説明

高分子膜の製造方法および高分子膜

【課題】光酸発生剤を用いずに、特定の部分をアルカリ溶液で溶解して除去した高分子膜の提供。
【解決手段】(A)窒素カチオンを有するオニウム塩と(B)アルカリ難溶性樹脂を含有する組成物を支持体の上に適用して膜を形成すること、および上記膜の表面の一部または全部に、プラズマを照射してプラズマ照射した部分をアルカリ溶液で溶解除去することを含む高分子膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子膜の製造方法に関する。さらに、該高分子膜の製造方法により製造された高分子膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポジ型感光性樹脂組成物において、光酸発生剤に光を照射して酸を発生させ、光照射した部分のみをアルカリ現像することが行われている(特許文献1、特許文献2)。しかしながら、このようなポジ型感光性樹脂組成物は、光に対する安定性が低いという問題がある。従って、ポジ型感光性組成物を一定期間(例えば、10日以上)、白色灯や黄色灯下で保存した場合、保存中に一部の光酸発生剤が酸を発生してしまう問題があった。
一方、特許文献3には、プラズマ照射によって、硬化膜を形成することが記載されている。しかしながら、ポジ型レジストに用いることについては、全く記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−328093号公報
【特許文献2】特開2008−158339号公報
【特許文献3】特開2005−523803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明は、ポジ型感光性樹脂組成物において、光酸発生剤を用いずに、特定の部分をアルカリ溶液で溶解して除去した高分子膜を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる状況のもと、本願発明者は光照射以外の方法によって、酸を発生させ、該部分をアルカリ溶液で除去することを検討した。具体的には、以下の手段<1>により、好ましくは<2>〜<9>により上記課題を解決した。
<1>(A)窒素カチオンを有するオニウム塩と
(B)アルカリ難溶性樹脂
を含有する組成物を支持体の上に適用して膜を形成すること、
および
上記膜の表面の一部または全部に、プラズマを照射してプラズマ照射した部分をアルカリ溶液で溶解除去することを含む高分子膜の製造方法。
<2>(A)窒素カチオンを有するオニウム塩が、第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩およびアルキルイミダゾリウム塩から選択される少なくとも1種である<1>に記載の高分子膜の製造方法。
<3>(A)窒素カチオンを有するオニウム塩が下記一般式(1)〜(3)のいずれかで表される部分構造を有する、<1>または<2>に記載の高分子膜の方法。
【化1】

(上記一般式(1)〜(3)中、R11、R21、R31、およびR41は、それぞれ、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を示す。R11、R21、R31、およびR41の2つは、互いに結合して、環を形成してもよい。R51、R71、およびR81は、それぞれ、置換基を有していてもよいアルキル基を示す。R61およびR91は、ぞれぞれ、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアシロキシ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、または、ハロゲン原子を示す。nは0〜3の整数を示す。nが2以上の場合、R61は、互いに結合して、環を形成してもよい。mは0〜3の整数を示す。mが2以上の場合、R91は、互いに結合して、環を形成してもよい。X-は、Cl-、Br-、I-、R1−SO3-、NO3-、R1−COO-、AlO2-、ClO4-、B(C654-、R1−O-、PF6-、BF4-、SbF6-、GaF6-またはAsF6-(但し、R1は置換基を有していてもよいアルキル基、または、置換基を有していてもよいアリール基である。)を表し、R11〜R91は、2価の有機基を介してR1と化学結合を形成してもよい。)
<4>(A)窒素カチオンを有するオニウム塩が下記一般式(4)で表される、<1>または<2>に記載の高分子膜の製造方法。
【化2】

(一般式(4)中、R72、R82、およびR92は、それぞれ、炭素数4以下のアルキル基を表し、
-は、R1−SO3-、ClO4-、B(C654-、PF6-、BF4-、SbF6-、GaF6-またはAsF6-を示す。mは0〜3の整数を示す。mが2以上の場合、R91は、互いに結合して、環を形成してもよい。)
<5>(A)窒素カチオンを有するオニウム塩がイオン液体である、<1>〜<4>のいずれか1項に記載の高分子膜の製造方法。
<6>(B)アルカリ難溶性樹脂が、アセタール変性ヒドロキシスチレン繰り返し単位、アセタール変性(メタ)アクリル繰り返し単位、および3級エステル変性(メタ)アクリル繰り返し単位の少なくとも1種を部分構造として含んでいることを特徴とする、<1>〜<5>のいずれか1項に記載の高分子膜の製造方法。
<7>前記支持体が、高分子フィルムである、<1>〜<6>のいずれか1項に記載の高分子膜の製造方法。
<8>プラズマが、低温大気圧プラズマである、<1>〜<7>のいずれか1項に記載の高分子膜の製造方法。
<9><1>〜<8>のいずれか1項に記載の高分子膜の製造方法によって製造された高分子膜。
【発明の効果】
【0006】
本発明における窒素カチオンを有するオニウム塩は、光に対して極めて安定であり、プラズマによって速やかに分解し、酸を発生するためこれをトリガーとしたアルカリ難溶性樹脂の酸分解が進行して極性変化が生じ、アルカリへの溶解性が増大させることが可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0008】
本発明は、(A)窒素カチオンを有するオニウム塩と(B)アルカリ難溶性樹脂を含有する組成物を支持体の上に適用して膜を形成すること、および上記膜の表面の一部または全部に、プラズマを照射してプラズマ照射した部分をアルカリ溶液で溶解除去することを含む高分子膜の製造方法を開示する。
従来、ポジ型樹脂組成物においては、支持体の上に適用して膜を形成した後、上記膜表面の一部または全部に、光照射により酸発生剤を発生させて、アルカリ溶液で溶解除去していた。しかしながら、このようなポジ型樹脂組成物は光に不安定であるというデメリットがあった。本発明では、酸発生剤として、窒素カチオンを有するオニウム塩を用い、酸発生源に、プラズマ照射を採用することにより、従来技術の問題点を回避することに成功したものである。すなわち、本発明で用いる窒素カチオンを有するオニウム塩は、高エネルギーかつ高還元性を有するプラズマによって速やかに分解し、酸を発生するためこれをトリガーとしたアルカリ難溶性樹脂の酸分解が進行して極性変化が生じ、アルカリへの溶解性が増大させることができる。
さらに、本発明における窒素カチオンを有するオニウム塩は、光や熱に対して極めて安定であり、かつ有機物への溶解性が高いため、白色灯での保存安定性(分解や析出抑制)に優れる。また適用形成した膜も光や熱に対して安定なため、基板保護剤としても使用することができる。
以下、本発明について、詳細に説明する。
【0009】
(A)窒素カチオンを有するオニウム塩
本発明で用いる窒素カチオンを有するオニウム塩は、いわゆる、プラズマ酸発生剤としての役割を果たす。すなわち、プラズマを照射することにより、照射された部分の窒素カチオンを有するオニウム塩オニウム塩のみに酸を発生させる。
窒素カチオンを有するオニウム塩は、第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩およびアルキルイミダゾリウム塩から選択される少なくとも1種であることが好ましく、アルキルピリジニウム塩およびアルキルイミダゾリウム塩から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、アルキルイミダゾリウム塩であることがさらに好ましい。分解後のイミダゾールは弱塩基であって発生する酸を中和しないため、酸発生剤としての機能をより維持しやすい。
オニウム塩はイオン液体(融点100℃以下)であることが、室温保管時の結晶析出抑制の観点で好ましい。
アルカリ難溶性樹脂の酸分解に伴う極性変換に使用するには、アニオンは、Cl-、Br-、I-、R1−SO3-、NO3-、R1−COO-、AlO2-、ClO4-、B(C654-、R1−O-、PF6-、BF4-、SbF6-、GaF6-またはAsF6-(但し、R1は置換基を有していてもよいアルキル基、または、置換基を有していてもよいアリール基である。)が好ましく、R1−SO3-、ClO4-、B(C654-、PF6-、SbF6-、GaF6-またはAsF6-がより好ましく、R1−SO3-がさらに好ましい。酸強度の観点からR1はフルオロアルキル基であることが好ましく、フルオロメチル基であることがより好ましい。
【0010】
(A)窒素カチオンを有するオニウム塩は、が下記一般式(1)〜(3)のいずれかで表される部分構造を有することが好ましい。
【化3】

(上記一般式(1)〜(3)中、R11、R21、R31、およびR41は、それぞれ、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を示す。R11、R21、R31、およびR41の2つは、互いに結合して、環を形成してもよい。R51、R71、およびR81は、それぞれ、置換基を有していてもよいアルキル基を示す。R61およびR91は、ぞれぞれ、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアシロキシ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、または、ハロゲン原子を示す。nは0〜3の整数を示す。nが2以上の場合、R61は、互いに結合して、環を形成してもよい。mは0〜3の整数を示す。mが2以上の場合、R91は、互いに結合して、環を形成してもよい。X-は、Cl-、Br-、I-、R1−SO3-、NO3-、R1−COO-、AlO2-、ClO4-、B(C654-、R1−O-、PF6-、BF4-、SbF6-、GaF6-またはAsF6-(但し、R1は置換基を有していてもよいアルキル基、または、置換基を有していてもよいアリール基である。)を表し、R11〜R91は、2価の有機基を介してR1と化学結合を形成してもよい。)
11、R21、R31、およびR41が有していてもよい置換基としては、フェニル基、アセチルカルボニル基、ビニル基、アニオンまたはカチオンを含む基が好ましい。カチオンとしては、窒素カチオンが好ましく、アニオンとしては、X-で表されるアニオンが好ましい。
11、R21、R31、およびR41は、無置換のアルキル基が好ましく、炭素数1〜10の無置換のアルキル基がより好ましく、炭素数2〜4の無置換のアルキル基がさらに好ましい。
51、R71、およびR81が有していてもよい置換基としては、R11、R21、R31、およびR41が有していてもよい置換基と同義であり好ましい範囲も同義である。
51、R71、およびR81は、それぞれ、炭素数1〜10の無置換のアルキル基が好ましく、炭素数2〜4の無置換のアルキル基がさらに好ましい。R61およびR91が有していてもよい置換基としては、R11、R21、R31、およびR41が有していてもよい置換基と同義であり好ましい範囲も同義である。
61およびR91は、ぞれぞれ、置換基を有していてもよいアルキル基が好ましく、炭素数1〜10の無置換のアルキル基がより好ましく、炭素数2〜4の無置換のアルキル基がさらに好ましい。X-は、上述のアニオンと同じ範囲が好ましい。
【0011】
(A)窒素カチオンを有するオニウム塩が下記一般式(4)で表されることがより好ましい。
【化4】

(一般式(4)中、R72、R82、およびR92は、それぞれ、炭素数4以下のアルキル基を表し、
-は、R1−SO3-、ClO4-、B(C654-、PF6-、BF4-、SbF6-、GaF6-またはAsF6-を示す。mは0〜3の整数を示す。mが2以上の場合、R91は、互いに結合して、環を形成してもよい。)
72、R82、およびR92およびY-の好ましい範囲は、それぞれ、上記一般式(3)のR71、R81、およびR91およびY-と同義であり、好ましい範囲も同義である。
【0012】
さらに、従来公知の光酸発生剤(スルホニウム塩、ヨードニウム塩)は白色灯下での保存安定性を劣化させたり、塗布膜の光や熱に対する安定性が劣化するため、本発明で用いる組成物は、光酸発生剤を実質的に含まないことが好ましい。実質的に含まないとは、本発明の効果に影響を与える範囲内で含まないことをいい、例えば、0.1重量%以下であることが挙げられる。
【0013】
イオン液体としては東京化成工業(株)社から市販されているイミダゾリウム塩、ピロリジニウム塩、ピリジニウム塩、アンモニウム塩を使用することができる。例えば、1,3−ジメチルイミダゾリウムクロライド、1,3−ジメチルイミダゾリウムジメチルホスフェート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムクロリド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヨージド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムメタンスルホネート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロトリフルオロメチルボレート、1−エチル−3メチルイミダゾリウムハイドロジェンスルフェート、1−エチル−3メチルイミダゾリウムエチルスルフェート、1−エチル−3メチルイミダゾリウム2−(2−メトキシエトキシ)エチルスルフェート、1−エチル−3メチルイミダゾリウムジシアナミド、1−エチル−3メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−エチル−3メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−エチル−3メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−エチル−3メチルイミダゾリウムp−トルエンスルホネート、1−エチル−3メチルイミダゾリウムテトラクロロフェレート、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムヨージド、1−ブチル−3メチルイミダゾリウムクロリド、1−ブチル−3メチルイミダゾリウムブロミド、1−ブチル−3メチルイミダゾリウムヨージド、1−ブチル−3メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート、1−ブチル−3メチルイミダゾリウムトリフルオロトリフルオロメチルボレート、1−ブチル−3メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−3メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−ブチル−3メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−ブチル−3メチルイミダゾリウムテトラクロロフェレート、1−ヘキシルー3−メチルイミダゾリウムクロリド、1−ヘキシルー3−メチルイミダゾリウムブロミド、1−ヘキシルー3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ヘキシルー3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウムクロリド、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウムブロミド、1−メチル−3−オクチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムヨージド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムクロリド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムポリエチレングリコールヘキサデシルエーテルスルフェートコーテッドリパーゼ、1−メチル−1−プロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムクロリド、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムブロミド、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−エチルピリジニウムクロリド、1−エチルピリジニウムブロミド、1−ブチルピリジニウムクロリド、1−ブチルピリジニウムブロミド、1−ブチルピリジニウムテトラフルオロボレート、1−ブチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1−ブチル−3−メチルピリジニウムクロリド、1−ブチル−3−メチルピリジニウムブロミド、1−エチル−3−メチルピリジニウムエチルスルフェート、1−エチル−3−メチルピリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−(ヒドロキシメチル)ピリジニウムエチルスルフェート、1−ブチル−4−メチルピリジニウムクロリド、1−ブチル−4−メチルピリジニウムブロミド、1−ブチル−4−メチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、アミルトリエチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリブチルメチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、メチルトリ−n−オクチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、シクロヘキシルトリメチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド などが挙げられる
【0014】
以下に、本発明で用いる(A)窒素カチオンを有するオニウム塩を例示するが、本発明がこれらに限られるものではないことは言うまでもない。
【化5】

【0015】
【化6】

【0016】
【化7】

【0017】
【化8】

【0018】
【化9】

【0019】
(A)窒素カチオンを有するオニウム塩は、本発明で用いる樹脂組成物中に、溶剤を除く全成分の0.5〜50重量%の割合で含まれることが好ましく、1〜10重量%の割合で含まれることがより好ましい。
【0020】
(B)アルカリ難溶性樹脂
本発明で用いるアルカリ難溶性樹脂は、アルカリ可溶性樹脂中のアルカリ親和性官能基の一部または全部を、酸の存在下で解離しうる1種以上の酸解離性基で保護した樹脂である。
前記アルカリ難溶性樹脂としては、前記アルカリ可溶性樹脂に対する前記酸解離性基の導入率が、16〜60モル%であるものが好ましく、18〜50モル%であるものがより好ましい。前記導入率を16モル%以上とすることにより、現像速度を適度に保つことができ、適正なパターン形成がより効果的に行うことが可能になる。60モル%以下とすることにより、現像性が遅すぎて、十分な感度が得られないことをより効果的に抑制できる。なお、前記導入率は、前記アルカリ難溶性樹脂における、前記酸解離性基のモル数と、アルカリ親和性官能基のモル数との合計値における、前記酸解離性基のモル数の割合である。
前記アルカリ難溶性樹脂における酸解離性基の導入率を測定方法としては、例えば、前記酸解離性基を反応させた後、未反応の酸解離性基をガスクロマトグラフィー法で検出し、前記酸解離性基の導入率を算出する方法、反応生成物をプロトンNMR測定することにより、前記酸解離性基の導入率を測定する方法、などが挙げられる。
本発明では特に、アセタール変性ヒドロキシスチレン繰り返し単位、アセタール変性(メタ)アクリル繰り返し単位、および3級エステル変性(メタ)アクリル繰り返し単位の少なくとも1種を部分構造として含んでいることが好ましい。
【0021】
前記アルカリ難溶性樹脂における前記酸解離性基としては、置換アルキル基、シリル基、ゲルミル基、アルコキシカルボニル基、アシル基、飽和環式基などを挙げることができる。
【0022】
置換アルキル基としては、例えば、メトキシメチル基、メチルチオメチル基、エトキシメチル基、エチルチオメチル基、メトキシエトキシメチル基、ビニルオキシメチル基、ビニルチオメチル基、ベンジルオキシメチル基、ベンジルチオメチル基、フェナシル基、ブロモフェナシル基、メトキシフェナシル基、メチルチオフェナシル基、α−メチルフェナシル基、シクロプロピルメチル基、ベンジル基、トリフェニルメチル基、ジフェニルメチル基、ブロモベンジル基、ニトロベンジル基、メトキシベンジル基、メチルチオベンジル基、エトキシベンジル基、エチルチオベンジル基、ピペロニル基、1−メトキシエチル基、1−メチルチオエチル基、1,1−ジメトキシエチル基、1−エトキシエチル基、1−エチルチオエチル基、1,1−ジエトキシエチル基、1−ビニルオキシエチル基、1−ビニルチオエチル基、1−フェノキシエチル基、1−フェニルチオエチル基、1,1−ジフェノキシエチル基、1−ベンジルオキシエチル基、1−ベンジルチオエチル基、1−フェニルエチル基、1,1−ジフェニルエチル基、イソプロピル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、1,1−ジメチルプロピル基、1−メチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、2−ビニルオキシエチル基、2−ビニルチオエチル基、2−メチルアダマンタン、2−エチルアダマンタン、2−イソプロピルアダマンタン、シクロペンチルメチル基、シクロペンチルエチル基、シクロヘキシルエチル基、2−(1−アダマンチル)イソプロピル基等を挙げることができる。
【0023】
前記シリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、エチルジメチルシリル基、メチルジエチルシリル基、トリエチルシリル基、イソプロピルジメチルシリル基、メチルジイソプロピルシリル基、トリイソプロピルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、メチルジtert−ブチルシリル基、トリtert−ブチルシリル基、フェニルジメチルシリル基、メチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基等を挙げることができる。
【0024】
前記ゲルミル基としては、例えば、トリメチルゲルミル基、エチルジメチルゲルミル基、メチルジエチルゲルミル基、トリエチルゲルミル基、イソプロピルジメチルゲルミル基、メチルジイソプロピルゲルミル基、トリイソプロピルゲルミル基、tert−ブチルジメチルゲルミル基、メチルジtert−ブチルゲルミル基、トリtert−ブチルゲルミル基、フェニルジメチルゲルミル基、メチルジフェニルゲルミル基、トリフェニルゲルミル基等を挙げることができる。
【0025】
前記アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基等を挙げることができる。
【0026】
前記アシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、バレリル基、ピバロイル基、イソバレリル基、ラウリロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、オキサリル基、マロニル基、スクシニル基、グルタリル基、アジポイル基、ピペロイル基、スベロイル基、アゼラオイル基、セバコイル基、アクリロイル基、プロピオロイル基、メタクリル基、クロトノイル基、オレオイル基、マレオイル基、フマロイル基、メサコノイル基、カンホロイル基、ベンゾイル基、フタロイル基、イソフタロイル基、テレフタロイル基、ナフトイル基、トルオイル基、ヒドロアトロポイル基、アトロポイル基、シンナモイル基、フロイル基、テノイル基、ニコチノイル基、イソニコチノイル基、p−トルエンスルホニル基、メシル基等を挙げることができる。
【0027】
前記飽和環式基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキセニル基、4−メトキシシクロヘキシル基、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基、テトラヒドロチオピラニル基、テトラヒドロチオフラニル基、3−ブロモテトラヒドロピラニル基、4−メトキシテトラヒドロピラニル基、4−メトキシテトラヒドロチオピラニル基、S,S−ジオキシド基、2−1,3−ジオキソラニル基、2−1,3−ジチオキソラニル基、ベンゾ−2−1,3−ジオキソラニル基、ベンゾ−2−1,3−ジチオキソラニル基等を挙げることができる。
【0028】
前記アルカリ可溶性樹脂は、アルカリ水溶液からなるアルカリ現像液に可溶な樹脂であり、アルカリ水溶液と親和性を示す官能基を少なくとも1種以上有するものである。
前記アルカリ水溶液と親和性を示す官能基としては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、フェノール性水酸基、カルボキシル基、などが挙げられる。
【0029】
前記アルカリ可溶性樹脂の具体例としては、ビニル系樹脂およびノボラック型フェノール樹脂が好ましく、ポリヒドロキシスチレン樹脂、(メタ)アクリル樹脂およびノボラック型フェノール樹脂が例示される。
【0030】
前記ビニル系樹脂および前記ノボラック樹脂は、酸性官能基を含有する単量体に由来する構成単位を有する樹脂であることが好ましい。
前記酸性官能基を含有する単量体としては、例えば、ヒドロキシスチレン、ビニル安息香酸、スチリル酢酸、スチリルオキシ酢酸、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、などが挙げられる。
【0031】
ビニル系樹脂は、さらに、前記酸性官能基を含有する単量体以外の単量体からなる構成単位を有することができる。
前記酸性官能基を含有する単量体以外の単量体としては、例えば、重合性二重結合を有する単量体、などが挙げられる。
前記重合性二重結合を有する単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−アセトキシスチレン、p−tert−ブトキシスチレン、p−エトキシエトキシスチレン、ビニルトルエン、無水マレイン酸、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、マレインニトリル、フマロニトリル、メサコンニトリル、シトラコンニトリル、イタコンニトリル、(メタ)アクリルアミド、クロトンアミド、マレインアミド、フマルアミド、メサコンアミド、シトラコンアミド、イタコンアミド、ビニルアニリン、ビニルピリジン、ビニル−ε−カプロラクタム、ビニルピロリドン、ビニルイミダゾール、などが挙げられる。
前記ビニル系樹脂からなるアルカリ可溶性樹脂の製造方法としては、例えば、所要の単量体または単量体混合物を、重合開始剤または重合触媒を用いて、重合または共重合することにより製造することができる。
前記重合開始剤または重合触媒としては、特に制限はなく、前記単量体および反応触媒の種類に応じて適宜選択することができ、例えば、ラジカル重合開始剤、アニオン重合触媒、配位アニオン重合触媒、カチオン重合触媒、などが挙げられる。
前記重合または共重合の方法としては、特に制限はなく、前記ビニル系樹脂の種類に応じて適宜選択することができ、例えば、塊状重合、溶液重合、沈澱重合、乳化重合、懸濁重合、塊状−懸濁重合、等の方法が挙げられる。
【0032】
−ノボラック型フェノール樹脂からなるアルカリ難溶性樹脂−
前記ノボラック樹脂からなるアルカリ難溶性樹脂は、前記ノボラック樹脂の側鎖と、ビニルエーテル化合物およびイソプロペニルエーテル化合物のいずれかとを反応させることにより得ることができる。
【0033】
前記ノボラック樹脂の製造方法としては、例えば、フェノール類1モルに対して、アルデヒド類0.6〜1.0モルを、酸性触媒下で付加縮合する方法が挙げられる。
【0034】
前記フェノール類としては、例えば、フェノール、p−クレゾール、m−クレゾール、o−クレゾール、2,3−ジメチルフェノール、2,4−ジメチルフェノール、2,5−ジメチルフェノール、2,6−ジメチルフェノール、3,4−ジメチルフェノール、3,5−ジメチルフェノール、2,3,4−トリメチルフェノール、2,3,5−トリメチルフェノール、3,4,5−トリメチルフェノール、2,4,5−トリメチルフェノール、メチレンビスフェノール、メチレンビスp−クレゾール、レゾルシン、カテコール、2−メチルレゾルシン、4−メチルレゾルシン、o−クロロフェノール、m−クロロフェノール、p−クロロフェノール、2,3−ジクロロフェノール、p−メトキシフェノール、m−メトキシフェノール、p−ブトキシフェノール、o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール、2,3−ジエチルフェノール、2,5−ジエチルフェノール、p−イソプロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、α−ナフトール、β−ナフトール・4−フェニルフェノールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、クレゾール、ジメチルフェノール、トリメチルフェノールなどのアルキルフェノールの複数混合物が好ましい。
また、前記フェノール類としては、置換基でさらに置換されている置換フェノール類として用いることができる。前記置換フェノール類としては、前記フェノール類のモノメチロール化体、ジメチロール化体、などが挙げられる。
【0035】
前記アルデヒド類としては、例えば、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、グリオキザール、クロロアセトアルデヒド、ジクロロアセトアルデヒド、ブロモアルデヒドなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0036】
前記酸性触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、蟻酸、シュウ酸、酢酸等が挙げられる。
【0037】
前記ノボラック型フェノール樹脂としては、現像ラチチュードの広いフォトレジストを得るために、比較的狭い分子量分布を有しているのが好ましい。このような分子量分布の広がりは、一般に重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比、即ち、Mw/Mn値(分散度)で表すことができる。該分散度は、該分子量分布が広いほど数値が大きくなり、分子量分布のないものでは1となる。典型的なポジ型フォトレジストに用いられるノボラック樹脂は比較的広い分子量分布を有しており、例えば、特聞昭62−172341号公報に示されているように、多くは分散度が5〜10の間にある。また、SPIEブロシーディンク「Advances in Resist Technology and Processing V」第920巻、349ページには、分散度の値が3.0のものよりは、4.55〜6.75のものの方が高いγ値を与えることが示唆されている。
【0038】
前記ノボラック型フェノール樹脂の分散度は、前記分散度(Mw/Mn)がこれらと異なり、1.5〜4.0であるのが好ましく、2.0〜3.5であるのがより好ましい。前記分散度が1.5未満であると、前記ノボラック型フェノール樹脂を合成する上で、高度の精製工程を要するので実用上の現実性を欠くために不適切であり、4.0を超えると、広い現像ラチチュードが得られないことがある。
【0039】
上述した分散度を有するノボラック型フェノール樹脂を製造するには様々な方法が考えられる。例えば、特定のフェノール性モノマーの選択、縮合反応条件の選択、さらには分散度の大きな通常のノボラック型フェノール樹脂を分別沈澱する、などの方法で得ることができるが、これらのいずれの方法を用いて製造したものであってもよい。
【0040】
前記ノボラック樹脂の質量平均分子量(Mw)は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1,000〜50,000が好ましく、2,000〜30,000がより好ましい。前記質量平均分子量(Mw)が、50,000を超えると、感度が低下したり、解像性が劣化することがあり、1,000未満であると、現像液耐性が不良になることがあり、適正なパターンが得られないということがある。
【0041】
前記ビニルエーテル化合物としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、メチルチオメチルビニルエーテル、エチルチオメチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、などが挙げられる。これらの中でも、耐熱性の点で、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテルが好ましい。
前記イソプロペニルエーテル化合物としては、例えば、メチルイソプロペニルエーテル、エチルイソプロペニルエーテル、メチルチオメチルイソプロペニルエーテル、n−プロピルイソプロペニルエーテル、ベンジルイソプロペニルエーテル,tert−ブチルイソプロペニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、などが挙げられる。これらの中でも、耐熱性の点で、メチルイソプロペニルエーテル、エチルイソプロペニルエーテル、ベンジルイソプロペニルエーテルが好ましい。
【0042】
前記ノボラック樹脂の側鎖と、前記ビニルエーテル化合物および前記イソプロペニルエーテル化合物のいずれかとの反応させる方法としては、例えば、テトラヒドロフラン、アセトン、1,4−ジオキサン、塩化メチレン、ジメトキシエタン、等の有機溶剤中、適当な酸(例えば、硫酸、塩酸、p−トルエンスルホン酸、クロロスルホン酸またはピリジン塩、硫酸またはピリジン塩、p−トルエンスルホン酸またはピリジン塩、など)の存在下で、10〜100℃で1〜20時間反応させる方法、などが挙げられる。
【0043】
前記ノボラック樹脂からなるアルカリ難溶性樹脂における酸解離性基としては、前記酸解離性基と同様のものが挙げられる。
【0044】
前記ノボラック樹脂からなるアルカリ難溶性樹脂の具体例としては、例えば、1−メトキシ−1−メチルエトキシ基を酸解離性基とするノボラック樹脂、1−ベンジルオキシ−1−メチルエトキシ基を酸解離性基とするノボラック樹脂、1−エトキシエトキシ基を酸解離性基とするノボラック樹脂、などが挙げられる。
【0045】
−ポリヒドロキシスチレン樹脂からなるアルカリ難溶性樹脂−
前記ポリヒドロキシスチレン樹脂からなるアルカリ難溶性樹脂は、前記ポリヒドロキシスチレン樹脂と、ビニルエーテル化合物、およびイソプロペニルエーテル化合物のいずれかとを反応させることによる得ることができる。
【0046】
前記ポリヒドロキシスチレン樹脂としては、例えば、側鎖にヒドロキシル基(−OH)、カルボキシル基(−COOH)を有するアルカリ可溶性樹脂が挙げられる。これらの中でも、アリールオキシ基(−Ar−OH)を有するアルカリ可溶性樹脂が好ましい。前記Arは、単環および多環のいずれかの芳香族基を表し、これらは、置換基によりさらに置換されていてもよい。
【0047】
前記ポリヒドロキシスチレン樹脂の母体樹脂としては、フェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂が挙げられる。
前記フェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、例えば、ヒドロキシスチレン、およびヒドロキシ−α−メチルスチレンのいずれかの繰り返し単位を30モル%以上含有するものが好ましく、50モル%以上含有するものがより好ましい。
前記ヒドロキシスチレンとしては、例えば、o−ヒドロキシスチレン、m−ヒドロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレンが挙げられる。
前記ヒドロキシ−α−メチルスチレンとしては、例えば、o−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、m−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、p−ヒドロキシ−α−メチルスチレンが挙げられる。
前記フェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、共重合体、およびホモポリマーが挙げられる。
前記フェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、前記繰り返し単位におけるベンゼン核が、部分的に水素添加された樹脂であることが好ましく、p−ヒドロキシスチレンホモポリマーであることがより好ましい。
前記フェノール性水酸基を有するアルカリ可溶性樹脂が共重合である場合、前記ヒドロキシスチレンおよびヒドロキシ−α−メチルスチレン以外のモノマーとしては、例えば、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、無水マレイン酸、スチレン、α−メチルスチレン、アセトキシスチレン、アルコキシスチレン類、アルキルスチレン類が好ましく、スチレン、アセトキシスチレン、tert−ブチルスチレンがより好ましい。
【0048】
前記ポリヒドロキシスチレン樹脂の質量平均分子量(Mw)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、2,000〜50,000が好ましく、3,000〜30,000がより好ましい。前記質量平均分子量(Mw)が大きすぎると、感度が低下したり、解像性が劣化することがある。
【0049】
前記ポリヒドロキシスチレンからなるアルカリ難溶性樹脂は、前記ビニルエーテル化合物を、テトラヒドロフラン等の適当な溶媒に溶解したポリヒドロキシスチレンと既知の方法により反応させることで得ることができる。前記反応は、酸性の触媒の存在下で行われることが好ましい。
前記酸性の触媒としては、例えば、酸性イオン交換樹脂、塩酸、p−トルエンスルホン酸、ピリジニウムトシレートが挙げられる。
前記ビニルエーテル化合物の具体例としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、メチルチオメチルビニルエーテル、エチルチオメチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、などが挙げられる。これらの中でも、耐熱性の点で、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテルが好ましい。
前記ビニルエーテルの合成方法としては、例えば、クロロエチルビニルエーテルのような活性な原料から、求核置換反応等の方法により合成する方法が採用できる。前記クロロエチルビニルエーテルのような活性な原料から、求核置換反応等の方法により合成する方法としては、水銀やパラジウム触媒を用いて合成することができる。
前記ビニルエーテルの合成方法としては、アルコールとビニルエーテルを用いてアセタール交換する方法によっても合成方法、などが挙げられる。
前記アルコールとビニルエーテルを用いてアセタール交換する方法としては、アルコールに導入したい置換基を付加し、酸存在下で、前記ビニルエーテルと反応させる方法である。前記ビニルエーテルとしては、tert−ブチルビニルエーテルのような比較的不安定なビニルエーテルを混在させることが好ましい。前記酸としては、p−トルエンスルホン酸、ピリジニウムトシレートが挙げられる。
【0050】
前記ポリヒドロキシスチレン樹脂からなるアルカリ難溶性樹脂における酸解離性基としては、置換アルキル基、シリル基、ゲルミル基、アルコキシカルボニル基、アシル基、飽和環式基、などが挙げられる。
【0051】
前記置換アルキル基としては、例えば、メトキシメチル基、メチルチオメチル基、エトキシメチル基、エチルチオメチル基、メトキシエトキシメチル基、ビニルオキシメチル基、ビニルチオメチル基、ベンジルオキシメチル基、ベンジルチオメチル基、フェナシル基、ブロモフェナシル基、メトキシフェナシル基、メチルチオフェナシル基、α−メチルフェナシル基、シクロプロピルメチル基、ベンジル基、トリフェニルメチル基、ジフェニルメチル基、ブロモベンジル基、ニトロベンジル基、メトキシベンジル基、メチルチオベンジル基、エトキシベンジル基、エチルチオベンジル基、ピペロニル基、1−メトキシエチル基、1−メチルチオエチル基、1,1−ジメトキシエチル基、1−エトキシエチル基、1−エチルチオエチル基、1,1−ジエトキシエチル基、1−ビニルオキシエチル基、1−ビニルチオエチル基、1−フェノキシエチル基、1−フェニルチオエチル基、1,1−ジフェノキシエチル基、1−ベンジルオキシエチル基、1−ベンジルチオエチル基、1−フェニルエチル基、1,1−ジフェニルエチル基、イソプロピル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、1,1−ジメチルプロピル基、1−メチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、2−ビニルオキシエチル基、2−ビニルチオエチル基、などが挙げられる。
【0052】
前記シリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、エチルジメチルシリル基、メチルジエチルシリル基、トリエチルシリル基、イソプロピルジメチルシリル基、メチルジイソプロピルシリル基、トリイソプロピルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、メチルジtert−ブチルシリル基、トリtert−ブチルシリル基、フェニルジメチルシリル基、メチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基、などが挙げられる。
【0053】
前記ゲルミル基としては、例えば、トリメチルゲルミル基、エチルジメチルゲルミル基、メチルジエチルゲルミル基、トリエチルゲルミル基、イソプロピルジメチルゲルミル基、メチルジイソプロピルゲルミル基、トリイソプロピルゲルミル基、tert−ブチルジメチルゲルミル基、メチルジtert−ブチルゲルミル基、トリtert−ブチルゲルミル基、フェニルジメチルゲルミル基、メチルジフェニルゲルミル基、トリフェニルゲルミル基、などが挙げられる。
【0054】
前記ポリヒドロキシスチレン樹脂からなるアルカリ難溶性樹脂は、特開平05−249682号公報記載のように、予め保護基を反応させたモノマーを共重合させて得る事も可能である。
【0055】
前記ポリヒドロキシスチレン樹脂からなるアルカリ難溶性樹脂の具体例としては、例えば、p−1−メトキシ1メチルエトキシスチレン−p−ヒドロキシスチレン重合体、p−1−ベンジルオキシ−1−メチルエトキシスチレン−p−ヒドロキシスチレン重合体、p−1−エトキシエトキシスチレン−p−ヒドロキシスチレン重合体、p−1−メトキシエトキシスチレン−p−ヒドロキシスチレン重合体、p−1−n−ブトキシエトキシスチレン−p−ヒドロキシスチレン重合体、p−1−イソブトキシエトキシスチレン−p−ヒドロキシスチレン重合体、p−1−(1,1−ジメチルエトキシ)−1−メチルエトキシスチレン−p−ヒドロキシスチレン重合体、m−1−(2−クロロエトキシ)エトキシスチレン−m−ヒドロキシスチレン重合体、p−tert−ブトキシカルボニルオキシスチレン−p−ヒドロキシスチレン重合体、p−1−メトキシ−n−プロピルオキシスチレン−p−ヒドロキシスチレン重合体、p−テトラヒドロピラニルオキシスチレン−p−ヒドロキシスチレン重合体、p−1−シクロヘキシルオキシエトキシスチレン−p−ヒドロキシスチレン重合体、m−1−(2−エチルヘキシルオキシ)エトキシスチレン−m−ヒドロキシスチレン重合体、p−1−メトキシ−1−メチルエトキシ−α−メチルスチレン−p−ヒドロキシ−α−メチルスチレン重合体、p−1−エトキシエトキシスチレン−p−ヒドロキシスチレン−アクリロニトリル重合体、p−1−エトキシエトキシスチレン−p−ヒドロキシスチレン−フマロニトリル重合体、p−1−n−ブトキシエトキシスチレン−p−ヒドロキシスチレン−メタクリル酸メチル重合体、p−1−シクロヘキシル−1−エトキシエトキシスチレン−p−ヒドロキシスチレン−メタクリル酸tert−ブチル重合体、p−1−メトキシシクロヘキシルオキシスチレン−p−ヒドロキシスチレン重合体、p−1−エトキシ1メチルエトキシスチレン−p−ヒドロキシスチレン重合体、p−1−シクロペンチルオキシエトキシスチレン−p−ヒドロキシスチレン重合体、p−1−(2−クロロエトキシ)エトキシスチレン−p−ヒドロキシスチレンーメタクリル酸tert−ブチル重合体、m−1−シクロヘキシルオキシエトキシスチレン−m−ヒドロキシスチレン−無水マレイン酸重合体等が挙げられる。
【0056】
−(メタ)アクリル樹脂からなるアルカリ難溶性樹脂−
前記(メタ)アクリル樹脂からなるアルカリ難溶性樹脂は、酸解離性基を有する(メタ)アクリルモノマーをラジカル共重合することで得ることができる。酸解離性基としては、置換アルキル基、シリル基、ゲルミル基、アルコキシカルボニル基、アシル基、飽和環式基、などが挙げられる。
【0057】
本発明における(B)アルカリ難溶性樹脂は、組成物中、溶剤を除く全成分に対し、50〜99重量%の範囲で含まれることが好ましく、70〜95重量%の範囲で含まれることがより好ましい。
【0058】
本発明で用いる組成物には、(A)窒素カチオンを有するオニウム塩と(B)アルカリ難溶性樹脂のほか、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、溶剤、架橋剤、シランカップリング剤、界面活性剤、酸化防止剤等を含んでいてもよい。
【0059】
溶剤
本発明における組成物は、通常、溶剤を含有する。溶剤は、各成分の溶解性や塗布性を満足すれば、基本的には特に制限はない。溶剤としては、1種又は2種以上の有機溶媒が使用できる。また、溶剤として、水、及び水と1種以上の有機溶媒との混合溶媒を用いることもできる。
【0060】
前記溶剤の例には、特開2008−32803号公報の段落番号〔0187〕に記載の各種溶剤が含まれる。具体的には、溶剤として使用可能な有機溶媒の例には、酢酸エチル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、ギ酸アミル、酢酸イソアミル、酢酸イソブチル、プロピオン酸ブチル、酪酸イソプロピル、酪酸エチル、酪酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、オキシ酢酸アルキルエステル類(例:オキシ酢酸メチル、オキシ酢酸エチル、オキシ酢酸ブチル(具体的には、メトキシ酢酸メチル、メトキシ酢酸エチル、メトキシ酢酸ブチル、エトキシ酢酸メチル、エトキシ酢酸エチル等が挙げられる。))、3−オキシプロピオン酸アルキルエステル類(例:3−オキシプロピオン酸メチル、3−オキシプロピオン酸エチル等(具体的には、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル等が挙げられる。))、2−オキシプロピオン酸アルキルエステル類(例:2−オキシプロピオン酸メチル、2−オキシプロピオン酸エチル、2−オキシプロピオン酸プロピル等(具体的には、2−メトキシプロピオン酸メチル、2−メトキシプロピオン酸エチル、2−メトキシプロピオン酸プロピル、2−エトキシプロピオン酸メチル、2−エトキシプロピオン酸エチル等が挙げられる。))、2−オキシ−2−メチルプロピオン酸メチル、2−オキシ−2−メチルプロピオン酸エチル(具体的には、2−メトキシ−2−メチルプロピオン酸メチル、2−エトキシ−2−メチルプロピオン酸エチル等が挙げられる。)、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸プロピル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、2−オキソブタン酸メチル、2−オキソブタン酸エチル等のエステル類が含まれる。
【0061】
また、溶剤として使用可能な有機溶媒の例には、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME:別名1−メトキシ−2−プロパノール)、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA:別名1−メトキシ−2−アセトキシプロパン)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート等のエーテル類が含まれる。
【0062】
また、溶剤として使用可能な有機溶媒の例には、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン等のケトン類が含まれる。
また、溶剤として使用可能な有機溶媒の例には、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が含まれる。
【0063】
これらの有機溶媒は、各成分の溶解性、塗布面状の改良などの観点から、2種以上を混合してもよい。この場合、特に好ましくは、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、エチルセロソルブアセテート、乳酸エチル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、酢酸ブチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、2−ヘプタノン、シクロヘキサノン、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールメチルエーテル、及びプロピレングリコールメチルエーテルアセテートから選択される2種以上で構成される混合溶媒である。
【0064】
また、前記組成物中における溶剤の含有量としては、塗布性の観点から、組成物中の全固形分濃度が1〜50質量%になる量とすることが好ましく、2質量%〜40質量%になる量がより好ましく、5質量%〜30質量%になる量が更に好ましい。
【0065】
界面活性剤
本発明に用いる組成物は、塗布性をより向上させる観点から、1種以上の界面活性剤を含有していてもよい。界面活性剤としては、フッ素系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤などのいずれの界面活性剤も使用することができる。また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0066】
特に、前記組成物がフッ素系界面活性剤を含有していると、塗布液として調製したときの液特性(特に、流動性)がより向上し、塗布厚の均一性や省液性をより改善することができる。フッ素系界面活性剤を含有する前記組成物からなる塗布液を用いて膜形成する態様では、支持体の被塗布面と該塗布液との界面張力が低下し、被塗布面への濡れ性が改善され、被塗布面への塗布性が向上する。このため、前記態様では、少量の液量で数nm〜数μm程度の薄膜を形成した場合であっても、厚みムラの小さい均一厚の膜を形成できるので、薄膜の形成においてより有効である。
【0067】
フッ素系界面活性剤中のフッ素含有率は、3質量%〜40質量%であるのが好ましく、より好ましくは5質量%〜30質量%であり、特に好ましくは7質量%〜25質量%である。フッ素含有率がこの範囲内であるフッ素系界面活性剤は、塗布膜の厚さの均一性や省液性の点で効果的であり、前記組成物中における溶解性も良好である。
【0068】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、メガファックF171、同F172、同F173、同F176、同F177、同F141、同F142、同F143、同F144、同R30、同F437、同F475、同F479、同F482、同F554、同F780、同F781(以上、DIC(株)製)、フロラードFC430、同FC431、同FC171(以上、住友スリーエム(株)製)、サーフロンS−382、同SC−101、同SC−103、同SC−104、同SC−105、同SC1068、同SC−381、同SC−383、同S393、同KH−40(以上、旭硝子(株)製)、ソルスパース20000(日本ルーブリゾール(株)製)等が挙げられる。
【0069】
ノニオン系界面活性剤として具体的には、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールジラウレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ソルビタン脂肪酸エステル(BASF社製のプルロニックL10、L31、L61、L62、10R5、17R2、25R2、テトロニック304、701、704、901、904、150R1等が挙げられる。
【0070】
カチオン系界面活性剤として具体的には、フタロシアニン誘導体(商品名:EFKA−745、森下産業(株)製)、オルガノシロキサンポリマーKP341(信越化学工業(株)製)、(メタ)アクリル酸系(共)重合体ポリフローNo.75、No.90、No.95(共栄社油脂化学工業(株)製)、W001(裕商(株)製)等が挙げられる。
【0071】
アニオン系界面活性剤として具体的には、W004、W005、W017(裕商(株)社製)等が挙げられる。
【0072】
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、東レ・ダウコーニング(株)製「トーレシリコーンDC3PA」、「トーレシリコーンSH7PA」、「トーレシリコーンDC11PA」,「トーレシリコーンSH21PA」,「トーレシリコーンSH28PA」、「トーレシリコーンSH29PA」、「トーレシリコーンSH30PA」、「トーレシリコーンSH8400」、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製「TSF−4440」、「TSF−4300」、「TSF−4445」、「TSF−4460」、「TSF−4452」、信越シリコーン株式会社製「KP341」、「KF6001」、「KF6002」、ビックケミー社製「BYK307」、「BYK323」、「BYK330」等が挙げられる。
【0073】
本発明において、前記組成物は、界面活性剤を含んでいても含んでいなくてもよいが、含む場合、界面活性剤の含有量は、前記組成物の全固形分質量に対して、0.001質量%以上1質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上0.1質量%以下であることがより好ましい。
【0074】
本発明の組成物を用いて高分子膜を製造する方法について述べる。
本発明の高分子膜の製造方法は、(A)窒素カチオンを有するオニウム塩と(B)アルカリ難溶性樹脂を含有する組成物を支持体の上に適用して膜を形成すること、および上記膜の一部の面または全面に、プラズマを照射してプラズマ照射した部分をアルカリ溶液で溶解除去することを含む。
より好ましくは、本発明の高分子膜の製造方法は、以下の(1)〜(4)を含むことを特徴とする。
(1)組成物を支持体上に適用する工程
(2)適用された組成物から溶剤を除去する工程
(3)プラズマ照射する工程
(4)現像する工程
【0075】
(1)の適用工程では、通常、組成物を支持体上に適用(通常は、塗布)して溶剤を含む湿潤膜とする。適用方法としては、例えば、スピンコート法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法により実施できる。また、インクジェットを利用してもよい。
支持体については、形状、材料等いずれの観点でも特に制限はない。管状体、平面状、又は帯状のいずれの形態であってもよい。また、多孔質体等、細孔を有する支持体であってもよく、該細孔の内面に膜を形成してもよい。また、有機材料、無機材料、及びこれらのハイブリッド材料からなるいずれの支持体を用いることができる。具体的には、高分子フィルムが好ましい。また、支持体の膜を形成する面は、平面及び曲面のいずれであってもよく、また微細な凹凸のある面であってもよい。具体的には、前記膜を形成する支持体の例には、フィルム、基板、シートの他、濾紙、メンブランフィルター、樹脂製チューブ、織物、綿、フェルト、及び羽毛等も挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0076】
(2)の溶剤除去工程では、適用された上記の膜から、減圧(バキューム)および/または加熱により、溶剤を除去して基板上に乾燥膜を形成させる。
【0077】
(3)プラズマ照射する工程では、形成された膜にプラズマ照射して、酸を発生させる。大気圧近傍の条件下で生成された低温大気圧プラズマを利用するのが好ましい。例えば、非平衡プラズマジェット、交流パルス放電による低温プラズマなどを用いることができ、いずれも大気圧近傍の条件下で生成されたプラズマを用いるのが好ましい。
【0078】
プラズマ照射には、種々の大気圧プラズマ装置を用いることができる。例えば、誘電体で覆われた電極間に大気圧近傍の圧力の不活性気体を通じつつ間欠放電を行うことにより低温プラズマを発生させることができる装置等が好ましく、いずれの装置も用いることができ、使用目的等に応じて種々の変型例を選択できる。より具体的には、特開2008−60115公報において、基盤プラズマ処理に用いられる装置、特開2004−228136公報に記載の常圧プラズマ装置、特開2006−21972公報、特開2007−188690公報、及び国際公開WO2005/062338、WO2007/024134、WO2007/145513などの明細書に記載のプラズマ装置などが挙げられる。また、大気圧プラズマ装置は市販品としても入手可能であり、例えば、アリオス(株)のATMP−1000、株式会社ハイデン研究所の大気圧プラズマ装置、(株)魁半導体のS5000型大気圧低温プラズマジェット装置、(株)ウェルのMyPL100、ILP−1500 、積水化学工業(株)のRD550 など、現在上市されている大気圧プラズマ装置もまた好適に使用しうる。しかし、プラズマの不均一な集中(ストリーマ)を避けて膜へのダメージを軽減するために、例えば、WO/2005/062338およびWO2007/024134の各明細書に記載された、放電部への通電をパルス制御素子経由で行なうなどの電気回路の工夫をした装置を用いることが好ましい。
なお、本発明における「大気圧プラズマ」における「大気圧近傍の圧力」とは、70kPa以上130kPa以下の範囲を指し、好ましくは90kPa以上110kPa以下の範囲である。
【0079】
大気圧プラズマの生成時に用いられる放電ガスとしては、窒素、酸素、水素、二酸化炭素、ヘリウム、及びアルゴンのいずれかのガス、又はこれらの2種以上の混合ガスを利用することができる。不活性気体であるHe及びAr等の希ガス、あるいは窒素ガス(N2)を用いることが好ましく、Ar又はHeの希ガスが特に好ましい。膜表面へのプラズマを適用することにより速やかにオニウム塩の還元分解とそれに伴う酸発生、アルカリ難溶性樹脂の脱保護反応が進行する。
【0080】
なお、プラズマ処理はバッチ方式でも、他の工程とつなげてインライン方式で行ってもよい。
【0081】
膜表面へのダメージを抑制するという観点からは、プラズマ作用部位と放電部位とを離すこと、または、放電回路の工夫によりプラズマの局所的集中(ストリーマ)の発生を抑制して、均一なプラズマを発生させること、が有効であり、特に後者は、大面積にわたる均一なプラズマ処理ができる点で好ましい。前者としては、放電により生じたプラズマを不活性気体の気流により膜表面まで搬送して接触させる方式が好ましく、特にいわゆるプラズマジェット方式が好ましい。この場合プラズマを含む不活性ガスを搬送する経路(導通管)は、ガラス、磁器、有機高分子などの誘電体であることが好ましい。後者としては、WO/2005/062338およびWO2007/024134号明細書に記載の、パルス制御素子経由で誘電体により覆われた電極に通電することによりストリーマが抑制された均一なグロープラズマを発生させる方式が好ましい。
【0082】
プラズマを含む不活性ガスの供給ノズルから膜表面までの距離は0.01mm〜100mmであることが好ましく、1mm〜20mmであることがより好ましい。
不活性ガスによる搬送方式の場合でも、WO2009/096785号明細書に記載の方式と同様にインライン方式でプラズマを膜表面に適用しうる。即ち、塗布法により有機薄膜形成用の膜を形成し、塗布工程の川下側に不活性ガスとプラズマとを表面に適用しうる吹き出しノズルなどを設けることで、連続的に有機薄膜の形成が可能となる。
【0083】
なお、酸素由来の化学種の取り込みを減少させるといった観点からは、プラズマ処理を施す領域に、不活性気体を十分に供給するか、その領域を不活性ガスで充満させてもよい。このような不活性ガスによるプラズマの搬送を行う際には、プラズマ点灯以前からプラズマ発生部位に不活性ガスを流しておき、プラズマ消灯後にも不活性ガスを流し続けることが好ましい。
【0084】
プラズマ処理後の不活性ガスについては、プラズマの寿命が短時間であることから、特段の処理を行わず排気してもよいが、処理領域の近傍に吸気口を設けて処理済みの不活性ガスを回収してもよい。
【0085】
プラズマ照射時の温度は、プラズマ照射される膜中の材料の特性に応じて任意の温度を選択できるが、大気圧低温プラズマを照射することによってもたらされる温度上昇が小さいほうが、ダメージを軽減できるので好ましい。前記プラズマ適用領域をプラズマ発生装置から離間させることで、その効果がより向上する。
【0086】
前記方法において、大気圧低温プラズマを選択して照射することで、プラズマからの熱エネルギーの供給を軽減でき、膜の温度上昇を抑制することができる。プラズマ照射されることによる膜の温度上昇は、50℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましく、20℃以下が特に好ましい。
プラズマ照射時の温度は、プラズマ照射される膜中の材料の耐え得る温度以下であることが好ましく、一般的には、−196℃以上150℃未満が好ましく、−21℃以上100℃以下がより好ましい。特に好ましくは、環境温度雰囲気下である室温(25℃)近傍である。
【0087】
前記方法により、支持体の表面の少なくとも一部にアルカリ可溶性膜が形成される。形成されるアルカリ可溶性膜の厚みについては特に制限はないが、プラズマを利用する本発明の方法は、薄膜の形成に有利であり、具体的には、本発明の方法により製造される硬化膜の厚みは1〜500nmであるのが好ましく、1〜200nmであるのがより好ましく、1〜100nmであるのがさらに好ましい。特に、本発明では、極表面だけをプラズマ処理して、反応を開始させることができるため、多層適用した場合に、隣接する層と混じりあわないというメリットがある。
【0088】
(4)の現像工程では、プラズマ照射によって生じたアルカリ可溶性膜を、アルカリ性現像液を用いて現像する。プラズマ照射した領域を除去することにより、ポジ画像が形成する。
【0089】
本発明の高分子膜の製造方法により製造された高分子膜は、平坦化膜や層間絶縁膜として、有機EL表示装置や液晶表示装置の用途に有用である。
また、本発明の高分子膜は、平坦化膜や層間絶縁膜以外にも、カラーフィルターの保護膜や、液晶表示装置における液晶層の厚みを一定に保持するためのスペーサーや固体撮像素子においてカラーフィルター上に設けられるマイクロレンズ等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0090】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0091】
窒素カチオンを有するオニウム塩を含有するプラズマ反応性組成物の調製
(1)実施例1
下記に示す成分量の成分を混合し、混合液を0.1μmのテトラフルオロエチレン製フィルターでろ過して、実施例1のプラズマ反応性塗布液を調液した。
・(A)窒素カチオンを有するオニウム塩(例示化合物A−1) 5質量部
・(B)アルカリ難溶性樹脂(下記B−1) 95質量部
・界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル) 0.1重量部
・溶剤:プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME) 900質量部
【0092】
(2)他の実施例および比較例
下記表に示す組成に変更して、実施例1と同様にして、塗布液をそれぞれ調製した。
【0093】
(3−1)部分プラズマ処理による残存膜の作成(実施例1〜7、比較例1〜3)
(塗布膜の形成)
上記で得られた各塗布液を、ポリエチレンテレフタレート基板(PET基板)上にスピンコート法でそれぞれ塗布し、その後、ホットプレート上で、60℃で1分間加熱してプラズマ反応性塗布膜を得た。膜厚は500nmであった。
【0094】
(プラズマ処理)
塗布膜に、株式会社魁半導体製、S5000型大気圧低温プラズマジェット装置(放電ガス:窒素)を走査して低温N2プラズマを1mm/秒の速度で30秒間照射した。酸解離性基の分解反応を進行させて、2.38質量%テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)水溶液にて60秒間浸漬させ、30秒間水でリンスして乾燥した。プラズマ照射部分がアルカリ現像されたポジ型パターン膜を形成した。
但し、実施例8では、N2プラズマに変えて、S5000型大気圧低温プラズマジェット装置(放電ガス:アルゴン)を走査してArプラズマを照射した。
【0095】
(3−2)部分プラズマ処理による残存膜の作成(比較例4)
上記と同様にして、厚さ500nmの塗布膜を形成し、大気圧プラズマの代わりにUVランプとしてUV LIGHT SOURCE EX250(HOYA−SCHOTT社製)を用い、フォトマスク(1cm×3cm)を介してUV照射量:1J/cm2となるように照射した。2.38質量%テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)水溶液にて60秒間浸漬させ、30秒間水でリンスして乾燥した。UV照射部分がアルカリ現像されたポジ型パターン膜を形成した。
【0096】
<性能評価>
各塗布組成物および各膜について、以下の評価をそれぞれ行った。
(1)保存安定性(白色灯、加熱試験)
上記で調製した各塗布組成物を、白色灯下で60℃に設定したサーモセルコに入れ、1ヶ月間保管した。光、熱に不安定なオニウム塩はこの段階で分解し、酸やラジカルが発生してしまうことで、共存するアルカリ難溶性樹脂が分解、低分子量化してしまい好ましくない。この溶液をGPC測定し、分子量変化を観察した。評価は下記基準に基づいて行った。
○:分子量変化が認められない。
△:分子量変化が5%未満であった。
×:分子量変化が5%以上であった。
【0097】
(2)保存安定性 黄色灯、冷蔵試験
上記で調製した各塗布組成物を、黄色灯下で0℃に設定したサーモセルコに入れ、1ヶ月間保管した。溶剤溶解性の低いオニウム塩はこの段階で結晶が析出したり溶液が白濁するため、均一な組成物が得られず好ましくない。この溶液を目視で観察した。評価は下記基準に基づいて行った。
◎:結晶析出や白濁が全く認められない。
○:白濁がわずかに認められる。
△:白濁が顕著に認められる。
×:白濁と同時に結晶析出が認められる。
【0098】
(3)照射部アルカリ溶解性
上記で形成したアルカリ現像されたポジ型パターンについて、目視で観察した。
○:速やかに現像され、現像残渣が全く認められない
△:現像残渣がわずかに見られる
×:現像されない
【0099】
(4)パターン膜耐光性
形成した各パターン膜について、強制耐光試験(LUX時間)を行った後2.38質量%テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド(TMAH)水溶液にて60秒間浸漬させ、30秒間水でリンスして乾燥した。耐光試験前後の重量変化を測定した。重量変化が小さいものほどパターン膜の光安定性が高く、野外等過酷条件下でのPET保護剤として使用できる。
◎:90%以上残存
○:60%以上90%未満残存
△:30%以上60%未満残存
×:30%未満残存
【0100】
【表1】

【0101】
以下に、使用した化合物を示す。
【化10】

【0102】
<B−1の合成法>
ポリヒドロキシスチレン(Mw15000)5gをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート30mLに溶解させ、ピリジニウムp−トルエンスルホナート0.05gとエチルビニルエーテル1.2gを加え室温で4時間攪拌した。酢酸エチルで希釈したのち純水100mLで3回洗浄した。有機層を30mLになるまで減圧溜去させて、ヘキサン200mLで晶析させた。得られた白色粉末B−1を4.8g(Mw15600)で得た。
<B−2の合成法>
p−アセトキシスチレン3gとメタクリル酸t−ブチル1.3gをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート50mLに溶解させ、N2気流下80℃で加熱攪拌した。これにアゾビスイソ酪酸ジメチル0.25gを加えてさらに6時間攪拌した。得られたポリマーをヘキサン200mLで晶析させた。この粉末をろ取し、テトラヒドロフラン50mLに再溶解させた。これに28%ナトリウムメトキシドメタノール溶液5g加えて室温下で2時間攪拌した。これを1%塩酸水溶液200mLに加えて得られた白色粉末B−2を3.8g(Mw8900)で得た。
<B−3の合成法>
メタクリル酸ベンジル7.2gと2−(1−アダマンタン)プロピルー2−メタクリレート3.5gをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート50mLに溶解させ、N2気流下80℃で加熱攪拌した。これにアゾビスイソ酪酸ジメチル0.25gを加えてさらに6時間攪拌した。得られたポリマーをヘキサン200mLで晶析させた。
得られた白色粉末B−3を7.1g(Mw10200)で得た。
<B−4の合成法>
メタクリル酸ベンジル12.6gとメタクリル酸2.4gをプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート50mLに溶解させ、N2気流下80℃で加熱攪拌した。これにアゾビスイソ酪酸ジメチル0.25gを加えてさらに6時間攪拌した。得られたポリマーをヘキサン200mLで晶析させた。これをろ取しプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート30mLに再溶解させ、ピリジニウムp−トルエンスルホナート0.05gとシクロヘキサンエチルビニルエーテル3.8gを加え室温で4時間攪拌した。酢酸エチルで希釈したのち純水100mLで3回洗浄した。有機層を30mLになるまで減圧溜去させて、ヘキサン200mLで晶析させた。得られた白色粉末B−4を10.5g(Mw12300)で得た。
【化11】

(A’−1)ビス(p−tert−ブチル)フェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート(TCI(株)社製)
(A’−2)トリス(p−トリル)スルホニウムヘキサフルオロホスフェート(TCI(株)社製)
【0103】
上記表から明らかな通り、窒素カチオンを有するオニウム塩にプラズマを照射し、酸を発生させることにより、部分的にアルカリ溶液で除去された膜を形成することが可能になった。特に、一般式(3)で表される窒素カチオンを有するオニウム塩を用いることにより、黄色灯下での保存安定性がより向上することが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)窒素カチオンを有するオニウム塩と
(B)アルカリ難溶性樹脂
を含有する組成物を支持体の上に適用して膜を形成すること、
および
上記膜の表面の一部または全部に、プラズマを照射してプラズマ照射した部分をアルカリ溶液で溶解除去することを含む高分子膜の製造方法。
【請求項2】
(A)窒素カチオンを有するオニウム塩が、第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩およびアルキルイミダゾリウム塩から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の高分子膜の製造方法。
【請求項3】
(A)窒素カチオンを有するオニウム塩が下記一般式(1)〜(3)のいずれかで表される部分構造を有する、請求項1または2に記載の高分子膜の方法。
【化1】

(上記一般式(1)〜(3)中、R11、R21、R31、およびR41は、それぞれ、置換基を有していてもよいアルキル基または置換基を有していてもよいアリール基を示す。R11、R21、R31、およびR41の2つは、互いに結合して、環を形成してもよい。R51、R71、およびR81は、それぞれ、置換基を有していてもよいアルキル基を示す。R61およびR91は、ぞれぞれ、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアシロキシ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、または、ハロゲン原子を示す。nは0〜3の整数を示す。nが2以上の場合、R61は、互いに結合して、環を形成してもよい。mは0〜3の整数を示す。mが2以上の場合、R91は、互いに結合して、環を形成してもよい。X-は、Cl-、Br-、I-、R1−SO3-、NO3-、R1−COO-、AlO2-、ClO4-、B(C654-、R1−O-、PF6-、BF4-、SbF6-、GaF6-またはAsF6-(但し、R1は置換基を有していてもよいアルキル基、または、置換基を有していてもよいアリール基である。)を表し、R11〜R91は、2価の有機基を介してR1と化学結合を形成してもよい。)
【請求項4】
(A)窒素カチオンを有するオニウム塩が下記一般式(4)で表される、請求項1または2に記載の高分子膜の製造方法。
【化2】

(一般式(4)中、R72、R82、およびR92は、それぞれ、炭素数4以下のアルキル基を表し、
-は、R1−SO3-、ClO4-、B(C654-、PF6-、BF4-、SbF6-、GaF6-またはAsF6-を示す。mは0〜3の整数を示す。mが2以上の場合、R91は、互いに結合して、環を形成してもよい。)
【請求項5】
(A)窒素カチオンを有するオニウム塩がイオン液体である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の高分子膜の製造方法。
【請求項6】
(B)アルカリ難溶性樹脂が、アセタール変性ヒドロキシスチレン繰り返し単位、アセタール変性(メタ)アクリル繰り返し単位、および3級エステル変性(メタ)アクリル繰り返し単位の少なくとも1種を部分構造として含んでいることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の高分子膜の製造方法。
【請求項7】
前記支持体が、高分子フィルムである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の高分子膜の製造方法。
【請求項8】
プラズマが、低温大気圧プラズマである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の高分子膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の高分子膜の製造方法によって製造された高分子膜。

【公開番号】特開2013−92706(P2013−92706A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235667(P2011−235667)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】