説明

高分子材料の微細構造形成方法、微細構造体

【課題】耐熱性の低い高分子材料からなる微細構造体を得る。
【解決手段】まず、PLLAの薄膜層を形成する(薄膜形成工程)。その後、このPLLA薄膜層に対してFIB加工を行う(加工工程)。薄膜形成工程においては、まず、PLLAを溶剤中に溶解して希釈した塗布液を製造する(塗布液準備:S1)。次に、この塗布液を基板上に回転塗布する(回転塗布:S2)。
次に、FIB装置を用いて、基板上のPLLA薄膜に対して、集束されたイオンビームを照射する(FIB加工:S3)。ここでは、PLLA薄膜層12の厚さを1μm以下となるように設定し、イオンビームの電流を1nA以下となるように設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス転移点や融点が低く絶縁性である高分子材料からなる微細構造体を形成する方法に関する。また、これによって製造された微細構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)等においては、各種の材料からなる微細構造体を形成する技術が必要になる。こうした材料としては、Si等の半導体材料や、各種の金属材料が知られている。生分解性プラスチックは、自然界に存在する菌類によって分解されるプラスチック材料であり、例えば人体内で使用するMEMSデバイスにおいては、こうした材料の使用が望ましい場合もある。すなわち、生分解性プラスチックをMEMSデバイスの材料として用いることにより、MEMSデバイスの応用範囲が更に広がる。また、環境汚染を抑制するという観点からは、こうした生分解性プラスチックをMEMSデバイスの材料とすることが好ましいことも明らかである。
【0003】
生分解性プラスチック材料としては、ポリ−L−乳酸(PLLA)や、ポリ−D−乳酸(PDLA)、ポリブチレンサクシネート・アジベート重合体(PBSA)、ポリカプロラクトン(PCL)等の高分子材料が知られている。MEMSデバイスを製造する場合には、こうした材料からなる微細構造体、例えば微細な歯車等の機械部品を数μm程度以下の精度で形成することが必要になる。
【0004】
金属等でこうした構造を形成する際には、フォトレジストパターンとめっきを利用したLIGAプロセス等が用いられるのに対して、高分子材料をめっきに類似した方法で形成することは困難であるため、同様のプロセスは適用ができない。このため、高分子材料で同様の微細構造体を形成するためには、これらの材料を所望の形状にエッチング加工することが必要になる。ここで、こうした材料の微細加工を行うためには、特にドライエッチング加工の技術が必要になる。
【0005】
ドライエッチング加工としては、プラズマエッチング、集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)加工等が知られているが、特にマスクレスで所望の形状を得ることのできるFIBが、MEMSデバイス等を製造するに際しては好ましい。ただし、FIB加工を行う際には、イオン照射に伴って試料の温度が局所的に上昇する。これに対して、高分子材料は、一般にそのガラス転移点や融点が低いために耐熱性が低く、この熱によって変形が生ずるという問題がある。この点についてはプラズマエッチングにおいても同様である。また、一般にこうした高分子材料は絶縁性でもあるため、イオンビームを用いた場合には、イオンの照射による加工試料のチャージアップが生じ、適切にイオンビームが照射されなくなり、安定した均一なエッチングが困難となるという問題も生ずる。
【0006】
特許文献1には、これらの点を改善した高分子材料の加工方法が記載されている。ここでは、主に走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)や透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)の観察用試料となる薄片状の試料を得るための、高分子材料のFIBを用いた加工方法が記載されている。この技術においては、FIB加工を行なう際に、試料となる領域の外側に、試料となる箇所における熱の影響を低減するための溝を形成してから実際の試料の加工を行う。また、この溝加工の際に導電性のガスを照射することによって、チャージアップの問題も解消することができる。
【0007】
こうした技術を用いて、高分子材料の微細構造体、特にSEMやTEMの観察用試料をFIB加工を用いて作成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−162666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、SEMやTEMの観察用試料と、MEMSデバイス、あるいはMEMSデバイス用部品とは、形状が大きく異なる。SEMやTEMの観察用試料は単純な薄片状であるが、MEMSデバイス用の部品は、例えば歯車のような複雑な形状である。従って、これらの部品となる部分に対する熱の影響を低減できる溝を常に形成できるとは限らず、単純に特許文献1に記載の技術を適用することは困難である。また、チャージアップに関しては、特許文献1に記載の技術の他に、中和銃(電子シャワー)によって、チャージアップを防ぎながら加工する方法もある。しかしながら、高分子材料の場合、この場合、電子照射により放射線化学反応を誘起し、分解/架橋反応を起こし、加工性ならびに材料特性が変化してしまう。
【0010】
更に、上記の生分解性プラスチックの耐熱性は、プラスチック材料の中でも特にその耐熱性が低く、例えばPLLAのガラス転移点は約60℃以下であり、それに起因した熱軟化点が52〜55℃である。このため、加工の際の熱変形の影響は特に大きくなる。
【0011】
すなわち、こうした耐熱性が低く、絶縁性の高い高分子材料からなる微細構造体を得ることは困難であった。
【0012】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の高分子材料の微細構造形成方法は、絶縁性の高分子材料からなる構造体を形成する微細構造形成方法であって、導電性の基板上に、厚さ1μm以下の前記高分子材料からなる薄膜層を形成する薄膜形成工程と、前記薄膜層に対して、真空中で1nA以下の電流で集束イオンビームを照射して前記薄膜層のエッチング加工を行うことによって、前記構造体を得る加工工程と、を具備することを特徴とする。
本発明の高分子材料の微細構造形成方法は、前記薄膜形成工程において、前記高分子材料と溶剤とを混合した塗布液を前記基板上に回転塗布することによって前記薄膜層を形成することを特徴とする。
本発明の高分子材料の微細構造形成方法において、前記高分子材料は、ポリ−L−乳酸(PLLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンサクシネート・アジベート重合体(PBSA)のいずれかを主成分とすることを特徴とする。
本発明の微細構造体は、前記高分子材料は、前記高分子材料の微細構造形成方法によって製造されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は以上のように構成されているので、耐熱性の低い高分子材料からなる微細構造体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態となる高分子材料の微細構造形成方法を示すフロー図である。
【図2】本発明の実施の形態となる高分子材料の微細構造形成方法におけるFIB加工の際の形態を示す図である。
【図3】PLLA(H)を用いた第1の比較例における加工後の表面のSEM写真である。
【図4】PLLA(S)を用いた第2の比較例における加工後の表面のSEM写真である。
【図5】第1、第2の比較例におけるエッチング深さとフルエンスとの関係を測定した結果である。
【図6】PLLA(H)を用いた第3の比較例における加工後の表面のSEM写真である。
【図7】PLLA(S)を用いた第4の比較例における加工後の表面のSEM写真である。
【図8】第3、第4の比較例におけるエッチング深さとフルエンスとの関係を測定した結果である。
【図9】PLLA(H)を用いた本発明の第1の実施例における加工後のAFM写真である。
【図10】PLLA(S)を用いた本発明の第2の実施例における加工後のAFM写真である。
【図11】PCLを用いた第5の比較例における加工後の表面のSEM写真である。
【図12】PCLを用いた本発明の第3の実施例における加工後の表面のSEM写真である。
【図13】PBSAを用いた第6の比較例における加工後の表面のSEM写真である。
【図14】PBSAを用いた本発明の第4の実施例における加工後の表面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に係る、高分子材料の微細構造形成方法について説明する。以下では、高分子材料として、生分解性プラスチック材料であるポリ−L−乳酸(PLLA)を用いた場合について説明する。
【0017】
図1は、この微細構造形成方法のフロー図である。まず、PLLAの薄膜層を形成する(薄膜形成工程)。その後、このPLLA薄膜層に対してFIB加工を行う(加工工程)。
【0018】
薄膜形成工程においては、まず、PLLAを溶剤中に溶解して希釈した塗布液を製造する(塗布液準備:S1)。溶剤としては、例えばクロロホルムを使用することができ、PLLAの濃度は例えば1重量%程度とすることができる。
【0019】
次に、この塗布液を基板上に回転塗布する(回転塗布:S2)。基板としては、導電性でかつFIB装置の試料室内に導入できる形態のものが好ましく、例えば4インチ径の導電性シリコン基板等が好ましく用いられる。回転塗布は、通常のスピンコーターを用いて行うことができ、塗布回転数は例えば3000rpm程度とすることができる。その後、乾燥処理を行うことにより、溶剤を揮発させ、PLLAの薄膜を基板上で得ることができる。PLLAの膜厚は、塗布液濃度(粘度)や塗布回転数の制御によって適宜設定でき、1μm以下とすることができる。また、塗布前に基板表面に塗布液に対する濡れ性を高める表面処理を行うことも可能である。また、PLLA中の溶剤成分を充分に揮発させ、PLLAを硬化させて基板との密着性を高めるために、PLLAのガラス転移点よりも低い温度でのベーク処理を乾燥処理後に行ってもよい。
【0020】
次に、FIB装置を用いて、基板上のPLLA薄膜に対して、集束されたイオンビームを照射する(加工工程:S3)。図2は、この際の形態を示す図である。基板11上にPLLA薄膜層12が形成された上記の試料が、FIB装置20内の試料室21内のステージ22上に設置される。試料室21は、真空排気系(図示せず)によって真空引きされ、イオンビーム照射中は1×10−4Pa程度以下の真空度に維持される。FIB装置20は、特許文献1に記載のものと同様であり、試料室21中に設置された上記の試料に対して、制御されたイオンビーム23がイオンビーム照射機構24から所望の箇所に照射される。イオンビーム23の大きさ(広がり)は、イオンビーム照射機構24中の絞り(アパーチャー)とイオン集束用のコンデンサレンズと対物レンズの組み合わせによって制御可能であり、イオンビーム23のPLLA薄膜層12表面でのビーム径は、例えば23nmφとすることができる。このイオンビーム23が試料(PLLA薄膜層12)表面で所望の形状を描画するようにラスタースキャンまたはベクタースキャンされる。この際、ビーム電流値は1nA以下とすることが可能である。ラスタースキャンならびにベクタースキャンは、イオンビーム照射機構24中の走査電極によって任意にコンピュータ制御することができる。また、ステージ22の位置(X−Y座標)の制御ならびにイオンビーム照射のスキャンエリアを制御することによって、照射される領域が設定できる。
【0021】
FIB加工においては、試料はスパッタエッチされるため、イオン種としては、スパッタ効率の高いイオン種が用いられ、例えばGa等が用いられる。試料に対するフルエンス(照射量)は、エッチングされる深さに対応し、加工が可能な範囲で制御が可能であるが、例えば1018ions/cm程度とすることが可能である。
【0022】
ここでは、PLLA薄膜層12の厚さを1μm以下となるように設定し、イオンビームの電流を1nA以下となるように設定する。これらをこの範囲内とすることにより、特にPLLA薄膜層12の微細加工を高い精度で行うことができる。PLLA薄膜層12がこれよりも厚いと、FIB加工時の発熱やチャージアップによってPLLAの変形やエッチングの不均一が生じるために加工精度が低下する。イオンビームの電流値がこれよりも大きいと、PLLA薄膜層12の表面に、エッチング時の再付着物が形成され、やはり所望の形状を得ることが困難になる。
【0023】
以下に、従来の微細構造形成方法と、本発明の実施の形態に係る微細構造形成方法を比較した結果について説明する。
【0024】
まず、第1、第2の比較例として、硬質のPLLA(H)(商品名:LACEA H100、重量分子量90000、ガラス転移点約55℃ 融点約160℃ 三井化学製)と、硬質のPLLA(S)(商品名:エコプラスチック S−12 重量分子量112000、ガラス転移点約57℃ 融点約165℃ トヨタ自動車製)の厚さ500μmのシートに対して、エスアイアイナノテクノロジー社製のFIB装置(商品名SMI−2050)を用いて、Gaイオンのイオン加速電圧30kV、ビーム径100nmφ(FWHM)、ビーム電流1.3nAとして加工を行った結果について説明する。FIB加工においては、これらのシートをステージ22上に設置した。
【0025】
図3、4は、それぞれ第1、第2の比較例(PLLA(H)、PLLA(S))について上記の条件で加工を行った後の表面のSEM写真である。ここでは、矩形状の凹部が配列された形状を形成した。これらの試料においては、均一なエッチングができておらず、凹部の深さは一定ではなく、不均一である。また、凹部の底部の表面には荒れが見られる。更に、凹部以外の領域には、粒子状の再付着物が見られる。
【0026】
エッチングが不均一となる原因の一つは、イオンビーム照射に伴う表面の温度上昇である。すなわち、表面の温度が上昇し、PLLAの熱軟化点、ガラス転移点を超えたために、PLLA表面が変形し、荒れも発生した。また、PLLAの絶縁性のために、イオンビーム照射によって試料自身が正に帯電し、イオンビームが所望の箇所に正しく照射されないために、不均一にエッチングされている。また、このエッチングの際には、PLLAを構成する高分子材料は、Gaイオンによって物理的にスパッタエッチされる。このため、エッチングによってPLLAは粒子状の形態で除去されて飛散し、これがPLLAの表面に付着した再付着物が見られる。
【0027】
図5は、図3、4の試料において得られたエッチング深さとフルエンスとの関係である。前記の理由により、エッチング深さのばらつきが大きくなっており、エッチングは可能ではあるものの、その深さの制御が困難であることがわかる。すなわち、この条件でPLLAの微細構造体を得ることは困難である。
【0028】
第3、第4の比較例として、第1、第2の比較例と同様の材料に対して異なる条件のイオンビームを照射した試料を作成した。図6(第3の比較例)、図7(第4の比較例)は、それぞれ図3、4と同様の材料に対して、ビーム径35nmφ(FWHM)、ビーム電流188pAとしてビーム電流及びビーム電流を小さくした場合の同様のSEM写真である。図8は、図6、7の試料において得られたエッチング深さとフルエンスとの関係を図5と同様に測定した結果である。これらにおいては、エッチングの不均一性や再付着が低減されており、図8におけるエッチング深さとフルエンスとの関係のばらつきも小さい。ただし、図6、7のいずれにおいても、例えば加工寸法精度が1μm以下での加工を行うにはエッチングの不均一性がまだ不充分である。このため、これらの条件では微細構造体を形成することは困難である。
【0029】
一方、本発明の実施例として、導電性基板(シリコン基板)上において回転塗布によって薄膜化して形成されたPLLAに対してFIBによる加工を行った。ここでは、本発明の第1、第2の実施例において、それぞれ前記と同様のPLLA(H)、PLLA(S)を、1重量%となるようにクロロホルム希釈し、回転数3000rpmで30sの時間で回転塗布を行った試料を用いた。この場合のPLLA薄膜層12の厚さは各々170〜200nmである。
【0030】
FIB加工においては、ビーム径を23nmφ(FWHM)、ビーム電流を48pAと小さくした。フルエンスを4×1017ions/cmとした場合に、図3、4等と同様のパターンの加工を行った場合には、均一で表面荒れや再付着のない加工が可能であった。図9、10は、この条件によってMEMSデバイス用の歯車を製造したAFM(Atomic Force Microscope)写真である。本発明の第1の実施例(PLLA(H))、本発明の第2の実施例(PLLA(L))、共に、1μm以下の幅の歯車溝パターンに対しても充分な加工精度で加工ができ、再付着も見られなかった。これらのパターンの加工時間は10分程度である。
【0031】
ここで、比較例において生じた不均一性や表面荒れがなくなった理由は、以下の通りである。PLLAを薄くしたことにより、イオン照射されたPLLA表面において発生した熱が基板11にすばやく伝導して放熱される。このため、PLLA表面の温度上昇が抑制され、PLLAの再結晶温度や融点を超えることがない。また、チャージアップについても同様であり、正の電荷が導電性の基板11を介してステージ22側にすばやく放電される。
【0032】
また、ビーム電流を1nA以下と小さくしたために、再付着が抑制された。これは、ビーム電流を小さくしたことによってエッチング速度が低下し、再付着物の源となる飛散粒子の空間密度が低くなったことに起因する。このため、これらの飛散粒子は、再付着する前に排気される、あるいは、試料室21の内壁に付着し、PLLA薄膜層12の表面に再付着することが抑制される。エッチング速度が低下しても、PLLAを薄膜化しているために、実際の加工に要する時間は長くならない。
【0033】
このように、上記の微細構造形成方法を用いることにより、PLLAからなる微細構造体を形成することができる。
【0034】
上記の微細構造形成方法は、PLLAに限らず、他の生分解性プラスチック材料に対しても同様に適用ができる。ポリカプロラクトン(PCL)に対して同様の実験を行った結果を以下に説明する。第5の比較例においては、PCL(商品名:セルグリーンPH7、分子量75000、ガラス転移点−60℃、融点約60℃、ダイセル化学工業社製)のシートを用いた図3と同様の加工を行い、本発明の第3の実施例においては、PCL(厚さ140〜160nm)に対して上記の微細構造形成方法を適用した。第5の比較例においては、Gaイオン加速電圧を30kV、ビーム径を100nmφ(FWHM)、ビーム電流を1.3nAとした。第3の実施例においては、PCLを3重量%でクロロホルムで希釈した塗布液を用いた回転塗布法により600nmの厚さの薄膜層を形成し、ビーム径を35nmφ、ビーム電流を189pAとした。第5の比較例の表面のSEM写真を図11に、本実施の第3の実施例の表面のSEM写真を図12に示す。
【0035】
第5の比較例においては、エッチングの不均一性や再付着物が見られるのに対して、本発明の第3の実施例においては、良好な加工が実現できている。すなわち、上記の微細構造形成方法は、PCLに対しても有効である。
【0036】
同様に、ポリブチレンサクシネート・アジベート重合体(PBSA)に対して同様の実験を行った結果を以下に説明する。第6の比較例においては、PBSA(商品名:ビオノーレ#3001、重量分子量179000、ガラス転移点−45℃、融点約95℃、昭和高分子社製)のシートを用いて図3と同様の加工を行い、本発明の第4の実施例においては、PBSA(厚さ130〜160nm)に対して上記の微細構造形成方法を適用した。第6の比較例においては、Gaイオン加速電圧を30kV、ビーム径を100nmφ(FWHM)、ビーム電流を1.3nAとした。本発明の第4の実施例においては、PBSAを3重量%でクロロホルムで希釈した塗布液を用いた回転塗布法により600nmの厚さの薄膜層を形成し、ビーム径を35nmφ(FWHM)、ビーム電流を190pAとした。第6の比較例の表面写真を図13に、本発明の第4の実施例の表面写真を図14に示す。
【0037】
第6の比較例においては、エッチングの不均一性や再付着物が見られるのに対して、本発明の第4の実施例においては、良好な加工が実現できている。すなわち、上記の微細構造形成方法は、PBSAに対しても有効である。
【0038】
このように、上記の微細構造形成方法は、耐熱性の低い高分子材料に対して有効である。上記の第1から第4の実施例では、耐熱性の低い高分子材料として、生分解性プラスチックを用いた例について記載したが、耐熱性が低く絶縁性である他の高分子材料についても同様の効果が得られる。
【0039】
また、こうした高分子材料を薄膜化して導電性の基板上に形成するためには、上記の回転塗布法が特に容易であるために好ましいが、これ以外の方法、例えば化学気相成長法や印刷技術等を用いることも可能である。
【0040】
また、上記の実施例では、基板としてシリコン基板を用いていたが、導電性であり、表面に分子材料の薄膜を形成できる基板であれば任意のものを用いることができる。また、形成された微細構造体を必要に応じて基板から容易に分離することのできる材料が好ましい。
【0041】
また、上記の実施例では、FIB加工に用いるイオン種としてGaを用いたが、FIB加工においては、高分子材料はスパッタエッチされるため、スパッタエッチの効率の高い他のイオンを用いることも可能である。例えば、Ar等を用いることもできる。
【符号の説明】
【0042】
11 基板
12 PLLA薄膜層
20 FIB装置
21 試料室
22 ステージ
23 イオンビーム
24 イオンビーム照射機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性の高分子材料からなる構造体を形成する微細構造形成方法であって、
導電性の基板上に、厚さ1μm以下の前記高分子材料からなる薄膜層を形成する薄膜形成工程と、
前記薄膜層に対して、真空中で1nA以下の電流で集束イオンビームを照射して前記薄膜層のエッチング加工を行うことによって、前記構造体を得る加工工程と、
を具備することを特徴とする、高分子材料の微細構造形成方法。
【請求項2】
前記薄膜形成工程において、
前記高分子材料と溶剤とを混合した塗布液を前記基板上に回転塗布することによって前記薄膜層を形成することを特徴とする請求項1に記載の、高分子材料の微細構造形成方法。
【請求項3】
前記高分子材料は、ポリ−L−乳酸(PLLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンサクシネート・アジベート重合体(PBSA)のいずれかを主成分とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の、高分子材料の微細構造形成方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の高分子材料の微細構造形成方法によって製造されたことを特徴とする微細構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−184626(P2011−184626A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53172(P2010−53172)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(505374783)独立行政法人日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】