説明

高分子有機電子材料の処理方法、高分子有機電子材料の製造方法、有機電界発光素子、電子写真用有機感光体、画像形成装置、有機半導体トランジスタ素子およびその製造方法、並びに半導体装置

【課題】高純度の有機電子材料を簡便に得ることができる高分子有機電子材料の処理方法、該処理方法によって処理された高分子有機電子材料を用いた有機電界発光素子、長寿命で光応答性に優れた有機感光体、動作速度が速く製造容易な有機半導体トランジスタ素子を提供する。
【解決手段】電荷輸送性材料等の高分子有機電子材料を溶剤に溶解させた後、多孔質粒子と接触させる(例えば、多孔質粒子を充填したカラムを通過させる)ことにより分画することを特徴とする高分子有機電子材料の処理方法、および該処理方法によって処理された高分子有機電子材料を用いた有機電界発光素子、有機感光体、有機半導体トランジスタ素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子有機電子材料を精製する処理方法、該処理方法を用いた高分子有機電子材料の製造方法、前記処理方法によって処理された高分子有機電子材料を含有する有機電界発光素子、電子写真用有機感光体、有機半導体トランジスタ素子に関し、また、前記電子写真用有機感光体を用いた画像形成装置、前記有機半導体トランジスタ素子の製造方法、並びに前記有機半導体トランジスタ素子を用いた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機電界発光素子(以下、「EL素子」と称することがある)は、自発光性の全固体素子であり、視認性が高く衝撃にも強いため、広く応用が期待されている。現在は無機螢光体を用いたものが主流であるが、200V以上の交流電圧が駆動に必要なため製造コストが高く、また輝度が不十分等の問題点を有している。
【0003】
一方、有機化合物を用いたEL素子研究は、最初アントラセン等の単結晶を用いて始まったが、単結晶の場合、膜厚が1mm程度と厚く100V以上の駆動電圧が必要であった。そのため蒸着法による薄膜化が試みられている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、この方法で得られた薄膜は、駆動電圧が30Vと未だ高く、また、膜中における電子・正孔キャリアの密度が低く、キャリアの再結合によるフォトンの生成確率が低いため十分な輝度が得られなかった。
【0004】
ところが近年、正孔輸送性有機低分子化合物と電子輸送能を持つ螢光性有機低分子化合物の薄膜を真空蒸着法により順次積層した機能分離型のEL素子において、10V程度の低電圧で1000cd/m2以上の高輝度が得られるものが報告されており(例えば、非特許文献2参照)、以来、積層型のEL素子の研究・開発が活発に行われている。
【0005】
しかしながら、このタイプのEL素子では、複数の蒸着工程において0.1μm以下の薄膜を形成していくためピンホールを生じ易く、十分な性能を得るためには厳しく管理された条件下で膜厚の制御を行うことが必要である。従って、生産性が低くかつ大面積化が難しいという問題がある。また、このEL素子は数mA/cm2という高い電流密度で駆動されるため、大量のジュール熱を発生する。このため、蒸着によってアモルファスガラス状態で製膜された正孔輸送性低分子化合物や螢光性有機低分子化合物が次第に結晶化して最後には融解し、輝度の低下や絶縁破壊が生じるという現象が多く見られ、その結果素子の寿命が低下するという問題も有している。例えば、電子輸送材料の場合、2−(4−ビフェニルイル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBO)を初めとするオキサジアゾール誘導体を電子輸送材料として使用することが提案されている(例えば、特許文献1参照)ものの、得られた薄膜は結晶化しやすく、電荷輸送・注入特性の面からも充分とはいえない。また、電子輸送材料はオキサジアゾール化合物以外に種類が乏しく、低電圧駆動・高効率化の面からも電荷輸送・注入特性にも優れたさらなる材料の開発が望まれているのが現状である。
【0006】
一方、積層型有機EL素子における生産性と大面積化に関する問題の解決を目指し、単層構造のEL素子についても研究・開発が進められ、ポリ(p−フェニレンビニレン)等の導電性高分子を用いたり(例えば、非特許文献3参照)、正孔輸送性ポリビニルカルバゾール中に電子輸送材料と螢光色素を混入した素子(例えば、非特許文献4参照)が提案されているが、未だ輝度、発光効率等が有機低分子化合物を用いた積層型有機EL素子には及ばない。
【0007】
EL素子に用いられる材料は電気特性や素子寿命の長期安定性を確保するため、高純度の材料が必要とされている。したがって、EL素子に用いられる材料は合成後に精製工程による高純度化を必要とする。特に、高分子材料の場合には重合後に得られた高分子を溶媒洗浄または酸洗浄、アルカリ洗浄等による各種洗浄処理、または良溶媒に溶解後、貧溶媒に滴下する再沈処理を繰り返すことによってこの要求を達成しようとしている。しかし、一般に高分子材料の精製は低分子化合物と比較して困難であり、これらの処理によるEL素子の電気特性向上の効果が不十分であった。またEL素子に使用する高分子電荷輸送材料材料において、不純物が極微少量存在しても素子へ与える影響は大きく、素子の電気特性や寿命の低下をもたらしていた。
【0008】
良溶媒への溶解と貧溶媒への再沈澱を繰り返す処理(例えば、特許文献2参照)では、回数を重ねても未反応モノマーや重合時に生成する分解不純物を完全に除去することはできなかった。
【0009】
また、メタノールによるソックスレー抽出を行う精製法が開示されている(例えば、特許文献3参照)が、メタノールのような貧溶媒を用いた抽出では溶解性が低いため未反応モノマーや分解不純物を完全に除去することはできなかった。
【0010】
透析による低分子量成分を除去する精製法(例えば、特許文献4参照)は水溶性のポリマーにのみ適用でき、疎水性のポリマーでは精製効果が見られなかった。
【特許文献1】特開平7−109454号公報
【特許文献2】特表平08−510285号公報
【特許文献3】特開2002−216965号公報
【特許文献4】特開2002−138133号公報
【非特許文献1】Thin Solid Films,Vol.94,171(1982)
【非特許文献2】Appl.Phys.Lett.,Vol.51,913(1987)
【非特許文献3】Nature,Vol.357,477(1992)
【非特許文献4】第38回応用物理学関係連合講演会予稿集31p−G−12(1991)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の通り、十分な輝度が得られ安定した電気特性を有し、耐久性に優れた有機EL素子を作製するためには、高純度の有機電子材料が必要となる。
また、近年オンデマンドでのドキュメント作製が市場から強く要求されるようになり、出力の高速化、印刷枚数の大幅な増加を可能とする技術が求められており、加えて設置面積の減少によるオフィスコストの低減を実現することが強く要求されている。そのため、有機感光体にはさらなる長寿命化、光応答性の高速化が要求されている。
更に、動作速度が速く、且つ製造が容易な有機半導体トランジスタ素子が強く要求されている。
【0012】
本発明は、従来の技術の上記問題点に鑑みてなされたものであり、高純度の有機電子材料を簡便に得ることができる高分子有機電子材料の処理方法および高分子有機電子材料の製造方法、該処理方法によって処理された高分子有機電子材料を用いた有機電界発光素子を提供することを目的とする。
また、前記処理方法によって処理された高分子有機電子材料を用い、長寿命で光応答性に優れた有機感光体、並びに該有機感光体を用いた画像形成装置を提供することを目的とする。
更には、前記処理方法によって処理された高分子有機電子材料を用い、動作速度が速く製造の容易な有機半導体トランジスタ素子およびその製造方法、並びに該有機半導体トランジスタ素子を用いた半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため有機電子材料に関し鋭意検討した結果、有機電子材料を多孔質粒子と接触させた後、分画することによって、電気特性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。また、高分子電荷輸送材料が電荷輸送能、耐刷性が更に向上することを見出した。
【0014】
上記従来における課題は以下の本発明によって解決される。即ち、本発明は、
<1> 高分子有機電子材料を溶剤に溶解させた後、多孔質粒子と接触させることにより分画することを特徴とする高分子有機電子材料の処理方法である。
<2> 前記高分子有機電子材料が電荷輸送性材料であることを特徴とする前記<1>に記載の高分子有機電子材料の処理方法である。
<3> 前記高分子有機電子材料が発光性材料であることを特徴とする前記<1>に記載の高分子有機電子材料の処理方法である。
<4> 前記高分子有機電子材料が電子輸送性材料であることを特徴とする前記<1>に記載の高分子有機電子材料の処理方法である。
【0015】
<5> 高分子有機電子材料用原料モノマーを金属触媒の存在下で脱水縮合させて高分子有機電子材料を合成する工程と、前記高分子有機電子材料を溶剤に溶解させた後、イオン交換性の多孔質粒子と接触させることにより、前記金属触媒に起因する金属イオンを除去しつつ、前記高分子有機電子材料を分画する工程と、を有することを特徴とする高分子有機電子材料の製造方法。
【0016】
<6> 少なくとも一方が透明または半透明であり陽極または陰極よりなる一対の電極間に、一つまたは複数の有機化合物層を有し、且つ前記有機化合物層に、前記<1>〜<4>の何れか一項に記載の処理方法により処理された高分子有機電子材料を含むことを特徴とする有機電界発光素子である。
【0017】
<7> 支持体上に感光層を有し、該感光層に、前記<1>〜<4>の何れか一項に記載の処理方法により処理された高分子有機電子材料を含有することを特徴とする電子写真用有機感光体である。
<8> 前記感光層が電荷輸送層を有し、該電荷輸送層に、前記<2>に記載の処理方法により処理された電荷輸送性材料を含有してなることを特徴とする前記<7>に記載の電子写真用有機感光体である。
<9> 前記電荷輸送層が最表層であることを特徴とする前記<8>に記載の電子写真用有機感光体である。
<10> 前記感光層が電荷発生層を有し、該電荷発生層がハロゲン化ガリウムフタロシアニン結晶、ハロゲン化スズフタロシアニン結晶、ヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶およびオキシチタニウムフタロシアニン結晶から選択される少なくとも1種を含有することを特徴とする前記<7>〜<9>の何れか一項に記載の電子写真用有機感光体である。
【0018】
<11> 前記<7>〜<10>の何れか一項に記載の電子写真用有機感光体を用いることを特徴とする電子写真方式の画像形成装置である。
【0019】
<12> ソース電極と、ドレイン電極と、前記ソース電極および前記ドレイン電極と導通可能に設けられた有機半導体と、該有機半導体に対して絶縁され且つ電場を印加することが可能なゲート電極と、を少なくとも含み、且つ前記有機半導体が、前記<1>に記載の処理方法により処理された高分子有機電子材料を含有することを特徴とする有機半導体トランジスタ素子である。
【0020】
<13> 溶媒中に電荷輸送性材料を溶解した溶液を用い、前記溶媒を含んだ状態の塗膜を形成する塗膜形成工程と、前記塗膜を乾燥させる乾燥工程と、を少なくとも経ることにより前記<12>に記載の有機半導体トランジスタ素子を製造する有機半導体トランジスタ素子の製造方法であって、前記電荷輸送性材料として、前記<1>に記載の処理方法により処理された高分子有機電子材料を用いることを特徴とする有機半導体トランジスタ素子の製造方法である。
<14> 前記溶媒を含んだ状態の塗膜の形成が、前記溶液に外部刺激を付与してノズルから液滴状に吐出させることによって行われることを特徴とする前記<13>に記載の有機半導体トランジスタ素子の製造方法である。
<15> 前記外部刺激が圧力であることを特徴とする前記<14>に記載の有機半導体トランジスタ素子の製造方法である。
<16> 前記乾燥工程が、酸素濃度が100ppm以下、且つ水分濃度が100ppm以下の環境下で実施されることを特徴とする前記<13>〜<15>の何れか一項に有機半導体トランジスタ素子の製造方法である。
【0021】
<17> 基板と、該基板上に設けられた1個以上の有機半導体トランジスタ素子と、を含み、前記有機半導体トランジスタ素子として、前記<12>に記載の有機半導体トランジスタ素子を用いることを特徴とする半導体装置である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高純度の有機電子材料を簡便に得ることができる高分子有機電子材料の処理方法および高分子有機電子材料の製造方法、該処理方法によって処理された高分子有機電子材料を用いた有機電界発光素子を提供することができる。
また、長寿命で光応答性に優れた有機感光体、並びに該有機感光体を用いた画像形成装置、更には、動作速度が速く製造の容易な有機半導体トランジスタ素子およびその製造方法、並びに該有機半導体トランジスタ素子を用いた半導体装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
−高分子有機電子材料の処理方法−
本発明の処理方法は、粗精製または精製された高分子有機電子材料を溶媒に溶解させた後、多孔質粒子と接触させることにより所望の分子量範囲を分離(分画)し、溶媒を除去して処理することを特徴とする。
高分子有機電子材料において、低分子量成分を多く含む場合、分子中に占める末端基の割合が大きくなるため、素子の特性を阻害することとなる。また、分子量の広がりが大きいほど各分子の挙動にばらつきが生じてしまうため、素子の特性に悪影響を与える。そのため所望の分子量範囲の成分を用いることが好ましく、本発明の処理方法によれば、高純度の有機電子材料を簡便に得ることができ、十分な輝度が得られ、安定した電気特性を有し、耐久性に優れた有機EL素子等を作製するのに好適な高分子有機電子材料を得ることができる。
【0024】
上記多孔質粒子と接触させる具体的な手段としては、分取ゲルパミエーションクロマトグラフィーが挙げられる。
溶媒に溶解した高分子有機電子材料を多孔質粒子と接触させ、所望の分子量範囲を分離する際に、処理量が少ない場合にはゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により処理を行う。GPC中のカラムを通過すると、高分子有機電子材料は分子の大きさに従い溶出される。分離に使用するカラムは市販されている分取用GPCカラムを用いることもでき、一度の処理での処理量を増やす観点からは、カラム内径が20mm以上のものが好ましい。カラムで分離された溶出分をフラクションコレクターによって分画し、目的とする成分を他の成分と分離することができる。
また、処理量が多い場合には、上記よりも更に内径の大きいカラム管に多孔質粒子を充填させたカラムを準備し、該カラム中に処理液を通過させることによって処理することができる。
尚、処理温度は、室温以上から使用する溶媒の沸点の範囲であれば特に制限はなく、特に40℃で行うことが好ましい。
【0025】
上記分取ゲルパミエーションクロマトグラフィーの処理方法によれば、任意の成分を分離・回収することが可能であり、所望の分子量範囲の高分子有機電子材料を高純度で得ることができる。
また、本発明は多孔質粒子と接触させて分画する際に、同時に不純物(例えば、壊れた分子など)を除去することが可能であり、その観点からも高純度の高分子有機電子材料を得ることができる。尚、上記の通り本発明の処理方法では、分子量範囲を選択でき且つ不純物除去が可能であるため、本発明の処理方法を行う前の高分子有機電子材料の合成は、分子量分布が幅広い合成方法や不純物が多く含まれる合成方法であっても構わず、即ち簡易である点や大量生産が可能である点等を優先した合成方法を用いることができる。
【0026】
尚、上記処理を行った後の高分子有機電子材料の分子量(重量平均分子量)は以下の方法により測定することができる。
GPC測定装置「HLC−8120A」(東ソー(株)製)を用い、カラムはガードカラム:TSK guard column Super H−L(東ソー(株)製 Φ4.6×35mm)、GPCカラム:TSKgel Super H2000+2500+3500(東ソー(株)製 Φ6.0×150mm)を用いた。カラムオーブン温度を40℃に設定し、移動相にTHFを用い、流量を0.6ml/min、サンプル濃度を0.1%、注入量を10μlとし、検出は示差屈折計(東ソー(株)製)を使用した。また検量線の作成は、東ソー(株)製標準ポリスチレン試料を使用し、解析には専用ソフト「GPC−8020」を使用した。
【0027】
(多孔質粒子)
本発明に用いる多孔質粒子(上記分取ゲルパミエーションクロマトグラフィーにおいてはカラム中の充填粒子)としては多孔質のものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリ(スチレン−ジビニルベンゼン)、ポリ(メタクリレート)、シリカゲル等が挙げられ、中でもポリ(スチレン−ジビニルベンゼン)が特に好ましい。
【0028】
尚、上記多孔質粒子の平均細孔径としては、0.001〜1μmであることが好ましく、0.01〜0.1μmであることがより好ましい。0.001μm以上であることにより、モノマー、オリゴマーなどの分子サイズの小さなもののみが細孔に進入することにより、分離効率の向上が期待でき、一方1μm以下であることにより、高分子量成分の細孔への進入深さが制限されるため、迅速な処理が可能となる。
ここで、上記平均細孔径は水銀圧入法によって測定することができる。
【0029】
(溶媒)
有機電子材料の溶解に用いられる溶媒はEL素子用材料を溶解させるものであれば特に制限はなく、具体例としては、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、メチルシクロペンタン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、クメン、メシチレン、テルピノレン、o−シメン、m−シメン、p−シメン、アニソール、エチルトルエン、エチルキシレン、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、クロロホルム、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、水等が挙げられ、より好ましくはTHF、クロロホルム、水が挙げられる。これらは、単独又は混合して使用することができる。
尚、上記溶媒中への高分子有機電子材料の溶解率としては、0.01〜20質量%が好ましく、更には0.1〜10質量%が好ましい。
【0030】
(高分子有機電子材料)
処理される高分子の種類としては、有機EL素子に使用できる高分子有機電子材料で上記溶媒に溶解できるものであれば任意に選択でき、例えば、ポリエステル誘導体、ポリエーテル誘導体、ポリウレタン誘導体、ポリスチレン誘導体、ポリメタクリル酸(エステル)誘導体、ポリアクリル酸(エステル)樹脂誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリカーボネート誘導体、ポリアリーレン誘導体、ポリエチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリアリーレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体等が挙げられる。
【0031】
また、上記高分子有機電子材料の好ましい例としては、例えば下記一般式(A−1)および(A−2)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を持つポリマーが挙げられる。
【0032】
【化1】

【0033】
〔一般式(A−1)および(A−2)中、Arは、置換もしくは未置換の1価のフェニル基、置換もしくは未置換の芳香環数3〜10の1価の多核芳香族炭化水素基、置換もしくは未置換の芳香環数2〜10の1価の縮合芳香族炭化水素基、または置換もしくは未置換の1価の複素環を表し、Xは、置換または未置換の2価の芳香族基を表し、Tは、炭素数1〜6の2価の直鎖状炭化水素基または炭素数2〜10の2価の分枝鎖状炭化水素基を表し、kは、0または1を表し、mは、0〜3の整数を表す。〕
【0034】
ここで、一般式(A−1)および(A−2)中、Arを表す構造として選択される多核芳香族炭化水素および縮合芳香族炭化水素を構成する芳香環の数は2〜10のものが好ましく、さらに2〜5のものが好ましく、また縮合芳香族炭化水素においては全ての芳香環が縮合している芳香族炭化水素が好ましい。尚、当該多核芳香族炭化水素および縮合芳香族炭化水素とは、本発明においては、具体的には以下に定義される多環式芳香族のことを意味する。
即ち、「多核芳香族炭化水素」とは炭素と水素から構成される芳香環が2個以上存在し、これらの芳香環同士が炭素−炭素結合によって結合している炭化水素化合物を表す。具体的にはビフェニル、ターフェニル、スチルベン等が挙げられる。また、「縮合芳香族炭化水素」とは、炭素と水素から構成される芳香環が2個以上存在し、これらの芳香環同士が1対の隣接して結合する炭素原子を共有している炭化水素化合物を表す。具体的には、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、ペリレン、フルオレン等が挙げられる。
【0035】
さらに一般式(A−1)および(A−2)中において、Arを表す構造として選択される複素環とは、炭素と水素以外の元素も含む芳香環を表す。その環骨格を構成する原子数(Nr)はNr=5および/または6が好ましく用いられる。また、環骨格を構成する炭素原子以外の原子(異種原子)の種類および数は限定されないが、例えば、硫黄原子、窒素原子、酸素原子等が好ましく用いられ、前記環骨格中に2種以上および/または2個以上の異種原子が含まれていてもよい。特に、5員環構造を有する複素環としてはチオフェン、チオフィン、ピロール、フラン、もしくはこれらの3位および4位の炭素をさらに窒素で置換した複素環が好ましく用いられ、6員環構造を有する複素環としてはピリジン環が好ましく用いられる。
これらは全てが共役系で構成されたもの、あるいは一部が共役系で構成されたもののいずれでもよいが、電荷輸送性や発光効率の点で、全てが共役系で構成されたものが好ましい。
【0036】
一般式(A−1)および(A−2)中、Arで表される各基に置換する置換基としては、例えば水素原子、アルキル基、アルコキシ基、フェノキシ基、アリール基、アラルキル基、置換アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。前記アルキル基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。前記アルコキシ基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基等が挙げられる。前記アリール基としては、炭素数6〜20のものが好ましく、例えばフェニル基、トルイル基等が挙げられる。前記アラルキル基としては、炭素数7〜20のものが好ましく、例えばベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。前記置換アミノ基における置換基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基が挙げられ、具体例は前述と同様である。
【0037】
また、一般式(A−1)及び(A−2)中、Xで表される2価の芳香族基としては、2価のベンゼン環、2価の多核芳香族炭化水素、2価の縮合多環芳香族炭化水素、または2価の複素環が挙げられ、中でも以下に例示する構造が溶媒への溶解性、光吸収波長の短波長化の点で有用である。また、上記2価の芳香族基に置換する置換基としては、前記Arで表される各基に置換する置換基と同様のものが挙げられる。
【0038】
【化2】

【0039】
(R3及びR4は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、2−エチル−ヘキシル基、n−オクチル基、フェニル基またはトリル基を表す。)
【0040】
一般式(A−1)および(A−2)中、Tで表される2価の直鎖状炭化水素基は、炭素数1〜6が好ましく、更には炭素数が2〜6が好ましい。また2価の分枝鎖状炭化水素基は、炭素数2〜10が好ましく、更には炭素数3〜7が好ましい。これらの中でもより具体的には、以下に示す2価の炭化水素基が特に好ましい。
【0041】
【化3】

【0042】
また、本発明に用いられる高分子有機電子材料としては、下記一般式(B−1)〜(B−9)で示されるポリマーが挙げられる。
【0043】
【化4】

【0044】
〔一般式(B−1)および(B−2)中、Aは、上記一般式(A−1)および(A−2)で示される構造から選択された少なくとも1種を表し、Rは、水素原子、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のアラルキル基を表し、Yは、2価アルコール残基を表し、Zは、2価のカルボン酸残基を表し、BおよびB'は、それぞれ独立に基−O−(Y−O)m−Rまたは基−O−(Y−O)m−CO−Z−CO−O−R'(ここで、R、Y、Zは上記と同様であり、R'は置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のアラルキル基を表し、mは1〜5の整数を表す。)を表し、mは、1〜5の整数を表し、pは、5〜5,000の整数を表す。〕
【0045】
一般式(B−1)および(B−2)中、RまたはR’で表されるアルキル基としては炭素数1〜10のものが好ましく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。アリール基としては炭素数6〜20のものが好ましく、例えばフェニル基、トルイル基等が挙げられる。アラルキル基としては、炭素数7〜20のものが好ましく、例えばベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
また、Rで表される各基に置換する置換基としては、水素原子、アルキル基、アルコシキ基、置換アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0046】
一般式(B−1)および(B−2)中、Yで表される2価アルコール残基、およびZで表される2価カルボン酸残基は、より好ましくは下記式(b−1)〜(b−7)から選択される基が好ましい。
【0047】
【化5】

【0048】
〔上記式(b−1)〜(b−7)中、R1およびR2は、それぞれ水素原子、置換もしくは未置換の炭素数1〜4のアルキル基、置換もしくは未置換の炭素数1〜4のアルコキシ基、置換もしくは未置換のフェニル基または置換もしくは未置換のアラルキル基を表し、aおよびbはそれぞれ独立に1〜5の整数を表し、dおよびfはそれぞれ独立に0または1を表し、cおよびeはそれぞれ独立に0〜2の整数を表し、Vは下記(c−1)〜(c−11)で表される基を表す。〕
【0049】
【化6】

【0050】
〔上記式(c−1)、(c−10)および(c−11)中、gは1〜5の整数を、hおよびiはそれぞれ独立に0〜5の整数を表す。〕
【0051】
一般式(B−1)および(B−2)中、pは5〜5,000の整数を表すが、より好ましくは10〜1,000の範囲である。
【0052】
【化7】

【0053】
〔一般式(B−3)中、Aは、上記一般式(A−1)および(A−2)で示される構造から選択された少なくとも1種を表し、Rは、水素原子、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のアラルキル基を表し、pは、5〜5,000の整数を表す。)
【0054】
上記一般式(B−3)におけるRとしては、前記一般式(B−1)および(B−2)におけるRと同様のものが挙げられる。
【0055】
【化8】

【0056】
〔一般式(B−4)および(B−5)中、Aは、上記一般式(A−1)および(A−2)で示される構造から選択された少なくとも1種を表し、Rは、水素原子、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、または置換もしくは未置換のアラルキル基を表し、Tは炭素数1〜6の2価の直鎖状炭化水素基または炭素数2〜10の2価の分枝鎖状炭化水素基を表し、Yは、ジイソシアネート残基を表し、Zは、2価アルコール残基を表し、mは0または1を表し、pは、5〜5,000の整数を表す。〕
【0057】
上記一般式(B−4)および(B−5)中、Rで表されるアルキル基、アリール基、アラルキル基としては、前記一般式(B−1)および(B−2)におけるRと同様のものが挙げられる。また、Yで表されるジイソシアネート残基およびZで表されるアルコール残基の好ましい例としては、前記式(b−1)〜(b−7)が挙げられる。
【0058】
【化9】

【0059】
〔一般式(B−6)〜(B−8)中、Zは、下記一般式(A−3)および(A−4)で示される構造から選択された少なくとも1種、または電荷輸送能もしくは発光能を持つ分子構造を表し、R1、R2およびR3は、それぞれ独立に水素原子、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換のアラルキル基、置換もしくは未置換の1価の多核芳香族炭化水素基、または置換もしくは未置換の1価の縮合芳香族炭化水素基を表し、Xは、置換または未置換の2価の芳香族基を表し、Tは、炭素数1〜6の2価の直鎖状炭化水素基、または炭素数2〜10の2価の分枝鎖状炭化水素基を表し、kは0または1を表し、l、mおよびnは、それぞれ独立に1以上の整数を表す。〕
【0060】
【化10】

【0061】
〔一般式(A−3)および(A−4)中、Arは、置換もしくは未置換の1価のフェニル基、置換もしくは未置換の1価の多核芳香族炭化水素基、置換もしくは未置換の1価の縮合芳香族炭化水素基、または置換もしくは未置換の1価の複素環を表し、Xは、置換または未置換の2価の芳香族基を表し、kは、0または1を表す。〕
【0062】
上記一般式(A−3)および(A−4)中、ArおよびXの例としては、前記一般式(A−1)および(A−2)のArおよびXと同様のものが挙げられる。
【0063】
上記一般式(B−6)〜(B−8)中、R1、R2およびR3で表されるアルキル基、アリール基、アラルキル基としては、前記一般式(B−1)および(B−2)におけるRと同様のものが、またR1、R2およびR3で表される1価の多核芳香族炭化水素基、縮合芳香族炭化水素基としては、前記一般式(A−1)および(A−2)においてArで表される1価の多核芳香族炭化水素基および縮合芳香族炭化水素基と同様のものが、挙げられる。更に、上記一般式(B−6)〜(B−8)中、Xで表される2価の芳香族基、およびTで表される2価の直鎖状炭化水素基、分枝鎖状炭化水素基としては、それぞれ前記一般式(A−1)および(A−2)におけるXおよびTと同様のものが挙げられる。
【0064】
また、上記一般式(B−6)〜(B−8)中、Zで表される電荷輸送能もしくは発光能を持つ分子構造としては、例えば、1価の縮合芳香族炭化水素、または複素環化合物およびそれらの誘導体が挙げれらる。具体的には、フェニル、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレン、ペリレン、ルブレン、フルオレン、チオフェン、カルバゾール等が挙げられる。
【0065】
【化11】

【0066】
〔一般式(B−9)中、Xは、上記一般式(A−1)および(A−2)で示される構造から選択された少なくとも1種を含む構造、または電荷輸送能もしくは発光能を持つ分子構造を表し、pは、5〜5,000の整数を表す。〕
【0067】
上記一般式(B−9)中、Xで表される電荷輸送能もしくは発光能を持つ分子構造としては、前記一般式(B−6)〜(B−8)においてZで表される電荷輸送能もしくは発光能を持つ分子構造を持つ2価のものが挙げられる。
【0068】
更に上記一般式で表わされる繰り返し構造を有する高分子の中でも、より好ましい例として下記の化合物(I−1)〜(I−5)が挙げられ、特に好ましくは化合物(I−1)〜(I−3)が挙げられる。
【0069】
【化12】

【0070】
上記化合物(I−1)〜(I−3)において、nはそれぞれ10〜1000であることが好ましく、更には10〜500であることが好ましい。
上記化合物(I−4)〜(I−5)において、xはそれぞれ10〜1000であることが好ましく、更には10〜500であることが好ましい。また、mはそれぞれ1〜20であることが好ましく、更には1〜10であることが好ましい。
【0071】
(高分子有機電子材料の合成)
前記高分子有機電子材料を合成する方法は、特に限定されるわけではなく、公知のいかなる方法を用いても構わない。
【0072】
(1)金属触媒を用いた合成方法
好ましい合成方法としては、高分子有機電子材料用原料モノマーを金属触媒の存在下で脱水縮合させて高分子有機電子材料を合成する方法がある。高分子有機電子材料用原料モノマーは、製造される高分子有機電子材料に応じて適宜選択される。
【0073】
高分子有機電子材料用原料モノマーを脱水縮合させる金属触媒は用いられるモノマーの種類により適宜選択されるものであるが、例えば、Na,Mgのメチラート;ホウ酸亜鉛、酢酸亜鉛に代表されるZn,Cd,Mn,Co,Ca,Baなどの脂肪酸塩、炭酸塩;金属Mg;Pb,Zn,Sb,Geなどの酸化物;Ti,Snのアルコキシドなどが挙げられる。
高分子有機電子材料用原料モノマーを用い、適切な溶媒中で、又は溶媒の存在しない状態(無溶媒)で高分子有機電子材料が合成される。
【0074】
尚、上記のように金属触媒の存在下で合成を行った高分子である場合には、前記本発明の処理方法の際に、イオン交換性の充填剤(多孔質粒子)を用いて、高分子有機電子材料の分画を行うと同時に、金属触媒に起因する金属イオンを除去することが好ましい。イオン交換性の充填剤を用いて金属イオンを除去することにより、高分子を有機EL素子に用いた場合等に電気特性を改善することができる。
【0075】
イオン交換性の多孔質粒子としては、例えば、ダイヤイオンRCPシリーズ、ダイヤイオンPK200シリーズ、アンバーリスト等が挙げられ、これらの中でも、特にアンバーリストが好ましい。
イオン交換性の多孔質粒子には陽イオン交換性及び陰イオン交換性の2種類があり、金属イオンの除去には陽イオン交換性が有効である。ただし、陽イオン交換性の酸性度が高く高分子有機電子材料が加水分解を起こす恐れのある場合は、イオン交換樹脂として陽イオン交換性及び陰イオン交換性の混合物を用いることができる。これにより高分子有機電子材料の加水分解(高分子有機電子材料の分子量低下)を抑制できる。その結果として溶解特性、成膜特性、素子特性の低下を抑制できる。
【0076】
なお、高分子有機電子材料溶液に含まれる有機溶剤によってイオン交換性の多孔質粒子中の未架橋樹脂等の不純物が溶出する可能性がある場合には、使用される有機溶媒によりあらかじめイオン交換性多孔質粒子を洗浄することで除去効率の向上が期待できる。
【0077】
(2)その他の合成方法
また、本発明における高分子有機電子材料は、前述の通り、多孔質粒子との接触による分画の際に不純物(例えば、未反応物、オリゴマー、分解物など)の除去を同時に行うことが可能であるため、分子量分布が幅広い点や不純物が多く含まれる点等を考慮せずに、簡易である点や大量生産が可能である点等を優先して合成方法を選択することもできる。
【0078】
上記簡易である点や大量生産が可能である点等を優先した合成方法としては、ラジカル重合、リビングラジカル重合、アニオン重合、リビングアニオン重合、カチオン重合、リビングカチオン重合、配位重合、グループトランスファー重合、光重合、放射線重合、開環重合、重縮合、環化重縮合、プラズマ重合、電解重合、酸化重合、Heck反応、Scholl反応、鈴木反応、山本反応、クロスカップリング反応等が挙げられる。
これらの合成方法を採用することにより、製造工程の簡略化やコストダウンを図ることができる。
【0079】
−有機電界発光素子−
本発明の処理方法によって処理された高分子有機電子材料を用いた有機電界発光素子(有機EL素子)の層構成は特に限定されるものではない。本発明の処理方法によって精製された有機電子材料を用いた有機EL素子は、少なくとも一方が透明または半透明である一対の電極と、それら電極間に挾持された発光層を含む一つまたは複数の有機化合物層より構成される。本発明において、有機化合物層が一つの場合は、有機化合物層は電荷輸送能を持つ発光層を意味する。また、有機化合物層が複数の場合は、その一つが発光層であり、他の有機化合物層は、電荷輸送層、すなわち、正孔輸送層、電子輸送層、或いは正孔輸送層と電子輸送層よりなるものを意味し、これらの少なくとも一層が本発明により精製された材料を含有してなる。具体的には、例えば、発光層及び電子輸送層から構成されるか、正孔輸送層、発光層及び電子輸送層から構成されるか、あるいは、正孔輸送層、発光層から構成され、これらの少なくとも一層に本発明により精製された材料を含有してなるものが挙げられる。さらに、例えば、有機化合物層が発光層のみから構成されてなり、該発光層が本発明により精製された材料を含有してなるものも挙げられる。
【0080】
有機化合物層が一つの場合、電荷輸送能を持つ発光層は目的に応じて機能(正孔輸送能、あるいは電子輸送能)が付与された電荷輸送材料に対して発光材料を50質量%以下分散させた有機化合物層であり、有機EL素子に注入される正孔と電子のバランスを調節するために、電子輸送性化合物を1質量%ないし30質量%の範囲で混合分散して形成されていてもよい。
【0081】
発光層には、固体状態で高い蛍光量子収率を示す化合物が発光材料として用いられる。発光材料が有機低分子の場合、真空蒸着法もしくは低分子と結着樹脂を含む溶液または分散液を塗布・乾燥することにより良好な薄膜形成が可能であることが好ましい。また、高分子の場合、それ自身を含む溶液または分散液を塗布・乾燥することにより良好な薄膜形成が可能であることが好ましい。好適には、有機低分子の場合、キレート型有機金属錯体、多核または縮合芳香環化合物、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、スチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサチアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体等が、高分子の場合、ポリパラフェニレン誘導体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリアセチレン誘導体等が挙げられる。好適な具体例として、下記の化合物(II−1)〜(II−17)が用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0082】
【化13】

【0083】
【化14】

【0084】
また、有機EL素子の耐久性向上或いは発光効率の向上を目的として、上記の発光材料中にゲスト材料として発光材料と異なる色素化合物をドーピングしてもよい。真空蒸着によって発光層を形成する場合、共蒸着によってドーピングを行い、溶液または分散液を塗布・乾燥することで発光層を形成する場合、溶液または分散液中に混合することでドーピングを行う。発光層中における色素化合物のドーピングの割合としては0.001質量%〜40質量%、好ましくは0.01質量%〜10質量%である。このようなドーピングに用いられる色素化合物としては、発光材料との相容性が良く、かつ発光層の良好な薄膜形成を妨げない有機化合物が用いられ、好適にはDCM誘導体、キナクリドン誘導体、ルブレン誘導体、ポルフィリン系化合物、Ir、Eu、Ptなどの金属錯体化合物等が用いられる。好適な具体例として、下記の色素化合物(III−1)〜(III−6)があげられるが、これらに限られるものではない。
【0085】
【化15】

【0086】
正孔輸送材料は目的に応じて機能(正孔輸送能)が付与された電荷輸送化合物単独で形成されていてもよいが、電気的特性をさらに改善する等の目的で、正孔移動度を調節するために特定の有機低分子化合物を0.1質量%ないし50質量%の範囲で混合分散して形成されていてもよい。この場合の有機低分子化合物としては、好適にはテトラフェニレンジアミン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、カルバゾール誘導体、スチルベン誘導体、アリールヒドラゾン誘導体、ポルフィリン系化合物等が挙げられる。
電子輸送材料としては、電荷輸送性材料と強い電子相互作用を示さない有機化合物が用いられる。また、発光材料と異なる色素化合物をドーピングしてもよい。
【0087】
さらに、成膜性の向上のため、他の汎用の樹脂等との混合でもよい。具体的な樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、セルロース樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、スチレンブタジエン共重合体、塩化ビニルデン−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、シリコン樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール樹脂、ポリシラン樹脂、ポリチオフェン、ポリピロール等の導電性樹脂等を用いることができる。また、添加剤としては、公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤等を用いることができる。
【0088】
有機化合物層が複数の場合、正孔輸送層は目的に応じて機能(正孔輸送能)が付与された電荷輸送化合物単独で形成されていてもよいが、電気的特性をさらに改善する等の目的で、正孔移動度を調節するために高分子電荷輸送材料以外の前述の有機低分子化合物を0.1質量%ないし50質量%の範囲で混合分散して形成されていてもよい。さらに、成膜性の向上のため、他の汎用の樹脂等との混合でもよい。具体例としては前述のとおりである。
【0089】
これら本発明の有機EL素子は、まず透明電極の上に各有機EL素子の層構成に応じて、正孔輸送層或いは発光層を形成する。正孔輸送層および発光層は、それぞれ、正孔輸送材料、発光材料を真空蒸着法、もしくは有機溶媒中に溶解或いは分散し、得られた塗布液を用いて前記透明電極上にスピンコーティング法、ディップ法等を用いて製膜することにより形成することができる。
【0090】
形成される正孔輸送層、発光層および電子輸送層の膜厚は、各々0.1μm以下、特に0.03〜0.08μmの範囲であることが好ましい。また、キャリア輸送能を持つ発光層の膜厚は、0.03〜0.2μmが好ましい。
【0091】
本発明の処理方法によって処理された電荷輸送性ポリマーを含む層を有する本発明の有機EL素子の層構成について詳記する。本発明の有機EL素子は、少なくとも一方が透明または半透明である一対の電極と、それら電極間に挾持された発光層を含む一つまたは複数の有機化合物層より構成される。本発明において、有機化合物層が1つの場合は、有機化合物層はキャリア輸送能を持つ発光層を意味する。また、有機化合物層が複数の場合は、その一つが発光層であり、他の有機化合物層は、キャリア輸送層、すなわち、正孔輸送層、電子輸送層、或いは正孔輸送層と電子輸送層よりなるものを意味する。
【0092】
図1、図2、図3および図4は、本発明の有機EL素子の層構成を説明するための模式的断面図であって、図1、図2および図4の場合は、有機化合物層が複数の場合の例であり、図3は、有機化合物層が1つの場合の例を示す。図中、1は透明絶縁体基板、2は透明電極、3は正孔輸送層、4は発光層、5は電子輸送層、6はキャリア輸送能を持つ発光層、7は背面電極である。
【0093】
透明絶縁体基板1は、発光を取り出すため透明なものが好ましく、ガラス、プラスチックフィルム等が用いられる。透明電極2は、透明絶縁体基板と同様に発光を取り出すため透明であって、かつ電荷の注入を行うため仕事関数が大きなものが好ましく、酸化スズインジウム(ITO)、酸化スズ(NESA)、酸化インジウム、酸化亜鉛等の酸化膜、および半透明の蒸着或いはスパッタされた金、白金、パラジウム等が用いられる。
【0094】
電荷輸送性ポリマーから構成される有機化合物層は、図1および図3に示される有機EL素子の層構成の場合、上記π共役系ポリマーと混合してキャリア輸送能を持つ発光層6として作用し、また、図2および図4に示される有機EL素子の層構成の場合、正孔輸送層3として作用する。
【0095】
図2および図4に示される有機EL素子の層構成の場合、正孔輸送層3は電荷輸送性ポリマーの単独で形成されていてもよいが、電荷移動度を調節するためにテトラフェニレンジアミン誘導体等を1質量%ないし50質量%の範囲で分散させて形成されていてもよい。
【0096】
図1、図3および図4においてキャリア輸送能を持つ発光層6には、上記発光材料が用いられる。
【0097】
図3の有機EL素子の層構成の場合、キャリア輸送能を持つ発光層6は少なくとも電荷輸送性ポリマー中に上記発光材料を50質量%以下分散させた有機化合物層であり、有機EL素子に注入される電荷と電子のバランスを調節するために電子輸送材料を10質量%〜50質量%分散させてもよく、或いはキャリア輸送能を持つ発光層6と背面電極7の間に、電子輸送材料よりなる電子輸送層を挿入してもよい。このような電子輸送材料としては、電荷輸送性ポリマーと強い電子相互作用を示さない有機化合物が用いられ、好適には下記の化合物(IV)が用いられるが、これに限られるものではない。
【0098】
【化16】

【0099】
同様に電荷移動度を調節するためにテトラフェニレンジアミン誘導体を適量同時に分散させて用いてもよい。
【0100】
背面電極7には、真空蒸着可能で、電子注入を行うため仕事関数の小さな金属が使用されるが、特に好ましくはマグネシウム、アルミニウム、カルシウム、銀、インジウムおよびこれらの合金である。
【0101】
これら本発明の有機EL素子において、電荷輸送層3或いは発光層6は、電荷輸送性ポリマー単独、或いは電荷輸送性ポリマーと発光材料、および必要に応じて電子輸送材料、電荷輸送材料を有機溶媒中に溶解或いは分散し、得られた塗布液を用いて前記透明電極上にスピンコーティング法、ディップ法等を用いて製膜することによって形成される。電荷輸送層或いは発光層の膜厚は、0.03〜0.2μm程度が好ましい。発光材料の分散状態は分子分散状態でも微粒子分散状態でも構わない。分子分散状態とするためには、分散溶媒は電荷輸送性ポリマー、発光材料、電子輸送材料、電荷輸送材料の共通溶媒を用いる必要があり、微粒子分散状態とするためには分散溶媒は発光材料の分散性と、電子輸送材料、電荷輸送材料および電荷輸送性ポリマーの溶解性を考慮して選択する必要がある。微粒子状に分散するためには、ボールミル、サンドミル、ペイントシェイカー、アトライターボールミル、ホモジナイザー、超音波法等が利用できる。
【0102】
次いで、上記のようにして形成された電荷輸送性ポリマーを含む層の上に、各有機EL素子の層構成に応じて、それぞれ、発光材料、電子輸送材料、背面電極を真空蒸着法を用いて形成する。それにより容易に有機EL素子を作製することが可能である。積層する電子輸送能を持つ発光層および電子輸送層の膜厚は、各々0.1μm以下、特に0.03〜0.08μmの範囲であることが好ましい。本発明の有機EL素子は、一対の電極間に、例えば、4〜20Vで、電流密度1〜200mA/cm2の直流電圧を印加することによって発光させることができる。
【0103】
−電子写真用有機感光体−
次いで、本発明の有機感光体について説明する。
本発明の電子写真用有機感光体は、支持体上に感光層を有し、該感光層に本発明の処理方法により得られる高分子電荷輸送材料を含有することを特徴とする。高分子化合物はホモポリマーに限定されるものではなく、イオン化ポテンシャルの調整等、機能層としての諸物性を調整することを目的として共重合化して用いることができる。
【0104】
これまでに述べてきた高分子電荷輸送材料は、電荷発生材料にフタロシアニン類をもちいるのが好適である。具体的には、特開平5−98181号公報に開示されているハロゲン化ガリウムフタロシアニン結晶、特開平5−140472号公報及び特開平5−140473号公報に開示されているハロゲン化スズフタロシアニン結晶、特開平5−263007号公報及び特開平5−279591号公報に開示されているヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶、特開平4−189873号公報及び特開平5−43813号公報に開示されているオキシチタニウムフタロシアニン水和物結晶があげられ、それらを用いることにより、特に高感度で、繰り返し安定性の優れる電子写真感光体を得ることができる。
【0105】
また、本発明に用いるクロロガリウムフタロシアニン結晶は、特開平5−98181号公報に開示されているように、公知の方法で製造されるクロロガリウムフタロシアニン結晶を、自動乳鉢、遊星ミル、振動ミル、CFミル、ローラーミル、サンドミル、ニーダー等で機械的に乾式粉砕するか、乾式粉砕後、溶剤と共にボールミル、乳鉢、サンドミル、ニーダー等を用いて湿式粉砕処理を行うことによって製造することができる。上記の処理において使用される溶剤は、芳香族類(トルエン、クロロベンゼン等)、アミド類(ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等)、脂肪族アルコール類(メタノール、エタノール、ブタノール等)、脂肪族多価アルコール類(エチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール等)、芳香族アルコール類(ベンジルアルコール、フェネチルアルコール等)、エステル類(酢酸エステル、酢酸ブチル等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、ジメチルスルホキシド、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等)、さらには数種の混合系、水とこれら有機溶剤の混合系があげられる。使用される溶剤は、クロロガリウムフタロシアニンに対して、1〜200質量%、好ましくは10〜100質量%の範囲で用いる。処理温度は0℃〜溶剤の沸点以下、好ましくは10〜60℃の範囲で行う。また、粉砕の際に食塩、ぼう硝等の磨砕助剤を用いることもできる。磨砕助剤は顔料に対し質量比で0.5〜20倍、好ましくは1〜10倍用いればよい。
【0106】
ジクロロスズフタロシアニン結晶は、特開平5−140472号公報および特開平5−140473号公報に開示されているように、公知の方法で製造されるジクロロスズフタロシアニン結晶を、前記のクロロガリウムフタロシアニンと同様に粉砕し、溶剤処理することにより得ることができる。
【0107】
ヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶は、特開平5−263007号公報および特開平5−279591号公報に開示されているように、公知の方法で製造されたクロロガリウムフタロシアニン結晶を、酸またはアルカリ性溶液中での加水分解またはアシッドペースティングを行って、ヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶を合成し、直接溶剤処理を行うか、あるいは、合成によって得られたヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶を溶剤と共にボールミル、乳鉢、サンドミル、ニーダー等を用いて湿式粉砕処理を行うか、溶剤を用いずに乾式粉砕処理を行った後に溶剤処理することによって製造することができる。上記の処理において使用される溶剤としては、芳香族類(トルエン、クロロベンゼン等)、アミド類(ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等)、脂肪族アルコール類(メタノール、エタノール、ブタノール等)、脂肪族多価アルコール類(エチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール等)、芳香族アルコール類(ベンジルアルコール、フェネチルアルコール等)、エステル類(酢酸エステル、酢酸ブチル等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、ジメチルスルホキシド、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等)、さらには数種の混合系、水とこれら有機溶剤の混合系などがあげられる。使用される溶剤は、ヒドロキシガリウムフタロシアニンに対して、1〜200質量%、好ましくは10〜100質量%の範囲で用いられる。処理温度は0〜150℃、好ましくは室温〜100℃の範囲で行われる。また、粉砕の際に食塩、ぼう硝等の磨砕助剤を用いることもできる。磨砕助剤は顔料に対し質量比で0.5〜20倍、好ましくは1〜10倍の範囲で用いられる。
【0108】
オキシチタニウムフタロシアニン水和物結晶は、特開平4−189873号公報及び特開平5−43813号公報に開示されているように、公知の方法で製造されるオキシチタニウムフタロシアニン水和物結晶を、アシッドペースティングするか、あるいは、ボールミル、乳鉢、サンドミル、ニーダー等を用いて無機塩とともにソルトミリングを行って、X線回折スペクトルにおいて27.2にピークを持つ、比較的結晶性の低いオキシチタニウムフタロシアニン結晶としたのち、直接溶剤処理を行うか、或るいは、溶剤と共に、ボールミル、乳鉢、サンドミル、ニーダー等を用いて湿式粉砕処理を行うことによって製造することができる。アシッドペースティングに用いる酸としては、硫酸が好ましく、濃度70〜100質量%、好ましくは95〜100質量%のものが使用され、溶解温度は、−20〜100℃好ましくは0〜60℃の範囲に設定される。濃硫酸の量は、オキシチタニウムフタロシアニン結晶の質量に対して、1〜100倍、好ましくは3〜50倍の範囲に設定される。析出させる溶剤としては、水または、水と有機溶剤の混合溶剤が任意の量で用いられ、水とメタノール、エタノール等のアルコール系溶剤、または水とベンゼン、トルエン等の芳香族系溶剤との混合溶剤が特に好ましい。析出させる温度については特に制限はないが、発熱を防ぐために、氷等で冷却することが好ましい。また、オキシチタニウムフタロシアニン結晶と無機塩との比率は、質量比で1/0.1〜1/20で、1/0.5〜1/5の範囲が好ましい。上記の溶剤処理において使用される溶剤としては、芳香族類(トルエン、クロロベンゼン等)、脂肪族アルコール類(メタノール、エタノール、ブタノール等)、ハロゲン系炭化水素類(ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロロエタン等)、さらには数種の混合系、水とこれら有機溶剤の混合系等があげられる。使用される溶剤は、オキシチタニウムフタロシアニンに対して、質量比で1〜100倍、好ましくは5〜50倍の範囲で用いる。処理温度は、室温〜100℃、好ましくは50〜100℃の範囲に設定される。磨砕助剤は顔料に対し0.5〜20倍、好ましくは1〜10倍用いればよい。
【0109】
次いで、本発明の感光体の層構成について説明する。尚、ここでは主として機能分離型の感光体(積層型の感光体)を例として、本発明の感光体の好適な実施形態について詳述する。
【0110】
図5は、本発明に係る機能分離型の感光体(積層型の感光体)の好適な一実施形態を模式的に示す断面図である。図5中、導電性支持体11上に、下引層12、電荷発生層13、電荷輸送層14がこの順で積層されて感光層15が形成されている。
【0111】
導電性支持体としては、アルミニウム、ニッケル、クロム、ステンレス鋼等の金属類、およびアルミニウム、チタニウム、ニッケル、クロム、ステンレス鋼、金、バナジウム、酸化錫、酸化インジウム、ITO等の薄膜を設けたプラスチックフィルム等、あるいは導電性付与剤を塗布、または、含浸させた紙、およびプラスチックフィルム等があげられる。これらの導電性支持体は、ドラム状、シート状、プレート状等、適宜の形状のものとして使用されるが、これらに限定されるものではない。さらに必要に応じて導電性支持体の表面は、画質に影響のない範囲で各種の処理を行うことができる。例えば、表面の酸化処理や薬品処理、及び、着色処理等または、砂目立て等の乱反射処理を行うことができる。また、導電性支持体と電荷発生層の間にさらに下引き層を設けてもよい。この下引き層は積層構造からなる感光層の帯電時において、導電性支持体から感光層への電荷の注入を阻止するとともに、感光層を導電性支持体に対して一体的に接着保持せしめる接着層としての作用、あるいは場合によっては導電性支持体の光の反射防止作用等を示す。
【0112】
この下引き層に用いる結着剤としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール樹脂、水溶性ポリエステル樹脂、ニトロセルロース、カゼイン、ゼラチン、ポリグルタミン酸、澱粉、スターチアセテート、アミノ澱粉、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ジルコニウムキレート化合物、チタニウムキレート化合物、チタニウムアルコキシド化合物、有機チタニウム化合物、シランカップリング剤等の公知の材料があげられる。また、下引き層の厚みは0.01〜10μm、好ましくは0.05〜2μmが適当である。さらにこの下引き層を設けるときに用いる塗布方法としては、ブレードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、スプレーコーティング法、浸漬コーティング法、ビードコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法等の通常の方法を用いることができる。
【0113】
電荷発生層には、電荷発生材料として、前記したフタロシアニン結晶を用いるのが好ましいが、ビスアゾ顔料、フタロシアニン顔料、スクアリリウム顔料、ペリレン顔料、ジブロモアントアントロン等の如何なる公知の電荷発生材料をも使用することができる。電荷発生層に用いる結着樹脂としては、広範な絶縁性樹脂から選択することができる。また、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン、ポリビニルピレン、ポリシラン等の有機光導電性ポリエステルから選択することもできる。好ましい結着樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂、ポリアリレート樹脂(ビスフェノールAとフタル酸の重縮合体等)、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、セルロース樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、カゼイン、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂等の絶縁性樹脂をあげることができるが、これらに限定されるものではない。これらの結着樹脂は単独あるいは2種以上混合して用いることができる。
【0114】
また、電荷発生材料と結着樹脂との配合比(質量比)は、10:1〜1:10の範囲が好ましい。またこれらの分散させる方法としては、ボールミル分散法、アトライター分散法、サンドミル分散法等の通常の方法を用いることができる。さらにこの分散の際、粒子を0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下、さらに好ましくは0.15μm以下の粒子サイズにすることが有効である。また、これらの分散に用いる溶剤としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸n−ブチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、クロルベンゼン、トルエン等の通常の有機溶剤を単独あるいは2種以上混合して用いることができる。また、電荷発生層の厚みは0.01〜10μm、好ましくは0.05〜5μmが適当である。さらにこの電荷発生層を設けるときに用いる塗布方法としては、ブレードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、スプレーコーティング法、浸漬コーティング法、ビードコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法等の通常の方法を用いることができる。
【0115】
電荷輸送層は、本発明の高分子電荷輸送材料を単独で用いてもよく、また公知の結着樹脂や他のヒドラゾン系電荷輸送材料、トリアリールアミン系電荷輸送材料、スチルベン系電荷輸送材料等と併用してもよい。結着樹脂を用いる場合、具体的には、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、シリコン樹脂、シリコン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、スチレン−アルキッド樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリシラン等の公知の樹脂を用いることができるがこれらに限定されるものではない。また、電荷輸送層の厚みは5〜100μm、好ましくは10〜70μmが適当である。さらにこの電荷輸送層を設けるときに用いる塗布方法としては、ブレードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、スプレーコーティング法、浸漬コーティング法、ビードコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法等の通常の方法を用いることができる。
【0116】
(画像形成装置)
次いで、上記電子写真用有機感光体を用いた本発明の画像形成装置について図を用いて説明する。
図6に本発明の電子写真感光体を用いた電子写真方式の画像形成装置の概略構成図の一例を示した。
図6に示した画像形成装置20において、有機感光体21は矢印の方向に所定の回転速度で回転可能となっている。前記画像形成装置20は、感光体21及びその回転方向に沿って、帯電装置22、露光装置23、現像装置24、転写装置25、クリーニング装置27がこの順で配置され、さらに、転写装置25を経た被転写媒体28が搬送される像定着装置26を備えている。
【0117】
上記画像形成装置に用いる帯電装置22について説明する。帯電装置における導電性部材としては、その形状がブラシ状、ブレード状、ピン電極状、あるいはローラー状等いずれでもよいが、中でもローラー状部材を用いることが好ましい。通常ローラー状部材は外側から抵抗層とそれらを支持する弾性層と芯材から構成されることが好ましい。さらに必要に応じて抵抗層の外側に保護層を設けることもできる。
【0118】
芯材の材質としては導電性を有するもので、一般には、鉄、銅、真鍮、ステンレス、アルミニウム、ニッケル等が用いられる。また、その他導電性粒子等を分散した樹脂成形品等を用いることができる。弾性層の材質としては導電性あるいは半導電性を有するもので、一般にはゴム材に導電性粒子あるいは半導電性粒子を分散したものが用いられる。ゴム材としてはEPDM、ポリブタジエン、天然ゴム、ポリイソブチレン、SBR、CR、NBR、シリコーンゴム、ウレタンゴム、エピクロルヒドリンゴム、SBS、熱可塑性エラストマー、ノルボーネゴム、フロロシリコーンゴム、エチレンオキシドゴム等が用いられる。導電性粒子あるいは半導電性粒子としてはカーボンブラック、亜鉛、アルミニウム、銅、鉄、ニッケル、クロム、チタニウム等の金属、ZnO−Al23、SnO2−Sb23、In23−SnO2、ZnO−TiO2、MgO−Al23、FeO−TiO2、TiO2、SnO2、Sb23、In23、ZnO、MgO等の金属酸化物を用いることができ、これらの材料は単独あるいは2種以上混合して用いてもよく、微粒子はフッ素系樹脂の微粒子を用いることができる。
【0119】
抵抗層および保護層の材質としては結着樹脂中に導電性粒子あるいは半導電性粒子を分散し、その抵抗を制御したもので、抵抗率としては103〜1014Ωcm、好ましくは105〜1012Ωcm、さらに好ましくは107〜1012Ωcmに設定すればよい。また膜厚としては0.01から1000μm、好ましくは0.1〜500μm、さらに好ましくは0.5〜100μmに設定すればよい。結着樹脂としてはアクリル樹脂、セルロース樹脂、ポリアミド樹脂、メトキシメチレン化ナイロン、エトキシメチル化ナイロン、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリビニル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリチオフェン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリオレフィン樹脂、スチレンブタジエン樹脂等が用いられる。導電性粒子あるいは半導電性粒子としては弾性層に用いるものと同様のカーボンブラック、金属、金属酸化物が用いられる。
【0120】
また、必要に応じてヒンダードフェノール、ヒンダードアミン等の酸化防止剤、クレー、カリオン等の充填剤、シリコーンオイル等の潤滑剤を添加することができる。これらの層を形成する手段としては、ブレードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、スプレーコーティング法、浸漬コーティング法、ビードコーティング法、エアーナイフコーティング法、カーテンコーティング法、真空蒸着法、プラズマコーティング法等を用いることができる。
【0121】
これらの導電性部材を用いた帯電装置を備えた画像形成装置において、上記本発明の電子写真用有機感光体を帯電させる場合には、導電性部材に電圧を印加するが、印加電圧は直流電圧に交流電圧を重畳したものが好ましく、直流電圧のみでは均一な帯電を得ることが難しい。電圧の範囲としては直流電圧については、正または負の50〜2000Vの範囲が好ましく、特に100〜1500Vの範囲が好ましい。重畳する交流電圧としてはピーク間電圧が400〜1800V、好ましくは800〜1800V、さらに好ましくは1200〜1800Vの範囲である。このピーク間電圧が1800Vを越えると、交流電圧を重畳しない場合より均一な帯電が得られなくなる。交流電圧の周波数は100〜2000Hzが望ましい。
【0122】
また、図6に記載の画像形成装置における露光装置23としては、感光体21表面に、半導体レーザー、LED(light emitting diode)、液晶シャッターなどの光源を所望の像様に露光できる光学系装置などを用いることができる。中でも、感光体21の導電性支持体(基体)と感光層との間での干渉縞を防止することができる点で、非干渉光を露光可能な露光装置を用いることが好ましい。
【0123】
また、前記現像装置24としては、一成分現像剤、二成分現像剤のいずれを用いるものであってもよく、また、かかる現像剤は、磁性、非磁性のいずれであってもよい。さらに、現像装置24は、白黒画像用、カラー画像用のいずれであってもよい。
【0124】
また、前記転写装置25としては、ベルト、ローラー、フィルム、ゴムブレード等を用いた接触型転写帯電器、コロナ放電を利用したスコロトロン転写帯電器やコロトロン転写帯電器などが挙げられ、適宜選択して使用することができる。
【0125】
また、前記定着装置26としては、加熱ローラー、IHヒーターベルト、キセノンフラッシュライトなどが挙げられ、適宜選択して使用することができる。
【0126】
また、クリーニング装置27は、転写工程後の感光体21の表面に付着する残存トナーを除去するためのもので、これにより清浄面化された感光体21は、帯電、露光、現像、転写、クリーニングの画像形成プロセスに繰り返し供される。クリーニング装置27としては、例えば、ブレードクリーニング、ブラシクリーニング、ロールクリーニング等を用いることができるが、中でもブレードクリーニングを用いることが好ましい。
【0127】
また、ブレードクリーニングにおけるクリーニングブレードの材質としては、弾性を有し、耐久性及び電子写真感光体表面と馴染みやすい点で、ゴム、エラストマー、樹脂等の弾性体が挙げられ、中でも、ゴムが好ましく、例えば、ウレタンゴム、ネオプレンゴム、シリコーンゴム等である。
【0128】
なお、本実施形態は、本発明における実施形態の一例であり、当然ながらこれに限定されるものではない。例えば、図6に示した画像形成装置20は、感光体21と、現像装置24及び/又はクリーニング装置27とを備えるプロセスカートリッジを適用可能なものであってもよい。かかるプロセスカートリッジを用いることによって、メンテナンスをより簡便に行うことができる。
【0129】
また、図6に示した装置は、感光体21表面に形成されたトナー像を被転写媒体28に直接転写するものであるが、本発明の画像形成装置20は中間転写体をさらに備えるものであってもよい。これにより、感光体21表面のトナー像を中間転写体に転写した後、中間転写体から被転写媒体28に転写することができる。かかる中間転写体としては、導電性支持体上にゴム、エラストマー、樹脂などを含む弾性層と少なくとも1層の被覆層とが積層された構造を有するものを好適に使用することができる。
【0130】
さらに、本発明にかかる感光体は、モノクロ電子写真装置のみならず、カラー電子写真装置にも好適に適用することができる。カラー画像の出力方式としては、複数色のトナー像を感光体上に形成して各色トナー像を転写紙に転写する方法、感光体上に形成されたトナー像を中間転写体に転写し、中間転写体上のトナー像をさらに被転写媒体に転写する方法、感光体上に複数のトナー像を重ね合わせて画像に対応するカラートナー像を形成し、そのカラートナー像を一括転写する方法などが挙げられる。
【0131】
−有機半導体トランジスタ素子−
次に、本発明の有機半導体トランジスタ素子の構成について具体例を挙げて詳細に説明する。
【0132】
本発明の有機半導体トランジスタ素子は、ソース電極と、ドレイン電極と、前記ソース電極および前記ドレイン電極と導通可能に設けられた有機半導体と、該有機半導体に対して絶縁され且つ電場を印加することが可能なゲート電極と、を少なくとも含む構成を有するものである。
【0133】
ここで、前記有機半導体には上記に説明した本発明の処理方法によって処理された高分子有機電子材料が含まれる。なお、本発明の有機半導体トランジスタ素子の形状は、必要に応じて、所望の形状とすることができるが、薄膜状であることが好ましい。
【0134】
以下、図を参照しつつ、本発明の有機半導体トランジスタ素子の構成についてより詳細に説明するが、これに限定されるわけではない。
【0135】
図7〜図9は、本発明の有機半導体トランジスタ素子の構成の一例を示す模式断面図である。ここで、図7および8は、本発明の有機半導体トランジスタ素子が、電界効果トランジスタ(FIeld Effect TransIstor)構造を有している場合について示したものである。また、図9は、本発明の有機半導体トランジスタ素子が、静電誘導トランジスタ(StatIc InductIon TransItor)構造を有している場合について示したものである。
【0136】
図7〜9中、機能が共通する部材には同一の符号が付してあり、31が基板、32がソース電極、33がドレイン電極、34が有機半導体層、35がゲート電極、36が絶縁層を表す。以下、図7〜9に示す本発明の有機半導体トランジスタ素子の構成について順に説明する。
【0137】
図7に示す本発明の有機半導体トランジスタ素子は、基板31上にゲート電極35、絶縁層36がこの順に設けられ、この絶縁層36上に、ソース電極32およびドレイン電極33とが離間した位置に設けられると共に、ソース電極32およびドレイン電極33を被覆するように有機半導体層34が設けられている。
【0138】
また、図8に示す本発明の有機半導体トランジスタ素子は、基板31状にゲート電極35、絶縁層36がこの順に設けられ、この絶縁層36上に、ソース電極32、およびこのソース電極32の絶縁層36と接する側と反対側の面も覆うように有機半導体層34が設けられている。さらに、ドレイン電極33が、有機半導体層34の絶縁層36が設けられた側と反対側の面上で、ソース電極32に対して基板31の平面方向に離間した位置に設けられている。
【0139】
さらに、図9に示す本発明の有機半導体トランジスタ素子は、基板31上にソース電極32、有機半導体層34、ドレイン電極33がこの順に積層され、複数のゲート電極35が、有機半導体層34中に設けられる(図9に示す例では、4つのゲート電極35が、基板31の平面方向と平行且つ等間隔に配置されている)。
【0140】
なお、ゲート電極35は、紙面に対して垂直方向に、ソース電極32及びドレイン電極33の双方と平行になるように配置され、各々のゲート電極35同士も相互に平行となるように設けられている。また、図9中、ゲート電極35と、有機半導体層34とは、両者の界面に設けられた不図示の絶縁層により絶縁されている。
【0141】
図7〜図9に示すような有機半導体トランジスタ素子においては、ゲート電極35に印加される電圧によってソース電極32とドレイン電極33との間に流れる電流を制御することができる。
【0142】
なお、本発明の有機半導体トランジスタ素子を用いて、何らかの電子デバイスを作製する場合には、基板上に、1個以上の本発明の有機半導体トランジスタ素子を搭載した構成(半導体装置)として利用することができ、この半導体装置に、さらに他の素子や回路等を組み合わせることにより所望の電子デバイスを作製することができる。
【0143】
次に、有機半導体部分を除く、本発明の有機半導体素子や半導体装置を構成する各部材について詳細に説明する。
【0144】
ソース電極、ドレイン電極およびゲート電極に用いられる電極材料としては、効率よく電荷注入することができる材料が用いられ、具体的には、金属、金属酸化物、導電性高分子等が使用される。
【0145】
金属としてはマグネシウム、アルミニウム、金、銀、銅、クロム、タンタル、インジウム、パラジウム、リチウム、カルシウムおよびこれらの合金が挙げられる。金属酸化物としては、酸化リチウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化スズインジウム(ITO)、酸化スズ(NESA)、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化インジウム亜鉛等の金属酸化膜があげられる。
【0146】
導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリチオフェン誘導体、ポリピロール、ポリピリジン、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸の錯体等があげられる。また、電極に用いられる材料と有機半導体(層)に用いられる上述した高分子化合物とのイオン化ポテンシャルの差が大きいと電荷注入特性が悪くなるため、ドレイン電極および/またはソース電極に用いられる材料のイオン化ポテンシャルと、有機半導体(層)に用いられる高分子化合物とのイオン化ポテンシャルの差が1.0eV以内であることが好ましく、特に0.5eV以内であることがさらに好ましい。また、このような電極−高分子化合物間のイオン化ポテンシャルの差という観点からは、電極材料としては、特にAuを用いることが好ましい。
【0147】
電極の形成方法としては、上記の電極材料を蒸着法や、スパッタ等の公知の薄膜形成方法を用いて作製した薄膜を、公知のフォトリソグラフィー法やリフトオフ法を利用して形成したり、インクジェット等によりレジストを用いて所望のパターン(電極形状)にエッチングする方法や、アルミニウムなどの電極材料を直接熱転写する方法が利用できる。また、電極材料として導電性高分子を用いる場合には、これを溶媒に溶解させ、インクジェット等によりパターニングしても良い。
【0148】
各電極間や、ゲート電極と有機半導体(層)とを絶縁する絶縁部材としては、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化チタン等の無機物、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、セルロース樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリススチレン樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、スチレンブタジエン共重合体、塩化ビニルデン−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、シリコン樹脂等の有機絶縁高分子等が挙げられるが、これに限定されるものではない。基板としては、リン等を高濃度にドープしたシリコン単結晶やガラス、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、セルロース樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリススチレン樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、スチレンブタジエン共重合体、塩化ビニルデン−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、シリコン樹脂等のプラスチック基板等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0149】
特に、電子ペーパーまたはデジタルペーパーや携帯電子機器等の可撓性を求められる電子デバイス(以下、「可撓性電子デバイス」と称す)に用いられる電子回路に本発明の有機半導体トランジスタ素子を用いる場合、基板として可撓性がある基板を用いることが望ましい。特に基板として曲げ弾性率が1000MPa以上、より好ましくは5000MPa以上である基板を用いることにより可撓性がある表示素子の駆動回路や電子回路に適応させることができる。
【0150】
これは、本発明の有機半導体トランジスタ素子は、有機半導体部分が、上述したような高分子化合物を主成分として含むために十分な弾性を有しており、可撓性のある基板上に素子を形成しても、大きな変形や、変形の繰り返しに耐え、安定した性能を維持し続けることができるためである。一方、無機半導体トランジスタ素子では、半導体部分が無機材料からなるため、弾性に欠けているため、このような変形を前提とした使用は極めて困難である。さらに無機半導体トランジスタ素子を作製するプロセスは、高温を必要とするため基板にプラスチックを用いることが出来ないという不具合がある。また、有機半導体部分が低分子材料を主成分とするような有機半導体トランジスタ素子においても、高分子材料のような弾性には欠けているため、このような変形を前提とした使用は困難であるか、あるいは、信頼性に劣る。
【0151】
なお、本発明において、「可撓性電子デバイス」とは、〔1〕その使用態様が、上述した電子ペーパーやデジタルペーパー等のように、電源のオン/オフ状態に係わらず、平坦な状態から曲げたり、撓ませたり、屈曲させたりした状態としたり、あるいは、その逆の態様で使用することが可能であり、〔2〕その構成が、基板と、該基板上に1個以上設けられた有機半導体トランジスタ素子とを少なくとも含み、〔3〕上記〔1〕項に説明したような可撓性が、有機半導体トランジスタ素子が設けられた基板部分において少なくとも求められる電子デバイスを意味する。
【0152】
有機半導体部分を層状に形成する方法としては、特に液相成膜法を用いることが好ましく、例えば、スピンコート法、キャステング法、ディップ法、ダイコート法、ロールコート法、バーコート法、インクジェット法、および各印刷手法等が用いられるが、これに限定されるものではない。
【0153】
しかしながら、塗布後のエッチングによるパターン形成が不要であるため、製造工程が簡略化でき、また、有機半導体トランジスタ素子を大面積の基板上に多数形成する上でも高い生産性を得ることができるインクジェット法を利用することが好ましい。
【0154】
すなわち、インクジェットプリンターに利用されているインクジェット記録による画像形成技術を、有機半導体トランジスタ素子の有機半導体部分の形成に利用することができる。
【0155】
この場合、インクの代わりに、溶媒中に溶解させた電荷輸送性材料を少なくとも1種以上含む溶液(以下、インクジェット印刷にのみ利用する場合を「インクジェット用有機半導体溶液」と称し、インクジェット印刷に限定しない場合は単に「有機半導体溶液」と称す場合がある)を用いて、液滴吐出ヘッドのノズルから液滴状の有機半導体溶液を吐出させることによって、基板上の所望の位置に所望の膜厚・形状の有機半導体を形成することができる。
【0156】
また、液滴吐出ヘッドとしても、基本的な構成や原理は、インクジェットプリンターに用いられている記録ヘッドと同様のものが利用できる。すなわち、有機半導体溶液に圧力や熱等の外部刺激を付与することによって、インクジェット用有機半導体溶液をノズルから液滴状に吐出する方法(いわゆる圧電素子を用いたピエゾインクジェット方式、熱沸騰現象を利用した熱インクジェット方式等)が利用できる。
【0157】
しかしながら、本発明の有機半導体トランジスタ素子の製造に際しては、外部刺激は熱よりも圧力であることがより好ましい。外部刺激が熱である場合には、インクジェット用有機半導体溶液のノズルからの吐出から、基板上へ着弾した有機半導体溶液の溶媒の揮発による塗膜の形成(固化)というインクジェット印刷プロセスにおいて、インクジェット用有機半導体溶液の粘度が熱によって大きく変化してしまうため、レベリング性やパターニング精度の制御が困難になる場合がある。これに加えて、耐熱性に劣る電荷輸送性ポリエステルが利用できなくなり、材料選択肢が狭くなってしまう場合がある。
【0158】
また、インクジェット法を利用した本発明の有機半導体トランジスタ素子の製造に用いられる装置としては、上述した液滴吐出ヘッドの他に、必要に応じて、例えば、有機半導体トランジスタ素子を形成する対象である基板等の固定あるいは搬送手段や、液滴吐出ヘッドを基板平面方向に対して走査する液滴吐出ヘッド走査手段等を有していてもよい。
【0159】
なお、インクジェット用有機半導体溶液は、上述したように電荷輸送性材料と溶媒とを少なくとも含むものであればその組成や物性は特に限定されるものではないが、インクジェット用有機半導体溶液の粘度は、形成される膜厚によって異なるが、おおよそ25℃において0.01〜1000cpsの範囲内であることが好ましく、1〜100cpsの範囲内であることが好ましい。
【0160】
粘度が0.01cps未満である場合には、基板上に着弾した有機半導体溶液が、基板平面方向に広がり易く、膜厚の制御が困難となったり、パターニング精度が劣化してしまう場合がある。また、粘度が1000cpsを超える場合には、インクジェット用有機半導体溶液の粘性が高すぎるために吐出不良を起こしやすくなる場合がある。
【0161】
なお、インクジェット用有機半導体溶液の粘度は、電荷輸送性材料や、必要に応じて添加されるその他の添加剤成分の含有量や、電荷輸送性材料の分子量等を制御することによって、所望の値に調整することができる。
【0162】
インクジェット用有機半導体溶液に用いられる溶媒としては、電荷輸送性材料を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、有機溶媒、例えば、炭化水素系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ハロゲン系溶媒、アルコール系溶媒等や、水、またこれらの混合溶媒等を挙げることができる。
【0163】
ここで、前記炭化水素系溶媒としては、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、オクタン、ヘキサデカン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、ラクトン、テトラリン、クメンなどが挙げられ、前記エステル系溶媒としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸アミルなどが挙げられ、前記エーテル系溶媒としては、例えば、ジブチルエーテル、ジベンジルエーテルなどが挙げられ、前記ハロゲン系溶媒としては、例えば、1,1−ジクロロエタン、1−フルオロエタン、2,2,2−トリフルオロエタン、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパン、クロロホルム、四塩化炭素、モノクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼンなどが挙げられ、前記アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、I−プロピルアルコールなどが挙げられる。
【0164】
なお、上述したようなインクジェット法やその他の液相成膜法を利用して有機半導体トランジスタ素子を製造する場合、有機半導体部分は、有機半導体溶液を用い、溶媒を含んだ状態の塗膜を形成する塗膜形成工程と、この塗膜を乾燥させて有機半導体からなる膜を形成する乾燥工程とを少なくとも経ることによって形成される。
【0165】
ここで、乾燥工程は、酸素濃度が100ppm以下、且つ、水分濃度が100ppm以下の環境下で実施されることが好ましい。酸素濃度や水分濃度が100ppmを超えると雰囲気中に酸素分子や水分子として存在する酸素原子が、電荷輸送性ポリエーテルを劣化させてしまう場合があり、乾燥時の加熱処理温度が高いとこのような劣化がより起こりやすくなるためである。
なお、酸素濃度は50ppm以下であることがより好ましく、10ppm以下であることが更に好ましい。また、水分濃度は50ppm以下であることがより好ましく、10ppm以下であることが更に好ましい。
【0166】
さらに水分や酸素による有機半導体トランジスタ素子の劣化を防ぐために保護層を設けてもよい。具体的な保護層の材料としては、In、Sn、Pb、Au、Cu、Ag、Al等の金属、MgO、SIO2、TIO2等の金属酸化物、ポリエチレン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂が挙げられる。保護層の形成には、真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマ重合法、CVD法、コーティング法が適用できる。
【0167】
以上に説明したように本発明の有機半導体トランジスタ素子は、有機半導体部分に使用する高分子化合物の種類や、素子の構成等を適宜選択することにより、オン/オフ比を102〜105程度の範囲内で有機半導体トランジスタ素子の用途に応じて調整することができる。
【実施例】
【0168】
以下、実施例によって本発明を説明するが、これら各実施例は本発明を制限するものではない。尚、実施例中において、「部」および「%」は質量基準である。
【0169】
[合成例1−精製ポリマー(1)の調製]
N,N’−ビス(3,4−ジメチルフェニル)−N,N’−ビス[4−(2−メトキシカルボニルエチル)フェニル]−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン2部、エチレングリコール8部およびテトラブトキシチタン0.1部を50mlのフラスコに入れ、窒素気流下、200℃で4時間加熱攪拌した。N,N’−ビス(3,4−ジメチルフェニル)−N,N’−ビス[4−(2−メトキシカルボニルエチル)フェニル]−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミンが消費されたことを確認した後、0.5mmHgに減圧してエチレングリコールを留去しながら210℃に加熱し、5時間反応を続けた。その後、室温まで冷却し、トルエン50部に溶解し、不溶物を0.5μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターにてろ過した。得られたろ液を大過剰のメタノールの攪拌した中に滴下してポリマーを析出させた。得られたポリマー分散液をろ過し、十分にメタノールで洗浄した後乾燥させ、1.8部の正孔輸送性ポリエステル(例示化合物(1))を得た。分子量はGPCにて測定し、Mw=9.42×104(スチレン換算)、Mw/Mn=2.96だった。このとき、ピークエンドは9.7minだった。また、得られたポリマーをICP発光分光分析装置(ICP−AES:セイコー電子工業製SPS1200VR)を用いてチタン含有量を測定したところ、3.6ppmだった。
【0170】
【化17】

【0171】
次いで、カラム(東ソー(株)製の商品名:TS Kgel G2000HHR+2500HHR+3000HHRを準備し、分取ゲルパミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置に装着した。上記例示化合物(1)200mgをTHF20mlに溶解させた後、該溶液を7.7ml/minの速度で流し、所望の分子量範囲を分取した。溶液を濃縮後、大過剰のメタノール中に滴下して析出したポリマーをろ過により分離し、乾燥後、精製ポリマー(1)を100mg得た。
分子量をGPCにて測定したところ、Mw=1.03×105、Mw/Mn=2.17だった。このとき、チタン含有量は検出限界以下だった。
【0172】
[合成例2−精製ポリマー(2)の調製]
モノマーをN,N’−ビス(3,4−ジメチルフェニル)−N,N’−ビス[4−(2−メトキシカルボニルエチル)フェニル]−(1,1’−ターフェニル)−4,4’−ジアミンに変更した以外は合成例1と同様の操作を行い、1.8部の例示化合物(2)を得た。分子量はMw=7.92×104(スチレン換算)、Mw/Mn=3.04だった。また、チタン含有量をICP−AESで測定したところ、4.6ppmだった。
【0173】
【化18】

【0174】
次いで、合成例1と同条件で分取ゲルパミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置で処理し、所望の分子量範囲を分取した。溶液を濃縮後、大過剰のメタノール中に滴下して析出したポリマーをろ過により分離し、乾燥後、精製ポリマー(2)を100mg得た。
分子量をGPCにて測定したところ、Mw=8.15×104、Mw/Mn=2.87だった。このとき、チタン含有量は検出限界以下だった。
【0175】
[合成例3−精製ポリマー(3)の調製]
モノマーをN,N’−ビス(4−フェノキシフェニル)−N,N’−ビス[4−(2−メトキシカルボニルエチル)フェニル]−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミンに変更した以外は合成例1と同様の操作を行い、1.8部の例示化合物(3)を得た。分子量はMw=1.50×105(スチレン換算)、Mw/Mn=4.96だった。また、チタン含有量をICP−AESで測定したところ、3.2ppmだった。
【0176】
【化19】

【0177】
次いで、合成例1と同条件で分取ゲルパミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置で処理し、所望の分子量範囲を分取した。溶液を濃縮後、大過剰のメタノール中に滴下して析出したポリマーをろ過により分離し、乾燥後、精製ポリマー(3)を100mg得た。
分子量をGPCにて測定したところ、Mw=1.56×105、Mw/Mn=3.84だった。このとき、チタン含有量は検出限界以下だった。
【0178】
[合成例4−精製ポリマー(4)の調製]
モノマーをN,N’−ビス(ビフェニル)−N,N’−ビス[4−(2−メトキシカルボニルエチル)フェニル]−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミンに変更した以外は合成例1と同様の操作を行い、1.8部の例示化合物(4)を得た。分子量はMw=6×104(スチレン換算)、Mw/Mn=2.96だった。また、チタン含有量をICP−AESで測定したところ、5.2ppmだった。
【0179】
【化20】

【0180】
次いで、合成例1と同条件で分取ゲルパミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置で処理し、所望の分子量範囲を分取した。溶液を濃縮後、大過剰のメタノール中に滴下して析出したポリマーをろ過により分離し、乾燥後、精製ポリマー(4)を100mg得た。
分子量をGPCにて測定したところ、Mw=6.59×104、Mw/Mn=1.84だった。このとき、チタン含有量は検出限界以下だった。
【0181】
[合成例5−精製ポリマー(5)の調製]
N−ビニルカルバゾール3部を塩化メチレン15部に溶解させ、−60℃に冷却後、フッ化ホウ素ジエチルエーテル0.01部を添加して重合を行なった。10分後に濃アンモニア水を加えて停止し、大過剰のメタノール中に滴下してポリマーを析出させた。得られたポリマー分散液をろ過し、十分にメタノールで洗浄した後乾燥させ、2.8部の前記化合物(I−3)を得た。分子量はGPCにて測定し、Mw=9.5×104(スチレン換算)、Mw/Mn=2.30だった。
次いで、合成例1と同条件で分取ゲルパミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置で処理し、所望の分子量範囲を分取した。溶液を濃縮後、大過剰のメタノール中に滴下して析出したポリマーをろ過により分離し、乾燥後、精製ポリマー(5)を100mg得た。分子量はMw=9.7×104(スチレン換算)、Mw/Mn=2.06だった。
【0182】
[有機EL素子の実施例]
(実施例1)
前記精製ポリマー(1)を用いて以下のように有機EL素子を作製した。
2mm幅の短冊型にエッチングしたITOガラス基板を2−プロパノール(電子工業用、関東化学製)で超音波洗浄した後、乾燥させた。この基板上に精製ポリマー(1)を5%の割合でジクロロエタンに溶解し、0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターで濾過して得られた溶液をディップ法により塗布して膜厚0.050μmの正孔輸送層を形成した。十分に乾燥させた後、キャリア輸送能を持つ発光材料として昇華精製した前記化合物(II−1)をタングステンボートに入れ、真空蒸着法により蒸着して正孔輸送層上に膜厚0.05μmの発光層を形成した。このときの真空度は10-5Torr、ボート温度は300℃だった。続いてMg−Ag合金を共蒸着により蒸着して2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機EL素子の有効面積は0.04cm2であった。
【0183】
(実施例2)
2mm幅の短冊型にエッチングしたITOガラス基板を2−プロパノール(電子工業用、関東化学製)で超音波洗浄した後、乾燥させた。次いで、精製ポリマー(2)1部と、ポリ(N−ビニルカルバゾール)4部と、前記化合物(II−1)0.1部と、を10%ジクロロエタン溶液になるよう調製し、0.1μmのPTFEフィルターで濾過した。この溶液を用いて、2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、スピンコーター法により膜厚約0.15μmの薄膜を形成した。充分乾燥させた後、LiFを0.0008μm、Alを0.15μmずつ順次蒸着して、2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機電界発光素子の有効面積は0.04cm2であった。
【0184】
(実施例3)
まず、用いた精製ポリマー(1)を前記精製ポリマー(3)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、にエッチング、洗浄したITOガラス基板に正孔輸送層を形成した。次いで、用いた化合物(II−1)を、前記化合物(II−1)と前記化合物(III−1)との混合物(混合質量比99:1)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、厚さ0.065μmの発光層を形成した。更に、用いた化合物を前記例示化合物(II−9)に変更した以外は、前記発光層の形成と同様の方法により厚さ0.030μmの電子輸送層を形成した。続いてLiFを0.0008μm、Alを0.15μmずつ順次蒸着して、2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機電界発光素子の有効面積は0.04cm2であった。
【0185】
(実施例4)
2mm幅の短冊型にエッチングしたITOガラス基板を2−プロパノール(電子工業用、関東化学製)で超音波洗浄した後、乾燥させた。この基板上に精製ポリマー(4)を5%の割合でジクロロエタンに溶解し、0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターで濾過して得られた溶液をインクジェット法により塗布して膜厚0.050μmの正孔輸送層を形成した。十分に乾燥させた後、キャリア輸送能を持つ発光材料として昇華精製した前記化合物(II−17)と前記化合物(III−5)との混合物(混合質量比99:1)をスピンコーター法により塗布して正孔輸送層上に膜厚0.065μmの発光層を形成した。充分乾燥させた後、Caを厚さ0.08μm、Alを厚さ0.15μmに蒸着して、2mm幅、合計0.23μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機電界発光素子の有効面積は0.04cm2であった。
【0186】
(実施例5)
精製ポリマー(1)の代わりに、精製ポリマー(5)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、有機EL素子を作製した。
【0187】
(比較例1)
精製ポリマー(1)の代わりに、GPCによる処理を行っていない例示化合物(1)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、有機EL素子を作製した。
【0188】
(比較例2)
精製ポリマー(2)の代わりに、GPCによる処理を行っていない例示化合物(2)を用いた以外は実施例2と同様の操作を行い、有機EL素子を作製した。
【0189】
(比較例3)
精製ポリマー(3)の代わりに、GPCによる処理を行っていない例示化合物(3)を用いた以外は実施例3と同様の操作を行い、有機EL素子を作製した。
【0190】
(比較例4)
精製ポリマー(4)の代わりに、GPCによる処理を行っていない例示化合物(4)を用いた以外は実施例4と同様の操作を行い、有機EL素子を作製した。
【0191】
(比較例5)
精製ポリマー(5)の代わりに、GPCによる処理を行っていない例示化合物(I−3)を用いた以外は実施例5と同様の操作を行い、有機EL素子を作製した。
【0192】
=評価=
以上のように作製した有機EL素子を、真空中(10-3Torr)でITO電極側をプラス、Mg−Ag背面電極をマイナスとして直流電圧を印加し、発光について測定を行い、このときの発光開始電圧、および駆動電流=20mA/cm2における素子の輝度を評価した。
また、乾燥窒素中で有機EL素子の発光寿命の評価を行った。発光寿命の測定は、初期輝度が50cd/cm2となるように電流値を設定し、低電流駆動により輝度が初期値から半減するまでの時間を素子寿命(Hour)とした。それらの結果を表1に示す。
【0193】
【表1】

【0194】
[有機感光体の実施例]
(実施例6)
粗面化処理した20mmφのステンレス円筒基板上に、ジルコニウム化合物(商品名:オルガチックスZC540、マツモト製薬社製)100部およびシラン化合物(商品名:A1110、日本ユンカー社製)10部とi−プロパノール400部およびブタノール200部からなる溶液を浸漬コーティング法で塗布し、150℃において10分間加熱乾燥し膜厚0.5μmの下引き層を形成した。電荷発生材料としてジクロロスズフタロシアニン10部を、ポリビニルブチラール樹脂(商品名:エスレックBM−S、積水化学社製)10部および酢酸n−ブチル500部と混合し、ガラスビーズとともにペイントシェーカーで1時間処理して分散した後、得られた塗布液を上記下引き層上に浸漬コーティング法で塗布し、100℃において10分間加熱乾燥して電荷発生層を形成した。
次いで、前記精製ポリマー(1)7部を、モノクロロベンゼン38部に溶解し、得られた塗布液を、電荷発生層が形成されたステンレス鋼製円筒基板上に浸漬コーティング法で塗布し、120℃において1時間加熱乾燥、膜厚55μmの電荷輸送層を形成した。
【0195】
=評価=
このようにして得られた電子写真用感光体の電子写真特性を、富士ゼロックス社製のレーザービームプリンターテストモデル−1(A−4横方向、毎分36枚)にて、通常環境(20℃、50%RH)下、プリントテストを行い、1枚目と5000枚コピー後の画質を評価した。露光量は、電荷発生材料の感度によって、フィルターを用いて調整した。その結果を表2に示す。
【0196】
(実施例7)
電荷発生材料をクロロガリウムフタロシアニンに変えた以外は実施例6と同様にして有機感光体を作製し、画質評価を行った。
【0197】
(実施例8)
電荷発生材料をヒドロキシガリウムフタロシアニンに変えた以外は実施例6と同様にして有機感光体を作製し、画質評価を行った。
【0198】
(実施例9)
電荷発生材料をオキソチタニウムフタロシアニンに変えた以外は実施例6と同様にして有機感光体を作製し、画質評価を行った。
【0199】
(実施例10)
電荷輸送材料を前記精製ポリマー(2)に変えた以外は実施例6と同様にして有機感光体を作製し、画質評価を行った。
【0200】
(実施例11)
電荷輸送材料を前記精製ポリマー(2)に変えた以外は実施例7と同様にして有機感光体を作製し、画質評価を行った。
【0201】
(実施例12)
電荷輸送材料を前記精製ポリマー(2)に変えた以外は実施例8と同様にして有機感光体を作製し、画質評価を行った。
【0202】
(実施例13)
電荷輸送材料を前記精製ポリマー(2)に変えた以外は実施例9と同様にして有機感光体を作製し、画質評価を行った。
【0203】
(実施例14)
電荷輸送材料を前記精製ポリマー(3)に変えた以外は実施例6と同様にして有機感光体を作製し、画質評価を行った。
【0204】
(実施例15)
電荷輸送材料を前記精製ポリマー(3)に変えた以外は実施例7と同様にして有機感光体を作製し、画質評価を行った。
【0205】
(実施例16)
電荷輸送材料を前記精製ポリマー(3)に変えた以外は実施例8と同様にして有機感光体を作製し、画質評価を行った。
【0206】
(実施例17)
電荷輸送材料を前記精製ポリマー(3)に変えた以外は実施例9と同様にして有機感光体を作製し、画質評価を行った。
【0207】
(実施例18)
電荷輸送材料を前記精製ポリマー(4)に変えた以外は実施例6と同様にして有機感光体を作製し、画質評価を行った。
【0208】
(実施例19)
電荷輸送材料を前記精製ポリマー(4)に変えた以外は実施例7と同様にして有機感光体を作製し、画質評価を行った。
【0209】
(実施例20)
電荷輸送材料を前記精製ポリマー(4)に変えた以外は実施例8と同様にして有機感光体を作製し、画質評価を行った。
【0210】
(実施例21)
電荷輸送材料を前記精製ポリマー(4)に変えた以外は実施例9と同様にして有機感光体を作製し、画質評価を行った。
【0211】
(比較例6)
電荷輸送材料を、GPCによる処理を行っていない例示化合物(1)に変えた以外は実施例6と同様にして有機感光体を作製し、画質評価を行った。
【0212】
(比較例7)
電荷発生材料をクロロガリウムフタロシアニンに変えた以外は比較例6と同様にして有機感光体を作製し、画質評価を行った。
【0213】
(比較例8)
電荷発生材料をヒドロキシガリウムフタロシアニンに変えた以外は比較例6と同様にして有機感光体を作製し、画質評価を行った。
【0214】
(比較例9)
電荷発生材料をオキソチタニウムフタロシアニンに変えた以外は比較例6と同様にして有機感光体を作製し、画質評価を行った。
【0215】
(比較例10)
電荷輸送材料を、GPCによる処理を行っていない例示化合物(2)に変えた以外は比較例6と同様にして有機感光体を作製し、画質評価を行った。
【0216】
(比較例11)
電荷発生材料をクロロガリウムフタロシアニンに変えた以外は比較例10と同様にして有機感光体を作製し、画質評価を行った。
【0217】
(比較例12)
電荷発生材料をヒドロキシガリウムフタロシアニンに変えた以外は比較例10と同様にして有機感光体を作製し、画質評価を行った。
【0218】
(比較例13)
電荷発生材料をオキソチタニウムフタロシアニンに変えた以外は比較例10と同様にして有機感光体を作製し、画質評価を行った。
【0219】
(比較例14)
電荷輸送材料を、GPCによる処理を行っていない例示化合物(3)に変えた以外は比較例6と同様にして有機感光体を作製し、画質評価を行った。
【0220】
(比較例15)
電荷発生材料をクロロガリウムフタロシアニンに変えた以外は比較例14と同様にして有機感光体を作製し、画質評価を行った。
【0221】
(比較例16)
電荷発生材料をヒドロキシガリウムフタロシアニンに変えた以外は比較例14と同様にして有機感光体を作製し、画質評価を行った。
【0222】
(比較例17)
電荷発生材料をオキソチタニウムフタロシアニンに変えた以外は比較例14と同様にして有機感光体を作製し、画質評価を行った。
【0223】
【表2】

【0224】
[有機半導体トランジスタ素子の実施例]
(実施例22)
ガラス基板上に真空蒸着により金を100nmの膜厚で成膜し、ゲート電極とした。次いで、ゲート電極上にスパッタリングによりSiO2を300nmの膜厚で絶縁層を形成し、更に、ソース電極およびドレイン電極として金属マスクを通して金を150nmの膜厚で成膜した。なお、ソース電極およびドレイン電極の間隔は50μmである。
その後、ソース電極およびドレイン電極と導通可能なように、精製ポリマー(1)を5%含むジクロロエタン溶液を目開き0.1μmのPTFEフィルターで濾過した有機半導体溶液を、ディップ法により厚さ0.15μmの有機半導体層を形成し、有機半導体トランジスタ素子を作製した。
【0225】
なお、有機半導体薄膜は、予めソース電極とドレイン電極とが対向する領域と、この領域に接したソース電極およびドレイン電極の一部を除いてレジストによりマスキングした状態でディップ法により塗膜を形成し、続いて、この塗膜を酸素濃度が5ppm、水分濃度が5ppmの不活性ガス雰囲気下で130℃に乾燥処理するプロセスを経て形成した。
【0226】
(実施例23)
実施例22で用いた精製ポリマー(1)の代わりに精製ポリマー(2)を用いた以外は、実施例22と同様にして有機半導体トランジスタ素子を作製した。
【0227】
(実施例24)
実施例22で用いた精製ポリマー(1)の代わりに精製ポリマー(3)を用いた以外は、実施例22と同様にして有機半導体トランジスタ素子を作製した。
【0228】
(実施例25)
実施例22で用いた精製ポリマー(1)の代わりに精製ポリマー(4)を用い、且つ有機半導体層の形成をディップ法ではなくインクジェット法により行った以外は、実施例22と同様にして有機半導体トランジスタ素子を作製した。
【0229】
(比較例18)
実施例22で用いた精製ポリマー(1)の代わりに、GPCによる処理を行っていない例示化合物(1)を用いた以外は実施例22と同様にして有機半導体トランジスタ素子を作製した。
【0230】
(比較例19)
実施例22で用いた精製ポリマー(1)の代わりに、GPCによる処理を行っていない例示化合物(2)を用いた以外は実施例22と同様に有機半導体トランジスタ素子を作製した。
【0231】
=評価=
実施例および比較例で得られた有機半導体トランジスタ素子を半導体パラメーターアナライザー(アジレントテクノロジー社製、4155C)を用いて、ゲート電圧を印加した時の電流−電圧特性を測定し、キャリア移動度(線形領域)とオン/オフ比を算出した。
以上のように作製した有機半導体トランジスタ素子のオン/オフ比を、有機化合物層の形成に用いた電荷輸送性材料のキャリア移動度と共に表3に示す。
【0232】
【表3】

【0233】
表3からわかるように、いずれの実施例に示す有機半導体トランジスタ素子もゲート電極に印加する電圧(ゲート電圧)の変化に伴い、ソース電極・有機半導体層・ドレイン電極間を流れるドレイン−ソース電流が変化するスイッチング特性を示し、良好なオンオフ比を示している。
しかし、比較例では、有機半導体薄膜の形成に用いた電荷輸送性材料のキャリア移動度が低いために、on/off比が、実施例の素子と比べて劣っていることがわかる。また、有機半導体薄膜の形成に際し、液相成膜法が利用できない/気相成膜法を利用しなければならない場合があった。
【図面の簡単な説明】
【0234】
【図1】本発明の有機電界発光素子の層構成の一例を示す模式的断面図である。
【図2】本発明の有機電界発光素子の層構成の一例を示す模式的断面図である。
【図3】本発明の有機電界発光素子の層構成の一例を示す模式的断面図である。
【図4】本発明の有機電界発光素子の層構成の一例を示す模式的断面図である。
【図5】本発明の電子写真用有機感光体の層構成の一例を示す模式的断面図である。
【図6】本発明の電子写真方式の画像形成装置の一例を示す概略構成図である。
【図7】本発明の有機半導体トランジスタ素子の構成の一例を示す模式断面図である。
【図8】本発明の有機半導体トランジスタ素子の構成の一例を示す模式断面図である。
【図9】本発明の有機半導体トランジスタ素子の構成の一例を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0235】
1 透明絶縁体基板
2 透明電極
3 正孔輸送層
4 発光層
5 電子輸送層
6 キャリア輸送能を持つ発光層
7 背面電極
11 導電性支持体
12 下引層
13 電荷発生層
14 電荷輸送層
15 感光層
20 画像形成装置
21 電子写真用有機感光体
22 帯電装置
23 露光装置
24 現像装置
25 転写装置
26 像定着装置
27 クリーニング装置
28 被転写媒体
31 基板
32 ソース電極
33 ドレイン電極
34 有機半導体層
35 ゲート電極
36 絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子有機電子材料を溶剤に溶解させた後、多孔質粒子と接触させることにより分画することを特徴とする高分子有機電子材料の処理方法。
【請求項2】
高分子有機電子材料用原料モノマーを金属触媒の存在下で脱水縮合させて高分子有機電子材料を合成する工程と、
前記高分子有機電子材料を溶剤に溶解させた後、イオン交換性の多孔質粒子と接触させることにより、前記金属触媒に起因する金属イオンを除去しつつ、前記高分子有機電子材料を分画する工程と、
を有することを特徴とする高分子有機電子材料の製造方法。
【請求項3】
少なくとも一方が透明または半透明であり陽極または陰極よりなる一対の電極間に、一つまたは複数の有機化合物層を有し、
且つ前記有機化合物層に、請求項1に記載の処理方法により処理された高分子有機電子材料を含むことを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項4】
支持体上に感光層を有し、該感光層に、請求項1に記載の処理方法により処理された高分子有機電子材料を含有することを特徴とする電子写真用有機感光体。
【請求項5】
請求項4に記載の電子写真用有機感光体を用いることを特徴とする電子写真方式の画像形成装置。
【請求項6】
ソース電極と、ドレイン電極と、前記ソース電極および前記ドレイン電極と導通可能に設けられた有機半導体と、該有機半導体に対して絶縁され且つ電場を印加することが可能なゲート電極と、を少なくとも含み、
且つ前記有機半導体が、請求項1に記載の処理方法により処理された高分子有機電子材料を含有することを特徴とする有機半導体トランジスタ素子。
【請求項7】
溶媒中に電荷輸送性材料を溶解した溶液を用い、前記溶媒を含んだ状態の塗膜を形成する塗膜形成工程と、前記塗膜を乾燥させる乾燥工程と、を少なくとも経ることにより請求項6に記載の有機半導体トランジスタ素子を製造する有機半導体トランジスタ素子の製造方法であって、
前記電荷輸送性材料として、請求項1に記載の処理方法により処理された高分子有機電子材料を用いることを特徴とする有機半導体トランジスタ素子の製造方法。
【請求項8】
基板と、該基板上に設けられた1個以上の有機半導体トランジスタ素子と、を含み、
前記有機半導体トランジスタ素子として、請求項6に記載の有機半導体トランジスタ素子を用いることを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−204721(P2007−204721A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−29032(P2006−29032)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】