説明

高分子微粒子の製造方法

【課題】短時間でミクロンサイズを有する高分子微粒子を得ることができる高分子微粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】重合性単量体を溶解させた水性溶媒中に、ラジカル重合開始剤と電解質とを添加して、重合性単量体を重合することにより得られる粒子を、電解質により凝集させて、高分子微粒子を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミクロンサイズを有する高分子微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ミクロンサイズ(平均粒子径が、約1〜5μm)を有する高分子微粒子は、例えば、液晶表示装置用のスペーサやトナー粒子として使用されており、このような高分子微粒子を製造する方法として、ソープフリー重合が利用されている。
【0003】
このソープフリー重合としては、例えば、界面活性剤が存在しない条件下で、イオン性官能基を有する水溶性ラジカル重合開始剤(例えば、両性の水溶性アゾ化合物)を溶解させた水性媒体中に、スチレン等の重合性単量体(モノマー)を分散させ、所定時間(約40時間)、重合性単量体を追添加しながら重合を行う方法が開示されている。そして、このようなソープフリー重合を行うことにより、界面活性剤を使用することなく、最大で5.7μmの平均粒子径を有し、粒子径分布が狭い範囲にある粒子径の揃った高分子微粒子を製造することができると記載されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Yasuyuki Yamada, Tatsuro Sakamoto, Shunchao Gu, Mikio Konno,Journal of Colloid and Interface Science 281, 2005, 249-252
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記非特許文献1に記載の製造方法においては、上述のごとく、重合性単量体を追添加して重合を行う必要があるため、製造工程が複雑になるとともに、高分子微粒子の製造に長時間(約40時間)必要となり、結果として、生産性が低下し、製造コストが高くなるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、短時間でミクロンサイズを有する高分子微粒子を得ることができる高分子微粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の高分子微粒子の製造方法は、重合性単量体を溶解させた水性溶媒中に、ラジカル重合開始剤と電解質とを添加して、重合性単量体を重合することにより得られる粒子を、電解質により凝集させることを特徴とする。
【0008】
同構成によれば、電解質を使用することにより、ソープフリー重合により生成した粒子の凝集速度を増加させて、ワンプロセスで(即ち、重合性単量体の追添加を行うことなく)、ミクロンサイズを有する高分子微粒子を形成することができる。従って、短時間でミクロンサイズを有する高分子微粒子を得ることが可能になるため、ミクロンサイズを有する高分子微粒子の生産性を向上させることができるとともに、製造コストを抑制することが可能になる。
【0009】
また、界面活性剤を使用しない水性溶媒の反応系を使用するため、環境に優しい方法でミクロンサイズを有する高分子微粒子を製造することができる。
【0010】
本発明の高分子微粒子の製造方法においては、電解質の濃度を変化させることにより、高分子微粒子の平均粒子径を制御する構成としてもよい。
【0011】
同構成によれば、高分子微粒子の平均粒子径を大きくするための水溶性アゾ化合物等の特殊なラジカル重合開始剤を使用することなく、短時間でミクロンサイズを有する高分子微粒子を得ることができる。
【0012】
本発明の高分子微粒子の製造方法においては、水性溶媒中における電解質の濃度を0.07mmol/l〜7mmol/lに設定する構成としてもよい。
【0013】
同構成によれば、電解質による凝集効果の抑制、及び重合により生成した粒子の分散性の低下という不都合を生じることなく、短時間でミクロンサイズを有する高分子微粒子を得ることが可能になる。
【0014】
本発明の高分子微粒子の製造方法においては、電解質として、ハロゲン化塩、または臭素化合物を使用する構成としてもよい。
【0015】
同構成によれば、安価かつ汎用性のあるハロゲン化塩、または臭素化合物により、短時間でミクロンサイズを有する高分子微粒子を得ることが可能になる。
【0016】
本発明の高分子微粒子の製造方法においては、ハロゲン化塩として、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化カルシウム(CaCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、塩化アルミニウム(AlCl)、及び塩化鉄(FeCl)からなる群より選ばれる1種を使用する構成としてもよい。
【0017】
本発明の高分子微粒子の製造方法においては、重合性単量体として、芳香族ビニル化合物、またはアクリル系化合物を使用する構成としてもよい。
【0018】
本発明の高分子微粒子の製造方法においては、ラジカル重合開始剤として、アゾビズイソブチロニトリル、または2,2'−アゾビス(イソ酪酸メチル)を使用する構成としてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、短時間でミクロンサイズを有する高分子微粒子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る高分子微粒子の製造方法における高分子微粒子の成長メカニズムを説明するための図である。
【図2】実施例1における、重合時間が3時間の場合の高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【図3】実施例1における、重合時間が4時間の場合の高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【図4】実施例1における、重合時間が6時間の場合の高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【図5】実施例2における、重合時間が3時間の場合の高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【図6】実施例2における、重合時間が4時間の場合の高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【図7】実施例2における、重合時間が6時間の場合の高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【図8】実施例3における高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【図9】実施例4における高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【図10】実施例5における高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【図11】実施例6における高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【図12】実施例7における高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【図13】実施例8における高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【図14】実施例9における高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【図15】実施例10における高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【図16】実施例11における高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【図17】実施例12における高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【図18】実施例13における高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【図19】実施例14における高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0022】
本発明の高分子微粒子の製造方法は、界面活性剤の非存在化で、重合性単量体(モノマー)を溶解させた水性溶媒中に、ラジカル重合開始剤と電解質とを添加して、重合性単量体を重合することにより、ミクロンサイズ(約1μm〜5μm)を有する高分子微粒子を製造するソープフリー重合方法である。
【0023】
本発明の方法により製造される高分子微粒子は、略球形状を有しており、例えば、液晶表示装置用のスペーサ(平均粒子径:2〜8μm)やトナー粒子(平均粒子径:5〜10μm)、液体クロマトグラフィーの充填剤(平均粒子径:2.5μm〜10μm)、複眼レンズ(平均粒子径:1.5μm)、PETフィルム用フィラー(1μm〜5μm)等として使用することができる。
【0024】
なお、ここで言う「平均粒子径」とは、50%粒径(D50)を指し、本発明においては、合成した高分子微粒子の顕微鏡写真を使用して、100〜500個程度の高分子微粒子の粒子径を測定し,その個数平均を平均粒子径としている。
【0025】
本発明の重合性単量体としては、ラジカル重合が可能な重合性単量体が使用され、例えば、スチレン、p−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、メタクリル酸メチル、イソブチルメタクリレート等のアクリル系化合物が使用できる。
【0026】
ラジカル重合開始剤としては、上記従来技術とは異なり、両性の水溶性アゾ化合物等の特殊な重合開始剤を使用する必要はなく、従来のソープフリー重合で使用されている公知のものを使用することができる。例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等の非イオン性の重合開始剤や、2,2'−アゾビス(イソ酪酸メチル)等の油溶性のアゾ重合開始剤を使用することができる。
【0027】
なお、これらの重合性単量体及びラジカル重合開始剤は、製造される高分子微粒子の用途に応じて、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0028】
また、本発明においては、電解質を使用する点に特徴がある。この電解質は、後述のごとく、ソープフリー重合により形成された高分子の粒子の周りの電気二重層を圧縮する作用を有するものである。
【0029】
この電解質としては、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化カルシウム(CaCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、塩化アルミニウム(AlCl)、塩化鉄(FeCl)、等のハロゲン化塩、臭化カリウム,臭化カルシウム,臭化アルミニウム等の臭素化合物を使用することができる。なお、これらの電解質は、製造される高分子微粒子の用途に応じて、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0030】
次に、本発明の実施形態に係る高分子微粒子の製造方法について説明する。本実施形態における高分子微粒子は、ソープフリー重合により得ることができ、界面活性剤の非存在化で、重合性単量体を溶解させた水性溶媒中に、水溶性ラジカル重合開始剤と電解質とを添加して、重合性単量体を重合することにより得られる粒子を、電解質により凝集させることにより、ミクロンサイズ(約1μm〜5μm)を有する高分子微粒子を製造する。
【0031】
本発明のソープフリー重合は、例えば、マグネチックスターラー等の攪拌装置を備えたバイアル管等の反応容器内で行われ、この反応容器内に、所定量の水性溶媒、重合性単量体、ラジカル重合開始剤、及び電解質を入れて、所定時間、加熱することにより、行われる。
【0032】
例えば、重量性単量体としてスチレンを使用し、水溶性ラジカル重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を使用した場合の、本実施形態に係るソープフリー重合反応の概略を以下の反応スキーム1に示す。
【0033】
<反応スキーム1>
【0034】
【化1】

【0035】
まず、式(A)で表されるアゾビスイソブチロニトリルにより、式(B)で表される生長反応に必要なラジカル開始剤が生成する。次いで、生成したラジカル開始剤と式(C)で表されるスチレンとが反応して、式(D)で表されるスチレンのラジカルモノマーが生成する。
【0036】
【化2】

【0037】
次いで、生成したラジカルモノマーとスチレンとの急速な反応が繰り返し生じて、式(E)で表される生長ラジカルが生成する。
【0038】
【化3】

【0039】
次いで、生成した生長ラジカル同士が結合して、生長ラジカルが不活性化し、式(F)で表される高分子(スチレンポリマー)が生成する。
【0040】
【化4】

【0041】
また、生成した生長ラジカルは、反応容器内に残存するスチレンと反応して、式(G)で表されるアルケンになるとともに、生長ラジカルと反応したスチレンは、式(H)で示される新たな生長ラジカルとなる。
【0042】
また、例えば、重量性単量体としてメタクリル酸メチルを使用し、水溶性ラジカル重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を使用した場合の、本実施形態に係るソープフリー重合反応の概略を以下の反応スキーム2に示す。
【0043】
<反応スキーム2>
【0044】
【化5】

【0045】
まず、式(A)で表されるアゾビスイソブチロニトリルにより、式(B)で表される生長反応に必要なラジカル開始剤が生成する。次いで、生成したラジカル開始剤と式(I)で表されるメタクリル酸メチルとが反応して、式(J)で表されるメタクリル酸メチルのラジカルモノマーが生成する。
【0046】
【化6】

【0047】
次いで、生成したラジカルモノマーとメタクリル酸メチルとの急速な反応が繰り返し生じて、式(K)で表される生長ラジカルが生成する。
【0048】
【化7】

【0049】
次いで、生成した生長ラジカル同士が結合して、生長ラジカルが不活性化し、式(L)で表される高分子(スチレンポリマー)が生成する。
【0050】
【化8】

【0051】
また、生成した生長ラジカルは、反応容器内に残存するスチレンと反応して、式(M)で表されるアルケンになるとともに、生長ラジカルと反応したスチレンは、式(N)で示される新たな生長ラジカルとなる。
【0052】
そして、上述の停止反応によって生成した高分子の凝集や、生長ラジカル同士の凝集、生長ラジカルの析出により、高分子の粒子が生成するものと考えられる。
【0053】
なお、アゾビスイソブチロニトリルは、水に殆ど溶解しないが、水に僅かに溶解する(0.04×10-3wt%の濃度で水に溶解する)ことが知られており、本実施形態においては、この水に溶解したラジカル重合開始剤が,従来のソープフリー重合におけるラジカル重合開始剤と同様に作用するものと考えられる。
【0054】
また、本実施形態においては、後述のごとく、生成した高分子の粒子の表面電位が負に帯電しているため、式(B)で表されるラジカル開始剤はアニオン性を有しているものと考えられ、この点からも、水に溶解したラジカル重合開始剤が,従来のソープフリー重合におけるラジカル重合開始剤(アニオン性のラジカル重合開始剤)と同様に作用するものと考えられる。
【0055】
次に、生成した高分子の成長メカニズムについて説明する。図1は、本発明の実施形態に係る高分子微粒子の製造方法における高分子微粒子の成長メカニズムを説明するための図である。
【0056】
上述のごとく、本実施形態においては、電解質を使用する点に特徴がある。図1(a)に示すように、上述のソープフリー重合により生成した高分子の粒子(以下、単に「粒子」という。)1は負に帯電しており、粒子1の周囲には、正に帯電した第1電気層2と、第1電気層2を覆うように形成され、負に帯電した第2電気層3からなる電気二重層4が形成されている。
【0057】
より具体的には、一般に、粒子は水性溶媒中において帯電し、例えば、粒子1が上述のスチレンポリマーの粒子の場合、ラジカル重合開始剤の分解切片がポリマー末端に存在し、これが粒子表面に存在すると考えられる。そして、ラジカル重合開始剤として、アゾビスイソブチロニトリルを使用する場合、アゾビスイソブチロニトリルの分解切片であるシアノ基が、水中で負に帯電するものと考えられるため、粒子1の表面が負に帯電すると考えられる。従って、スチレンポリマーの粒子は負に帯電し、粒子1の周囲には、正に帯電した第1電気層2が形成される。そして、第1電気層2の周りに、溶媒中に存在するマイナスイオン(例えば、水酸物イオンや塩化物イオン)が、負に帯電した第2電気層3を形成することにより、粒子1の周囲に、正に帯電した第1電気層2と負に帯電した第2電気層3からなる電気二重層4が形成される。
【0058】
そして、電解質として、例えば、塩化ナトリウムを使用した場合、塩化ナトリウムが水性溶媒に溶解することにより発生した塩化物イオン(Cl)が、この電気二重層4を中和することにより、図1(b)に示すように、粒子1の周りの電気二重層4が圧縮される(DLVO理論)。
【0059】
そうすると、電気二重層4が圧縮された粒子1同士がお互いに接近し易くなるため、図1(c)に示すように粒子1同士の凝集が促進されるとともに、図1(d)に示すように、粒子の成長速度(凝集速度)が増加し、結果として、図1(e)に示すように、短時間(6時間以内)でミクロンサイズを有する高分子微粒子5を形成することが可能になる。
【0060】
なお、塩の価数が大きい程、この中和による電気二重層4の圧縮効果が大きくなり、塩化物イオンによる圧縮の場合、NaCl(1価)よりもAlCl(3価)を使用する方が、上記圧縮効果が顕著になる。
【0061】
このように、本実施形態においては、電解質を使用することにより、ソープフリー重合により生成した粒子の凝集速度を増加させて、ワンプロセスで(即ち、上記従来技術と異なり、重合性単量体の追添加を行うことなく、短時間で)、ミクロンサイズを有する高分子微粒子5を形成することができる。従って、ミクロンサイズを有する高分子微粒子の生産性を向上させることができるとともに、製造コストを抑制することが可能になる。
【0062】
また、本実施形態においては、使用する電解質の濃度を変化させることにより、高分子微粒子の平均粒子径を制御することができる点に特徴がある。
【0063】
より具体的には、電解質の濃度を小さくすると、凝集効果が抑制され、平均粒子径の小さい高分子微粒子を得ることができる。一方、電解質の濃度を大きくすると凝集効果が促進されるため、平均粒子径の大きい高分子微粒子を得ることができる。
【0064】
なお、水性溶媒中における電解質の濃度は、0.07mmol/l以上7mmol/l以下であることが好ましい。これは、電解質の濃度が、0.07mmol/l未満の場合は、電解質の量が少ないため、上述の電気二重層4の圧縮効果が十分に発揮されず、凝集効果が抑制されてしまう場合があるためであり、7mmol/lより多い場合は、圧縮効果により電気二重層4が薄くなりすぎて、凝集作用が支配的になるため,生成した粒子1が分散できなくなり、粒子1が塊として沈殿してしまう場合があるためである。
【0065】
このように、本実施形態においては、電解質の濃度により、高分子微粒子の平均粒子径を制御することができるため、上記従来技術と異なり、高分子微粒子の平均粒子径を大きくするために必要な水溶性アゾ化合物等の特殊な(高価な)水溶性ラジカル開始剤が不要になる。従って、製造コストを抑制することができる。
【0066】
以上に説明したように、本実施形態においては、特殊な開始剤を使用することなく、短時間でミクロンサイズを有する高分子微粒子を得ることができる。また、界面活性剤を使用しない水性溶媒の反応系を使用するため、環境に優しい方法で高分子微粒子を製造することができる。
【0067】
重合性単量体の配合量は、水性溶媒100質量部に対して、0.67〜2.3質量部であることが好ましい。これは、重合性単量体の配合量が、0.67質量部未満の場合は、製造される高分子微粒子の収量が少なくなるという不都合が生じ、2.3質量部より多い場合は、モノマーの90%以上が、油溶性開始剤によって油相で固化され,粒子の成長のために消費されないという不都合が生じる場合があるためである。
【0068】
また、ラジカル重合開始剤の配合量は、水性溶媒100質量部に対して、0.01〜0.033質量部であることが好ましい。これは、ラジカル重合開始剤の配合量が、0.01質量部未満の場合は、水へ溶解するラジカル開始剤が不足して、反応速度が低下してしまうという不都合が生じ、0.033質量部より多い場合は、殆どのモノマーが固化してしまい,粒子成長に対してモノマーが使用されなくなるという不都合が生じる場合があるためである。
【0069】
また、重合温度は、使用する重量性単量体、ラジカル重合開始剤、及び電解質の種類により、適宜、変更することが可能であるが、本実施形態においては60℃〜80℃の温度範囲が好ましい。これは、重合温度が、60℃未満の場合は、反応及び成長速度が低下するという不都合が生じ、80℃より高い場合は、モノマーの熱重合反応が進行して、粒子成長に使われるモノマー量が減少し、最終的な粒子径が小さくなってしまうという不都合が生じる場合があるためである。
【0070】
また、上述のごとく、本実施形態においては、従来技術と異なり、短時間(6時間以内)でミクロンサイズを有する高分子微粒子を形成することが可能であるが、目的とする高分子微粒子の平均粒子径に応じて、適宜、変更することができ、1〜6時間の間で設定することができる。
【0071】
また、攪拌手段の回転速度(攪拌手段による攪拌速度)は、70〜150rpmであることが好ましい。これは、回転速度が、70rpm未満の場合は、水相内におけるモノマーの濃度分布が不均一になるという不都合が生じ、150rpmより多い場合は、モノマー相からモノマー液滴が発生し、これが油溶性開始剤により固化して、大きな粒子が出来てしまい,粒度分布の幅が広がってしまうという不都合が生じる場合があるためである。
【実施例】
【0072】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0073】
(実施例1)
(高分子微粒子の作製)
マグネチックスターラーを備えた丸底バイアル管に、超純水15g、スチレンモノマー(東京化成工業(株)製、商品名:スチレン)0.35g、ラジカル重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(シグマアルドリッチ ジャパン(株)製、商品名:α,α’―アゾビスイソブチロニトリル)0.005gを入れ、更に、電解質である塩化カリウム(片山化学工業(株)製)0.782mg(濃度:0.7mmol/l)を加えて、70℃の条件下で、130rpmの速度で攪拌しながら、3時間、重合し、高分子微粒子を作成した。また、経時変化を観察するために、重合時間を4時間、及び6時間に変更して、同様に高分子微粒子を作製した。
【0074】
(平均粒子径の算出)
次いで、本実施例で得られた高分子微粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、得られた電子顕微鏡写真(SEM写真)を画像解析ソフト(旭化成エンジニアリング(株)製)を使用して、各重合時間毎に各高分子微粒子の粒子径の測定を行い、高分子微粒子の平均粒子径を算出した。
【0075】
その結果、重合時間が3時間の場合の高分子微粒子の平均粒子径は550nmであった。また、重合時間が4時間の場合の高分子微粒子の平均粒子径は0.83μmであった。また、重合時間が6時間の場合の高分子微粒子の平均粒子径は2.4μmであった。以上の結果より、短時間(6時間)の重合により、ミクロンサイズを有する高分子微粒子を得ることができることが判る。
【0076】
なお、図2に、重合時間が3時間の場合の高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)を示す。また、図3に、重合時間が4時間の場合の高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)を示す。また、図4に、重合時間が6時間の場合の高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)を示す。
【0077】
(実施例2)
使用するスチレンを0.1gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、高分子微粒子を作製した。その後、上述の実施例1と同様にして、平均粒子径の算出を行った。
【0078】
その結果、重合時間が3時間の場合の高分子微粒子の平均粒子径は329nmであった。また、重合時間が4時間の場合の高分子微粒子の平均粒子径は570nmであった。また、重合時間が6時間の場合の高分子微粒子の平均粒子径は970nmであった。以上の結果より、実施例1と同様に、短時間(6時間)の重合により、ミクロンサイズを有する高分子微粒子を得ることができることが判る。
【0079】
なお、図5に、重合時間が3時間の場合の高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)を示す。また、図6に、重合時間が4時間の場合の高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)を示す。また、図7に、重合時間が6時間の場合の高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)を示す。
【0080】
(実施例3)
(高分子微粒子の作製)
マグネチックスターラーを備えた丸底バイアル管に、超純水15g、スチレンモノマー(東京化成工業(株)製、商品名:スチレン)0.1g、ラジカル重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(シグマアルドリッチ ジャパン(株)製、商品名:α,α’―アゾビスイソブチロニトリル)0.005gを入れ、更に、電解質である塩化カリウム(片山化学工業(株)製)0.0782mg(濃度:0.07mmol/l)を加えて、70℃の条件下で、130rpmの速度で攪拌しながら、6時間、重合し、高分子微粒子を作成した。
【0081】
(平均粒子径の算出)
次いで、本実施例で得られた高分子微粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、得られた電子顕微鏡写真(SEM写真)を画像解析ソフト(旭化成エンジニアリング(株)製)を使用して、高分子微粒子の粒子径の測定を行い、高分子微粒子の平均粒子径、及び標準偏差を算出した。その結果、高分子微粒子の平均粒子径は920nmであり、平均粒子径の標準偏差は0.14μmであった。
【0082】
(表面電位の測定)
また、本実施例で得られた高分子微粒子の表面電位の測定を行った。より具体的には、作製した高分子微粒子を、水で希釈し、次いで、ZETASIZER (ZETASIZER 2000, MALVERN Co., Ltd.)を使用して、ゼータ電位を測定した。その結果、表面電位は−33.1mVであり、上述のソープフリー重合により生成した高分子の粒子が負に帯電していることが判る。なお、図8に、本実施例の高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)を示す。
【0083】
(実施例4)
使用する塩化カリウムを0.782mg(濃度:0.7mmol/l)に変更したこと以外は、実施例3と同様にして、高分子微粒子を作製した。その後、上述の実施例3と同様にして、平均粒子径及び標準偏差の算出、及び表面電位の測定を行った。
【0084】
その結果、高分子微粒子の平均粒子径は970nmであり、平均粒子径の標準偏差は0.05μmであった。また、表面電位は−34.7mVであった。なお、図9に、本実施例の高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)を示す。
【0085】
(実施例5)
使用する塩化カリウムを7.82mg(濃度:7mmol/l)に変更したこと以外は、実施例3と同様にして、高分子微粒子を作製した。その後、上述の実施例3と同様にして、平均粒子径及び標準偏差の算出、及び表面電位の測定を行った。
【0086】
その結果、高分子微粒子の平均粒子径は2040nmであり、平均粒子径の標準偏差は0.11μmであった。また、表面電位は−46.5mVであった。なお、図10に、本実施例の高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)を示す。
【0087】
(実施例6)
電解質として、塩化カリウムの代わりに、塩化ナトリウムを0.0613mg(濃度:0.07mmol/l)を使用したこと以外は、実施例3と同様にして、高分子微粒子を作製した。その後、上述の実施例3と同様にして、平均粒子径及び標準偏差の算出、及び表面電位の測定を行った。
【0088】
その結果、高分子微粒子の平均粒子径は3860nmであり、平均粒子径の標準偏差は0.88μmであった。また、表面電位は−28.4mVであった。なお、図11に、本実施例の高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)を示す。
【0089】
(実施例7)
使用する塩化ナトリウムを0.613mg(濃度:0.7mmol/l)に変更したこと以外は、実施例6と同様にして、高分子微粒子を作製した。その後、上述の実施例6と同様にして、平均粒子径及び標準偏差の算出、及び表面電位の測定を行った。
【0090】
その結果、高分子微粒子の平均粒子径は2610nmであり、平均粒子径の標準偏差は2.15μmであった。また、表面電位は−25.0mVであった。なお、図12に、本実施例の高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)を示す。
【0091】
(実施例8)
使用する塩化ナトリウムを6.13mg(濃度:7mmol/l)に変更したこと以外は、実施例6と同様にして、高分子微粒子を作製した。その後、上述の実施例6と同様にして、平均粒子径及び標準偏差の算出、及び表面電位の測定を行った。
【0092】
その結果、高分子微粒子の平均粒子径は4.29μmであり、平均粒子径の標準偏差は1.77μmであった。また、表面電位は−23.0mVであった。なお、図13に、本実施例の高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)を示す。
【0093】
(実施例9)
電解質として、塩化カリウムの代わりに、塩化カルシウムを0.116mg(濃度:0.07mmol/l)を使用したこと以外は、実施例3と同様にして、高分子微粒子を作製した。その後、上述の実施例3と同様にして、平均粒子径及び標準偏差の算出、及び表面電位の測定を行った。
【0094】
その結果、高分子微粒子の平均粒子径は1.78μmであり、平均粒子径の標準偏差は0.19μmであった。また、表面電位は−33.9mVであった。なお、図14に、本実施例の高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)を示す。
【0095】
(実施例10)
使用する塩化カルシウムを1.16mg(濃度:0.7mmol/l)に変更したこと以外は、実施例9と同様にして、高分子微粒子を作製した。その後、上述の実施例9と同様にして、平均粒子径及び標準偏差の算出、及び表面電位の測定を行った。
【0096】
その結果、高分子微粒子の平均粒子径は1040nmであり、平均粒子径の標準偏差は0.06μmであった。また、表面電位は−23.9mVであった。なお、図15に、本実施例の高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)を示す。
【0097】
(実施例11)
使用する塩化カルシウムを11.6mg(濃度:7mmol/l)に変更したこと以外は、実施例9と同様にして、高分子微粒子を作製した。その後、上述の実施例9と同様にして、平均粒子径及び標準偏差の算出、及び表面電位の測定を行った。
【0098】
その結果、高分子微粒子の平均粒子径は3140nmであり、平均粒子径の標準偏差は1.29μmであった。また、表面電位は−19.4mVであった。なお、図16に、本実施例の高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)を示す。
【0099】
(実施例12)
電解質として、塩化カリウムの代わりに、塩化アルミニウムを0.14mg(濃度:0.07mmol/l)を使用したこと以外は、実施例3と同様にして、高分子微粒子を作製した。その後、上述の実施例3と同様にして、平均粒子径及び標準偏差の算出、及び表面電位の測定を行った。
【0100】
その結果、高分子微粒子の平均粒子径は1870nmであり、平均粒子径の標準偏差は0.26μmであった。また、表面電位は17mVであった。なお、図17に、本実施例の高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)を示す。
【0101】
(実施例13)
使用する塩化アルミニウムを1.40mg(濃度:0.7mmol/l)に変更したこと以外は、実施例12と同様にして、高分子微粒子を作製した。その後、上述の実施例12と同様にして、平均粒子径及び標準偏差の算出、及び表面電位の測定を行った。
【0102】
その結果、高分子微粒子の平均粒子径は2170nmであり、平均粒子径の標準偏差は0.24μmであった。また、表面電位は13.1mVであった。なお、図18に、本実施例の高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)を示す。
【0103】
(実施例14)
使用する塩化アルミニウムを14.0mg(濃度:7mmol/l)に変更したこと以外は、実施例12と同様にして、高分子微粒子を作製した。その後、上述の実施例12と同様にして、平均粒子径及び標準偏差の算出、及び表面電位の測定を行った。
【0104】
その結果、高分子微粒子の平均粒子径は4.15μmであり、平均粒子径の標準偏差は2.19μmであった。また、表面電位は15.1mVであった。なお、図19に、本実施例の高分子微粒子の電子顕微鏡写真(SEM写真)を示す。
【0105】
実施例3〜14より、短時間(6時間)の重合により、ミクロンサイズを有する高分子微粒子を得ることができることが判る。これは、電解質により、粒子同士の凝集が促進され、成長速度の増加により、短時間でミクロンサイズの高分子粒子が作製されたためであると考えられる。
【0106】
また、この電解質として、ハロゲン化塩を使用し、当該ハロゲン化塩の濃度を変化させることにより、高分子微粒子の平均粒子径を制御することができることが判る。これは,使用するハロゲン化塩の濃度により、ハロゲン化塩による凝集効果を制御することができるためであると考えられる。
【0107】
なお、実施例12〜14においては、Alイオンの影響により正の帯電になっていると考えられるため、表面電位が正の値になったものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
以上説明したように、本発明は、ミクロンサイズを有する高分子微粒子の製造方法に適している。
【符号の説明】
【0109】
1 粒子
2 第1電気層
3 第2電気層
4 電気二重層
5 高分子微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性単量体を溶解させた水性溶媒中に、ラジカル重合開始剤と電解質とを添加して、重合性単量体を重合することにより得られる粒子を、前記電解質により凝集させることを特徴とする高分子微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記電解質の濃度を変化させることにより、前記高分子微粒子の平均粒子径を制御することを特徴とする請求項1に記載の高分子微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記水性溶媒中における前記電解質の濃度が0.07mmol/l〜7mmol/lであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高分子微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記電解質が、ハロゲン化塩、または臭素化合物であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の高分子微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記ハロゲン化塩が、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化カルシウム(CaCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、塩化アルミニウム(AlCl)、及び塩化鉄(FeCl)からなる群より選ばれる1種であることを特徴とする請求項4に記載の高分子微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記重合性単量体が、芳香族ビニル化合物、またはアクリル系化合物であることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の高分子微粒子の製造方法。
【請求項7】
前記ラジカル重合開始剤が、アゾビズイソブチロニトリル、または2,2'−アゾビス(イソ酪酸メチル)であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の高分子微粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−64066(P2013−64066A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203368(P2011−203368)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】