説明

高分子混合水溶液の製造方法及び抄紙方法

【課題】抄紙用粘剤として好適な、高い粘度を有する高分子混合水溶液の簡便な製造方法、及び当該高分子混合水溶液を抄紙用粘剤として用いる抄紙方法の提供。
【解決手段】水溶性高分子(a)を溶解して、25℃における0.1質量%水溶液の粘度が2〜15mPa・sである高分子水溶液(A)を予め調製した後、前記水溶性高分子(a)とポリアルキレンオキサイド(b)との混合比率が、質量比で(a)/(b)=20/80〜80/20(ただし、当該(a)成分と当該(b)成分との合計質量を100質量%とする。)となるように、前記高分子水溶液(A)に、前記ポリアルキレンオキサイド(b)及び水を混合することを特徴とする高分子混合水溶液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙用粘剤として好適な高分子混合水溶液、及び当該高分子混合水溶液を用いた抄紙方法に関する。
【背景技術】
【0002】
和紙、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、タオルペーパー等を抄紙する場合においては、水中での紙料の分散性を向上させるために、抄紙用粘剤を用いる方法が広く行われている。従来、抄紙用粘剤には天然高分子化合物が用いられていたが、近年では、主に合成高分子化合物が用いられている。
【0003】
合成高分子化合物としては、例えば、ノニオン性のポリエチレンオキサイド、アニオン性のアクリルアミド系重合体等が用いられている。これら合成高分子化合物は、抄紙する紙に添加される薬剤の種類に応じて使い分けられている。
例えば、カチオン性湿潤紙力増強剤を添加してティッシュペーパーやタオルペーパー等を抄紙する場合は、ノニオン性のポリエチレンオキサイド等が使用される。また、カチオン性湿潤紙力増強剤や濾水性・歩留向上剤等を添加せずにトイレットペーパーを抄紙する場合は、アニオン性のアクリルアミド系重合体が使用される。
【0004】
カチオン性の薬剤が添加される抄紙に用いられる抄紙用粘剤としては、上記のように、ポリエチレンオキサイドを用いたものが一般的である。
特許文献1には、カチオン性湿潤紙力増強剤を添加して抄紙する場合であっても使用できる、特定の物性を有するポリアクリルアミドを用いた抄紙用粘剤が示されている。
また、ポリアクリルアミドを単独で使用する場合に比べて著しく地合が改善された紙が得られ、ポリエチレンオキサイドの発泡も低減できる方法として、ポリエチレンオキサイドとノニオン性のポリアクリルアミドを使用する方法が示されている(特許文献2参照)。
また、特許文献3、4では、ポリアクリルアミドを特定の物性に調整することで、より高性能な抄紙用粘剤が得られることが示されている。
また、トイレットペーパー等の抄紙で使用されているアニオン性ポリアクリルアミドは、得られる紙質が固くなる傾向があるため、柔軟な紙が得られ易いポリエチレンオキサイドと併用されることが多くなってきている。そのため、このような場合においても、さらに性能の優れた抄紙用粘剤が求められている。
【0005】
また、抄紙用粘剤の製造方法としては、合成高分子化合物(重合体)を溶解する場合、一般的に、5mを超える溶解槽で比較的大きな撹拌翼を用い、その周速を1m/分以下として緩撹拌する方法が用いられている。このような溶解方法は、ポリエチレンオキサイドを用いる場合であっても、ポリアクリルアミド系重合体を用いる場合であっても、溶解槽や撹拌翼の大きさ、撹拌翼の周速等に違いはあるものの、原理的には同様の溶解設備が用いられている。
その他、高分子化合物の特殊な溶解方法としては、水で膨潤させた重合体を、濾過装置を備えた部材に送り、ローラーで押し潰しながら溶解させる方法等も提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【0006】
また、特許文献2〜4に示されているような、2種類の水溶性高分子を併用する際の高分子混合水溶液の製造方法としては、一般的に、それぞれ粉末状の水溶性高分子を予めブレンドした混合物を撹拌溶解する方法、それぞれ粉末状の水溶性高分子を別々に供給して撹拌溶解する方法、又は別々に溶解した水溶液同士を混合する方法が採られている。
【特許文献1】特開2003−253587号公報
【特許文献2】特公昭52−15681号公報
【特許文献3】特開2005−126880号公報
【特許文献4】特開2005−154978号公報
【特許文献5】特開平11−262645号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の抄紙用粘剤を用いれば、抄紙用粘剤の水溶液の粘度が高く、安定に抄紙することが可能である。しかし、一般的な溶解設備では、ポリアクリルアミドの溶解に時間を要するため、溶解槽を大きくしなければならないという問題があった。
また、特許文献2の抄紙用粘剤では、ティッシュペーパーやタオルペーパーのように、抄紙する際にカチオン性湿潤紙力増強剤や他のカチオン性薬剤が含まれている場合、ポリエチレンオキサイドを単独で用いたものに比べて、充分に均一な地合を有する紙が得られないという問題があった。また、トイレットペーパー等のカチオン性薬剤が添加されていない抄紙の場合でも、抄紙用粘剤として充分な性能が得られていなかった。
【0008】
また、特許文献3の抄紙用粘剤では、ポリエチレンオキサイドとポリアクリルアミドとをいずれも粉体の状態で混合して溶解する場合、それぞれの溶解に要する時間が異なるため、より時間を要するポリアクリルアミドが完全に溶解するまで撹拌を継続する必要があり、ポリエチレンオキサイドの粘度が低下しすぎることがあった。また、これらを別々に溶解した水溶液同士を混合する場合も、それぞれの溶解時間が異なるためにバッチ溶解サイクルが異なる等、煩雑な作業が必要であった。
【0009】
また、特許文献4の抄紙用粘剤では、ポリアクリルアミドの溶解速度が改良されているものの、充分な溶解速度が得られないことがあった。
また、特許文献5のような溶解方法を用いると、高分子化合物の溶解は容易に行うことができるものの、得られた抄紙用粘剤の水溶液の粘度が著しく低下し、一般的な溶解設備を用いた抄紙用粘剤よりも、性能が劣ってしまうという問題があった。
【0010】
以上のことから、簡便に製造することのできる、優れた性能を有する抄紙用粘剤が望まれている。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、抄紙用粘剤として好適な、高い粘度を有する高分子混合水溶液の簡便な製造方法、及び当該高分子混合水溶液を抄紙用粘剤として用いる抄紙方法を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の高分子混合水溶液の製造方法は、水溶性高分子(a)と、ポリアルキレンオキサイド(b)を含む高分子混合水溶液の製造方法であって、前記水溶性高分子(a)を溶解して、25℃における0.1質量%水溶液の粘度が2〜15mPa・sである高分子水溶液(A)を予め調製した後、前記水溶性高分子(a)と前記ポリアルキレンオキサイド(b)との混合比率が、質量比で(a)/(b)=20/80〜80/20(ただし、当該(a)成分と当該(b)成分との合計質量を100質量%とする。)となるように、前記高分子水溶液(A)に、前記ポリアルキレンオキサイド(b)及び水を混合することを特徴とする。
【0012】
本発明の高分子混合水溶液の製造方法においては、前記高分子水溶液(A)が、前記水溶性高分子(a)のゲル状物を含む水溶液及び前記水溶性高分子(a)が溶解した水溶液からなる群から選ばれる少なくとも1種の高分子水溶液(A’)に、機械的せん断力を与えた水溶液であることが好ましい。
また、本発明の高分子混合水溶液の製造方法においては、前記高分子水溶液(A)の粘度が、前記高分子水溶液(A’)の粘度の50%以下であることが好ましい。
また、本発明の高分子混合水溶液の製造方法においては、前記高分子水溶液(A’)に機械的せん断力を与える方法が、濾過、ホモジナイザーによる撹拌及び超音波処理からなる群から選ばれる少なくとも1種の方法であることが好ましい。
また、本発明の高分子混合水溶液の製造方法においては、前記高分子水溶液(A’)に機械的せん断力を与える方法が加圧濾過であることが好ましい。さらに、前記加圧濾過の際の圧力が0.02〜0.15MPaであることが好ましい。
また、本発明の高分子混合水溶液の製造方法においては、前記水溶性高分子(a)が、アクリルアミド単量体に基づく構成単位を有する重合体であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の抄紙方法は、前記本発明の高分子混合水溶液の製造方法により製造された高分子混合水溶液を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の高分子混合水溶液の製造方法によれば、抄紙用粘剤として好適な、高い粘度を有する高分子混合水溶液を簡便に製造できる。
また、本発明の抄紙方法によれば、抄紙性能に優れ、たとえば良好な地合の紙が得られる。
【0015】
また、本発明の高分子混合水溶液の製造方法により、水溶性高分子とポリアルキレンオキサイドとを粉末同士で混合し溶解した水溶液及びそれぞれ別々に溶解した高分子水溶液同士を混合した水溶液に比べて、高い粘度を有し、かつ、抄紙用粘剤として用いた場合に優れた性能を発揮する高分子混合水溶液が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
≪高分子混合水溶液の製造方法≫
本発明の高分子混合水溶液の製造方法は、水溶性高分子(a)を溶解して、特定の粘度物性を有する高分子水溶液(A)を予め調製した後、前記高分子水溶液(A)に、ポリアルキレンオキサイド(b)及び水を混合する方法である。
【0017】
<高分子水溶液(A)の調製>
本発明においては、水溶性高分子(a)を溶解して、25℃における0.1質量%水溶液の粘度が2〜15mPa・sである高分子水溶液(A)を予め調製する。
【0018】
(水溶性高分子(a))
水溶性高分子(a)は、ポリアルキレンオキサイド(b)を除く水溶性高分子であり、高い粘度を有する高分子混合水溶液が得られやすいことから、アクリルアミド単量体に基づく構成単位を有する重合体(以下「アクリルアミド系重合体」という。)であることが好ましい。
例えば、ポリアクリルアミド、ポリアクリルアミド部分加水分解物、アクリルアミドとアクリル酸(塩)との共重合体、アクリルアミドと2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(塩)との共重合体、アクリルアミドとN−ビニルカルボン酸アミドとの共重合体、アクリルアミドとジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートメチルクロライド塩の共重合体、アクリルアミドとジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートベンジルクロライド塩の共重合体、アクリルアミドとジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート塩酸塩の共重合体、アクリルアミドとジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート硫酸塩の共重合体、アクリルアミドとジアリルジメチルアンモニウムクロライドとの共重合体等が挙げられる。
なかでも、高い粘度を有する高分子混合水溶液が特に得られやすいことから、ポリアクリルアミド、アクリルアミドとアクリル酸(塩)の共重合体、及びアクリルアミドと2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(塩)の共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが特に好ましい。
なお、上記において、「アクリル酸(塩)」とは、アクリル酸であってもよく、アクリル酸塩であってもよく、これらの両方が存在していてもよい。「〜スルホン酸(塩)」とは、スルホン酸であってもよく、スルホン酸塩であってもよく、これらの両方が存在していてもよい。また、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートの一方又は両方を示す。
【0019】
アクリルアミド系重合体を製造する方法としては、特に制限はなく、例えば、水溶液重合、乳化重合、懸濁重合等の公知の重合方法を採用できる。一般的な重合方法は、ラジカル重合開始剤や光重合開始剤を用いた水溶液重合であり、光重合開始剤を用いた水溶液重合が特に好ましい。
水溶液重合における水溶液中の単量体濃度は、通常10〜75質量%であり、単量体濃度は15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。また、単量体濃度は50質量%以下であることが好ましい。単量体濃度が10質量%以上であれば、充分な生産性が得られ易く、50質量%以下であれば、重合による発熱が大きくなりすぎないため反応を制御し易い。
【0020】
通常、重合開始剤としては、光重合開始剤、アゾ系開始剤、レドックス系開始剤等が使用できる。
光重合開始剤としては、α−ヒドロキシケトン類、アシルホスフィンオキサイド化合物等が使用できる。これらの化合物の具体例としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジハイドロクロライド、2,2−アゾビス[2−メチル−N−(2−ハイドロキシエチル)−プロピオンアミド]、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾフェノン等が挙げられる。
アゾ系開始剤は、光重合開始剤や熱分解重合開始剤として使用でき、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド等が挙げられる。
レドックス系開始剤としては、例えば、過硫酸塩、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等の過酸化物と、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、チオ硫酸塩、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、硫酸第一鉄、ブドウ糖、アミン類等の還元剤との組み合わせが挙げられる。
これらの重合開始剤は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
重合開始剤の添加量は、得られるアクリルアミド系重合体の分子量、重合時間、残存モノマー量等により異なるが、例えば、光重合開始剤の場合は、通常、全単量体に対して1〜1000ppm程度である。
【0021】
重合では、含水ゲル状の水溶性高分子(a)が得られる。
本発明においては、抄紙用粘剤が通常粉末で利用されることから、含水ゲル状の水溶性高分子(a)を、乾燥した後に粉末化することが特に好ましい。水溶性高分子(a)を粉末状とすることにより、抄紙用粘剤の輸送コストを削減でき、又は大きな貯槽タンクが不要となる。
重合反応で得られた含水ゲル状の水溶性高分子(a)を乾燥する方法は、特に限定されず、乾燥中に加水分解が生じることや、水溶性高分子(a)の溶解性が悪化することを防ぐため、熱負荷の小さい乾燥方法を用いることが好ましい。
このような乾燥方法としては、例えば、熱風乾燥機(振動流動乾燥機,バンド式乾燥機)による乾燥等が挙げられる。
【0022】
粉末状の水溶性高分子(a)の粒径は、特に制限はなく、水への溶解性を考慮すると、質量平均粒径が50〜3000μmであることが好ましく、100〜2000μmであることがより好ましい。質量平均粒径が50μm以上であれば、粉立ち等を防ぎ易い。質量平均粒径が3000μm以下であれば、膨潤や溶解に要する時間が長くなりすぎるのを防ぎ易い。
この質量平均粒径は、電磁式篩振とう機や、ロータップ篩振とう機を用いて測定することができる。
【0023】
水溶性高分子(a)の分子量は、抄紙用粘剤としての性能が優れる点から、1000万以上であることが好ましく、1500万以上であることがより好ましく、1800万以上であることが特に好ましい。上限値は3000万以下であることが好ましい。
この分子量は、質量平均分子量を意味し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法により測定されるポリスチレン換算値を示す(以下、本明細書において同じ)。
【0024】
上記のように、水溶性高分子(a)としては、0.1質量%水溶液の粘度を低く調整でき、かつ、分子量が高い水溶性高分子であることが、高い粘度を有する高分子混合水溶液が得られやすく、抄紙性能に優れるため、好ましい。
かかる効果が得られる理由としては、はじめから低分子量を目指して重合された重合体を溶解した水溶液と、高分子量の重合体を溶解した水溶液に機械的せん断力を与えて低粘度化された水溶液とを比較した場合、分子の絡み合いや、分子量分布が異なっているためであると推測される。
【0025】
また、水溶性高分子(a)は溶解性が高いことが好ましい。ただし、「溶解性」とは、水3kgに対して水溶性高分子(a)の濃度が0.1質量%となるように添加し、3時間撹拌した後、目開き180μmの金網で濾過し、金網上に捕捉された含水ゲル質量(不溶解分)を測定することにより評価される。
前記含水ゲル質量は少ないほど、溶解性が高いことを示し、通常は20g以下であり、10g以下であることが好ましく、6g以下であることがより好ましい。
【0026】
(高分子水溶液(A)の調製)
高分子水溶液(A)は、水溶性高分子(a)を、水に溶解することにより簡便に得られる。
水溶性高分子(a)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
高分子水溶液(A)の調製には、水溶性高分子(a)と水以外に、必要に応じて、消泡剤、界面活性剤、スケール防止剤等を用いてもよい。
【0027】
本発明における高分子水溶液(A)は、25℃における0.1質量%水溶液の粘度(ブルックフィールド粘度)が2〜15mPa・sであるものに調整する。
当該粘度(ブルックフィールド粘度)は、2〜10mPa・sであることが好ましく、2〜5mPa・sであることがより好ましい。当該粘度が15mPa・s以下であると、原料となる水溶性高分子(a)が比較的容易に得られ易く、当該粘度が2mPa・s以上であると、高い粘度を有する高分子混合水溶液が得られる。
この水溶液の粘度は、市販のブルックフィールド粘度計を用いて測定することができる。具体的には、水溶性高分子(a)の0.1質量%水溶液を調製し、当該水溶液の温度を25℃に調節し、ローターナンバー1、60回転で測定して求められる粘度である。
【0028】
特定の粘度物性を有する高分子水溶液(A)を調製する方法としては、水溶性高分子(a)の分子量を調節する以外に、後述する機械的せん断力を与える方法、溶解時間を充分に長く取る等の方法が挙げられ、本発明の効果が特に得られやすいことから、機械的せん断力を与える方法が好ましい。
【0029】
本発明においては、高分子水溶液(A)が、水溶性高分子(a)のゲル状物を含む水溶液及び水溶性高分子(a)が溶解した水溶液からなる群から選ばれる少なくとも1種の高分子水溶液(A’)に、機械的せん断力を与えた水溶液であることが好ましい。
高分子水溶液(A’)に機械的せん断力を与えることにより、高分子水溶液(A’)の粘度よりも低く、上記特定の粘度物性を有する高分子水溶液(A)を調製できる。かかる高分子水溶液(A)を用いると、高い粘度を有する高分子混合水溶液がより得られやすくなる。
高分子水溶液(A)の粘度は、高分子水溶液(A’)の粘度の50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、30%以下であることがさらに好ましい。高分子水溶液(A)の見かけの粘度が低いほど、後述するポリアルキレンオキサイド(b)と混合した後の粘度向上の効果がより大きくなる。
【0030】
「水溶性高分子(a)のゲル状物を含む水溶液」は、たとえば、粉末状の水溶性高分子(a)が水に分散しているもの、水で膨潤したものが分散しているもの、および溶解しているものの二種以上が混在している液をいう。
水溶性高分子(a)のゲル状物を含む水溶液において、当該ゲル状物は、液中に、機械的せん断力を与える前段階では存在していても構わないが、機械的せん断力を与えた後には無くなっていることが好ましい。
【0031】
高分子水溶液(A’)に機械的せん断力を与える方法は、濾過、ホモジナイザーによる撹拌及び超音波処理からなる群から選ばれる少なくとも1種の方法であることが好ましい。なかでも簡便な方法であることから、濾過であることがより好ましく、そのなかでもゲル状物を含むものであっても安定に濾過を行いやすいことから、加圧濾過であることが最も好ましい。
なお、ホモジナイザーによる撹拌、又は超音波処理の方法を用いる場合は、水溶性高分子(a)が完全に溶解した水溶液を供給することが好ましい。
【0032】
[濾過]
高分子水溶液(A’)に機械的せん断力を与える方法における「濾過」は、濾過部材を備えた装置を用いて行うことができる。
濾過部材を備えた装置(以下「濾過装置」という。)としては、例えば、特許文献5に示されているような、外周面に金網を備えた筒状の濾過部材に回転式ローラーを設置し、膨潤ゲルを押し潰しながら濾過する装置や、遠心脱水機、加圧ピストンを備えたシリンダー等が挙げられ、特許文献5に示されている濾過装置を用いることが特に好ましい。
濾過装置には、高分子水溶液(A’)を撹拌、混合できる部位が設けられていることが好ましく、このような装置を用いれば、水溶性高分子(a)の一部だけが水で膨潤されたものや、一部だけが溶解されたものであっても安定して濾過を行い易い。
このような撹拌・混合部位が設けられていない濾過装置を用いる場合は、水溶性高分子(a)が完全に水で膨潤されているか、溶解されたものを用いるのがよい。このような濾過装置に、未膨潤状態の水溶性高分子(a)を含む水溶液を供給すると、濾過面に該水溶性高分子(a)が詰まったり、濾過面を破損してしまったりするおそれがある。
【0033】
濾過装置の濾過面に用いられるフィルターは、例えば、金網や濾布等が挙げられる。
濾過面の孔径は、20〜500μmであることが好ましく、50〜250μmであることがより好ましく、100〜200μmであることが特に好ましい。孔径が20μm以上であれば、濾過圧力が増大したり、相対的に濾液量が減ったりするのを防ぎ易い。また、孔径が500μm以下であれば、得られる高分子混合水溶液の粘度を充分に向上させる効果が得られ易い。
【0034】
本発明の製造方法において、高分子水溶液(A’)の濾過は、圧力をかけながら行う加圧濾過であることが好ましい。
加圧濾過の際の圧力は、0.02〜0.15MPaであることが好ましく、0.05〜0.12MPaであることがより好ましく、0.07〜0.12MPaであることがさらに好ましい。前記圧力が0.02MPa以上であれば、充分な粘度を有する高分子混合水溶液が得られ易い。また、前記圧力が0.15MPa以下であれば、高強度の濾過装置を用いることにより、高コストとなることを防ぎ易い。
【0035】
濾過の際の高分子水溶液(A’)に含まれる水溶性高分子(a)の含有量は、水溶性高分子(a)と水との合計質量(100質量%)に対して、0.025〜0.25質量%であることが好ましく、0.04〜0.2質量%であることがより好ましい。
水溶性高分子(a)の濃度が0.025質量%以上であれば、溶解設備が大きくなりすぎることを防ぎ易い。また、水溶性高分子(a)の濃度が0.25質量%以下であれば、水溶液の取り扱いが容易になる。
高分子水溶液(A’)における水溶性高分子(a)の含有割合については、ホモジナイザーによる撹拌、超音波処理の方法を用いる場合のいずれも上記範囲と同様である。
【0036】
[ホモジナイザーによる撹拌]
ホモジナイザーは、市販されているホモジナイザーを使用でき、たとえば、乳化に用いられるホモジナイザーや、食品の粉砕などに用いられるホモジナイザーが使用できる。また、バッチで処理するホモミキサーや、ホモミキサーをインラインに組み込んだインラインミキサーも使用できる。
ホモジナイザーによる撹拌処理は、水溶性高分子(a)を溶解しながら同時に行ってもよく、水溶性高分子(a)の溶解後に行ってもよい。
また、ホモジナイザーによる撹拌処理の時間は、ホモジナイザーやホモミキサー等の機種の性能や、処理する高分子水溶液(A’)の体積により変動し、一概には言えないが、通常、数秒から数分間の該撹拌処理により高分子水溶液(A)を得ることができる。
【0037】
[超音波処理]
超音波処理は、市販の、超音波洗浄機や超音波発信器などを使用できる。
超音波処理は、水溶性高分子(a)を溶解しながら同時に行ってもよく、水溶性高分子(a)の溶解後に行ってもよい。
また、超音波処理の時間は、超音波洗浄機や超音波発信器等の機種の性能や、処理する高分子水溶液(A’)の体積により変動し、一概には言えないが、通常、数分から数十分間の超音波処理により高分子水溶液(A)を得ることができる。
【0038】
<高分子混合水溶液の調製>
上述したように、高分子水溶液(A)を予め調製した後、水溶性高分子(a)とポリアルキレンオキサイド(b)との混合比率が、特定の質量比となるように、前記高分子水溶液(A)に、ポリアルキレンオキサイド(b)及び水を混合することにより、高分子混合水溶液が製造される。
【0039】
(ポリアルキレンオキサイド(b))
ポリアルキレンオキサイド(b)としては、例えば、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド等が挙げられ、高い粘度を有する高分子混合水溶液が得られやすいことから、ポリエチレンオキサイドが特に好ましい。
ポリアルキレンオキサイド(b)の分子量は、抄紙用粘剤としての性能が優れる点から、100万以上であることが好ましく、400万以上であることがより好ましく、500万以上であることが特に好ましい。上限値は1000万以下であることが好ましい。
ポリアルキレンオキサイド(b)は、水溶性高分子(a)と同様、粉末化されたものが好ましい。
ポリアルキレンオキサイド(b)は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
(高分子混合水溶液の調製)
高分子混合水溶液の調製は、水溶性高分子(a)とポリアルキレンオキサイド(b)との混合比率が、質量比で(a)/(b)=20/80〜80/20(ただし、当該(a)成分と当該(b)成分との合計質量を100質量%とする。)となるように、前記高分子水溶液(A)に、ポリアルキレンオキサイド(b)及び水を混合する。
前記混合比率は、(a)/(b)=25/75〜75/25であることが好ましく、30/70〜70/30であることがより好ましい。
混合比率を前記範囲内とすれば、抄紙用粘剤として用いた際の紙料凝集性、濾水性、及び発泡性に優れ、かつ、高い粘度を有する等、優れた性能を有する高分子混合水溶液が得られる。
【0041】
高分子混合水溶液中のポリアルキレンオキサイド(b)の濃度は、0.004〜0.16質量%であることが好ましく、0.01〜0.1質量%であることがより好ましい。
ポリアルキレンオキサイド(b)の濃度が0.004質量%以上であれば、溶解設備が大きくなりすぎるのを防ぎ易い。また、ポリアルキレンオキサイド(b)の濃度が0.16質量%以下であれば、高分子混合水溶液が高粘度となり、取り扱い性が悪化するのを防ぎ易い。
【0042】
配合するポリアルキレンオキサイド(b)の質量は、前記高分子混合水溶液中の濃度範囲となるように配合すればよく、継粉を形成しないように、水と同時に配合する方法が好ましい。
ポリアルキレンオキサイド(b)の配合と共に加える水の質量は、特に制限はなく、高分子水溶液(A)に対して、同質量以下とすることが好ましい。配合する水の質量が多いと、予め調製する高分子水溶液(A)を高濃度で調製する必要がある。かかる場合には、粘度が高くなりすぎるため、高分子水溶液(A)に、ポリアルキレンオキサイド(b)と水を加える際の混合が不充分になる場合がある。
【0043】
予め調製した高分子水溶液(A)に、ポリアルキレンオキサイド(b)及び水を混合する際、高分子水溶液(A)は、その全量を予め溶解槽に供給しておいてもよく、ポリアルキレンオキサイド(b)及び/又は水と同時に溶解槽に供給しても構わない。
【0044】
ポリアルキレンオキサイド(b)を高分子水溶液(A)に溶解する方法は、高分子混合水溶液の粘度を下げすぎないような溶解方法を用いればよく、一般的に用いられている、5mを超える溶解槽で、比較的大きな撹拌翼を有する溶解装置を用い、撹拌翼の先端の周速を1m/分以下とする緩撹拌を用いることが好ましい。具体例としては、縦2.5m×横2.5m×高2mのステンレス製の溶解槽に、幅1m×高さ0.1mの板を水平面に対して45°傾けた撹拌翼を該溶解槽の中心軸を対称に2枚ずつ、溶解槽の底面から0.3m、1.2m、2.0mの位置に合計6枚設けた溶解装置を用いて、8rpmで撹拌溶解させる方法が挙げられる。
ポリアルキレンオキサイド(b)の溶解は、1〜3時間程度撹拌した後、3時間程度そのままにして熟成させることが好ましい。
高分子水溶液(A)に、ポリアルキレンオキサイド(b)及び水を添加し、撹拌溶解させることで、水溶性高分子(a)とポリアルキレンオキサイド(b)との複合体を形成し易く、しかも、ポリアルキレンオキサイド(b)の、撹拌によるせん断で引き起こされる粘度低下を最小限に抑えることができる。
【0045】
以上説明した、本発明の高分子混合水溶液の製造方法により、抄紙用粘剤として好適な、高い粘度を有する高分子混合水溶液を簡便に製造できる。
【0046】
≪抄紙方法≫
本発明の抄紙方法は、上記本発明の高分子混合水溶液の製造方法により製造された高分子混合水溶液を用いる方法である。
本発明の抄紙方法は、たとえば、本発明の高分子混合水溶液を10〜50倍程度に希釈した後、パルプ等が分散された紙料液(紙料スラリー等)に添加して混合し、抄紙する方法が挙げられる。
高分子混合水溶液を紙料液に添加する割合は、抄紙対象によって異なるが、通常、水溶性高分子(a)純分とポリアルキレンオキサイド(b)純分との合計量が、パルプの全量に対して100〜2000ppmとなるようにすることが好ましい。
また、抄紙の際、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン等のカチオン性湿潤紙力増強剤又はその他のカチオン性薬剤を用いてもよい。
カチオン性薬剤としては、たとえば柔軟剤、剥離剤、ドライヤー接着剤、ワックス剤、耐水化剤が挙げられる。
【0047】
以上説明した、本発明の高分子混合水溶液の製造方法によれば、粉末状の水溶性高分子(a)及び粉末状のポリアルキレンオキサイド(b)を同一の溶解槽で同時に溶解して製造する方法や、別個に水溶液を調製し、これら水溶液同士を混合する方法よりも、高い粘度を有する高分子混合水溶液を簡便に製造できる。また、かかる製造方法によれば、抄紙用粘剤として用いた際の紙料凝集性、濾水性、及び発泡性に優れた、高い性能を有する高分子混合水溶液を得ることができる。得られる高分子混合水溶液は、高い粘度を有しているため、その性能を効率的に発現することができ、高分子混合水溶液の使用量も削減できる。
また、本発明の高分子混合水溶液を用いた抄紙方法によれば、抄紙性能に優れ、たとえば良好な地合の紙が得られる。
本発明の製造方法により製造される高分子混合水溶液の粘度が高くなる理由としては、前記のように、水溶性高分子(a)とポリアルキレンオキサイド(b)とが複合体を形成するためであると考えられる。本発明の高分子混合水溶液では、高分子水溶液(A)に、ポリアルキレンオキサイド(b)及び水を混合する。これにより、高分子水溶液(A)に単独で溶解した水溶性高分子(a)と、ポリアルキレンオキサイド(b)との複合体が形成され易くなるために粘度が高くなると考えられる。
また、機械的せん断力を与えて見かけ上の粘度が低減した高分子水溶液(A)に、ポリアルキレンオキサイド(b)及び水を混合すると、ポリアルキレンオキサイド(b)の劣化がより抑えられ、高分子混合水溶液の粘度が低下しすぎるおそれがなくなり、高い粘度の高分子混合水溶液がより得られやすくなると考えられる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の記載によって限定されない。
本実施例において得られた高分子混合水溶液について、以下に示す方法により、ブルックフィールド粘度、ピペット粘度を測定した。また、抄紙用粘剤として用いた場合の紙料スラリーの紙料凝集性、濾水性、得られた紙の地合、発泡性をそれぞれ評価した。
【0049】
[ブルックフィールド粘度の測定]
実施例及び比較例で得られた、水溶性高分子(a)の0.1質量%水溶液の粘度を、ブルックフィールド粘度計を用いて、ローターナンバー1で、60回転で測定した。当該水溶液の温度は25℃に調節した。
【0050】
[ピペット粘度の測定]
実施例及び比較例で得られた高分子混合水溶液を、25℃の恒温槽内に2時間放置後、25℃のまま、下記に示すピペットを使用して、ピペット粘度を測定した。
市販の25mLホールピペットの先端から160mmの位置に、標線を新たに設けた。
該ホールピペットを垂直に設置し、測定する高分子混合水溶液を、内容量25mLを示す標線まで充填した。ついで、内容量25mLの位置を示す標線から、下方に新たに設置した160mmの位置を示す標線まで、高分子混合水溶液が落下する時間を測定した。純水の25℃におけるピペット粘度は22.6秒であった。
ピペット粘度の値が大きいほど、抄紙用粘剤として用いた場合に優れた性能を発揮する高分子混合水溶液であることを意味する。
【0051】
[紙料スラリーによる抄紙用粘剤としての評価]
紙料として、叩解度450mLCFS(カナダ標準濾水度)のNBKP(針葉樹パルプ)を用い、0.25質量%のパルプスラリーを調製した。その際、添加薬剤としてカチオン性湿潤紙力増強剤であるポリアミドポリアミンエピクロルヒドリンを、パルプ100質量部に対して0.2質量部添加し、充分撹拌して紙料スラリーを得た。
ついで、紙料スラリー100質量部に対して、抄紙用粘剤の純分として2ppm質量部となるように、高分子混合水溶液を前記紙料スラリーに添加し、撹拌混合した後、紙料凝集性及び濾水性について、下記評価基準に従って評価及び測定した。
【0052】
(紙料凝集性)
高分子混合水溶液を添加して混合した紙料スラリーを、ジャーテスターで撹拌した際の、紙料の様子について目視判定した。評価基準を以下に示す。
◎:凝集性がなく、使用に際して全く問題がない。
○:僅かに凝集するが、使用に際して問題がない。
△:少し凝集し、抄紙された製品の地合が乱れる可能性がある。
×:凝集し、抄紙に使用できない。
【0053】
(濾水性)
濾布を敷いた孔径62mmのヌッチェを、500mLメスシリンダーの上に設置し、高分子混合水溶液を添加して混合した紙料スラリー500mLをヌッチェにあけ、10秒後の濾水量(mL)を測定した。
濾水量が少ないことは、紙料の分散性が良好であることを示し、紙料に一定の分散性を付与するために、必要な粘剤使用量が少なくて済むことを意味する。
【0054】
[紙の地合]
フィルター等を通さずに、高分子混合水溶液を直接添加した紙料スラリー溶液を用いて、円網ヤンキー式抄紙機により抄紙した、坪量13.0g/mの紙を目視判定した。評価基準を以下に示す。
◎:均一で優れた紙である。
○:良好な紙である。
△:不均一な紙である。
×:不良で抄紙不可能又は穴が空いた紙である。
【0055】
[発泡性]
高分子混合水溶液に空気を吹き込んで発泡の有無について目視で評価した。評価基準を以下に示す。
◎:発泡無し。
○:少量発泡するが、実用上問題なし。
△:多少発泡し、抄紙のためには消泡剤の添加が必要である。
×:発泡が多く、抄紙のためには多量の消泡剤を必要とする。
【0056】
以下、実施例及び比較例について説明する。
【0057】
[実施例1]
(水溶性高分子(a)の合成)
水溶性高分子(a)として、アクリル酸ナトリウムを0.4モル%含有する、アクリルアミドとアクリル酸ナトリウムとの共重合体(水溶性高分子(a1))を下記方法で調製した。
1L三角フラスコに、50質量%アクリルアミド水溶液(329.05g)、50質量%アクリル酸水溶液(1.35g)、33質量%水酸化ナトリウム水溶液(1.14g)及び亜リン酸二ナトリウム(50ppm)を含有した水溶液413gを入れて単量体混合水溶液を調製した。ただし、本実施例において、ppm表示は、単量体混合水溶液の全液量に対する質量割合を示す。
ついで、該単量体混合水溶液に、遮光下で、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(10ppm)及び2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジハイドロクロライド(150ppm)を加え、三角フラスコを10℃の恒温水槽に入れ、そのまま30分間窒素ガスで水溶液中の溶存酸素を置換した。
ついで、厚さ1mmのステンレス板の周縁部上に、断面が一辺24mmのゴム棒を貼り付けた、該ステンレス板が内底面(200mm×200mmの正方形)となり、ゴム棒が側壁部(高さ24mm)となる容器を用意し、該容器の内側(内底面上)に、厚さ16μmの光透過性フィルム(厚さ12μmのポリエチレンテレフタレート及び厚さ4μmのポリ塩化ビニリデンからなる積層フィルム)を敷き、該光透過性フィルム上に前記単量体混合水溶液を供給した。その後、前記と同種の光透過性フィルムを、供給した単量体混合水溶液面に接触させるようにして覆った。単量体混合水溶液からなる層の厚さは10mmであった。尚、この作業は、ステンレス板の単量体混合水溶液を供給した裏側の面の温度を、下方から水(10℃)を吹き付けながら冷却することにより、10℃に調節しながら行った。この10℃の水を吹き付ける冷却は、重合終了時まで継続して行った。
ついで、単量体混合水溶液の供給された容器の上方に、20W型蛍光ケミカルランプを設置し、光照射を行うことにより重合を行った。光照射は、水溶液表面で照射強度が5W/m(以下、照射強度は水溶液表面における強度とする。)となるように10分間行い、さらに、10W/mで20分間、60W/mで30分間行った。これにより、重合体を含む含水ゲル状シートを得た。重合中の水溶液又は含水ゲル状シートのピーク温度は55℃であった。
ついで、得られた含水ゲル状シートをはさみで細断し、熱風乾燥機を用いて60℃で乾燥した。さらに、得られた乾燥物をウイレー式粉砕機で粉砕し、アクリルアミド・アクリル酸ナトリウム共重合体(水溶性高分子(a1))を得た。得られた水溶性高分子(a1)の分子量を下記式により算出したところ、2100万であった。
(固有粘度)=3.73×10−4×(質量平均分子量)0.66
ただし、固有粘度は、1N硝酸ナトリウム水溶液中で水溶性高分子濃度0.1質量%,0.08質量%,0.05質量%の還元粘度を測定し、その値を濃度0質量%に外挿することにより求めた。
【0058】
(高分子水溶液(A1)の調製)
ついで、水溶性高分子(a1)を、濃度が0.1質量%になるように一定速度で水に添加し、撹拌しながら膨潤、溶解させて分散膨潤液を得て、該分散膨潤液を、連続溶解供給装置の濾過部材の内側に供給し、周面(濾過面)を通過させて外側に押し出し、アクリルアミド・アクリル酸ナトリウム共重合体水溶液(高分子水溶液(A1))を得た。
すなわち、得られた水溶性高分子(a1)を、撹拌機及び排出口を設置した溶解槽に水と共に連続的に投入し、水溶性高分子(a1)の濃度が0.1質量%となるように調整した。また、濃度が0.1質量%になった後も、連続的に水と水溶性高分子(a1)を添加すると同時に、排出口から、投入した量と同量の水及び水溶性高分子(a1)を引き抜いた。水溶性高分子(a1)の溶解槽での平均滞留時間は約10分であった。また、排出口より引き抜いた水溶性高分子(a1)は、水に溶解したものと、水により膨潤したものとが混在している状態であった。
【0059】
ついで、円筒状で周面が目開き150μmの濾過面となっている濾過部材と、該濾過部材の周面の内側面に接しながら回転する弾性体からなるローラーと、濾過部材の内側から外側へ通過した凝集剤水溶液を移送するポンプとを具備する回転式の連続溶解供給装置を用いて、濾過部材内部に前記排出口より引き抜いた水及び水溶性高分子(a1)を供給して濾過することにより、高分子水溶液(A1)を調製した。
高分子水溶液(A1)の0.1質量%水溶液の粘度(ブルックフィールド粘度)は4.0mPa・sであった。また、高分子水溶液(A1)のピペット粘度は36秒であった。
【0060】
(高分子混合水溶液(1)の調製)
ポリアルキレンオキサイド(b)として、市販のポリエチレンオキサイド(b1)(ダイヤニトリックス社製、商品名:M2000H、分子量600万)を用いた。
ポリエチレンオキサイド(b1)の高分子水溶液(A1)への溶解は、以下のようにして行った。
すなわち、幅0.8m×高さ0.05mの撹拌翼を3段備えた撹拌機が設けられた、縦1m×横1m×高さ1mの溶解槽に、予め高分子水溶液(A1)を供給し、水溶性高分子(a1)とポリエチレンオキサイド(b1)を合わせた濃度が0.1質量%となり、混合比率が、質量比で(a1)/(b1)=30/70となるように、当該高分子水溶液(A1)に、ポリエチレンオキサイド(b1)及び水を添加して、120分間撹拌混合した。撹拌は、撹拌翼を先端の周速が1m/分となるように回転させて行った。
そして、撹拌を止めてから3時間そのまま保持し、高分子混合水溶液(1)を得た。得られた高分子混合水溶液(1)のピペット粘度は407秒であった。
【0061】
[実施例2〜3]
水溶性高分子(a1)とポリエチレンオキサイド(b1)との混合比率を、表1に示した通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で高分子混合水溶液を得た。
【0062】
[比較例1、2]
水溶性高分子(a1)とポリエチレンオキサイド(b1)との混合比率を、表1に示した通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で高分子混合水溶液を得た。
【0063】
実施例1〜3及び比較例1、2で得られた高分子混合水溶液を抄紙用粘剤として用いた、各種測定及び評価の結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
[比較例3〜5]
水溶性高分子(a1)とポリエチレンオキサイド(b1)とを、別個に溶解してそれぞれの水溶液を調製し、表2に示す割合となるように、それぞれの水溶液を混合した以外は、実施例1と同様に撹拌混合して高分子混合水溶液を得た。
すなわち、水溶性高分子(a1)を溶解した高分子水溶液(濃度0.1質量%)は、実施例1の高分子水溶液(A1)と同様の方法で調製した。
また、ポリエチレンオキサイド(b1)を溶解した水溶液(濃度0.1質量%)は、実施例1において高分子混合水溶液(1)の調製に使用した溶解槽を用いて(予め水溶性高分子(a1)を溶解した高分子水溶液を供給しないで)、ポリエチレンオキサイド(b1)を溶解して調製した。
水溶液同士の混合は、周速1m/分の撹拌翼を設置した100Lの混合槽に、水溶性高分子(a1)を溶解して得られた高分子水溶液と、ポリエチレンオキサイド(b1)を溶解した水溶液とを投入し、3分間撹拌混合して行った。
【0066】
比較例3〜5で得られた高分子混合水溶液を抄紙用粘剤として用いた、各種測定及び評価の結果を併せて表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
[実施例4]
高分子水溶液(A)として、以下に示す方法により調製した高分子水溶液(A2)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で高分子混合水溶液を得た。
高分子水溶液(A2)の調製方法:
実施例1において高分子混合水溶液(1)の調製に使用した溶解槽を用いて、水溶性高分子(a1)を、溶解時間4時間で溶解して高分子水溶液(A2’)(濃度0.1質量%)を調製した後、目開き150μmのステンレス製の濾過筒を用いて自然濾過することにより、当該高分子水溶液(A2’)に機械的せん断力を与えて高分子水溶液(A2)を得た。高分子水溶液(A2)の粘度(ブルックフィールド粘度)は4.7mPa・sであった。
【0069】
[実施例5]
(高分子混合水溶液の調製)
高分子水溶液(A)として、以下に示す方法により調製した高分子水溶液(A3)を用いた以外は、実施例4と同様の方法で高分子混合水溶液を得た。
高分子水溶液(A3)の調製方法:
上記高分子水溶液(A2’)の調製方法と同様の方法で調製した高分子水溶液(A3’) (濃度0.1質量%) に対し、目開き150μmのステンレス製の濾過筒を用いて、0.1MPaの圧力をかけながら加圧濾過することにより、当該高分子水溶液(A3’)に機械的せん断力を与えて高分子水溶液(A3)を得た。高分子水溶液(A3)の粘度(ブルックフィールド粘度)は4.3mPa・sであった。
【0070】
[実施例6]
(高分子混合水溶液の調製)
高分子水溶液(A)として、以下に示す方法により調製した高分子水溶液(A4)を用いた以外は、実施例4と同様の方法で高分子混合水溶液を得た。
高分子水溶液(A4)の調製方法:
上記高分子水溶液(A2’)の調製方法と同様の方法で調製した高分子水溶液(A4’) (濃度0.1質量%)に対し、ホモジナイザー(製品名:JANKE&KUNKEL ULTRA−TURRAX T25)による撹拌(13500rpm、せん断時間30秒間)を行うことにより、当該高分子水溶液(A4’)に機械的せん断力を与えて高分子水溶液(A4)を得た。高分子水溶液(A4)の粘度(ブルックフィールド粘度)は3.5mPa・sであった。
【0071】
[実施例7]
(高分子混合水溶液の調製)
高分子水溶液(A)として、以下に示す方法により調製した高分子水溶液(A5)を用いた以外は、実施例4と同様の方法で高分子混合水溶液を得た。
高分子水溶液(A5)の調製方法:
上記高分子水溶液(A2’)の調製方法と同様の方法で調製した高分子水溶液(A5’) (濃度0.1質量%)に対し、超音波洗浄機(製品名:Yamato ブランソニック3510)を用いて超音波処理(処理時間30分間、発信周波数42kHz、水溶液温度25±3℃)を施すことにより、当該高分子水溶液(A5’)に機械的せん断力を与えて高分子水溶液(A5)を得た。高分子水溶液(A5)の粘度(ブルックフィールド粘度)は5.3mPa・sであった。
【0072】
[実施例8]
(高分子混合水溶液の調製)
高分子水溶液(A)として、以下に示す方法により調製した高分子水溶液(A6)を用いた以外は、実施例4と同様の方法で高分子混合水溶液を得た。
高分子水溶液(A6)の調製方法:
上記高分子水溶液(A2’)の調製方法と同様の方法で高分子水溶液(A6)(濃度0.1質量%)を得た(機械的せん断力は特に与えていない)。高分子水溶液(A6)の粘度(ブルックフィールド粘度)は9.3mPa・sであった。
【0073】
実施例4〜8で得られた高分子混合水溶液を抄紙用粘剤として用いた、各種測定及び評価の結果を表3に示す。
【0074】
【表3】

【0075】
[実施例9]
水溶性高分子(a)として、アクリル酸ナトリウムを4モル%含有する、アクリルアミドとアクリル酸ナトリウムとの共重合体(水溶性高分子(a2))を、実施例1に示した水溶性高分子(a1)の合成方法と同様の方法で得た。得られた水溶性高分子(a2)の分子量は、2000万であった。
また、実施例1において高分子混合水溶液(1)の調製に使用した溶解槽を用いて、水溶性高分子(a2)を、溶解時間4時間で溶解して高分子水溶液(A7’)(濃度0.1質量%)を調製した後、実施例6と同様の方法でホモジナイザーによる撹拌を行うことにより、当該高分子水溶液(A7’)に機械的せん断力を与えて高分子水溶液(A7)を得た。高分子水溶液(A7)の粘度(ブルックフィールド粘度)は12mPa・sであった。
そして、水溶性高分子(a2)とポリエチレンオキサイド(b1)との混合比率を、表4に示した通りに変更した以外は、実施例1と同様の方法で高分子混合水溶液を得た。
【0076】
実施例9で得られた高分子混合水溶液を抄紙用粘剤として用いた、各種測定及び評価の結果を表4に示す。ただし、紙料スラリーによる抄紙用粘剤としての評価においては、パルプスラリーに、湿潤紙力増強剤を添加せずに評価を行った。
【0077】
[比較例6〜7]
実施例9で用いた高分子水溶液(A7’)に対し、表4に示したせん断時間で、ホモジナイザーによる撹拌をそれぞれ行うことにより、当該高分子水溶液(A7’)に機械的せん断力を与えて高分子水溶液(A8)〜(A9)を調製した以外は、実施例9と同様の方法で高分子混合水溶液を得た。
【0078】
比較例6、7で得られた高分子混合水溶液を抄紙用粘剤として用いた、各種測定及び評価の結果を表4に示す。ただし、紙料スラリーによる抄紙用粘剤としての評価においては、パルプスラリーに、湿潤紙力増強剤を添加せずに評価を行った。
【0079】
【表4】

【0080】
表1、3、4で示されるように、本発明に係る実施例1〜9の製造方法により製造された高分子混合水溶液はいずれも、比較例1〜2の製造方法により製造された高分子混合水溶液に比べて、高分子混合水溶液のピペット粘度が高いことが確認できた。
【0081】
表1、2に示すように、実施例1〜3で製造された高分子混合水溶液は、抄紙の際の紙料凝集性と発砲性が共に良好であることが確認できた。
また、実施例1〜3で製造された高分子混合水溶液は、比較例1〜5の製造方法により製造された高分子混合水溶液に比べて、濾水性が特に優れていることが確認できた。
さらに、実施例1〜3で製造された高分子混合水溶液は、地合いの良好な紙が得られていることから、抄紙性能が優れていることも確認できた。
【0082】
表3に示すように、本発明に係る実施例2、4〜8の製造方法により製造された高分子混合水溶液はいずれも、高分子混合水溶液のピペット粘度が高く、優れた抄紙性能を有していることが確認できた。
そのなかでも、高分子水溶液(A)を調製する際に、濾過を行うことにより機械的せん断力を与えた実施例2、4、5で製造された高分子混合水溶液はいずれも、機械的せん断力を与えていない実施例8で製造された高分子混合水溶液に比べて、高分子混合水溶液のピペット粘度がより高く、さらに良好な抄紙性能を有していることが確認できた。
また、自然濾過を行った実施例4と、加圧濾過を行った実施例5との対比から、実施例5で製造された高分子混合水溶液は、濾過の際に圧力をかけることにより、高分子混合水溶液のピペット粘度がやや高くなることも確認できた。
また、機械的せん断力を与える方法が、ホモジナイザーによる撹拌である実施例6及び超音波処理である実施例7でそれぞれ製造された高分子混合水溶液も、実施例8で製造された高分子混合水溶液に比べて、高分子混合水溶液のピペット粘度がより高く、さらに良好な抄紙性能を有していることが確認できた。
【0083】
表4で示されるように、充分な機械的せん断力を与えて、水溶性高分子(a)の0.1質量%水溶液のブルックフィールド粘度が2〜15mPa・sである高分子水溶液(A)を用いた実施例9で製造された高分子混合水溶液は、高分子混合水溶液のピペット粘度が高く、抄紙用粘剤として優れた性能(特に濾水性)を有していることが確認できた。
一方、機械的せん断力が小さく、ブルックフィールド粘度が15mPa・s超である高分子水溶液を用いた比較例6、7で製造された高分子混合水溶液は、高分子混合水溶液のピペット粘度が大きな値を示さず、抄紙用粘剤としての性能(濾水性)も劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の高分子混合水溶液の製造方法は、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド、アニオン性アクリルアミド系重合体等の高分子が増粘剤用途として使用されている産業に好適に用いることができる。また、これらの高分子を、容易に最適な混合比率とすることができるため、高分子混合水溶液の使用量を大幅に低減できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性高分子(a)と、ポリアルキレンオキサイド(b)を含む高分子混合水溶液の製造方法であって、
前記水溶性高分子(a)を溶解して、25℃における0.1質量%水溶液の粘度が2〜15mPa・sである高分子水溶液(A)を予め調製した後、
前記水溶性高分子(a)と前記ポリアルキレンオキサイド(b)との混合比率が、質量比で(a)/(b)=20/80〜80/20(ただし、当該(a)成分と当該(b)成分との合計質量を100質量%とする。)となるように、
前記高分子水溶液(A)に、前記ポリアルキレンオキサイド(b)及び水を混合することを特徴とする高分子混合水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記高分子水溶液(A)が、前記水溶性高分子(a)のゲル状物を含む水溶液及び前記水溶性高分子(a)が溶解した水溶液からなる群から選ばれる少なくとも1種の高分子水溶液(A’)に、機械的せん断力を与えた水溶液である、請求項1に記載の高分子混合水溶液の製造方法。
【請求項3】
前記高分子水溶液(A)の粘度が、前記高分子水溶液(A’)の粘度の50%以下である、請求項2に記載の高分子混合水溶液の製造方法。
【請求項4】
前記高分子水溶液(A’)に機械的せん断力を与える方法が、濾過、ホモジナイザーによる撹拌及び超音波処理からなる群から選ばれる少なくとも1種の方法である、請求項2又は3に記載の高分子混合水溶液の製造方法。
【請求項5】
前記高分子水溶液(A’)に機械的せん断力を与える方法が加圧濾過である、請求項4に記載の高分子混合水溶液の製造方法。
【請求項6】
前記加圧濾過の際の圧力が0.02〜0.15MPaである、請求項5に記載の高分子混合水溶液の製造方法。
【請求項7】
前記水溶性高分子(a)が、アクリルアミド単量体に基づく構成単位を有する重合体である、請求項1〜6のいずれかに記載の高分子混合水溶液の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の高分子混合水溶液の製造方法により製造された高分子混合水溶液を用いることを特徴とする抄紙方法。

【公開番号】特開2009−249778(P2009−249778A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−100537(P2008−100537)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【出願人】(301057923)ダイヤニトリックス株式会社 (127)
【Fターム(参考)】