高分子微粒子の電荷調整方法、高分子微粒子の水系分散液、及びその製造方法
【課題】水系分散液に分散した高分子微粒子において、高分子微粒子の粒子径を略一致させた状態で、高分子微粒子の電荷を簡便な方法により調整できる水系分散液中の高分子微粒子の電荷調整方法を提供すること。
【解決手段】酸素が溶存している水系分散液に分散している高分子微粒子の電荷調整方法であって、前記水系分散液に分散している前記高分子微粒子に紫外線を照射して、前記高分子微粒子の表面状態を改質させることにより電荷を調整する。
【解決手段】酸素が溶存している水系分散液に分散している高分子微粒子の電荷調整方法であって、前記水系分散液に分散している前記高分子微粒子に紫外線を照射して、前記高分子微粒子の表面状態を改質させることにより電荷を調整する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子微粒子の電荷調整方法、高分子微粒子の水系分散液、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高分子微粒子は、分散系の機能性材料として広く応用展開されるようになってきた。とりわけ、水系媒体に安定して分散している高分子微粒子(ラテックス)、並びに高分子微粒子は、環境負荷を低減する観点からも大きな期待が寄せられている。
【0003】
高分子微粒子の水系分散液は、一般的には、乳化安定剤として低分子量の界面活性剤を用い、いわゆる乳化重合法により高分子微粒子前駆体化合物が重合せしめられることによって製造される。その他、ソープフリーの高分子微粒子の水系分散液も提案されている。この高分子微粒子の水系分散液は、界面活性剤を用いずに、いわゆるソープフリー乳化重合法により高分子微粒子前駆体化合物が重合せしめられることによって製造される。
【0004】
高分子微粒子の水系分散液のうち、表面に電荷を有する高分子微粒子の水系分散液は、化粧品原料、光拡散剤、光沢防止剤(艶消し剤)、塗料添加剤、樹脂改質剤、医療診断用プローブ、気孔付与剤、トナーなどの様々な分野で応用が展開され、注目を集めている。表面に電荷を有する高分子微粒子が分散した水系分散液においては、高分子微粒子の電荷を制御する技術が重要となる。
【0005】
従来、水系分散液中の高分子微粒子の電荷調整は、以下のように行われていた。すなわち、乳化重合法により重合した高分子微粒子の水系分散液においては、重合に用いられるモノマーや界面活性剤の種類、モノマーと界面活性剤(乳化剤)の添加比率を変える等により、所望の電荷を有する高分子微粒子を得ていた。また、ソープフリー乳化重合により重合した高分子微粒子の水系分散液においては、高分子微粒子の表面に導入される官能基自体を変更したり、共重合するモノマーの比率を変更(非特許文献1)したりすることにより、所望の電荷を有する高分子微粒子を得ていた。
【非特許文献1】Chemistry Letters,Nagai,Vol.33.No.8,2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した乳化重合法やソープフリー乳化重合法による重合の際の電荷調整方法では、所望の電荷を得るためには、原料となるモノマー等の種類、界面活性剤とモノマーの添加比率、共重合するモノマーの比率等の変更を要し、合成設計段階から検討する必要があった。しかも、これらを変更すると、所望の電荷を示す高分子微粒子が製造されても、粒子径が変動してしまうため、所望の微粒子を持つ高分子微粒子を得られないという問題があった。
【0007】
なお、上記においては乳化重合法、ソープフリー乳化重合法を用いて合成した高分子分散液の水系分散液の例について説明したが、シード重合、分散重合、懸濁重合等の他の方法により得られる高分子微粒子を分散した水系分散液においても同様の問題が生じ得る。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、簡便な方法で、水系分散液に分散した高分子微粒子の粒子径を略一致させつつ、高分子微粒子の電荷を調整できる高分子微粒子の電荷調整方法を提供することである。また、高分子微粒子の粒子径を略一致させつつ、電荷を変更した高分子微粒子の水系分散液、及びその製造方法を簡便な方法により提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが、鋭意検討を重ねたところ下記の態様において本件発明の目的を達成し得ることを見出した。
本発明の第1の態様に係る高分子微粒子の電荷調整方法は、溶存酸素を含む水系分散液に分散している高分子微粒子の電荷調整方法であって、前記高分子微粒子に紫外線を照射して、前記高分子微粒子の表面状態を改質させることにより前記高分子微粒子の電荷を調整するものである。
【0010】
本発明の第1の態様に係る高分子微粒子の電荷調整方法によれば、水系分散液に溶存している酸素に紫外線を照射することにより生じる反応活性な酸素化学種によって高分子微粒子の表面を改質する。その結果、水系分散液中の高分子微粒子の電荷を変化させることができる。紫外線照射量をコントロールすることにより、高分子微粒子の粒子径を略一致させつつ、簡便に高分子微粒子の電荷を調整ことができる。
【0011】
本発明の第2の態様に係る高分子微粒子の水系分散液の製造方法は、前記高分子微粒子を酸素が溶存する水系分散液に分散し、ゼータ電位をシフトさせるように前記水系分散液に紫外線を照射するものである。
【0012】
本発明の第2の態様に係る高分子微粒子の水系分散液の製造方法によれば、高分子微粒子の粒子径を略一致させつつ、電荷を変化させた高分子微粒子の水系分散液を簡便に製造することができる。その理由は、以下のとおりである。水中に溶存している基底状態の酸素分子は、真空紫外領域から紫外領域にわたって様々な吸収帯をもつ。これらの吸収帯に対応する光を基底状態の酸素分子が吸収すると、2個の酸素原子に解離する、若しくは励起3重項状態の酸素分子になる。酸素原子は酸素分子と反応してオゾン(O3)を生成する。形成されたオゾンは310nm以下の紫外線を吸収して、1重項状態の酸素分子と酸素原子(1D)を形成する。酸素原子(1D)と酸素分子との反応により基底状態の酸素原子(3P)も形成される。また、3重項状態の酸素分子は250nm程度以下の紫外線を吸収して、1重項酸素原子(1D)と3重項酸素原子(3P)を形成する。また、91nmの紫外線照射により基底状態の酸素分子は解離して、2つの1重項酸素原子(1D)が形成される。このように基底状態の酸素分子への90nm以上、310nm以下の紫外線照射により、様々な電子状態をもつ1重項酸素分子、3重項酸素分子、1重項酸素原子や3重項酸素原子が主に生じる。また、310nm以上の紫外線を照射した場合であっても、例えば、芳香環と接触電荷移動錯体を形成し、この接触電荷移動錯体が励起されることにより、有機ラジカルが形成されて反応活性な酸素化学種が形成し得る。本明細書では、基底状態の酸素分子への紫外線照射により生じ得る上記の酸素分子、酸素原子、オゾン等を反応活性な酸素化学種と記す。
【0013】
上記酸素化学種により高分子微粒子の表面が改質される。その結果、水系分散液中の高分子微粒子の電荷が変化し、ゼータ電位がシフトする。紫外線照射量をコントロールすることにより、例えば、一定照度の紫外線への暴露時間をコントロールすることにより、高分子微粒子の粒子径を略一致させつつ、所望の電荷を有する高分子微粒子の水系分散液を簡便に製造することができる。
【0014】
本発明の第3の態様に係る高分子微粒子の水系分散液の製造方法は、前記紫外線の照射波長を、90nm以上、310nm以下とすることを特徴とするものである。照射波長を90nm、310nm以下とすることにより、水系分散液中に溶存している酸素をより効果的に活性化させることができる。
【0015】
本発明の第4の態様に係る高分子微粒子の水系分散液の製造方法は、前記高分子微粒子が、ソープフリー乳化重合法での重合により得られた高分子微粒子であることを特徴とするものである。最も一般的な重合法である乳化重合法により合成した場合、界面活性剤(乳化剤)が高分子微粒子の表面等に付着して、高分子微粒子の表面を汚染されてしまう恐れがあり、用途によっては支障をきたす場合がある。一方、ソープフリー乳化重合法により重合すれば、高分子微粒子の表面が界面活性剤によって汚染されることがない。従って、界面活性剤に起因する問題を回避することができる。
【0016】
本発明の第5の態様に係る高分子微粒子の水系分散液は、炭素−炭素結合、若しくは炭素−水素結合を表面に有する高分子微粒子が分散し、かつ酸素が溶存している高分子微粒子の水系分散液であって、紫外線を照射することにより前記酸素を活性化し、その結果生じる反応活性な酸素化学種により前記高分子微粒子の表面の炭素−炭素結合、若しくは炭素−水素結合の少なくとも一部を切断し,ゼータ電位を相対的に負の方向にシフトさせたものである。
【0017】
本発明の第5の態様に係る水系分散液によれば、高分子微粒子の粒子径を略一致させつつ、電荷を変更した高分子微粒子の水系分散液を簡便に提供することができる。その理由は、以下のとおりである。まず、紫外線を照射することにより、水系分散液に含有している溶存酸素を活性化する。そして、その結果生じた反応活性な酸素化学種により高分子微粒子の表面の炭素−炭素結合、若しくは炭素−水素結合が切断され、炭素−酸素結合が形成される。例えば、励起状態の1重項酸素分子は、水中で約10−6秒の寿命を持つため、炭素−炭素の不飽和結合に付加した後カルボニル基を形成し、カルボニル基が励起されて反応活性な酸素化学種や水等と反応して、炭素が酸化された様々な官能基を形成し得る。紫外線照射により解離した酸素原子は、炭素−水素結合での水素引き抜き反応や挿入反応、炭素−炭素結合の不飽和結合や芳香環への付加反応等を経て、水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基等を高分子微粒子表面に形成し得る。このように、酸素を用いた光酸素酸化反応は複数の化学反応を伴うが、結果として、水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基等を形成し得る。
【0018】
例えば、紫外線照射により高分子微粒子の表面にカルボキシル基が形成されると、このカルボキシル基は、水系分散液中で酸解離してカルボキシラート基になり、負の電荷を帯びるようになる。高分子微粒子の表面の炭素−炭素結合の切断に伴う新たな結合の生成の度合いに応じて、水系分散液中の高分子微粒子の電荷が変化する(ゼータ電位の値が相対的に負の方向にシフトする)。紫外線照射量をコントロールすることにより、例えば、一定照度の紫外線への暴露時間をコントロールすることにより、高分子微粒子の粒子径を略一致させつつ、所望の電荷を有する高分子微粒子の水系分散液を提供することができる。
【0019】
本発明の第6の態様に係る高分子微粒子の水系分散液は、前記紫外線の照射波長が、90nm以上、310nm以下であることを特徴とする。
【0020】
本発明の第7の態様に係る水系分散液は、前記高分子微粒子として、ソープフリー乳化重合法により重合されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、簡便な方法で、水系分散液に分散した高分子微粒子の粒子径を略一致させつつ、高分子微粒子の電荷を調整できる高分子微粒子の電荷調整方法を提供することができるという優れた効果がある。また、粒子径を略一致させつつ、電荷を変更した高分子微粒子の水系分散液、及びその製造方法を簡便な方法により提供することができるという優れた効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0023】
[高分子微粒子の水系分散液の電荷調整方法]
本発明に係る高分子微粒子の電荷調整方法は、酸素が溶存している水系分散液に分散している高分子微粒子に紫外線を照射して、高分子微粒子の表面状態を改質させることにより高分子微粒子の電荷を調整するものである。
【0024】
ここで、高分子微粒子とは、水を含む水系分散液に不溶で、微細な粒子として水分散媒中に分散したものである。水系分散液中の高分子微粒子の含有量は、特に限定されないが、一般的には、0.001wt%〜50wt%であり、好ましくは0.01wt%から1wt%である。分散液は、水と高分子微粒子のみから構成されるものでもよいし、本件発明の趣旨に反しない限り他の添加剤、例えば、塩化ナトリウム(NaCl)などの塩や分散安定剤が加えられたものであってもよい。
【0025】
高分子微粒子は、各種重合法により重合したもの、予め調整した合成ポリマーや既存の天然高分子、生体高分子などから製造されたものを用いることができる。各種用途に求められる特性を考慮して適宜、最適な高分子微粒子を選定すればよい。
【0026】
水系分散液は、酸素が溶存したものを用いる。溶存酸素量は、特に限定されない。ただし、露光条件が同一の場合、溶存酸素量に応じて高分子微粒子の表面の改質状態が異なる。酸素の水に対する溶解度は、20℃の温度、1気圧の大気圧下で、おおよそ3.1ml/100mlである。温度と大気圧の変動により酸素の溶解度は異なる。少ない露光量で高分子微粒子の表面を改質するためには、溶存酸素量を多くすればよい。通常の水系分散液中の溶存酸素量よりも多くする方法としては、例えば、紫外線照射前に酸素バブリングを行う方法を挙げることができる。また、酸素の代わりに、酸素への紫外線照射により生じる反応活性な酸素化学種の一つであるオゾン(O3)ガスでバブリングを行ってもよい。逆に、通常の水系分散液中の溶存酸素量より少なくする方法としては、例えばアルゴンなどの不活性ガスでバブリングを行う方法を挙げることができる。
【0027】
本発明に係る高分子微粒子の電荷調整方法によれば、紫外線を照射することにより、高分子微粒子の電荷を簡便に調整することができる。その理由は、以下のとおりである。まず、高分子微粒子が分散している水系分散液に紫外線を照射することにより、水系分散液に溶存している酸素が活性化され、反応活性な酸素化学種が生じる。そして、この反応活性な酸素化学種により高分子微粒子の表面が改質され、高分子微粒子の電荷を変化させることができる。紫外線照射量をコントロールすることにより、例えば、一定照度の紫外線への暴露時間をコントロールすることにより、高分子微粒子の粒子径を略一致させつつ、簡便に水系分散液中の高分子微粒子の電荷を調整することができる。なお、水系分散液の高分子微粒子の電荷は、例えばゼータ電位計により測定することができる。ゼータ電位の値は、測定条件により値が変動するので、紫外線照射前後の測定条件を同じにして測定する必要がある。なお、高分子微粒子の粒子径が略一致しているとは、各種用途に応じて許容される粒子径の変動の範囲内であることを意味し、粒子径の変動幅に特に制限はない。一般的には、高分子微粒子の直径の紫外線照射前後の変動幅が±10%以下であることが好ましく、さらに好ましくは、±5%以下である。
【0028】
[高分子微粒子の水系分散液の製造方法]
次に、本発明に係る高分子微粒子の水系分散液の製造方法について説明する。なお、以降の説明において、上記高分子微粒子の水系分散液の電荷調整方法における説明と重複する部分については、適宜その説明を省略する。なお、ゼータ電位とは、荷電界面と電解質溶液間のズリ面(すべり面)に依存する界面動電位のことをいい、ゼータ電位計により測定することができる。測定環境(pH、電解質の種類、電解質濃度、温度、測定レーザー光源)等により値が変動するので、測定条件は一定とする必要がある。
【0029】
まず、高分子微粒子を酸素が溶存する水系分散液に分散する。高分子微粒子は、上述したように、各種重合法により重合したもの、予め調整した合成ポリマーや既存の天然高分子、生体高分子などから製造されたものを用いることができる。重合方法については、例えば、乳化重合、ソープフリー乳化重合、シード重合、分散重合、懸濁重合により重合することができる。中でも、ソープフリー乳化重合により重合したものを用いることが好ましい。ソープフリー乳化重合法とは、界面活性剤を用いずに、重合開始剤だけで油溶性単量体を乳化重合して乳化重合物を得る方法である。ソープフリー乳化重合では、水溶性重合開始剤のラジカルがわずかに水に溶解した油溶性単量体と反応し、ある臨界の鎖長で析出し粒子の核を形成し、これが粒子に成長する。
【0030】
ソープフリー乳化重合法が特に好ましい理由について、乳化重合法における問題点から説明する。乳化重合法においては、前述したとおり重合に際して界面活性剤を添加する。この界面活性剤が、高分子微粒子の表面に付着し、諸物性が安定しないという問題があった。また、添加された界面活性剤の添加量や種類によっては、乾燥時に成膜を阻害したり、遊離した界面活性剤が成膜後に表面に移行(ブリード)して各種素材との密着性や接着性を低下させる場合がある。一方、ソープフリー乳化重合法によれば、界面活性剤などを用いずに高分子微粒子を合成できるので、このような問題を回避できる。
【0031】
ソープフリー乳化重合法は、概して2つの方法に分類される。一つは、水溶性重合開始剤と、単独若しくは複数の疎水性単量体の組み合わせで行う方法である。もう一つは、水溶性重合開始剤と、水溶性単量体と、単独若しくは複数の疎水性単量体の組み合わせで行う方法である。疎水性単量体(疎水性モノマー)を総称で挙げると、スチレン系、アクリル酸エステル系、メタクリル酸エステル系、ビニルエステル系等が挙げられる。スチレン系の疎水性単量体としては、スチレン、4−(クロロメチル)スチレン、4−(ブロモメチル)スチレン、4−クロロスチレン、4−(ベンジルスルホニル)スチレン、4−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン等が挙げられる。アクリル酸エステル系の疎水性単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル、アクリル酸グリシジル等が挙げられる。メタクリル酸エステル系の疎水性単量体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル、メタクリル酸グリシジル等が挙げられる。ビニルエステル系の疎水性単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、ピバル酸ビニル、けい皮酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、デカン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、安息香酸ビニル等を挙げることができる。疎水性単量体としては、上記を好適に用いることができるが、特に限定はなく、公知のものを用いることができる。
【0032】
水溶性単量体(親水性モノマー)としては、アクリル酸、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、N−イソプロピルアクリルアミド、アクリルアミド、N−アルキル−N,N−ジメチル−2−[(1−オキソ−2−プロペニル)オキシ]エタンアンモニウム ブロミド(クロリド)、N−アルキル−N,N−ジエチル−2−[(1−オキソ−2−プロペニル)オキシ]エタンアンモニウム ブロミド(クロリド)、N−アルキル−N,N−ジメチル−3−[(1−オキソ−2−プロペニル)アミノ]プロパンアンモニウム ブロミド(クロリド)、N−アルキル−N,N−ジエチル−3−[(1−オキソ−2−プロペニル)アミノ]プロパンアンモニウム ブロミド(クロリド)、メタクリル酸、メタクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、N−イソプロピルメタクリルアミド、メタクリルアミド、N−アルキル−N,N−ジメチル−2−[(2−メチル−1−オキソ−2−プロペニル)オキシ]エタンアンモニウム ブロミド(クロリド)、N−アルキル−N,N−ジエチル−2−[(2−メチル−1−オキソ−2−プロペニル)オキシ]エタンアンモニウム ブロミド(クロリド)、N−アルキル−N,N−ジメチル−3−[(2−メチル−1−オキソ−2−プロペニル)アミノ]プロパンアンモニウム ブロミド(クロリド)、N−アルキル−N,N−ジエチル−3−[(2−メチル−1−オキソ−2−プロペニル)アミノ]プロパンアンモニウム ブロミド(クロリド)等が挙げられる。親水性単量としては、上記を好適に用いることができるが、特に制限はなく、公知のものを用いることができる。水溶性単量体を用いる場合、疎水性単量体の質量に対し、水溶性単量体を0.01質量%から5質量%程度加えて共重合する。
【0033】
ソープフリー乳化重合法において使用し得る重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸塩・二水和物、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2'−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]水和物、2,2'−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}二塩酸塩、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2'−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−エチルプロパン)二塩酸塩、2,2'−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオン酸アミド}、2,2'−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオン酸アミド]等を挙げることができるが、これらに限定されない。通常は、水溶液にした状態で用いる。
【0034】
なお、水系分散液中の溶存酸素量を調整する必要がある場合には、高分子微粒子を分散させる前、若しくは高分子微粒子を分散させた後に、目的とする酸素量に応じてアルゴン等の不活性ガスや酸素のバブリング等を行う。
【0035】
次に、高分子微粒子の水系分散液に紫外線を照射する。紫外線光源としては、例えば、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、水銀キセノン灯、各種のキセノンエキシマ灯、各種のエキシマレーザーを用いることができる。必要に応じて、フィルターを組み合わせ、所望の波長が得られるようにする。照射波長は、90nm以上、310nmとすることがより好ましい。この範囲にすることにより、より効果的に水系分散液中に溶存している酸素を活性化させることができるためである。露光量は、水系分散液中の高分子微粒子の電荷が所望の値となるように、適宜設定する。
【0036】
本発明に係る高分子微粒子の水系分散液の製造方法によれば、高分子微粒子の平均粒子径を略一致させつつ、電荷を変更した高分子微粒子の水系分散液を簡便に製造することができる。その理由は、以下のとおりである。
【0037】
水中に溶存している基底状態の酸素分子は、真空紫外領域から紫外領域にわたって様々な吸収帯をもつ。これらの吸収帯に対応する光を基底状態の酸素分子が吸収すると、2個の酸素原子に解離する、若しくは励起3重項状態の酸素分子になる。酸素原子は酸素分子と反応してオゾン(O3)を生成する。形成されたオゾンは310nm以下の紫外線を吸収して、1重項状態の酸素分子と酸素原子(1D)を形成する。酸素原子(1D)と酸素分子との反応により基底状態の酸素原子(3P)も形成される。また、3重項状態の酸素分子は250nm程度以下の紫外線を吸収して、1重項酸素原子(1D)と3重項酸素原子(3P)を形成する。また、91nmの紫外線照射により基底状態の酸素分子は解離して、2つの1重項酸素原子(1D)が形成される。このように基底状態の酸素分子への90nm以上、310nm以下の紫外線照射により、様々な電子状態をもつ1重項酸素分子、3重項酸素分子、1重項酸素原子や3重項酸素原子が主に生じる。また、310nm以上の紫外線を照射した場合であっても、例えば、芳香環と接触電荷移動錯体を形成し、この接触電荷移動錯体が励起されることにより、有機ラジカルが形成されて反応活性な酸素化学種が形成し得る。本明細書では、基底状態の酸素分子への紫外線照射により生じ得る上記の酸素分子、酸素原子、オゾン等を反応活性な酸素化学種と記す。
【0038】
上記酸素化学種により高分子微粒子の表面が改質される。その結果、水系分散液中の高分子微粒子の電荷が変化し、ゼータ電位がシフトする。紫外線照射量をコントロールすることにより、高分子微粒子の粒子径を略一致させつつ、所望の電荷を有する高分子微粒子の水系分散液を製造することができる。
【0039】
[高分子微粒子の水系分散液]
次に、本発明に係る高分子微粒子の水系分散液について説明する。なお、以降の説明において、上述した内容と重複する部分については、適宜その説明を省略する。
【0040】
本発明に係る高分子微粒子の水系分散液は、酸素が溶存している。水の温度、大気圧、溶存物質により異なるが、水に対する酸素の溶解度は、20℃の温度、1気圧の大気圧下で、3.1ml/100mlである。高分子微粒子は、少なくともその表面に炭素−炭素結合を若しくは炭素−水素結合を有している。そして、紫外線を照射することにより溶存酸素を活性化させて生じる反応活性な酸素化学種により高分子微粒子表面の炭素−炭素結合、若しくは炭素−水素結合の少なくとも一部を切断し、ゼータ電位を相対的に負の方向にシフトさせたものである。
【0041】
ここで、「ゼータ電位を相対的に負の方向にシフトさせる」とは、紫外線を照射する前の高分子微粒子の水系分散液のゼータ電位値に比して、紫外線照射後の高分子微粒子の水系分散液のゼータ電位値が、負の方向にシフトしているものをいう。具体的には、照射前にゼータ電位値がプラスである場合、照射後のゼータ電位値は、絶対値がより小さいプラスの値、ゼロ、又はマイナスの値を示すものをいう。また、照射前にゼータ電位値がマイナスである場合、照射後のゼータ電位値は、絶対値がより大きいマイナスの値を示すものをいう。
【0042】
高分子微粒子の水系分散液に照射される紫外線の照射波長は、好ましくは90nm以上、310nm以下のものを用いる。90nm以上、310nm以下のものを用いることにより、水系分散液中に存在する酸素を、より効率的に活性化させることができるためである。水系分散液に照射する紫外線の露光量は、所望の電荷が得られるように適宜選択する。
【0043】
本実施形態に用いられる水系分散液中の高分子微粒子の含有量は、特に限定されないが、一般的には、0.001wt%〜50wt%であり、好ましくは0.01wt%から1wt%である。なお、本発明に係る高分子微粒子の水系分散液は、本発明の趣旨に反しない限り他の添加剤を含有していてもよい。
【0044】
高分子散粒子の平均粒子径は特に限定されないが、好ましくは10nm以上、10μm以下である。この範囲にすることにより、高分子微粒子を水中で分散させた状態を保持できる。10nmより小さいと安定に高分子微粒子を製造することが難しいという問題が生じ得る。また、10μmを越えると、高分子微粒子が分散液の中で沈降し、効果的に表面改質を行えないという問題が生じ得る。より好ましくは50nm以上、2μm以下である。分散粒子の粒子径分布に関しては特に制限はなく、用途に応じて適宜選定する。ただし、粒子径分布が小さいほど、各高分子微粒子の電荷のばらつきが小さくなるので、粒子径分布は小さいほうが一般に好ましい。
【0045】
高分子微粒子を構成する高分子は、直鎖状のものでも枝分かれしたものでも、架橋されたものでもよい。また、単一の疎水性単量体が重合した重合体でもよいし、2種類以上の複数の疎水性単量体、若しくは疎水性単量体と水溶性単量体が重合した共重合体でもよい。共重合体の場合には、ランダム共重合体でもブロック共重合体でもよい。一般的には、数平均分子量が1000〜1,000,000程度であることが好ましい。分子量が小さすぎると、塗膜の力学強度が不十分となる傾向があり、大きすぎるものは成膜性が悪くなる傾向にある。
【0046】
用いられる高分子微粒子の種類は、特に限定されない。本発明に係る高分子微粒子の水系分散液は、上述したようにいかなる方法で合成された高分子微粒子を用いてもよいが、特に好ましくは、ソープフリー乳化重合により重合された高分子微粒子を用いることである。その理由は、上述したとおりである。
【0047】
本発明に係る高分子微粒子の水系分散液によれば、高分子微粒子の粒子径を略一致させつつ、電荷を変更した高分子微粒子の水系分散液を簡便に製造することができる。その理由は、以下のとおりである。まず、紫外線を照射することにより、水系分散液に含有している溶存酸素を活性化する。その結果生じる反応活性な酸素化学種により高分子微粒子の表面の炭素−炭素結合若しくは炭素−水素結合を切断し、炭素−酸素結合(例えば、カルボキシル基)が形成される。例えば、励起状態の1重項酸素分子は、水中で約10−6秒の寿命を持つため、炭素−炭素の不飽和結合に付加した後カルボニル基を形成し、カルボニル基が励起されて反応活性な化学種と反応して、様々な炭素が酸化された官能基を形成し得る。紫外線照射により解離した酸素原子は、炭素−水素結合での水素引き抜き反応や挿入反応、炭素−炭素結合の不飽和結合や芳香環への付加反応等を経て、水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基等を高分子微粒子表面に形成し得る。このように、酸素を用いた光酸素酸化反応は複数の化学反応を伴うが、結果として、水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基等を形成し得る。
【0048】
例えば、紫外線照射により高分子微粒子の表面にカルボキシル基が形成されると、このカルボキシル基は、水系分散液中で酸解離してカルボキシラート基になり、負の電荷を帯びるようになる。紫外線照射による炭素−酸素結合形成の度合に応じて、水系分散液中の高分子微粒子の電荷が変化する(ゼータ電位の値が相対的に負の方向にシフトする)。紫外線照射量をコントロールすることにより、例えば、一定照度の紫外線への暴露時間をコントロールすることにより、高分子微粒子の粒子径を略一致させつつ、所望の電荷を有する高分子微粒子の水系分散液を簡便に得ることができる。
【実施例】
【0049】
次に、実施例によりさらに本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されるものではない。
[ソープフリー乳化重合によるカチオン性ポリスチレン微粒子の合成]
まず、水溶性重合開始剤である2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩0.4339g(1.600mmol)を脱イオン水20mlに溶解させた水溶液Aと、カチオン性の水溶性単量体(カチオン性モノマー)であるN−エチル−N,N−ジメチル−2−[(1−オキソ−2−プロペニル)オキシ]エタンアンモニウム ブロミド0.4030g(1.600mmol)を脱イオン水20mlに溶解させた水溶液Bを調製した。次に、300mlの四つ口のセパラブルフラスコに、疎水性単量体であるスチレン16.66g(160.0mmol)、上記溶液B、及び脱イオン水40mlを加えた。そして、この四つ口のセパラブルフラスコを氷浴で冷却し、反応容器中の混合溶液をいかり型の撹拌棒を用いて200rpmの回転数にて撹拌した。また、反応容器内は、窒素ガスに置換した。
【0050】
次に、反応容器内に上記溶液Aを加え、窒素ガスに置換した。そして、反応容器内の混合溶液を60℃で16時間撹拌した。その後、室温まで冷却し、三商社製のステンレス製ふるい(目開き150μm、内径750mm)で反応溶液をろ過し、凝集物を除去した。得られたろ液を3000rpmの回転数で30分間遠心分離し、沈殿物をデカンテーションにより分離した。さらに、上層の高分子微粒子の水系分散液を12000rpmの回転数で90分間遠心分離し、沈殿物と上澄み液に分離した。その後、得られた沈殿物を脱イオン水で希釈し、130回/分の速さで1時間振とうさせ、沈殿物を分散させた。12000rpmの回転数での遠心分離と沈殿物の脱イオン水による再分散を4回繰り返して精製を行い、カチオン性ポリスチレン微粒子(以下、「高分子微粒子」と省略する)を収率93%で得た。
【0051】
[高分子微粒子の特性評価]
得られた高分子微粒子の水系分散液を脱イオン水で希釈し、高分子微粒子の質量百分率が0.025wt%である高分子微粒子の水系分散液を調製した。高分子微粒子の粒子径及びゼータ電位は、レーザーゼータ電位計(大塚電子製、ELS−8000)を用いて測定した。高分子微粒子の平均粒子径は、pH7の脱イオン水中で測定した。また、高分子微粒子のゼータ電位は、25±1℃,pH7の10mmol/dm3のNaCl水溶液中で測定した。また、得られた高分子微粒子の形状は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察(日立製 走査型電子顕微鏡S−3000N)により評価した。
【0052】
上記高分子微粒子の平均粒子径は、196nmであった。また、高分子微粒子のゼータ電位は、59mVであった。図1(a)は、得られた高分子微粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。同図より、上記合成法により得た高分子微粒子は、球形の微粒子であることを確認した。また、SEMにより高分子微粒子の粒子径を確認したところ、その粒子径は200nmであり、レーザーゼータ電位計の値と略一致していることを確認した。
【0053】
[紫外線照射実験]
次に、上記高分子微粒子を用いて紫外線を照射した実験例の一例について説明する。高分子微粒子の平均粒子径及びゼータ電位の測定装置と測定法は、上述したとおりである。また、ゼータ電位の値は、同一のサンプルで3回測定し、その平均値を示す。
【0054】
(実施例1) 高分子微粒子の質量百分率が0.025wt%である高分子微粒子の水系分散液を、ステンレス製シャーレ(φ=70mm)に30ml入れた。このシャーレに紫外線光源(SAN−EI ELECTRONIC, UVF−202S)から放射された光を照射した。具体的には、観測波長254nmにおける露光量を5.0J/cm2とした。
紫外線照射後の高分子微粒子の平均粒子径を求めたところ、203nmであった。また、紫外線照射後の高分子微粒子のゼータ電位は、46mVであった。図1(b)は、紫外線照射後の、高分子微粒子のSEM写真である。同図より、上記高分子微粒子に紫外線を照射した後も、高分子微粒子の形状に変化はなく、球形の微粒子であることを確認した。また、高分子微粒子の粒子径も変化がないことを確認した。
【0055】
(比較例1) 紫外線を照射しない以外は、上記実施例1と同様の操作を行った。その結果、高分子微粒子の平均粒子径は198nmであった。また、高分子微粒子のゼータ電位は58mVであった。
【0056】
(実施例2) 紫外線の露光量を10J/cm2とした以外は、上記実施例1と同様の操作を行った。そして、高分子微粒子の平均粒子径及びゼータ電位を測定したところ、それぞれ206nm、20mVという結果を得た。得られた高分子微粒子をSEMで観察したところ、高分子微粒子の粒子径及び形状に変化は認められなかった。
【0057】
(実施例3) 紫外線の露光量を15J/cm2とした以外は、上記実施例1と同様の操作を行った。そして、高分子微粒子の平均粒子径及びゼータ電位を測定したところ、それぞれ200nm、−11mVという結果を得た。SEMにより得られた高分子微粒子を観察したところ、高分子微粒子の粒子径、及び高分子微粒子の形状変化は認められなかった。
【0058】
上記実施例1〜実施例3、及び比較例1の照射露光量と、測定結果を表1に示す。
【表1】
【0059】
表1に示すとおり、高分子微粒子の平均粒子径は、紫外線照射の有無、露光量によらず略同一の値であった。また、SEM観察による高分子微粒子の粒子径、及び高分子微粒子の形状は、紫外線照射の有無、露光量によらず略同一の値、同一の形状であった。一方、ゼータ電位の値は、いずれも紫外線照射前に比して、ゼータ電位の値が小さくなった。しかも、露光量が大きくなるにつれて、ゼータ電位の値が相対的に負の方向へシフトするという結果を得た。
【0060】
図2は、観測波長254nmでの露光量に対して高分子微粒子の平均粒子径とゼータ電位の値をプロットしたものである。実験サンプルは、露光量以外の条件は、上記実施例1と同様にして行ったものである。同図に示す各プロットの上下バーは、ゼータ電位値を3回測定したときの得られた結果の範囲を示している。図3から明らかなように、高分子微粒子の粒子径は、露光量によらずほぼ一定の値を示した。一方、ゼータ電位の値は、紫外線照射により、照射前に比して相対的に負の方向にシフトした。また、ゼータ電位の負の方向へのシフト量は、露光量が大きくなるにつれて大きくなった。具体的には、照射前には、58mVであったゼータ電位が、露光量が大きくなるにつれてプラスの電荷量が小さくなり、露光量が13J/cm2付近を境に、マイナスの値になった。
【0061】
図3は、上記比較例1のサンプルと、上記実施例2のサンプルについてIR測定を行ったものである。具体的には、まず、これらのサンプルである高分子微粒子の水系分散液を、それぞれ凍結乾燥した。次いで、高分子微粒子を粉末として得た。
そして、得られた粉末をKBr錠剤法でFTIR測定を行った。その結果を図3に示す。図3に示すように、比較例1では観測されなかった、カルボキシル基に特徴的な3420cm−1を極大吸収帯とする3000〜3700cm−1のOH伸縮振動と、1734cm−1を極大吸収帯とするC=O伸縮振動が、紫外線を露光した実施例2のサンプルにおいて観察された。これは、紫外線照射によりカルボキシル基が形成されていることを示唆している。すなわち、紫外線照射により、酸素を活性化し、この活性酸素により高分子微粒子の表面の炭素−炭素結合を若しくは炭素−水素結合を切断し、この切断部位に新たにカルボキシル基が形成されていることを示唆するものである。
【0062】
(実施例4〜6)水媒体中の溶存酸素の役割を確認するために、水系分散液にアルゴンガスによるバブリングを30分行った以外は、上記実施例1〜実施例3と同様の操作により実験を行った(それぞれ実施例4〜6とする)。その結果を、表2に示す。なお、アルゴンガスによるバブリングにより、水系分散液中の溶存酸素量を低下させている。
【表2】
【0063】
表2の結果より、実施例1〜3に比してゼータ電位の測定値の変動が少なくなることを確認した。これは、水系分散液中の溶存酸素がゼータ電位の変動、すなわち、高分子微粒子の表面改質に重要な役割を果たしていることを示唆するものである。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】(a)は、紫外線露光前の高分子微粒子のSEM写真、(b)は、露光量5J/cm2の紫外線を照射した高分子微粒子のSEM写真。
【図2】露光量に対して高分子微粒子のゼータ電位(○)、及び平均粒子径(■)をプロットした図。
【図3】実施例2及び比較例1に係る高分子微粒子のFTIRスペクトル。
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子微粒子の電荷調整方法、高分子微粒子の水系分散液、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高分子微粒子は、分散系の機能性材料として広く応用展開されるようになってきた。とりわけ、水系媒体に安定して分散している高分子微粒子(ラテックス)、並びに高分子微粒子は、環境負荷を低減する観点からも大きな期待が寄せられている。
【0003】
高分子微粒子の水系分散液は、一般的には、乳化安定剤として低分子量の界面活性剤を用い、いわゆる乳化重合法により高分子微粒子前駆体化合物が重合せしめられることによって製造される。その他、ソープフリーの高分子微粒子の水系分散液も提案されている。この高分子微粒子の水系分散液は、界面活性剤を用いずに、いわゆるソープフリー乳化重合法により高分子微粒子前駆体化合物が重合せしめられることによって製造される。
【0004】
高分子微粒子の水系分散液のうち、表面に電荷を有する高分子微粒子の水系分散液は、化粧品原料、光拡散剤、光沢防止剤(艶消し剤)、塗料添加剤、樹脂改質剤、医療診断用プローブ、気孔付与剤、トナーなどの様々な分野で応用が展開され、注目を集めている。表面に電荷を有する高分子微粒子が分散した水系分散液においては、高分子微粒子の電荷を制御する技術が重要となる。
【0005】
従来、水系分散液中の高分子微粒子の電荷調整は、以下のように行われていた。すなわち、乳化重合法により重合した高分子微粒子の水系分散液においては、重合に用いられるモノマーや界面活性剤の種類、モノマーと界面活性剤(乳化剤)の添加比率を変える等により、所望の電荷を有する高分子微粒子を得ていた。また、ソープフリー乳化重合により重合した高分子微粒子の水系分散液においては、高分子微粒子の表面に導入される官能基自体を変更したり、共重合するモノマーの比率を変更(非特許文献1)したりすることにより、所望の電荷を有する高分子微粒子を得ていた。
【非特許文献1】Chemistry Letters,Nagai,Vol.33.No.8,2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した乳化重合法やソープフリー乳化重合法による重合の際の電荷調整方法では、所望の電荷を得るためには、原料となるモノマー等の種類、界面活性剤とモノマーの添加比率、共重合するモノマーの比率等の変更を要し、合成設計段階から検討する必要があった。しかも、これらを変更すると、所望の電荷を示す高分子微粒子が製造されても、粒子径が変動してしまうため、所望の微粒子を持つ高分子微粒子を得られないという問題があった。
【0007】
なお、上記においては乳化重合法、ソープフリー乳化重合法を用いて合成した高分子分散液の水系分散液の例について説明したが、シード重合、分散重合、懸濁重合等の他の方法により得られる高分子微粒子を分散した水系分散液においても同様の問題が生じ得る。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、簡便な方法で、水系分散液に分散した高分子微粒子の粒子径を略一致させつつ、高分子微粒子の電荷を調整できる高分子微粒子の電荷調整方法を提供することである。また、高分子微粒子の粒子径を略一致させつつ、電荷を変更した高分子微粒子の水系分散液、及びその製造方法を簡便な方法により提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが、鋭意検討を重ねたところ下記の態様において本件発明の目的を達成し得ることを見出した。
本発明の第1の態様に係る高分子微粒子の電荷調整方法は、溶存酸素を含む水系分散液に分散している高分子微粒子の電荷調整方法であって、前記高分子微粒子に紫外線を照射して、前記高分子微粒子の表面状態を改質させることにより前記高分子微粒子の電荷を調整するものである。
【0010】
本発明の第1の態様に係る高分子微粒子の電荷調整方法によれば、水系分散液に溶存している酸素に紫外線を照射することにより生じる反応活性な酸素化学種によって高分子微粒子の表面を改質する。その結果、水系分散液中の高分子微粒子の電荷を変化させることができる。紫外線照射量をコントロールすることにより、高分子微粒子の粒子径を略一致させつつ、簡便に高分子微粒子の電荷を調整ことができる。
【0011】
本発明の第2の態様に係る高分子微粒子の水系分散液の製造方法は、前記高分子微粒子を酸素が溶存する水系分散液に分散し、ゼータ電位をシフトさせるように前記水系分散液に紫外線を照射するものである。
【0012】
本発明の第2の態様に係る高分子微粒子の水系分散液の製造方法によれば、高分子微粒子の粒子径を略一致させつつ、電荷を変化させた高分子微粒子の水系分散液を簡便に製造することができる。その理由は、以下のとおりである。水中に溶存している基底状態の酸素分子は、真空紫外領域から紫外領域にわたって様々な吸収帯をもつ。これらの吸収帯に対応する光を基底状態の酸素分子が吸収すると、2個の酸素原子に解離する、若しくは励起3重項状態の酸素分子になる。酸素原子は酸素分子と反応してオゾン(O3)を生成する。形成されたオゾンは310nm以下の紫外線を吸収して、1重項状態の酸素分子と酸素原子(1D)を形成する。酸素原子(1D)と酸素分子との反応により基底状態の酸素原子(3P)も形成される。また、3重項状態の酸素分子は250nm程度以下の紫外線を吸収して、1重項酸素原子(1D)と3重項酸素原子(3P)を形成する。また、91nmの紫外線照射により基底状態の酸素分子は解離して、2つの1重項酸素原子(1D)が形成される。このように基底状態の酸素分子への90nm以上、310nm以下の紫外線照射により、様々な電子状態をもつ1重項酸素分子、3重項酸素分子、1重項酸素原子や3重項酸素原子が主に生じる。また、310nm以上の紫外線を照射した場合であっても、例えば、芳香環と接触電荷移動錯体を形成し、この接触電荷移動錯体が励起されることにより、有機ラジカルが形成されて反応活性な酸素化学種が形成し得る。本明細書では、基底状態の酸素分子への紫外線照射により生じ得る上記の酸素分子、酸素原子、オゾン等を反応活性な酸素化学種と記す。
【0013】
上記酸素化学種により高分子微粒子の表面が改質される。その結果、水系分散液中の高分子微粒子の電荷が変化し、ゼータ電位がシフトする。紫外線照射量をコントロールすることにより、例えば、一定照度の紫外線への暴露時間をコントロールすることにより、高分子微粒子の粒子径を略一致させつつ、所望の電荷を有する高分子微粒子の水系分散液を簡便に製造することができる。
【0014】
本発明の第3の態様に係る高分子微粒子の水系分散液の製造方法は、前記紫外線の照射波長を、90nm以上、310nm以下とすることを特徴とするものである。照射波長を90nm、310nm以下とすることにより、水系分散液中に溶存している酸素をより効果的に活性化させることができる。
【0015】
本発明の第4の態様に係る高分子微粒子の水系分散液の製造方法は、前記高分子微粒子が、ソープフリー乳化重合法での重合により得られた高分子微粒子であることを特徴とするものである。最も一般的な重合法である乳化重合法により合成した場合、界面活性剤(乳化剤)が高分子微粒子の表面等に付着して、高分子微粒子の表面を汚染されてしまう恐れがあり、用途によっては支障をきたす場合がある。一方、ソープフリー乳化重合法により重合すれば、高分子微粒子の表面が界面活性剤によって汚染されることがない。従って、界面活性剤に起因する問題を回避することができる。
【0016】
本発明の第5の態様に係る高分子微粒子の水系分散液は、炭素−炭素結合、若しくは炭素−水素結合を表面に有する高分子微粒子が分散し、かつ酸素が溶存している高分子微粒子の水系分散液であって、紫外線を照射することにより前記酸素を活性化し、その結果生じる反応活性な酸素化学種により前記高分子微粒子の表面の炭素−炭素結合、若しくは炭素−水素結合の少なくとも一部を切断し,ゼータ電位を相対的に負の方向にシフトさせたものである。
【0017】
本発明の第5の態様に係る水系分散液によれば、高分子微粒子の粒子径を略一致させつつ、電荷を変更した高分子微粒子の水系分散液を簡便に提供することができる。その理由は、以下のとおりである。まず、紫外線を照射することにより、水系分散液に含有している溶存酸素を活性化する。そして、その結果生じた反応活性な酸素化学種により高分子微粒子の表面の炭素−炭素結合、若しくは炭素−水素結合が切断され、炭素−酸素結合が形成される。例えば、励起状態の1重項酸素分子は、水中で約10−6秒の寿命を持つため、炭素−炭素の不飽和結合に付加した後カルボニル基を形成し、カルボニル基が励起されて反応活性な酸素化学種や水等と反応して、炭素が酸化された様々な官能基を形成し得る。紫外線照射により解離した酸素原子は、炭素−水素結合での水素引き抜き反応や挿入反応、炭素−炭素結合の不飽和結合や芳香環への付加反応等を経て、水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基等を高分子微粒子表面に形成し得る。このように、酸素を用いた光酸素酸化反応は複数の化学反応を伴うが、結果として、水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基等を形成し得る。
【0018】
例えば、紫外線照射により高分子微粒子の表面にカルボキシル基が形成されると、このカルボキシル基は、水系分散液中で酸解離してカルボキシラート基になり、負の電荷を帯びるようになる。高分子微粒子の表面の炭素−炭素結合の切断に伴う新たな結合の生成の度合いに応じて、水系分散液中の高分子微粒子の電荷が変化する(ゼータ電位の値が相対的に負の方向にシフトする)。紫外線照射量をコントロールすることにより、例えば、一定照度の紫外線への暴露時間をコントロールすることにより、高分子微粒子の粒子径を略一致させつつ、所望の電荷を有する高分子微粒子の水系分散液を提供することができる。
【0019】
本発明の第6の態様に係る高分子微粒子の水系分散液は、前記紫外線の照射波長が、90nm以上、310nm以下であることを特徴とする。
【0020】
本発明の第7の態様に係る水系分散液は、前記高分子微粒子として、ソープフリー乳化重合法により重合されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、簡便な方法で、水系分散液に分散した高分子微粒子の粒子径を略一致させつつ、高分子微粒子の電荷を調整できる高分子微粒子の電荷調整方法を提供することができるという優れた効果がある。また、粒子径を略一致させつつ、電荷を変更した高分子微粒子の水系分散液、及びその製造方法を簡便な方法により提供することができるという優れた効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0023】
[高分子微粒子の水系分散液の電荷調整方法]
本発明に係る高分子微粒子の電荷調整方法は、酸素が溶存している水系分散液に分散している高分子微粒子に紫外線を照射して、高分子微粒子の表面状態を改質させることにより高分子微粒子の電荷を調整するものである。
【0024】
ここで、高分子微粒子とは、水を含む水系分散液に不溶で、微細な粒子として水分散媒中に分散したものである。水系分散液中の高分子微粒子の含有量は、特に限定されないが、一般的には、0.001wt%〜50wt%であり、好ましくは0.01wt%から1wt%である。分散液は、水と高分子微粒子のみから構成されるものでもよいし、本件発明の趣旨に反しない限り他の添加剤、例えば、塩化ナトリウム(NaCl)などの塩や分散安定剤が加えられたものであってもよい。
【0025】
高分子微粒子は、各種重合法により重合したもの、予め調整した合成ポリマーや既存の天然高分子、生体高分子などから製造されたものを用いることができる。各種用途に求められる特性を考慮して適宜、最適な高分子微粒子を選定すればよい。
【0026】
水系分散液は、酸素が溶存したものを用いる。溶存酸素量は、特に限定されない。ただし、露光条件が同一の場合、溶存酸素量に応じて高分子微粒子の表面の改質状態が異なる。酸素の水に対する溶解度は、20℃の温度、1気圧の大気圧下で、おおよそ3.1ml/100mlである。温度と大気圧の変動により酸素の溶解度は異なる。少ない露光量で高分子微粒子の表面を改質するためには、溶存酸素量を多くすればよい。通常の水系分散液中の溶存酸素量よりも多くする方法としては、例えば、紫外線照射前に酸素バブリングを行う方法を挙げることができる。また、酸素の代わりに、酸素への紫外線照射により生じる反応活性な酸素化学種の一つであるオゾン(O3)ガスでバブリングを行ってもよい。逆に、通常の水系分散液中の溶存酸素量より少なくする方法としては、例えばアルゴンなどの不活性ガスでバブリングを行う方法を挙げることができる。
【0027】
本発明に係る高分子微粒子の電荷調整方法によれば、紫外線を照射することにより、高分子微粒子の電荷を簡便に調整することができる。その理由は、以下のとおりである。まず、高分子微粒子が分散している水系分散液に紫外線を照射することにより、水系分散液に溶存している酸素が活性化され、反応活性な酸素化学種が生じる。そして、この反応活性な酸素化学種により高分子微粒子の表面が改質され、高分子微粒子の電荷を変化させることができる。紫外線照射量をコントロールすることにより、例えば、一定照度の紫外線への暴露時間をコントロールすることにより、高分子微粒子の粒子径を略一致させつつ、簡便に水系分散液中の高分子微粒子の電荷を調整することができる。なお、水系分散液の高分子微粒子の電荷は、例えばゼータ電位計により測定することができる。ゼータ電位の値は、測定条件により値が変動するので、紫外線照射前後の測定条件を同じにして測定する必要がある。なお、高分子微粒子の粒子径が略一致しているとは、各種用途に応じて許容される粒子径の変動の範囲内であることを意味し、粒子径の変動幅に特に制限はない。一般的には、高分子微粒子の直径の紫外線照射前後の変動幅が±10%以下であることが好ましく、さらに好ましくは、±5%以下である。
【0028】
[高分子微粒子の水系分散液の製造方法]
次に、本発明に係る高分子微粒子の水系分散液の製造方法について説明する。なお、以降の説明において、上記高分子微粒子の水系分散液の電荷調整方法における説明と重複する部分については、適宜その説明を省略する。なお、ゼータ電位とは、荷電界面と電解質溶液間のズリ面(すべり面)に依存する界面動電位のことをいい、ゼータ電位計により測定することができる。測定環境(pH、電解質の種類、電解質濃度、温度、測定レーザー光源)等により値が変動するので、測定条件は一定とする必要がある。
【0029】
まず、高分子微粒子を酸素が溶存する水系分散液に分散する。高分子微粒子は、上述したように、各種重合法により重合したもの、予め調整した合成ポリマーや既存の天然高分子、生体高分子などから製造されたものを用いることができる。重合方法については、例えば、乳化重合、ソープフリー乳化重合、シード重合、分散重合、懸濁重合により重合することができる。中でも、ソープフリー乳化重合により重合したものを用いることが好ましい。ソープフリー乳化重合法とは、界面活性剤を用いずに、重合開始剤だけで油溶性単量体を乳化重合して乳化重合物を得る方法である。ソープフリー乳化重合では、水溶性重合開始剤のラジカルがわずかに水に溶解した油溶性単量体と反応し、ある臨界の鎖長で析出し粒子の核を形成し、これが粒子に成長する。
【0030】
ソープフリー乳化重合法が特に好ましい理由について、乳化重合法における問題点から説明する。乳化重合法においては、前述したとおり重合に際して界面活性剤を添加する。この界面活性剤が、高分子微粒子の表面に付着し、諸物性が安定しないという問題があった。また、添加された界面活性剤の添加量や種類によっては、乾燥時に成膜を阻害したり、遊離した界面活性剤が成膜後に表面に移行(ブリード)して各種素材との密着性や接着性を低下させる場合がある。一方、ソープフリー乳化重合法によれば、界面活性剤などを用いずに高分子微粒子を合成できるので、このような問題を回避できる。
【0031】
ソープフリー乳化重合法は、概して2つの方法に分類される。一つは、水溶性重合開始剤と、単独若しくは複数の疎水性単量体の組み合わせで行う方法である。もう一つは、水溶性重合開始剤と、水溶性単量体と、単独若しくは複数の疎水性単量体の組み合わせで行う方法である。疎水性単量体(疎水性モノマー)を総称で挙げると、スチレン系、アクリル酸エステル系、メタクリル酸エステル系、ビニルエステル系等が挙げられる。スチレン系の疎水性単量体としては、スチレン、4−(クロロメチル)スチレン、4−(ブロモメチル)スチレン、4−クロロスチレン、4−(ベンジルスルホニル)スチレン、4−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン等が挙げられる。アクリル酸エステル系の疎水性単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル、アクリル酸グリシジル等が挙げられる。メタクリル酸エステル系の疎水性単量体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル、メタクリル酸グリシジル等が挙げられる。ビニルエステル系の疎水性単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、ピバル酸ビニル、けい皮酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、デカン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、安息香酸ビニル等を挙げることができる。疎水性単量体としては、上記を好適に用いることができるが、特に限定はなく、公知のものを用いることができる。
【0032】
水溶性単量体(親水性モノマー)としては、アクリル酸、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、N−イソプロピルアクリルアミド、アクリルアミド、N−アルキル−N,N−ジメチル−2−[(1−オキソ−2−プロペニル)オキシ]エタンアンモニウム ブロミド(クロリド)、N−アルキル−N,N−ジエチル−2−[(1−オキソ−2−プロペニル)オキシ]エタンアンモニウム ブロミド(クロリド)、N−アルキル−N,N−ジメチル−3−[(1−オキソ−2−プロペニル)アミノ]プロパンアンモニウム ブロミド(クロリド)、N−アルキル−N,N−ジエチル−3−[(1−オキソ−2−プロペニル)アミノ]プロパンアンモニウム ブロミド(クロリド)、メタクリル酸、メタクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、N−イソプロピルメタクリルアミド、メタクリルアミド、N−アルキル−N,N−ジメチル−2−[(2−メチル−1−オキソ−2−プロペニル)オキシ]エタンアンモニウム ブロミド(クロリド)、N−アルキル−N,N−ジエチル−2−[(2−メチル−1−オキソ−2−プロペニル)オキシ]エタンアンモニウム ブロミド(クロリド)、N−アルキル−N,N−ジメチル−3−[(2−メチル−1−オキソ−2−プロペニル)アミノ]プロパンアンモニウム ブロミド(クロリド)、N−アルキル−N,N−ジエチル−3−[(2−メチル−1−オキソ−2−プロペニル)アミノ]プロパンアンモニウム ブロミド(クロリド)等が挙げられる。親水性単量としては、上記を好適に用いることができるが、特に制限はなく、公知のものを用いることができる。水溶性単量体を用いる場合、疎水性単量体の質量に対し、水溶性単量体を0.01質量%から5質量%程度加えて共重合する。
【0033】
ソープフリー乳化重合法において使用し得る重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二硫酸塩・二水和物、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2'−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]水和物、2,2'−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}二塩酸塩、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2'−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−エチルプロパン)二塩酸塩、2,2'−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオン酸アミド}、2,2'−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオン酸アミド]等を挙げることができるが、これらに限定されない。通常は、水溶液にした状態で用いる。
【0034】
なお、水系分散液中の溶存酸素量を調整する必要がある場合には、高分子微粒子を分散させる前、若しくは高分子微粒子を分散させた後に、目的とする酸素量に応じてアルゴン等の不活性ガスや酸素のバブリング等を行う。
【0035】
次に、高分子微粒子の水系分散液に紫外線を照射する。紫外線光源としては、例えば、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、水銀キセノン灯、各種のキセノンエキシマ灯、各種のエキシマレーザーを用いることができる。必要に応じて、フィルターを組み合わせ、所望の波長が得られるようにする。照射波長は、90nm以上、310nmとすることがより好ましい。この範囲にすることにより、より効果的に水系分散液中に溶存している酸素を活性化させることができるためである。露光量は、水系分散液中の高分子微粒子の電荷が所望の値となるように、適宜設定する。
【0036】
本発明に係る高分子微粒子の水系分散液の製造方法によれば、高分子微粒子の平均粒子径を略一致させつつ、電荷を変更した高分子微粒子の水系分散液を簡便に製造することができる。その理由は、以下のとおりである。
【0037】
水中に溶存している基底状態の酸素分子は、真空紫外領域から紫外領域にわたって様々な吸収帯をもつ。これらの吸収帯に対応する光を基底状態の酸素分子が吸収すると、2個の酸素原子に解離する、若しくは励起3重項状態の酸素分子になる。酸素原子は酸素分子と反応してオゾン(O3)を生成する。形成されたオゾンは310nm以下の紫外線を吸収して、1重項状態の酸素分子と酸素原子(1D)を形成する。酸素原子(1D)と酸素分子との反応により基底状態の酸素原子(3P)も形成される。また、3重項状態の酸素分子は250nm程度以下の紫外線を吸収して、1重項酸素原子(1D)と3重項酸素原子(3P)を形成する。また、91nmの紫外線照射により基底状態の酸素分子は解離して、2つの1重項酸素原子(1D)が形成される。このように基底状態の酸素分子への90nm以上、310nm以下の紫外線照射により、様々な電子状態をもつ1重項酸素分子、3重項酸素分子、1重項酸素原子や3重項酸素原子が主に生じる。また、310nm以上の紫外線を照射した場合であっても、例えば、芳香環と接触電荷移動錯体を形成し、この接触電荷移動錯体が励起されることにより、有機ラジカルが形成されて反応活性な酸素化学種が形成し得る。本明細書では、基底状態の酸素分子への紫外線照射により生じ得る上記の酸素分子、酸素原子、オゾン等を反応活性な酸素化学種と記す。
【0038】
上記酸素化学種により高分子微粒子の表面が改質される。その結果、水系分散液中の高分子微粒子の電荷が変化し、ゼータ電位がシフトする。紫外線照射量をコントロールすることにより、高分子微粒子の粒子径を略一致させつつ、所望の電荷を有する高分子微粒子の水系分散液を製造することができる。
【0039】
[高分子微粒子の水系分散液]
次に、本発明に係る高分子微粒子の水系分散液について説明する。なお、以降の説明において、上述した内容と重複する部分については、適宜その説明を省略する。
【0040】
本発明に係る高分子微粒子の水系分散液は、酸素が溶存している。水の温度、大気圧、溶存物質により異なるが、水に対する酸素の溶解度は、20℃の温度、1気圧の大気圧下で、3.1ml/100mlである。高分子微粒子は、少なくともその表面に炭素−炭素結合を若しくは炭素−水素結合を有している。そして、紫外線を照射することにより溶存酸素を活性化させて生じる反応活性な酸素化学種により高分子微粒子表面の炭素−炭素結合、若しくは炭素−水素結合の少なくとも一部を切断し、ゼータ電位を相対的に負の方向にシフトさせたものである。
【0041】
ここで、「ゼータ電位を相対的に負の方向にシフトさせる」とは、紫外線を照射する前の高分子微粒子の水系分散液のゼータ電位値に比して、紫外線照射後の高分子微粒子の水系分散液のゼータ電位値が、負の方向にシフトしているものをいう。具体的には、照射前にゼータ電位値がプラスである場合、照射後のゼータ電位値は、絶対値がより小さいプラスの値、ゼロ、又はマイナスの値を示すものをいう。また、照射前にゼータ電位値がマイナスである場合、照射後のゼータ電位値は、絶対値がより大きいマイナスの値を示すものをいう。
【0042】
高分子微粒子の水系分散液に照射される紫外線の照射波長は、好ましくは90nm以上、310nm以下のものを用いる。90nm以上、310nm以下のものを用いることにより、水系分散液中に存在する酸素を、より効率的に活性化させることができるためである。水系分散液に照射する紫外線の露光量は、所望の電荷が得られるように適宜選択する。
【0043】
本実施形態に用いられる水系分散液中の高分子微粒子の含有量は、特に限定されないが、一般的には、0.001wt%〜50wt%であり、好ましくは0.01wt%から1wt%である。なお、本発明に係る高分子微粒子の水系分散液は、本発明の趣旨に反しない限り他の添加剤を含有していてもよい。
【0044】
高分子散粒子の平均粒子径は特に限定されないが、好ましくは10nm以上、10μm以下である。この範囲にすることにより、高分子微粒子を水中で分散させた状態を保持できる。10nmより小さいと安定に高分子微粒子を製造することが難しいという問題が生じ得る。また、10μmを越えると、高分子微粒子が分散液の中で沈降し、効果的に表面改質を行えないという問題が生じ得る。より好ましくは50nm以上、2μm以下である。分散粒子の粒子径分布に関しては特に制限はなく、用途に応じて適宜選定する。ただし、粒子径分布が小さいほど、各高分子微粒子の電荷のばらつきが小さくなるので、粒子径分布は小さいほうが一般に好ましい。
【0045】
高分子微粒子を構成する高分子は、直鎖状のものでも枝分かれしたものでも、架橋されたものでもよい。また、単一の疎水性単量体が重合した重合体でもよいし、2種類以上の複数の疎水性単量体、若しくは疎水性単量体と水溶性単量体が重合した共重合体でもよい。共重合体の場合には、ランダム共重合体でもブロック共重合体でもよい。一般的には、数平均分子量が1000〜1,000,000程度であることが好ましい。分子量が小さすぎると、塗膜の力学強度が不十分となる傾向があり、大きすぎるものは成膜性が悪くなる傾向にある。
【0046】
用いられる高分子微粒子の種類は、特に限定されない。本発明に係る高分子微粒子の水系分散液は、上述したようにいかなる方法で合成された高分子微粒子を用いてもよいが、特に好ましくは、ソープフリー乳化重合により重合された高分子微粒子を用いることである。その理由は、上述したとおりである。
【0047】
本発明に係る高分子微粒子の水系分散液によれば、高分子微粒子の粒子径を略一致させつつ、電荷を変更した高分子微粒子の水系分散液を簡便に製造することができる。その理由は、以下のとおりである。まず、紫外線を照射することにより、水系分散液に含有している溶存酸素を活性化する。その結果生じる反応活性な酸素化学種により高分子微粒子の表面の炭素−炭素結合若しくは炭素−水素結合を切断し、炭素−酸素結合(例えば、カルボキシル基)が形成される。例えば、励起状態の1重項酸素分子は、水中で約10−6秒の寿命を持つため、炭素−炭素の不飽和結合に付加した後カルボニル基を形成し、カルボニル基が励起されて反応活性な化学種と反応して、様々な炭素が酸化された官能基を形成し得る。紫外線照射により解離した酸素原子は、炭素−水素結合での水素引き抜き反応や挿入反応、炭素−炭素結合の不飽和結合や芳香環への付加反応等を経て、水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基等を高分子微粒子表面に形成し得る。このように、酸素を用いた光酸素酸化反応は複数の化学反応を伴うが、結果として、水酸基、アルデヒド基、カルボキシル基等を形成し得る。
【0048】
例えば、紫外線照射により高分子微粒子の表面にカルボキシル基が形成されると、このカルボキシル基は、水系分散液中で酸解離してカルボキシラート基になり、負の電荷を帯びるようになる。紫外線照射による炭素−酸素結合形成の度合に応じて、水系分散液中の高分子微粒子の電荷が変化する(ゼータ電位の値が相対的に負の方向にシフトする)。紫外線照射量をコントロールすることにより、例えば、一定照度の紫外線への暴露時間をコントロールすることにより、高分子微粒子の粒子径を略一致させつつ、所望の電荷を有する高分子微粒子の水系分散液を簡便に得ることができる。
【実施例】
【0049】
次に、実施例によりさらに本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されるものではない。
[ソープフリー乳化重合によるカチオン性ポリスチレン微粒子の合成]
まず、水溶性重合開始剤である2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩0.4339g(1.600mmol)を脱イオン水20mlに溶解させた水溶液Aと、カチオン性の水溶性単量体(カチオン性モノマー)であるN−エチル−N,N−ジメチル−2−[(1−オキソ−2−プロペニル)オキシ]エタンアンモニウム ブロミド0.4030g(1.600mmol)を脱イオン水20mlに溶解させた水溶液Bを調製した。次に、300mlの四つ口のセパラブルフラスコに、疎水性単量体であるスチレン16.66g(160.0mmol)、上記溶液B、及び脱イオン水40mlを加えた。そして、この四つ口のセパラブルフラスコを氷浴で冷却し、反応容器中の混合溶液をいかり型の撹拌棒を用いて200rpmの回転数にて撹拌した。また、反応容器内は、窒素ガスに置換した。
【0050】
次に、反応容器内に上記溶液Aを加え、窒素ガスに置換した。そして、反応容器内の混合溶液を60℃で16時間撹拌した。その後、室温まで冷却し、三商社製のステンレス製ふるい(目開き150μm、内径750mm)で反応溶液をろ過し、凝集物を除去した。得られたろ液を3000rpmの回転数で30分間遠心分離し、沈殿物をデカンテーションにより分離した。さらに、上層の高分子微粒子の水系分散液を12000rpmの回転数で90分間遠心分離し、沈殿物と上澄み液に分離した。その後、得られた沈殿物を脱イオン水で希釈し、130回/分の速さで1時間振とうさせ、沈殿物を分散させた。12000rpmの回転数での遠心分離と沈殿物の脱イオン水による再分散を4回繰り返して精製を行い、カチオン性ポリスチレン微粒子(以下、「高分子微粒子」と省略する)を収率93%で得た。
【0051】
[高分子微粒子の特性評価]
得られた高分子微粒子の水系分散液を脱イオン水で希釈し、高分子微粒子の質量百分率が0.025wt%である高分子微粒子の水系分散液を調製した。高分子微粒子の粒子径及びゼータ電位は、レーザーゼータ電位計(大塚電子製、ELS−8000)を用いて測定した。高分子微粒子の平均粒子径は、pH7の脱イオン水中で測定した。また、高分子微粒子のゼータ電位は、25±1℃,pH7の10mmol/dm3のNaCl水溶液中で測定した。また、得られた高分子微粒子の形状は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察(日立製 走査型電子顕微鏡S−3000N)により評価した。
【0052】
上記高分子微粒子の平均粒子径は、196nmであった。また、高分子微粒子のゼータ電位は、59mVであった。図1(a)は、得られた高分子微粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。同図より、上記合成法により得た高分子微粒子は、球形の微粒子であることを確認した。また、SEMにより高分子微粒子の粒子径を確認したところ、その粒子径は200nmであり、レーザーゼータ電位計の値と略一致していることを確認した。
【0053】
[紫外線照射実験]
次に、上記高分子微粒子を用いて紫外線を照射した実験例の一例について説明する。高分子微粒子の平均粒子径及びゼータ電位の測定装置と測定法は、上述したとおりである。また、ゼータ電位の値は、同一のサンプルで3回測定し、その平均値を示す。
【0054】
(実施例1) 高分子微粒子の質量百分率が0.025wt%である高分子微粒子の水系分散液を、ステンレス製シャーレ(φ=70mm)に30ml入れた。このシャーレに紫外線光源(SAN−EI ELECTRONIC, UVF−202S)から放射された光を照射した。具体的には、観測波長254nmにおける露光量を5.0J/cm2とした。
紫外線照射後の高分子微粒子の平均粒子径を求めたところ、203nmであった。また、紫外線照射後の高分子微粒子のゼータ電位は、46mVであった。図1(b)は、紫外線照射後の、高分子微粒子のSEM写真である。同図より、上記高分子微粒子に紫外線を照射した後も、高分子微粒子の形状に変化はなく、球形の微粒子であることを確認した。また、高分子微粒子の粒子径も変化がないことを確認した。
【0055】
(比較例1) 紫外線を照射しない以外は、上記実施例1と同様の操作を行った。その結果、高分子微粒子の平均粒子径は198nmであった。また、高分子微粒子のゼータ電位は58mVであった。
【0056】
(実施例2) 紫外線の露光量を10J/cm2とした以外は、上記実施例1と同様の操作を行った。そして、高分子微粒子の平均粒子径及びゼータ電位を測定したところ、それぞれ206nm、20mVという結果を得た。得られた高分子微粒子をSEMで観察したところ、高分子微粒子の粒子径及び形状に変化は認められなかった。
【0057】
(実施例3) 紫外線の露光量を15J/cm2とした以外は、上記実施例1と同様の操作を行った。そして、高分子微粒子の平均粒子径及びゼータ電位を測定したところ、それぞれ200nm、−11mVという結果を得た。SEMにより得られた高分子微粒子を観察したところ、高分子微粒子の粒子径、及び高分子微粒子の形状変化は認められなかった。
【0058】
上記実施例1〜実施例3、及び比較例1の照射露光量と、測定結果を表1に示す。
【表1】
【0059】
表1に示すとおり、高分子微粒子の平均粒子径は、紫外線照射の有無、露光量によらず略同一の値であった。また、SEM観察による高分子微粒子の粒子径、及び高分子微粒子の形状は、紫外線照射の有無、露光量によらず略同一の値、同一の形状であった。一方、ゼータ電位の値は、いずれも紫外線照射前に比して、ゼータ電位の値が小さくなった。しかも、露光量が大きくなるにつれて、ゼータ電位の値が相対的に負の方向へシフトするという結果を得た。
【0060】
図2は、観測波長254nmでの露光量に対して高分子微粒子の平均粒子径とゼータ電位の値をプロットしたものである。実験サンプルは、露光量以外の条件は、上記実施例1と同様にして行ったものである。同図に示す各プロットの上下バーは、ゼータ電位値を3回測定したときの得られた結果の範囲を示している。図3から明らかなように、高分子微粒子の粒子径は、露光量によらずほぼ一定の値を示した。一方、ゼータ電位の値は、紫外線照射により、照射前に比して相対的に負の方向にシフトした。また、ゼータ電位の負の方向へのシフト量は、露光量が大きくなるにつれて大きくなった。具体的には、照射前には、58mVであったゼータ電位が、露光量が大きくなるにつれてプラスの電荷量が小さくなり、露光量が13J/cm2付近を境に、マイナスの値になった。
【0061】
図3は、上記比較例1のサンプルと、上記実施例2のサンプルについてIR測定を行ったものである。具体的には、まず、これらのサンプルである高分子微粒子の水系分散液を、それぞれ凍結乾燥した。次いで、高分子微粒子を粉末として得た。
そして、得られた粉末をKBr錠剤法でFTIR測定を行った。その結果を図3に示す。図3に示すように、比較例1では観測されなかった、カルボキシル基に特徴的な3420cm−1を極大吸収帯とする3000〜3700cm−1のOH伸縮振動と、1734cm−1を極大吸収帯とするC=O伸縮振動が、紫外線を露光した実施例2のサンプルにおいて観察された。これは、紫外線照射によりカルボキシル基が形成されていることを示唆している。すなわち、紫外線照射により、酸素を活性化し、この活性酸素により高分子微粒子の表面の炭素−炭素結合を若しくは炭素−水素結合を切断し、この切断部位に新たにカルボキシル基が形成されていることを示唆するものである。
【0062】
(実施例4〜6)水媒体中の溶存酸素の役割を確認するために、水系分散液にアルゴンガスによるバブリングを30分行った以外は、上記実施例1〜実施例3と同様の操作により実験を行った(それぞれ実施例4〜6とする)。その結果を、表2に示す。なお、アルゴンガスによるバブリングにより、水系分散液中の溶存酸素量を低下させている。
【表2】
【0063】
表2の結果より、実施例1〜3に比してゼータ電位の測定値の変動が少なくなることを確認した。これは、水系分散液中の溶存酸素がゼータ電位の変動、すなわち、高分子微粒子の表面改質に重要な役割を果たしていることを示唆するものである。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】(a)は、紫外線露光前の高分子微粒子のSEM写真、(b)は、露光量5J/cm2の紫外線を照射した高分子微粒子のSEM写真。
【図2】露光量に対して高分子微粒子のゼータ電位(○)、及び平均粒子径(■)をプロットした図。
【図3】実施例2及び比較例1に係る高分子微粒子のFTIRスペクトル。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶存酸素を含む水系分散液に分散している高分子微粒子の電荷調整方法であって、
前記高分子微粒子に紫外線を照射して、前記高分子微粒子の表面状態を改質させることにより前記高分子微粒子の電荷を調整する高分子微粒子の電荷調整方法。
【請求項2】
高分子微粒子の水系分散液の製造方法であって、
前記高分子微粒子を酸素が溶存する水系分散液に分散し、
ゼータ電位をシフトさせるように前記水系分散液に紫外線を照射する高分子微粒子の水系分散液の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の高分子微粒子の水系分散液の製造方法において、
前記紫外線の照射波長が、90nm以上、310nm以下であることを特徴とする高分子微粒子の水系分散液の製造方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の高分子微粒子の水系分散液の製造方法において、
前記高分子微粒子が、ソープフリー乳化重合法での重合により得られた高分子微粒子であることを特徴とする高分子微粒子の水系分散液の製造方法。
【請求項5】
炭素−炭素結合、若しくは炭素−水素結合を表面に有する高分子微粒子が分散し、かつ酸素が溶存している高分子微粒子の水系分散液であって、
前記酸素に紫外線を照射することにより生じる反応活性な酸素化学種により、前記高分子微粒子の表面の炭素−炭素結合、若しくは炭素−水素結合の少なくとも一部を切断し,ゼータ電位を相対的に負の方向にシフトさせた高分子微粒子の水系分散液。
【請求項6】
請求項5に記載の水系分散液において、
前記紫外線の照射波長が、90nm以上、310nm以下であることを特徴とする水系分散液。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の高分子微粒子の水系分散液において、
前記高分子微粒子が、ソープフリー乳化重合法での重合により得られた高分子微粒子であることを特徴とする高分子微粒子の水系分散液。
【請求項1】
溶存酸素を含む水系分散液に分散している高分子微粒子の電荷調整方法であって、
前記高分子微粒子に紫外線を照射して、前記高分子微粒子の表面状態を改質させることにより前記高分子微粒子の電荷を調整する高分子微粒子の電荷調整方法。
【請求項2】
高分子微粒子の水系分散液の製造方法であって、
前記高分子微粒子を酸素が溶存する水系分散液に分散し、
ゼータ電位をシフトさせるように前記水系分散液に紫外線を照射する高分子微粒子の水系分散液の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の高分子微粒子の水系分散液の製造方法において、
前記紫外線の照射波長が、90nm以上、310nm以下であることを特徴とする高分子微粒子の水系分散液の製造方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の高分子微粒子の水系分散液の製造方法において、
前記高分子微粒子が、ソープフリー乳化重合法での重合により得られた高分子微粒子であることを特徴とする高分子微粒子の水系分散液の製造方法。
【請求項5】
炭素−炭素結合、若しくは炭素−水素結合を表面に有する高分子微粒子が分散し、かつ酸素が溶存している高分子微粒子の水系分散液であって、
前記酸素に紫外線を照射することにより生じる反応活性な酸素化学種により、前記高分子微粒子の表面の炭素−炭素結合、若しくは炭素−水素結合の少なくとも一部を切断し,ゼータ電位を相対的に負の方向にシフトさせた高分子微粒子の水系分散液。
【請求項6】
請求項5に記載の水系分散液において、
前記紫外線の照射波長が、90nm以上、310nm以下であることを特徴とする水系分散液。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の高分子微粒子の水系分散液において、
前記高分子微粒子が、ソープフリー乳化重合法での重合により得られた高分子微粒子であることを特徴とする高分子微粒子の水系分散液。
【図2】
【図3】
【図1】
【図3】
【図1】
【公開番号】特開2006−225514(P2006−225514A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−40938(P2005−40938)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
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