説明

高分子重合体多孔質膜の製造方法及び高分子重合体多孔質膜

【課題】 薄膜化に優れ、安定した多孔質特性を容易に制御しうる高分子重合体多孔質膜の製造方法を提供すること。
【解決手段】 非水溶性を示す高分子重合体と、前記高分子重合体に対し良溶媒で且つ水に対し相溶性を示す溶媒(溶媒1)と、前記高分子重合体に対し貧溶媒で且つ水に対し相溶性を示す溶媒(溶媒2)とを含む、互いに相溶した溶液を支持体上において膜形状とした後、溶媒(溶媒1および溶媒2の混合溶液)の凝固点温度〜0℃の範囲で冷却し、前記高分子重合体を析出させて高分子重合体多孔質膜を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルター、分離膜、電池用セパレーター、プリント基板などに好適に使用できる高分子重合体多孔質膜の製造方法、および高分子重合体多孔質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高分子重合体多孔質膜の溶液製膜法での製造方法としては、例えば特許文献1では、ポリアミック酸溶液をキャストした後に多孔質フィルムを積層し、貧溶媒に浸漬することを特徴とする製造方法が開示されている。また、特許文献2では、ポリマーをキャストした後に液状の保護層を積層し、貧溶媒に浸漬することを特徴とする製造方法が開示されている。
【0003】
しかしながら、これら上記の方法では、ポリマー溶液をキャストした後に、再度保護層を積層する必要があり工程が複雑となる。また、流動性を持つポリマー溶液上に保護層を設けるため、安定した積層が困難であり、多孔質膜の特性の制御も困難となる。
【0004】
また、特許文献3では、ポリマー溶液に貧溶媒を加え、ゲル状ポリマー溶液とした後に製膜することを特徴とする製造方法が開示されているが、この方法では、ゲル化した溶液を均一にキャストすることは困難であり、薄い多孔質膜が製造しづらい。
【0005】
さらに、特許文献4では、ポリマー溶液に金属酸化物微粒子を分散させたものをキャストし膜を得た後、金属酸化物微粒子を溶解除去することを特徴とする製造方法が開示されている。しかしながら、この方法では、空孔の大きさが金属酸化物微粒子の径より小さいものが得られず、また、膜厚に対して金属酸化物微粒子の径を小さくしていくと、溶解除去が困難となり膜中に残存してしまうという問題があった。
【特許文献1】特開平11−310658号公報
【特許文献2】特開2003−165128号公報
【特許文献3】特開2002−327084号公報
【特許文献4】特開2001−98106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した従来の問題を解決し、薄膜化に優れ、安定した多孔質特性を容易に制御しうる高分子重合体多孔質膜の製造方法および高分子重合体多孔質膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明は、非水溶性を示す高分子重合体と、前記高分子重合体に対し良溶媒で且つ水に対し相溶性を示す溶媒(溶媒1)と、前記高分子重合体に対し貧溶媒で且つ水に対し相溶性を示す溶媒(溶媒2)とを含む、互いに相溶した溶液を支持体上において膜形状とした後、溶媒(溶媒1および溶媒2の混合溶液)の凝固点温度〜0℃の範囲で冷却し、前記高分子重合体を析出させる高分子重合体多孔質膜の製造方法を特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、以下に説明するとおり、所望の空孔率、ガーレ値を有しつつ、高強度であり、薄膜化が可能な多孔質膜を生産性良く得ることができ、フィルター、分離膜、電池用セパレーター、プリント基板などに好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において用いる、非水溶性を示す高分子重合体(以下、単にポリマーということがある)とは、例えば−30〜80℃において、水に対する溶解度が1重量%未満であることが好ましい。具体的には、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド、フッ素系樹脂などを用いることができる。これらポリマーは単独で使用しても、数種の混合物であっても構わない。高剛性高強度であり、薄膜化が可能であることから、芳香族ポリアミドが好ましい。
【0010】
本発明において、ポリマーに対し良溶媒で且つ水に対し相溶性を示す溶媒(以下、溶媒1ということがある)とは、用いるポリマーを溶解しかつ水とも相溶する溶媒のことをいい、種々の有機溶媒を用いることができる。ここで、上記溶媒としては、例えば−30〜80℃において、用いるポリマーの溶解度が1重量%以上である溶媒であることが好ましい。具体的には、溶解性、溶媒の抽出の容易性の点から、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性有機極性溶媒が好ましい。
【0011】
本発明において、ポリマーに対し貧溶媒で且つ水に対し相溶性を示す溶媒(以下、溶媒2ということがある)とは、用いるポリマーの溶解度は低く、水とは相溶する溶媒のことをいい、種々の有機溶媒を用いることができる。ここで、上記溶媒としては、例えば−30〜80℃において、用いるポリマーの溶解度が1重量%未満である溶媒であれば好ましい。具体的には、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−オキサン、1,3,5−オキサン等、水溶性エーテル系溶媒、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパーノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等、水溶性アルコール系溶媒を用いることができる。また、エチレングリコールやジエチレングリコールの重合体についても好ましく用いることができる。炭素数2〜100の水溶性アルコール類であればより好ましい。炭素数を変更することにより、空孔の大きさ、空孔率を細かく調整可能である。例えば、炭素数の少ない物を用いれば、空孔の孔径は1nm〜10μm程度、空孔率は10%〜80%と、比較的密な構造の物が得られやすい。炭素数の多い物を用いれば、空孔の孔径は1μm〜50μm程度、空孔率は40%〜90%と、比較的粗な構造の物が得られやすい。また揮発性が低いため溶液組成が安定し、容易に混合、抽出ができることから、エチレングリコール及びその重合体がより好ましい。
【0012】
本発明において、非水溶性を示す高分子重合体(ポリマー)と、前記ポリマーに対し良溶媒で且つ水に対し相溶性を示す溶媒と、前記ポリマーに対し貧溶媒で且つ水に対し相溶性を示す溶媒とを含む溶液は、それぞれ互いに相溶・溶解し合った状態であることが好ましく、液中に浮遊物、沈殿物等が無く均一に完全相溶した溶液であることが好ましい。例えば、上記溶液がゲル化して流動性を失っていたり、浮遊物、沈殿物等が発生していると、薄膜化が困難となる上に、多孔質特性にムラが生じやすくなる。
【0013】
本発明においては、上記溶液を支持体上において膜形状とした後、溶媒(溶媒1および溶媒2の混合溶液)の凝固点温度〜0℃の範囲で冷却を行いポリマーを析出させると、自己組織化が起こり高分子重合体多孔質膜となる。特に、良好な流動性を持ち、均一に完全相溶した溶液を用いることにより、均一に薄い膜を支持体上にキャストすることができる。さらに冷却を行うことにより、ポリマーの溶解度を低下させてポリマーを析出させると、より均一な多孔質膜形成が可能となる。冷却温度が溶媒(溶媒1および溶媒2の混合溶液)の凝固点温度以下になると、系全体の流動性が著しく失われ斑が大きく、また溶媒が凝固してしまうと凝固した溶媒に沿って多孔質膜が形成されるため、独立した孔が多く形成され、また孔の形状の制御も困難である。冷却温度が0℃を超えると、冷却の効果が低く、所望の特性を持つ孔構造を形成できないことがあったり、孔形成に長時間を要するため孔形成される前に、表面の乾燥が起こり生産に適さないことがある。
【0014】
また、冷却後、溶媒(溶媒1および溶媒2)に対し0.1〜10重量%の水を前記冷却後の膜形状溶液に吸収させることにより、ポリマーの溶解度を更に低下させ、速やかに多孔質膜化を行うことができる。水の吸収量が0.1重量%未満であると、ポリマーの析出が進行しない場合や、また、析出したとしても所望の孔構造形成までに時間がかかる。また、水の吸収量が10重量%を超えると、水によってポリマー濃度が低下し、多孔質膜の強度が低下し脆くなることがある。また、上記の過程において、多孔質膜表面に水と溶媒との混合物が液滴を形成しないことが好ましい。溶液の組成によるが、高湿度下で多量の水分を吸収させると、表面に液滴を形成することがあり、これにより溶液組成に斑を生じてしまい、多孔質膜物性の斑となり得るからである。
【0015】
また本発明において好ましく用いることができる芳香族ポリアミドとしては、次の式(1)及び/又は式(2)で表される繰り返し単位を有するものが好適である。
式(1):
【0016】
【化1】

【0017】
式(2):
【0018】
【化2】

【0019】
ここで、Ar1、Ar2、Ar3の基としては、例えば、
【0020】
【化3】

【0021】
等が挙げられ、X、Yの基は、
−O−、−CH2−、−CO−、−CO2−、−S−、−SO2−、−C(CH32−等から選択することができる。
【0022】
更に、これらの芳香環上の水素原子の一部が、フッ素や臭素、塩素等のハロゲン基(特に塩素)、ニトロ基、メチルやエチル、プロピル等のアルキル基(特にメチル基)、メトキシやエトキシ、プロポキシ等のアルコキシ基等の置換基で置換されているものが、吸湿率を低下させ湿度変化による寸法変化が小さくなるため好ましい。また、重合体を構成するアミド結合中の水素が他の置換基によって置換されていてもよい。本発明に用いられる芳香族ポリアミドは、上記の芳香環がパラ配向性を有しているものが、全芳香環の80モル%以上、より好ましくは90モル%以上を占めていることが好ましい。ここでいうパラ配向性とは、芳香核上主鎖を構成する2価の結合手が互いに同軸または平行にある状態をいう。このパラ配向性が80モル%未満の場合、高分子重合体多孔質膜の剛性および耐熱性が不十分となる場合がある。更に、芳香族ポリアミドが式(3)で表される繰り返し単位を60モル%以上含有する場合、延伸性及び多孔質特性が特に優れることから好ましい。
式(3):
【0023】
【化4】

【0024】
本発明の方法により得られる高分子重合体多孔質膜としては、ガーレ値が0.5〜1、000sec/100ccであることが好ましい。多孔質膜のガーレ値がこの範囲であると、フィルター、分離膜、電池用セパレーター、プリント基板などに好適に使用できる。
【0025】
次に本発明の多孔質膜の製造方法について、芳香族ポリアミドをポリマーとして用いた場合を代表例として、以下説明するが、これに限定されるものではない。
【0026】
芳香族ポリアミドを、例えば酸クロリドとジアミンから得る場合には、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性有機極性溶媒中で、溶液重合したり、水系媒体を使用する界面重合などで合成する。単量体として酸クロリドとジアミンを使用するとポリマ溶液中で塩化水素が副生するが、これを中和する場合には水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸リチウムなどの無機の中和剤、またエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどの有機の中和剤を使用するとよい。また、イソシアネートとカルボン酸との反応から芳香族ポリアミドを得る場合には、非プロトン性有機極性溶媒中、触媒の存在下で行うことができる。
【0027】
本発明の多孔質膜を得るためにはポリマの固有粘度ηinh(ポリマ0.5gを98重量%硫酸中で100mlの溶液として30℃で測定した値)は、0.5(dl/g)以上であることが多孔質膜にした時のハンドリング性が良くなるので好ましい。
【0028】
製膜原液には溶解助剤として無機塩、例えば塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム、硝酸リチウムなどを添加する場合もある。また、製膜原液としては、中和後のポリマー溶液に、水溶性アルコール類を混合して用いてもよいし、一旦、ポリマーを単離後、非プロトン性有機極性溶媒に再溶解し、水溶性アルコール類を混合して用いてもよい。製膜原液中のポリマー濃度は2〜30重量%程度が好ましい。薄く、安定した多孔質特性の多孔質膜を効率良く得られることから、より好ましくは8〜25重量%、さらに好ましくは12〜20重量%である。また、水を吸収させた際、速やかにポリマーが析出されるため、混合される水溶性アルコール類は2重量%〜40重量%が好ましい。より好ましくは5〜30重量%、さらに好ましくは、10〜25重量%である。
【0029】
上記のようにして調製された製膜原液は、いわゆる溶液製膜法により多孔質膜化が行われる。
【0030】
高分子多孔質膜を製造する場合、溶液をガラス板や、ドラム、エンドレスベルト等の支持体上に流延することによって、膜形状とした後、恒温槽に導入したり、ドライアイスや液体窒素などの冷媒を用いて支持体を冷却する等、種々の方法によって冷却することによりポリマーを析出させる。温度、溶液の組成、冷却する速度、時間など各種の条件によって一概には限定できないが、条件により得られる多孔質膜の特徴の一例を挙げると、0℃付近においては、空孔径の大きい貫通孔を有した多孔質膜が得られ、低温になるに従って、空孔径の小さい繊維状の高分子が網目状または、不織布状に重なっている多孔質膜が得られるため、このような傾向を踏まえ、適宜条件を変更して、目的の特性を有する多孔質膜を得ることが可能である。
【0031】
上記冷却をした後、水を吸収させることにより、ポリマーの析出を促進させることができる。この時、水を吸収させる方法は、霧状の水を付着させる方法、水中に導入する方法、調湿空気中に導入する方法、いずれの方法でも差し支えないが、水の吸収速度、量を細かくコントロール可能である調湿空気中へ導入する方法が好適に用いられる。調湿空気中へ導入する場合、相対湿度で5〜100%に調湿された空気中であることが好ましい。この時の温度は−30℃〜80℃であると好適である。
【0032】
ポリマー析出を終えた溶液(高分子膜)は、次の湿式工程の湿式浴に導入され、脱溶媒が行われる。この時、支持体から剥離し湿式浴へ導入しても良いし、支持体と共に湿式浴へ導入した後、剥離を行っても構わない。浴組成は、ポリマーの溶解度が低ければ特に限定されないが、水、あるいは有機溶媒/水の混合系を用いるのが、経済性、取扱いの容易さから好ましい。また、湿式浴中には無機塩が含まれていてもよい。
【0033】
この際、多孔質膜中の不純物を減少させるために、浴組成は有機媒/水=70/30〜20/80、浴温度40℃以上であることが好ましい。さらに、最後に40℃以上の水浴に通すことが有効である。
【0034】
脱溶媒を終えた多孔質膜は、熱処理が行われる。この時の温度は、高温時の寸法安定性が向上するため、より高温にて行われることが好ましいが、用いたポリマーの熱分解温度以下で行う必要がある。芳香族ポリアミドにおいては、350〜400℃において熱分解が行われるため、それ以下の温度で熱処理が行われる。好ましくは250〜320℃である。
【0035】
本発明の方法によって得られる多孔質膜は、ガーレ値が0.5〜1,000sec/100ccであることが好ましい。本発明の製法によれば、たとえガーレ値が小さくとも、機械強度を維持することが可能であり、また、ガーレ値が大きくとも、好適な空孔率、空孔径を付与することが可能である。ガーレ値が0.5sec/100ccより小さいと、強度が著しく低下し、ガーレ値が1,000sec/100ccより大きいと、フィルターやセパレーター等に現実的に使用することが困難となる。
【0036】
本発明の方法によって得られる多孔質膜は、破断伸度が5%以上であることが好ましい。破断伸度が5%以下であると、加工する場合、工程中での突起や張力の変動により容易に破断してしまうことがある。上限は特に定めることはないが、多孔質膜であれば一般的に100%程度が限界である。
【0037】
本発明の方法によって得られる多孔質膜は、破断強度が50MPa以上であることが好ましい。破断強度が50MPa以下であると、加工する場合、工程中での突起や張力の変動により容易に破断してしまうことがある。上限は特に定めることはないが、多孔質膜であれば一般的に1GPa程度が限界である。
【0038】
本発明の高分子重合体多孔質膜は、フィルター、分離膜、電池用セパレーター、プリント基板などに好適に使用できる。
【実施例】
【0039】
[物性の測定方法ならびに効果の評価方法]
本発明における物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
【0040】
(1)ガーレ値
JIS−P8117に規定された方法に従って測定を行った。まず、試料の多孔質膜を直径28.6cm、面積645mm2の円孔に締め付ける。次いで、内筒により(内筒重量567g)、筒内の空気を試験円孔部から筒外へ通過させる。空気100ccが通過する時間を測定し、ガーレ値とした。測定装置として、B型ガーレデンソメーター(安田精機製作所製)を使用した。
【0041】
(2)空孔率
多孔質膜を100mm四方の正方形に切り取り、重量W(g)、厚みZ(mm)を測定した。使用したポリマーの比重H(g/mm2)を用いて、次式より空孔率を求めた。
【0042】
空孔率(%)=100−100×((W/H)/(1002×Z))
(3)厚み
関西アンリツ電子株式会社製電子マイクロメーター(検出器型番:K107C、触針半径1.5mm、触針荷重1.5g)を用いて、長さ方向に100mm間隔で5カ所測定し、その平均値を厚みとした。
【0043】
(4)破断強度
JIS−K7127に規定された方法に従って測定を行った。ロボットテンシロンRTA(オリエンテック社製)を用いて25℃、相対湿度65%において測定した。試験片は幅10mm、長さ100mmで引っ張り速度は300mm/分である。
【0044】
(5)水分吸収率
重量既知のガラス板に膜状に塗布した後、窒素雰囲気下、吸湿しないようにして重量を0.01g単位まで正確に秤量し、ガラス板の重量を除いた重量(W0)を導く。ここから溶液の組成に従い溶媒1、溶媒2の合計重量(Y0)を導く。多孔質膜化を終えた後、再び同様に測定、計算を行い、溶液の組成に従い溶媒、溶媒1、溶媒2及び吸収された水の合計重量(Y1)を導き、以下の式で水分吸収率を求める。
【0045】
水分吸収率(%)=100×((Y1−Y0)/Y1)
(6)電池特性
A.電解液の調製
LiC49SO3をリン酸トリメチルに溶解させたのち、プロピレンカーボネートを加えて混合し、プロピレンカーボネートとリン酸トリメチルとの体積比が1:2の混合溶媒にLiC49SO3を0.6モル/リットル溶解させた有機電解液を調製した。このようにして得られた有機電解液の引火点を調べるため、この電解液を所定の温度まで加熱して液面近傍に火を近づけ、引火するかどうかを調べた。100℃、150℃、200℃のいずれの温度のテストでも引火せず、この電解液の引火点は200℃以上であることが分かった。
【0046】
B.電池の作成
リチウムコバルト酸化物(LiCoO2)に黒鉛とポリフッ化ビニリデンとを加え、溶剤で分散させたスラリーを、厚さ10μmの正極集電体のアルミニウム箔の両面に均一に塗布して乾燥し、圧縮成形して帯状の正極を作製した。正極の厚みは40μmであった。
【0047】
コークスと、粘着剤としてのポリフッ化ビニリデンとを混合して負極合剤とし、これを溶剤で分散させてスラリーにした。この負極合剤スラリーを、負極集電体としての厚さが10μmの帯状の銅箔の両面に均一に塗布して乾燥し、圧縮成形して帯状の負極前駆体を作製した。負極前駆体の処理液として、LiC49SO3をリン酸トリメチルに溶解させたのち、エチレンカーボネートを加えて混合することにより、処理液を調製した。負極前駆体の両側に処理液を含浸させたセパレータを介してリード体を圧着したLiフォイルで鋏み込み、ホルダーに入れ、負極前駆体を正極、Li極を負極として、放電および充電を行った。その後、分解し、負極前駆体をジメチルカーボネートで洗浄し、乾燥して、負極を作製した。負極の厚みは50μmであった。
【0048】
次に、上記の帯状正極を、各実施例のセパレータ用フィルムを介して、上記シート状負極と重ね、渦巻状に巻回して渦巻状電極体としたのち、内径13mmの有底円筒状の電池ケース内に充填し、正極および負極のリード体の溶接を行った後、有機電解液を電池ケース内に注入した。電池ケースの開口部を封口し、電池の予備充電を行い、筒形の有機電解液二次電池を作製した。
【0049】
C.電池容量
作成した各二次電池について、35mAで充電4.1V、放電2.7Vで放充電させ、1サイクル目と10サイクル目の放電容量を調べた。1サイクル目の放電容量を基準として、10回目の放電容量が、
A:95%以上
B:90%以上95%未満
C:90%未満
のランクで評価し、ランクB以上を合格とした。
【0050】
以下に実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものでないことは言うまでもない。
【0051】
(実施例1)
脱水したN−メチル−2−ピロリドンに80モル%に相当する2−クロルパラフェニレンジアミンと20モル%に相当する4、4’−ジアミノジフェニルエーテルとを溶解させ、これに98.5モル%に相当する2−クロルテレフタル酸クロリドを添加し、2時間撹拌により重合後、炭酸リチウムで中和を行い、ポリマー濃度が11重量%の芳香族ポリアミド溶液を得た。この溶液を水で再沈してポリマーを取り出した。
【0052】
このポリマーを15重量%、N−メチル−2−ピロリドン75重量%、ジエチレングリコール10重量%となるよう量り取り、ポリマーをN−メチル−2−ピロリドンに溶解させた後ジエチレングリコール加え、均一に完全相溶したポリマー溶液を得た。
【0053】
このポリマー溶液を、バーコーターを用いてガラス板上に約50μmの膜状に形成し、−1℃に調整された恒温槽中に静置し、析出を行い多孔質膜とした。この時多孔質化に要した時間は35時間であった。この多孔質膜をガラス板とともに50℃の水浴にて1時間、溶媒や不純物の抽出を行なった。その後剥離しアルミ製の枠に固定し、3時間風乾後、320℃にて1分間の熱処理を行った。
【0054】
得られた多孔質膜の厚みは、32.7μm、破断強度は140MPa、空孔率は77%、ガーレ値は302sec/100ccであった。
【0055】
得られた多孔質膜を用いて、電池を作製し、放電容量の低下を測定したところ、98%を維持していた。
【0056】
(実施例2)
実施例1と同様にして得た溶液を用いて、バーコーターを用いてガラス板上に約50μmの膜状に形成し、−30℃に調整された恒温槽中に静置し、析出を行い多孔質膜とした。この時多孔質化に要した時間は6時間であった以外は実施例と同様に行い多孔質膜を得た。
【0057】
得られた多孔質膜の厚みは、41.1μm、破断強度は120MPa、空孔率は82%、ガーレ値は230sec/100ccであった。
【0058】
得られた多孔質膜を用いて、電池を作製し、放電容量の低下を測定したところ、98%を維持していた。
【0059】
(実施例3)
実施例1と同様にして得た溶液を用いて、バーコーターを用いてガラス板上に約50μmの膜状に形成し、−10℃に調整された恒温槽中に10分間静置し、その後、20℃、相対湿度5%に調整されたオーブン中に20分静置した。この時の水分吸収率は0.2%であった。その後、実施例と同様に行い多孔質膜を得た。
【0060】
得られた多孔質膜の厚みは、30.8μm、破断強度は140MPa、空孔率は75%、ガーレ値は460sec/100ccであった。
【0061】
得られた多孔質膜を用いて、電池を作製し、放電容量の低下を測定したところ、96%を維持していた。
【0062】
(実施例4)
実施例1と同様にして得た溶液を用いて、バーコーターを用いてガラス板上に約50μmの膜状に形成し、−10℃に調整された恒温槽中に10分間静置し、その後、20℃、相対湿度70%に調整されたオーブン中に20分静置した。この時の水分吸収率は9.5%であった。その後、実施例と同様に行い多孔質膜を得た。
【0063】
得られた多孔質膜の厚みは、37.4μm、破断強度は90MPa、空孔率は79%、ガーレ値は380sec/100ccであった。
【0064】
得られた多孔質膜を用いて、電池を作製し、放電容量の低下を測定したところ、94%を維持していた。
【0065】
(比較例1)
実施例1と同様にして得た溶液を用いて、バーコーターを用いてガラス板上に約50μmの膜状に形成し、5℃に調整された恒温槽中に静置し、析出を行い多孔質膜とした。この時多孔質化に要した時間は62時間であった。この多孔質膜をガラス板とともに50℃の水浴にて1時間、溶媒や不純物の抽出を行なった。その後剥離しアルミ製の枠に固定し、3時間風乾後、320℃にて1分間の熱処理を行った。
【0066】
得られた多孔質膜の厚みは、18.3μm、破断強度は180MPa、空孔率は59%、ガーレ値は1020sec/100ccであった。
【0067】
得られた多孔質膜を用いて、電池を作製し、放電容量の低下を測定したところ、87%に低下していた。
【0068】
(比較例2)
実施例1と同様にして得た溶液を用いて、バーコーターを用いてガラス板上に約50μmの膜状に形成し、−50℃に調整された恒温槽中に静置し、析出を行い多孔質膜とした。この時多孔質化に要した時間は1時間であった以外は実施例と同様に行い多孔質膜を得た。
【0069】
得られた多孔質膜の厚みは、43.7μm、破断強度は41MPa、空孔率は83%、ガーレ値は1,320sec/100ccであった。
【0070】
得られた多孔質膜を用いて、電池を作製し、放電容量の低下を測定したところ、75%に低下していた。
【0071】
(比較例3)
実施例1と同様にして得た溶液を用いて、バーコーターを用いてガラス板上に約50μmの膜状に形成し、−10℃に調整された恒温槽中に10分間静置し、その後、20℃、相対湿度1%に調整されたオーブン中に20分静置した。この時の水分吸収率は0.07%であった。その後、実施例と同様に行い多孔質膜を得た。
【0072】
得られた多孔質膜の厚みは、20.1μm、破断強度は170MPa、空孔率は62%、ガーレ値は2,080sec/100ccであった。
【0073】
得られた多孔質膜を用いて、電池を作製し、放電容量の低下を測定したところ、82%に低下していた。
【0074】
(比較例4)
実施例1と同様にして得た溶液を用いて、バーコーターを用いてガラス板上に約50μmの膜状に形成し、−10℃に調整された恒温槽中に10分間静置し、その後、20℃、相対湿度80%に調整されたオーブン中に3時間静置した。この時の水分吸収率は28%であった。その後、実施例と同様に行い多孔質膜を得た。
【0075】
得られた多孔質膜の厚みは、48.4μm、破断強度は8MPa、空孔率は91%、ガーレ値は760sec/100ccであった。
【0076】
強度が弱く脆い為、電池を作製することが不可能であった。
【0077】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶性を示す高分子重合体と、前記高分子重合体に対し良溶媒で且つ水に対し相溶性を示す溶媒(溶媒1)と、前記高分子重合体に対し貧溶媒で且つ水に対し相溶性を示す溶媒(溶媒2)とを含む、互いに相溶した溶液を支持体上において膜形状とした後、溶媒(溶媒1および溶媒2の混合溶液)の凝固点温度〜0℃の範囲で冷却し、前記高分子重合体を析出させる高分子重合体多孔質膜の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の冷却された膜形状溶液に、溶媒(溶媒1および溶媒2)に対し0.1〜10重量%の水を吸収させる、請求項1に記載の高分子重合体多孔質膜の製造方法。
【請求項3】
溶媒2が、炭素数2〜100の水溶性アルコール類である、請求項1または2に記載の高分子重合体多孔質膜の製造方法。
【請求項4】
前記非水溶性を示す高分子重合体が芳香族ポリアミドである、請求項1〜3のいずれかに記載の高分子重合体多孔質膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法によって製造された、ガーレ値が0.5〜1,000sec/100ccである高分子重合体多孔質膜。

【公開番号】特開2006−306945(P2006−306945A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−128981(P2005−128981)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】