説明

高分子材料のめっき前処理方法

【課題】基材表面上に優れた平滑性及び密着性を有し、かつ、優れた金属めっきの外観を形成させることができるめっき前処理方法の提供。
【解決手段】
基材上に、(i)複素環を有する化合物と(ii)酸化剤として機能し且つ無電解めっきの触媒能力を有する金属塩とを含むめっき下地層を形成する方法であって、
該めっき下地層は以下の(a)乃至(c)のいずれかの方法により形成することを特徴とするめっき前処理方法。
(a)前記基材を、前記複素環を有する化合物及び前記金属塩を含む水溶液に浸漬し、そして引き上げる工程を含む方法
(b)前記基材を、前記複素環を有する化合物を含む水溶液に浸漬し、そして引き上げた基材を、前記金属塩を含む水溶液に浸漬する工程を含む方法
(c)前記基材を、前記金属塩を含む水溶液に浸漬し、そして引き上げた基材を、前記複素環を有する化合物を含む蒸気に接触する工程を含む方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子材料のめっき前処理方法に関するものであり、特に、本発明は、基材表面上に優れた平滑性及び密着性を有し、かつ、優れた金属めっきの外観を形成させることができるめっき前処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂基材の表面へ金属めっき膜を形成する場合には、樹脂基材表面との金属めっき膜の密着性が不十分であった。そこで、この密着性を向上させるために、該樹脂基材の表面を酸・アルカリ溶液で処理し、該樹脂基材の表面に凹凸を形成させることで、アンカー効果により密着性を向上させる方法(=Sn−Pd法)が、従来より採用されていた。
【0003】
しかしながら、前記方法では、樹脂基材の表面が粗くなり得るため、ある程度の厚さを有する金属めっき膜を設けないと平滑性に優れる表面を得ることはできなかった。また、上記樹脂基材の表面に凹凸を形成させる処理で酸・アルカリ溶液として汎用されるクロム酸等は、人体に有害であり、環境を汚染する恐れが大きいことから、これを用いない方法(=Sn−Pd法)の代替技術が求められている。
そこで、その代替技術として、基材上に還元性高分子層を形成し、該還元性高分子層上にめっきを施す無電解めっき法が提案されている。
【0004】
特許文献1は、基材上に還元性を有したポリピロールとバインダーを含むポリマー層を形成し、該層上にPd等の触媒の吸着を介して無電解めっき液から金属膜を化学めっきするめっきフィルムの製造方法を開示する。該方法は、上記Sn−Pd法のように基材表面に凹凸を設ける必要性はなく、また、還元性を有したポリピロールを使用することから、化学的還元(=脱ドープ)処理を必要としないため、基材と金属めっき膜との密着性の低下の問題が起こり得ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−270180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、より均一性(平滑性)に優れた塗膜を得ようとすると、塗膜形成方法によっては困難な場合がある。例えば、樹脂成形品からなる基材へスプレー塗装する場合において、高揮発性の有機溶剤を用いると、塗膜表面の均一性(平滑性)が得られ難いため、金属めっき膜への外観に影響を及ぼす。反対に、低揮発性の有機溶媒を用いると、基材への残留溶剤を無くすために高温での乾燥が必要であるため、耐熱性の劣る基材は使用できないという制約を受ける。また、スプレー塗装を行うと、空気中の埃やゴミが混入する可能性があり、それらが基材表面に付着すると小さな膨れ(=ブツ)が発生するため、金属めっき膜への外観に影響を及ぼす。
【0007】
さらに、繊維やウレタン等の溶液を含みやすい基材は、各無電解めっきへの薬液の持込みが激しく、例えば、上記Sn−Pd法のような工程数が多い場合には、工程によっては薬液の持込み等の懸念(薬液由来の成分によってはめっき工程に悪影響を及ぼす可能性がある)により再現性のあるめっき物を得ることは難しく、生産性に問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、基材表面上に優れた平滑性及び密着性を有し、かつ、優れた金属め
っきの外観を形成させることができるめっき前処理方法の提供を課題とする。また、本発明は、製造工程が簡潔であり、かつ、生産性が高いめっき前処理方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた結果、特定の方法により、基材上で、(i)複素環を有する化合物と、(ii)酸化剤として機能し且つ無電解めっきの触媒能力を有する金属塩(以下、金属塩ということもある)を接触させることにより、複素環を有する化合物は酸化状態となり、一方、金属塩は還元状態となる。そして酸化状態となった複素環を有する化合物は基材表面で重合が行われ、高分子化合物となる。また、その際に還元された金属塩は高分子化合物の表面に吸着され、無電解めっきの触媒として作用する。したがって、この酸化重合工程は基板表面上で行われるため、均一なめっき下地層が細部まで形成されることから、めっき膜も均一に細部まで形成されることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、
(1)基材上に、(i)複素環を有する化合物と(ii)酸化剤として機能し且つ無電解めっきの触媒能力を有する金属塩とを含むめっき下地層を形成する方法であって、
該めっき下地層は以下の(a)乃至(c)のいずれかの方法により形成することを特徴とするめっき前処理方法。
(a)前記基材を、前記複素環を有する化合物及び前記金属塩を含む水溶液に浸漬し、そして引き上げる工程を含む方法
(b)前記基材を、前記複素環を有する化合物を含む水溶液に浸漬し、そして引き上げた基材を、前記金属塩を含む水溶液に浸漬する工程を含む方法
(c)前記基材を、前記金属塩を含む水溶液に浸漬し、そして引き上げた基材を、前記複素環を有する化合物を含む蒸気に接触する工程を含む方法、
(2)前記金属塩が、ハロゲン化物であることを特徴とする、前記(1)記載のめっき前処理方法、
に関するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のめっき前処理方法は、上述より、複素環を有する化合物の酸化重合工程が基材表面上で行われることから、基材表面上に均一なめっき下地層が細部まで形成される。さらに、還元された金属塩はこの複素環を有する化合物の重合体の表面に吸着され、無電解めっきの触媒として作用するため、めっき膜も同様に均一かつ細部にまで形成することができる。
また、本発明のめっき前処理方法は、上述より、酸化重合工程と、触媒付与工程を同時に行うことができることから、めっき下地層の製造工程を簡略化することができるため、製造工程の簡略化が可能である。
さらに、本発明のめっき前処理方法は、基材を、複素環を有する化合物及び金属塩を含む水溶液で処理した場合には、その後、水洗して直ぐに無電解めっき処理が可能であるため、2工程で金属めっき膜を形成することができる。また、本発明のめっき前処理方法は、工程数が少ないことから、薬液の持込みの可能性が低くなるため、特に溶液を含みやすい基材を用いる場合には有効である。さらに、再現性のあるめっき物を容易に得ることができ、めっき物の生産性に優れる。
また、有機溶剤を使用しないことから、高温の乾燥を必要としないため、耐熱性の劣る基材であっても使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施例1と比較例2において、Pd触媒付与後のPd(0価)及びPd(2価)の存在状況を表すX線光電子分光法(XPS)の分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明について詳細に説明する。
本発明は、
基材上に、(i)複素環を有する化合物と(ii)酸化剤として機能し且つ無電解めっきの触媒能力を有する金属塩とを含むめっき下地層を形成する方法であって、
該めっき下地層は以下の(a)乃至(c)のいずれかの方法により形成することを特徴とするめっき前処理方法。
(a)前記基材を、前記複素環を有する化合物及び前記金属塩を含む水溶液に浸漬し、そして引き上げる工程を含む方法
(b)前記基材を、前記複素環を有する化合物を含む水溶液に浸漬し、そして引き上げた基材を、前記金属塩を含む水溶液に浸漬する工程を含む方法
(c)前記基材を、前記金属塩を含む水溶液に浸漬し、そして引き上げた基材を、前記複素環を有する化合物を含む蒸気に接触する工程を含む方法
に関する。
【0014】
本発明に使用する前記基材としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、及びポリイミド樹脂等;アクリル繊維、ポリエステル繊維及びアラミド繊維等;ウレタンフォーム等が挙げられる。
基材の形状は特に限定されないが、例えば、板状、フィルム状が挙げられる。また、基材として、例えば、射出成形等により樹脂を成形した樹脂成形品等が挙げられる
【0015】
前記基材は、めっき前処理を行う前に基材表面に親水化処理を行ってもよい。基材表面に親水化処理を施すことによって、複素環を有する化合物層は基材表面から発生した官能基との水素結合により、基材は複素環を有する化合物層と密着度を高めることができるため、めっき下地層(=複素環を有する化合物と金属塩とを含有する層)を形成しやすくなる。その結果、金属めっき膜の析出性と密着性が良好になる。
前記基材表面を親水化処理する方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。前記親水化処理は、例えば、乾式処理でもよく、湿式処理でもよい。乾式処理としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理及びグロー放電処理などの放電処理;オゾン処理;UVオゾン処理;紫外線処理及び電子線処理などの電離活性線処理などが挙げられる。湿式処理としては、例えば、水、アセトンなどの溶媒を用いた超音波処理;アルカリ処理;アンカーコート処理などが挙げられる。これらの処理は、単独で行ってもよいし、2つ以上を組み合せて行ってもよい。
また、親水化処理の処理温度は、複素環を有する化合物の重合速度に影響するため、通常10℃〜60℃である。
【0016】
本発明に使用する複素環を有する化合物としては、例えば、ピロール、N−メチルピロール、N−エチルピロール、N−フェニルピロール、N−ナフチルピロール、N−メチル−3−メチルピロール、N−メチル−3−エチルピロール、N−フェニル−3−メチルピロール、N−フェニル−3−エチルピロール、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−n−ブチルピロール、3−メトキシピロール、3−エトキシピロール、3−n−プロポキシピロール、3−n−ブトキシピロール、3−フェニルピロール、3−トルイルピロール、3−ナフチルピロール、3−フェノキシピロール、3−メチルフェノキシピロール、3−アミノピロール、3−ジメチルアミノピロール、3−ジエチルアミノピロール、3−ジフェニルアミノピロール、3−メチルフェニルアミノピロール及び3−フェニルナフチルアミノピロール等のピロール誘導体;アニリン、o−クロロアニリン、m−クロロ
アニリン、p−クロロアニリン、o−メトキシアニリン、m−メトキシアニリン、p−メトキシアニリン、o−エトキシアニリン、m−エトキシアニリン、p−エトキシアニリン、o−メチルアニリン、m−メチルアニリン及びp−メチルアニリン等のアニリン誘導体;チオフェン、3−メチルチオフェン、3−n−ブチルチオフェン、3−n−ペンチルチオフェン、3−n−ヘキシルチオフェン、3−n−ヘプチルチオフェン、3−n−オクチルチオフェン、3−n−ノニルチオフェン、3−n−デシルチオフェン、3−n−ウンデシルチオフェン、3−n−ドデシルチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−ナフトキシチオフェン及び3,4−エチレンジオキシチオフェン等のチオフェン誘導体等が挙げられられ、好ましくはピロール、アニリン、チオフェン及び3,4−エチレンジオキシチオフェン等が挙げられ、より好ましくはピロールが挙げられる。
【0017】
また、前記複素環を有する化合物を高分子化する際の処理温度は、本発明に使用される複素環を有する化合物の種類によって適宜選択されるが、好ましくは10℃〜70℃である。
【0018】
本発明に使用する酸化剤として機能し且つ無電解めっきの触媒能力を有する金属塩としては、例えば、硝酸銀、酢酸銀、硫酸銀、過塩素酸銀、フッ化銀、亜硝酸銀、塩化銀、臭化銀、プロピオン酸銀、酒石酸銀、メチルエチル酢酸銀、トリメチル酢酸銀、炭酸銀、シュウ酸銀、雷酸銀等の銀塩;硝酸銅、硫酸銅、塩化銅、塩素酸銅、過塩素酸銅、臭化銅、酢酸銅、炭酸銅、シュウ酸銅等の銅塩;硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケル、酢酸ニッケル、炭酸ニッケル、シュウ酸ニッケル等のニッケル塩;硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム等のパラジウム塩などが挙げられる。この中でも、ハロゲン化物が好ましく、特に塩化パラジウムが好ましい。
【0019】
本発明のめっき下地層を形成する方法において、基材上に、(i)複素環を有する化合物と(ii)酸化剤として機能し且つ無電解めっきの触媒能力を有する金属塩とを含むめっき下地層を形成する方法としては、以下の(a)乃至(c)のいずれかの方法で行われる。
(a)基材を、複素環を有する化合物及び金属塩を含む水溶液に浸漬し、そして引き上げる工程を含む方法
(b)基材を、複素環を有する化合物を含む水溶液に浸漬し、そして引き上げた基材を、金属塩を含む水溶液に浸漬する工程を含む方法
(c)基材を、金属塩を含む水溶液に浸漬し、そして引き上げた基材を、複素環を有する化合物を含む蒸気に接触する工程を含む方法
前記各方法は、当業者に既知である手段を利用して行うことができる。
【0020】
前記(a)の方法において、前記複素環を有する化合物及び金属塩を含む水溶液を調製する場合、複素環を有する化合物と金属塩(=複素環を有する化合物/金属塩)の濃度比は0.1〜80であり、好ましくは0.1〜40である。濃度比が0.1未満であると複素環を有する化合物の酸化状態及び重合化が不十分となり、また金属塩についても還元状態が不十分となるため、無電解めっきの触媒として作用することが困難となる。一方、濃度比が80より大きいと、金属塩が基材上に均一に付着することができないため、その後のめっき処理よりにおいて、金属めっき膜も均一に形成しない虞があるからである。
また、基材を、前記複素環を有する化合物及び金属塩を含む水溶液に浸漬させる工程の処理温度は、10℃〜70℃、好ましくは、25℃〜60℃であり、処理時間は、0.1分〜120分、好ましくは20分〜60分である。
【0021】
前記(b)の方法において、前記複素環を有する化合物を含む水溶液の濃度は、5×10-4〜0.9Mであり、好ましくは0.01〜0.5Mである。
また、基材を、前記複素環を有する化合物を含む水溶液に浸漬させる工程の処理温度は、20℃〜50℃、好ましくは、25℃〜40℃であり、処理時間は、0.1分〜50分、好ましくは1分〜40分である。
【0022】
前記(b)及び(c)の方法において、好ましい、前記金属塩を含む水溶液としては、0.02%塩化パラジウム−0.01%塩酸水溶液(pH3)である。
また、基材を、前記金属塩を含む水溶液に浸漬させる工程における処理温度は、20℃〜50℃、好ましくは、25℃〜40℃であり、処理時間は、0.1分〜50分、好ましくは1分〜40分である。
【0023】
前記(c)の方法において、複素環を有する化合物を含む蒸気としては、上記の複素環を有する化合物を含む水溶液を気化させたものでもよいが、好ましくは複素環を有する化合物そのものを気化させたものである。
また、複素環を有する化合物を含む蒸気に接触させる工程における処理温度は、20℃〜50℃、好ましくは、常温であり、処理時間は、0.1分〜40分、好ましくは1分〜30分であり、処理圧力は、常圧若しくは減圧状態であってもよい。
【0024】
上記(a)乃至(c)の方法で、めっき前処理された基材は、金属を析出させるためのめっき液に浸され、これにより無電解めっき膜が形成される。
めっき液としては、通常、無電解めっきに使用されるめっき液であれば、特に限定されない。すなわち、無電解めっきに使用できる金属としては、例えば、銅、金、銀、ニッケル、及びクロム等、全て適用することができるが、銅が好ましい。無電解めっき浴の具体例としては、具体的には、ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)製)等が挙げられる。
無電解めっきの処理温度は、20℃〜50℃、好ましくは30℃〜40℃であり、処理時間は10分〜40分、好ましくは15分〜30分である。
【実施例】
【0025】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものでない。
【0026】
[実施例1:基材を、複素環を有する化合物及び金属塩を含む水溶液に浸漬し、そして引
き上げる工程を含む方法]
<めっき前処理方法>
ピロールモノマー6.5mM、塩化パラジウム水溶液0.25mM、及び塩酸2mMをイオン交換水に加えて、この水溶液を混合した。そして、この混合液へABS樹脂(テクノ430、テクノポリマー(株)製)からなる基材を30℃で30分間浸漬し、その後、イオン交換水で洗浄し、乾燥させてめっき下地層を形成した。
<無電解めっき>
次に、前記めっき下地層を形成したABS樹脂からなる基材を、無電解めっき浴 ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)製)に35℃で20分間浸漬後、イオン交換水で洗浄した。これにより表面に0.3μmの膜厚の銅膜を形成した。
【0027】
[実施例2:基材を、複素環を有する化合物を含む水溶液に浸漬し、そして引き上げた基材を、金属塩を含む水溶液に浸漬する工程を含む方法]
<めっき前処理方法>
ABS樹脂(テクノ430、テクノポリマー(株)製)からなる基材を、ピロールモノマー0.02Mの水溶液に30℃で10分間浸漬し、イオン交換水で水洗後、乾燥させた。続いて、基材を塩化パラジウム水溶液1mM及び塩酸3mMを含む水溶液に30℃で10分間浸漬し、その後、イオン交換水で洗浄し、乾燥させてめっき下地層を形成した。
<無電解めっき>
次に、前記めっき下地層を形成したABS樹脂からなる基材を、無電解めっき浴 ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)製)に35℃で20分間浸漬後、イオン交換水で洗浄した。これにより表面に0.3μmの膜厚の銅膜を形成した。
【0028】
[実施例3:基材を、金属塩を含む水溶液に浸漬し、そして引き上げた基材を、複素環を
有する化合物を含む蒸気に接触する工程を含む方法]
<めっき前処理方法>
プラズマ処理にて親水化処理を施したABS樹脂(テクノ430、テクノポリマー(株)製)からなる基材を、塩化パラジウム水溶液1mM及び塩酸3mMを含む水溶液に30℃で30分間浸漬し、その後、イオン交換水で洗浄し、乾燥させた。続いて、ガラスデシケーター内にピロールモノマーのみを入れ、その容器に蓋をして40℃で10分間放置し、容器内でピロールモノマーを気化させた。そして、この容器内に前記基材を40℃、圧力0.1MPaで5分間放置してポリピロールの気相重合を行った。その後、イオン交換水で洗浄し、乾燥させてめっき下地層を形成した。
<無電解めっき>
次に、前記めっき下地層を形成したABS樹脂からなる基材を、無電解めっき浴 ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)製)に35℃で20分間浸漬し、その後、イオン交換水で洗浄した。これにより表面に0.3μmの膜厚の銅膜を形成した。
【0029】
[実施例4:アラミド繊維を、複素環を有する化合物及び金属塩を含む水溶液に浸漬し、
そして引き上げる工程を含む方法]
実施例1の基材をアラミド繊維(Kevlar[登録商標] 東レ・デュポン(株)製)に変更した以外は、実施例1と同様の方法でめっき下地層を形成し、その後、無電解めっき浴 ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)製)に35℃で40分間浸漬し、銅膜の形成を行った。この際の繊維の抵抗値は5Ω/mであった。
【0030】
[実施例5:ウレタンフォームを、複素環を有する化合物及び金属塩を含む水溶液に浸漬
し、そして引き上げる工程を含む方法]
実施例1の基材を軟質ポリウレタンフォーム(エアロンムマック[登録商標] アキレス(株)製)に変更した以外は、実施例1と同様の方法でめっき下地層を形成し、その後、無電解めっき浴 ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)製)に35℃で20分間浸漬し、銅膜の形成を行った。
【0031】
[比較例1:基材を、金属塩のみからなる溶液へ浸漬し、そして引き上げる工程を含む方法]
<めっき前処理方法>
ABS樹脂(テクノ430、テクノポリマー(株)製)からなる基材を塩化パラジウム水溶液0.25mM及び塩酸2mMを含む水溶液に30℃で30分間浸漬し、イオン交換水で洗浄し、乾燥させてめっき下地層を形成した。
<無電解めっき>
次に、前記めっき下地層を形成したABS樹脂からなる基材を、無電解めっき浴 ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)製)に35℃で20分間浸漬後、イオン交換水で洗浄した。しかし、銅膜は形成されなかった。
【0032】
[比較例2:従来のSn−Pd法]
<めっき前処理方法>
ABS樹脂(テクノ430、テクノポリマー(株)製)からなる基材を、以下の(1)乃至(5)の工程に付すことにより、めっき下地層を形成した。
(1)脱脂工程
ホウ酸ナトリウム30g/L、リン酸ナトリウム20g/L、及びノニオン系界面活性剤2g/Lからなる水溶液中(50℃)に、基材を5分間浸漬後、イオン交換水で洗浄した。
(2)エッチング工程
クロム酸420g/L及び濃硫酸390g/Lからなる水溶液(75℃)に基材を7分間浸漬後、イオン交換水で洗浄した。
(3)中和工程
濃硫酸50cc/Lの水溶液中(室温)に基材を1分間浸漬後、イオン交換水で洗浄した。
(4)キャタリスト
塩化パラジウム0.3g/L、塩化第一錫10g/L、及び濃硫酸200cc/Lからなる水溶液中(室温)に基材を3分間浸漬後、イオン交換水で洗浄した。
(5)アクセレーター
濃硫酸75cc/Lの水溶液(40℃)に、基材を3分間浸漬後、イオン交換水で洗浄し、乾燥させてめっき下地層を形成した。
<無電解めっき>
次に、前記めっき下地層を形成したABS樹脂からなる基材を、無電解めっき浴 ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)製)に35℃で20分間浸漬後、イオン交換水で洗浄した。これにより表面に0.3μmの膜厚の銅膜を形成した。
【0033】
[比較例3:従来のSn−Pd法]
比較例2の基材をアラミド繊維(Kevlar[登録商標] 東レ・デュポン(株)製)に変更した以外は、比較例2と同様の方法でめっき下地層を形成し、その後、無電解めっき浴 ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)製)に35℃で40分間浸漬し、銅膜の形成を行った。
【0034】
[比較例4:従来のSn−Pd法]
比較例2の基材を軟質ポリウレタンフォーム(エアロンムマック[登録商標] アキレス(株)製)した以外は、比較例2と同様の方法でめっき下地層を形成し、その後、無電解めっき浴 ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)製)に35℃で40分間浸漬し、銅膜の形成を行った。
【0035】
実施例1乃至実施例5、及び比較例1乃至比較例4で作製した基材のめっき外観を評価して表1に示した。
なお、めっき下地層の形成方法及び評価方法は以下に示した通りである。
[めっき前処理方法]
A:ピロールモノマー、塩化パラジウム、及び塩酸を含有する水溶液に基材を浸漬
B:ピロールモノマー含有の水溶液に基材を浸漬後、該基材を塩化パラジウム及び塩酸
からなる水溶液に浸漬
C:塩化パラジウム及び塩酸からなる水溶液に基材を浸漬後、該基材に気化したピロー
ルモノマーを接触
D:塩化パラジウム及び塩酸からなる水溶液に基材を浸漬
E:従来のSn−Pd法(エッチング法)
[めっき外観の評価]
○:全面にめっきが析出し、さらに均一性(平滑性)が高く、光沢がある。
△:全面にめっきが析出しているが、均一性が低く、光沢がない。
×:めっきが析出していない。
【0036】
【表1】

【0037】
表1の結果より、本発明のめっき前処理方法を用いた場合は、基材(種類及び樹脂)の如何にかかわらず、めっき処理を施された基材はいずれも良好なめっき外観を有する(実施例1乃至5参照)。特に実施例1の場合は、複素環を有する化合物と金属塩を混合させた水溶液に基材を浸漬後、水洗してすぐに無電解めっき処理が可能であるため、2工程で基材に良好な金属めっき膜を形成することが可能である。
また、本発明のめっき前処理方法では、溶液を含みやすい基材を用いた場合であっても、めっき処理を施された基材はいずれも良好なめっき外観を有することができる(実施例4及び5)。
一方、複素環を有する化合物を含有していない水溶液に基材を浸漬した場合は、めっきは析出されなかった(比較例1参照)。また、従来のSn−Pd法の場合は、全面にめっきが析出しているが、均一性が低く、光沢がない結果となった(比較例2〜4)。
【0038】
X線光電子分光法(XPS)を用いて、実施例1と比較例2におけるPd触媒付与後の基材の化学状態を分析した。
その結果、実施例1は、比較例2とは異なる位置にピークが出現した(図1参照)。比較例2のものは、Pd(0価)の存在を示しているのに対し、実施例1のものは、337〜338ev付近にブロードなピークが存在する。この結果から、実施例1のものには、ハロゲン化物や酸化物が混在しているものと推測される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、(i)複素環を有する化合物と(ii)酸化剤として機能し且つ無電解めっきの触媒能力を有する金属塩とを含むめっき下地層を形成する方法であって、
該めっき下地層は以下の(a)乃至(c)のいずれかの方法により形成することを特徴とするめっき前処理方法。
(a)前記基材を、前記複素環を有する化合物及び前記金属塩を含む水溶液に浸漬し、そして引き上げる工程を含む方法
(b)前記基材を、前記複素環を有する化合物を含む水溶液に浸漬し、そして引き上げた基材を、前記金属塩を含む水溶液に浸漬する工程を含む方法
(c)前記基材を、前記金属塩を含む水溶液に浸漬し、そして引き上げた基材を、前記複素環を有する化合物を含む蒸気に接触する工程を含む方法
【請求項2】
前記金属塩が、ハロゲン化物であることを特徴とする、請求項1記載のめっき前処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−202249(P2011−202249A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72180(P2010−72180)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】