説明

高分子酸コロイドを用いて生成した電子用途向け水分散性ポリピロール

少なくとも1種のポリピロールおよび少なくとも1種のコロイド形成性高分子酸の水性分散液を含む組成物が、このような組成物の製造方法で得られる。新規な組成物は、有機発光ダイオードディスプレイなどの有機電子デバイス、メモリ記憶装置、電磁遮蔽、エレクトロクロミックディスプレイ、薄膜トランジスタ、電界効果抵抗デバイスをはじめとする電子デバイスにおいて有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ポリマーが高分子酸コロイドの存在下で合成される、ピロールの導電性ポリマーの水性分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
電気的な伝導性を持つポリマーが、発光ディスプレイに用いられるエレクトロルミネッセント(「EL」)デバイスの開発をはじめとする、さまざまな有機電子デバイスに用いられている。導電性ポリマーを含む有機発光ダイオード(OLED)などのELデバイスに関しては、このようなデバイスは一般に以下のように構成されている。
アノード/バッファ層/EL材料/カソード
アノードは一般に、透明でなおかつEL材料に正孔を注入する機能を持つものであれば、どのような材料であってもよく、たとえばインジウム/酸化スズ(ITO)などがある。アノードは、ガラスまたはプラスチック製の基板に支持されたものであってもよい。EL材料としては、蛍光染料、蛍光およびリン光発光性金属錯体、共役ポリマー、それらの混合物があげられる。カソードは一般に、EL材料に電子を注入する機能を持つものであれば、(たとえばCaまたはBa)など、どのような材料であってもよい。
【0003】
バッファ層は一般に導電性ポリマーであり、アノードからEL材料層への正孔の注入を容易にするものである。バッファ層は、正孔注入層、正孔輸送層とも呼ばれることがあり、二層構造のアノードの一部とされる場合もある。バッファ層として利用される代表的な導電性ポリマーとしては、ポリアニリンやポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDT)などのポリジオキシチオフェンがあげられる。これらの材料は、たとえば「ポリチオフェン分散液、その製造ならびに利用」という名称の米国特許公報(特許文献1)に記載されているように、ポリ(スチレンスルホン酸)(PSS)などの水溶性の高分子酸の存在下で、アニリンまたはジオキシチオフェンモノマーを水溶液中で重合することによって調製可能なものである。周知のPEDT/PSS材料のひとつに、H.C.スタークゲーエムベーハー(Starck,GmbH)(ドイツ、レバークーゼン)から市販されているバイトロン(Baytron)(登録商標)−Pがある。
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,300,575号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1 026 152 A1号明細書
【特許文献3】米国特許第3,282,875号明細書
【特許文献4】米国特許第4,358,545号明細書
【特許文献5】米国特許第4,940,525号明細書
【特許文献6】米国特許第4,433,082号明細書
【特許文献7】米国特許第6,150,426号明細書
【特許文献8】国際公開第03/006537号パンフレット
【特許文献9】国際公開第02/02714号パンフレット
【特許文献10】US2001/0019782号明細書
【特許文献11】EP 1191612号明細書
【特許文献12】国際公開第02/15645号パンフレット
【特許文献13】EP 1191614号明細書
【特許文献14】米国特許第6,303,238号明細書
【特許文献15】国際公開第00/70655号パンフレット
【特許文献16】国際公開第01/41512号パンフレット
【特許文献17】米国特許出願第10/669577号明細書
【特許文献18】米国特許出願第10/669494号明細書
【非特許文献1】Current Applied Physics No.2、2002、第339〜343ページ
【非特許文献2】Nature、第166から169ページ、vol.426、2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気的に伝導性のポリピロールは一般に、過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、塩化第二鉄または硫酸第二鉄などの酸化剤を用いる酸化重合によって、ピロールモノマーまたは置換ピロールモノマーを水溶液中で重合して調製される。この水溶液には一般に、水溶性スルホン酸が含まれる。通常、正に荷電したポリピロール骨格とバランスする対アニオンとして機能できるだけの十分な酸が存在し、この場合、ポリピロールカチオン/高分子酸アニオン錯体が形成されることによってポリピロールが導電性になる。ポリピロールは、シグマ−アルドリッチ社(ミズーリ州セントルイス)から5wt%水溶液として市販されている。
【0006】
水溶性高分子スルホン酸を用いて合成した水性導電性ポリマー分散液では、pHレベルが望ましくない低さである。この低いpHが原因で、こうした材料を含むELデバイスのストレス寿命(stress life)が短くなることがあり、デバイス内での腐食の原因にもなり得る。
【0007】
改良をほどこした導電性ポリマーには需要がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
少なくとも1種のポリピロールおよび少なくとも1種のコロイド形成性高分子酸の水性分散液を含む組成物が得られる。
【0009】
本発明のもうひとつの実施形態では、少なくとも1種のポリピロールおよび少なくとも1種のコロイド形成性高分子酸の水性分散液の製造方法であって、ピロールモノマーおよび酸化剤のうちの少なくとも一方を加えるときに、コロイド形成性高分子酸の少なくとも一部が存在することを条件に、水と、少なくとも1種のピロールモノマーと、少なくとも1種のコロイド形成性高分子酸と、酸化剤とを、任意の順序で組み合わせたものを形成する工程を含む方法が得られる。
【0010】
もうひとつの実施形態では、新規な組成物を含む層を少なくとも一層含む電子デバイスが得られる。
【0011】
上記の概要説明ならびに以下の詳細な説明は一例の説明的なものにすぎず、添付の特許請求の範囲に記載の本発明を限定するものではない。
【0012】
本発明について例をあげて示すが、これは添付の図面に限定されるものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の一実施形態では、少なくとも1種のポリピロールおよび少なくとも1種のコロイド形成性高分子酸の水性分散液を含む組成物が得られる。
【0014】
一実施形態において、新規な組成物は、少なくとも1種のポリピロールおよび少なくとも1種のコロイド形成性高分子酸が分散された連続水性相を含む。
【0015】
本発明を実施するにあたっての用途を想定したポリピロールは、以下の式Iを有する。
【0016】
【化1】

【0017】
(式I中、
nは約4より大きく、
は、各出現で同一または異なるように独立に選択され、水素、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アルカノイル、アルキルチオ、アリールオキシ、アルキルチオアルキル、アルキルアリール、アリールアルキル、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリール、アルキルスルフィニル、アルコキシアルキル、アルキルスルホニル、アリールチオ、アリールスルフィニル、アルコキシカルボニル、アリールスルホニル、アクリル酸、リン酸、ホスホン酸、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、エポキシ、シラン、シロキサン、アルコール、ベンジル、カルボキシレート、エーテル、エーテルカルボキシレート、アミドスルホネート、エーテルスルホネート、およびウレタンから選択されるか;両方のR基が一緒に、3員環、4員環、5員環、6員環または7員環の芳香族環または脂環式環を完成するアルキレン鎖またはアルケニレン鎖を形成してもよく、この環は任意選択的に、1個または複数の二価窒素、硫黄または酸素原子を含んでもよく、1つまたは複数のR基で置換されていてもよく、
は、各出現で同一または異なるように独立に選択され、水素、アルキル、アルケニル、アリール、アルカノイル、アルキルチオアルキル、アルキルアリール、アリールアルキル、アミノ、エポキシ、シラン、シロキサン、アルコール、アミドスルホネート、ベンジル、カルボキシレート、エーテル、エーテルカルボキシレート、エーテルスルホネート、およびウレタンから選択される。)
【0018】
ポリピロールは、ホモポリマーのこともあるし、2つ以上のピロールモノマー単位からなるコポリマーのこともある。ポリピロールおよびコロイド形成性高分子酸の水性分散液は、1つまたは2つ以上のポリピロールポリマーと1つまたは2つ以上のコロイド形成性高分子酸とを含み得る。
【0019】
一実施形態において、ポリピロールは、正に荷電した導電性ポリマーである。
【0020】
一実施形態において、Rは、各出現で同一であるか異なっており、水素、アルキル、アルケニル、アルコキシ、シクロアルキル、シクロアルケニル、アルコール、ベンジル、カルボキシレート、エーテル、エーテルカルボキシレート、アミノ、アミドスルホネート、エーテルスルホネート、ウレタン、エポキシ、シラン、シロキサンならびに、スルホン酸、カルボン酸、アクリル酸、リン酸、ホスホン酸、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、エポキシ、シランまたはシロキサン部分のうちの1つまたは複数で置換されたアルキルから独立に選択される。
【0021】
一実施形態において、Rは、水素、アルキルならびに、スルホン酸、カルボン酸、アクリル酸、リン酸、ホスホン酸、ハロゲン、シアノ、アミノ、アミドスルホネート、ヒドロキシル、エポキシ、シランまたはシロキサン部分のうちの1つまたは複数で置換されたアルキルから選択される。
【0022】
一実施形態では、ポリピロールは未置換であり、両方のRおよびRが水素である。
【0023】
一実施形態では、両方のRが一緒に6員環または7員環の脂環式環を形成し、これがさらに、アルキル、ヘテロアルキル、アルコール、ベンジル、カルボキシレート、エーテル、エーテルカルボキシレート、エーテルスルホネート、アミドスルホネート、アルキルアミドスルホネート、アミドアルキルスルホネート、およびウレタンから選択される基で置換されている。これらの基は、モノマーならびにそこから得られるポリマーの溶解性を改善し得るものである。一実施形態では、両方のRが一緒に6員環または7員環の脂環式環を形成し、これがさらにアルキル基で置換されている。一実施形態では、両方のRが一緒に6員環または7員環の脂環式環を形成し、これがさらに、少なくとも5個の炭素原子を有するアルキル基で置換されている。
【0024】
一実施形態では、両方のRが一緒に−O−(CHY)m−O−(式中、mは2または3であり、Yは、各出現で同一であるか異なっており、水素と、アルキルと、アルコールと、ベンジルと、カルボキシレートと、エーテルと、エーテルカルボキシレートと、アミノと、アルキルアミドスルホネートと、アミドアルキルスルホネートと、エーテルスルホネートと、ウレタンと、から選択される)を形成する。一実施形態では、少なくとも1個のY基が水素ではない。一実施形態では、少なくとも1個のY基が、少なくとも1個の水素で置換されたFを有する置換基である。一実施形態では、少なくとも1個のY基が過フッ素化されている。
【0025】
本願明細書において使用する場合、「分散」という用語は、微細な粒子の懸濁液を含有する連続液媒のことである。「連続媒質」は水性液体を含む。本願明細書において使用する場合、「水性」という用語は、相当部分が水であり、一実施形態では少なくとも約40重量%が水である液体のことである。本願明細書において使用する場合、「コロイド」という用語は、連続媒質に懸濁された微細な粒子のことであり、前記粒子は粒度がナノメートル規模のものである。本願明細書において使用する場合、「コロイド形成性」という用語は、水溶液中に分散されたときに微細な粒子を形成する物質のことであり、すなわち、「コロイド形成性」高分子酸は水溶性ではない。
【0026】
本願明細書において使用する場合、「共分散液」という用語は、室温で液体であり、水と混和する物質のことである。本願明細書において使用する場合、「混和する」という表現は、共分散液を(個々の共分散液について本願明細書に記載の濃度で)水と混合させ、実質的に均質な溶液を形成可能であることを意味する。
【0027】
「層」または「膜」という用語は、所望のエリアを覆うコーティングのことである。このエリアは、デバイス全体という大きなものであってもよいし、実際のビジュアルディスプレイなどの特定の機能エリアという小さなものであってもよく、単一のサブ画素という小さなものであってもよい。膜については、蒸着および液相成長法をはじめとする従来の蒸着手法のうちの任意のものを用いて形成できる。代表的な液相成長手法として、スピンコーティング、グラビアコーティング、カーテンコーティング、ディップコーティング、スロットダイコーティング、スプレーコーティング、連続ノズルコーティングなどの連続堆積手法と、インクジェット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷などの不連続堆積手法があげられるが、これに限定されるものではない。
【0028】
本願明細書において使用する場合、「アルキル」という用語は、脂肪族炭化水素由来の基のことであり、未置換であっても置換されていてもよい直鎖状の基、分枝状の基、環状基を含む。「ヘテロアルキル」という用語は、アルキル基の1つまたは複数の炭素原子が、窒素、酸素、硫黄などのもうひとつの原子で置換されたアルキル基を意味することを意図したものである。「アルキレン」という用語は、結合点が2ヶ所あるアルキル基のことである。
【0029】
本願明細書において使用する場合、「アルケニル」という用語は、炭素−炭素二重結合を少なくとも1個有する脂肪族炭化水素由来の基のことであり、未置換であっても置換されていてもよい直鎖状の基、分枝状の基、環状基を含む。「ヘテロアルケニル」という用語は、アルケニル基の1つまたは複数の炭素原子が、窒素、酸素、硫黄などのもうひとつの原子で置換されたアルケニル基を意味することを意図したものである。「アルケニレン」という用語は、結合点が2ヶ所あるアルケニル基のことである。
【0030】
本願明細書において使用する場合、置換基についての以下の用語は、下記に示す式のことである。
「アルコール」 −R−OH
「アミドスルホネート」 −R−C(O)N(R)R−SO
「ベンジル」 −CH−C
「カルボキシレート」 −R−C(O)O−Z
「エーテル」 −R−O−R
「エーテルカルボキシレート」 −R−O−R−C(O)O−Z
「エーテルスルホネート」 −R−O−R−SO
「ウレタン」 −R−O−C(O)−N(R
(式中、「R」基はすべて、各出現で同一であるか異なっており、
は、一重結合またはアルキレン基であり、
は、アルキレン基であり、
は、アルキル基であり、
は、水素またはアルキル基であり、
Zは、H、アルカリ金属、アルカリ土類金属、N(RまたはRである。)
上記の基はいずれも、さらに未置換であっても置換されていてもよく、どの基も、パーフルオロ基をはじめとして、1つまたは複数の水素で置換されたFを含むものであってもよい。
【0031】
本願明細書において使用する場合、「含む、有する(comprises)」、「含む、有する(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(has)」、「有する(having)」という表現またはその他のバリエーションはいずれも、非排他的な包含をカバーすることを意図したものである。たとえば、列挙した要素を含む(comprises)プロセス、方法、物品または装置は、必ずしもこれらの要素だけに限定されるものではなく、明示的に列挙されていなかったり、これらの方法、物品または装置に固有のものだったりする他の要素も含み得る。さらに、明示的に反対のことを記載しない限り、「または(or)」は包含的orのことであり、排他的orではない。たとえば、以下のうちいずれか1つによって、条件AまたはBが満たされる:Aが真(または存在する)であってBが偽(または存在しない)である、Aが偽(または存在しない)であってBが真(または存在する)である、AとBの両方が真(または存在する)である。
【0032】
また、「a」または「an」を用いるのも、本発明の要素や構成要素について説明するためである。これは単に便宜上のことであり、かつ本発明の全体像を把握してもらう目的でのことである。本説明は、1(つ、個)または少なくとも1(つ、個)を含むとし、単数には複数も含むとして読むべきものである(それ以外のものを意味することが明らかな場合を除く)。
【0033】
本発明の新規組成物で実際に使用されることを想定したコロイド形成性高分子酸は、水に不溶であり、水性媒質に分散されるとコロイドを形成する。この高分子酸は一般に、分子量が約10,000から約4,000,000の範囲のものである。一実施形態において、高分子酸は、分子量が約100,000から約2,000,000のものである。コロイドの粒度は一般に、2ナノメートル(nm)から約140nmの範囲である。一実施形態において、コロイドは、粒度が2nmから約30nmのものである。水に分散させたときにコロイド形成性のものであれば、どのような高分子酸であっても本発明を実施するにあたっての用途に適している。一実施形態において、コロイド形成性高分子酸は高分子スルホン酸である。他の許容可能な高分子酸としては、高分子リン酸、高分子ホスホン酸、高分子カルボン酸、高分子アクリル酸、それらの混合物(高分子スルホン酸を有する混合物を含む)があげられる。もうひとつの実施形態では、高分子スルホン酸がフッ素化されている。さらにもうひとつの実施形態では、コロイド形成性高分子スルホン酸が過フッ素化されている。さらに別の実施形態では、コロイド形成性高分子スルホン酸は、パーフルオロアルキレンスルホン酸である。
【0034】
さらにもうひとつの実施形態では、コロイド形成性高分子酸は、高度にフッ素化されたスルホン酸ポリマー(「FSAポリマー」)である。「高度にフッ素化された」とは、ポリマー中のハロゲン原子および水素原子の総数のうち、少なくとも約50%、一実施形態では少なくとも約75%、もうひとつの実施形態では少なくとも約90%がフッ素原子であることを意味する。もうひとつの実施形態では、ポリマーが過フッ素化されている。「スルホネート官能基」という用語は、スルホン酸基またはスルホン酸基の塩のことであり、一実施形態では、アルカリ金属またはアンモニウム塩のことである。官能基は、式−SOX(式中、Xは「対イオン」としても知られるカチオンである)で表される。Xは、H、Li、Na、KまたはN(R)(R)(R)(R)であればよく、R、R、R、Rは、同一であるか異なっており、一実施形態では、H、CHまたはCである。一実施形態において、XはHであり、この場合ポリマーは「酸の形態」であると言われる。Xは、Ca++やAl+++などのイオンで表されるように、多価であってもよい。一般にMn+で表される多価対イオンの場合、対イオン1個あたりのスルホネート官能基の数が価数「n」に等しくなることは、当業者には自明である。
【0035】
一実施形態において、FSAポリマーは、繰り返し側鎖が骨格に結合したポリマー骨格を含み、側鎖にカチオン交換基がある。ポリマーには、ホモポリマーまたは2つ以上のモノマーのコポリマーが含まれる。コポリマーは一般に、非官能性モノマーと、後に加水分解させてスルホネート官能基にすることが可能なスルホニルフルオリド基(−SOF)などのカチオン交換基を持つ第2のモノマーまたはその前駆体から形成される。たとえば、第1のフッ素化ビニルモノマーのコポリマーと、スルホニルフルオリド基(−SOF)を有する第2のフッ素化ビニルモノマーとを併用することが可能である。考え得る第1のモノマーとしては、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニル、ビニリデンフルオリド、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、それらの組み合わせがあげられる。好ましい第1のモノマーのひとつにTFEがある。
【0036】
可能な第2のモノマーは、ポリマーで所望の側鎖を提供し得るスルホネート官能基または前駆体基とともにフッ素化ビニルエーテルを含む。必要であれば、エチレン、プロピレン、R’−CH=CH(式中、R’は炭素原子数1から10の過フッ素化アルキル基である)をはじめとする別のモノマーをこれらのポリマーに導入することも可能である。これらのポリマーを、本願明細書でランダムコポリマーと呼ぶタイプのものすなわち、コモノマーの相対濃度を極力一定に維持する重合によって得られるコポリマーとして、ポリマー鎖に沿ったモノマー単位の分散が、その相対濃度と相対的な反応性に応じたものになるようにしてもよい。重合の過程でモノマーの相対濃度を変えて作られる、これよりも少ない(less)ランダムコポリマーも利用できる。(特許文献2)に開示されているものなどの、ブロックコポリマーと呼ばれるタイプのポリマーも利用できる。
【0037】
一実施形態において、本発明において使用するFSAポリマーは、過フッ素化されたものをはじめとする、以下の式で表される高度にフッ素化された炭素骨格および側鎖を含む。
−(O−CFCFR−O−CFCFR’SO
(式中、RおよびR’は独立に、F、Clまたは1から10個の炭素原子を有する過フッ素化アルキル基から選択され、a=0、1または2であり、Xは、H、Li、Na、KまたはN(R1)(R2)(R3)(R4)であり、R1、R2、R3およびR4は、同一であるか異なっており、一実施形態では、H、CHまたはCである。もうひとつの実施形態では、XはHである。上述したように、Xは多価であってもよい。
【0038】
好ましいFSAポリマーとしては、たとえば、米国特許公報(特許文献3)および米国特許公報(特許文献4)ならびに米国特許公報(特許文献5)に開示されているポリマーなどがあげられる。好ましいFSAポリマーの一例は、以下の式で表されるパーフルオロカーボンの骨格と側鎖を有する。
−O−CFCF(CF)−O−CFCFSO
(式中、Xは先に定義したとおりである。)このタイプのFSAポリマーは、米国特許公報(特許文献3)に開示されており、テトラフルオロエチレン(TFE)と過フッ素化ビニルエーテルCF=CF−O−CFCF(CF)−O−CFCFSOF、パーフルオロ(3,6−ジオキサ−4−メチル−7−オクテンスルホニルフルオリド)(PDMOF)を共重合させた後、スルホニルフルオリド基を加水分解してスルホン酸基に変換し、必要に応じてイオン交換してこれを所望のイオン形態に変換することで製造可能なものである。米国特許公報(特許文献4)および米国特許公報(特許文献5)に開示されているタイプの好ましいポリマーの一例は、側鎖−O−CFCFSOX(式中、Xは先に定義したとおりである)を有する。このポリマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)と過フッ素化ビニルエーテルCF=CF−O−CFCFSOF、パーフルオロ(3−オキサ−4−ペンテンスルホニルフルオリド)(POPF)とを共重合させた後、加水分解し、さらに必要に応じてイオン交換することで製造可能なものである。
【0039】
本発明において使用するFSAポリマーは、イオン交換率が約33未満である。本件特許出願において、「イオン交換率」または「IXR」は、カチオン交換基に関連してポリマー骨格中の炭素原子数として定義される。約33未満の範囲内で、特定の用途に合わせて必要に応じてIXRを変えることが可能である。ほとんどのポリマーでは、IXRは約3から約33であり、一実施形態では約8から約23である。
【0040】
ポリマーのカチオン交換能は当量(EW)で表されることが多い。本件特許出願の目的で、当量(EW)とは、1当量の水酸化ナトリウムを中和するのに必要な酸の形態のポリマーの重量と定義する。ポリマーがパーフルオロカーボン骨格を持ち、側鎖が−O−CF−CF(CF)−O−CF−CF−SOH(またはその塩)であるスルホネートポリマーの場合、IXR約8から約23に相当する当量の範囲は約750EWから約1500EWである。このポリマーのIXRについては、50IXR+344=EWという式を用いて当量と関連付けることが可能である。側鎖−O−CFCFSOH(またはその塩)を有するポリマーなど、米国特許公報(特許文献4)および米国特許公報(特許文献5)に開示されているスルホネートポリマーでもこれと同じIXR範囲が用いられているが、カチオン交換基を含有するモノマー単位の分子量がそれよりも小さいため、当量はいくぶん小さくなっている。約8から約23という好ましいIXR範囲では、対応する当量の範囲は約575EWから約1325EWになる。このポリマーのIXRについては、50IXR+178=EWという式を用いて当量と関連付けることが可能である。
【0041】
FSAポリマーの合成については周知である。FSAポリマーは、コロイド状の水性分散液として調製可能なものである。また、他の媒質中での分散液の形にすることもでき、媒質一例として、アルコール、テトラヒドロフランなどの水溶性エーテル、水溶性エーテルの混合物、それらの組み合わせがあげられるが、これに限定されるものではない。分散液を作るにあたり、ポリマーを酸の形で用いることが可能である。米国特許公報(特許文献6)、米国特許公報(特許文献7)および(特許文献8)には、水性アルコール分散液を生成するための方法が開示されている。分散液の生成後、従来技術において周知の方法で、濃度と分散液組成物組成とを調節することが可能である。
【0042】
FSAポリマーの水性分散液は、安定したコロイドが形成されるように、粒度が極力小さく、EWが極力小さいものである。
【0043】
FSAポリマーの水性分散液は、ナフィオン(登録商標)分散液として、本願特許出願人(デラウェア州ウィルミントン)から市販されている。
【0044】
一実施形態では、まず水性のコロイド形成性高分子酸分散液の存在下にて電気的に伝導性のポリピロールを合成することで、電気的に伝導性のポリピロールとコロイド性高分子酸とを含む合成時のままの水性分散液を形成して、安定した水性分散液を調製する。本発明の方法で利用する電気的に伝導性のポリピロールは一般に、水性のコロイド形成性高分子酸分散液中で、過硫酸アンモニウム(APS)、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなどの酸化剤の存在下、ピロールモノマーまたは置換ピロールモノマーを酸化的に重合して調製される。この酸化重合の結果、たとえば、スルホネートアニオン、カルボキシレートアニオン、アセチレートアニオン、ホスフェートアニオン、ホスホネートアニオン、それらの組み合わせなど、コロイド中に含有される高分子酸の負に荷電した側鎖と電荷がバランスする、正に荷電した導電性ポリマー性ピロールおよび/または置換ピロールを含有する安定した水性分散液が得られる。
【0045】
少なくとも1種のポリピロールおよび少なくとも1種のコロイド形成性高分子酸の水性分散液を製造する新規な方法は、水と、ピロールモノマーと、コロイド形成性高分子酸と、酸化剤とを、任意の順序で組み合わせ、反応混合物を形成することを含む(ただし、ピロールモノマーおよび酸化剤のうちの少なくとも一方を加える場合に、コロイド形成性高分子酸の少なくとも一部が存在する)。
【0046】
一実施形態において、コロイド形成性高分子酸はすべてFSAであり、FSA分散液の共分散液を任意選択的にピロールモノマー重合の前または後に除去する。
【0047】
ピロールモノマーは一般に、以下の式IIを有する。
【0048】
【化2】

【0049】
(式中、RおよびRは先に定義したとおりである。)
【0050】
一実施形態において、少なくとも1種のポリピロールおよび少なくとも1種のコロイド形成性高分子酸の水性分散液の製造方法は、
(a)コロイド形成性高分子酸の水性分散液を提供する工程、
(b)工程(a)の分散液に酸化剤を添加する工程、および
(c)工程(b)の分散液にピロールモノマーを添加する工程を含む。
【0051】
もうひとつの実施形態では、酸化剤を添加する前にコロイド形成性高分子酸の水性分散液にピロールモノマーを加える。その後、酸化剤を添加する上記の工程(b)を実施する。
【0052】
もうひとつの実施形態では、一般にピロール約0.5重量%から約4.0重量%の範囲内の濃度で水とピロールモノマーとの混合物を形成する。このピロール混合物をコロイド形成性高分子酸の水性分散液に加え、酸化剤を添加する上記の工程(b)を実施する。
【0053】
もうひとつの実施形態において、水性重合分散液には、過硫酸アンモニウムなどよりも酸化力が強い硫酸第二鉄、塩化第二鉄などの重合触媒を含み得る。触媒については、最終工程の前に添加する。もうひとつの実施形態では、触媒を酸化剤と一緒に添加する。
【0054】
一実施形態では、水に混和する共分散液の存在下で重合を実施する。好適な共分散液の例としては、エーテル、アルコール、アルコールエーテル、環状エーテル、ケトン、ニトリル、スルホキシド、アミド、それらの組み合わせがあげられるが、これに限定されるものではない。一実施形態では、共分散液は少なくとも1種のアルコールを含む。一実施形態では、共分散液は、n−プロパノール、イソプロパノール、t−ブタノール、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、それらの混合物から選択される少なくとも1種の有機溶媒を含む。一実施形態において、共分散液の量は約60容量%未満である。一実施形態において、共分散液の量は約30容量%未満である。一実施形態において、共分散液の量は約5から50容量%である。重合時に共分散液を用いると、粒度が大幅に小さくなり、分散液の濾過性が改善される。一実施形態において、この方法で得られるバッファ層材料は粘度が高くなっており、これらの分散液から作成した膜は高品質である。
【0055】
共分散液については、プロセスのどの時点でも反応混合物に加えることができる。たとえば、重合終了後に共分散液を加えることができるが、後述するイオン交換樹脂処理工程の前、途中または終了後に加えることができる。
【0056】
一実施形態では、共酸の存在下で重合を実施する。共酸には、HCl、硫酸などの無機酸あるいは、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、カンファースルホン酸、酢酸などの有機酸が可能である。あるいは、共酸には、ポリ(スチレンスルホン酸)、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸などの水溶性の高分子酸、あるいは、上述したような少なくとも第2のコロイド形成性酸が可能である。共酸の組み合わせを利用することもできる。
【0057】
共酸については、酸化剤またはピロールモノマーのうち、最後に加えるものの添加より前であれば、どの時点で反応混合物に添加してもよい。一実施形態では、ピロールモノマーとコロイド形成性高分子酸よりも前に共酸を加え、酸化剤を最後に加える。一実施形態では、ピロールモノマーの添加前に共酸を加えた後、コロイド形成性高分子酸を加え、最後に酸化剤を加える。
【0058】
一実施形態では、共分散液と共酸の両方の存在下で重合を実施する。共酸の存在下で重合し、重合の最後にアルコールを加えたポリピロール/ナフィオン(登録商標)から形成したバッファ層のあるデバイスは、効率が高く、動作電圧が低く、電流密度が低い。
【0059】
少なくとも1種のポリピロールおよび少なくとも1種のコロイド形成性高分子酸の水性分散液の製造方法において、ピロールモノマーに対する酸化剤のモル比が一般に0.1から2.0の範囲であり、一実施形態では、0.4から1.5である。ピロールモノマーに対するコロイド形成性高分子酸のモル比は一般に、0.2から5の範囲である。一実施形態では、この比は1から4の範囲内である。総固形分量は一般に、重量パーセントで約1.0%から10%の範囲であり、一実施形態では約2%から4.5%の範囲である。反応温度は一般に約4℃から50℃の範囲内であり、一実施形態では約20℃から35℃である。ピロールモノマーに対する任意の共酸のモル比は約0.05から4である。酸化剤の添加時間は粒度と粘度とに影響する。このため、添加速度を落とせば粒度を小さくすることが可能である。同時に、添加速度を落とすと粘度が増す。反応時間は一般に約1から約30時間の範囲内である。
【0060】
合成時、ポリピロールおよび高分子酸コロイドの水性分散液は一般に、pHが極めて低い。一般に約1から約8までは、デバイスの特性に悪影響をおよぼすことなくpHを調節できることが明らかになっている。酸性だと腐食が発生する可能性があるため、pHがほぼ中性であると望ましいことが多い。また、たとえばイオン交換あるいは塩基性水溶液での滴定などの周知の手法でpHを調節できることが明らかになっている。
【0061】
一実施形態では、反応混合物を連続混合しつつ、添加速度を制御してピロールモノマーをディスペンスすることで、コロイド形成性高分子酸粒子と、酸化剤と、触媒とを含む水性反応混合物とピロールモノマーとを組み合わせ、反応混合物中にモノマー−メニスカスを形成する。
【0062】
一実施形態では、反応混合物を連続混合しつつ、添加速度を制御して酸化剤溶液をディスペンスすることで、水にあらかじめ溶解させておいた酸化剤を、コロイド形成性高分子酸粒子と、ピロールモノマーと、触媒とを含有する水性反応混合物と組み合わせる。
【0063】
一実施形態では、酸化重合反応の際に率を制御してモノマーを消費できるように、反応混合物に対して酸化剤とピロールモノマーとを同一または異なる添加速度に制御して別々および同時に加え、最終的に酸化剤が所望の分量になるようにする。
【0064】
一実施形態では、反応混合物にすみやかに溶解させるべくディスペンス機構からのモノマーの添加速度を制御する目的で、使用する材料の分量を考慮して、ピロールモノマーの制御添加速度を決める。制御しながらの添加によって、重合および酸化化学が均一かつ均等に行われる。ディスペンス機構の例としては、管材、注射器、ピペット、ノズルガン、噴霧器、ホース、パイプなどがあげられるが、これに限定されるものではない。一実施形態では、反応混合物にモノマー−メニスカスを形成するのに、フリットガラス板などの穴のあいた端、あるいは小径管材を上述した機器に取り付けたものが望ましい。
【0065】
添加速度は、反応のサイズ、溶液の攪拌速度、ディスペンス機構のオリフィスのディスペンス端の幾何学的形状と数に左右される。一実施形態では、ディスペンス機構のディスペンス端を、水性のコロイド形成性高分子酸を含有する反応混合物中に沈める。たとえば、ピロールモノマーの添加速度は、水性のコロイド形成性高分子酸組成物約100〜500グラムの反応混合物サイズで、1時間あたり約1〜1000マイクロリットルである。一実施形態では、添加速度は、水性のコロイド形成性高分子酸約500グラムにつき、1時間あたり約5〜100マイクロリットルである。他のサイズ(これよりも大きいか小さい)の反応混合物での添加速度については、適切な方向に正比例的に増減すればよい。
【0066】
一実施形態では、まず、水とアルコール共分散助剤と無機共酸との混合物を反応容器に仕込む。これに、少なくとも1種のピロールモノマーと、フッ素化高分子スルホン酸コロイドの水性分散液と、酸化剤とを、この順で加える。酸化剤については、ゆっくりと滴下して加え、酸コロイドを不安定にするイオン濃度が高い部分が局所的に形成されてしまわないようにする。混合物を攪拌し、温度を制御して反応を継続させる。重合終了時、反応混合物を強い酸カチオン樹脂で処理し、攪拌して濾過した後、塩基性アニオン交換樹脂で処理し、攪拌して濾過する。上述したように、これ以外の添加順序にすることも可能である。
【0067】
一実施形態では、重合反応終了後、分解した種、反応副生成物、未反応のモノマーを除去し、かつイオン性不純物を除去してpHを調節するのに適した条件で、合成時のままの水性分散液を少なくとも1種のイオン交換樹脂と接触させることで、所望のpHの安定した水性分散液を生成する。一実施形態では、合成時のままの水性分散液を、第1のイオン交換樹脂および第2のイオン交換樹脂とこの順で接触させる。合成時のままの水性分散液は、第1および第2のイオン交換樹脂で同時に処理することが可能なものであり、あるいは、一方で処理した後に他方という具合に、これを連続的に処理することも可能である。
【0068】
イオン交換というのは、流体媒質(水性分散液など)中のイオンが、この流体媒質に対して不溶な不動の固体粒子に結合した、同様に荷電したイオンと交換される可逆的な化学反応である。本願明細書で使用する「イオン交換樹脂」という用語は、このような物質すべてのことである。イオン交換用の基が結合するポリマー担体に架橋性があるがゆえに、この樹脂は不溶性となる。イオン交換樹脂はカチオン交換体またはアニオン交換体として分類される。カチオン交換体には、交換に利用できる正に荷電した可動イオンがあり、このイオンは一般にプロトンまたはナトリウムイオンなどの金属イオンである。アニオン交換体には、負に荷電した交換可能なイオンがあり、このイオンは一般に水酸化物イオンである。
【0069】
一実施形態において、第1のイオン交換樹脂は、プロトンまたは金属イオン、一般にはナトリウムイオンの形態をとり得る、カチオンすなわち酸交換樹脂である。第2のイオン交換樹脂は塩基性のアニオン交換樹脂である。プロトン交換樹脂を含む酸性のカチオンと塩基性のアニオン交換樹脂はいずれも、本発明を実施するにあたっての用途を想定したものである。一実施形態において、酸性のカチオン交換樹脂は、スルホン酸カチオン交換樹脂などの無機酸カチオン交換樹脂である。新規な組成物を実施するにあたっての用途を想定したスルホン酸カチオン交換樹脂としては、たとえば、スルホン化スチレン−ジビニルベンゼンコポリマー、スルホン化架橋スチレンポリマー、フェノール−ホルムアルデヒド−スルホン酸樹脂、ベンゼン−ホルムアルデヒド−スルホン酸樹脂、それらの混合物があげられる。もうひとつの実施形態において、酸性のカチオン交換樹脂は、カルボン酸カチオン交換樹脂、アクリル酸カチオン交換樹脂または亜リン酸カチオン交換樹脂などの有機酸カチオン交換樹脂である。また、異なるカチオン交換樹脂の混合物を利用することも可能である。
【0070】
もうひとつの実施形態では、塩基性のアニオン系交換樹脂は第3級アミンアニオン交換樹脂である。新規な組成物を実施するにあたっての用途を想定した第3級アミンアニオン交換樹脂としては、たとえば、第3級アミノ化スチレン−ジビニルベンゼンコポリマー、第3級アミノ化架橋スチレンポリマー、第3級アミノ化フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、第3級アミノ化ベンゼン−ホルムアルデヒド樹脂、それらの混合物があげられる。さらに別の実施形態では、塩基性のアニオン系交換樹脂が、第4級アミンアニオン交換樹脂であるか、それらの交換樹脂と他の交換樹脂との混合物である。
【0071】
第1のイオン交換樹脂と第2のイオン交換樹脂については、合成時のままの水性分散液と同時に接触させてもよいし、連続的に接触させてもよい。たとえば、一実施形態では、両方の樹脂を導電性ポリマーの合成時のままの水性分散液に同時に加え、少なくとも約1時間、たとえば約2時間から約20時間、分散液と接触させたままにする。その後、イオン交換樹脂を濾過により分散液から除去すればよい。このとき、比較的大きなイオン交換樹脂粒子が除去され、小さめの分散粒子は通過するようにフィルタのサイズを選択する。理論への拘泥は望まないが、イオン交換樹脂は重合を抑え、イオン性および非イオン性の不純物ならびに大半の未反応モノマーを合成時のままの水性分散液から効果的に除去するものと思われる。さらに、塩基性のアニオン交換および/または酸性のカチオン交換樹脂が酸性の部位を塩基性寄りにするため、結果として分散液のpHが上昇する。通常、ポリピロール/高分子酸コロイド1グラムあたり約1から5グラムのイオン交換樹脂を用いる。
【0072】
一実施形態において、塩基性イオン交換樹脂を利用すればpHを所望のレベルに調節することができる。一実施形態では、水酸化ナトリウムや水酸化アンモニウムなどの溶液といった塩基性の水溶液を用いて、pHをさらに調節することが可能である。
【0073】
一実施形態において、反応混合物は、共分散助剤、共酸、触媒、酸化剤またはそれらの混合物をさらに含み得る。
【0074】
もうひとつの実施形態では、ポリピロールおよびコロイド形成性高分子酸の水性分散液に導電性の高い添加剤を加えることで、さらに導電性の高い分散液を形成する。pHが比較的高い分散液を形成することが可能であるため、導電性添加剤、特に金属添加剤が分散液中の酸によって攻撃されることがない。さらに、高分子酸は表面に主に酸基を有するコロイド性のものであるため、コロイド表面に電気的に伝導性のポリピロールが形成される。このようなユニークな構造がゆえに、浸透閾値に達するのに導電性の高い添加剤は低重量パーセントしか必要ない。好適な導電性添加剤の例としては、導電性ポリマー、金属粒子およびナノ粒子、金属ナノワイヤ、カーボンナノチューブ、炭素ナノ粒子、グラファイト繊維または粒子、炭素粒子、それらの組み合わせがあげられるが、これに限定されるものではない。導電性添加剤の分散を容易にする目的で、分散助剤を含有させるようにしてもよい。
【0075】
一実施形態では、新規な組成物を堆積して導電性層または半導電性層を形成し、これを単独で用いるか、電極、電気活性素子、光活性素子または生物活性素子などの他の電気活性材料と併用する。本願明細書において使用する場合の「電気活性素子」、「光活性素子」、「生物活性素子」という用語は、電磁場、電位、太陽エネルギー放射、生体刺激場(biostimulation field)などの刺激に応答して、指定の活性を呈する素子のことである。
【0076】
一実施形態では、新規な組成物を堆積して電子デバイスにバッファ層を形成する。本願明細書で使用する場合の「バッファ層」という用語は、アノードと活性有機物質との間で利用できる導電性層または半導電性層を意味することを意図したものである。バッファ層は、有機電子デバイスの性能を改善または手助けするための他の態様の中でも、下位層の平坦化、正孔輸送、正孔注入、酸素や金属イオンなどの不純物の除去を含むがこれに限定されるものではない、有機電子デバイスで1つまたは複数の機能を果たすと考えられる。
【0077】
一実施形態では、ポリピロールとコロイド形成性高分子酸とを含む水性分散液から堆積されるバッファ層が得られる。一実施形態では、バッファ層は、コロイド形成性高分子スルホン酸を含む水性分散液から堆積される。一実施形態では、バッファ層は、ポリピロールとフッ素化高分子酸コロイドとを含む水性分散液から堆積される。もうひとつの実施形態では、フッ素化高分子酸コロイドがフッ素化高分子スルホン酸コロイドである。さらにもうひとつの実施形態では、バッファ層が、ポリピロールとパーフルオロエチレンスルホン酸コロイドとを含有する水性分散液から堆積される。
【0078】
もうひとつの実施形態では、少なくとも1種のポリピロールと、少なくとも1種のコロイド形成性高分子酸と、少なくとも1種の共分散液とを含む水性分散液から堆積されるバッファ層が得られる。一実施形態において、共分散液は、n−プロパノール、イソプロパノール、t−ブタノール、メタノールジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、それらの混合物から選択される。
【0079】
もうひとつの実施形態では、少なくとも1種のポリピロールと少なくとも1種のコロイド形成性高分子酸とが他の水溶性材料または分散性材料とブレンドされた水性分散液から堆積されるバッファ層が得られる。材料の最終用途に応じて、添加可能な別の水溶性材料または分散性材料のタイプの例としては、ポリマー、染料、塗布助剤、カーボンナノチューブ、金属ナノワイヤおよびナノ粒子、有機および無機の導電性インクおよびペースト、電荷輸送材料、圧電性酸化物、焦電性酸化物または強誘電性酸化物のナノ粒子またはポリマー、光導電酸化物のナノ粒子またはポリマー、光導電ポリマー、分散助剤、架橋剤、それらの組み合わせがあげられるが、これに限定されるものではない。これらの材料には、単純な分子またはポリマーが可能である。好適な他の水溶性ポリマーまたは分散性ポリマーの例としては、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリ(2−ビニルピリジン)、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(ビニルメチルエーテル)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルブチラール)、ポリ(スチレンスルホン酸、上述したようなコロイド形成性高分子酸ならびに、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアミン、ポリピロール、ポリアセチレンなどの導電性ポリマー、それらの組み合わせがあげられるが、これに限定されるものではない。
【0080】
もうひとつの実施形態では、新規な組成物から生成した導電性層または半導電性層を少なくとも1層含む電子デバイスが得られる。少なくとも1種のポリピロールおよび少なくとも1種のコロイド形成性高分子酸の組成物を含む層を1層または複数層有すると都合がよい場合がある有機電子デバイスとしては、(1)電気エネルギーを放射に変換するデバイス(発光ダイオード、発光ダイオードディスプレイまたはダイオードレーザーなど)、(2)電子的なプロセスで信号を検出するデバイス(光検出器(光導電素子、フォトレジスタ、光スイッチ、フォトトランジスタ、フォトチューブなど)、IR検出器など)、(3)放射を電気エネルギーに変換するデバイス(光起電力デバイスまたは太陽電池など)、(4)1つまたは複数の有機半導電性層を含む電子コンポーネントを1つまたは複数含むデバイス(トランジスタまたはダイオードなど)があげられるが、これに限定されるものではない。新規な組成物の他の用途として、メモリ記憶装置デバイス、静電気防止フィルム、バイオセンサ、エレクトロクロミックデバイス、固体電解質コンデンサ、充電式電池などのエネルギー蓄積装置、電磁遮蔽用のコーティング材があげられる。
【0081】
一実施形態において、フッ素化高分子スルホン酸コロイドなどの高分子酸コロイドおよびポリピロールの乾燥後の層は、水に再分散可能なものではない。一実施形態では、新規な組成物を含む層を少なくとも1層含む有機デバイスを、複数の薄層から形成する。一実施形態では、層の機能または有機電子デバイスの性能に実質的に何らダメージを与えることなく、上記の層に、これとは異なる水溶性材料または水分散性材料の層をオーバーコートすることも可能である。
【0082】
一実施形態において、有機電子デバイスは、2つの電気接点層間に配置された電気活性層を含み、このデバイスの層のうちの少なくとも1層が新規なバッファ層を含む。アノード層110と、バッファ層120と、エレクトロルミネッセント層130と、カソード層150とを有するデバイスである、図1に示すような一種のOLEDデバイスとして一実施形態を示す。カソード層150に隣接しているのは任意の電子−注入/輸送層140である。バッファ層120とカソード層150(または任意の電子注入/輸送層140)との間には、エレクトロルミネッセント層130がある。
【0083】
このデバイスは、アノード層110またはカソード層150に隣接可能な支持体または基板(図示せず)を含むものであってもよい。最も多くの場合、支持体はアノード層110に隣接している。支持体は可撓性であっても剛性であってもよく、有機であっても無機であってもよい。通常、ガラスまたは可撓性の有機フィルムが支持体として利用される。アノード層110は、正孔を注入するのにカソード層150よりも効率のよい電極である。アノードは、金属、混合金属、合金、金属酸化物または混合酸化物を含有する材料を含み得る。好適な材料としては、第2族元素(すなわち、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra)の混合酸化物、第11族元素、第4族、第5族、第6族の元素ならびに、第8族〜第10族の遷移元素があげられる。アノード層110を光を伝達するものにするのであれば、インジウム−スズ−オキサイドなど、第12族元素、第13族元素、第14族元素の混合酸化物を利用してもよい。本願明細書において使用する場合、「混合酸化物」というフレーズは、第2族元素または第12族元素、第13族元素または第14族元素から選択される2つ以上の異なるカチオンを有する酸化物のことである。アノード層110向けの材料のいくつかの非限定的な具体例として、インジウム−スズ−オキサイド(「ITO」)、アルミニウム−スズ−オキサイド、金、銀、銅、ニッケルがあげられるが、これに限定されるものではない。また、アノードは、ポリアニリン、ポリチオフェンまたはポリピロールなどの有機物質を含むものであってもよい。なお、ここでは周期律表の各族に左から右に1〜18の通し番号を付けたIUPACの付番方式に統一して利用する(CRC化学物理ハンドブック、第81版、2000)。
【0084】
アノード層110については、化学気相成長法または物理気相成長法またはスピンコーティングプロセスで形成すればよい。化学気相成長法は、プラズマ化学気相成長法(「PECVD」)または金属有機化学気相成長法(「MOCVD」)として実施できる。物理気相成長法には、イオンビームスパッタリングならびにe−ビーム蒸着法および抵抗蒸着法をはじめとするあらゆる形態のスパッタリングを含み得る。物理気相成長法の具体的な形態としては、rfマグネトロンスパッタリング、誘導結合プラズマ物理気相成長法(「IMP−PVD」)があげられる。これらの蒸着手法は、半導体製造技術分野では周知のものである。
【0085】
通常、アノード層110には、リソグラフィの際にパターンが形成される。このパターンは必要に応じて変更できる。これらの層は、第1の電気接点層材料を塗布する前に、たとえばパターンを形成したマスクまたはレジストを第1の可撓性複合材料バリア構造の上に配置して、パターン状に形成可能なものである。あるいは、オーバーオール層(包括的堆積(blanket deposit)とも呼ばれる)として層を形成した後、たとえば、パターン付きのレジスト層と湿式化学エッチングまたはドライエッチングの手法を利用して、パターンを形成することも可能である。従来技術において周知の他のパターン形成法を利用することも可能である。電子デバイスがアレイ内に配置されている場合は、アノード層110は一般に、長辺が実質的に同一方向に延在する実質的に平行な帯状に形成される。
【0086】
バッファ層120は、当業者間で周知の任意の手法で基板に堆積される。
【0087】
エレクトロルミネッセント(EL)層130は一般に、蛍光染料、蛍光およびリン光発光性の金属錯体、共役ポリマー、それらの混合物を含むがこれに限定されるものではない、どのような有機EL材料であってもよい。蛍光染料の例としては、ピレン、ペリレン、ルブレン、それらの誘導体ならびにそれらの混合物があげられるが、これに限定されるものではない。金属錯体の例としては、トリス(8−ヒドロキシキノラート)アルミニウム(Alq3)などの金属キレート化オキシノイド化合物;ペトロフ(Petrov)ら、公開されたPCT出願の(特許文献9)に開示されているようなフェニルピリジン配位子、フェニルキノリン配位子またはフェニルピリミジン配位子とのイリジウム錯体などのシクロメタレート型イリジウムおよび白金エレクトロルミネッセント化合物ならびに、たとえば公開公報(特許文献10)、(特許文献11)、(特許文献12)、(特許文献13)に記載されているような有機金属錯体;それらの混合物があげられるが、これに限定されるものではない。電荷キャリーホスト材料と金属錯体とを含むエレクトロルミネッセント発光性層が、トンプソン(Thompson)ら、米国特許公報(特許文献14)ならびに、ブローズ(Burrows)およびトンプソン(Thompson)、公開されたPCT出願の(特許文献15)および(特許文献16)に記載されている。共役ポリマーの例としては、ポリ(フェニレンビニレン)、ポリフルオレン、ポリ(スピロビフルオレン)、ポリチオフェン、ポリ(p−フェニレン)、それらのコポリマーならびにそれらの混合物があげられるが、これに限定されるものではない。
【0088】
個々にどのような材料を選択するかは、具体的な用途、作業時の電位または他の要因などに左右されることがある。エレクトロルミネッセント有機物質を含有するEL層130については、蒸着、溶液処理手法または熱転写をはじめとする何種類の手法を用いて形成しても構わない。もうひとつの実施形態では、ELポリマー前駆体を形成した後に、一般には熱または他の外部エネルギー源(可視光またはUV光線など)によってポリマーに変換する。
【0089】
任意の層140は、電子注入/輸送の両方を促進する機能を果たすことができ、また、層と層との界面でのクエンチング反応を防ぐ閉じこめ層として働く。具体的には、層140は、電子の移動を促して、任意の層がない場合に層130と150が直接に接触した場合のクエンチング反応が起こる尤度を減らすこともある。任意の層140用の材料の例としては、金属キレート化オキシノイド化合物(Alqなど);フェナントロリンベースの化合物(2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(「DDPA」)、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(「DPA」)など);アゾール化合物(2−(4−ビフェニルイル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(「PBD」など)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール(「TAZ」など);他の同様の化合物;またはそれらの任意の組み合わせ1つまたは複数があげられるが、これに限定されるものではない。あるいは、任意の層140が無機で、BaO、LiF、LiOなどを含むものであってもよい。
【0090】
カソード層150は、電子または負の電荷キャリアを注入する上で特に効率のよい電極である。カソード層150は、第1の電気接点層(この場合、アノード層110)よりも仕事関数が小さいものであれば、どのような金属または非金属であってもよい。本願明細書において使用する場合、「よりも仕事関数が小さい」という表現は、仕事関数が約4.4eV以下の材料を意味することを意図したものである。本願明細書において使用する場合、「よりも仕事関数が大きい」とは、仕事関数が少なくとも約4.4eVの材料を意味することを意図したものである。
【0091】
カソード層の材料については、第1族のアルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Csなど)、第2族金属(Mg、Ca、Baなど)、第12族金属、ランタニド(Ce、Sm、Euなど)、アクチニド(Th、Uなど)から選択可能である。アルミニウム、インジウム、イットリウムならびにそれらの組み合わせなどの材料も利用できる。カソード層150の材料の非限定的な具体例としては、バリウム、リチウム、セリウム、セシウム、ユーロピウム、ルビジウム、イットリウム、マグネシウム、サマリウム、それらの合金およびそれらの組み合わせがあげられるが、これに限定されるものではない。
【0092】
カソード層150は通常、化学気相成長法または物理気相成長法で形成される。通常、アノード層110の例で上述したように、カソード層にはパターンが形成される。デバイスがアレイ内にある場合は、カソード層150は、実質的に平行な帯状パターンで形成できるが、このときカソード層の帯の長辺は実質的に同一方向に延在し、かつ、アノード層の帯の長辺に対して実質的に垂直に延在する。(アレイを平面図または上面図で見たときにアノード層の帯がカソード層の帯と交差する)交点には、画素と呼ばれる電子素子が形成される。
【0093】
他の実施形態では、有機電子デバイス内に別の層(単数または複数)を存在させても構わない。たとえば、バッファ層120とEL層130との間に層(図示せず)を設けると、正の電荷輸送、層と層との間のバンドギャップの整合、保護層としての機能などを促進できることがある。同様に、EL層130とカソード層150との間に別の層(図示せず)を設けると、負の電荷輸送、層と層との間のバンドギャップの整合、保護層としての機能などを促進できることがある。従来技術において周知の層を利用することも可能である。また、上述した層はいずれも2つ以上の層で作ることが可能なものである。あるいは、無機アノード層110、バッファ層120、EL層130、カソード層150のうちのいくつかまたはすべてを表面処理し、電荷キャリア輸送効率を高めるようにしてもよい。各構成層にどの材料を用いるかの選択肢については、デバイス効率の高いデバイスを提供する目的と、製造コスト、製造の複雑さ、あるいは潜在的にある他の要因のバランスをみながら判断すればよい。
【0094】
それぞれの層は、好適な厚さであればどのような厚さであってもよい。一実施形態において、無機アノード層110は通常、約500nm以下、たとえば約10〜200nmであり、バッファ層120は通常、約250nm以下、たとえば約50〜200nmであり、EL層130は通常、約100nm以下、たとえば約50〜80nmであり、任意の層140は通常、約100nm以下、たとえば約20〜80nmであり、カソード層150は通常、約100nm以下、たとえば約1〜50nmである。アノード層110またはカソード層150で少なくともいくらかの光を透過しなければならないときは、このような層の厚さは約100nmを超えないようにするとよい。
【0095】
電子デバイスの用途に応じて、EL層130を、信号で作動される光放出層(発光ダイオードにあるものなど)あるいは、印加電位があるかない状態で輻射エネルギーに応答して信号を生成する材料の層(検出器またはボルタ電池など)とすることが可能である。輻射エネルギーに応答できる電子デバイスの例は、光導電素子、フォトレジスタ、光スイッチ、バイオセンサ、フォトトランジスタおよびフォトチューブ、光電池から選択される。本件明細書を読了後、当業者であれば、各々の用途に適した材料(単数または複数)を選択できよう。発光材料は、添加剤を使用してまたは使用せずに他の材料のマトリクスに分散させておいてもよいし、単独で層を形成するものであってもよい。EL層130は一般に、厚さが約50〜500nmの範囲にある。一実施形態では、EL層130は約200nm未満である。
【0096】
有機発光ダイオード(OLED)では、カソード150およびアノード110の層からそれぞれEL層130に注入される電子および正孔によって、ポリマー中に負と正に荷電したポラロンが生成される。これらのポラロンは、印加電界の影響で移動し、反対に荷電した種を持つポラロン励起子を形成した後、放射再結合が起こる。これで、通常は約12ボルト未満、多くの場合は約5ボルト以下である、アノードとカソードとの間の十分な電位差をデバイスに印加できる。実際の電位差は、デバイスよりも大きな電子コンポーネントにおけるデバイスの用途に左右されることがある。多くの実施形態では、電子デバイスの動作時、アノード層110を正の電圧に付勢し、カソード層150は実質的に接地電位または0ボルトである。電子デバイスには、電池や他の電源(単数または複数)が回路の一部として電気的に接続されることがあるが、これについては図1には示されていない。
【0097】
ポリマー性ピロールとコロイド形成性高分子酸とを含む水性分散液から堆積されるバッファ層のあるOLEDでは、性能が改善されることが明らかになっている。バッファ層はポリピロールおよびフッ素化高分子スルホン酸コロイドの水性分散液から堆積でき、一実施形態では、水性分散液とはpHが約3.5よりも上に調節されたものである。
【0098】
酸性度の低いまたはpHが中性の材料を用いると、デバイス製造時におけるITO層のエッチングが大幅に抑えられ、OLEDのポリマー層に拡散するInイオンおよびSnイオンの濃度がかなり低くなる。InイオンならびにSnイオンは、動作寿命を短くする一因としての可能性が疑われているため、これは非常に大きな利点である。
【0099】
また、酸性度が低くなると、製造時ならびに長期間にわたる保管時におけるディスプレイの金属コンポーネント(電気接点パッドなど)の腐食も少なくなる。バッファ層の酸残基が残留している水分と相互作用して、酸がディスプレイに放出され、腐食がゆっくりになるのである。
【0100】
新規な組成物を含むバッファ層では吸湿量が少なくなるため、デバイスの製造工程に含まれる水も少なくなる。また、このように水分量を抑えられることで、デバイスの動作寿命を長くし、腐食を減らすこともできる。
【0101】
酸性のバッファ層をディスペンスするのに用いる設備は、強い酸性を扱うように特別に設計したものでなければならない。たとえば、酸性PANI/PSSAのバッファ層をITO基板にコーティングするのに用いるクロムメッキしたスロットダイコーティング−ヘッドが、PANI/PSSAの酸性によって腐食することが明らかになった。これによって、塗膜にクロム粒子が混入するようになり、ヘッドが使えなくなった。酸性のポリピロールバッファ層でも同様の問題が起こると考えられる。また、特定のインクジェット印刷ヘッドにもOLEDディスプレイ製造にあたって関心が持たれている。これらのヘッドは、ディスプレイ上の正確な位置にバッファ層と発光ポリマー層の両方をディスペンスするのに用いられている。これらの印刷ヘッドには、インク中の粒子用の内部トラップとしてニッケルメッシュフィルタが含まれている。これらのニッケルフィルタは酸性の材料によって分解され、使えなくなってしまう。一方、酸性度を低くした新規な組成物の水性ポリピロール分散液を用いれば、どの腐食問題も起こらない。
【0102】
さらに、特定の発光ポリマーが酸性条件に影響されやすく、酸性のバッファ層と接触するとその発光能が落ちることも分かっている。新規な組成物の水性ポリピロール分散液を用いてバッファ層を形成すると、酸性度が低いか中性であるため好都合である。
【0103】
2つ以上の異なる発光材料を用いてフルカラーディスプレイまたはエリアカラーディスプレイを製造する場合、それぞれの発光材料の性能を最適化するのに異なるカソード材料が必要だと、製造が複雑になってしまう。ディスプレイ装置は、光を発する複数の画素で構成される。多色デバイスでは、色の違う光を発する少なくとも2種類の異なるタイプの画素がある(サブ画素と呼ばれることもある)。サブ画素は、異なる発光材料で構成される。すべての発光体で良好なデバイス性能が得られる1種類であるのが極めて望ましい。このようにすることで、デバイス製造の複雑さが最小限に抑えられる。バッファ層を本発明の水性ポリピロール分散液で生成した多色デバイスでは、各色ごとに良好なデバイス性能を維持しつつ、共通のカソードを使用できることがある。カソードは、上述した材料のうちのどの材料からでも製造可能であるが、これをバリウムにして、アルミニウムなどの一層不活性な金属でオーバーコートしてもよい。
【0104】
ポリピロールおよび少なくとも1種のコロイド形成性高分子(polyermic)酸の水性分散液を含む層を1層または複数層有すると都合がよい場合がある他の有機電子デバイスとしては、(1)電気エネルギーを放射に変換するデバイス(発光ダイオード、発光ダイオードディスプレイまたはダイオードレーザーなど)、(2)電子的なプロセスで信号を検出するデバイス(光検出器(光導電素子、フォトレジスタ、光スイッチ、フォトトランジスタ、フォトチューブなど)、IR検出器など)、(3)放射を電気エネルギーに変換するデバイス(光起電力デバイスまたは太陽電池など)、(4)1つまたは複数の有機半導電性層を含む電子コンポーネントを1つまたは複数含むデバイス(トランジスタまたはダイオードなど)があげられる。新規な組成物の他の用途として、メモリ記憶装置デバイス、静電気防止フィルム、バイオセンサ、エレクトロクロミックデバイス、電磁遮蔽用のコーティング材があげられる。
【0105】
バッファ層あるいは、導電性層または電気的半導電性層を、水溶液または溶媒から形成する導電性ポリマーの層でさらにオーバーコートすることが可能である。導電性ポリマーは、電荷輸送を促進するとともに、コーティング性も改善する。好適な導電性ポリマーの例としては、ポリアニリン、ポリチオフェン、同時係属出願の米国特許公報(特許文献17)に開示されているようなポリアニリン/高分子性−酸−コロイド、同時係属出願の米国特許公報(特許文献18)に開示されているようなポリチオフェン/高分子性−酸−コロイド、あるいは、ポリチオフェン/ポリスチレンスルホン酸、ポリピロール、ポリアセチレン、それらの組み合わせがあげられるが、これに限定されるものではない。
【0106】
このような層を含む組成物には、導電性ポリマーをさらに含んでもよく、染料、カーボンナノチューブ、炭素ナノ粒子、金属ナノワイヤ、金属ナノ粒子、カーボンファイバおよび粒子、グラファイト繊維および粒子、塗布助剤、有機および無機の導電性インクおよびペースト、電荷輸送材料、半導電性または絶縁性無機酸化物粒子、圧電性酸化物、焦電性酸化物または強誘電性酸化物のナノ粒子またはポリマー、光導電酸化物のナノ粒子またはポリマー、光導電ポリマー、分散助剤、架橋剤、それらの組み合わせを含んでもよい。これらの材料は、モノマー重合の前または後および/または少なくとも1種のイオン交換樹脂での処理の前または後に、新規な組成物に添加可能である。
【0107】
本発明のさらに別の実施形態では、ポリピロールおよびコロイド形成性高分子スルホン酸を含む電極を含む薄膜電界効果トランジスタが得られる。薄膜電界効果トランジスタの電極として使用するには、導電性ポリマーと、この導電性ポリマーを分散させるための液体は、導電性ポリマーまたは半導電性ポリマーのいずれかの再溶解を防ぐために、半導電性ポリマーならびに半導電性ポリマー用の溶媒と相性がよくなければならない。導電性ポリマーから製造する薄膜電界効果トランジスタの電極は、導電率が10S/cmを上回るものとする。しかしながら、水溶性の高分子酸だけで生成した導電性ポリマーでは、導電率が約10−2S/cmまたはこれ未満の範囲になる。このため、一実施形態では、金属ナノワイヤおよびナノ粒子、カーボンナノチューブなどの電気伝導エンハンサーを併用して、電極にポリピロールおよびフッ素化コロイド形成性高分子スルホン酸を含むようにする。さらにもうひとつの実施形態では、金属ナノワイヤおよびナノ粒子、カーボンナノチューブなどの電気伝導エンハンサーと併用して、電極にポリピロールおよびコロイド形成性パーフルオロエチレンスルホン酸を含むようにする。本発明の組成物は、ゲート電極、ドレイン電極またはソース電極として薄膜電界効果トランジスタに利用できるものである。
【0108】
薄膜電界効果トランジスタは、図2に示すように、一般に以下のようにして製造される。誘電性ポリマーまたは誘電性酸化物の薄膜210には、片側にゲート電極220、反対側にドレイン電極230とソース電極240がある。ドレイン電極とソース電極との間には、有機半導電性膜250が堆積される。ナノワイヤまたはカーボンナノチューブを含有する本発明の水性分散液は、溶液薄膜堆積時に有機ベースの誘電性ポリマーおよび半導電性ポリマーと相性がよいため、ゲート電極、ドレイン電極、ソース電極の用途に理想的である。ポリピロールおよびコロイド性パーフルオロエチレンスルホン酸などの新規な組成物は、コロイド性分散液として存在するため、(水溶性高分子スルホン酸を含有する組成物よりも)高導電率での浸透閾値に達するのに必要な導電性フィラーの重量パーセント量が少なくてすむ。
【0109】
もうひとつの実施形態では、式I(a)または式I(b)を有するポリチオフェン少なくとも1種とコロイド形成性高分子スルホン酸少なくとも1種とを含む層を1層含む電界効果抵抗デバイスが得られる。この電界効果抵抗デバイスでは、(非特許文献1)に説明されているように、ゲート電圧のパルスを印加したときに導電性ポリマーフィルムの抵抗が可逆的に変化する。
【0110】
もうひとつの実施形態では、式I(a)または式I(b)を有するポリチオフェン少なくとも1種とコロイド形成性高分子スルホン酸少なくとも1種とを含む層を少なくとも1層含むエレクトロクロミックディスプレイが得られる。エレクトロクロミックディスプレイでは、材料の薄膜に電位が印加されたときの色の変化を利用している。一実施形態では、新規な組成物の導電性ポリチオフェン/高分子酸コロイドは、分散液のpHが高く、吸湿率が低く、この分散液から作成した乾燥後の固体フィルムが水非分散性であることから、本件特許出願向けの優れた材料である。
【0111】
さらに別の実施形態では、式I(a)または式I(b)を有するポリチオフェン少なくとも1種とコロイド形成性高分子スルホン酸少なくとも1種とを含む組成物をトップコートしたシリコンチップを含むメモリ記憶装置デバイスが得られる。たとえば、何度も読み出せるが記録は一度だけの(WORM)メモリが従来技術において周知である(非特許文献2)。情報を記録すると、シリコンチップの回路グリッドの特定の点で電圧が高くなり、これらの地点でポリチオフェンが破壊されて「0」ビットのデータが生成される。何も起こらなかった地点のポリチオフェンは導電性のままであり、「1」ビットのデータになる。
【0112】
本発明のもうひとつの実施形態では、式Iを有するポリピロールの水性分散液を利用して、バイオセンサ、エレクトロクロミック、静電気防止、固体電解質コンデンサまたは電磁遮蔽用であるがこれに限定されるものではないコーティングを形成する。
【0113】
本発明のさらにもうひとつの実施形態では、高分子酸コロイドの存在下でピロールモノマーを重合することを含む、ポリピロールの水性分散液の製造方法が得られる。もうひとつの実施形態では、コロイド形成性高分子酸が、カルボン酸、アクリル酸、スルホン酸、リン酸、ホスホン酸などであるか、上記の組み合わせである。新規な組成物を製造する新規な方法の一実施形態では、ポリピロールが未置換のポリピロールであり、コロイド形成性高分子酸がフッ素化されている。新規な組成物のもうひとつの実施形態では、ポリピロールが未置換のポリピロールであり、コロイド形成性高分子酸が過フッ素化されている。さらにもうひとつの実施形態では、コロイド形成性酸がポリエチレンスルホン酸である。さらにもうひとつの実施形態では、ポリエチレンスルホン酸が過フッ素化されている。重合については水中で実施する。さらにもうひとつの実施形態では、上述したような別の酸を用いてパーフルオロエチレンスルホン酸含有重合を実施する。このようにして得られる反応混合物をイオン交換樹脂で処理すれば、反応副生物を除去し、水性分散液を所望のpHにすることができる。もうひとつの実施形態では、イオン交換体または塩基性水溶液を用いてpHをさらに調節することができる。
【0114】
一実施形態では、ピロールモノマーの重合終了前に少なくとも1種の共分散液を反応混合物に加える。もうひとつの実施形態では、ピロールの重合終了後に少なくとも1種の共分散液を反応混合物に加える。もうひとつの実施形態では、少なくとも1種の共分散液の一部をピロール重合の終了前に加え、少なくとも1種の共分散液の残りをピロールの重合終了後に加える。
【0115】
以下の非限定的な実施例を参照して、新規な組成物、新規な製造方法および用途についてさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0116】
(実施例1)
本実施例は、ピロールおよびナフィオン(登録商標)、コロイド性パーフルオロエチレンスルホン酸(「PPy/ナフィオン(登録商標)」)から分散されたポリピロールを生成する、水性ポリピロール分散液の調製について説明するためのものである。
【0117】
温度を約270℃にしたこと以外は米国特許公報(特許文献7)の実施例1、パート2に記載の手順と同様の手順で、EWが1050のパーフルオロエチレンスルホン酸の25%(w/w)水性コロイド性分散液を生成した。この分散液を水で希釈し、重合用に12%(w/w)分散液を生成した。
【0118】
電気的に制御したプロペラ式の攪拌パドルを取り付けた500mL容の反応ケトルに、ナフィオン(登録商標)ポリマー分散液64.6g(ナフィオン(登録商標)モノマー単位7.38ミリモル)と、脱イオン水125gと、硫酸第二鉄(アルドリッチ社、カタログ番号307718)62mgと、37%(w/w)塩酸水溶液(アッシュランドケミカルズ(Ashland Chemicals)、オハイオ州コロンブス;カタログ番号3471440)0.175mL(2.10ミリモル)とを入れ、反応混合物を200RPMで攪拌した。5分間攪拌した後、蒸留したばかりのピロール(Acros Organics、カタログ番号157711000)0.253mL(3.58ミリモル)を加えたところ、反応混合物の色が透明から濃い緑に急激に変化した。さらに5分間攪拌した後、過硫酸ナトリウム(フルカ社、カタログ番号71889)1.01g(4.24ミリモル)を脱イオン水10mLに入れた酸化用溶液を、1.0mL/hの速度でゆっくりと注入しはじめた。これについては、チューブの端が反応混合物よりも約4インチ上にくるようにして、小さなチューブで自動注射器ポンプ上の10mL容の注射器から反応容器までをつないで実施した。反応混合物に酸化剤を加えるにつれて、その色が濃い緑から緑色を帯びた茶色へと変化した。酸化剤溶液を加え終わるまでに約10時間かかった。重合ならびに酸化剤溶液の添加については、いずれも周囲温度で行った。添加を終えるまでには、アキュサイザー(型番780A、パーティクルサイジングシステム(Particle sizing System)、カリフォルニア州サンタバーバラ)で測定した粒度個数は、粒子が0.75μmよりも大きい分散液1mLあたり粒子120万個であった。反応混合物をさらに7時間半放置した後、Lewatit Monoplus S100を15gと、Lewatit MP62WSを15gと、n−プロパノール20gとを加えた。Lewatit Monoplus S100は、架橋ポリスチレンイオン交換樹脂のスルホン酸ナトリウムに対する、ピッツバーグにあるバイエル社の商品名である。Lewatit MP62WSは、架橋ポリスチレンイオン交換樹脂の第3級/第4級アミンに対するバイエル社の商品名。これらの樹脂を、まずは脱イオン水で水に色が付かなくなるまで洗浄した上で使用した。樹脂を含有する反応混合物を4時間半攪拌した後、54番のワットマン濾紙2枚で濾過した。粒度個数は、粒子が0.75μmよりも大きい分散液1mLあたり粒子75万個であった。分散液は、沈殿の徴候がまったく認められず、極めて安定していた。pH計で測定した分散液のpHは5.4であり、乾燥膜の導電率は5.4×10−6S/cmであった。窒素を流しながら少量の分散液を乾燥させ、固体のパーセンテージを求めるために固体膜を形成した。これは4.1%であることが分かった。
【0119】
(実施例2)
本実施例は、ポリマー性発光ダイオード向けの水性PPy/ナフィオン(登録商標)分散液の用途について説明するためのものである。
【0120】
実施例1で調製した水性PPy/ナフィオン(登録商標)分散液を利用して、インジウム/酸化スズ(ITO)/ガラス基板上に発光ダイオードを形成した。ITOの厚さが100から150nmであり、発光用に15mm×20mmのITO領域があるガラス/ITO基板(30mm×30mm)を、洗浄した後、UVオゾンで処理した。水性PPy/ナフィオン(登録商標)分散液をITO/ガラス基板に厚さ62nmでスピンコートした。スピンコート後の膜を真空中にて90℃で30分間焼成した。発光層として、ダウ・ケミカル(ミシガン州ミッドランド)製のルミネーショングリーンの1%(w/v)トルエン溶液をPPy/ナフィオン(登録商標)膜の上にスピンコートした後、窒素中にて130℃で30分間焼成した。その直後、ルミネーショングリーン膜に厚さ3.0nmのバリウムと550nmのアルミニウムを堆積し、カソードとした。これらのダイオードは、電流密度5.7mA/cm、電圧3.4Vでの輝度が1,000cd/m、効率は18cd/Aである。
【0121】
(実施例3)
本実施例は、水性ポリピロール/ナフィオン(登録商標)分散液から調製される乾燥固体の特性のいくつかを説明するためのものである。
【0122】
実施例1で調製して乾燥させたPPy/ナフィオン(登録商標)0.418gを、脱イオン水9.6gと混合した。長時間放置した後も、この水は透明のままであった。この結果から、乾燥PPy/ナフィオン(登録商標)膜が水に再分散しなかったことが自明であった。乾燥後のPPy/ナフィオン(登録商標)と接した水のpHは6.3であったことから、酸が浸出していないことが明らかであった。さらに、周囲条件で24時間後に吸湿量は1%未満であった。これらの特徴は、OLED、静電気防止コーティング、電磁遮蔽ならびに、電界効果トランジスタ、エレクトロクロミックディスプレイ、メモリ記憶装置などのマイクロエレクトロニクス用途を想定した材料では重要なものである。
【0123】
(比較例3A)
この比較例は、水溶性ポリ(スチレンスルホン酸)を用いて生成した市販の水性PEDT分散液から乾燥させた固体膜の特性を説明するためのものである。
【0124】
ガラスビーカー中、窒素流下で室温にて、H.C.スタークゲーエムベーハー(Starck,GmbH)(ドイツ、レバークーゼン)製のバイトロン−P VP AI 4083(ロット番号06Y76982)約30mLを乾燥させて固体膜を得た。乾燥膜のフレークを脱イオン水約10mLと混合し、この混合物を手で振盪した。フレークのほとんどが水に再分散されたため、水が青くなり、極めて濃くなった。この水は、pH計で測定したpHが2未満と極めて酸性度が高かった。
【0125】
(比較例3B)
この比較例は、水溶性ポリ(スチレンスルホン酸)を用いて生成したもうひとつの市販の水性PEDT分散液から乾燥させた固体膜の吸湿について説明するためのものである。
【0126】
ガラスビーカー中、窒素流下で室温にて、H.C.スタークゲーエムベーハー(Starck,GmbH)(ドイツ、レバークーゼン)製のバイトロン−P CH8000(ロット番号CHN0004)約30mLを乾燥させて固体膜を得た。乾燥膜の大部分の再分散性と酸性度を脱イオン水約10mL中にて試験したところ、比較例3Aで説明したような挙動を呈することが明らかになった。次に、少量の乾燥膜フレークを周囲条件で平衡化した後、熱重量分析装置(窒素中、20℃/分)で吸湿を分析した。膜フレークは周囲条件で29.4%の水を吸収した。
【0127】
これらの結果から、PEDTフィルムが極めて吸湿性で、吸収された水分はすべて極めて酸性度が高くなり得ることが明らかに分かる。VP AI 4083およびCH8000 PEDTのどちらも、バッファ層としてOLEDに利用するためのものが販売されている。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】本発明によるバッファ層を含む電子デバイスの断面図を示す。
【図2】新規な組成物の一実施形態を含む電極を含む薄膜電界効果トランジスタの断面図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリピロールおよび少なくとも1種のコロイド形成性高分子酸の水性分散液を含むことを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記ポリピロールが以下の式I
【化1】

(式I中、
は、各出現で同一または異なるように独立に選択され、水素、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アルカノイル、アルキルチオ、アリールオキシ、アルキルチオアルキル、アルキルアリール、アリールアルキル、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリール、アルキルスルフィニル、アルコキシアルキル、アルキルスルホニル、アリールチオ、アリールスルフィニル、アルコキシカルボニル、アリールスルホニル、アクリル酸、リン酸、ホスホン酸、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、エポキシ、シラン、シロキサン、アルコール、ベンジル、カルボキシレート、エーテル、エーテルカルボキシレート、アミドスルホネート、エーテルスルホネート、およびウレタンから選択されるか;または両方のR基が一緒に、3員環、4員環、5員環、6員環または7員環の芳香族環または脂環式環を完成するアルキレン鎖またはアルケニレン鎖を形成してもよく、この環は任意選択的に、1個または複数の二価窒素、硫黄または酸素原子を含んでもよく、
は、各出現で同一または異なるように独立に選択され、水素、アルキル、アルケニル、アリール、アルカノイル、アルキルチオアルキル、アルキルアリール、アリールアルキル、アミノ、エポキシ、シラン、シロキサン、アミドスルホネート、アルコール、ベンジル、カルボキシレート、エーテル、エーテルカルボキシレート、エーテルスルホネート、およびウレタンから選択され、ホモポリマーまたはコポリマーであってもよい)
を有することを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
が、各出現で同一であるか異なっており、水素、アルキル、アルケニル、アルコキシ、シクロアルキル、シクロアルケニル、アルコール、ベンジル、カルボキシレート、エーテル、エーテルカルボキシレート、アミドスルホネート、エーテルスルホネート、ウレタン、エポキシ、シラン、シロキサン、ならびに、スルホン酸、カルボン酸、アクリル酸、リン酸、ホスホン酸、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、エポキシ、シランまたはシロキサン部分のうちの1つまたは複数で置換されたアルキルから独立に選択されることを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
が、水素、アルキル、ならびに、スルホン酸、カルボン酸、アクリル酸、リン酸、ホスホン酸、ハロゲン、シアノ、ヒドロキシル、エポキシ、シランまたはシロキサン部分のうちの1つまたは複数で置換されたアルキルから選択されることを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
およびRが水素であることを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項6】
両方のRが一緒に6員環または7員環の脂環式環を形成し、それが、アルキル、ヘテロアルキル、アルコール、ベンジル、カルボキシレート、エーテル、エーテルカルボキシレート、アミドスルホネート、エーテルスルホネート、およびウレタンから選択される基でさらに置換されていることを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
両方のRが一緒に−O−(CHY)m−O−(式中、mは2または3であり、Yは、各出現で同一であるか異なっており、水素、アルキル、アルコール、ベンジル、カルボキシレート、エーテル、エーテルカルボキシレート、アミドスルホネート、エーテルスルホネート、およびウレタンから選択される)を形成することを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項8】
前記コロイド形成性高分子酸が、高分子スルホン酸、高分子カルボン酸、高分子アクリル酸、高分子リン酸、高分子ホスホン酸、およびそれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記高分子酸がフッ素化高分子スルホン酸であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
組成物が、導電性ポリマー、金属粒子、グラファイト繊維、グラファイト粒子、カーボンナノチューブ、炭素ナノ粒子、金属ナノワイヤ、有機導電性インク、有機導電性ペースト、無機導電性インク、無機導電性ペースト、電荷輸送材料、半導電性無機酸化物ナノ粒子、絶縁性無機酸化物ナノ粒子、圧電性酸化物ナノ粒子、圧電ポリマー、焦電性酸化物ナノ粒子、焦電性ポリマー、強誘電性酸化物ナノ粒子、強誘電性ポリマー、分散助剤、架橋剤、およびそれらの組み合わせから選択される少なくとも1種をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
組成物のpHが1から8であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記高分子スルホン酸がパーフルオロアルキレンスルホン酸であることを特徴とする請求項9に記載の組成物。
【請求項13】
少なくとも1種のポリピロールと少なくとも1種のコロイド形成性高分子酸とを含む層を少なくとも1層含むことを特徴とする電子デバイス。
【請求項14】
層が、pHが3.5を超える請求項1に記載の組成物から形成されることを特徴とする請求項13に記載のデバイス。
【請求項15】
層が、高分子スルホン酸、高分子カルボン酸、高分子リン酸、高分子ホスホン酸、高分子アクリル酸、およびそれらの混合物から選択されるコロイド形成性高分子酸を含むことを特徴とする請求項13に記載のデバイス。
【請求項16】
デバイスが、光センサ、光スイッチ、フォトトランジスタ、フォトコンダクタ、バイオセンサ、フォトチューブ、IR検出器、光起電力デバイス、光導電素子、フォトレジスタ、太陽電池、発光ダイオード、発光ダイオードディスプレイ、ダイオード、エレクトロクロミックディスプレイ、電磁遮蔽デバイス、メモリ記憶装置デバイス、トランジスタ、電界効果抵抗デバイス、固体電解質コンデンサ、充電式電池、およびダイオードレーザーであることを特徴とする請求項13に記載の電子デバイス。
【請求項17】
少なくとも1種のポリピロールと少なくとも1種のコロイド形成性高分子酸とを含む組成物を含む電極を少なくとも1つ含むことを特徴とする薄膜電界効果トランジスタ。
【請求項18】
前記電極が、金属ナノワイヤ、金属ナノ粒子またはカーボンナノチューブまたはそれらの混合物をさらに含むことを特徴とする請求項16に記載の薄膜電界効果トランジスタ。
【請求項19】
少なくとも1種のポリピロールと少なくとも1種のコロイド形成性高分子酸とを含む層を少なくとも1層含むことを特徴とする静電気防止コーティングおよび腐食防止保護コーティング。
【請求項20】
ピロールモノマーおよび酸化剤のうちの少なくとも一方を加えるときに、コロイド形成性高分子酸の少なくとも一部が存在することを条件に、水と、少なくとも1種のピロールモノマーと、少なくとも1種のコロイド形成性高分子酸と、酸化剤とを、任意の順序で組み合わせたものを形成する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物の製造方法。
【請求項21】
高分子酸が、高分子スルホン酸、高分子カルボン酸、高分子アクリル酸、高分子リン酸、高分子ホスホン酸、およびそれらの混合物から選択され、ピロールモノマーが、式II
【化2】

(式中、
は、各出現で同一または異なるように独立に選択され、水素、アルキル、アルケニル、アルコキシ、アルカノイル、アルキルチオ、アリールオキシ、アルキルチオアルキル、アルキルアリール、アリールアルキル、アミノ、アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリール、アルキルスルフィニル、アルコキシアルキル、アルキルスルホニル、アリールチオ、アリールスルフィニル、アルコキシカルボニル、アリールスルホニル、アクリル酸、リン酸、ホスホン酸、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシル、エポキシ、シラン、シロキサン、アルコール、ベンジル、カルボキシレート、エーテル、エーテルカルボキシレート、アミドスルホネート、エーテルスルホネート、およびウレタンから選択されるか;または両方のR基が一緒に、3員環、4員環、5員環、6員環または7員環の芳香族環または脂環式環を完成するアルキレン鎖またはアルケニレン鎖を形成してもよく、この環は任意選択的に、1個または複数の二価窒素、硫黄または酸素原子を含んでもよく、
は、各出現で同一または異なるように独立に選択され、水素、アルキル、アルケニル、アリール、アルカノイル、アルキルチオアルキル、アルキルアリール、アリールアルキル、アミノ、エポキシ、シラン、シロキサン、アミドスルホネート、アルコール、ベンジル、カルボキシレート、エーテル、エーテルカルボキシレート、アミドスルホネート、エーテルスルホネート、およびウレタンから選択される)
から選択されることを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項22】
触媒、共分散助剤、共酸またはそれらの混合物から選択される材料を加える工程をさらに含むことを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項23】
少なくとも1種のピロールモノマーを、添加速度を制御して反応混合物に加えることを特徴とする請求項20および22に記載の方法。
【請求項24】
制御された添加速度の酸化剤と別々および同時に、モノマーを反応混合物に加えることを特徴とする請求項20および22に記載の方法。
【請求項25】
共分散助剤を反応混合物に加えるか、好ましくは重合終了時に加えることを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項26】
分散助剤が、メタノール、n−プロパノール、イソ−プロパノール、ブタノールなどであるが、これらに限定されるものではないことを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項27】
ポリピロールおよびコロイド形成性高分子酸の水性分散液を、少なくとも1種のイオン交換樹脂と接触させることを特徴とする請求項20および22に記載の方法。
【請求項28】
ポリピロールおよびコロイド形成性高分子酸の水性分散液を、少なくとも1種のカチオン交換樹脂および1種のアニオン交換樹脂と接触させることを特徴とする請求項20および22に記載の方法。
【請求項29】
ポリピロールおよびコロイド形成性高分子酸の水性分散液を、少なくとも1種のカチオン交換樹脂および1種のアニオン交換樹脂と接触させることを特徴とする請求項20および22に記載の方法。
【請求項30】
ポリピロールおよびコロイド形成性高分子酸の水性分散液を、塩基性の水溶液でさらに処理することを特徴とする請求項28および29に記載の方法。
【請求項31】
導電性ポリマー、金属粒子、グラファイト繊維、グラファイト粒子、カーボンナノチューブ、炭素ナノ粒子、金属ナノワイヤ、有機導電性インク、有機導電性ペースト、無機導電性インク、無機導電性ペースト、電荷輸送材料、半導電性無機酸化物ナノ粒子、絶縁性無機酸化物ナノ粒子、圧電性酸化物ナノ粒子、圧電ポリマー、焦電性酸化物ナノ−粒子、焦電性ポリマー、強誘電性酸化物ナノ粒子、強誘電性ポリマー、分散助剤、架橋剤、およびそれらの組み合わせから選択される少なくとも1種を加える工程をさらに含むことを特徴とする請求項30に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−529609(P2007−529609A)
【公表日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−504065(P2007−504065)
【出願日】平成17年3月16日(2005.3.16)
【国際出願番号】PCT/US2005/008763
【国際公開番号】WO2005/090435
【国際公開日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】