説明

高分子材料成形品、機械部品、転がり軸受及びプーリ

【課題】酸素,水蒸気等のガスが侵入しにくく寸法変化や劣化が生じにくい高分子材料成形品を提供する。また、少なくとも一部分が高分子材料で構成されているにもかかわらず、高信頼性で長寿命な機械部品、転がり軸受及びプーリを提供する。
【解決手段】樹脂製プーリ10は、転がり軸受11と樹脂部12とからなる。樹脂部12は、高分子材料の射出成形により形成され、転がり軸受11の外輪2の外周面に一体的に取り付けられている。このような樹脂製プーリ10の樹脂部12の表面には、酸素,水蒸気等のガスの侵入を抑制するガスバリア性に加えて、柔軟性及び耐熱性を有する粘土膜が被覆されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子材料を成形してなる高分子材料成形品、並びに、少なくとも一部分が高分子材料で構成された機械部品、転がり軸受及びプーリに関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受に組み込まれる樹脂製の保持器は、熱、潤滑油、グリース等の様々な影響を受ける環境下で使用されているため、徐々に劣化を進行させながら使用されている。よって、劣化の進行を遅らせるために、その使用温度,使用環境等によって、材料である樹脂の種類が決定される。従来、一般的に使用されている樹脂としては、ガラス繊維や炭素繊維で強化されたポリアミド66,ポリアミド46,ポリフェニレンサルファイド,ポリエーテルエーテルケトン等があげられる。これらの樹脂の中では、ガラス繊維で強化されたポリアミド66が、適度な耐熱性,強度特性,コストのバランスから、最も多く使用されている。
【0003】
ただし、ポリアミド66が十分に使用可能な温度環境であっても、ポリアミド66の化学構造中に存在するアミド結合に攻撃性を有する薬剤によって影響を受けるような環境下で転がり軸受が使用される場合には、ポリアミド66よりも耐薬品性に優れるポリフェニレンサルファイド,ポリエーテルエーテルケトン等が保持器の材料として使用されることがあった。しかしながら、ポリフェニレンサルファイドやポリエーテルエーテルケトンは高価であるため、これらの樹脂を保持器の材料として使用することは、転がり軸受全体のコストの上昇につながっていた。
【0004】
また、一般的にポリアミド66等のポリアミド系樹脂(特にガラス繊維強化品) は、靱性の向上や吸水寸法変化の抑制を目的として、一定量の水分を意図的に含有させる調湿処理が施されている。しかしながら、このポリアミド系樹脂中に吸収された水分は、転がり軸受の回転による遠心力や温度上昇で、保持器外へ排出されるため、それによって寸法変化が起こり、何らかの不具合が生じるおそれがあった。
このような背景から、樹脂製の保持器の表面に、ガスバリア性を有する被膜を設けて、寸法変化の原因となる水分や劣化の原因となる酸素、油成分などの外的因子の侵入を抑制した、高信頼性で長寿命な転がり軸受が提案されている。
【0005】
ガスバリア性を有する被膜は、有機材又は無機材をベースとして使用しており、有機材又は無機材のみで構成される被膜、有機材と無機材の複合被膜、有機材と無機材を積層させた被膜があげられる。具体的には、例えばダイヤモンドライクカーボン,シリコン粒子の蒸着被膜のような無機材料製の被膜や、例えばエチレンビニル共重合体,ポリ塩化ビニリデンの被膜のような有機材料製の被膜があった。
【0006】
一方、自動車のエンジン補機類を駆動するベルトの案内用プーリとして、転がり軸受の外周に樹脂部を一体成形してなる樹脂製プーリが、従来から採用されている。この樹脂製プーリにおいては、ベルトを案内する樹脂部の外周部の成形精度、ベルトの張力に耐える強度特性、連続負荷使用による高温に対する耐熱性、及び耐塩化カルシウム性(耐薬品性)等が要求される。
【0007】
そこで、上記のような成形精度,強度特性,耐熱性,及び耐塩化カルシウム性を向上させるため、樹脂材料として、ガラス繊維を15〜40質量%程度配合した強化ポリアミド66、強化ポリアミド610、強化ポリアミド612、或いは、ポリフェニレンサルファイドとミネラルの複合材料や、ポリアミド6,ポリアミド66,ポリアミド11,ポリアミド12等のポリアミド樹脂を用いた樹脂製プーリが提案されている(例えば特許文献1,2を参照) 。
【0008】
また、特許文献3には、耐熱性,強度特性,及び耐塩化カルシウム性をバランス良く有する、ポリアミド66,ポリアミド612,及びガラス繊維からなるポリアミド樹脂組成物を用いた樹脂製プーリが提案され、実用化されている。
さらに、特許文献4には、耐熱性,強度特性,及び耐塩化カルシウム性のバランスをより一層向上させた、ポリアミド66,非晶性芳香族ポリアミド,低吸水性ポリアミド,及びガラス繊維からなるポリアミド樹脂組成物を用いた樹脂製プーリが提案され、実用化されている。
【0009】
しかしながら、上記のような耐熱性,強度特性,及び耐塩化カルシウム性を併せ持つ樹脂製プーリは、ポリアミド66以外に、高価な低吸水性ポリアミドを使用しているので、樹脂組成物が高コストであった。また、低吸水性ポリアミドを使用しているため耐塩化カルシウム性は向上しているものの、耐熱性及び強度特性は、ポリアミド66のみを使用したものよりも低かった。そのため、長期間にわたる使用によって、樹脂製プーリに何らかの不具合が発生するおそれがあった。
【0010】
このような背景から、樹脂製プーリの樹脂部の表面に、ガスバリア性を有する被膜を設けて、寸法変化の原因となる水分や劣化の原因となる酸素などの外的因子の侵入を抑制した、高信頼性で長寿命な樹脂製プーリが提案されている。ガスバリア性を有する被膜としては、例えばダイヤモンドライクカーボン,シリコン粒子の蒸着被膜のような無機材料製の被膜や、例えばエチレンビニル共重合体,ポリ塩化ビニリデンの被膜のような有機材料製の被膜があった。
また、高分子材料のガスバリア性を向上させる方法として、スメクタイト,マイカ,タルク,バーミキュライト等種々の粘土をフィラーとして高分子材料中に添加する方法があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3506735号公報
【特許文献2】特許第2838037号公報
【特許文献3】特開2000−2317号公報
【特許文献4】特開2007−232106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記のような無機材料製の被膜は、非常に優れたガスバリア性を有し且つ高温下でもガスバリア性が低下することはないが、柔軟性が低いために亀裂が生じやすく、そこから水分や酸素等の外的因子が侵入するおそれがあった。また、上記のような有機材料製の被膜は、柔軟性は高いものの耐熱性が低いため、低温下で使用される場合は非常に優れたガスバリア性を発揮するものの、高温下では被膜が徐々に劣化してガスバリア性が低下するおそれがあった。
【0013】
さらに、上記のような高分子材料のガスバリア性を向上させるためにフィラーを添加する方法は、高分子材料中に添加剤を分散させるため、ガスバリア性に必要と思われる表面部分だけでなく、高分子材料の内部にも存在することとなり、強度低下を招くおそれがある。さらに、水分散性の高いスメクタイトは親水性であるため、疎水性の高分子材料に対する親和性が低く、そのまま高分子材料に高分散化して複合することが困難である。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、酸素,水蒸気等のガスが侵入しにくく寸法変化や劣化が生じにくい高分子材料成形品を提供することを課題とする。また、少なくとも一部分が高分子材料で構成されているにもかかわらず、高信頼性で長寿命な機械部品、転がり軸受及びプーリを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以上の課題を解決するため、本発明の一態様に係る高分子材料成形品は、高分子材料を成形してなり、水に対する親和性を調整する変性処理を粘土に施してなる変性粘土と高分子物質とからなり且つガスバリア性を有する粘土膜を表面に被覆したことを特徴とする。
また、本発明の一態様に係る他の高分子材料成形品は、高分子材料を成形してなり、水に対する親和性を調整する変性処理を粘土に施してなる変性粘土からなり且つガスバリア性を有する粘土膜を表面に被覆したことを特徴とする。
【0015】
また、上記高分子材料成形品においては、前記変性処理は、前記粘土に第四級アンモニウムカチオン及び第四級ホスホニウムカチオンの少なくとも一方を導入するイオン交換処理、又は、前記粘土にシリル化剤を反応させるシリル化処理であることが好ましい。
さらに、上記の変性粘土と高分子物質とからなる粘土膜を表面に被覆したことを特徴とする高分子材料成形品においては、前記粘土膜中の前記変性粘土の割合が50質量%以上であることが好ましい。
【0016】
また、上記高分子材料成形品においては、前記変性粘土に用いられる粘土が、雲母,バーミキュライト,モンモリロナイト,鉄モンモリロナイト,バイデライト,サポナイト,ヘクトライト,スチーブンサイト,マガディアイト,アイラライト,カネマイト,イライト,セリサイト及びノントロナイトのうちの少なくとも1種であることが好ましい。
さらに、上記高分子材料成形品においては、前記高分子物質が、デキストリン,澱粉,セルロース系樹脂,ゼラチン,寒天,小麦粉,グルテン,アルキド樹脂,ポリウレタン樹脂,エポキシ樹脂,フッ素樹脂,アクリル樹脂,メタクリル樹脂,フェノール樹脂,ポリアミド樹脂,ポリエステル樹脂,イミド樹脂,ポリビニル樹脂,ポリエチレングリコール,ポリアクリルアマイド,ポリエチレンオキサイド,タンパク質,デオキシリボヌクレイン酸,リボヌクレイン酸及びポリアミノ酸のうちの少なくとも1種であることが好ましい。
【0017】
さらに、本発明の一態様に係る機械部品は、少なくとも一部分が高分子材料で構成されており、この高分子材料で構成された部分が、上記の高分子材料成形品であることを特徴とする。
また、上記機械部品は、転がり軸受,直動案内装置,ボールねじ,プーリ,又は電動パワーステアリング装置用ギヤとすることができる。
【0018】
また、本発明の一態様に係る転がり軸受は、内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に転動自在に配設された複数の転動体と、前記転動体を保持し前記内輪と外輪との間に配設された保持器とを備え、前記保持器は、上記の高分子材料成形品であることを特徴とする。
さらに、本発明の一態様に係るプーリは、内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に転動自在に配設された複数の転動体とを備える転がり軸受と、前記転がり軸受の前記外輪の外周面に一体的に取り付けられた樹脂部とを備え、前記樹脂部は、上記の高分子材料成形品であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の高分子材料成形品は、酸素,水蒸気等のガスの侵入を抑制するガスバリア性と柔軟性及び耐熱性とを有する粘土膜を備えているので、寸法変化や劣化が生じにくい。また、本発明の機械部品、転がり軸受及びプーリは、少なくとも一部分が高分子材料で構成されているにもかかわらず、高信頼性で長寿命である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る機械部品の第一実施形態である樹脂製プーリの構造を示す正面図である。
【図2】図1の樹脂製プーリのA−A断面図である。
【図3】本発明に係る機械部品の第二実施形態である円筒ころ軸受の構造を示す部分縦断面図である。
【図4】図3の円筒ころ軸受に組み込まれる保持器の斜視図である。
【図5】第二実施形態の変形例であるアンギュラ玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。
【図6】図5のアンギュラ玉軸受に組み込まれる保持器の斜視図である。
【図7】第二実施形態の別の変形例である深溝玉軸受の構造を示す縦断面図である。
【図8】図7の深溝玉軸受に組み込まれる冠形保持器の斜視図である。
【図9】自動車の電動パワーステアリング装置の構成を示す図である。
【図10】図9の電動パワーステアリング装置のハウジング部分の断面図である。
【図11】本発明に係る機械部品の第三実施形態である電動パワーステアリング装置用減速ギヤの構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る高分子材料成形品及び機械部品の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
本実施形態の高分子材料成形品は、高分子材料を成形してなる高分子材料成形品であって、その表面の少なくとも一部(好ましくは表面全体)に、ガスバリア性を有する粘土膜が被覆されたものである。この粘土膜は、水に対する親和性を調整する変性処理を粘土に施してなる変性粘土のみで構成されていてもよいし、変性粘土及び高分子物質で構成されていてもよい。
【0022】
粘土膜は、酸素,水蒸気等のガスの侵入を抑制するガスバリア性を有しているので、粘土膜が被覆された高分子材料成形品は、酸素による劣化や、吸水による寸法変化が生じにくい。また、水蒸気透過性も低いので、高分子材料成形品が含む水分量が低下しにくい。よって、水分量の変動による寸法変化も生じにくい。さらに、粘土膜は、融雪剤(塩化カルシウム)等の各種薬品に対する耐性が優れているので、粘土膜が被覆された高分子材料成形品は、薬品に起因する不具合が生じにくい。
【0023】
さらに、粘土膜は柔軟性を有しているので、粘土膜に損傷が生じにくくガスバリア性の低下が生じにくい。よって、粘土膜が被覆された高分子材料成形品は、長期間にわたって優れたガスバリア性が維持される。さらに、粘土膜は温度350℃でもガスバリア性、耐薬品性を損なわないことから、粘土膜が被覆された高分子材料成形品は、高温下で使用されても粘土膜が劣化しにくくガスバリア性の低下が生じにくい。
また、粘土膜が変性粘土のみで構成されていると、強固な粘土膜が形成されにくい場合があるが、粘土膜中に高分子物質を含有させると、高分子物質がバインダーの役割を果たすため、強固な粘土膜を形成することが容易となる。
【0024】
ここで、粘土膜について、さらに詳細に説明する。粘土膜に含まれる粘土は変性粘土であり、水に対する親和性を調整する変性処理を粘土に施すことにより得られる。変性粘土を使用することにより、高分子物質を含む粘土膜中に高分散化して複合することが可能となる。例えば、水分散性の高いスメクタイトは親水性であるため、疎水性の高分子物質に対する親和性が低く、高分子物質を含む粘土膜中に高分散化して複合することが困難である。しかし、変性処理により疎水化したスメクタイトを用いることにより、高分散化して複合することが可能となる。
【0025】
変性処理の種類は、粘土の水に対する親和性を調整することが可能であれば特に限定されるものではないが、粘土をイオン交換処理する方法と、粘土をシリル化処理する方法との二種類が好ましい。イオン交換処理による変性処理は、使用する有機カチオンの種類及び粘土への導入割合によって、変性粘土の水に対する親和性を調整することが可能である。また、水に対する親和性の度合いにより、粘土膜を製造する際に使用する溶剤を種々選択できる。
【0026】
イオン交換処理による変性処理は、複数の粘土粒子が配向してなる粘土層同士の層間の交換性無機イオンを有機カチオンに交換する処理であり、この処理により粘土の水に対する親和性を調整することができる。有機カチオンとしては、第四級アンモニウムカチオン、あるいは第四級ホスホニウムカチオンがあげられる。第四級アンモニウムカチオンとしては、特に限定されるものではないが、ジメチルジオクタデシルタイプ、ジメチルステアリルベンジルタイプ、トリメチルステアリルタイプがあげられる。また、類似の有機カチオンとして第四級ホスホニウムカチオンがあげられる。
【0027】
これらの有機カチオンは、原料となる粘土をイオン交換することによって粘土に導入される。このイオン交換は、例えば、大過剰量の上記の有機カチオンを溶解した水に、原料となる粘土を分散して一定時間撹拌し、遠心分離あるいはろ過により固液分離し、水により洗浄を繰り返すことにより行なわれる。これらのイオン交換のプロセスは一回のみの場合もあり、複数回繰り返す場合もある。複数回繰り返すことによって、粘土に含まれるナトリウム、カルシウムなどの交換性無機イオンが有機カチオンによって交換される比率が高くなる。用いる有機カチオン及び交換比率によって変性粘土の水に対する親和性を調整することにより、極性のバリエーションを持たせることができる。また、異なる極性の変性粘土はそれぞれ好適な高分子材料及び好適な溶剤が異なるため、使用する変性粘土に応じて用いる高分子材料及び溶剤を選択する。
【0028】
第四級アンモニウムカチオンの導入に用いられる試薬としては、第四級アンモニウムカチオン塩化物が一般的である。しかし、基材となる高分子材料成形品には塩素の混入を著しく嫌うものがあるため、そのような場合には、第四級アンモニウム塩化物を用いず、塩素を含まない他の試薬を用いることができる。例えば、第四級アンモニウム臭化物、第四級アンモニウムカチオン水酸化物等があげられる。
【0029】
一方、シリル化処理による変性処理は、粘土結晶の末端に存在する水酸基とシリル化剤を反応させる処理であり、この処理により粘土を疎水化することが可能である。使用するシリル化剤の種類及び導入割合によって、水に対する親和性を調整することが可能である。シリル化剤の種類は、特に制限されるものではないが、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシランがあげられる。また、粘土へのシリル化剤の導入方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、原料となる粘土と、この粘土に対して2質量%のシリル化剤を混合し、それらをボールミルにより一時間ミルすることによって製造される。
【0030】
変性粘土であるシリル化粘土の調製に用いられるシリル化剤は、種々のものが市販されており、その中には反応性官能基を有するものがある。例えば、エポキシ基、アクリル基、アミノ基、ハロゲン基などがあげられる。このような反応性官能基を末端に有するシリル化剤を用いて調製されたシリル化粘土は、その結晶の末端に反応性官能基を有するので、粘土膜の製膜中又は製膜後の処理によって、付加反応、縮合反応、重合反応等の化学反応を行なわせ、新たな化学結合を生じさせることができる。これにより粘土膜の、ガスバリア性、水蒸気バリア性あるいは機械的強度を改善することが可能である。特に、シリル化粘土がエポキシ基を末端に有する場合、粘土膜の製膜中又は製膜後の処理でエポキシ反応させ、粘土間に共有結合を形成させることが可能である。
【0031】
上述のように、種々の異なる反応性末端を有するシリル化粘土が調製できる。したがって、ある反応性官能基を末端に有するシリル化粘土Aと別の反応性官能基を末端に有するシリル化粘土Bとを混合し、これを原料として粘土膜を製膜し、製膜中又は製膜後の処理でシリル化粘土Aとシリル化粘土Bのそれぞれの反応性官能基同士を化学結合させることが可能であり、これにより、ガスバリア性、水蒸気バリア性あるいは機械的強度を改善することが可能である。例えば、シリル化粘土Aの末端の反応性官能基をエポキシ基とし、シリル化粘土Bの末端の反応性官能基をアミノ基とすることが考えられる。
【0032】
同様の発想で、複数の粘土粒子が配向してなる粘土層同士の層間の交換性無機イオンを交換することによって導入される有機カチオンとしても、反応性官能基を末端に有するものを用いることができる。例えば、ある反応性官能基を末端に有する有機カチオンをイオン交換により導入した変性粘土Aと別の反応性官能基を末端に有する有機カチオンをイオン交換により導入した変性粘土Bとを混合し、これを塗布後、加熱し、有機カチオン間、あるいは有機カチオンと高分子の間で化学結合させることにより、より機械的強度、靭性に優れるなどの好適な特性を有する粘土膜を製造することが可能である。
【0033】
また、本発明の変性粘土に用いられる粘土の種類は特に限定されるものではなく、天然粘土でも合成粘土でもよい。粘土の種類は、雲母,バーミキュライト,モンモリロナイト,鉄モンモリロナイト,バイデライト,サポナイト,ヘクトライト,スチーブンサイト,マガディアイト,アイラライト,カネマイト,イライト,セリサイト及びノントロナイトが好ましく、天然スメクタイト,合成スメクタイトがより好ましい。これらの粘土は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
また、変性粘土とともに粘土膜を構成する高分子物質の種類は特に限定されるものではないが、主鎖又は側鎖に極性基を備えるなどして親水性を有する水溶性の高分子物質が好ましい。水溶性の高分子物質と、粘土とは互いに親和性を有するため、例えば水中で両者を混合すると、容易に結合して複合化する。その結果、複合化された高分子物質同士が結合して、粘土膜の強度が向上するという効果が得られる。
【0035】
高分子物質の例としては、デキストリン,澱粉,セルロース系樹脂,ゼラチン,寒天,小麦粉,グルテン,アルキド樹脂,ポリウレタン樹脂,エポキシ樹脂,フッ素樹脂,アクリル樹脂,メタクリル樹脂,フェノール樹脂,ポリアミド樹脂,ポリエステル樹脂,イミド樹脂,ポリビニル樹脂,ポリエチレングリコール,ポリアクリルアマイド,ポリエチレンオキサイド,タンパク質,デオキシリボヌクレイン酸,リボヌクレイン酸及びポリアミノ酸があげられる。これらの高分子物質は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
前記セルロース系樹脂としては、例えば、ニトロセルロース,酢酸セルロースがあげられる。また、前記ポリビニル樹脂としては、例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレン,ポリ塩化ビニル,ポリ酢酸ビニル,ポリビニルアルコール,ポリアクリロニトリルがあげられる。
変性粘土と高分子物質で構成される粘土膜においては、粘土膜中の変性粘土の割合は50質量%以上100質量%未満であることが好ましい。変性粘土の割合が50質量%未満であると、バインダーである高分子物質の割合が高いため、粘土膜が有機膜に近い性質を有することとなる。そのため、高温条件下ではガスバリア性が低下するという不都合が生じるおそれがある。
【0037】
さらに、粘土膜は、以下のような構造を有することが好ましい。すなわち、粘土膜は、複数の粘土粒子が配向してなる粘土層を備え、該粘土層の複数が積層した構造を有することが好ましい。なお、隣接する粘土層の層間には、複数の陽イオンが配されていることが好ましい。すなわち、粘土層を構成する変性粘土粒子と、該粘土層に隣接する別の粘土層を構成する変性粘土粒子との間に、陽イオンが配されていることが好ましい。そして、粘土膜を構成する全変性粘土粒子のうち、陽イオンを有する変性粘土粒子の割合が50質量%以上100質量%未満であれば、粘土膜のガスバリア性と柔軟性がより優れたものとなる。
【0038】
さらに、粘土膜の厚さは、特に限定されるものではないが、0.5μm以上50μm以下であることが好ましい。粘土膜の厚さが0.5μm未満であると、ガスバリア性が不十分となるおそれがあり、50μm超過であると、高分子材料成形品の形状に悪影響を及ぼすという不都合が生じるおそれがある。
【0039】
一方、高分子材料成形品を構成する高分子材料の種類は、特に限定されるものではないが、ポリアミド樹脂,ポリフェニレンサルファイド,ポリエーテルエーテルケトンがあげられる。ただし、高分子材料成形品のコストを考慮すると、ポリアミド樹脂が好ましい。ポリアミド樹脂としては、ポリアミド11,ポリアミド12,ポリアミド46,ポリアミド6,ポリアミド66,ポリアミド610,ポリアミド612等の脂肪族ポリアミド樹脂や、変性ポリアミド6T,ポリアミド9T等の芳香族ポリアミド樹脂があげられる。そして、これらのポリアミド樹脂の中でも、比較的安価なポリアミド66,ポリアミド46
がより好ましい。これらの高分子材料は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
また、高分子材料として、樹脂と繊維強化材とからなる樹脂組成物を用いてもよい。そうすれば、高分子材料の耐熱性,強度特性が優れたものとなる。繊維強化材としては、ガラス繊維,炭素繊維等があげられる。ガラス繊維で強化されたポリアミド樹脂(特にポリアミド66)は、耐熱性,強度特性が優れるとともに安価であるため、最も好適である。さらに、高分子材料には、潤滑剤,熱安定剤,酸化防止剤,熱伝導性改良剤,可塑剤等の各種添加剤を配合してもよい。
【0041】
このような高分子材料を成形する方法は特に限定されるものではなく、慣用の樹脂成形方法を問題なく採用可能である。例えば、射出成形法等の溶融成形法や機械加工による成形法や焼結成形法があげられる。
このような粘土膜が被覆された高分子材料成形品は、寸法変化や酸素,薬品による劣化などの不具合が生じにくく、しかも、高温下で使用されても長期間にわたって前記不具合が生じにくいので、転がり軸受等の機械部品を構成する部材として好適である。高分子材料で構成された部材は、金属製部材と比較すると前記不具合が生じやすいため、機械部品の信頼性や寿命を低下させる傾向があるが、本実施形態の高分子材料成形品を備える機械部品は、少なくとも一部分が高分子材料で構成されているにもかかわらず、高信頼性で長寿命である。
【0042】
本実施形態の高分子材料成形品を適用可能な機械部品は、特に限定されるものではないが、例えば、転がり軸受,直動案内装置,ボールねじ,プーリ,又は電動パワーステアリング装置用ギヤがあげられる。
ここで、粘土膜を被覆した高分子材料成形品の製造方法についてさらに説明する。粘土膜の被覆方法は特に限定されるものではなく、一般的な方法を問題なく採用可能であるが、例えば、(1)粘土(又は、粘土と高分子物質)を分散媒に均一に分散させてペースト状の粘土分散液を調整する分散液調整工程、(2)粘土分散液を高分子材料成形品の表面に薄膜状に被覆する被覆工程、(3)高分子材料成形品の表面に被覆された粘土分散液から分散媒を除去して粘土膜を形成する乾燥工程、を備える方法があげられる。
【0043】
次に、上記3つの工程について詳細に説明する。
(1)分散液調整工程について
分散媒としては、水、有機溶媒、又は水と有機溶媒との混合溶媒が好ましい。一般的に、変性粘土及び高分子物質は、ある種の有機溶剤によく分散する。また、変性粘土及び高分子物質は、互いに親和性があるので、両者は、有機溶剤中で混合すると、容易に相互作用し複合化する。このように容易に複合化しやすい変性粘土及び高分子物質を用いる場合には、最初に、分散媒に変性粘土及び高分子物質を加えた均一な分散液を調整しなければならない。この分散液の調製方法としては、変性粘土を分散させてから高分子物質を加える方法、又は、変性粘土及び高分子材料をそれぞれ別に分散液とし、それらを混合する方法等があげられる。
【0044】
また、変性粘土と高分子物質の複合体を作製する場合に、溶剤に溶解する高分子物質を用いることもできる。この場合には、溶媒に分散する変性粘土と、これと同一な溶媒に溶解する高分子物質を使うことが一般的である。しかし、変性粘土を分散させる溶媒と、高分子物質を溶解する溶媒が混合可能であるのならば、混合した溶媒を使用することができる。
【0045】
変性粘土を含む分散媒である粘土分散液を希薄で均一な状態にするためには、粘土分散液中の変性粘土の濃度は0.5質量%以上20質量%以下が好ましい。変性粘土の濃度が0.5質量%未満であると、乾燥に長時間を要するおそれがあり、また、20質量%超過であると、変性粘土が分散媒に分散しにくいため、粘土粒子が配向しにくく均一な粘土膜が得られないおそれがある。このような不都合がより生じにくくするためには、変性粘土の濃度を1質量%以上3質量%以下とすることがより好ましい。
【0046】
また、変性粘土とともに高分子物質を用いる場合には、変性粘土と高分子物質の合計量における高分子物質の割合は50質量%以下とすることが好ましく、5質量%以上30質量%以下とすることがより好ましい。高分子物質の割合が50質量%超過であると、粘土膜中に高分子物質が不均一に分散するおそれがある。粘土膜中に高分子物質が偏在すると、粘土膜の均一性が低下するため、高分子物質を使用する効果が低下するおそれがある。また、得られる粘土膜の耐熱性が低下するおそれがある。一方、分散液において、高分子物質の割合が低すぎる場合、高分子物質の効果が現れないおそれがある。ただし、変性粘土や分散媒の種類、あるいは、被覆工程や乾燥工程の内容によって、最適な高分子物質の割合が決まる。
【0047】
分散媒として使用される有機溶媒の種類は、特に限定されるものではないが、ベンゼン,トルエン等の芳香族炭化水素系溶剤や、エーテル,テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤や、アセトン,メチルエチルケトン等のケトン系溶剤があげられる。さらに、ジメチルホルムアミド等のアミド系溶剤、酢酸エチル等のエステル系溶剤、エチルアルコール等のアルコール系溶剤,ハロゲン化炭化水素系溶剤があげられる。これらの有機溶媒は、1種を単独で分散媒として使用してもよいし、2種以上を混合した混合溶媒を分散媒として使用してもよい。なお、粘土の有機化の状態によって、使用する有機溶媒を適宜選択するとよい。
【0048】
さらに、分散方法としては、できるだけ激しく分散できる方法であれば特に限定されるものではないが、撹控装置、ホモジナイザイーを用いる方法が好ましく、特に、粘土粒子を細かくしたい場合には、超音波型のホモジナイザーを用いることが好ましい。これにより、膜表面の荒れるまたは不均一になる原因のダマを減らすことができる。
【0049】
(2)被覆工程について
上記のようにして作製された粘土分散液は、次いで高分子材料成形品の表面に塗布される。粘土分散液を高分子材料成形品の表面に被覆する方法は、粘土分散液を均一の厚さの薄膜状に被覆することができるならば、特に限定されるものではないが、スプレーコーティング,エアドクターコーティング,ブレードコーティング,ディップコーティング,電着コーティング等があげられる。また、気泡が含まれないように、ヘラや刷毛等の道具を用いて手作業で塗布してもよい。
【0050】
このとき、高分子材料成形品の表面には、粘土分散液を被覆する前に、粘土膜の密着性を向上させる処理を施すことが好ましい。この処理としては、コロナ放電処理,プラズマ活性化処理,グロー放電処理,逆スパッタ処理,粗面化処理等の公知の表面活性化処理や、エチレンイミン系,アミン系,エポキシ系,ウレタン系,ポリエステル系等のプライマー剤を用いたプライマー処理があげられる。
【0051】
(3)乾燥工程について
乾燥工程は、塗布膜に含まれる分散媒を除くことと同時に、分散液に混合させた高分子物質を硬化させる目的もある。乾燥方法は、高分子材料成形品の表面に被覆された粘土分散液中の分散媒を除去することができるならば、特に限定されるものではないが、加熱,減圧,気流等の環境下におくことにより乾燥することができる。例えば、強制対流型オーブン中で乾燥する場合は、温度30℃以上200℃以下が好ましく、50℃以上180℃以下がより好ましい。加熱乾燥に際して乾燥温度が低いと、乾燥時間が長くなるおそれがあり、乾燥温度が高いと、急激な乾燥により粘土分散液中の液体の対流が促進され、粘土膜の均一性が低下するおそれがある。
【0052】
また、周囲に配した熱源から熱を供給することにより、開放系においても問題なく乾燥を行うことが可能である。さらに、赤外線等の熱線を照射することにより乾燥することも可能である。なお、粘土膜の厚さは、粘土分散液中の固形分(粘土又は粘土と高分子物質)の濃度や、粘土粒子を沈積させる条件などによって、任意の厚さに制御することができる。
【0053】
以下に、本実施形態の高分子材料成形品を適用した機械部品の実施形態を示す。
〔機械部品の第一実施形態〕
図1は、本発明に係る機械部品の一実施形態である樹脂製プーリの構造を示す正面図であり、図2は、図1の樹脂製プーリのA−A断面図である。
本実施形態の樹脂製プーリ10は、転がり軸受11と樹脂部12とからなる。この転がり軸受11は、内輪1と、外輪2と、前記両輪1,2の間に転動自在に配された複数の転動体3と、前記両輪1,2の間に転動体3を保持する保持器4と、前記両輪1,2の間の開口部を覆うシール装置5,5と、を備えている。なお、保持器4及びシール装置5は、備えていなくてもよい。また、シール装置5は、図2に示すような接触ゴムシールでもよいし、シールドのような非接触シールでもよい。
【0054】
また、樹脂部12は、高分子材料の射出成形により形成され、転がり軸受11の外輪2の外周面に一体的に取り付けられている(樹脂部12が、本発明の構成要件である高分子材料成形品に相当する)。具体的には、樹脂部12は、転がり軸受11の外輪2が嵌合される内径側円筒部12aと、外径側円筒部12bと、両円筒部12a,12bを連結する円板部12cと、樹脂部12を補強するために放射状に形成された複数のリブ12dと、からなる。そして、外径側円筒部12bの外周面12eが、図示しない駆動用ベルトのベルト案内面をなす。なお、外輪2の外周面には、樹脂部12の脱着を防止する凹溝が形成されている。
【0055】
樹脂部12を構成する高分子材料の種類は特に限定されるものではないが、樹脂製プーリにおいては、駆動時におけるベルトの振れに起因する振動の発生を抑制して騒音を低減するために、ベルトを案内する外径側円筒部12bの外周面12eの真円度(凹凸量) が良好であることが求められるとともに、ベルトの張力に耐える機械的強度と耐熱性が良好であることが求められる。そのため、樹脂部12を構成する高分子材料としては、ガラス繊維,炭素繊維等の充填材や各種添加剤(潤滑剤,熱安定剤,酸化防止剤,熱伝導性改良剤,可塑剤等)を樹脂に配合した樹脂組成物が好ましい。
【0056】
好ましい樹脂の例としては、ポリアミド樹脂,ポリフェニレンサルファイド,ポリエーテルエーテルケトンがあげられる。ポリアミド樹脂としては、ポリアミド11,ポリアミド12,ポリアミド46,ポリアミド6,ポリアミド66,ポリアミド610,ポリアミド612等の脂肪族ポリアミド樹脂や、変性ポリアミド6T,ポリアミド9T等の芳香族ポリアミド樹脂があげられる。
【0057】
そして、樹脂組成物のコスト,耐熱性,及び強度特性のバランスから判断すると、耐熱性と耐疲労性に優れるポリアミド66をベース樹脂としガラス繊維を強化材とする樹脂組成物が最も好適である。ガラス繊維の配合量は、樹脂組成物全体の25質量%以上55質量%以下が好ましい。ガラス繊維の配合量が25質量%未満であると、樹脂組成物の耐熱性や強度特性が不十分となるおそれがある。一方、55質量%超過であると、樹脂組成物の溶融粘土が高くなり、成形性が不十分となるおそれがある。
【0058】
また、ポリアミド66の分子量は、射出成形性を考慮すると、数平均分子量で13000以上30000以下が好ましく、耐疲労性及び高成形精度をさらに考慮すると、数平均分子量で18000以上26000以下がより好ましい。ポリアミド66の数平均分子量が13000未満であると、分子量が低すぎるため耐疲労性が低くなり、実用性が低くなる。一方、ポリアミド66の数平均分子量が30000超過であると、耐疲労性は優れているものの、樹脂製プーリに必要な衝撃強度等の機械的強度を達成するためにガラス繊維を25質量%以上55質量%以下含有させると、樹脂組成物の溶融粘土が高くなり、樹脂部12を射出成形法により高精度で製造することが困難となる。
【0059】
このような樹脂製プーリ10の樹脂部12の表面には、酸素,水蒸気等のガスの侵入を抑制するガスバリア性に加えて、柔軟性及び耐熱性を有する粘土膜(図示せず)が被覆されている。なお、この粘土膜は、樹脂部12の表面全体に被覆することが最も好ましいが、樹脂部12の表面の一部分に被覆してもよい。
本実施形態の樹脂製プーリ10は、樹脂部12の表面に粘土膜が設けられているので、各種薬品(例えば塩化カルシウム)に対する耐性が優れている。そのため、樹脂部12を構成する樹脂組成物のベース樹脂として、耐薬品性にやや劣るポリアミド66等のポリアミド樹脂を使用したとしても、樹脂部12が薬品に侵されにくい。よって、例えば融雪剤(塩化カルシウム)に起因する不具合が抑制されるので、本実施形態の樹脂製プーリ10は、高信頼性で長寿命である。
【0060】
また、ポリアミド66等のポリアミド樹脂を繊維強化材で補強した樹脂組成物は、成形精度,強度特性,及び耐熱性が優れるとともに比較的安価であるので、樹脂部12を構成する樹脂組成物のベース樹脂としてポリアミド66等のポリアミド樹脂を使用すれば、本実施形態の樹脂製プーリ10は、安価且つ高信頼性で長寿命である。
さらに、粘土膜はガスバリア性を有しているので、樹脂の劣化の原因となる酸素等のガスを遮断することができる。また、粘土膜は水蒸気バリア性も有しているので、水蒸気が透過しにくく、水分(水蒸気) を遮断することができる。よって、樹脂部12の劣化や吸水による寸法変化に起因する樹脂製プーリ10の不具合の発生が抑制されるので、本実施形態の樹脂製プーリ10は高信頼性で長寿命である。
【0061】
このような樹脂製プーリ10は、例えば、自動車に搭載されるエンジン補機類の駆動用ベルトやその他のベルトのテンショナ用プーリ、又はアイドラプーリとして好適に使用することができる。
なお、この第一実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては、転がり軸受の例として深溝玉軸受をあげて説明したが、本発明は、他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
【0062】
また、転がり軸受11の接触ゴムシールに使用されるゴムの種類は特に限定されるものではないが、ニトリルゴム,水素添加ニトリルゴム,アクリルゴム等を原料ゴムとし、それに各種充填材を配合したものを用いることができる。さらに、転がり軸受11内に充填される潤滑剤の種類は特に限定されるものではなく、一般的な潤滑油やグリースを用いることができるが、樹脂製プーリ10の使用温度を考慮して、ポリα−オレフィン油,アルキルジフェニルエーテル油等を基油、ジウレア等を増ちょう剤とし、酸化防止剤,摩耗防止剤等の添加剤が配合されたグリースが好ましい。
【0063】
〔第一実施形態の実施例〕
図1の樹脂製プーリとほぼ同様の構成の樹脂製プーリの樹脂部の表面に、粘土膜を形成したものを用意して、その耐塩化カルシウム性及び水蒸気バリア性を評価した。
樹脂製プーリは、呼び番号6203DDL18の深溝玉軸受をコアとしたインサート成形により、深溝玉軸受の外輪の外周に樹脂部を一体形成してなるものである。この深溝玉軸受は、接触ゴムシールを備えるとともに、外輪の外周面に凹溝を有している。また、樹脂部を構成する高分子材料は、ガラス繊維を30質量%含有するポリアミド66(宇部興産株式会社製のUBEナイロン2020GU6)であり、ヨウ化銅系の熱安定剤を含有している。このポリアミド66の数平均分子量は20000である。
【0064】
粘土膜を構成する変性粘土を作製するために、温度110℃以上のオーブン内で十分乾燥させた精製天然ベントナイト(クニミネ工業株式会社製のクニピアP)を粘土として使用した。まず、この粘土100gをアルミナボールとともにボールミル用ポットに入れた。次に、末端にアミノ基を持つシリル化剤(チッソ株式会社製のサイラエースS330)をボールミル用ポットに2g加え、ポット内をチッソに置換し、ボールミル処理を1時間行うことによりシリル化処理し、シリル化粘土を得た。このシリル化粘土24gを、0.5モル/Lの硝酸リチウム水溶液400gに加え、2時間振とうして混合分散させることにより、粘土の層間イオンをリチウムに交換した。
【0065】
次に、遠心分離により固液分離し、得られた固体を280gの蒸留水と120gのエタノールの混合液で洗浄し、過剰の塩分を除いた。この洗浄操作は、二回以上繰り返した。得られた生成物を、温度250℃のオーブン内で3時間乾燥した後、粉砕して、変性粘土であるシリル化リチウム交換粘土を得た。
次に、シリル化リチウム交換粘土8gと変性エポキシ樹脂(DIC株式会社製のEPICLON EXA−4816)2gを、メチルエチルケトン(MEK)100mlに加え、ホモジナイザーにより1時間撹拌して分散処理を行った。その後、酸無水物系硬化剤(DIC株式会社製のB−570)5.3gと、硬化促進剤であるジメチルアセトアミド1phrを加え、再度、ホモジナイザーにより1時間撹拌処理を行った。
【0066】
このようにして得られた粘土分散液を用いて樹脂製プーリの樹脂部の表面をディッピング処理し、樹脂製プーリの樹脂部の表面に粘土膜を均一に塗布した。この樹脂製プーリを温度110℃の恒温槽に3時間入れ、粘土分散液中にあるMEKを除去した。その後、恒温槽を温度165℃にまで加熱し、硬化処理を2時間行い、バリアコーティング試験片を作製した。これにより、樹脂製プーリの樹脂部の表面に厚さ30μmの粘土膜が形成された。
上記のようにして製造した実施例の樹脂製プーリと、粘土膜を備えていないことを除いては実施例と全く同様の構成の比較例の樹脂製プーリとについて、耐塩化カルシウム性及び水蒸気バリア性を評価した。試験方法は以下の通りである。
【0067】
まず、耐塩化カルシウム性試験について説明する。樹脂製プーリを温度80℃の熱水中に2時間浸潰して吸水させた後に、濃度50質量%の塩化カルシウム水溶液に5分間浸漬した。次に、1470Nのラジアル荷重を負荷した状態で、樹脂製プーリを恒温槽内に放置して、恒温槽内の温度を以下のように変化させた。すなわち、温度20℃から110℃まで30分かけて昇温した後に、温度110℃で2時間保持し、さらに30分かけて温度20℃まで降温した後、温度20℃で1時間保持した。
【0068】
そして、前記温度変化を1サイクルとして繰り返し、2サイクル毎に樹脂製プーリを前記塩化カルシウム水溶液に5分間浸漬した。樹脂部のクラックの発生の有無を2サイクル毎に確認しながら、10サイクルまで試験を行った。
その結果、実施例の樹脂製プーリは、10サイクルでも樹脂部にクラックが発生しなかったのに対し、比較例の樹脂製プーリは2サイクルでクラックが発生した。この結果から、粘土膜を樹脂部の表面に形成したことにより、樹脂部への水分(塩化カルシウム水溶液)の浸入が遮断されたため、耐塩化カルシウム性が向上したことが分かる。
【0069】
次に、水蒸気バリア性試験について説明する。まず、温度80℃の真空恒温槽内に樹脂製プーリを1週間保持し、絶乾状態とした。そして、絶乾状態の樹脂製プーリの質量を測定した。次に、この絶乾状態の樹脂製プーリを、温度80℃、相対湿度80%の高温高湿槽内に1週間保持し、吸湿させた。そして、吸湿させた樹脂製プーリの質量を測定し、下記式により吸湿率を算出した。なお、下記式における質量の単位は、いずれもgである。
吸湿率(%)=(吸湿後質量−絶乾質量)/絶乾質量×100
【0070】
【表1】

【0071】
結果を表1に示す。実施例の方が比較例よりも吸湿率が低く、比較例の約50%程度の吸湿率であった。これらの結果から、粘土膜を樹脂製プーリの表面に形成したことにより、外部及び内部の水蒸気に対してバリア性が優れていることが分かる。すなわち、粘土膜により、外部の水蒸気の吸収が抑制されるとともに、内部に吸収された水分の外部への排出が抑制された。
【0072】
〔機械部品の第二実施形態〕
図3は、本発明に係る機械部品の別の実施形態である円筒ころ軸受の構造を示す部分縦断面図であり、図4は、図3の円筒ころ軸受に組み込まれる保持器の斜視図である。
第二実施形態の円筒ころ軸受20は、軌道面を有する内輪21と、内輪21の軌道面に対向する軌道面を有する外輪22と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体(円筒ころ)23と、内輪21と外輪22との間に転動体23を保持する樹脂製の保持器24と、を備えている。この保持器24は、互いに対向配置された2つの円環部24aと、両円環部24aを連結する複数の柱部24bと、を備えている。各柱部24bは、円環部24aに沿って周方向に等間隔をあけて設けられており、両円環部24aと複数の柱部24bとによって区画された空所が、転動体23である円筒ころを収容するポケットを構成している。また、この保持器24は、外輪22の内径面22a(保持器案内面)によって案内される外輪案内方式の保持器である。なお、図示はしていないが、ゴムシールやシールドのようなシール装置を備えていてもよい。また、内輪21と外輪22の間に形成される軸受内部空間には、潤滑油,グリース等の潤滑剤を配してもよい。
【0073】
保持器24は、高分子材料の射出成形により形成される(保持器24が、本発明の構成要件である高分子材料成形品に相当する)。保持器24を構成する高分子材料の種類は特に限定されるものではないが、保持器においては、寸法精度が良好であることが求められるとともに、機械的強度と耐熱性が良好であることが求められる。そのため、保持器24を構成する高分子材料としては、ガラス繊維,炭素繊維等の充填材や各種添加剤(潤滑剤,熱安定剤,酸化防止剤,熱伝導性改良剤,可塑剤等)を樹脂に配合した樹脂組成物が好ましい。
【0074】
好ましい樹脂の例としては、ポリアミド樹脂,ポリフェニレンサルファイド,ポリエーテルエーテルケトンがあげられる。ポリアミド樹脂としては、ポリアミド11,ポリアミド12,ポリアミド46,ポリアミド6,ポリアミド66,ポリアミド610,ポリアミド612等の脂肪族ポリアミド樹脂や、変性ポリアミド6T,ポリアミド9T等の芳香族ポリアミド樹脂があげられる。
このような保持器24の表面には、酸素,水蒸気等のガスの侵入を抑制するガスバリア性に加えて、柔軟性及び耐熱性を有する粘土膜(図示せず)が被覆されている。なお、この粘土膜は、保持器24の表面全体に被覆することが最も好ましいが、保持器24の表面の一部分に被覆してもよい。
【0075】
本実施形態の円筒ころ軸受20は、保持器24の表面に粘土膜が設けられているので、各種薬品(例えば塩化カルシウム)に対する耐性が優れている。そのため、保持器24を構成する樹脂組成物のベース樹脂として、耐薬品性にやや劣るポリアミド66等のポリアミド樹脂を使用したとしても、保持器24が薬品に侵されにくい。よって、例えば融雪剤(塩化カルシウム)に起因する不具合が抑制されるので、本実施形態の円筒ころ軸受20は、高信頼性で長寿命である。
【0076】
また、ポリアミド66等のポリアミド樹脂を繊維強化材で補強した樹脂組成物は、成形精度,強度特性,及び耐熱性が優れるとともに比較的安価であるので、保持器24を構成する樹脂組成物のベース樹脂としてポリアミド66等のポリアミド樹脂を使用すれば、本実施形態の円筒ころ軸受20は、安価且つ高信頼性で長寿命である。
さらに、粘土膜はガスバリア性を有しているので、樹脂の劣化の原因となる酸素等のガスを遮断することができる。また、粘土膜は水蒸気バリア性も有しているので、水蒸気が透過しにくく、水分(水蒸気) を遮断することができる。よって、保持器24の劣化や吸水による寸法変化に起因する円筒ころ軸受20の不具合の発生が抑制されるので、本実施形態の円筒ころ軸受20は高信頼性で長寿命である。
【0077】
なお、この第二実施形態は本発明の一例を示したものであり、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては、転がり軸受の例として円筒ころ軸受をあげて説明したが、本発明は、他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、深溝玉軸受,アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
【0078】
図5は、第二実施形態の変形例であるアンギュラ玉軸受の構造を示す部分縦断面図であり、図6は、図5のアンギュラ玉軸受に組み込まれる保持器の斜視図である。図6の保持器24は、環状部24cに複数のポケット24dが回転方向に沿って等間隔をあけて設けられてなり、各ポケット24dは、環状部24cを径方向に貫通する円形孔で形成されている。また、図7は、第二実施形態の別の変形例である深溝玉軸受の構造を示す縦断面図であり、図8は、図7の深溝玉軸受に組み込まれる冠形保持器の斜視図である。図8の冠形保持器24は、環状主部24eと、この環状主部24eの軸方向一端面に回転方向に沿って等間隔をあけて設けられた複数のポケット24fと、を備えていて、各ポケット24fは、環状主部24eの軸方向一端面に設けられた凹部24gと、凹部24gの縁に互いに間隔をあけ対向して配置された1対の弾性片24hとから形成されている。そして、この1対の弾性片24hの互いに対向する面と凹部24gの内面とは、連続して1つの球状凹面を形成している。このような冠形保持器24は、弾性片24hの間隔を弾性的に押し広げつつ、1対の弾性片24hの間に転動体23である玉を押し込むことにより、各ポケット24f内に玉を転動自在に保持することができる。これらのアンギュラ玉軸受及び深溝玉軸受の構成は、第二実施形態の円筒ころ軸受20とほぼ同様であるので、その説明は省略する。なお、図5〜8においては、図3,4と同一又は相当する部分には、図3,4と同一の符号を付してある。
【0079】
〔第二実施形態の実施例〕
高分子材料として、ガラス繊維を25質量%含有するポリアミド66(宇部興産株式会社製の2020U10)を用いてダンベル試験片を作製し、その表面に粘土膜を形成したものを用意して、その耐酸化劣化性及び耐グリース性を評価した。
粘土膜を構成する変性粘土を作製するために、温度110℃以上のオーブン内で十分乾燥させた精製天然ベントナイト(クニミネ工業株式会社製のクニピアP)を粘土として使用した。まず、この粘土100gをアルミナボールとともにボールミル用ポットに入れた。次に、末端にアミノ基を持つシリル化剤(チッソ株式会社製のサイラエースS330)をボールミル用ポットに2g加え、ポット内をチッソに置換し、ボールミル処理を1時間行うことにより、シリル化粘土を得た。このシリル化粘土24gを、0.5モル/Lの硝酸リチウム水溶液400gに加え、2時間振とうして混合分散させることにより、粘土の層間イオンをリチウムに交換した。
【0080】
次に、遠心分離により固液分離し、得られた固体を280gの蒸留水と120gのエタノールの混合液で洗浄し、過剰の塩分を除いた。この洗浄操作は、二回以上繰り返した。得られた生成物を、温度250℃のオーブン内で3時間乾燥した後、粉砕して、変性粘土であるシリル化リチウム交換粘土を得た。
次に、シリル化リチウム交換粘土8gと変性エポキシ樹脂(DIC株式会社製のEPICLON EXA−4816)2gを、メチルエチルケトン(MEK)100mlに加え、ホモジナイザーにより1時間撹拌して分散処理を行った。その後、酸無水物系硬化剤(DIC株式会社製のB−570)5.3gと、硬化促進剤であるジメチルアセトアミド1phrを加え、再度、ホモジナイザーにより1時間撹拌処理を行った。
【0081】
このようにして得られた粘土分散液を用いてダンベル試験片の表面をディッピング処理し、ダンベル試験片の表面に粘土膜を均一に塗布した。このダンベル試験片を温度110℃の恒温槽に3時間入れ、粘土分散液中にあるMEKを除去した。その後、恒温槽を温度165℃にまで加熱し、硬化処理を2時間行い、バリアコーティング試験片を作製した。これにより、ダンベル試験片の表面に厚さ30μmの粘土膜が形成された。
【0082】
上記のようにして製造した実施例のダンベル試験片と、粘土膜を備えていないことを除いては実施例と全く同様の構成の比較例のダンベル試験片とについて、耐酸化劣化性及び耐グリース性を評価した。試験方法は以下の通りである。
まず、耐酸化劣化性試験について説明する。温度180℃の恒温槽内に実施例及び比較例のダンベル試験片を、それぞれ0時間、250時間、500時間、750時間保持し、酸化劣化させた。そして、これらのダンベル試験片の引張強度を引張試験により測定した。なお、測定結果は、実施例及び比較例とも、保持時間0時間のダンベル試験片の引張強度を100%とした場合の相対値である強度保持率を算出することにより得た。
【0083】
【表2】

【0084】
結果を表2に示す。実施例の方が比較例よりも強度保持率が高く、比較例に比べ約20%、強度の低下を抑えていた。これらの結果から、粘土膜をダンベル試験片の表面に形成したことにより、外部から侵入する酸素に対してバリア性が優れていることがわかる。
【0085】
次に、耐グリース性について説明する。基油がアルキルジフェニルエーテル、増ちょう剤がウレアからなるグリースを容器に入れ、実施例及び比較例のダンベル試験片がグリースで全て覆われるように、これらのダンベル試験片を容器内のグリースに浸漬した。温度180℃の恒温槽内にこの容器を入れ、それぞれ0時間、250時間、500時間、750時間保持した後、これらのダンベル試験片の引張強度を引張試験により測定した。なお、測定結果は、実施例及び比較例とも、保持時間0時間のダンベル試験片の引張強度を100%とした場合の相対値である強度保持率を算出することにより得た。
【0086】
【表3】

【0087】
結果を表3に示す。実施例の方が比較例よりも強度保持率が高く、比較例に比べ約36%強度の低下を抑えていた。これらの結果から、粘土膜をダンベル試験片の表面に形成したことにより、外部から侵入するグリース等の油脂に対してバリア性が優れていることがわかる。
【0088】
〔機械部品の第三実施形態〕
図9は、自動車の電動パワーステアリング装置の構成を示す図であり、図10は、図9の電動パワーステアリング装置のハウジング部分の断面図である。また、図11は、本発明に係る機械部品の一実施形態である電動パワーステアリング装置用減速ギヤ(ウォームホイール及びウォーム)の構造を示す斜視図である。
【0089】
自動車の電動パワーステアリング装置70には、操舵補助出力発生用電動モータの出力をステアリングシャフトに伝達するため、図11のような電動パワーステアリング装置用減速ギヤ(ウォームホイール81及びウォーム82)が組み込まれている。電動パワーステアリング装置70のハウジング71内に備えられているウォームホイール81及びウォーム82は、入力軸72の回転に伴って生じた電動モータ73の回転駆動力を出力軸74に伝達する機能を有している。
【0090】
このウォームホイール81及びウォーム82は、高分子材料、例えばガラス繊維(含有量は30質量%)で強化されたポリアミド66(宇部興産株式会社製UBEナイロン1015GU6)で構成されている(ウォームホイール81及びウォーム82が、本発明の構成要件である高分子材料成形品に相当する)。そして、ウォームホイール81及びウォーム82の表面には、酸素,水蒸気等のガスの侵入を抑制するガスバリア性に加えて、柔軟性及び耐熱性を有する粘土膜(図示せず)が被覆されている。なお、この粘土膜は、ウォームホイール81及びウォーム82の表面全体に被覆することが最も好ましいが、ウォームホイール81及びウォーム82の表面の一部分に被覆してもよい。
【0091】
本実施形態の電動パワーステアリング装置70は、ウォームホイール81及びウォーム82の表面に粘土膜が設けられているので、各種薬品(例えば塩化カルシウム)に対する耐性が優れている。そのため、ウォームホイール81及びウォーム82を構成する樹脂組成物のベース樹脂として、耐薬品性にやや劣るポリアミド66等のポリアミド樹脂を使用したとしても、ウォームホイール81及びウォーム82が薬品に侵されにくい。よって、例えば融雪剤(塩化カルシウム)に起因する不具合が抑制されるので、本実施形態の電動パワーステアリング装置70は、高信頼性で長寿命である。
【0092】
また、ポリアミド66等のポリアミド樹脂を繊維強化材で補強した樹脂組成物は、成形精度,強度特性,及び耐熱性が優れるとともに比較的安価であるので、ウォームホイール81及びウォーム82を構成する樹脂組成物のベース樹脂としてポリアミド66等のポリアミド樹脂を使用すれば、本実施形態の電動パワーステアリング装置70は、安価且つ高信頼性で長寿命である。
【0093】
さらに、粘土膜はガスバリア性を有しているので、樹脂の劣化の原因となる酸素等のガスを遮断することができる。また、粘土膜は水蒸気バリア性も有しているので、水蒸気が透過しにくく、水分(水蒸気) を遮断することができる。よって、ウォームホイール81及びウォーム82の劣化や吸水による寸法変化に起因する電動パワーステアリング装置70の不具合の発生が抑制されるので、本実施形態の電動パワーステアリング装置70は高信頼性で長寿命である。
【0094】
以上説明した第一〜第三実施形態は本発明の一例を示したものであり、本発明は上記の各実施形態に限定されるものではない。第一〜第三実施形態においては、機械部品の例として樹脂製プーリ,円筒ころ軸受,及び電動パワーステアリング装置用減速ギヤをあげて説明したが、本発明は、他の種々の機械部品に対して適用することができる。例えば、ボールねじ,直動ベアリング等の転動装置である。
【符号の説明】
【0095】
10 樹脂製プーリ
11 転がり軸受
12 樹脂部
20 円筒ころ軸受
24 保持器
70 電動パワーステアリング装置
81 ウォームホイール
82 ウォーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料を成形してなる高分子材料成形品において、水に対する親和性を調整する変性処理を粘土に施してなる変性粘土と高分子物質とからなり且つガスバリア性を有する粘土膜を表面に被覆したことを特徴とする高分子材料成形品。
【請求項2】
前記変性処理は、前記粘土に第四級アンモニウムカチオン及び第四級ホスホニウムカチオンの少なくとも一方を導入するイオン交換処理、又は、前記粘土にシリル化剤を反応させるシリル化処理であることを特徴とする請求項1に記載の高分子材料成形品。
【請求項3】
前記粘土膜中の前記変性粘土の割合が50質量%以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の高分子材料成形品。
【請求項4】
前記変性粘土に用いられる粘土が、雲母,バーミキュライト,モンモリロナイト,鉄モンモリロナイト,バイデライト,サポナイト,ヘクトライト,スチーブンサイト,マガディアイト,アイラライト,カネマイト,イライト,セリサイト及びノントロナイトのうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の高分子材料成形品。
【請求項5】
前記高分子物質が、デキストリン,澱粉,セルロース系樹脂,ゼラチン,寒天,小麦粉,グルテン,アルキド樹脂,ポリウレタン樹脂,エポキシ樹脂,フッ素樹脂,アクリル樹脂,メタクリル樹脂,フェノール樹脂,ポリアミド樹脂,ポリエステル樹脂,イミド樹脂,ポリビニル樹脂,ポリエチレングリコール,ポリアクリルアマイド,ポリエチレンオキサイド,タンパク質,デオキシリボヌクレイン酸,リボヌクレイン酸及びポリアミノ酸のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の高分子材料成形品。
【請求項6】
高分子材料を成形してなる高分子材料成形品において、水に対する親和性を調整する変性処理を粘土に施してなる変性粘土からなり且つガスバリア性を有する粘土膜を表面に被覆したことを特徴とする高分子材料成形品。
【請求項7】
前記変性処理は、前記粘土に第四級アンモニウムカチオン及び第四級ホスホニウムカチオンの少なくとも一方を導入するイオン交換処理、又は、前記粘土にシリル化剤を反応させるシリル化処理であることを特徴とする請求項6に記載の高分子材料成形品。
【請求項8】
前記変性粘土に用いられる粘土が、雲母,バーミキュライト,モンモリロナイト,鉄モンモリロナイト,バイデライト,サポナイト,ヘクトライト,スチーブンサイト,マガディアイト,アイラライト,カネマイト,イライト,セリサイト及びノントロナイトのうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の高分子材料成形品。
【請求項9】
少なくとも一部分が高分子材料で構成された機械部品において、この高分子材料で構成された部分が、請求項1〜8のいずれか一項に記載の高分子材料成形品であることを特徴とする機械部品。
【請求項10】
転がり軸受,直動案内装置,ボールねじ,プーリ,又は電動パワーステアリング装置用ギヤであることを特徴とする請求項9に記載の機械部品。
【請求項11】
内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に転動自在に配設された複数の転動体と、前記転動体を保持し前記内輪と外輪との間に配設された保持器とを備える転がり軸受において、前記保持器は、請求項1〜8のいずれか一項に記載の高分子材料成形品であることを特徴とする転がり軸受。
【請求項12】
内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に転動自在に配設された複数の転動体とを備える転がり軸受と、
前記転がり軸受の前記外輪の外周面に一体的に取り付けられた樹脂部とを備えるプーリであって、
前記樹脂部は、請求項1〜8のいずれか一項に記載の高分子材料成形品であることを特徴とするプーリ。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−2555(P2013−2555A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134260(P2011−134260)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】