説明

高分子水処理膜、水処理方法及び高分子水処理膜のメンテナンス方法

【課題】機械的強度、耐薬品性及び透水性を確保しながら、さらに防汚性を兼ね備えた高分子水処理膜を提供することを目的とする。
【解決手段】銅又は銀のナノ粒子又はイオンが膜に担持されてなる高分子水処理膜、このような高分子水処理膜を用いて水の浄化を行う水処理方法及びこの水処理方法により水処理を行う途上で、銅又は銀のナノ粒子又はイオンを含む薬剤により高分子水処理膜の耐生物汚染性を回復させる高分子水処理膜のメンテナンス方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子水処理膜、水処理方法及び高分子水処理膜のメンテナンス方法に関し、より詳細には、水処理装置に使用し、生物由来の汚れに対する耐性を有する高分子水処理膜、水処理方法及び高分子水処理膜のメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、河川水及び地下水の除濁、工業用水の清澄、排水及び汚水処理、海水淡水化の前処理等の水の精製のために、高分子水処理膜が利用されている。
このような高分子水処理膜は、通常、水処理装置において分離膜として利用されており、例えば、ポリスルホン(PS)系、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)系、ポリエチレン(PE)系、酢酸セルロース(CA)系、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ポリビニルアルコール(PVA)系、ポリイミド(PI)系等の種々の高分子材料によって形成された、中空糸状の多孔質膜が利用されている。特に、ポリスルホン系樹脂は、耐熱性、耐酸性、耐アルカリ性等の物理的及び化学的性質に優れ、また製膜も容易な点から、多用されている。
【0003】
一般に、高分子水処理膜に要求される性能としては、目的とする分離特性に加え、優れた透水性を有すること、物理的強度に優れていること、各種化学物質に対する安定性(つまり、耐薬品性)が高いこと、ろ過時に汚れが付着しにくい(つまり、耐汚染性が優れている)こと等が挙げられる。
【0004】
例えば、機械的物性のバランスに優れ、透水速度が改良された、酢酸セルロース系の中空糸分離膜が提案されている(特許文献1参照)。
しかし、この酢酸セルロース系分離膜は、機械的強度が小さく、耐薬品性も十分でない。したがって、分離膜が汚染した場合は、物理的又は薬品による化学的手段による洗浄を行うことが極めて困難であるという問題がある。また、微生物による分解性があることから、近年下水処理で採用が増加している膜分離活性汚泥法(MBR)での使用は難しいとされている。
【0005】
また、物理的強度及び耐薬品性の双方に優れた、ポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる中空糸膜による高分子水処理膜が提案されている(特許文献2参照)。この高分子水処理膜では、汚染した場合であっても種々の化学薬品を用いて洗浄することが可能となる。
しかし、ポリフッ化ビニリデンは親水性が比較的小さい傾向があり、耐汚染性が低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−108053号公報
【特許文献2】特開2003−147629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年の高分子水処理膜では、上述したような機械的強度、耐薬品性及び透水性の改善とともに、汚れによる目詰まりが発生することによる透水量の低下防止が、水処理装置の長期的な運転に対する主要な課題となっている。つまり、目詰まりによる膜の損傷及び目詰まり解消のための薬洗・逆洗などのメンテナンスに伴うコストの高騰である。
また、近年の下水処理において採用が増大している膜分離活性汚泥法では、微生物を多量に含む活性汚泥によって処理した排水をろ過することから、生物由来の汚れが膜に付着することが問題になっており、この問題への対策が種々検討されている。
従って、これらの課題を回避するために、高分子水処理膜自体の防汚性を向上させることが熱望されている。
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、機械的強度、耐薬品性及び透水性を確保しながら、さらに防汚性を兼ね備えた高分子水処理膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、機械的強度、耐薬品性及び透水性を確保しながら、さらに防汚性を高めることができる高分子水処理膜について鋭意検討を行った結果、抗菌性の触媒を高分子水処理膜に担持させることに加え、水素結合を形成可能な官能基を高分子鎖中に導入することによって、きわめて簡便な方法によって、高分子水処理膜の親水性を向上させて、かつ耐汚染性を改善し得るとともに、そのメンテナンスも容易になし得ることを突き止め、本発明の完成に至った。
【0009】
すなわち、本発明の高分子水処理膜は、銅又は銀のナノ粒子又はイオンが膜に担持されてなること特徴とする。
このような高分子水処理膜では、前記膜が、銅又は銀のナノ粒子又はイオンの担持体としてカルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、スルホ基及びスルホニル基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有することが好ましい。
高分子が塩化ビニル系樹脂又はスルホン系樹脂であることが好ましい。
高分子水処理膜の形態は中空糸状であることが好ましい。
【0010】
また、本発明の水処理方法は、上述した高分子水処理膜を用いて水の浄化を行うことを特徴とする。
さらに、本発明の高分子水処理膜のメンテナンス方法は、上述した水処理方法による水処理の間に、銅又は銀のナノ粒子又はイオン含有液を用いて高分子水処理膜に前記ナノ粒子又はイオンを担持させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、機械的強度、耐薬品性及び透水性を確保しながら、さらに防汚性を兼ね備えた高分子水処理膜を提供することができる。
また、この高分子水処理膜を用いることにより、簡便な水処理及びメンテナンスを実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の高分子水処理膜は、それを構成する高分子による膜中に、ナノ粒子又はイオンを担持している。
この高分子水処理膜は、その材料、形態、特性等については特に限定されるものではなく、抗菌性を阻害しないものであれば、主に水処理を行うために一般的に求められる特性を備えているものであればよい。
例えば、高分子水処理膜の材料としては、塩化ビニル系;酢酸セルロース等のセルロース系;ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系;ポリビニリデンフルオライド等のフルオロカーボン系;スルホン系;アクリロニトリル系、イミド系等の有機高分子等が挙げられる。なかでも、その汎用性、強度・耐薬品性等の観点から、塩化ビニル系及びスルホン系が好ましく、塩化ビニル系がより好ましい。
高分子水処理膜は、通常、多数の微細孔を有する多孔質膜からなる。その微細孔の平均孔径は、例えば、0.001〜10μm程度、好ましくは0.01〜1μm程度が挙げられる。また、空隙率は、例えば、10〜90%程度、好ましくは20〜80%程度が挙げられる。
高分子水処理膜の形態は、特に限定されず、中空糸状、平膜状、スパイラル状、プリーツ状、モノリス状、チューブラー状等、一般に知られている形状等が挙げられる。なかでも、中空糸状又はチューブラー状が好ましい。この場合、例えば、中空糸膜の外径は900〜1800μm程度、内径は500〜1200μm程度が挙げられる。チューブラー状の場合は、内径は5〜8mm、肉厚は100〜300μm程度が挙げられる。また、別の観点から、その膜の厚みは、例えば、100〜300μm程度が挙げられる。
【0013】
本発明の高分子水処理膜は、その膜中(例えば、微細孔表面)及び/又は膜表面にナノ粒子又はイオンを担持している。
ここでのナノ粒子又はイオンとしては、抗菌性を発揮し得る金属由来のものであればよく、代表的には銀又は銅が挙げられる。ナノ粒子は、その電荷が中性の状態だけでなく、電荷を有するイオン又はイオンの集合体の状態であってもよい。
ナノ粒子のサイズは、用いる膜の材料及び膜厚、水の透過性、用いる金属の種類等によって適宜調整することができ、例えば、直径10〜100nm程度が挙げられ、10〜50nm程度が好ましい。
【0014】
ナノ粒子又はイオンを高分子からなる膜に担持させる方法としては、特に限定されるものではなく、一般に使用されている方法を利用することができる。
例えば、ナノ粒子又はイオンを含む溶液又は懸濁液等に高分子膜を浸漬する方法が挙げられる。ここで、これら溶液又は懸濁液等におけるナノ粒子又はイオンの濃度は、例えば、0.01〜1.0mM程度であることが適している。また、用いるナノ粒子の種類、形態等によって、その溶液を構成する溶媒を適宜選択することができ、例えば、水、メタノール、エタノール又はエチレングリコール等のアルコール類、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン等が挙げられる。浸漬条件は、例えば、その濃度、溶媒、膜材料等によって適宜調整することができ、例えば、室温程度の温度雰囲気下で、半日〜3日間程度行うことが適している。また、浸漬後、水洗を行い、膜の性状に影響を及ぼさないように乾燥させることが好ましい。
【0015】
ナノ粒子又はイオンを高分子膜に効果的に担持させるために、高分子膜に、ナノ粒子又はイオンを吸着あるいはナノ粒子又はイオンと反応しやすい官能基を含有させることが適している。このような官能基は、通常、親水性官能基と称するものであり、例えば、カルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホニル基、アミノ基、アミド基、アンモニウム基、ピリジル基、イミノ基、ベタイン構造、エステル構造、エーテル構造、スルホ基、リン酸基等が挙げられる。
【0016】
このような官能基は、高分子膜を構成するポリマーに置換された又は結合した官能基であることが好ましい。そのために、高分子膜を、親水性官能基を有するモノマー(以下「親水性モノマー」と記載する)によるホモポリマー又はコポリマーにより形成してもよいし、高分子膜を構成するモノマー材料の一部として、親水性モノマーを用いてランダム又はブロック共重合して得たコポリマーにより形成してもよいし、高分子膜を構成する重合体に、親水性モノマーをグラフト重合等によって結合させたコポリマーにより形成してもよい。
高分子膜には、1種のみの親水性モノマーが含有されていてもよいし、2種以上の親水性モノマーが含有されていてもよい。
親水性モノマーは、全モノマーに対して、例えば、10〜50モル%程度で用いることができる。
なお、ホモポリマー又はコポリマーは、用いる材料等によって、当該分野で通常利用されている手法、条件等を適宜調整して製造することができる。
また、グラフト重合は、例えば、光反応によって膜表面にグラフト化させる方法、α線、β線、γ線及びX線等の電離性放射線又はプラズマ等を照射して、膜における微細孔内にラジカルを生成させ、親水性モノマーを気相又は液相にて接触させる方法等、当該分野で公知の種々の方法を利用することができる。放射線又はプラズマ照射と親水性モノマーの導入とは、同時に行ってもよい。
【0017】
親水性モノマーとしては、例えば、
(1)アミノ基、アンモニウム基、ピリジル基、イミノ基、ベタイン構造等のカチオン性基含有ビニルモノマー及び/又はその塩(以下、「カチオン性モノマー」と記載することがある)、
(2)ヒドロキシル基、アミド基、エステル構造、エーテル構造等の親水性の非イオン性基含有ビニルモノマー(以下、「非イオン性モノマー」と記載することがある)、
(3)カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等のアニオン性基含有ビニルモノマー及び/又はその塩(以下、「アニオン性モノマー」と記載することがある)
(4)その他のモノマー等が挙げられる。
【0018】
具体的には、
(1)カチオン性モノマーとしては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジイソプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジイソブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジt−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジプロピルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジイソプロピルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジブチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジイソブチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジt−ブチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の炭素数2〜44のジアルキルアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル又は(メタ)アクリルアミド;
ジメチルアミノスチレン、ジメチルアミノメチルスチレン等の総炭素数2〜44ジアルキルアミノ基を有するスチレン;
2−又は4−ビニルピリジン等のビニルピリジン;N−ビニルイミダゾール等のN−ビニル複素環化合物類;
アミノエチルビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニル等のビニルエーテル類;
等のアミノ基を有するモノマーの酸中和物又はこれらのモノマーをハロゲン化アルキル(炭素数1〜22)、ハロゲン化ベンジル、アルキル(炭素数1〜18)もしくはアリール(炭素数6〜24)スルホン酸又は硫酸ジアルキル(総炭素数2〜8)等により4級化したもの;
ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、ジエチルジアリルアンモニウムクロライド等のジアリル型4級アンモニウム塩、N−(3−スルホプロピル)−N−(メタ)アクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウムベタイン、N−(3−スルホプロピル)−N−(メタ)アクリロイルアミドプロピル−N,N−ジメチルアンモニウムベタイン、N−(3−カルボキシメチル)−N−(メタ)アクリロイルアミドプロピル−N,N−ジメチルアンモニウムベタイン、N−カルボキシメチル−N−(メタ)アクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウムベタイン等のベタイン構造を有するビニルモノマー等のモノマーが例示される。
これらのカチオン性基の中でも、アミノ基及びアンモニウム基含有モノマーが好ましい。
【0019】
(2)非イオン性モノマーとしては、ビニルアルコール;
N−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド等のヒドロキシアルキル(炭素数1〜8)基を有する(メタ)アクリル酸エステル又は(メタ)アクリルアミド;
ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート(エチレングリコールの重合度が1〜30)等の多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル;
(メタ)アクリルアミド;
N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−t−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−イソブチル(メタ)アクリルアミド等のアルキル(炭素数1〜8)(メタ)アクリルアミド;
N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド等のジアルキル(総炭素数2〜8)(メタ)アクリルアミド;
ジアセトン(メタ)アクリルアミド;N−ビニルピロリドン等のN−ビニル環状アミド;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(炭素数1〜8)基を有する(メタ)アクリル酸エステル;
N−(メタ)アクロイルモルホリン等の環状アミド基を有する(メタ)アクリルアミドが例示される。
なかでも、ビニルアルコール、(メタ)アクリルアミド系モノマー及び上記のヒドロキシアルキル(炭素数1〜8)基を有する(メタ)アクリル酸エステル、上記の多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。
【0020】
(3)アニオン性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等の重合性の不飽和基を有するカルボン酸モノマー及び/又はその酸無水物(1つのモノマー中に2つ以上のカルボキシル基を有する場合);
スチレンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−アルキル(炭素数1〜4)プロパンスルホン酸等の重合性の不飽和基を有するスルホン酸モノマー;
ビニルホスホン酸、(メタ)アクリロイロキシアルキル(炭素数1〜4)リン酸等の重合性の不飽和基を有するリン酸モノマー等が例示される。
アニオン性基は、塩基性物質により任意の中和度に中和されてもよい。この場合、ポリマー中の全てのアニオン性基又はその一部のアニオン性基は、塩を生成する。ここで、塩における陽イオンとしては、アンモニウムイオン、総炭素数3〜54のトリアルキルアンモニウムイオン(例えば、トリメチルアンモニウムイオン、トリエチルアンモニウムイオン)、炭素数2〜4のヒドロキシアルキルアンモニウムイオン、総炭素数4〜8のジヒドロキシアルキルアンモニウムイオン、総炭素数6〜12のトリヒドロキシアルキルアンモニウムイオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等が例示される。
中和は、モノマーを中和しても、ポリマーにしてから中和してもよい。
【0021】
(4)上述したビニルモノマー以外、N−ビニル−2−ピロリドン、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート等の水素結合可能な活性部位を有するモノマーであってもよい。
【0022】
また、親水性モノマー以外の高分子膜を構成するモノマー材料としては、上述したモノマーと共重合が可能なものであれば特に限定されるものではなく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、トルイル(メタ)アクリレート、キシリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−ブトキシ(メタ)アクリレート、2−フェノキシ(メタ)アクリレート、3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、3−エトキシプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸誘導体、上述した親水性モノマーにおいて親水性官能基を有さないビニルモノマー等が挙げられる。
【0023】
さらに、高分子膜を構成するモノマー材料として、架橋性モノマーを用いることができる。
架橋性モノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル類;
N−メチルアリルアクリルアミド、N−ビニルアクリルアミド、N,N'−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、ビスアクリルアミド酢酸等のアクリルアミド類;
ジビニルベンゼン、ジビニルエーテル、ジビニルエチレン尿素等のジビニル化合物;
ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジアリルアミン、トリアリルアミン、トリアリルアンモニウム塩、ペンタエリスリトールのアリルエーテル化体、分子中に少なくとも2個のアリルエーテル単位を有するスクローゼのアリルエーテル化体等のポリアリル化合物;
ビニル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート等の不飽和アルコールの(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0024】
高分子水処理膜は、熱誘起相分離法、非溶媒相分離法、延伸法等、当該分野で公知の方法のいずれを利用して製造してもよい。なかでも、非溶媒相分離法によって製造することが好ましい。
本発明の高分子水処理膜を構成する高分子材料には、本発明の効果を損なわない範囲で、製膜時における成形性、熱安定性等を向上させる目的で、滑剤、熱安定剤、製膜助剤等をブレンドしてもよい。
例えば、滑剤としては、ステアリン酸、パラフィンワックス等が挙げられる。
熱安定剤としては、一般に塩化ビニル系樹脂の成形に用いられる錫系、鉛系、Ca/Zn系メルカプチド、金属石鹸等が挙げられる。
製膜助剤としては各種重合度のポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン等の親水性高分子が挙げられる。
【0025】
本発明の高分子水処理膜は、高分子の種類にかかわらず、例えば、重量平均分子量500〜1300程度であることが適している。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定することができる。
また、本発明の高分子水処理膜は、膜間差圧100kPaにおける純水の透過水量が600L/(m2・h)程度以上であることが好ましく、800L/(m2・h)程度以上であることがより好ましく、1000L/(m2・h)程度以上であることがさらに好ましい。
このような構成の高分子水処理膜は、透過水量と物理的強度とのバランスに優れているのみならず、優れた防汚性を有している。
【0026】
本発明の水処理方法は、特に限定されるものではなく、上述した本発明の高分子水処理膜を用いること以外、その対象、用途等に応じて、当該分野で公知の方法により実現することができる。
例えば、近年採用が増えている浸漬型MBR(膜分離活性汚泥法)の場合、中空糸又はチューブラー、平膜形状等の水処理膜よりなるユニットを活性汚泥処理層に浸漬させ、膜を透過させる向きに処理水が流入するようにユニットに負圧をかけることにより、処理水を吸引ろ過することができる。
【0027】
また、本発明の高分子水処理膜を用いて上述したような一般的な水処理方法を行うことにより、ナノ粒子又はイオンが、高分子水処理膜から脱離し、経時的に水処理能力(ここでは、例えば、抗菌性又は防汚性)が低下することが予測される。従って、本発明の高分子水処理膜のメンテナンス方法においては、抗菌性等が低下した高分子水処理膜を回収し、上述した方法に準じて、ナノ粒子又はイオンを含む溶液又は懸濁液等に高分子膜を浸漬し、再度、ナノ粒子又はイオンを高分子水処理膜に担持させる。これによって、極簡便な方法により、高分子水処理膜の耐生物汚染性を回復させることができる。
なお、このようなメンテナンス方法は、水処理の間に行うことが適している。水処理の間とは、例えば、その使用態様等によって異なるが、水処理後の経過時間、日、週、月等の所定期間ごとにメンテナンスを行ってもよいし、所定の水処理量を処理するごとにメンテナンスを行ってもよい。また、再度のナノ粒子又はイオンの担持の前には、高分子水処理膜を洗浄することが好ましい。洗浄自体は、当該分野で公知の方法により行うことができ、使用期間等により、その方法及び程度を適宜選択/調整することができる。また、担持後、上述したように、水洗及び/又は乾燥等を行うことが適している。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の高分子水処理膜、水処理方法及び高分子水処理膜のメンテナンス方法を、実施例に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、これら実施例のみに限定されるものではない。また、実施例における配合量は、特に断りのない限り質量基準で示す。
【0029】
実施例及び比較例における評価/試験方法は、以下の通り行った。
(接触角の測定)
協和界面科学株式会社製 DropMaster300を用いて測定した。
(ハローゾーンテスト)
JIS L 1902:2008に準拠して測定した。
(シェークフラスコ法)
菌液(E. coli NOVA Blue:濃度1.0〜5.0×107 CFU/ml、40ml)に1.0cmにカットした膜サンプルを3本投入し、37℃200rpmの条件で8時間撹拌し、撹拌前後の菌数を比較した。
【0030】
実施例1
市販のポリエーテルスルホン(PES)からなる中空糸膜(ダイセンメンブレンシステムズ社製、内径0.8mm、分画分子量30万)の表面に、ジメチルアミノエチルアクリレート(DMAEA)を重合させた。
その方法としては、60mgのベンゾフェノンを40mlのメタノールに溶解させたものに、中空糸膜を一晩浸漬させた後、親水性モノマー(DMAEA)の水溶液(濃度0.8mol/L)に20℃で浸漬させ、アルゴンガスを流しながら30分間UV照射した。
グラフト量は、別途同様に作成したサンプルについて、グラフト前後の乾燥重量を測定することで行い、今回は0.785mg/cm2であった。
重合の後、1mMの塩酸溶液に70℃条件下で2時間浸漬撹拌し、その後純水中で24時間浸漬撹拌することで洗浄し、親水性モノマーをグラフト重合した中空糸膜を得た。
得られた中空糸膜を、銀ナノコロイド溶液に室温で1日間浸漬した。
銀ナノコロイド溶液は、0.17gの硝酸銀および0.022gのポリビニルピロリドンをそれぞれ10mlのエチレングリコール(いずれも和光純薬製)に溶解し、前者を後者に対して撹拌しながら滴下した。その後20時間撹拌を行うことで銀ナノコロイド溶液(粒子径10〜20nm)を得た。
その後、余分の銀ナノコロイド溶液を取り除くための水洗を経て、銀粒子を含有した中空糸多孔質膜(Ag−DMAEA−PES)を得た。
【0031】
得られた高分子水処理膜の初期透水量は988L/m2・hr・atmであった。
また、得られた高分子水処理膜の接触角は71.3°と、元のPES膜(78°)と比較して低下しており、親水性モノマーを共重合させることによって親水性が向上したことが分かった。
さらに、得られた高分子水処理膜について、上述した方法により、大腸菌(Escherichia coli)を用いたハローゾーンテストを行ったところ、ハローの形成が確認された。
同じく大腸菌を用いた、上述のシェークフラスコ法によるテストを行ったところ、菌体の死滅が確認された。この結果を表1に示す。表1の結果から、銀ナノ粒子を含有した高分子水処理膜は、抗菌性が付与されていることが確認された。
なお、比較のために、何ら処理を施さない市販のポリエーテルサルホンについても、同様に、シェークフラスコ法によるテストを行った。これらの結果についても表1にあわせて示す。
【0032】
比較例1
実施例1で用いた市販のPES膜に対して、実施例1と同様の方法によってDMAEAをグラフト重合させることにより、親水性モノマーを共重合させた高分子水処理膜を得た。
この膜は、接触角が62.7°と、元のPES膜(78°)と比べて低下しており、親水性モノマーを共重合させることにより、親水性が向上していることが分かった。
しかし、この膜は大腸菌を用いたハローゾーンテスト、シェークフラスコ法のいずれにおいても、表1に示すように、抗菌性を示す有意な結果を示さなかった。
【0033】
【表1】

【0034】
実施例2
塩化ビニル−ヒドロキシエチルメタアクリレート(HEMA)共重合体の中空糸膜(積水化学工業製、分画分子量300000)を0.05mMの塩化銅水溶液に室温で浸漬し、水素化ホウ素ナトリウムで銅を還元することにより、銅ナノ粒子(10〜20nm)を含有した高分子多孔質膜を得た。
この膜の初期透水量は600L/m2・hr・atmであった。
この膜は接触角が71°と元のPVC膜(92°)と比べ低下しており、親水性モノマーを共重合させることによって親水性が向上していることが分かった。
また、大腸菌を用いたハローゾーンテストによってハローの形成が確認されたことから、銅ナノ粒子の含有によって抗菌性が付与できていることが分かった。
【0035】
つまり、上記結果から、本発明による金属ナノ粒子を担持した高分子水処理膜は、共重合によって付加した親水性モノマーによって接触角の低下が見られ、親水性の向上が認められる。よって、水処理時における汚れの付着(ファウリング)に対する耐性が向上するとともに、抗菌性の付与によって生物由来の汚れにも耐性を獲得していることが分かった。
また、本発明の高分子水処理膜は、汎用されているポリスルホン系樹脂の高分子水処理膜と比較して極めて大きな引張強度を有し、同時に高い透過水量をも有するとともに、耐薬品性があり、つまり、市販されている中空糸膜の強度、水透過性、耐薬品性を維持しながら、分離膜が汚染した場合であっても、物理的又は薬品による化学的洗浄を行うことが容易である。加えて透過水量と引張強度とのバランスに優れている。よって、水の精製を目的とする水処理の分離膜として好適に利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、水処理装置への適用の有無及び水処理装置の態様等にかかわらず、河川水及び地下水の除濁、工業用水の清澄、排水及び汚水処理、海水淡水化の前処理等の水の精製等のために使用される水処理膜、精密濾過膜等として、広範に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銀のナノ粒子又はイオンが膜に担持されてなること特徴とする高分子水処理膜。
【請求項2】
前記膜が、銅又は銀のナノ粒子又はイオンの担持体としてカルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、スルホ基及びスルホニル基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する請求項1に記載の高分子水処理膜。
【請求項3】
高分子が塩化ビニル系樹脂又はスルホン系樹脂である請求項1又は2に記載の高分子水処理膜。
【請求項4】
中空糸状である請求項1〜3のいずれか1つに記載の高分子水処理膜。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の高分子水処理膜を用いて水の浄化を行うことを特徴とする水処理方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法による水処理の間に、銅又は銀のナノ粒子又はイオン含有液を用いて高分子水処理膜に前記ナノ粒子又はイオンを担持させることを特徴とする高分子水処理膜のメンテナンス方法。

【公開番号】特開2011−156519(P2011−156519A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22708(P2010−22708)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】