説明

高分子水溶液の濃縮方法

【課題】
ホフマン反応をさせた後、変性後の高分子相と水相とに分離するポリアミジン系高分子水溶液の濃縮を簡便で効率の良い操作によって行なうことを提供する。
【解決手段】
高分子水溶液の濃縮方法に関するものであり、(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリルニトリルの共重合物を、次亜ハロゲン酸アルカリ、あるいはこれを形成し得る物質、及び苛性アルカリによってホフマン反応をさせた後、酸を添加し水溶液のpHを中性以下に調整しアミジン化反応をさせた後、酸を添加し前記水溶液のpHを4〜6に調整し、変性後の高分子相と水相とに分離することにより濃縮を簡便で効率良く達成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子水溶液の濃縮方法に関するものであり、詳しくは(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリルニトリルの共重合物を、次亜ハロゲン酸アルカリ、あるいはこれを形成し得る物質、及び苛性アルカリによってホフマン反応をさせ、酸を添加し水溶液のpHを中性以下に調整しアミジン化反応をさせた後、酸を添加し前記水溶液のpHを4〜6に調整し、変性後の高分子相と水相とに分離することを特徴とする高分子水溶液の濃縮方法である。
【背景技術】
【0002】
水溶性高分子は、凝集剤、紙用薬剤等種々の分野の用途に利用されているが、特にカチオン性を有する水溶性高分子は、凝集性能が高く重要な工業薬品である。前記カチオン性を有する水溶性高分子として従来、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの金属塩やアンモニウム塩の重合体、ポリアクリルアミドのホフマン分解反応物やマンニッヒ反応物等が知られているが、特徴的な構造と性能を有するアミジン系水溶性高分子がある(特許文献1)。このポリアミジン系水溶性高分子は、N―ビニルホルムアミドと(メタ)アクリロニトリルの共重合物を酸性雰囲気中で加水分解と加熱処理することにより製造することができる。共重合物の一方の原料であるN―ビニルホルムアミドは、製造に工程が多く結果として単量体のコストは高くなるという問題点が存在する。
【0003】
特許文献2では、アクリルアミドとアクリルニトリルの共重合物をホフマン反応した後、酸性雰囲気下に置くことによって、ポリアミジンを製造する方法が開示されている。しかし、高分子水溶液の濃縮に関する記載はない。従来の高分子水溶液の濃縮法としては、限外濾過、減圧下加熱することにより水分を蒸発させ濃縮する等の操作が行われていた。この方法は、水溶性高分子溶液の粘性が高いため発泡等により適用できない。
【0004】
特許文献3では、ポリアクリルアミドをホフマン反応させた後、水溶液のpHを4〜4.5に調整し、高分子相と水相に分離する方法が開示されているが、ポリアミジンの濃縮については記載がない。
【0005】
特許文献4では、ポリアクリルアミドをホフマン反応させた後、水溶液のpHを5以下に調整し、高分子相と水相に分離する方法が開示されているが、ポリアミジンの濃縮については記載がない。
【特許文献1】特開平5―192513号公報
【特許文献2】特開2008―156542号公報
【特許文献3】特開昭58―108206号公報
【特許文献4】特開昭60―58404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、前記課題を解決することであり、即ち、高分子水溶液の濃縮を簡便で効率の良い操作によって行なうことを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリルニトリルの共重合物を、次亜ハロゲン酸アルカリ、あるいはこれを形成し得る物質、及び苛性アルカリによってホフマン反応をさせた後、酸を添加し水溶液のpHを中性以下に調整しアミジン化反応をさせた後、酸を添加し前記水溶液のpHを4〜6に調整し、変性後の高分子相と水相とに分離することを見出し本発明に至った。
【発明の効果】
【0008】
本発明の高分子水溶液の濃縮方法は、(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリロニトリルとの共重合物をホフマン反応後、ポリアミジン系水溶性高分子を生成させた後、酸により反応物pHを調整することで高分子相と水相とに分離することを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明における(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリロニトリルの共重合物に関し説明する。(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリロニトリルの共重合比としては、アクリルアミド60〜90モル%、(メタ)アクリロニトリル10〜40モル%であり、好ましくはアクリルアミド60〜80モル%、(メタ)アクリロニトリル20〜40モル%である。またポリアミジン化反応に影響がない範囲で他の共重合可能な単量体を共重合することができる。
【0010】
さらにホフマン反応は強アルカリ性領域で実施するので、共重合体中に耐アルカリ加水分解性がなければならない。そのような単量体の例としては、エチレン、スチレン、(メタ)アクリル酸、イタコン酸あるいはマレイン酸などである。従ってそのような単量体の範囲としては、0〜10モル%である。
【0011】
ホフマン反応前の共重合体の重合方法は、既知の重合法である水溶液重合法、油中水型エマルジョン重合法、油中水型分散重合法、塩水溶液中分散重合法などにより合成することができ、重合濃度としては、5〜60質量%までの範囲実施が可能であり、好ましくは20〜50質量%で行うのが適当である。重合反応の温度としては、10〜100℃の範囲で行うことが好ましい。
【0012】
ホフマン反応前の共重合体の重合を開始させるラジカル重合開始剤はアゾ系、過酸化物系、レドックス系いずれでも重合することが可能である。油溶性アゾ系開始剤の例としては、2、2’−アゾビスイソブチロニトリル、1、1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2、2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2、2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)などが挙げられ、水混溶性溶剤に溶解し添加する。
【0013】
水溶性アゾ系開始剤の例としては、2、2’−アゾビス(アミジノプロパン)二塩化水素化物、2、2’−アゾビス〔2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕二塩化水素化物、2、2′−アゾビス〔2−(2− イミダゾリン−2−イル)プロパン〕2塩酸塩水溶液、4、4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)などが挙げられる。
【0014】
またレドックス系の例としては、ペルオクソ二硫酸アンモニウムあるいはカリウムと亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、トリメチルアミン、テトラメチルエチレンジアミンなどとの組み合わせが挙げられる。さらに過酸化物の例としては、ペルオクソ二硫酸アンモニウム、過酸化水素、ベンゾイルペルオキサイド、ラウロイルペルオキサイド、オクタノイルペルオキサイド、サクシニックペルオキサイド、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエートなどを挙げることができる。
【0015】
これら開始剤で最も好ましいものは、水溶性のアゾ系開始剤である2、2’−アゾビス(アミジノプロパン)二塩化水素化物、2、2’−アゾビス〔2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕二塩化水素化物などである。
【0016】
ホフマン反応前のポリアクリルアミド系共重合体の重量平均分子量は、用途により任意に調節することが可能であり、10万〜1500万であり、好ましくは10万〜1000万である。
【0017】
次にホフマン反応の条件について説明する。使用する次亜ハロゲン酸の例としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜臭素ナトリウム、次亜臭素酸カリウム、次亜ヨウ素酸ナトリウム、次亜ヨウ素酸カリウムなどが例示できる。共存させるアルカリとしては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどアルカリ金属の水酸化物が例示できる。
【0018】
次亜ハロゲン酸の添加量は、対アミド基10モル%〜150モル%であり、好ましくは20モル%〜120モル%の範囲であり、共存させるアルカリの量としては、アミド基に対し10モル%〜250モル%の範囲である。ホフマン反応の反応温度は、0〜50℃の範囲の中から選択可能であるが、0〜30℃である方がより好ましい。
【0019】
反応時間は、反応温度、および反応溶液中のポリマー濃度に依存するため一概には言えないが、例えばポリマー濃度が10質量%の場合、5℃では数十分以内、20℃では数分以内で十分であり、さらにポリマー濃度が高くなれば、反応時間はより短くてすむ。
【0020】
上記した条件でホフマン反応を行った後、副反応の進行を抑制するために反応を停止することが望ましいが、反応後直ちに反応物を使用する場合には反応停止を行わなくともよい場合もある。
【0021】
還元剤を添加することでホフマン反応を任意の反応時間で停止することができ、還元剤の添加により、次亜ハロゲン酸塩が失活してホフマン反応が停止する。
【0022】
還元剤の添加は、酸により反応物pHを低下させることによりポリアミジン系水溶性高分子を生成させる製造方法において、酸を添加する前でも添加の途中でもよく、溶液のpHが4〜14の範囲、好ましくは7〜14の範囲である。
【0023】
還元剤の添加量は残存する次亜ハロゲン酸を失活させ、さらに未反応の還元剤が溶液中に存在できるために十分な量が必要であり、通常使用された次亜ハロゲン酸塩に対して5モル%〜200モル%、好ましくは20モル%〜80モル%の範囲である。背景技術のところでも述べたように(メタ)アクリロニトリルとの共重合物をホフマン反応後、酸で反応物pHを低下させる工程においてゲル化が生じやすく、ポリアミジン系水溶性高分子を安定に製造することが困難であった。この問題を本発明においては、残存する次亜ハロゲン酸を失活させ、さらに未反応の還元剤が溶液中に存在できるために十分な量を添加することにより解決した。反応機構に関して詳細はまだ不明であるが、残存する次亜ハロゲン酸に対して当量あるいは少量の過剰量では、微量に存在する次亜ハロゲン酸が副反応を誘発し、水溶性高分子に架橋反応を起こしゲル化(水不溶化)させるためと推定される。従来、アクリルアミド単独重合体のホフマン反応にて、反応を停止させる際に還元剤を添加することは公知である。本発明の方法においては、上記のように通常使用された次亜ハロゲン酸塩に対して0.05倍モル%〜2倍モル%、好ましくは0.20倍モル%〜0.8倍モル%の範囲である。
【0024】
使用する還元剤の具体例は亜硫酸水素塩、亜硫酸塩、チオ硫酸塩、マロン酸エチル、チオグリセロール、トリエチルアミン、次亜リン酸塩、L−アスコルビン酸またはその塩、ヒドラジン類が挙げられる。
【0025】
ホフマン反応後のアミジン化反応を行う溶液のpHは中性以下にすれば良いが、好ましくはpH0.5〜6、更に好ましくはpH0.5〜4である。
【0026】
pH調整に使用する酸としては、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸等の鉱酸、あるいはギ酸、酢酸、クエン酸等の有機酸があげられ、最も好ましい酸は塩酸である。
【0027】
ホフマン反応の後、反応物pHを低下させアミジン化反応を行うが、この条件として温度を20〜100℃、好ましくは30〜90℃である。
【0028】
具体的条件としては、例えば、ホフマン反応によって生成した共重合物中の一級アミノ基に対して通常0.7〜5.0倍、好ましくは1.0〜2.5倍当量の強酸を加え、通常20〜100℃、好ましくは30〜90℃の温度で、通常0.5〜20時間加熱することによりアミジン単位を有するカチオン化水溶性高分子とすることができる。これは側鎖官能基である一級アミノ基とシアノ基が反応しイミノ基となりアミジン化することによる。
【0029】
一般に置換アミノ基に対する強酸の当量比が大きいほど、かつ、反応温度は比較的高いほうがアミジン化は進行するが、100℃前後などあまり高温では、分子の切断などが起きるため、好ましくは上記温度となる。また、アミジン化に際しては反応に供する共重合体に対し、通常10質量%以上、好ましくは20質量%以上の水を反応系内に存在させるとよい。
【0030】
次いで、高分子相の濃縮について説明する。ホフマン反応後、得られたポリアミジン系水溶性高分子に酸を添加し、水溶液のpHを4〜6、好ましくはpH5〜6に調整する。使用する酸は、塩酸、硝酸、スルファミン酸などの強酸が好ましく、塩酸であることが最も好ましい。pHをこの範囲内に調整することにより分子内ポリイオンコンプレックスを形成し、高分子相が分離する。分離した高分子相は濁っており、水に難溶であり、圧搾により水分が高分子相から排出される。この高分子相は含水率75%前後の濃度に濃縮されている。分離した高分子相のpHが4より高く、pH5より低い場合では、親水性は低く粘度が高いため塩酸等の酸を添加し、練り混ぜる必要がある。pH4より低いとポリイオンコンプレックスが無くなり、高分子相の濁りが消失し、透明になる。又、粘度も低下する。従って、この分離した高分子相を水溶液タイプの製品にする場合は、分離した高分子相のpHを3以下にすることが好ましい。或いは、分離した高分子相を薄いフィルム状に延伸し、乾燥した後、粉砕し粉末状の製品にすることもできる。
【0031】
ホフマン反応後、酸を添加し水溶液のpHを中性以下に調整しアミジン化反応をさせた後、水溶液のpHを4〜6に調整し、変性後の高分子相と水相とに分離する際、前記アミジン化反応後の水溶液の温度を4〜20℃に調整することが好ましい。20℃を超えると高分子相と水相の分離が遅く好ましくない。一方、4℃より低いとポリイオンコンプレックスの生成が進行しない。
【0032】
以下に本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
(試作例1)撹拌機、窒素導入管、冷却管を備えた500mlの四つ口フラスコにアクリルアミドとアクリロニトリルの混合物60.0g(アクリルアミド/アクリロニトリルのモル比:60/40)および240.0gの脱塩水を入れた。窒素ガス気流中、撹拌しつつ37℃に昇温したのち、10%の2、2′−アゾビス〔2−(2− イミダゾリン−2−イル)プロパン〕2塩酸塩水溶液1.2gを添加した。37℃で18時間、撹拌保持した後、55℃に昇温し、更に4時間保持し、水中に重合体が析出した懸濁物を得た。500mlのフラスコに懸濁物100gと脱塩水100gを加え、温度を10℃に冷却し次亜塩素酸ナトリウムをアクリルアミドに対し100モル%、水酸化ナトリウムをアクリルアミドに対し200モル%それぞれ添加しホフマン反応を実施した。反応後、pH13.2の溶液に亜硫酸水素ナトリウムを残存する次亜塩素酸ナトリウムに対し50モル%添加し、さらに塩酸を水酸化ナトリウムに対し120モル%添加し、アルカリを中和するとともにpHを4.0にし、次いで85℃に4時間保持し、重合体をアミジン化した。その後、炭酸カルシウムを添加、pHを5.0に調整し、5℃に冷却し7時間静置後、高分子相と水相に分離した。上澄み液をデカンテーションによって除去し、純分26.1%の高分子水溶液である試作−1を得た。
【0034】
試作例1と同様な方法でホフマン反応変性率、アミジン化後の水溶液の冷却温度及びpHを変化させて試作−2〜試作−5、比較−1〜比較−2を得た。結果を表1に示す。
【0035】
ホフマン反応変性率は冷却分離前に溶液のカチオン当量値を求め、変性率100%の理論カチオン当量値の割合から算出した。
ホフマン変性率(%)=溶液カチオン当量値/理論カチオン当量値×100
【0036】
(表1)




【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリルニトリルの共重合物を、次亜ハロゲン酸アルカリ、あるいはこれを形成し得る物質、及び苛性アルカリによってホフマン反応をさせ、酸を添加し水溶液のpHを中性以下に調整しアミジン化反応をさせた後、水溶液のpHを4〜6に調整し、水相と変性後の高分子相とに分離することを特徴とする高分子水溶液の濃縮方法。
【請求項2】
前記アミジン化反応をさせた後の水溶液を4〜20℃に調整することを特徴とする請求1に記載の高分子水溶液の濃縮方法。
【請求項3】
前記アミジン化反応をさせた後の水溶液のpHを5〜6に調整することを特徴とする請求項1あるいは2に記載の高分子水溶液の濃縮方法。

【公開番号】特開2012−153862(P2012−153862A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16776(P2011−16776)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000142148)ハイモ株式会社 (151)
【Fターム(参考)】