説明

高分子酸コロイドおよび水混和性有機液体を含む水分散性ポリジオキシチオフェン

ポリジオキシチオフェン、高分子酸コロイド、および水混和性の有機液体からなる水性分散液組成物と、このような組成物の製造方法。この組成物は、有機電子デバイスにおいて有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジオキシチオフェンと、コロイド形成性高分子酸と、水混和性の有機液体とからなる新規な水性分散液、その製造方法ならびに用途に関する。
【背景技術】
【0002】
電気的な伝導性を持つポリマーが、発光ディスプレイに用いられるエレクトロルミネッセント(「EL」)デバイスの開発をはじめとする、さまざまな有機電子デバイスに用いられている。導電性ポリマーを含む有機発光ダイオード(OLED)などのELデバイスに関しては、このようなデバイスは一般に以下のように構成されている。
アノード/バッファ層/EL材料/カソード
【0003】
アノードは一般に、透明でなおかつEL材料に正孔を注入する機能を持つものであれば、どのような材料であってもよく、たとえばインジウム/酸化スズ(ITO)などがある。アノードは、ガラスまたはプラスチック製の基板に支持されたものであってもよい。EL材料としては、蛍光染料、蛍光およびリン光発光性金属錯体、共役ポリマー、それらの混合物があげられる。カソードは一般に、EL材料に電子を注入する機能を持つものであれば、(たとえばCaまたはBa)など、どのような材料であってもよい。
【0004】
バッファ層は一般に導電性ポリマーであり、アノードからEL材料層への正孔の注入を容易にするものである。バッファ層は、正孔注入層、正孔輸送層とも呼ばれることがあり、二層構造のアノードの一部とされる場合もある。バッファ層として利用される代表的な導電性ポリマーとしては、ポリアニリンやポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDT)などのポリジオキシチオフェンがあげられる。これらの材料は、たとえば「ポリチオフェン分散液、その製造ならびに利用」という名称の米国特許公報(特許文献1)に記載されているように、ポリ(スチレンスルホン酸)(PSS)などの水溶性の高分子酸の存在下で、アニリンまたはジオキシチオフェンモノマーを水溶液中で重合することによって調製可能なものである。周知のPEDT/PSS材料のひとつに、H.C.スタークゲーエムベーハー(Starck,GmbH)(ドイツ、レバークーゼン)から市販されているバイトロン(Baytron)(登録商標)−Pがある。
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,300,575号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1 026 152 A1号明細書
【特許文献3】米国特許第3,282,875号明細書
【特許文献4】米国特許第4,358,545号明細書
【特許文献5】米国特許第4,940,525号明細書
【特許文献6】米国特許第4,433,082号明細書
【特許文献7】米国特許第6,150,426号明細書
【特許文献8】国際公開第03/006537号パンフレット
【非特許文献1】Current Applied Physics No.2、2002、第339〜343ページ
【非特許文献2】Nature、第166から169ページ、vol.426、2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水溶性高分子スルホン酸を用いて合成した水性導電性ポリマー分散液では、pHレベルが望ましくない低さである。この低いpHが原因で、こうしたバッファ層を含むELデバイスのストレス寿命(stress life)が短くなることがあり、デバイス内での腐食の原因にもなり得る。このため、特性が改善された組成物ならびにこの組成物から得られる層には需要がある。
【0007】
低電圧下で高電流を流すことのできる、電気的な伝導性を持つポリマーには、電界効果トランジスタなどの電子デバイス用の電極としての用途もある。このようなトランジスタでは、電子および/または正孔の電荷キャリアの移動度が高い有機半導電性膜が、ソース電極とドレイン電極との間に存在する。半導電性ポリマー層の反対側にはゲート電極がある。電極としての用途に役立つものとするには、導電性ポリマーまたは半導電性ポリマーのいずれかの再溶解を防ぐべく、導電性ポリマーと、この導電性ポリマーを分散または溶解させるための液体とが、半導電性ポリマーおよび半導電性ポリマー用の溶媒と相性のよいものでなければならない。こうした導電性ポリマーを用いて製造した電極の電気伝導度は、10S/cm(Sはオームの逆数である)を上回る値でなければならない。しかしながら、高分子酸から作られる電気的な伝導性を持つポリチオフェンは一般に、導電率が約10−3S/cmまたはこれ未満の範囲である。導電率を上げるには、導電性添加剤をポリマーに加えればよい。しかしながら、このような添加剤を含むようにすると、電気的な伝導性を持つポリチオフェンの加工性に悪影響がおよぶ可能性がある。このため、加工性が良好であり、かつ導電率が高まった、改良をほどこした伝導性ポリチオフェンには需要がある。
【0008】
導電性ポリマー組成物には依然として需要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
水と、
ポリジオキシチオフェンと、
コロイド形成性高分子酸と、
水混和性の有機液体と
を含み、
全ポリマーに対する有機液体の重量比が少なくとも0.1である、新規な水性分散液組成物。
【0010】
水と、ポリジオキシチオフェンと、コロイド形成性高分子酸と、水混和性の有機液体とを含む水性分散液の製造方法であって、
(a)水と少なくとも1種のジオキシチオフェンモノマーとの水性混合物を提供する工程、
(b)高分子酸の水性分散液を提供する工程、
(c)ジオキシチオフェン混合物をコロイド形成性高分子酸の水性分散液と組み合わせる工程、
(d)工程(c)の組み合わせの前または後で、酸化剤および触媒を、任意の順序で、コロイド形成性高分子酸の水性分散液と組み合わせる工程、および
(e)少なくとも1種の水混和性の有機液体を加える工程であって、全ポリマーに対する有機液体の重量比が少なくとも約0.1である工程
を含む方法。
【0011】
新規な組成物および方法に加えて、新規な組成物を含む層を少なくとも1層含む有機電子デバイスが得られる。
【0012】
上記の概説ならびに以下の詳細な説明は一例の説明的なものにすぎず、添付の特許請求の範囲に記載の本発明を限定するものではない。
【0013】
本発明について例をあげて示すが、これは添付の図面に限定されるものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
水と、
ポリジオキシチオフェンと、
コロイド形成性高分子酸と、
水混和性の有機液体と
を含み、
全ポリマーに対する有機液体の重量比が少なくとも0.1である、新規な水性分散液組成物。
【0015】
水と、ポリジオキシチオフェンと、コロイド形成性高分子酸と、水混和性の有機液体とを含む水性分散液の製造方法であって、
(a)水と少なくとも1種のジオキシチオフェンモノマーとの水性混合物を提供する工程、
(b)高分子酸の水性分散液を提供する工程、
(c)ジオキシチオフェン混合物をコロイド形成性高分子酸の水性分散液と組み合わせる工程、
(d)工程(c)の組み合わせの前または後で、酸化剤および触媒を、任意の順序で、少なくとも1種の水混和性の有機液体の添加前にコロイド形成性高分子酸の水性分散液と組み合わせる工程、および
(e)少なくとも1種の水混和性の有機液体を加える工程であって、全ポリマーに対する有機液体の重量比が少なくとも約0.1である工程
を含む方法。
【0016】
一実施形態では、水とジオキシチオフェンとの水性混合物が均質である。
【0017】
一実施形態では、少なくとも2種のジオキシチオペンを利用する。一実施形態では、少なくとも2種のコロイド形成性高分子酸を利用する。一実施形態では、少なくとも2種の水混和性の有機液体を利用する。
【0018】
一実施形態において、水混和性の有機液体は、極性有機溶媒を含む。
【0019】
一実施形態において、新規な組成物を含む層を少なくとも1層含む有機電子デバイスは、任意の溶液処理手法または手法の組み合わせによって堆積される連続膜である。一実施形態において、有機電子デバイスは、新規な組成物を含む層を少なくとも1層含み、少なくとも1層がバッファ層である。
【0020】
「層」または「膜」という用語は、所望のエリアを覆うコーティングのことである。このエリアは、デバイス全体という大きなものであってもよいし、有機発光ディスプレイの製造に用いる場合は実際のビジュアルディスプレイエリアなどの特定の機能エリアという小さなものであってもよく、単一のサブ画素という小さなものであってもよい。膜については、蒸着および液相成長法をはじめとする従来の蒸着手法のうちの任意のものを用いて形成できる。代表的な液相成長手法として、スピンコーティング、グラビアコーティング、カーテンコーティング、ディップコーティング、スロットダイコーティング、スプレーコーティング、連続ノズルコーティングなどの連続堆積手法と、インクジェット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷などの不連続堆積手法があげられるが、これに限定されるものではない。
【0021】
本願明細書において使用する場合、「分散」という用語は、微細な粒子の懸濁液を含有する連続液媒のことである。本発明によれば、「連続媒質」は一般に、水などの水性液体である。本願明細書において使用する場合、「水性」という用語は、相当部分が水である液体のことである。本願明細書において使用する場合、「コロイド」という用語は、連続媒質に懸濁された微細な粒子のことであり、前記粒子は粒度がナノメートル規模のものである。本願明細書において使用する場合、「コロイド形成性」という用語は、水溶液中に分散されたときに微細な粒子を形成する物質のことであり、すなわち、「コロイド形成性」高分子酸は水溶性ではない。本願明細書において使用する場合、「全ポリマー」という用語は、ポリジオキシチオフェンおよびコロイド形成性高分子酸の総量のことである。本願明細書において使用する場合、「水混和性」という用語は、別の相が形成されることなく水に添加可能な液体を意味する。
【0022】
本願明細書において使用する場合、「アルキル」という用語は、脂肪族炭化水素由来の基のことであり、未置換であっても置換されていてもよい直鎖状の基、分枝状の基、環状基を含む。「ヘテロアルキル」という用語は、アルキル基の1つまたは複数の炭素原子が、窒素、酸素、硫黄などのもうひとつの原子で置換されたアルキル基を意味することを意図したものである。「アルキレン」という用語は、結合点が2ヶ所あるアルキル基のことである。
【0023】
本願明細書において使用する場合、「アルケニル」という用語は、炭素−炭素二重結合を少なくとも1個有する脂肪族炭化水素由来の基のことであり、未置換であっても置換されていてもよい直鎖状の基、分枝状の基、環状基を含む。「ヘテロアルケニル」という用語は、アルケニル基の1つまたは複数の炭素原子が、窒素、酸素、硫黄などのもうひとつの原子で置換されたアルケニル基を意味することを意図したものである。「アルケニレン」という用語は、結合点が2ヶ所あるアルケニル基のことである。
【0024】
本願明細書において使用する場合、置換基についての以下の用語は、下記に示す式のことである。
「アルコール」 −R−OH
「アミドスルホネート」 −R−C(O)N(R)R−SO
「ベンジル」 −CH−C
「カルボキシレート」 −R−C(O)O−Z
「エーテル」 −R−O−R
「エーテルカルボキシレート」 −R−O−R−C(O)O−Z
「エーテルスルホネート」 −R−O−R−SO
「スルホネート」 −R−SO
「ウレタン」 −R−O−C(O)−N(R
(式中、「R」基はすべて、各出現で同一であるか異なっており、
は、一重結合またはアルキレン基であり、
は、アルキレン基であり、
は、アルキル基であり、
は、水素またはアルキル基であり、
Zは、H、アルカリ金属、アルカリ土類金属、N(RまたはRである。)
上記の基はいずれも、さらに未置換であっても置換されていてもよく、どの基も、パーフルオロ基をはじめとして、1つまたは複数の水素で置換されたFを含むものであってもよい。
【0025】
本願明細書において使用する場合、「含む、有する(comprises)」、「含む、有する(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(has)」、「有する(having)」という表現またはその他のバリエーションはいずれも、非排他的な包含をカバーすることを意図したものである。たとえば、列挙した要素を含む(comprises)プロセス、方法、物品または装置は、必ずしもこれらの要素だけに限定されるものではなく、明示的に列挙されていなかったり、これらの方法、物品または装置に固有のものだったりする他の要素も含み得る。さらに、明示的に反対のことを記載しない限り、「または(or)」は包含的orのことであり、排他的orではない。たとえば、以下のうちいずれか1つによって、条件AまたはBが満たされる:Aが真(または存在する)であってBが偽(または存在しない)である、Aが偽(または存在しない)であってBが真(または存在する)である、AとBの両方が真(または存在する)である。
【0026】
また、「a」または「an」を用いるのも、本発明の要素や構成要素について説明するためである。これは単に便宜上のことであり、かつ本発明の全体像を把握してもらう目的でのことである。本説明は、1(つ、個)または少なくとも1(つ、個)を含むとし、単数には複数も含むとして読むべきものである(それ以外のものを意味することが明らかな場合を除く)。
【0027】
好適な水混和性の有機液体の例としては、グリコール、グリコールエーテル、アルコール、アルコールエーテル、環状エーテル、ケトン、ニトリル、スルホキシド、アミド、およびそれらの組み合わせがあげられるが、これに限定されるものではない。一実施形態において、有機液体は、沸点が約100℃を超えるものである。一実施形態において、有機液体は、少なくとも1種のグリコール、グリコールエーテル、環状エーテル、スルホキシド、アミド、およびそれらの組み合わせを含む。一実施形態において、有機液体は、少なくとも1種のN−メチルピロリドン、エチレングリコール、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドまたはそれらの組み合わせを含む。
【0028】
液体の添加量は、分散液中の有機液体の重量を全ポリマーの重量で除した重量比(「WR」)の観点から説明できる。一実施形態において、有機液体はWRが少なくとも約0.1で存在する。一実施形態において、有機液体はWRが約0.3から5.0の範囲内で存在する。一実施形態において、有機液体はWRが約0.5から3.0の範囲内で存在する。一実施形態において、有機液体はWRが約1.0から2.0の範囲内で存在する。新規な組成物に含まれる水混和性の有機液体の具体的な量を調節して、所望の導電率に影響させることが可能である。
【0029】
一実施形態において、水混和性の有機液体はジエチレングリコール(「DEG」)を含む。一実施形態において、有機液体の量は、最大導電率が達成される量である。たとえば、新規な組成物の最大導電率を求めるひとつの方法を図1に示すが、これは、特定量のDEGを加えたときの導電率の最大値を示している。この量の後は、有機液体を加えると導電率が低くなる。このことは、シート抵抗をDEGのWRに対して示した図1から明らかである。WRが約0.3と低いと、導電率が高くなる(シート抵抗の低下)。WR約1.5で、導電率(従来の適当な抵抗測定手法で測定したシートでの電気抵抗の最小値(「シート抵抗」)が最大になる。WR約1.5を超えると、導電率は低下しはじめる。また、図1から明らかなように、新規な組成物の酸性度レベルが変わることによる影響も見られる。
【0030】
一実施形態において、少なくとも1種の新規な組成物を含む層を有機電子デバイスに使用し、熱の影響を受けやすい材料を用いるデバイス製造工程の前にさらに熱処理する。一実施形態では、熱処理は少なくとも40℃の温度までである。一実施形態では、少なくとも60℃の温度まで層を加熱する。一実施形態では、少なくとも80℃の温度まで層を加熱する。
【0031】
図2は、シートを80℃で20分加熱した後のDEGのWRの関数としてのシート抵抗を示している。導電率が最大になるときのWRは、依然として約1.5から2の近辺である。最大導電率は、加熱した膜の方が加熱していない膜の場合よりも高い。このため、膜を加熱することによっても導電率を高めることができる。
【0032】
新規な組成物を調製する一実施形態は、ポリジオキシチオフェン/高分子酸コロイドの酸性度を、導電率を考慮せずに、その堆積または塗布対象となるデバイスの構成要素に対する相性のよさに鑑みて選択することを含む。一実施形態において、新規な組成物は、本願明細書においてさらに説明するように、適切な量の有機液体および/または導電率添加剤を加えることで導電率を調節できるものである。
【0033】
本発明を実施するにあたっての用途を想定したポリジオキシチオフェンは、以下の構造を有する。
【0034】
【化1】

【0035】
(式中、
およびRは各々独立に、水素、少なくとも1個の炭素原子を含むアルキルから選択されるか、
およびRが一緒に、アリール、ヘテロアリール、アルキル、ヘテロアルキル、アルケニル、ヘテロアルケニル、アルコール、アミドスルホネート、ベンジル、カルボキシレート、エーテル、エーテルカルボキシレート、エーテルスルホネート、スルホネート、およびウレタンで任意に置換されていてもよい、少なくとも1個の炭素原子を有するアルキレン鎖を形成し、
nが少なくとも約4である。)
【0036】
特定の実施形態では、RおよびRが一緒に、1から4個の炭素原子を有するアルキレン鎖を形成する。もうひとつの実施形態では、ポリジオキシチオフェンがポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)である。ポリジオキシチオフェンは、ホモポリマーのこともあるし、2つ以上のジオキシチオフェンモノマーからなるコポリマーのこともある。新規な組成物は、1つまたは2つ以上のポリジオキシチオフェンポリマーと1つまたは2つ以上のコロイド形成性高分子酸とを含み得る。
【0037】
本発明を実施するにあたっての用途を想定したコロイド形成性高分子酸は、水に不溶であり、水性媒質に分散されるとコロイドを形成し、コロイド形成性高分子酸は、流体中にコロイド性分散液として存在する高分子酸コロイドである。この高分子酸は一般に、分子量が約10,000から約4,000,000の範囲のものである。一実施形態において、高分子酸は、分子量が約100,000から約2,000,000のものである。コロイドの粒度は一般に、2ナノメートル(nm)から約140nmの範囲である。一実施形態において、新規な組成物は、粒度が約2nmから約30nmの高分子酸コロイドを含む。水に分散させたときにコロイド形成性のものであれば、どのような高分子酸であっても本発明を実施するにあたっての用途に適している。一実施形態において、コロイド形成性高分子酸は少なくとも1種の高分子スルホン酸を含む。他の許容可能な高分子酸としては、高分子リン酸、高分子カルボン酸、高分子アクリル酸、(高分子スルホン酸を有する混合物をはじめとする)それらの混合物があげられる。もうひとつの実施形態では、高分子スルホン酸がフッ素化されている。さらにもうひとつの実施形態では、コロイド形成性高分子スルホン酸が過フッ素化されている。さらに別の実施形態では、コロイド形成性高分子スルホン酸は、パーフルオロアルキレンスルホン酸である。
【0038】
さらにもうひとつの実施形態では、コロイド形成性高分子酸は、高度にフッ素化されたスルホン酸ポリマー(「FSAポリマー」)である。「高度にフッ素化された」とは、ポリマー中のハロゲン原子および水素原子の総数のうち、少なくとも約50%、一実施形態では少なくとも約75%、もうひとつの実施形態では少なくとも約90%がフッ素原子であることを意味する。ひとつの実施形態では、ポリマーが過フッ素化されている。「スルホネート官能基」という用語は、スルホン酸基またはスルホン酸基の塩のことであり、一実施形態では、アルカリ金属またはアンモニウム塩のことである。官能基は、式−SOX(式中、Xは「対イオン」としても知られるカチオンである)で表される。Xは、H、Li、Na、KまたはN(R)(R)(R)(R)であればよく、R、R、R、Rは、同一であるか異なっており、一実施形態では、H、CHまたはCである。一実施形態において、XはHであり、この場合ポリマーは「酸の形態」であると言われる。Xは、Ca++やAl+++などのイオンで表されるように、多価であってもよい。一般にMn+で表される多価対イオンの場合、対イオン1個あたりのスルホネート官能基の数が価数「n」に等しくなることは、当業者には自明である。
【0039】
一実施形態において、FSAポリマーは、繰り返し側鎖が骨格に結合したポリマー骨格を含み、側鎖にカチオン交換基がある。ポリマーには、ホモポリマーまたは2つ以上のモノマーのコポリマーが含まれる。コポリマーは一般に、非官能性モノマーと、後に加水分解させてスルホネート官能基にすることが可能なスルホニルフルオリド基(−SOF)などのカチオン交換基を持つ第2のモノマーまたはその前駆体から形成される。たとえば、第1のフッ素化ビニルモノマーのコポリマーと、スルホニルフルオリド基(−SOF)を有する第2のフッ素化ビニルモノマーとを併用することが可能である。考え得る第1のモノマーとしては、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニル、ビニリデンフルオリド、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、それらの組み合わせがあげられる。好ましい第1のモノマーのひとつにTFEがある。
【0040】
他の実施形態において、新規の組成物は、ポリマーで所望の側鎖を提供し得るスルホネート官能基または前駆体基とともにフッ素化ビニルエーテルを含む2種以上のモノマーを含む。必要であれば、エチレン、プロピレン、R−CH=CH(式中、Rは炭素原子数1から10の過フッ素化アルキル基である)をはじめとする別のモノマーをこれらのポリマーに導入することも可能である。これらのポリマーを、本願明細書でランダムコポリマーと呼ぶタイプのものすなわち、コモノマーの相対濃度を極力一定に維持する重合によって得られるコポリマーとして、ポリマー鎖に沿ったモノマー単位の分散が、その相対濃度と相対的な反応性に応じたものになるようにしてもよい。重合の過程でモノマーの相対濃度を変えて作られる、これよりも少ない(less)ランダムコポリマーも利用できる。(特許文献2)に開示されているものなどの、ブロックコポリマーと呼ばれるタイプのポリマーも利用できる。
【0041】
一実施形態において、本発明において使用するFSAポリマーは、高度にフッ素化され、一実施形態では過フッ素化された、以下の式で表される炭素骨格および側鎖を含む。
−(O−CFCFR−O−CFCFR’SO
(式中、RおよびR’は独立に、F、Clまたは1から10個の炭素原子を有する過フッ素化アルキル基から選択され、a=0、1または2であり、Xは、H、Li、Na、KまたはN(R1)(R2)(R3)(R4)であり、R1、R2、R3,およびR4は、同一であるか異なっており、および一実施形態では、H、CHまたはCである。もうひとつの実施形態では、XはHである。上述したように、Xは多価であってもよい。
【0042】
一実施形態において、FSAポリマーとしては、たとえば、米国特許公報(特許文献3)および米国特許公報(特許文献4)ならびに米国特許公報(特許文献5)に開示されているポリマーなどがあげられる。好ましいFSAポリマーの一例は、以下の式で表されるパーフルオロカーボンの骨格と側鎖を有する。
−O−CFCF(CF)−O−CFCFSO
(式中、Xは先に定義したとおりである。)このタイプのFSAポリマーは、米国特許公報(特許文献3)に開示されており、テトラフルオロエチレン(TFE)と過フッ素化ビニルエーテルCF=CF−O−CFCF(CF)−O−CFCFSOF、パーフルオロ(3,6−ジオキサ−4−メチル−7−オクテンスルホニルフルオリド)(PDMOF)を共重合させた後、スルホニルフルオリド基を加水分解してスルホン酸基に変換し、必要に応じてイオン交換してこれを所望のイオン形態に変換することで製造可能なものである。米国特許公報(特許文献4)および米国特許公報(特許文献5)に開示されているタイプのポリマーの一例は、側鎖−O−CFCFSOX(式中、Xは先に定義したとおりである)を有する。このポリマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)と過フッ素化ビニルエーテルCF=CF−O−CFCFSOF、パーフルオロ(3−オキサ−4−ペンテンスルホニルフルオリド)(POPF)とを共重合させた後、加水分解し、さらに必要に応じてイオン交換することで製造可能なものである。
【0043】
一実施形態において、本発明において使用するFSAポリマーは一般に、イオン交換率が約33未満である。本件特許出願において、「イオン交換率」または「IXR」は、カチオン交換基に関連してポリマー骨格中の炭素原子数として定義される。約33未満の範囲内で、特定の用途に合わせて必要に応じてIXRを変えることが可能である。一実施形態では、IXRは約3から約33であり、もうひとつの実施形態では約8から約23である。
【0044】
ポリマーのカチオン交換能は当量(EW)で表されることが多い。本件特許出願の目的で、当量(EW)とは、1当量の水酸化ナトリウムを中和するのに必要な酸の形態のポリマーの重量と定義する。ポリマーがパーフルオロカーボン骨格を持ち、側鎖が−O−CF−CF(CF)−O−CF−CF−SOH(またはその塩)であるスルホネートポリマーの場合、IXR約8から約23に相当する当量の範囲は約750EWから約1500EWである。このポリマーのIXRについては、50IXR+344=EWという式を用いて当量と関連付けることが可能である。側鎖−O−CFCFSOH(またはその塩)を有するポリマーなど、米国特許公報(特許文献4)および米国特許公報(特許文献5)に開示されているスルホネートポリマーでもこれと同じIXR範囲が用いられているが、カチオン交換基を含有するモノマー単位の分子量がそれよりも小さいため、当量はいくぶん小さくなっている。約8から約23という好ましいIXR範囲では、対応する当量の範囲は約575EWから約1325EWになる。このポリマーのIXRについては、50IXR+178=EWという式を用いて当量と関連付けることが可能である。
【0045】
FSAポリマーは、コロイド状の水性分散液として調製可能なものである。また、他の媒質中での分散液の形にすることもでき、媒質一例として、アルコール、テトラヒドロフランなどの水溶性エーテル、水溶性エーテルの混合物、およびそれらの組み合わせがあげられるが、これに限定されるものではない。しかしながら、FSAポリマー中の共分散液については、本発明では極性有機液体を加えるために、チオフェンの重合の前または後で任意に除去できる。分散液を作るにあたり、ポリマーを酸の形で用いることが可能である。米国特許公報(特許文献6)、米国特許公報(特許文献7)および(特許文献8)には、水性アルコール分散液を生成するための方法が開示されている。分散液の生成後、従来技術において周知の方法で、濃度と分散液組成物とを調節することが可能である。
【0046】
FSAポリマーをはじめとするコロイド形成性高分子酸の水性分散液は一般に、安定したコロイドが形成されるように、粒度が極力小さく、EWが極力小さいものである。
【0047】
FSAポリマーの水性分散液は、ナフィオン(登録商標)分散液として、本願特許出願人(デラウェア州ウィルミントン)から市販されている。
【0048】
一実施形態において、新規な組成物は、少なくとも1種の高分子酸コロイドの存在下、酸化的に重合される。一実施形態において、ジオキシチオフェンモノマーを、重合触媒、酸化剤をさらに含む少なくとも1種の高分子酸コロイド分散液の水性分散液と組み合わせる、またはこれに加える。一実施形態において、組み合わせまたは添加の順序は可変であるが、ただし、重合反応を進める準備ができるまでは、酸化剤および触媒をモノマーと組み合わせないようにする。
【0049】
重合触媒としては、硫酸第二鉄、塩化第二鉄などと、それらの混合物があげられるが、これに限定されるものではない。
【0050】
酸化剤としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなど(それらの組み合わせを含む)があげられるが、これに限定されるものではない。一実施形態では、酸化重合の結果、たとえば、スルホネートアニオン、カルボキシレートアニオン、アセチレートアニオン、ホスホネートアニオン、およびそれらの組み合わせなど、コロイド中に含有される高分子酸の負に荷電した側鎖と電荷がバランスする、正に荷電した導電性高分子性ジオキシチオフェンを含有する安定した水性分散液が得られる。
【0051】
一実施形態では、(a)高分子酸の水性分散液を提供し、(b)工程(a)の分散液に酸化剤を添加し、(c)工程(b)の分散液に触媒を添加し、(d)工程(c)の分散液にジオキシチオフェンモノマーを添加して、重合を実施する。上述した方法に対する別の実施形態は、酸化剤を加える前に高分子酸の水性分散液にジオキシチオフェンモノマーを加えることを含む。
【0052】
もうひとつの実施形態では、水と少なくとも1種のジオキシチオフェンとの均質な水性混合物を生成する。一実施形態では、水中のジオキシチオフェン濃度が、ジオキシチオフェン約0.5重量%から約2.0重量%の範囲である。一実施形態では、酸化剤と触媒を加える前に、ジオキシチオフェン混合物を高分子酸の水性分散液に添加する。
【0053】
重合については、共酸の存在下で実施可能である。共酸には、HCl、硫酸などの無機酸あるいは、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、カンファースルホン酸、酢酸などの有機酸が可能である。別の好適な共酸としては、ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸などの水溶性の高分子酸、あるいは、上述したような第2のコロイド形成性酸があげられる。上述した共酸の組み合わせを利用することもできる。
【0054】
共酸については、酸化剤またはジオキシチオフェンモノマーのうち、最後に加えるものの添加より前であれば、どの時点で反応混合物に添加してもよい。一実施形態では、ジオキシチオフェンモノマーとコロイド形成性高分子酸よりも前に共酸を加え、酸化剤を最後に加える。一実施形態では、ジオキシチオフェンモノマーの添加前に共酸を加えた後、コロイド形成性高分子酸を加え、最後に酸化剤を加える。
【0055】
上記のいずれかの方法の終了後、かつ、重合反応の終了後、安定した水性分散液を生成するのに適した条件で、水性分散液を少なくとも1種のイオン交換樹脂と接触させる。一実施形態では、水性分散液を第1のイオン交換樹脂および第2のイオン交換樹脂と接触させる。
【0056】
もうひとつの実施形態では、第1のイオン交換樹脂が、上述したスルホン酸カチオン交換樹脂などの酸性のカチオン交換樹脂であり、第2のイオン交換樹脂は、第3級アミン交換樹脂または第4級交換樹脂などの塩基性のアニオン交換樹脂である。
【0057】
イオン交換というのは、流体媒質(水性分散液など)中のイオンが、この流体媒質に対して不溶な不動の固体粒子に結合した、同様に荷電したイオンと交換される可逆的な化学反応である。本願明細書で使用する「イオン交換樹脂」という用語は、このような物質すべてのことである。イオン交換用の基が結合するポリマー担体に架橋性があるがゆえに、この樹脂は不溶性となる。イオン交換樹脂は、交換に利用できる正に荷電した可動イオンを有する酸性のカチオン交換体と、交換可能なイオンが負に荷電している塩基性のアニオン交換体として分類される。
【0058】
酸性のカチオン交換樹脂および塩基性のアニオン交換樹脂はいずれも、本発明を実施するにあたっての用途を想定したものである。一実施形態において、酸性のカチオン交換樹脂は、スルホン酸カチオン交換樹脂などの有機酸カチオン交換樹脂である。本発明を実施するにあたっての用途を想定したスルホン酸カチオン交換樹脂としては、たとえば、スルホン化スチレン−ジビニルベンゼンコポリマー、スルホン化架橋スチレンポリマー、フェノール−ホルムアルデヒド−スルホン酸樹脂、ベンゼン−ホルムアルデヒド−スルホン酸樹脂、それらの混合物があげられる。もうひとつの実施形態において、酸性のカチオン交換樹脂は、カルボン酸カチオン交換樹脂、アクリル酸カチオン交換樹脂またはリン酸カチオン交換樹脂などの有機酸カチオン交換樹脂である。また、異なるカチオン交換樹脂の混合物を利用することも可能である。多くの場合、塩基性イオン交換樹脂を利用すればpHを所望のレベルに調節することができる。場合によっては、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、テトラメチル水酸化アンモニウムなどの溶液といった塩基性の水溶液を用いて、pHをさらに調節することが可能である。他の場合では、酸性度が高くても問題にはならない用途で、酸性のイオン交換樹脂を用いて、pHをさらに低くすることが可能である。
【0059】
もうひとつの実施形態では、塩基性のアニオン系交換樹脂は第3級アミンアニオン交換樹脂である。本発明を実施するにあたっての用途を想定した第3級アミンアニオン交換樹脂としては、たとえば、第3級アミノ化スチレン−ジビニルベンゼンコポリマー、第3級アミノ化架橋スチレンポリマー、第3級アミノ化フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、第3級アミノ化ベンゼン−ホルムアルデヒド樹脂、それらの混合物があげられる。さらに別の実施形態では、塩基性のアニオン系交換樹脂が、第4級アミンアニオン交換樹脂であるか、それらの交換樹脂と他の交換樹脂との混合物である。
【0060】
第1のイオン交換樹脂と第2のイオン交換樹脂については、水性分散液と同時に接触させてもよいし、連続的に接触させてもよい。たとえば、一実施形態では、両方の樹脂を導電性ポリマーの水性分散液に同時に加え、少なくとも約1時間、たとえば約2時間から約20時間、分散液と接触させたままにする。その後、イオン交換樹脂を濾過により分散液から除去すればよい。このとき、比較的大きなイオン交換樹脂粒子が除去され、小さめの分散粒子は通過するようにフィルタのサイズを選択する。理論への拘泥は望まないが、イオン交換樹脂は重合を抑え、イオン性および非イオン性の不純物ならびに大半の未反応モノマーを水性分散液から効果的に除去するものと思われる。さらに、塩基性のアニオン交換および/または酸性のカチオン交換樹脂が酸性の部位を塩基性寄りにするため、結果として分散液のpHが上昇する。通常、コロイド形成性高分子酸約1グラムあたりイオン交換を少なくとも1グラム用いる。他の実施形態では、ポリチオフェン/高分子酸コロイドに対するイオン交換樹脂最大約5グラムの比でイオン交換樹脂の用量を使用し、これは実現対象となるpHに左右される。一実施形態では、ポリジオキシチオフェンと少なくとも1種のコロイド形成性高分子酸とからなる組成物1グラムあたりバイエルゲーエムベーハー(Bayer GmbH)製の弱塩基性アニオン交換樹脂であるLewatit(登録商標) MP62 WSを約1グラムと、バイエルゲーエムベーハー(Bayer GmbH)製の強酸性ナトリウムカチオン交換樹脂であるLewatit(登録商標) MonoPlus S100を約1グラムとを用いる。
【0061】
一実施形態では、フッ素化高分子スルホン酸コロイドを用いたジオキシチオフェンの重合によって得られる水性分散液は、反応容器にまずフッ素化ポリマーの水性分散液を仕込むためのものであり、続いて、添加順序は酸化剤、触媒およびジオキシチオフェンモノマーを加えるものである。もうひとつの実施形態では、添加順序は、コロイド形成ポリマーの水性分散液にジオキシチオフェンモノマー、酸化剤および触媒を加えるものである。どちらの実施形態でも、混合物を攪拌した後、温度を制御して反応を進行させる。一実施形態では、重合が終了したら、強い酸カチオン樹脂と塩基性アニオン交換樹脂を用いて反応物を急冷し、攪拌して濾過する。一実施形態では、まずジオキシチオフェンを加え、水に加え、均質な混合物が生成されるまで攪拌する。一実施形態では、ナフィオン(登録商標)分散液などのフッ素化高分子スルホン酸を添加して、続いて酸化剤および触媒を添加する前に、この均質な混合物が生成される。一実施形態では、酸化剤:モノマー比は主に、約0.5から2.0の範囲である。一実施形態では、フッ素化ポリマー:ジオキシチオフェンモノマー比は主に、約1から4の範囲である。総固形分量は主に、約1.5%から6%の範囲であり、一実施形態では約2%から4.5%である。反応温度は主に、約5℃から50℃の範囲であり、一実施形態では約20℃から35℃である。反応時間は主に、1から30時間の範囲である。
【0062】
この新規な組成物は、さまざまなpHになり得る。一実施形態において、新規な組成物のpHは約1から約8であり、一実施形態ではpHは約3〜4である。pHについては、たとえば、イオン交換または塩基性の水溶液での滴定などの周知の手法を用いて調節できることが明らかになっている。
【0063】
pHが約7〜8である少なくとも一実施形態では、新規な組成物は、表面の平滑度が改善されていることが明らかになっている。このような一実施形態では、pHが最大7〜8のフッ素化高分子スルホン酸コロイドを利用して、新規な組成物を生成している。他の実施形態では、少なくとも1種のジオキシチオフェンと、水混和性の有機液体と、他のコロイド形成性高分子酸とからなる水性分散液を同様に処理してpHを調節することが可能である。
【0064】
もうひとつの実施形態では、新規な組成物はさらに、導電性添加剤を含む。一実施形態では、新規な組成物は導電性添加剤をさらに含み、pHが中性から塩基性である。一実施形態において、導電性添加剤は少なくとも1種の金属添加剤を含む。
【0065】
一実施形態において、新規な組成物はさらに、わずかに低重量パーセンテージの導電性添加剤を含む。もうひとつの実施形態において、新規な組成物は、少なくとも1種の導電性添加剤を、浸透閾値に達するのに必要な程度までのみ、一定量の重量パーセンテージで含む。好適な導電性添加剤の例としては、金属粒子およびナノ粒子、ナノワイヤ、カーボンナノチューブ、炭素ナノ粒子、グラファイト繊維または粒子、炭素粒子、導電性ポリマー、およびそれらの組み合わせがあげられるが、これに限定されるものではない。導電性ポリマーとしては、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレンがあげられるが、これに限定されるものではない。
【0066】
一実施形態において、コロイド形成性高分子酸は高分子スルホン酸である。一実施形態において、新規な組成物はポリ(アルキレンジオキシチオフェン)とフッ素化高分子酸コロイドとを含む。もうひとつの実施形態において、フッ素化高分子酸コロイドはフッ素化高分子スルホン酸コロイドである。さらにもうひとつの実施形態では、新規な組成物はポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とパーフルオロエチレンスルホン酸コロイドとを含有する水性分散液を含む。
【0067】
一実施形態において、新規な組成物から形成して乾燥させた層は一般に、水に再分散されない。このため、新規な組成物を含む層は、有機電子デバイスの活性層で利用できることが多く、複数の薄層として適用されることが多い。また、新規な組成物を含む層に性能関連の悪影響を実質的に何ら引き起こすことなく、新規な組成物を含む層をオーバーコートしてもよいし、あるいは、上にさらに堆積材料をのせ、このような別の層に異なる水溶性または水分散性材料を含ませるようにしてもよい。
【0068】
もうひとつの実施形態では、新規な組成物を他の水溶性材料または分散性材料とブレンドする。材料の最終用途に応じて、添加可能な別の水溶性材料または分散性材料のタイプの例としては、ポリマー、染料、塗布助剤、カーボンナノチューブ、ナノワイヤ、有機および無機の導電性インクおよびペースト、半導電性または絶縁性無機酸化物ナノ粒子、圧電性、焦電性または強誘電性酸化物ナノ粒子またはポリマー、光導電酸化物ナノ粒子またはポリマー、電荷輸送材料、架橋剤、およびそれらの組み合わせがあげられるが、これに限定されるものではない。これらの材料には、単純な分子またはポリマーが可能である。好適な他の水溶性ポリマーまたは分散性ポリマーの例としては、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアミン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリビニルアルコール、ポリ(2−ビニルピリジン)、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(ビニルメチルエーテル)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルブチラール)、ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸、ポリアクリル酸、コロイド形成性高分子酸、それらの混合物があげられるが、これに限定されるものではない。
【0069】
一実施形態では、新規な組成物を堆積して導電性層または半導電性層を形成し、これを単独で用いるか、電極、電気活性素子、光活性素子または生物活性素子などの他の電気活性材料と併用する。本願明細書において使用する場合の「電気活性素子」、「光活性素子」、「生物活性素子」という用語は、電磁場、電位、太陽エネルギー放射、生体刺激場(biostimulation field)などの刺激に応答して、指定の活性を呈する素子のことである。
【0070】
一実施形態では、新規な組成物を堆積して電子デバイスにバッファ層を形成する。本願明細書で使用する場合の「バッファ層」という用語は、アノードと活性有機物質との間で利用できる導電性層または半導電性層を意味することを意図したものである。バッファ層は、有機電子デバイスの性能を改善または手助けするための他の態様の中でも、下位層の平坦化、正孔輸送、正孔注入、酸素や金属イオンなどの不純物の除去を含むがこれに限定されるものではない、有機電子デバイスで1つまたは複数の機能を果たすと考えられる。
【0071】
一実施形態では、ポリジオキシチオフェンと、コロイド形成性高分子酸と、水混和性の有機液体とを含む新規な水性分散液組成物から堆積されるバッファ層が得られる。一実施形態では、バッファ層は、コロイド形成性高分子スルホン酸を含む水性分散液から堆積される。一実施形態では、バッファ層は、フッ素化高分子酸コロイドを含む新規な水性分散液組成物から堆積される。もうひとつの実施形態では、フッ素化高分子酸コロイドはフッ素化高分子スルホン酸コロイドである。さらにもうひとつの実施形態では、バッファ層は、ポリジオキシチオフェンと、パーフルオロエチレンスルホン酸コロイドと、水混和性の有機液体とを含有する新規な水性分散液組成物から堆積される。
【0072】
もうひとつの実施形態では、新規な組成物から生成した導電性層または半導電性層を少なくとも1層含む電子デバイスが得られる。新規な組成物から作られる層を1層または複数層有すると都合がよい場合がある有機電子デバイスとしては、(1)電気エネルギーを放射に変換するデバイス(発光ダイオード、発光ダイオードディスプレイまたはダイオードレーザーなど)、(2)電子的なプロセスで信号を検出するデバイス(光検出器(光導電素子、フォトレジスタ、光スイッチ、フォトトランジスタ、フォトチューブなど)、IR検出器など)、(3)放射を電気エネルギーに変換するデバイス(光起電力デバイスまたは太陽電池など)、(4)1つまたは複数の有機半導電性層を含む電子コンポーネントを1つまたは複数含むデバイス(トランジスタまたはダイオードなど)があげられるが、これに限定されるものではない。新規な組成物の他の用途として、メモリ記憶装置デバイス、静電気防止フィルム、バイオセンサ、エレクトロクロミックデバイス、固体電解質コンデンサ、充電式電池などのエネルギー蓄積装置、電磁遮蔽用のコーティング材があげられる。
【0073】
一実施形態において、有機電子デバイスは、2つの電気接点層間に配置された電気活性層を含み、このデバイスの層のうちの少なくとも1層が新規なバッファ層を含む。アノード層110と、バッファ層120と、エレクトロルミネッセント層130と、カソード層150とを有するデバイスである、図3に示すような一種のOLEDデバイスとして一実施形態を示す。カソード層150に隣接しているのは任意の電子−注入/輸送層140である。バッファ層120とカソード層150(または任意の電子注入/輸送層140)との間には、エレクトロルミネッセント層130がある。
【0074】
このデバイスは、アノード層110またはカソード層150に隣接可能な支持体または基板(図示せず)を含むものであってもよい。最も多くの場合、支持体はアノード層110に隣接している。支持体は可撓性であっても剛性であってもよく、有機であっても無機であってもよい。通常、ガラスまたは可撓性の有機フィルムが支持体として利用される。アノード層110は、正孔を注入するのにカソード層150よりも効率のよい電極である。アノードは、金属、混合金属、合金、金属酸化物または混合酸化物を含有する材料を含み得る。好適な材料としては、第2族元素(すなわち、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra)の混合酸化物、第11族元素、第4族、第5族、第6族の元素ならびに、第8族〜第10族の遷移元素があげられる。アノード層110を光を伝達するものにするのであれば、インジウム−スズ−オキサイドなど、第12族元素、第13族元素、第14族元素の混合酸化物を利用してもよい。本願明細書において使用する場合、「混合酸化物」というフレーズは、第2族元素または第12族元素、第13族元素または第14族元素から選択される2つ以上の異なるカチオンを有する酸化物のことである。アノード層110向けの材料のいくつかの非限定的な具体例として、インジウム−スズ−オキサイド(「ITO」)、アルミニウム−スズ−オキサイド、金、銀、銅、ニッケルがあげられるが、これに限定されるものではない。また、アノードは、ポリアニリン、ポリチオフェンまたはポリピロールなどの有機物質を含むものであってもよい。なお、ここでは周期律表の各族に左から右に1〜18の通し番号を付けたIUPACの付番方式に統一して利用する(CRC化学物理ハンドブック、第81版、2000)。
【0075】
アノード層110については、化学気相成長法または物理気相成長法またはスピンコーティングプロセスを含む種々の技術で形成され得る。化学気相成長法は、プラズマ化学気相成長法(「PECVD」)または金属有機化学気相成長法(「MOCVD」)として実施できる。物理気相成長法には、イオンビームスパッタリングならびにe−ビーム蒸着法および抵抗蒸着法をはじめとするあらゆる形態のスパッタリングを含み得る。物理気相成長法の具体的な形態としては、rfマグネトロンスパッタリング、誘導結合プラズマ物理気相成長法(「IMP−PVD」)があげられる。これらの蒸着手法は、半導体製造技術分野では周知のものである。
【0076】
アノード層110には、リソグラフィの際にパターンが形成される。このパターンは必要に応じて変更できる。これらの層は、第1の電気接点層材料を塗布する前に、たとえばパターンを形成したマスクまたはレジストを第1の可撓性複合材料バリア構造の上に配置して、パターン状に形成可能なものである。あるいは、オーバーオール層(包括的堆積(blanket deposit)とも呼ばれる)として層を形成した後、たとえば、パターン付きのレジスト層と湿式化学エッチングまたはドライエッチングの手法を利用して、パターンを形成することも可能である。従来技術において周知の他のパターン形成法を利用することも可能である。電子デバイスがアレイ内に配置されている場合は、アノード層110は一般に、長辺が実質的に同一方向に延在する実質的に平行な帯状に形成される。
【0077】
バッファ層120は、当業者間で周知のさまざまな手法を用いて基板に堆積される。
【0078】
エレクトロルミネッセント(EL)層130は一般に、蛍光を発する材料、リン光を発する材料(有機金属錯体あるいは、PPVと略されるポリ(パラフェニレンビニレン)またはポリフルオレンなどの共役ポリマーを含む)であればよい。個々にどの材料を選択するかは、具体的な用途、作業時の電位または他の要因によって決まることがある。エレクトロルミネッセント有機物質を含有するEL層130については、蒸着、液体処理手法または熱転写手法をはじめとする適当な堆積手法を用いて堆積することが可能である。材料の性質次第では、EL有機物質を蒸着によって直接塗布することが可能である。もうひとつの実施形態では、ELポリマー前駆体を形成した後に、一般には熱または他の外部エネルギー源(可視光またはUV光線など)によってポリマーに変換する。
【0079】
任意の層140は、電子注入/輸送の両方を促進する機能を果たすことができ、また、層と層との界面でのクエンチング反応を防ぐ閉じこめ層として働く。具体的には、層140は、電子の移動を促して、任意の層がない場合に層130と150が直接に接触した場合のクエンチング反応が起こる尤度を減らすこともある。任意の層140用の材料の例としては、金属キレート化オキシノイド化合物(Alqなど);フェナントロリンベースの化合物(2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(「DDPA」)、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(「DPA」)など);アゾール化合物(2−(4−ビフェニルイル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(「PBD」など)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール(「TAZ」など)など);他の同様の化合物;またはそれらの任意の組み合わせ1つまたは複数があげられるが、これに限定されるものではない。あるいは、任意の層140が無機で、BaO、LiF、LiOなどを含むものであってもよい。
【0080】
カソード層150は、電子または負の電荷キャリアを注入する上で特に効率のよい電極である。カソード層150は、第1の電気接点層(この場合、アノード層110)よりも仕事関数が小さいものであれば、どのような金属または非金属であってもよい。本願明細書において使用する場合、「よりも仕事関数が小さい」という表現は、仕事関数が約4.4eV以下の材料を意味することを意図したものである。本願明細書において使用する場合、「よりも仕事関数が大きい」とは、仕事関数が少なくとも約4.4eVの材料を意味することを意図したものである。
【0081】
カソード層の材料については、第1族のアルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Csなど)、第2族金属(Mg、Ca、Baなど)、第12族金属、ランタニド(Ce、Sm、Euなど)、アクチニド(Th、Uなど)から選択可能である。アルミニウム、インジウム、イットリウムならびにそれらの組み合わせなどの材料も利用できる。カソード層150の材料の非限定的な具体例としては、バリウム、リチウム、セリウム、セシウム、ユーロピウム、ルビジウム、イットリウム、マグネシウム、サマリウム、それらの合金およびそれらの組み合わせがあげられるが、これに限定されるものではない。
【0082】
カソード層150は通常、化学気相成長法または物理気相成長法で形成される。通常、アノード層110の例で上述したように、カソード層にはパターンが形成される。デバイスがアレイ内にある場合は、カソード層150は、実質的に平行な帯状パターンで形成できるが、このときカソード層の帯の長辺は実質的に同一方向に延在し、かつ、アノード層の帯の長辺に対して実質的に垂直に延在する。(アレイを平面図または上面図で見たときにアノード層の帯がカソード層の帯と交差する)交点には、画素と呼ばれる電子素子が形成される。
【0083】
他の実施形態では、有機電子デバイス内に別の層(単数または複数)を存在させても構わない。たとえば、バッファ層120とEL層130との間に層(図示せず)を設けると、正の電荷輸送、層と層との間のバンドギャップの整合、保護層としての機能などを促進できることがある。同様に、EL層130とカソード層150との間に別の層(図示せず)を設けると、負の電荷輸送、層と層との間のバンドギャップの整合、保護層としての機能などを促進できることがある。従来技術において周知の層を利用することも可能である。また、上述した層はいずれも2つ以上の層で作ることが可能なものである。あるいは、無機アノード層110、バッファ層120、EL層130、カソード層150のうちのいくつかまたはすべてを表面処理し、電荷キャリア輸送効率を高めるようにしてもよい。各構成層にどの材料を用いるかの選択肢については、デバイス効率の高いデバイスを提供する目的と、製造コスト、製造の複雑さ、あるいは潜在的にある他の要因のバランスをみながら判断すればよい。
【0084】
それぞれの層は、好適な厚さであればどのような厚さであってもよい。一実施形態において、無機アノード層110は通常、約500nm以下、たとえば約10〜200nmであり、バッファ層120は通常、約250nm以下、たとえば約50〜200nmであり、EL層130は通常、約100nm以下、たとえば約50〜80nmであり、任意の層140は通常、約100nm以下、たとえば約20〜80nmであり、カソード層150は通常、約100nm以下、たとえば約1〜50nmである。アノード層110またはカソード層150で少なくともいくらかの光を透過しなければならないときは、このような層の厚さは約100nmを超えないようにするとよい。
【0085】
電子デバイスの用途に応じて、EL層130を、信号で作動される光放出層(発光ダイオードにあるものなど)あるいは、印加電位があるかない状態で輻射エネルギーに応答して信号を生成する材料の層(検出器またはボルタ電池など)とすることが可能である。本件明細書を読了後、当業者であれば、各々の用途に適した材料(単数または複数)を選択できよう。発光材料は、添加剤を使用してまたは使用せずに他の材料のマトリクスに分散させておいてもよいし、単独で層を形成するものであってもよい。EL層130は一般に、厚さが約50〜500nmの範囲にある。一実施形態では、EL層130の厚さは約200nm以下である。
【0086】
導電率を調節した高分子酸コロイドを用いて生成する水性分散液ポリチオフェンを含む層を1層または複数層有すると都合がよい場合がある他の有機電子デバイスの例としては、(1)電気エネルギーを放射に変換するデバイス(発光ダイオード、発光ダイオードディスプレイまたはダイオードレーザーなど)、(2)電子的なプロセスで信号を検出するデバイス(光検出器(光導電素子、フォトレジスタ、光スイッチ、フォトトランジスタ、フォトチューブなど)、IR検出器など)、(3)放射を電気エネルギーに変換するデバイス(光起電力デバイスまたは太陽電池など)、(4)1つまたは複数の有機半導電性層を含む電子コンポーネントを1つまたは複数含むデバイス(トランジスタまたはダイオードなど)があげられる。本発明の材料の他の用途として、静電気防止層、メモリ記憶装置の用途、バイオセンサの用途、エレクトロクロミック、固体電解質コンデンサおよび電磁遮蔽用のコーティング材があげられる。
【0087】
本発明のさらに別の実施形態では、新規な組成物を含む電極を含む薄膜電界効果トランジスタが得られる。一実施形態では、コロイド形成性高分子酸が、コロイド形成性高分子スルホン酸を、導電率が調節された導電性ポリマーの対アニオンとして含む。薄膜電界効果トランジスタの電極として使用するには、新規な組成物は、導電性ポリマーまたは半導電性ポリマーの再溶解または再分散を回避できるように、トランジスタの他の構成材料と相性がよくなければならない。導電性ポリマーから製造する薄膜電界効果トランジスタの電極は、導電率が10S/cmを上回るものとする。しかしながら、水溶性の高分子酸だけを用いて生成した導電性ポリマーでは、導電率が約10−3S/cmまたはこれ未満の範囲にしかならない。このため、一実施形態では、金属ナノワイヤ、金属ナノ粒子、カーボンナノチューブなどの電気伝導エンハンサーと併用して、電極にポリ(アルキレンジオキシチオフェン)とフッ素化コロイド形成性高分子スルホン酸とを含む。さらにもうひとつの実施形態では、ナノワイヤ、カーボンナノチューブなどの電気伝導エンハンサーと併用して、電極にポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とコロイド形成性パーフルオロエチレンスルホン酸とを含む。本発明の組成物は、ゲート電極、ドレイン電極またはソース電極として薄膜電界効果トランジスタに利用できるものである。
【0088】
もうひとつの実施形態では、新規な組成物から形成される1層を含む電解効果抵抗デバイスが得られる。この電解効果抵抗デバイスでは、(非特許文献1)に説明されているように、ゲート電圧のパルスを印加したときに導電性ポリマーフィルムの抵抗が可逆的に変化する。
【0089】
もうひとつの実施形態では、新規な組成物から形成される層を少なくとも1層含むエレクトロクロミックディスプレイが得られる。エレクトロクロミックディスプレイでは、材料の薄膜に電位が印加されたときの色の変化を利用している。一実施形態では、新規な組成物の導電性ポリチオフェン/高分子酸コロイドは、分散液のpHが高く、吸湿率が低く、この分散液から作成した乾燥後の固体フィルムが水非分散性であることから、本件特許出願向けの優れた材料である。
【0090】
さらに別の実施形態では、新規な組成物でトップコートしたシリコンチップを含むメモリ記憶装置デバイスが得られる。たとえば、何度も読み出せるが記録は一度だけの(WORM)メモリが従来技術において周知である(非特許文献2)。情報を記録すると、シリコンチップの回路グリッドの特定の点で電圧が高くなり、これらの地点でポリチオフェンが破壊されて「0」ビットのデータが生成される。何も起こらなかった地点のポリチオフェンは導電性のままであり、「1」ビットのデータになる。
【0091】
以下、以下の非限定的な実施例を参照して、本発明についてさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0092】
(実施例1)
本実施例は、pH4.1の水性分散液中で重量比(WR)を変えてPEDOT/ナフィオン(登録商標)にジエチレングリコールを加えることと、導電率への影響とについて説明するためのものである。
【0093】
以下、水性PEDOT/ナフィオン(登録商標)分散液の調製について説明する。温度を約270℃にしたこと以外は米国特許公報(特許文献7)の実施例1、パート2に記載の手順と同様の手順で、EWが990のパーフルオロエチレンスルホン酸の25%(w/w)水性コロイド性分散液を生成した。この分散液を水で希釈し、重合用に12.5%(w/w)分散液を生成した。
【0094】
ナフィオン(登録商標)水性コロイド性分散液471.3g(ナフィオン(登録商標)モノマー単位57.13ミリモル)と、脱イオン水1689.5gとをひとまとめにして、2000ml容のジャケット付き三首丸底フラスコに入れた。この混合物を攪拌速度425rpmで1時間攪拌した後、硫酸第二鉄と過硫酸ナトリウムを加えた。硫酸第二鉄のストック溶液は、まず硫酸第二鉄水和物(97%、アルドリッチ社のカタログ番号30,771−8)0.0694gを脱イオン水で溶解させて総重量を20.9175gとして生成したものである。次に、混合物を攪拌しながら、硫酸第二鉄溶液7.93g(0.0509ミリモル)と過硫酸ナトリウム(フルカ社、カタログ番号71899)6.02g(50.57ミリモル)とを反応フラスコに入れた。この混合物を3分間攪拌した後、バイトロン−M(H.C.スターク(Starck)、ドイツ、レバークーゼン製3,4−エチレンジオキシチオフェンの商品名)2.2ml(20.6ミリモル)を攪拌しながら反応混合物に加えた。循環液体で制御して約20℃で攪拌しながら重合を続けた。13分以内で重合液が青色に変化しはじめた。架橋ポリスチレンのスルホン酸ナトリウムに対する、ペンシルバニア州ピッツバーグにあるバイエル社の商品名であるLewatit(登録商標) S100を52.60gと、架橋ポリスチレンの第3級/第4級アミンの遊離塩基/塩化物に対する、ペンシルバニア州ピッツバーグにあるバイエル社の商品名であるLewatit (登録商標)MP62WSを54.57gとを加えることで、6時間で反応を終了させた。この2種類の樹脂を、まず使用前に脱イオン水で水に色が付かなくなるまで別々に洗浄した。樹脂の処理を5時間続けた。次に、このようにして得られたスラリーを4番のワットマン濾紙で吸引濾過した。このスラリーは濾紙を極めて短時間で通り抜けた。合計収率は1532.4gであった。固体%は約3.5%(w/w)であった。Jenco Electronics モデル63のpH計を用いてpHを求めたところ、4.1であった。
【0095】
図1は、3種類のpH分散液のフィルム抵抗対WR(重量比)を示している。この例では、pHは4.1である。WRについては溶媒/ポリマー比(w/w)として定義する。選択した溶媒はジエチレングリコール(DEG)であった。分散液中にPEDT/ナフィオン(登録商標)を0.07g含有する、上記で調製した分散液2gを混合して、WRの異なるサンプルを調製した。次に、分散液2gをDEG/水混合物2gと混合した。所望のWR(X)で水の量を求めたところ、(2g−0.07gX)であった。また、たとえば、WR10は混合物中17.5%(w/w)DEGを示す。上述したようにして調製した各分散液の一部を、清浄しておいた光学的に平らな石英にスピンコートした。いくつかの膜を室温で乾燥させて試験した(図1)。他の膜を80℃で20分間熱処理した(図2)。デクタック(DekTak)測面計で推定した膜の平均厚は約3μmであった。標準的な4点プローブを利用して、任意に選択した7ヶ所で膜のシート抵抗を測定した。平均値ならびに標準偏差による誤差を、pH2.0とpH7.0のサンプルで図1に示す。グラフ1から、極めて少量のDEGを分散液に加えると膜抵抗が急激に低下することが明確に分かる。また、このグラフから、1.5WRのDEGで最も導電率が高くなることも分かる。1.5WRの分散液でも、原子間力分光法(AFM)で判断した表面がより一層平滑であることが分かる。また、極めて少量のDEGを分散液に加えると膜抵抗が急激に低下し、WR約1で導電率が最大に達するように見えることが図2からも分かる。
【0096】
(実施例2)
本実施例は、pH2.0の水性分散液中でWRを変えてジエチレングリコールをPEDT/ナフィオン(登録商標)に加えることと、これが導電率におよぼす影響とについて説明するためのものである。
【0097】
pHが4.1である、実施例1で得た分散液402.8gを、ベースレジンであるダウエックス550A(ミシガン州ミッドランド、ダウケミカルカンパニー)29.7gと混合して、さらに低いpHに調節した。色がなくなるまで樹脂を脱イオン水で洗浄した。この樹脂含有分散液を3時間攪拌した後、濾過した。次に、分散液に酸性のアンバーリスト 15(ロームアンドハースカンパニー、米国ペンシルバニア州フィラデルフィア)約30gを加え、1時間攪拌したままにしておいた。続いてこれを濾過した。濾過後の分散液に新鮮なアンバーリスト 15樹脂さらに15gを加えた後、1.5時間攪拌して濾過した。これにより334gが得られた。pHを求めたところ2.0であった。分散液168gを以下の実施例3のために確保した。残りの部分を利用して、DEGが導電率におよぼす影響を判断した。重量比(WR)の異なる分散液およびそれらから得られる導電率測定用薄膜のサンプル調製を、実施例1で説明したのと同じようにして行った。図1および図2に示されるように、WR1.5で導電率が最も高くなったが、図2のデータの方が散乱している。AFMからも、1.5WRの分散液を用いて得られる膜の方が表面が平滑であることが分かった。
【0098】
(実施例3)
本実施例は、pH7.0の水性分散液中でWRを変えてジエチレングリコールをPEDOT/ナフィオン(登録商標)に加えることと、これが導電率におよぼす影響とについて説明するためのものである。
【0099】
pHが2.0である、実施例2で得た分散液168gを、0.4M水酸化ナトリウム溶液で滴定してpH7.0に調節した。重量因子(WR)の異なる分散液およびそれらから得られる導電率測定用薄膜のサンプル調製を、実施例1で説明したのと同じようにして行った。図1および図2に示されるように、WR1.5で導電率が最高になった。AFMからも、1.5WRの分散液を用いて得られる膜の方が表面が平滑であることが分かる。
【0100】
(実施例4)
本実施例は、2、5、10%(w/w)のN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)が、pH約2の水性分散液を用いて得られるPEDOT/ナフィオン(登録商標)膜の導電率に対しておよぼす影響について説明するためのものである。
【0101】
以下、水性PEDOT/ナフィオン(登録商標)分散液の調製について説明する。重合に用いたナフィオン(登録商標)は実施例1と同一とした。
【0102】
ナフィオン(登録商標)水性コロイド性分散液63.89g(ナフィオン(登録商標)モノマー単位8.07ミリモル)と、脱イオン水298.68gとをひとまとめにして、500ml容のジャケット付き三首丸底フラスコに入れた。この混合物を攪拌速度425rpmで45分間攪拌した後、硫酸第二鉄と過硫酸ナトリウムを加えた。硫酸第二鉄のストック溶液は、まず硫酸第二鉄水和物(97%、アルドリッチ社のカタログ番号30,771−8)0.0135gを脱イオン水で溶解させて総重量を3.5095gとして生成したものである。次に、混合物を攪拌しながら、硫酸第二鉄溶液0.97g(0.0072ミリモル)と過硫酸ナトリウム(フルカ社、カタログ番号71899)0.85g(7.14ミリモル)とを反応フラスコに入れた。この混合物を3分間攪拌した後、バイトロン−M(H.C.スターク(Starck)、ドイツ、レバークーゼン製3,4−エチレンジオキシチオフェンの商品名)0.312ml(2.928ミリモル)を攪拌しながら反応混合物に加えた。循環液体で制御して約20℃で攪拌しながら重合を続けた。13分以内で重合液が青色に変化しはじめた。架橋ポリスチレンのスルホン酸ナトリウムに対する、ペンシルバニア州ピッツバーグにあるバイエル社の商品名であるLewatit(登録商標) S100を8.97gと、架橋ポリスチレンの第3級/第4級アミンの遊離塩基/塩化物に対する、ペンシルバニア州ピッツバーグにあるバイエル社の商品名であるLewatit (登録商標)MP62WSを7.70gとを加えることで、19.7時間で反応を終了させた。この2種類の樹脂を、まず使用前に脱イオン水で水に色が付かなくなるまで別々に洗浄した。樹脂の処理を5時間続けた。次に、このようにして得られたスラリーを54番のワットマン濾紙で吸引濾過した。このスラリーは濾紙を極めて短時間で通り抜けた。合計収率は273.73gであった。固体%は約2.8%(w/w)であった。
【0103】
pH約4である、上記にて生成した分散液100.1gを、ダウエックス550Aのベースレジン1.07gと混合して、さらに低いpHに調節した。色がなくなるまで樹脂を脱イオン水で洗浄した。この樹脂含有分散液を12時間攪拌した後、濾過した。次に、分散液に酸性のアンバーリスト 15を2.5g加え、9.5時間攪拌した。続いてこれを濾過した。濾過後の分散液に新鮮なアンバーリスト 15樹脂さらに2.0gを加えた後、12時間攪拌して濾過した。pHを求めたところ約2.0であった。この分散液の一部を、NMPがその導電率に対しておよぼす影響の実験に利用した。約2.8%の酸性化した(pH約2)分散液中、2%、5%、10%(w/w)NMPを調製した。たとえば2%は、PEDT/ナフィオン(登録商標)に対するNMPの重量比0.73になる。薄膜の調製と導電率の測定を上述したものと同じようにして実施した。NMPなしでpH約2の分散を用いて得られる膜の抵抗は2.2×10Ω/平方であったのに対し、2%、5%、10%NMPを用いて形成した膜の膜抵抗はそれぞれ、5×10Ω/平方、1×10Ω/平方、5×10Ω/平方であった。低パーセンテージのNMPをpH約2の分散液に加えると抵抗が急激に低下することが明確に分かる。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】新規な組成物の一用途を示すものであり、上述した新規な組成物と、この実施形態では、異なる量のジエチレングリコール(「DEG」)を水混和性の有機液体として含む高分子性パーフルオロエチレンスルホン酸コロイドとポリ(エチレンジオキシチオフェン)(「PEDT」)との水性分散液からなる組成物から形成した層のシート抵抗のプロットである。
【図2】新規な組成物をスピンコーティングして作成した、熱処理膜のシート抵抗のプロットであり、この例では、新規な組成物が、PEDTと、高分子性パーフルオロエチレンスルホン酸コロイドと、水とを含み、異なる量のDEGを含む。
【図3】新規な組成物を含む層を含む一タイプの有機電子デバイスの断面図を示しており、この図では、層は有機発光ダイオードのバッファ層である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、
ポリジオキシチオフェンと、
コロイド形成性高分子酸と、
水混和性の有機液体と
を含み、
全ポリマーに対する有機液体の重量比が少なくとも0.1であることを特徴とする水性分散液。
【請求項2】
分散液が約1から8の範囲内のpHを有し、導電性ポリマー、金属粒子、グラファイト繊維、グラファイト粒子、カーボンナノチューブ、炭素ナノ粒子、金属ナノワイヤ、有機導電性インク、有機導電性ペースト、無機導電性インク、無機導電性ペースト、電荷輸送材料、半導電性無機酸化物ナノ粒子、絶縁性無機酸化物ナノ粒子、圧電性酸化物ナノ粒子、圧電性ポリマー、焦電性酸化物ナノ粒子、焦電性ポリマー、強誘電性酸化物ナノ粒子、強誘電性ポリマー、分散助剤、架橋剤、およびそれらの組み合わせから選択される少なくとも1種をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の水性分散液。
【請求項3】
全ポリマーに対する有機液体の重量比が約0.3から5.0の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の水性分散液。
【請求項4】
少なくとも1種の有機液体の沸点が100℃を超えることを特徴とする請求項1に記載の水性分散液。
【請求項5】
有機液体が、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、およびそれらの組み合わせから選択されることを特徴とする請求項1に記載の水性分散液。
【請求項6】
有機液体がジエチレングリコールを含むことを特徴とする請求項1に記載の水性分散液。
【請求項7】
有機液体がN−メチルピロリドンを含むことを特徴とする請求項1に記載の水性分散液。
【請求項8】
ポリジオキシチオフェンがポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を含むことを特徴とする請求項1に記載の水性分散液。
【請求項9】
コロイド形成性高分子酸がパーフルオロアルキレンスルホン酸を含むことを特徴とする請求項1に記載の水性分散液。
【請求項10】
(a)水と少なくとも1種のジオキシチオフェンモノマーとの水性混合物を提供する工程、
(b)少なくとも1種の高分子酸の水性分散液を提供する工程、
(c)ジオキシチオフェン混合物をコロイド形成性高分子酸の水性分散液と組み合わせる工程、
(d)工程(c)の組み合わせの前または後で、酸化剤および触媒を、任意の順序で、コロイド形成性高分子酸の水性分散液と組み合わせて、ポリジオキシチオフェンおよび高分子酸コロイドの水性分散液を形成する工程、および
(e)水混和性の有機液体を加える工程であって、全ポリマーに対する有機液体の重量比が少なくとも約0.1である工程
を含むことを特徴とする水性分散液の製造方法。
【請求項11】
少なくとも1種の共酸が重合に含まれることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
ポリジオキシチオフェンおよびコロイド形成性高分子酸の水性分散液を少なくとも1種のイオン交換樹脂と接触させる工程をさらに含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ポリジオキシチオフェンおよびコロイド形成性高分子酸の水性分散液をカチオン交換樹脂と接触させ、その後、アニオン系交換樹脂と接触させることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1種の導電率添加剤を加える工程をさらに含むことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項15】
水と、
ポリジオキシチオフェンと、
コロイド形成性高分子酸と、
水混和性の有機液体と
を含み、
全ポリマーに対する有機液体の重量比が少なくとも約0.1である組成物から形成される層を少なくとも含むことを特徴とする有機電子デバイス。
【請求項16】
組成物のpHが約1から8の範囲内であることを特徴とする請求項15に記載のデバイス。
【請求項17】
全ポリマーに対する有機液体の重量比が、約0.3から5.0の範囲内であることを特徴とする請求項15に記載のデバイス。
【請求項18】
有機液体の沸点が100℃を超えることを特徴とする請求項1に記載の水性分散液。
【請求項19】
有機液体が、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、およびそれらの組み合わせから選択されることを特徴とする請求項1に記載の水性分散液。
【請求項20】
組成物がパーフルオロアルキレンスルホン酸を含むことを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項21】
組成物を含む少なくとも1層が、少なくとも約40℃の温度まで加熱されたバッファ層であることを特徴とする請求項15に記載のデバイス。
【請求項22】
組成物が、ポリマー、染料、塗布助剤、カーボンナノチューブ、金属粒子、グラファイト繊維、グラファイト粒子、炭素粒子、炭素ナノ粒子、金属ナノワイヤ、有機導電性インク、有機導電性ペースト、無機導電性インク、無機導電性ペースト、電荷輸送材料、架橋剤、およびそれらの組み合わせから選択される少なくとも1種をさらに含むことを特徴とする請求項15に記載のデバイス。
【請求項23】
デバイスが、発光ダイオード、発光ダイオードディスプレイ、ダイオードレーザー、光導電素子、光センサ、フォトレジスタ、光スイッチ、フォトトランジスタ、フォトチューブ、IR検出器、光起電力デバイス、太陽電池、トランジスタ、ダイオード、メモリ記憶装置デバイス、エレクトロクロミックディスプレイ、電磁遮蔽デバイス、およびバイオセンサから選択されることを特徴とする請求項15に記載のデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−529608(P2007−529608A)
【公表日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−504028(P2007−504028)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【国際出願番号】PCT/US2005/008565
【国際公開番号】WO2005/090434
【国際公開日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】