説明

高分子組成物および高分子圧電体フィルム

【課題】易接着性を有する、高分子組成物および高分子圧電体フィルムを提供する。
【解決手段】高分子組成物は、ポリフッ化ビニリデン20〜90重量部と、フッ化ビニリデン系共重合体80〜10重量部とを含む。ポリフッ化ビニリデンとフッ化ビニリデン系共重合体の合計は100重量部とする。フッ化ビニリデン系共重合体は、フッ化ビニリデンを60重量%以上含有するフッ化ビニリデン系単量体100重量部と、不飽和二塩基酸のモノエステル0.1〜3重量部とを共重合して得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子組成物、およびそれを用いた高分子圧電体フィルムに関する。特に、ポリフッ化ビニリデンを含む高分子組成物、および高分子圧電体フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
特定の物質が有する圧電効果を利用した圧電素子(ピエゾ素子)は、圧電体を2枚の電極で挟んだ素子を基本構造とする。その上で、様々な構造の圧電センサが存在する。
従来の圧電センサには、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる圧電体フィルムの両面に銀ペーストを塗布して、上側を陽電極層とし、下側を陰電極層(他方の電極層)としたフィルムを備えたものがある(例えば、特許文献1、第4図参照)。また、ポリフッ化ビニリデンからなる2枚の圧電体フィルムを、ポリフッ化ビニリデンフィルムと相溶性のよいウレタン系樹脂で形成された接着層を用いて接着し、複数の圧電体フィルムを備えることにより、電気出力を大きくした圧電センサもある(例えば、特許文献2、段落0033、第2図参照)。
【0003】
このように、圧電体は積層して用いられることが多い。しかし、フッ素系樹脂であるポリフッ化ビニリデンは、耐薬品性、耐候性、耐汚染性等に優れている反面、他の熱可塑性樹脂等との接着性が乏しいという特徴を有する。そのため、他の熱可塑性樹脂等と積層を構成するためには、ポリフッ化ビニリデンと接着可能な物質を、接着層や接着剤として用いる必要があった。さらに、接着層や接着剤として用いることのできる物質の種類はかなり限定されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−332509号公報
【特許文献2】特開2008−304558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、接着性を向上させた、ポリフッ化ビニリデンを含む高分子組成物を提供すること、および、その高分子組成物から得られる接着性を向上させた高分子圧電体フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様に係る高分子組成物は、ポリフッ化ビニリデン20〜90重量部と、フッ化ビニリデン系共重合体80〜10重量部とを含み、ポリフッ化ビニリデンとフッ化ビニリデン系共重合体の合計は100重量部である。さらに、フッ化ビニリデン系共重合体は、フッ化ビニリデンを60重量%以上含有するフッ化ビニリデン系単量体100重量部と、不飽和二塩基酸のモノエステル単量体0.1〜3重量部とを共重合して得られる。
【0007】
このように構成すると、接着性を有するフッ化ビニリデン系共重合体と、ポリフッ化ビニリデンの混合物から、易接着性を有する高分子組成物を得ることができる。
なお、「易接着性を有する」とは、カルボニル基の導入により向上した接着性を有することをいう。
【0008】
本発明の第2の態様に係る高分子組成物は、上記本発明の第1の態様に係る高分子組成物において、不飽和二塩基酸のモノエステル単量体が、0.1〜0.8重量部である。
【0009】
このように構成すると、押出成型容易な接着性を有するフッ化ビニリデン系共重合体と、ポリフッ化ビニリデンの混合物から、易接着性を有する高分子組成物を得ることができる。
【0010】
本発明の第3の態様に係る高分子圧電体フィルムは、上記本発明の第1の態様または第2の態様に係る高分子組成物を、無延伸でフィルム状に成型した後、分極処理することにより得られる。
なお、本明細書において、「無延伸」とは、「延伸」する工程を経ていないことをいい、「無延伸フィルム(無延伸でフィルム状に成型したもの)」とは、「延伸」する工程を経ることなく成型されたフィルムをいう。
「延伸」とは、フィルムを特定の方向(例えば一軸方向または二軸方向)に引き伸ばして加工することをいう。すなわち、「一軸延伸フィルム」とは、一方向(例えば長さ方向)に数倍に引き伸ばされたフィルムをいい、「二軸延伸フィルム」とは、二方向(例えば長さおよび幅方向)にそれぞれ数倍に引き伸ばされたフィルムをいう。
【0011】
このように構成すると、圧電性および易接着性を有する、無延伸の高分子圧電体フィルムを得ることができる。無延伸であるため、延伸したフィルムに生じるような加熱時の熱収縮や経時収縮を抑制したフィルムの製造が可能になる。
【0012】
本発明の第4の態様に係る高分子圧電体フィルムは、上記本発明の第1の態様または第2の態様に係る高分子組成物に、第四級アンモニウム塩または第四級アンモニウム塩で表面処理されたクレイを添加し、無延伸でフィルム状に成型した後、分極処理することにより得られる。
【0013】
このように構成すると、本発明の第3の態様に係る高分子圧電体フィルムと同様に、圧電性および易接着性を有する、無延伸の高分子圧電体フィルムを得ることができる。無延伸であるため、延伸したフィルムに生じるような加熱時の熱収縮や経時収縮を抑制したフィルムの製造が可能になる。
【0014】
本発明の第5の態様に係る高分子圧電体フィルムは、上記本発明の第1の態様または第2の態様に係る高分子組成物を、フィルム状に成型した後、一軸延伸後分極処理することにより得られる。
【0015】
このように構成すると、一軸延伸および分極処理により圧電性、および易接着性を有する高分子圧電体フィルムを得ることができる。
【0016】
本発明の第6の態様に係る高分子圧電体フィルムは、上記本発明の第1の態様または第2の態様に係る高分子組成物を、フィルム状に成型した後、一軸延伸しながら同時に分極処理することにより得られる。
【0017】
このように構成すると、一軸延伸および分極処理を同時に行なっているため、一軸延伸後分極処理したフィルムに比べ、耐熱性を向上させた、圧電性および易接着性を有する高分子圧電体フィルムを得ることができる。
【0018】
本発明の第7の態様に係る高分子圧電体フィルムは、上記本発明の第1の態様または第2の態様に係る高分子組成物を、フィルム状に成型した後、二軸延伸後分極処理することにより得られる。
【0019】
このように構成すると、二軸延伸および分極処理により圧電性、および易接着性を有する高分子圧電体フィルムを得ることができる。
【0020】
本発明の第8の態様に係る多層フィルムは、上記本発明の第3の態様ないし第7の態様のいずれか1の態様に係る高分子圧電体フィルムと、高分子圧電体フィルムと積層を構成する、高分子圧電体フィルムとは異なる他の熱可塑性樹脂とを備える。
なお、「他の熱可塑性樹脂」とは、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等をいう。
【0021】
このように構成すると、高分子圧電体フィルムが易接着性を有するため、ポリフッ化ビニリデンからなるフィルムと比べ、他の熱可塑性樹脂との接着性を向上させた高分子圧電体フィルムと、他の熱可塑性樹脂からなる多層フィルムを得ることができる。
【0022】
本発明の第9の態様に係る多層フィルムは、上記本発明の第8の態様に係る多層フィルムにおいて、高分子圧電体フィルムと他の熱可塑性樹脂は、共押出しにより積層を構成する。
【0023】
このように構成すると、高分子圧電体フィルムが易接着性を有するため、ポリフッ化ビニリデンからなるフィルムと比べ、容易に共押出しにより他の熱可塑性樹脂と積層を構成した多層フィルムを得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、フッ化ビニリデン等の単量体と不飽和二塩基酸のモノエステル単量体との共重合体を、ポリフッ化ビニリデンに混合させることにより、易接着性を有する圧電材料となる高分子組成物を得ることができる。さらに、この高分子組成物から、易接着性と圧電性の両方を有する高分子圧電体フィルムを得ることができる。そのため、他の熱可塑性樹脂等との積層構造をポリフッ化ビニリデンからなるフィルムに比べて容易に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】フッ化ビニリデン系共重合体の実験データを示す表である。
【図2】高分子組成物から高分子圧電体フィルムを製造する方法を示すフロー図である。(a)〜(e)は、それぞれ<方法1>〜<方法5>を示す。
【図3】図3(a)は、フィルムを一軸延伸および/または分極処理する装置60の概念図である。図3(b)は、フィルムを分極処理する装置80の概念図である。
【図4】実施例および比較例の実測値を示す表である。(a)は<方法3>により製造したフィルムの実測値である。(b)は<方法1>により製造したフィルムの実測値である。
【図5】実施例および比較例の碁盤目テープ法による評価結果を示す表である。
【図6】<方法1>〜<方法5>により製造されたフィルムの実施例と比較例の実測値を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において互いに同一または相当する部材には同一あるいは類似の符号を付し、重複した説明は省略する。また、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。
【0027】
本発明の高分子組成物および高分子圧電体フィルムでは、「ポリフッ化ビニリデン単体に比し接着性を向上させる」という目的を、以下のフッ化ビニリデン系単量体と不飽和二塩基酸のモノエステル単量体との共重合体と、ポリフッ化ビニリデンを一定割合で混合するといった構成により実現した。
なお、接着性の向上は、不飽和二塩基酸のモノエステルの有する官能基(カルボニル基)の影響に因るものと考えられる。したがって、本発明の高分子組成物および高分子圧電体フィルムは、この官能基と親和性を有する物質との接着性が向上したと考えられる。以後、この向上した接着性を「易接着性」と称する。すなわち、本発明は易接着性を有する圧電材料となり得る高分子組成物、および高分子圧電体フィルムを実現したものである。
【0028】
一般に、ポリフッ化ビニリデンは他の物質と混ざりにくいという特徴を有する。また、ポリフッ化ビニリデンに他の物質を混合させると、分極処理が困難となる。その結果この混合物から造られたフィルムの圧電性は、ポリフッ化ビニリデン単体から造られたフィルムよりも著しく低下する。したがって、ポリフッ化ビニリデンから圧電性フィルムを造る場合、十分な圧電効果を担保するためにポリフッ化ビニリデンを単体で用いる必要があった。
一方で、カルボニル基を有する特定の単量体(不飽和二塩基酸のモノエステル)の比較的少量とフッ化ビニリデンを主成分とする単量体からなるフッ化ビニリデン系共重合体は、金属等の基材との接着性が著しく改善された接着剤として機能する(特開平6−172452参照)。このフッ化ビニリデン系共重合体は、液体に溶かした状態で電池のバインダーや塗料等に用いられている。なお、このフッ化ビニリデン系共重合体は、熱安定性が低いため、成型しにくく、またフィルム状に成型すると発泡、表面荒れ、縦筋が発生しやすいという特徴を有していた。フィルム内に発泡があると、分極処理時に短絡を起こしやすいため、分極処理を必要とする用途には不向きとなる。
本発明者等は、ポリフッ化ビニリデンとこのフッ化ビニリデン系共重合体を特定の割合で混合させた組成物から、易接着性を有する高分子圧電体フィルムが造れることを見出した。この易接着性を有する高分子圧電体フィルムの圧電性は、工業的に十分使用可能なものであった。さらに、組成物はフッ化ビニリデン系共重合体の単体と比べ熱安定性にも優れたものであった。
【0029】
まず始めに、本発明の第1の実施の形態に係る高分子組成物について説明する。高分子組成物は、ポリフッ化ビニリデンに、フッ化ビニリデン系共重合体を混合させたものである。
【0030】
上記フッ化ビニリデン系共重合体について説明する。
「フッ化ビニリデン系共重合体」とは、フッ化ビニリデン系単量体と不飽和二塩基酸モノエステル単量体を一定割合で共重合させたものである。
「フッ化ビニリデン系単量体」とは、フッ化ビニリデン単独、またはフッ化ビニリデンと他の単量体の混合物をいう。「他の単量体」とは、フッ化ビニリデンと共重合可能なフッ素系単量体、または、エチレン、プロピレン等の炭化水素系単量体をいう。「フッ化ビニリデンと共重合可能なフッ素系単量体」とは、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フルオロアルキルビニルエーテル等をいう。なお、高分子組成物に含まれる「他の単量体」の量は、フッ化ビニリデンと他の単量体との総量の40重量%以下であることが好ましい。特に、20重量%以下であることが好ましい。
「不飽和二塩基酸のモノエステル単量体」は、炭素数が5〜8のものが好ましい。例えば、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、シトラコン酸モノメチルエステル、シトラコン酸モノエチルエステル等が好ましい。特に、マレイン酸モノメチルエステル、シトラコン酸モノメチルエステルが好ましい。
【0031】
フッ化ビニリデン系単量体と、不飽和二塩基酸のモノエステル単量体を共重合させる方法について説明する。共重合は、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等の方法が採用できる。しかし、後処理の容易さ等の点から水系の懸濁重合、乳化重合が好ましく、水系懸濁重合が特に好ましい。
【0032】
水を分散媒とした懸濁重合においては、メチルセルロース、メトキシ化メチルセルロース、プロポキシ化メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ゼラチン等の懸濁剤を、水に対して0.005〜1.0重量%、好ましくは0.01〜0.4重量%の範囲で添加して使用する。
【0033】
重合開始剤としては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート、ジノルマルヘプタフルオロプロピルパーオキシジカーボネート、イソブチリルパーオキサイド、ジ(クロロフルオロアシル)パーオキサイド、ジ(パーフルオロアシル)パーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキシピバレート等が使用できる。その使用量は、単量体合計量(フッ化ビニリデン系単量体と不飽和二塩基酸のモノエステル単量体との合計量)に対して0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜2重量%である。
【0034】
酢酸エチル、酢酸メチル、アセトン、エタノール、n−プロパノール、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、プロピオン酸エチル、四塩化炭素、ジエチルカーボネート等の連鎖移動剤を添加して、得られる重合体の重合度を調節することも可能である。その使用量は、通常は、単量体合計量に対して0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜3重量%である。
【0035】
単量体の合計仕込量は、単量体合計量:水の重量比で1:1〜1:10、好ましくは1:2〜1:5である。重合は、温度10〜80℃で5〜100時間行なう。
【0036】
上記の懸濁重合により、容易にフッ化ビニリデン系単量体と不飽和二塩基酸のモノエステル単量体とを共重合させることができる。
【0037】
フッ化ビニリデン系単量体100重量部に対して、仕込量として0.1〜3重量部、特に0.1〜0.8重量部の不飽和二塩基酸のモノエステル単量体を共重合させることが好ましい。0.1重量部未満では、接着性向上効果が乏しい。他方、3重量部を超えると、得られるフッ化ビニリデン系共重合体の耐薬品性が低下する。同様の理由により、得られるフッ化ビニリデン系共重合体は、8×10−7〜5×10−4モル/gのカルボニル基を含有することが好ましい。
【0038】
このようにして得られるフッ化ビニリデン系共重合体は、分子量の目安として、溶液粘度(樹脂4gを1リットルのN,Nジメチルホルムアミドに溶解させた溶液の30℃における対数粘度。以下、同様)が、0.5〜2.0dl/g、特に0.8〜1.5dl/gの範囲内の値であることが好ましい。
【0039】
上記により得られたフッ化ビニリデン系共重合体のペレットとポリフッ化ビニリデンのペレットを、押出機を用いて温度190〜220℃で混合し、本発明の第1の実施の形態または第2の実施の形態に係る高分子組成物を得る。なお、本発明者等は、フッ化ビニリデン系共重合体のみでも圧電性が発現することを見出した。その上で、混合比は、フッ化ビニリデン系共重合体とポリフッ化ビニリデンが合計で100重量部となるように、フッ化ビニリデン系共重合体100〜1重量部、ポリフッ化ビニリデン0〜99重量部とすることが可能であることを確認した。しかし、混合比は、高分子組成物(またはフッ化ビニリデン系共重合体)の熱安定性を考慮すると、フッ化ビニリデン系共重合体を80〜10重量部、ポリフッ化ビニリデンを20〜90重量部とすることが好ましい。この混合比では、適度な易接着性を維持しつつ、熱安定性が増すのでより成形しやすい。
【0040】
なお、フッ化ビニリデン系共重合体は、極めて限定的な量の不飽和二塩基酸のモノエステル単量体(フッ化ビニリデン系単量体100重量部に対して、不飽和二塩基酸のモノエステル単量体0.1〜0.8重量部)と共重合させると、シート押出性が極めて向上することが本発明者等の研究によりわかった。以下に、参考として、このシート押出性に優れたフッ化ビニリデン系共重合体について、実験データを用いて説明する。
【0041】
<実験データ1>
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1040g、メチルセルロース0.6g、酢酸エチル3g、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート4g、フッ化ビニリデン398g、マレイン酸モノメチルエステル2gを仕込み(フッ化ビニリデン:マレイン酸モノメチルエステル=100:0.50)、25℃で42時間懸濁重合を行なった。重合完了後、重合体スラリーを脱水、水洗後、80℃で乾燥して粉体状の共重合体を得た。重合率は85%であった。得られた重合体は溶液粘度1.1dl/gであった。カルボニル基含有量は0.6×10−4モル/gであった。
【0042】
<実験データ2>
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1040g、メチルセルロース0.6g、酢酸エチル3g、イソプロピルパーオキシジカーボネート4g、フッ化ビニリデン375.2g、クロロトリフルオロエチレン24g、マレイン酸モノメチルエステル0.8gを仕込み(フッ化ビニリデン+クロロトリフルオロエチレン:マレイン酸モノメチルエステル=100:0.20)、25℃で24時間懸濁重合を行なった。重合完了後、同様に脱水、水洗、80℃で乾燥して粉体状の共重合体を得た。重合率は85%であった。得られた重合体は溶液粘度1.0dl/gであった。カルボニル基含有量は0.06×10−4モル/gであった。
【0043】
<実験データ3>
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1040g、メチルセルロース0.8g、酢酸エチル2.5g、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート4g、フッ化ビニリデン396g、マレイン酸モノメチルエステル4gを仕込み(フッ化ビニリデン:マレイン酸モノメチルエステル=100:1.01)、28℃で47時間懸濁重合を行なった。重合完了後、同様に脱水、水洗、80℃で乾燥して粉体状の共重合体を得た。重合率は90%であった。得られた重合体は溶液粘度1.1dl/gであった。カルボニル基含有量は1.2×10−4モル/gであった。
【0044】
<実験データ4>
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1040g、メチルセルロース0.4g、酢酸エチル8g、n−プロピルパーオキシジカーボネート2g、フッ化ビニリデン400gを仕込み(フッ化ビニリデン:マレイン酸モノメチルエステル=100:0)、25℃で22時間懸濁重合を行なった。重合完了後、同様に脱水、水洗、80℃で乾燥して粉体状の重合体を得た。重合率は85%であった。得られた重合体は溶液粘度1.1dl/gであった。
【0045】
上記で得られた重合体をそれぞれ単独で、同方向回転二軸押出機を用いてペレット化した。押出しは、ダイス出口での樹脂温度が220〜250℃の範囲内になるようにシリンダーの温度条件を調整した。
【0046】
[カルボニル基含有量の測定方法]
上記で得られた重合体のカルボニル基含有量は、以下の方法で測定した。
ポリフッ化ビニリデン樹脂とポリメチルメタクリレート樹脂を所定割合で混合した試料について、IRスペクトルの881cm−1の吸収に対する1726cm−1の吸収の比とカルボニル基含有量の関係をプロットし検量線を作成する。
試料重合体を熱水洗浄後、ベンゼンを用いたソックスレー抽出(80℃で24時間)により、ポリマー中に残留している未反応のモノマーおよびホモポリマーを除去した。その後、IRスペクトルのモノエステル化された不飽和二塩基酸に起因するカルボニル基の吸収の、881cm−1の吸収に対する比を求め、先に作成した検量線からカルボニル基含有量を求める。参考までに、モノエステル化された不飽和二塩基酸に起因するカルボニル基(エステル基中のカルボニル基とカルボキシル基中のカルボニル基を含む)の吸収は1700〜1850cm−1の範囲(例えばマレイン酸モノメチルエステルの場合は1747cm−1)に認められる。他方、ポリフッ化ビニリデンや、フッ化ビニリデンとフッ素あるいは炭化水素系単量体との共重合体は、1500〜2500cm−1の範囲で顕著な吸収を示さない。
【0047】
[押出性の評価方法]
上記で得られた重合体の押出性は、以下の方法で評価した。
実験データ1〜4のそれぞれのペレットと他の熱可塑性樹脂とを、単軸スクリュー押出機2台とマルチマニホールド多層Tダイとを用いて共押出しした。厚み540μm(フッ化ビニリデン含有樹脂180μm、他の熱可塑性樹脂360μm)の二層シートを得た。
なお、他の熱可塑性樹脂には、以下のポリアミド樹脂を用いた。
・PA12:市販ポリアミド12(ダイセルデグサ社製「ダイアミドX7293」)
・接着性PA12:市販接着性改良ポリアミド12(ダイセルデグサ社製「ダイアミドX7297」)
得られた二層シートの概観を目視で観察して、以下の基準で評価した。
A:押出性良好(二層シートのいずれの層の外観も良好)
B:押出性良好(二層シートのフッ化ビニリデン含有樹脂の表面に僅かに縦筋が発生)
C:連続的な運転不可能(フッ化ビニリデン含有樹脂に発泡、表面荒れ、顕著な縦筋が発生)
【0048】
[剥離強度(接着性)の評価方法]
上記で得られた重合体の剥離強度は、以下の方法で評価した。
JIS K6854−3に規定される接着剤のT剥離強度の測定法に準拠し、多層シートのサンプル幅を5mmにして、フッ化ビニリデン含有樹脂とポリアミド層間の剥離強度を引張試験機(オリエンテック社製「STA−1150」)を用いて測定した。なお、剥離強度が15N/cmを超え、良好な接着状態である場合を、「剥離せず」とする。
【0049】
図1に、実験データ1〜4についての、押出性および剥離強度の評価結果を示す。実験データ1、2により、フッ化ビニリデン系単量体100重量部に対し、極少量の不飽和二塩基酸のモノエステル単量体(0.1〜3重量部のうち特に0.1〜0.8重量部)のフッ化ビニリデン系共重合体は、押出性に優れていることが判る。さらに、不飽和二塩基酸のモノエステル単量体の含有量が極少量であっても、接着性を有さないポリアミド12(PA12)と共押出しにより積層した場合に良好な接着性を示すことが判る。
【0050】
本発明の第1の実施の形態に係る高分子組成物から高分子圧電体フィルムを製造する方法を説明する。方法は、大別すると次のとおりである。
<方法1>高分子組成物を溶融押出でフィルム状にした後、分極処理する。
<方法2>高分子組成物に第四級アンモニウム塩を添加し、溶融押出でフィルム状にした後、分極処理する。
<方法3>高分子組成物を溶融押出でフィルム状にし、一軸延伸した後、分極処理する。
<方法4>高分子組成物を溶融押出でフィルム状にした後、一軸延伸と分極処理を同時に行なう。
<方法5>高分子組成物を溶融押出でフィルム状にし、二軸延伸した後、分極処理する。
図2は、上記方法1〜5を示すフロー図である。各方法の詳細については、後述する。なお、「溶融押出」とは、溶融状態の樹脂を、押出金型の吐出口(リップ)から押し出し、成型することをいう。
【0051】
本発明の第1の実施の形態に係る高分子組成物を溶融押出して得られるフィルムを、一軸延伸および/または分極処理する装置の一例として、図3(a)に示す装置60を説明する。装置60は、溶融押出されたフィルム10を送る第1ロール61と、第2ロール62、および、第2ロールからのフィルム10を送る第3ロール63を備える。フィルム10は、第1ロール61、第2ロール62、および第3ロール63の周速差により、第2ロール62上で縦延伸される。すなわち、第2ロール62は延伸ロールとなる。装置60は、さらに、第2ロール62に接触したフィルム10を非接触で覆うように配置された尖端電極71を備える。分極処理時は、第2ロール62が尖端電極71の対向電極として機能する。すなわち、第2ロール62は分極ロールとなる。対向電極として機能する場合の第2ロール62を以後電極72とする。さらに、尖端電極71と電極72は直流高圧電源73を介して接続される。直流高圧電源73は、尖端電極71と電極72の正負を逆にすることができる。
【0052】
尖端電極71は、その尖端に発生するコロナ放電によって生じた電荷をフィルム10の表面に保持させて対向電極(電極72)との間の直流電界により、フィルム10を分極処理する。尖端電極71は、効果的なコロナ放電を起すために尖端を有することが好ましい。尖端電極の例としては、ステンレス、タングステン等の針状電極(文字通り針状の先端を有する電極)に加えて、針金状電極(すなわち、フィルム10の幅方向に、ほぼフィルム10の幅と同じ長さで延長する針金状の電極)も好ましく用いられる。このような非接触型電極でなく、フィルム10に直接接触する電極を用いて、電極72との間で分極処理を行うことも可能である。しかし、処理対象のフィルム10が同時に延伸処理を受ける場合など、フィルムの絶縁破壊のおそれがある場合には、それに伴う電源のシャトダウンを回避するために、非接触型電極が好ましい。
【0053】
尖端電極71の先端と電極72との間隔は、一般に5〜30mm程度が好ましい。間隔が過小であるとフィルム10の絶縁破壊が起り易くなり、過大の場合はコロナ放電が抑制され分極処理効果が低減する。尖端電極71が針金状電極の場合は、0.5〜2本/cm、針状電極の場合は、0.5〜3本/cm程度の密度で設けることが望ましい。
【0054】
一軸延伸または分極処理を行なう場合に、フィルム10の温度を適温にするため、第2ロール62(電極72)は、ヒータとして機能する。また、フィルム10の急激な加熱を避けるために、第1ロール61をヒータの温度より低い温度の予熱ロールとしてもよい。あるいは、第1ロール61の上流に赤外線ヒータ等の予熱手段を設けてもよい。
【0055】
上記した装置60を用いることにより、溶融押出したフィルムを同時に一軸延伸および分極処理することができる。また、尖端電極71と電極72を用いることなく(すなわち分極処理をせずに)延伸処理のみをすることも可能である。また第1ロール61、第2ロール62、第3ロール63のフィルムの供給速度を同一にすることにより、フィルムを延伸せずに(すなわち無延伸)、分極処理のみを施すこともできる。
なお、一軸延伸は、上記のロール延伸のほかに、テンター法により行なってもよい。
【0056】
本発明の第1の実施の形態に係る高分子組成物を溶融押出して得られるフィルムを、二軸延伸する場合は、逐時二軸延伸または同時二軸延伸のどちらも用いることができる。すなわち、周速差のあるロール間での延伸(ロール延伸)と、一方向(例えば長さ方向)に延伸されたシートの両端を把持し幅方向に延伸するテンター法との組あわせによる二軸延伸、または、テンター法による二軸延伸であってもよい。なお、面方向配向均一性のよいフィルムを与える二軸延伸が好ましく、特に二軸方向の延伸倍率がほぼ等しい二軸延伸がより好ましい。
【0057】
本発明の第1の実施の形態に係る高分子組成物を溶融押出して得られるフィルムを、分極処理する装置の一例として、図3(b)に示す装置80を説明する。装置80は、適度な大きさにカットされたフィルム10を固定する平板状の金属板82と、フィルム10の上方に配置された非接触の針電極81(少なくとも1本)を備える。分極処理時は、金属板82が針電極81の対向電極として機能する。さらに、針電極81と金属板82は直流高圧電源73を介して接続される。
【0058】
なお、コロナ分極処理、一軸延伸処理、二軸延伸処理は、適宜既存の分極処理装置、一軸延伸装置、二軸延伸装置をそれぞれ用いてもよい。
【0059】
図2に戻り、図2(a)を用いて<方法1>について説明する。<方法1>では、本発明の第1の実施の形態に係る高分子組成物を溶融押出し(ST11)、溶融押出により得られたフィルムを分極処理し(ST12)、易接着性を有する高分子圧電体フィルムを得る。
【0060】
一般に、ポリフッ化ビニリデンは、溶融状態から冷却し結晶化させると、無極性α型の結晶構造を持つことが知られている。本発明者等は、この無極性α型ポリフッ化ビニリデンから無延伸で造られたフィルムを分極処理すると、分極方法や分極時の電圧値を取捨選択することにより、極性α型に転移した結晶構造を持つポリフッ化ビニリデンが高い圧電性を示すことを見出した。
なお、無極性α型ポリフッ化ビニリデンとは、結晶構造部分が**1/2らせんのII型結晶であるものをいい、結晶内のC−F、C−H結合の双極子モーメントによる有極性分子であるが、対称中心を有するために双極子モーメントを打ち消しあい、結晶としては無極性結晶であるものをいう。
極性α型ポリフッ化ビニリデンとは、結晶構造部分が**1/2らせんのII型結晶であるものをいい、双極子が回転により同一方向に並ぶことにより、結晶としては極性結晶であるものをいう。

本発明者等は、ポリフッ化ビニリデンKF#1000(株式会社クレハ製)からTダイを備えた口径40mmφの単軸押出機を用いて、幅250mm、厚さ40μmのフィルムを作製した。次にこのフィルムをコロナ分極処理により分極した後、実際に圧電応力定数を測定したところ、図4(b)の比較例3に示すように、例えばd31が12.8pC/Nを示した。この値は、圧電性フィルムとして工業的に十分に利用可能であることを示す値である。
【0061】
<方法1>は、上記発明に基づいたものである。すなわち、易接着性を有する高分子組成物を溶融状態から結晶化させると、組成物中に含まれたポリフッ化ビニリデンの結晶構造部分は、無極性α型結晶となる。この高分子組成物から造られたフィルムをコロナ分極処理により分極すると、無極性α型結晶が極性α型結晶に転移する。こうして、極性α型ポリフッ化ビニリデンを含む、易接着性を有する高分子圧電体フィルムを得ることができる。
【0062】
図2(a)のST11についてさらに詳細に説明する。ST11では、溶融状態(温度200〜280℃)の本発明の実施の形態に係る高分子組成物を、Tダイを備えた押出機により押出し、フィルム状に成形し、40〜140℃まで冷却する。なお、押出されるフィルムの厚さは、10〜2000μmであることが好ましい。また、溶融押出ではなく、溶液キャスティングによりフィルムを成型してもよい。
なお、本明細書においては、図2(a)〜(e)に示す方法の各工程により得られたフィルムは、各工程の番号を付し区別する。例えば、ST11により得られたフィルムはフィルム11とし、ST12により得られたフィルムはフィルム12とする(以後、同様)。また、工程ごとにフィルムの状態を区別する必要がない場合は、総称してフィルム10とする。
【0063】
図2(a)のST12についてさらに詳細に説明する。図3(a)に示す装置60を用いて、上記フィルム11を、第2ロール62へ速度Rで供給する。フィルム11は、電極72(第2ロール62)と接触する領域内で、直流高圧電源73に接続された尖端電極71と電極72(対向電極)との間の直流高電界の作用により分極処理される。分極処理されたフィルム12は、供給時と同じ速度Rで第2ロール62を離れる。すなわち、フィルム11は、延伸されることなく無延伸で分極処理されフィルム12となる。さらに、必要に応じて寸法安定化のための熱処理等の後処理を受けた後、巻取ロール(図示せず)に巻取られる。
尖端電極67に印加される電圧は、最大で100kVである。分極処理時にヒータとして機能する第2ロール62の温度(フィルム11の温度とほぼ同じ)は、ガラス転移温度(Tg)〜融点(Tm)であることが望ましく、好ましくは0〜140℃、より好ましくは室温〜130℃である。
【0064】
上記方法により、ポリフッ化ビニリデンの主たる結晶構造部分が極性α型である、ポリフッ化ビニリデンを含む、易接着性を有する無延伸の高分子圧電体フィルムを得ることができる。なお、「主たる結晶構造部分」とは、結晶構造部分の主成分(すなわち結晶構造部分の50%超)の部分をいう。例えば、ポリフッ化ビニリデンの主たる結晶構造部分が極性α型であるとは、半結晶性高分子であるポリフッ化ビニリデンの結晶構造部分の50%超が極性α型であることをいう。
【0065】
図2(b)を用いて<方法2>について説明する。<方法2>では、本発明の第1の実施の形態に係る高分子組成物に第四級アンモニウム塩を添加し(ST21)、第四級アンモニウム塩が添加された高分子組成物を溶融押出し(ST22)、溶融押出により得られたフィルムを分極処理し(ST23)、易接着性を有する高分子圧電体フィルムを得る。
【0066】
ポリフッ化ビニリデンは、第四級アンモニウム塩を添加することにより、その結晶構造が無極性のα型からβ型に転移する。本発明者等は、第四級アンモニウム塩を一定量添加したポリフッ化ビニリデンから無延伸で造られたフィルムを分極処理すると、高い圧電性を示すことを見出した。
また、第四級アンモニウム塩の代わりに一定量のクレイを添加してもよい。その場合は、オニウム塩で表面処理されたクレイを添加することが好ましい。特に、第四級アンモニウム塩で表面処理されたクレイを添加することが好ましい。
なお、β型ポリフッ化ビニリデンとは、結晶構造部分が平面ジグザクなI型結晶:TTコンフォメーションであるものをいい、分子鎖が垂直方向に双極子モーメントを有し、かつ結晶内で同一方向に向いているため、結晶としては極性結晶であるものをいう。
発明者等は、ポリフッ化ビニリデンKF#1000(株式会社クレハ製)100重量部とテトラブチルアンモニウムハイドロゲンサルフェート0.1重量部を、4mmφの口金を備えた口径40mmφの単軸押出機を用いてペレット化した。次に、このペレットをTダイを備えた口径40mmφの単軸押出機を用いて、幅250mm、厚さ40μmのフィルムを作製し、このフィルムを分極処理した。実際にこのフィルムの圧電応力定数を測定したところ、d33が13.0pC/Nを示した。この値は、圧電性フィルムとして工業的に十分に利用可能であることを示す値である。
なお、第四級アンモニウム塩により表面処理されたクレイを添加した場合のd33は7.7pC/Nであった。添加したクレイは、コープケミカル株式会社製ソマシフMTEである。添加量は、ポリフッ化ビニリデン100重量部に対し0.1重量部である。
【0067】
<方法2>は、この発明に基づいたものである。すなわち、易接着性を有する高分子組成物に第四級アンモニウム塩(または第四級アンモニウム塩により表面処理されたクレイ)を添加し、溶融状態から結晶化させると、組成物中に含まれたポリフッ化ビニリデンの結晶構造部分は、β型結晶となる。この高分子組成物から作られたフィルムをコロナ分極処理により分極することにより、β型ポリフッ化ビニリデンを含む、易接着性を有する高分子圧電体フィルムを得ることができる。
【0068】
図2(b)のST21についてさらに詳細に説明する。ST21では、本発明の実施の形態に係る高分子組成物に第四級アンモニウム塩を添加し、同方向回転二軸押出機を用いてペレット化する。
【0069】
添加する第四級アンモニウム塩としては、アルキル四級アンモニウムの硫酸塩または亜硫酸塩が好ましい。
本発明で使用するアルキル四級アンモニウム硫酸塩は、下記に表される化合物である。
[RNRSO
上記式中、R〜Rは、互いに同一または相異なるアルキル基であり、Rは、アルキル基、フルオロアルキル基、または水素原子である。
本発明で使用するアルキル四級アンモニウム亜硫酸塩は、下記に表される化合物である。
[RNR10SO
上記式中、R〜Rは、互いに同一または相異なるアルキル基であり、R10は、アルキル基、フルオロアルキル基、または水素原子である。
これらの化合物の中でも、安定性に優れることから、アルキル四級アンモニウム硫酸塩が好ましい。
【0070】
上記化合物において、R〜RまたはR〜Rにおけるアルキル基の炭素数の合計は、通常4以上であるが、好ましくは8〜30、より好ましくは12〜24、特に好ましくは15〜20である。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などの短鎖アルキル基を例示することができる。RおよびR10がアルキル基である場合には、メチル基やエチル基などの短鎖アルキル基が代表的なものである。RおよびR10がフルオロアルキル基である場合には、CF、Cなどの短鎖フルオロアルキル基が代表的なものである。
【0071】
これらの化合物の具体例として、例えば、(C)、(C)、(C)、(C11)等のアルキル四級アンモニウムカチオンと、CFSO4、CHSO、HSO、CFSO、CHSO、HSOなどの硫酸または亜硫酸を含むアニオンとからなる塩を挙げることができる。これらの化合物は、2種類以上のアニオンおよびカチオンを組み合わせた塩であってもよい。また、第四級アンモニウムが有する4つのアルキル基は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。これらの中でも、アルキル四級アンモニウムの硫酸水素塩が好ましく、テトラブチルアンモニウムハイドロゲンサルフェート(TBAHS)[(C)NHSO]が特に好ましい。これらの化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0072】
また、添加する第四級アンモニウム塩の量は、高分子組成物100重量部に対して、0.1〜0.3重量部が好ましい。(なお、第四級アンモニウム塩により表面処理されたクレイを用いる場合は、高分子組成物100重量部に対して、0.1〜3.0重量部が好ましい。)
【0073】
図2(b)のST22についてさらに詳細に説明する。得られたペレット21を溶融状態(温度200〜280℃)にし、Tダイを備えた押出機により押出し、フィルム状に成型し、40〜140℃まで冷却する。なお、フィルム22の厚さは、10〜2000μmであることが好ましい。また、溶融押出ではなく、溶液キャスティングによりフィルムを成型してもよい。
【0074】
図2(b)のST23についてさらに詳細に説明する。図3(a)に示す装置60を用いて、<方法1>のST12と同様に上記フィルム22を分極処理する。分極処理されたフィルム23は、供給速度と同じ速度で第2ロール62を離れる。すなわち、フィルム22は、延伸されることなく無延伸で分極処理されフィルム23となる。さらに、必要に応じて寸法安定化のための熱処理等の後処理を受けた後、巻取ロール(図示せず)に巻取られる。
尖端電極71に印加される電圧は、最大で100kVである。分極処理時にヒータとして機能する第2ロール62の温度(フィルム22の温度とほぼ同じ)は、ガラス転移温度(Tg)〜融点(Tm)であることが望ましく、好ましくは0〜140℃、より好ましくは室温〜130℃である。
【0075】
上記方法により、ポリフッ化ビニリデンの主たる結晶構造部分が、β型であるポリフッ化ビニリデンを含む、易接着性を有する無延伸の高分子圧電体フィルムを得ることができる。
【0076】
図2(c)を用いて<方法3>について説明する。<方法3>では、本発明の第1の実施の形態に係る高分子組成物を溶融押出し(ST31)、溶融押出により得られたフィルムを一軸延伸し(ST32)、一軸延伸したフィルムを分極処理し(ST33)、易接着性を有する高分子圧電体フィルムを得る。
【0077】
ポリフッ化ビニリデンは、溶融状態から冷却し結晶化させると、無極性α型の結晶構造を持つ。さらに、このポリフッ化ビニリデンを一軸延伸すると、結晶構造部分が無極性α型からβ型に転移することが知られている。β型ポリフッ化ビニリデンから造られたフィルムを分極処理すると、β型ポリフッ化ビニリデンを含む、高い圧電性を示す圧電性フィルムが得られる。
【0078】
<方法3>は、ポリフッ化ビニリデンの上記特性に基づく。すなわち、易接着性を有する高分子組成物を溶融状態から結晶化させると、組成物中に含まれたポリフッ化ビニリデンの結晶構造部分は、無極性α型結晶となる。この高分子組成物から造られたフィルムを一軸延伸すると、組成物中に含まれるポリフッ化ビニリデンの結晶構造部分はβ型に転移する。β型ポリフッ化ビニリデンを含むフィルムをコロナ放電により分極処理することにより、易接着性を有する高分子圧電体フィルムを得ることができる。
【0079】
図2(c)のST31についてさらに詳細に説明する。ST31では、溶融状態(温度200〜280℃)の本発明の実施の形態に係る高分子組成物を、Tダイを備えた押出機により押出し、フィルム状に成型し、40〜140℃まで冷却する。なお、フィルム31の厚さは、10〜2000μmであることが好ましい。また、溶融押出ではなく、溶液キャスティングによりフィルムを成型してもよい。
【0080】
図2(c)のST32についてさらに詳細に説明する。図3(a)に示す装置60を用いて、フィルム31を一軸延伸する。すなわち、尖端電極71および電極72を使用せずに、フィルム31を速度Rで第1ロール61から第2ロール62へ供給し、第2ロール62と接触する長さの領域内で、フィルム31を延伸する。延伸後のフィルム32は、速度R′(>R)で第2ロール62を離れ第3ロール63に送られる。その後、巻取ロール(図示せず)に巻取られる。
一軸延伸を効果的に起すために、ヒータとして機能する第2ロール62の温度(フィルム31の温度とほぼ同じ)は、ガラス転移温度(Tg)〜融点(Tm)であることが望ましく、好ましくは0〜140℃、より好ましくは室温〜130℃である。また、フィルム31は、3〜6倍に延伸することが好ましい。3倍未満では延伸が安定せず、6倍を超えるとフィルムの破断のおそれがあるためである。
【0081】
図2(c)のST33についてさらに詳細に説明する。一軸延伸されたフィルム32を、さらに図3(a)に示す装置60を用いて分極処理する。このとき、第1ロール61、第2ロール62、第3ロール63のフィルムの供給速度を同一にすることにより、すでに一軸延伸されたフィルム32は、分極処理時に延伸されることなくフィルム33となる。その後、必要に応じて寸法安定化のための熱処理等の後処理を受けた後、巻取ロール(図示せず)に巻取られる。
尖端電極71に印加される電圧は、最大で100kVである。分極処理時にヒータとして機能する第2ロール62(電極72)の温度(フィルム32の温度とほぼ同じ)は、ガラス転移温度(Tg)〜融点(Tm)であることが望ましく、好ましくは0〜140℃、より好ましくは室温〜130℃である。
【0082】
上記方法により、ポリフッ化ビニリデンの主たる結晶構造部分が、β型であるポリフッ化ビニリデンを含む、易接着性を有する高分子圧電体フィルムを得ることができる。
【0083】
図2(d)を用いて<方法4>について説明する。<方法4>では、本発明の第1の実施の形態に係る高分子組成物を溶融押出し(ST41)、溶融押出により得られたフィルムに対して一軸延伸と分極処理を同時に行ない(ST42)、易接着性を有する高分子圧電体フィルムを得る。
【0084】
<方法4>は、<方法3>と同様のポリフッ化ビニリデンの特性を利用したものである。ただし、一軸延伸と分極処理を同時に行なうことを特徴とする。すなわち、易接着性を有する高分子組成物を溶融状態から結晶化させると、組成物中に含まれたポリフッ化ビニリデンの結晶構造部分は、無極性α型結晶となる。この高分子組成物から造られたフィルムを一軸延伸しながらコロナ分極処理により分極すると、β型ポリフッ化ビニリデンを含む、易接着性を有する高分子圧電体フィルムを得ることができる。なお、一軸延伸と分極処理を同時に行なうことにより、フィルムの耐熱性を向上させることができる。
【0085】
図2(d)のST41についてさらに詳細に説明する。ST41では、溶融状態(温度200〜280℃)の本発明の実施の形態に係る高分子組成物を、Tダイを備えた押出機により押出し、フィルム状に成型する。なお、フィルム41の厚さは、10〜2000μmであることが好ましい。また、溶融押出ではなく、溶液キャスティングによりフィルムを成型してもよい。
【0086】
図2(d)のST42についてさらに詳細に説明する。図3(a)に示す装置60を用いて、フィルム41を一軸延伸しながら分極処理を同時に行なう。フィルム41を速度Rで第2ロール62へ供給する。第2ロール62と接触する長さの領域内で、フィルム41を一軸延伸しながら、同時に尖端電極71と電極72(第2ロール62)との間の直流高電界の作用により分極処理を行なう。一軸延伸および分極処理後のフィルム42(実質的に既に本発明の高分子圧電体フィルムに相当する)は、速度R′(>R)で第2ロール62を離れ、必要に応じて寸法安定化のための熱処理等の後処理を受けた後、巻取ロール(図示せず)に巻取られる。
尖端電極71に印加される電圧は、最大で100kVである。ヒータとして機能する第2ロール62の温度(フィルム41の温度とほぼ同じ)は、ガラス転移温度(Tg)〜融点(Tm)であることが望ましく、好ましくは0〜140℃、より好ましくは室温〜130℃である。フィルム41は、3〜6倍に延伸することが好ましい。3倍未満では延伸が安定せず、6倍を超えるとフィルムの破談のおそれがあるためである。
【0087】
上記方法により、ポリフッ化ビニリデンの主たる結晶構造部分が、β型であるポリフッ化ビニリデンを含む、易接着性を有する高分子圧電体フィルムを得ることができる。
【0088】
図2(e)を用いて<方法5>について説明する。<方法5>では、本発明の第1の実施の形態に係る高分子組成物を溶融押出し(ST51)、溶融押出により得られたフィルムを二軸延伸し(ST52)、二軸延伸したフィルムを分極処理し(ST53)、易接着性を有する高分子圧電体フィルムを得る。
【0089】
ポリフッ化ビニリデンは、溶融状態から冷却し結晶化させると、無極性α型の結晶構造を持つ。さらに、このポリフッ化ビニリデンを二軸延伸すると、結晶構造部分に、無極性α型結晶とβ型結晶が混在することが知られている。つまり、無極性α型結晶とβ型結晶のどちらも「主たる」結晶構造部分になり得るポリフッ化ビニリデンが得られる。さらに、二軸延伸したポリフッ化ビニリデンを分極処理すると、無極性α型結晶が極性α型結晶に転移する。
【0090】
<方法5>は、ポリフッ化ビニリデンの上記特性に基づく。すなわち、易接着性を有する高分子組成物を溶融状態から結晶化させると、組成物中に含まれたポリフッ化ビニリデンの結晶構造部分は、無極性α型結晶となる。この高分子組成物から造られたフィルム51を二軸延伸すると、組成物中に含まれるポリフッ化ビニリデンの結晶構造部分は無極性のα型およびβ型が混在する。このポリフッ化ビニリデンを含むフィルムをコロナ分極処理により分極することにより、易接着性を有する高分子圧電体フィルムを得ることができる。
【0091】
図2(e)のST51についてさらに詳細に説明する。ST51では、溶融状態(温度200〜280℃)の本発明の実施の形態に係る高分子組成物を、Tダイ法を備えた押出機により押出し、フィルム状に成型し、40〜140℃まで冷却する。なお、フィルム51の厚さは、10〜2000μmであることが好ましい。また、溶融押出ではなく、溶液キャスティングによりフィルムを成型してもよい。
【0092】
図2(e)のST52についてさらに詳細に説明する。二軸延伸機(不図示)を用いて、フィルム51を二軸延伸する。なお、二軸延伸は、逐次二軸延伸(縦方向と横方向を順次延伸する方法)および同時二軸延伸のどちらを用いてもよい。
二軸延伸時のフィルム51の温度は、ガラス転移温度(Tg)〜融点(Tm)であることが望ましく、好ましくは0〜140℃、より好ましくは室温〜130℃である。また、フィルム51は、逐次二軸延伸の場合には縦延伸倍率(長さ方向)を3〜4.5倍程度に、横延伸倍率(幅方向)を3〜6倍程度に延伸することが好ましい。同時二軸延伸の場合には、縦延伸倍率(長さ方向)および横延伸倍率(幅方向)を3〜4.5倍程度に延伸することが好ましい。
【0093】
図2(e)のST53についてさらに説明する。二軸延伸されたフィルムを、さらに図3(a)に示す装置60を用いて分極処理する。分極処理されたフィルム53は、供給時と同じ速度で第2ロール62を離れる。すなわち、すでに二軸延伸されたフィルム52は、分極時に延伸されることなくフィルム53となる。さらに、必要に応じて寸法安定化のための熱処理等の後処理を受けた後、巻取ロール(図示せず)に巻取られる。
尖端電極71に印加される電圧は、最大で100kVである。分極処理時にヒータとして機能する第2ロール62の温度(フィルム52の温度とほぼ同じ)は、ガラス転移温度(Tg)〜融点(Tm)であることが望ましく、好ましくは0〜140℃、より好ましくは室温〜130℃である。なお、図3(a)に示す装置60の代わりに、図3(b)に示す装置80を用いて分極処理を行ってもよい。
【0094】
上記方法により、易接着性を有する高分子圧電体フィルムを得ることができる。
【0095】
上記<方法1>〜<方法5>で得られた易接着性を有する高分子圧電体フィルム12、23、33、42、53は、その後、寸法安定化のための熱処理等の後処理を必要に応じて行ない、巻き取りロールに巻き取られる。
得られた高分子圧電体フィルムは、易接着性を有するため、電極(金属や導電性の高分子)を塗布した場合の接着力を向上させることができる。さらに、高分子圧電体フィルムと他の熱可塑性樹脂等とを溶着させ積層構造を形成する場合に、ポリフッ化ビニリデン単体と比し、溶着させる他の熱可塑性樹脂等の種類を増やすことができる。また、積層を形成する場合に、接着層または接着剤を設けた場合であっても、高分子圧電体フィルムと接着層または接着剤自体との接着力を向上させることができるだけでなく、使用する接着層または接着剤の種類を増やすことができる。さらに、他の熱可塑性樹脂等を含む押出樹脂数に応じた数の単軸または二軸等の押出機と積層数に応じた多層Tダイを用いた慣用の共押出法により、容易に共押出しによる積層フィルムを製造することができる。
なお、この圧電性を示す本発明の高分子圧電体フィルムは、当然に焦電性をも示す。したがって、圧電センサのみならず、焦電センサに用いることも可能である。
【実施例】
【0096】
以下に、実施例および比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。
【0097】
[ポリフッ化ビニリデン]
ポリフッ化ビニリデンには、株式会社クレハ製KF#1000を用いた。
[フッ化ビニリデン系共重合体の調整]
以下のとおり、フッ化ビニリデン系共重合体Aを調整した。
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1040g、メチルセルロース0.6g、酢酸エチル3g、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート4g、フッ化ビニリデン396g、マレイン酸モノメチルエステル4gを仕込み(重量部比では、フッ化ビニリデン:マレイン酸モノメチルエステル=100:1.0)、25℃で42時間懸濁重合を行なった。重合完了後、重合体スラリーを脱水、水洗後、80℃で乾燥して粉体状の共重合体を得た。
上記と同様の方法により、マレイン酸モノメチルエステルの含有量が最小(すなわち、フッ化ビニリデン:マレイン酸モノメチルエステル=100:0.1)のフッ化ビニリデン系共重合体B、および、最大(すなわち、フッ化ビニリデン:マレイン酸モノメチルエステル=100:3)のフッ化ビニリデン系共重合体Cを調整した。
【0098】
図4(a)に示す実施例1〜6および比較例1〜2を、ポリフッ化ビニリデンとフッ化ビニリデン系共重合体A〜Cを用いて以下のように調整した。
<実施例1>
ポリフッ化ビニリデン90重量部と、フッ化ビニリデン系共重合体A10重量部を、同方向回転二軸押出機を用いてペレット化し、高分子組成物を得た。
得られた高分子組成物のペレットから<方法3>により高分子圧電体フィルムを得た。すなわち、Tダイを備えた口径40mmφの単軸押出機を用いて、230℃で溶融後、幅250mm、厚さ80μmとなるようにフィルムを作成し、95℃に冷却した。
次に、図3(a)に示す装置60の第1ロール61から、供給速度1m/minでフィルムを供給した。フィルムが4倍に延伸されるように、第2ロール62からフィルムが離れる速度を4m/minに調整した。一軸延伸時にヒータとして機能する第2ロール62の温度は、100℃とした。
次に、同様に装置60を用いて尖端電極71(針状電極)に、図4(a)に示す直流電圧を、フィルムの供給速度1m/minで印加した。分極処理時にヒータとして機能する第2ロール62の温度は、30℃とした。
<実施例2>
高分子組成物の混合比を、ポリフッ化ビニリデン80重量部と、フッ化ビニリデン系共重合体A20重量部とした。以後、<実施例1>と同様。
<実施例3>
高分子組成物の混合比を、ポリフッ化ビニリデン70重量部と、フッ化ビニリデン系共重合体A30重量部とした。以後、<実施例1>と同様。
<実施例4>
高分子組成物の混合比を、ポリフッ化ビニリデン50重量部と、フッ化ビニリデン系共重合体A50重量部とした。以後、<実施例1>と同様。
<実施例5>
高分子組成物の混合比を、ポリフッ化ビニリデン90重量部と、フッ化ビニリデン系共重合体B10重量部とした。以後、<実施例1>と同様。すなわち、実施例5は、最少量のマレイン酸モノメチルエステル(0.1重量部)との共重合体であるフッ化ビニリデン系共重合体Bを、高分子組成物中最小量(10重量部)含有する高分子組成物である。
<実施例6>
高分子組成物の混合比を、ポリフッ化ビニリデン20重量部と、フッ化ビニリデン系共重合体C80重量部とした。以後、<実施例1>と同様。すなわち、実施例6は、最大量のマレイン酸モノメチルエステル(3重量部)との共重合体であるフッ化ビニリデン系共重合体Cを、高分子組成物中最大量(80重量部)含有する高分子組成物である。
<比較例1>
高分子組成物の混合比を、ポリフッ化ビニリデン100重量部と、フッ化ビニリデン系共重合体0重量部とした。以後、<実施例1>と同様。ただし、延伸前のフィルムの厚さは約160μmとした。
<比較例2>
高分子組成物の混合比を、ポリフッ化ビニリデン0重量部と、フッ化ビニリデン系共重合体A100重量部とした。以後、<実施例1>と同様。ただし、延伸前のフィルムの厚さは約160μmとした。
【0099】
図4(b)に示す実施例7〜10および比較例3〜4を、ポリフッ化ビニリデンとフッ化ビニリデン系共重合体Aを用いて以下のように調整した。
なお、図4(a)と図4(b)の実施例、比較例は、高分子圧電体フィルムを製造する方法のみが異なる。すなわち、図4(a)の実施例、比較例では、<方法3>を用いているのに対し、図4(b)の実施例、比較例では<方法1>を用いている。
<実施例7>
ポリフッ化ビニリデン90重量部と、フッ化ビニリデン系共重合体A10重量部を、同方向回転二軸押出機を用いてペレット化し、高分子組成物を得た。
得られた高分子組成物のペレットから<方法1>により高分子圧電体フィルムを得た。すなわち、Tダイを備えた口径40mmφの単軸押出機を用いて、225℃で溶融後、幅250mm、厚さ40μmとなるようにフィルムを作成し、70℃に冷却した。
次に、図3(a)に示す装置60を用いて尖端電極71(針状電極)に、図4(b)に示す直流電圧を、フィルムの供給速度1m/minで印加した。分極処理時にヒータとして機能する第2ロール62の温度は、100℃とした。
<実施例8>
高分子組成物の混合比を、ポリフッ化ビニリデン80重量部と、フッ化ビニリデン系共重合体A20重量部とした。以後、<実施例7>と同様。
<実施例9>
高分子組成物の混合比を、ポリフッ化ビニリデン70重量部と、フッ化ビニリデン系共重合体A30重量部とした。以後、<実施例7>と同様。
<実施例10>
高分子組成物の混合比を、ポリフッ化ビニリデン50重量部と、フッ化ビニリデン系共重合体A50重量部とした。以後、<実施例7>と同様。
<比較例3>
高分子組成物の混合比を、ポリフッ化ビニリデン100重量部と、フッ化ビニリデン系共重合体0重量部とした。以後、<実施例7>と同様。
<比較例4>
高分子組成物の混合比を、ポリフッ化ビニリデン0重量部と、フッ化ビニリデン系共重合体A100重量部とした。以後、<実施例7>と同様。ただし、フィルムの厚さは130μmとした。
【0100】
図6に示す実施例11〜13および比較例5〜7を、ポリフッ化ビニリデンとフッ化ビニリデン系共重合体Aを用いて以下のように調整した。
<実施例11>
高分子組成物の混合比を、ポリフッ化ビニリデン50重量部と、フッ化ビニリデン系共重合体A50重量部とし、<方法2>により高分子圧電体フィルムを得た。すなわち、ポリフッ化ビニリデン50重量部と、フッ化ビニリデン系共重合体50重量部に、さらにテトラブチルアンモニウムハイドロゲンサルフェート0.1重量部を加えて、同方向回転二軸押出機を用いてペレット化し、高分子組成物を得た。
得られた高分子組成物のペレットを、Tダイを備えた口径40mmφの単軸押出機を用いて、220℃で溶融後、幅250mm、厚さ40μmとなるようにフィルムを作成し、75℃に冷却した。
次に、図3(a)に示す装置60を用いて尖端電極71(針状電極)に、図6に示す直流電圧を、フィルムの供給速度1m/minで印加した。分極処理時にヒータとして機能する第2ロール62の温度は、30℃とした。
<実施例12>
ポリフッ化ビニリデン50重量部と、フッ化ビニリデン系共重合体A50重量部を、同方向回転二軸押出機を用いてペレット化し、高分子組成物を得た。
得られた高分子組成物のペレットから<方法4>により高分子圧電体フィルムを得た。すなわち、Tダイを備えた口径40mmφの単軸押出機を用いて、220℃で溶融後、幅250mm、厚さ160μmとなるようにフィルムを作成し、75℃に冷却した。
次に、図3(a)に示す装置60の第1ロール61から、供給速度1m/minでフィルムを供給した。フィルムが4倍に延伸されるように、第2ロール62からフィルムが離れる速度を4m/minに調整した。一軸延伸と同時に、尖端電極71(針状電極)に、図6に示す直流電圧を印加した。ヒータとして機能する第2ロール62の温度は、120℃とした。
<実施例13>
ポリフッ化ビニリデン80重量部と、フッ化ビニリデン系共重合体A20重量部を、同方向回転二軸押出機を用いてペレット化し、高分子組成物を得た。
得られた高分子組成物のペレットから<方法5>により高分子圧電体フィルムを得た。すなわち、Tダイを備えた口径40mmφの単軸押出機を用いて、230℃で溶融後、幅250mm、厚さ320μmとなるようにフィルムを作成し、90℃に冷却した。
次に、同時二軸延伸機を用いて、フィルムが長さ方向に4倍、幅方向に4倍に延伸されるように調整した。二軸延伸時のフィルムの温度は、165℃とした。
次に、二軸延伸後のフィルムを10cm×10cmの大きさにカットし、図3(b)に示す装置80の金属板82上に固定し、針電極81を用いて、フィルム(図3(b)ではフィルム10)に対して図6に示す直流電圧を印加した。分極処理時には、金属板82(すなわちフィルム10)の温度が110℃となるようにヒータ(不図示)を用いて金属板82を加熱した。
<比較例5>
高分子組成物の混合比を、ポリフッ化ビニリデン100重量部と、フッ化ビニリデン系共重合体0重量部とした。以後、<実施例11>と同様。
<比較例6>
高分子組成物の混合比を、ポリフッ化ビニリデン100重量部と、フッ化ビニリデン系共重合体0重量部とした。以後、<実施例12>と同様。
<比較例7>
高分子組成物の混合比を、ポリフッ化ビニリデン100重量部と、フッ化ビニリデン系共重合体0重量部とした。以後、<実施例13>と同様。
【0101】
[圧電応力定数の測定方法]
得られた高分子圧電体フィルムの圧電応力定数は、以下のように測定した。
d31(長さ方向の応力に対する)は、(株)東洋精機製作所製レオログラフソリッドを用いて測定した。
d32(幅方向の応力に対する)は、(株)東洋精機製作所製レオログラフソリッドを用いて測定した。
d33(縦方向の応力に対する)は、空圧プレス機を用いて一定の速度で厚み方向に応力を加え、発生する電荷をチャージアンプで測定し、算出した。
【0102】
[水との接触角の測定方法]
得られた高分子圧電体フィルムと水との接触角は、JISK6768に基づき、協和界面化学(株)製DM−500を用いて測定した。
【0103】
[碁盤目テープ法]
得られた高分子圧電体フィルムの接着性を、碁盤目テープ法(旧JISK5400 8.5.2)に基づいて、以下のように評価した。
まず、得られた易接着性を有する高分子圧電体フィルムの表面に電極膜を塗布し乾燥した。次に、カッターナイフで高分子圧電体フィルムに達する切り傷を1mm間隔で付け、10×10の碁盤目をつくった。この碁盤目上に粘着テープを貼り、消しゴムでこすって完全に付着させ、1〜2分後粘着テープを剥がした。電極膜の付着状態は、目視によって観察した。なお、電極膜には、金属電極として銀(Ag)ペーストと、導電性高分子としてポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT、Bayer社製Baytron(米国登録商標)SV3)を用いた。
【0104】
図4(a)、図4(b)、図6に示す各表の項目は、以下のとおりである。
混合比は、ポリフッ化ビニリデンとフッ化ビニリデン系共重合体との混合比である。
厚さは、高分子圧電体フィルムの厚さである。
電圧Vpは、尖端電極に印加された電圧値である。
推測Epは、分極処理時の電界強度(計算値)である。本実施例ではコロナ分極処理を行っているため、印加電圧から空気の電圧降下分を除きフィルムの厚さで割り電界強度を求めている。すなわち、推測Epは次式により求めた。電圧降下分は、分極時の電流のモニタの結果から約1μA=7.5kVとした。例えば、実施例1〜4の推測Epは、電圧降下分を7.5kVとして計算した値である。
[推測Ep=(印加電圧―電圧降下分)/フィルム厚さ]
d31は、高分子圧電体フィルムの長さ方向の圧電応力定数である。
d32は、高分子圧電体フィルムの幅方向の圧電応力定数である。
d33は、高分子圧電体フィルムの高さ方向の圧電応力定数である。
接触角は、高分子圧電体フィルムの水との接触角である。
【0105】
図4(a)は、<方法3>により製造されたフィルムの種々の実測値を示している。
図4(a)の実施例1〜4は、フッ化ビニリデン系共重合体に含まれるマレイン酸モノメチルエステルの含有量を一定とし(重量部比でフッ化ビニリデン:マレイン酸モノメチルエステル=100:1.0)、高分子組成物の混合比(ポリフッ化ビニリデン:フッ化ビニリデン系共重合体)のみを変化させた場合の高分子圧電体フィルムである。すなわち、フッ化ビニリデン系共重合体の量の増加に伴い、フッ化ビニリデン系共重合体に含まれるマレイン酸モノメチルエステルの含有量が単純に増加する。
実施例1〜4の圧電応力定数(d31〜d33)は、ポリフッ化ビニリデンとフッ化ビニリデン系共重合体の混合物(高分子組成物)から製造された高分子圧電体フィルムが、圧電性を有することを示している。さらに、比較例1(ポリフッ化ビニリデン100%)の圧電応力定数と比較しても、数値に顕著な差異はなく、十分に工業的利用が可能な圧電性を有することがわかる。また、実施例1〜4の圧電応力定数は、高分子組成物中に含まれるフッ化ビニリデン系共重合体の量の増減により増加減することはなかった。すなわち、混合した物質(フッ化ビニリデン系共重合体)の量が増えるにつれて高分子圧電体フィルムの圧電性が衰えることはなかった。
そこで、比較例2(フッ化ビニリデン系共重合体100%)においても、圧電応力定数を測定したところ、圧電性の発現を確認することができた。
【0106】
図4(b)は、<方法1>により製造されたフィルムの種々の実測値を示している。
図4(b)の実施例7〜10も、フッ化ビニリデン系共重合体に含まれるマレイン酸モノメチルエステルの含有量を一定とし、高分子組成物の混合比のみを変化させた場合の高分子圧電体フィルムである。実施例7〜10の圧電応力定数(d31〜d33)は、<方法1>を用いた場合でも、高分子圧電体フィルムが圧電性を有することを示している。なお、<方法1>を用いた場合の圧電応力定数は、<方法3>を用いた場合の圧電応力定数(図4(a)参照)と比べると、全体的に低めだが、工業的利用は十分に可能なものである。さらに、比較例3(ポリフッ化ビニリデン100%)の圧電応力定数と比較しても、数値に顕著な差異はなく、混合した物質(フッ化ビニリデン系共重合体)の量が増えるにつれて高分子圧電体フィルムの圧電性が衰えることもなかった。
【0107】
図5に実施例4の高分子圧電体フィルムを、碁盤目テープ法を用いて評価した結果を示す。電極膜の付着状態は分数で表した。すなわち、分母は10×10の碁盤目の数、分子はテープにより剥がれた電極膜の数を示している。比較例1(ポリフッ化ビニリデン100%)のフィルムおよび比較例1とは分子量の異なるポリフッ化ビニリデン100%(株式会社クレハ製KF#1300)のフィルム(比較例1’とする)と比較すると、実施例4は剥がれた電極膜の数が減少している。すなわち、実施例4は、金属電極(銀ペースト)との接着性および導電性高分子(PEDOT)との接着性のどちらも向上していることがわかる。とくに、銀ペーストを塗布し100℃で1時間乾燥したものは、電極膜が剥がれることはなく、顕著な接着性の向上がみられた。このように、本発明の高分子圧電体フィルムを用いると、金属や非金属の高分子との接着性を向上させることができる。
【0108】
図4(a)(b)に水との接触角の測定結果を示す。なお、水との接触角は、本発明の高分子圧電体フィルムとフィルム上の水(液滴)が接触する角度を測定したものである。フィルムの撥水性が高くなるほど接触角は大きくなり、親水性が高くなるほど接触角は小さくなる(つまり、水滴はフィルム上でより広がる)。親水性の増加は、フィルム表面に親水性の基が発生した(極性が増した)ことを示している。この極性は、フィルムの接着性を向上させる。すなわち、接触角が小さくなることは、接着性が向上したことを示す。
図4(a)の実施例1〜4と比較例1を比較すると、実施例1〜4は比較例1よりも接触角は小さくなっており、接着性が増していることがわかる。つまり、フッ化ビニリデンにフッ化ビニリデン系共重合体を混合すると、その混合物(高分子組成物)から得られたフィルムは、ポリフッ化ビニリデン100%のフィルムよりも接着性が向上する。
また、実施例1〜4のそれぞれの接触角の数値は、フッ化ビニリデン系共重合体の量が増えるにつれて、わずかずつではあるが減少した。そこで、比較例2(フッ化ビニリデン系共重合体100%)の水との接触角を測定したところ、実施例1〜4の接触角の数値は、比較例1(ポリフッ化ビニリデン100%)と比較例2の数値の間にあり、フッ化ビニリデン系共重合体の量が増えるにつれて実施例2の数値に近づく傾向が見られる。よって、フッ化ビニリデン系共重合体の量が増えるにつれて、フィルムの接着性がより向上し、フッ化ビニリデン系共重合体の接着性に近づいていることが容易に予測できる。
図4(b)に示す実施例7〜10の水との接触角についても、実施例1〜4の水との接触角と同様の傾向が見られる。
【0109】
図4(a)の実施例5は、高分子圧電体フィルム中に含まれるフッ化ビニリデン系共重合体の量が最小(重量部比でポリフッ化ビニリデン:フッ化ビニリデン系共重合体=90:10)の場合であって、さらにフッ化ビニリデン系共重合体に含まれるマレイン酸モノメチルエステルの含有量が最小(重量部比でフッ化ビニリデン:マレイン酸モノメチルエステル=100:0.1)の高分子圧電体フィルムである。実施例5の圧電応力定数も、比較例1(ポリフッ化ビニリデン100%)の圧電応力定数と比較して、数値に顕著な差異はなく、圧電性を有することがわかる。また、水との接触角の数値から、比較例1と比べ、フィルムの接着性が向上していることがわかる。
実施例6は、高分子圧電体フィルム中に含まれるフッ化ビニリデン系共重合体の量が最大(重量部比でポリフッ化ビニリデン:フッ化ビニリデン系共重合体=20:80)の場合であって、さらにフッ化ビニリデン系共重合体に含まれるマレイン酸モノメチルエステルの含有量が最大(重量部比でフッ化ビニリデン:マレイン酸モノメチルエステル=100:3)の高分子圧電体フィルムである。実施例6の圧電応力定数も、比較例1(ポリフッ化ビニリデン100%)の圧電応力定数と比較して、数値に顕著な差異はなく、圧電性を有することがわかる。また、水との接触角の数値から、比較例2(フッ化ビニリデン系共重合体100%)と比べ、接着性を有していることがわかる。
【0110】
図6に示す表は、本発明の高分子組成物から高分子圧電体フィルムを製造する方法が異なる実施例の、圧電応力定数および水との接触角を示している。実施例4、10〜13の圧電応力定数は、いずれの方法を用いても高分子圧電体フィルムが圧電性を有することを示している。また、実施例4、10〜13の水との接触角を比較例1、3、5〜7(ポリフッ化ビニリデン100%)のものと比較すると、いずれの方法で高分子圧電体フィルムを製造した場合でも、その接着性はポリフッ化ビニリデン100%のフィルムと比べ向上していることがわかる。
【符号の説明】
【0111】
10 フィルム
60、80 装置
61 第1ロール
62 第2ロール
63 第3ロール
71 尖端電極
72 電極
73 直流高圧電源
81 針電極
82 金属板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフッ化ビニリデン20〜90重量部と;
フッ化ビニリデン系共重合体80〜10重量部とを含み;
前記ポリフッ化ビニリデンと前記フッ化ビニリデン系共重合体の合計は100重量部であり、
前記フッ化ビニリデン系共重合体は、フッ化ビニリデンを60重量%以上含有するフッ化ビニリデン系単量体100重量部と、不飽和二塩基酸のモノエステル単量体0.1〜3重量部とを共重合して得られる;
高分子組成物。
【請求項2】
前記不飽和二塩基酸のモノエステル単量体は、0.1〜0.8重量部である;
請求項1に記載の高分子組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の高分子組成物を無延伸でフィルム状に成型した後、分極処理してなる、
高分子圧電体フィルム。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の高分子組成物に、第四級アンモニウム塩または第四級アンモニウム塩で表面処理されたクレイのいずれか一方を添加し、無延伸でフィルム状に成型した後、分極処理してなる、
高分子圧電体フィルム。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の高分子組成物をフィルム状に成型した後、一軸延伸後分極処理してなる、
高分子圧電体フィルム。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の高分子組成物をフィルム状に成型した後、一軸延伸しながら同時に分極処理してなる、
高分子圧電体フィルム。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載の高分子組成物をフィルム状に成型した後、二軸延伸後分極処理してなる、
高分子圧電体フィルム。
【請求項8】
請求項3乃至請求項7のいずれか1項に記載の高分子圧電体フィルムと;
前記高分子圧電体フィルムと積層を構成する、前記高分子圧電体フィルムとは異なる他の熱可塑性樹脂とを備える;
多層フィルム。
【請求項9】
前記高分子圧電体フィルムと前記他の熱可塑性樹脂は、共押出しにより積層を構成する、
請求項8に記載の多層フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−6596(P2011−6596A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152239(P2009−152239)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】