説明

高分子材料の耐塩素性評価方法とその評価装置

【課題】高分子材料を直接測定することなく定量的かつ連続的に試験を実施して高分子材料の耐塩素性を正確に評価できる高分子材料の耐塩素性評価方法とその評価装置を提供する。
【解決手段】高分子材料13を所定容積の収納部2に収納した状態で所定濃度の塩素系水溶液11に浸漬させ、所定時間ごとに前記収納部2内の水溶液11を交換し、その交換時の水溶液11ごとに遊離残留塩素濃度を検出部3により連続的に測定し、その測定結果より高分子材料13の耐塩素性を評価するようにした高分子材料の耐塩素性評価方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム材料等の高分子材料の耐塩素性評価方法とその評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、高分子材料の一つであるゴム材料は、給水機器のOリングやパッキン、ガスケットなどのシール部材として多く利用されている。ゴム材料を給水機器関連のシール部材として用いたときには、水道水中に含まれる遊離残留塩素による酸化力によってこのゴム材料が劣化しやすくなっている。ゴム材料が劣化すると、ゴム材料の強度が弱くなりこのゴム材料に通常含有されている強度向上用のカーボンブラックを含む微小ゴム片が離脱して水道水中に混入する、いわゆる、黒粉現象(墨汁現象)が生じることがある。特に、ゴム材料が、弁棒のOリングやバタフライ弁のシートラバー等の摩擦を繰り返す動的シール部材を成している場合、耐久性が必要になるためより高い耐塩素性能が要求されている。このため、この種の動的シール部材を含んだゴム材料等の高分子材料は、静的シール部材に比べて、耐塩素性試験によって評価されることが多い。
【0003】
耐塩素性試験としては、先ず、ゴム材料を所定の形状の試験片に加工し、この試験片の劣化を加速させるために、一般的に次亜塩素酸ナトリウム水溶液に試験片を浸漬させる。そして、この浸漬の前後に各試験片の引張強度試験、引張伸び試験、モジュラス(所定伸び引張応力)試験を実施する場合がある。これらの試験は破壊試験であるため、予め必要数の試験片を準備して全ての試験片を浸漬させる必要がある。また、試験中においては、試験片の硬度、重量変化率(給水率の変化)、比重変化率、外観変化を測定する場合があり、更に、外観変化として、試験片の表面を適宜の力により綿棒で擦り取ってこの綿棒に付着した黒色析出物の量により外観変化を判断する、いわゆる綿棒試験や、或は、電子顕微鏡により表面を観察によって試験することがある。このうち、綿棒試験は、比較的試験の結果を判断しやすいことや試験中の変化を連続的に確認しやすいことから工業会や学会などでは一般的な試験方法として用いられることが多くなっている。
【0004】
一方、耐塩素性試験として、試験片を浸漬させた水溶液の色の変化を目視により測定することもある。例えば、上述した黒粉現象は、この目視の測定試験により色の濃さが数段階に分けられた判断基準と比較されて評価される。図6においては、試験片をJIS K 6251に準拠されるダンベル形状に設け、これを2種類の濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸漬させたときに水溶液の色が変化した状態を表している。
【0005】
この種の耐塩素性試験として、例えば、特許文献1に記載された高分子材料評価方法が提案されている。この高分子材料評価方法は、高分子材料を遊離塩素を含む試験液に接触させ、高分子材料の表面のクラックの経時的変化によって高分子材料の耐塩素水性を評価するものである。
特許文献2においては、耐塩素性ゴム組成物が開示されており、この中でゴム組成物の耐塩素性の評価試験として、ゴム試験片のカーボン含有物離脱評価試験と、浸漬液の目視による汚濁評価試験が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−351768号公報
【特許文献2】特許第4082978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した耐塩素性試験や特許文献1、2における試験においては、試験片の引張強度試験、引張伸び試験、モジュラス試験を実施するときに、試験前後の測定用として複数の試験片が必要になるため試験回数が制限され、試験回数を増やすために大量の試験片が必要になっている。しかも、この試験方法は、試験結果の誤差も大きくなりやすいため、一度の試験ごとにより多くの試験片が必要になる。
更に、試験片をその都度試験装置から取り出して各種試験を実施したり、試験片の浸漬による塩素水濃度の低下を防ぐために水溶液の濃度を保つ必要もあって手間がかかっていた。
【0008】
また、試験中において試験片の硬度を測定する場合にも、その試験の特性上、誤差が大きくなりやすい。更に、通常、試験片の形状は規定されており、例えば、JIS規格における試験方法では試験片がダンベル形状に規定されているため、この形状以外の実際に使用されているOリングなどを測定することは事実上困難になっている。重量変化率や比重変化を測定する場合には、その試験の特性上、微少の差を測定することしかできず、長時間の浸漬により試験片が脱落したり欠損した場合には、その測定結果に大きな測定誤差が発生するおそれがある。綿棒試験で測定したり、外観変化を観察する際には、その判定手段が目視による段階評価であるため測定者ごとのバラツキが大きくなって誤差が生じるともに、観察に時間がかかっていた。
【0009】
しかも、一般的に利用される綿棒試験の試験結果と、引張強度、引張伸び、モジュラス試験などの定量評価が可能な試験結果との間には相関性が認められず、実際には、これらの試験結果より耐塩素性を正確に評価しているとは言い難い。例えば、綿棒試験における黒色析出物の付着量が少ない場合でも引張強度等の強度が弱くなったり、或は、強度が強い場合でも黒色析出物の付着量が多くなることがある。その理由としては、カーボンブラックを含有したゴム材料は、粒径の大きいカーボンブラックを含有させるとカーボンが析出し難くはなるが強度が弱くなり、一方、粒径の小さいカーボンブラックを含有させると黒粉が発生し易くはなるが強度が強くなるという、相反する特性を有しているからである。
【0010】
試験片を浸漬させた水溶液の色の変化を測定する試験では、この測定を目視により判定しているためにその測定結果が曖昧であり、その結果を定量的に判断することが難しくなっている。例えば、図6において、異なる試験片を浸漬させた水溶液A、Bの時間経過に伴う色の微妙な濃淡差を定量的に判断することはできない。しかも、この試験方法では、カーボンブラックを含有しないゴム材料を試験することが難しい。
これらのことより、高分子材料の耐塩素性を直接測定する試験方法は信頼性が低く、何れの試験の場合でも試験片の耐塩素性を正確に判断することが難しくなっている。このため、特に、動的シール部材等のより厳しい条件下で使用されるシール材料をこれらの試験で評価することは好ましいことではない。
【0011】
本発明は、上記した実情に鑑み、鋭意検討の結果開発に至ったものであり、その目的とするところは、高分子材料を直接測定することなく定量的かつ連続的に試験を実施して高分子材料の耐塩素性を正確に評価できる高分子材料の耐塩素性評価方法とその評価装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明は、高分子材料を所定容量の収納部に収納した状態で所定濃度の塩素系水溶液に浸漬させ、所定時間ごとに収納部内の水溶液を交換し、その交換時の水溶液ごとに遊離残留塩素濃度を検出部により連続的に測定し、その測定結果より高分子材料の耐塩素性を評価するようにした高分子材料の耐塩素性評価方法である。
【0013】
請求項2に係る発明は、水溶液の遊離残留塩素濃度をジエチル−p−フェニレンジアミン法により測定した高分子材料の耐塩素性評価方法である。
【0014】
請求項3に係る発明は、高分子材料を個別に収納し、各高分子材料を水溶液に浸漬させて一度に複数の高分子材料の耐塩素性を評価するようにした高分子材料の耐塩素性評価方法である。
【0015】
請求項4に係る発明は、高分子材料の浸漬時間と水溶液の遊離残留塩素濃度の測定値との関係を回帰分析し、この回帰分析結果より耐塩素性を評価するようにした高分子材料の耐塩素性評価方法である。
【0016】
請求項5に係る発明は、高分子材料を収納し、かつ、この高分子材料を浸漬させる塩素系水溶液を交換可能に収納する所定容量の収納部と、高分子材料を浸漬した水溶液の遊離残留塩素濃度を連続的に測定する検出部と、この検出部による測定結果から高分子材料の耐塩素性を評価する制御部とを有する高分子材料の耐塩素性評価装置である。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明によると、高分子材料を所定容量の収納部に収納した状態で塩素系水溶液に浸漬させ、この水溶液の交換時ごとに遊離残留塩素濃度を連続的に測定することにより高分子材料の耐塩素性を評価しているので、高分子材料の耐塩素性を直接測定することなく水溶液を定量的かつ連続的に試験して、高分子材料の耐塩素性を正確に評価できる。このため、測定用の高分子材料を余分に必要とすることがなく、少ない手順で簡単に遊離残留塩素濃度を測定することができる。更には、製品などに装着されているOリング等の製品形状の高分子材料をそのまま試験片にできるため手順を簡略化でき、かつ、実際の使用状態に近い条件下で評価することができる。
【0018】
請求項2に係る発明によると、一般的に利用されている水溶液の測定方法を利用して遊離残留塩素濃度測定でき、高分子材料の劣化状態を定量的に測定して人為的な誤差を最小限に抑えつつ、試験回数を制限することなく評価可能である。
【0019】
請求項3に係る発明によると、材質や形状の異なる高分子材料の耐塩素性を同時に評価でき、設備を簡略化しながら短時間で一度に多種類の高分子材料を評価できる。
【0020】
請求項4に係る発明によると、測定値を回帰分析によりグラフ化することで浸漬時間と残留塩素濃度と関係を導き出すことができ、高分子材料ごとの耐塩素性の評価が容易となる。更には、測定時以降の浸漬時間と残留塩素濃度との関係をグラフ化できるため、高分子材料の寿命予測が可能となる。
【0021】
請求項5に係る発明によると、収納部と検出部と制御部とにより塩素性水溶液を測定して高分子材料の耐塩素性を評価できるため、高分子材料を直接測定することなく定量的かつ連続的に試験を実施して高分子材料の耐塩素性を正確に評価できる。しかも、設備全体を簡略化して小型化でき、試験時においては、測定用の高分子材料を余分に必要とすることなく、少ない手順で簡単に遊離残留塩素濃度を測定することができる装置である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明における高分子材料の耐塩素性評価方法の実施形態のフローチャートである。
【図2】耐塩素性評価装置の模式図である。
【図3】耐塩素性評価装置の一例を示した概略図である。
【図4】残留塩素濃度の測定結果を示したグラフである。
【図5】綿棒試験の結果を示した写真である。
【図6】耐塩素試験における水溶液の色の変化を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明における高分子材料の耐塩素性評価方法とその評価装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1においては、本発明の高分子材料の耐塩素性評価方法のフローチャートを示しており、図2は、耐塩素性評価装置の模式図を示している。便宜上、先ず、耐塩素性評価装置を説明する。
【0024】
図2において、評価装置本体(以下、装置本体という)1は、少なくとも収納部2と、検出部3と、制御部4とを有し、本実施形態では、更に、これらに加えて入力部5、入力装置6、表示部7、表示装置8を備えている。収納部2は、適宜の形状に形成された収納容器10を複数有し、この収納容器10は、所定濃度の塩素系水溶液(以下、水溶液という)11が蓄積された後述する図3の水溶液タンク12から並列に繋がっている。
【0025】
収納容器10は、その内部に高分子材料13を個別に収納可能であり、かつ、水溶液タンク12から水溶液11が送られたときにこの水溶液11を収納して高分子材料13を浸漬させるようになっている。この収納容器10内に収納される水溶液11は、必要に応じて交換可能になっており、この水溶液11としてはフリーラジカルを有する液体であればよく、好ましくは塩素水である次亜塩素酸ナトリウム水溶液が用いられる。水溶液11の濃度は、一般的に規定されている水道水の塩素濃度である0.1〜1ppm以上である1〜500ppmの条件に設定され、その濃度は一定に保たれている。
一方、高分子材料13は、基本となる分子(モノマー)が共有結合でつながった鎖状の分子を有する高分子の材料である。高分子材料13としては、任意の種類のものを用いることも可能であるが、本例の高分子材料は、カーボン成分を含有した給水機器用のOリング等のゴム材料から成っている。
【0026】
検出部3は、収納容器10内の水溶液11の状態を測定可能に収納容器10に繋がっており、図示しない濃度センサを有している。濃度センサは、高分子材料13を浸漬した後の水溶液11の遊離残留塩素濃度をその交換前に測定可能になっている。また、この検出部3は、濃度センサ以外にも、図示しないpHセンサ、温度センサ、流量センサ、液量センサ、圧力センサと、タイマーを有しており、図示しないCPU(中央処理装置)によりタイマーによって所定時間ごとに水溶液11のpH、温度、流量、液量、圧力を測定する検出機能を有している。このうち、濃度センサ、pHセンサ、温度センサ、液量センサ、圧力センサ、タイマーは、水溶液11の状態を管理する上で必要であり、流量センサは、連続的に水溶液11を流しながら試験を実施する場合に必要となり、実施に応じて任意である。
【0027】
制御部4は、検出部3に繋がっており、この検出部3の各センサやタイマーを制御可能で、入力部5、表示部7とともに図示しないパソコン(パーソナルコンピュータ)本体を成す図示しないCPU、メモリ、ハードディスク等の構成部品により設けられる。この制御部4は、CPUにより検出部3で測定された各種の測定結果のデータ(測定データ)と実際の使用環境から収集したデータ(収集データ)とを蓄積する蓄積機能と、各種測定データより高分子材料13の耐塩素性を評価するための演算機能とを有している。
【0028】
制御部4に蓄積される測定データとしては、濃度センサによる濃度データ、pHセンサによるpH条件のデータ、温度センサによる温度条件のデータ、流量センサによる流量条件のデータ、液量センサによる液量データ、タイマーによる浸漬時間のデータ、圧力センサによる圧力条件のデータなどがある。一方、演算機能によってなされる演算としては、高分子材料13の浸漬時間と水溶液11の遊離残留塩素濃度の測定データとの関係を回帰分析したり、この回帰分析の結果をグラフ化する演算や、回帰分析の結果より耐久性を算出する演算や、測定データと収集データとを比較して寿命を求める演算がある。これにより、制御部4は、検出部3による各種の測定データから高分子材料13の耐塩素性を評価することが可能になっている。ここで、寿命とは、高分子材料に黒粉現象や墨汁現象が発生するまでの期間を指す。
【0029】
入力部5は、制御部4と繋がっており、この入力部5に接続されたキーボード等の入力装置6から各種の情報が入力されて制御部4に蓄積される。この情報としては、濃度、pH、温度、流量、浸漬時間、圧力などの収集データや、遊離残留塩素濃度の測定データから回帰分析するための演算用や耐久性を評価するときの演算用・寿命予測に際する比較演算用の係数や数式などがある。
表示部7も入力部5と同様に制御部4と繋がっており、表示部7に接続された表示装置であるディスプレイ8に、データを入力する画面や演算結果、グラフなどが表示される。
【0030】
図3においては、図2の評価装置を実際の使用に際してより具体化した一例を示したものである。装置本体1は、前述した各部に加えて、薬液調整部15と水溶液タンク12とを備えている。薬液調整部15と水溶液タンク12は、装置本体1に対して水溶液流路17により接続され、かつ、制御回路18により電気的に接続されている。
【0031】
薬液調整部15は、NaOCl(次亜塩素酸ナトリウム)水溶液を収納する薬液タンク20に加えて、例えば、HO(水)を収納する薬液タンク21、HCl(希塩酸)を収納する薬液タンク22、NaOH(水酸化ナトリウム)水溶液を収納する薬液タンク23と、検知部24とを有し、各薬液タンク20、21、22、23内には、各薬液が高濃度の状態で保存されている。HOは濃度調整のために加えられ、HCl水溶液、NaOH水溶液は、pH調整のために加えられる。市販されているNaOCl水溶液は、例えば、50000ppm程度の高濃度状態であるため、必要に応じて、このように溶液成分の調整が実施される。
【0032】
薬液タンク20、21、22、23は、水溶液流路17によって水溶液タンク12に合流した状態で接続されている。検知部24は、この合流部位に設けられ、各薬液タンク20、21、22、23と検知部24とは水溶液流路17と制御回路18とにより接続されている。各薬液タンク20、21、22、23には、薬液を検知部24に送り出すためのポンプ25、26、27、28がそれぞれ設けられている。
【0033】
検知部24は、検出部と同様に、図示しない濃度センサと、pHセンサ、温度センサ、流量センサ、液量センサ、圧力センサ、タイマーとを有し、タイマーによって所定時間ごとに水溶液11の各測定データを測定可能になっている。これにより、薬液調整部15は、薬液タンク20、21、22、23から水溶液タンク12に薬液を管理しながら供給する。このとき、検知部24は、制御部4により制御される。各センサの要否は、検出部3と同様である。
水溶液タンク12には、薬液タンク20、21、22、23からの薬液が混合された水溶液11が所定の管理状態で蓄積される。水溶液タンク12には、図示しないマントルヒーターが設けられ、このマントルヒーターにより水溶液11を所定温度に保温している。
【0034】
水溶液タンク12は、ポンプ29と弁30とを介して水溶液流路17により収納部2に接続されている。本例における収納部2は、3つの収納容器10を有し、更に、図示しない保温ヒーターにより水溶液11を保温可能になっている。収納部2には、制御回路18により検出部3が接続され、この検出部3により、収納容器10内の水溶液11の濃度などの測定データが検出される。検出部3は、前述したように制御部4に接続されてこの制御部4により制御される。検出部3の2次側には排出流路31が設けられ、この排出流路31を介して測定後の水溶液11が外部に排出される。
【0035】
上述した試験装置は、あくまでも一例であって、収納部2、検出部3、制御部4を備え、収納部2が、所定の容積になっており、高分子材料13を所定量の水溶液11で浸漬させながら収納可能であるとともに水溶液11を交換可能であり、検出部3が、水溶液11の交換ごとにその遊離残留塩素濃度を連続的に測定可能であり、制御部4が、この測定結果から高分子材料13の耐塩素性を評価可能であれば、その態様は実施に応じて任意である。
【0036】
高分子材料13はゴム材料以外であってもよく、基本分子が共有結合でつながっている高分子の構造を有する材料であれば、例えば、熱可塑性エラストマー材料や樹脂材料などであってもよい。また、高分子材料13を浸漬させる液体を塩素系の水溶液13以外としてもよく、例えば、過酸化水素、オゾン、過酸類、過酸塩類、次亜ハロゲン酸類、次亜ハロゲン酸塩類等のようなフリーラジカルを有する酸化剤を適宜使用することもできる。この際にも、塩素系水溶液13により耐塩素性を評価する場合と同様に、溶液中のイオン濃度や酸濃度などを測定することにより、ゴム材料などの高分子材料の耐酸化性を評価できる。
【0037】
次に、上述した評価装置による高分子材料の耐塩素性評価方法を述べる。図1には、本発明の高分子材料の耐塩素性評価方法の実施形態のフローチャートを示している。この実施形態では、水溶液供給工程S1、高分子材料の浸漬工程S2、浸漬時間確認工程S3、遊離残留塩素濃度の測定工程S4、水溶液の排出工程S5、測定回数確認工程S6、耐塩素性の評価工程S7を有している。
【0038】
図3において、収納部2の各収納容器10内には、予め各種の形状のゴム材料からなる高分子材料13が別々に収納されている。
水溶液供給工程S1において、装置本体1を動作させると、薬液タンク20、21、22、23に収納されているNaOCl水溶液、HO、HCl水溶液、NaOH水溶液がポンプ25、26、27、28により水溶液流路17を介して水溶液タンク12に送られる。このとき、各薬液は、制御部4の濃度センサによりその濃度が管理されながら所定量供給される。薬液のうち、NaOCl水溶液は、高分子材料13の耐塩素性を評価するために必須となるが、残りの水溶液の供給量は任意に設定できる。
【0039】
水溶液タンク12内の水溶液11と薬液タンク20、21、22、23内の薬液は、濃度、pH、温度などが各種センサによって測定されてこれらの数値が制御部4により管理される。これにより、水溶液タンク12内の水溶液11の濃度等が所定の値に制御される。
【0040】
続いて、高分子材料の浸漬工程S2において、水溶液タンク12内の水溶液11が水溶液流路17を介して高分子材料13に対して供給され、これにより、各収納容器10内の高分子材料13が浸漬される。
【0041】
高分子材料13の浸漬時には、この高分子材料13が収納容器10内の水溶液11の量に対して所定の表面積になるように、「高分子材料の表面積(cm):水溶液の量(mL)」を適切な値に設定する必要がある。本実施形態においては、JIS K 62513号ダンベル片×3本分(116cm)を水溶液500mLに浸漬させ、232cm/Lからなる表面積/水溶液の量の比としているが、この比以外にも、例えば、68cm/Lの表面積/水溶液の量の比とすることもでき、この比は、特定の値に限定されることなく所定の範囲内であればよい。この場合、表面積を収集データと比較可能な面積に設ければ、その形状には拘ることはないため、ダンベル形状以外の任意の形状とすることも可能となる。
【0042】
そのため、水溶液11の量に対する表面積を特定すれば高分子材料13は任意の形状であればよく、製品等に使用されているOリングやパッキン、ガスケット等のシール部材や既存の試験片はもとより、断片部分等の特定の形状でない高分子材料を用いることもできる。更に、高分子材料13の表面積と水溶液11の量の比により条件を統一できるので、例えば、これらの比が同じ板状の試験片とOリングの耐塩素性を比較することが可能になる。この比は、高分子材料13の種類ごとに適宜の値に設定される。
【0043】
浸漬時間確認工程S3において、収納容器10の水溶液11は、浸漬時間が確認されながら設定した浸漬時間に達するまで浸漬される。このときの浸漬時間としては、例えば、24時間が好ましい。入力部5には入力装置6より予め水溶液11の供給・排出サイクルが入力され、水溶液11は、所定時間が経過するまで収納容器内10に蓄積されている。
【0044】
浸漬時間が所定時間に達すると、遊離残留塩素濃度の測定工程S4において、検出部3の各種センサにより各高分子材料13を浸漬した水溶液11の遊離残留塩素濃度等が検出部3により別々に測定される。この際、高分子材料13の状況等は、収集データとして入力装置6より入力部5に事前に入力されている。このようにして、各収納容器10に収納された高分子材料13ごとに耐塩素性等が確認され、一度に複数の高分子材料13の測定が実施される。
測定が終了すると、水溶液の排出工程S5において、収納容器10から水溶液11が排出される。
【0045】
上記の測定は、測定回数確認工程S6においてカウントされ、この測定回数が予め設定した測定回数に対して未到達の場合、再度、水溶液の供給工程S1〜水溶液の排出工程S5までの工程が繰り返しおこなわれることで水溶液の濃度等が連続的に測定され、所定の測定回数に到達するとその測定を終了する。
続いて、耐塩素性の評価工程S7において、連続して測定した測定結果より耐塩素性が評価される。
【0046】
上記のように、本発明の評価方法は、高分子材料13を所定容量の収納部2(収納容器19)に収納した状態で所定濃度の水溶液11に浸漬させ、所定時間ごとにこの水溶液11を交換し、その交換時の水溶液11ごとに遊離残留塩素濃度を連続的に測定し、この測定結果より高分子材料13の耐塩素性を評価する。この測定結果より、例えば、所定の浸漬時間において異なる高分子材料13の遊離残留塩素濃度を比較したり、浸漬時間の経過に対する残留塩素濃度の低下割合を高分子材料13ごとに比較したりすることで、高分子材料13の耐塩素性を評価できる。例えば、所定の浸漬時間に対して遊離残留塩素濃度が高い場合には高分子材料13が塩素を吸着したり分解しなかったと判断し、この高分子材料13の耐塩素性は高いと評価できる。
【0047】
このとき、水溶液11の遊離残留塩素濃度は、ジエチル−p−フェニレンジアミン法(DPD法)により測定される。DPD法は、水溶液11にジエチル−p−フェニレンジアミンの試薬を混合させ、その色の濃淡より遊離残留塩素濃度を算出する検査の方法であり、既製の比色式又はデジタル式などの図示しない測定器を用いて遊離残留塩素濃度を容易にかつ正確に測定できる。
【0048】
検出部3と検知部24で収集した測定データは制御部4に送られ、高分子材料13の浸漬時間に対する水溶液11の遊離残留塩素濃度が一定期間収集される。収集された測定データは、パソコンのCPUによって、例えば対数演算により回帰分析され、図4に示すようにグラフ化される。このように高分子材料13ごとに浸漬時間と残留塩素濃度との関係をグラフ化することで耐塩素性が定量化される。
【0049】
この場合には、グラフの回帰曲線・測定データと収集データとを比較演算し、高分子材料13の寿命を予測することも可能である。その際、実際の現場で使用されている水道配管などから得られる実測寿命を入力装置6から入力しておき、これを寿命計算の補正値として使用するのがよい。作業者は、評価結果や、前記の測定データや収集データ、及び評価時における各種の状況を、ディスプレイ8を視認することで確認できる。
【0050】
上述したように、本発明の高分子材料の耐塩素性評価方法は、高分子材料13を浸漬させた溶媒である水溶液11を測定しているため、高分子材料13の試験片を直接測定することがなく、大量の高分子材料の試験片を必要としたり、試験片による誤差やバラツキが生じることがない。更には、試験回数が制限されることがないため、手間がかからない。この評価方法によると、所定時間ごとに交換した水溶液11を用いて耐塩素性を評価しているので、定量的かつ連続的に試験を実施でき、しかも、遊離残留塩素濃度を数値として測定することで信頼性も高く、このため、高分子材料13の耐塩素性を正確に評価できる。
【0051】
しかも、本発明の評価方法は、綿棒試験とも高い相関性を有し、ゴム材料に対してカーボンブラックの配合割合を変えたときの耐塩素性の優位性を、遊離残留塩素濃度の数値の違いから定量的に確認できる。例えば、フィラー(補強剤)を5phr(重量部)、10phr、15phrでベースであるゴム材料に配合する場合、綿棒試験では、その配合量による性能差が把握し難く、最適な添加量を特定することが難しくなるが、本発明の評価方法によると、綿棒試験と同様の耐塩素性の結果が得られつつ、フィラー配合量の最適値を迅速に確認することもできる。
【0052】
高価なフィラーをゴム材料に配合する際に、僅かな添加量の違いによりゴム材料の特性が大きく変化したり小さく変化したりする場合があり、この特性の変化が僅かな場合でも、老化防止剤やその他の添加剤との相互作用によりゴム材料として大幅に性能が向上することがある。本発明の評価方法によると、上記のことから、綿棒試験と比較してこの僅かな優位性も把握しやすくなるため、高分子材料の耐塩素性を評価する方法としてより正確性が向上すると共に、試験を実施するときの速さも向上する。
【実施例】
【0053】
次に、本発明の高分子材料の耐塩素性評価方法と綿棒試験とにより、カーボンブラックの配合割合の異なるゴム製シール材料をそれぞれ評価し、その結果を比較した。図4、5において、比較品1は、比較的粒径の小さいカーボンブラックが配合されたゴム製シール材料であり、比較品2は、比較的粒径の大きいカーボンブラックであり、供試品1〜3は、比較品1、2よりも耐塩素性が高いカーボン材料が配合されたゴム製シール材料からなっている。この比較品1、2と供試品1〜3に対して前述した評価方法と綿棒試験を実施した。綿棒試験としては、同じ材質の綿棒を用い、この綿棒を45°の角度で比較品1、2と供試品1〜3とに当て、100Nの力でそれぞれに対して3回、同じ距離を擦るようにした。
【0054】
図4においては、本発明の評価方法により、浸漬時間に対する遊離残留塩素濃度の測定値をプロットし、各プロット点より対数回帰分析し、その対数回帰曲線を記したグラフを表している。このグラフに示すように、供試品1〜3における遊離残留塩素濃度は、比較品1、2よりも高く、耐塩素性が高いことを対数回帰曲線により容易に確認することができる。このように、評価方法を対数回帰曲線で表した場合、高分子材料の耐塩素性を容易に比較することが可能となる。
【0055】
一方、図5においては、綿棒試験の結果を示している。図より、供試品1〜3を擦った綿棒には、比較品1、2を擦った綿棒よりもカーボンの付着量が少なく、これにより、供試品1〜3は、比較品1、2に比較して耐塩素性が高いことが示されている。
これらのことより、本発明の評価方法と綿棒試験との結果には高い相関性があることが確認された。更に、本発明の評価方法と綿棒試験との試験結果を比較すると、図4では各高分子材料の耐塩素性が対数回帰曲線により定量的かつ連続的に示されているのに対して、図5では、各高分子材料のカーボンの付着具合を目視によって確認しなければならなくなっている。このため、綿棒試験は、同じ試験時間における供試品同士や比較品同士の比較がし難く、同一の供試品や比較品の試験時間に対するカーボンの付着の増加の度合いも確認し難いと言える。この結果より、本発明の評価方法は、綿棒試験に対して優位性があることが確認された。
【符号の説明】
【0056】
1 装置本体
2 収納部
3 検出部
4 制御部
10 収納容器
11 塩素系水溶液
13 高分子材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料を所定容量の収納部に収納した状態で所定濃度の塩素系水溶液に浸漬させ、所定時間ごとに前記収納部内の水溶液を交換し、その交換時の水溶液ごとに遊離残留塩素濃度を検出部により連続的に測定し、その測定結果より前記高分子材料の耐塩素性を評価するようにしたことを特徴とする高分子材料の耐塩素性評価方法。
【請求項2】
前記水溶液の遊離残留塩素濃度をジエチル−p−フェニレンジアミン法により測定した請求項1に記載の高分子材料の耐塩素性評価方法。
【請求項3】
前記高分子材料を個別に収納し、各高分子材料を前記水溶液に浸漬させて一度に複数の高分子材料の耐塩素性を評価するようにした請求項1又は2に記載の高分子材料の耐塩素性評価方法。
【請求項4】
前記高分子材料の浸漬時間と前記水溶液の遊離残留塩素濃度の測定値との関係を回帰分析し、この回帰分析結果より耐塩素性を評価するようにした請求項1乃至3の何れか1項に記載の高分子材料の耐塩素性評価方法。
【請求項5】
高分子材料を収納し、かつ、この高分子材料を浸漬させる塩素系水溶液を交換可能に収納する所定容量の収納部と、前記高分子材料を浸漬した水溶液の遊離残留塩素濃度を連続的に測定する検出部と、この検出部による測定結果から前記高分子材料の耐塩素性を評価する制御部とを有することを特徴とする高分子材料の耐塩素性評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−203198(P2011−203198A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72864(P2010−72864)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(390002381)株式会社キッツ (223)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】