説明

高分子膜の製造方法、高分子膜付き導電性基板、高分子膜製造用電解重合装置

【課題】外部給電端子に接続することなく電解重合法により基板上に平坦性に優れた高分子膜を製造することができる、工業的な生産性に優れた高分子膜の製造方法を提供する。
【解決手段】電解重合性モノマーと支持電解質とを含む溶液W中に浸漬された陰極14と陽極16との間に、陰極14または陽極16と主面が対向するように導電性基板18を溶液中に浸漬し、陰極14と陽極16との間に電圧を印加し、バイポーラ現象を利用して、導電性基板表面上に電解重合性モノマーの電解重合により高分子膜を製造する、高分子膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子膜の製造方法、該製造方法より製造される高分子膜を有する高分子膜付き導電性基板、および該製造方法に使用される高分子膜製造用電解重合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基板上に高分子膜(特に、導電性高分子膜)を製造する方法として電解重合法が知られている(特許文献1)。電解重合法とは、電極表面上でモノマーを電気化学的に電解酸化または電解還元して重合反応を生じさせる方法である。例えば、電解重合法によりポリピロールを成膜するには、ピロールモノマーと支持電解質とを含む電解液が収容された電解重合槽内に平板状の陽極と陰極との電極の対を挿入し、電極間に電圧を印加することによって、陽極酸化により生じるラジカルカチオン種のカップリングにより重合が進行し、陽極上に膜状のポリピロールが析出する。
電解重合法はその手順が簡便で、かつ、導電率の高いポリマーを合成することができるため、太陽電池などの種々の機能性デバイスの部材を製造する方法として有用である。
【0003】
従来法においては、電解重合を行う際には図7に示すような高分子膜製造用電解重合装置300が使用されていた。該装置300では、電解液302が収容された電解重合槽304に平板状の陰極306および陽極308を挿入したものであり、陰極306および陽極308は図示しない外部供給端子を介して電源310に接続している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−137923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来法において、例えば、多数枚の平板状の陽極308表面上に高分子膜(例えば、ポリピロール、ポリチオフェン)を製造する際には、一回の電解重合終了後に高分子膜付き陽極基板を外部給電端子から外し、新たな他の平板状の陽極308に再度外部給電端子を接続する必要があった。つまり、高分子膜付き陽極基板を一枚作製終了する毎に、平板状の陽極308に外部供給端子を接続し直す必要があり、作業が煩雑であるために、工業的な生産という意味においては必ずしも満足できる方法ではなかった。
【0006】
また、昨今、機能性デバイスの性能向上要求に伴って、導電性高分子膜などを有する機能性デバイス自体の小型化も要求されている。よって、より面積の小さい基板上に高分子膜(特に、導電性高分子膜)を製造することが必要とされている。
一方、上述した従来の電解重合法においては、そもそも外部給電端子と面積の小さい基板とを接続することが困難であるため、特殊な外部給電端子を製造する必要があり、汎用性に欠ける。
【0007】
さらに、機能性デバイスの性能向上のために、高分子膜(特に、導電性高分子膜)の表面の平坦性をより一層高めることが必要とされている。
上述した従来の電解重合法において得られる高分子膜の平坦性では、必ずしも昨今求められるレベルを満たしておらず、更なる向上も求められていた。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みて、外部給電端子に接続することなく電解重合法により基板上に平坦性に優れた高分子膜を製造することができる、工業的な生産性に優れた高分子膜の製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、該製造方法に使用される高分子膜製造用電解重合装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を行ったところ、バイポーラ現象を利用することにより上記課題を解決できることを見出した。
具体的には、本発明者らは、以下に示す手段により上記目的を達成しうることを見出した。
【0010】
(1) 電解重合性モノマーと支持電解質とを含む溶液中に浸漬された陰極と陽極との間に、前記陰極または前記陽極と主面が対向するように導電性基板を前記溶液中に浸漬し、前記陰極と前記陽極との間に電圧を印加し、バイポーラ現象を利用して、前記導電性基板表面上に前記電解重合性モノマーの電解重合により高分子膜を製造する、高分子膜の製造方法。
【0011】
(2) 前記電圧を印加する前に、前記導電性基板と前記陰極との間または前記導電性基板と前記陽極との間に、前記溶液が流通する開口部を有する絶縁性隔壁を配置する、(1)に記載の高分子膜の製造方法。
【0012】
(3) 前記絶縁性隔壁が、前記導電性基板の中心部と対向する位置に開口部を有する、(1)または(2)に記載の高分子膜の製造方法。
【0013】
(4) 前記溶液中における支持電解質の濃度が、1000mM以下である、(1)〜(3)のいずれかに記載の高分子膜の製造方法。
【0014】
(5) 前記電解重合性モノマーが、ベンゼン、ピロール、アニリン、フェノール、フタロシアニン、チオフェン、フラン、アズレンおよびこれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、(1)〜(4)のいずれかに記載の高分子膜の製造方法。
【0015】
(6) 導電性基板と、前記導電性基板の表面上に配置された(1)〜(5)のいずれかに記載の高分子膜の製造方法より得られた高分子膜とを有する高分子膜付き導電性基板。
【0016】
(7) 導電性基板表面上に高分子膜を製造するための高分子膜製造用電解重合装置であって、
電解重合性モノマーと支持電解質とを含む溶液が収容される電解重合槽と、
前記電解重合槽内に配置される陰極および陽極と、
前記電解重合槽内において、前記陰極または前記陽極と主面が対向するように前記陰極と前記陽極との間に配置される導電性基板と、
前記電解重合槽内において、前記導電性基板と前記陰極との間または前記導電性基板と前記陽極との間に配置される、前記溶液が流通する開口部を有する絶縁性隔壁とを有し、
前記陰極と前記陽極との間に電圧を印加し、バイポーラ現象を利用して、前記導電性基板表面上に前記電解重合性モノマーの電解重合により高分子膜を製造する、高分子膜製造用電解重合装置。
【0017】
(8) 前記絶縁性隔壁が、前記導電性基板の中心部と対向する位置に開口部を有する、(7)に記載の高分子膜製造用電解重合装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、外部給電端子に接続することなく電解重合法により基板上に平坦性に優れた高分子膜を製造することができる、工業的な生産性に優れた高分子膜の製造方法を提供することができる
また、本発明によれば、該製造方法に使用される高分子膜製造用電解重合装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の高分子膜製造用電解重合装置の第1の実施形態の概略構成図である。
【図2】本発明の高分子膜製造用電解重合装置の第1の実施形態の変形例を示す概略構成図である。
【図3】本発明の高分子膜製造用電解重合装置の第2の実施形態の概略構成図である。
【図4】本発明の高分子膜製造用電解重合装置の第3の実施形態の模式的断面図である。
【図5】実施例2および比較例1で得られた高分子膜付き基板の透過率を示す図である。
【図6】(A)白金電極を用いた場合のサイクリックボルタモグラムを示す図である。(B)実施例2で得られた高分子膜付き基板を用いた場合のサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【図7】従来法で使用されていた高分子膜製造用電解重合装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の高分子膜の製造方法、高分子膜付き導電性基板、高分子膜製造用電解重合装置について図面を参照して説明する。
まず、本発明の従来技術と比較した特徴点について詳述する。
本発明の特徴点としては、陰極および陽極間に外部給電端子と接続していない(ワイヤレス)導電性基板を配置し、バイポーラ現象を利用して導電性基板上に高分子膜を製造する点が挙げられる。具体的には、陰極と陽極との間に導電性基板を挟んだ状態で電圧を印加すると、導電性基板の陰極側の表面が陽極として、導電性基板の陽極側の表面が陰極として振る舞う。つまり、導電性基板表面上がバイポーラ現象によって分極され、電解重合に利用できる電極(バイポーラ型電極)となる。そのため、導電性基板の表面では、電解重合性モノマーの重合が進行し、高分子膜が成膜される。電解重合終了後には、新たな導電性基板を代わりに配置すれば、同様に高分子膜を得ることができ、導電性基板自体を外部給電端子と接続する必要がなく、工業的な生産性に優れる。
【0021】
また、該方法においては、導電性基板の面積が小さい場合であっても、高分子膜を効率よく成膜することができ、機能性デバイスの小型化の要求にも対応することができる。
また、該方法で得られた高分子膜はその平坦性がより優れる。
さらに、後述するように、陰極と陽極との間に複数枚(2枚以上)の導電性基板を配置することによって、その表面上に同時に高分子膜を成膜することができるため、従来法と比較しても生産性に優れる。
【0022】
以下においては、まず、本発明の高分子膜の製造方法に使用される高分子膜製造用電解重合装置について詳述し、その後高分子膜の製造方法について詳述する。
【0023】
<高分子膜製造用電解重合装置(第1の実施形態)>
まず、以下に、本発明の高分子膜の製造方法に使用される高分子膜製造用電解重合装置の第1の実施形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明の高分子膜製造用電解重合装置10の概略構成図である。
高分子膜製造用電解重合装置10は、導電性基板表面上に高分子膜を製造するために使用され、電解重合槽12と、陰極14と、陽極16と、導電性基板18と、電源20とを備える。
【0024】
電解重合槽12は、電解重合性モノマーと支持電解質とを含む溶液Wを収容(貯留)するための長尺状の槽であり、上面が開放されたものである。該槽12中において電解重合性モノマーの電解重合が進行する。
なお、電解重合槽12の形状および大きさは図1に示した形態に特に制限されず、使用目的に応じて適宜性的な形状および大きさを選択できる。また、上面が開放されていなくてもよい。
【0025】
陰極14および陽極16は、電解重合槽12内に互いに対向するように配置され、溶液Wに浸漬される。また、陰極14と陽極16は、図示しない外部給電端子を介して後述する電源20と接続しており、電解重合を実施する際に陰極14と陽極16との間に電圧が印加される。
陰極14および陽極16を構成する材料は特に制限されず、金、白金、銅、銀、ステンレス、タリウム、アルミニウム、タングステン、ニオブ、チタン、亜鉛、ニッケルなどの金属、錫、インジウム、チタンなどの金属元素を少なくとも1種含む金属酸化物、またはカーボンなどの導電体によって形成される。なお、金属酸化物の場合、複数の金属が含まれていてもよい(例えば、酸化インジウムスズなど)。
【0026】
陰極14および陽極16の形状は、平板状である。なお、陰極14および陽極16の形状は、図1の形態に限定されず、平板状以外の形状(棒状など)であってもよい。
また、図1に示すように、陰極14と陽極16とが互いに平板状の場合、得られる高分子膜の膜厚のバラツキがより小さくなる点から、両者は略平行に配置されることが好ましい。
【0027】
導電性基板18は、電解重合槽12内において、陰極14と陽極16との間にその主面が陰極14または陽極16と対向するように配置され、溶液Wに浸漬される。導電性基板18は、得られる高分子膜の膜厚のバラツキがより小さくなる点から、図1に示すように、陰極14または陽極16に対して略平行になるように配置されることが好ましい。
なお、導電性基板18は、平板状で第1の主面と第2の主面とを有するが、該主面(第1の主面と第2の主面)が陽極14または陽極16と対向するように配置される。
【0028】
導電性基板18を構成する材料は、導電性を示す材料であれば特に制限されない。例えば、金、白金、銅、銀、ステンレス、タリウム、アルミニウム、タングステン、ニオブ、チタン、亜鉛、ニッケルなどの金属、錫、インジウム、チタンなどの金属元素を少なくとも1種含む金属酸化物、またはカーボンなどの導電体が挙げられる。なお、金属酸化物の場合、複数の金属が含まれていてもよい(例えば、酸化インジウムスズなど)。
なお、導電性基板18はその表面が導電性を示せばその構成は限定されず、例えば、絶縁性基板(例えば、ガラス基板)表面上を導電性材料(例えば、ITO)で覆った構成であってもよい。
【0029】
図1において、導電性基板18の形状は平板状である。
なお、導電性基板18の形状は図1の形態に限定されず、平板状以外の形状であってもよく、湾曲した面を有する基板であってもよい。
また、導電性基板18の大きさは図1の形態に示すように、陰極14および陽極16と同程度の大きさであることが好ましい。該形態であれば、導電性基板18上での高分子膜の被覆率がより向上するため、好ましい。
【0030】
導電性基板18は、図1において1枚のみ陰極14と陽極16との間に配置されているが、配置される枚数は2枚以上であってもよい。例えば、図2に示すように、2枚の導電性基板18aおよび18bが配置される場合、導電性基板18aおよび18bの陰極14側の表面が陽極として、導電性基板18aおよび18bの陽極16側の表面が陰極として振る舞い、両者がバイポーラ型電極として作用する。従って、後述する電解重合を実施した場合、導電性基板18aおよび18bの両者の表面上に同時に高分子膜を成膜することができる。
【0031】
電源20は、上述した陰極14および陽極16と配線および図示しない外部給電端子を介して接続する。
なお、図1においては、陰極14、陽極16、および導電性基板18の一部が溶液Wに浸漬しているが、それぞれの全体が溶液Wに浸漬していてもよい。
【0032】
<高分子膜の製造方法(第1の実施形態)>
次に、上記高分子膜製造用電解重合装置10を使用した、高分子膜の製造方法について詳述する。
高分子膜の製造方法としては、まず、溶液W中に浸漬された陰極14と陽極16との間に、陰極14または陽極16と主面が対向するように導電性基板18を溶液W中に浸漬する。次に、陰極14と陽極16との間に電圧を印加し、バイポーラ現象を利用して導電性基板18表面上に電解重合性モノマーの電解重合により高分子膜を製造する。
以下では、まず、上記製造方法で使用される材料(例えば、電解重合性モノマー、支持電解質など)について詳述し、その後該方法の詳細な手順について詳述する。
【0033】
(電解重合性モノマー)
使用される電解重合性モノマーは、電圧を印加することにより電解重合し得るモノマーであれば特にその種類は制限されない。
例えば、陰極還元重合の際に使用されるモノマーとして、例えば、ビニルピリジン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレン、クロトン酸、アセトニトリルなどのビニル系モノマー若しくはこれらの誘導体、または、芳香族環(例えば、ベンゼン、チオフェン、ピロール)に2つのハロゲン原子が結合した化合物(ジハロ芳香族化合物)や、ベンジルブロミドなどのジハロゲン化合物が挙げられる。
また、陽極酸化重合の際に使用されるモノマーとしては、例えば、ベンゼン、ピロール、アニリン、フェノール、フタロシアニン、チオフェン、フラン、アズレン、またはこれらの誘導体が挙げられる。より具体的には、アニリン、アルキルアニリン類、アルコキシアニリン類、ハロアニリン類、o−フェニレンジアミン類、2,6−ジアルキルアニリン類、2,5−ジアルコキシアニリン類、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどのアニリンおよびアニリン誘導体;ピロール、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−プロピルピロールなどのピロールおよびピロール誘導体;チオフェン、3−メチルチオフェン、3−エチルチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェンなどのチオフェンおよびチオフェン誘導体などが挙げられる。
【0034】
溶液W中における電解重合性モノマーの含有量は特に制限されないが、高分子膜の成膜がより効率的に進行し、その平坦性がより優れる点から、0.1〜1000mMが好ましく、1〜100mMがより好ましい。
【0035】
(支持電解質)
溶液W中には、支持電解質が含まれる。支持電解質が含まれることにより、効率的に高分子膜の成膜が進行する。
支持電解質としては、イオン電離可能な物質で、溶媒によく溶けて陽イオン・陰イオンに解離し、イオン伝導性を与え、酸化・還元を受けにくく、広い電位範囲で安定する支持電解質が望ましい。
支持電解質としては公知の支持電解質を使用することができ、例えば、一般式MX、R4NXで表される化合物(ただし、M=アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン、ピリジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、四級ホスホニウムイオンなど、X=A-(Aはハロゲン)、N(CF3SO22-、BF4-、PF6-、CF3SO3-、CF3CO2-、NO3-、SCN-、ClO4-、炭酸イオン、安息香酸アニオン、アルキルナフタレンスルホン酸イオン、または、ピクリン酸アニオンなど、R4N:テトラアルキルアンモニウム塩(R;CH3、C25、C37、C49など))が挙げられる。
より具体的には、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0036】
溶液W中における支持電解質の含有量は特に制限されないが、高分子膜の成膜がより効率的に進行し、その平坦性がより優れる点から、1000mM以下が好ましく、0.1〜100mMがより好ましく、1〜50mMがさらに好ましい。
【0037】
(その他の成分)
溶液Wは溶媒を含んでいてもよく、その種類は特に制限されないが、例えば、水または有機溶媒(例えば、アセトニトリル、ニトロベンゼン、ヘキサン、トルエン、ジエチルエーテル、ベンゼンなど)が挙げられる。
【0038】
(電解重合の条件)
本発明で実施される電解重合としては、陽極酸化重合または陰極還元重合のいずれも実施することができ、使用される電解重合性モノマーに応じて適宜最適な方法が選択される。
【0039】
電解重合は、公知の電解重合法を用いることが可能であり、定電流法、定電圧法、電位走査法のいずれを用いてもよい。定電流法では、導電性基板18に析出する高分子膜(特に、導電性高分子膜)の膜厚を通電時間によって制御することが可能であるため、好ましい。
【0040】
電解重合条件は特に制限されないが、例えば、定電流法を用いる場合、得られる高分子膜の平坦性がより優れる点で、電流密度は0.01〜50mA/cm2の範囲が好ましく、0.1〜10mA/cm2の範囲がより好ましい。
また、電位走査法においては、電位幅を媒体および電解質の分解しない範囲内で行う必要があるため、媒体や支持電解質の種類に応じて電位範囲が設定される。通常、電位範囲は−2〜2Vvs.飽和カロメル電極(SCE)の範囲で重合可能であり、−0.5〜1.2Vvs.飽和カロメル電極(SCE)の範囲がより好ましい。
【0041】
電解重合の時間(電解時間)および電解重合時の溶液Wの温度は特に制限されず、所望の厚みの高分子膜が得られるように適宜選択される。
【0042】
なお、必要に応じて、電解重合槽12から溶液Wを排出しつつ、新たな溶液Wを供給しながら、電解重合を行ってもよい。電解重合の際には、反応の副産物が発生し、溶液W中に浮遊することがある。そのため、連続的に電解重合を行う場合、これらの副産物によって製造される高分子膜の性状が影響を受け、平坦性などが損なわれるおそれもある。そこで、新たな溶液Wを連続的に電解重合槽12に供給して、溶液Wを連続的に置き換えることによって、高分子膜の性状劣化を抑制することができる。
【0043】
溶液Wの供給方法は特に制限されず、図示しない注入管を介して電解重合槽12に溶液Wを供給してもよい。なお、陽極酸化重合を実施する際には、電解重合槽12中の溶液Wが陰極14から導電性基板18の方向に流れるように、溶液Wを供給することが好ましい。該形態であれば、新たな溶液Wが導電性基板18の重合が進行する表面上に連続的に供給され、結果として高分子膜がより効率的に形成される。
また、電解重合槽12からの溶液Wの排出方法は特に制限されず、図示しない電解重合槽12の底部に配置された排出口から溶液Wを排出してもよいし、溶液Wを電解重合槽12からオーバーフローさせて排出してもよい。
【0044】
(高分子膜)
上述した手順によって平坦性に優れた高分子膜が導電性基板18上に得られる。
高分子膜の膜厚は電解重合の条件を変更することにより適宜調整されるが、平坦性がより優れる点で、10nm〜100μmが好ましく、10nm〜500nmがより好ましい。
【0045】
なお、電解重合性モノマーとしてベンゼン、ピロール、アニリン、フェノール、フタロシアニン、チオフェン、フラン、アズレン、またはこれらの誘導体を使用することにより、導電性に優れた高分子膜(導電性高分子膜)を得ることができる。
【0046】
該高分子膜(特に、導電性高分子膜)を有する導電性基板18は、種々の用途に使用することができる。例えば、色素増感太陽電池の部材として使用することができる。
【0047】
<高分子膜製造用電解重合装置(第2の実施形態)>
以下に、本発明の高分子膜製造用電解重合装置の第2の実施形態を図面を参照して説明する。
図3は、本発明の高分子膜製造用電解重合装置100の概略構成図である。
高分子膜製造用電解重合装置100は、電解重合槽12と、陰極14と、陽極16と、導電性基板18と、電源20と、絶縁性隔壁22とを備える。
図3に示す高分子膜製造用電解重合装置100は、陽極酸化重合の際に使用される電解重合装置であって、絶縁性隔壁22を備える点を除いて、図1に示す高分子膜製造用電解重合装置10と同様の構成を有するものであるので、同一の構成要素には同一の参照符号を付し、その説明を省略し、主として絶縁性隔壁22について説明する。
【0048】
絶縁性隔壁22は、導電性基板18と陽極16との間に配置され、その中央に溶液Wが流通する開口部24を有する。該絶縁性隔壁22は、陰極14と陽極16との間を仕切るように電解重合槽12内に配置される。
絶縁性隔壁22がない場合(高分子膜製造用電解重合装置10の場合)、電解重合を行うと導電性基板18の陰極14側の表面には高分子膜が形成されるものの、導電性基板18の陰極14側の表面の周縁領域(エッジ領域)においては高分子膜が被覆されない領域が発生する場合がある。これは、導電性基板18の周りに存在する溶液中を流れる電流が規制されないため、導電性基板18の陰極14側表面全体の陽分極が不十分となり、導電性基板18の陰極14側表面の周縁領域に十分なラジカルカチオンが発生せずに、重合反応が十分に進行しないためである。
それに対して、絶縁性隔壁22を設けることにより、導電性基板18の周りの電流の流れを規制することができ、導電性基板18の陰極14側表面の周縁領域においても十分な量のラジカルカチオンが発生し、結果として導電性基板18上での高分子膜の被覆率が向上すると共に、高分子膜の膜厚のバラツキもより抑制される。
【0049】
絶縁性隔壁22は、導電性基板18の中心部と対向する位置に、溶液Wが流通する開口部24を有する。より具体的には、図3においては、絶縁性隔壁22の中央に開口部24を有する。該位置に開口部24を有することにより、導電性基板18の陰極14側の表面の周縁領域への陽極16からの影響をより抑制することでき、結果として導電性基板18上での高分子膜の被覆率をより向上させることができる。
【0050】
なお、開口部24の位置は、導電性基板18の中心部に対向する位置以外の位置であってもよい。
また、開口部24の大きさは特に制限されず、使用される導電性基板18の大きさなどに応じて適宜最適な大きさが選択される。高分子膜の成膜をより効率的に行う点からは、開口部24の面積Aと絶縁性隔壁22の面積Bとの比(A/B)は、0.005〜1が好ましく、0.01〜0.1がより好ましい。
また、開口部24の形状は、図3においては長尺状であるが、その形状は特に制限されず円形状、楕円状、無定形であってもよい。
さらに、開口部24の数は、図3においては1つであるが、その数は特に制限されず、複数個の開口部24が設けられていてもよい。
【0051】
絶縁性隔壁22を構成する材料は特に制限されず、絶縁性を示す材料であれば特に制限されない。例えば、高分子(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)、ガラスなどが挙げられる。
【0052】
高分子膜製造用電解重合装置100を使用した電解重合の条件は、上述した高分子膜製造用電解重合装置10を使用した電解重合の条件と同じである。なお、陰極14と陽極16との間に電圧を印加する前に、上述した絶縁性隔壁22を配置する。
該形態によって得られる高分子膜は、導電性基板18表面上での被覆率により優れ、膜厚のバラツキがより小さい。より具体的には、高分子膜の導電性基板18表面上での被覆率としては、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましい。最も好ましくは100%である。
【0053】
なお、図3においては、陽極酸化重合の際に使用される形態として、高分子膜製造用電解重合装置100を例示した。一方、陰極電解重合の際には、絶縁性隔壁22が陽極16と導電性基板18との間ではなく、陰極14と導電性基板18との間に配置されることが好ましい。該形態であれば、導電性基板18の陽極16側の表面上に高い被覆率を示す高分子膜を効率よく形成することができる。
【0054】
<高分子膜製造用電解重合装置(第3の実施形態)>
以下に、本発明の高分子膜製造用電解重合装置の第3の実施形態を図面を参照して説明する。
図4は、本発明の高分子膜製造用電解重合装置200の模式的断面図である。
高分子膜製造用電解重合装置200は、電解重合槽12と、陰極14と、陽極16と、帯状導電性基板26と、ローラ28とを備える。なお、陰極14および陽極16は、図示しない電源と外部給電端子および配線を介して接続している。
図4に示す高分子膜製造用電解重合装置200は、帯状導電性基板26を電解重合する際に使用される電解重合装置であって、帯状導電性基板26およびローラ28を備える点を除いて、図1に示す高分子膜製造用電解重合装置10と同様の構成を有するものであるので、同一の構成要素には同一の参照符号を付し、その説明を省略する。
【0055】
高分子膜製造用電解重合装置200は、帯状導電性基板26に対して連続的に電解重合を実施する装置である。具体的には、図示しない導電性基板供給部から連続して供給される帯状導電性基板26は、電解重合槽12中の溶液Wに浸漬し、ローラ28を介して連続的に陰極14と陽極16との間に供給される。陰極14と陽極16との間を通過する間に、帯状導電性基板26の表面上に高分子膜が成膜される。該形態であれば、連続的に高分子膜を製造することができ、工業的生産性により優れる。
【0056】
なお、高分子膜製造用電解装置200には、必要に応じて、陽極14と帯状導電性基板26との間、または、陽極16と帯状導電性基板26との間に、上述した溶液Wが流通する開口部を有する絶縁性隔壁を配置してもよい。該絶縁性隔壁を配置することにより、帯状導電性基板26上での高分子膜の被覆率がより向上する。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により、本発明について更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
(高分子膜製造用電解装置)
まず、図1に示す高分子膜製造用電解装置10を作製した。陰極14、陽極16としては、ステンレス基板(縦:10mm、横:10mm)を使用した。また、導電性基板18としては、ITOで表面が被覆されたガラス基板(縦:10mm、横:10mm)を使用した。
なお、電解重合槽12の幅は20mmであり、長さは35mmであった。また、陰極14と導電性基板18との間の距離は16mmであった。また、陽極16と導電性基板18との間の距離は16mmであった。
また、図1に示すように、陰極14、陽極16、および導電性基板18は、それぞれ略平行になるように配置された。
【0059】
(電解重合)
溶液Wとして、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム(10mM)および3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)(20mM)を含む水溶液を調製した。
次に、電解重合槽12中に該溶液Wを供給して、4mA/cm2定電流電解重合(電解時間20秒)を行い、導電性基板18の陰極14側の表面に膜厚30nmの高分子膜(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)膜)を製造した。
【0060】
(各種評価)
ナノスケールハイブリッド顕微鏡(キーエンス VN−8000)を用いて、得られた高分子膜の二乗平均粗さ(RMS)を測定したところ、後述する実施例2と同程度の数値が得られた。
また、導電性基板18表面上(片面上)における高分子膜の被覆率を測定したところ、87%であった。なお、被覆率は、得られた導電性基板18の表面上を顕微鏡観察して、導電性基板18の溶液Wに浸漬した部分の片面の面積から算定した。
【0061】
(実施例2)
(高分子膜製造用電解装置)
まず、図3に示す高分子膜製造用電解装置100を作製した。陰極14、陽極16としては、ステンレス基板(縦:10mm、横:10mm)を使用した。また、導電性基板18としては、ITOで表面が被覆されたガラス基板(縦:10mm、横:10mm)を使用した。さらに、絶縁性隔壁22としては、ポリプロピレン基板を使用した。絶縁性隔壁22の中央部には幅2mmの長方形状の開口部24がある。
なお、電解重合槽12の幅は20mmであり、長さは35mmであった。また、陰極14と導電性基板18との間の距離は15mmであり、陰極14と絶縁性隔壁22との間の距離は16mmであった。また、陽極16と絶縁性隔壁22との間の距離は16mmであった。
また、図1に示すように、陰極14、陽極16、導電性基板18、および絶縁性隔壁22は、それぞれ略平行になるように配置された。
【0062】
(電解重合)
実施例1と同様の溶液Wを使用して、同様の条件で膜厚30nmの高分子膜(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)膜)を製造した。
【0063】
(表面粗さ評価)
ナノスケールハイブリッド顕微鏡(キーエンス VN−8000)を用いて、得られた高分子膜の二乗平均粗さ(RMS)を測定したところ、7.1nmであった。
また、導電性基板18表面上(片面上)における高分子膜の被覆率を測定したところ、100%であった。なお、被覆率は、得られた導電性基板の表面上を顕微鏡観察して、導電性基板18の溶液Wに浸漬した部分の片面の面積から算定した。
該結果より、絶縁性隔壁22を設けることにより、高分子膜の被覆率が向上することが確認された。
【0064】
(比較例1)
図7に示す高分子膜製造用電解装置300を作製した。陰極306としては、ステンレス基板(縦:10mm、横:10mm)を使用した。陽極308としては、ITOで表面が被覆されたガラス基板(縦:10mm、横:10mm)を使用した。陰極306と陽極308との間の距離は、16mmであった。
また、電解液302としては、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム(10mM)および3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)(20mM)を含む水溶液を調製した。
次に、0.1mA/cm2定電流電解重合(電解時間60秒)を行い、陽極308表面に膜厚30nmの高分子膜(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)膜)を製造した。
得られた高分子膜の二乗平均粗さ(RMS)を測定したところ、8.0nmであり、実施例1および実施例2の形態に比べて劣っていた。
【0065】
(その他評価)
(光学的評価)
実施例2および比較例1で得られた高分子膜付き基板に対して、紫外可視近赤外分光光度計 UV−3600を用いて、それぞれの透過率を測定した。結果を図5に示す。図5において、実施例2の形態を「ITO/PEDOT(bipolar)」、比較例1の形態を「ITO/PEDOT(normal)」、高分子膜を有さない導電性基板18を「pure ITO」として表示する。
図5に示すように、実施例2で得られた高分子膜は、従来法(比較例1)で製造された高分子膜と同様に、高い透過率を示し、優れた透明性を有することが確認された。
【0066】
(電気化学的評価)
色素増感太陽電池の対極材料として主に白金が使用されるが、PEDOTなどの導電性高分子も利用可能である。特に、PEDOTのような導電性高分子透明材料を用いれば低コスト化、全透明化が期待される。
そこで、実施例2で作製した高分子膜付き基板を用いて、ヨウ素化合物の還元反応をサイクリックボルタンメトリー(北斗電工 HZ−3000)で測定し、高分子膜(PEDOT膜)の電極触媒能を検討した。より具体的にはI2(1mM)、LiI(10mM)、LiBF4(1M)を含むアセトニトリル中において、白金電極および実施例で作製した高分子膜付き基板を用いた場合のサイクリックボルタンメトリー測定を行った(図6)。実施例2で得られた高分子膜付き基板を使用した場合(図6(B))、その挙動は白金電極の場合(図6(A))と同等であり、白金電極の代わりに使用できることが確認された。
【符号の説明】
【0067】
10,100,200,300 高分子膜製造用電解重合装置
12,304 重合槽
14,306 陰極
16,308 陽極
18,18a,18b 導電性基板
20,310 電源
22絶縁性隔壁
24 開口部
26 帯状導電性基板
28 ローラ
302 電解液
W 電解重合性モノマーと支持電解質とを含む溶液


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解重合性モノマーと支持電解質とを含む溶液中に浸漬された陰極と陽極との間に、前記陰極または前記陽極と主面が対向するように導電性基板を前記溶液中に浸漬し、前記陰極と前記陽極との間に電圧を印加し、バイポーラ現象を利用して、前記導電性基板表面上に前記電解重合性モノマーの電解重合により高分子膜を製造する、高分子膜の製造方法。
【請求項2】
前記電圧を印加する前に、前記導電性基板と前記陰極との間または前記導電性基板と前記陽極との間に、前記溶液が流通する開口部を有する絶縁性隔壁を配置する、請求項1に記載の高分子膜の製造方法。
【請求項3】
前記絶縁性隔壁が、前記導電性基板の中心部と対向する位置に開口部を有する、請求項1または2に記載の高分子膜の製造方法。
【請求項4】
前記溶液中における支持電解質の濃度が、1000mM以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の高分子膜の製造方法。
【請求項5】
前記電解重合性モノマーが、ベンゼン、ピロール、アニリン、フェノール、フタロシアニン、チオフェン、フラン、アズレンおよびこれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の高分子膜の製造方法。
【請求項6】
導電性基板と、前記導電性基板の表面上に配置された請求項1〜5のいずれかに記載の高分子膜の製造方法より得られた高分子膜とを有する高分子膜付き導電性基板。
【請求項7】
導電性基板表面上に高分子膜を製造するための高分子膜製造用電解重合装置であって、
電解重合性モノマーと支持電解質とを含む溶液が収容される電解重合槽と、
前記電解重合槽内に配置される陰極および陽極と、
前記電解重合槽内において、前記陰極または前記陽極と主面が対向するように前記陰極と前記陽極との間に配置される導電性基板と、
前記電解重合槽内において、前記導電性基板と前記陰極との間または前記導電性基板と前記陽極との間に配置される、前記溶液が流通する開口部を有する絶縁性隔壁とを有し、
前記陰極と前記陽極との間に電圧を印加し、バイポーラ現象を利用して、前記導電性基板表面上に前記電解重合性モノマーの電解重合により高分子膜を製造する、高分子膜製造用電解重合装置。
【請求項8】
前記絶縁性隔壁が、前記導電性基板の中心部と対向する位置に開口部を有する、請求項7に記載の高分子膜製造用電解重合装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−57103(P2013−57103A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196219(P2011−196219)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】