説明

高分子量ポリエステル系樹脂及びその製造方法

【課題】高分子量であっても光学特性に優れる高分子量ポリエステル系樹脂及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の高分子量ポリエステル系樹脂は、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を含有するフルオレン含有ポリエステル系樹脂が鎖伸長剤で結合されている高分子量ポリエステル系樹脂であって、前記鎖伸長剤は、ヒドロキシル基、アミノ基、エポキシ基、オキサゾリン基、カルボキシル基及び酸無水物基から選択された少なくとも一種の官能基を1分子中に少なくとも2個含む化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子量であっても光学的特性に優れるポリエステル系樹脂及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学部材(例えば、光学レンズなど)には、高い透明性、優れた機械的特性(例えば、機械的強度など)が必要とされるため、従来、種々の樹脂が使用されている。前記樹脂として、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)などが知られている。
【0003】
ポリメチルメタクリレートは、透明性、耐光性に優れているとともに低複屈折であり、また、アッベ数が大きく、光学的異方性も小さいため、光学用途に適しているが、吸湿性が高いため成形後の形態安定性は劣り、物性の変化が生じるおそれがある。さらに、PMMAは他の光学樹脂に比べ、屈折率が低く、成形品(例えば、光学レンズなど)の薄型化が困難であるとともに、機械的特性や耐熱性に劣る。
【0004】
ポリカーボネート(特に、芳香族ポリカーボネート)は、比較的アッベ数が小さいものの、透明性、耐熱性、吸湿性に優れ、高屈折率を示す。しかし、ポリカーボネートは耐光性、成形性に劣り、さらには、成形に伴って複屈折が上昇しやすいため、高精度が求められる光学部材(例えば、光学レンズなど)の用途には必ずしも適さない。なお、成形に伴う複屈折の発生を低減するため、ポリカーボネートの分子量を小さくして流動性を高める工夫がなされているが、成形体の機械的特性が大きく低下する場合がある。
【0005】
高性能光学部材の需要に伴い、高屈折率でかつ複屈折の低い透明樹脂として、フルオレン骨格を有するポリエステル系樹脂がこれまでに提案されている。例えば、特開平7−149881号公報(特許文献1)、特許第2843214号(特許文献2)などには、少なくとも芳香族ジカルボン酸とフルオレン骨格を含有するジヒドロキシ化合物とを重合成分とするポリエステル重合体であって、極限粘度が0.3以上であるポリエステル重合体が開示されている。また、特開平11−60706号公報(特許文献3)には、ジカルボン酸成分とフルオレン骨格を含有するジオール成分とを重合成分とするポリエステル重合体が開示されている。この文献には、ポリエステル重合体の重量平均分子量は1,000以上であると記載され、実施例では、重量平均分子量が8,300〜37,500のポリエステル重合体が製造されている。特開2000−319366号公報(特許文献4)には、脂環族ジカルボン酸成分とフルオレン骨格を含有するジヒドロキシ化合物とを重合成分とするポリエステル重合体が開示されている。この文献には、ポリエステル重合体の重量平均分子量は10,000以上であると記載され、実施例では、重量平均分子量が30,500〜36,600のポリエステル重合体が製造されている。
【0006】
しかし、これらの文献に記載されているフルオレン骨格を有するポリエステル重合体は、透明性及び成形性などに優れ、光学用途に適しているが、用途によっては、機械的特性が不十分であり、さらなる高分子量化が望まれる。
【0007】
なお、特許文献1乃至4に記載されているポリエステル重合体は、溶融重合により製造されている。溶融重合により高分子量のポリエステル樹脂を製造するためには、高温下、真空条件下で反応させる必要があり、さらには、反応に長時間費やす必要もある。しかし、このような条件下で、反応させると、粘度上昇により生成した樹脂が取り出しにくくなる。一方、溶融粘度を低下させ、撹拌して重合効率を上げるとともに、樹脂を取り出しやすくするために温度を高めると、熱分解(解重合)が生じ、低分子量化するとともに着色しやすくなり、光学用途には適さない。そのため、溶融重合により、着色が少なく、光学用途に適した高分子量の樹脂を製造するのは困難である。
【0008】
高分子量化されたポリエステル樹脂として、例えば、特開平8−109249号公報(特許文献5)には、少なくともジカルボン酸成分とフルオレン骨格を含有するジヒドロキシ化合物とを重合成分とするポリエステル樹脂であって、クロロフォルム中での極限粘度が0.6以上であるポリエステル樹脂が開示されている。この文献のポリエステル樹脂は、前記ジカルボン酸成分と前記ジヒドロキシ化合物とを、通常の方法(例えば、溶融重合法など)によって重合し、ポリエステル共重合体を生成させた後、前記ポリエステル共重合体を溶剤(例えば、トリクロロベンゼンなど)に溶解させ、ジイソシアナートを加えて反応させることにより製造されており、例えば、実施例において、重量平均分子量が120,000、200,000の前記ポリエステル樹脂が製造されている。
【0009】
しかし、この文献では、前記反応を溶液中で行っているため、得られるポリエステル樹脂をそのまま使用することができない。すなわち、固体の形態で使用するために、有機溶媒を沈殿などの工程を経て除去する必要があるが、操作が煩雑になるとともに、前記の通り、有機溶媒を除去するために、温度を高める必要があり、温度上昇に伴う樹脂の低分子量化及び着色の問題が生じる。また、ジイソシアナートは、空気中の水分と容易に反応して活性が低下するおそれがあり、取扱性に劣る。
【特許文献1】特開平7−149881号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特許第2843214号(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平11−60706号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2000−319366号公報(特許請求の範囲、実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、高分子量であっても光学特性に優れる高分子量ポリエステル系樹脂及びその製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、機械的強度に優れる高分子量ポリエステル系樹脂及びその製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、工業的に容易に安価で製造でき、高分子量であっても光学用途に有用な高分子量ポリエステル系樹脂及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を有するフルオレン含有ポリエステル系樹脂が特定の鎖伸長剤で結合されている高分子量ポリエステル系樹脂は、高分子量であっても光学特性に優れることを見いだし、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の高分子量ポリエステル系樹脂は、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を含有するフルオレン含有ポリエステル系樹脂が鎖伸長剤で結合されている高分子量ポリエステル系樹脂であって、前記鎖伸長剤が、ヒドロキシル基、アミノ基、エポキシ基、オキサゾリン基、カルボキシル基及び酸無水物基から選択された少なくとも一種の官能基を1分子中に少なくとも2個含む化合物である。
【0015】
前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂は、少なくとも下記式(1)
【0016】
【化1】

【0017】
(式中、Z及びZは同一又は異なって芳香族炭化水素基を示す。R1a及びR1bは同一又は異なってアルキレン基を示し、R2a及びR2bは同一又は異なって、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、R3a及びR3bは同一又は異なって炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、m及びnは同一又は異なって0又は1以上の整数である。h1及びh2は同一又は異なって0〜4の整数であり、j1及びj2は同一又は異なって0〜4の整数である)
で表されるジオール成分と、ジカルボン酸成分とを重合成分とするポリエステル系樹脂であってもよい。前記高分子量ポリエステル系樹脂は、重量平均分子量が35,000〜400,000程度であってもよい。
【0018】
本発明には、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂の水酸基価が2〜100mgKOH/gであり、鎖伸長剤が、カルボキシル基及び酸無水物基から選択された少なくとも一種の官能基を1分子中に少なくとも2個含む化合物であり、重量平均分子量が50,000〜400,000である高分子量ポリエステル系樹脂が含まれる。
【0019】
本発明には、少なくとも9,9−ビスアリールフルオレン骨格を含有するフルオレン含有ポリエステル系樹脂と鎖伸長剤とを反応させる反応工程を含む前記高分子量ポリエステル系樹脂の製造方法も含まれる。
【0020】
前記製造方法において、鎖伸長剤の割合は、フルオレン含有ポリエステル系樹脂100重量部に対し、0.1〜10重量部程度であってもよい。また、前記製造方法において、フルオレン含有ポリエステル系樹脂と鎖伸長剤とを、溶剤の非存在下で溶融混練し、反応させてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の高分子量ポリエステル系樹脂では、特定のフルオレン含有ポリエステル系樹脂が特定の鎖伸長剤で結合されているため、高分子量であっても光学特性に優れる。また、前記高分子量ポリエステル系樹脂は、高分子量化されており、機械的強度にも優れる。このような高分子量ポリエステル系樹脂は、広汎な光学用途に有用であり、特定のフルオレン含有ポリエステル系樹脂と特定の鎖伸長剤とを結合させればよいため、工業的に容易に安価で製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
[高分子量ポリエステル系樹脂]
本発明の高分子量ポリエステル系樹脂は、9,9−ビスアリールフルオレン骨格を含有するフルオレン含有ポリエステル系樹脂が鎖伸長剤で結合されている。
【0023】
(フルオレン含有ポリエステル系樹脂)
フルオレン含有ポリエステル系樹脂は、9,9−ビス(カルボキシアリール)フルオレン骨格を含有するジカルボン酸成分と、ジオール成分とを重合成分とするポリマーであってもよいが、通常、フルオレン含有ポリエステル系樹脂は、9,9−ビス(ヒドロキシアリール)フルオレン骨格を含有するジオール成分と、ジカルボン酸成分とを重合成分とするポリマーである。このようなポリマーには、例えば、少なくとも前記式(1)で表されるジオール成分と、ジカルボン酸成分とを重合成分とするポリマーが含まれる。
【0024】
前記式(1)のZ及びZにおいて、芳香族炭化水素基としては、フェニレン基、ナフタレンジイル基などのC6−14アリーレン基(又はC6−14芳香族炭化水素環に対応する二価基)など]などが例示できる。Z及びZは、フェニレン基又はナフタレンジイル基(例えば、フェニレン基)が好ましい。
【0025】
また、前記式(1)において、R1a及びR1bで表されるアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C2−4アルキレン基が例示できる。R1a及びR1bにおいてアルキレン基の種類はそれぞれ異なっていてもよい。また、アルキレン基R1a及びR1bの種類は係数m及びnの数によっても異なっていてもよい。好ましいアルキレン基は、C2−3アルキレン基(エチレン基、プロピレン基)であり、通常、エチレン基である場合が多い。
【0026】
2a及びR2bとしては、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−8アルキル基(特に、C1−6アルキル基)など)、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロへキシル基などのC5−10シクロアルキル基、好ましくはC5−8シクロアルキル基、さらに好ましくはC5−6シクロアルキル基など)、アリール基[例えば、フェニル基、アルキルフェニル基(メチルフェニル基(又はトリル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基など)、ジメチルフェニル基(キシリル基)など)、ナフチル基などのC6−10アリール基など]、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)などの炭化水素基;アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基などのC1−8アルコキシ基(特にC1−6アルコキシ基)など);シクロアルコキシ基(シクロへキシルオキシ基などのC5−10シクロアルキルオキシ基など);アリールオキシ基(フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基);アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ基など);アシル基(アセチル基などのC1−6アシル基など);アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシカルボニル基など);ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子など);ニトロ基;シアノ基;置換アミノ基(ジアルキルアミノ基など)などが挙げられる。
【0027】
置換基R2a及びR2bの置換数h1及びh2は、通常、0〜4(例えば、0〜2)程度の整数であってもよい。置換基R2a及びR2bの置換位置も特に制限されない。好ましい置換基R2a及びR2bは、C1−6アルキル基(特にメチル基)であり、好ましい置換数h1及びh2は0〜2(例えば、0又は1)程度の整数である。
【0028】
3a及びR3bとしては、前記例示の炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基などが挙げられる。
【0029】
置換基R3a及びR3bの置換数j1及びj2は、通常、0〜4、好ましくは0〜2(例えば、0又は1)程度の整数であってもよい。置換基R3a及びR3bの置換位置も特に制限されない。好ましい置換基R3a及びR3bは、C1−6アルキル基(特にメチル基)であり、好ましい置換数j1及びj2は0又は1(例えば0)である。
【0030】
オキシアルキレン単位の繰り返し数m及びnは、0又は1以上の整数であり、通常、1〜10、好ましくは1〜7、さらに好ましくは1〜5(例えば、1〜4)程度の整数であってもよく、2以上の整数(例えば、2〜4程度)であってもよい。
【0031】
また、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂は、さらに下記式(2)
【0032】
【化2】

【0033】
(式中、R1Cはアルキレン基を示す。)
で表されるジオール成分を有していてもよい。前記式(2)において、R1Cで表されるアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C2−10アルキレン基が例示でき、直鎖状又は分岐鎖状C2−4アルキレン基(例えば、エチレン基、テトラメチレン基など)が好ましい。
【0034】
式(1)で表されるジオールと式(2)で表されるジオールとの割合(モル比)は、前者/後者=100/0〜10/90(例えば、100/0〜30/70)程度の範囲から選択でき、通常、99/1〜50/50、好ましくは99/1〜55/45、さらに好ましくは98/2〜60/40、特に97/3〜65/35(例えば、95/5〜70/30)程度であってもよい。
【0035】
一方、ジカルボン酸成分は、脂肪族ジカルボン酸成分であってもよいが、光学特性(例えば、屈折率、複屈折など)の観点から、脂環族ジカルボン酸成分又は芳香族ジカルボン酸成分であることが好ましい。
【0036】
脂環族ジカルボン酸成分としては、シクロアルカンジカルボン酸類(シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘプタンジカルボン酸などのC5−10シクロアルカン−ジカルボン酸)、シクロアルケンジカルボン酸類(テトラヒドロフタル酸などのC5−10シクロアルケン−ジカルボン酸)、多環式アルカンジカルボン酸類(ボルナンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸などのジ又はトリシクロC7−10アルカン−ジカルボン酸)、多環式アルケンジカルボン酸類(ボルネンジカルボン酸などのジ又はトリシクロC7−10アルケン−ジカルボン酸)などが例示できる。通常、脂環族ジカルボン酸成分は、C5−10シクロアルカン−ジカルボン酸(特に1,4−シクロヘキサンジカルボン酸)である。
【0037】
芳香族ジカルボン酸成分としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などのC6−14アレーン−ジカルボン酸、ビフェニル−4,4′−ジカルボン酸などのC12−14ビフェニル−ジカルボン酸などが例示できる。通常、芳香族ジカルボン酸成分は、C6−12アレーン−ジカルボン酸(特に、テレフタル酸)である。
【0038】
前記ジカルボン酸成分は、酸無水物、ジメチルエステルなどの低級C1−4アルキルエステル、ジカルボン酸に対応する酸ハライドなどのエステル形成可能な誘導体であってもよい。また、前記ジカルボン酸成分は、1又は複数の置換基、例えば、炭化水素基[例えば、アルキル基(例えば、メチル基などのC1−7アルキル基)、シクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基などのC5−10シクロアルキル基)、アリール基(例えば、フェニル基などのC6−10アリール基)など]、ハロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基(例えば、メトキシ基などのC1−10アルコキシ基など)、ハロアルコキシ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基などのC1−10アルコキシカルボニル基)、アシル基(例えば、アセチル基などのC2−5アシル基など)、アミノ基、置換アミノ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基などを有していてもよく、ジカルボン酸の種類に応じて適宜選択できる。
【0039】
好ましいフルオレン含有ポリエステル系樹脂には、例えば、(i)前記式(1)において、R1a及びR1bがエチレン基であり、m及びnが1であり、R2a及びR2bがアルキル基(例えば、メチル基などのC1−6アルキル基)又はアリール基(例えば、フェニル基などのC6−10アリール基)であり、h1及びh2が0〜2であり、j1及びj2が0であるジオール成分と、前記式(2)において、R1cがエチレン基であるジオール成分と、テレフタル酸であるジカルボン酸成分とを重合成分とする共重合体であって、下記式(3a)で表される単位と下記式(4a)で表される単位とを有する共重合体、(ii)前記式(1)において、R1a及びR1bがエチレン基であり、m及びnが1であり、R2a及びR2bがアルキル基(例えば、メチル基などのC1−6アルキル基)又はアリール基(例えば、フェニル基などのC6−10アリール基)であり、h1及びh2が0〜2であり、j1及びj2が0であるジオール成分と、前記式(2)において、R1cがエチレン基であるジオール成分と、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸であるジカルボン酸成分とを重合成分とする共重合体などが含まれる。例えば、前記(i)に含まれる共重合体の一例として、下記式(3a)で表される単位と下記式(4a)で表される単位とを有する共重合体が、前記(ii)に含まれる共重合体の一例として、下記式(3b)で表される単位と下記式(4b)で表される単位とを有する共重合体が挙げられる。
【0040】
【化3】

【0041】
【化4】

【0042】
下記式(3a)で表される単位と下記式(4a)で表される単位との割合は、前者/後者(単位数比)=50/50〜100/0、好ましくは60/40〜95/5、さらに好ましくは65/35〜90/10程度であってもよい。また、下記式(3b)で表される単位と下記式(4b)で表される単位との割合も、前者/後者(単位数比)=50/50〜100/0、好ましくは60/40〜95/5、さらに好ましくは65/35〜90/10程度であってもよい。
【0043】
前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂は、市販品であってもよく、慣用の方法を利用(又は応用)した方法で合成した合成品であってもよい。前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂は、対応するジオール成分とジカルボン酸成分とを反応させることにより得ることができる。このようなポリエステル系樹脂の製造方法については、例えば、特開2004―315676号公報を参照することができる。
【0044】
前記ジカルボン酸成分と前記ジオール成分との割合(使用割合)は、前者/後者(モル比)=5/1〜0.1/1程度から選択でき、通常、前者/後者=1.5/1〜0.5/1、好ましくは1.2/1〜0.7/1(特に、1.1/1〜0.8/1)程度であってもよい。なお、ジカルボン酸成分とジオール成分との割合(又は使用量の割合)を調整することにより、生成するフルオレン含有ポリエステル系樹脂の末端基の種類を調整してもよい。具体的には、前記ジオール成分を前記ジカルボン酸成分に対し、過剰量反応させて、末端基がヒドロキシル基であるフルオレン含有ポリエステル系樹脂を調製してもよい。また、前記ジカルボン酸成分を前記ジオール酸成分に対し、過剰量反応させて、末端基がカルボキシル基であるフルオレン含有ポリエステル系樹脂を調製してもよい。
【0045】
前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂の水酸基価は、2〜100mgKOH/g、好ましくは5〜90mgKOH/g、さらに好ましくは10〜80mgKOH/g程度であってもよい。
【0046】
また、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂の重量平均分子量は、1×10以上(例えば、1×10〜5×10)、好ましくは3×10〜4.5×10、さらに好ましくは5×10〜4×10(例えば、1×10〜4×10)程度であってもよい。
【0047】
(鎖伸長剤)
鎖伸長剤は、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂の末端基(カルボキシル基又はヒドロキシル基)と反応可能な複数の官能基(又は反応性基)を1分子中に含む化合物である。具体的には、前記鎖伸長剤は、1分子中にヒドロキシル基、アミノ基、エポキシ基、オキサゾリン基、カルボキシル基及び酸無水物基から選択された少なくとも一種の官能基を少なくとも2個含む化合物である。なお、複数の官能基は、同種であってもよく、異種であってもよいが、通常、同種である。鎖伸長剤は、反応性などを基準に、高分子量ポリエステル系樹脂の所望の分子量に応じて適宜選択してもよい。
【0048】
ヒドロキシル基含有化合物としては、例えば、ジオール類(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのC2―10脂肪族ジオール類、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどの数平均分子量150〜1000程度のポリアルキレングリコール類、脂環族ジオール類、芳香族ジオール類など)、3以上のヒドロキシル基を有するポリオール類(例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの脂肪族C3−10トリオール類;ペンタエリスリトール、エリスリトールなどのテトラオール類;アラビトール、リビトール、キシリトールなどのペンタオール類など)などが好適に使用される。ヒドロキシル基を有する鎖伸長剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのヒドロキシル基を有する鎖伸長剤のうち、ポリオール類(例えば、脂肪族C3−10トリオール類(例えば、トリメチロールプロパンなど))などが好ましい。
【0049】
アミノ基含有化合物としては、例えば、ポリアミン類(例えば、鎖状ポリアミン類{例えば、脂肪族ジアミン類(エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのC2−20アルカンジアミン)、脂環族ジアミン類(例えば、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタンなど)、芳香族ジアミン類(例えば、フェニレンジアミン、メタキシリレンジアミンなど)などのジアミン類;ポリアルキレンポリアミン類(又はポリアルキレンイミン、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタアミンなどのポリC2−4アルキレンポリアミン)などの第1級ポリアミン類}、環状ポリアミン類[例えば、環状第2級ポリアミン(例えば、ピペラジン、1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカンなど)など])などが例示できる。アミノ基を有する鎖伸長剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのアミノ基を有する鎖伸長剤のうち、鎖状ポリアミン類(例えば、ポリアルキレンポリアミン類(例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなど))などが好ましい。
【0050】
エポキシ基含有化合物としては、ポリグリシジルエーテル類[例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテルなどのC2−20アルキレングリコールポリグリシジルエーテル類;ジ又はトリC2−4アルキレングリコールジグリシジルエーテル(例えば、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテルなど)などのポリアルキレングリコールポリグリシジルエーテル類;脂肪族ポリオールポリグリシジルエーテル類(例えば、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテルなどのC3−12脂肪族ポリオールポリグリシジルエーテルなど)など];ポリグリシジルエステル類[例えば、芳香族ジカルボン酸(フタル酸など)又はその水添物(テトラヒドロフタル酸など)とエピクロロヒドリンとの反応物など];ポリグリシジルアミン類(例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジンなど);エポキシ樹脂(ビスフェノールA型エポキシ樹脂など)などが例示できる。エポキシ基を有する鎖伸長剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのエポキシ基を有する鎖伸長剤のうち、脂肪族ポリオールポリグリシジルエーテル類(例えば、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルなどのC3−12脂肪族ポリオールポリグリシジルエーテルなど)などが好ましい。
【0051】
オキサゾリン基含有化合物としては、ビスオキサゾリン類[例えば、1,3−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、1,4−フェニレンビス(2−オキサゾリン)などのフェニレンビス(2−オキサゾリン)類;2,2−ビス(2−オキサゾリン);2,2−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2−ビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)などの2,2−ビス(C1−6アルキル−2−オキサゾリン)類;2,2−ビス(4−シクロヘキシル−2−オキサゾリン)などの2,2−ビス(C5−6シクロアルキル−2−オキサゾリン)類;2,2−ビス(4−フェニル−2−オキサゾリン)などの2,2−ビス(C6−10アリール−2−オキサゾリン)類などが例示できる。オキサゾリン基を有する鎖伸長剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのオキサゾリン基を有する鎖伸長剤のうち、フェニレンビス(2−オキサゾリン)類(例えば、1,4−フェニレンビス(2−オキサゾリン)など)などが好ましい。
【0052】
カルボキシル基(又は酸無水物基)含有化合物としては、例えば、ジカルボン酸類(例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸などの飽和C2−20脂肪族ジカルボン酸類;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸類;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸(2,6−ナフタレンジカルボン酸など)などの芳香族ジカルボン酸類など)、3以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸類(例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸など)などのカルボン酸類又はその酸無水物(例えば、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸など)などが好適に使用される。カルボキシル基を有する鎖伸長剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのカルボキシル基を有する鎖伸長剤のうち、ポリカルボン酸類(例えば、ピロメリット酸(又は無水ピロメリット酸)など)が好ましい。
【0053】
なお、必要により、ジオール類及びポリオール類はモノオール類(例えば、メタノール、エタノールなどのC1−10脂肪族モノオール類;シクロへキサノールなどの脂環族モノオール類;フェノール類などの芳香族モノオール類など)と併用してもよい。また、ジカルボン酸類及びポリカルボン酸類は、モノカルボン酸類(例えば、酢酸、プロピオン酸などの飽和C1−18脂肪族モノカルボン酸類;シクロヘキサンカルボン酸などの脂環族モノカルボン酸類;安息香酸などの芳香族モノカルボン酸類など)と併用してもよい。
【0054】
また、鎖伸長剤は、前記の通り、前記官能基から選択された異種の官能基を有する化合物であってもよい。このような鎖伸長剤には、例えば、ヒドロキシカルボン酸(例えば、酒石酸、クエン酸、乳酸、グルコン酸など);アミノ酸(例えば、脂肪族アミノ酸、芳香族アミノ酸、含硫アミノ酸、オキシアミノ酸など);ヒドロキシルアミン(例えば、エタノールアミンなどのアルカノールアミン類など)などが含まれる。
【0055】
これらの鎖伸長剤は、単独で又は二種以上組み合わせて用いてもよい。前記鎖伸長剤は、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂の末端基の種類(カルボキシル基又はヒドロキシル基)に応じて適宜選択できる。具体的には、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂の末端カルボキシル基の割合が高いとき、鎖伸長剤としてヒドロキシル基、アミノ基、エポキシ基及び/又はオキサゾリン基を有する化合物を用いると、前記高分子量ポリエステル系樹脂を有効に製造できる。一方、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂の末端ヒドロキシル基の割合が高いとき、前記鎖伸長剤としてカルボキシル基(又は酸無水物基)を有する化合物を用いると、前記高分子量ポリエステル系樹脂を有効に製造できる。例えば、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂の水酸基価が、例えば、1〜25mgKOH/g(好ましくは5〜15mgKOH/g)程度であるとき、前記鎖伸長剤としてカルボキシル基(又は酸無水物基)を有する化合物を用いてもよい。
【0056】
本発明の高分子量ポリエステル系樹脂は、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂が前記鎖伸長剤で結合されている。前記鎖伸長剤の含有量は、前記高分子量ポリエステル系樹脂全体において、0.05〜10重量%、好ましくは0.1〜7.5重量%、さらに好ましくは0.2〜5重量%程度であってもよい。
【0057】
このような高分子量ポリエステル系樹脂の重量平均分子量は、10,000〜200,000程度から選択でき、例えば、30,000〜150,000、好ましくは35,000〜100,000、さらに好ましくは36,000〜95,000程度であってもよい。また、前記高分子量ポリエステル系樹脂の重量平均分子量は、例えば、45,000〜100,000、好ましくは50,000〜90,000、さらに好ましくは52,000〜88,000、特に55,000〜85,000程度であってもよい。
【0058】
本発明では、フルオレン含有ポリエステル系樹脂を鎖伸長剤で結合させることにより、有効に高分子量化することができる。具体的には、高分子量ポリエステル系樹脂の重量平均分子量は、フルオレン含有ポリエステル系樹脂に比べ、500〜65,000、好ましくは1,000〜60,000、さらに好ましくは3,000〜55,000(例えば、5,000〜50,000)、特に、10,000〜45,000(例えば、20,000〜43,000)程度増大されている。
【0059】
なお、前記高分子量ポリエステル系樹脂は、必要に応じて、添加剤を含有する形態であってもよい。前記添加剤としては、例えば、可塑剤、軟化剤、着色剤、分散剤、離型剤、安定化剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などの酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定化剤など)、帯電防止剤、難燃剤、アンチブロッキング剤、結晶核成長剤、充填剤(シリカやタルクなどの粒状充填剤や、ガラス繊維や炭素繊維などの繊維状充填剤など)などが例示できる。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。添加剤の割合は、種類に応じて選択すればよく、特に限定されないが、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂100重量部に対し、0.01〜100重量部程度の範囲から選択でき、例えば、0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜30重量部程度であってもよい。
【0060】
[高分子量ポリエステル系樹脂の製造方法]
高分子量ポリエステル系樹脂は、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂と前記鎖伸長剤とを反応させる反応工程(又は鎖伸長反応)を経て製造することができる。詳細には、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂と前記鎖伸長剤とを反応させると、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂の末端基(カルボキシル基又はヒドロキシル基)と、前記鎖伸長剤の2以上の官能基(又は反応性基)とが反応し、鎖伸長剤を介して前記樹脂ユニット同士が結合し、前記高分子量ポリエステル系樹脂が生成する。
【0061】
前記鎖伸長剤の使用量(又は割合)は、使用する鎖伸長剤の種類や、得られる高分子量ポリエステル系樹脂の所望の分子量、用途などに応じて適宜選択でき、例えば、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂100重量部に対し、0.1〜10重量部(例えば、0.1〜8重量部)程度から選択でき、0.1〜5重量部、好ましくは0.3〜4.8重量部、さらに好ましくは0.5〜4.5重量部、特に、0.7〜4.2重量部(例えば、1〜4重量部)程度であってもよい。
【0062】
使用する鎖伸長剤の官能基(例えば、ヒドロキシル基、アミノ基、エポキシ基、オキサゾリン基など)と、フルオレン含有ポリエステル系樹脂の末端カルボキシル基との割合は、前者/後者(当量比)=5/1〜0.5/1程度から選択できるが、通常、前者/後者(当量比)=4.5/1〜0.8/1、好ましくは4/1〜0.9/1、さらに好ましくは3.5/1〜1/1程度であってもよい。また、使用する鎖伸長剤の官能基(例えば、カルボキシル基又は酸無水物基など)と、フルオレン含有ポリエステル系樹脂の末端ヒドロキシル基との割合も、前者/後者(当量比)=5/1〜0.5/1程度から選択できるが、通常、前者/後者(当量比)=4.5/1〜0.8/1、好ましくは4/1〜0.9/1、さらに好ましくは3.5/1〜1/1程度であってもよい。
【0063】
なお、反応工程は、溶剤の存在下で行ってもよい。例えば、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂と鎖伸長剤と溶剤(前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂及び鎖伸長剤を溶解(又は混和)可能な溶剤)とを混合(又は混練)して反応させてもよく、例えば、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂を溶剤に溶解して樹脂溶液を調製し、前記樹脂溶液に鎖伸長剤を添加して混合(又は混練、撹拌)して反応させてもよい。しかし、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂の環化反応を抑制するため、樹脂溶液の濃度調整が必要である点、コスト面、環境面の点から、反応工程は、溶剤の非存在下で行うのが好ましい。例えば、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂と鎖伸長剤とを、溶剤の非存在下で溶融混練し、反応させて、高分子量ポリエステル系樹脂を製造すると、生産性、操作性、コスト面、環境面などの点から有利である。
【0064】
鎖伸長反応は、大気中で行ってもよく、不活性ガス(窒素、ヘリウムなど)雰囲気中で行うこともできる。また、前記反応は、常圧下で行ってもよく、減圧下又は加圧下で行うこともできる。なお、前記鎖伸長剤として、ヒドロキシル基含有化合物及び/又はアミノ基含有化合物を用いる場合は、前記フルオレン骨格含有ポリエステル系樹脂に対し、解重合剤として作用する場合があるため、前記反応を、減圧下で行うことが好ましい。さらに、前記反応は、例えば、150〜300℃、好ましくは180〜290℃、さらに好ましくは200〜280℃程度の温度下で行うことができる。
【0065】
反応時間は、生成する樹脂の所望の分子量、反応条件などに応じて適宜選択でき、例えば、1〜60分、好ましくは2〜30分、さらに好ましくは3〜20分程度であってもよい。
【0066】
なお、高分子量ポリエステル系樹脂に前記添加剤を含有させる場合には、製造過程のいずれの段階で添加してもよい。例えば、前記反応工程の前に予め添加してもよく、前記反応工程を経た後に添加してもよい。また、前記反応工程の適宜段階において添加してもよい。
【0067】
本発明の高分子量ポリエステル系樹脂は、高分子量であっても、着色が少なく、前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂(鎖伸長されていないフルオレン含有ポリエステル系樹脂)と同等の光学特性を有している。
【0068】
本発明の高分子量ポリエステル系樹脂は、成形時の変形に伴う複屈折の増加が大きく抑制されている。具体的には、前記高分子量ポリエステル系樹脂を成形(又は一次成形)して得られる成形体は成形時の変形に伴う複屈折の増加が大きく抑制され、さらに、前記成形体をさらに成形(又は二次成形)する場合であっても、変形に伴う複屈折の増加が大きく抑制される。例えば、前記高分子量ポリエステル系樹脂フィルムにおいて、延伸倍率(λ)に対する複屈折の増加量(Δn/λ)は、5×10−4/倍以下(例えば、0〜5×10−4/倍)、好ましくは1.5×10−6〜4.8×10−4/倍、さらに好ましくは2×10−6〜4.7×10−4/倍、特に2.5×10−6〜4.5×10−4/倍(例えば、3×10−6〜4.5×10−4/倍)程度である。
【0069】
また、前記高分子量ポリエステル系樹脂は、機械的特性にも優れる。例えば、JIS K 7113に準拠して多目的試験片A型を用いて測定される引張強度は、鎖伸長されていない前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂に比べ、3〜15%、好ましくは3.5〜14%、さらに好ましくは4〜13%(例えば、4.5〜10%)程度向上されている。また、JIS K 7113に準拠して多目的試験片A型を用いて測定される降伏点での伸度は、鎖伸長されていない前記フルオレン含有ポリエステル系樹脂に比べ、3〜150%、好ましくは4〜130%、さらに好ましくは5〜100%(例えば、7〜30%)程度向上されている。
【0070】
さらに、前記高分子量ポリエステル系樹脂は、高分子量化されているものの、優れた成形性を有するため、成形材料として有用である。前記樹脂を成形する方法は、慣用の成形法であってもよく、例えば、押出成形、射出成形、ブロー成形、カレンダー成形、プレス成形、真空成形などであってもよい。このように製造される成形体の形状は、特に制限されず、0次元的形状(粒状、ペレット状など)、1次元的形状(ストランド状、棒状など)、2次元的形状(板状、シート状、フィルム状など)、3次元的形状(管状、ブロック状など)などであってもよい。
【0071】
なお、本発明の特性を損なわない限り、前記高分子量ポリエステル系樹脂は、他の樹脂と組み合わせてアロイの形態で成形体を形成してもよい。他の樹脂は、熱硬化性樹脂(例えば、フェノール樹脂、フラン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド系樹脂など)であってもよいが、通常、熱可塑性樹脂(例えば、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、熱可塑性アクリル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、フッ素系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂(ポリスルホン樹脂ポリエーテルスルホン系樹脂など)、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂など)である場合が多い。他の樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせてもよい。前記他の樹脂の割合は、種類に応じて選択すればよく、前記高分子量ポリエステル系樹脂100重量部に対し、例えば、0.01〜20重量部、好ましくは0.05〜15重量部、さらに好ましくは0.1〜10重量部程度であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の高分子量ポリエステル系樹脂(又はその成形体)は、透明性に優れるとともに、変形(又は成形)に伴う複屈折の増加が非常に抑制されているため、光学用途に有用である。具体的には、光学部材、例えば、CD(コンパクトディスク)[CD−ROM(シーディーロム:コンパクトディスク−リードオンリーメモリー)など]、CD−ROMピックアップレンズ、フレネルレンズ、レーザープリンター用fθ(エフシータ)レンズ、カメラレンズ、リアプロジェクションテレビ用投影レンズなどの光学レンズ;偏光フィルム及びそれを構成する偏光素子と偏光板保護フィルム、位相差フィルム、配向膜(配向フィルム)、視野角拡大(補償)フィルム、拡散板(フィルム)、プリズムシート、導光板、輝度向上フィルム、近赤外吸収フィルム、反射フィルム、反射防止(AR)フィルム、反射低減(LR)フィルム、アンチグレア(AG)フィルム、透明導電(ITO)フィルム、異方導電性(ACF)フィルム、電磁波遮蔽(EMI)フィルム、電極基板用フィルム、カラーフィルタ基板用フィルム、バリアフィルム、カラーフィルタ層、ブラックマトリクス層、光学フィルム同士の接着層もしくは離型層などの光学フィルムなどの用途に利用できる。
【実施例】
【0073】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例、参考例及び比較例における各評価方法及び成分の略号は以下の通りである。
【0074】
[評価方法]
(平均分子量)
数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)[JASCO社製、「Intelligent HPLC」]を用い測定した。測定は、テトラヒドロフランを溶離液とし、カラム温度40℃、流速1.0ml/分の条件で行い、ポリスチレン換算の測定値を得た。なお、カラムは、Shodex製、「KF−804L」を2本直列に連結させた。
【0075】
(複屈折)
複屈折は、偏光顕微鏡(NIKON製、「セナルモンコンペンセーサー」)を用いて評価した。
【0076】
(引張強度)
引張強度は、JIS K 7113に準拠して多目的試験片A型を用いて測定した。
【0077】
(降伏点での伸度)
降伏点での伸度は、JIS K 7113に準拠して多目的試験片A型を用いて測定した。
【0078】
[成分の略号]
FBP1:フルオレン含有ポリエステル系樹脂[大阪ガスケミカル(株)製、前記式(3a)で表される単位と下記式(4a)で表される単位とを有するブロック共重合体(式(3a)において、h1及びh2が0であり、式(3a)で表される単位/式(4a)で表される単位(単位数比)=70/30である共重合体、重量平均分子量:34,685)、引張強度76.9MPa、降伏点での伸度12.6%]
FBP2:フルオレン含有ポリエステル系樹脂[大阪ガスケミカル(株)製、前記式(3b)で表される単位と下記式(4b)で表される単位とを有するブロック共重合体(式(3b)において、h1及びh2が0であり、式(3b)で表される単位/式(4b)で表される単位(単位数比)=80/20である共重合体、重量平均分子量:33,850)、引張強度66.6MPa、降伏点での伸度11.7%]
PDA:ピロメリット酸二無水物(シグマアルドリッチ製)
TGE:トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル(シグマアルドリッチ製)
DMDI:ジシクロヘキシルメタン4,4’−ジイソシアネート(シグマアルドリッチ製)。
【0079】
(実施例1)
フルオレン含有ポリエステル系樹脂(FBP1)100重量部とピロメリット酸二無水物(PDA)2.4重量部とをドライブレンドし、二軸混練押出機((株)テクノベル製、「KZW15−30MG」L/D=30:シリンダー温度:280℃)を用いて溶融混練し、押出した。押し出されたストランドを空中で冷却し、ペレタイザーでカットし、高分子量ポリエステル系樹脂ペレットを得た。得られたペレットの数平均分子量、重量平均分子量、引張強度及び降伏点での伸度を測定した。引張強度は、81.7MPa、降伏点での伸度は17.4%であった。
【0080】
(実施例2)
FBP1の代わりにFBP2を用いる以外は実施例1と同様にペレットを得、得られたペレットの数平均分子量、重量平均分子量、引張強度及び降伏点での伸度を測定した。引張強度は、74.6MPa、降伏点での伸度は12.4%であった。
【0081】
(実施例3〜4)
ピロメリット酸二無水物(PDA)2.4重量部を用いる代わりにトリメチロールプロパントリグリシジルエーテル(TGE)3.3重量部用いる以外は実施例1と同様にペレットを得、得られたペレットの数平均分子量、重量平均分子量を測定した。なお、実施例3では、フルオレン含有ポリエステル系樹脂としてFBP1を、実施例4ではFBP2を用いた。
【0082】
(参考例1〜2)
ピロメリット酸二無水物(PDA)2.4重量部を用いる代わりにジシクロヘキシルメタン4,4’−ジイソシアネート(DMDI)2.9重量部用いる以外は実施例1と同様にペレットを得、得られたペレットの数平均分子量、重量平均分子量、引張強度及び降伏点での伸度を測定した。なお、参考例1では、フルオレン含有ポリエステル系樹脂として、FBP1を、参考例2ではFBP2を用いた。参考例1では、引張強度は、84.2MPa、降伏点での伸度は13.3%であった。また、参考例2では、引張強度は、72.3MPa、降伏点での伸度は15.4%であった。実施例1〜4及び参考例1〜2の結果を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
表1から明らかなように、実施例で得られた高分子量ポリエステル系樹脂は、鎖伸長されていないFBP1(重量平均分子量:34,685、Mw/Mn=2.5)、FBP2(重量平均分子量:33,850、Mw/Mn=3.5)に比べ、分子量が増大していた。
【0085】
(実施例5〜6)
実施例5〜6では、実施例1〜2で得られたペレットを、通風乾燥機を用いて95℃で5時間乾燥させ、ホットプレス((株)トーシン製、「TDR100−500×3型」)を用いて220℃、20MPaでプレスし、厚さ約0.2mmのフィルムを調製した。得られたフィルムを前記ホットプレス(160℃)上で、表2に示す延伸倍率で延伸した後、フィルム(延伸フィルム)の複屈折を測定した。
【0086】
(比較例1〜2)
実施例1〜2で得られたペレットを用いる代わりに、鎖伸長されていないFBP1、FBP2をそれぞれ用いる以外は実施例5と同様にフィルムを調製し、得られたフィルムの複屈折を測定した。
【0087】
(参考例3〜4)
実施例1〜2で得られたペレットを用いる代わりに、参考例1〜2で得られたペレットを用いる以外は実施例5と同様にフィルムを調製し、得られたフィルムの複屈折を測定した。実施例5〜6、比較例1〜2及び参考例3〜4の結果を表2に示す。
【0088】
【表2】

【0089】
表2から明らかなように、実施例5〜6では、鎖伸長剤を含有しているにも拘わらず、複屈折率の増大はほとんど観られず、低複屈折であった。また、成形時に変形しても、複屈折の上昇が抑制されていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
9,9−ビスアリールフルオレン骨格を含有するフルオレン含有ポリエステル系樹脂が鎖伸長剤で結合されている高分子量ポリエステル系樹脂であって、前記鎖伸長剤が、ヒドロキシル基、アミノ基、エポキシ基、オキサゾリン基、カルボキシル基及び酸無水物基から選択された少なくとも一種の官能基を1分子中に少なくとも2個含む化合物である高分子量ポリエステル系樹脂。
【請求項2】
フルオレン含有ポリエステル系樹脂が、少なくとも下記式(1)
【化1】

(式中、Z及びZは同一又は異なって芳香族炭化水素基を示す。R1a及びR1bは同一又は異なってアルキレン基を示し、R2a及びR2bは同一又は異なって、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、R3a及びR3bは同一又は異なって炭化水素基、アルコキシ基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、m及びnは同一又は異なって0又は1以上の整数である。h1及びh2は同一又は異なって0〜4の整数であり、j1及びj2は同一又は異なって0〜4の整数である)
で表されるジオール成分と、ジカルボン酸成分とを重合成分とするポリエステル系樹脂である請求項1記載の高分子量ポリエステル系樹脂。
【請求項3】
重量平均分子量が35,000〜400,000である請求項1又は2記載の高分子量ポリエステル系樹脂。
【請求項4】
フルオレン含有ポリエステル系樹脂の水酸基価が2〜100mgKOH/gであり、鎖伸長剤が、カルボキシル基及び酸無水物基から選択された少なくとも一種の官能基を1分子中に少なくとも2個含む化合物であり、重量平均分子量が50,000〜400,000である請求項1〜3のいずれかに記載の高分子量ポリエステル系樹脂。
【請求項5】
少なくとも9,9−ビスアリールフルオレン骨格を含有するフルオレン含有ポリエステル系樹脂と鎖伸長剤とを反応させる反応工程を含む請求項1〜4のいずれかに記載の高分子量ポリエステル系樹脂の製造方法。
【請求項6】
鎖伸長剤の割合が、フルオレン含有ポリエステル系樹脂100重量部に対し、0.1〜10重量部である請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
フルオレン含有ポリエステル系樹脂と鎖伸長剤とを、溶剤の非存在下で溶融混練し、反応させる請求項5又は6のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−167269(P2009−167269A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−5672(P2008−5672)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】