説明

高分子圧電材料、およびその製造方法

【課題】圧電定数d14が大きく、透明性、寸法安定性に優れた高分子圧電材料及びその製造法を提供する。
【解決手段】重量平均分子量が5万〜100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子を含み、DSC法で得られる結晶化度が40%〜80%であり、可視光線に対する透過ヘイズが0.0%〜40%であり、かつ、マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcと前記結晶化度との積が100〜700である、高分子圧電材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子圧電材料、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電材料としては、従来、セラミックス材料であるPZT(PBZrO−PbTiO系固溶体)が多く用いられてきたが、PZTは、鉛を含有することから、環境負荷が低く、また柔軟性に富む高分子圧電材料が用いられるようになってきている。
現在知られている高分子圧電材料は、主に以下の2種類に大別される。すなわち、ナイロン11、ポリフッ化ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ尿素などに代表されるポーリング型高分子と、ポリフッ化ビニリデン(β型)(PVDF)と、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体(P(VDF−TrFE))(75/25)などに代表される強誘電性高分子との2種類である。
【0003】
しかしながら、高分子圧電材料は、圧電性においてPZTに及ばず、圧電性の向上が要求されている。そのため、種々の観点から高分子圧電材料の圧電性を向上することが試みられている。
例えば、強誘電性高分子であるPVDF、及びP(VDF−TrFE)は、高分子の中でも優れた圧電性を有し、圧電定数d31が20pC/N以上である。PVDF、及びP(VDF−TrFE)から形成されるフィルム材料は、延伸操作により、延伸方向に高分子鎖を配向させた後に、コロナ放電などでフィルムの表裏に異種の電荷を付与することで、フィルム面垂直方向に電界を発生させ、高分子鎖の側鎖にあるフッ素を含む永久双極子を、電界方向に平行に配向させ、圧電性を付与する。しかし、分極したフィルム表面には、配向を打ち消す方向に、空気中の水やイオンのような異種電荷が付着しやすく、分極処理で揃えた永久双極子の配向が緩和し、経時的に圧電性が顕著に低下するといった実用上の課題があった。
【0004】
PVDFは、上記の高分子圧電材料の中で最も圧電性の高い材料ではあるが、誘電率が高分子圧電材料の中では比較的高く、13であるため、圧電d定数を誘電率で割った値の圧電g定数(単位応力当たりの開放電圧)は小さくなる。また、PVDFは、電気から音響への変換効率は良いものの、音響から電気への変換効率については、改善が期待されていた。
【0005】
近年、上記の高分子圧電材料以外に、ポリペプチドやポリ乳酸等の光学活性を有する高分子を用いることが着目されている。ポリ乳酸系高分子は、機械的な延伸操作のみで圧電性が発現することが知られている。
光学活性を有する高分子の中でも、ポリ乳酸のような高分子結晶の圧電性は、螺旋軸方向に存在するC=O結合の永久双極子に起因する。特にポリ乳酸は、主鎖に対する側鎖の体積分率が小さく、体積あたりの永久双極子の割合が大きく、ヘリカルキラリティをもつ高分子の中でも理想的な高分子といえる。
延伸処理のみで圧電性を発現するポリ乳酸は、ポーリング処理が不要で、圧電率は数年にわたり減少しないことが知られている。
【0006】
以上のように、ポリ乳酸には種々の圧電特性があるため、種々のポリ乳酸を用いた高分子圧電材料が報告されている。
例えば、ポリ乳酸の成型物を延伸処理することで、常温で、10pC/N程度の圧電率を示す高分子圧電材が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、ポリ乳酸結晶を高配向にするために、鍛造法と呼ばれる特殊な配向方法により18pC/N程度の高い圧電性を出すことも報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−152638号公報
【特許文献2】特開2005−213376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記特許文献1及び2に示される圧電材は、いずれも透明性において不十分である。
本発明における第1の実施形態は、上記事情に鑑み、圧電定数d14が大きく、透明性、寸法安定性に優れた高分子圧電材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明における第2の実施形態は、圧電定数d14が大きく、透明性に優れた高分子圧電材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を達成するための具体的手段は、以下の通りである。
<1>重量平均分子量が5万〜100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子を含み、
DSC法で得られる結晶化度が40%〜80%であり、
可視光線に対する透過ヘイズが0.0%〜40%であり、かつ、
マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcと前記結晶化度との積が100〜700である、高分子圧電材料。
<2> 前記MORcが3.5〜15.0である、<1>に記載の高分子圧電材料。
<3>可視光線に対する透過ヘイズが0.05%〜30%であり、
前記MORcが6.0〜10.0である、<1>または<2>に記載の高分子圧電材料。
<4>25℃において変位法で測定した圧電定数d14が4pm/V以上である、<1>〜<3>のいずれか一項に記載の高分子圧電材料。
<5>前記ヘリカルキラル高分子が、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有するポリ乳酸系高分子である<1>〜<4>のいずれか一項に記載の高分子圧電材料。
【化1】


<6>前記ヘリカルキラル高分子は、光学純度が95.00%ee以上である<1>〜<5>のいずれか1項に記載の高分子圧電材料。
<7>さらに、ポリフッ化ビニリデンを含み、前記ポリフッ化ビニリデンの含有量が、前記ポリ乳酸系高分子の全質量に対して、0質量%を超え5質量%以下であり、かつ、25℃において共振法で測定した圧電定数d14が10pC/N以上である<5>に記載の高分子圧電材料。
<8>前記ポリフッ化ビニリデンの含有量が、前記ポリ乳酸系高分子の全質量に対して、0.01質量%〜5質量%である<7>に記載の高分子圧電材料。
<9>前記ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量が3千〜80万である<7>または<8>に記載の高分子圧電材料。
<10>前記高分子圧電材料に含まれるヘリカルキラル高分子100重量部に対し、結晶核剤を0.01〜1.0重量部含む、<1>〜<9>のいずれか1項に記載の高分子圧電材料。
<11>前記結晶核剤が、フェニルスルホン酸亜鉛、ポリリン酸メラミン、メラミンシアヌレート、フェニルホスホン酸亜鉛、フェニルホスホン酸カルシウム、フェニルホスホン酸マグネシウム、タルク、及びクレーからなる群から選ばれる少なくとも1種類の化合物である、<10>に記載の高分子圧電材料。
<12>主面の面積が5mm以上である<1>〜<11>のいずれか1項に記載の高分子圧電材料。
<13><1>〜<12>のいずれか1項に記載の高分子圧電材料を製造する方法であって、
ヘリカルキラル高分子を含む非晶状態のシートを加熱して予備結晶化シートを得る第一の工程と、
前記予備結晶化シートを主として1軸方向に延伸する第二の工程と、
を含む、高分子圧電材料の製造方法。
<14>前記予備結晶化シートを得る第一の工程において、下記式で表される温度Tにおいて、結晶化度が10%〜70%になるまで前記非晶状態のシートを加熱する、<13>に記載の高分子圧電材料の製造方法。
Tg≦T≦Tg+40℃
(Tgは、前記ヘリカルキラル高分子材料のガラス転移温度を表す。)
<15>前記予備結晶化シートを得る第一の工程において、前記ヘリカルキラル高分子としてポリ乳酸を含む非晶状態のシートを60℃〜170℃で、5秒〜60分加熱する、<13>または<14>に記載の高分子圧電材料の製造方法。
<16>前記第二の工程の後に、アニール処理をする<13>〜<15>のいずれか1項に記載の高分子圧電材料の製造方法。
<17><1>〜<12>のいずれか1項に記載の高分子圧電材料を製造する方法であって、
ヘリカルキラル高分子を含むシートを主として1軸方向に延伸する工程と、
前記延伸工程の後に、加水分解処理を行う工程を含む、高分子圧電材料の製造方法。
<18>ポリ乳酸系高分子と、ポリフッ化ビニリデンとを含み、前記ポリフッ化ビニリデンの含有量が、前記ポリ乳酸系高分子の全質量に対して、0質量%を超え5質量%以下であり、かつ、25℃において共振法で測定した圧電定数d14が10pC/N以上である高分子圧電材料。
<19>前記ポリフッ化ビニリデンの含有量が、前記ポリ乳酸系高分子の全質量に対して、0.01質量%〜5質量%である<18>に記載の高分子圧電材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第一の実施形態によれば、圧電定数d14が大きく、透明性、寸法安定性に優れた高分子圧電材料及びその製造方法を提供することができる。
本発明の第二の実施形態によれば、圧電定数d14が大きく、透明性に優れた高分子圧電材料及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第一の実施形態の実施例で用いた熱プレス処理の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の第一の実施形態の実施例で用いた熱プレス機の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第一の実施形態に係る高分子圧電材料>
第一の実施形態に係る高分子圧電材料は、重量平均分子量が5万〜100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子を含み、
DSC法で得られる結晶化度が40%〜80%であり、
可視光線に対する透過ヘイズが0.0%〜40%であり、
マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcが3.5〜15.0であり、かつ、
前記MORcと前記結晶化度との積が100〜700である。
【0013】
高分子圧電材料を上記構成とすることで、圧電定数d14が大きく、透明性、寸法安定性に優れた高分子圧電材料とすることができる。
ここで、「圧電定数d14」とは、圧電率のテンソルの一つであり、延伸した材料の延伸軸方向に、ずり応力を印加したとき、ずり応力の方向に分極が生じるとき、単位ずり応力あたりの発生電荷密度をd14と定義する。圧電定数d14の数値が大きいほど圧電性が高いことを表す。
【0014】
本実施形態において、単に『圧電定数』と称するときは、「圧電定数d14」を指す。
ここで、圧電定数d14は、以下の方法で算出される値である。すなわち、延伸方向に対して、斜め45°の方向を長手方向とした矩形フィルムを試験片とする。この試験片の主面の表裏全面に電極層を設け、この電極に印加電圧E(V)を加えたとき、フィルムの長手方向の歪量をXとする。印加電圧E(V)をフィルムの厚さt(m)で割った値を電界強度E(V/m)とし、E(V)印加したときのフィルムの長手方向の歪量をXとしたとき、d14は、2×歪量X/電界強度E(V/m)で定義される値である。
また、複素圧電率d14は、「d14=d14’―id14’’」として算出され、「d14’」と「id14’’」は東洋精機製作所社製「レオログラフソリッドS−1型」より得られる。「d14’」は、複素圧電率の実数部を表し、「id14’’」は、複素圧電率の虚数部を表し、d14’(複素圧電率の実数部)は本実施形態における圧電定数d14に相当する。
尚、複素圧電率の実数部が高いほど圧電性に優れることを示す。
圧電定数d14には変位法で測定されるもの(単位:pm/V)と、共振法により測定されるもの(単位:pC/N)とがある。
本実施形態のある態様では、共振法による圧電定数d14は10pC/N未満であってもよい。
【0015】
〔光学活性を有するヘリカルキラル高分子〕
光学活性を有するヘリカルキラル高分子とは、分子構造が螺旋構造である分子光学活性を有する高分子をいう。
光学活性を有するヘリカルキラル高分子(以下、「光学活性高分子」ともいう)としては、例えば、ポリペプチド、セルロース誘導体、ポリ乳酸系樹脂、ポリプロピレンオキシド、ポリ(β―ヒドロキシ酪酸)等を挙げることができる。
前記ポリペプチドとしては、例えば、ポリ(グルタル酸γ−ベンジル)、ポリ(グルタル酸γ−メチル)等が挙げられる。
前記セルロース誘導体としては、例えば、酢酸セルロース、シアノエチルセルロース等が挙げられる。
【0016】
光学活性高分子は、高分子圧電材料の圧電性を向上する観点から、光学純度が95.00%ee以上であることが好ましく、99.00%ee以上であることがより好ましく、99.99%ee以上であることがさらに好ましい。望ましくは100.00%eeである。光学活性高分子の光学純度を上記範囲とすることで、圧電性を発現する高分子結晶のパッキング性が高くなり、その結果、圧電性が高くなるものと考えられる。
本実施形態において、光学活性高分子の光学純度は、下記式にて算出した値である。
光学純度(%ee)=100×|L体量−D体量|/(L体量+D体量)
すなわち、『「光学活性高分子のL体の量〔質量%〕と光学活性高分子のD体の量〔質量%〕との量差(絶対値)」を「光学活性高分子のL体の量〔質量%〕と光学活性高分子のD体の量〔質量%〕との合計量」で割った(除した)数値』に、『100』をかけた(乗じた)値を、光学純度とする。
なお、光学活性高分子のL体の量〔質量%〕と光学活性高分子のD体の量〔質量%〕は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた方法により得られる値を用いる。具体的な測定の詳細については後述する。
【0017】
以上の光学活性高分子の中でも、光学純度を上げ、圧電性を向上させる観点から、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有する化合物が好ましい。
【0018】
【化2】

【0019】
前記式(1)で表される繰り返し単位を主鎖とする化合物としては、ポリ乳酸系樹脂が挙げられる。中でも、ポリ乳酸が好ましく、L−乳酸のホモポリマー(PLLA)またはD−乳酸のホモポリマー(PDLA)が最も好ましい。
【0020】
前記ポリ乳酸系樹脂とは、「ポリ乳酸」、「L−乳酸またはD−乳酸と、共重合可能な多官能性化合物とのコポリマー」、又は、両者の混合物をいう。
前記「ポリ乳酸」は、乳酸がエステル結合によって重合し、長く繋がった高分子であり、ラクチドを経由するラクチド法と、溶媒中で乳酸を減圧下加熱し、水を取り除きながら重合させる直接重合法などによって製造できることが知られている。前記「ポリ乳酸」としては、L−乳酸のホモポリマー、D−乳酸のホモポリマー、L−乳酸およびD−乳酸の少なくとも一方の重合体を含むブロックコポリマー、及び、L−乳酸およびD−乳酸の少なくとも一方の重合体を含むグラフトコポリマーが挙げられる。
【0021】
前記「共重合可能な多官能性化合物」としては、グリコール酸、ジメチルグリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシプロパン酸、2−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、2−ヒドロキシカプロン酸、3−ヒドロキシカプロン酸、4−ヒドロキシカプロン酸、5−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシカプロン酸、6−ヒドロキシメチルカプロン酸、マンデル酸等のヒドロキシカルボン酸、グリコリド、β−メチル−δ−バレロラクトン、γ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等の環状エステル、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、テレフタル酸等の多価カルボン酸、及びこれらの無水物、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、テトラメチレングリコール、1,4−ヘキサンジメタノール等の多価アルコール、セルロース等の多糖類、及び、α−アミノ酸等のアミノカルボン酸等を挙げることができる。
【0022】
前記「乳酸と共重合可能な多官能性化合物とのコポリマー」としては、らせん結晶を生成可能なポリ乳酸シーケンスを有する、ブロックコポリマーまたはグラフトコポリマーが挙げられる。
前記ポリ乳酸系樹脂は、例えば、特開昭59−096123号公報、及び特開平7−033861号公報に記載されている乳酸を直接脱水縮合して得る方法や、米国特許2,668,182号及び4,057,357号等に記載されている乳酸の環状二量体であるラクチドを用いて開環重合させる方法などにより製造することができる。
さらに、前記の各製造方法により得られた光学活性高分子は、光学純度を95.00%ee以上とするために、例えば、ポリ乳酸をラクチド法で製造する場合、晶析操作により光学純度を95.00%ee以上の光学純度に向上させたラクチドを、重合することが好ましい。
【0023】
〔光学活性高分子の重量平均分子量〕
本実施形態に係る光学活性高分子は、重量平均分子量(Mw)が、5万〜100万である。
光学活性高分子の重量平均分子量の下限が、5万未満であると光学活性高分子を成型体としたときの機械的強度が不十分となる。光学活性高分子の重量平均分子量の下限は、10万以上であることが好ましく、20万以上であることがさらに好ましい。一方、光学活性高分子の重量平均分子量の上限が100万を超えると、光学活性高分子を成型体としたときのフィルムなどの押出成型などの成形をすることが難しくなる。重量平均分子量の上限は、80万以下であることが好ましく、30万以下であることがさらに好ましい。
また、前記光学活性高分子の分子量分布(Mw/Mn)は、高分子圧電材料の強度の観点から、1.1〜5であることが好ましく、1.2〜4であることがより好ましい。さらに1.4〜3であることが好ましい。
なお、ポリ乳酸系高分子の重量平均分子量Mwと、分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を用い、下記GPC測定方法により、測定される。
【0024】
−GPC測定装置−
Waters社製GPC−100
−カラム−
昭和電工社製、Shodex LF−804
−サンプルの調製−
ポリ乳酸系高分子を40℃で溶媒(例えば、クロロホルム)へ溶解させ、濃度1mg/mlのサンプル溶液を準備する。
【0025】
−測定条件−
サンプル溶液0.1mlを溶媒〔クロロホルム〕、温度40℃、1ml/分の流速でカラムに導入する。
カラムで分離されたサンプル溶液中のサンプル濃度を示差屈折計で測定する。ポリスチレン標準試料にてユニバーサル検量線を作成し、ポリ乳酸系高分子の重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)を算出する。
ポリ乳酸系高分子は、市販のポリ乳酸を用いてもよく、例えば、PURAC社製のPURASORB(PD、PL)、三井化学社製のLACEA(H−100、H−400)等が挙げられる。
光学活性高分子としてポリ乳酸系樹脂を用いるとき、ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量(Mw)を5万以上とするためには、ラクチド法、または直接重合法により光学活性高分子を製造することが好ましい。
【0026】
〔ポリフッ化ビニリデン〕
本実施形態の高分子圧電材料は、ポリ乳酸系高分子の全質量に対して、0質量%を超え5質量%以下の割合で、ポリフッ化ビニリデンを含んでもよい。
高分子圧電材料が、ポリ乳酸系高分子と共にポリフッ化ビニリデンを含むことで、圧電定数が大きく、透明性に優れる。このとき、ポリフッ化ビニリデンは結晶核剤として機能していると考えられる。
【0027】
ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量(Mw)は、3千〜100万であることが好ましい。
重量平均分子量の下限が3千以上であると高分子圧電材料の機械的強度に優れ、上限が100万以下であると、高分子圧電材料の成形(押出成形など)が容易になる。ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量の下限は、3千以上であることが好ましい。ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量の上限は、80万以下であることが好ましく、55万以下であることがさらに好ましい。
【0028】
ポリフッ化ビニリデンの分子量分布(Mw/Mn)は、延伸フィルムの強度、配向度の観点から、1.1〜5であることが好ましく、1.2〜4であることがより好ましい。さらに1.4〜3であることが好ましい。
【0029】
ポリフッ化ビニリデンの含有量は、ポリ乳酸系高分子の全質量に対して、0質量%を超え5質量%以下であることが好ましい。5質量%を超えると、透明性に優れた高分子圧電材料が得られない。さらに、圧電定数をより大きくする観点から、ポリ乳酸系高分子の全質量に対して、0.01質量%〜5質量%であることが好ましく、0.05質量%〜5質量%であることがより好ましく、0.1質量%〜2.5質量%であることがさらに好ましい。
なお、ポリフッ化ビニリデンは、1種のみを単独で用いてもよいし、重量平均分子量Mw、分子量分布(MW/Mn)、またはガラス転移温度Tgが異なる2種以上を混合して用いてもよい。
ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)も、上記と同様GPC測定方法により測定される。
また、高分子圧電材料がポリフッ化ビニリデンを含む場合、25℃で後述する共振法により測定した圧電定数d14が10pC/N以上であることが好ましい。
【0030】
〔その他の成分〕
本実施形態の高分子圧電材料は、本実施形態の効果を損なわない限度において、ヘリカルキラル高分子、及び所望により含まれるポリフッ化ビニリデン以外に、ポリエチレン樹脂やポリスチレン樹脂に代表される公知の樹脂や、シリカ、ヒドロキシアパタイト、モンモリロナイト等の無機フィラー、フタロシアニン等の公知の結晶核剤等他の成分を含有していてもよい。
【0031】
−無機フィラー−
例えば、高分子圧電材料を、気泡等のボイドの発生を抑えた透明なフィルムとするために、高分子圧電材料中に、ヒドロキシアパタイト等の無機フィラーをナノ分散してもよいが、無機のフィラーをナノ分散させるためには、凝集塊の解砕に大きなエネルギーが必要であり、また、フィラーがナノ分散しない場合、フィルムの透明度が低下する場合がある。本実施形態に係る高分子圧電材料が無機フィラーを含有するとき、高分子圧電材料全質量に対する無機フィラーの含有量は、1質量%未満とすることが好ましい。
なお、高分子圧電材料がヘリカルキラル高分子以外の成分を含む場合、ヘリカルキラル高分子以外の成分の含有量は、高分子圧電材料全質量中に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0032】
−結晶促進剤(結晶核剤)−
結晶促進剤は、結晶化促進の効果が認められるものであれば、特に限定されないが、ポリ乳酸の結晶格子の面間隔に近い面間隔を持つ結晶構造を有する物質を選択することが望ましい。面間隔が近い物質ほど核剤としての効果が高いからである。
例えば、有機系物質であるフェニルスルホン酸亜鉛、ポリリン酸メラミン、メラミンシアヌレート、フェニルホスホン酸亜鉛、フェニルホスホン酸カルシウム、フェニルホスホン酸マグネシウム、無機系物質のタルク、クレー等が挙げられる。
それらのうちでも、最も面間隔がポリ乳酸の面間隔に類似し、良好な結晶形成促進効果が得られるフェニルホスホン酸亜鉛が好ましい。なお、使用する結晶促進剤は、市販されているものを用いることができる。具体的には例えば、フェニルホスホン酸亜鉛;エコプロモート(日産化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0033】
結晶核剤の含有量は、ヘリカルキラル高分子100重量部に対して通常0.01〜1.0重量部、好ましくは0.01〜0.5重量部、より良好な結晶促進効果とバイオマス度維持の観点から特に好ましくは0.02〜0.2重量部である。結晶核剤の上記含有量が、0.01重量部未満では結晶促進の効果が十分でなく、1.0重量部を超えると結晶化の速度を制御しにくくなり、高分子圧電材料の透明性が低下する傾向にある。
なお、高分子圧電材料は、透明性の観点からは、ヘリカルキラル高分子以外の成分を含まないことが好ましい。
【0034】
〔構造〕
後述するように、本実施形態の高分子圧電材料は、高度に分子が配向している。この配向を表す指標として、「分子配向度MOR」がある。分子配向度MOR(Molecular Orientation Ratio)は、分子の配向の度合いを示す値であり、以下のようなマイクロ波測定法により測定される。
すなわち、試料(フィルム)を、周知のマイクロ波分子配向度測定装置のマイクロ波共振導波管中に、マイクロ波の進行方向に前記試料面(フィルム面)が垂直になるように配置する。そして、振動方向が一方向に偏ったマイクロ波を試料に連続的に照射した状態で、試料をマイクロ波の進行方向と垂直な面内で0〜360°回転させて、試料を透過したマイクロ波強度を測定することにより分子配向度MORを求める。
本実施形態における規格化分子配向MORcとは、基準厚さtcを50μmとしたときのMOR値であって、下記式により求めることができる。
MORc = (tc/t)×(MOR−1)+1
(tc:補正したい基準厚さ、t:試料厚さ)
規格化分子配向MORcは、公知の分子配向計、例えば王子計測機器株式会社製マイクロ波方式分子配向計MOA−2012AやMOA−6000等により、4GHzもしくは12GHz近傍の共振周波数で測定することができる。
規格化分子配向MORcは、後述の通り、主に一軸延伸フィルムの延伸前の加熱処理条件(加熱温度および加熱時間)や延伸条件(延伸温度および延伸速度)等によって制御されうる。
【0035】
<高分子圧電材料の製造>
本実施形態の高分子圧電材料は、既述のポリ乳酸系高分子などのヘリカルキラル高分子、並びに、必要に応じて他の成分を混合して、混合物とすることにより得られる。
混合物は溶融混練することが好ましい。
具体的には、例えば、2種類のヘリカルキラル高分子を混合する場合やヘリカルキラル高分子に上述の無機フィラーや結晶核剤を混合する場合は、混合するヘリカルキラル高分子を、溶融混練機〔東洋精機社製、ラボプラストミキサー〕を用い、ミキサー回転数30rpm〜70rpm、180℃〜250℃の条件で、5分〜20分間溶融混練することで、複数種のヘリカルキラル高分子のブレンド体やヘリカルキラル高分子と無機フィラーなどの他の成分とのブレンド体を得ることができる。
【0036】
<高分子圧電材料の製造方法>
−第1の方法−
本実施形態の高分子圧電材料は、例えば、ヘリカルキラル高分子を含む非晶状態のシートを加熱して予備結晶化シートを得る第一の工程と、前記予備結晶化シートを主として1軸方向に延伸する第二の工程と、を含む、製造方法によって製造されうる。
一般的に延伸時にフィルムにかける力を増やすことで、ヘリカルキラル高分子の配向が促進され圧電定数も大きくなり、結晶化が進み、結晶サイズが大きくなることでヘイズが大きくなる傾向にある。また内部応力の増加により寸法変形率も増加する傾向がある。単純にフィルムに力をかけた場合、球晶のように配向していない結晶が形成される。球晶のような配向が低い結晶は、ヘイズを上げるものの圧電定数の増加には寄与しにくい。よって、圧電定数が高く、ヘイズ及び寸法変形率が低いフィルムを形成するためには、圧電定数に寄与する配向結晶を、ヘイズを増大させない程度の微小サイズで効率よく形成する必要がある。
本発明の高分子圧電材料の第一の製造方法においては、例えば延伸の前にシート内を予備結晶化させ微細な結晶を形成した後に延伸する。これにより、延伸時にフィルムにかけた力を微結晶と微結晶の間の結晶性が低い高分子部分に効率よくかけることができるようになり、ヘリカルキラル高分子を主な延伸方向に効率よく配向させることができる。具体的には、微結晶と微結晶の間の結晶性が低い高分子部分内に、微細な配向結晶が生成すると同時に、予備結晶化によって生成された球晶がくずれ、球晶を構成しているラメラ晶が、タイ分子鎖につながれた数珠繋ぎ状に延伸方向に配向することで、所望の値のMORcを得ることができる。このため、圧電定数を大きく低下させることなく、ヘイズ及び寸法変形率の値が低いシートを得ることができる。
規格化分子配向MORcを制御するには、第一の工程の加熱処理時間および加熱処理温度、および第二の工程の延伸速度および延伸温度の調整が重要である。
前述のとおり、ヘリカルキラル高分子は、分子構造が螺旋構造である分子光学活性を有する高分子であり、ヘリカルキラル高分子を含む非晶状態のシートは、市場から入手可能なものでもよく、押出成形などの公知のフィルム成形手段で作製されてもよい。非晶状態のシートは単層であっても、多層であっても構わない。
【0037】
〔第一の工程(予備結晶化工程)〕
予備結晶化シートは、ヘリカルキラル高分子を含む非晶状態のシートを加熱処理して結晶化させることで得ることができる。
具体的には、1)非晶状態のシートを加熱処理により結晶化したシートを、後述する延伸工程(第二の工程)に送り、延伸装置にセットして延伸してもよいし(オフラインによる加熱処理)、または2)加熱処理により結晶化されていない非晶状態のシートを、延伸装置にセットして、延伸装置にて加熱して予備結晶化し、その後、連続して延伸工程(第二の工程)に送って、延伸してもよい(インラインによる加熱処理)。
非晶状態のヘリカルキラル高分子を含むシートを予備結晶化するための加熱処理温度Tは特に限定されないが、本製造方法で製造される高分子圧電材料の圧電性や透明性など高める点で、ヘリカルキラル高分子のガラス転移温度Tgと以下の式の関係を満たし、結晶化度が10〜70%になるように設定されるのが好ましい。
Tg≦T≦Tg+40℃
(Tgは、前記ヘリカルキラル高分子材料のガラス転移温度を表す)
【0038】
予備結晶化するための加熱処理時間は、所望の結晶化度を満たし、かつ延伸後(第二工程後)の高分子圧電材料の規格化分子配向MORcと延伸後の高分子圧電材料の結晶化度の積が100〜700、好ましくは125〜650、さらに好ましくは250〜350になるように調整されればよい。加熱処理時間が長くなると、延伸後の結晶化度も高くなり、延伸後の規格化分子配向MORcも高くなる。加熱処理時間が短くなると、延伸後の結晶化度も低くなり、延伸後の規格化分子配向MORcも低くなる。
【0039】
延伸前の予備結晶化シートの結晶化度が高くなると、シートが硬くなってより大きな延伸応力がシートにかかるので、前記シート中の結晶性が比較的低い部分も配向が強くなり、延伸後の規格化分子配向MORcも高くなる。逆に、延伸前の予備結晶化シートの結晶化度が低くなると、シートが柔らかくなって延伸応力がよりシートにかかりにくくなるので、前記シート中の結晶性が比較的低い部分も配向が弱くなり、延伸後の規格化分子配向MORcも低くなると考えられる。
【0040】
加熱処理時間は、加熱処理温度、シートの厚み、シートを構成する樹脂の分子量、添加剤などの種類または量によって異なる。また、シートを結晶化させる実質的な加熱処理時間は、後述する延伸工程(第二工程)の前に行なってもよい予熱において、非晶状態のシートが結晶化する温度で予熱した場合、前記予熱時間と、予熱前の予備結晶化工程における加熱処理時間の和に相当する。
非晶状態のシートの加熱処理時間は、通常は5秒〜60分であり、製造条件の安定化という観点からは1分〜30分でもよい。例えば、ヘリカルキラル高分子としてポリ乳酸樹脂を含む非晶状態のシートを予備結晶化する場合は、60℃〜170℃で、5秒〜60分加熱することが好ましく、1分〜30分でもよい。
【0041】
延伸後のシートに効率的に圧電性、透明性、高寸法安定性を付与するには、延伸前の予備結晶化シートの結晶化度を調整することが重要である。すなわち、延伸により圧電性や寸法安定性が向上する理由は、延伸による応力が、球晶状態にあると推測される予備結晶化シート中の結晶性が比較的高い部分に集中し、球晶が破壊されつつ配向することで圧電性d14が向上する一方、球晶を介して延伸応力が結晶性の比較的低い部分にもかかり、配向を促し、圧電性d14を向上させるからと考えられるからである。
【0042】
延伸後のシートの結晶化度は、40〜80%、好ましくは40〜70%になるように設定される。そのため、予備結晶化シートの延伸直前の結晶化度は3〜70%、好ましくは10〜60%、さらに好ましくは15〜50%になるように設定される。
予備結晶化シートの結晶化度は、延伸後の本実施形態の高分子圧電材料の結晶化度の測定と同様に行なえばよい。
【0043】
予備結晶化シートの厚みは、第二の工程の延伸により得ようとする高分子圧電材料の厚みと延伸倍率によって主に決められるが、好ましくは50〜1000μmであり、より好ましくは200〜800μm程度である。
【0044】
〔第二の工程(延伸工程)〕
第二の工程である、延伸工程における延伸方法は特に制限されず、1軸延伸、2軸延伸、後述する固相延伸などの種々の延伸方法を用いることができる。
高分子圧電材料を延伸することにより、主面の面積が大きな高分子圧電材料を得ることができる。
ここで、「主面」とは、高分子圧電材料の表面の中で、最も面積の大きい面をいう。本実施形態の高分子圧電材料は、主面を2つ以上有してもよい。例えば、高分子圧電材料が、10mm×0.3mm四方の面Aと、3mm×0.3mm四方の面Bと、10mm×3mm四方の面Cとをそれぞれ2面ずつ有する板状体である場合、当該高分子圧電材料の主面は面Cであり、2つの主面を有する。
本実施形態において、主面の面積が大きいとは、高分子圧電材料の主面の面積が5mm以上であることをいい、10mm以上であることが好ましい。
【0045】
また、「固相延伸」とは、『高分子圧電材料のガラス転移温度Tgより高く、高分子圧電材料の融点Tmより低い温度下、かつ5MPa〜10,000MPaの圧縮応力下での延伸』をいい、高分子圧電材料の圧電性をより向上させ、また透明性及び弾力性を向上し得る。
高分子圧電材料を固相延伸または主に一方向に延伸することで、高分子圧電材料に含まれるポリ乳酸系高分子の分子鎖を、一方向に配向させ、かつ高密度に整列させることができ、より高い圧電性が得られると推測される。
ここで、高分子圧電材料のガラス転移温度Tg〔℃〕および高分子圧電材料の融点Tm〔℃〕は、前記示差走査型熱量計(DSC)を用い、高分子圧電材料に対して、昇温速度10℃/分の条件で温度を上昇させたときの融解吸熱曲線から、曲線の屈曲点として得られるガラス転移温度(Tg)と、吸熱反応のピーク値として確認される温度(Tm)である。
【0046】
高分子圧電材料の延伸温度は、1軸延伸方法や2軸延伸方法等のように、引張力のみで高分子圧電材料を延伸する場合は、高分子圧電材料のガラス転移温度より10℃〜20℃程度高い温度範囲であることが好ましい。
固相延伸法の場合は、圧縮応力は、50MPa〜5000MPaが好ましく、100MPa〜3000MPaであることがより好ましい。
延伸処理における延伸倍率は、3倍〜30倍が好ましく、4倍〜15倍の範囲で延伸することがより好ましい。
予備結晶化シートの固相延伸は、高分子圧電材料を、例えば、ロールまたはビュレットに挟んで圧力を負荷することにより行なわれる。
【0047】
予備結晶化シートの延伸を行なうときは、延伸直前にシートを延伸しやすくするために予熱を行なってもよい。この予熱は、一般的には延伸前のシートを軟らかくし延伸しやすくするために行なわれるものであるため、前記延伸前のシートを結晶化してシートを硬くすることがない条件で行なわれるのが通常である。しかし、上述したように本実施形態においては、延伸前に予備結晶化を行なうため、前記予熱を、予備結晶化を兼ねて行なってもよい。具体的には、上述した予備結晶化工程における加熱温度や加熱処理時間に合わせて、予熱を通常行なわれる温度よりも高い温度や長い時間行なうことで、予熱と予備結晶化を兼ねることができる。
【0048】
〔アニール処理工程〕
圧電定数を向上させる観点から、延伸処理を施した後の高分子圧電材料を、一定の熱処理(以下「アニール処理」とも称する)することが好ましい。
アニール処理の温度は、概ね80℃〜160℃であることが好ましく、100℃〜155℃あることがさらに好ましい。
アニール処理の温度印加方法は、特に限定されないが、熱風ヒータや赤外線ヒータを用いて直接加熱したり、加熱したシリコンオイルなど、加熱した液体に高分子圧電材料を浸漬すること等が挙げられる。
このとき、線膨張により高分子圧電材料が変形すると、実用上平坦なフィルムを得ることが困難になるため、高分子圧電材料に一定の引張応力(例えば、0.01MPa〜100Mpa)を印加し、高分子圧電材料がたるまないようにしながら温度を印加することが好ましい。
【0049】
アニール処理の温度印加時間は、1秒〜60分であることが好ましく、1秒〜300秒であることがより好ましく、1秒から60秒の範囲で加熱することがさらに好ましい。60分を超えてアニールをすると、高分子圧電材料のガラス転移温度より高い温度で、非晶部分の分子鎖から球晶が成長することにより配向度が低下する場合があり、その結果、圧電性が低下する場合がある。
上記のようにしてアニール処理された高分子圧電材料は、アニール処理した後に急冷することが好ましい。アニール処理において、「急冷する」とは、アニール処理した高分子圧電材料を、アニール処理直後に、例えば氷水中等に浸漬して、少なくともガラス転移点Tg以下に冷やすことをいい、アニール処理と氷水中等への浸漬との間に他の処理が含まれないことをいう。
【0050】
急冷の方法は、水、氷水、エタノール、ドライアイスを入れたエタノールやメタノール、液体窒素などの冷媒に、アニール処理した高分子圧電材料を浸漬する方法や、蒸気圧の低い液体スプレーを吹き付け、蒸発潜熱により冷却したりする方法が挙げられる。連続的に高分子圧電材料を冷却するには、高分子圧電材料のガラス転移温度Tg以下の温度に管理された金属ロールと、高分子圧電材料とを接触させるなどして、急冷することが可能である。
また、冷却の回数は、1回のみであっても、2回以上であってもよく、さらには、アニールと冷却とを交互に繰り返し行なうことも可能である。
【0051】
−第2の方法−
本実施形態の高分子圧電材料は、ヘリカルキラル高分子を含むシートを主として1軸方向に延伸する工程、アニール工程、および加水分解工程を含む、製造方法によって製造されうる。
主として1軸方向に延伸する工程、アニール工程は、それぞれ第1の方法における延伸工程、アニール工程と同様であるため、説明を省略する。
【0052】
〔加水分解工程〕
本実施形態における加水分解工程は、高分子圧電材料の重量平均分子量が低下する方法であれば特に限定されないが、例えば、温水中に浸したり、常圧下恒温恒湿槽内で処理する、高圧下高温で水蒸気で処理するといった方法が挙げられる。また、加水分解反応を加速するために、超音波、マイクロ波を使用してもよい。さらに、酸、アルカリ、酵素などの触媒を用いてもよい。
【0053】
本実施形態において、主として1軸方向に延伸する工程、アニール工程、および加水分解工程の実施回数、及び実施順は特に制限されないが、主として1軸方向に延伸する工程、アニール工程、加水分解工程の順で1回もしくは複数回処理をしたのちに、再度アニール工程を行うことが好ましい。
なお、加水分解工程は、最初のアニール工程の前に、あるいは、最初の延伸工程の後に行ってもよい。また、第二の延伸は必須ではない。
【0054】
本実施形態において、加水分解工程によって、高分子圧電材料の重量平均分子量が低下するが、その低下の度合いは、下記式(1)で定義される分子量残存率によって表される。分子量残存率は、50%以上90%未満であることが好ましい。
【0055】
分子量残存率=[Mw2/Mw1]×100(%) 式(1)
(Mw1は、加水分解処理前の高分子圧電材料の重量平均分子量を表し、Mw2は、最終アニール処理後の高分子圧電材料の重量平均分子量を表す。)
なお、高分子圧電材料の重量平均分子量は、前述のGPC測定方法により、測定される。
【0056】
本実施形態において、主として1軸方向に延伸する工程、アニール工程によって、高分子圧電材料に含まれるポリ乳酸系高分子の分子鎖を、一方向に配向させ、かつ高密度に整列させた配向結晶が生成するものと推測される。さらに加水分解工程を加えることにより、結晶間に残された非晶部中の分子鎖が部分的に切断され、からみあいが部分的に解け、続いて実施する延伸、アニール工程により、更なる配向結晶の成長が促進されることにより、より高い圧電性が得られると推測される。結晶性が高い部分(圧電性に寄与している部分)は加水分解に対する耐性が高く、上記加水分解処理でもあまり構造に変化がないのに対し、結晶性が低い部分(圧電性に寄与していなかった部分)は加水分解を受けやすく、上記処理により配向して圧電性に寄与するようになっている、と推測される。
【0057】
<高分子圧電材料の物性>
本実施形態に係る高分子圧電材料は、圧電定数が大きく(25℃において変位法で測定した圧電定数d14が4pm/V以上)、透明性、寸法安定性に優れる。
【0058】
〔圧電定数(変位法)〕
本実施形態において、高分子圧電材料の圧電定数は、次のようにして測定される値をいう。
高分子圧電材料を、延伸方向(MD方向)に40mm、延伸方向に直交する方向(TD方向)に40mmでそれぞれカットして、矩形の試験片を作製する。
アルバック社製スパッタ薄膜形成装置JSP−8000の試験台に、得られた試験片をセットし、ロータリーポンプによりコータチャンバー内を真空状態(例えば、10−3Pa以下)にする。その後、Ag(銀)ターゲットに、印加電圧280V、スパッタリング電流0.4A)の条件で、試験片の一方の面に500秒間スパッタリング処理をする。次いで、試験片の他方の面を、同様の条件で500秒間スパッタリング処理をして、試験片の両面にAgを被覆し、Agの導電層を形成する。
両面にAgの導電層が形成された40mm×40mmの試験片を、高分子圧電材料の延伸方向(MD方向)に対して45°なす方向に32mm、45°なす方向に直交する方向に5mmにカットして、32mm×5mmの矩形のフィルムを切り出す。これを、圧電定数測定用サンプルとした。
【0059】
得られたサンプルに、10Hz、300Vppの交流電圧を印加したときの、フィルムの変位の最大値と最小値の差分距離を、キーエンス社製レーザ分光干渉型変位計SI−1000により計測した。計測した変位量(mp−p)を、フィルムの基準長30mmで割った値を歪量とし、この歪量をフィルムに印加した電界強度((印加電圧(V))/(フィルム厚))で割った値に2を乗じた値を圧電定数d14とした。
圧電定数は高ければ高いほど、高分子圧電材料に印加される電圧に対する前記材料の変位、逆に高分子圧電材料に印加される力に対し発生する電圧が大きくなり、高分子圧電材料としては有用である。
具体的には、25℃における変位法で測定した圧電定数d14は4pm/V以上が好ましく、5pm/V以上がより好ましく、6pm/V以上がさらに好ましく、8pm/V以上がさらにより好ましい。
圧電定数の上限は特に限定されないが、後述する透明性などのバランスの観点からは、ヘリカルキラル高分子を用いた圧電材料では50pm/V以下が好ましく、30pm/V以下がより好ましい。
【0060】
〔結晶化度〕
高分子圧電材料の結晶化度は、DSC法によって求められるものであり、本実施形態の高分子圧電材料の結晶化度は40〜80%であり、50〜70%が好ましい。前記範囲に結晶化度があれば、高分子圧電材料の圧電性、透明性のバランスがよく、また高分子圧電材料を延伸するときに、白化や破断がおきにくく製造しやすい。
【0061】
〔透明性(内部ヘイズ)〕
高分子圧電材料の透明性は、例えば、目視観察やヘイズ測定により評価することができる。高分子圧電材料のヘイズは、可視光線に対する透過ヘイズが0.0%〜40%であることが好ましく、0.05%〜30%であることがより好ましい。ここで、ヘイズは、厚さ0.05mmの高分子圧電材料に対して、JIS−K7105に準拠して、ヘイズ測定機〔(有)東京電色製、TC−HIII DPK〕を用いて25℃で測定したときの値であり、測定方法の詳細は実施例において後述する。高分子圧電材料のヘイズは、低ければ低いほどよいが、圧電定数などとのバランスの観点からは、0.01%〜10%であることが好ましく、0.1%〜5%であることがさらに好ましい。なお本願でいう「ヘイズ」または「透過へイズ」とは、本発明の高分子圧電材料の内部へイズをいう。内部へイズとは、実施例において後述するように前記高分子圧電材料の外表面の形状によるヘイズを除外したヘイズである。
【0062】
〔規格化分子配向MORc〕
本実施形態の高分子圧電材料は、規格化分子配向MORcが3.5〜15.0であることが好ましく、4.0〜15.0であることがより好ましく、6.0〜10.0であることがさらに好ましく、7〜10.0であることがさらにより好ましい。規格化分子配向MORcが3.5〜15.0の範囲にあれば、延伸方向に配列するポリ乳酸分子鎖が多く、その結果、配向結晶の生成する率が高くなり、高い圧電性を発現することが可能となる。
【0063】
〔規格化分子配向MORcと結晶化度の積〕
高分子圧電材料の結晶化度と規格化分子配向MORcとの積は100〜700、好ましくは125〜650、さらに好ましくは250〜350である。高分子圧電材料の結晶化度と、規格化分子配向MORcとの積が100〜700の範囲にあれば、高分子圧電材料の圧電性と透明性とのバランスが良好であり、かつ寸法安定性も高く、後述する圧電素子として好適に用いることができる。
【0064】
本実施形態の高分子圧電材料は、以上説明したように圧電定数d14が大きく、透明性、寸法安定性に優れた圧電材料であるので、スピーカー、ヘッドホン、マイクロホン、水中マイクロホン、超音波トランスデューサ、超音波応用計測器、圧電振動子、機械的フィルター、圧電トランス、遅延装置、センサー、加速度センサー、衝撃センサー、振動センサー、感圧センサー、触覚センサー、電界センサー、音圧センサー、ディスプレイ、ファン、ポンプ、可変焦点ミラー、遮音材料、防音材料、キーボード、音響機器、情報処理機、計測機器、医用機器などの種々の分野で利用することができる。
【0065】
このとき、本実施形態の高分子圧電材料は、少なくとも2つの面を有し、当該面には電極が備えられた圧電素子として用いられることが好ましい。電極は、高分子圧電材料の少なくとも2つの面に備えられていればよい。前記電極としては、特に制限されないが、例えば、ITO、ZnO、IZO(登録商標)、導電性ポリマー等が用いられる。
特に高分子圧電材料の主面に電極を備える場合には、透明性のある電極を備えることが好ましい。ここで、電極について、透明性があるとは、具体的には、内部ヘイズが20%以下(全光線透過率が80%以上)であることをいう。
また、本実施形態の高分子圧電材料を用いた前記圧電素子は、スピーカーやタッチパネル等、上述の種々の圧電デバイスに応用することができる。特に、透明性のある電極を備えた圧電素子は、スピーカー、タッチパネル、アクチュエータ等への応用に好適である。
【0066】
<第二の実施形態に係る高分子圧電材料>
第二の実施形態に係る高分子圧電材料は、少なくとも、ポリ乳酸系高分子と、ポリフッ化ビニリデンとを含み、前記ポリフッ化ビニリデンの含有量が、前記ポリ乳酸系高分子の全質量に対して、0質量%を超え5質量%以下であり、かつ、25℃において共振法で測定した圧電定数d14が10pC/N以上である高分子圧電材料である。
本実施形態の高分子圧電材料は、ポリ乳酸系高分子の全質量に対して、0質量%を超え5質量%以下の割合で、ポリフッ化ビニリデンを含む。
高分子圧電材料が、ポリ乳酸系高分子と共にポリフッ化ビニリデンを含むことで、圧電定数が大きく、透明性に優れる。このとき、ポリフッ化ビニリデンは結晶核剤として機能していると考えられる。
【0067】
ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量(Mw)は、3千〜100万であることが好ましい。
重量平均分子量の下限が3千以上であると高分子圧電材料の機械的強度に優れ、上限が100万以下であると、高分子圧電材料の成形(押出成形など)が容易になる。ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量の下限は、3千以上であることが好ましい。ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量の上限は、80万以下であることが好ましく、55万以下であることがさらに好ましい。
【0068】
ポリフッ化ビニリデンの分子量分布(Mw/Mn)は、延伸フィルムの強度、配向度の観点から、1.1〜5であることが好ましく、1.2〜4であることがより好ましい。さらに1.4〜3であることが好ましい。
【0069】
ポリフッ化ビニリデンの含有量は、ポリ乳酸系高分子の全質量に対して、0質量%を超え5質量%以下である。5質量%を超えると、透明性に優れた高分子圧電材料が得られない。さらに、圧電定数をより大きくする観点から、ポリ乳酸系高分子の全質量に対して、0.01質量%〜5質量%であることが好ましく、0.05質量%〜5質量%であることがより好ましく、0.1質量%〜2.5質量%であることがさらに好ましい。
なお、ポリフッ化ビニリデンは、1種のみを単独で用いてもよいし、重量平均分子量Mw、分子量分布(MW/Mn)、またはガラス転移温度Tgが異なる2種以上を混合して用いてもよい。
ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)は、上記したようにGPC測定方法により測定される。
【0070】
〔他の成分〕
本実施形態の高分子圧電材料は、本実施形態の効果を損なわない限度において、ポリ乳酸系高分子及びポリフッ化ビニリデン以外に、ポリエチレン樹脂やポリスチレン樹脂に代表される公知の樹脂や、シリカ、ヒドロキシアパタイト、モンモリロナイト等の無機化合物、フタロシアニン等の公知の結晶核剤等他の成分を含有していてもよい。
【0071】
−無機フィラー−
例えば、高分子圧電材料を、気泡等のボイドの発生を抑えた透明なフィルムとするために、高分子圧電材料中に、ヒドロキシアパタイト等の無機フィラーをナノ分散してもよいが、無機のフィラーをナノ分散させるためには、凝集塊の解砕に大きなエネルギーが必要であり、また、フィラーがナノ分散しない場合、フィルムの透明度が低下する場合がある。本実施形態に係る高分子圧電材料が無機フィラーを含有するとき、高分子圧電材料全質量に対する無機フィラーの含有量は、1質量%未満とすることが好ましい。
【0072】
高分子圧電材料がポリ乳酸系高分子及びポリフッ化ビニリデン以外の成分を含む場合、ポリ乳酸系高分子及びポリフッ化ビニリデン以外の成分の含有量は、高分子圧電材料全質量中に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
なお、高分子圧電材料は、圧電定数及び透明性の観点からは、ポリ乳酸系高分子及びポリフッ化ビニリデン以外の成分を含まないことが好ましい。
【0073】
<高分子圧電材料の製造>
高分子圧電材料は、既述のポリ乳酸系高分子およびポリフッ化ビニリデンを既述の割合で混合し、必要に応じて他の成分を混合して、混合物とすることにより得られる。
混合物は溶融混練することが好ましい。
具体的には、例えば、ポリ乳酸系高分子とポリフッ化ビニリデンとを、溶融混練機〔東洋精機社製、ラボプラストミキサー〕を用い、ミキサー回転数30rpm〜70rpm、180℃〜250℃の条件で、5分〜20分間溶融混練し、ポリ乳酸とポリフッ化ビニリデンとのブレンド体を得ることが挙げられる。
【0074】
<高分子圧電材料の成形>
高分子圧電材料は、延伸処理を施した成形体とすることが好ましい。延伸方法は、特に制限されず、1軸延伸、2軸延伸、後述する固相延伸などの種々の延伸方法を用いることができる。
高分子圧電材料を延伸することにより、主面の面積が大きな高分子圧電材料を得ることができる。
【0075】
ここで、「主面」とは、高分子圧電材料の表面の中で、最も面積の大きい面をいう。本実施形態の高分子圧電材料は、主面を2つ以上有してもよい。例えば、高分子圧電材料が、10mm×0.3mm四方の面Aと、3mm×0.3mm四方の面Bと、10mm×3mm四方の面Cとをそれぞれ2面ずつ有する板状体である場合、当該高分子圧電材料の主面は面Cであり、2つの主面を有する。
本実施形態において、主面の面積が大きいとは、高分子圧電材料の主面の面積が5mm以上であることをいい、10mm以上であることが好ましい。
【0076】
また、「固相延伸」とは、『高分子圧電材料のガラス転移温度Tgより高く、高分子圧電材料の融点Tmより低い温度下、かつ5MPa〜10,000MPaの圧縮応力下での延伸』をいい、高分子圧電材料の圧電性をより向上させ、また透明性及び弾力性を向上し得る。
高分子圧電材料を固相延伸することで、高分子圧電材料に含まれるポリ乳酸系高分子の分子鎖を、一方向に配向させ、かつ高密度に整列させることができ、より高い圧電性が得られると推測される。
【0077】
ここで、高分子圧電材料のガラス転移温度Tg〔℃〕および高分子圧電材料の融点Tm〔℃〕は、前記示差走査型熱量計(DSC)を用い、高分子圧電材料に対して、昇温速度10℃/分の条件で、温度を上昇させたときの、融解吸熱曲線から、曲線の屈曲点として得られるガラス転移温度(Tg)と、吸熱反応のピーク値として確認される温度(Tm)である。
【0078】
高分子圧電材料の延伸温度は、1軸延伸方法や2軸延伸方法等のように、引張力のみで高分子圧電材料を延伸する場合は、高分子圧電材料のガラス転移温度より10℃〜20℃程度高い温度範囲であることが好ましい。
【0079】
圧縮応力は、50MPa〜5000MPaが好ましく、100MPa〜3000MPaであることがより好ましい。
【0080】
延伸処理における延伸倍率は、3倍〜30倍が好ましく、4倍〜15倍の範囲で延伸することがより好ましい。
高分子圧電材料の延伸は、高分子圧電材料を、例えば、ロールまたはビュレットに挟んで圧力を負荷することにより行なわれる。高分子圧電材料の延伸を、ビュレットを用いて行なうときは、ビュレットに挟んだ高分子圧電材料に圧力を負荷する前に、すなわち延伸前に、高分子圧電材料を、予め60℃〜170℃で、1分〜60分加熱する延伸前予熱処理をすることが好ましい。
延伸前予熱処理の温度は、100℃〜160℃であることが好ましく、予熱時間は、5分〜30分であることが好ましい。
【0081】
圧電定数を向上させる観点から、延伸処理を施した後の高分子圧電材料を、一定の熱処理(以下「アニール処理」とも称する)することが好ましい。
アニール処理の温度は、概ね80℃〜160℃であることが好ましく、100℃〜155℃あることがさらに好ましい。
【0082】
アニール処理の温度印加方法は、特に限定されないが、熱風ヒータや赤外線ヒータを用いて直接加熱したり、加熱したシリコンオイルなど、加熱した液体に高分子圧電材料を浸漬すること等が挙げられる。
このとき、線膨張により高分子圧電材料が変形すると、実用上平坦なフィルムを得ることが困難になるため、高分子圧電材料に一定の引張応力(例えば、0.01MPa〜100Mpa)を印加し、高分子圧電材料がたるまないようにしながら温度を印加することが好ましい。
【0083】
アニール処理の温度印加時間は、1秒〜300秒であることが好ましく、1秒から60秒の範囲で加熱することがさらに好ましい。300秒を超えてアニールをすると、高分子圧電材料のガラス転移温度より高い温度で、非晶部分の分子鎖から球晶が成長することにより配向度が低下する場合があり、その結果、圧電性が低下する場合がある。
【0084】
上記のようにしてアニール処理された高分子圧電材料は、アニール処理した後に急冷することが好ましい。アニール処理において、「急冷する」とは、アニール処理した高分子圧電材料を、アニール処理直後に、例えば氷水中等に浸漬して、少なくともガラス転移点Tg以下に冷やすことをいい、アニール処理と氷水中等への浸漬との間に他の処理が含まれないことをいう。
急冷の方法は、水、氷水、エタノール、ドライアイスを入れたエタノールやメタノール、液体窒素などの冷媒に、アニール処理した高分子圧電材料を浸漬する方法や、蒸気圧の低い液体スプレーを吹き付け、蒸発潜熱により冷却したりする方法が挙げられる。連続的に高分子圧電材料を冷却するには、高分子圧電材料のガラス転移温度Tg以下の温度に管理された金属ロールと、高分子圧電材料とを接触させるなどして、急冷することが可能である。
【0085】
また、冷却の回数は、1回のみであっても、2回以上であってもよく、さらには、アニールと冷却とを交互に繰り返し行なうことも可能である。
【0086】
<高分子圧電材料の物性>
本実施形態に係る高分子圧電材料は、圧電定数が大きく(共振法で測定した圧電定数d14が10pC/N以上)、透明性に優れる。
【0087】
〔圧電定数(共振法)〕
本実施形態において、高分子圧電材料の圧電定数は、次のようにして測定される値をいう。
高分子圧電材料を、延伸方向(MD方向)に32mm、延伸方向に直交する方向(TD方向)に30mmにカットして、矩形の試験片を作製する。
サンユー電子社製クイックコータSC−701の試験台に、得られた試験片をセットし、ロータリーポンプによりコータチャンバー内を真空状態(例えば、10−3Pa以下)にする。その後、Au(金)ターゲット、スパッタリング電流4mAの条件で、試験片の一方の面に3分間スパッタリング処理をする。次いで、試験片の他方の面を、同様の条件で3分間スパッタリング処理をして、試験片の両面にAuを被覆し、Auの導電層を形成する。
【0088】
両面にAuの導電層が形成された32mm×30mmの試験片を、高分子圧電材料の延伸方向(MD方向)に10mm、延伸方向に直交する方向(TD方向)に9mmにカットして、矩形のフィルムを切り出す。これを、共振−反共振法測定用サンプルとする。
得られた共振−反共振法測定用サンプルについて、横河ヒューレットパッカード社製インピーダンスアナライザHP4194Aを用いて、50kHz〜100kHzの帯域に現れるインピーダンスの共振曲線を測定する。得られるインピーダンスの共振曲線及び比誘電率εrから、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.37(1998)pp.3374−3376,part1,No.6A,June 1998に示されている方法に準じて圧電定数d14を算出する。
得られた圧電定数を、高分子圧電材料の圧電定数とする。
【0089】
なお、比誘電率εは、共振−反共振法測定用サンプルについて、ヒューレットパッカード社製LCRメータHP4284Aを用いて測定した静電容量C〔F〕から、下記式(A)により算出する。
【0090】
【数1】

【0091】
上記式(A)において、ε、C、d、ε、及びSは次のとおりである。
ε:共振−反共振法測定用サンプルの比誘電率
C:共振−反共振法測定用サンプルの静電容量〔F〕
d:共振−反共振法測定用サンプルの厚さ〔m〕
ε:真空の誘電率
S:共振−反共振法測定用サンプルの面積〔m
【0092】
〔透明性(ヘイズ)〕
高分子圧電材料の透明性は、例えば、目視観察やヘイズ測定により評価することができる。高分子圧電材料のヘイズは、0.5〜30であることが好ましい。ここで、ヘイズは、厚さ0.05mmの高分子圧電材料に対して、JIS−K7105に準拠して、ヘイズ測定機〔(有)東京電色製、TC−HIII DPK〕を用いて25℃で測定したときの値であり、測定方法の詳細は後述する。高分子圧電材料のヘイズは、0.1〜10であることが好ましく、0.1〜5であることがより好ましい。
【0093】
本実施形態の高分子圧電材料は、以上説明したように圧電定数d14が大きく、透明性に優れた圧電材料であるので、スピーカー、タッチパネル、ヘッドホン、マイクロホン、水中マイクロホン、超音波トランスデューサ、超音波応用計測器、圧電振動子、機械的フィルター、圧電トランス、遅延装置、センサー、加速度センサー、衝撃センサー、振動センサー、感圧センサー、触覚センサー、電界センサー、音圧センサー、ディスプレイ、ファン、ポンプ、可変焦点ミラー、遮音材料、防音材料、キーボード、音響機器、情報処理機、計測機器、医用機器などの種々の分野で利用することができる。
【0094】
このとき、本実施形態の高分子圧電材料は、少なくとも2つの面を有し、当該面には電極が備えられた圧電素子として用いられることが好ましい。電極は、高分子圧電材料の少なくとも2つの面に備えられていればよい。前記電極としては、特に制限されないが、例えば、ITO、ZnO、IZO(登録商標)、導電性ポリマー等が用いられる。
特に高分子圧電材料の主面に電極を備える場合には、透明性のある電極を備えることが好ましい。ここで、電極について、透明性があるとは、具体的には、内部ヘイズが20以下(全光線透過率が80%以上)であることをいう。
【0095】
また、本実施形態の高分子圧電材料を用いた前記圧電素子は、スピーカーやタッチパネル等、上述の種々の圧電デバイスに応用することができる。特に、透明性のある電極を備えた圧電素子は、スピーカー、タッチパネル、アクチュエータ等への応用に好適である。
【実施例】
【0096】
以下、本発明の実施形態を実施例により更に具体的に説明するが、本実施形態はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0097】
<第一の実施形態>
〔実施例1−1〕
三井化学(株)製ポリ乳酸系樹脂(登録商標LACEA、H−400(重量平均分子量Mw:20万)を、押出機にて230℃で溶融混練した後、Tダイから吐出させて、厚さ300μmの原反シートを製膜し、表面温度58℃のキャストロールで巻き取った。
次に原反シートをTD方向に7cm×MD方向に13cmにカットし、この原反フィルムを、150mm角、厚さ0.15mmのアルミニウム製板2枚の間に挟み、90℃、2分加熱して予備結晶化し、結晶化原反を作成した(予備結晶化工程)。
次に、得られた結晶化原反を、恒温槽付き引張試験機のチャックに、対向するフィルムの2辺にセットした。フィルム幅7cm、チャック間距離は30mmであった。原反をセット後、常温から恒温槽の設定温度80℃にフィルム表面温度を上げ、80℃に到達後直ぐに、延伸速度100mm/分で延伸を開始し、延伸倍率4.1倍まで一軸延伸して、厚さ0.05mmの一軸延伸フィルムを得た。
前記一軸延伸フィルムを、#1500番の紙やすり2枚で挟み込み、さらに厚さ0.15mmのアルミ板2枚で、3層の積層体を挟み込み5層の積層体とした。この積層体を、厚さ50μmのポリイミドフィルムからなる封筒状の真空パックに入れ、内部を真空ポンプで脱気し、真空状態にした。この真空状態にした真空パックを、150℃にセットした熱プレスの間隙1mmの上板と下板間に挿入した。フィルムを挿入後、10分間アニール処理し、高分子圧電材料を作製した。
【0098】
〔実施例1−2〜1−6、比較例1−1〕
次いで、実施例1−1の高分子圧電材料の作製において、予備結晶化条件や延伸条件を、表1に示す条件に変更したほかは同様にして、実施例1−2〜1−6、比較例1−1の高分子圧電材料を作製した。
【0099】
〔実施例1−7〕
次いで、実施例1−1の高分子圧電材料の作製において、原反シートの原料として三井化学(株)製ポリ乳酸系樹脂(登録商標LACEA、H−400(重量平均分子量Mw:20万)に代えて、前記H−400 100重量部に、フェニルホスホン酸亜鉛(エコプロモート、日産化学工業株式会社製)を0.1重量部添加したものを用いた以外は実施例1−1と同様にして、高分子圧電材料を作製した。
【0100】
〔実施例1−8、実施例1−9、比較例1−2〜1−7〕
次いで、実施例1−7の高分子圧電材料の作製において、予備結晶化条件、延伸条件、結晶核剤の添加量を、表1に示す条件に変更したほかは同様にして、実施例1−8、実施例1−9、比較例1−2〜1−7の高分子圧電材料を作製した。
【0101】
−樹脂(光学活性高分子)のL体量とD体量の測定−
50mLの三角フラスコに1.0gのサンプル(高分子圧電材料)を秤り込み、IPA(イソプロピルアルコール)2.5mLと、5.0mol/L水酸化ナトリウム溶液5mLとを加えた。
サンプル溶液が入った前記三角フラスコを、温度40℃の水浴に入れ、ポリ乳酸が完全に加水分解するまで、約5時間攪拌した。
【0102】
前記サンプル溶液を室温まで冷却後、1.0mol/L塩酸溶液を20mL加えて中和し、三角フラスコを密栓してよくかき混ぜた。サンプル溶液の1.0mLを25mLのメスフラスコに取り分け、移動相で25mLとしてHPLC試料溶液1を調製した。
【0103】
HPLC試料溶液1を、HPLC装置に5μL注入し、下記HPLC条件で、ポリ乳酸のD/L体ピーク面積を求め、L体の量とD体の量を算出した。
【0104】
−HPLC測定条件−
・カラム
光学分割カラム、(株)住化分析センター製 SUMICHIRAL OA5000
・測定装置
日本分光社製 液体クロマトグラフィ
・カラム温度
25℃
・移動相
1.0mM−硫酸銅(II)緩衝液/IPA=98/2(V/V)
硫酸銅(II)/IPA/水=156.4mg/20mL/980mL
・移動相流量
1.0ml/分
・検出器
紫外線検出器(UV254nm)
【0105】
<分子量分布>
ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を用い、下記GPC測定方法により、実施例および比較例の各高分子圧電材料に含まれる樹脂(光学活性高分子)の分子量分布(Mw/Mn)を測定した。
【0106】
−GPC測定方法−
・測定装置
Waters社製GPC−100
・カラム
昭和電工社製、Shodex LF−804
・サンプルの調製
実施例および比較例の各高分子圧電材料を、それぞれ40℃で溶媒〔クロロホルム〕へ溶解させ、濃度1mg/mlのサンプル溶液を準備した。
・測定条件
サンプル溶液0.1mlを溶媒(クロロホルム)、温度40℃、1ml/分の流速でカラムに導入し、カラムで分離されたサンプル溶液中のサンプル濃度を示差屈折計で測定した。樹脂の分子量は、ポリスチレン標準試料にてユニバーサル検量線を作成し、各樹脂の重量平均分子量(Mw)を算出した。
結果を表1に示した。なお、表1において、「LA」はLACEA H−400を表し、「EP」はエコプロモートを表す。また、添加剤の量は、LACEA H−400を100重量部としたときの重量部である。
【0107】
【表1】

【0108】
<物性測定および評価>
以上のようにして得られた実施例1−1〜1−9、比較例1−1〜1−7の高分子圧電材料について、各高分子圧電材料のガラス転移温度Tg、融点Tm、結晶化度、比熱容量Cp、厚さ、ヘイズ、圧電定数、MORc、寸法安定性を測定した。結果を表2に示す。また表2中で内部へイズが「0.0」というものがあるが、これは小数点以下、2桁目を四捨五入した値である。
なお、具体的には、次のようにして測定した。
【0109】
〔ガラス転移温度Tg、融点Tm、及び結晶化度〕
実施例および比較例の各高分子圧電材料を、それぞれ10mg正確に秤量し、示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製DSC−1)を用い、昇温速度10℃/分の条件で測定し、融解吸熱曲線を得た。得られた融解吸熱曲線から融点Tm、ガラス転移温度Tg、比熱容量Cpおよび結晶化度を得た。
【0110】
〔比熱容量Cp〕
実施例および比較例の各高分子圧電材料を上記示差走査型熱量計で測定したときに、1g当たり1℃上昇させるのに要した熱量を測定した。測定条件はTg、Tmと同様の条件で測定した。
【0111】
〔寸法安定性〕
延伸したフィルムを、延伸方向(MD方向)に30mm、延伸方向と直交する方向(TD方向)に6mmカットして、30mm×6mmの矩形フィルムを切り出した。#1500番の紙やすり2枚で矩形フィルムを挟み込み、さらに厚さ0.15mmのアルミ板2枚で3層の積層体を挟み込み5層の積層体とした。この積層体を、厚さ50μmのポリイミドフィルムからなる封筒状の真空パックに入れ、内部を真空ポンプで脱気し、真空状態にした。この真空状態にしたポリイミド封筒を、150℃にセットした熱プレスの間隙1mmの上板と下板間に挿入した。フィルムを挿入後、10分間アニール処理し、その後、アニール前後のフィルム長の変化率(%)の絶対値により、寸法安定性を評価した。
【0112】
〔内部ヘイズ〕
本願でいう「ヘイズ」または「透過へイズ」とは本発明の高分子圧電材料の内部へイズのことをいい、測定方法は一般的な方法で測定される。具体的には、実施例および比較例の各高分子圧電材料の内部ヘイズ値は、下記測定条件下で下記装置を用いて、厚さ方向の光透過性を測定することにより、測定した。本発明の高分子圧電材料の内部ヘイズ(以下、内部ヘイズ(H1)ともいう)は、予めガラス板2枚の間に、シリコンオイル(信越化学工業株式会社製信越シリコーン(商標)、型番:KF96−100CS)のみを挟んでヘイズ(H2)を測定し、次にシリコンオイルで表面を均一に塗らしたフィルムを、ガラス板2枚で挟んでヘイズ(H3)を測定し、下記式のようにこれらの差をとることで本発明の高分子圧電材料の内部ヘイズ(H1)を得た。
内部ヘイズ(H1)=ヘイズ(H3)−ヘイズ(H2)
実施例および比較例の各高分子圧電材料のヘイズ値を測定するためにヘイズ(H2)とヘイズ(H3)とを、下記測定条件下で下記装置を用いて、厚さ方向の光透過性を測定することにより、高分子圧電材料の内部ヘイズ(H1)を算出した。
測定装置:東京電色社製、HAZE METER TC−HIIIDPK
試料サイズ:幅30mm×長さ30mm、厚さ0.05mm
測定条件:JIS−K7105に準拠
測定温度:室温(25℃)
【0113】
〔圧電定数d14(変位法による)〕
両面にAgの導電層が形成された40mm×40mmの試験片を、高分子圧電材料の延伸方向(MD方向)に対して45°なす方向に32mm、45°なす方向に直交する方向に5mmにカットして、32mm×5mmの矩形のフィルムを切り出した。これを、圧電定数測定用サンプルとした。
得られたサンプルに、10Hz、300Vppの交流電圧を印加したときの、フィルムの変位の最大値と最小値の差分距離を、キーエンス社製レーザ分光干渉型変位計SI−1000により計測した。
計測した、変位量(mp−p)を、フィルムの基準長30mmで割った値を歪量とし、この歪量をフィルムに印加した電界強度((印加電圧(V))/(フィルム厚))で割った値に2を乗じた値を圧電定数d14(pm/V)とした。
【0114】
〔規格化分子配向MORc〕
規格化分子配向MORcは、王子計測機器株式会社製マイクロ波方式分子配向計MOA−6000により測定した。基準厚さtcは、50μmに設定した。
【0115】
【表2】

【0116】
〔実施例1−10〕
−延伸前フィルムA11の作製−
光学活性を有する樹脂〔三井化学(株)製ポリ乳酸系樹脂(登録商標LACEA、H−400(重量平均分子量Mw:20万)〕のペレットを約4g秤量し、250mm角、厚さ5mmのSUS製板2枚の間に、直径150mmの円板状の孔が空いた厚さ0.15mmの250mm角のアルミ板のスペーサを介して挟み込み、東洋精機社製熱プレス(商標:ミニテストプレス)にて、温度230℃に設定した熱板で、5MPaで3分間保持した(以上の処理を「熱プレス処理」と称する)。
上記熱プレス処理後、加圧したまま、空冷ファンで、急速に室温に戻し、直径150mm、厚さ150μmの円板状の延伸前フィルムA11を得た。
【0117】
上記のポリ乳酸の円板状のシートを得る具体的手段を図面で説明する。
図1には、スペーサ4を、2枚のSUS製板2で挟む熱プレス処理の模式図(斜視図)が示されている。図2には、2枚のSUS製板2で挟まれたポリ乳酸のペレット6を熱板でプレスする加熱加圧装置(熱プレス機)10の模式図(側面断面図)が示されている。
【0118】
図1において、スペーサ4は厚さ0.15mmの250mm角のアルミ板であり、中央に直径150mmの円板状の孔が空いている。また、SUS製板2は、250mm角、厚さ5mmのステンレス鋼板である。
ポリ乳酸のペレット6は、スペーサ4の円板状の孔に収納され、2枚のSUS製板2で挟んだ。
【0119】
スペーサ4と、ポリ乳酸のペレット6とを挟んだ2枚のSUS製板2を、図2に示すように、さらに2枚の熱板8で挟み、熱プレス機10で加圧した。
【0120】
−1軸延伸処理(1)−
次に1軸延伸するため、熱プレスした延伸前フィルムA11から、幅100mm、長さ50mmの矩形のフィルムA12を切り出した。
切り出したフィルムを、柴山科学器械製作所社製高分子フィルム二軸延伸装置SS−60にセットし、1軸延伸チャックのみで、フィルムA12の100mmの長辺部の両端を、長辺の端から1cmの範囲をチャックで固定し、実質的に延伸前のフィルムの形状が幅100mm、長さ30mmとなるようにセットした。装置内の設定温度を70℃に設定した後、延伸装置の庫内温度およびフィルムの表面温度が70℃に到達して直ぐに、延伸操作を開始した。
延伸条件は、延伸装置の庫内温度の設定温度70℃、延伸倍率5倍、延伸速度30mm/分で操作し、フィルムA12を延伸した。
【0121】
−アニール処理(1)−
次にアニール処理するために、延伸装置にフィルムA12をチャックしたまま、装置内の設定温度を、150℃にセットし、150℃に到達してから150℃を1時間保持した後、フィルムにサンハヤト社製134aQREIスプレー(冷却スプレー)を吹き付け、ガラス転移点以下の温度に冷却した。
このようにして、幅50mm、長さ150mm、厚さ0.06mm、面積7200mm、アニール処理をした延伸倍率5倍のフィルムA13を得た。
【0122】
−加水分解処理(1)−
次に加水分解処理をするために、1回目のアニール処理をしたフィルムA13から、幅45mm、長さ90mmの矩形のフィルムA14を切り出した。
切り出したフィルムを1軸延伸用固定器具にセットした。フィルムA14の90mmの長辺部の両端を、長辺の端から10mmの範囲をチャックで固定し、実質的に延伸前のフィルムの形状が幅45mm、長さ70mmとなるようにセットした。セットしたフィルムを固定器具とともに90℃の温水に1時間浸漬し、加水分解処理した。
【0123】
−1軸延伸処理(2)−
次に2度目の1軸延伸処理をするために、90℃温水中で、延伸倍率1.05倍、延伸速度30mm/分で1軸延伸した。
【0124】
−アニール処理(2)−
次にアニール処理するために、1軸延伸したフィルムを固定器具とともに、150℃にセットした熱風乾燥機中に入れた。1時間保持した後、フィルムにサンハヤト社製134aQREIスプレー(冷却スプレー)を吹き付け、ガラス転移点以下の温度に冷却した。
このようにして延伸倍率1.05倍の1軸延伸処理とアニール処理を4回繰り返し、延伸倍率6.1倍の実施例1−10の高分子圧電材料1−10を作製した。
【0125】
〔実施例1−11〕
実施例1−10の「1軸延伸処理(1)」における延伸倍率を8倍に変更したこと以外は実施例1−10と同様にしてアニール処理をした延伸倍率8倍のフィルムから矩形のフィルムを切り出し、1軸延伸用固定器具にセットした。
【0126】
実施例1−10において、90℃の温水に1時間浸漬し、同温水中で延伸倍率1.05倍の1軸延伸をした後にアニール処理をする代わりに、90℃温水に4時間浸漬し、同温水中で延伸倍率1.05倍の1軸延伸をした後に、150℃熱風乾燥機中で1時間保持した後、フィルムにサンハヤト社製134aQREIスプレー(冷却スプレー)を吹き付け、ガラス転移点以下の温度に冷却した。
このようにして、延伸倍率8.4倍の実施例1−11の高分子圧電材料1−11を作製した。
【0127】
<物性測定および評価>
以上のようにして得られた実施例1−10、1−11の高分子圧電材料について、各高分子圧電材料の重量平均分子量、融点Tm、結晶化度、厚さ、ヘイズ(内部ヘイズ)、圧電定数、MORcを測定した。結果を表4に示す。
具体的には、次のようにして測定した。
【0128】
<重量平均分子量>
ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)を用い、下記GPC測定方法により、実施例および比較例の加水分解処理前(Mw1)と最終アニール処理後(Mw2)の重量平均分子量を測定した。また、分子量残存率を下式(1)により定義し、算出した。
分子量残存率=[Mw2/Mw1]×100(%) 式(1)
【0129】
−GPC測定方法−
・測定装置
Waters社製、GPC−100
・カラム
昭和電工社製、Shodex LF−804
・サンプルの調製
実施例および比較例の各高分子圧電材料を、それぞれ25℃で溶媒(クロロホルム)へ溶解させ、濃度1mg/mlのサンプル溶液を準備した。
・測定条件
サンプル溶液0.1mlを溶媒(クロロホルム)、温度40℃、1ml/分の流速でカラムに導入し、カラムで分離されたサンプル溶液中のサンプル濃度を示差屈折計で測定した。樹脂の分子量は、ポリスチレン標準試料にてユニバーサル検量線を作成し、各樹脂の重量平均分子量(Mw)を算出した。
結果を表4に示した。
【0130】
〔融点Tm、及び結晶化度〕
実施例および比較例の各高分子圧電材料を、それぞれ5mg正確に秤量し、示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製DSC−1)を用い、昇温速度10℃/分の条件で測定し、融解吸熱曲線を得た。得られた融解吸熱曲線から融点Tm、ガラス転移温度Tg、および結晶化度を得た。
【0131】
〔ヘイズ(内部へイズ)〕
本願でいう「ヘイズ」または「透過へイズ」とは本発明の高分子圧電材料の内部へイズのことをいい、測定方法は一般的な方法で測定される。具体的には、実施例および比較例の各高分子圧電材料の内部ヘイズ値は、下記測定条件下で下記装置を用いて、厚さ方向の光透過性を測定することにより、測定した。本発明の高分子圧電材料の内部ヘイズ(以下、内部ヘイズ(H1)ともいう)は、予めガラス板2枚の間に、シリコンオイル(信越化学工業株式会社製信越シリコーン(商標)、型番:KF96−100CS)のみを挟んでヘイズ(H2)を測定し、次にシリコンオイルで表面を均一に塗らしたフィルムを、ガラス板2枚で挟んでヘイズ(H3)を測定し、下記式のようにこれらの差をとることで本発明の高分子圧電材料の内部ヘイズ(H1)を得た。
内部ヘイズ(H1)=ヘイズ(H3)−ヘイズ(H2)
実施例および比較例の各高分子圧電材料のヘイズ値を測定するためにヘイズ(H2)とヘイズ(H3)とを、下記測定条件下で下記装置を用いて、厚さ方向の光透過性を測定することにより、高分子圧電材料の内部ヘイズ(H1)を算出した。
測定装置:東京電色社製、HAZE METER TC−HIIIDPK
試料サイズ:幅3mm×長さ30mm、厚さ0.05 mm
測定条件:JIS−K7105に準拠
測定温度:室温(25℃)
【0132】
〔圧電定数d14(変位法による)〕
実施例1−10、1−11の各高分子圧電材料を、それぞれ長さ1cm、幅3mmにカットして、試験片を作製した。
得られた試験片を、東洋精機製作所社製の「レオログラフソリッドS−1型」を用いて、周波数10Hz、各試験片の複素圧電率d14を室温にて測定した。複素圧電率d14は、「d14=d14’―id14’’」として算出した。圧電定数測定は5回行い、d14’の平均値を圧電定数として表4に示した。
なお、圧電定数の測定時のせん断ひずみは0.05%で測定した。
【0133】
〔規格化分子配向MORc〕
規格化分子配向MORcは、王子計測機器株式会社製マイクロ波方式分子配向計MOA−6000により測定した。基準厚さtcは、50μmに設定した。
【0134】
【表3】

【0135】
【表4】


<第2の実施形態>
【0136】
〔比較例2−1〕
−ブレンド体の作製−
ポリ乳酸系高分子として、三井化学社製、ポリ乳酸H−400〔登録商標LACEA、重量平均分子量Mw:24万〕のペレットを用意し、ポリフッ化ビニリデンとして、アルドリッチ社製、ポリフッ化ビニリデン〔重量平均分子量Mw:53万〕のペレットを用意した。
用意したポリ乳酸H−400(90質量部)とポリフッ化ビニリデンと(10質量部)とを、溶融混練機〔東洋精機社製、ラボプラストミキサー〕を用い、ミキサー回転数50rpm、210℃の条件で、10分間溶融混練し、ポリ乳酸とポリフッ化ビニリデンとのブレンド体(ブレンド体101)を得た。
【0137】
−延伸前フィルムの作製−
ブレンド体1を4g秤量し、250mm角、厚さ5mmのSUS製板2枚の間に、中心に直径150mmの円板状の孔が空いた厚さ0.15mmの250mm角のアルミ板のスペーサを介して挟み込み、東洋精機社製熱プレス(商標:ミニテストプレス)にて、温度210℃に設定した熱板で、5MPaで3分保持した(以上の処理を「熱プレス処理」と称する)。
上記熱プレス処理後、加圧したまま、空冷ファンで、急速に室温に戻し、直径150mm、厚さ150μmの円板状の延伸前フィルムA1を得た。
【0138】
−1軸延伸−
次に1軸延伸するため、熱プレスした延伸前フィルムA1から、幅100mm、長さ50mmの矩形のフィルムA2を切り出した。
切り出したフィルムA2を、柴山科学器械製作所社製の高分子フィルム二軸延伸装置SS−60にセットし、装置内の設定温度を70℃に設定した後、延伸装置の庫内温度およびフィルムの表面温度が70℃に到達して直ぐに、延伸操作を開始した。
延伸条件は、延伸装置の庫内温度の設定温度(延伸温度)70℃、延伸倍率6倍、延伸速度30mm/分で操作し、フィルムA2を延伸し、フィルムA3を得た。
【0139】
−アニール処理−
次にアニール処理するために、延伸装置にフィルムA3をセットしまま、装置内の設定温度を、150℃にセットし、150℃に到達してから150℃を10分保持してアニール処理を施した。その後、フィルムにサンハヤト社製134aQREIスプレー(冷却スプレー)を吹き付け、ガラス転移点以下の温度に冷却した。
このようにして比較例2−1の高分子圧電材料101を作製した。
【0140】
〔実施例2−1〜実施例2−11、及び比較例2−2〜比較例2−4〕
比較例2−1のブレンド体101の作製において、ポリ乳酸(PLA)および、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)に代えて、表5に示すポリ乳酸(PLA)および、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を使用した以外は同様にしてブレンド体1〜8、及び102〜104を作製した。
次いで、比較例2−1の高分子圧電材料101の作製において、ブレンド体101に代えて、表5に示すブレンド体を用い、延伸条件を、表5に示す条件に変更したほかは、同様にして、実施例2−1〜実施例2−11、及び比較例2−2〜比較例2−4の高分子圧電材料1〜11、及び102〜104を作製した。
【0141】
表5の「PLA」欄における「H−400架橋品」は、三井化学社製、ポリ乳酸H−400〔登録商標LACEA、重量平均分子量Mw:24万〕99.6質量部と、架橋剤〔日本油脂社製、有機化酸化物PH25B〕0.4質量部とを、210℃の下、混合し得た高分子であり、前記式(1)で表される繰り返し単位を主鎖とする化合物である。
【0142】
また、実施例で用いたポリフッ化ビニリデンの融点Tmは次のとおりであった。
・PVDF(Mw:53万)・・・Tm171℃
・PVDF(Mw:28万)・・・Tm170℃
・PVDF(Mw:18万)・・・Tm172℃
【0143】
〔比較例2−5〕
比較例2−1の高分子圧電材料101の作製において、ブレンド体101に代えて、ポリ乳酸H−400〔三井化学社製、登録商標LACEA、重量平均分子量Mw:20万〕のみを用いた他は同様にして、比較例2−1の高分子圧電材料105を作製した。
【0144】
〔比較例2−6〕
比較例2−1の高分子圧電材料101の作製において、ブレンド体101に代えて、アルドリッチ社製、ポリフッ化ビニリデン〔重量平均分子量Mw:18万〕のみを用いた他は同様にして、比較例2−6の高分子圧電材料106を作製した。
【0145】
〔比較例2−7〕
実施例2−9の高分子圧電材料9の作製におけるブレンド体7の作製において、アルドリッチ社製、ポリフッ化ビニリデン〔重量平均分子量Mw:18万〕に代えて、アルドリッチ社製、アセチルセルロース〔数平均分子量Mn:3万〕を用いた他は同様にして、ブレンド体105を作製した。
次いで、比較例2−1の高分子圧電材料101の作製において、ブレンド体101に代えて、ブレンド体105を用いた他は同様にして、比較例2−7の高分子圧電材料107を作製した。
なお、表5中、「質量割合 PLA/PVDF」欄に記載されている「0.50%」は、PLA/アセチルセルロースの質量割合を示し、「質量割合 PLA:PVDF」欄に記載されている「99.5:0.5」は、PLA:アセチルセルロースの質量割合を示す。
【0146】
<物性測定および評価>
以上のようにして得られた実施例2−1〜2−11の高分子圧電材料1〜11及び比較例2−1〜2−7の高分子圧電材料101〜107について、各高分子圧電材料のガラス転移温度Tg、融点Tm、結晶化度、圧電定数、規格化分子配向MORc、及び寸法変化率を測定した。結果を表6に示す。
具体的には、次のようにして測定した。
【0147】
〔ガラス転移温度Tg、融点Tm、及び結晶化度〕
実施例および比較例の各高分子圧電材料を、それぞれ10mg正確に秤量し、示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製DSC−1)を用い、昇温速度10℃/分の条件で測定し、融解吸熱曲線を得た。得られた融解吸熱曲線から融点Tm、ガラス転移温度Tg、および結晶化度を得た。
【0148】
〔透明性(内部へイズ)〕
実施例2−1〜2−11の高分子圧電材料および比較例2−1〜2−7の高分子圧電材料の透明性を、高分子圧電材料のヘイズ値(内部へイズ)から評価した。本発明の高分子圧電材料の内部ヘイズ(以下、内部ヘイズ(H1)ともいう)は、予めガラス板2枚の間に、シリコンオイル(信越化学工業株式会社製信越シリコーン(商標)、型番:KF96−100CS)のみを挟んでヘイズ(H2)を測定し、次にシリコンオイルで表面を均一に塗らしたフィルムを、ガラス板で2枚挟んでヘイズ(H3)を測定し、下記式のようにこれらの差をとることで本発明の高分子圧電材料の内部ヘイズ(H1)を得た。
内部ヘイズ(H1)=ヘイズ(H3)−ヘイズ(H2)
実施例および比較例の各高分子圧電材料のヘイズ値を測定するためにヘイズ(H2)とヘイズ(H3)とを、下記測定条件下で下記装置を用いて、厚さ方向の光透過性を測定することにより、高分子圧電材料の内部ヘイズ(H1)を算出した。
・測定装置 :東京電色社製、HAZE METER TC−HIIIDPK
・試料サイズ:幅3mm×長さ30mm、厚さ0.05mm
・測定条件 :JIS−K7105に準拠
・測定温度 :室温(25℃)
【0149】
得られたヘイズ値(内部ヘイズ)の大きさに基づき、下記評価基準により評価した。
−評価基準−
A:ヘイズ値(内部ヘイズ)が6%以下である。
B:ヘイズ値(内部ヘイズ)が6%を超え、40%以下である。
C:ヘイズ値(内部ヘイズ)が40%を超える。
【0150】
〔圧電定数d14(共振法による)〕
実施例および比較例の各高分子圧電材料を、延伸方向(MD方向)に32mm、延伸方向に直交する方向(TD方向)に30mmにカットして、矩形の試験片を作製した。
サンユー電子社製クイックコータSC−701の試験台に、得られた試験片をセットし、ロータリーポンプによりコータチャンバー内を真空状態(10−3Pa以下)にした。その後、Au(金)ターゲット、スパッタリング電流4mAの条件で、試験片の一方の面に3分間スパッタリング処理をした。次いで、試験片の他方の面を、同様の条件で3分間スパッタリング処理をして、試験片の両面にAuを被覆し、Auの導電層を形成した。
【0151】
両面にAuの導電層が形成された32mm×30mmの試験片を、高分子圧電材料の延伸方向(MD方向)に10mm、延伸方向に直交する方向(TD方向)に9mmにカットして、矩形のフィルムを切り出した。これを、共振−反共振法測定用サンプルとした。
得られた共振−反共振法測定用サンプルについて、横河ヒューレットパッカード社製インピーダンスアナライザHP4194Aを用いて、50kHz〜100kHzの帯域に現れるインピーダンスの共振曲線を測定した。得られたインピーダンスの共振曲線及び比誘電率εrから、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.37(1998)pp.3374−3376,part1,No.6A,June 1998に示されている方法に準じて圧電定数d14を算出した。
得られた圧電定数を、実施例および比較例の各高分子圧電材料の圧電定数として評価した。
なお、比誘電率εは、共振−反共振法測定用サンプルについて、ヒューレットパッカード社製LCRメータHP4284Aを用いて測定した静電容量C〔F〕から、前記式(A)により算出した。
【0152】
〔寸法安定性〕
延伸したフィルムを、延伸方向(MD方向)に30mm、延伸方向と直交する方向(TD方向)に6mmカットして、30mm×6mmの矩形フィルムを切り出した。#1500番の紙やすり2枚で矩形フィルムを挟み込み、さらに厚さ0.15mmのアルミ板2枚で3層の積層体を挟み込み5層の積層体とした。この積層体を、厚さ50μmのポリイミドフィルムからなる封筒状の真空パックに入れ、内部を真空ポンプで脱気し、真空状態にした。この真空状態にしたポリイミド封筒を、150℃にセットした熱プレスの間隙1mmの上板と下板間に挿入した。フィルムを挿入後、10分間アニール処理し、その後、アニール前後のフィルム長の変化率(%)の絶対値により、寸法安定性を評価した。
【0153】
〔規格化分子配向MORc〕
規格化分子配向MORcは、王子計測機器株式会社製マイクロ波方式分子配向計MOA−6000により測定した。基準厚さtcは、50μmに設定した。
【0154】
【表5】

【0155】
【表6】

【0156】
表6中の実施例の高分子圧電材料は、いずれも透明性に優れ、かつ、共振法による圧電定数が11pC/N以上の圧電定数の大きな高分子圧電材料であった。
【符号の説明】
【0157】
2 SUS製板
4 スペーサ
6 ペレット
8 熱板
10 加熱加圧装置(熱プレス機)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が5万〜100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子を含み、
DSC法で得られる結晶化度が40%〜80%であり、
可視光線に対する透過ヘイズが0.0%〜40%であり、かつ、
マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcと前記結晶化度との積が100〜700である、高分子圧電材料。
【請求項2】
前記MORcが3.5〜15.0である、請求項1に記載の高分子圧電材料。
【請求項3】
可視光線に対する透過ヘイズが0.05%〜30%であり、
前記MORcが6.0〜10.0である、請求項1または請求項2に記載の高分子圧電材料。
【請求項4】
25℃において変位法で測定した圧電定数d14が4pm/V以上である、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の高分子圧電材料。
【請求項5】
前記ヘリカルキラル高分子が、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有するポリ乳酸系高分子である請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の高分子圧電材料。
【化1】

【請求項6】
前記ヘリカルキラル高分子は、光学純度が95.00%ee以上である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の高分子圧電材料。
【請求項7】
さらに、ポリフッ化ビニリデンを含み、前記ポリフッ化ビニリデンの含有量が、前記ポリ乳酸系高分子の全質量に対して、0質量%を超え5質量%以下であり、かつ、25℃において共振法で測定した圧電定数d14が10pC/N以上である請求項5に記載の高分子圧電材料。
【請求項8】
前記ポリフッ化ビニリデンの含有量が、前記ポリ乳酸系高分子の全質量に対して、0.01質量%〜5質量%である請求項7に記載の高分子圧電材料。
【請求項9】
前記ポリフッ化ビニリデンの重量平均分子量が3千〜80万である請求項7または請求項8に記載の高分子圧電材料。
【請求項10】
前記高分子圧電材料に含まれるヘリカルキラル高分子100重量部に対し、結晶核剤を0.01〜1.0重量部含む、請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の高分子圧電材料。
【請求項11】
前記結晶核剤が、フェニルスルホン酸亜鉛、ポリリン酸メラミン、メラミンシアヌレート、フェニルホスホン酸亜鉛、フェニルホスホン酸カルシウム、フェニルホスホン酸マグネシウム、タルク、及びクレーからなる群から選ばれる少なくとも1種類の化合物である、請求項10に記載の高分子圧電材料。
【請求項12】
主面の面積が5mm以上である請求項1〜請求項11のいずれか1項に記載の高分子圧電材料。
【請求項13】
請求項1〜請求項12のいずれか1項に記載の高分子圧電材料を製造する方法であって、
ヘリカルキラル高分子を含む非晶状態のシートを加熱して予備結晶化シートを得る第一の工程と、
前記予備結晶化シートを主として1軸方向に延伸する第二の工程と、
を含む、高分子圧電材料の製造方法。
【請求項14】
前記予備結晶化シートを得る第一の工程において、下記式で表される温度Tにおいて、結晶化度が10%〜70%になるまで前記非晶状態のシートを加熱する、請求項13に記載の高分子圧電材料の製造方法。
Tg≦T≦Tg+40℃
(Tgは、前記ヘリカルキラル高分子材料のガラス転移温度を表す。)
【請求項15】
前記予備結晶化シートを得る第一の工程において、前記ヘリカルキラル高分子としてポリ乳酸を含む非晶状態のシートを60℃〜170℃で、5秒〜60分加熱する、請求項13または請求項14に記載の高分子圧電材料の製造方法。
【請求項16】
前記第二の工程の後に、アニール処理をする請求項13〜請求項15のいずれか1項に記載の高分子圧電材料の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜請求項12のいずれか1項に記載の高分子圧電材料を製造する方法であって、
ヘリカルキラル高分子を含むシートを主として1軸方向に延伸する工程と、
前記延伸工程の後に、加水分解処理を行う工程を含む、高分子圧電材料の製造方法。
【請求項18】
ポリ乳酸系高分子と、ポリフッ化ビニリデンとを含み、前記ポリフッ化ビニリデンの含有量が、前記ポリ乳酸系高分子の全質量に対して、0質量%を超え5質量%以下であり、かつ、25℃において共振法で測定した圧電定数d14が10pC/N以上である高分子圧電材料。
【請求項19】
前記ポリフッ化ビニリデンの含有量が、前記ポリ乳酸系高分子の全質量に対して、0.01質量%〜5質量%である請求項18に記載の高分子圧電材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−235086(P2012−235086A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−31019(P2012−31019)
【出願日】平成24年2月15日(2012.2.15)
【分割の表示】特願2011−543736(P2011−543736)の分割
【原出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】