高分子組成物およびその製造方法、ならびに成形体
【課題】 卵白および/または卵白タンパク質を原料とする高分子組成物およびその製造方法、ならびに成形体を提供すること。
【解決手段】 本発明の高分子組成物は、化学修飾された卵白タンパク質を含む。また、本発明の高分子組成物は、卵白および/または卵白タンパク質とモノマーとを反応させることにより得られる。本発明の高分子組成物は、卵白タンパク質中のカルボン酸基の少なくとも一部がエステル基に変換されている。本発明の成形体は本発明の高分子組成物を成形して得られる。本発明の高分子組成物の製造方法は、卵白タンパク質を化学修飾する工程を含む。また、本発明の高分子組成物の製造方法は、卵白および/または卵白タンパク質とモノマーとを反応させる工程を含む。本発明の高分子組成物の製造方法は、卵白タンパク質中のカルボン酸基の少なくとも一部をエステル基に変換する工程を含む。
【解決手段】 本発明の高分子組成物は、化学修飾された卵白タンパク質を含む。また、本発明の高分子組成物は、卵白および/または卵白タンパク質とモノマーとを反応させることにより得られる。本発明の高分子組成物は、卵白タンパク質中のカルボン酸基の少なくとも一部がエステル基に変換されている。本発明の成形体は本発明の高分子組成物を成形して得られる。本発明の高分子組成物の製造方法は、卵白タンパク質を化学修飾する工程を含む。また、本発明の高分子組成物の製造方法は、卵白および/または卵白タンパク質とモノマーとを反応させる工程を含む。本発明の高分子組成物の製造方法は、卵白タンパク質中のカルボン酸基の少なくとも一部をエステル基に変換する工程を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵白および/または卵白タンパク質を原料とする高分子組成物およびその製造方法、ならびに成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に対する意識が高まり、自然との調和および共生のもとに、環境調和型社会の実現をめざした活動が地球規模で行われるようになってきた。そのような流れの中で、従来の石油プラスチックに代わる、環境への負荷が小さい素材として、各種天然素材が注目されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本願発明者は、非石油系有機天然素材として卵白に着目し、卵白がプラスチック素材の原料として使用できることを見出した。
【0004】
本発明は、卵白および/または卵白タンパク質を原料とする高分子組成物およびその製造方法、ならびに成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の高分子組成物は、化学修飾された卵白タンパク質を含む。
【0006】
本願において、「化学修飾」とは、化学試薬を卵白タンパク質に反応させて、卵白タンパク質を構成する官能基の化学構造を変えることをいう。また、「卵白タンパク質」とは、卵白に含まれるタンパク質をいう。
【0007】
本発明の高分子組成物において、前記化学修飾が、重合反応、置換反応、付加反応、および縮合反応のうち少なくとも1つによってなされることができる。
【0008】
また、本発明の高分子組成物は、卵白およびモノマーを反応させることにより得られる。
【0009】
さらに、本発明の高分子組成物は、卵白タンパク質およびモノマーを反応させることにより得られる。
【0010】
本発明の高分子組成物において、前記モノマーは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー、アクリルアミド系モノマー、ビニルエステル系モノマー、およびスチレン系モノマーのうち少なくとも1種であることができる。
【0011】
本発明の高分子組成物は、卵白タンパク質中のカルボン酸基の少なくとも一部がエステル基に変換されている。
【0012】
本発明の高分子組成物において、前記卵白タンパク質はエステル基を含むことができる。
【0013】
本発明の高分子組成物において、赤外吸収スペクトルにおいて、1750−1735cm−1に吸収ピークを有することができる。
【0014】
本発明の成形体は、上記高分子組成物を成形して得られる。本願において、「成形」とは、ある素材に熱その他の外力を加えて、一定の形状を有する物を製造する動作をいい、「成形体」とは、成形により得られた物をいう。すなわち、本願において「本発明の高分子組成物を成形する」とは、本発明の高分子組成物に熱その他の外力を加えて、一定の形状を有する物(成形体)を製造することをいう。
【0015】
本発明の高分子組成物の製造方法は、卵白タンパク質を化学修飾する工程を含む。
【0016】
本発明の高分子組成物の製造方法は、卵白およびモノマーを反応させる工程を含む。
【0017】
本発明の高分子組成物の製造方法は、卵白タンパク質およびモノマーを反応させる工程を含む。
【0018】
本発明の高分子組成物の製造方法は、卵白タンパク質中のカルボン酸基の少なくとも一部をエステル基に変換する工程を含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明の高分子組成物は、化学修飾された卵白タンパク質を含む。また、本発明の高分子組成物は、卵白およびモノマーを反応させることにより得られる。あるいは、本発明の高分子組成物は、卵白タンパク質およびモノマーを反応させることにより得られる。また、本発明の高分子組成物は、卵白タンパク質中のカルボン酸基の少なくとも一部がエステル基に変換されている。これにより、成形性、耐水性、帯電防止性、および機械的特性に優れた成形体を得ることができる。また、本発明の高分子組成物は、非石油系天然素材である卵白および/または卵白タンパク質が原料であるため、環境に対して低負荷である。
【0020】
本発明の成形体は上記高分子組成物を成形して得られる。これにより、成形性、耐水性、帯電防止性、および機械的特性に優れ、かつ環境に対して低負荷である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
1.高分子組成物
本発明の高分子組成物は化学修飾された卵白タンパク質を含む。また、本発明の高分子組成物は、卵白および/または卵白タンパク質を原料とする。
【0022】
本発明の高分子組成物を製造するために用いられる卵白としては、例えば、生卵白、冷凍卵白、乾燥卵白、特定の卵白タンパク質(例えばリゾチームなど)を除去した卵白等が挙げられる。生卵白は、鶏卵等を割卵し、卵黄を分離して得られるものである。なお、卵白は脱糖処理を施されたものであってもよい。
【0023】
本発明の高分子組成物の製造に用いる溶媒が水または親水性溶媒である場合、卵白として上記のいずれの卵白を用いることができる。また、本発明の高分子組成物の製造に用いる溶媒が疎水性溶媒である場合、卵白として乾燥卵白を用いるのが好ましい。
【0024】
卵白には通常、オボアルブミン、オボトランスフェリン、オボムコイド、リゾチーム、オボムチン、オボグロブリン、オボグリコプロテイン、オボインヒビター、オボマクログロブリン、オボフラボプロテイン、アビシン、シスタチン等のタンパク質(卵白タンパク質)が含まれる。これらの卵白タンパク質のうち1種または2種以上を組み合わせて、本発明の高分子組成物の原料に用いることができる。
【0025】
卵白タンパク質の化学構造中には、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基、アミド基、ジスルフィド基、水酸基、メルカプト基、グアニジノ基等の官能基が含まれる。上記官能基は、卵白タンパク質を構成するアミノ酸のうち、チロシン、アルギニン、リシン、ヒスチジン、トリプトファン、システイン、グルタミン、アスパラギン等の末端基として存在している。また、上記官能基のうちメルカプト基(−SH)はオボアルブミン中にのみ存在し、ジスルフィド基(−S−S−)は卵白タンパク質を構成する2つのアミノ酸(システイン)の硫黄原子により形成される。上記官能基のうちいずれか1種または2種以上の官能基の化学構造を変えることにより、化学修飾された卵白タンパク質を得ることができる。
【0026】
化学修飾の手法としては、例えば、重合反応、置換反応、付加反応、および縮合反応が挙げられる。これらを1つまたは複数組み合わせて化学修飾を行ってもよい。以下、化学修飾の具体的な手法について説明する。
【0027】
(重合反応)
重合反応の種類としては例えば、ラジカル重合、イオン重合(例えば、アニオン重合、カチオン重合)、配位重合、開環重合、逐次重合が挙げられる。また、重合反応の態様としては、グラフト重合やブロック重合が挙げられる。例えば、卵白タンパク質中の上記官能基にモノマーをグラフト重合することにより、本発明の高分子組成物を得ることができる。この場合、得られた高分子組成物を用いて製造された成形体は、卵白を用いて製造された成形体と比較して、成形性、耐水性、帯電防止性、および機械的特性に優れている。
【0028】
本発明の高分子組成物をラジカル重合によって製造する場合、例えば、卵白および/または卵白タンパク質とモノマーとを反応させる。具体的には、開始剤の存在下または開始剤なしで、卵白および/または卵白タンパク質とモノマーとを反応させることができる。開始剤を使用する場合、開始剤は、フリーラジカルを発生させることができるものを用いることができる。より具体的には、開始剤は、卵白の構成成分(卵白タンパク質)中の官能基あるいはモノマー中の官能基において、ラジカルを発生させることができる。
【0029】
例えば、卵白タンパク質中のジスルフィド結合が開始剤によって開裂してラジカル(S・)が発生し、このラジカルが反応開始点となってモノマーが重合することにより、硫黄原子を起点としたグラフト重合体が得られると考えられる。卵白タンパク質にはシステインが多く含まれていることから、他のタンパク質と比較して、ジスルフィド部位にて重合が起こる可能性が高いと考えられる。
【0030】
開始剤としては、例えば、過酸化物、過硫酸塩、アゾ開始剤、およびレドックス系開始剤が挙げられる。好適な過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、メタクロロ化安息香酸(m−CPBA)、ジ−t−ブチルペルオキシドが挙げられ、好適な過硫酸塩としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウムが挙げられ、好適なアゾ開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスシアノ吉草酸、アゾビス(2−アミジノプロパン)ジ塩酸塩、2,2−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシ)バレロニトリルが含まれる。また、レドックス系開始剤はレドックス反応によりラジカルを生成するもので、例えば、過酸化水素と硫酸第一鉄、過硫酸カリウムと亜硫酸水素ナトリウムが挙げられる。
【0031】
開始剤を使用しない場合、光(例えば紫外線)照射によるラジカル生成反応により、重合を開始させてもよい。
【0032】
モノマーとしては、ビニルモノマーを挙げることができる。ビニルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー、アクリルアミド系モノマー、ビニルエステル系モノマー、およびスチレン系モノマー等のモノマーが例示できる。これらのモノマーのうち1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の高分子組成物を製造するに際して、モノマーとして、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー、アクリルアミド系モノマー、ビニルエステル系モノマー、およびスチレン系モノマーのうち少なくとも1種を用いることにより、得られる高分子組成物を用いて製造される成形体の成形性、耐水性、帯電防止性、および機械的特性をさらに向上させることができる。
【0033】
(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリシジルメタクリレート、2−メタクロイルオキシエチルアシッドホスフェート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0034】
アクリルアミド系モノマーとしては、例えば、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、アクリロイルモルフォリンが挙げられる。
【0035】
ビニルエステル系モノマーとしては、その代表例としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、デカン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、オクタン酸ビニル、パルミチン酸ビニルが挙げられる。
【0036】
スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン;p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3,4−ジメチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクシルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレンなどのアルキル基置換スチレン、p−クロロスチレン、m−クロロスチレン、o−クロロスチレン、p−ブロモスチレン、m−ブロモスチレン、o−ブロモスチレン、p−フルオロスチレン、m−フルオロスチレン、o−フルオロスチレン、o−メチル−p−フルオロスチレンなどのハロゲン置換スチレン、4−ビニルビフェニルなどのビニルビフェニル類、1−(4−ビニルフェニル)−ナフタレンなどのビニルフェニルナフタレン類やビニルフェニルターフェニル類が挙げられる。
【0037】
(縮合反応)
縮合反応としては、例えば、卵白タンパク質中のカルボン酸基の少なくとも一部をエステル基へと変換する反応が挙げられる。この反応は例えば、卵白および/または卵白タンパク質を酸存在下でアルコールと反応させることができる。これにより、卵白タンパク質中のカルボン酸基の少なくとも一部がエステル基に変換された高分子組成物が得られる。すなわち、この場合、卵白タンパク質中のカルボン酸基とアルコールとの間で脱水縮合が生じて、カルボン酸基がエステル基へと変換される。
【0038】
上記反応において、酸としては特に限定されないが、塩酸または硫酸が例示でき、アルコールとしては特に限定されないが、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、sec−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノールなどが例示できる。
【0039】
なお、上述した縮合反応以外の公知のエステル化反応にて、卵白タンパク質中のカルボン酸基の少なくとも一部をエステル基に変換してもよい。
【0040】
本発明の高分子組成物において、卵白タンパク質はエステル基を含むことができる。この場合、赤外吸収スペクトルにおいて、エステル基(−CO2R)の吸収ピーク(1750−1735cm−1)を示す。例えば、上述したように、モノマーとして(メタ)アクリル酸エステル系モノマーおよび/またはビニルエステル系モノマーを用いて重合反応によって本発明の高分子組成物を得る場合、または卵白タンパク質のカルボン酸基とアルコールとの縮合反応によって本発明の高分子組成物を得る場合、得られる本発明の高分子組成物はエステル基の吸収ピーク(1750−1735cm−1)を示す。
【0041】
本発明の高分子組成物を製造する際に使用する溶媒は、開始剤やモノマーの種類に応じて選択することができる。溶媒としては、水または有機溶媒を用いることができる。中でも、卵白(卵白タンパク質)は水溶性であるため、溶媒に溶解する点で溶媒として水を用いることが好ましい。溶媒として水を用いる場合、水溶性の開始剤を用いることが好ましい。一方、溶媒として有機溶媒を用いる場合、卵白(卵白タンパク質)が有機溶媒にすべて溶解しないことがある。この場合、卵白(卵白タンパク質)が有機溶媒に懸濁した状態で反応を行なうことができる。
【0042】
有機溶媒としては、例えば、n−ペンタン、i−ペンタン、n−ヘキサン、i−ヘキサン、n−ヘプタン、i−ヘプタン、n−オクタン、i−オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、メチルエチルベンゼン、n−プロピルベンセン、i−プロピルベンセン、ジエチルベンゼン、i−ブチルベンゼン、トリエチルベンゼン、ジ−i−プロピルベンセン、n−アミルナフタレン、トリメチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶媒、エチルエーテル、i−プロピルエーテル、n−ブチルエーテル、n−ヘキシルエーテル、2−エチルヘキシルエーテル、ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、ジオキサン、ジメチルジオキサン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、ジエチルカーボネート、酢酸メチル、酢酸エチル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸n−ペンチル、酢酸sec−ペンチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸メチルペンチル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸ベンジル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルシクロヘキシル、酢酸n−ノニル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、酢酸メトキシトリグリコール、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−ブチル、プロピオン酸i−アミル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジ−n−ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル、乳酸n−アミル、マロン酸ジエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチルなどのエステル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルリン酸トリアミドなどのアミド系溶媒、およびジメチルスルフォキシド等を挙げることができる。これらは、1種あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0043】
また、本発明の高分子組成物を製造する際の反応温度は、開始剤、モノマー、および溶媒の種類によって適宜決定することができる。溶媒として水を用いる場合、卵白は水溶液中である温度を超えると凝固する性質を有するため、卵白が凝固しない温度で反応を行なうことが好ましい。
【0044】
本発明の高分子組成物はさらに、成形体を製造するための材料(成形体材料)に用いることができる。この場合、本発明の高分子組成物はさらに、成形体を製造する場合に通常添加される材料(例えば、可塑剤、安定剤、顔料、帯電防止剤、潤滑剤、防曇剤等)を含むことができる。あるいは、本発明の成形体を製造する際にこれらの材料を本発明の高分子組成物に適宜添加してもよい。
【0045】
本発明の成形体は本発明の高分子組成物を成形して得られる。成形のプロセスは通常、流動化、賦形、および固化の三段階からなる。流動化としては例えば、熱による溶融および溶剤による溶解が挙げられ、賦形としては例えば、外力による型への圧入が挙げられ、固化としては例えば、冷却(熱可塑性樹脂の場合)が挙げられる。本発明の成形体を製造する場合、本発明の高分子組成物に熱を加えて流動化させ、賦形および固化を行なうことにより、本発明の成形体を得ることができる。
【0046】
より具体的には、本発明の成形体は、紡糸(一次元線状体を得ること)、成膜(二次元面状体を得ること)、および狭義の成形(三次元立体を得ること)のいずれかによって製造することができる。ここで、成膜法としては、例えば、加熱による流動を利用する方法(ロール加工、押出Tダイ加工、インフレーション加工)や溶剤による流動化を利用する方法(溶液加工)が挙げられる。また、成形法としては、例えば、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形、押出成形が挙げられる。
【0047】
本発明の成形体を製造する際に、通常添加される材料(例えば、可塑剤、安定剤、顔料、帯電防止剤、潤滑剤、防曇剤等)を添加してもよい。
【0048】
本発明の成形体の態様としては特に限定されないが、フィルム、シート、容器、部品、器具、および日用品が挙げられる。容器としては、例えば、食品容器、調理容器、包装容器が挙げられる。部品としては、例えば、医療関連部品、農業関連部品、工業関連部品、水産関連部品が挙げられる。器具としては、医療器具、工業器具が挙げられる。
【0049】
次に、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。なお、実施例中の%は、特記しない限りそれぞれ質量%であることを示している。また、以下の記載は本発明の態様を概括的に示すものであり、特に理由なく、かかる記載により本発明は限定されるものではない。
【実施例1】
【0050】
実施例1では、卵白とモノマーとの反応結果について説明する。なお、実施例1の各実験例において、使用した各物質の質量を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
また、実験例1−6,9において得られた高分子組成物のFT−IR(フーリエ変換赤外分光分析計)により得られた赤外吸収スペクトルは、以下の方法にて測定した。
【0053】
[赤外吸収スペクトル]
実験例1−6,9において得られたサンプルについて、FT−IR 760esp(ニコレージャパン(株)製)によって、赤外吸収スペクトルを測定した。 [実験例1]
2Lの三ツ口フラスコ中に乾燥卵白(商品名:乾燥卵白Kタイプ,キユーピー(株)製)、トルエン(943g,試薬特級,ナカライテスク(株)製)、およびモノマー(2−ヒドロキシエチルアクリレート(試薬一級,ナカライテスク(株)製)を入れ、この三ツ口フラスコ中を脱気した後、アルゴン置換を行なった。次に、三ツ口フラスコの一つの口に温度計、別の口に滴下漏斗、残りの口に冷却管を取り付けた後、トルエン(3g,試薬特級,ナカライテスク(株)製)に溶解させた開始剤(AIBN,東京化成工業(株)製)を滴下漏斗から15分間かけて滴下した。滴下が終了した後、100℃にて一晩攪拌を行なった。次いで、フラスコ中の反応液を室温まで冷却した後、この沈殿物をろ過により採取して、アセトンで洗浄することにより、実験例1の高分子組成物(100g,固体)を得た。
【0054】
得られた高分子組成物について赤外吸収スペクトルを測定した。その測定結果を図1に示す。図1において、「1A」は実験例1の高分子組成物の赤外吸収スペクトルを示し、「1B」は、乾燥卵白(コントロール)の赤外吸収スペクトルを示す。
【0055】
図1に示されるように、実験例1の高分子組成物の赤外吸収スペクトル(1A)では、1750−1735cm−1に吸収ピークが現れた。この吸収ピークはエステル基を示すものと思われる。これに対して、乾燥卵白の赤外吸収スペクトル(1B)では、1750−1735cm−1に吸収ピークが現れなかった。この結果から、実験例1の高分子組成物は、エステル基(2−ヒドロキシエチルオキシカルボニル基)を含むと考えられる。
【0056】
[実験例2]
200mlの三ツ口フラスコ中に冷凍卵白(商品名;凍結卵白(P),キユーピー(株)製)および開始剤(過硫酸カリウム,試薬特級,ナカライテスク(株)製)を入れた。次に、三ツ口フラスコの一つの口に温度計、別の口に滴下漏斗、残りの口に冷却管を取り付けた後、モノマー(2−ヒドロキシエチルアクリレート(試薬一級,ナカライテスク(株)製))を滴下漏斗から10分間かけて滴下した。滴下が終了した後、40℃にて5時間攪拌後、さらに60℃で12時間攪拌を行なった。次いで、フラスコ中の反応液を室温まで冷却した後、メタノールを加えて再沈殿させた。この沈殿物をろ過により採取して、アセトンで洗浄することにより、実験例2の高分子組成物(10g,固体)を得た。
【0057】
得られた高分子組成物について赤外吸収スペクトルを測定した。その測定結果を図2に示す。図2において、「2A」は実験例2の高分子組成物の赤外吸収スペクトルを示し、「2B」は、乾燥卵白(コントロール)の赤外吸収スペクトルを示す。
【0058】
図2に示されるように、実験例2の高分子組成物の赤外吸収スペクトル(2A)では、1750−1735cm−1に吸収ピークが現れた。この吸収ピークはエステル基を示すものと思われる。これに対して、乾燥卵白の赤外吸収スペクトル(2B)では、1750−1735cm−1に吸収ピークが現れなかった。この結果から、実験例2の高分子組成物は、エステル基(2−ヒドロキシエチルオキシカルボニル基)を含むと考えられる。
【0059】
[実験例3]
200mlの三ツ口フラスコ中に冷凍卵白(商品名;凍結卵白(P),キユーピー(株)製)、水、および開始剤(過硫酸カリウム)を入れた。次に、三ツ口フラスコの一つの口に温度計、別の口に滴下漏斗、残りの口に冷却管を取り付けた後、モノマー(2−ヒドロキシエチルアクリレート(試薬一級、ナカライテスク(株)製))を滴下漏斗から10分間かけて滴下した。滴下が終了した後、60℃にて20時間攪拌を行なった。次いで、フラスコ中の反応液を室温まで冷却した後、メタノールを加えて再沈殿させた。この沈殿物をろ過により採取して、アセトンで洗浄することにより、実験例3の高分子組成物(10g,固体)を得た。
【0060】
得られた高分子組成物について赤外吸収スペクトルを測定した。その測定結果を図3に示す。図3において、「3A」は実験例3の高分子組成物の赤外吸収スペクトルを示し、「3B」は、乾燥卵白(コントロール)の赤外吸収スペクトルを示す。
【0061】
図3に示されるように、実験例3の高分子組成物の赤外吸収スペクトル(3A)では、1750−1735cm−1に吸収ピークが現れた。この吸収ピークはエステル基を示すものと思われる。これに対して、乾燥卵白の赤外吸収スペクトル(3B)では、1750−1735cm−1に吸収ピークが現れなかった。この結果から、実験例3の高分子組成物は、エステル基(2−ヒドロキシエチルオキシカルボニル基)を含むと考えられる。
【0062】
また、実験例3で得られた高分子組成物を用いてキャスト成膜してフィルムを製造した。図8は、60℃で2時間乾燥させて得られたフィルムの写真であり、図9は、室温で一晩乾燥させて得られたフィルムの写真である。一方、コントロールとして、図8のフィルムと同じ条件にて生卵白をキャスト成膜して得られたフィルムを図10に、図9のフィルムと同じ温度(室温)にて3日間乾燥させて得られた、生卵白をキャスト成膜して得られたフィルムを図11にそれぞれ示す。
【0063】
図8および図9に示されるように、実験例3の高分子組成物を用いて、均一なフィルムを製造することができた。一方、図10および図11に示されるように、卵白を用いた場合、フィルムを成膜することができなかった。これにより、実験例3の高分子組成物によれば、卵白と比較して成形性に優れていることが確認された。
【0064】
[実験例4]
2Lの三ツ口フラスコ中に乾燥卵白(商品名:乾燥卵白Kタイプ,キユーピー(株)製)、酢酸エチル(989g,試薬特級,ナカライテスク(株)製)、およびモノマー(ラウリルメタクリレート(試薬一級,ナカライテスク(株)製))を入れた。次に、三ツ口フラスコの一つの口に温度計、別の口に滴下漏斗、残りの口に冷却管を取り付けた後、酢酸エチル(2g)に溶解させた開始剤(AIBN,東京化成工業(株)製)を滴下漏斗から10分間かけて滴下した。滴下が終了した後、還流温度(77℃)で22時間攪拌を行なった。次いで、フラスコ中の反応液を室温まで冷却した後、この沈殿物をろ過により採取して、アセトンで洗浄することにより、実験例4の高分子組成物(100g,固体)を得た。
【0065】
得られた高分子組成物について赤外吸収スペクトルを測定した。その測定結果を図4に示す。図4において、「4A」は実験例4の高分子組成物の赤外吸収スペクトルを示し、「4B」は、乾燥卵白(コントロール)の赤外吸収スペクトルを示す。
【0066】
図4に示されるように、実験例4の高分子組成物の赤外吸収スペクトル(4A)では、1750−1735cm−1に吸収ピークが現れた。この吸収ピークはエステル基を示すものと思われる。これに対して、乾燥卵白の赤外吸収スペクトル(4B)では、1750−1735cm−1に吸収ピークが現れなかった。この結果から、実験例4の高分子組成物は、エステル基(ラウリルオキシカルボニル基)を含むと考えられる。
【0067】
[実験例5]
2Lの三ツ口フラスコ中に乾燥卵白(商品名:乾燥卵白Kタイプ,キユーピー(株)製)、トルエン(989g,試薬特級,ナカライテスク(株)製)、およびモノマー(ラウリルメタクリレート(試薬一級,ナカライテスク(株)製))を入れた。次に、三ツ口フラスコの一つの口に温度計、別の口に滴下漏斗、残りの口に冷却管を取り付けた後、トルエン(2g)に溶解させた開始剤(AIBN,東京化成工業(株)製)を滴下漏斗から10分間かけて滴下した。滴下が終了した後、還流温度(105℃)で一晩攪拌を行なった。次いで、フラスコ中の反応液を室温まで冷却した後、沈殿物をろ過により採取して、アセトンで洗浄することにより、実験例5の高分子組成物(100g,固体)を得た。
【0068】
得られた高分子組成物について赤外吸収スペクトルを測定した。その測定結果を図5に示す。図5において、「5A」は実験例5の高分子組成物の赤外吸収スペクトルを示し、「5B」は、乾燥卵白(コントロール)の赤外吸収スペクトルを示す。
【0069】
図5に示されるように、実験例5の高分子組成物の赤外吸収スペクトル(5A)では、1750−1735cm−1に吸収ピークが現れた。この吸収ピークはエステル基を示すものと思われる。これに対して、乾燥卵白の赤外吸収スペクトル(5B)では、1750−1735cm−1に吸収ピークが現れなかった。この結果から、実験例5の高分子組成物は、エステル基(ラウリルオキシカルボニル基)を含むと考えられる。
【0070】
[実験例6]
200mlの三ツ口フラスコ中に乾燥卵白(商品名:乾燥卵白Kタイプ,キユーピー(株)製)、トルエン(98g,試薬特級,ナカライテスク(株)製)、およびモノマー(メチルメタクリレート(試薬一級,ナカライテスク(株)製))を入れた。次に、三ツ口フラスコの一つの口に温度計、別の口に滴下漏斗、残りの口に冷却管を取り付けた後、トルエン(3g)に溶解させた開始剤(AIBN,東京化成工業(株)製)を滴下漏斗から10分間かけて滴下した。滴下が終了した後、還流温度(105℃)で一晩攪拌を行なった。次いで、フラスコ中の反応液を室温まで冷却した後、この沈殿物をろ過により採取して、アセトンで洗浄することにより、実験例6の高分子組成物(100g,固体)を得た。
【0071】
得られた高分子組成物について赤外吸収スペクトルを測定した。その測定結果を図6に示す。図6において、「6A」は実験例6の高分子組成物の赤外吸収スペクトルを示し、「6B」は、乾燥卵白(コントロール)の赤外吸収スペクトルを示す。
【0072】
図6に示されるように、実験例6の高分子組成物の赤外吸収スペクトル(6A)では、1750−1735cm−1に吸収ピークが現れた。この吸収ピークはエステル基を示すものと思われる。これに対して、乾燥卵白の赤外吸収スペクトル(6B)では、1750−1735cm−1に吸収ピークが現れなかった。この結果から、実験例6の高分子組成物は、エステル基(メトキシカルボニル基)を含むと考えられる。
【0073】
[実験例7]
200mlの三ツ口フラスコ中に冷凍卵白(商品名;凍結卵白(P),キユーピー(株)製)および開始剤(過硫酸カリウム,試薬特級,ナカライテスク(株)製))を入れた。次に、三ツ口フラスコの一つの口に温度計、別の口に滴下漏斗、残りの口に冷却管を取り付けた後、モノマー(n−ブチルアクリレート(試薬一級,ナカライテスク(株)製))を滴下漏斗から10分間かけて滴下した。滴下が終了した後、60℃で20時間攪拌を行なった。次いで、フラスコ中の反応液を室温まで冷却した後、メタノールを加えて再沈殿させた。この沈殿物をろ過により採取して、アセトンで洗浄することにより、実験例7の高分子組成物(10g,固体)を得た。
【0074】
[実験例8]
200mlの三ツ口フラスコ中に冷凍卵白(商品名;凍結卵白(P),キユーピー(株)製)、水、および開始剤(過硫酸カリウム,試薬特級,ナカライテスク(株)製))を入れた。次に、三ツ口フラスコの一つの口に温度計、別の口に滴下漏斗、残りの口に冷却管を取り付けた後、モノマー(エチルアクリレート(試薬一級,ナカライテスク(株)製))を滴下漏斗から10分間かけて滴下した。滴下が終了した後、60℃で20時間攪拌を行なった。次いで、フラスコ中の反応液を室温まで冷却した後、メタノールを加えて再沈殿させた。この沈殿物をろ過により採取して、アセトンで洗浄することにより、実験例8の高分子組成物(10g,固体)を得た。
【実施例2】
【0075】
実施例2では、卵白タンパク質のエステル化反応について説明する。
【0076】
[実験例9]
500ml三角フラスコ中に乾燥卵白(3g,商品名:乾燥卵白Kタイプ,キユーピー(株)製)、メタノール(300ml,試薬特級,ナカライテスク(株)製)および塩酸(2g,試薬特級,ナカライテスク(株)製)を入れて、室温にて48時間攪拌を行なった。次いで、沈殿物をろ過により採取して80℃にて乾燥させることにより、実験例9の高分子組成物(エステル化物)を得た。
【0077】
得られた高分子組成物について赤外吸収スペクトルを測定した。その測定結果を図7に示す。図7において、「9A」は実験例9の高分子組成物Aの赤外吸収スペクトルを示し、「9B」は乾燥卵白(コントロール)の赤外吸収スペクトルを示す。
【0078】
図7に示されるように、実験例7の高分子組成物の赤外吸収スペクトル(9A)では、1750−1735cm−1に吸収ピークが現れた。この吸収ピークはエステル基を示すものと思われ、乾燥温度が高いほどこの吸収ピークが大きいことが確認された。これに対して、乾燥卵白の赤外吸収スペクトル(9B)では、1750−1735cm−1に吸収ピークが現れなかった。
【0079】
また、乾燥卵白の赤外吸収スペクトル(9B)では、1400cm−1付近にカルボン酸イオンのピークが現れたが、実験例7の高分子組成物の赤外吸収スペクトル(9A)では、1400cm−1付近にカルボン酸イオンのピークがほぼ消滅した。この結果から、実験例7の高分子組成物は、エステル基(メトキシカルボニル基)を含み、かつ、このエステル基はカルボン酸基の少なくとも一部から変換されたものであることが推測された。
【0080】
[実験例10]
500ml三角フラスコ中に乾燥卵白(3g,商品名:乾燥卵白Kタイプ,キユーピー(株)製)、1−ブタノール(300ml,試薬特級,ナカライテスク(株)製)および塩酸(2g,試薬特級,ナカライテスク(株)製)を入れて、室温にて48時間攪拌を行なった。次いで、沈殿物をろ過により採取して50℃にて乾燥させることにより、実験例10のエステル化物(3g,粉体)を得た。
【実施例3】
【0081】
実施例3では、実施例1の実験例3,6−8でそれぞれ得られた高分子組成物を用いてフィルムを形成し、各フィルムの吸水率、表面抵抗値および体積抵抗率を測定した。測定された各フィルムの吸水率、表面抵抗値および体積抵抗率を表2に示す。
【0082】
各フィルムは、各実験例の高分子組成物をガラス板上にキャスト成膜し、室温で24時間乾燥して得られた。吸水率は、得られたフィルムを水に30分間浸漬する前後のフイルムの重量の増減を測定することにより算出した(下記の式参照)。また、比較例として、同様の方法および条件により生卵白を用いてキャスト成膜して得られたフィルムの吸水率も同様に測定した。
【0083】
吸水率(%)=(浸漬後のフィルム−浸漬前のフィルム)/浸漬前のフィルム×100
また、表面抵抗値および体積抵抗率は、Hiresta−HP/MCP−HT450(商品名;三菱化学(株)製)を用いて測定した。
【0084】
なお、実験例7の高分子組成物から得られたフィルムの吸収率は、フィルムを水に浸漬している間にフィルムが破れたため測定できなかった。また、実験例6の高分子組成物から得られたフィルムの体積抵抗率は、フィルムの表面に突起が多く膜厚を測定するのが困難であるため、体積抵抗率は測定できなかった。
【0085】
【表2】
【0086】
表2によれば、実施例1の実験例3,6および8でそれぞれ得られた高分子組成物から形成されたフィルムの吸水率はいずれも、生卵白から形成されたフィルム(比較例)の吸水率よりも低かった。この結果から、実施例1の実験例3,6および8でそれぞれ得られた高分子組成物を使用して、耐水性がより優れたフィルムを形成することができることが確認された。
【0087】
さらに、表2の結果から、実施例1の実験例3,7および8でそれぞれ得られた高分子組成物を使用することにより、耐水性が向上しても、帯電防止性を発現する電気抵抗値を保持するフィルムが得られた。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】図1において、1Aは実験例1の高分子組成物の赤外吸収スペクトルであり、1Bは乾燥卵白の赤外吸収スペクトルである。
【図2】図2において、2Aは実験例2の高分子組成物の赤外吸収スペクトルであり、2Bは乾燥卵白の赤外吸収スペクトルである。
【図3】図3において、3Aは実験例3の高分子組成物の赤外吸収スペクトルであり、3Bは乾燥卵白の赤外吸収スペクトルである。
【図4】図4において、4Aは実験例4の高分子組成物の赤外吸収スペクトルであり、4Bは乾燥卵白の赤外吸収スペクトルである。
【図5】図5において、5Aは実験例5の高分子組成物の赤外吸収スペクトルであり、5Bは乾燥卵白の赤外吸収スペクトルである。
【図6】図6において、6Aは実験例6の高分子組成物の赤外吸収スペクトルであり、6Bは乾燥卵白の赤外吸収スペクトルである。
【図7】図7において、9Aは実験例9の高分子組成物の赤外吸収スペクトルであり、9Bは乾燥卵白の赤外吸収スペクトルである。
【図8】図8は、実験例3の高分子組成物から得られたフィルムを示す写真である。
【図9】図9は、実験例3の高分子組成物から得られたフィルムを示す写真である。
【図10】図10は、生卵白から得られたフィルムを示す写真である。
【図11】図11は、生卵白から得られたフィルムを示す写真である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵白および/または卵白タンパク質を原料とする高分子組成物およびその製造方法、ならびに成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に対する意識が高まり、自然との調和および共生のもとに、環境調和型社会の実現をめざした活動が地球規模で行われるようになってきた。そのような流れの中で、従来の石油プラスチックに代わる、環境への負荷が小さい素材として、各種天然素材が注目されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本願発明者は、非石油系有機天然素材として卵白に着目し、卵白がプラスチック素材の原料として使用できることを見出した。
【0004】
本発明は、卵白および/または卵白タンパク質を原料とする高分子組成物およびその製造方法、ならびに成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の高分子組成物は、化学修飾された卵白タンパク質を含む。
【0006】
本願において、「化学修飾」とは、化学試薬を卵白タンパク質に反応させて、卵白タンパク質を構成する官能基の化学構造を変えることをいう。また、「卵白タンパク質」とは、卵白に含まれるタンパク質をいう。
【0007】
本発明の高分子組成物において、前記化学修飾が、重合反応、置換反応、付加反応、および縮合反応のうち少なくとも1つによってなされることができる。
【0008】
また、本発明の高分子組成物は、卵白およびモノマーを反応させることにより得られる。
【0009】
さらに、本発明の高分子組成物は、卵白タンパク質およびモノマーを反応させることにより得られる。
【0010】
本発明の高分子組成物において、前記モノマーは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー、アクリルアミド系モノマー、ビニルエステル系モノマー、およびスチレン系モノマーのうち少なくとも1種であることができる。
【0011】
本発明の高分子組成物は、卵白タンパク質中のカルボン酸基の少なくとも一部がエステル基に変換されている。
【0012】
本発明の高分子組成物において、前記卵白タンパク質はエステル基を含むことができる。
【0013】
本発明の高分子組成物において、赤外吸収スペクトルにおいて、1750−1735cm−1に吸収ピークを有することができる。
【0014】
本発明の成形体は、上記高分子組成物を成形して得られる。本願において、「成形」とは、ある素材に熱その他の外力を加えて、一定の形状を有する物を製造する動作をいい、「成形体」とは、成形により得られた物をいう。すなわち、本願において「本発明の高分子組成物を成形する」とは、本発明の高分子組成物に熱その他の外力を加えて、一定の形状を有する物(成形体)を製造することをいう。
【0015】
本発明の高分子組成物の製造方法は、卵白タンパク質を化学修飾する工程を含む。
【0016】
本発明の高分子組成物の製造方法は、卵白およびモノマーを反応させる工程を含む。
【0017】
本発明の高分子組成物の製造方法は、卵白タンパク質およびモノマーを反応させる工程を含む。
【0018】
本発明の高分子組成物の製造方法は、卵白タンパク質中のカルボン酸基の少なくとも一部をエステル基に変換する工程を含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明の高分子組成物は、化学修飾された卵白タンパク質を含む。また、本発明の高分子組成物は、卵白およびモノマーを反応させることにより得られる。あるいは、本発明の高分子組成物は、卵白タンパク質およびモノマーを反応させることにより得られる。また、本発明の高分子組成物は、卵白タンパク質中のカルボン酸基の少なくとも一部がエステル基に変換されている。これにより、成形性、耐水性、帯電防止性、および機械的特性に優れた成形体を得ることができる。また、本発明の高分子組成物は、非石油系天然素材である卵白および/または卵白タンパク質が原料であるため、環境に対して低負荷である。
【0020】
本発明の成形体は上記高分子組成物を成形して得られる。これにより、成形性、耐水性、帯電防止性、および機械的特性に優れ、かつ環境に対して低負荷である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
1.高分子組成物
本発明の高分子組成物は化学修飾された卵白タンパク質を含む。また、本発明の高分子組成物は、卵白および/または卵白タンパク質を原料とする。
【0022】
本発明の高分子組成物を製造するために用いられる卵白としては、例えば、生卵白、冷凍卵白、乾燥卵白、特定の卵白タンパク質(例えばリゾチームなど)を除去した卵白等が挙げられる。生卵白は、鶏卵等を割卵し、卵黄を分離して得られるものである。なお、卵白は脱糖処理を施されたものであってもよい。
【0023】
本発明の高分子組成物の製造に用いる溶媒が水または親水性溶媒である場合、卵白として上記のいずれの卵白を用いることができる。また、本発明の高分子組成物の製造に用いる溶媒が疎水性溶媒である場合、卵白として乾燥卵白を用いるのが好ましい。
【0024】
卵白には通常、オボアルブミン、オボトランスフェリン、オボムコイド、リゾチーム、オボムチン、オボグロブリン、オボグリコプロテイン、オボインヒビター、オボマクログロブリン、オボフラボプロテイン、アビシン、シスタチン等のタンパク質(卵白タンパク質)が含まれる。これらの卵白タンパク質のうち1種または2種以上を組み合わせて、本発明の高分子組成物の原料に用いることができる。
【0025】
卵白タンパク質の化学構造中には、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基、アミド基、ジスルフィド基、水酸基、メルカプト基、グアニジノ基等の官能基が含まれる。上記官能基は、卵白タンパク質を構成するアミノ酸のうち、チロシン、アルギニン、リシン、ヒスチジン、トリプトファン、システイン、グルタミン、アスパラギン等の末端基として存在している。また、上記官能基のうちメルカプト基(−SH)はオボアルブミン中にのみ存在し、ジスルフィド基(−S−S−)は卵白タンパク質を構成する2つのアミノ酸(システイン)の硫黄原子により形成される。上記官能基のうちいずれか1種または2種以上の官能基の化学構造を変えることにより、化学修飾された卵白タンパク質を得ることができる。
【0026】
化学修飾の手法としては、例えば、重合反応、置換反応、付加反応、および縮合反応が挙げられる。これらを1つまたは複数組み合わせて化学修飾を行ってもよい。以下、化学修飾の具体的な手法について説明する。
【0027】
(重合反応)
重合反応の種類としては例えば、ラジカル重合、イオン重合(例えば、アニオン重合、カチオン重合)、配位重合、開環重合、逐次重合が挙げられる。また、重合反応の態様としては、グラフト重合やブロック重合が挙げられる。例えば、卵白タンパク質中の上記官能基にモノマーをグラフト重合することにより、本発明の高分子組成物を得ることができる。この場合、得られた高分子組成物を用いて製造された成形体は、卵白を用いて製造された成形体と比較して、成形性、耐水性、帯電防止性、および機械的特性に優れている。
【0028】
本発明の高分子組成物をラジカル重合によって製造する場合、例えば、卵白および/または卵白タンパク質とモノマーとを反応させる。具体的には、開始剤の存在下または開始剤なしで、卵白および/または卵白タンパク質とモノマーとを反応させることができる。開始剤を使用する場合、開始剤は、フリーラジカルを発生させることができるものを用いることができる。より具体的には、開始剤は、卵白の構成成分(卵白タンパク質)中の官能基あるいはモノマー中の官能基において、ラジカルを発生させることができる。
【0029】
例えば、卵白タンパク質中のジスルフィド結合が開始剤によって開裂してラジカル(S・)が発生し、このラジカルが反応開始点となってモノマーが重合することにより、硫黄原子を起点としたグラフト重合体が得られると考えられる。卵白タンパク質にはシステインが多く含まれていることから、他のタンパク質と比較して、ジスルフィド部位にて重合が起こる可能性が高いと考えられる。
【0030】
開始剤としては、例えば、過酸化物、過硫酸塩、アゾ開始剤、およびレドックス系開始剤が挙げられる。好適な過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、メタクロロ化安息香酸(m−CPBA)、ジ−t−ブチルペルオキシドが挙げられ、好適な過硫酸塩としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウムが挙げられ、好適なアゾ開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスシアノ吉草酸、アゾビス(2−アミジノプロパン)ジ塩酸塩、2,2−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシ)バレロニトリルが含まれる。また、レドックス系開始剤はレドックス反応によりラジカルを生成するもので、例えば、過酸化水素と硫酸第一鉄、過硫酸カリウムと亜硫酸水素ナトリウムが挙げられる。
【0031】
開始剤を使用しない場合、光(例えば紫外線)照射によるラジカル生成反応により、重合を開始させてもよい。
【0032】
モノマーとしては、ビニルモノマーを挙げることができる。ビニルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー、アクリルアミド系モノマー、ビニルエステル系モノマー、およびスチレン系モノマー等のモノマーが例示できる。これらのモノマーのうち1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の高分子組成物を製造するに際して、モノマーとして、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー、アクリルアミド系モノマー、ビニルエステル系モノマー、およびスチレン系モノマーのうち少なくとも1種を用いることにより、得られる高分子組成物を用いて製造される成形体の成形性、耐水性、帯電防止性、および機械的特性をさらに向上させることができる。
【0033】
(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリシジルメタクリレート、2−メタクロイルオキシエチルアシッドホスフェート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0034】
アクリルアミド系モノマーとしては、例えば、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、アクリロイルモルフォリンが挙げられる。
【0035】
ビニルエステル系モノマーとしては、その代表例としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、デカン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、オクタン酸ビニル、パルミチン酸ビニルが挙げられる。
【0036】
スチレン系モノマーとしては、例えば、スチレン;p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3,4−ジメチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクシルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレンなどのアルキル基置換スチレン、p−クロロスチレン、m−クロロスチレン、o−クロロスチレン、p−ブロモスチレン、m−ブロモスチレン、o−ブロモスチレン、p−フルオロスチレン、m−フルオロスチレン、o−フルオロスチレン、o−メチル−p−フルオロスチレンなどのハロゲン置換スチレン、4−ビニルビフェニルなどのビニルビフェニル類、1−(4−ビニルフェニル)−ナフタレンなどのビニルフェニルナフタレン類やビニルフェニルターフェニル類が挙げられる。
【0037】
(縮合反応)
縮合反応としては、例えば、卵白タンパク質中のカルボン酸基の少なくとも一部をエステル基へと変換する反応が挙げられる。この反応は例えば、卵白および/または卵白タンパク質を酸存在下でアルコールと反応させることができる。これにより、卵白タンパク質中のカルボン酸基の少なくとも一部がエステル基に変換された高分子組成物が得られる。すなわち、この場合、卵白タンパク質中のカルボン酸基とアルコールとの間で脱水縮合が生じて、カルボン酸基がエステル基へと変換される。
【0038】
上記反応において、酸としては特に限定されないが、塩酸または硫酸が例示でき、アルコールとしては特に限定されないが、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、sec−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノールなどが例示できる。
【0039】
なお、上述した縮合反応以外の公知のエステル化反応にて、卵白タンパク質中のカルボン酸基の少なくとも一部をエステル基に変換してもよい。
【0040】
本発明の高分子組成物において、卵白タンパク質はエステル基を含むことができる。この場合、赤外吸収スペクトルにおいて、エステル基(−CO2R)の吸収ピーク(1750−1735cm−1)を示す。例えば、上述したように、モノマーとして(メタ)アクリル酸エステル系モノマーおよび/またはビニルエステル系モノマーを用いて重合反応によって本発明の高分子組成物を得る場合、または卵白タンパク質のカルボン酸基とアルコールとの縮合反応によって本発明の高分子組成物を得る場合、得られる本発明の高分子組成物はエステル基の吸収ピーク(1750−1735cm−1)を示す。
【0041】
本発明の高分子組成物を製造する際に使用する溶媒は、開始剤やモノマーの種類に応じて選択することができる。溶媒としては、水または有機溶媒を用いることができる。中でも、卵白(卵白タンパク質)は水溶性であるため、溶媒に溶解する点で溶媒として水を用いることが好ましい。溶媒として水を用いる場合、水溶性の開始剤を用いることが好ましい。一方、溶媒として有機溶媒を用いる場合、卵白(卵白タンパク質)が有機溶媒にすべて溶解しないことがある。この場合、卵白(卵白タンパク質)が有機溶媒に懸濁した状態で反応を行なうことができる。
【0042】
有機溶媒としては、例えば、n−ペンタン、i−ペンタン、n−ヘキサン、i−ヘキサン、n−ヘプタン、i−ヘプタン、n−オクタン、i−オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、メチルエチルベンゼン、n−プロピルベンセン、i−プロピルベンセン、ジエチルベンゼン、i−ブチルベンゼン、トリエチルベンゼン、ジ−i−プロピルベンセン、n−アミルナフタレン、トリメチルベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶媒、エチルエーテル、i−プロピルエーテル、n−ブチルエーテル、n−ヘキシルエーテル、2−エチルヘキシルエーテル、ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、ジオキサン、ジメチルジオキサン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、ジエチルカーボネート、酢酸メチル、酢酸エチル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸n−ペンチル、酢酸sec−ペンチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸メチルペンチル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸ベンジル、酢酸シクロヘキシル、酢酸メチルシクロヘキシル、酢酸n−ノニル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノエチルエーテル、酢酸ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、酢酸メトキシトリグリコール、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−ブチル、プロピオン酸i−アミル、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジ−n−ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル、乳酸n−アミル、マロン酸ジエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチルなどのエステル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルリン酸トリアミドなどのアミド系溶媒、およびジメチルスルフォキシド等を挙げることができる。これらは、1種あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0043】
また、本発明の高分子組成物を製造する際の反応温度は、開始剤、モノマー、および溶媒の種類によって適宜決定することができる。溶媒として水を用いる場合、卵白は水溶液中である温度を超えると凝固する性質を有するため、卵白が凝固しない温度で反応を行なうことが好ましい。
【0044】
本発明の高分子組成物はさらに、成形体を製造するための材料(成形体材料)に用いることができる。この場合、本発明の高分子組成物はさらに、成形体を製造する場合に通常添加される材料(例えば、可塑剤、安定剤、顔料、帯電防止剤、潤滑剤、防曇剤等)を含むことができる。あるいは、本発明の成形体を製造する際にこれらの材料を本発明の高分子組成物に適宜添加してもよい。
【0045】
本発明の成形体は本発明の高分子組成物を成形して得られる。成形のプロセスは通常、流動化、賦形、および固化の三段階からなる。流動化としては例えば、熱による溶融および溶剤による溶解が挙げられ、賦形としては例えば、外力による型への圧入が挙げられ、固化としては例えば、冷却(熱可塑性樹脂の場合)が挙げられる。本発明の成形体を製造する場合、本発明の高分子組成物に熱を加えて流動化させ、賦形および固化を行なうことにより、本発明の成形体を得ることができる。
【0046】
より具体的には、本発明の成形体は、紡糸(一次元線状体を得ること)、成膜(二次元面状体を得ること)、および狭義の成形(三次元立体を得ること)のいずれかによって製造することができる。ここで、成膜法としては、例えば、加熱による流動を利用する方法(ロール加工、押出Tダイ加工、インフレーション加工)や溶剤による流動化を利用する方法(溶液加工)が挙げられる。また、成形法としては、例えば、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形、押出成形が挙げられる。
【0047】
本発明の成形体を製造する際に、通常添加される材料(例えば、可塑剤、安定剤、顔料、帯電防止剤、潤滑剤、防曇剤等)を添加してもよい。
【0048】
本発明の成形体の態様としては特に限定されないが、フィルム、シート、容器、部品、器具、および日用品が挙げられる。容器としては、例えば、食品容器、調理容器、包装容器が挙げられる。部品としては、例えば、医療関連部品、農業関連部品、工業関連部品、水産関連部品が挙げられる。器具としては、医療器具、工業器具が挙げられる。
【0049】
次に、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。なお、実施例中の%は、特記しない限りそれぞれ質量%であることを示している。また、以下の記載は本発明の態様を概括的に示すものであり、特に理由なく、かかる記載により本発明は限定されるものではない。
【実施例1】
【0050】
実施例1では、卵白とモノマーとの反応結果について説明する。なお、実施例1の各実験例において、使用した各物質の質量を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
また、実験例1−6,9において得られた高分子組成物のFT−IR(フーリエ変換赤外分光分析計)により得られた赤外吸収スペクトルは、以下の方法にて測定した。
【0053】
[赤外吸収スペクトル]
実験例1−6,9において得られたサンプルについて、FT−IR 760esp(ニコレージャパン(株)製)によって、赤外吸収スペクトルを測定した。 [実験例1]
2Lの三ツ口フラスコ中に乾燥卵白(商品名:乾燥卵白Kタイプ,キユーピー(株)製)、トルエン(943g,試薬特級,ナカライテスク(株)製)、およびモノマー(2−ヒドロキシエチルアクリレート(試薬一級,ナカライテスク(株)製)を入れ、この三ツ口フラスコ中を脱気した後、アルゴン置換を行なった。次に、三ツ口フラスコの一つの口に温度計、別の口に滴下漏斗、残りの口に冷却管を取り付けた後、トルエン(3g,試薬特級,ナカライテスク(株)製)に溶解させた開始剤(AIBN,東京化成工業(株)製)を滴下漏斗から15分間かけて滴下した。滴下が終了した後、100℃にて一晩攪拌を行なった。次いで、フラスコ中の反応液を室温まで冷却した後、この沈殿物をろ過により採取して、アセトンで洗浄することにより、実験例1の高分子組成物(100g,固体)を得た。
【0054】
得られた高分子組成物について赤外吸収スペクトルを測定した。その測定結果を図1に示す。図1において、「1A」は実験例1の高分子組成物の赤外吸収スペクトルを示し、「1B」は、乾燥卵白(コントロール)の赤外吸収スペクトルを示す。
【0055】
図1に示されるように、実験例1の高分子組成物の赤外吸収スペクトル(1A)では、1750−1735cm−1に吸収ピークが現れた。この吸収ピークはエステル基を示すものと思われる。これに対して、乾燥卵白の赤外吸収スペクトル(1B)では、1750−1735cm−1に吸収ピークが現れなかった。この結果から、実験例1の高分子組成物は、エステル基(2−ヒドロキシエチルオキシカルボニル基)を含むと考えられる。
【0056】
[実験例2]
200mlの三ツ口フラスコ中に冷凍卵白(商品名;凍結卵白(P),キユーピー(株)製)および開始剤(過硫酸カリウム,試薬特級,ナカライテスク(株)製)を入れた。次に、三ツ口フラスコの一つの口に温度計、別の口に滴下漏斗、残りの口に冷却管を取り付けた後、モノマー(2−ヒドロキシエチルアクリレート(試薬一級,ナカライテスク(株)製))を滴下漏斗から10分間かけて滴下した。滴下が終了した後、40℃にて5時間攪拌後、さらに60℃で12時間攪拌を行なった。次いで、フラスコ中の反応液を室温まで冷却した後、メタノールを加えて再沈殿させた。この沈殿物をろ過により採取して、アセトンで洗浄することにより、実験例2の高分子組成物(10g,固体)を得た。
【0057】
得られた高分子組成物について赤外吸収スペクトルを測定した。その測定結果を図2に示す。図2において、「2A」は実験例2の高分子組成物の赤外吸収スペクトルを示し、「2B」は、乾燥卵白(コントロール)の赤外吸収スペクトルを示す。
【0058】
図2に示されるように、実験例2の高分子組成物の赤外吸収スペクトル(2A)では、1750−1735cm−1に吸収ピークが現れた。この吸収ピークはエステル基を示すものと思われる。これに対して、乾燥卵白の赤外吸収スペクトル(2B)では、1750−1735cm−1に吸収ピークが現れなかった。この結果から、実験例2の高分子組成物は、エステル基(2−ヒドロキシエチルオキシカルボニル基)を含むと考えられる。
【0059】
[実験例3]
200mlの三ツ口フラスコ中に冷凍卵白(商品名;凍結卵白(P),キユーピー(株)製)、水、および開始剤(過硫酸カリウム)を入れた。次に、三ツ口フラスコの一つの口に温度計、別の口に滴下漏斗、残りの口に冷却管を取り付けた後、モノマー(2−ヒドロキシエチルアクリレート(試薬一級、ナカライテスク(株)製))を滴下漏斗から10分間かけて滴下した。滴下が終了した後、60℃にて20時間攪拌を行なった。次いで、フラスコ中の反応液を室温まで冷却した後、メタノールを加えて再沈殿させた。この沈殿物をろ過により採取して、アセトンで洗浄することにより、実験例3の高分子組成物(10g,固体)を得た。
【0060】
得られた高分子組成物について赤外吸収スペクトルを測定した。その測定結果を図3に示す。図3において、「3A」は実験例3の高分子組成物の赤外吸収スペクトルを示し、「3B」は、乾燥卵白(コントロール)の赤外吸収スペクトルを示す。
【0061】
図3に示されるように、実験例3の高分子組成物の赤外吸収スペクトル(3A)では、1750−1735cm−1に吸収ピークが現れた。この吸収ピークはエステル基を示すものと思われる。これに対して、乾燥卵白の赤外吸収スペクトル(3B)では、1750−1735cm−1に吸収ピークが現れなかった。この結果から、実験例3の高分子組成物は、エステル基(2−ヒドロキシエチルオキシカルボニル基)を含むと考えられる。
【0062】
また、実験例3で得られた高分子組成物を用いてキャスト成膜してフィルムを製造した。図8は、60℃で2時間乾燥させて得られたフィルムの写真であり、図9は、室温で一晩乾燥させて得られたフィルムの写真である。一方、コントロールとして、図8のフィルムと同じ条件にて生卵白をキャスト成膜して得られたフィルムを図10に、図9のフィルムと同じ温度(室温)にて3日間乾燥させて得られた、生卵白をキャスト成膜して得られたフィルムを図11にそれぞれ示す。
【0063】
図8および図9に示されるように、実験例3の高分子組成物を用いて、均一なフィルムを製造することができた。一方、図10および図11に示されるように、卵白を用いた場合、フィルムを成膜することができなかった。これにより、実験例3の高分子組成物によれば、卵白と比較して成形性に優れていることが確認された。
【0064】
[実験例4]
2Lの三ツ口フラスコ中に乾燥卵白(商品名:乾燥卵白Kタイプ,キユーピー(株)製)、酢酸エチル(989g,試薬特級,ナカライテスク(株)製)、およびモノマー(ラウリルメタクリレート(試薬一級,ナカライテスク(株)製))を入れた。次に、三ツ口フラスコの一つの口に温度計、別の口に滴下漏斗、残りの口に冷却管を取り付けた後、酢酸エチル(2g)に溶解させた開始剤(AIBN,東京化成工業(株)製)を滴下漏斗から10分間かけて滴下した。滴下が終了した後、還流温度(77℃)で22時間攪拌を行なった。次いで、フラスコ中の反応液を室温まで冷却した後、この沈殿物をろ過により採取して、アセトンで洗浄することにより、実験例4の高分子組成物(100g,固体)を得た。
【0065】
得られた高分子組成物について赤外吸収スペクトルを測定した。その測定結果を図4に示す。図4において、「4A」は実験例4の高分子組成物の赤外吸収スペクトルを示し、「4B」は、乾燥卵白(コントロール)の赤外吸収スペクトルを示す。
【0066】
図4に示されるように、実験例4の高分子組成物の赤外吸収スペクトル(4A)では、1750−1735cm−1に吸収ピークが現れた。この吸収ピークはエステル基を示すものと思われる。これに対して、乾燥卵白の赤外吸収スペクトル(4B)では、1750−1735cm−1に吸収ピークが現れなかった。この結果から、実験例4の高分子組成物は、エステル基(ラウリルオキシカルボニル基)を含むと考えられる。
【0067】
[実験例5]
2Lの三ツ口フラスコ中に乾燥卵白(商品名:乾燥卵白Kタイプ,キユーピー(株)製)、トルエン(989g,試薬特級,ナカライテスク(株)製)、およびモノマー(ラウリルメタクリレート(試薬一級,ナカライテスク(株)製))を入れた。次に、三ツ口フラスコの一つの口に温度計、別の口に滴下漏斗、残りの口に冷却管を取り付けた後、トルエン(2g)に溶解させた開始剤(AIBN,東京化成工業(株)製)を滴下漏斗から10分間かけて滴下した。滴下が終了した後、還流温度(105℃)で一晩攪拌を行なった。次いで、フラスコ中の反応液を室温まで冷却した後、沈殿物をろ過により採取して、アセトンで洗浄することにより、実験例5の高分子組成物(100g,固体)を得た。
【0068】
得られた高分子組成物について赤外吸収スペクトルを測定した。その測定結果を図5に示す。図5において、「5A」は実験例5の高分子組成物の赤外吸収スペクトルを示し、「5B」は、乾燥卵白(コントロール)の赤外吸収スペクトルを示す。
【0069】
図5に示されるように、実験例5の高分子組成物の赤外吸収スペクトル(5A)では、1750−1735cm−1に吸収ピークが現れた。この吸収ピークはエステル基を示すものと思われる。これに対して、乾燥卵白の赤外吸収スペクトル(5B)では、1750−1735cm−1に吸収ピークが現れなかった。この結果から、実験例5の高分子組成物は、エステル基(ラウリルオキシカルボニル基)を含むと考えられる。
【0070】
[実験例6]
200mlの三ツ口フラスコ中に乾燥卵白(商品名:乾燥卵白Kタイプ,キユーピー(株)製)、トルエン(98g,試薬特級,ナカライテスク(株)製)、およびモノマー(メチルメタクリレート(試薬一級,ナカライテスク(株)製))を入れた。次に、三ツ口フラスコの一つの口に温度計、別の口に滴下漏斗、残りの口に冷却管を取り付けた後、トルエン(3g)に溶解させた開始剤(AIBN,東京化成工業(株)製)を滴下漏斗から10分間かけて滴下した。滴下が終了した後、還流温度(105℃)で一晩攪拌を行なった。次いで、フラスコ中の反応液を室温まで冷却した後、この沈殿物をろ過により採取して、アセトンで洗浄することにより、実験例6の高分子組成物(100g,固体)を得た。
【0071】
得られた高分子組成物について赤外吸収スペクトルを測定した。その測定結果を図6に示す。図6において、「6A」は実験例6の高分子組成物の赤外吸収スペクトルを示し、「6B」は、乾燥卵白(コントロール)の赤外吸収スペクトルを示す。
【0072】
図6に示されるように、実験例6の高分子組成物の赤外吸収スペクトル(6A)では、1750−1735cm−1に吸収ピークが現れた。この吸収ピークはエステル基を示すものと思われる。これに対して、乾燥卵白の赤外吸収スペクトル(6B)では、1750−1735cm−1に吸収ピークが現れなかった。この結果から、実験例6の高分子組成物は、エステル基(メトキシカルボニル基)を含むと考えられる。
【0073】
[実験例7]
200mlの三ツ口フラスコ中に冷凍卵白(商品名;凍結卵白(P),キユーピー(株)製)および開始剤(過硫酸カリウム,試薬特級,ナカライテスク(株)製))を入れた。次に、三ツ口フラスコの一つの口に温度計、別の口に滴下漏斗、残りの口に冷却管を取り付けた後、モノマー(n−ブチルアクリレート(試薬一級,ナカライテスク(株)製))を滴下漏斗から10分間かけて滴下した。滴下が終了した後、60℃で20時間攪拌を行なった。次いで、フラスコ中の反応液を室温まで冷却した後、メタノールを加えて再沈殿させた。この沈殿物をろ過により採取して、アセトンで洗浄することにより、実験例7の高分子組成物(10g,固体)を得た。
【0074】
[実験例8]
200mlの三ツ口フラスコ中に冷凍卵白(商品名;凍結卵白(P),キユーピー(株)製)、水、および開始剤(過硫酸カリウム,試薬特級,ナカライテスク(株)製))を入れた。次に、三ツ口フラスコの一つの口に温度計、別の口に滴下漏斗、残りの口に冷却管を取り付けた後、モノマー(エチルアクリレート(試薬一級,ナカライテスク(株)製))を滴下漏斗から10分間かけて滴下した。滴下が終了した後、60℃で20時間攪拌を行なった。次いで、フラスコ中の反応液を室温まで冷却した後、メタノールを加えて再沈殿させた。この沈殿物をろ過により採取して、アセトンで洗浄することにより、実験例8の高分子組成物(10g,固体)を得た。
【実施例2】
【0075】
実施例2では、卵白タンパク質のエステル化反応について説明する。
【0076】
[実験例9]
500ml三角フラスコ中に乾燥卵白(3g,商品名:乾燥卵白Kタイプ,キユーピー(株)製)、メタノール(300ml,試薬特級,ナカライテスク(株)製)および塩酸(2g,試薬特級,ナカライテスク(株)製)を入れて、室温にて48時間攪拌を行なった。次いで、沈殿物をろ過により採取して80℃にて乾燥させることにより、実験例9の高分子組成物(エステル化物)を得た。
【0077】
得られた高分子組成物について赤外吸収スペクトルを測定した。その測定結果を図7に示す。図7において、「9A」は実験例9の高分子組成物Aの赤外吸収スペクトルを示し、「9B」は乾燥卵白(コントロール)の赤外吸収スペクトルを示す。
【0078】
図7に示されるように、実験例7の高分子組成物の赤外吸収スペクトル(9A)では、1750−1735cm−1に吸収ピークが現れた。この吸収ピークはエステル基を示すものと思われ、乾燥温度が高いほどこの吸収ピークが大きいことが確認された。これに対して、乾燥卵白の赤外吸収スペクトル(9B)では、1750−1735cm−1に吸収ピークが現れなかった。
【0079】
また、乾燥卵白の赤外吸収スペクトル(9B)では、1400cm−1付近にカルボン酸イオンのピークが現れたが、実験例7の高分子組成物の赤外吸収スペクトル(9A)では、1400cm−1付近にカルボン酸イオンのピークがほぼ消滅した。この結果から、実験例7の高分子組成物は、エステル基(メトキシカルボニル基)を含み、かつ、このエステル基はカルボン酸基の少なくとも一部から変換されたものであることが推測された。
【0080】
[実験例10]
500ml三角フラスコ中に乾燥卵白(3g,商品名:乾燥卵白Kタイプ,キユーピー(株)製)、1−ブタノール(300ml,試薬特級,ナカライテスク(株)製)および塩酸(2g,試薬特級,ナカライテスク(株)製)を入れて、室温にて48時間攪拌を行なった。次いで、沈殿物をろ過により採取して50℃にて乾燥させることにより、実験例10のエステル化物(3g,粉体)を得た。
【実施例3】
【0081】
実施例3では、実施例1の実験例3,6−8でそれぞれ得られた高分子組成物を用いてフィルムを形成し、各フィルムの吸水率、表面抵抗値および体積抵抗率を測定した。測定された各フィルムの吸水率、表面抵抗値および体積抵抗率を表2に示す。
【0082】
各フィルムは、各実験例の高分子組成物をガラス板上にキャスト成膜し、室温で24時間乾燥して得られた。吸水率は、得られたフィルムを水に30分間浸漬する前後のフイルムの重量の増減を測定することにより算出した(下記の式参照)。また、比較例として、同様の方法および条件により生卵白を用いてキャスト成膜して得られたフィルムの吸水率も同様に測定した。
【0083】
吸水率(%)=(浸漬後のフィルム−浸漬前のフィルム)/浸漬前のフィルム×100
また、表面抵抗値および体積抵抗率は、Hiresta−HP/MCP−HT450(商品名;三菱化学(株)製)を用いて測定した。
【0084】
なお、実験例7の高分子組成物から得られたフィルムの吸収率は、フィルムを水に浸漬している間にフィルムが破れたため測定できなかった。また、実験例6の高分子組成物から得られたフィルムの体積抵抗率は、フィルムの表面に突起が多く膜厚を測定するのが困難であるため、体積抵抗率は測定できなかった。
【0085】
【表2】
【0086】
表2によれば、実施例1の実験例3,6および8でそれぞれ得られた高分子組成物から形成されたフィルムの吸水率はいずれも、生卵白から形成されたフィルム(比較例)の吸水率よりも低かった。この結果から、実施例1の実験例3,6および8でそれぞれ得られた高分子組成物を使用して、耐水性がより優れたフィルムを形成することができることが確認された。
【0087】
さらに、表2の結果から、実施例1の実験例3,7および8でそれぞれ得られた高分子組成物を使用することにより、耐水性が向上しても、帯電防止性を発現する電気抵抗値を保持するフィルムが得られた。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】図1において、1Aは実験例1の高分子組成物の赤外吸収スペクトルであり、1Bは乾燥卵白の赤外吸収スペクトルである。
【図2】図2において、2Aは実験例2の高分子組成物の赤外吸収スペクトルであり、2Bは乾燥卵白の赤外吸収スペクトルである。
【図3】図3において、3Aは実験例3の高分子組成物の赤外吸収スペクトルであり、3Bは乾燥卵白の赤外吸収スペクトルである。
【図4】図4において、4Aは実験例4の高分子組成物の赤外吸収スペクトルであり、4Bは乾燥卵白の赤外吸収スペクトルである。
【図5】図5において、5Aは実験例5の高分子組成物の赤外吸収スペクトルであり、5Bは乾燥卵白の赤外吸収スペクトルである。
【図6】図6において、6Aは実験例6の高分子組成物の赤外吸収スペクトルであり、6Bは乾燥卵白の赤外吸収スペクトルである。
【図7】図7において、9Aは実験例9の高分子組成物の赤外吸収スペクトルであり、9Bは乾燥卵白の赤外吸収スペクトルである。
【図8】図8は、実験例3の高分子組成物から得られたフィルムを示す写真である。
【図9】図9は、実験例3の高分子組成物から得られたフィルムを示す写真である。
【図10】図10は、生卵白から得られたフィルムを示す写真である。
【図11】図11は、生卵白から得られたフィルムを示す写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学修飾された卵白タンパク質を含む、高分子組成物。
【請求項2】
請求項1において、
前記化学修飾が、重合反応、置換反応、付加反応、および縮合反応のうち少なくとも1つによってなされた、高分子組成物。
【請求項3】
卵白およびモノマーを反応させることにより得られる、高分子組成物。
【請求項4】
卵白タンパク質およびモノマーを反応させることにより得られる、高分子組成物。
【請求項5】
請求項3または4において、
前記モノマーは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー、アクリルアミド系モノマー、ビニルエステル系モノマー、およびスチレン系モノマーのうち少なくとも1種である、高分子組成物。
【請求項6】
卵白タンパク質中のカルボン酸基の少なくとも一部がエステル基に変換された、高分子組成物。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、
前記卵白タンパク質はエステル基を含む、高分子組成物。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかにおいて、
赤外吸収スペクトルにおいて、1750−1735cm−1に吸収ピークを有する、高分子組成物。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載の高分子組成物を成形して得られる、成形体。
【請求項10】
卵白タンパク質を化学修飾する工程を含む、高分子組成物の製造方法。
【請求項11】
卵白およびモノマーを反応させる工程を含む、高分子組成物の製造方法。
【請求項12】
卵白タンパク質およびモノマーを反応させる工程を含む、高分子組成物の製造方法。
【請求項13】
卵白タンパク質中のカルボン酸基の少なくとも一部をエステル基に変換する工程を含む、高分子組成物の製造方法。
【請求項1】
化学修飾された卵白タンパク質を含む、高分子組成物。
【請求項2】
請求項1において、
前記化学修飾が、重合反応、置換反応、付加反応、および縮合反応のうち少なくとも1つによってなされた、高分子組成物。
【請求項3】
卵白およびモノマーを反応させることにより得られる、高分子組成物。
【請求項4】
卵白タンパク質およびモノマーを反応させることにより得られる、高分子組成物。
【請求項5】
請求項3または4において、
前記モノマーは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー、アクリルアミド系モノマー、ビニルエステル系モノマー、およびスチレン系モノマーのうち少なくとも1種である、高分子組成物。
【請求項6】
卵白タンパク質中のカルボン酸基の少なくとも一部がエステル基に変換された、高分子組成物。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、
前記卵白タンパク質はエステル基を含む、高分子組成物。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかにおいて、
赤外吸収スペクトルにおいて、1750−1735cm−1に吸収ピークを有する、高分子組成物。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載の高分子組成物を成形して得られる、成形体。
【請求項10】
卵白タンパク質を化学修飾する工程を含む、高分子組成物の製造方法。
【請求項11】
卵白およびモノマーを反応させる工程を含む、高分子組成物の製造方法。
【請求項12】
卵白タンパク質およびモノマーを反応させる工程を含む、高分子組成物の製造方法。
【請求項13】
卵白タンパク質中のカルボン酸基の少なくとも一部をエステル基に変換する工程を含む、高分子組成物の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−63283(P2006−63283A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−250673(P2004−250673)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]