説明

高分子複合ゲル及びその製造方法

【課題】力学的強度に優れ、且つ、表面タック性や膨潤性が目的に応じて制御された高分子複合ゲル及びその乾燥体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】粘土鉱物を架橋点とする有機高分子(A)の三次元網目構造中に、一又は二以上の有機高分子(B)が分子鎖を絡ませた状態で捕捉されていることを特徴とする高分子複合ゲル、及び、水溶性有機モノマーの重合体であり、且つ粘土鉱物を架橋点とする有機高分子(A)の三次元網目構造中に、該水溶性有機モノマーと同種又は異種の有機モノマー(Bm)を侵入させ、その後該有機モノマー(Bm)を重合させて有機高分子(B)を形成することを特徴とする上記高分子複合ゲルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療、建築、土木、機械、運輸、電子部材、縫製、家庭用品、衛生用品、農業、食品などの分野で用いられる高分子ゲルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、高分子ゲルは医療、医薬、建築、土木、機械、運輸、電子部材、化学工業、レジャー産業、縫製、家庭用品、衛生用品、農業、食品などの幅広い分野で用いられている(例えば、ゲルハンドブック、エヌティーエス(株)、1997年)。かかる高分子ゲルの更なる展開のためには、力学物性、および膨潤性、膨潤/収縮変化、接着性などの機能性の改良が必要とされていた。従来の、有機架橋剤を使用したり、電子線やγ線照射により調製された高分子ゲルは、破断伸びや力学強度が小さく脆くて取り扱い性が悪い欠点を有していた。近年、本発明者の一人は、水溶性有機高分子と無機粘土鉱物からなる三次元網目を形成したヒドロゲルを開発し、従来にない優れた力学物性を有する高分子ゲルが得られることを報告した(特許文献1参照)。しかしながら、この高分子ゲルを実用的に用いようとする場合、力学物性、膨潤性、表面タック性などを始めとする機能性を更に改良した高分子複合ゲルの開発が求められていた。
【0003】
【特許文献1】特開平2002−53629
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、力学的強度に優れ、且つ、表面タック性や膨潤性が目的に応じて制御された高分子複合ゲル及びその乾燥体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究に取り組んだ結果、有機高分子と粘土鉱物が三次元網目を形成したゲル中に、同種又は異種の架橋又は未架橋の有機高分子を分子レベルで複合化させて含ませることにより、力学物性や膨潤性や収縮性をより広範囲に制御し、高めた高分子複合ゲル及びその乾燥体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち本発明は、粘土鉱物を架橋点とする有機高分子(A)の三次元網目構造中に、
一又は二以上の有機高分子(B)が分子鎖を絡ませた状態で捕捉されていることを特徴とする高分子複合ゲルを提供するものである。
【0007】
また、本発明は、水溶性有機モノマーの重合体であり、且つ粘土鉱物を架橋点とする有機高分子(A)の三次元網目構造中に、該水溶性有機モノマーと同種又は異種の有機モノマー(Bm)を侵入させ、その後該有機モノマー(Bm)を重合させて有機高分子(B)を形成することを特徴とする上記の高分子複合ゲルの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明における高分子複合ゲルは、表面タック性及び膨潤性が目的に応じて制御され、且つ力学的強度に優れている。したがって、医療/医薬、衛生用品、情報/電子材料、土木/建築材料、分析材料などの幅広い分野で有効に用いられる。また、複合化高分子ゲルから溶媒を除去して得られる高分子複合体(高分子複合ゲル乾燥体)も、機械的、熱的性質などに優れた複合材料として、また溶媒を吸収するゲル材料として有効に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明における高分子複合ゲルは、二つ以上の架橋状態の異なる有機高分子からなること、且つ少なくとも一つの有機高分子が粘土鉱物を用いて三次元網目を形成していることを必須とする。より詳しくは、本発明における高分子複合ゲルは、粘土鉱物を架橋点とする有機高分子(以後、この架橋型の有機高分子を有機高分子(A)と呼ぶ)の三次元網目構造中に、未架橋又は架橋型のいずれかの型の、一又は二以上の有機高分子(以後、この有機高分子を有機高分子(B)と呼ぶ)が分子鎖を絡ませた状態で捕捉されている構造を有している。なお、未架橋の有機高分子とは、直鎖状及び分岐状の有機高分子を意味するものとする。ここで前記一又は二以上の有機高分子には、異種の高分子のほか、同種の高分子であって架橋方法や架橋度により性質の異なる高分子となるものも含まれる。
【0010】
本発明で用いる、粘土鉱物と相互作用して粘土鉱物と三次元網目を形成する有機高分子(A)としては、好ましくは、水に溶解、膨潤したり、吸湿したりする水溶性高分子、親水性高分子、両親媒性高分子が用いられる。但し、粘土鉱物との相互作用により三次元網目の形成が可能であれば疎水性高分子を用いることも可能である。重合前の有機高分子(A)の単量体(有機モノマー(Am))としては、粘土鉱物と相互作用するアミド基、アミノ基、カルボン酸基、エーテル基、水酸基などの官能基や4級アンモニウムイオンなどのイオン性基を主鎖又は側鎖に含むものが好ましく、特に好ましくは、アミド基を有するもので、且つ水又は水と有機溶剤との混合溶媒に膨潤又は溶解する水溶性のものである。アミド基含有有機高分子としては、水に溶解又は膨潤するものは特に好ましく、アミド基以外に水と親和性を有する官能基(例えば、水酸基、アミノ基、エステル基、カルボン酸基、エーテル基)を併せて有するものであってもよい。
【0011】
例えば、アミド基含有の有機高分子(A)の具体例としては、N−アルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルアクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジアルキルメタクリルアミド、アクリルアミドなどのアミド基含有重合性モノマーの中から選択される1種又は2種以上を重合して得られる高分子が挙げられる。例えば、ポリ(N−メチルアクリルアミド)、ポリ(N−エチルアクリルアミド)、ポリ(N−シクロプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(N−メチルメタクリルアミド)、ポリ(N−シクロプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルメタクリルアミド)、ポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)、ポリ(N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−エチルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド)、ポリ(N,N−ジエチルアクリルアミド)、ポリ(N−アクリロイルピロリディン)、ポリ(N−アクリロイルモルフォリン)、ポリ(N−アクリロイルピペリディン)、ポリ(N−アクリロイルメチルホモピペラディン)、ポリ(N−アクリロイルメチルピペラディン)、ポリ(アクリルアミド)等が例示される。また上記アミド基含有モノマーとその他の重合性モノマーの併用も本発明にいう粘土鉱物との三次元網目が形成可能な限り用いることができる。
【0012】
有機高分子(B)は、有機高分子(A)と同種であっても異種であっても良い。有機高分子(B)としては、架橋されていない線状(又は分岐状)有機高分子、及び架橋有機高分子のいずれもが用いられ、有機高分子(A)と複合ゲルを形成可能であれば、有機高分子の種類や架橋の有無、架橋の形式は目的に応じて選択出来る。例えば、架橋された有機高分子(B)としては、有機架橋剤を用いて(共有結合により)架橋された有機高分子、粘土鉱物により架橋された有機高分子、それ以外の方法(例えば、イオン結合、配位結合、水素結合、疎水結合、微結晶形成、へリックス形成など)で架橋された有機高分子がいずれもが用いられる。また有機高分子(B)が粘土鉱物により架橋された有機高分子である場合は、有機高分子(A)と粘土鉱物を共有して架橋されたものであっても、有機高分子(A)とは別の粘土鉱物を用いて架橋されたものであっても良い。本発明における有機高分子(B)の種類の数としては少なくとも一つ以上であり、同種又は異種の複数の有機高分子(B)を含むことが可能である。
【0013】
本発明における有機高分子(B)としては、有機高分子(A)と同種又は異種のどちらであってもよく、有機高分子(A)の三次元網目の中に分子レベルで侵入出来るものが用いられる。有機高分子(B)の具体例としては、前記有機高分子(A)で述べたアミド基含有高分子で挙げた例のほか、エステル基、水酸基、アミノ基、カルボン酸基を有する有機高分子が含まれる。例えば、ポリ(2メトキシエチルアクリレート)、ポリ(2−ヒドロキシエチルアクリレート)、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ゼラチン、コラーゲン、コンドロチン硫酸ナトリウム、寒天、カラギーナン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリスチレン、ポリブチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド樹脂、ポリイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などがあげられる。なお、有機高分子(B)はその重合前の単量体(有機モノマー(Bm))が、必ずしも水溶性であるものに限定されず、有機溶媒に可溶又は分散可能であっても良い。なお、有機モノマー(Bm)に該当する化合物としては、低分子量の化合物のみではなくオリゴマーも含む。
【0014】
また、本発明における有機高分子(A)及び/又は(B)として、刺激応答性を有するもの、例えば、熱や塩濃度やpH等の変化により相転移を示すものは機能性発現、特に、膨潤/収縮の制御の点において好ましく用いられる。具体的には、例えば、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)やポリ(N,N−ジエチルアクリルアミド)などは特に好ましく用いられる。
【0015】
本発明における粘土鉱物としては、水又は有機溶剤に対して膨潤性を有することが必須である。好ましくは水又は水と有機溶剤との混合溶媒に均一分散可能な膨潤性粘土鉱物であり、特に好ましくは水を含む溶媒中で分子状又はそれに近いレベルで均一分散可能な膨潤性粘土鉱物である。且つ、粘土鉱物は有機高分子と相互作用して三次元網目を形成出来ることが必須である。かかる粘土鉱物としては、例えば、水膨潤性スメクタイトや水膨潤性雲母などの膨潤性粘土鉱物が用いられ、具体的には、ナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母などが挙げられる。本発明においては、膨潤性粘土鉱物は有機モノマー(Am)重合前の溶液中で微細且つ均一に分散していることが好ましく、より好ましくは1〜10層以内のナノメーターレベル(の厚み)で分散しているものである。含まれる粘土鉱物の量は、有機高分子と三次元網目を形成すれば良く特に限定されないが、例えば、有機高分子(A)中の粘度鉱物と有機高分子の質量比(粘土鉱物/有機高分子)が0.001〜10であることが好ましく、より好ましくは0.05〜5、特に好ましくは0.1〜1である。また、粘土鉱物と有機高分子との三次元網目形成には、粘土鉱物表面と有機高分子の末端との相互作用や、粘土鉱物表面と有機高分子の主鎖又は側鎖の官能基との相互作用などが単独又は組み合わせて用いられる。相互作用の種類としては粘土鉱物と有機高分子の種類、組み合わせにより種々のものが選択可能であり、例えば、イオン相互作用、配位結合、水素結合、共有結合、疎水相互作用などが単独又は複数組み合わせて用いられる。
【0016】
本発明においては、少なくとも一つの有機高分子の濃度が、高分子ゲルの表面から内部において、傾斜的になっている高分子ゲルも有効に用いられる。ここで濃度傾斜を示す有機高分子としては、有機高分子(A)又は有機高分子(B)から選ばれる一つ又は複数のいずれであってもよい。濃度傾斜は、高分子ゲルの形状に応じて、内部と外部、上部と下部といった具合に位置により有機高分子の濃度が異なるものであれば良く、その濃度分布や形態に用途に応じて適時選択され、特に限定されない。また、本発明においては、傾斜的な分布が有機高分子の架橋度の分布である場合も含まれる。例えば、有機高分子(B)が有機架橋剤で高度に架橋されており、且つ有機高分子(B)の濃度が表面付近で高く、内部が低くなるようにすると、本願の効果である表面タック性及び膨潤性が低く、且つ力学的強度に優れているばかりでなく、非溶解性、低吸着性、低膨潤性等にも優れたものになる。一方、非架橋の有機高分子(B)を強い絡み合いを有するように表面付近に局在化して複合化すると、本願の効果である力学物性に優れているばかりでなく、表面タック性、接着性を特に高くすることが可能となる。
【0017】
本発明における高分子複合ゲルは、有機高分子(A)と粘土鉱物からなる三次元網目が、架橋又は未架橋の有機高分子(B)と分子レベルで絡み合い、共存し、複合化したものであれば良く、製造方法は必ずしも限定されないが、好ましくは、以下の方法が具体的に例示される。まず有機高分子と粘土鉱物からなる三次元網目を形成した後、そのゲル中又はそれを乾燥して得られるゲル乾燥物中に、有機モノマー(Bm)を単独又は有機架橋剤と共に含ませた後、有機モノマー(Bm)を重合させる製造方法。または有機高分子(B)を溶媒と共にゲル中またはゲル乾燥物中に導入する方法。ここで、有機モノマー(Bm)や有機高分子(B)を含ませる前に溶媒を水から有機溶媒に置換することは有効な手段として用いられる。また、別の方法としては、未架橋又は粘土鉱物以外で架橋された有機高分子(B)を含む溶液又はゲル中に、粘土鉱物および有機モノマー(Am)を含ませた後、有機モノマー(Am)を重合させる製造方法があげられる。ここで粘土鉱物は予め含ませておいても良い。さらに別の方法として、重合性の異なる有機モノマー(Am)と有機モノマー(Bm)と粘土鉱物を共に含む水溶液を調製後、各有機モノマーの重合を例えば触媒や開始剤の種類を選択することで、ずらして行うことにより製造する方法があげられる。いずれの方法においても、ゲル中に含まれる溶媒は、水又は有機溶剤又は水と有機溶剤との混合溶媒のいずれの場合も用いられるし、有機モノマーが液状の場合は水や有機溶剤なしで用いることも可能である。ゲルに含まれる溶媒は、一端ゲルを乾燥した後、他の溶媒を含浸させる方法や、ゲル状態で溶媒置換させる方法などにより、製造過程において必要に応じて、溶媒種や比率が異なったものに変化させることが可能である。また本発明における高分子複合ゲルの製造方法においては、有機モノマーの重合に対して、必要に応じて、適切な開始剤および/又は触媒が選択して用いられる。また、可視光線、紫外線、電子線、ガンマ線、熱などの照射も必要に応じて用いられる。濃度傾斜を有する高分子複合ゲルの製造方法も必ずしも限定されないが、例えば、有機モノマー、架橋剤、開始剤、触媒の少なくとも一つの濃度を、含浸時間を局所的又は短時間にすることなどにより、ゲルの表面〜内部又は上部〜下部において傾斜的に変化させる方法などが例示される。
【0018】
更に本発明には、高分子複合ゲルから溶媒の一部又は全部を除去して得られる高分子複合ゲル乾燥体が含まれる。溶媒を除去する過程で、延伸、圧縮、切削加工などを行うことは有効である。高分子複合ゲル乾燥体はそのままで複合材料として用いられる他、溶媒を可逆的に吸収するゲル乾燥体としても用いられる。
【実施例】
【0019】
次いで本発明を実施例により、より具体的に説明するが、もとより本発明は、以下に示す実施例にのみ限定されるものではない。
【0020】
(参考例1)
粘土鉱物には、[Mg5.34Li0.66Si820(OH)4]Na0.66の組成を有する水膨潤性合成ヘクトライト(商標ラポナイトXLG、日本シリカ株式会社製)を100℃で2時間真空乾燥して用いた。有機モノマーは、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPA:興人株式会社製)を精製してから用いた。重合開始剤は、ペルオキソ二硫酸カリウム(PPS:関東化学株式会社製)をKPS/水=0.384/20(g/g)の割合で純水で希釈し、水溶液にして使用した。触媒は、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED:関東化学株式会社製)をそのまま使用した。水は超純水を用いた。水は全て高純度窒素を予め3時間以上バブリングさせ含有酸素を除去してから使用した。
【0021】
20℃の恒温槽において、攪拌器を備え内部を窒素置換した約50mlのガラス容器に、超純水18.98gを入れ、ラポナイトXLG0.48g、NIPA2.26gを加え均一な無色透明溶液を得た。次いで、KPS水溶液1.04gとTEMED16μlを加え、無色透明溶液を得た。この溶液を5cm×10cmの平底容器に厚みが3mmになるまでいれ、密栓した後、20℃で20時間静置して重合を行った。なお、これらの溶液調製から重合までの操作は全て酸素を遮断した窒素雰囲気下で行った。20時間後に平底ガラス容器内に弾力性、タフネスのあるポリN−イソプロピルアクリルアミド(PNIPA)と粘土鉱物が三次元網目を形成してなる無色透明・均一な高分子ゲル(有機高分子A1)が生成した。PNIPAと層状剥離した粘土鉱物が三次元網目を形成していることは、下記に示した透明性、力学物性、膨潤性、および乾燥ゲルに対する熱重量分析(粘土鉱物含有率測定)、透過型電子顕微鏡観察(層状剥離粘土鉱物の分散状態観察)、X線回折(粘土鉱物の層状剥離の確認)、示差走査熱量測定(PNIPAのガラス転移温度測定)により確認された。透明性は日本分光製UV/VISスペクトロメーターを用いて600nmで測定し、透過率が98%であった。力学物性は、この高分子ゲルを幅10mm、厚み3mm、長さ100mmに切り出し、島津製作所製万能試験機AGS−Hを用いて延伸試験を行い、弾性率5kPa、強度76kPa、破断伸び1024%が得られた。また20℃、200時間での水中での膨潤率(水/乾燥固体の質量比)は68であった。
【0022】
(参考例2)
有機モノマーとしてN,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA:興人株式会社製)を1.98g用いる以外は、実施例1と同様にして均一透明な高分子ゲルを調製した。得られた高分子ゲルは、ポリN,N−ジメチルアクリルアミド(PDMAA)と粘土鉱物が三次元網目を形成してなる高分子ゲル(有機高分子A2)であることが確認された。600nmでの光透過率は99%、弾性率、強度、破断伸びは各々3.5kPa、81kPa、1504%であった。また20℃、200時間での水中での膨潤率(水/乾燥固体の質量比)は83であった。
【0023】
(実施例1)
参考例1で調製したPNIPAと粘土鉱物からなる高分子ゲル(有機高分子A1)(5cm×10cm×3mm)を多量の純水で5時間洗浄後、室温で24時間、次いで80℃真空で3時間乾燥して、ゲル乾燥物を得た。該ゲル乾燥物を、有機モノマー(Bm)としてDMAAを用い、DMAA/水/KPSを0.74g/15g/0.015g、更にN,N‘−メチレンビスアクリルアミド(BIS)をDMAAの1モル%含んだ有機モノマー(Bm)水溶液中に浸漬し、全量が膨潤するまで1℃に保持した。次いで、温度を20℃に上げ、48時間静置して、有機モノマー(Bm)とBISの重合を行わせ、高分子複合ゲルを得た。その後の乾燥重量から有機モノマー(Bm)の重合収率はほぼ100%であった。このようにして、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)が粘土鉱物と三次元網目を形成したゲル中に、有機架橋したポリ(N,N−ジメチルアクリルアミド)が分子レベルで複合化した、高分子複合ゲルを調製した。この高分子複合ゲルを幅10mm、厚み3mm、長さ100mmに切り出し、参考例1と同様に延伸試験を行った結果、弾性率24.5kPa、強度187kPa、破断伸び910%が得られた。600nmで測定した光透過率は95%であった。また20℃、200時間での水中での膨潤率(水/乾燥固体の質量比)は20であった。ほぼ同一組成の比較例1との比較からも解るように、本実施例で得られた高分子複合ゲルは有機架橋ゲルを構成成分として含むにもかかわらず、比較例1の(NIPA、DMAA、粘土鉱物、水がほぼ同一組成で、一緒に共重合させて調製した)高分子ゲルに比べて、極めて高い力学物性を示した。また、本実施例1で得られた高分子複合ゲルは、延伸過程でこぶ状の微細なパターンを示すことが観測された。一方、水中膨潤性は低く抑制され、更に、本高分子複合ゲルは、参考例1の高分子ゲルに比べて、表面タック性が少なく、べたつきのないゲルとなっていることが確認された。
【0024】
(実施例2)
有機モノマー(Bm)としてN−イソプロピルアクリルアミド(NIPA:興人株式会社製)を用い、ゲル乾燥物を浸漬する有機モノマー(Bm)水溶液の組成(NIPA/水/KPS/BIS)が0.84g/15g/0.01g/NIPAの1モル%であることを除くと実施例1と同様にして高分子複合ゲルを調製した。得られたゲルの光透過率は93%(600nm)であり、引っ張り試験による力学物性(弾性率、強度、破断伸び)は、25.6kPa、166kPa、895%であった。また20℃、200時間での水中での膨潤率(水/乾燥固体の質量比)は18であった。本実施例1で得られた高分子複合ゲルも、延伸過程でこぶ状の微細なパターンを示すことが観測された。一方、水中膨潤性は低く抑制され、更に、本高分子複合ゲルは、参考例1の高分子ゲルに比べて、表面タック性が少なく、べたつきのないゲルとなっていることが確認された。このように実施例2でも、ほぼ同一組成を有する比較例2の高分子ゲルと比較して、極めて高い力学物性や表面特性変化を示し、異なる架橋状態の相互侵入による高分子複合ゲルの特徴が明確に示された。
【0025】
(実施例3)
参考例2で得られた有機高分子(PDMAA)と粘土鉱物からなる三次元網目を有する高分子ゲル(有機高分子A2)を用いること、有機モノマー(Bm)として、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPA)を用い且つ有機架橋剤を用いないこと以外は、実施例1と同様にして高分子複合ゲルを調製した。得られたゲルの物性を実施例1と同様にして測定した。光透過率は96%、引っ張り試験の力学物性(弾性率、強度、破断伸び)は、弾性率5.5kPa、強度143kPa、破断伸び1410%であった。また、温度50℃の水中に浸漬することで白色化し、温度応答性を示すことが観測された。一方、50℃での体積収縮においても有機高分子(B:PNIPA)の溶出は観測されなかった。これらの力学物性の向上、温度応答性、不溶出性などから、得られた高分子複合ゲルは、同一の粘土鉱物を共有しながら、独立して二種の有機高分子(A、B)と粘土鉱物との三次元網目を形成していると考察された。なお、参考例2の高分子ゲルは温度応答性を示さない。
【0026】
(実施例4)
参考例2で得られた高分子ゲルを用いること、有機架橋モノマー(Bm)として、2−メトキシエチルアクリレートを用い且つ有機架橋剤を用いないこと以外は、実施例1と同様にして高分子複合ゲルを調製した。高分子複合ゲルの膨潤率は約5と小さく、表面タック性は非常に小さかった。次いで、室温で24時間、80℃真空で3時間、これを乾燥し、PDMAAと粘土鉱物からなる三次元網目のなかに、線状高分子としてのポリ2−メトキシエチルアクリレートを含む高分子複合ゲル乾燥体が得られた。得られた乾燥体は、表面タック性がなく、強度13Mpa、力学的タフネスのある有機/無機複合体であった。
【0027】
(実施例5)
実施例2で得られた高分子複合ゲルから、溶媒の水を50℃で常圧下24時間、80℃で3時間真空乾燥することにより、硬い均一な高分子複合ゲル乾燥体が得られた。得られた高分子複合ゲル乾燥体を平均粒径43μmに粉末化してから20℃の水中に保持することにより、膨潤した粒状形状(平均粒径101μm)のタフネスのある高分子複合ゲルが得られた。また、温度を50℃にすることで、水を放出して白色の(タック性のない)表面疎水性を有する高分子複合ゲルとなった。
【0028】
(実施例6)
参考例2で得られた高分子ゲルを用いること、有機高分子(B)として、ポリエチレングリコール(分子量4百万)を用い、高分子ゲルを有機高分子(B)の5wt%水溶液に20時間浸漬する方法により、ゲル表面部にポリエチレングリコール鎖がゲル高分子鎖と絡み合って共存する高分子複合ゲルを調製した。高分子複合ゲルの力学物性は参考例2と殆ど同じで、一方、表面タック性は極めて大きく、接着性に優れたゲルとなった。
【0029】
(比較例1)
参考例1と同様な方法で、実施例1と最終組成がほぼ同じになるように、水/ラポナイトXLG/NIPA/DMAA/KPSを20g/0.48g/2.26g/0.99g/0.035g含み、更に有機架橋剤であるN,N’−メチレンビスアクリルアミド(BIS:関東化学株式会社製)をDMAAの1モル%、及び触媒(TMEDA)を16μl添加して、均一反応溶液を調製した。この水溶液を、参考例1と同様な方法により5cm×10cmの平底反応容器に厚みが3mmになるまで注入し、20℃で、20時間静置して重合させ、高分子ゲルを得た。以上のようにして全成分を同時に含んで共重合させて得られた高分子ゲルは、本発明(実施例1)のような異なる架橋状態の有機高分子からなる高分子複合ゲルではないため、即ち、共重合高分子が有機架橋剤と粘土鉱物により架橋された単一系であるため、力学的に弱くて脆いものしかできなかった。事実、引っ張り試験による力学物性の測定結果は、弾性率21kPa、強度12kPa、破断伸び48%であった。また20℃、200時間での膨潤率は26であった。
【0030】
(比較例2)
参考例1と同様な方法で、実施例2と最終組成がほぼ同じになるように、水/ラポナイトXLG/NIPA/KPSを20g/0.48g/3.39g/0.035g含み、更にBISをNIPA全体の1/3モル%、及び触媒(TMEDA)を16μl添加して、均一反応溶液を調製した。この水溶液を、参考例1と同様な方法により5cm×10cmの平底反応容器に厚みが3mmになるまで注入し、20℃で、20時間静置して重合させ、高分子ゲルを得た。以上のようにして全成分を同時に含んで共重合させて得られた高分子ゲルは、本発明(実施例2)のような異なる架橋状態の有機高分子からなる高分子複合ゲルではないため、即ち、共重合高分子が有機架橋剤と粘土鉱物により架橋された単一系であるため、力学的に弱くて脆いものしかできなかった。事実、引っ張り試験による力学物性の測定結果は、弾性率24kPa、強度11kPa、破断伸び44%であった。また20℃、200時間での膨潤率は24であった。
【0031】
(比較例3)
水/NIPA/KPS/TEMED(それぞれ5g/1.7g/0.01g/8μl)を20℃で20時間反応させ、粘調なポリN−イソプロピルアクリルアミドの水溶液を得た。一方、水/DMAA/KPS/TEMED(それぞれ5g/0.74g/0.01g/8μl)を20℃で20時間反応させ、粘調なポリN,N−ヂメチルアクリルアミドの水溶液を得た。これらと水/粘土鉱物(ラポナイトXLG)を5g/0.36g含む液を混合して、実施例1および比較例1とほぼ同じ組成の高分子ゲルを調製しようと試みたが、液の粘調性のため多くの気泡を含み、白色で、表面に非常にべたつきがあり、お互いが分離した不均一な粘調体しか得られなかった。力学物性を測定することは出来なかった。均一な高分子複合ゲルは混合によっては調製不可能である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘土鉱物を架橋点とする有機高分子(A)の三次元網目構造中に、
一又は二以上の有機高分子(B)が分子鎖を絡ませた状態で捕捉されていることを特徴とする高分子複合ゲル。
【請求項2】
前記有機高分子(B)が未架橋の有機高分子である請求項1記載の高分子複合ゲル。
【請求項3】
前記有機高分子(B)が、架橋剤により架橋された有機高分子である請求項1記載の高分子複合ゲル。
【請求項4】
前記架橋剤が粘土鉱物である請求項3記載の高分子複合ゲル。
【請求項5】
前記有機高分子(A)の架橋点となっている粘土鉱物が水膨潤性粘土鉱物であり、該粘土鉱物と三次元網目構造を形成する有機高分子(A)が水溶性有機モノマーの重合体である請求項1〜4のいずれか一つに記載の高分子複合ゲル。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一つに記載の高分子複合ゲルから溶媒を除去して得られる高分子複合ゲル乾燥体。
【請求項7】
水溶性有機モノマーの重合体であり、且つ粘土鉱物を架橋点とする有機高分子(A)の三次元網目構造中に、該水溶性有機モノマーと同種又は異種の有機モノマー(Bm)を侵入させ、その後該有機モノマー(Bm)を重合させて有機高分子(B)を形成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の高分子複合ゲルの製造方法。
【請求項8】
前記有機モノマー(Bm)と共に、有機架橋剤又は粘土鉱物を有機高分子(A)の三次元網目構造中に侵入させて重合する請求項7記載の高分子複合ゲルの製造方法。

【公開番号】特開2007−204527(P2007−204527A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22415(P2006−22415)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】