用いられる。
【0124】
光硬化性成分としては、エチレン性不飽和結合を1つ又は2つ以上有する化合物を用いることができ、例えば、アミド系モノマー、(メタ)アクリレートモノマー、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレート、及びヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート、スチレン等の芳香族ビニル化合物を挙げることができる。また、ポリイミド前駆体が、ポリアミック三等のカルボン酸成分を構造内に有する場合、3級アミノ基を有するエチレン性不飽和結合含有化合物を用いると、そうでない場合に比べてポリイミド前駆体のカルボン酸とイオン結合を形成し、感光性樹脂組成物としたときの露光部、未露光部の溶解速度のコントラストが大きくなる。ここで、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートのいずれであっても良いことを意味する。
このようなエチレン性不飽和結合を有する光硬化性化合物を用いる場合には、さらに光ラジカル発生剤を添加してもよい。光ラジカル発生剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル及びベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインとそのアルキルエーテル;アセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジエトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1,1-ジクロロアセトフェノン、1-ヒドロキシアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン及び2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノ-プロパン-1-オン等のアセトフェノン;2-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、2-ターシャリ-ブチルアントラキノン、1-クロロアントラキノン及び2-アミルアントラキノン等のアントラキノン;2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン及び2,4-ジイソピルチオキサントン等のチオキサントン;アセトフェノンジメチルケタール及びベンジルジメチルケタール等のケタール;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等のモノアシルホスフィンオキシドあるいはビスアシルホスフィンオキシド;ベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;並びにキサントン類等が挙げられる。
また、本発明のポリイミド前駆体にN-フェニルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、N,N-ジエチルアミノベンゼン、ジアザビシクロオクタン等の3級アミンを加えても、紫外線吸収によってポリイミド前駆体と電荷移動錯体を形成し、現像液への溶解性に変化を与えることができる。(「最新ポリイミド」P.340〜341 2002年 エヌ・ティー・エス社刊)
【0125】
その他に、本発明のポリイミド前駆体に感光性部位を導入して、ポリイミド前駆体それ自体に感光性を付与しても良い。
或いは、電磁波の吸収によって酸、塩基を発生させる感光性成分或いは、電磁波の吸収によって他の作用を発現する感光性成分を加え、本発明のポリイミド前駆体には、これらの感光性成分の作用により反応する間接的な感光性部位を導入することにより、樹脂組成物を調製しても良い。
光によって酸を発生させる化合物としては、1,2-ベンゾキノンジアジドあるいは1,2-ナフトキノンジアジド構造を有する感光性ジアゾキノン化合物があり、米国特許明細書第2,772,972号、第2,797,213号、第3,669,658号に提案されている。例えば、フェノール化合物にナフトキノンジアジドスルホン酸がエステルとして結合したもの、アミノ化合物にナフトキノンジアジドスルホン酸がアミドとして結合したものなどが挙げられ、上記ナフトキノンジアジドスルホン酸としては、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホン酸又は1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−4−スルホン酸が挙げられる。
具体的には、例えば、以下のものを例示できる。
【0126】
【化7】

【0127】
このような感光性ジアゾキノン化合物を用いる場合の配合量は、上記ポリイミド前駆体100重量部に対して0.5〜50重量部、更に1〜40重量部であることが好ましい。
0.5重量部を下回ると良好なパターンが得られず、40重量部を越えると得られたパターン又は加熱処理を加えたものの膜物性が低下する場合がある。具体的には、膜強度や耐熱性、柔軟性が低下する場合が多い。さらには、加熱処理後の膜厚の減少も顕著となる。
【0128】
また、トリアジンやその誘導体、スルホン酸オキシムエステル化合物、スルホン酸ヨードニウム塩、スルホン酸スルフォニウム塩等、公知の光酸発生剤を用いることができる。
光によって塩基を発生させる化合物としては、例えば2,6-ジメチル-3,5-ジシアノ-4-(2’-ニトロフェニル)-1,4-ジヒドロピリジン、2,6-ジメチル-3,5-ジアセチル-4-(2’-ニトロフェニル)-1,4-ジヒドロピリジン、2,6-ジメチル-3,5-ジアセチル-4-(2’,4’-ジニトロフェニル)-1,4-ジヒドロピリジンなどが例示できる。これらは、活性光線に曝されると分子構造が分子内転移を経てピリジン骨格を有する構造に変化して塩基性を呈するようになり、その後の150℃以上での加熱処理によって、ポリイミド前駆体のイミド化が進行し、溶解性が低下し、良好なネガ型パターン形成ができる。
【0129】
本発明に係る樹脂組成物に加工特性や各種機能性を付与するために、その他に様々な有機又は無機の低分子又は高分子化合物を配合してもよい。例えば、染料、界面活性剤、レベリング剤、可塑剤、微粒子、増感剤等を用いることができる。微粒子には、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン等の有機微粒子、コロイダルシリカ、カーボン、層状珪酸塩等の無機微粒子等が含まれ、それらは多孔質や中空構造であってもよい。また、その機能又は形態としては顔料、フィラー、繊維等がある。
【0130】
本発明に係るポリイミド前駆体樹脂組成物は、式(1a)及び/又は式(1b)で表されるポリイミド前駆体を、樹脂組成物の固形分全体に対し、通常、5〜99.9重量%の範囲内で含有させる。また、その他の任意成分の配合割合は、ポリイミド前駆体樹脂組成物の固形分全体に対し、0.1重量%〜95重量%の範囲が好ましい。0.1重量%未満だと、添加物を添加した効果が発揮されにくく、95重量%を越えると、樹脂組成物の特性が最終生成物に反映されにくい。なお、ポリイミド前駆体樹脂組成物の固形分とは溶剤以外の全成分であり、液状のモノマー成分も固形分に含まれる。
【0131】
本発明に係るポリイミド前駆体樹脂組成物は、パターン形成材料(レジスト)、コーティング材、塗料、印刷インキ、接着剤、充填剤、半導体素子、電子材料、光回路部品、成形材料、レジスト材料、建築材料、3次元造形、光学部材等、樹脂材料が用いられる公知の全ての分野・製品に利用できる。
【0132】
特に本発明に係るポリイミド前駆体樹脂組成物は、最終的に得られるポリイミドが耐熱性、寸法安定性、絶縁性等のポリイミド本来の特性を備えているにもかかわらず、吸収波長が短波長化していることから高感度であり、従来用いることができなかった短い波長の電磁波の適用が可能になる為、より微細なパターンを形成できる。
【実施例】
【0133】
(製造例1)
ピレン 15g(74mmol)を2L(リットル)のなすフラスコへ入れ、ジクロロメタン320mlに溶解させた。完全に溶解したら、アセトニトリル320mlと蒸留水480mlを加え、撹拌した。そこへ酸化剤の過よう素酸ナトリウム150gと触媒の3塩化ルテニウム650mgを加え、室温で22時間撹拌した。反応終了後、沈殿物を濾過し、その沈殿物をアセトンで抽出、濾過した。抽出したアセトンを濃縮し乾燥させた後、ジクロロメタンで4時間還流を行い、それを濾過し粉末を得た。その粉末が完全に白色になるまでアセトンによる抽出とジクロロメタンによる還流を繰り返し、2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸を10.2g得た。
得られた2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸を無水酢酸で3時間還流後、溶媒を留去し、得られた固形物を0.8mmHg(106.4Pa)の圧力で230℃の条件で昇華精製することで目的物である2,2',6,6'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(2,2',6,6'-BPDA)の白色粉末を得た。
【0134】
(実施例1)
4,4’−ジアミノジフェニルエーテル 1.20g(6mmol)を50mlの3つ口フラスコに投入し、5mlの脱水されたN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させ窒素気流下、氷浴で冷却しながら撹拌した。そこへ、少しずつ30分おきに、10等分した2,2',6,6'-BPDA 1.77g(6mmol)を添加し、添加終了後、氷浴中で5時間撹拌し、その溶液を、脱水されたジエチルエーテルによって再沈殿し、その沈殿物を室温で減圧下、17時間乾燥し、白色固体を2.81g(前駆体1)を得た。
【0135】
(実施例2)
50mlのナスフラスコに実施例1で合成した前駆体400mgと、脱水されたNMP 4mlを入れ撹拌した。そこへ、無水酢酸2mlを加え、100℃で24時間撹拌した。その溶液を、ジエチルエーテルによって再沈殿し、白色の粉末を370mg得た(ポリイミド1)。
GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によるポリスチレン換算の重量平均分子量は64000であった。
【0136】
(実施例3)
50mlのナスフラスコに実施例1で合成した前駆体400mgと、脱水されたNMP 4mlを入れ撹拌した。そこへ、トリフルオロ酢酸無水物2mlを加え、100℃で24時間撹拌した。その溶液を、ジエチルエーテルによって再沈殿し、白色の粉末を370mg得た(ポリイミド2)。GPCによるポリスチレン換算の重量平均分子量は13000であった。
【0137】
(実施例4)
実施例1で合成した前駆体400mgを脱水されたNMPに15重量%になるように溶解させ、直接ガラス上にスピンコートし、140℃に温められたホットプレート上で30分乾燥させた。その後、空気中、オーブンにより300℃で1時間加熱を行い、NMPに不溶のポリイミドを得た(ポリイミド3)。
【0138】
(実施例6)
4,4’−ジアミノジフェニルエーテル 1.20g(6mmol)を50mlの3つ口フラスコに投入し、5mlのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させ窒素気流下、室温で撹拌した。そこへ、2,2',6,6'-BPDA 1.77g(6mmol)を一度に添加した。添加と共に大きな発熱が見受けられた。添加終了後、5時間撹拌し、脱水されたジエチルエーテルによって再沈殿し、薄褐色の粉末2.12gを得た(前駆体2)。
【0139】
(実施例7)
50mlのナスフラスコに実施例1で合成した前駆体400mgと、脱水されたNMP 4mlを入れ撹拌した。そこへ、無水酢酸2mlを加え、100℃で24時間撹拌した。その溶液を、ジエチルエーテルによって再沈殿し、薄茶色の粉末を350mg得た(ポリイミド4)。GPCによるポリスチレン換算の重量平均分子量は6800であった。
【0140】
(実施例8)
パラフェニレンジアミン 1.08g(10mmol)を100mlの3つ口フラスコに投入し、22.1mlの脱水されたN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させ窒素気流下、氷浴で冷却しながら撹拌した。そこへ、少しずつ30分おきに、10等分した2,2',6,6'-BPDA 2.94g(10mmol)を添加し、添加終了後、氷浴中で1時間撹拌し、その溶液を、脱水されたジエチルエーテル2Lに滴下することによって再沈殿し、その沈殿物を室温で減圧下、17時間乾燥し、白色固体を2.91g(前駆体3)を得た。
【0141】
(実施例9)
1、4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン 2.92g(10mmol)を100mlの3つ口フラスコに投入し、32.2mlの脱水されたN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させ窒素気流下、氷浴で冷却しながら撹拌した。そこへ、少しずつ30分おきに、10等分した2,2',6,6'-BPDA 2.94g(10mmol)を添加し、添加終了後、脱水されたNMPを5ml加え、氷浴中で1時間撹拌し、その溶液を、脱水されたジエチルエーテル2Lに滴下することによって再沈殿し、その沈殿物を室温で減圧下、17時間乾燥し、白色固体を5.78g(前駆体4)を得た。
【0142】
(実施例10)
1、3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン 2.92g(10mmol)を100mlの3つ口フラスコに投入し、32.2mlの脱水されたN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させ窒素気流下、氷浴で冷却しながら撹拌した。そこへ、少しずつ30分おきに、10等分した2,2',6,6'-BPDA 2.94g(10mmol)を添加し、添加終了後、脱水されたNMPを5ml加え、氷浴中で1時間撹拌し、その溶液を、脱水されたジエチルエーテル2Lに滴下することによって再沈殿し、その沈殿物を室温で減圧下、17時間乾燥し、白色固体を5.61g(前駆体5)を得た。
【0143】
(比較合成例1)
ジアミノジフェニルエーテル 2.00g(10mmol)を100mlの3つ口フラスコに投入し、23.8mlの脱水されたN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させ窒素気流下、氷浴で冷却しながら撹拌した。そこへ、少しずつ30分おきに、10等分したピロメリット酸2無水物 2.18g(10mmol)を添加し、添加終了後、氷浴中で1時間撹拌し、その溶液を、脱水されたアセトン2Lに滴下することによって再沈殿し、その沈殿物を室温で減圧下、17時間乾燥し、白色固体を3.99g(比較前駆体1)を得た。
【0144】
(比較合成例2)
ジアミノジフェニルエーテル 2.00g(10mmol)を100mlの3つ口フラスコに投入し、28.0mlの脱水されたN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させ窒素気流下、氷浴で冷却しながら撹拌した。そこへ、少しずつ30分おきに、10等分した3,3',4,4'-BPDA 2.94g(10mmol)を添加し、添加終了後、氷浴中で1時間撹拌し、その溶液を、アセトン2Lに滴下することによって再沈殿し、その沈殿物を室温で減圧下、17時間乾燥し、白色固体を4.69g(比較前駆体2)を得た。
【0145】
[ポリイミド前駆体の構造]
日本電子製 JNM-LA400WB を用い、DMSO−dを溶媒とし前駆体1の、H-NMR、13C-NMR及び、C-Hの2次元のスペクトルを測定した。その結果、2,2',6,6'-BPDA由来の芳香族のプロトンのシグナルから、以下のように、異なる芳香族環にアミド結合を有するtrans-体と同一の芳香族環にアミド結合を有するcis-体の2種の異性体であることが示唆された。
【0146】
【化8】

【0147】
つまり、2,2',6,6'-BPDAとジアミンとの反応は、段階的に進行すると考えられるが、2,2',6,6'-BPDAの片方の酸無水物基にジアミンのアミノ基が反応した場合、ジアミンの電子供与性であるか電子吸引性であるかによって、もう一方の酸無水物基の2つのカルボニル基の反応性が変化する。ジアミンと反応し生成したアミド結合が、カルボン酸より電子吸引性だった場合、アミド基と同一の芳香族環にある酸無水物基を形成しているカルボニル基の炭素の吸電子性が高くなり、結果としてジアミンとの反応性が増し、cis-体となる。その逆にカルボン酸が生成したアミド結合より電子吸引性だった場合、カルボン酸と同一の芳香族環にある酸無水物基を形成しているカルボニル基の炭素の吸電子性が高まりジアミンとの反応性が増し、trans-体となる。この為、ジアミンの電子状態を調整することでcis−transの制御ができるものと思われる。
【0148】
[透明性評価1]
上記前駆体1の15重量%NMP溶液を用いて、スピンコート法によりガラス上に形成し、その塗膜の透過率を、分光測定装置(SHIMADZU製UV-2550 (PC)S GLP)にて測定を行った。前駆体1の溶液は、スピンコートし、140℃のホットプレート上で30分乾燥させ、15.9μmの塗膜を得た。
その結果、図2に示すように、436nmで99%、405nmで98%、365nmで91%と良好な透過率を示した。
【0149】
[透明性評価2]
上記前駆体1、3、4、5、及び、比較前駆体1、2の20重量%NMP溶液を、スピンコート法を用いて、ガラス上に塗布し、100℃に設定されたホットプレート上で、10分間加熱し、平均厚み3.5μmの塗膜を得た。その塗膜の透過率を、分光測定装置(SHIMADZU製UV-2550 (PC)S GLP)にて測定を行った。
その結果、図4及び表1に示すように、前駆体1、前駆体3、前駆体4、前駆体5は良好な透過率を示した。それに対し、比較前駆体1、および比較前駆体2は特に、波長の低い領域において透過率が低いことが明らかになった。
【0150】
【表1】

【0151】
表1の結果は膜厚が厚み3.5μmの測定結果であるが、この結果を用いてLambert-Beerの法則に基づいて以下に示すように、膜厚1μmの時の透過率、及び膜厚10μmの時の透過率を計算した。それぞれ表2、表3に計算結果を示す。
具体的には、Lambert-Beerの法則によれば、透過率Tは、
Log10(1/T)=kcb
(k=物質固有の定数、c=濃度、b=光路長)で表される。
フィルムの透過率の場合、膜厚が変化しても密度が一定であると仮定するとcも定数となるので、上記式は、定数fを用いて
Log10(1/T)=fb
(f=kc)と表すことができる。ここで、ある膜厚の時の透過率がわかれば、各物質の固有の定数fを求めることができる。例えば、前駆体3は、365nmにおいて3.5μmのときの透過率が64.1%なので、Log10(1/0.641)=f×3.5となり、前駆体3の365nmにおける固有の定数fは0.00552と計算できる。
従って、T=1/100.00552・b の式を用いて、bに目標の膜厚、例えば1μmであれば1を代入すれば、前駆体3の365nm における1μmの時の透過率を、T=0.882と求めることができる。
【0152】
【表2】

【0153】
【表3】

【0154】
[保存安定性評価]
上記前駆体1、3、4、5の、0.5wt%NMP溶液を調整し、23℃で保管したときの分子量の変化を求めた。ただし、この実験では前駆体1のみ、実施例1で開示されている合成条件を、原料と溶媒の量、使用器具等を2倍にスケールアップして合成したサンプルを用いた。分子量の変化について結果を表4に示す。
溶液の調整に用いたNMPは、脱水されたものではない通常のものを用いた。
測定条件は以下のとおり
装置 : 東ソー製HLC-8120 GPC system
カラム : TSK gels α-M ×2
溶媒 : 0.03mol/Lの濃度で臭化リチウムとリン酸をそれぞれ溶解させたNMP
温度 : 40℃
フローレート : 500μl/min
【0155】
【表4】

【0156】
同様の手法で、比較前駆体1、2についても求めようとしたが、分子量の測定に用いたGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)のカラムが詰まってしまい測定を行うことができなかった。ただし、過去に開示された文献(J.A.Kreuz, J. Polym. Sci.; Part A; Polym. Chem. 1990 28 3787)によれば、ほぼ同様の条件で比較化合物1に相当するものの重量平均分子量が、初期に106000であったものが25時間後に69000となっている。また、比較化合物2に相当する化合物では、初期90100であった重量平均分子量が61200へと減少している。
以上の結果より、本発明のポリイミド前駆体は、保管中に置いて安定した重量平均分子量を示し、通常のポリアミック酸で問題となっている室温での保管中の分子量低下に対して、本発明のポリイミド前駆体の構造が有効であることがわかる。
【0157】
[熱物性評価1]
上記のポリイミド1のNMP溶液を、ガラス上に貼り付けたユーピレックスS 50S(商品名:宇部興産)フィルムに塗布し、140℃のホットプレート上で30分乾燥させた後、剥離し、膜厚5μmのフィルムを得た。同様に、前駆体1の15重量%NMP溶液をガラス上に貼り付けたユーピレックスS 50S(商品名:宇部興産)フィルムに塗布し、140℃のホットプレート上で30分乾燥させた後、剥離し得たフィルムを、空気中、オーブンにより300℃1時間加熱を行い、厚さ45μmのポリイミドフィルムを得た。(ポリイミド3)
【0158】
(動的粘弾性評価)
上記のフィルムを、粘弾性測定装置Solid Analyzer RSA II(Rheometric Scientific社製)によって、周波数3Hz、昇温速度5℃/minで動的粘弾性測定を行った。
その結果、図3に示すように、双方とも350℃付近にtanδのピークを有することからこれらのポリイミドのTg(ガラス転移温度)は350℃であるといえる。また、Tg以上の貯蔵弾性率(E’)と損失弾性率(E’’)の挙動からポリイミド1はTg以上でゴム状領域(E’とE’’が一定となる領域)を取る為、架橋体である事が示唆され、ポリイミド3はE’とE’’が、Tg以上の温度でそのまま低下していることから非架橋体である事が示唆される。これらのことから、本発明のポリイミド前駆体より形成されるポリイミドは、耐熱性に優れるといえる。
【0159】
(線熱膨張係数評価)
上記のフィルムを幅5mm×長さ20mmに切断し、評価サンプルとして用いた。線熱膨張係数は、熱機械的分析装置Thermo Plus TMA8310(リガク社製)によって測定した。測定条件は、評価サンプルの観測長を15mm、昇温速度を10℃/min、評価サンプルの断面積当たりの加重が同じになるように引張り加重を1g/25000μm2とした。ポリイミド1は引っ張り加重1g、ポリイミド3は引っ張り加重5gで測定を行った。
その結果、50℃〜100℃における線熱膨張係数はポリイミド1が27ppm、ポリイミド3が25ppmとなった。また、フィルムの膨張の変曲点は双方とも315℃であった。
【0160】
[熱物性評価2]
前駆体3、4、5の20wt%NMP溶液をガラス上にスピンコートし、100℃10分で乾燥させた後、窒素雰囲気下、室温から300℃まで10℃/分で昇温し、その後300℃で1時間保持し、ポリイミドフィルム3a、4a、5aを得た。(厚み10±1.5μm)
これらのフィルムの動的粘弾性評価と、線熱膨張係数評価を上記と同様の条件(引っ張り加重は2g)で行い、Tgと線熱膨張係数を求めた。結果を表5に示す。
【0161】
【表5】

【0162】
(実施例11)
前駆体5に対して、下記感光性物質1を20wt%となるように添加し、固形分が20wt%となるようにNMPに溶解させた感光性樹脂組成物を調整した。(感光性樹脂組成物1)
【0163】
【化9】

【0164】
[感光性評価]
上記感光性樹脂組成物1を、クロムめっきされたガラスのクロム上にスピンコート法によって塗布し、100℃のホットプレート上で10分間乾燥させ、厚みの異なる2通りの(1.25μmと2.8μm)厚みの塗膜を得た。
それを、手動露光装置(大日本スクリーン株式会社製、MA−1200)を用い露光を行った。高圧水銀ランプからの光は、I線パスフィルターを用いて、365nmの光のみを取り出し、露光を行った。
露光量を種々変更し、マグネティックスターラーによってゆっくり撹拌された0.1wt%TMAH水溶液に30秒浸漬した後、蒸留水に10秒浸漬しリンスを行い、乾燥させた後の規格化膜厚と露光量の関係をプロットし、感度を求めた。
その結果、感度は、図5に示すように膜厚2.8μmの時に120mJ/cm2で、膜厚1.25μmの時に110mJ/cm2で残膜が0となり、非常に良好な感度を示した。これは、前駆体の透過率が良好である為、光源からの光を効率的に感光性物質が利用できたことによる結果と思われる。
【0165】
[パターン形成]
さらに、上記感光性樹脂組成物1を用いてパターンを形成した。
上記感光性評価と同様の手法で、厚み2μmの塗膜を作成し、フォトマスクを介して150mJ/cm2、365nmの波長の電磁波のみを照射した後、マグネティックスターラーによってゆっくり撹拌された0.1wt%TMAH水溶液に30秒浸漬した後、蒸留水に10秒浸漬しリンスを行い、乾燥させた。
そのサンプルを窒素雰囲気下300℃、1時間、オーブンによって加熱しパターンを顕微鏡で確認した。
その結果、図6に示すように、ラインアンドスペースで8μm/8μmまで解像し、ベーク後の膜厚は1.1μmであった。
また、ガラス上に上記の手法で塗布した、感光性樹脂組成物1の塗膜を、窒素雰囲気下300℃、1時間加熱したものを、24時間、蒸留水に浸漬しガラスより剥離し得たフィルム(厚み10μm)の動的粘弾性評価と熱機械的分析の結果、Tgは、350℃となり、線熱膨張係数は63.9ppmとなった。
感光化前のデータ(前駆体5)と比較すると、線熱膨張係数は2ppm弱大きくなったが、Tgは上昇した。これは、感光性物質1が熱により分解するときにカルベン等の高反応性の物質となり、高分子鎖の架橋部位になる等の効果によるものではないかと推測される。
【0166】
以上の結果より、本発明のポリイミド前駆体によって形成されるポリイミドは、耐熱性が良好で、且つ、低膨張率のフィルムを作製することが可能である為、これらの特性が有効とされる分野・製品、例えば、塗料、印刷インキ、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、その他の光学部材又は建築材料を形成するのに適していることが明らかとなった。
また、本発明のポリイミド前駆体は、保存安定性と、電磁波の透過性に優れることから、感光性樹脂組成物へ適用した場合に、高感度で保存安定性に優れる感光性樹脂組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0167】
【図1】式(1)の骨格を有する化合物の立体構造モデルである。
【図2】実施例で合成したポリイミド前駆体1の塗膜について透過率を測定した結果を示すグラフである。
【図3】実施例で合成したポリイミド1及びポリイミド3の各フィルムについて動的粘弾性測定を行った結果を示すグラフである。
【図4】実施例で合成したポリイミド前駆体1、3、4、5及び比較前駆体1、2の塗膜について透過率を測定した結果を示すグラフである。
【図5】実施例で合成した感光性樹脂組成物1の感度を測定したグラフである。
【図6】実施例で合成した感光性樹脂組成物1の解像度を示す光学顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
π電子軌道を含む不飽和結合と単結合が交互に連続する部分を有する、それ自体が高分子である高分子化合物前駆体であって、分子内反応により最終生成物の高分子骨格を構成する繰り返し単位を形成する第1の官能基と第2の官能基を有し、分子内のπ電子軌道により形成される共役状態の少なくとも一部が、分子の立体構造により切断され、又は希薄となり、少なくとも436nm、405nm、365nm、248nm及び193nmの波長のうち1つの波長の電磁波に対する透過率が、共役状態が切断されず希薄ともならなかったと仮定した場合に予想される透過率よりも大きいことを特徴とする高分子化合物前駆体。
【請求項2】
前記高分子化合物前駆体全体の50重量%以上を芳香族構造が占める、請求項1に記載の高分子化合物前駆体。
【請求項3】
π電子軌道を含む不飽和結合と単結合が交互に連続する前記部分が、前記高分子化合物前駆体の高分子骨格を構成する2つ以上の繰り返し単位の連鎖構造を含む、請求項1又は2に記載の高分子化合物前駆体。
【請求項4】
前記高分子化合物前駆体の高分子骨格を構成する繰り返し単位の50モル%以上が、該高分子化合物前駆体の高分子骨格の一部となる芳香族環又は芳香族環を含む縮合環を含む繰り返し単位によって占められ、該高分子骨格の一部となる該芳香族環又は該縮合環の間の共役状態の少なくとも一部が、分子の立体構造により切断され、又は希薄となった、請求項1乃至3のいずれかに記載の高分子化合物前駆体。
【請求項5】
前記高分子化合物前駆体の一部となる芳香族環又は芳香族環を含む縮合環を含む前記繰り返し単位の量に対する、共役状態を切断又は希薄にする前記分子の立体構造のモル比が、50%以上である、請求項4に記載の高分子化合物前駆体。
【請求項6】
π電子軌道を含む不飽和結合と単結合が交互に連続する前記部分に互いに異なる第1の位置と第2の位置が存在し、該第1の位置に前記第1の官能基および該第2の位置に前記第2の官能基がそれぞれ直接又は他の原子を介して結合しており、該第1の位置と該第2の位置の間に形成される前記共役状態が、分子の立体構造により切断され、又は希薄となる、請求項1乃至5のいずれかに記載の高分子化合物前駆体。
【請求項7】
π電子軌道を含む不飽和結合と単結合が交互に連続する前記部分が少なくとも2つの芳香族環を含んでおり、そのうちの第1の芳香族環上に前記第1の位置が存在し、第2の芳香族環上に前記第2の位置が存在し、該第1の芳香族環と該第2の芳香族環の間に形成される前記共役状態が、分子の立体構造により切断され、又は希薄となる、請求項6に記載の高分子化合物前駆体。
【請求項8】
π電子軌道を含む不飽和結合と単結合が交互に連続する前記部分が、前記高分子化合物前駆体の高分子骨格を構成する2つ以上の繰り返し単位の連鎖構造を含み、前記第1の芳香族環と前記第2の芳香族環が互いに異なる繰り返し単位に含まれる、請求項7に記載の高分子化合物前駆体。
【請求項9】
π電子軌道を含む不飽和結合と単結合が交互に連続する前記部分に含まれる同じ繰り返し単位内に、前記第1の芳香族環と前記第2の芳香族環が両方とも含まれる、請求項7に記載の高分子化合物前駆体。
【請求項10】
前記第1の芳香族環と前記第2の芳香族環を両方とも含む繰り返し単位が、前記高分子化合物前駆体の高分子骨格を構成する繰り返し単位の50モル%以上を占める、請求項9に記載の高分子化合物前駆体。
【請求項11】
前記分子内反応は、前記第1の官能基と第2の官能基とが互いに結合しあって高分子骨格の一部となる環状構造を形成する分子内閉環反応である、請求項1乃至10のいずれかに記載の高分子化合物前駆体。
【請求項12】
前記分子内反応が、水及び又は、アルコール分子の脱離を伴う反応である、請求項1乃至11のいずれかに記載の高分子化合物前駆体。
【請求項13】
前記第1の官能基がアミド基であり、前記第2の官能基がカルボキシル基、ヒドロキシル基又はアミノ基から選ばれる少なくとも1種である、請求項1乃至12のいずれかに記載の高分子化合物前駆体。
【請求項14】
異なるπ平面を有する芳香族環に直接又は他の原子を介して結合するカルボキシル基同士で無水物基を形成している酸無水物から誘導される繰り返し単位を有するポリイミド前駆体である、請求項1乃至13のいずれかに記載の高分子化合物前駆体。
【請求項15】
少なくとも436nm、405nm、365nm、248nm及び193nmの波長のうち1つの波長の電磁波に対する透過率が、厚み1μmのフィルムに成膜した時に20%以上である、請求項1乃至14のいずれかに記載の高分子化合物前駆体。
【請求項16】
436nm、405nm、及び365nmの全ての波長の電磁波に対する透過率が、厚み1μmのフィルムに成膜した時に20%以上である、請求項1乃至15のいずれかに記載の高分子化合物前駆体。
【請求項17】
高分子化合物前駆体が0.5重量%以上溶解する、実質的に水を含む良溶媒を用いた0.5重量%溶液を、23℃で25時間保存した後の、ゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算の重量平均分子量の変化率が20%以下である、請求項6乃至16のいずれかに記載の高分子化合物前駆体。
【請求項18】
パターン形成材料として用いられることを特徴とする、請求項1乃至17のいずれかに記載された高分子化合物前駆体。
【請求項19】
塗料又は印刷インキ、或いは、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料の形成材料として用いられる請求項1乃至18のいずれかに記載された高分子化合物前駆体。
【請求項20】
440nm以下の波長を有する放射線の照射により、高分子化合物前駆体それ自体が硬化するか、又は、高分子化合物前駆体それ自体の溶解性を変化させる作用を発現するか、又は、440nm以下の波長を有する電磁波に吸収を有する化合物の作用によって、高分子化合物前駆体それ自体が硬化するか、又は、高分子化合物前駆体それ自体の溶解性を変化させる作用を発現する部位を分子内に有する、請求項1乃至19のいずれかに記載された高分子化合物前駆体。
【請求項21】
前記請求項1乃至20のいずれかに記載された高分子化合物前駆体を含有する高分子化合物前駆体樹脂組成物。
【請求項22】
前記高分子化合物前駆体が、その分子内に440nm以下の波長を有する電磁波の照射によって、高分子化合物前駆体樹脂組成物を硬化させるか、高分子化合物前駆体樹脂組成物の溶解性を変化させる感光性部位を有する高分子化合物前駆体であるか、及び/又は、該感光性部位を有する感光性成分をさらに含有する、請求項21に記載の高分子化合物前駆体樹脂組成物。
【請求項23】
パターン形成材料として用いられることを特徴とする、請求項21又は22に記載の高分子化合物前駆体樹脂組成物。
【請求項24】
塗料又は印刷インキ、或いは、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料の形成材料として用いられる請求項21乃至23のいずれかに記載の高分子化合物前駆体樹脂組成物。
【請求項25】
前記請求項1乃至20のいずれかに記載された高分子化合物前駆体を反応させて得られた高分子化合物。
【請求項26】
パターン形成材料として用いられることを特徴とする、請求項25に記載の高分子化合物。
【請求項27】
塗料又は印刷インキ、或いは、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料の形成材料として用いられる請求項25又は26に記載の高分子化合物。
【請求項28】
請求項25乃至27のいずれかに記載された高分子化合物又は該高分子化合物の硬化物により少なくとも一部分が形成されている、印刷物、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料いずれかの物品。
【請求項29】
前記請求項21乃至24のいずれかに記載された高分子化合物前駆体樹脂組成物を反応させて得られた高分子化合物樹脂組成物。
【請求項30】
パターン形成材料として用いられることを特徴とする、請求項29に記載の高分子化合物樹脂組成物。
【請求項31】
塗料又は印刷インキ、或いは、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料の形成材料として用いられる請求項29又は30に記載の高分子化合物樹脂組成物。
【請求項32】
請求項29乃至31のいずれかに記載された高分子化合物樹脂組成物又は該高分子化合物樹脂組成物の硬化物により少なくとも一部分が形成されている、印刷物、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料いずれかの物品。
【請求項33】
下記式(1a)又は(1b)で表される繰り返し単位のいずれか、又は、両方を有する高透明性ポリイミド前駆体。
【化1】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子又は1価の有機基であり、それらは互いに結合していても良い。R、Rはそれぞれ独立に、水素原子、又は1価の有機基であり、Xは、2価の有機基であり、R、R10はそれぞれ独立に、水素原子、又は1価の有機基である。同一分子内に存在する繰り返し単位間において同一符号で表される基同士は異なる原子又は構造であっても良い。)
【請求項34】
下記式(2)で表される繰り返し単位をさらに有する、請求項33に記載の高透明性ポリイミド前駆体。
【化2】

(式中、R11、R12はそれぞれ独立に、水素原子、又は1価の有機基であり、R13、R14はそれぞれ独立に、水素原子、又は1価の有機基であり、Yは4価の有機基であり、Zは2価の有機基である。同一分子内に存在する繰り返し単位間において同一符号で表される基同士は異なる原子又は構造であっても良い。)
【請求項35】
前記式(1a)又は(1b)で表される繰り返し単位の合計量が、前記高透明性ポリイミド前駆体の高分子骨格を構成する繰り返し単位の50モル%以上を占める、請求項33又は34に記載の高透明性ポリイミド前駆体。
【請求項36】
少なくとも436nm,405nm、365nm、248nm、193nmの波長の電磁波のうち1つの波長の電磁波に対する透過率が、厚み1μmのフィルムに成膜した時に20%以上である、請求項33乃至35のいずれかに記載の高透明性ポリイミド前駆体。
【請求項37】
436nm、405nm、及び365nmの全ての波長の電磁波に対する透過率が、厚み1μmのフィルムに成膜した時に20%以上である、請求項33乃至36のいずれかに記載の高透明性ポリイミド前駆体。
【請求項38】
イミド化後の400nm〜800nmの間の光の透過率が、厚み1μmのフィルムに成膜した時に、各波長において85%以上である、請求項33乃至37のいずれかに記載の高透明性ポリイミド前駆体。
【請求項39】
イミド化後のガラス転移温度が120℃以上であることを特徴とする、請求項33乃至38のいずれかに記載の高透明性ポリイミド前駆体。
【請求項40】
イミド化後の線熱膨張係数が70ppm以下であることを特徴とする、請求項33乃至39のいずれかに記載の高透明性ポリイミド前駆体。
【請求項41】
実質的に水を含むNーメチルピロリドンを溶媒に用いた0.5重量%溶液を23℃で25時間保存した後の、ゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算の重量平均分子量の変化率が20%以下である、請求項33乃至40のいずれかに記載の高透明性ポリイミド前駆体。
【請求項42】
全芳香族ポリイミド前駆体の繰り返し単位である、請求項33乃至41のいずれかに記載の高透明性ポリイミド前駆体。
【請求項43】
パターン形成材料として用いられることを特徴とする、請求項33乃至42のいずれかに記載された高透明性ポリイミド前駆体。
【請求項44】
塗料又は印刷インキ、或いは、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料の形成材料として用いられる前記請求項33乃至43のいずれかに記載された高透明性ポリイミド前駆体。
【請求項45】
440nm以下の波長を有する電磁波の照射によって、高透明性ポリイミド前駆体それ自体が硬化するか、又は、高透明性ポリイミド前駆体それ自体の溶解性を変化させる作用を発現するか、又は、440nm以下の波長を有する電磁波に吸収を有する化合物の作用によって、高透明性ポリイミド前駆体それ自体が硬化するか、又は、高透明性ポリイミド前駆体それ自体の溶解性を変化させる作用を発現する部位を、分子内に有する、請求項33乃至44のいずれかに記載の高透明性ポリイミド前駆体。
【請求項46】
前記請求項33乃至45のいずれかに記載された高透明性ポリイミド前駆体を含有するポリイミド前駆体樹脂組成物。
【請求項47】
前記高透明性ポリイミド前駆体が、その分子内に440nm以下の波長を有する放射線の照射によって、ポリイミド前駆体樹脂組成物を硬化させるか、ポリイミド前駆体樹脂組成物の溶解性を変化させる感光性部位を有する高透明性ポリイミド前駆体であるか、及び/又は、該感光性部位を有する感光性成分をさらに含有する、請求項46に記載のポリイミド前駆体樹脂組成物。
【請求項48】
更に、感光性ジアゾキノン化合物を含有する、請求項46又は47に記載のポリイミド前駆体樹脂組成物。
【請求項49】
パターン形成材料として用いられることを特徴とする、請求項46乃至48のいずれかに記載のポリイミド前駆体樹脂組成物。
【請求項50】
塗料又は印刷インキ、或いは、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料の形成材料として用いられる前記請求項46乃至49のいずれかに記載のポリイミド前駆体樹脂組成物。
【請求項51】
前記請求項33乃至45のいずれかに記載された高透明性ポリイミド前駆体を反応させて得られたポリイミド。
【請求項52】
パターン形成材料として用いられることを特徴とする、請求項51に記載のポリイミド。
【請求項53】
塗料又は印刷インキ、或いは、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料の形成材料として用いられる請求項51又は52に記載のポリイミド。
【請求項54】
請求項51乃至53のいずれかに記載されたポリイミド又はポリイミドの硬化物により少なくとも一部分が形成されている、印刷物、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料いずれかの物品。
【請求項55】
前記請求項46乃至50のいずれかに記載されたポリイミド前駆体樹脂組成物を反応させて得られたポリイミド樹脂組成物。
【請求項56】
パターン形成材料として用いられることを特徴とする、請求項55に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項57】
塗料又は印刷インキ、或いは、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料の形成材料として用いられる請求項55又は56に記載のポリイミド樹脂組成物。
【請求項58】
請求項55乃至57のいずれかに記載されたポリイミド樹脂組成物又は該ポリイミド樹脂組成物の硬化物により少なくとも一部分が形成されている、印刷物、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料いずれかの物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−307166(P2006−307166A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−57230(P2006−57230)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】