高分子樹脂中における磁性粒子の分布状態の制御方法及びその製造装置
【課題】 高分子樹脂中の磁性粒子において傾斜配向を行うことができる高分子樹脂中における磁性粒子の分布状態の制御方法及びその製造装置を提供する。
【解決手段】 高分子樹脂中における磁性粒子の分布状態の制御方法において、高分子樹脂中に磁性粒子を混合し、超電導コイル1による磁場の分布を変化さた磁場を、前記磁性粒子が混合された高分子樹脂4に印加し、前記磁性粒子の濃度傾斜配向を行う。
【解決手段】 高分子樹脂中における磁性粒子の分布状態の制御方法において、高分子樹脂中に磁性粒子を混合し、超電導コイル1による磁場の分布を変化さた磁場を、前記磁性粒子が混合された高分子樹脂4に印加し、前記磁性粒子の濃度傾斜配向を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子材料中における磁性粒子の傾斜傾向の制御方法及びその製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、高分子材料分野では複合化技術やナノ技術などによる機能性材料の開発が盛んに行われている。
【0003】
その一つに、配合成分を傾斜配向させることで異なる機能を一つの材料に有する傾斜機能材料が挙げられる。
【0004】
異なる樹脂成分の傾斜配向については様々な相溶性・相分離性ポリマーを用いた重合法(下記非特許文献1)や、光重合反応を応用した作製方法(下記非特許文献2)などが報告されている。
【特許文献1】I.Hopkins and M.Myatt,「Macromoleculers」,35,5153(2002)
【特許文献2】中西英行,「光反応で創製したIPNの傾斜構造の計測」,高分子論文集,Vol.62,No.10,pp.519−522(Oct,2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、異なる樹脂成分の傾斜配向については様々な相溶性・相分離性ポリマーを用いた重合法や、光重合反応を応用した作製方法などが報告されているが、高分子樹脂中の各種配合剤における傾斜配向方法の報告は見られない。
【0006】
本発明は、上記状況に鑑みて、高分子樹脂中の磁性粒子において傾斜配向を行うことができる高分子樹脂中における磁性粒子の分布状態の制御方法及びその製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕高分子樹脂中における磁性粒子の分布状態の制御方法において、高分子樹脂中に磁性粒子を混合し、超電導コイルによる磁場の分布を変化さた磁場を、前記磁性粒子が混合された高分子樹脂に印加し、前記磁性粒子の濃度傾斜配向を行うことを特徴とする。
【0008】
〔2〕上記〔1〕記載の高分子樹脂中における磁性粒子の分布状態の制御方法において、前記超電導コイルによる磁場を変化させることを特徴とする。
【0009】
〔3〕上記〔1〕記載の高分子樹脂中における磁性粒子の分布状態の制御方法において、前記超電導コイルによる磁場の前記磁性粒子が混合された高分子樹脂への印加時間を制御することを特徴とする。
【0010】
〔4〕磁性粒子が分布した高分子樹脂成形体の製造装置において、磁場を発生する超電導コイルと、この超電導コイルの磁場中に配置される磁性粒子が混合された高分子樹脂と、この高分子樹脂に印加される磁場の分布を変化させる装置とを備え、前記磁性粒子の濃度傾斜配向を行うことを特徴とする。
【0011】
〔5〕上記〔4〕記載の磁性粒子が分布した高分子樹脂成形体の製造装置において、前記高分子樹脂に印加される磁場の分布を変化させる装置が剣山状の磁性体であり、この剣山状の磁性体上に前記磁性粒子が混合された高分子樹脂が配置されることを特徴とする。
【0012】
〔6〕上記〔4〕記載の磁性粒子が分布した高分子樹脂成形体の製造装置において、前記高分子樹脂に印加される磁場の分布を変化させる装置が円盤状の磁性体であり、この円盤状の磁性体上に前記磁性粒子が混合された高分子樹脂が配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高分子樹脂中における磁性粒子の分布状態の濃度傾斜は、磁場中に配置する磁性体の形状の変化に応じて制御可能である。
【0014】
また、磁性粒子が混合された高分子樹脂に印加する磁場の印加時間を制御することにより、磁性粒子の濃度傾斜配向を行うことができる。
【0015】
例えば、高分子樹脂中への劣化防止剤としての磁性粒子の重点配合による高分子樹脂成形体の長寿命化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の高分子樹脂中における磁性粒子の分布状態の制御方法において、高分子樹脂中に磁性粒子を混合し、超電導コイルによる磁場の分布を変化さた磁場を、前記磁性粒子が混合された高分子樹脂に印加し、前記磁性粒子の濃度傾斜配向を行う。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
本発明は、外部磁場による高分子樹脂中の磁性粒子の傾斜傾向を行わせること目的として、FRPで使用されるポリエステル樹脂中に平均粒径1μmの磁性粒子(Srフェライト粉)を混合し、超電導コイルなどを用いて発生させた磁場中で樹脂を硬化させた場合の磁性粒子の配向状態を観察した。
【0019】
図1は本発明の比較例を示す超電導コイルのみの磁場中でポリエステル樹脂中に平均粒径1μmの磁性粒子を混合して硬化させる状態を示す写真である。
【0020】
この写真において、超電導コイル1の上方に高分子樹脂としてのポリエステル樹脂に磁性粒子が混合した試料2がセットされている。
【0021】
このように、超電導コイルのみの磁場中でポリエステル樹脂中に平均粒径1μmの磁性粒子を混合して硬化させた場合には、磁性粒子の傾斜配向は殆ど見られなかった。
【0022】
図2は本発明の第1実施例を示す超電導コイルによる磁場に、更に局地的な磁束線の集束や磁場分布の変化を行わせるために高分子樹脂としてのポリエステル樹脂に磁性粒子を混合した試料4の直下に剣山状の磁性体3を配置して硬化させる状態を示す写真である。なお、ここで、剣山状の磁性体3は、φ1.6mm、長さ25mmの鉄製の針を4mm間隔で17×17本配置した。
【0023】
図3は本発明の第2実施例を示す超電導コイルによる磁場に、更に円盤状の磁性体5を配置し、その円盤状の磁性体5の直上の部分に高分子樹脂としてのポリエステル樹脂に磁性粒子を混合した試料6を設置して硬化させる状態を示す写真である。なお、ここで、円盤状の磁性体5は、厚さ1mmの鉄製の円盤をアルミニウム板で挟んで固定した。
【0024】
超電導コイルの磁束密度を0. 1T〜1. 5T(テスラ)とした場合、磁束密度の増大に伴い配向による局在化が大きくなった。また、円盤状の磁性体の径を大きくして磁束密度の集束範囲を広げた場合、配向の範囲は広がったが、局在化は小さくなった。従って、磁束密度や磁場分布によって、磁性粒子の局在化を調整可能であることを見い出した。
【0025】
以下、上記したように超電導コイル上に試料を設置した場合の各設置状況で硬化した場合の高分子樹脂の状況を示す。
【0026】
図4は本発明に係る試料に磁場をかけず〔0T(テスラ)〕に試料を硬化した場合を示す写真であり、磁性粒子は分散しており、磁性粒子の配向は得られなかった。
【0027】
図5は本発明に係る試料に超電導コイルのみの磁場〔0.1T(テスラ)〕を加えて試料を硬化した場合を示す写真であり、磁性粒子の配向は殆ど得られなかった。
【0028】
そこで、磁場分布の変化(局地的な磁束線の集束を含む)を行わせるために、図2のように試料を配置した。なお、ここで、超電導コイルの磁束密度を1.0T(テスラ)とした場合、図6に示すように、剣山状の磁性体の真上の部分に密集した磁性粒子の傾斜配向が見られた。また、超電導コイルの磁束密度を0.3T(テスラ)とした場合、図7に示すようにな磁性粒子の配向が見られた。
【0029】
同様に、図3のように試料を配置した場合、直径φ14mmの円盤上で磁束密度を1.0T(テスラ)とすると、図8に示すように、円盤上に密集した磁性粒子の傾斜配向が見られた。また、円盤の直径φを100mmとして、磁束密度を1.0T(テスラ)とすると、図9に示すようにな磁性粒子の配向が見られた。
【0030】
また、磁場中への試料の配置時間を変えて作製した磁性粒子を混合した高分子樹脂成形体について説明する。
【0031】
図10は図2に示す試料を硬化完了まで磁場をかけた場合の磁性粒子を混合した高分子樹脂成形体の写真であり、図11は図2に示す試料を硬化開始から5分間磁場をかけた場合の磁性粒子を混合した高分子樹脂成形体の写真である。図12は図11に示す磁性粒子を混合した高分子樹脂の電子顕微鏡写真であり、図12の左側が試料の底面側であり、白色部分が磁性粒子に該当する。図13は図12に示す磁性粒子を混合した高分子樹脂の高さで区分した磁性粒子の分布状態を示す図であり、横軸が試料の底面からの高さ(mm)、縦軸は白点の面積比(%)を示している。これは画像処理により算出されている。
【0032】
図10に示すように磁場中で完全に硬化させた樹脂中の磁性粒子は針状に凝集して配向している様子が観察されたが、試料の硬化中に磁場から開放した場合には、磁性粒子は針状には凝集せずに配向し、試料の硬化中の磁場状態が高分子樹脂中の磁性粒子の分布に影響を及ぼすことが分かった。
【0033】
図11においては、底面から高さ方向における磁性粒子の分布状態に濃度傾斜が見られた。
【0034】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の高分子樹脂中における磁性粒子の傾斜傾向の制御方法は、長寿命化した高分子樹脂成形体の製造などとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の比較例を示す超電導コイルのみの磁場中でポリエステル樹脂中に平均粒径1μmの磁性粒子を混合して硬化させる状態を示す写真である。
【図2】本発明の第1実施例を示す超電導コイルによる磁場に、更に局地的な磁束線の集束や磁場分布の変化を行わせるために高分子樹脂としてのポリエステル樹脂に磁性粒子を混合した試料の直下に剣山状の磁性体を配置して硬化させる状態を示す写真である。
【図3】本発明の第2実施例を示す超電導コイルによる磁場に、更に円盤状の磁性体を配置し、その円盤状の磁性体の直上の部分に高分子樹脂としてのポリエステル樹脂に磁性粒子を混合した試料を設置して硬化させる状態を示す写真である。
【図4】本発明に係る試料に磁場をかけず〔0T(テスラ)〕に試料を硬化した場合を示す写真である。
【図5】本発明に係る試料に超電導コイルのみの磁場〔0.1T(テスラ)〕を加えて試料を硬化した場合を示す写真である。
【図6】本発明に係る剣山状の磁性体上の試料に超電導コイルのみの磁場〔1.0T(テスラ)〕を加えて試料を硬化した場合を示す写真である。
【図7】本発明に係る剣山状の磁性体上の試料に超電導コイルのみの磁場〔0.3T(テスラ)〕を加えて試料を硬化した場合を示す写真である。
【図8】本発明に係る直径14mmの円盤状の磁性体上の試料に超電導コイルのみの磁場〔1.0T(テスラ)〕を加えて試料を硬化した場合を示す写真である。
【図9】本発明に係る直径100mmの円盤状の磁性体上の試料に超電導コイルのみの磁場〔1.0T(テスラ)〕を加えて試料を硬化した場合を示す写真である。
【図10】本発明に係る試料に硬化完了まで磁場をかけた場合を示す写真である。
【図11】本発明に係る試料に硬化開始から5分間磁場をかけた場合を示す写真である。
【図12】図11に示す磁性粒子を混合した高分子樹脂の電子顕微鏡写真である。
【図13】図12に示す磁性粒子を混合した高分子樹脂の高さで区分した磁性粒子の分布状態を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1 超電導コイル
2,4,6 高分子樹脂としてのポリエステル樹脂に磁性粒子が混合した試料
3 剣山状の磁性体
5 円盤状の磁性体
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子材料中における磁性粒子の傾斜傾向の制御方法及びその製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、高分子材料分野では複合化技術やナノ技術などによる機能性材料の開発が盛んに行われている。
【0003】
その一つに、配合成分を傾斜配向させることで異なる機能を一つの材料に有する傾斜機能材料が挙げられる。
【0004】
異なる樹脂成分の傾斜配向については様々な相溶性・相分離性ポリマーを用いた重合法(下記非特許文献1)や、光重合反応を応用した作製方法(下記非特許文献2)などが報告されている。
【特許文献1】I.Hopkins and M.Myatt,「Macromoleculers」,35,5153(2002)
【特許文献2】中西英行,「光反応で創製したIPNの傾斜構造の計測」,高分子論文集,Vol.62,No.10,pp.519−522(Oct,2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、異なる樹脂成分の傾斜配向については様々な相溶性・相分離性ポリマーを用いた重合法や、光重合反応を応用した作製方法などが報告されているが、高分子樹脂中の各種配合剤における傾斜配向方法の報告は見られない。
【0006】
本発明は、上記状況に鑑みて、高分子樹脂中の磁性粒子において傾斜配向を行うことができる高分子樹脂中における磁性粒子の分布状態の制御方法及びその製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕高分子樹脂中における磁性粒子の分布状態の制御方法において、高分子樹脂中に磁性粒子を混合し、超電導コイルによる磁場の分布を変化さた磁場を、前記磁性粒子が混合された高分子樹脂に印加し、前記磁性粒子の濃度傾斜配向を行うことを特徴とする。
【0008】
〔2〕上記〔1〕記載の高分子樹脂中における磁性粒子の分布状態の制御方法において、前記超電導コイルによる磁場を変化させることを特徴とする。
【0009】
〔3〕上記〔1〕記載の高分子樹脂中における磁性粒子の分布状態の制御方法において、前記超電導コイルによる磁場の前記磁性粒子が混合された高分子樹脂への印加時間を制御することを特徴とする。
【0010】
〔4〕磁性粒子が分布した高分子樹脂成形体の製造装置において、磁場を発生する超電導コイルと、この超電導コイルの磁場中に配置される磁性粒子が混合された高分子樹脂と、この高分子樹脂に印加される磁場の分布を変化させる装置とを備え、前記磁性粒子の濃度傾斜配向を行うことを特徴とする。
【0011】
〔5〕上記〔4〕記載の磁性粒子が分布した高分子樹脂成形体の製造装置において、前記高分子樹脂に印加される磁場の分布を変化させる装置が剣山状の磁性体であり、この剣山状の磁性体上に前記磁性粒子が混合された高分子樹脂が配置されることを特徴とする。
【0012】
〔6〕上記〔4〕記載の磁性粒子が分布した高分子樹脂成形体の製造装置において、前記高分子樹脂に印加される磁場の分布を変化させる装置が円盤状の磁性体であり、この円盤状の磁性体上に前記磁性粒子が混合された高分子樹脂が配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高分子樹脂中における磁性粒子の分布状態の濃度傾斜は、磁場中に配置する磁性体の形状の変化に応じて制御可能である。
【0014】
また、磁性粒子が混合された高分子樹脂に印加する磁場の印加時間を制御することにより、磁性粒子の濃度傾斜配向を行うことができる。
【0015】
例えば、高分子樹脂中への劣化防止剤としての磁性粒子の重点配合による高分子樹脂成形体の長寿命化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の高分子樹脂中における磁性粒子の分布状態の制御方法において、高分子樹脂中に磁性粒子を混合し、超電導コイルによる磁場の分布を変化さた磁場を、前記磁性粒子が混合された高分子樹脂に印加し、前記磁性粒子の濃度傾斜配向を行う。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
本発明は、外部磁場による高分子樹脂中の磁性粒子の傾斜傾向を行わせること目的として、FRPで使用されるポリエステル樹脂中に平均粒径1μmの磁性粒子(Srフェライト粉)を混合し、超電導コイルなどを用いて発生させた磁場中で樹脂を硬化させた場合の磁性粒子の配向状態を観察した。
【0019】
図1は本発明の比較例を示す超電導コイルのみの磁場中でポリエステル樹脂中に平均粒径1μmの磁性粒子を混合して硬化させる状態を示す写真である。
【0020】
この写真において、超電導コイル1の上方に高分子樹脂としてのポリエステル樹脂に磁性粒子が混合した試料2がセットされている。
【0021】
このように、超電導コイルのみの磁場中でポリエステル樹脂中に平均粒径1μmの磁性粒子を混合して硬化させた場合には、磁性粒子の傾斜配向は殆ど見られなかった。
【0022】
図2は本発明の第1実施例を示す超電導コイルによる磁場に、更に局地的な磁束線の集束や磁場分布の変化を行わせるために高分子樹脂としてのポリエステル樹脂に磁性粒子を混合した試料4の直下に剣山状の磁性体3を配置して硬化させる状態を示す写真である。なお、ここで、剣山状の磁性体3は、φ1.6mm、長さ25mmの鉄製の針を4mm間隔で17×17本配置した。
【0023】
図3は本発明の第2実施例を示す超電導コイルによる磁場に、更に円盤状の磁性体5を配置し、その円盤状の磁性体5の直上の部分に高分子樹脂としてのポリエステル樹脂に磁性粒子を混合した試料6を設置して硬化させる状態を示す写真である。なお、ここで、円盤状の磁性体5は、厚さ1mmの鉄製の円盤をアルミニウム板で挟んで固定した。
【0024】
超電導コイルの磁束密度を0. 1T〜1. 5T(テスラ)とした場合、磁束密度の増大に伴い配向による局在化が大きくなった。また、円盤状の磁性体の径を大きくして磁束密度の集束範囲を広げた場合、配向の範囲は広がったが、局在化は小さくなった。従って、磁束密度や磁場分布によって、磁性粒子の局在化を調整可能であることを見い出した。
【0025】
以下、上記したように超電導コイル上に試料を設置した場合の各設置状況で硬化した場合の高分子樹脂の状況を示す。
【0026】
図4は本発明に係る試料に磁場をかけず〔0T(テスラ)〕に試料を硬化した場合を示す写真であり、磁性粒子は分散しており、磁性粒子の配向は得られなかった。
【0027】
図5は本発明に係る試料に超電導コイルのみの磁場〔0.1T(テスラ)〕を加えて試料を硬化した場合を示す写真であり、磁性粒子の配向は殆ど得られなかった。
【0028】
そこで、磁場分布の変化(局地的な磁束線の集束を含む)を行わせるために、図2のように試料を配置した。なお、ここで、超電導コイルの磁束密度を1.0T(テスラ)とした場合、図6に示すように、剣山状の磁性体の真上の部分に密集した磁性粒子の傾斜配向が見られた。また、超電導コイルの磁束密度を0.3T(テスラ)とした場合、図7に示すようにな磁性粒子の配向が見られた。
【0029】
同様に、図3のように試料を配置した場合、直径φ14mmの円盤上で磁束密度を1.0T(テスラ)とすると、図8に示すように、円盤上に密集した磁性粒子の傾斜配向が見られた。また、円盤の直径φを100mmとして、磁束密度を1.0T(テスラ)とすると、図9に示すようにな磁性粒子の配向が見られた。
【0030】
また、磁場中への試料の配置時間を変えて作製した磁性粒子を混合した高分子樹脂成形体について説明する。
【0031】
図10は図2に示す試料を硬化完了まで磁場をかけた場合の磁性粒子を混合した高分子樹脂成形体の写真であり、図11は図2に示す試料を硬化開始から5分間磁場をかけた場合の磁性粒子を混合した高分子樹脂成形体の写真である。図12は図11に示す磁性粒子を混合した高分子樹脂の電子顕微鏡写真であり、図12の左側が試料の底面側であり、白色部分が磁性粒子に該当する。図13は図12に示す磁性粒子を混合した高分子樹脂の高さで区分した磁性粒子の分布状態を示す図であり、横軸が試料の底面からの高さ(mm)、縦軸は白点の面積比(%)を示している。これは画像処理により算出されている。
【0032】
図10に示すように磁場中で完全に硬化させた樹脂中の磁性粒子は針状に凝集して配向している様子が観察されたが、試料の硬化中に磁場から開放した場合には、磁性粒子は針状には凝集せずに配向し、試料の硬化中の磁場状態が高分子樹脂中の磁性粒子の分布に影響を及ぼすことが分かった。
【0033】
図11においては、底面から高さ方向における磁性粒子の分布状態に濃度傾斜が見られた。
【0034】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の高分子樹脂中における磁性粒子の傾斜傾向の制御方法は、長寿命化した高分子樹脂成形体の製造などとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の比較例を示す超電導コイルのみの磁場中でポリエステル樹脂中に平均粒径1μmの磁性粒子を混合して硬化させる状態を示す写真である。
【図2】本発明の第1実施例を示す超電導コイルによる磁場に、更に局地的な磁束線の集束や磁場分布の変化を行わせるために高分子樹脂としてのポリエステル樹脂に磁性粒子を混合した試料の直下に剣山状の磁性体を配置して硬化させる状態を示す写真である。
【図3】本発明の第2実施例を示す超電導コイルによる磁場に、更に円盤状の磁性体を配置し、その円盤状の磁性体の直上の部分に高分子樹脂としてのポリエステル樹脂に磁性粒子を混合した試料を設置して硬化させる状態を示す写真である。
【図4】本発明に係る試料に磁場をかけず〔0T(テスラ)〕に試料を硬化した場合を示す写真である。
【図5】本発明に係る試料に超電導コイルのみの磁場〔0.1T(テスラ)〕を加えて試料を硬化した場合を示す写真である。
【図6】本発明に係る剣山状の磁性体上の試料に超電導コイルのみの磁場〔1.0T(テスラ)〕を加えて試料を硬化した場合を示す写真である。
【図7】本発明に係る剣山状の磁性体上の試料に超電導コイルのみの磁場〔0.3T(テスラ)〕を加えて試料を硬化した場合を示す写真である。
【図8】本発明に係る直径14mmの円盤状の磁性体上の試料に超電導コイルのみの磁場〔1.0T(テスラ)〕を加えて試料を硬化した場合を示す写真である。
【図9】本発明に係る直径100mmの円盤状の磁性体上の試料に超電導コイルのみの磁場〔1.0T(テスラ)〕を加えて試料を硬化した場合を示す写真である。
【図10】本発明に係る試料に硬化完了まで磁場をかけた場合を示す写真である。
【図11】本発明に係る試料に硬化開始から5分間磁場をかけた場合を示す写真である。
【図12】図11に示す磁性粒子を混合した高分子樹脂の電子顕微鏡写真である。
【図13】図12に示す磁性粒子を混合した高分子樹脂の高さで区分した磁性粒子の分布状態を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1 超電導コイル
2,4,6 高分子樹脂としてのポリエステル樹脂に磁性粒子が混合した試料
3 剣山状の磁性体
5 円盤状の磁性体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)高分子樹脂中に磁性粒子を混合し、
(b)超電導コイルによる磁場の分布を変化さた磁場を、前記磁性粒子が混合された高分子樹脂に印加し、前記磁性粒子の濃度傾斜配向を行うことを特徴とする高分子樹脂中における磁性粒子の分布状態の制御方法。
【請求項2】
請求項1記載の高分子樹脂中における磁性粒子の分布状態の制御方法において、前記超電導コイルによる磁場を変化させることを特徴とする高分子樹脂中における磁性粒子の分布状態の制御方法。
【請求項3】
請求項1記載の高分子樹脂中における磁性粒子の分布状態の制御方法において、前記超電導コイルによる磁場の前記磁性粒子が混合された高分子樹脂への印加時間を制御することを特徴とする高分子樹脂中における磁性粒子の分布状態の制御方法。
【請求項4】
(a)磁場を発生する超電導コイルと、
(b)該超電導コイルの磁場中に配置される磁性粒子が混合された高分子樹脂と、
(c)該高分子樹脂に印加される磁場の分布を変化させる装置とを備え、
(d)前記磁性粒子の濃度傾斜配向を行うことを特徴とする磁性粒子が分布した高分子樹脂成形体の製造装置。
【請求項5】
請求項4記載の磁性粒子が分布した高分子樹脂成形体の製造装置において、前記高分子樹脂に印加される磁場の分布を変化させる装置が剣山状の磁性体であり、該剣山状の磁性体上に前記磁性粒子が混合された高分子樹脂が配置されることを特徴とする磁性粒子が分布した高分子樹脂成形体の製造装置。
【請求項6】
請求項4記載の磁性粒子が分布した高分子樹脂成形体の製造装置において、前記高分子樹脂に印加される磁場の分布を変化させる装置が円盤状の磁性体であり、該円盤状の磁性体上に前記磁性粒子が混合された高分子樹脂が配置されることを特徴とする磁性粒子が分布した高分子樹脂成形体の製造装置。
【請求項1】
(a)高分子樹脂中に磁性粒子を混合し、
(b)超電導コイルによる磁場の分布を変化さた磁場を、前記磁性粒子が混合された高分子樹脂に印加し、前記磁性粒子の濃度傾斜配向を行うことを特徴とする高分子樹脂中における磁性粒子の分布状態の制御方法。
【請求項2】
請求項1記載の高分子樹脂中における磁性粒子の分布状態の制御方法において、前記超電導コイルによる磁場を変化させることを特徴とする高分子樹脂中における磁性粒子の分布状態の制御方法。
【請求項3】
請求項1記載の高分子樹脂中における磁性粒子の分布状態の制御方法において、前記超電導コイルによる磁場の前記磁性粒子が混合された高分子樹脂への印加時間を制御することを特徴とする高分子樹脂中における磁性粒子の分布状態の制御方法。
【請求項4】
(a)磁場を発生する超電導コイルと、
(b)該超電導コイルの磁場中に配置される磁性粒子が混合された高分子樹脂と、
(c)該高分子樹脂に印加される磁場の分布を変化させる装置とを備え、
(d)前記磁性粒子の濃度傾斜配向を行うことを特徴とする磁性粒子が分布した高分子樹脂成形体の製造装置。
【請求項5】
請求項4記載の磁性粒子が分布した高分子樹脂成形体の製造装置において、前記高分子樹脂に印加される磁場の分布を変化させる装置が剣山状の磁性体であり、該剣山状の磁性体上に前記磁性粒子が混合された高分子樹脂が配置されることを特徴とする磁性粒子が分布した高分子樹脂成形体の製造装置。
【請求項6】
請求項4記載の磁性粒子が分布した高分子樹脂成形体の製造装置において、前記高分子樹脂に印加される磁場の分布を変化させる装置が円盤状の磁性体であり、該円盤状の磁性体上に前記磁性粒子が混合された高分子樹脂が配置されることを特徴とする磁性粒子が分布した高分子樹脂成形体の製造装置。
【図13】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−40883(P2009−40883A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−207307(P2007−207307)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】
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