高分子膜および積層体
【課題】本発明は、製造適性、耐久性、基板との密着性に優れた微細な構造パターンを有する高分子膜、この高分子膜を有する積層体、および高分子膜および積層体の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】ラジカル重合性基を有する高分子を少なくとも1種含む、2種以上の高分子を、露光によりラジカルを発生しうる基板表面上に接触させて、前記基板表面上に相分離構造を有する高分子膜を形成する膜形成工程と、
前記膜形成工程で形成された前記高分子膜を露光し、前記高分子膜を前記基板に固定化する固定化工程と、
前記固定化工程で得られた高分子膜を溶媒で洗浄する洗浄工程と、を含む方法により得られる、前記基板表面と直接結合した高分子膜。
【解決手段】ラジカル重合性基を有する高分子を少なくとも1種含む、2種以上の高分子を、露光によりラジカルを発生しうる基板表面上に接触させて、前記基板表面上に相分離構造を有する高分子膜を形成する膜形成工程と、
前記膜形成工程で形成された前記高分子膜を露光し、前記高分子膜を前記基板に固定化する固定化工程と、
前記固定化工程で得られた高分子膜を溶媒で洗浄する洗浄工程と、を含む方法により得られる、前記基板表面と直接結合した高分子膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子膜および積層体に関する。より詳しくは、露光によりラジカルを発生しうる基板表面と直接結合して形成される高分子膜を備える積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度な機能やより優れた性能を有する新材料の研究開発が活発に行われるなか、材料の微細化・超小型化に伴い、微細なパターン構造を有する薄膜への関心が高まっている。特に、ナノメートル〜マイクロメートルレベルで構造制御された微細なパターン構造を有する薄膜は、通常の材料とは異なった性質を示すと期待され、エレクトロニクス分野、環境分野、生命科学分野などの種々の先端分野において重要な材料の一つと位置づけられている。例えば、そのような薄膜は、その薄膜上に積層される材料の配向制御に寄与するテンプレートとしての応用が期待される。
【0003】
現在、より安価で、しかも高いスループットを実現できる微細パターン構造の形成方法として、自己組織的な相分離構造を利用したパターン形成方法がいくつか提案されている。
微細パターンを有する薄膜の作製方法の代表的な例として、LB(ラングミュア−ブロジェット)法(非特許文献1〜2)や、スピンコート法(非特許文献3〜5)などが挙げられる。より具体的には、非特許文献1では、パターン化されたテンプレートを作製する目的で、2種類の両親媒性化合物を用いて、LB法により相分離構造を備える単分子膜が作製されている。また、非特許文献3においては、ポリウレタンを用いてスピンコート法により基板上にミクロ相分離構造を有する薄膜が作製されている。
一方、他の薄膜の作製方法として、増感剤を用いて、露光により基板上に基板と直接結合したグラフトポリマー膜を作製する方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
【非特許文献1】A. Takahara, et. al. “Scanning force microscopic studies of surface structure and protein adsorption behavior of organosilane monolayers”, J. Vac. Sci. Technol. A, 1996年, Vol.14, pp.1747.
【非特許文献2】M. Matsumoto, et. al. “Template-Directed Patterning Using Phase-Separated Langmuir-Blodgett Films”, Langmuir, 2004年, Vol.20, pp.8728.
【非特許文献3】小椎尾 謙, “極性高分子の超薄膜下におけるミクロ相分離構造”,高分子論文集, 2007年8月, Vol.64、No. 8, pp.498-503.
【非特許文献4】M. Boltau, et. al. “Surface-induced structure formation of polymer blends on patterned substrates”, Nature, 1998年, Vol.39, pp.877.
【非特許文献5】L. Chi, et. al. “Tunable ordered droplets induced by convection in phase-separating P2VP/PS blend film”, Polymer, 2004年, Vol.45, pp.8139.
【特許文献1】特開2006−350307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1または2のようにLB法を用いてナノメートルレベルの薄膜を作成することはできるが、LB法は大面積化での製造が難しく、工業性・生産性という点では必ずしも満足できるものでなかった。また、適用できる化合物が限られており、製造方法として汎用性に乏しかった。例えば、LB法に適用できる高分子としては、極性基、親水性基、イオン性基などの置換基をもつ緻密に分子設計された特定の構造を持つ高分子に限定されていた。
さらに、非特許文献3〜5に記載のスピンコート法や上記のLB法で得られた薄膜は、基板との密着性が十分でないため、摩擦などによる物理的作用や溶媒などの化学的処理によって容易に基板から剥がれてしまうという問題があった。
【0006】
一方、特許文献1には、基板上に直接結合したグラフトポリマーについて開示されているが、相分離構造を有する薄膜についてはなんら言及されていない。概して、高分子の相分離構造は、使用される高分子の種類などに大きく依存し、未だ十分な知見は得られていないのが現状であった。
【0007】
そこで、本発明は上記実情を鑑みて、製造適性、耐久性、基板との密着性に優れた微細な構造パターンを有する高分子膜、この高分子膜を有する積層体、および高分子膜および積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、使用される高分子の構造・性質に着目し、所定の構造を有する高分子を使用することにより、基板と直接結合し、かつ微細な構造パターンを有する高分子膜を備える積層体を再現性よく得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
つまり、本発明者らは、鋭意検討を行った結果、上記課題が下記の<1>〜<14>の構成により解決されることを見出した。
<1> ラジカル重合性基を有する高分子を少なくとも1種含む、2種以上の高分子を、露光によりラジカルを発生しうる基板表面上に接触させて、前記基板表面上に相分離構造を有する高分子膜を形成する膜形成工程と、
前記膜形成工程で形成された前記高分子膜を露光し、前記高分子膜を前記基板に固定化する固定化工程と、
前記固定化工程で得られた高分子膜を溶媒で洗浄する洗浄工程と、を含む方法により得られる、前記基板表面と直接結合した高分子膜。
<2> 前記基板表面と直接結合した高分子膜の膜厚が、0.5〜100nmである<1>に記載の高分子膜。
<3> 前記ラジカル重合性基を有する高分子が、シロキサン基またはフッ素含有基を有し、かつ、ラジカル重合性基を有する高分子である<1>または<2>に記載の高分子膜。
<4> 前記シロキサン基またはフッ素含有基を有し、かつ、ラジカル重合性基を有する高分子が、一般式(1)で表される繰り返し単位、および一般式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子である<3>に記載の高分子膜。
【化1】
(一般式(1)中、R1は、水素原子またはアルキル基を表す。L1は、2価の連結基または単なる結合手を表す。R2は、ラジカル重合性基を表す。
一般式(2)中、R3は、水素原子またはアルキル基を表す。L2は、2価の連結基または単なる結合手を表す。R4は、フッ素原子を有するアルキル基、フッ素原子を有するアリール基、または一般式(X)で表される基を表す。)
【化2】
(一般式(X)中、RaおよびRbは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、または一般式(Y)で表される基を表す。Rc、Rd、Re、RfおよびRgは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、またはアリール基を表す。nは、0〜100の整数を表す。*は、L2との結合位置を示す。)
【化3】
(一般式(Y)中、Rh〜Rlは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、またはアリール基を表す。mは、0〜100の整数を表す。**は、一般式(X)との結合位置を示す。)
<5> 前記露光が、320nm以上の露光波長の光により行われる<1>〜<4>のいずれかに記載の高分子膜。
<6> 前記相分離構造が、連続相と前記連続相に分散されて存在する分散相とを有してなり、前記分散相の平均直径が1nm〜100μmである<1>〜<5>のいずれかに記載の高分子膜。
<7> 露光によりラジカルを発生しうる基板表面と2種以上のラジカル重合性基を有する高分子とが直接結合して、前記基板表面上に形成される、相分離構造を有する高分子膜。
<8> 膜厚が0.5〜100nmである<7>に記載の高分子膜。
<9> 前記相分離構造が、連続相と前記連続相に分散されて存在する分散相とを有してなり、前記分散相の平均直径が1nm〜100μmである<7>または<8>に記載の高分子膜。
<10> 前記ラジカル重合性基を有する高分子の少なくとも1種が、シロキサン基またはフッ素含有基を有し、かつ、ラジカル重合性基を有する高分子である<7>〜<9>のいずれかに記載の高分子膜。
<11> 露光によりラジカルを発生しうる基板と、前記露光によりラジカルを発生しうる基板上に形成される<1>〜<10>のいずれかに記載の高分子膜とを有する積層体。
<12> 前記露光によりラジカルを発生しうる基板が、基板と、前記基板上に形成される重合開始層とを有する積層構造で形成される<11>に記載の積層体。
<13> 前記重合開始層が、露光によりラジカル重合を開始しうる重合開始部位と基板結合部位とを有する化合物が前記基板結合部位を介して前記基板と結合して形成される層である<12>に記載の積層体。
<14> ラジカル重合性基を有する高分子を少なくとも1種含む、2種以上の高分子を、露光によりラジカルを発生しうる基板表面上に接触させて、前記基板表面上に相分離構造を有する高分子膜を形成する膜形成工程と、
前記膜形成工程で形成された高分子膜を露光し、前記高分子膜を前記基板に固定化する固定化工程と、
前記固定化工程で得られた高分子膜を溶媒で洗浄する洗浄工程とを含む、前記基板表面と直接結合した高分子膜の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、製造適性、耐久性、基板との密着性に優れた微細な構造パターンを有する高分子膜、この高分子膜を有する積層体、および高分子膜および積層体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明に係る高分子膜および積層体、並びに、この高分子膜および積層体の製造方法について詳述する。
まず、本発明において使用される材料について説明する。
【0012】
<露光によりラジカルを発生しうる基板>
露光によりラジカルを発生しうる基板としては、後述する特定の波長の光露光により、ラジカルを発生させることができれば、如何なる基板を用いてもよい。つまり、基板自体が露光によりラジカルを発生する特性を有する基板であってもよく、また、基板上に重合開始層を設け、この重合開始層がそのような特性を有して基板を構成するものでもよい。なかでも、重合開始層を備える基板が好ましい。
重合開始層の作製方法としては、例えば、必要な成分を、溶解可能な溶媒に溶解し、塗布などの方法で基板表面上に塗布層を設け、加熱または光照射により硬膜することで、形成することができる。重合開始層に用いられる化合物としては、基板との密着性が良好であり、且つ、活性光照射などのエネルギー付与により、活性種を発生するものであれば、特に制限されない。
【0013】
露光によりラジカルを発生しうる基板としては、例えば、(a)ラジカル発生剤を含有する基板、(b)ラジカル発生部位を有する高分子化合物を含有する基板、(c)架橋剤と側鎖にラジカル発生部位を有する高分子化合物とを含有する塗布液を支持体表面に塗布、乾燥し、被膜内に架橋構造を形成させてなる、重合開始層を有する基板、などが挙げられる。
他には、(d)光開裂によりラジカル重合を開始しうる光重合開始部位を共有結合により基板表面に設けた基板がある。より具体的には、光開裂によりラジカル重合を開始しうる光重合開始部位と基板結合部位とを有する化合物を、基板結合部位を介して基板表面に結合させ、形成される重合開始層を有する基板である。なかでも、得られる高分子薄膜の膜厚の均一性・平坦性が優れる点から、(d)の基板が好ましい。
【0014】
上記(a)の基板で使用される露光によりラジカルを発生しうる化合物(以下、適宜、ラジカル発生剤と称する)は、低分子化合物でも、高分子化合物でもよく、一般に公知のものが使用される。低分子のラジカル発生剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーのケトン、ベンゾイルベンゾエート、ベンゾイン類、α−アシロキシムエステル、テトラメチルチウラムモノサルファイド、トリクロロメチルトリアジンおよびチオキサントンなどの公知のラジカル発生剤を使用できる。
また、上記(b)の基板で使用されるラジカル発生部位を有する高分子化合物(高分子ラジカル発生剤)としては、特開平9−77891号公報の段落番号〔0012〕〜〔0030〕や、特開平10−45927号公報の段落番号〔0020〕〜〔0073〕に記載の活性カルボニル基を側鎖に有する高分子化合物などを使用することができる。
【0015】
また、上記(c)の基板では、任意の支持体上に、側鎖に重合開始能を有する官能基及び架橋性基を有するポリマーを架橋反応により固定化してなる重合開始層を形成することで、露光によりラジカルを発生しうる基板とする。具体的には、架橋剤と側鎖にラジカル発生部位を有する高分子化合物とを含有する塗布液を支持体(基板)表面に塗布、乾燥し、被膜内に架橋構造を形成させて重合開始層を形成する。このような重合開始層の形成方法については、例えば、特開2004−123837号公報に詳細に記載され、このような重合開始層を本発明に適用することができる。
【0016】
上記(d)の基板に適用しうる重合開始能を有する化合物としては、例えば、光開裂によりラジカル重合を開始しうる重合開始部位(Y)と基板結合部位(Q)とを有する化合物(以下、適宜「光開裂化合物(Q−Y)」と称する。)等が挙げられる。
ここで、光開裂によりラジカル重合を開始しうる重合開始部位(以下、単に「重合開始部位(Y)」とも称する。)は、光により開裂しうる単結合を含む構造である。この光により開裂する単結合としては、カルボニルのα開裂、β開裂反応、光フリー転位反応、フェナシルエステルの開裂反応、スルホンイミド開裂反応、スルホニルエステル開裂反応、N−ヒドロキシスルホニルエステル開裂反応、ベンジルイミド開裂反応、活性ハロゲン化合物の開裂反応、などを利用して開裂が可能な単結合が挙げられる。これらの反応により、光により開裂しうる単結合が切断される。この開裂しうる単結合としては、C−C結合、C−N結合、C−O結合、C−Cl結合、N−O結合、及びS−N結合などが挙げられる。
【0017】
また、これらの光により開裂しうる単結合を含む重合開始部位(Y)は、後述するラジカル重合性基を有する高分子のグラフト反応の起点となる。つまり、光により開裂しうる単結合が開裂すると、その開裂反応によりラジカルを発生させる機能を有する。このように、光により開裂しうる単結合を有し、かつ、ラジカルを発生可能な重合開始部位(Y)の構造としては、以下に挙げる基を含む構造が挙げられる。即ち、芳香族ケトン基、フェナシルエステル基、スルホンイミド基、スルホニルエステル基、N−ヒドロキシスルホニルエステル基、ベンジルイミド基、トリクロロメチル基、ベンジルクロライド基、などである。
【0018】
このような重合開始部位(Y)は、露光により開裂してラジカルが発生すると、そのラジカル周辺にラジカル重合性基を有する高分子が存在する場合には、このラジカルがグラフト反応の起点として機能し、グラフトポリマーを生成することができる。
このため、表面に光開裂化合物(Q−Y)が導入された基板を用いてグラフトポリマーを生成させる場合には、エネルギー付与手段として、重合開始部位(Y)を開裂させうる波長での露光を用いることが必要である。
【0019】
また、基板結合部位(Q)としては、ガラスに代表される絶縁基板表面に存在する官能基(水酸基、カルボキシル基など)と反応して結合しうる反応性基で構成され、その反応性基としては、具体的には、以下に示すような基板結合基が挙げられる。なかでも、反応性に優れる点で、−Si(OA)3基(Aは、アルキル基を表す。好ましくは、メチル基、エチル基)、−SiX3基(Xはハロゲン原子を表す。好ましくは、塩素原子)などが挙げられる。基板表面と光開始部位との結合の例としては、O−C、O−Si、N−C、 N−Si、S−C、S−Si、S−O、などの共有結合が好ましく挙げられる。
【0020】
【化4】
【0021】
重合開始部位(Y)と、基板結合部位(Q)とは直接結合していてもよいし、連結基を介して結合していてもよい。連結基(L)を有する場合、光開裂化合物は(Q−L−Y)と表される。この連結基としては、炭素、窒素、酸素、及びイオウからなる群より選択される原子を含む連結基が挙げられる。具体的には、飽和炭化水素基(アルキレン基など)、アリーレン基、エステル基、アミド基、ウレイド基、エーテル基、アミノ基、スルホンアミド基、またはこれらを組み合わせた基などが挙げられる。また、この連結基は更に置換基を有していてもよく、その導入可能な置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、などが挙げられる。
【0022】
以下、光開裂化合物(Q−Y)の例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。これらの化合物は、基板表面と化学反応させることにより表面に固定化される。
【0023】
【化5】
【0024】
【化6】
【0025】
【化7】
【0026】
【化8】
【0027】
上述の基板としては、特に制限はなく、その構成材料も有機材料、無機材料、有機と無機とのハイブリッド材料のいずれでもよい。具体的には、ガラス、石英、ITO、シリコン、エポキシ樹脂、などの表面水酸基を有する各種基板、PET、ポリプロピレン、ポリイミド、アクリルなどのプラスチック基板などが挙げられる。なかでも、ガラス、石英、ITO、シリコン、エポキシ樹脂、などの表面水酸基を有する基板が好ましい。基板の厚みは、使用目的に応じて選択され、特に限定はないが、一般的には10μm〜10cm程度である。基板は、平坦であっても、平坦でなくてもよい。
【0028】
上記基板は、その材質に起因して水酸基などの官能基(Z)が、基板表面上に存在している。そこで、基板と上述の光開裂化合物(Q−Y)を接触させ、官能基(Z)と基板結合部位(Q)とを結合させることで、基板表面上に光開裂化合物(Q−Y)を導入することができる。また、各種基板、特に樹脂基板などの絶縁基板を用いる場合は、基板表面にコロナ処理、グロー処理、UV処理、プラズマ処理などの表面処理により、水酸基、カルボキシル基などを発生させてもよい。
【0029】
光開裂化合物(Q−Y)を基板結合部位(Q)を介して基板に結合させて、重合開始層を作製する方法(光開裂化合物結合工程)としては、光開裂化合物(Q−Y)を、トルエン、ヘキサン、アセトンなどの適切な溶媒に溶解または分散させ、その溶液または分散液を基板表面にスピンコートなどによって塗布する方法(塗布方法)、または、溶液または分散液中に基板を一定時間浸漬させ、洗浄する方法(浸漬方法)などを用いることができる。
浸漬方法を用いると、膜厚が薄く、平坦性に優れた重合開始層を得ることができ、基板表面の重合開始層上に作製される高分子膜の膜厚の均一性がより優れたものとなる。好ましくは、得られた重合開始層は、光開裂化合物(Q−Y)からなる自己組織化単分子膜(SAM:Self Assembled Monolayer)である。
なかでも、得られる高分子膜の膜厚の均一性がより優れ、後述する用途などに好適に用いることができるという点で、重合開始層の膜厚が1〜15nmであることが好ましく、さらに1.0〜5.0nmが好ましく、特に1.5〜5.0nmが好ましい。重合開始層の膜厚の測定方法は、エリプソメトリー(溝尻光学社製 DHA−XA/S4)を用いて、膜表面上の任意の点を12ヵ所以上測定して数平均して求めた値である。
【0030】
<高分子>
本発明の高分子膜および積層体の作製においては、ラジカル重合性基を有する高分子を少なくとも1種含む、2種以上の高分子が使用される。ラジカル重合性基を有する高分子を2種以上使用してもよいし、ラジカル重合性基を有する高分子とそれ以外の高分子を併用してもよい。
まず、ラジカル重合性基を有する高分子について説明する。
【0031】
<ラジカル重合性基を有する高分子>
本発明に係るラジカル重合性基を有する高分子とは、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基などのラジカル重合性基(エチレン付加重合性不飽和基など)を導入した高分子をさす。この高分子は、少なくとも末端または側鎖にラジカル重合性基を有するものであり、側鎖にラジカル重合性基を有するものがより好ましい。なお、このラジカル重合性基を介して高分子と上述の基板(または基板表面上の重合開始層)との間で直接結合(共有結合)が形成され、基板表面上に高分子膜が形成される。
【0032】
本発明に係るラジカル重合性基を有する高分子の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、溶媒への溶解性などの観点から、1000〜1000000が好ましく、3000〜400000がより好ましい。
【0033】
ラジカル重合性基を有する高分子中の高分子骨格の種類は、特に制限されないが、例えば、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ノボラック樹脂、クレゾール樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂などが挙げられる。なかでも、本発明で有用なポリマーとしては、アクリル樹脂、スチレン樹脂が好ましい。
【0034】
ラジカル重合性基を有する高分子の合成方法としては、例えば、(i)ラジカル重合性基を有するモノマーと他のモノマーとを共重合する方法、(ii)ラジカル重合性基前駆体を有するモノマーと他のモノマーとを共重合させ、次に塩基などの処理により二重結合を導入する方法、(iii)カルボン酸などの官能基を有する高分子とラジカル重合性基を有するモノマーとを反応させ、ラジカル重合性基を導入する方法が挙げられる。
好ましい合成方法は、合成適性の観点から、(iii)の方法である。
【0035】
上記(i)および(ii)の合成方法でラジカル重合性基を有するモノマーと共に使用される他のモノマーとしては、特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸またはそのアルカリ金属塩若しくはアミン塩、イタコン酸またはそのアルカリ金属塩若しくはアミン塩、スチレンスルホン酸またはそのアルカリ金属塩若しくはアミン塩、2−スルホエチル(メタ)アクリレートまたはそのアルカリ金属塩もしくはアミン塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸またはそのアルカリ金属塩若しくはアミン塩、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートまたはそのアルカリ金属塩若しくはアミン塩、ポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−モノメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、アリルアミンまたはそのハロゲン化水素酸塩、N−ビニルピロリドン、ビニルイミダゾール、ビニルピリジン、ビニルチオフェン、スチレン、エチル(メタ)アクリル酸エステル、n−ブチル(メタ)アクリル酸エステルなど炭素数1〜24までのアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルなどを挙げることができる。
【0036】
上記(i)の方法で使用されるラジカル重合性基を有するモノマーとしては、例えば、アリル基含有モノマーであり、具体的には、アリル(メタ)アクリレート、2−アリルオキシエチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0037】
上記(ii)の合成方法に使用される重合性基前駆体を有するモノマーとしては、2−(3−クロロ−1−オキソプロポキシ)エチルメタクリレートや、特開2003−335814号公報に記載の化合物(i−1〜i−60)を使用することができる。
【0038】
更に、上記(iii)の合成方法に用いられる相互作用性基を有する高分子中の、カルボキシル基、アミノ基若しくはそれらの塩、水酸基、またはエポキシ基などの官能基との反応を利用して、重合性基を導入するために用いられるラジカル重合性基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、2−イソシアナトエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0039】
ラジカル重合性基を有する高分子の一つの例として、一般式(3)で表される繰り返し単位、および一般式(4)で表される繰り返し単位を有する高分子(共重合体)が挙げられる。
【0040】
【化9】
(一般式(3)中、R5は、水素原子、またはアルキル基を表す。R6は、カルボキシ基、エステル基、アミド基、二トリル基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、ホスホン酸基、ホスホン酸エステル基、アリール基、ピリジル基、ピロリドン基、またはアルキルカルボニルオキシ基を表す。
一般式(4)中、R7は、水素原子、またはアルキル基を表す。L3は、2価の連結基、または単なる結合手を表す。R8は、アリル基、アクリロイル基、またはメタクリロイル基を表す。)
【0041】
一般式(3)中、R5は、水素原子、またはアルキル基を表す。アルキル基としては、炭素数1が好ましく、例えば、メチル基などが挙げられる。R5として、好ましくは水素原子、メチル基である。
【0042】
一般式(3)中、R6は、カルボキシル基、アリール基、ピリジル基、ピロリドン基、アルキルカルボニルオキシ基(例えば、メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基)、エステル基、アミド基、二トリル基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、ホスホン酸基、またはホスホン酸エステル基を表す。なかでも、カルボキシル基、エステル基、アミド基、またはアリール基が好ましい。
なお、これらの基(例えば、アリール基)は、さらにアルキル基、アルコキシ基などの置換基を有していてよい。
【0043】
一般式(4)中、R7は、水素原子、またはアルキル基を表す。アルキル基としては、例えば、メチル基などが挙げられる。R7として、好ましくは水素原子、メチル基である。
【0044】
一般式(4)中、L3は、2価の連結基または単なる結合手を表す。連結基としては、具体的に、アルキレン基(炭素数1〜20が好ましく、炭素数1〜10がより好ましい。例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、シクロヘキシレン基などが挙げられる。)、−O−、アリーレン基(フェニレン基など)、−CO−、−NH−、−COO−、−CONH−またはこれらを組み合わせた基(例えば、アルキレンオキシ基、アルキレンオキシカルボニル基、アルキレンカルボニルオキシ基など)などが挙げられる。なお、これら連結基は、ヒドロキシル基、アルキル基などの置換基を有していてもよい。
L3が単なる結合手の場合、一般式(4)のR8とC(炭素原子)とが直接結合することをさす。
【0045】
一般式(4)中、R8は、Zはアリル基、アクリロイル基、またはメタクリロイル基を表し、なかでもアクリロイル基、メタクリロイル基が好ましい。なお、これらの基は、上述のラジカル重合性基として作用し、基板(または基板表面上の重合開始層)と反応して直接結合を形成する。つまり、これらの基を介して、一般式(3)および一般式(4)で表される繰り返し単位を有する高分子と基板との間で直接結合(共有結合)が形成される。
【0046】
上述の一般式(3)および一般式(4)で表される繰り返し単位を有する高分子は、連結の様式は特に限定されず、それらが1ずつ交互に連結しても、複数ずつ交互に連結しても、ランダムに連結してもよい。また、他の繰り返し単位を含んでいてもよい。なお、他の繰り返し単位としては、例えば、上述(i)および(ii)の合成方法で説明した他のモノマー由来の繰り返し単位が挙げられる。
【0047】
上述の一般式(3)で表される繰り返し単位および一般式(4)で表される繰り返し単位を有する高分子中における、一般式(3)で表される繰り返し単位の含有量は、特に限定されないが、高分子を構成する全繰り返し単位(100モル%)に対して、10〜99モル%が好ましく、60〜95モル%がより好ましい。含有量が少なすぎると、重合性基の比率が多くなり、ポリマー分子同士の架橋反応が起り、膜厚が厚くなりやすい。また含有量が多すぎると、重合性基の比率が少なくなり、膜厚が薄くなると共に、欠陥のない均一な薄膜が得られにくくなる。
【0048】
上述の一般式(3)で表される繰り返し単位および一般式(4)で表される繰り返し単位を有する高分子は、上記(i)〜(iii)の方法を用いて合成することができる。
【0049】
以下に上述したラジカル重合性基を有する高分子の具体例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、各繰り返し単位中に記載される数値は、それぞれの繰り返し単位のモル%を表す。
【0050】
【化10】
【0051】
<シロキサン基またはフッ素含有基を有し、かつ、ラジカル重合性基を有する高分子>
ラジカル重合性基を有する高分子の好ましい例の一つとして、シロキサン基またはフッ素含有基を有し、かつ、ラジカル重合性基を有する高分子が挙げられる。
シロキサン基またはフッ素含有基を有し、かつ、ラジカル重合性基を有する高分子とは、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基などのラジカル重合性基(エチレン付加重合性不飽和基など)を導入したシロキサン基含有高分子またはフッ素含有基含有高分子である。これら高分子は、少なくとも末端または側鎖にラジカル重合性基を有するものであり、側鎖にラジカル重合性基を有するものがより好ましい。なお、このラジカル重合性基を介して高分子と上述の基板(または基板表面上の重合開始層)との間で直接結合(共有結合)が形成され、基板表面上に高分子膜が形成される。
【0052】
シロキサン基またはフッ素含有基を有し、かつ、ラジカル重合性基を有する高分子の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、溶媒への溶解性などの観点から、1000〜1000000が好ましく、5000〜500000がより好ましい。
【0053】
また、シロキサン基またはフッ素含有基を有し、かつ、ラジカル重合性基を有する高分子の合成方法としては、i)シロキサン基またはフッ素原子を含む官能基を有するモノマーと重合性基を有するモノマーとを共重合する方法、ii)シロキサン基またはフッ素原子を含む官能基を有するモノマーと重合性基前駆体を有するモノマーとを共重合させ、次に塩基などの処理により二重結合を導入する方法、iii)シロキサン基またはフッ素原子を含む官能基を有するポリマーと重合性基を有するモノマーとを反応させ、重合性基を導入する方法が挙げられる。
好ましい合成方法は、合成適性の観点から、上記ii)または、iii)の方法が好ましく挙げられる。
【0054】
本発明のシロキサン基またはフッ素含有基を有し、かつ、ラジカル重合性基を有する高分子は、酸素とケイ素から構成されるシロキサン基、またはフッ素原子を有する官能基(フッ素含有基)を主鎖、または側鎖に含有し、さらに、ラジカル重合性基を含有していればよく、高分子骨格の種類は、特に制限されない。具体的には、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ノボラック樹脂、クレゾール樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂などが挙げられる。なかでも、本発明で有用なポリマーとしては、アクリル樹脂、スチレン樹脂が好ましい。
【0055】
シロキサン基またはフッ素含有基を有し、かつ、ラジカル重合性基を有する高分子の好適な実施形態の一つとして、以下の一般式(1)で表される繰り返し単位、および一般式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子(共重合体)が挙げられる。この高分子は、少なくとも一般式(1)で表される繰り返し単位、および一般式(2)で表される繰り返し単位を有していればよく、それ以外の繰り返し単位が含まれていてもよい。
【0056】
【化11】
(一般式(1)中、R1は、水素原子またはアルキル基を表す。L1は、2価の連結基または単なる結合手を表す。R2は、ラジカル重合性基を表す。
一般式(2)中、R3は、水素原子またはアルキル基を表す。L2は、2価の連結基または単なる結合手を表す。R4は、フッ素原子を有するアルキル基、フッ素原子を有するアリール基、または一般式(X)で表される基を表す。)
【0057】
【化12】
(一般式(X)中、RaおよびRbは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、または一般式(Y)で表される基を表す。Rc、Rd、Re、RfおよびRgは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、またはアリール基を表す。nは、0〜100の整数を表す。*は、L2との結合位置を示す。)
【0058】
【化13】
(一般式(Y)中、Rh〜Rlは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、またはアリール基を表す。mは、0〜100の整数を表す。**は、一般式(X)との結合位置を示す。)
【0059】
一般式(1)中、R1は、水素原子またはアルキル基を表す。アルキル基は分岐していてもよく、またヘテロ原子で置換されていてもよく、さらに不飽和結合を有していてもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などが挙げられる。
なかでも、R1としてより好ましくは、メチル基、エチル基である。
【0060】
一般式(1)中、L1は、2価の連結基または単なる結合手を表す。連結基としては、特に限定はされず、高分子の物質特性の観点、および合成上の観点より適宜最適な基が選択される。
具体的に、アルキレン基(炭素数1〜20が好ましく、炭素数1〜10がより好ましい。例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基などが挙げられる。)、−O−、−S−、アリーレン基(フェニレン基など)、−CO−、−NH−、−SO2−、−COO−、−CONH−、−C≡C−、−N=N−、−CONR−(Rはアルキル基を表す)、またはこれらを組み合わせた基(例えば、アルキレンオキシ基、アルキレンオキシカルボニル基、アルキレンカルボニルオキシ基などが挙げられる。)が挙げられる。
なかでも、−O−、アルキレン基、−CONH−、−COO−、アリーレン基、アルキレンオキシ基、アルキレンオキシカルボニル基、アルキレンカルボニルオキシ基、またはこれらを組み合わせた基が好ましく挙げられる。L1が単なる結合手の場合、一般式(1)のC(炭素原子)とR2とが直接結合することをさす。
【0061】
一般式(1)中、R2は、ラジカル重合性基を表す。R2は、ラジカル重合性を有していれば特に制限されないが、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基などが好ましく挙げられる。
【0062】
一般式(1)で表される繰り返し単位の具体例を示すが、本発明はこれに限定されない。
【0063】
【化14】
【0064】
一般式(2)中、R3は、水素原子またはアルキル基を表す。R3で表されるアルキル基は、一般式(1)のR1で表されるアルキル基と同義である。R3として、好ましくは水素原子、メチル基である。
【0065】
一般式(2)中、L2は2価の連結基または単なる結合手を表す。L2で表される連結基は、上述した一般式(1)中のL1で表される連結基と同義である。なかでも、好ましい連結基としては、−O−、アルキレン基、−CONH−、−COO−、アリーレン基、アルキレンオキシ基、アルキレンオキシカルボニル基、アルキレンカルボニルオキシ基またはこれらを組み合わせた基が挙げられる。L2が単なる結合手の場合、一般式(2)のR4とC(炭素原子)とが直接結合することをさす。
【0066】
一般式(2)中、R4は、フッ素原子を有するアルキル基、フッ素原子を有するアリール基、または一般式(X)で表される基を表す。
フッ素原子を有するアルキル基とは、少なくともひとつのフッ素原子を有する直鎖、分岐又は環状のアルキル基であり、さらに他の置換基(例えば、ヒドロキシル基、ハロゲン基)を有していてもよい。また、−O−などの連結基を含んでいてもよい。アルキル基としては、炭素数2〜20が好ましく、炭素数3〜10がより好ましい。また、フッ素原子を2個以上有することが好ましい。なかでも、パーフルオロアルキル基(炭素数2〜20が好ましく、炭素数3〜10がより好ましい)が好ましい。
【0067】
フッ素原子を有するアルキル基の具体例としては、CF3CH2基、CF3CF2CH2基、CF3CF2(CH2)6基、CF3CF2CF2CH2基、CF3CHFCF2CH2基、F(CF2)4CH2CH2基、F(CF2)4CH2CH2CH2基、F(CF2)4(CH2)6基、F(CF2)3OCF(CF3)CH2基、F(CF2)6CH2CH2基、F(CF2)6(CH2)3基、F(CF2)6(CH2)6基、F(CF2)8CH2CH2基、F(CF2)8(CH2)3基、F(CF2)8(CH2)6基、F(CF2)10CH2CH2基、C3F7OCF(CF3)CF2OCF(CF3)CH2基、(CF3)2CF(CH2)6基、(CF3)2CF(CF2)2CH2CH2基、(CF3)2CF(CF2)4CH2CH2基、(CF3)2CF(CF2)6CH2CH2基、CHF2CF2CH2基、H(CF2)4CH2基、H(CF2)6CH2基、H(CF2)8CH2基、(CF3)2CH基、CF3CHFCF2CH2基、CF3CF2(CH2)6OCH2CH2基、F(CF2)3OCF(CF3)CH2OCH2CH2基、H(CF2)4CH2OCH2CH2基、H(CF2)6CH2OCH2CH2基、H(CF2)8CH2OCH2CH2基、CF3CHFCF2CH2OCH2CH2基、C7F15CH2OCH2CH2基などが挙げられる。
【0068】
フッ素原子を有するアリール基としては、フェニル基、ナフチル基などのアリール基に少なくとも1つのフッ素原子が置換したものがあげられ、さらに他の置換基を有していてもよい。アリール基としては、炭素数6〜14のアリール基が好ましく、具体的には、フェニル基、トリル基、ジメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、ナフチル基、アントリル基、9,10−ジメトキシアントリル基などを好ましく挙げることができる。また、フッ素原子を2個以上有することが好ましい。
【0069】
一般式(X)中、RaおよびRbは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、または一般式(Y)で表される基を表す。アルキル基としては、好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜3である。ここで、アルキル基は分岐していてもよく、またヘテロ原子で置換されていてもよく、さらに不飽和結合を有していてもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などが挙げられ、好ましくは、メチル基である。
アリール基としては、炭素数6〜14が好ましく、炭素数6〜10がより好ましい。アリール基の具体例として、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基などが挙げら、なかでもフェニル基が好ましい。
【0070】
一般式(X)中、Rc、Rd、Re、RfおよびRgは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、またはアリール基を表す。Rc、Rd、Re、RfおよびRgで表されるアルキル基およびアリール基は、それぞれ上述したRaおよびRbで表されるアルキル基およびアリール基と同義である。
【0071】
一般式(X)中、nは、0〜100の整数を表す。なかでも、3〜30が好ましく、より好ましくは5〜20である。なお、nが2以上の場合、RcおよびRdで表される基は、同一であっても、異なっていてもよい。
【0072】
一般式(Y)中、Rh〜Rlは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、またはアリール基を表す。Rh〜Rlで表されるアルキル基は、上述した一般式(X)中のRaおよびRbで表されるアルキル基と同義である。また、Rh〜Rlで表されるアリール基は、上述した一般式(X)中のRaおよびRbで表されるアリール基と同義である。
【0073】
一般式(Y)中、mは0〜100の整数を表す。なかでも、0〜30が好ましく、より好ましくは5〜20である。mが2以上の場合、RhおよびRiで表される基は、同一であっても、異なっていてもよい。
【0074】
一般式(2)で表される繰り返し単位の具体例としては、上述の特公昭51−42961号公報、同54−6512号公報、同57−57096号公報、同58−53656号公報などに開示されているようなシリコーン化合物由来の繰り返し単位が挙げられる。商品名では、FM0711、FM0721、FM0725、PS583(以上、チッソ(株))、KNS−50002、KNS−5100、KNS−5200、KNS−5300、KP−600、X−62−7052、X−62−7100、X−62−7112、X−62−7140、X−62−7144、X−62−7153、X−62−7157、X−62−7158、X−62−7166、X−62−7168、X−62−7177、X−62−7180、X−62ー7181、X−62−7192、X−62−7200、X−62−7203、X−62−7205、X−62−7931、KM−875、X−62−7296A/B、X−62−7305A/B、X−62−7028A/B、X−62−5039A/B、X−62−5040A/B(以上、信越化学工業(株))、RC149、RC300、RC450、RC802、RC710、RC715、RC720、RC730(以上、ゴールドシュミット社)、EBECRYL350、EBECRYL1360(以上、ダイセルUCB(株))などが挙げられる。
また、以下のようなフッ素含有モノマー由来の繰り返し単位も挙げられる。CF3(CF2)7CH2CH2OCOCH=CH2、CF3CH2OCOCH=CH2、CF3(CF2)4CH2CH2OCOC(CH3)=CH2、C7F15CON(C2H5)CH2OCOC(CH3)=CH2、CF3(CF2)7SO2N(CH3)CH2CH2OCOCH=CH2、C2F5SO2N(C3H7)CH2CH2OCOC(CH3)=CH2、(CF3)2CF(CF2)6(CH2)3OCOCH=CH2、(CF3)2CF(CF2)10(CH2)3OCOC(CH3)=CH2、CF3(CF2)4CH(CH3)OCOC(CH3)=CH2、CF3CH2OCH2CH2OCOCH=CH2、C2F5(CH2CH2O)2CH2OCOCH=CH2、(CF3)2CFO(CH2)5OCOCH=CH2、CF3(CF2)4OCH2CH2OCOC(CH3)=CH2、C2F5CON(C2H5)CH2OCOCH=CH2、CF3(CF2)2CON(CH3)CH(CH3)CH2OCOCH=CH2、H(CF2)6C(C2H5)OCOC(CH3)=CH2、H(CF3)8CH2OCOCH=CH2、H(CF2)4CH2OCOCH=CH2、H(CF2)6CH2OCOC(CH3)=CH2、CF3(CF2)7SO2N(CH3)CH2CH2OCOC(CH3)=CH2、CF3(CF2)7SO2N(CH3)(CH2)10OCOCH=CH2、C2F5SO2N(C2H5)CH2CH2OCOC(CH3)=CH2、CF3(CF2)7SO2N(CH3)(CH2)4OCOCH=CH2、C2F5SO2N(C2H5)C(C2H5)HCH2OCOCH=CH2などが挙げられる。なお、本発明はこれらに限定されない。
【0075】
一般式(1)で表される繰り返し単位および一般式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子(共重合体)は、一般式(1)で表される繰り返し単位および一般式(2)で表される繰り返し単位のみからなるコポリマーであってもよく、他の種類の繰り返し単位が含まれていてもよい。連結の様式は特に限定されず、一般式(1)で表される繰り返し単位および一般式(2)で表される繰り返し単位が1ずつ交互に連結しても、複数ずつ交互に連結しても、ランダムに連結してもよい。また、この高分子は、複数の種類の異なる一般式(1)で表される繰り返し単位、および一般式(2)で表される繰り返し単位を有していてもよい。
【0076】
上記他の種類の繰り返し単位としては、特に限定されず、オレフィン類(エチレン、プロピレン、イソプレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等)、アクリル酸エステル類(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等)、メタクリル酸エステル類(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等)、スチレン誘導体(スチレン、p−ヒドロキシメチルスチレン、p−メトキシスチレン等)、ビニルエーテル類(メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等)、ビニルエステル類(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、桂皮酸ビニル等)、不飽和カルボン酸類(アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸等)、アクリルアミド類(N,N−ジメチルアクリルアミド、N−tert−ブチルアクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド等)、メタクリルアミド類(N,N−ジメチルメタクリルアミド)、アクリロニトリル由来の繰り返し単位が挙げられる。
【0077】
一般式(1)で表される繰り返し単位、および一般式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子中における、一般式(1)で表される繰り返し単位の含有量は、特に限定されないが、高分子を構成する全繰り返し単位(100モル%)に対して、0.5〜80モル%が好ましく、1.0〜60モル%がより好ましい。上記範囲内であれば、より強固に基板と結合することが可能である。
また、一般式(2)で表される繰り返し単位の含有量は、特に限定されないが、高分子を構成する全繰り返し単位(100モル%)に対して、5〜99モル%が好ましく、10〜95モル%がより好ましい。上記範囲内であれば、より配列の整った相分離構造が得られる。
【0078】
一般式(1)で表される繰り返し単位、および一般式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。なお、図中の一般式(1)で表される繰り返し単位、および一般式(2)で表される繰り返し単位に記載されている数値は、モル%を意味する。また、シロキサン結合部位中の数値11は、繰り返し単位数を表す。
【0079】
【化15】
【0080】
<その他の高分子>
本発明の高分子膜の作製に使用される、上述のラジカル重合性基を有する高分子以外の他の高分子としては、特に制限されず、汎用性の高分子を使用することができる。例えば、ポリスチレン、ポリ(2−ビニルピリジン)、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルアクリレートなどのアクリル樹脂、ポリスチレン、ポリ(4−ブロモ)スチレンなどのスチレン樹脂、ポリカーボネートなどのカーボネート樹脂、ポリアクリルアミド、ポリ(N-メチル)アクリルアミド、ポリビニルピロリドンなどのアミド樹脂、ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリイソブテン、ポリブタジエンなどのオレフィン樹脂、ポリビニルピリジンなどのヘテロ環を含むビニル樹脂などを挙げることができる。なかでも、好ましくは、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジンなどが挙げられる。
【0081】
上記他の高分子の分子量は、使用されるラジカル重合性基を有する高分子の種類、分子量などにより適宜選択されるが、取り扱いやすさの点で、1000〜300万が好ましく、3000〜100万がより好ましい。
【0082】
本発明の高分子膜を得るために、2種以上の高分子が使用される。得られる高分子膜の相分離構造の制御が容易な点で、2種の高分子を使用することが好ましい。2種のラジカル重合性基を有する高分子を使用してもよいし、ラジカル重合性基を有する高分子と他の高分子とを併用してもよい。
【0083】
本発明で使用される高分子の好適な組み合わせとして、シロキサン基とラジカル重合性基とを有する高分子と、フッ素含有基とラジカル重合性基とを有する高分子の組み合わせが挙げられる。
【0084】
本発明で使用される全高分子中のラジカル重合性基を有する高分子の含有量は、所望の微細パターンの構造により適宜最適な量が選択される。
例えば、ラジカル重合性基を有する高分子とそれ以外の高分子(例えば、ポリスチレン)を使用する場合は、微細パターンの制御がより容易な点で、その質量混合比(ラジカル重合性基を有する高分子:それ以外の高分子)は、1:50〜50:1が好ましく、1:5〜5:1がより好ましい。
また、2種の高分子として、シロキサン基とラジカル重合性基とを有する高分子と、フッ素含有基とラジカル重合性基とを有する高分子とを使用する場合は、微細パターンの制御がより容易な点で、その質量混合比(シロキサン基とラジカル重合性基を有する高分子:フッ素含有基とラジカル重合性とを有する高分子)は、1:50〜50:1が好ましく、1:5〜5:1がより好ましい。
【0085】
<製造方法>
本発明に係る高分子膜および積層体を製造するための方法は、主に以下の3つの工程より構成される。
<工程1> ラジカル重合性基を有する高分子を少なくとも1種含む、2種以上の高分子を、露光によりラジカルを発生しうる基板表面上に接触させて、基板表面上に相分離構造を有する高分子膜を形成する膜形成工程
<工程2> 膜形成工程で形成された高分子膜を露光し、高分子膜を基板に固定化する固定化工程
<工程3> 固定化工程で得られた高分子膜を溶媒で洗浄する洗浄工程
以下、各工程について詳細に説明する。
【0086】
<膜形成工程>
膜形成工程は、露光によりラジカルを発生しうる基板表面上に、ラジカル重合性基を有する高分子を少なくとも1種含む、2種以上の高分子を接触させて、基板表面上に相分離構造を有する高分子膜を形成する工程である。
上述の高分子を基板表面上に接触させる方法は、特に制限されないが、例えば、使用される高分子を溶解した溶液または分散した分散液を、スピンコート法などによって基板に塗布する方法(塗布方法)または、その溶液または分散液に基板を浸漬する方法(浸漬方法)などが挙げられる。取り扱い性や製造効率の観点からは、塗布方法が好ましい。なお、塗布方法や浸漬方法の実験条件は、使用される高分子などにより適宜最適な条件が選択される。
【0087】
使用される溶媒は、使用される高分子などの種類によって適宜最適な溶媒が選択される。例えば、テトラヒドロフラン、トルエン、1−メトキシ−2−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、水などが挙げられる。なかでも、テトラヒドロフラン、トルエン、1−メトキシ−2−プロパノールが好ましい。
【0088】
溶液または分散液中の使用される全高分子の濃度としては、用いられる高分子によって異なるが、0.1〜30質量%が好ましく、0.5〜10質量%であることがより好ましい。上記範囲内であれば、得られる高分子膜の膜厚の制御がより容易となり、膜厚の均一性がより高まる。
【0089】
また、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて上記溶液に界面活性剤など添加剤を加えてもよい。例えば、界面活性剤としては、n−ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアニオン性界面活性剤や、n−ドデシルトリメチルアンモニウムクロライドなどのカチオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル(市販品として、例えば、エマルゲン910、花王(株)製など)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(市販品としては、例えば、商品名「ツイーン20」など)、ポリオキシエチレンラウリルエーテルなどの非イオン性界面活性剤などが挙げられる。
【0090】
上述の膜形成工程の後に、必要に応じて、得られる膜を乾燥する工程(乾燥工程)を設けてもよい。乾燥条件は、使用する高分子などにより適宜最適な条件が選択される。
【0091】
本発明の膜形成工程で得られる高分子膜は、2種以上(好ましくは2種)の高分子から構成される相分離構造を有している。相分離構造は、使用される高分子やその組成などにより種々の構造に制御することができ、例えば、海島構造、共連続構造、シリンダー構造、ラメラ構造などが挙げられる。
【0092】
本工程で得られる高分子膜の膜厚は、使用される用途などに応じて、適宜最適な膜厚が選択される。なかでも、相分離構造をより再現性よく形成できる点で、0.1〜500nmが好ましく、0.5〜100nmがより好ましい。
【0093】
<固定化工程>
固定化工程では、上述の膜形成工程で得られた高分子膜を所定の露光波長で露光し、基板表面に発生したラジカルを起点として、ラジカル重合性基を有する高分子を基板表面に結合(固定化)させる工程である。
【0094】
露光は、基板の重合開始能を生じさせることのできる露光を意味する。例えば、上述の重合開始層の重合開始部位(Y)において開裂を生じさせることのできる露光を意味する。
露光光源としては、特に限定されず、高圧水銀灯、低圧水銀灯、ハロゲンランプ、キセノンランプ、エキシマレーザー、色素レーザーなどが用いられる。
【0095】
露光条件は、使用する高分子の種類や使用する光源などによって適宜最適な条件が選択されるが、通常、露光時間は0.1〜30分である。また、露光エネルギーとしては、1mJ/cm2以上であることが好ましく、10mJ/cm2以上であることがより好ましい。
露光は、酸素の影響を低減させるため、窒素などの不活性雰囲気下や真空下で行われることが好ましい。
【0096】
なお、露光の際に、320nm以上の波長の光のみを照射することにより、膜厚が非常に薄い、基板と直接結合した高分子薄膜を得ることができる。
露光波長に320nm未満の波長の光が含まれていると、ラジカル重合性基を有する高分子が基板と反応するだけでなく、高分子鎖の切断や、ラジカル重合性基の光吸収によりラジカルが発生し、高分子同士の分子内架橋が進行する。一方、露光波長が320nm以上の場合は、ラジカル重合性基を有する高分子が、実質的に基板表面に発生したラジカルとのみ反応する。したがって、発生するラジカルとラジカル重合性基を有する高分子は基板界面で反応し、薄い高分子膜が得られる。
【0097】
320nm以上の露光波長の光を照射する場合は、320nm以上の波長の光のみを発する光源を用いる方法や、320nm以上の波長の光のみを透過させる、つまり、ラジカル重合性基が光吸収してしまう波長の光をカットするカットフィルターを用いて露光を行う方法が用いられる。具体的には、320nm未満の波長の光を実質的にカットするガラス(青色ガラス、松並ガラス社製)などのカットフィルターを用いて露光を行う方法が用いられる。
【0098】
<洗浄工程>
洗浄工程では、固定化工程後に、露光および固定された高分子膜を所定の溶媒で洗浄することにより、基板と結合していない未反応の高分子を取り除く工程である。
具体的には、得られた基板に溶媒浸漬や溶媒洗浄などの処理を施して、基板上に残存する未反応の高分子を除去する工程である。使用する溶媒は、膜形成工程で使用したラジカル重合性基を有する高分子の種類などにより適宜最適な溶媒が使用される。例えば、テトラヒドロフラン、トルエン、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、水、メタノール、アルカリ水などが挙げられる。なお、洗浄の際に、超音波などの手段を併用して用いてもよい。
【0099】
上述のように露光波長として320nm以上の光のみを照射した場合は、この洗浄工程の処理を施すことにより、高分子膜中の未反応の高分子が除去され、基板と直接結合した、膜厚が非常に薄い高分子膜を得ることができる。
また、320nm以上の露光波長で塗布膜を露光することにより、ラジカル重合性基を有する高分子を含む溶液の塗布膜の膜厚に関わらず、露光後に均一な膜厚の高分子薄膜が得られるという特徴がある。基板が平坦でない凹凸表面で、塗布時に塗布膜の場所によって膜厚の差が大きくあったとしても、本願に係る方法によれば、種々の基板上に均一な膜厚の高分子薄膜を作製できる。つまり、本願に係る高分子薄膜は、基板の表面形状に対して優れた追随性(凹凸追随性)を示す。そのため、各種レンズ(両凸レンズ、凹凸レンズ、平凸レンズ、平凹レンズ、両凹レンズ)などの凹凸曲面や、剣山状の微細突起を有する面などに対して、その表面形状を保持しつつ、種々の面上に均一な膜厚の超薄膜コートが可能となる。例えば、基板の表面平均粗さと高分子薄膜の表面平均粗さとの差は、好ましくはRaの値で10nm以下程度である。
【0100】
使用される2種以上(好ましくは2種)の高分子が、ラジカル重合性基を有する高分子の場合、得られる高分子膜は、膜形成工程で形成された相分離構造を有する。つまり、露光によりラジカルを発生しうる基板表面と2種以上のラジカル重合性基を有する高分子とが直接結合して、基板表面上に形成される、相分離構造を有する高分子膜が得られる。そのため、高分子膜の表面上には、相分離構造に由来した微細パターン形状が現れる。よって、膜形成工程で所定の相分離構造を作製することにより、所望の微細パターンを有する高分子膜を得ることができる。
【0101】
また、使用される2種以上(好ましくは2種)の高分子の一方がラジカル重合性基を有しない高分子(例えば、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレートなど)の場合には、この洗浄工程の処理を施すことにより、膜形成工程で形成された相分離構造の一方の分離相を構成する、基板と反応していない高分子相が除去され、基板表面と直接結合したパターン状の高分子膜を得ることができる。より具体的には、海島構造の海状部分が除去されて得られる、島状に離散して形成されるパターン状の高分子膜や、海島構造の島状部分が除去されて得られる開口部を有する高分子膜(島状に離散した貫通孔を有する高分子膜)などが挙げられる。
【0102】
<高分子膜および積層体>
次に、上述の製造方法により得られる本発明の高分子膜および積層体について、図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0103】
図1は、本発明の積層体の一実施形態の模式的断面図である。
同図に示す積層体10は、露光によりラジカルを発生しうる基板12と基板12に直接結合した高分子膜14とから構成される。同図において、高分子膜14では、ポリマーAからなる相16とポリマーBからなる相18とからミクロ相分離構造(海島構造)を形成する。また、同図において、露光によりラジカルを発生しうる基板12、高分子膜14の厚みは該図によっては限定されない。なお、積層体10は、2種のラジカル重合性基を有する高分子を使用した場合に得られる積層体である。
【0104】
高分子膜14の膜厚は、使用される高分子や露光条件などにより、適宜制御することができる。なかでも、機能性材料設計の観点から、0.1〜500nmが好ましく、0.5〜100nmがより好ましい。
なお、膜厚の測定方法は、エリプソメトリーなどの公知の方法により、膜表面上の任意の点を10ヵ所以上測定して数平均して求めた値である。
また、上述のように320nm以上の光のみを照射した場合は、得られる基板と直接結合した高分子膜の膜厚は、非常に薄くなる。具体的には、0.1〜100nmが好ましく、0.5〜20nmがより好ましい。
【0105】
高分子膜14では、相分離構造が形成される。相分離構造は、使用される高分子やその組成などにより種々の構造に制御することができ、例えば、海島構造、共連続構造、シリンダー構造、ラメラ構造などが挙げられる。
なかでも、相分離構造が連続相と連続相に分散されて存在する分散相とを有してなる構造(例えば、海島構造)の場合、分散相の平均直径は使用される高分子やその組成により、適宜制御するが可能である。なかでも、分散相の平均直径は、機能性材料設計の観点から、1nm〜100μmが好ましく、10nm〜10μmがより好ましい。なお、平均直径は、原子間力顕微鏡(AFM)などで膜表面を観察し、10個以上の分散相の大きさを測定し、それらを平均した値である。分散相が楕円の場合は、長径を直径とする。
【0106】
図2は、本発明の積層体の他の一実施形態の模式的断面図である。
同図に示す積層体20は、基板22、重合開始層24、高分子膜14をこの順で積層した積層構造を有する。同図において、露光によりラジカルを発生しうる基板12は、基板22と重合開始層24との積層構造により構成されている。また、高分子膜14は、重合開始層24と直接結合している。なお、同図における高分子膜14は、図1で示される同符号の高分子膜14と同義である。
【0107】
図3は、本発明の積層体の他の一実施形態の模式的断面図である。
同図に示す積層体30は、基板22、重合開始層24、高分子膜32をこの順で積層した積層構造を有する。同図において、高分子膜32は、開口部34と、ポリマーBからなる相36とから構成されている。高分子膜32は、図2に示す高分子膜14より、ポリマーAからなる相16を除去した構造に該当する。
上述のように本発明の製造方法において、ラジカル重合性基を有しない高分子を使用した場合は、開口部(貫通孔)を有する、基板と直接結合した、パターン状の高分子膜が得られる。
【0108】
<用途>
本発明に係る積層体中の高分子膜は、基板と結合しているため摩擦などによる物理的作用や溶媒などの化学的処理に対する耐性に優れるとともに、ナノメートルレベルでの構造制御が可能である。また、大面積かつ短時間での製造が可能であり、生産性・工業性という観点からも好ましい。さらには、得られる高分子膜は、所定の微細パターン構造を有する。そのため、この積層体は、多様な用途に応用することが可能である。例えば、電子情報記録媒体、吸着剤、ナノ反応場膜、分離膜、ディスプレイなどのフィルム材料、ITOなどの導電性基板の電位調節材料、もしくは電子やホール注入材料、表面親水性材料、表面撥水材料、表面滑水材料などが挙げられる。
特に、本発明に係る積層体中の高分子膜は、上述のように基板の表面形状に対する追随性に優れる。そのため、基板の曲面や凹凸表面などの初期表面形状を保持しつつ、基板上に均一な膜厚の高分子膜が形成される。通常、レンズ表面を機能化するために塗布処理などを行うと、レンズの中心部と周辺部との間で塗布膜の膜厚差が生じ、歪みなどを引き起こして、レンズ自体の性能を落としてしまう。一方、本発明の高分子膜は、種々の表面形状に対して優れた追随性を示すため、レンズ曲面の形状を保持したまま膜が形成される。つまり、曲面上に均一な膜厚の高分子膜を作製することができる。そのため、レンズ自体の性能を落とすことなく種々の表面機能化が可能であり、例えば、防曇レンズや超撥水ガラスなどの作製に好適に使用することができる。
【実施例】
【0109】
実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例によりなんら制限されるものではない。
【0110】
後述する重合開始層および高分子薄膜の測定は、Woolam社製エリプソメトリーM−2000Uを用いて測定を行った。AFM測定は、セイコーインスツルメント社製、ナノピクス1000を用いて行った。
【0111】
(合成例1:フッ素含有基およびラジカル重合性基を有する高分子の合成)
内容積500mLの三口フラスコに、下記成分を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら、75℃で12時間反応させて重合体1の溶液を得た。
・メチルエチルケトン(MEK)〔溶剤〕 166g
・メタクリル酸2−(2−ブロモイソブチリルオキシ)エチル
(BBEM、分子量279、マナック(株)製) 27.9g(0.1mol)
・2−(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート
(M−1620、分子量432、ダイキン社製) 43.2g(0.1mol)
・ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート) 0.345g
(V-601和光純薬(株)製)
【0112】
さらに、以上のようにして得られた重合体1を含む系内へMEK100g、4−メトキシフェノール0.23g、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)50.2gを添加し、室温で12時間撹拌した。その後、得られた溶液を、トリフルオロメタンスルホン酸で中和したのち、水にて再沈精製した。さらに、真空乾燥し、以下の式で表されるフッ素含有基およびラジカル重合性基を有する高分子(61g)を得た(以後、フッ素含有基を有する高分子とも称する)。得られた高分子の重量平均分子量(Mw)は、27000であった。なお、高分子中、フッ素含有基を有する繰り返し単位とラジカル重合性基を有する繰り返し単位とのそれぞれの構成単位は、50モル%ずつであった。
【0113】
【化16】
【0114】
(合成例2:シロキサン基およびラジカル重合性基を有する高分子の合成)
内容積500Lのオートクレーブに、下記成分を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら、75℃で12時間反応させて重合体2の溶液を得た。
・メチルエチルケトン(MEK)〔溶剤〕 115g
・メタクリル酸2−(2−ブロモイソブチリルオキシ)エチル
(BBEM、マナック(株)製、分子量279)〔重合性化合物1〕 19.5g
・片末端メタクリレート変性ジメチルシリコーン
(チッソ(株)製、分子量1000、FM−0711)〔シロキサン化合物〕30g
・ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)
(V-601和光純薬(株)製) 0.345g
【0115】
さらに、以上のようにして得られた重合体2を含む系内へ、MEK100g、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)35gを添加し、室温で12時間撹拌した。その後、得られた溶液を、トリフルオロメタンスルホン酸で中和したのち、水にて再沈精製した。さらに、真空乾燥し、以下の式で表されるシロキサン基およびラジカル重合性基を有する高分子(41g)を得た(以後、シロキサン基を有する高分子とも称する)。得られた高分子の重量平均分子量(Mw)は、35000であった。なお、高分子中、シロキサン基を有する構成単位は30モル%で、ラジカル重合性基を有する構成単位は70モル%であった。繰り返し単位数nは、11であった。
【0116】
【化17】
【0117】
(合成例3:ラジカル重合性基を有する高分子の合成)
500ml三口フラスコに、ジメチルアセトアミド200g、ポリアクリル酸(和光純薬製、分子量:25000)30g、テトラエチルアンモニウム、ベンジルクロライド2.4g、ジターシャリーペンチルハイドロキノン25mg、サイクロマーA(ダイセル化学(株)製)25gを入れ、窒素気流下、100℃で5時間反応させた。その後、アセトニトリルで再沈を行い、固形物を濾取、水で洗浄、乾燥し、重合性基含有ポリマー(以後、重合性基含有ポリアクリル酸とも称する)を23g(Mw:136000)得た。得られたポリマーの1H NMR測定より、以下の式中、ラジカル重合性基を有する繰り返し単位は10モル%、カルボン酸基を有する繰り返し単位は90モル%であった。
【0118】
【化18】
【0119】
(合成例4:ラジカル重合性基を有する高分子の合成)
窒素置換し、100ml/minにて窒素flow(以下反応終了まで流す)した300ml三口フラスコにNMP(N−メチルピロリドン)30gを量り取り、内温65℃、スリーワンモーターの回転速度250rpm/minにて安定させた。スチレン18.7g(0.18mol)、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル(以下、HEMA)15.6g(0.12mol)、NMP30g、V−65(0.745g)(1mol% vs monomer)を200mlメスシリンダーに量り取り30分撹拌した。プランジャーポンプを用いて、メスシリンダーにて撹拌した溶液を2時間かけて三口フラスコに滴下し、反応を開始した。滴下終了後、後反応を4時間行い、終了後室温まで放冷した。
次に、反応溶液をスリーワンモーターにて250rpm/min、室温で撹拌した。三口フラスコにTEMPO(0.2g)のNMP1g溶液、tert-ブチルヒドロキノン(0.1g)のNMP1g溶液、および、ネオスタンU−600(日東化成社製)0.19gのNMP1g溶液を加えた。反応溶液にカレンズAOI(昭和電工社製)17.15gのNMP30g溶液を、滴下ロートを用いて5minかけて滴下した。フラスコの内温を55℃まで昇温し、6時間反応を行った。反応終了後、反応溶液をメタノールに投入して再沈精製を行い、所望の重合性基含有ポリマー(25g)(Mw:15500)を得た(以後、重合性基含有ポリスチレンとも称する)。得られたポリマーの1H NMR測定より、以下式中、aは60モル%、bは40モル%であった。
【0120】
【化19】
【0121】
(合成例5:光開裂化合物P1の合成)
4−シアノ−4’−ヒドロキシビフェニル29.33g(0.15mol)を200ml三口フラスコに量り取り、DMAc100mlを加え撹拌し(300rpm)、溶解させた。以下、同回転数で撹拌を続けながら反応を進めた。発熱しないように少量ずつK2CO322.81g(0.165mol)を加え、反応液を80℃に加温した。11−ブロモ−1−ウンデセン38.78g(0.166mol)を30分かけて滴下し、滴下後1.5時間攪拌し、さらに100℃にて2.5時間撹拌した。反応終了後、氷水へと反応溶液を流し入れ固体を析出させ、吸引ろ過後、大量の蒸留水にて洗浄した。得られた固体を、アセトニトリルにて再結晶を行い、やや黄色のかかった白色固体であるシアノエーテル体(40.21g)を得た。
得られたシアノエーテル体10.42g(0.03mol)を200ml三口フラスコに量り取り、三口フラスコを氷浴に浸し(塩化ナトリウム添加)冷却後、トリクロロアセトニトリル25.99g(0.18mol)を加え撹拌し(300rpm)、溶解させた。以下、同回転数で撹拌を続けながら反応を進めた。反応溶液をHClガスで1時間バブリングした。バブリング終了後、5時間撹拌し、さらに氷浴で24時間撹拌を続けた。氷浴を外し、トリクロロアセトニトリル6.5gを追加後、室温にて24時間反応を続けた。反応終了後、酢酸エチルで希釈し、蒸留水で2回、飽和食塩水で2回洗浄し、酢酸エチル層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。酢酸エチルを減圧留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて単離後、さらにn−hexaneにて再結晶を行い、やや黄色のかかった白色固体のトリアジン化合物(3.37g)を得た。
得られた二重結合を有するトリアジン化合物1.42gとTHF8mlとを50mlナスフラスコに量り取り、氷水でナスフラスコを冷却し、窒素気流下、トリクロロシラン0.9gを滴下した。さらに、塩化白金酸60mgをイソプロピルアルコール0.6gに溶解した液を滴下した。反応液を氷冷下で6時間攪拌した後、室温に戻し、一晩放置した。反応液をエバポレーターにて濃縮し、さらに真空ポンプにて揮発成分を取り除き、所望の光開裂化合物P1(2.3g)を得た。
【0122】
【化20】
【0123】
<実施例1>
UVオゾンクリーナー処理したシリコン基板を、光開裂化合物P1の0.1wt%トルエン溶液に5時間浸漬した。浸漬後、基板表面をトルエンで洗浄した。シリコン基板表面上に作成された重合開始層の膜厚を、エリプソメトリー(溝尻光学)(測定範囲5mm2)を用いて測定したところ、3.0nm(12点平均値、標準偏差0.91Å)であった。
次に、上記で合成したフッ素含基を有する高分子とシロキサン基を有する高分子とを含むメチルエチルケトン(MEK)溶液(全高分子濃度:1wt%)を、窒素雰囲気下、重合開始層を備えるシリコン基板上にスピンコート(回転数1500rpm)により塗布した。得られた塗布膜の膜厚は、30nmであった。なお、フッ素含有基を有する高分子とシロキサン基を有する高分子との混合比率(重量比)は、1:2であった。
次に、高圧水銀灯(UVX−02516S1LP01、ウシオ電機社製、主たる発光波長:254nm(光量22mW/cm2)、365nm(光量35mW/cm2))から照射される光を、320nm以上の光のみを透過するガラス板(松並ガラス社製、青板ガラス)を通して、上述のシリコン基板上の塗布膜に60秒間露光した。なお、使用した青板ガラスは、300nmでの吸光度(Abs.)が1.4であり、320nmでの吸光度が0.3であり、360nmでの吸光度が0であり、主に320nm以上の光のみが透過する。
露光後、得られたシリコン基板をメチルエチルケトン溶液に10分間浸漬し、超音波洗浄を3分間行い、シリコン基板と、基板に直接結合した高分子膜とを備える積層体を得た。
洗浄後、シリコン基板上に得られた高分子膜の膜厚を測定したところ、4.2nmであった。また、得られた高分子膜の表面をAFM測定したところ、相分離構造が確認された(図4)。得られた高分子膜の表面粗さRaは、1.22nmであった。なお、同図中、黄色部分がフッ素含有基を有する高分子であった。
【0124】
<実施例2>
フッ素含有基を有する高分子とシロキサン基を有する高分子との混合比率(重量比)を1:1にした以外は、実施例1と同様の方法により積層体を作製した。
シリコン基板上に得られた高分子膜の膜厚を測定したところ、4.5nmであった。また、得られた高分子膜の表面をAFM測定したところ、相分離構造が確認された(図5)。得られた高分子膜の表面粗さRaは、1.02nmであった。なお、同図中、黄色部分がフッ素含有基を有する高分子であった。
【0125】
<実施例3>
フッ素含有基を有する高分子とシロキサン基を有する高分子との混合比率(重量比)を2:1にした以外は、実施例1と同様の方法により積層体を作製した。
シリコン基板上に得られた高分子膜の膜厚を測定したところ、3.9nmであった。また、得られた高分子膜の表面をAFM測定したところ、相分離構造が確認された(図6)。得られた高分子膜の表面粗さRaは、1.31nmであった。なお、同図中、黄色部分がフッ素含有基を有する高分子であった。
【0126】
<実施例4>
320nm以上の光のみを透過するガラス板を使用せずに露光を行った以外は、実施例1と同様の方法により積層体を作製した。
シリコン基板上に得られた高分子膜の膜厚を測定したところ、26.5nmであった。また、得られた高分子膜の表面をAFM測定したところ、相分離構造が確認された(図7)。得られた高分子膜の表面粗さRaは、4.87nmであった。なお、同図中、黄色部分がフッ素含有基を有する高分子であった。
【0127】
実施例1から4に示すように、AFM測定より得られた高分子膜は、基板と直接結合し、所望の相分離構造を有していた。
なお、実施例1から4のAFM写真において、フッ素含有基を有する高分子と、シロキサン基を有する高分子との面積比は、それぞれ仕込み比と一致していた。
【0128】
<実施例5>
UVオゾンクリーナー処理したシリコン基板を、光開裂化合物P1の0.1wt%トルエン溶液に5時間浸漬した。浸漬後、基板表面をトルエンで洗浄した。シリコン基板表面上に作成された重合開始層の膜厚を、エリプソメトリー(溝尻光学)(測定範囲5mm2)を用いて測定したところ、3.0nm(12点平均値、標準偏差0.91Å)であった。
次に、上記で合成したフッ素含有基を有する高分子とポリスチレン(アルドリッチ社製、重量平均分子量210000)とを含むメチルエチルケトン(MEK)溶液(全高分子濃度:1wt%)を、窒素雰囲気下、重合開始層を備えるシリコン基板上にスピンコート(回転数1500rpm)により塗布した。得られた塗布膜の膜厚は、35nmであった。なお、フッ素含有基を有する高分子とポリスチレンとの混合比率(重量比)は、2:1であった。露光前の塗布膜のAFM測定を実施したところ、海島状の相分離構造が確認された(図8(a)、図8(b)、図8(c))。図8(a)および(b)のAFM測定図より、ポリスチレン部分(海状部分)の高さが、フッ素含有基を有する高分子(島状部分)より30nmほど高いことが確認された。なお、図8(c)では、得られた塗布膜の模式的断面図を示す。
次に、高圧水銀灯(UVX−02516S1LP01、ウシオ電機社製、主たる発光波長:254nm(光量22mW/cm2)、365nm(光量35mW/cm2))から照射される光を、上述のシリコン基板上の塗布膜に60秒間露光した。露光後、得られたシリコン基板をメチルエチルケトン溶液に20分間浸漬し、超音波洗浄を1分間行い、シリコン基板と基板に直接結合した高分子膜とを備える積層体を得た。
露光、および洗浄後に、得られた高分子膜の表面をAFM測定したところ、塗布膜と同様の相分離構造が確認された(図9(a)、図9(b)、図9(c))。洗浄工程により、基板と結合していない海状部分(ポリスチレン)が除去され、基板と結合したフッ素含有基を有する高分子より構成される島状構造の高分子膜が確認された。得られた高分子膜の膜厚は11.0nmであり、表面粗さRaは1.4nmであった。図9(a)および図9(b)中、黄色部分がフッ素含有基を有する高分子であった。図9(c)では、得られた塗布膜の模式的断面図を示す。
【0129】
<実施例6>
露光の際に、上述した320nm以上の光のみを透過するガラス板(松並ガラス社製、青板ガラス)を通して露光を行った以外は、実施例5と同様の方法により積層体を作製した。
露光前の塗布膜のAFM測定を実施したところ、実施例5と同様の海島状の相分離構造が確認された。
また、露光および洗浄後に、得られた高分子膜の表面をAFM測定したところ、塗布膜と同様の相分離構造が確認された(図10(a)、図10(b)、図10(c))。洗浄工程により、基板と結合していない海状部分(ポリスチレン)が除去され、基板と結合したフッ素含有基を有する高分子より構成される島状構造の高分子膜が確認された。得られた高分子膜の膜厚は2.0nmであり、表面粗さRaは0.6nmであった。図10(a)および図10(b)中、黄色部分がフッ素含有基を有する高分子であった。図10(c)では、得られた塗布膜の模式的断面図を示す。
【0130】
実施例5では、320nm未満の低露光波長の光も照射されたため、基板とフッ素含有基を有する高分子との間のみならず、塗膜中のフッ素含有基を有する高分子間で重合が進行したため、実施例6と比較して厚い膜が得られた。
一方、実施例6では、320nm以上の露光波長の光が照射されたため、主に、基板とフッ素含有基を有する高分子との間でのみ反応が進行し、洗浄工程により未反応の余分な塗膜部分が取り除かれ非常に薄い膜が得られた。
【0131】
<実施例7>
実施例5で使用したフッ素含有基を有する高分子を上記で合成したシロキサン基を有する高分子に、実施例5で使用したポリスチレンをポリスチレン(アルドリッチ社製、重量平均分子量45000)に変更した以外は、実施例5と同様の方法により積層体を作製した。なお、照射条件としては、実施例5と同様に、254nm、365nmを含むUV光をガラス板を介さずに直接60秒間露光した。その後、MEK溶媒で20分間洗浄して余分な高分子を除去した。
露光前の塗布膜のAFM測定を実施したところ、海島状の相分離構造が確認された(図11(a)、図11(b))。図11(a)のAFM測定図より、ポリスチレン部分(島状部分)の高さが、シロキサン基を有する高分子の部分(海状部分)より39nmほど高いことが確認された。なお、図11(b)は、得られた塗布膜の模式的断面図を示す。
また、露光および洗浄後に、得られた高分子膜の表面をAFM測定したところ、同様の相分離構造が確認された(図12(a)、図12(b))。洗浄工程により、基板と結合していない島状部分(ポリスチレン)が除去され、基板と結合したシロキサンを有する高分子より構成される海状構造の高分子膜が確認された。得られた高分子膜の膜厚は20nmであり、表面粗さRaは3.9nmであった。なお、同図中、黄色部分がシロキサン基を有する高分子であった。図12(b)では、得られた塗布膜の模式的断面図を示す。
【0132】
<実施例8>
露光の際に、上述した320nm以上の光のみを透過するガラス板(松並ガラス社製、青板ガラス)を使用して露光を行った以外は、実施例7と同様の方法により積層体を作製した。
露光前の塗布膜のAFM測定を実施したところ、実施例7と同様の海島状の相分離構造が確認された。
また、露光および洗浄後に、得られた高分子膜の表面をAFM測定したところ、同様の相分離構造が確認された(図13(a)、図13(b))。洗浄工程により、基板と結合していない島状部分(ポリスチレン)が除去され、基板と結合したシロキサンを有する高分子より構成される海状構造の高分子膜が確認された。得られた高分子膜の膜厚は2.0nmであり、表面粗さRaは0.1nmであった。なお、図中、黄色部分がシロキサン基を有する高分子であった。図13(b)では、得られた塗布膜の模式的断面図を示す。
【0133】
実施例7では、320nm未満の低露光波長の光も照射されたため、基板とシロキサン基を有する高分子との間のみならず、塗膜中の高分子間で重合が進行したため、実施例8と比較して厚い膜が得られた。
一方、実施例8では、320nm以上の露光波長の光が照射されたため、主に、基板とシロキサン基を有する高分子との間でのみ反応が進行し、洗浄工程により未反応の余分な塗膜部分が取り除かれ、非常に薄い膜が得られた。
【0134】
<実施例9>
実施例1で作製した重合開始層を備えるシリコン基板上に、合成したフッ素含基を有する高分子と、合成した重合性基含有ポリアクリル酸とを含むメチルエチルケトン(MEK)溶液(全高分子濃度:1wt%)をスピンコート(回転数1500rpm)により塗布した。得られた塗布膜の膜厚は、45nmであった。なお、フッ素含有基を有する高分子と重合性ポリアクリル酸との混合比率(重量比)は、1:1であった。
露光前の塗布膜のAFM測定を実施したところ、1μm程度の島状部分と残りの海状部分からなる海島状の相分離構造が確認された(Ra=2.9nm)。
次に、高圧水銀灯(UVX−02516S1LP01、ウシオ電機社製、主たる発光波長:254nm(光量22mW/cm2)、365nm(光量35mW/cm2))から照射される光を、上述した320nm以上の光のみを透過するガラス板(松並ガラス社製、青板ガラス)を通して、シリコン基板上の塗布膜に60秒間露光した。
露光後、得られたシリコン基板をメチルエチルケトン溶液に20分間浸漬し、次にメタノールで20分間浸漬し、シリコン基板と、基板に直接結合した高分子膜とを備える積層体を得た。
洗浄後、シリコン基板上に得られた高分子膜の膜厚を測定したところ、2.0nmであった。得られた高分子膜の表面粗さRaは、0.08nmであった。また、得られた高分子膜の表面をAFM測定したところ、塗布膜と同様に、1μm程度の島状部分と残りの海状部分からなる海島状の相分離構造が確認された。
【0135】
<実施例10>
実施例1で使用したフッ素含基を有する高分子をポリ(2−ビニルピリジン)(アルドリッチ社製、重量平均分子量41500)に、シロキサン基を有する高分子を重合性基含有ポリスチレンに変更し、これらの高分子を含む塗布溶液をメチルエチルケトンからトルエンに変更した以外は、実施例1と同様の方法により、積層体を作製した。
露光および洗浄後に、得られた高分子膜の表面をAFM測定したところ、海島状の相分離構造が確認された(図14)。洗浄工程により、基板と結合していない島状部分のポリ(2−ビニルピリジン)が除去され、基板と結合した重合性基含有ポリスチレンより構成される海状構造の高分子膜が確認された。得られた高分子膜の膜厚は、2.0nmであり、表面粗さRaは、0.6nmであった。図14中、黄色部分が重合性基含有ポリスチレンであった。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】図1は、本発明に係る積層体の一実施形態の模式的断面図である。
【図2】図2は、本発明に係る積層体の他の実施形態の模式的断面図である。
【図3】図3は、本発明に係る積層体の他の実施形態の模式的断面図である。
【図4】図4は、実施例1で得られた積層体の上面からの原子間力顕微鏡(AFM)像である。
【図5】図5は、実施例2で得られた積層体の上面からのAFM像である。
【図6】図6は、実施例3で得られた積層体の上面からのAFM像である。
【図7】図7は、実施例4で得られた積層体の上面からのAFMである。
【図8】図8(a)および(b)は、実施例5で得られた塗布膜を有する積層体の上面からのAFM像であり、(a)は平面図、(b)は三次元図である。図8(c)は、実施例5で得られた塗布膜を有する積層体の模式的断面図である。
【図9】図9(a)および(b)は、実施例5で得られた高分子膜を有する積層体の上面からのAFM像であり、(a)は平面図、(b)は三次元図である。図9(c)は、実施例5で得られた高分子膜を有する積層体の模式的断面図である。
【図10】図10(a)および(b)は、実施例6で得られた高分子膜を有する積層体の上面からのAFM像であり、(a)は平面図、(b)は三次元図である。図10(c)は、実施例6で得られた高分子膜を有する積層体の模式的断面図である。
【図11】図11(a)は、実施例7で得られた塗布膜を有する積層体の上面からのAFM像である。図11(b)は、実施例7で得られた塗布膜を有する積層体の模式的断面図である。
【図12】図12(a)は、実施例7で得られた高分子膜を有する積層体の上面からのAFM像である。図12(b)は、実施例7で得られた高分子膜を有する積層体の模式的断面図である。
【図13】図13(a)は、実施例8で得られた高分子膜を有する積層体の上面からのAFM像である。図13(b)は、実施例8で得られた高分子膜を有する積層体の模式的断面図である。
【図14】図14は、実施例10で得られた高分子膜を有する積層体の上面からのAFM像である。
【符号の説明】
【0137】
10,20,30,50,54,70,74 積層体
12 露光によりラジカルを発生しうる基板
14,32 高分子膜
16 ポリマーAからなる相
18,36 ポリマーBからなる相
22 基板
24 重合開始層
34 開口部
40,60 塗布膜を有する積層体
42,62 ポリスチレン相
44 フッ素含有基を有する高分子の相
52,56 フッ素含有基を有する高分子の相を露光して得られる高分子膜
64 シロキサン基を有する高分子の相
72,76 シロキサン基を有する高分子の相を露光して得られる高分子
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子膜および積層体に関する。より詳しくは、露光によりラジカルを発生しうる基板表面と直接結合して形成される高分子膜を備える積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度な機能やより優れた性能を有する新材料の研究開発が活発に行われるなか、材料の微細化・超小型化に伴い、微細なパターン構造を有する薄膜への関心が高まっている。特に、ナノメートル〜マイクロメートルレベルで構造制御された微細なパターン構造を有する薄膜は、通常の材料とは異なった性質を示すと期待され、エレクトロニクス分野、環境分野、生命科学分野などの種々の先端分野において重要な材料の一つと位置づけられている。例えば、そのような薄膜は、その薄膜上に積層される材料の配向制御に寄与するテンプレートとしての応用が期待される。
【0003】
現在、より安価で、しかも高いスループットを実現できる微細パターン構造の形成方法として、自己組織的な相分離構造を利用したパターン形成方法がいくつか提案されている。
微細パターンを有する薄膜の作製方法の代表的な例として、LB(ラングミュア−ブロジェット)法(非特許文献1〜2)や、スピンコート法(非特許文献3〜5)などが挙げられる。より具体的には、非特許文献1では、パターン化されたテンプレートを作製する目的で、2種類の両親媒性化合物を用いて、LB法により相分離構造を備える単分子膜が作製されている。また、非特許文献3においては、ポリウレタンを用いてスピンコート法により基板上にミクロ相分離構造を有する薄膜が作製されている。
一方、他の薄膜の作製方法として、増感剤を用いて、露光により基板上に基板と直接結合したグラフトポリマー膜を作製する方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
【非特許文献1】A. Takahara, et. al. “Scanning force microscopic studies of surface structure and protein adsorption behavior of organosilane monolayers”, J. Vac. Sci. Technol. A, 1996年, Vol.14, pp.1747.
【非特許文献2】M. Matsumoto, et. al. “Template-Directed Patterning Using Phase-Separated Langmuir-Blodgett Films”, Langmuir, 2004年, Vol.20, pp.8728.
【非特許文献3】小椎尾 謙, “極性高分子の超薄膜下におけるミクロ相分離構造”,高分子論文集, 2007年8月, Vol.64、No. 8, pp.498-503.
【非特許文献4】M. Boltau, et. al. “Surface-induced structure formation of polymer blends on patterned substrates”, Nature, 1998年, Vol.39, pp.877.
【非特許文献5】L. Chi, et. al. “Tunable ordered droplets induced by convection in phase-separating P2VP/PS blend film”, Polymer, 2004年, Vol.45, pp.8139.
【特許文献1】特開2006−350307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1または2のようにLB法を用いてナノメートルレベルの薄膜を作成することはできるが、LB法は大面積化での製造が難しく、工業性・生産性という点では必ずしも満足できるものでなかった。また、適用できる化合物が限られており、製造方法として汎用性に乏しかった。例えば、LB法に適用できる高分子としては、極性基、親水性基、イオン性基などの置換基をもつ緻密に分子設計された特定の構造を持つ高分子に限定されていた。
さらに、非特許文献3〜5に記載のスピンコート法や上記のLB法で得られた薄膜は、基板との密着性が十分でないため、摩擦などによる物理的作用や溶媒などの化学的処理によって容易に基板から剥がれてしまうという問題があった。
【0006】
一方、特許文献1には、基板上に直接結合したグラフトポリマーについて開示されているが、相分離構造を有する薄膜についてはなんら言及されていない。概して、高分子の相分離構造は、使用される高分子の種類などに大きく依存し、未だ十分な知見は得られていないのが現状であった。
【0007】
そこで、本発明は上記実情を鑑みて、製造適性、耐久性、基板との密着性に優れた微細な構造パターンを有する高分子膜、この高分子膜を有する積層体、および高分子膜および積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、使用される高分子の構造・性質に着目し、所定の構造を有する高分子を使用することにより、基板と直接結合し、かつ微細な構造パターンを有する高分子膜を備える積層体を再現性よく得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
つまり、本発明者らは、鋭意検討を行った結果、上記課題が下記の<1>〜<14>の構成により解決されることを見出した。
<1> ラジカル重合性基を有する高分子を少なくとも1種含む、2種以上の高分子を、露光によりラジカルを発生しうる基板表面上に接触させて、前記基板表面上に相分離構造を有する高分子膜を形成する膜形成工程と、
前記膜形成工程で形成された前記高分子膜を露光し、前記高分子膜を前記基板に固定化する固定化工程と、
前記固定化工程で得られた高分子膜を溶媒で洗浄する洗浄工程と、を含む方法により得られる、前記基板表面と直接結合した高分子膜。
<2> 前記基板表面と直接結合した高分子膜の膜厚が、0.5〜100nmである<1>に記載の高分子膜。
<3> 前記ラジカル重合性基を有する高分子が、シロキサン基またはフッ素含有基を有し、かつ、ラジカル重合性基を有する高分子である<1>または<2>に記載の高分子膜。
<4> 前記シロキサン基またはフッ素含有基を有し、かつ、ラジカル重合性基を有する高分子が、一般式(1)で表される繰り返し単位、および一般式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子である<3>に記載の高分子膜。
【化1】
(一般式(1)中、R1は、水素原子またはアルキル基を表す。L1は、2価の連結基または単なる結合手を表す。R2は、ラジカル重合性基を表す。
一般式(2)中、R3は、水素原子またはアルキル基を表す。L2は、2価の連結基または単なる結合手を表す。R4は、フッ素原子を有するアルキル基、フッ素原子を有するアリール基、または一般式(X)で表される基を表す。)
【化2】
(一般式(X)中、RaおよびRbは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、または一般式(Y)で表される基を表す。Rc、Rd、Re、RfおよびRgは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、またはアリール基を表す。nは、0〜100の整数を表す。*は、L2との結合位置を示す。)
【化3】
(一般式(Y)中、Rh〜Rlは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、またはアリール基を表す。mは、0〜100の整数を表す。**は、一般式(X)との結合位置を示す。)
<5> 前記露光が、320nm以上の露光波長の光により行われる<1>〜<4>のいずれかに記載の高分子膜。
<6> 前記相分離構造が、連続相と前記連続相に分散されて存在する分散相とを有してなり、前記分散相の平均直径が1nm〜100μmである<1>〜<5>のいずれかに記載の高分子膜。
<7> 露光によりラジカルを発生しうる基板表面と2種以上のラジカル重合性基を有する高分子とが直接結合して、前記基板表面上に形成される、相分離構造を有する高分子膜。
<8> 膜厚が0.5〜100nmである<7>に記載の高分子膜。
<9> 前記相分離構造が、連続相と前記連続相に分散されて存在する分散相とを有してなり、前記分散相の平均直径が1nm〜100μmである<7>または<8>に記載の高分子膜。
<10> 前記ラジカル重合性基を有する高分子の少なくとも1種が、シロキサン基またはフッ素含有基を有し、かつ、ラジカル重合性基を有する高分子である<7>〜<9>のいずれかに記載の高分子膜。
<11> 露光によりラジカルを発生しうる基板と、前記露光によりラジカルを発生しうる基板上に形成される<1>〜<10>のいずれかに記載の高分子膜とを有する積層体。
<12> 前記露光によりラジカルを発生しうる基板が、基板と、前記基板上に形成される重合開始層とを有する積層構造で形成される<11>に記載の積層体。
<13> 前記重合開始層が、露光によりラジカル重合を開始しうる重合開始部位と基板結合部位とを有する化合物が前記基板結合部位を介して前記基板と結合して形成される層である<12>に記載の積層体。
<14> ラジカル重合性基を有する高分子を少なくとも1種含む、2種以上の高分子を、露光によりラジカルを発生しうる基板表面上に接触させて、前記基板表面上に相分離構造を有する高分子膜を形成する膜形成工程と、
前記膜形成工程で形成された高分子膜を露光し、前記高分子膜を前記基板に固定化する固定化工程と、
前記固定化工程で得られた高分子膜を溶媒で洗浄する洗浄工程とを含む、前記基板表面と直接結合した高分子膜の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、製造適性、耐久性、基板との密着性に優れた微細な構造パターンを有する高分子膜、この高分子膜を有する積層体、および高分子膜および積層体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明に係る高分子膜および積層体、並びに、この高分子膜および積層体の製造方法について詳述する。
まず、本発明において使用される材料について説明する。
【0012】
<露光によりラジカルを発生しうる基板>
露光によりラジカルを発生しうる基板としては、後述する特定の波長の光露光により、ラジカルを発生させることができれば、如何なる基板を用いてもよい。つまり、基板自体が露光によりラジカルを発生する特性を有する基板であってもよく、また、基板上に重合開始層を設け、この重合開始層がそのような特性を有して基板を構成するものでもよい。なかでも、重合開始層を備える基板が好ましい。
重合開始層の作製方法としては、例えば、必要な成分を、溶解可能な溶媒に溶解し、塗布などの方法で基板表面上に塗布層を設け、加熱または光照射により硬膜することで、形成することができる。重合開始層に用いられる化合物としては、基板との密着性が良好であり、且つ、活性光照射などのエネルギー付与により、活性種を発生するものであれば、特に制限されない。
【0013】
露光によりラジカルを発生しうる基板としては、例えば、(a)ラジカル発生剤を含有する基板、(b)ラジカル発生部位を有する高分子化合物を含有する基板、(c)架橋剤と側鎖にラジカル発生部位を有する高分子化合物とを含有する塗布液を支持体表面に塗布、乾燥し、被膜内に架橋構造を形成させてなる、重合開始層を有する基板、などが挙げられる。
他には、(d)光開裂によりラジカル重合を開始しうる光重合開始部位を共有結合により基板表面に設けた基板がある。より具体的には、光開裂によりラジカル重合を開始しうる光重合開始部位と基板結合部位とを有する化合物を、基板結合部位を介して基板表面に結合させ、形成される重合開始層を有する基板である。なかでも、得られる高分子薄膜の膜厚の均一性・平坦性が優れる点から、(d)の基板が好ましい。
【0014】
上記(a)の基板で使用される露光によりラジカルを発生しうる化合物(以下、適宜、ラジカル発生剤と称する)は、低分子化合物でも、高分子化合物でもよく、一般に公知のものが使用される。低分子のラジカル発生剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーのケトン、ベンゾイルベンゾエート、ベンゾイン類、α−アシロキシムエステル、テトラメチルチウラムモノサルファイド、トリクロロメチルトリアジンおよびチオキサントンなどの公知のラジカル発生剤を使用できる。
また、上記(b)の基板で使用されるラジカル発生部位を有する高分子化合物(高分子ラジカル発生剤)としては、特開平9−77891号公報の段落番号〔0012〕〜〔0030〕や、特開平10−45927号公報の段落番号〔0020〕〜〔0073〕に記載の活性カルボニル基を側鎖に有する高分子化合物などを使用することができる。
【0015】
また、上記(c)の基板では、任意の支持体上に、側鎖に重合開始能を有する官能基及び架橋性基を有するポリマーを架橋反応により固定化してなる重合開始層を形成することで、露光によりラジカルを発生しうる基板とする。具体的には、架橋剤と側鎖にラジカル発生部位を有する高分子化合物とを含有する塗布液を支持体(基板)表面に塗布、乾燥し、被膜内に架橋構造を形成させて重合開始層を形成する。このような重合開始層の形成方法については、例えば、特開2004−123837号公報に詳細に記載され、このような重合開始層を本発明に適用することができる。
【0016】
上記(d)の基板に適用しうる重合開始能を有する化合物としては、例えば、光開裂によりラジカル重合を開始しうる重合開始部位(Y)と基板結合部位(Q)とを有する化合物(以下、適宜「光開裂化合物(Q−Y)」と称する。)等が挙げられる。
ここで、光開裂によりラジカル重合を開始しうる重合開始部位(以下、単に「重合開始部位(Y)」とも称する。)は、光により開裂しうる単結合を含む構造である。この光により開裂する単結合としては、カルボニルのα開裂、β開裂反応、光フリー転位反応、フェナシルエステルの開裂反応、スルホンイミド開裂反応、スルホニルエステル開裂反応、N−ヒドロキシスルホニルエステル開裂反応、ベンジルイミド開裂反応、活性ハロゲン化合物の開裂反応、などを利用して開裂が可能な単結合が挙げられる。これらの反応により、光により開裂しうる単結合が切断される。この開裂しうる単結合としては、C−C結合、C−N結合、C−O結合、C−Cl結合、N−O結合、及びS−N結合などが挙げられる。
【0017】
また、これらの光により開裂しうる単結合を含む重合開始部位(Y)は、後述するラジカル重合性基を有する高分子のグラフト反応の起点となる。つまり、光により開裂しうる単結合が開裂すると、その開裂反応によりラジカルを発生させる機能を有する。このように、光により開裂しうる単結合を有し、かつ、ラジカルを発生可能な重合開始部位(Y)の構造としては、以下に挙げる基を含む構造が挙げられる。即ち、芳香族ケトン基、フェナシルエステル基、スルホンイミド基、スルホニルエステル基、N−ヒドロキシスルホニルエステル基、ベンジルイミド基、トリクロロメチル基、ベンジルクロライド基、などである。
【0018】
このような重合開始部位(Y)は、露光により開裂してラジカルが発生すると、そのラジカル周辺にラジカル重合性基を有する高分子が存在する場合には、このラジカルがグラフト反応の起点として機能し、グラフトポリマーを生成することができる。
このため、表面に光開裂化合物(Q−Y)が導入された基板を用いてグラフトポリマーを生成させる場合には、エネルギー付与手段として、重合開始部位(Y)を開裂させうる波長での露光を用いることが必要である。
【0019】
また、基板結合部位(Q)としては、ガラスに代表される絶縁基板表面に存在する官能基(水酸基、カルボキシル基など)と反応して結合しうる反応性基で構成され、その反応性基としては、具体的には、以下に示すような基板結合基が挙げられる。なかでも、反応性に優れる点で、−Si(OA)3基(Aは、アルキル基を表す。好ましくは、メチル基、エチル基)、−SiX3基(Xはハロゲン原子を表す。好ましくは、塩素原子)などが挙げられる。基板表面と光開始部位との結合の例としては、O−C、O−Si、N−C、 N−Si、S−C、S−Si、S−O、などの共有結合が好ましく挙げられる。
【0020】
【化4】
【0021】
重合開始部位(Y)と、基板結合部位(Q)とは直接結合していてもよいし、連結基を介して結合していてもよい。連結基(L)を有する場合、光開裂化合物は(Q−L−Y)と表される。この連結基としては、炭素、窒素、酸素、及びイオウからなる群より選択される原子を含む連結基が挙げられる。具体的には、飽和炭化水素基(アルキレン基など)、アリーレン基、エステル基、アミド基、ウレイド基、エーテル基、アミノ基、スルホンアミド基、またはこれらを組み合わせた基などが挙げられる。また、この連結基は更に置換基を有していてもよく、その導入可能な置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、などが挙げられる。
【0022】
以下、光開裂化合物(Q−Y)の例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。これらの化合物は、基板表面と化学反応させることにより表面に固定化される。
【0023】
【化5】
【0024】
【化6】
【0025】
【化7】
【0026】
【化8】
【0027】
上述の基板としては、特に制限はなく、その構成材料も有機材料、無機材料、有機と無機とのハイブリッド材料のいずれでもよい。具体的には、ガラス、石英、ITO、シリコン、エポキシ樹脂、などの表面水酸基を有する各種基板、PET、ポリプロピレン、ポリイミド、アクリルなどのプラスチック基板などが挙げられる。なかでも、ガラス、石英、ITO、シリコン、エポキシ樹脂、などの表面水酸基を有する基板が好ましい。基板の厚みは、使用目的に応じて選択され、特に限定はないが、一般的には10μm〜10cm程度である。基板は、平坦であっても、平坦でなくてもよい。
【0028】
上記基板は、その材質に起因して水酸基などの官能基(Z)が、基板表面上に存在している。そこで、基板と上述の光開裂化合物(Q−Y)を接触させ、官能基(Z)と基板結合部位(Q)とを結合させることで、基板表面上に光開裂化合物(Q−Y)を導入することができる。また、各種基板、特に樹脂基板などの絶縁基板を用いる場合は、基板表面にコロナ処理、グロー処理、UV処理、プラズマ処理などの表面処理により、水酸基、カルボキシル基などを発生させてもよい。
【0029】
光開裂化合物(Q−Y)を基板結合部位(Q)を介して基板に結合させて、重合開始層を作製する方法(光開裂化合物結合工程)としては、光開裂化合物(Q−Y)を、トルエン、ヘキサン、アセトンなどの適切な溶媒に溶解または分散させ、その溶液または分散液を基板表面にスピンコートなどによって塗布する方法(塗布方法)、または、溶液または分散液中に基板を一定時間浸漬させ、洗浄する方法(浸漬方法)などを用いることができる。
浸漬方法を用いると、膜厚が薄く、平坦性に優れた重合開始層を得ることができ、基板表面の重合開始層上に作製される高分子膜の膜厚の均一性がより優れたものとなる。好ましくは、得られた重合開始層は、光開裂化合物(Q−Y)からなる自己組織化単分子膜(SAM:Self Assembled Monolayer)である。
なかでも、得られる高分子膜の膜厚の均一性がより優れ、後述する用途などに好適に用いることができるという点で、重合開始層の膜厚が1〜15nmであることが好ましく、さらに1.0〜5.0nmが好ましく、特に1.5〜5.0nmが好ましい。重合開始層の膜厚の測定方法は、エリプソメトリー(溝尻光学社製 DHA−XA/S4)を用いて、膜表面上の任意の点を12ヵ所以上測定して数平均して求めた値である。
【0030】
<高分子>
本発明の高分子膜および積層体の作製においては、ラジカル重合性基を有する高分子を少なくとも1種含む、2種以上の高分子が使用される。ラジカル重合性基を有する高分子を2種以上使用してもよいし、ラジカル重合性基を有する高分子とそれ以外の高分子を併用してもよい。
まず、ラジカル重合性基を有する高分子について説明する。
【0031】
<ラジカル重合性基を有する高分子>
本発明に係るラジカル重合性基を有する高分子とは、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基などのラジカル重合性基(エチレン付加重合性不飽和基など)を導入した高分子をさす。この高分子は、少なくとも末端または側鎖にラジカル重合性基を有するものであり、側鎖にラジカル重合性基を有するものがより好ましい。なお、このラジカル重合性基を介して高分子と上述の基板(または基板表面上の重合開始層)との間で直接結合(共有結合)が形成され、基板表面上に高分子膜が形成される。
【0032】
本発明に係るラジカル重合性基を有する高分子の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、溶媒への溶解性などの観点から、1000〜1000000が好ましく、3000〜400000がより好ましい。
【0033】
ラジカル重合性基を有する高分子中の高分子骨格の種類は、特に制限されないが、例えば、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ノボラック樹脂、クレゾール樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂などが挙げられる。なかでも、本発明で有用なポリマーとしては、アクリル樹脂、スチレン樹脂が好ましい。
【0034】
ラジカル重合性基を有する高分子の合成方法としては、例えば、(i)ラジカル重合性基を有するモノマーと他のモノマーとを共重合する方法、(ii)ラジカル重合性基前駆体を有するモノマーと他のモノマーとを共重合させ、次に塩基などの処理により二重結合を導入する方法、(iii)カルボン酸などの官能基を有する高分子とラジカル重合性基を有するモノマーとを反応させ、ラジカル重合性基を導入する方法が挙げられる。
好ましい合成方法は、合成適性の観点から、(iii)の方法である。
【0035】
上記(i)および(ii)の合成方法でラジカル重合性基を有するモノマーと共に使用される他のモノマーとしては、特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸またはそのアルカリ金属塩若しくはアミン塩、イタコン酸またはそのアルカリ金属塩若しくはアミン塩、スチレンスルホン酸またはそのアルカリ金属塩若しくはアミン塩、2−スルホエチル(メタ)アクリレートまたはそのアルカリ金属塩もしくはアミン塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸またはそのアルカリ金属塩若しくはアミン塩、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートまたはそのアルカリ金属塩若しくはアミン塩、ポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−モノメチロール(メタ)アクリルアミド、N−ジメチロール(メタ)アクリルアミド、アリルアミンまたはそのハロゲン化水素酸塩、N−ビニルピロリドン、ビニルイミダゾール、ビニルピリジン、ビニルチオフェン、スチレン、エチル(メタ)アクリル酸エステル、n−ブチル(メタ)アクリル酸エステルなど炭素数1〜24までのアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルなどを挙げることができる。
【0036】
上記(i)の方法で使用されるラジカル重合性基を有するモノマーとしては、例えば、アリル基含有モノマーであり、具体的には、アリル(メタ)アクリレート、2−アリルオキシエチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0037】
上記(ii)の合成方法に使用される重合性基前駆体を有するモノマーとしては、2−(3−クロロ−1−オキソプロポキシ)エチルメタクリレートや、特開2003−335814号公報に記載の化合物(i−1〜i−60)を使用することができる。
【0038】
更に、上記(iii)の合成方法に用いられる相互作用性基を有する高分子中の、カルボキシル基、アミノ基若しくはそれらの塩、水酸基、またはエポキシ基などの官能基との反応を利用して、重合性基を導入するために用いられるラジカル重合性基を有するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、2−イソシアナトエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0039】
ラジカル重合性基を有する高分子の一つの例として、一般式(3)で表される繰り返し単位、および一般式(4)で表される繰り返し単位を有する高分子(共重合体)が挙げられる。
【0040】
【化9】
(一般式(3)中、R5は、水素原子、またはアルキル基を表す。R6は、カルボキシ基、エステル基、アミド基、二トリル基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、ホスホン酸基、ホスホン酸エステル基、アリール基、ピリジル基、ピロリドン基、またはアルキルカルボニルオキシ基を表す。
一般式(4)中、R7は、水素原子、またはアルキル基を表す。L3は、2価の連結基、または単なる結合手を表す。R8は、アリル基、アクリロイル基、またはメタクリロイル基を表す。)
【0041】
一般式(3)中、R5は、水素原子、またはアルキル基を表す。アルキル基としては、炭素数1が好ましく、例えば、メチル基などが挙げられる。R5として、好ましくは水素原子、メチル基である。
【0042】
一般式(3)中、R6は、カルボキシル基、アリール基、ピリジル基、ピロリドン基、アルキルカルボニルオキシ基(例えば、メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基)、エステル基、アミド基、二トリル基、スルホン酸基、スルホン酸エステル基、ホスホン酸基、またはホスホン酸エステル基を表す。なかでも、カルボキシル基、エステル基、アミド基、またはアリール基が好ましい。
なお、これらの基(例えば、アリール基)は、さらにアルキル基、アルコキシ基などの置換基を有していてよい。
【0043】
一般式(4)中、R7は、水素原子、またはアルキル基を表す。アルキル基としては、例えば、メチル基などが挙げられる。R7として、好ましくは水素原子、メチル基である。
【0044】
一般式(4)中、L3は、2価の連結基または単なる結合手を表す。連結基としては、具体的に、アルキレン基(炭素数1〜20が好ましく、炭素数1〜10がより好ましい。例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、シクロヘキシレン基などが挙げられる。)、−O−、アリーレン基(フェニレン基など)、−CO−、−NH−、−COO−、−CONH−またはこれらを組み合わせた基(例えば、アルキレンオキシ基、アルキレンオキシカルボニル基、アルキレンカルボニルオキシ基など)などが挙げられる。なお、これら連結基は、ヒドロキシル基、アルキル基などの置換基を有していてもよい。
L3が単なる結合手の場合、一般式(4)のR8とC(炭素原子)とが直接結合することをさす。
【0045】
一般式(4)中、R8は、Zはアリル基、アクリロイル基、またはメタクリロイル基を表し、なかでもアクリロイル基、メタクリロイル基が好ましい。なお、これらの基は、上述のラジカル重合性基として作用し、基板(または基板表面上の重合開始層)と反応して直接結合を形成する。つまり、これらの基を介して、一般式(3)および一般式(4)で表される繰り返し単位を有する高分子と基板との間で直接結合(共有結合)が形成される。
【0046】
上述の一般式(3)および一般式(4)で表される繰り返し単位を有する高分子は、連結の様式は特に限定されず、それらが1ずつ交互に連結しても、複数ずつ交互に連結しても、ランダムに連結してもよい。また、他の繰り返し単位を含んでいてもよい。なお、他の繰り返し単位としては、例えば、上述(i)および(ii)の合成方法で説明した他のモノマー由来の繰り返し単位が挙げられる。
【0047】
上述の一般式(3)で表される繰り返し単位および一般式(4)で表される繰り返し単位を有する高分子中における、一般式(3)で表される繰り返し単位の含有量は、特に限定されないが、高分子を構成する全繰り返し単位(100モル%)に対して、10〜99モル%が好ましく、60〜95モル%がより好ましい。含有量が少なすぎると、重合性基の比率が多くなり、ポリマー分子同士の架橋反応が起り、膜厚が厚くなりやすい。また含有量が多すぎると、重合性基の比率が少なくなり、膜厚が薄くなると共に、欠陥のない均一な薄膜が得られにくくなる。
【0048】
上述の一般式(3)で表される繰り返し単位および一般式(4)で表される繰り返し単位を有する高分子は、上記(i)〜(iii)の方法を用いて合成することができる。
【0049】
以下に上述したラジカル重合性基を有する高分子の具体例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、各繰り返し単位中に記載される数値は、それぞれの繰り返し単位のモル%を表す。
【0050】
【化10】
【0051】
<シロキサン基またはフッ素含有基を有し、かつ、ラジカル重合性基を有する高分子>
ラジカル重合性基を有する高分子の好ましい例の一つとして、シロキサン基またはフッ素含有基を有し、かつ、ラジカル重合性基を有する高分子が挙げられる。
シロキサン基またはフッ素含有基を有し、かつ、ラジカル重合性基を有する高分子とは、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基などのラジカル重合性基(エチレン付加重合性不飽和基など)を導入したシロキサン基含有高分子またはフッ素含有基含有高分子である。これら高分子は、少なくとも末端または側鎖にラジカル重合性基を有するものであり、側鎖にラジカル重合性基を有するものがより好ましい。なお、このラジカル重合性基を介して高分子と上述の基板(または基板表面上の重合開始層)との間で直接結合(共有結合)が形成され、基板表面上に高分子膜が形成される。
【0052】
シロキサン基またはフッ素含有基を有し、かつ、ラジカル重合性基を有する高分子の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、溶媒への溶解性などの観点から、1000〜1000000が好ましく、5000〜500000がより好ましい。
【0053】
また、シロキサン基またはフッ素含有基を有し、かつ、ラジカル重合性基を有する高分子の合成方法としては、i)シロキサン基またはフッ素原子を含む官能基を有するモノマーと重合性基を有するモノマーとを共重合する方法、ii)シロキサン基またはフッ素原子を含む官能基を有するモノマーと重合性基前駆体を有するモノマーとを共重合させ、次に塩基などの処理により二重結合を導入する方法、iii)シロキサン基またはフッ素原子を含む官能基を有するポリマーと重合性基を有するモノマーとを反応させ、重合性基を導入する方法が挙げられる。
好ましい合成方法は、合成適性の観点から、上記ii)または、iii)の方法が好ましく挙げられる。
【0054】
本発明のシロキサン基またはフッ素含有基を有し、かつ、ラジカル重合性基を有する高分子は、酸素とケイ素から構成されるシロキサン基、またはフッ素原子を有する官能基(フッ素含有基)を主鎖、または側鎖に含有し、さらに、ラジカル重合性基を含有していればよく、高分子骨格の種類は、特に制限されない。具体的には、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ノボラック樹脂、クレゾール樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂などが挙げられる。なかでも、本発明で有用なポリマーとしては、アクリル樹脂、スチレン樹脂が好ましい。
【0055】
シロキサン基またはフッ素含有基を有し、かつ、ラジカル重合性基を有する高分子の好適な実施形態の一つとして、以下の一般式(1)で表される繰り返し単位、および一般式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子(共重合体)が挙げられる。この高分子は、少なくとも一般式(1)で表される繰り返し単位、および一般式(2)で表される繰り返し単位を有していればよく、それ以外の繰り返し単位が含まれていてもよい。
【0056】
【化11】
(一般式(1)中、R1は、水素原子またはアルキル基を表す。L1は、2価の連結基または単なる結合手を表す。R2は、ラジカル重合性基を表す。
一般式(2)中、R3は、水素原子またはアルキル基を表す。L2は、2価の連結基または単なる結合手を表す。R4は、フッ素原子を有するアルキル基、フッ素原子を有するアリール基、または一般式(X)で表される基を表す。)
【0057】
【化12】
(一般式(X)中、RaおよびRbは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、または一般式(Y)で表される基を表す。Rc、Rd、Re、RfおよびRgは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、またはアリール基を表す。nは、0〜100の整数を表す。*は、L2との結合位置を示す。)
【0058】
【化13】
(一般式(Y)中、Rh〜Rlは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、またはアリール基を表す。mは、0〜100の整数を表す。**は、一般式(X)との結合位置を示す。)
【0059】
一般式(1)中、R1は、水素原子またはアルキル基を表す。アルキル基は分岐していてもよく、またヘテロ原子で置換されていてもよく、さらに不飽和結合を有していてもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などが挙げられる。
なかでも、R1としてより好ましくは、メチル基、エチル基である。
【0060】
一般式(1)中、L1は、2価の連結基または単なる結合手を表す。連結基としては、特に限定はされず、高分子の物質特性の観点、および合成上の観点より適宜最適な基が選択される。
具体的に、アルキレン基(炭素数1〜20が好ましく、炭素数1〜10がより好ましい。例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基などが挙げられる。)、−O−、−S−、アリーレン基(フェニレン基など)、−CO−、−NH−、−SO2−、−COO−、−CONH−、−C≡C−、−N=N−、−CONR−(Rはアルキル基を表す)、またはこれらを組み合わせた基(例えば、アルキレンオキシ基、アルキレンオキシカルボニル基、アルキレンカルボニルオキシ基などが挙げられる。)が挙げられる。
なかでも、−O−、アルキレン基、−CONH−、−COO−、アリーレン基、アルキレンオキシ基、アルキレンオキシカルボニル基、アルキレンカルボニルオキシ基、またはこれらを組み合わせた基が好ましく挙げられる。L1が単なる結合手の場合、一般式(1)のC(炭素原子)とR2とが直接結合することをさす。
【0061】
一般式(1)中、R2は、ラジカル重合性基を表す。R2は、ラジカル重合性を有していれば特に制限されないが、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基などが好ましく挙げられる。
【0062】
一般式(1)で表される繰り返し単位の具体例を示すが、本発明はこれに限定されない。
【0063】
【化14】
【0064】
一般式(2)中、R3は、水素原子またはアルキル基を表す。R3で表されるアルキル基は、一般式(1)のR1で表されるアルキル基と同義である。R3として、好ましくは水素原子、メチル基である。
【0065】
一般式(2)中、L2は2価の連結基または単なる結合手を表す。L2で表される連結基は、上述した一般式(1)中のL1で表される連結基と同義である。なかでも、好ましい連結基としては、−O−、アルキレン基、−CONH−、−COO−、アリーレン基、アルキレンオキシ基、アルキレンオキシカルボニル基、アルキレンカルボニルオキシ基またはこれらを組み合わせた基が挙げられる。L2が単なる結合手の場合、一般式(2)のR4とC(炭素原子)とが直接結合することをさす。
【0066】
一般式(2)中、R4は、フッ素原子を有するアルキル基、フッ素原子を有するアリール基、または一般式(X)で表される基を表す。
フッ素原子を有するアルキル基とは、少なくともひとつのフッ素原子を有する直鎖、分岐又は環状のアルキル基であり、さらに他の置換基(例えば、ヒドロキシル基、ハロゲン基)を有していてもよい。また、−O−などの連結基を含んでいてもよい。アルキル基としては、炭素数2〜20が好ましく、炭素数3〜10がより好ましい。また、フッ素原子を2個以上有することが好ましい。なかでも、パーフルオロアルキル基(炭素数2〜20が好ましく、炭素数3〜10がより好ましい)が好ましい。
【0067】
フッ素原子を有するアルキル基の具体例としては、CF3CH2基、CF3CF2CH2基、CF3CF2(CH2)6基、CF3CF2CF2CH2基、CF3CHFCF2CH2基、F(CF2)4CH2CH2基、F(CF2)4CH2CH2CH2基、F(CF2)4(CH2)6基、F(CF2)3OCF(CF3)CH2基、F(CF2)6CH2CH2基、F(CF2)6(CH2)3基、F(CF2)6(CH2)6基、F(CF2)8CH2CH2基、F(CF2)8(CH2)3基、F(CF2)8(CH2)6基、F(CF2)10CH2CH2基、C3F7OCF(CF3)CF2OCF(CF3)CH2基、(CF3)2CF(CH2)6基、(CF3)2CF(CF2)2CH2CH2基、(CF3)2CF(CF2)4CH2CH2基、(CF3)2CF(CF2)6CH2CH2基、CHF2CF2CH2基、H(CF2)4CH2基、H(CF2)6CH2基、H(CF2)8CH2基、(CF3)2CH基、CF3CHFCF2CH2基、CF3CF2(CH2)6OCH2CH2基、F(CF2)3OCF(CF3)CH2OCH2CH2基、H(CF2)4CH2OCH2CH2基、H(CF2)6CH2OCH2CH2基、H(CF2)8CH2OCH2CH2基、CF3CHFCF2CH2OCH2CH2基、C7F15CH2OCH2CH2基などが挙げられる。
【0068】
フッ素原子を有するアリール基としては、フェニル基、ナフチル基などのアリール基に少なくとも1つのフッ素原子が置換したものがあげられ、さらに他の置換基を有していてもよい。アリール基としては、炭素数6〜14のアリール基が好ましく、具体的には、フェニル基、トリル基、ジメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、ナフチル基、アントリル基、9,10−ジメトキシアントリル基などを好ましく挙げることができる。また、フッ素原子を2個以上有することが好ましい。
【0069】
一般式(X)中、RaおよびRbは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、または一般式(Y)で表される基を表す。アルキル基としては、好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜3である。ここで、アルキル基は分岐していてもよく、またヘテロ原子で置換されていてもよく、さらに不飽和結合を有していてもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などが挙げられ、好ましくは、メチル基である。
アリール基としては、炭素数6〜14が好ましく、炭素数6〜10がより好ましい。アリール基の具体例として、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基などが挙げら、なかでもフェニル基が好ましい。
【0070】
一般式(X)中、Rc、Rd、Re、RfおよびRgは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、またはアリール基を表す。Rc、Rd、Re、RfおよびRgで表されるアルキル基およびアリール基は、それぞれ上述したRaおよびRbで表されるアルキル基およびアリール基と同義である。
【0071】
一般式(X)中、nは、0〜100の整数を表す。なかでも、3〜30が好ましく、より好ましくは5〜20である。なお、nが2以上の場合、RcおよびRdで表される基は、同一であっても、異なっていてもよい。
【0072】
一般式(Y)中、Rh〜Rlは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、またはアリール基を表す。Rh〜Rlで表されるアルキル基は、上述した一般式(X)中のRaおよびRbで表されるアルキル基と同義である。また、Rh〜Rlで表されるアリール基は、上述した一般式(X)中のRaおよびRbで表されるアリール基と同義である。
【0073】
一般式(Y)中、mは0〜100の整数を表す。なかでも、0〜30が好ましく、より好ましくは5〜20である。mが2以上の場合、RhおよびRiで表される基は、同一であっても、異なっていてもよい。
【0074】
一般式(2)で表される繰り返し単位の具体例としては、上述の特公昭51−42961号公報、同54−6512号公報、同57−57096号公報、同58−53656号公報などに開示されているようなシリコーン化合物由来の繰り返し単位が挙げられる。商品名では、FM0711、FM0721、FM0725、PS583(以上、チッソ(株))、KNS−50002、KNS−5100、KNS−5200、KNS−5300、KP−600、X−62−7052、X−62−7100、X−62−7112、X−62−7140、X−62−7144、X−62−7153、X−62−7157、X−62−7158、X−62−7166、X−62−7168、X−62−7177、X−62−7180、X−62ー7181、X−62−7192、X−62−7200、X−62−7203、X−62−7205、X−62−7931、KM−875、X−62−7296A/B、X−62−7305A/B、X−62−7028A/B、X−62−5039A/B、X−62−5040A/B(以上、信越化学工業(株))、RC149、RC300、RC450、RC802、RC710、RC715、RC720、RC730(以上、ゴールドシュミット社)、EBECRYL350、EBECRYL1360(以上、ダイセルUCB(株))などが挙げられる。
また、以下のようなフッ素含有モノマー由来の繰り返し単位も挙げられる。CF3(CF2)7CH2CH2OCOCH=CH2、CF3CH2OCOCH=CH2、CF3(CF2)4CH2CH2OCOC(CH3)=CH2、C7F15CON(C2H5)CH2OCOC(CH3)=CH2、CF3(CF2)7SO2N(CH3)CH2CH2OCOCH=CH2、C2F5SO2N(C3H7)CH2CH2OCOC(CH3)=CH2、(CF3)2CF(CF2)6(CH2)3OCOCH=CH2、(CF3)2CF(CF2)10(CH2)3OCOC(CH3)=CH2、CF3(CF2)4CH(CH3)OCOC(CH3)=CH2、CF3CH2OCH2CH2OCOCH=CH2、C2F5(CH2CH2O)2CH2OCOCH=CH2、(CF3)2CFO(CH2)5OCOCH=CH2、CF3(CF2)4OCH2CH2OCOC(CH3)=CH2、C2F5CON(C2H5)CH2OCOCH=CH2、CF3(CF2)2CON(CH3)CH(CH3)CH2OCOCH=CH2、H(CF2)6C(C2H5)OCOC(CH3)=CH2、H(CF3)8CH2OCOCH=CH2、H(CF2)4CH2OCOCH=CH2、H(CF2)6CH2OCOC(CH3)=CH2、CF3(CF2)7SO2N(CH3)CH2CH2OCOC(CH3)=CH2、CF3(CF2)7SO2N(CH3)(CH2)10OCOCH=CH2、C2F5SO2N(C2H5)CH2CH2OCOC(CH3)=CH2、CF3(CF2)7SO2N(CH3)(CH2)4OCOCH=CH2、C2F5SO2N(C2H5)C(C2H5)HCH2OCOCH=CH2などが挙げられる。なお、本発明はこれらに限定されない。
【0075】
一般式(1)で表される繰り返し単位および一般式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子(共重合体)は、一般式(1)で表される繰り返し単位および一般式(2)で表される繰り返し単位のみからなるコポリマーであってもよく、他の種類の繰り返し単位が含まれていてもよい。連結の様式は特に限定されず、一般式(1)で表される繰り返し単位および一般式(2)で表される繰り返し単位が1ずつ交互に連結しても、複数ずつ交互に連結しても、ランダムに連結してもよい。また、この高分子は、複数の種類の異なる一般式(1)で表される繰り返し単位、および一般式(2)で表される繰り返し単位を有していてもよい。
【0076】
上記他の種類の繰り返し単位としては、特に限定されず、オレフィン類(エチレン、プロピレン、イソプレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等)、アクリル酸エステル類(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等)、メタクリル酸エステル類(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等)、スチレン誘導体(スチレン、p−ヒドロキシメチルスチレン、p−メトキシスチレン等)、ビニルエーテル類(メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等)、ビニルエステル類(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、桂皮酸ビニル等)、不飽和カルボン酸類(アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸等)、アクリルアミド類(N,N−ジメチルアクリルアミド、N−tert−ブチルアクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド等)、メタクリルアミド類(N,N−ジメチルメタクリルアミド)、アクリロニトリル由来の繰り返し単位が挙げられる。
【0077】
一般式(1)で表される繰り返し単位、および一般式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子中における、一般式(1)で表される繰り返し単位の含有量は、特に限定されないが、高分子を構成する全繰り返し単位(100モル%)に対して、0.5〜80モル%が好ましく、1.0〜60モル%がより好ましい。上記範囲内であれば、より強固に基板と結合することが可能である。
また、一般式(2)で表される繰り返し単位の含有量は、特に限定されないが、高分子を構成する全繰り返し単位(100モル%)に対して、5〜99モル%が好ましく、10〜95モル%がより好ましい。上記範囲内であれば、より配列の整った相分離構造が得られる。
【0078】
一般式(1)で表される繰り返し単位、および一般式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。なお、図中の一般式(1)で表される繰り返し単位、および一般式(2)で表される繰り返し単位に記載されている数値は、モル%を意味する。また、シロキサン結合部位中の数値11は、繰り返し単位数を表す。
【0079】
【化15】
【0080】
<その他の高分子>
本発明の高分子膜の作製に使用される、上述のラジカル重合性基を有する高分子以外の他の高分子としては、特に制限されず、汎用性の高分子を使用することができる。例えば、ポリスチレン、ポリ(2−ビニルピリジン)、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルアクリレートなどのアクリル樹脂、ポリスチレン、ポリ(4−ブロモ)スチレンなどのスチレン樹脂、ポリカーボネートなどのカーボネート樹脂、ポリアクリルアミド、ポリ(N-メチル)アクリルアミド、ポリビニルピロリドンなどのアミド樹脂、ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリイソブテン、ポリブタジエンなどのオレフィン樹脂、ポリビニルピリジンなどのヘテロ環を含むビニル樹脂などを挙げることができる。なかでも、好ましくは、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジンなどが挙げられる。
【0081】
上記他の高分子の分子量は、使用されるラジカル重合性基を有する高分子の種類、分子量などにより適宜選択されるが、取り扱いやすさの点で、1000〜300万が好ましく、3000〜100万がより好ましい。
【0082】
本発明の高分子膜を得るために、2種以上の高分子が使用される。得られる高分子膜の相分離構造の制御が容易な点で、2種の高分子を使用することが好ましい。2種のラジカル重合性基を有する高分子を使用してもよいし、ラジカル重合性基を有する高分子と他の高分子とを併用してもよい。
【0083】
本発明で使用される高分子の好適な組み合わせとして、シロキサン基とラジカル重合性基とを有する高分子と、フッ素含有基とラジカル重合性基とを有する高分子の組み合わせが挙げられる。
【0084】
本発明で使用される全高分子中のラジカル重合性基を有する高分子の含有量は、所望の微細パターンの構造により適宜最適な量が選択される。
例えば、ラジカル重合性基を有する高分子とそれ以外の高分子(例えば、ポリスチレン)を使用する場合は、微細パターンの制御がより容易な点で、その質量混合比(ラジカル重合性基を有する高分子:それ以外の高分子)は、1:50〜50:1が好ましく、1:5〜5:1がより好ましい。
また、2種の高分子として、シロキサン基とラジカル重合性基とを有する高分子と、フッ素含有基とラジカル重合性基とを有する高分子とを使用する場合は、微細パターンの制御がより容易な点で、その質量混合比(シロキサン基とラジカル重合性基を有する高分子:フッ素含有基とラジカル重合性とを有する高分子)は、1:50〜50:1が好ましく、1:5〜5:1がより好ましい。
【0085】
<製造方法>
本発明に係る高分子膜および積層体を製造するための方法は、主に以下の3つの工程より構成される。
<工程1> ラジカル重合性基を有する高分子を少なくとも1種含む、2種以上の高分子を、露光によりラジカルを発生しうる基板表面上に接触させて、基板表面上に相分離構造を有する高分子膜を形成する膜形成工程
<工程2> 膜形成工程で形成された高分子膜を露光し、高分子膜を基板に固定化する固定化工程
<工程3> 固定化工程で得られた高分子膜を溶媒で洗浄する洗浄工程
以下、各工程について詳細に説明する。
【0086】
<膜形成工程>
膜形成工程は、露光によりラジカルを発生しうる基板表面上に、ラジカル重合性基を有する高分子を少なくとも1種含む、2種以上の高分子を接触させて、基板表面上に相分離構造を有する高分子膜を形成する工程である。
上述の高分子を基板表面上に接触させる方法は、特に制限されないが、例えば、使用される高分子を溶解した溶液または分散した分散液を、スピンコート法などによって基板に塗布する方法(塗布方法)または、その溶液または分散液に基板を浸漬する方法(浸漬方法)などが挙げられる。取り扱い性や製造効率の観点からは、塗布方法が好ましい。なお、塗布方法や浸漬方法の実験条件は、使用される高分子などにより適宜最適な条件が選択される。
【0087】
使用される溶媒は、使用される高分子などの種類によって適宜最適な溶媒が選択される。例えば、テトラヒドロフラン、トルエン、1−メトキシ−2−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、水などが挙げられる。なかでも、テトラヒドロフラン、トルエン、1−メトキシ−2−プロパノールが好ましい。
【0088】
溶液または分散液中の使用される全高分子の濃度としては、用いられる高分子によって異なるが、0.1〜30質量%が好ましく、0.5〜10質量%であることがより好ましい。上記範囲内であれば、得られる高分子膜の膜厚の制御がより容易となり、膜厚の均一性がより高まる。
【0089】
また、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて上記溶液に界面活性剤など添加剤を加えてもよい。例えば、界面活性剤としては、n−ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアニオン性界面活性剤や、n−ドデシルトリメチルアンモニウムクロライドなどのカチオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェノールエーテル(市販品として、例えば、エマルゲン910、花王(株)製など)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(市販品としては、例えば、商品名「ツイーン20」など)、ポリオキシエチレンラウリルエーテルなどの非イオン性界面活性剤などが挙げられる。
【0090】
上述の膜形成工程の後に、必要に応じて、得られる膜を乾燥する工程(乾燥工程)を設けてもよい。乾燥条件は、使用する高分子などにより適宜最適な条件が選択される。
【0091】
本発明の膜形成工程で得られる高分子膜は、2種以上(好ましくは2種)の高分子から構成される相分離構造を有している。相分離構造は、使用される高分子やその組成などにより種々の構造に制御することができ、例えば、海島構造、共連続構造、シリンダー構造、ラメラ構造などが挙げられる。
【0092】
本工程で得られる高分子膜の膜厚は、使用される用途などに応じて、適宜最適な膜厚が選択される。なかでも、相分離構造をより再現性よく形成できる点で、0.1〜500nmが好ましく、0.5〜100nmがより好ましい。
【0093】
<固定化工程>
固定化工程では、上述の膜形成工程で得られた高分子膜を所定の露光波長で露光し、基板表面に発生したラジカルを起点として、ラジカル重合性基を有する高分子を基板表面に結合(固定化)させる工程である。
【0094】
露光は、基板の重合開始能を生じさせることのできる露光を意味する。例えば、上述の重合開始層の重合開始部位(Y)において開裂を生じさせることのできる露光を意味する。
露光光源としては、特に限定されず、高圧水銀灯、低圧水銀灯、ハロゲンランプ、キセノンランプ、エキシマレーザー、色素レーザーなどが用いられる。
【0095】
露光条件は、使用する高分子の種類や使用する光源などによって適宜最適な条件が選択されるが、通常、露光時間は0.1〜30分である。また、露光エネルギーとしては、1mJ/cm2以上であることが好ましく、10mJ/cm2以上であることがより好ましい。
露光は、酸素の影響を低減させるため、窒素などの不活性雰囲気下や真空下で行われることが好ましい。
【0096】
なお、露光の際に、320nm以上の波長の光のみを照射することにより、膜厚が非常に薄い、基板と直接結合した高分子薄膜を得ることができる。
露光波長に320nm未満の波長の光が含まれていると、ラジカル重合性基を有する高分子が基板と反応するだけでなく、高分子鎖の切断や、ラジカル重合性基の光吸収によりラジカルが発生し、高分子同士の分子内架橋が進行する。一方、露光波長が320nm以上の場合は、ラジカル重合性基を有する高分子が、実質的に基板表面に発生したラジカルとのみ反応する。したがって、発生するラジカルとラジカル重合性基を有する高分子は基板界面で反応し、薄い高分子膜が得られる。
【0097】
320nm以上の露光波長の光を照射する場合は、320nm以上の波長の光のみを発する光源を用いる方法や、320nm以上の波長の光のみを透過させる、つまり、ラジカル重合性基が光吸収してしまう波長の光をカットするカットフィルターを用いて露光を行う方法が用いられる。具体的には、320nm未満の波長の光を実質的にカットするガラス(青色ガラス、松並ガラス社製)などのカットフィルターを用いて露光を行う方法が用いられる。
【0098】
<洗浄工程>
洗浄工程では、固定化工程後に、露光および固定された高分子膜を所定の溶媒で洗浄することにより、基板と結合していない未反応の高分子を取り除く工程である。
具体的には、得られた基板に溶媒浸漬や溶媒洗浄などの処理を施して、基板上に残存する未反応の高分子を除去する工程である。使用する溶媒は、膜形成工程で使用したラジカル重合性基を有する高分子の種類などにより適宜最適な溶媒が使用される。例えば、テトラヒドロフラン、トルエン、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、水、メタノール、アルカリ水などが挙げられる。なお、洗浄の際に、超音波などの手段を併用して用いてもよい。
【0099】
上述のように露光波長として320nm以上の光のみを照射した場合は、この洗浄工程の処理を施すことにより、高分子膜中の未反応の高分子が除去され、基板と直接結合した、膜厚が非常に薄い高分子膜を得ることができる。
また、320nm以上の露光波長で塗布膜を露光することにより、ラジカル重合性基を有する高分子を含む溶液の塗布膜の膜厚に関わらず、露光後に均一な膜厚の高分子薄膜が得られるという特徴がある。基板が平坦でない凹凸表面で、塗布時に塗布膜の場所によって膜厚の差が大きくあったとしても、本願に係る方法によれば、種々の基板上に均一な膜厚の高分子薄膜を作製できる。つまり、本願に係る高分子薄膜は、基板の表面形状に対して優れた追随性(凹凸追随性)を示す。そのため、各種レンズ(両凸レンズ、凹凸レンズ、平凸レンズ、平凹レンズ、両凹レンズ)などの凹凸曲面や、剣山状の微細突起を有する面などに対して、その表面形状を保持しつつ、種々の面上に均一な膜厚の超薄膜コートが可能となる。例えば、基板の表面平均粗さと高分子薄膜の表面平均粗さとの差は、好ましくはRaの値で10nm以下程度である。
【0100】
使用される2種以上(好ましくは2種)の高分子が、ラジカル重合性基を有する高分子の場合、得られる高分子膜は、膜形成工程で形成された相分離構造を有する。つまり、露光によりラジカルを発生しうる基板表面と2種以上のラジカル重合性基を有する高分子とが直接結合して、基板表面上に形成される、相分離構造を有する高分子膜が得られる。そのため、高分子膜の表面上には、相分離構造に由来した微細パターン形状が現れる。よって、膜形成工程で所定の相分離構造を作製することにより、所望の微細パターンを有する高分子膜を得ることができる。
【0101】
また、使用される2種以上(好ましくは2種)の高分子の一方がラジカル重合性基を有しない高分子(例えば、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレートなど)の場合には、この洗浄工程の処理を施すことにより、膜形成工程で形成された相分離構造の一方の分離相を構成する、基板と反応していない高分子相が除去され、基板表面と直接結合したパターン状の高分子膜を得ることができる。より具体的には、海島構造の海状部分が除去されて得られる、島状に離散して形成されるパターン状の高分子膜や、海島構造の島状部分が除去されて得られる開口部を有する高分子膜(島状に離散した貫通孔を有する高分子膜)などが挙げられる。
【0102】
<高分子膜および積層体>
次に、上述の製造方法により得られる本発明の高分子膜および積層体について、図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0103】
図1は、本発明の積層体の一実施形態の模式的断面図である。
同図に示す積層体10は、露光によりラジカルを発生しうる基板12と基板12に直接結合した高分子膜14とから構成される。同図において、高分子膜14では、ポリマーAからなる相16とポリマーBからなる相18とからミクロ相分離構造(海島構造)を形成する。また、同図において、露光によりラジカルを発生しうる基板12、高分子膜14の厚みは該図によっては限定されない。なお、積層体10は、2種のラジカル重合性基を有する高分子を使用した場合に得られる積層体である。
【0104】
高分子膜14の膜厚は、使用される高分子や露光条件などにより、適宜制御することができる。なかでも、機能性材料設計の観点から、0.1〜500nmが好ましく、0.5〜100nmがより好ましい。
なお、膜厚の測定方法は、エリプソメトリーなどの公知の方法により、膜表面上の任意の点を10ヵ所以上測定して数平均して求めた値である。
また、上述のように320nm以上の光のみを照射した場合は、得られる基板と直接結合した高分子膜の膜厚は、非常に薄くなる。具体的には、0.1〜100nmが好ましく、0.5〜20nmがより好ましい。
【0105】
高分子膜14では、相分離構造が形成される。相分離構造は、使用される高分子やその組成などにより種々の構造に制御することができ、例えば、海島構造、共連続構造、シリンダー構造、ラメラ構造などが挙げられる。
なかでも、相分離構造が連続相と連続相に分散されて存在する分散相とを有してなる構造(例えば、海島構造)の場合、分散相の平均直径は使用される高分子やその組成により、適宜制御するが可能である。なかでも、分散相の平均直径は、機能性材料設計の観点から、1nm〜100μmが好ましく、10nm〜10μmがより好ましい。なお、平均直径は、原子間力顕微鏡(AFM)などで膜表面を観察し、10個以上の分散相の大きさを測定し、それらを平均した値である。分散相が楕円の場合は、長径を直径とする。
【0106】
図2は、本発明の積層体の他の一実施形態の模式的断面図である。
同図に示す積層体20は、基板22、重合開始層24、高分子膜14をこの順で積層した積層構造を有する。同図において、露光によりラジカルを発生しうる基板12は、基板22と重合開始層24との積層構造により構成されている。また、高分子膜14は、重合開始層24と直接結合している。なお、同図における高分子膜14は、図1で示される同符号の高分子膜14と同義である。
【0107】
図3は、本発明の積層体の他の一実施形態の模式的断面図である。
同図に示す積層体30は、基板22、重合開始層24、高分子膜32をこの順で積層した積層構造を有する。同図において、高分子膜32は、開口部34と、ポリマーBからなる相36とから構成されている。高分子膜32は、図2に示す高分子膜14より、ポリマーAからなる相16を除去した構造に該当する。
上述のように本発明の製造方法において、ラジカル重合性基を有しない高分子を使用した場合は、開口部(貫通孔)を有する、基板と直接結合した、パターン状の高分子膜が得られる。
【0108】
<用途>
本発明に係る積層体中の高分子膜は、基板と結合しているため摩擦などによる物理的作用や溶媒などの化学的処理に対する耐性に優れるとともに、ナノメートルレベルでの構造制御が可能である。また、大面積かつ短時間での製造が可能であり、生産性・工業性という観点からも好ましい。さらには、得られる高分子膜は、所定の微細パターン構造を有する。そのため、この積層体は、多様な用途に応用することが可能である。例えば、電子情報記録媒体、吸着剤、ナノ反応場膜、分離膜、ディスプレイなどのフィルム材料、ITOなどの導電性基板の電位調節材料、もしくは電子やホール注入材料、表面親水性材料、表面撥水材料、表面滑水材料などが挙げられる。
特に、本発明に係る積層体中の高分子膜は、上述のように基板の表面形状に対する追随性に優れる。そのため、基板の曲面や凹凸表面などの初期表面形状を保持しつつ、基板上に均一な膜厚の高分子膜が形成される。通常、レンズ表面を機能化するために塗布処理などを行うと、レンズの中心部と周辺部との間で塗布膜の膜厚差が生じ、歪みなどを引き起こして、レンズ自体の性能を落としてしまう。一方、本発明の高分子膜は、種々の表面形状に対して優れた追随性を示すため、レンズ曲面の形状を保持したまま膜が形成される。つまり、曲面上に均一な膜厚の高分子膜を作製することができる。そのため、レンズ自体の性能を落とすことなく種々の表面機能化が可能であり、例えば、防曇レンズや超撥水ガラスなどの作製に好適に使用することができる。
【実施例】
【0109】
実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例によりなんら制限されるものではない。
【0110】
後述する重合開始層および高分子薄膜の測定は、Woolam社製エリプソメトリーM−2000Uを用いて測定を行った。AFM測定は、セイコーインスツルメント社製、ナノピクス1000を用いて行った。
【0111】
(合成例1:フッ素含有基およびラジカル重合性基を有する高分子の合成)
内容積500mLの三口フラスコに、下記成分を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら、75℃で12時間反応させて重合体1の溶液を得た。
・メチルエチルケトン(MEK)〔溶剤〕 166g
・メタクリル酸2−(2−ブロモイソブチリルオキシ)エチル
(BBEM、分子量279、マナック(株)製) 27.9g(0.1mol)
・2−(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート
(M−1620、分子量432、ダイキン社製) 43.2g(0.1mol)
・ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート) 0.345g
(V-601和光純薬(株)製)
【0112】
さらに、以上のようにして得られた重合体1を含む系内へMEK100g、4−メトキシフェノール0.23g、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)50.2gを添加し、室温で12時間撹拌した。その後、得られた溶液を、トリフルオロメタンスルホン酸で中和したのち、水にて再沈精製した。さらに、真空乾燥し、以下の式で表されるフッ素含有基およびラジカル重合性基を有する高分子(61g)を得た(以後、フッ素含有基を有する高分子とも称する)。得られた高分子の重量平均分子量(Mw)は、27000であった。なお、高分子中、フッ素含有基を有する繰り返し単位とラジカル重合性基を有する繰り返し単位とのそれぞれの構成単位は、50モル%ずつであった。
【0113】
【化16】
【0114】
(合成例2:シロキサン基およびラジカル重合性基を有する高分子の合成)
内容積500Lのオートクレーブに、下記成分を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら、75℃で12時間反応させて重合体2の溶液を得た。
・メチルエチルケトン(MEK)〔溶剤〕 115g
・メタクリル酸2−(2−ブロモイソブチリルオキシ)エチル
(BBEM、マナック(株)製、分子量279)〔重合性化合物1〕 19.5g
・片末端メタクリレート変性ジメチルシリコーン
(チッソ(株)製、分子量1000、FM−0711)〔シロキサン化合物〕30g
・ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)
(V-601和光純薬(株)製) 0.345g
【0115】
さらに、以上のようにして得られた重合体2を含む系内へ、MEK100g、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(DBU)35gを添加し、室温で12時間撹拌した。その後、得られた溶液を、トリフルオロメタンスルホン酸で中和したのち、水にて再沈精製した。さらに、真空乾燥し、以下の式で表されるシロキサン基およびラジカル重合性基を有する高分子(41g)を得た(以後、シロキサン基を有する高分子とも称する)。得られた高分子の重量平均分子量(Mw)は、35000であった。なお、高分子中、シロキサン基を有する構成単位は30モル%で、ラジカル重合性基を有する構成単位は70モル%であった。繰り返し単位数nは、11であった。
【0116】
【化17】
【0117】
(合成例3:ラジカル重合性基を有する高分子の合成)
500ml三口フラスコに、ジメチルアセトアミド200g、ポリアクリル酸(和光純薬製、分子量:25000)30g、テトラエチルアンモニウム、ベンジルクロライド2.4g、ジターシャリーペンチルハイドロキノン25mg、サイクロマーA(ダイセル化学(株)製)25gを入れ、窒素気流下、100℃で5時間反応させた。その後、アセトニトリルで再沈を行い、固形物を濾取、水で洗浄、乾燥し、重合性基含有ポリマー(以後、重合性基含有ポリアクリル酸とも称する)を23g(Mw:136000)得た。得られたポリマーの1H NMR測定より、以下の式中、ラジカル重合性基を有する繰り返し単位は10モル%、カルボン酸基を有する繰り返し単位は90モル%であった。
【0118】
【化18】
【0119】
(合成例4:ラジカル重合性基を有する高分子の合成)
窒素置換し、100ml/minにて窒素flow(以下反応終了まで流す)した300ml三口フラスコにNMP(N−メチルピロリドン)30gを量り取り、内温65℃、スリーワンモーターの回転速度250rpm/minにて安定させた。スチレン18.7g(0.18mol)、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル(以下、HEMA)15.6g(0.12mol)、NMP30g、V−65(0.745g)(1mol% vs monomer)を200mlメスシリンダーに量り取り30分撹拌した。プランジャーポンプを用いて、メスシリンダーにて撹拌した溶液を2時間かけて三口フラスコに滴下し、反応を開始した。滴下終了後、後反応を4時間行い、終了後室温まで放冷した。
次に、反応溶液をスリーワンモーターにて250rpm/min、室温で撹拌した。三口フラスコにTEMPO(0.2g)のNMP1g溶液、tert-ブチルヒドロキノン(0.1g)のNMP1g溶液、および、ネオスタンU−600(日東化成社製)0.19gのNMP1g溶液を加えた。反応溶液にカレンズAOI(昭和電工社製)17.15gのNMP30g溶液を、滴下ロートを用いて5minかけて滴下した。フラスコの内温を55℃まで昇温し、6時間反応を行った。反応終了後、反応溶液をメタノールに投入して再沈精製を行い、所望の重合性基含有ポリマー(25g)(Mw:15500)を得た(以後、重合性基含有ポリスチレンとも称する)。得られたポリマーの1H NMR測定より、以下式中、aは60モル%、bは40モル%であった。
【0120】
【化19】
【0121】
(合成例5:光開裂化合物P1の合成)
4−シアノ−4’−ヒドロキシビフェニル29.33g(0.15mol)を200ml三口フラスコに量り取り、DMAc100mlを加え撹拌し(300rpm)、溶解させた。以下、同回転数で撹拌を続けながら反応を進めた。発熱しないように少量ずつK2CO322.81g(0.165mol)を加え、反応液を80℃に加温した。11−ブロモ−1−ウンデセン38.78g(0.166mol)を30分かけて滴下し、滴下後1.5時間攪拌し、さらに100℃にて2.5時間撹拌した。反応終了後、氷水へと反応溶液を流し入れ固体を析出させ、吸引ろ過後、大量の蒸留水にて洗浄した。得られた固体を、アセトニトリルにて再結晶を行い、やや黄色のかかった白色固体であるシアノエーテル体(40.21g)を得た。
得られたシアノエーテル体10.42g(0.03mol)を200ml三口フラスコに量り取り、三口フラスコを氷浴に浸し(塩化ナトリウム添加)冷却後、トリクロロアセトニトリル25.99g(0.18mol)を加え撹拌し(300rpm)、溶解させた。以下、同回転数で撹拌を続けながら反応を進めた。反応溶液をHClガスで1時間バブリングした。バブリング終了後、5時間撹拌し、さらに氷浴で24時間撹拌を続けた。氷浴を外し、トリクロロアセトニトリル6.5gを追加後、室温にて24時間反応を続けた。反応終了後、酢酸エチルで希釈し、蒸留水で2回、飽和食塩水で2回洗浄し、酢酸エチル層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。酢酸エチルを減圧留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを用いて単離後、さらにn−hexaneにて再結晶を行い、やや黄色のかかった白色固体のトリアジン化合物(3.37g)を得た。
得られた二重結合を有するトリアジン化合物1.42gとTHF8mlとを50mlナスフラスコに量り取り、氷水でナスフラスコを冷却し、窒素気流下、トリクロロシラン0.9gを滴下した。さらに、塩化白金酸60mgをイソプロピルアルコール0.6gに溶解した液を滴下した。反応液を氷冷下で6時間攪拌した後、室温に戻し、一晩放置した。反応液をエバポレーターにて濃縮し、さらに真空ポンプにて揮発成分を取り除き、所望の光開裂化合物P1(2.3g)を得た。
【0122】
【化20】
【0123】
<実施例1>
UVオゾンクリーナー処理したシリコン基板を、光開裂化合物P1の0.1wt%トルエン溶液に5時間浸漬した。浸漬後、基板表面をトルエンで洗浄した。シリコン基板表面上に作成された重合開始層の膜厚を、エリプソメトリー(溝尻光学)(測定範囲5mm2)を用いて測定したところ、3.0nm(12点平均値、標準偏差0.91Å)であった。
次に、上記で合成したフッ素含基を有する高分子とシロキサン基を有する高分子とを含むメチルエチルケトン(MEK)溶液(全高分子濃度:1wt%)を、窒素雰囲気下、重合開始層を備えるシリコン基板上にスピンコート(回転数1500rpm)により塗布した。得られた塗布膜の膜厚は、30nmであった。なお、フッ素含有基を有する高分子とシロキサン基を有する高分子との混合比率(重量比)は、1:2であった。
次に、高圧水銀灯(UVX−02516S1LP01、ウシオ電機社製、主たる発光波長:254nm(光量22mW/cm2)、365nm(光量35mW/cm2))から照射される光を、320nm以上の光のみを透過するガラス板(松並ガラス社製、青板ガラス)を通して、上述のシリコン基板上の塗布膜に60秒間露光した。なお、使用した青板ガラスは、300nmでの吸光度(Abs.)が1.4であり、320nmでの吸光度が0.3であり、360nmでの吸光度が0であり、主に320nm以上の光のみが透過する。
露光後、得られたシリコン基板をメチルエチルケトン溶液に10分間浸漬し、超音波洗浄を3分間行い、シリコン基板と、基板に直接結合した高分子膜とを備える積層体を得た。
洗浄後、シリコン基板上に得られた高分子膜の膜厚を測定したところ、4.2nmであった。また、得られた高分子膜の表面をAFM測定したところ、相分離構造が確認された(図4)。得られた高分子膜の表面粗さRaは、1.22nmであった。なお、同図中、黄色部分がフッ素含有基を有する高分子であった。
【0124】
<実施例2>
フッ素含有基を有する高分子とシロキサン基を有する高分子との混合比率(重量比)を1:1にした以外は、実施例1と同様の方法により積層体を作製した。
シリコン基板上に得られた高分子膜の膜厚を測定したところ、4.5nmであった。また、得られた高分子膜の表面をAFM測定したところ、相分離構造が確認された(図5)。得られた高分子膜の表面粗さRaは、1.02nmであった。なお、同図中、黄色部分がフッ素含有基を有する高分子であった。
【0125】
<実施例3>
フッ素含有基を有する高分子とシロキサン基を有する高分子との混合比率(重量比)を2:1にした以外は、実施例1と同様の方法により積層体を作製した。
シリコン基板上に得られた高分子膜の膜厚を測定したところ、3.9nmであった。また、得られた高分子膜の表面をAFM測定したところ、相分離構造が確認された(図6)。得られた高分子膜の表面粗さRaは、1.31nmであった。なお、同図中、黄色部分がフッ素含有基を有する高分子であった。
【0126】
<実施例4>
320nm以上の光のみを透過するガラス板を使用せずに露光を行った以外は、実施例1と同様の方法により積層体を作製した。
シリコン基板上に得られた高分子膜の膜厚を測定したところ、26.5nmであった。また、得られた高分子膜の表面をAFM測定したところ、相分離構造が確認された(図7)。得られた高分子膜の表面粗さRaは、4.87nmであった。なお、同図中、黄色部分がフッ素含有基を有する高分子であった。
【0127】
実施例1から4に示すように、AFM測定より得られた高分子膜は、基板と直接結合し、所望の相分離構造を有していた。
なお、実施例1から4のAFM写真において、フッ素含有基を有する高分子と、シロキサン基を有する高分子との面積比は、それぞれ仕込み比と一致していた。
【0128】
<実施例5>
UVオゾンクリーナー処理したシリコン基板を、光開裂化合物P1の0.1wt%トルエン溶液に5時間浸漬した。浸漬後、基板表面をトルエンで洗浄した。シリコン基板表面上に作成された重合開始層の膜厚を、エリプソメトリー(溝尻光学)(測定範囲5mm2)を用いて測定したところ、3.0nm(12点平均値、標準偏差0.91Å)であった。
次に、上記で合成したフッ素含有基を有する高分子とポリスチレン(アルドリッチ社製、重量平均分子量210000)とを含むメチルエチルケトン(MEK)溶液(全高分子濃度:1wt%)を、窒素雰囲気下、重合開始層を備えるシリコン基板上にスピンコート(回転数1500rpm)により塗布した。得られた塗布膜の膜厚は、35nmであった。なお、フッ素含有基を有する高分子とポリスチレンとの混合比率(重量比)は、2:1であった。露光前の塗布膜のAFM測定を実施したところ、海島状の相分離構造が確認された(図8(a)、図8(b)、図8(c))。図8(a)および(b)のAFM測定図より、ポリスチレン部分(海状部分)の高さが、フッ素含有基を有する高分子(島状部分)より30nmほど高いことが確認された。なお、図8(c)では、得られた塗布膜の模式的断面図を示す。
次に、高圧水銀灯(UVX−02516S1LP01、ウシオ電機社製、主たる発光波長:254nm(光量22mW/cm2)、365nm(光量35mW/cm2))から照射される光を、上述のシリコン基板上の塗布膜に60秒間露光した。露光後、得られたシリコン基板をメチルエチルケトン溶液に20分間浸漬し、超音波洗浄を1分間行い、シリコン基板と基板に直接結合した高分子膜とを備える積層体を得た。
露光、および洗浄後に、得られた高分子膜の表面をAFM測定したところ、塗布膜と同様の相分離構造が確認された(図9(a)、図9(b)、図9(c))。洗浄工程により、基板と結合していない海状部分(ポリスチレン)が除去され、基板と結合したフッ素含有基を有する高分子より構成される島状構造の高分子膜が確認された。得られた高分子膜の膜厚は11.0nmであり、表面粗さRaは1.4nmであった。図9(a)および図9(b)中、黄色部分がフッ素含有基を有する高分子であった。図9(c)では、得られた塗布膜の模式的断面図を示す。
【0129】
<実施例6>
露光の際に、上述した320nm以上の光のみを透過するガラス板(松並ガラス社製、青板ガラス)を通して露光を行った以外は、実施例5と同様の方法により積層体を作製した。
露光前の塗布膜のAFM測定を実施したところ、実施例5と同様の海島状の相分離構造が確認された。
また、露光および洗浄後に、得られた高分子膜の表面をAFM測定したところ、塗布膜と同様の相分離構造が確認された(図10(a)、図10(b)、図10(c))。洗浄工程により、基板と結合していない海状部分(ポリスチレン)が除去され、基板と結合したフッ素含有基を有する高分子より構成される島状構造の高分子膜が確認された。得られた高分子膜の膜厚は2.0nmであり、表面粗さRaは0.6nmであった。図10(a)および図10(b)中、黄色部分がフッ素含有基を有する高分子であった。図10(c)では、得られた塗布膜の模式的断面図を示す。
【0130】
実施例5では、320nm未満の低露光波長の光も照射されたため、基板とフッ素含有基を有する高分子との間のみならず、塗膜中のフッ素含有基を有する高分子間で重合が進行したため、実施例6と比較して厚い膜が得られた。
一方、実施例6では、320nm以上の露光波長の光が照射されたため、主に、基板とフッ素含有基を有する高分子との間でのみ反応が進行し、洗浄工程により未反応の余分な塗膜部分が取り除かれ非常に薄い膜が得られた。
【0131】
<実施例7>
実施例5で使用したフッ素含有基を有する高分子を上記で合成したシロキサン基を有する高分子に、実施例5で使用したポリスチレンをポリスチレン(アルドリッチ社製、重量平均分子量45000)に変更した以外は、実施例5と同様の方法により積層体を作製した。なお、照射条件としては、実施例5と同様に、254nm、365nmを含むUV光をガラス板を介さずに直接60秒間露光した。その後、MEK溶媒で20分間洗浄して余分な高分子を除去した。
露光前の塗布膜のAFM測定を実施したところ、海島状の相分離構造が確認された(図11(a)、図11(b))。図11(a)のAFM測定図より、ポリスチレン部分(島状部分)の高さが、シロキサン基を有する高分子の部分(海状部分)より39nmほど高いことが確認された。なお、図11(b)は、得られた塗布膜の模式的断面図を示す。
また、露光および洗浄後に、得られた高分子膜の表面をAFM測定したところ、同様の相分離構造が確認された(図12(a)、図12(b))。洗浄工程により、基板と結合していない島状部分(ポリスチレン)が除去され、基板と結合したシロキサンを有する高分子より構成される海状構造の高分子膜が確認された。得られた高分子膜の膜厚は20nmであり、表面粗さRaは3.9nmであった。なお、同図中、黄色部分がシロキサン基を有する高分子であった。図12(b)では、得られた塗布膜の模式的断面図を示す。
【0132】
<実施例8>
露光の際に、上述した320nm以上の光のみを透過するガラス板(松並ガラス社製、青板ガラス)を使用して露光を行った以外は、実施例7と同様の方法により積層体を作製した。
露光前の塗布膜のAFM測定を実施したところ、実施例7と同様の海島状の相分離構造が確認された。
また、露光および洗浄後に、得られた高分子膜の表面をAFM測定したところ、同様の相分離構造が確認された(図13(a)、図13(b))。洗浄工程により、基板と結合していない島状部分(ポリスチレン)が除去され、基板と結合したシロキサンを有する高分子より構成される海状構造の高分子膜が確認された。得られた高分子膜の膜厚は2.0nmであり、表面粗さRaは0.1nmであった。なお、図中、黄色部分がシロキサン基を有する高分子であった。図13(b)では、得られた塗布膜の模式的断面図を示す。
【0133】
実施例7では、320nm未満の低露光波長の光も照射されたため、基板とシロキサン基を有する高分子との間のみならず、塗膜中の高分子間で重合が進行したため、実施例8と比較して厚い膜が得られた。
一方、実施例8では、320nm以上の露光波長の光が照射されたため、主に、基板とシロキサン基を有する高分子との間でのみ反応が進行し、洗浄工程により未反応の余分な塗膜部分が取り除かれ、非常に薄い膜が得られた。
【0134】
<実施例9>
実施例1で作製した重合開始層を備えるシリコン基板上に、合成したフッ素含基を有する高分子と、合成した重合性基含有ポリアクリル酸とを含むメチルエチルケトン(MEK)溶液(全高分子濃度:1wt%)をスピンコート(回転数1500rpm)により塗布した。得られた塗布膜の膜厚は、45nmであった。なお、フッ素含有基を有する高分子と重合性ポリアクリル酸との混合比率(重量比)は、1:1であった。
露光前の塗布膜のAFM測定を実施したところ、1μm程度の島状部分と残りの海状部分からなる海島状の相分離構造が確認された(Ra=2.9nm)。
次に、高圧水銀灯(UVX−02516S1LP01、ウシオ電機社製、主たる発光波長:254nm(光量22mW/cm2)、365nm(光量35mW/cm2))から照射される光を、上述した320nm以上の光のみを透過するガラス板(松並ガラス社製、青板ガラス)を通して、シリコン基板上の塗布膜に60秒間露光した。
露光後、得られたシリコン基板をメチルエチルケトン溶液に20分間浸漬し、次にメタノールで20分間浸漬し、シリコン基板と、基板に直接結合した高分子膜とを備える積層体を得た。
洗浄後、シリコン基板上に得られた高分子膜の膜厚を測定したところ、2.0nmであった。得られた高分子膜の表面粗さRaは、0.08nmであった。また、得られた高分子膜の表面をAFM測定したところ、塗布膜と同様に、1μm程度の島状部分と残りの海状部分からなる海島状の相分離構造が確認された。
【0135】
<実施例10>
実施例1で使用したフッ素含基を有する高分子をポリ(2−ビニルピリジン)(アルドリッチ社製、重量平均分子量41500)に、シロキサン基を有する高分子を重合性基含有ポリスチレンに変更し、これらの高分子を含む塗布溶液をメチルエチルケトンからトルエンに変更した以外は、実施例1と同様の方法により、積層体を作製した。
露光および洗浄後に、得られた高分子膜の表面をAFM測定したところ、海島状の相分離構造が確認された(図14)。洗浄工程により、基板と結合していない島状部分のポリ(2−ビニルピリジン)が除去され、基板と結合した重合性基含有ポリスチレンより構成される海状構造の高分子膜が確認された。得られた高分子膜の膜厚は、2.0nmであり、表面粗さRaは、0.6nmであった。図14中、黄色部分が重合性基含有ポリスチレンであった。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】図1は、本発明に係る積層体の一実施形態の模式的断面図である。
【図2】図2は、本発明に係る積層体の他の実施形態の模式的断面図である。
【図3】図3は、本発明に係る積層体の他の実施形態の模式的断面図である。
【図4】図4は、実施例1で得られた積層体の上面からの原子間力顕微鏡(AFM)像である。
【図5】図5は、実施例2で得られた積層体の上面からのAFM像である。
【図6】図6は、実施例3で得られた積層体の上面からのAFM像である。
【図7】図7は、実施例4で得られた積層体の上面からのAFMである。
【図8】図8(a)および(b)は、実施例5で得られた塗布膜を有する積層体の上面からのAFM像であり、(a)は平面図、(b)は三次元図である。図8(c)は、実施例5で得られた塗布膜を有する積層体の模式的断面図である。
【図9】図9(a)および(b)は、実施例5で得られた高分子膜を有する積層体の上面からのAFM像であり、(a)は平面図、(b)は三次元図である。図9(c)は、実施例5で得られた高分子膜を有する積層体の模式的断面図である。
【図10】図10(a)および(b)は、実施例6で得られた高分子膜を有する積層体の上面からのAFM像であり、(a)は平面図、(b)は三次元図である。図10(c)は、実施例6で得られた高分子膜を有する積層体の模式的断面図である。
【図11】図11(a)は、実施例7で得られた塗布膜を有する積層体の上面からのAFM像である。図11(b)は、実施例7で得られた塗布膜を有する積層体の模式的断面図である。
【図12】図12(a)は、実施例7で得られた高分子膜を有する積層体の上面からのAFM像である。図12(b)は、実施例7で得られた高分子膜を有する積層体の模式的断面図である。
【図13】図13(a)は、実施例8で得られた高分子膜を有する積層体の上面からのAFM像である。図13(b)は、実施例8で得られた高分子膜を有する積層体の模式的断面図である。
【図14】図14は、実施例10で得られた高分子膜を有する積層体の上面からのAFM像である。
【符号の説明】
【0137】
10,20,30,50,54,70,74 積層体
12 露光によりラジカルを発生しうる基板
14,32 高分子膜
16 ポリマーAからなる相
18,36 ポリマーBからなる相
22 基板
24 重合開始層
34 開口部
40,60 塗布膜を有する積層体
42,62 ポリスチレン相
44 フッ素含有基を有する高分子の相
52,56 フッ素含有基を有する高分子の相を露光して得られる高分子膜
64 シロキサン基を有する高分子の相
72,76 シロキサン基を有する高分子の相を露光して得られる高分子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性基を有する高分子を少なくとも1種含む、2種以上の高分子を、露光によりラジカルを発生しうる基板表面上に接触させて、前記基板表面上に相分離構造を有する高分子膜を形成する膜形成工程と、
前記膜形成工程で形成された前記高分子膜を露光し、前記高分子膜を前記基板に固定化する固定化工程と、
前記固定化工程で得られた高分子膜を溶媒で洗浄する洗浄工程と、を含む方法により得られる、前記基板表面と直接結合した高分子膜。
【請求項2】
前記基板表面と直接結合した高分子膜の膜厚が、0.5〜100nmである請求項1に記載の高分子膜。
【請求項3】
前記ラジカル重合性基を有する高分子が、シロキサン基またはフッ素含有基を有し、かつ、ラジカル重合性基を有する高分子である請求項1または2に記載の高分子膜。
【請求項4】
前記シロキサン基またはフッ素含有基を有し、かつ、ラジカル重合性基を有する高分子が、一般式(1)で表される繰り返し単位、および一般式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子である請求項3に記載の高分子膜。
【化1】
(一般式(1)中、R1は、水素原子またはアルキル基を表す。L1は、2価の連結基または単なる結合手を表す。R2は、ラジカル重合性基を表す。
一般式(2)中、R3は、水素原子またはアルキル基を表す。L2は、2価の連結基または単なる結合手を表す。R4は、フッ素原子を有するアルキル基、フッ素原子を有するアリール基、または一般式(X)で表される基を表す。)
【化2】
(一般式(X)中、RaおよびRbは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、または一般式(Y)で表される基を表す。Rc、Rd、Re、RfおよびRgは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、またはアリール基を表す。nは、0〜100の整数を表す。*は、L2との結合位置を示す。)
【化3】
(一般式(Y)中、Rh〜Rlは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、またはアリール基を表す。mは、0〜100の整数を表す。**は、一般式(X)との結合位置を示す。)
【請求項5】
前記露光が、320nm以上の露光波長の光により行われる請求項1〜4のいずれかに記載の高分子膜。
【請求項6】
前記相分離構造が、連続相と前記連続相に分散されて存在する分散相とを有してなり、前記分散相の平均直径が1nm〜100μmである請求項1〜5のいずれかに記載の高分子膜。
【請求項7】
露光によりラジカルを発生しうる基板表面と2種以上のラジカル重合性基を有する高分子とが直接結合して、前記基板表面上に形成される、相分離構造を有する高分子膜。
【請求項8】
膜厚が0.5〜100nmである請求項7に記載の高分子膜。
【請求項9】
前記相分離構造が、連続相と前記連続相に分散されて存在する分散相とを有してなり、前記分散相の平均直径が1nm〜100μmである請求項7または8に記載の高分子膜。
【請求項10】
前記ラジカル重合性基を有する高分子の少なくとも1種が、シロキサン基またはフッ素含有基を有し、かつ、ラジカル重合性基を有する高分子である請求項7〜9のいずれかに記載の高分子膜。
【請求項11】
露光によりラジカルを発生しうる基板と、前記露光によりラジカルを発生しうる基板上に形成される請求項1〜10のいずれかに記載の高分子膜とを有する積層体。
【請求項12】
前記露光によりラジカルを発生しうる基板が、基板と、前記基板上に形成される重合開始層とを有する積層構造で形成される請求項11に記載の積層体。
【請求項13】
前記重合開始層が、露光によりラジカル重合を開始しうる重合開始部位と基板結合部位とを有する化合物が前記基板結合部位を介して前記基板と結合して形成される層である請求項12に記載の積層体。
【請求項14】
ラジカル重合性基を有する高分子を少なくとも1種含む、2種以上の高分子を、露光によりラジカルを発生しうる基板表面上に接触させて、前記基板表面上に相分離構造を有する高分子膜を形成する膜形成工程と、
前記膜形成工程で形成された前記高分子膜を露光し、前記高分子膜を前記基板に固定化する固定化工程と、
前記固定化工程で得られた高分子膜を溶媒で洗浄する洗浄工程とを含む、前記基板表面と直接結合した高分子膜の製造方法。
【請求項1】
ラジカル重合性基を有する高分子を少なくとも1種含む、2種以上の高分子を、露光によりラジカルを発生しうる基板表面上に接触させて、前記基板表面上に相分離構造を有する高分子膜を形成する膜形成工程と、
前記膜形成工程で形成された前記高分子膜を露光し、前記高分子膜を前記基板に固定化する固定化工程と、
前記固定化工程で得られた高分子膜を溶媒で洗浄する洗浄工程と、を含む方法により得られる、前記基板表面と直接結合した高分子膜。
【請求項2】
前記基板表面と直接結合した高分子膜の膜厚が、0.5〜100nmである請求項1に記載の高分子膜。
【請求項3】
前記ラジカル重合性基を有する高分子が、シロキサン基またはフッ素含有基を有し、かつ、ラジカル重合性基を有する高分子である請求項1または2に記載の高分子膜。
【請求項4】
前記シロキサン基またはフッ素含有基を有し、かつ、ラジカル重合性基を有する高分子が、一般式(1)で表される繰り返し単位、および一般式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子である請求項3に記載の高分子膜。
【化1】
(一般式(1)中、R1は、水素原子またはアルキル基を表す。L1は、2価の連結基または単なる結合手を表す。R2は、ラジカル重合性基を表す。
一般式(2)中、R3は、水素原子またはアルキル基を表す。L2は、2価の連結基または単なる結合手を表す。R4は、フッ素原子を有するアルキル基、フッ素原子を有するアリール基、または一般式(X)で表される基を表す。)
【化2】
(一般式(X)中、RaおよびRbは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、または一般式(Y)で表される基を表す。Rc、Rd、Re、RfおよびRgは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、またはアリール基を表す。nは、0〜100の整数を表す。*は、L2との結合位置を示す。)
【化3】
(一般式(Y)中、Rh〜Rlは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、またはアリール基を表す。mは、0〜100の整数を表す。**は、一般式(X)との結合位置を示す。)
【請求項5】
前記露光が、320nm以上の露光波長の光により行われる請求項1〜4のいずれかに記載の高分子膜。
【請求項6】
前記相分離構造が、連続相と前記連続相に分散されて存在する分散相とを有してなり、前記分散相の平均直径が1nm〜100μmである請求項1〜5のいずれかに記載の高分子膜。
【請求項7】
露光によりラジカルを発生しうる基板表面と2種以上のラジカル重合性基を有する高分子とが直接結合して、前記基板表面上に形成される、相分離構造を有する高分子膜。
【請求項8】
膜厚が0.5〜100nmである請求項7に記載の高分子膜。
【請求項9】
前記相分離構造が、連続相と前記連続相に分散されて存在する分散相とを有してなり、前記分散相の平均直径が1nm〜100μmである請求項7または8に記載の高分子膜。
【請求項10】
前記ラジカル重合性基を有する高分子の少なくとも1種が、シロキサン基またはフッ素含有基を有し、かつ、ラジカル重合性基を有する高分子である請求項7〜9のいずれかに記載の高分子膜。
【請求項11】
露光によりラジカルを発生しうる基板と、前記露光によりラジカルを発生しうる基板上に形成される請求項1〜10のいずれかに記載の高分子膜とを有する積層体。
【請求項12】
前記露光によりラジカルを発生しうる基板が、基板と、前記基板上に形成される重合開始層とを有する積層構造で形成される請求項11に記載の積層体。
【請求項13】
前記重合開始層が、露光によりラジカル重合を開始しうる重合開始部位と基板結合部位とを有する化合物が前記基板結合部位を介して前記基板と結合して形成される層である請求項12に記載の積層体。
【請求項14】
ラジカル重合性基を有する高分子を少なくとも1種含む、2種以上の高分子を、露光によりラジカルを発生しうる基板表面上に接触させて、前記基板表面上に相分離構造を有する高分子膜を形成する膜形成工程と、
前記膜形成工程で形成された前記高分子膜を露光し、前記高分子膜を前記基板に固定化する固定化工程と、
前記固定化工程で得られた高分子膜を溶媒で洗浄する洗浄工程とを含む、前記基板表面と直接結合した高分子膜の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−58403(P2010−58403A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227380(P2008−227380)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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