説明

高分子水処理膜及びその製造方法並びに水処理方法

【課題】機械的強度及び透水性等を確保しながら、水処理効率をさらに向上させた高分子水処理膜、簡便かつ確実に製造することができる高分子水処理膜の製造方法、効率的な水処理/メンテナンス可能な水処理方法を提供することを目的とする。
【解決手段】外径が3.6mm〜10mm及び外径と肉厚との比であるSDR値が、3.6〜34である略単一の主要構成素材による自立構造を有する中空糸膜からなる高分子水処理膜、略単一素材の樹脂溶液を調製し、前記樹脂溶液を、地面に対して水平±30°以内で、吐出口から凝固槽中に吐出して凝固させることを含む高分子水処理膜の製造方法及びこの高分子水処理膜を分離膜として用いるか、この高分子水処理膜の内部に活性汚泥によって生物処理された排水を通して水を分離する水処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子水処理膜及びその製造方法並びに水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、河川水及び地下水の除濁、工業用水の清澄、排水及び汚水処理、海水淡水化の前処理等の水の精製のために、高分子水処理膜が利用されている。
このような高分子水処理膜は、通常、水処理装置において分離膜として利用されており、例えば、ポリスルホン(PS)系、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)系、ポリエチレン(PE)系、酢酸セルロース(CA)系、ポリアクリロニトリル(PAN)系、ポリビニルアルコール(PVA)系、ポリイミド(PI)系等の種々の高分子材料によって形成された、中空糸状の多孔質膜が利用されている。特に、ポリスルホン系樹脂は、耐熱性、耐酸性、耐アルカリ性等の物理的及び化学的性質に優れ、また製膜も容易な点から、多用されている。
【0003】
中空糸状の多孔質膜は、微細孔に汚水を加圧供給することにより、一定サイズ以上の汚染物質のみを捕捉して水から汚染物質を除去する。一般に、このような高分子水処理膜に要求される性能としては、目的とする分離特性に加え、優れた透水性を有すること、物理的強度に優れていること、各種化学物質に対する安定性(つまり、耐薬品性)が高いこと、ろ過時に汚れが付着しにくい(つまり、耐汚染性)が優れていること等が挙げられる。
【0004】
例えば、長期の使用によっても汚染しにくく、その透水性も比較的高い酢酸セルロース系の中空糸分離膜が提案されている(特許文献1参照)。
しかし、この酢酸セルロース系分離膜は、機械的強度が小さく、耐薬品性も十分でない。したがって、分離膜が汚染した場合は、物理的又は薬品による化学的手段による洗浄を行うことが極めて困難であるという問題がある。
【0005】
また、物理的強度及び耐薬品性の双方に優れた、ポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる中空糸膜による高分子水処理膜が提案されている(特許文献2参照)。この高分子水処理膜は、曝気槽に直接浸漬して用いることも可能であり、汚染した場合であっても種々の化学薬品を用いて洗浄することが可能となる。
しかし、ポリフッ化ビニリデンは親水性が比較的小さく、耐汚染性が低い。
【0006】
近年の排水処理では、浸漬型MBR(膜分離活性汚泥法)が多く用いられている(特許文献3及び4参照)。この浸漬型MBRは、生物処理水槽中に浸漬した中空糸状又は平膜状の水処理膜を用いて吸引ろ過により処理水を得る方法であり、膜の外面に汚れが堆積することによるろ過効率の低下を防止するために、常時曝気によって膜表面の洗浄が行われている。
しかし、浸漬型MBRでの必要な曝気動力は多大な電力コストを伴い、ランニングコストの増大を招く。
【0007】
また、水処理は、それぞれ用途に応じて、内圧ろ過式と外圧ろ過式との使い分けが行なわれている。例えば、ろ過する液体がすでに純度の高い水道水のようなものである場合、内圧ろ過方式により、細い内径の中空糸膜に水を高圧供給する。これにより、高いろ過量にて水処理が可能となる。一方、濁度の高い水をろ過する場合、濁度成分によって膜内部の閉塞を避けるために、支持体との複合材料である大口径のチューブラー膜を採用するか、平膜による低圧にて、膜外表面に気流又は水流を供給して膜表面に濁度成分が堆積しないような運転方法を採用して、水処理が行なわれている。
【0008】
さらに、生物処理水槽に併設した中空糸膜の内部に生物処理水を流し、内圧によるろ過を行う内圧式(槽外式)MBRが提案されている。この内圧式MBRで用いられる水処理膜のモジュールでは、大小さまざまな固形分を含む生物処理水に起因するモジュール端面での固形分の堆積による閉塞が発生しないよう、内径が5〜10mm程度のチューブラー状の水処理膜が用いられている。
【0009】
しかし、平膜によるろ過では耐圧性能の問題から処理量を多くできないこと、膜表面への濁度成分の堆積を防ぐために原水供給ポンプ以外の設備やエネルギーが必要となるなどの課題がある。
また、チューブラー膜による処理は、水処理膜の内径大型化に従い、処理時の内圧への耐性が低下するため、強固な支持体もしくは膜厚の増大が必要となる。その一方、支持体を用いた場合は、膜表面に濁度成分をはじめとした汚れが堆積するため、処理量が低下した際に中空糸膜において通例行われる逆圧洗浄(逆洗)されるが、これにより、支持体に貼り付けられているチューブラー膜そのものの剥がれによる破損が発生しやすい。特に、高浮遊物質を含有する水処理に適した内圧式ろ過方式のチューブラー膜では、逆洗が実質的に不可能である。よって、逆洗以外の方法で透水量の低下を防ぐためにスポンジボールの使用、高い内部流速の維持など、システムの複雑化及び消費エネルギーの増大が余儀なくされることが現状である。
また、水処理膜の膜厚を増大させた場合には、処理水量に対する設置面積効率が低下するという新たな課題を招く。
【0010】
さらに、中空糸状の多孔質膜の製造方法では、従来から、樹脂と溶媒からなる樹脂溶液を二重管状の金型に通し、中空部となる内部に非溶媒による凝固水を送り、かつ、外部を凝固槽に浸漬して相分離を行なう非溶媒誘起相分離法(NIPS法)が利用されている(例えば、特許文献5等)。この方法では、金型から出た樹脂溶液を、一度空気に接触させ、樹脂溶液中の溶媒を蒸発させることによってスキン層を形成している。そのために、樹脂溶液を重力により鉛直方向に落下させてから凝固槽へ浸漬させ、その後、凝固槽中での樹脂成分の凝固により得られた膜を、ローラーなどのガイドに沿わせることにより、異なる引き取り方向に移送し、最終的に引き取り方向を水平にし、切断している。
【0011】
しかし、中空糸状の多孔質膜の口径が大きくなるにつれて、上記製膜方法における屈曲等によって、折れ、うねり、そり、偏肉等が発生する。また、巻き取りが困難となり、膜形状が扁平化するなど、均質な中空糸膜を製造することが極めて困難であり、その結果、上述した特性を十分に満足させる高分子水処理膜が得られないという課題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8−108053号公報
【特許文献2】特開2003−147629号公報
【特許文献3】特開2000−051885号公報
【特許文献4】特開2004−313923号公報
【特許文献5】特開2010−82509号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように、優れた透水性を有し、物理的強度に優れ、耐薬品性が高く、耐汚染性に優れているという全ての要求を満足させることができる高分子水処理膜が強く求められている。
また、このような特性を十分に満足させることができる膜を、簡便かつ確実に製造することができる製造方法の確立が望まれている。
【0014】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、機械的強度及び透水性等を確保しながら、水処理効率をさらに向上させた高分子水処理膜、簡便かつ確実に製造することができる高分子水処理膜の製造方法、効率的な水処理及びメンテナンスを実現することができる水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、内圧式MBRへの対応と、設置面積効率の向上とについて鋭意検討した結果、水処理膜の強度に着目し、これらを向上させることにより、上述したトレードオフとなる双方の特性を十分満足し得る水処理膜を得ることができることを見出した。
すなわち、外径と肉厚との比で規定されるSDR値を適宜に設計すること及び断面に現れる空孔割合及び形状を適宜に設計することによって、従来の中空糸膜よりも大きな内径を有し、かつろ過操作に伴う内外圧に十分耐え得る水処理膜を得ることができることを見出した。
さらに、膜の製造工程において、樹脂溶液の凝固槽内での反応/作用及び得られた膜の移送方法などについて鋭意検討した結果、特定の条件下における紡糸状態及び/又は特定の条件下で膜を移送/回収することにより、上述した特性を十分に満足させることができる膜を簡便かつ確実に製造することができる方法を見出し、本発明の完成に至った。
【0016】
すなわち、本発明の高分子水処理膜は、
外径が3.6mm〜10mm及び
外径と肉厚との比であるSDR値が、3.6〜34である略単一の主要構成素材による自立構造を有する中空糸膜からなることを特徴とする。
【0017】
このような高分子水処理膜は、以下の1以上を備えることが好ましい。
中空糸膜の径方向の断面において、
(a)前記中空糸膜の断面積に対する空孔率が30〜85%であり、
(b)短軸寸法10〜100μmの空孔が全空孔面積の80%以上であり、かつ
(c)中心から半径方向にわたって、最内層、内層、外層及び最外層と順次空孔が層状に分布しており、かつ前記内層及び外層における空孔の長軸寸法は、それぞれ、肉厚の20〜50%を占め、前記最内層及び最外層における空孔の長軸寸法は、それぞれ、肉厚の0〜20%を占める。
限外ろ過膜又は精密ろ過膜の分画性を有する。
膜の耐内圧強度が0.3MPa以上、
耐外圧強度が0.1MPa以上であり、かつ
純水の透水量が100L/m2・hr・atm以上である。
主要構成素材が、ポリ塩化ビニル、ポリ塩素化塩化ビニル又はこれらの塩化ビニル−塩素化塩化ビニル共重合体である。
前記塩化ビニル系樹脂の重合度が250〜3000である。
前記塩化ビニル系樹脂の塩素含有率が56.7〜73.2%である。
前記塩化ビニル系樹脂における塩化ビニル系モノマー単位の質量比が50〜99質量%である。
【0018】
略単一素材の樹脂溶液を調製し、
前記樹脂溶液を、地面に対して水平±30°以内で、吐出口から凝固槽中に吐出して凝固させることを含むことを特徴とする。
このような製造方法は、以下の1以上を備えることが好ましい。
略単一の主要構成素材の樹脂溶液を調製し、
該樹脂溶液を、該樹脂溶液の吐出方向が地面に対して水平方向に吐出口から凝固槽内に吐出して凝固させることを含む。
吐出口を供える紡糸金型を用い、該吐出口が非溶媒を含む凝固槽中に浸漬した状態で樹脂溶液を吐出する。
さらに、凝固槽中で得られた膜の切断を行うか又は
凝固槽外であって、前記吐出口よりも高い位置で膜の切断を行うことを含む。
樹脂溶液と非溶媒との比重差が1.0以内である。
【0019】
本発明の水処理方法は、上述した高分子水処理膜を分離膜として用いること、あるいは、上述した高分子水処理膜の内部に活性汚泥によって生物処理された排水を通して水を分離することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、機械的強度及び透水性等を確保しながら、水処理効率をさらに向上させた高分子水処理膜提供することができる。
また、本発明に記載した方法を用いることで、上述した特性を十分に満足させることができる高分子水処理膜を最も適切に、簡便かつ確実に製造することができる。
さらに、この高分子水処理膜を用いることにより、効率的な水処理及びメンテナンスを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の高分子水処理膜の径方向の断面を説明するための概略図である。
【図2】本発明の高分子水処理膜を備えた水処理ユニットを用いた内圧式MBRを説明するための概念図である。
【図3】本発明の高分子水処理膜の製造方法における樹脂溶液の吐出角度を説明するための概略図である。
【図4】本発明の高分子水処理膜の製造方法における樹脂溶液の吐出から膜の切断までの工程を説明するための概略図である。
【図5】比較例における樹脂溶液の引き取りを説明するための概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の高分子水処理膜は、主として、略単一の主要構成素材による自立構造を有する中空糸膜からなる膜である。
【0023】
(形態/構造)
本発明の高分子水処理膜は、言い換えると、略単一の主要構成素材で形成された単層構造を有する中空糸状の膜である。
【0024】
ここで単層構造とは、単一の素材から形成されていることを意味する。通常、強度が弱い素材は、より強度の強い素材(セラミック、不織布等)から形成される支持体との複合材料にしないと所望の形状、例えば、円筒形状、チューブ形状等を維持することができない。従って、従来の比較的大口径の水処理膜は、膜を形成する素材以外に、水処理膜としての使用時に、所望の形状を保持できるよう、膜を支持する構造体として、筒状のセラミック又は筒状に成形した不織布等を伴っていた。
一方、本発明の高分子水処理膜は、中空糸膜のみから形成されており、筒状などの所望の形状を変化させないような、異なる材料/素材(例えば、不織布、紙、金属、セラミック等)から形成される支持体を伴わない。言い換えると、本発明の高分子水処理膜は、単層構造で形成された膜を意味し、異なる材料/素材による積層構造を採らない。にもかかわらず、このような構造であっても、水処理膜としての使用時に円筒、チューブ形状等の所望の形状が保持されるほどに十分な強度を有し、すなわち「自立性/構造」を有している。従って、支持体レスで大口径膜を実現することができる。このため、逆洗時においても、ろ過機能を担当する膜部分が支持体から剥離することもなく、また、セラミック等の支持体を用いたチューブ形状膜等とは異なり、優れた透水性能を確保することができる。
【0025】
また、略単一の主要構成素材とは、上述したように、実質的に単一の素材から形成されていることを意味する。略単一とは、主要構成素材が1種であることを意味する。つまり、高分子水処理膜を形成する素材(例えば、高分子水処理膜を構成する樹脂)において、1種の樹脂が50質量%以上(好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上)を占めていることを意味し、その1種の樹脂の性質が構成素材の性質を支配していることをも意味する。具体的には、1種の樹脂が50〜99質量%を有する素材を意味する。
なお、単一の素材及び単一の主要構成素材には、後述する塩化ビニル系樹脂の製造の際、後述する中空糸膜の製造の際に通常用いられる添加剤は含まれないことを意図している。
【0026】
中空糸状の膜としては、例えば、その外径が3.6〜10mm程度、肉厚が0.15〜2.4mm程度の膜が挙げられる。
中空糸膜の強度は、材料、内径、肉厚、真円度、内部構造等の種々の要因によって決定されるが、なかでも、SDR値(外径と肉厚との比で計算される値)を用いることが有効であることを見出した。つまり、様々の実験を行なった結果、内外圧の耐圧性能として、例えば、0.3MPaを実現するためには、SDR値34程度以下に設計する必要があることが分かった。一方、SDR値を低減させる設計にすることは、水処理モジュールにおける膜ろ過面積の低下につながる。よって、これらのバランスを図る観点から、SDRは3.6程度以上であることが好ましい。
なかでも、4.0程度以上であることが好ましく、20程度以下であることが好ましく、16程度以下、11程度以下であることがより好ましい。特に、外径が5〜7mm程度の場合には、SDR値は4〜16程度とすることが好ましく、6.5〜11程度に設定することがより好ましい。
なお、内径は、その外径及び肉厚によって決定されるが、例えば、1.6〜9.4mm程度が挙げられ、4mm〜8mm程度が適しており、この場合、肉厚0.1mm〜2mm程度が適している。
【0027】
したがって、本発明の高分子水処理膜は、具体的には、
(1)外径が3.6mm〜10mm及びSDR値が、3.6〜34である略単一の主要構成素材による自立構造を有する中空糸膜からなる膜が挙げられる。
なかでも、外径が5〜7mm程度、SDR値が6.5〜11程度であることが好ましい。これにより、中空糸膜に内圧、外圧を印加した場合の強度を保ちながら、高濃度の排水を通水させた場合にも中空糸内が閉塞しない程度の大きさの内径を確保することが可能となる。
なお、膜の内外径、肉厚等は、電子顕微鏡写真等を用いた実測などによって測定することができる。
【0028】
また、(2)内径が3〜8mmであり、SDR値が4〜13である略単一の主要構成素材による自立構造を有する中空糸膜からなる膜、
(3)内径が1.6mm〜9.4mm及び肉厚が0.15mm〜2.4mmである略単一の主要構成素材による自立構造を有する中空糸膜からなる膜等が挙げられる。
【0029】
高分子水処理膜は、その表面に多数の微細孔を有する多孔質膜であることが好ましい。その微細孔の平均孔径は、例えば、0.001〜10μm程度、好ましくは0.01〜1μm程度が挙げられる。膜表面の細孔の大きさ及び密度は、上述した内径、肉厚、得ようとする特性等によって適宜調整することができ、例えば、後述する透過水量を実現することができる程度であることが適している。よって、このような微細孔の多孔によって、水処理膜としての機能を果たすとともに、この微細孔の大きさ及び密度等によって、例えば、限外ろ過膜又は精密ろ過膜の分画性を調整することができる。なお、一般に、限外ろ過膜は、孔の大きさが2〜200nm程度の膜、精密ろ過膜は、50nm〜10μm程度の膜であることが知られている。
【0030】
空孔率は、例えば、10〜90%程度、好ましくは20〜80%程度が挙げられる。ここでの空孔率は、任意の横断面(中空糸膜の径方向の断面、以下同じ)における高分子水処理膜の全面積に対する空孔の全面積の割合を意味し、例えば、膜横断面の顕微鏡写真から各面積を算出して求める方法が挙げられる。
【0031】
例えば、上述した(1)の場合、中空糸膜の径方向の断面において、
(a)前記中空糸膜の断面積に対する空孔率が30〜85%程度であることが好ましく、50〜85%程度、40〜75%程度又は50〜75%程度であることがより好ましい。
また、(b)短軸寸法10〜100μmの空孔が全空孔面積の80%程度以上であることが好ましく、83%程度以上、85%程度以上又は87%程度以上であることがより好ましい。
さらに、(c)中心から半径方向にわたって、最内層、内層、外層及び最外層を構成する空孔が層状に分布しており、かつ前記内層及び外層における空孔の長軸寸法は、それぞれ、肉厚の20〜50%程度を占めており、前記最内層及び最外層における空孔の長軸寸法は、それぞれ、肉厚の0〜20%程度を占めることがより好ましい。これにより、透水性能を保ちながら中空糸膜に内圧・外圧を印加した場合の応力集中を分散して膜全体の強度を保つことが可能となる。
【0032】
つまり、図1において、中空糸膜20の径方向の断面に示したように、空孔21は長軸方向が半径方向と一致するように比較的規則正しく各層を構成しており、例えば、最内層20d、内層20c、外層20b及び最外層20aを構成するようにそれぞれ配列/分布している。この場合の配列/分布は、明確に各層に分離できる程度に独立していてもよいが、他層を構成する空孔21が、一層を構成する空孔21の間に部分的に入れ子状に重なっていてもよい(図1のX参照)。
なお、このような各層における空孔の分布は、電子顕微鏡写真によって観察/測定することができる。
中空糸膜の最内層20には空孔21dが、内層20cには空孔21cが、外層20bには空孔21bが及び最外層20aには空孔21aが、それぞれ分布している。各層における空孔21の大きさは、例えば、図1に示す空孔21の長軸A及び/又は短軸Bが、±30%程度に比較的層ごとにそろっていることが好ましい。特に、内層20c及び外層20bにおける空孔21c、20bの長軸寸法は、それぞれ、肉厚の20〜50%程度を占めていることが好ましく、肉厚の25〜45%程度を占めていることが好ましい。空孔21c及び空孔20bのそれぞれの平均長軸寸法は、例えば、±30%程度に比較的そろっていることが好ましく、±15%程度がより好ましい。また、最内層20d及び最外層20aにおける空孔21d、21aの長軸寸法は、それぞれ、肉厚の0〜20%程度を占めることが好ましく、肉厚の5〜15%程度を占めていることが好ましい。空孔21d及び空孔20aのそれぞれの平均長軸寸法は、例えば、±30%程度に比較的そろっていることが好ましく、±15%程度がより好ましい。
【0033】
(材料/素材)
本発明の高分子水処理膜は、略単一の主要構成素材によって形成されており、このような主要構成素材としては、当該分野において使用される材料/素材を用いることができるが、なかでも、塩化ビニル系樹脂であることが適している。
塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル単独重合体(塩化ビニルホモポリマー)、共重合可能な不飽和結合を有するモノマーと塩化ビニルモノマーとの共重合体、重合体に塩化ビニルモノマーをグラフト共重合したグラフト共重合体、これらの塩化ビニルモノマー単位が塩素化されたものからなる(共)重合体等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。特に、耐汚染性を向上するために、親水性モノマーが共重合されていることが適している。
塩化ビニルモノマー単位の塩素化は、重合前に行われていてもよいし、重合した後に行われていてもよい。
また、塩化ビニル(塩素化塩化ビニルを含む)の共重合体とする場合には、塩化ビニルモノマー(塩素化塩化ビニルを含む)単位以外のモノマー単位の含有率は、本来の性能を阻害しない範囲とし、塩化ビニルモノマー由来の単位(塩素化塩化ビニルモノマー由来の単位を含む)を50質量%以上、例えば、50〜99質量%含むことが好ましい(ここでの質量計算では、塩化ビニル系樹脂中には、可塑剤、当該共重合体樹脂にブレンドされるその他の重合体を含まない)。
塩化ビニル系樹脂には、別のモノマー又はポリマーがブレンドされていてもよい。特に、耐汚染性を向上するために、親水性モノマー含有共重合体又は親水化ポリマーをブレンドすることが好ましい。この場合、塩化ビニル系樹脂が、膜を構成する全樹脂に対して50質量%以上(好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上)で含有され、ブレンドされるモノマー又はポリマーは、全樹脂の50質量%未満である。
【0034】
塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有するモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、トルイル(メタ)アクリレート、キシリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−ブトキシ(メタ)アクリレート、2−フェノキシ(メタ)アクリレート、3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、3−エトキシプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸誘導体;エチレン、プロピレン、ブチレン等のα−オレフィン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;ブチルビニルエーテル、セチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニルビニル類;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のN−置換マレイミド類、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、アクリロニトリル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。例えば、さらなる柔軟性や対汚染性、耐薬品性を付与するため、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、エチレン、プロピレン、フッ化ビニリデンを共重合又はブレンドすることが適している。
【0035】
塩化ビニルにグラフト共重合する重合体としては、塩化ビニルにグラフト重合させることができるものであれば特に限定されず、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−一酸化炭素共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−ブチルアクリレート−一酸化炭素共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリウレタン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0036】
さらに、高分子膜を構成するモノマー材料として、架橋性モノマーを用いてもよい。架橋性モノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,2−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル類;
N−メチルアリルアクリルアミド、N−ビニルアクリルアミド、N,N'−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、ビスアクリルアミド酢酸等のアクリルアミド類;
ジビニルベンゼン、ジビニルエーテル、ジビニルエチレン尿素等のジビニル化合物;
ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジアリルアミン、トリアリルアミン、トリアリルアンモニウム塩、ペンタエリスリトールのアリルエーテル化体、分子中に少なくとも2個のアリルエーテル単位を有するスクローゼのアリルエーテル化体等のポリアリル化合物;
ビニル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート等の不飽和アルコールの(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0037】
親水性モノマーとしては、例えば、
(1)アミノ基、アンモニウム基、ピリジル基、イミノ基、ベタイン構造等のカチオン性基含有ビニルモノマー及び/又はその塩(以下、「カチオン性モノマー」と記載することがある)、
(2)水酸基、アミド基、エステル構造、エーテル構造等の親水性の非イオン性基含有ビニルモノマー(以下、「非イオン性モノマー」と記載することがある)、
(3)カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等のアニオン性基含有ビニルモノマー及び/又はその塩(以下、「アニオン性モノマー」と記載することがある)
(4)その他のモノマー等が挙げられる。
【0038】
具体的には、
(1)カチオン性モノマーとしては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジイソプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジイソブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジt−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジプロピルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジイソプロピルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジブチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジイソブチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジt−ブチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の炭素数2〜44のジアルキルアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル又は(メタ)アクリルアミド;
ジメチルアミノスチレン、ジメチルアミノメチルスチレン等の総炭素数2〜44ジアルキルアミノ基を有するスチレン;
2−又は4−ビニルピリジン等のビニルピリジン;N−ビニルイミダゾール等のN−ビニル複素環化合物類;
【0039】
アミノエチルビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニル等のビニルエーテル類;等のアミノ基を有するモノマーの酸中和物又はこれらのモノマーをハロゲン化アルキル(炭素数1〜22)、ハロゲン化ベンジル、アルキル(炭素数1〜18)もしくはアリール(炭素数6〜24)スルホン酸又は硫酸ジアルキル(総炭素数2〜8)等により4級化したもの;
【0040】
ジメチルジアリルアンモニウムクロライド、ジエチルジアリルアンモニウムクロライド等のジアリル型4級アンモニウム塩、N−(3−スルホプロピル)−N−(メタ)アクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウムベタイン、N−(3−スルホプロピル)−N−(メタ)アクリロイルアミドプロピル−N,N−ジメチルアンモニウムベタイン、N−(3−カルボキシメチル)−N−(メタ)アクリロイルアミドプロピル−N,N−ジメチルアンモニウムベタイン、N−カルボキシメチル−N−(メタ)アクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウムベタイン等のベタイン構造を有するビニルモノマー等のモノマーが例示される。
これらのカチオン性基の中でも、アミノ基及びアンモニウム基含有モノマーが好ましい。
【0041】
(2)非イオン性モノマーとしては、ビニルアルコール;
N−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド等のヒドロキシアルキル(炭素数1〜8)基を有する(メタ)アクリル酸エステル又は(メタ)アクリルアミド;
ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート(エチレングリコールの重合度が1〜30)等の多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル;
(メタ)アクリルアミド;
N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−t−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−イソブチル(メタ)アクリルアミド等のアルキル(炭素数1〜8)(メタ)アクリルアミド;
N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド等のジアルキル(総炭素数2〜8)(メタ)アクリルアミド;
ジアセトン(メタ)アクリルアミド;N−ビニルピロリドン等のN−ビニル環状アミド;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(炭素数1〜8)基を有する(メタ)アクリル酸エステル;
N−(メタ)アクロイルモルホリン等の環状アミド基を有する(メタ)アクリルアミドが例示される。
なかでも、ビニルアルコール、(メタ)アクリルアミド系モノマー及び上記のヒドロキシアルキル(炭素数1〜8)基を有する(メタ)アクリル酸エステル、上記の多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。
【0042】
(3)アニオン性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等の重合性の不飽和基を有するカルボン酸モノマー及び/又はその酸無水物(1つのモノマー中に2つ以上のカルボキシル基を有する場合);
スチレンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−アルキル(炭素数1〜4)プロパンスルホン酸等の重合性の不飽和基を有するスルホン酸モノマー;
ビニルホスホン酸、(メタ)アクリロイロキシアルキル(炭素数1〜4)リン酸等の重合性の不飽和基を有するリン酸モノマー等が例示される。
アニオン性基は、塩基性物質により任意の中和度に中和されてもよい。この場合、ポリマー中の全てのアニオン性基又はその一部のアニオン性基は、塩を生成する。ここで、塩における陽イオンとしては、アンモニウムイオン、総炭素数3〜54のトリアルキルアンモニウムイオン(例えば、トリメチルアンモニウムイオン、トリエチルアンモニウムイオン)、炭素数2〜4のヒドロキシアルキルアンモニウムイオン、総炭素数4〜8のジヒドロキシアルキルアンモニウムイオン、総炭素数6〜12のトリヒドロキシアルキルアンモニウムイオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等が例示される。
中和は、モノマーを中和しても、ポリマーにしてから中和してもよい。
【0043】
(4)上述したビニルモノマー以外、N−ビニル−2−ピロリドン、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート等の水素結合可能な活性部位を有するモノマーであってもよい。
【0044】
上記塩化ビニル系樹脂の製造方法は、特に限定されず、従来公知の任意の重合方法を利用することができる。例えば、塊状重合方法、溶液重合方法、乳化重合方法、懸濁重合方法等が挙げられる。
塩素化の方法としては、特に限定されるものではなく、当該分野で公知の方法、例えば、特開平9−278826号公報、特開2006−328165号公報、国際公開WO/2008/62526号等に記載の方法を使用することができる。なお、塩化ビニル系樹脂の塩素含有率は、56.7〜73.2%であることが好ましい。また、塩素化塩化ビニル系樹脂としての塩素含有率は、58〜73.2%であるものが適しており、60〜73.2%であるものが好ましく、67〜71%であるものがより好ましい。
【0045】
塩化ビニル系樹脂は、重合度が250〜3000程度であることが好ましく、500〜1300であることがより好ましい。重合度が低すぎると、紡糸する際の溶液粘度が低下し、製膜作業が困難となり、また、作成した水処理膜の強度が乏しくなる傾向がある。一方、重合度が高すぎると、粘度が高くなりすぎることに起因して、製膜された水処理膜に気泡の残留をもたらす傾向がある。ここでの重合度はJIS K 6720−2に準拠して測定した値を意味する。
重合度を上記の範囲に調整するためには、反応時間、反応温度等の当該分野において公知の条件を適宜調節することが好ましい。
【0046】
本発明の高分子水処理膜は、なかでも、ポリ塩化ビニル(ホモポリマー)、ポリ塩素化塩化ビニル(ホモポリマー)又は塩化ビニルと塩素化塩化ビニルとのコポリマーによって形成されていることが好ましい。
ただし、本発明の高分子水処理膜を構成する塩化ビニル系樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲にて、製膜時における成形性、熱安定性等を向上させる目的で、添加剤、例えば、滑剤、熱安定剤、製膜助剤等をブレンドしてもよい。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
滑剤としては、ステアリン酸、パラフィンワックス等が挙げられる。
熱安定剤としては、一般に塩化ビニル系樹脂の成形に用いられる錫系、鉛系、Ca/Zn系の各安定剤が挙げられる。
製膜助剤としては、各種重合度のポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン等の親水性高分子が挙げられる。
【0047】
(性能)
本発明の高分子水処理膜は、膜間差圧100kPaにおける純水の透過水量が100L/(m2・h)程度以上、200L/(m2・h)程度以上であることが適しており、600L/(m2・h)程度以上であることが好ましく、800L/(m2・h)程度以上であることがより好ましく、1000L/(m2・h)程度以上であることがさらに好ましい。
また、膜の耐内圧強度が0.3MPa程度以上であることが好ましく、0.35MPa程度以上又は0.4MPa程度以上がより好ましい。
膜の耐外圧強度が0.1MPa程度以上であることが好ましく、0.15MPa程度以上又は0.2MPa程度以上がより好ましい。
なかでも、膜間差圧100kPaにおける純水の透過水量が100L/(m2・h)程度以上、膜の耐内圧強度が0.3MPa程度以上かつ耐外圧強度が0.1MPa程度以上であることがより好ましい。
【0048】
(製法)
高分子水処理膜は、熱誘起相分離法(TIPS)、非溶媒誘起相分離法(NIPS)、延伸法など、当該分野で公知の方法のいずれを利用して製造してもよい。なかでも、NIPS法によって製造することが好ましい。
【0049】
例えば、NIPS法を利用する場合、膜を構成する材料(樹脂)及びその良溶媒、任意に添加物からなる樹脂溶液を調製する。この場合の良溶媒は特に限定されるものではなく、材料(樹脂)の種類等によって適宜選択することができる。例えば、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。
この場合の樹脂溶液の濃度及び粘度等は特に限定されないが、例えば、500〜4000mPa・s程度の粘度とすることが適しており、1000〜3000mPa・s程度が好ましい。これにより、紡糸ライン中で中空糸膜の外形の真円度を確保することができ、均一な太さ・膜厚の膜を製造することができる。
また別の観点から、後述する非溶媒との比重差を1.0以内に調製することが適しており、0.8以内が好ましく、さらに0.2以内がより好ましい。これにより、膜の引き取り中に、凝固槽内で膜自体が浮いたり又は沈んだり、扁平することを有効に防止することができる。
【0050】
上述した樹脂溶液を凝固させるために、通常、図4に示すような凝固槽30が用いられる。凝固槽30には、非溶媒が充填されている。
通常、樹脂溶液を紡糸するために同心円状の2重ノズル形状となった吐出口を供えた紡糸金型が用いられる。この紡糸金型は、凝固槽30に紡糸できるように凝固槽の内又は外あるいは外から内に及んで配置されていてもよい。例えば、吐出口(図示せず)を供えた紡糸金型31が、凝固槽30内部に、つまり、非溶媒に浸漬されて配置されているものが挙げられる。このように、凝固槽30内部に紡糸金型31が配置されている場合には、樹脂溶液が空気に触れることなく非溶媒中に直接吐出され、速やかに液−液相分離が開始されるため、表面に緻密なスキン層が形成されず、多孔質な表面となる。すなわち、ろ過抵抗が低下することに起因してすぐれた透水量を発現させることができる。また、後述する水平方向への紡糸においても、本発明による凝固槽中に金型を浸漬させる方式によれば、空気中であらかじめ樹脂溶液を吐出した状態から凝固槽中に金型を沈めることにより、常に吐出され続ける樹脂溶液のために、紡糸開始時にノズル先端で生じる吐出抵抗増大に伴う詰まりを回避することができる。
【0051】
凝固槽外部に紡糸金型を水平に配置する場合にも同様に本発明に記載される水平方向への紡糸は可能であり、この場合、紡糸を開始する手順として以下の2つが考えられる。例えば、(1)凝固槽の側面の開口部から非溶媒が流出し続けているところに、樹脂溶液を吐出しながら紡糸金型の吐出口を挿入し、樹脂溶液を凝固槽中に導く方法及び(2)予め紡糸金型の吐出口を凝固槽側面に設置又は固定してから樹脂溶液の吐出を開始し、凝固槽中に樹脂溶液を吐出する方法である。
(1)では、非溶媒が流出する流れと紡糸金型の吐出口からの樹脂溶液の流れが正反対の方向になり、紡糸金型の吐出口より吐出される樹脂溶液は紡糸開始時に大きな吐出抵抗を受けることとなる。そのため、紡糸金型の吐出口近傍での流れの停滞が起こり、その部分での樹脂の固化が進行し、結果として紡糸金型の吐出口が閉塞する可能性が高くなる。
(2)では、紡糸開始前に凝固槽中の非溶媒が、樹脂溶液が流れるべき紡糸金型の吐出口に逆流し、紡糸開始時に紡糸金型の吐出口内部で樹脂溶液が固化する可能性が高い。
これらのことは本発明を工業的に実施するにあたり、製膜開始時の作業性を著しく低下させると考えられる。加えて、全体的もしくは部分的な詰まりが吐出口に残留することにより、膜の正常な形成を妨げ、結果として強度の低下・透水性能の低下を引き起こすことが考えられる。発明者らは、上記事情を鑑み、鋭意検討を重ねた結果、本発明の実施形態としては金型(吐出口)を凝固槽中に浸漬する手法が最も適切であると突き止めた。
【0052】
紡糸金型31からの樹脂溶液の吐出方向(図3の32)、つまり、吐出口から排出される樹脂溶液の方向は、例えば、凝固槽30の底面30aに対して±30°(図3の33)以内となるように調整されていることが好ましい。言い換えると、地面に対して±30°以内に、樹脂溶液が吐出するように吐出方向が調整されていることが好ましい。なかでも、凝固槽30a又は地面に対して水平又は略水平(±5°程度)で吐出するように調整されていることがより好ましい。
これまで一般的に採用されてきた、紡糸金型から鉛直方向への樹脂溶液吐出の方式では、従来の中空糸膜であれば全体の外径が小さいため、引取り方向の変化に対しても比較的柔軟に追従し、膜の偏平・折れ曲がりなどの形状悪化を引き起こすことはなかった。
【0053】
一方、発明者らのこれまでの検討によれば、本発明において示されるSDR値の範囲における高分子水処理膜は従来中空糸膜と比べ外径が大きくなるため、上記鉛直方向もしくは本発明で示される範囲から外れた角度での吐出方式では、紡糸方向の変化に対して凝固中のまだ柔軟な状態の高分子水処理膜が耐え切れず、膜の偏平・折れ曲がりなどの形状面の重大な不具合が発生し、膜の強度が著しく低下することがわかった。発明者らは上記事実に鋭意検討を加え、本発明において示される高分子水処理膜の作製に当たって、樹脂溶液を紡糸金型から水平方向に吐出させることと、かつ紡糸金型を凝固水槽中に浸漬させて紡糸を行うことが最も適切な手法であることを突き止めた。
【0054】
すなわち、本発明で示されるSDR値の範囲で、製膜時の膜の偏平・折れ曲がりなどの形状面の重大な不具合を回避し、支持体を持たない単層の膜でありながら、すぐれた強度と透水量とを有し、生物処理された排水のような高濃度の排水に対しても膜の末端で詰まることのない高分子水処理膜の作製には、水中に浸漬した紡糸金型からの水平方向への紡糸が最も適切であることを突き止めた。
【0055】
凝固槽に充填されている非溶媒としては、上述した樹脂溶液の種類により適宜選択することができるが、例えば、主成分が水であるものが好ましい。
凝固槽中の非溶媒は、樹脂溶液に直接接触するものであることから、吐出口から吐出される樹脂溶液の温度(又は紡糸金型)と、非溶媒の温度との差を、100℃程度以内とすることが好ましい。これにより、樹脂溶液の急激な温度低下およびそれに伴う樹脂溶液の粘度の急上昇による紡糸金型の吐出口近傍での詰まりを防止することができる。また、非溶媒の温度を一定に保つことにより、樹脂溶液の相分離挙動を安定に維持することができ、透水性能・強度などの性能を安定的に発現させることが可能となる。
【0056】
製膜の際の膜の引き取りは、一般に直線方向に行うことが好ましい。本発明では、上述したように、吐出口が凝固槽内において水平±30°に保持されていることにより、樹脂溶液の吐出後に膜の引き取り方向を変化させずに、一定の速度及び均一な荷重を維持した引き取りが容易となる。これにより、膜構造の変形を最小限に留めることが可能となる。
【0057】
膜の引き取り後の切断は、凝固槽内で行なっても、槽外で行なってもよい。特に、図4に示したように、凝固槽30外で膜34を切断する場合には、切断35は、凝固槽30内の紡糸金型31の吐出口の位置37よりも高い切断位置38で行うことが好ましい。これによって、サイフォン効果による吐出された膜の先端からの内部凝固液の流出を防止し、そのことで膜内部の内部凝固液の圧力変化を最小限に留めることで、膜形状の扁平化をはじめとした、膜形状のバラつきを防止することができ、膜形状の安定化に効果を発揮する。この観点から、凝固槽内で切断する場合には、その切断する位置は特に限定されない。
【0058】
本発明の高分子水処理膜は、透過水量と物理的強度とのバランスに優れている。従って、分離膜として既存の水処理装置に好適に利用され、水の精製を目的とする好適な水処理、特に、高濃度排水の水処理が可能となる。このような特性を有する本発明の高分子水処理膜は、限外濾過(UF)膜及び精密濾過(MF)膜として好適に利用することができる。
【0059】
本発明の水処理方法は、特に限定されるものではなく、上述した本発明の高分子水処理膜を用いること以外、その対象、用途等に応じて、当該分野で公知の方法により実現することができる。
例えば、近年採用が増えている浸漬型MBR(膜分離活性汚泥法)での使用が挙げられ、この場合、中空糸形状の水処理膜よりなるユニットに対して活性汚泥処理槽から活性汚泥によって生物的に処理された排水をポンプによって引き込み、ユニット内部に束ねられた本発明において示される高分子水処理膜の内部に流し込み、膜の内側から外側に圧力をかけることにより内圧ろ過によって水処理を行うことができる。
また、例えば、図2に示した内圧式MBRでの使用が有利である。例えば、高分子水処理膜の中空内部に活性汚泥を通して水を分離する方法に用いてもよい。具体的には、矢印Aに示したように、排水が嫌気槽11及び活性汚泥槽12と順次送られ、活性汚泥槽12で所定の浄化が行われた後、矢印Bに示したように、処理水を含む活性汚泥をポンプで引抜するとともに、複数の中空糸水処理膜13を円筒状ケースの中に収容し、端部を封止材14で封止された水処理モジュール10を用い、中空糸水処理膜13の中空内部に処理水を含む活性汚泥を0.3MPa以上の圧を負荷して通水し、中空糸処理膜を通して分離された矢印Dに示す処理水と、活性汚泥とに分離する方法が例示される。なお、分離された活性汚泥は、矢印Cに示すように活性汚泥槽12に戻され、再利用される。活性汚泥の濃度は3000ppm〜12000ppmが好ましい。
本発明による高分子水処理膜は、十分な強度を保ちながら従来中空糸形状の水処理膜に比べて大きな内径をもつため、生物処理された排水のような、比較的大きなフロックが含まれた排水を内圧ろ過する際にも、膜の端面、すなわち排水が導入される入り口で膜が詰まることがない。このことは従来の中空糸形状の水処理膜には見られない特徴である。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の高分子水処理膜及び水処理方法を、実施例に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、これら実施例のみに限定されるものではない。
【0061】
実施例1
《製膜》
塩素化塩化ビニル樹脂として積水化学工業株式会社製、HA31K(塩素化度67%、重合度800)を25重量%と、製孔助剤としてポリエチレングリコール400を20重量%とを、ジメチルアセトアミドに溶解した。この樹脂溶液を紡糸金型により連続的にほぼ水平に凝固槽内(水充填)に吐出させ、凝固槽にて相分離させることによって多孔質の中空糸膜を得た。
図4に示したように、膜34の紡糸方向を水平方向とし、凝固槽30内(水充填)において、紡糸金型31の吐出口から10m一直線に水平方向36)に引き取った。その下流1m程度の間で、膜34をローラー39により10cm程度持ち上げ、凝固槽30外であって、凝固槽30内の紡糸金型31の吐出口の位置37よりも高い切断位置38で、切断機によって切断35した。
《強度評価》
得られた膜は、外径5.4mm、SDR値18(内径4.8mm)で、折れ、曲がり、うねり、そり及び偏肉のない均一な形状であった。
耐圧性能は、内圧0.5MPa、外圧0.3MPaであった。
また、引張破断強度は33N/本、引張破断伸び50%であった。
径方向の断面における空孔の占める面積の割合は75%であった。空孔は、最外層及び最内層では、それぞれ、幅(短軸方向の長さ:図1のB)10μmであり、長さ(長軸方向の長さ:図1のA)が肉厚の5%であった。外層及び内層では、それぞれ、幅20μmであり、長さが肉厚の約40%であった。これら空孔、つまり、短軸寸法10〜100μmの空孔は、全空孔の断面積の総和の約85%であった。
《透水性評価》
中空糸膜単糸を用いて図2に示すような水処理モジュールを作製し、純水における透水性能200L/m2 hr・atmを確認した。
また、MLSS3000の活性汚泥を用いて、図2に示すような装置を用いて透水試験を行った結果、逆洗工程も含めて150〜100L/m2・hr・atmの透水性能を確認した。同様にSS50程度の工場排水において180〜150L/m2・hr・atmの透水性能を確認した。
なお、MLSS3000程度の生物処理水とは、活性汚泥浮遊物質3000mg/リットル、SS50程度の工場排水とは、浮遊物質量が50mg/リットルを意味する。
また、100ppm濃度のγグロブリン水溶液を用いて、処理時の内水圧を0.05MPaで、25℃にてろ過したところ、純水透水性能と比較した相対透水率は、約80%であった。このときのグロブリン阻止率は99%以上であった。
【0062】
上記結果から、本発明による高分子水処理膜は、大口径にもかかわらず、水処理膜として十分な耐内外水圧強度0.3MPa以上の機械的強度と、100L/m2・hr・atm以上の透水性等を確保しながら、特に、透過水量と引張強度とのバランスに優れていることが確認された。加えて、固形分の堆積による閉塞が発生しにくく、高SS(高浮遊物質量)排水の処理においてプレフィルターや沈殿等の前処理なしでろ過が可能であることが証明された。
【0063】
実施例2
《製膜》
塩素化塩化ビニル樹脂として積水化学工業株式会社製、HA31K(塩素化度67%、重合度800)を25重量%と、製孔助剤としてポリエチレングリコール400を20重量%とを、テトラヒドロフランに溶解した。この樹脂溶液を紡糸金型により連続的にほぼ水平に凝固槽内(水充填)に吐出させ、凝固槽にて相分離させることによって多孔質の中空糸膜を得た。
図4に示したように、膜34の紡糸方向を水平方向とし、凝固槽30内(水充填)において、紡糸金型31の吐出口から10m一直線に水平方向36)に引き取った。その下流1m程度の間で、膜34をローラー39により10cm程度持ち上げ、凝固槽30外であって、凝固槽30内の紡糸金型31の吐出口の位置37よりも高い切断位置38で、切断機によって切断35した。
【0064】
《強度評価》
得られた膜は、外径5.1mm、SDR値は8.5で、折れ、曲がり、うねり、そり及び偏肉のない均一な形状であった。
耐圧性能は、内圧0.9MPa、外圧0.4MPaであった。
また、引張破断強度は45N/本、引張破断伸び50%であった。
《透水性評価》
中空糸膜単糸を用いて図2に示すような水処理モジュールを作製し、純水における透水性能120L/m2・hr・atmを確認した。
MLSS3000の活性汚泥と、図2に示すような装置を用いて透水試験を行った結果、逆洗工程も含めて100〜50L/m2・hr・atmの透水性能を確認した。同様にSS50程度の工場排水において110〜80L/m2・hr・atmの透水性能を確認した。
100ppm濃度のγグロブリン水溶液を用いて、処理時の内水圧を0.05MPaで、25℃にてろ過したところ、純水透水性能と比較した相対透水率は、約80%であった。このときのグロブリン阻止率は99%以上であった。
【0065】
実施例3
《製膜》
塩素化塩化ビニル樹脂として積水化学工業株式会社製、HA05K(塩素化度67%、重合度500)を22重量%と、製孔助剤としてポリエチレングリコール400を22重量%とを、ジメチルアセトアミドに溶解した。この樹脂溶液を紡糸金型により連続的にほぼ水平に凝固槽内(水充填)に吐出し、凝固槽にて相分離させることによって多孔質の中空糸膜を得た。
図4に示したように、膜34の紡糸方向を水平方向とし、凝固槽30内(水充填)において、紡糸金型31の吐出口から10m一直線に水平方向36)に引き取った。その下流1m程度の間で、膜34をローラー39により10cm程度持ち上げ、凝固槽30外であって、凝固槽30内の紡糸金型31の吐出口の位置37よりも高い切断位置38で、切断機によって切断35した。
【0066】
《強度評価》
得られた膜は、外径4.6mm、SDR値は5.8で、折れ、曲がり、うねり、そり及び偏肉のない均一な形状であった。
耐圧性能は、内圧0.7MPa、外圧0.5MPaであった。
また、引張破断強度は40N/本、引張破断伸び50%であった。
《透水性評価》
中空糸膜単糸を用いて図2に示すような水処理モジュールを作製し、純水における透水性能450L/m2 hr・atmを確認した。
MLSS3000の活性汚泥と、図2に示すような装置を用いて透水試験を行った結果、逆洗工程も含めて300〜200L/m2・hr・atmの透水性能を確認した。同様にSS50程度の工場排水において400〜300L/m2・hr・atmの透水性能を確認した。
100ppm濃度のγグロブリン水溶液を用いて、処理時の内水圧を0.05MPaで、25℃にてろ過したところ、純水透水性能と比較した相対透水率は、約80%であった。このときのグロブリン阻止率は99%以上であった。
【0067】
比較例1:高SDR
《製膜》
塩素化塩化ビニル樹脂として積水化学工業株式会社製、HA31K(塩素化度67%、重合度800)を25重量%と、製孔助剤としてポリエチレングリコール400を20重量%とを、ジメチルアセトアミドに溶解した。この樹脂溶液を紡糸金型により連続的にほぼ水平に凝固槽内(水充填)に吐出させ、凝固槽にて相分離させることによって多孔質の中空糸膜を得た。
図4に示したように、膜34の紡糸方向を水平方向とし、凝固槽30内(水充填)において、紡糸金型31の吐出口から10m一直線に水平方向36)に引き取った。その下流1m程度の間で、膜34をローラー39により10cm程度持ち上げ、凝固槽30外であって、凝固槽30内の紡糸金型31の吐出口の位置37よりも高い切断位置38で、切断機によって切断35した。
《強度評価》
得られた膜は、外径5.1mm、SDR値は40で、折れ、曲がり、うねり、そり及び偏肉のない均一な形状であった。
しかし、耐圧性能は、内圧0.2MPa、外圧0.08MPaであり、水処理膜としての性能を発揮することができなかった。
【0068】
比較例2:垂直押し出し
《製膜》
塩素化塩化ビニル樹脂として積水化学工業株式会社製、HA31K(塩素化度67%、重合度800)を25重量%と、製孔助剤としてポリエチレングリコール400を20重量%とを、ジメチルアセトアミドに溶解した。この樹脂溶液を紡糸金型により連続的に垂直に凝固槽内(水充填)に吐出させ、凝固槽にて相分離させることによって多孔質の中空糸膜を得た。
図5に示したように、膜40の紡糸方向を垂直とし、膜40aを、3cmのエアギャップを通じて凝固槽30(水充填)に入れ、金型出口から1メートル下流で、ガイドローラー41によって、膜40aの引き取り方向を300°方向転換し、再度ガイドローラー42によって、膜40bの引き取り方向を30°方向転換し、約8m一直線に引き取った。その下流約1mで、ローラーにより10cm程度持ち上げ、凝固槽30外であって、凝固槽30内の紡糸金型31の吐出口の位置37よりも高い切断位置38で、切断機によって切断35した。
《強度評価》
得られた膜は、おおよそ外径5.4mm、SDR値18ではあったが、折れ、曲がり、うねり、そり及び偏肉等のある不均一な形状であった。
【0069】
実施例1〜実施例3及び比較例1〜比較例2を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
実施例4:CPVC
《製膜》
塩素化塩化ビニル樹脂として積水化学工業株式会社製、HA31K(塩素化度67%、重合度800)を18重量%と、製孔助剤としてポリビニルピロリドンを15重量%とを、ジメチルアセトアミドに溶解した。この樹脂溶液を紡糸金型により連続的にほぼ水平に凝固槽内(水充填)に吐出させ、凝固槽にて相分離させることによって多孔質の中空糸膜を得た。
図4に示したように、膜34の紡糸方向を水平方向とし、凝固槽30内(水充填)において、紡糸金型31の吐出口から10m一直線に水平方向36)に引き取った。その下流1m程度の間で、膜34をローラー39により10cm程度持ち上げ、凝固槽30外であって、凝固槽30内の紡糸金型31の吐出口の位置37よりも高い切断位置38で、切断機によって切断35した。
【0072】
《強度評価》
得られた膜は、外径5.6mm、SDR値11.2で、折れ、曲がり、うねり、そり及び偏肉のない均一な形状であった。
耐圧性能は、内圧0.6MPa、外圧0.4MPaであった。
《透水性評価》
中空糸膜単糸を用いて図2に示すような水処理モジュールを作製し、純水における透水性能300L/m2・hr・atmを確認した。
MLSS3000の活性汚泥と、図2に示すような装置を用いて透水試験を行った結果、逆洗工程も含めて150〜100L/m2・hr・atmの透水性能を確認した。同様にSS50程度の工場排水において250〜200L/m2・hr・atmの透水性能を確認した。
また、100ppm濃度のγグロブリン水溶液を用いて、処理時の内水圧を0.05MPaで、25℃にてろ過したところ、純水透水性能と比較した相対透水率は、約80%であった。このときのグロブリン阻止率は99%以上であった。
これらの結果を表2に示す。
【0073】
実施例5:CA
《製膜》
セルローストリアセテート24重量%と、製孔助剤としてトリエチレングリコール15.4重量%とを、N−メチル2−ピロリドンに溶解した。この樹脂溶液を紡糸金型により連続的にほぼ水平に凝固槽内(水充填)に吐出させ、凝固槽にて相分離させることによって多孔質の中空糸膜を得た。
図4に示したように、膜34の紡糸方向を水平方向とし、凝固槽30内(水充填)において、紡糸金型31の吐出口から10m一直線に水平方向36)に引き取った。その下流1m程度の間で、膜34をローラー39により10cm程度持ち上げ、凝固槽30外であって、凝固槽30内の紡糸金型31の吐出口の位置37よりも高い切断位置38で、切断機によって切断35した。
【0074】
《強度評価》
得られた膜は、外径5.6mm、SDR値11.2で、折れ、曲がり、うねり、そり及び偏肉のない均一な形状であった。
耐圧性能は、内圧0.5MPa、外圧0.3MPaであった。
《透水性評価》
中空糸膜単糸を用いて図2に示すような水処理モジュールを作製し、純水における透水性能700L/m2 hr・atmを確認した。
MLSS3000の活性汚泥と、図2に示すような装置を用いて透水試験を行った結果、逆洗工程も含めて400〜300L/m2・hr・atmの透水性能を確認した。同様にSS50程度の工場排水において600〜500L/m2・hr・atmの透水性能を確認した。
また、100ppm濃度のγグロブリン水溶液を用いて、処理時の内水圧を0.05MPaで、25℃にてろ過したところ、純水透水性能と比較した相対透水率は、約80%であった。このときのグロブリン阻止率は99%以上であった。
これらの結果を表2に示す。
【0075】
実施例6:PES
《製膜》
ポリエーテルサルフォン22重量%と、製孔助剤としてポリビニルピロリドン5重量%とを、N−メチル2−ピロリドンに溶解した。この樹脂溶液を紡糸金型により連続的にほぼ水平に凝固槽内(水充填)に吐出させ、凝固槽にて相分離させることによって多孔質の中空糸膜を得た。
図4に示したように、膜34の紡糸方向を水平方向とし、凝固槽30内(水充填)において、紡糸金型31の吐出口から10m一直線に水平方向36)に引き取った。その下流1m程度の間で、膜34をローラー39により10cm程度持ち上げ、凝固槽30外であって、凝固槽30内の紡糸金型31の吐出口の位置37よりも高い切断位置38で、切断機によって切断35した。
《強度評価》
得られた膜は、内径5.6mm、SDR値11.2で、折れ、曲がり、うねり、そり及び偏肉のない均一な形状であった。
耐圧性能は、内圧0.5MPa、外圧0.3MPaであった。
《透水性評価》
中空糸膜単糸を用いて図2に示すような水処理モジュールを作製し、純水における透水性能300L/m2 hr・atmを確認した。
MLSS3000の活性汚泥と、図2に示すような装置を用いて透水試験を行った結果、逆洗工程も含めて200〜150L/m2・hr・atmの透水性能を確認した。同様にSS50程度の工場排水において250〜200L/m2・hr・atmの透水性能を確認した。
また、100ppm濃度のγグロブリン水溶液を用いて、処理時の内水圧を0.05MPaで、25℃にてろ過したところ、純水透水性能と比較した相対透水率は、約80%であった。このときのグロブリン阻止率は99%以上であった。
これらの結果を表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
実施例7〜14:強度とSDR
《製膜》
塩素化塩化ビニル樹脂として積水化学工業株式会社製、HA31K(塩素化度67%、重合度800)を18重量%と、製孔助剤としてポリビニルピロリドンを15重量%とを、ジメチルアセトアミドに溶解した。この樹脂溶液を紡糸金型により連続的にほぼ水平に凝固槽内(水充填)に吐出させ、凝固槽にて相分離させることによって多孔質の中空糸膜を得るが、このとき樹脂溶液の吐出量、内部凝固液の吐出量、引き取り速度などを変更し、種々の形状の膜を製膜した。
図4に示したように、膜34の紡糸方向を水平方向とし、凝固槽30内(水充填)において、紡糸金型31の吐出口から10m一直線に水平方向36)に引き取った。その下流1m程度の間で、膜34をローラー39により10cm程度持ち上げ、凝固槽30外であって、凝固槽30内の紡糸金型31の吐出口の位置37よりも高い切断位置38で、切断機によって切断35した。
《強度評価》
得られた膜は、外径3.8〜10mm、SDR値7〜16で、折れ、曲がり、うねり、そり及び偏肉のない均一な形状であった。
これらの膜の外径・SDR値および耐内圧・耐外圧性能を表3にまとめる。
【0078】
《透水性評価》
中空糸膜単糸を用いて図2に示すような水処理モジュールを作製し、純水における透水性能はすべての膜において、約300L/m2・hr・atmを確認した。
MLSS3000の活性汚泥と、図2に示すような装置を用いて透水試験を行った結果、逆洗工程も含めて200〜150L/m2・hr・atmの透水性能を確認した。同様にSS50程度の工場排水において250〜300L/m2・hr・atmの透水性能を確認した。
【0079】
【表3】

【0080】
実施例15:切断高さ
膜を水平方向に引き取った後、膜を、そのまま高さを変更せずに凝固槽内で切断機によって切断した以外実施例1と同様の方法により、中空糸膜を製造した。
その結果、実施例1と略同様の特性を示すことを確認した。
【0081】
実施例16:上向き20°
膜の紡糸方向を上向き20°として、一直線に引き取り、そのまま向き・高さを変えることなく凝固槽内で切断した以外、実施例1と同様の方法により中空糸膜を製造した。その結果、実施例1と略同様の特性を示すことを確認した。
【0082】
実施例17:下向き20°
膜の紡糸方向を下向き20°として、一直線に引き取り、そのまま向き・高さを変えることなく凝固槽内で切断した以外、実施例1と同様の方法により中空糸膜を製造した。その結果、実施例1と略同様の特性を示すことを確認した。
【0083】
比較例3:上向き45°
膜の紡糸方向を上向き45°として、一直線に引き取り、そのまま向き・高さを変えることなく凝固槽内で切断した以外、実施例1と同様の方法により中空糸膜を製造した。しかし、実施例1と比較してうねり、そり及び偏肉の存在する不均一な形状でであった。
【0084】
比較例4:下向き45°
膜の紡糸方向を下向き45°として、一直線に引き取り、そのまま向き・高さを変えることなく凝固槽内で切断した以外、実施例1と同様の方法により中空糸膜を製造した。しかし、実施例1と比較してうねり、そり及び偏肉の存在する不均一な形状でであった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、水処理装置の態様等にかかわらず、河川水及び地下水の除濁、工業用水の清澄、排水及び汚水処理、海水淡水化の前処理等の水の精製等のために使用される水処理膜、精密濾過膜等として、広範に利用することができ、特に、MBRに有利に使用することができる。
【符号の説明】
【0086】
10 水処理モジュール
11 嫌気槽
12 活性汚泥槽
13 中空糸水処理膜
14 封止材
20 中空糸膜
20a 最外層
20b 外層
20c 内層
20d 最内層
21 空孔
21a、21b、21c、21d 空孔
A 空孔の長軸
B 空孔の短軸
30 凝固槽
30a 底面
31 紡糸金型
32 吐出方向
33 吐出角度
34、40a、40b 膜
35 切断
36 水平方向
37 吐出口の位置
38 切断位置
39 ローラー
41、42 ガイドローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略単一素材の樹脂溶液を調製し、
吐出口を備える紡糸金型を用い、前記樹脂溶液を調製した後、空気中であらかじめ樹脂溶液を前記紡糸金型から吐出した状態から凝固槽内に前記紡糸金型を沈め、
前記樹脂溶液を、地面に対して水平±30°以内で、吐出口から凝固槽中に吐出して凝固させることを含む、
外径が3.6mm〜10mm及び
外径と肉厚との比であるSDR値が5.8〜34である略単一の主要構成素材による自立構造を有し、かつ純水の透水量が100L/m2・hr・atm以上である中空糸膜からなる高分子水処理膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−166201(P2012−166201A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−119407(P2012−119407)
【出願日】平成24年5月25日(2012.5.25)
【分割の表示】特願2011−535747(P2011−535747)の分割
【原出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】