説明

高分子錯体、重合性組成物、およびそれらを含有する紫外線吸収部材

【課題】ニッケル錯体自身の持つ優れた紫外線吸収能や高耐光性の長所に加えて、可視光域の吸光強度が大幅に低減された、高度な可視光透過率を有する低着色の紫外線吸収部材を提供する
【解決手段】式(1):


で表される少なくとも1種類のニッケル錯体に、側鎖にアミド基を有する高分子化合物が配位した構造を有する高分子錯体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側鎖にアミド基を有する高分子化合物が式(1)で表される少なくとも1種類のニッケル錯体に配位した構造を有する高分子錯体、分子構造中に1個以上のアミド基を有する少なくとも1種類のラジカル重合性モノマーが式(1)で表される少なくとも1種類のニッケル錯体に配位した構造を有する単量体錯体を含む重合性組成物、および高分子錯体または単量体錯体を含有する膜を有する紫外線吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、可視光線を十分に透過すると同時に、紫外線のみを選択的に遮蔽する機能を有する部材が様々な分野で使用されている。例えば、自動車のウインドウガラスや建築物の窓ガラス等においては、日焼けや内装材の劣化を引き起こす紫外線を遮蔽するために紫外線遮蔽ガラスが広く使用されている。
【0003】
また、カーポート、ショーウインドウ、ショーケース、照明用透明シェード等に使用される透明樹脂板や、各種透明容器等の用途においても、紫外線遮蔽機能を付与したアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂等の透明な熱可塑性樹脂の成形体が用いられている。
【0004】
このように、ガラスや樹脂等に紫外線を遮蔽する機能を付与するために、紫外線吸収剤として無機系金属酸化物微粒子や有機系紫外線吸収剤を用いる方法が一般的に知られている(特許文献1〜4)。
【0005】
これら紫外線吸収剤には高度な耐光性を有することに加えて、近年の紫外線遮蔽技術の高機能化に伴い、可視光域との境界付近の長波紫外線(λ=380〜400nm付近)を十分に遮蔽でき、且つ400〜780nmの可視光線を十分に透過する(着色の小さい)材料が望まれているが、従来知られている無機系金属酸化物微粒子や有機系紫外線吸収剤は必ずしもこの要求を満たす性能を有しておらず、改良が望まれていた。
【0006】
ここで長波紫外線とは、UV−Aと呼ばれる比較的波長の長い紫外線に分類され、地表に到達する太陽光の紫外線としては最も多く含まれるが、人体にとっては皮膚への浸透程度が深いため、長時間の曝露が色素沈着(シミ)やシワを引き起こすことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−052116号公報
【特許文献2】特開2010−111729号公報
【特許文献3】特開2010−189215号公報
【特許文献4】特開2008−274246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものであり、優れた耐光性を長期間に渡って持続し、可視光透過率を高度に保ったまま、従来遮蔽困難であった長波紫外線を十分に遮蔽することができる高分子錯体、重合性組成物、およびそれらを含有する紫外線吸収部材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下に示すとおりの高分子錯体、単量体錯体を含む重合性組成物、および高分子錯体または単量体錯体を含有する膜を有する紫外線吸収部材に関する。
【0010】
項1.式(1):
【0011】
【化1】

(式中、XおよびYはそれぞれ互いに独立して酸素原子または硫黄原子であり、
は1つのベンゼン環の6個の炭素原子のうち5員環と共有された2個の炭素原子を除いた4個の炭素原子に結合する4個の水素原子のうち1ないし4個を置換することができ、ベンゼン環の水素原子を置換した置換基はそれぞれ互いに独立して、炭素数1〜3のフルオロアルキル基、ハロゲノ基、炭素数1〜8のアルキルスルホニル基、アミノスルホニル基、炭素数1〜16のアルキルアミノスルホニル基、モルホリノスルホニル基、ピペリジノスルホニル基、ピロリジノスルホニル基、チオモルホリノスルホニル基またはピペラジノスルホニル基であり、
は、存在しないか、または存在する場合は、1つのベンゼン環の6個の炭素原子のうち5員環と共有された2個の炭素原子とRが結合した炭素原子を除いた最大3個の炭素原子に結合する水素原子のうち1ないし3個を置換することができ、ベンゼン環の水素原子を置換した置換基はそれぞれ互いに独立して、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基であり、
は、存在しないか、または存在する場合は、1つのベンゼン環の6個の炭素原子のうち5員環と共有された2個の炭素原子を除いた4個の炭素原子に結合する4個の水素原子のうち1ないし4個を置換することができ、ベンゼン環の水素原子を置換した置換基はそれぞれ互いに独立して、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜3のフルオロアルキル基、ハロゲノ基、炭素数1〜8のアルキルスルホニル基、アミノスルホニル基、炭素数1〜16のアルキルアミノスルホニル基、モルホリノスルホニル基、ピペリジノスルホニル基、ピロリジノスルホニル基、チオモルホリノスルホニル基またはピペラジノスルホニル基を示す。)で表される少なくとも1種類のニッケル錯体に、側鎖にアミド基を有する高分子化合物が配位した構造を有する高分子錯体。
【0012】
項2.式(1):
【0013】
【化2】

(式中、XおよびYはそれぞれ互いに独立して酸素原子または硫黄原子であり、
は1つのベンゼン環の6個の炭素原子のうち5員環と共有された2個の炭素原子を除いた4個の炭素原子に結合する4個の水素原子のうち1ないし4個を置換することができ、ベンゼン環の水素原子を置換した置換基はそれぞれ互いに独立して、炭素数1〜3のフルオロアルキル基、ハロゲノ基、炭素数1〜8のアルキルスルホニル基、アミノスルホニル基、炭素数1〜16のアルキルアミノスルホニル基、モルホリノスルホニル基、ピペリジノスルホニル基、ピロリジノスルホニル基、チオモルホリノスルホニル基またはピペラジノスルホニル基であり、
は、存在しないか、または存在する場合は、1つのベンゼン環の6個の炭素原子のうち5員環と共有された2個の炭素原子とRが結合した炭素原子を除いた最大3個の炭素原子に結合する水素原子のうち1ないし3個を置換することができ、ベンゼン環の水素原子を置換した置換基はそれぞれ互いに独立して、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基であり、
は、存在しないか、または存在する場合は、1つのベンゼン環の6個の炭素原子のうち5員環と共有された2個の炭素原子を除いた4個の炭素原子に結合する4個の水素原子のうち1ないし4個を置換することができ、ベンゼン環の水素原子を置換した置換基はそれぞれ互いに独立して、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜3のフルオロアルキル基、ハロゲノ基、炭素数1〜8のアルキルスルホニル基、アミノスルホニル基、炭素数1〜16のアルキルアミノスルホニル基、モルホリノスルホニル基、ピペリジノスルホニル基、ピロリジノスルホニル基、チオモルホリノスルホニル基またはピペラジノスルホニル基を示す。)で表される少なくとも1種類のニッケル錯体に、分子構造中に1個以上のアミド基を有する少なくとも1種類のラジカル重合性モノマーが配位した構造を有する単量体錯体を含む重合性組成物。
【0014】
項3.項1に記載の高分子錯体を含有する膜を有することを特徴とする紫外線吸収部材。
【0015】
項4.項2に記載の重合性組成物またはその重合体を含有する膜を有することを特徴とする紫外線吸収部材。
【0016】
本発明は、式(1)で表される少なくとも1種類のニッケル錯体に、側鎖にアミド基を有する高分子化合物が配位した構造を有する高分子錯体を提供する。
【0017】
式(1)で表されるニッケル錯体に、側鎖にアミド基を有する高分子化合物が配位した構造を有する該高分子錯体は、式(1)で表される該ニッケル錯体自身のもつ優れた紫外線吸収能や高耐光性等の長所を損なうことなく反映しており、さらに単独の該ニッケル錯体に比べて可視光域の吸光強度が大幅に低減されている(着色が小さい)といった特徴を有する。後述の紫外線吸収部材を作製する上で、該高分子錯体を紫外線吸収剤兼バインダー成分の1種として用いることにより、高度な可視光透過率を有する低着色の紫外線吸収部材を得ることができる。
【0018】
本発明において、側鎖にアミド基を有する高分子化合物は、後述する「側鎖にアミド基を有する少なくとも1種のラジカル重合性モノマー」の重合体(ポリマー)および「側鎖にアミド基を有する少なくとも1種のラジカル重合性モノマー」と、後述する「併用可能なラジカル重合性モノマー」との任意の重合体(ポリマー)を含む。高分子化合物中のアミド基の全てまたは一部が式(1)で表されるニッケル錯体に配位している。
【0019】
また、本発明は式(1)で表されるニッケル錯体に、分子構造中に1個以上のアミド基を有する少なくとも1種類のラジカル重合性モノマーが配位した構造を有する単量体錯体を含む重合性組成物を提供する。
【0020】
本発明における重合性組成物の一成分である、アミド基を有するラジカル重合性モノマーは、前記高分子錯体の構造中に含まれる高分子構造を形成する前駆体である。本発明における重合性組成物中においては、アミド基を有するラジカル重合性モノマーの全てまたは一部が該ニッケル錯体に配位している。
【0021】
本発明において、該ニッケル錯体に配位したアミド基を有するラジカル重合性モノマーと、ニッケル錯体に配位していないアミド基を有するラジカル重合性モノマーおよびその他の併用可能なラジカル重合性モノマーとは、前記高分子錯体の前駆体として存在している。この高分子錯体前駆体もまた前記同様、単独の式(1)で表されるニッケル錯体に比べて可視光域の吸光強度が大幅に低減されており、着色が小さいという特徴を有している。
【0022】
バインダー成分およびラジカル重合性モノマー以外の重合性モノマーを含まない該重合性組成物を、一般的な溶液重合法や沈殿重合法により重合することによって前記高分子錯体を合成、単離することができる。
【0023】
また、本発明は式(1)で表されるニッケル錯体に、アミド基を有するラジカル重合性モノマーまたはその重合体が配位した構造を有する化合物を用いて作製される紫外線吸収部材を提供する。
【0024】
より詳しくは、本発明において、単離した高分子錯体を溶媒に溶解させ、これを基材上にコーティングした後に乾燥させることによって、高分子錯体を含有する膜を有する低着色の紫外線吸収部材を作製することができる。また、重合性組成物をガラス基材や樹脂基材上にコーティングすることによって、前記単量体錯体を含有する膜を有する低着色の紫外線吸収部材を作製することができる。その後、重合性組成物の膜を重合することによって、前記単量体を構造中に含む高分子錯体が形成され、かくして、高分子錯体を含有する膜を有する低着色の紫外線吸収部材を作製することができる。
【0025】
このようにして得られる紫外線吸収部材は、従来遮蔽困難であった長波紫外線を効率よく吸収し、また一般的な有機系紫外線吸収剤に比べてはるかに良好な耐光性を示す。また、可視光透過率が高く着色が非常に小さいといった特徴を有する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、優れた耐光性を長期間に渡って持続し、可視光透過率を高度に保ったまま、従来遮蔽困難であった長波紫外線を十分に遮蔽することができる高分子錯体、重合性組成物、およびこれらを用いて作製される紫外線吸収部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0028】
本発明は、式(1):
【0029】
【化3】

(式中、XおよびYはそれぞれ互いに独立して酸素原子または硫黄原子であり、
は1つのベンゼン環の6個の炭素原子のうち5員環と共有された2個の炭素原子を除いた4個の炭素原子に結合する4個の水素原子のうち1ないし4個を置換することができ、ベンゼン環の水素原子を置換した置換基はそれぞれ互いに独立して、炭素数1〜3のフルオロアルキル基、ハロゲノ基、炭素数1〜8のアルキルスルホニル基、アミノスルホニル基、炭素数1〜16のアルキルアミノスルホニル基、モルホリノスルホニル基、ピペリジノスルホニル基、ピロリジノスルホニル基、チオモルホリノスルホニル基またはピペラジノスルホニル基であり、
は、存在しないか、または存在する場合は、1つのベンゼン環の6個の炭素原子のうち5員環と共有された2個の炭素原子とRが結合した炭素原子を除いた最大3個の炭素原子に結合する水素原子のうち1ないし3個を置換することができ、ベンゼン環の水素原子を置換した置換基はそれぞれ互いに独立して、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基であり、
は、存在しないか、または存在する場合は、1つのベンゼン環の6個の炭素原子のうち5員環と共有された2個の炭素原子を除いた4個の炭素原子に結合する4個の水素原子のうち1ないし4個を置換することができ、ベンゼン環の水素原子を置換した置換基はそれぞれ互いに独立して、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜3のフルオロアルキル基、ハロゲノ基、炭素数1〜8のアルキルスルホニル基、アミノスルホニル基、炭素数1〜16のアルキルアミノスルホニル基、モルホリノスルホニル基、ピペリジノスルホニル基、ピロリジノスルホニル基、チオモルホリノスルホニル基またはピペラジノスルホニル基を示す。)で表される少なくとも1種類のニッケル錯体に、分子構造中に1個以上のアミド基を有する少なくとも1種類のラジカル重合性モノマーが配位した構造を有する高分子錯体、式(1)で表されるニッケル錯体に、分子構造中に1個以上のアミド基を有する少なくとも1種類のラジカル重合性モノマーが配位した構造を有する単量体錯体を含む重合性組成物、およびこれらを用いて作製される膜を有する紫外線吸収部材を提供するものである。
【0030】
式(1)におけるR、RおよびRについて、以下に例示する。
【0031】
式中、Rに帰属される炭素数1〜3のフルオロアルキル基としては、例えばトリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、ヘプタフルオロプロピル基等が挙げられる。原料の入手性および合成の簡便さの観点からトリフルオロメチル基が好ましい。
【0032】
式中、Rに帰属されるハロゲノ基としては、例えば、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基等が挙げられる。原料の入手性およびニッケル錯体の耐光性の観点から、フルオロ基、クロロ基が好ましく、クロロ基がより好ましい。
【0033】
式中、Rに帰属される炭素数1〜8のアルキルスルホニル基としては、例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、1−プロピルスルホニル基、イソプロピルスルホニル基、1−ブチルスルホニル基、イソブチルスルホニル基、sec−ブチルスルホニル基、tert−ブチルスルホニル基、1−ペンチルスルホニル基、イソペンチルスルホニル基、ネオペンチルスルホニル基、シクロペンチルスルホニル基、1−ヘキシルスルホニル基、イソヘキシルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、1−ヘプチルスルホニル基、1−オクチルスルホニル基、1−(2−エチルヘキシル)スルホニル基等のアルキルスルホニル基が挙げられる。原料の入手性の観点から、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、1−ブチルスルホニル基、イソブチルスルホニル基、1−ヘキシルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、1−オクチルスルホニル基、1−(2−エチルヘキシル)スルホニル基が好ましく、メチルスルホニル基、1−ブチルスルホニル基、イソブチルスルホニル基、1−ヘキシルスルホニル基、1−オクチルスルホニル基がより好ましく、メチルスルホニル基がさらに好ましい。
【0034】
式中、Rに帰属される炭素数1〜16のアルキルアミノスルホニル基としては、例えば、N−メチルアミノスルホニル基、N−エチルアミノスルホニル基、N−イソプロピルアミノスルホニル基、N−n−プロピルアミノスルホニル基、N−n−ブチルアミノスルホニル基、N,N−ジメチルアミノスルホニル基、N,N−メチルエチルアミノスルホニル基、N,N−ジエチルアミノスルホニル基、N,N−エチルイソプロピルアミノスルホニル基、N,N−ジイソプロピルアミノスルホニル基、N,N−ジ−n−プロピルアミノスルホニル基、N,N−ジ−n−ブチルアミノスルホニル基、N,N−ジイソブチルアミノスルホニル基、N,N−ジ−n−ヘキシルアミノスルホニル基、N,N−ジシクロヘキシルアミノスルホニル基、N,N−ジ(2−エチルヘキシル)アミノスルホニル基等が挙げられる。原料の入手性および合成の簡便さの観点から、N,N−ジメチルアミノスルホニル基、N,N−ジエチルアミノスルホニル基、N,N−ジイソプロピルアミノスルホニル基、N,N−ジ−n−プロピルアミノスルホニル基、N,N−ジ−n−ブチルアミノスルホニル基、N,N−ジイソブチルアミノスルホニル基、N,N−ジ−n−ヘキシルアミノスルホニル基、N,N−ジシクロヘキシルアミノスルホニル基、N,N−ジ(2−エチルヘキシル)アミノスルホニル基が好ましく、N,N−ジメチルアミノスルホニル基、N,N−ジエチルアミノスルホニル基、N,N−ジイソブチルアミノスルホニル基、N,N−ジ−n−ヘキシルアミノスルホニル基、N,N−ジ(2−エチルヘキシル)アミノスルホニル基がより好ましい。
【0035】
式中、Rに帰属される炭素数1〜8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基等のアルキル基が挙げられる。原料の入手性の観点から、メチル基、エチル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基が好ましく、メチル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0036】
式中、Rに帰属される炭素数1〜4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、tert−ブトキシ基等が挙げられる。原料の入手性の観点から、メトキシ基、エトキシ基であることが好ましい。
【0037】
式中、Rに帰属される炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基の例示としては、それぞれ、前記Rについて例示したものが挙げられる。
【0038】
式中、Rに帰属される炭素数1〜3のフルオロアルキル基、ハロゲノ基、炭素数1〜8のアルキルスルホニル基、炭素数1〜16のアルキルアミノスルホニル基としては、それぞれ、前記Rについて例示したものが挙げられる。
【0039】
式(1)で表されるニッケル錯体は、下記式(2):
【0040】
【化4】

で表される配位子と、ハロゲン化ニッケル塩、硫酸ニッケル塩、酢酸ニッケル塩、硝酸ニッケル塩等のニッケル塩とを反応させることで合成することができる。
【0041】
式(2)において、X、Y、R、R、Rは、それぞれ式(1)中のX、Y、R、R、Rに対応している。
【0042】
式(2)で表される配位子は、例えば、「特開昭56−87575」において開示されている方法で合成することができる。
【0043】
以下、式(2)で表される配位子の製造方法を一部説明する。
≪配位子の製造方法≫
i)式(2)において「R=R」且つ「Rが存在しない」場合
例えば、特開昭56−87575に記載されている方法に従って合成することができる。すなわち、2−アミノ−置換ベンゾチアゾールまたは2−アミノ−置換ベンゾオキサゾールをフェノール等の酸触媒存在下において、150〜185℃に加熱し、反応させることによってビス[2−(置換ベンゾチアゾリル)]アミンまたはビス[2−(置換ベンゾオキサゾリル)]アミンを合成することができる。
【0044】
ii)式(2)においてR≠Rの場合
2−アミノ−置換ベンゾチアゾールまたは2−アミノ−置換ベンゾオキサゾールのいずれかと、2−アミノ(−置換’)ベンゾチアゾールまたは2−アミノ(−置換’)ベンゾオキサゾールのいずれかを、フェノール等の酸触媒存在下において、150〜185℃に加熱し、反応させることによって[2−(置換ベンゾチアゾリル)]{2−[(置換’)ベンゾチアゾリル]}アミン、[2−(置換ベンゾオキサゾリル)]{2−[(置換’)ベンゾオキサゾリル]}アミン、[2−(置換ベンゾオキサゾリル)]{2−[(置換’)ベンゾチアゾリル]}アミン、[2−(置換ベンゾチアゾリル)]{2−[(置換’)ベンゾオキサゾリル]}アミンを合成することができる。
【0045】
iii)式(2)においてR、Rで表される置換基のうち少なくとも1個が、アミノスルホニル基、炭素数1〜16のアルキルアミノスルホニル基、モルホリノスルホニル基、ピペリジノスルホニル基、ピロリジノスルホニル基、チオモルホリノスルホニル基またはピペラジノスルホニル基のいずれかである場合(以下の説明において(置換)アミノスルホニル基と表記する)
、Rのうち少なくとも1個の(置換)アミノスルホニル基を有する配位子を合成する場合、該当する(置換)アミノスルホニル基を含まない構造の配位子をi)やii)等の方法で得た後に、例えば、特表2007−535421に記載されている方法に従って、(置換)アミノスルホニル基を導入することができる。
【0046】
例として、式(2)において「R=R=(置換)アミノスルホニル基」且つ「Rが存在しない」場合の配位子の合成方法について説明する。
【0047】
i)において2−アミノ−置換ベンゾチアゾールまたは2−アミノ−置換ベンゾオキサゾールを、2−アミノベンゾチアゾールまたは2−アミノベンゾオキサゾールに代えた以外は同様にして得られるビス[2−(ベンゾチアゾリル)]アミンまたはビス[2−(ベンゾオキサゾリル)]アミンをクロロスルホン酸に添加し、混合物を一晩攪拌する。さらに塩化チオニルを添加し50℃で1時間攪拌した後室温まで冷却する。混合物を氷の上に注ぎ、吸引ろ過し残った氷と一緒に所望のアミン(アンモニアも含む)を共存させ、攪拌することで対応するビス(2−{[(置換)アミノスルホニル]ベンゾチアゾリル})アミンまたはビス(2−{[(置換)アミノスルホニル]ベンゾオキサゾリル})アミンを合成することができる。
【0048】
≪式(1)で表されるニッケル錯体の製造方法≫
例えば、Polyhedron 2006,25,2363−2374やJ.Org.Chem.2002,67,5753−5772等に記載されている方法に従って、前記のi)〜iii)の製造方法に基づいて得られた配位子と、ハロゲン化ニッケル塩、硫酸ニッケル塩、酢酸ニッケル塩、硝酸ニッケル塩等のニッケル塩とを、メタノール、エタノール、水、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等の溶媒中で反応させることによって対応するニッケル錯体を合成することができる。
【0049】
≪式(1)で表される少なくとも1種類のニッケル錯体と、分子構造中に1個以上のアミド基を有する少なくとも1種類のラジカル重合性モノマーとを含有する重合性組成物の製造方法≫
本発明における重合性組成物について以下説明する。
【0050】
分子構造中に1個以上のアミド基を有する少なくとも1種類のラジカル重合性モノマーとしては、例えば、2−アセトアミドアクリル酸、(メタ)アクリルアミド、6−アクリルアミドヘキサン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、N−(メトキシメチル)メタクリルアミド、N−(ブトキシメチル)アクリルアミド、(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、N−tert−ブチル(メタ)アクリルアミド、3−フェニルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N’−(1,2−ジヒドロキシエチレン)ビスアクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル](メタ)アクリルアミド、N−ドデシルアクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、2−アセトアミドアクリル酸メチル、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−フェニルメタクリルアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、1−ビニル−2−ピロリドン等が挙げられる。
【0051】
入手のし易さの観点から、(メタ)アクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、N−(メトキシメチル)メタクリルアミド、N−(ブトキシメチル)アクリルアミド、(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、N−tert−ブチル(メタ)アクリルアミド、3−フェニルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル](メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−フェニルメタクリルアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、1−ビニル−2−ピロリドンが好ましく、
(メタ)アクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、N−(メトキシメチル)メタクリルアミド、N−(ブトキシメチル)アクリルアミド、(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、N−tert−ブチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−ビニルホルムアミド、1−ビニル−2−ピロリドンがより好ましく、
N−(メトキシメチル)メタクリルアミド、N−(ブトキシメチル)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、1−ビニル−2−ピロリドンがさらに好ましい。
なお、(メタ)アクリルは、メタクリルおよびアクリルを示す。
【0052】
また、該アミド基を有するラジカル重合性モノマーの使用量としては、該ニッケル錯体1重量部に対して1〜1000重量部、好ましくは2〜500重量部、より好ましくは2〜200重量部である。1重量部未満の場合、本発明の特徴である特異な可視光透過率の向上効果、すなわち着色低減効果が十分に発揮されないおそれがあり、1000重量部より多いと得られる重合性組成物中の該ニッケル錯体の濃度が低下し、最終的に得られる紫外線吸収部材に十分な紫外線吸収能を付与できないおそれがある。
【0053】
また、本発明における重合性組成物の濃度を調整(希釈)するために溶媒を別途使用してもよい。本発明の効果を損なわない範囲内であれば、使用できる溶媒の種類に制限はないが、本発明における重合性組成物を構成する成分がすべて溶解し得るものに限る。すなわち、本発明における重合性組成物は均一な溶液形態である。
【0054】
また、最終的に得られる紫外線吸収部材を構成する、高分子錯体を含有する膜の物性をコントロールする目的で、前記アミド基を有するラジカル重合性モノマー以外に別途重合性モノマーや、バインダーを併用することも可能である。ここでバインダーとは、重合活性のない高分子化合物(樹脂)を示す。
【0055】
またここで併用可能な重合性モノマーは、ラジカル重合性モノマーでも良いし、カチオン重合性モノマーでも良い。必須成分であるアミド基を有するラジカル重合性モノマーとの共重合により、分子構造中に該重合性モノマー由来の骨格を含む高分子錯体、およびこれを含有する紫外線吸収部材を得たい場合には、ラジカル重合性モノマーを使用することが好ましい。また、エポキシ基を有する化合物に代表されるカチオン重合性モノマーを用いた場合、最終的に得られる紫外線吸収部材の膜の強度を高める上で有利となる。
【0056】
併用可能なラジカル重合性モノマーとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、α−エチルスチレン、α−ブチルスチレン、α−ヘキシルスチレン、4−クロロスチレン、3−クロロスチレン、4−ブロモスチレン、4−ニトロスチレン、4−メトキシスチレン、ビニルトルエン等のスチレン系モノマーや、(メタ)アクリル酸や、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−メチルブチル(メタ)アクリレート、2−エチルブチル(メタ)アクリレート、3−メチルブチル(メタ)アクリレート、1,3−ジメチルブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、3−エトキシプロピル(メタ)アクリレート、2−エトキシブチル(メタ)アクリレート、3−エトキシブチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチル−α−(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリレート、メチル−α−(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタおよびヘキサ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0057】
また、併用可能なカチオン重合性モノマーとしては、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビニルシクロヘキセンジオキシド、アリルシクロヘキセンジオキシド、3,4−エポキシ−4−メチルシクロヘキシル−2−プロピレンオキシドおよびビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)エーテル等の脂環式エポキシ化合物や、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ブロモ化ビスフェノールA、ビフェノール、レゾルシン等をグリシジルエーテル化した化合物や、トリメチレンオキシド、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3,3−ジメチルオキセタン、3,3−ジクロルメチルオキセタン、3−エチル−3−フェノキシメチルオキセタン、3−エチル−3−[{(3−エチルオキセタニル)メトキシ}メチル]オキセタン、ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、1,4−ビス[{(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ}メチル]ベンゼン、トリ[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチルフェニル]エーテル等のオキセタン化合物等が挙げられる。
【0058】
これら併用可能な重合性モノマーの使用量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されるものではないが、前記アミド基を有するラジカル重合性モノマー10重量部に対し、0〜100重量部、好ましくは0〜70重量部である。100重量部を超えて使用した場合、最終的に得られる紫外線吸収部材に十分な紫外線吸収能を付与できないおそれがある。
【0059】
使用できるバインダーとしては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸プロピル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、ポリ(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等のポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂や、(メタ)アクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸エチル共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ブチル共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル共重合体や、ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)等のポリスチレン系樹脂や、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸エステル系共重合体等のスチレン系共重合体や、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂や、ポリオキシメチレン、ポリエチレンオキシド等のポリエーテル系樹脂や、ポリスルホン系樹脂や、ポリアミド系樹脂や、ポリイミド系樹脂や、ポリウレタン系樹脂や、ポリカーボネート系樹脂や、エポキシ系樹脂や、フェノール系樹脂や、メラミン樹脂や、ユリア樹脂や、ポリビニル系樹脂等の熱可塑性もしくは熱硬化性合成樹脂や、エチレン−プロピレン共重合ゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム等の合成ゴムもしくは天然ゴム等が挙げられる。
【0060】
透明性や操作性の観点から、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、スチレン系共重合体、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリビニル系樹脂等の熱可塑性合成樹脂が好ましく、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニル系樹脂であることがより好ましい。
なお、(メタ)アクリルは、メタクリルおよびアクリルを示す。
【0061】
バインダーの使用量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されるものではないが、前記アミド基を有するラジカル重合性モノマー10重量部に対し、0〜100重量部、好ましくは0〜70重量部である。100重量部を超えて使用した場合、最終的に得られる紫外線吸収部材に十分な紫外線吸収能を付与できないおそれがある。
【0062】
また、必ずしも必要ではないが、重合開始剤を含むことが好ましい。重合開始剤としては特に限定されるものではなく、使用する重合性モノマーの種類や溶解性、重合方法等に応じて適宜選択することができる。また、その使用量は、重合性モノマーおよび重合開始剤の活性に応じて適宜選択することができるが、一般的には系中のラジカル重合性モノマー総量100重量部に対して0.01〜15重量部、好ましくは0.02〜10重量部、さらに好ましくは0.05〜5重量部である。15重量部を超えて使用した場合、重合に生成する高分子錯体の分子量が小さくなり、最終的に得られる紫外線吸収部材の膜物性に支障をきたすおそれがある。
【0063】
熱ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビスイソバレロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサノン−1−カルボニトリル)等のアゾ系化合物や、メチルエチルケトンパーオキシド、メチルイソブチルケトンパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド等のケトンパーオキシド類や、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキシド等のジアシルパーオキシド等を挙げることができる。
【0064】
光ラジカル重合開始剤としては、例えば、p−イソプロピル−α−ヒドロキシイソブチルフェノン、α−ヒドロキシイソブチルフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、4’−メチルチオ−2,2−ジメチル−2−モルホリノアセトフェノン、ベンゾインイソブチルエーテル、2−クロロチオキサントン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシドを挙げることができる。
【0065】
熱カチオン重合開始剤としては、例えば、三フッ化ホウ素・ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素・アミン錯体、塩化アルミニウム、四塩化チタン、四塩化スズ、塩化鉄(III)、塩化亜鉛等のルイス酸類や、アンモニウム塩、スルホニウム塩、オキソニウム塩、ホスホニウム塩等を挙げることができる。
【0066】
光カチオン重合開始剤としては、例えば、芳香族スルホニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ホスホニウム塩等を挙げることができる。
【0067】
硬化剤としては、上記併用可能なカチオン重合性モノマーとしてエポキシ系モノマーを使用する際に使用されるものとして、例えば、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水クロレンド酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸等の酸無水物や、ジエチレントリアミン、トリエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチルアミノプロピルアミン、N−アミノエチルピペラジン、イソホロンジアミン、メンセンジアミン、ピペリジン、N,N−ジメチルピペラジン等の脂肪族アミンや、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン等の芳香族アミンや、ポリメルカプタン、ポリサルファイド等を挙げることができる。
【0068】
中でも、酸無水物類が重合後のエポキシ系ポリマーの機械強度を向上する点で好ましく、操作性において常温で液状のものが好ましい。具体的には、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸等を挙げることができる。
【0069】
常温で固体の酸無水物、例えば、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸等の酸無水物を使用する場合には、常温で液状の酸無水物に溶解させ、常温で液状の混合物として使用することが操作上好ましい。
【0070】
エポキシ系モノマーの上記硬化反応を促進するために、さらに硬化促進剤を使用することもできる。硬化促進剤は、単独または2種以上を混合して使用することができる。
例えば、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザビスシクロ(5,4,0)ウンデセン−7とそのオクチル酸塩等の第三級アミン類やイミダゾール類および/またはそれらの有機カルボン酸塩や、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、ベンジルトリフェニルホスホニウム臭素塩、ベンジルトリブチルホスホニウム臭素塩等のホスフィン類および/またはそれらの第四級塩や、オクチル酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、オクチル酸錫等の有機カルボン酸金属塩や、亜鉛とβ−ジケトンよりなるアセチルアセトン亜鉛キレート、ベンゾイルアセトン亜鉛キレート、ジベンゾイルメタン亜鉛キレート、アセト酢酸エチル亜鉛キレート等の金属−有機キレート化合物や、芳香族スルホニウム塩等が挙げられる。
【0071】
また、本発明における重合性組成物は重合禁止剤を含んでもよい。重合禁止剤は、例えば、該重合性組成物の保存安定性を確保するために用いられる。
【0072】
ここでは必須成分であるアミド基を有するラジカル重合性モノマーの重合禁止剤について説明する。
【0073】
重合禁止剤としては、例えば、フェノール、ハイドロキノン、p−メトキシフェノール、ベンゾキノン、メトキシベンゾキノン、1,2-ナフトキノン、クレゾール、p−t−ブチルカテコール等のカテコール類、アルキルフェノール類、アルキルビスフェノール類、フェノチアジン、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、2,2’メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,6−ビス(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルベンジル)4−メチルフェノール、1,1,3−トリス(2’−メチル−5’−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3’−5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリエチレングリコールビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール、および2-t-ブチル-4-メトキシフェノール等のフェノール類、6-t-ブチル-m-クレゾール、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、2-t-ブチルハイドロキノン、メチレンブルー、ジメチルジチオカルバミン酸銅塩、ジエチルジチオカルバミン酸銅塩、ジプロピルジチオカルバミン酸銅塩、ジブチルジチオカルバミン酸銅塩、ジブチルジチオカルバミン酸銅、サリチル酸銅、チオジプロピオン酸エステル類、メルカプトベンズイミダゾール、およびホスファイト類等が挙げられる。また空気など酸素含有ガスを併用してもよい。これら重合禁止剤の使用量は特に制限されることはないが、例えば、本発明における重合性組成物中の重合性モノマーの総量に対して、0〜0.5重量%、好ましくは0〜0.2重量%以下である。0.5重量%を超えて使用すると、後工程における望む重合反応が阻害されるおそれがある。
【0074】
また、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、架橋剤、カップリング剤、レベリング剤、潤滑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、難燃剤、フィラー、着色剤、光触媒材料、防錆剤、撥水剤、導電性材料、アンチブロッキング材、軟化剤、離型剤、蛍光増白剤、光増感剤等を適宜添加してもよい。
【0075】
このように、式(1)で表されるニッケル錯体と、アミド基を有するラジカル重合性モノマーとを組み合わせることで、特異的に、該ニッケル錯体固有の可視光域の吸収が波長シフトおよび/または低減される。これは、該ラジカル重合性モノマーが該ニッケル錯体のニッケル中心に対し、アミド基を介して配位結合することによって、新たな5配位構造のニッケル錯体(高分子錯体前駆体)が生成することによって引き起こされる現象と考えられる。
【0076】
式(1)で表されるニッケル錯体のニッケル中心に着目すると、最外殻の電子数は16電子となっており配位不飽和な状態である。遷移金属においては最外殻電子数が18電子を満たすとき、希ガス電子構造が達成され安定な電子構造となる(配位飽和になる)ことが一般的に知られている(18電子則)。式(1)で表される配位不飽和なニッケル錯体のニッケル中心に対し、該ラジカル重合性モノマーがアミド基部分を介して、2電子供与する形で配位することにより、18電子を満たした新たな5配位構造のニッケル錯体(高分子錯体前駆体)となることで、電子的により安定な配位飽和状態を達成しているものと考えられる。実際、式(1)で表されるニッケル錯体の結晶(あるいは配位能のない溶媒等に溶解させた溶液)の色相は濃い赤系統であるが、本発明における重合性組成物は、薄い緑系統の色を呈する。式(1)で表される4配位構造から5配位構造(高分子錯体前駆体)へと変化することで、色相変化(可視光域における吸収の波長シフト)および着色度合いの変化(可視光域における吸収の吸光度変化)が起こっているものと考えられる。
【0077】
また、本発明の範疇ではないが、例えばR、R、Rがいずれも存在しない場合の該ニッケル錯体を用いた場合には、該アミド基を有するラジカル重合性モノマーと組み合せても着色低減効果は得られない。本発明の効果を得るためには、前記項1のとおり少なくとも1個の電子求引性基(Rの例示)を有する必要がある。これは、電子求引性基を有するニッケル錯体の場合、該ニッケル錯体を構成する配位子(式(2)で表される配位子のアニオンに相当)のニッケル中心に対する配位力が、電子求引性基を有さない場合に比べて相対的に低下し、その結果、ニッケル中心周りに空間的余裕がもたらされ(立体的要因)、前記の電子的要因(18電子則)と相まって、第3成分であるアミド基を有するラジカル重合性モノマーの配位現象、すなわち着色低減が発現されるものと考えられる。
【0078】
また本発明における重合性組成物を用いて、本発明における高分子錯体を合成、および本発明における高分子錯体を含有する紫外線吸収部材を作製することができる。すなわち、該アミド基を有するラジカル重合性モノマーが式(1)で表されるニッケル錯体に配位した、前記の5配位構造のニッケル錯体(高分子錯体前駆体)を含む重合性組成物を、所望の方法によりラジカル重合することで、該アミド基を有するラジカル重合性モノマーが配位した5配位状態(低着色状態)を保持したまま重合することが可能で、重合によって生成される高分子骨格中のアミド側鎖と式(1)で表されるニッケル錯体が化学的に結合した構造を有する高分子錯体、およびこの高分子錯体を含有する紫外線吸収部材を得ることができる。
【0079】
《重合性組成物を用いて合成される高分子錯体》
かくして得られた重合性組成物を、溶液重合法または沈殿重合法によって重合することにより、本発明における高分子錯体を合成、単離することができる。
【0080】
該重合性組成物が溶媒を含む場合にはそのまま使用することができ、該重合性組成物が溶媒を含まない場合には所望の溶媒で希釈し、均一な溶液状態で重合反応を行う。ここで重合性組成物中に含まれる溶媒、または希釈するために用いた溶媒が、生成する高分子錯体の良溶媒である場合、反応終了時の反応液は均一な溶液状態で得られる(溶液重合法)。この反応溶液を高分子錯体の貧溶媒を用いて再沈殿させ、これを濾別することで高分子錯体を単離することができる。また、重合性組成物中に含まれる溶媒、または希釈するために用いた溶媒として、生成する高分子錯体の貧溶媒を使用した場合は、重合反応が進行するにつれて生成した高分子錯体の沈殿を生じ(沈殿重合)、これを濾別することで高分子錯体を単離することができる。
【0081】
また、反応温度や反応時間は、用いる重合性モノマーや重合開始剤の反応活性に応じて適宜設定することができる。
【0082】
《重合性組成物を用いて作製される紫外線吸収部材》
かくして得られた重合性組成物を用いて紫外線吸収部材を作製することができる。
【0083】
例えば、前記で得られた重合性組成物を基材に塗布した後、乾燥することにより、基材上に本発明における単量体錯体を含有する膜を有する紫外線吸収部材を作製することができ、その膜を重合することにより、基材上に本発明における高分子錯体を含有する膜を有する紫外線吸収部材を作製することができる。
【0084】
前記重合性組成物を基材に塗布する方法としては、特に限定されないが、例えばディップコート法、スピンコート法、フローコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法、バーコート法、スプレー法、リバースコート法等の公知の塗布方法が挙げられる。
【0085】
基材は、所望によりフィルムでもボードでもよく、形状は限定されない。材質についても特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜選択し、使用することができる。例えば、ガラス等の無機系基材や、ポリ(シクロ)オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂等の有機系基材が挙げられる。中でも、透明性の観点から、ガラス、ポリ(シクロ)オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂等が好ましい。
【0086】
また、層間剥離、コートムラを防ぐ目的で、塗布前に基材表面を洗浄してもよい。洗浄方法としては特に限定されず、基材の種類に応じて適宜選択し、実施することができる。通常、超音波洗浄、UV洗浄、セリ粉洗浄、酸洗浄、アルカリ洗浄、界面活性剤洗浄、有機溶剤洗浄等を単独で、または組み合わせて実施することができる。洗浄終了後は、洗浄剤が残留しないように濯ぎ及び乾燥を行う。
【0087】
塗布により形成される高分子錯体を含有する膜の膜厚は特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜調整することができるが、通常0.01〜200μm、好ましくは0.01〜200μm、さらに好ましくは0.01〜100μmである。0.01μm未満では、十分な紫外線吸収能が得られないおそれがあり、200μmを超えると、膜自体の強度に支障をきたすおそれがある。
【0088】
熱重合を行う場合、前記重合性組成物中に溶媒等の揮発成分を含む場合には、乾燥後に熱重合を行っても良いし、乾燥と熱重合を同時に行ってもよい。乾燥温度、乾燥時間は用いる溶媒等の種類に応じて適宜設定することができ、熱重合温度や時間は、用いるモノマーや重合開始剤の種類(活性)によって適宜設定することができる。
【0089】
光重合を行う場合には、事前に乾燥工程を設けることが望ましい。乾燥後、用いるモノマーや重合開始剤の種類に応じて適宜設定された条件で光照射を行い重合する。すなわち、重合性組成物を基材に塗布した後、0〜200℃で溶媒等を蒸発させて乾燥し、光照射により重合処理を行う。光照射を行う場合、酸素による重合阻害を抑制するため、雰囲気の一部又は全部を窒素等の不活性ガスで置換された状態で行うことが望ましい。
【0090】
なお、基材として剥離性基材を用い、この上に重合性組成物を塗布し、(乾燥および)重合した後、所望の別基材に該高分子錯体を含有する膜を転写して得られた積層体も本発明における紫外線吸収部材に含まれる。ここで別基材としては前記の基材が例示される。
【0091】
具体的な方法としては、例えば、重合性組成物を剥離性基材(例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム)上に塗布し(乾燥および)重合させた後、ラミネーター等を用いて別基材(例えばガラス基材)と貼り合わせ、その後剥離性基材を剥離することで、別基材上に該高分子錯体を含有する膜を有する積層体としての紫外線吸収部材を作製することができる。
【0092】
例えば、所望の基材上に異なる成分からなる膜を多層化させた積層体を作製する場合に、このような転写法を用いることができる。すなわち、前記のように基材上に直接重合性組成物を塗布し、高分子錯体を含有する膜を形成する方法で多層膜を形成しようとする場合、例えば、n+1層目(nは自然数を表す)を形成する際に使用する重合性組成物は、n層目の構成成分が溶解したり膨潤したりしないものでなければならず、n+1層目を構成する重合性組成物の構成成分が制限されてしまうが、かかる転写法を用いることにより、これらの制限を回避することができる。
【0093】
剥離性基材は、所望によりフィルムでもボードでも良く、形状は限定されない。剥離性基材は、基材を構成する素材が剥離性を有するものであれば基材単独でもよいし、基材を構成する素材が剥離性を有しない場合、または剥離性が乏しい場合には基材に剥離性層を積層したものであってもよい。前者の基材を構成する素材が剥離性を有するものである場合には、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル系樹脂等を用いることができる。
【0094】
後者の、基材に剥離性層を積層したものである場合、基材としては前で例示したような基材を用いることができる。これら基材の表面に基材とは接着性を有し、重合性組成物から作製される該高分子錯体を含有する膜に対しては剥離性を有する剥離性層を積層したものを使用することができる。
【0095】
剥離性層は、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、剥離性物質をバインダー樹脂中に溶解または分散させたもの等で構成される。
【0096】
剥離性物質としては、特に制限されるものではなく、例えば長鎖アルキル化合物、カルナバワックスやモンタンワックスや酸化ポリエチレンや非酸化ポリエチレン等の合成ワックス等が挙げられる。
【0097】
これらから選択される少なくとも1種以上を溶媒(分散媒)中に溶解、分散、希釈し、得られた組成物を基材上に公知の方法で塗布または印刷した後、乾燥または硬化することによって基材上に剥離性層を形成することができる。剥離性層の膜厚は、0.5μm〜10μm程度であることが好ましい。
【0098】
また前記のように、基材として剥離性基材を用い、この上に重合性組成物を塗布し、(乾燥および)重合することによって形成された高分子錯体を含有する膜を、該剥離性基材から剥離することによって得られる高分子錯体を含有する膜自身も、本発明における紫外線吸収部材に含まれる。
【0099】
《高分子錯体を用いて作製される紫外線吸収部材》
前記の単離された高分子錯体を用いて紫外線吸収部材を作製することができる。
【0100】
例えば、前記で得られた高分子錯体を溶媒に溶解させ、これを基材に塗布した後、溶媒を乾燥することによって、また、前記で得られた高分子錯体と重合性モノマーを必要に応じて溶媒に溶解させ、これを基材に塗布した後、乾燥および/または重合することによって、基材上に本発明における高分子錯体を含有する膜を有する積層体としての紫外線吸収部材を作製することができる。
【0101】
得られる紫外線吸収部材の膜物性をコントロールする目的で、高分子錯体を溶媒および/または重合性モノマーに溶解させた溶液に、別途バインダーを添加しても良い。使用できるバインダーの例示は前記例示と同様である。
【0102】
さらに重合性モノマー、塗布方法、基材の種類、膜厚等については前記、重合性組成物を用いて作製される紫外線吸収部材の説明において例示したものがそのまま適用される。
【実施例】
【0103】
以下に実施例および比較例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0104】
製造例1
2−アミノ−6−トリフルオロメチルベンゾチアゾール65.5g(0.300モル)とフェノール19.8g(0.210モル)とo−ジクロロベンゼン240gを混合し、170℃まで昇温した後、40時間保温した。その後、反応液を80℃まで冷却し、エタノール300gを滴下し、さらに1時間保温した。その後、室温まで冷却し、析出物を濾別した。DMF/エタノールから再結晶による精製を行い、配位子として微黄色粉末のビス[2−(6−トリフルオロメチルベンゾチアゾリル)]アミン25.8gを得た。収率は2−アミノ−6−トリフルオロメチルベンゾチアゾールに対して41%であった。純度は、高速液体クロマトグラフにより測定し、95.2%であった。
【0105】
得られたビス[2−(6−トリフルオロメチルベンゾチアゾリル)]アミン21.0g(0.0500モル)にDMF150gを加え、80℃まで昇温し溶解させた。ここに酢酸ニッケル・4水和物6.22g(0.0250モル)を添加し、1時間保温した。反応液を室温まで冷却した後、メタノールを100g添加した。その後、水50gを滴下し、生じた析出物を濾別し、メタノールで洗浄後、乾燥し、赤茶色のニッケル錯体(C1)13.0gを得た。収率はビス[2−(6−トリフルオロメチルベンゾチアゾリル)]アミンに対して58%であった。
【0106】
製造例2
製造例1において2−アミノ−6−トリフルオロメチルベンゾチアゾール65.5g(0.300モル)に代えて、2−アミノベンゾチアゾール22.5g(0.150モル)と2−アミノベンゾオキサゾール20.1g(0.150モル)を用いた以外は同様にして、配位子として白色粉末の(2−ベンゾオキサゾリル)(2−ベンゾチアゾリル)アミン22.9gを得た。収率は2−アミノベンゾチアゾールと2−アミノベンゾオキサゾールの総量に対して57%であった。純度は、高速液体クロマトグラフにより測定し、94.2%であった。
【0107】
得られた(2−ベンゾオキサゾリル)(2−ベンゾチアゾリル)アミン9.36g(0.0350モル)をクロロスルホン酸70.1g(0.602モル)に添加し、混合物を室温で18時間攪拌した。さらに塩化チオニル10.0g(0.084モル)を添加し50℃で1時間攪拌した後、室温まで冷却した。この混合物を400gの氷の上に注ぎ、吸引ろ過し残った氷と一緒にN,N−ジイソブチルアミン13.1g(0.101モル)とともに攪拌した。室温まで昇温した後、約1mLの50重量%の水酸化ナトリウム溶液によって混合物をアルカリ性にした。固体を濾別し、水洗後、乾燥することで白色粉末の{2−[6−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)ベンゾオキサゾリル]}{2−[6−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)ベンゾチアゾリル]}アミン14.3gを得た。収率は(2−ベンゾオキサゾリル)(2−ベンゾチアゾリル)アミンに対して63%であった。純度は、高速液体クロマトグラフにより測定し、95.8%であった。
【0108】
得られた{2−[6−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)ベンゾオキサゾリル]}{2−[6−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)ベンゾチアゾリル]}アミン12.9g(0.0200モル)にDMF60gを加え、80℃まで昇温し溶解させた。ここに酢酸ニッケル・4水和物2.49g(0.0100モル)を添加し、1時間保温した。反応液を室温まで冷却した後、メタノールを30g添加した。その後、水40gを滴下し、生じた析出物を濾別し、メタノールで洗浄後、乾燥し、やや褐色がかった青緑色粉末のニッケル錯体(C2)12.9gを得た。収率は{2−[6−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)ベンゾオキサゾリル]}{2−[6−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)ベンゾチアゾリル]}アミンに対して95%であった。
【0109】
製造例3
製造例1において2−アミノ−6−トリフルオロメチルベンゾチアゾール65.5g(0.300モル)に代えて、2−アミノベンゾチアゾール45.1g(0.300モル)を用いた以外は同様にして、配位子として白色の2,2’−イミノビスベンゾチアゾール31.5gを得た。収率は2−アミノベンゾチアゾールに対して74%であった。純度は、高速液体クロマトグラフにより測定し、98.1%であった。
【0110】
製造例2において(2−ベンゾオキサゾリル)(2−ベンゾチアゾリル)アミン9.36g(0.0350モル)に代えて、得られた2,2’−イミノビスベンゾチアゾール9.92g(0.0350モル)を用いた以外は同様にして、微黄色粉末の2,2’−イミノビス[6−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)ベンゾチアゾール]17.9gを得た。収率は2,2’−イミノビスベンゾチアゾールに対して77%であった。純度は、高速液体クロマトグラフにより測定し、98.2%であった。
【0111】
得られた2,2’−イミノビス[6−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)ベンゾチアゾール]13.3g(0.0200モル)にDMF60gを加え、80℃まで昇温し溶解させた。ここに酢酸ニッケル・4水和物2.49g(0.0100モル)を添加し、1時間保温した。反応液を室温まで冷却した後、メタノールを30g添加した。その後、水40gを滴下し、生じた析出物を濾別し、メタノールで洗浄後、乾燥し、ベージュ色粉末のニッケル錯体(C3)13.5gを得た。収率は2,2’−イミノビス[6−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)ベンゾチアゾール]に対して97%であった。
【0112】
製造例4
製造例3においてN,N−ジイソブチルアミン13.1g(0.101モル)に代えてモルホリン8.80g(0.101モル)を用いた以外は同様にして、配位子として白色粉末の2,2’−イミノビス(6−モルホリノスルホニルベンゾチアゾール)14.7gを得た。収率は2,2’−イミノビスベンゾチアゾールに対して72%であった。純度は、高速液体クロマトグラフにより測定し、98.4%であった。
【0113】
得られた2,2’−イミノビス(6−モルホリノスルホニルベンゾチアゾール)11.6g(0.0200モル)にDMF60gを加え、80℃まで昇温し溶解させた。ここに酢酸ニッケル・4水和物2.49g(0.0100モル)を添加し、1時間保温した。反応液を室温まで冷却した後、メタノールを30g添加した。その後、水40gを滴下し、生じた析出物を濾別し、メタノールで洗浄後、乾燥し、黄土色粉末のニッケル錯体(C4)11.5gを得た。収率は2,2’−イミノビス(6−モルホリノスルホニルベンゾチアゾール)に対して94%であった。
【0114】
製造例5
製造例1において2−アミノ−6−トリフルオロメチルベンゾチアゾール65.5g(0.300モル)に代えて、2−アミノベンゾオキサゾール20.1g(0.150モル)と2−アミノ−6−メトキシベンゾチアゾール27.0g(0.150モル)を用いた以外は同様にして、配位子として白色粉末の(2−ベンゾオキサゾリル)[2−(6−メトキシベンゾチアゾリル)]アミン18.3gを得た。収率は2−アミノベンゾオキサゾールと2−アミノ−6−メトキシベンゾチアゾールの総量に対して41%であった。純度は、高速液体クロマトグラフにより測定し、95.2%であった。
【0115】
得られた(2−ベンゾオキサゾリル)[2−(6−メトキシベンゾチアゾリル)]アミン10.4g(0.0350モル)をクロロスルホン酸70.1g(0.602モル)に添加し、混合物を室温で18時間攪拌した。さらに塩化チオニル10.0g(0.084モル)を添加し50℃で1時間攪拌した後、室温まで冷却した。この混合物を400gの氷の上に注ぎ、吸引ろ過し残った氷と一緒にN,N−ジイソブチルアミン13.1g(0.101モル)とともに攪拌した。室温まで昇温した後、約1mLの50重量%の水酸化ナトリウム溶液によって混合物をアルカリ性にした。固体を濾別し、水洗後、乾燥することで白色粉末の{2−[6−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)ベンゾオキサゾリル]}{2−[5−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)−6−メトキシベンゾチアゾリル]}アミン15.4gを得た。収率は(2−ベンゾオキサゾリル)[2−(6−メトキシベンゾチアゾリル)]アミンに対して65%であった。純度は、高速液体クロマトグラフにより測定し、96.8%であった。
【0116】
得られた{2−[6−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)ベンゾオキサゾリル]}{2−[5−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)−6−メトキシベンゾチアゾリル]}アミン13.6g(0.0200モル)にDMF60gを加え、80℃まで昇温し溶解させた。ここに酢酸ニッケル・4水和物2.49g(0.0100モル)を添加し、1時間保温した。反応液を室温まで冷却した後、メタノールを30g添加した。その後、水40gを滴下し、生じた析出物を濾別し、メタノールで洗浄後、乾燥し、やや褐色がかった黄緑色粉末のニッケル錯体(C5)13.2gを得た。収率は{2−[6−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)ベンゾオキサゾリル]}{2−[5−(N,N−ジイソブチルアミノスルホニル)−6−メトキシベンゾチアゾリル]}アミンに対して93%であった。
【0117】
製造例6
製造例1において2−アミノ−6−トリフルオロメチルベンゾチアゾール65.5g(0.300モル)に代えて、2−アミノ−6−(メチルスルホニル)ベンゾチアゾール68.5g(0.300モル)を用いた以外は同様にして、配位子として微黄色粉末のビス{2−[6−(メチルスルホニル)ベンゾチアゾリル]}アミン33.0gを得た。収率は2−アミノ−6−(メチルスルホニル)ベンゾチアゾールに対して50%であった。純度は、高速液体クロマトグラフにより測定し、98.4%であった。
【0118】
得られたビス{2−[6−(メチルスルホニル)ベンゾチアゾリル]}アミン22.0g(0.0500モル)にDMF150gを加え、80℃まで昇温し溶解させた。ここに酢酸ニッケル・4水和物6.22g(0.0250モル)を添加し、1時間保温した。反応液を室温まで冷却した後、メタノールを100g添加した。その後、水50gを滴下し、生じた析出物を濾別し、メタノールで洗浄後、乾燥し、やや褐色がかった緑色粉末のニッケル錯体(C6)21.8gを得た。収率はビス{2−[6−(メチルスルホニル)ベンゾチアゾリル]}アミンに対して93%であった。
【0119】
得られた各ニッケル錯体の構造式を表1に示す。
【0120】
【表1−1】

【0121】
【表1−2】

【0122】
(重合性組成物の調製)
実施例1〜8および比較例1
製造例1〜6で得られたニッケル錯体を以下の表2に示す組成比率にて用いて、実施例1〜8で、各々、重合性組成物A〜H、および比較例1で重合性組成物Iを得た。
【0123】
得られた重合性組成物の色および着色度を目視観察した結果を表2に示す。
着色度は以下の基準で評価した。
〇:着色が小さい
×:着色が比較的大きい
【0124】
なお、表2中のアクリル系バインダーとしては、アクリル酸メチル−メタクリル酸エチル共重合体(ローム・アンド・ハース社製の商品名;パラロイド B−72)を用いた。 また、表2中のその他の略称については以下の通りである。
DMAA:N,N−ジメチルアクリルアミド、DEAA:N,N−ジエチルアクリルアミド、AMO:アクリロイルモルホリン、MBAA:N,N’−メチレンビスアクリルアミ

【0125】
【表2】

【0126】
比較例1は、分子構造中に1個以上のアミド基を有する少なくとも1種類のラジカル重合性モノマーを含まない系である。重合性組成物Iは赤系統の色相を呈するのに対し、重合性組成物A〜Hはすべて緑系統の色相を呈することが確認された。さらに重合性組成物A〜Hの着色の度合いは重合性組成物Iに比べて明らかに小さいことが確認された。
【0127】
(高分子錯体の合成)
実施例4、5で得られた重合性組成物D、Eを用いて高分子錯体を合成した。
【0128】
[分子量測定]
テトラヒドロフランを溶媒とするゲル・パーミュエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって、ポリスチレン換算値として、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
【0129】
[着色低減率(λ=500nm)]
高分子錯体中のニッケル錯体含量が20mgに相当する量の高分子錯体を10mlメスフラスコに秤量し、これをMEKでメスアップ(完全に溶解させる)することで試料溶液を調製した。この試料溶液を石英製の1cmセルに移し、分光光度計(株式会社日立製作所製、型番:U−4100)を用い、λ=300〜800nm域の吸収スペクトル1を得た。同様に単独のニッケル錯体20mgを秤量し、MEKで溶解、メスアップした試料溶液を用いて測定することで吸収スペクトル2を得た。
【0130】
単独のニッケル錯体に特徴的な可視光吸収が存在するλ=500nmにおける吸光度を吸収スペクトル1および2から読み取り、以下の式により着色低減率を算出した。なお、ここでの吸収スペクトル測定時のベースライン測定はMEKを用いて行った。
【0131】
着色低減率(%)=(吸収スペクトル2のλ=500nmにおける吸光度−吸収スペクトル1のλ=500nmにおける吸光度)/(吸収スペクトル2のλ=500nmにおける吸光度)×100
【0132】
実施例9
撹拌機、温度計および冷却器を備え付けた100mL容の四つ口フラスコに、実施例4で得られた重合性組成物Dを仕込み、ここに2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業株式会社製の商品名;V−70)95.4mgを添加して室温下で攪拌し、完全に溶解させた。その後フラスコ内の雰囲気を窒素で十分に置換した。内温を30〜35℃に保ちながら1時間攪拌した。さらに内温を50℃まで昇温し、そのまま2時間保温することで重合反応液を得た。
別途用意した撹拌機、温度計および冷却器を備え付けた500mL容の四つ口フラスコにヘプタン300gを仕込み、これを攪拌しながら、前で得られた重合反応液を1時間かけて滴下し、重合生成物のスラリー溶液を得た。これを濾別し、ヘプタンで洗浄した後、乾燥することにより、微黄色粉末の高分子錯体Dを4.30g得た。収率は、ニッケル錯体C2、DEAA、AMOの総量に対して86%であった。
得られた高分子錯体Dの重量平均分子量(Mw)は、42,000、数平均分子量(Mn)は、18,000、Mw/Mnは、2.3であった。また、着色低減率は85.6%であった。
【0133】
実施例10
撹拌機、温度計および冷却器を備え付けた100mL容の四つ口フラスコに、実施例5で得られた重合性組成物Eを仕込み、ここに2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業株式会社製の商品名;V−70)115.7mgを添加して室温下で攪拌し、完全に溶解させた。その後フラスコ内の雰囲気を窒素で十分に置換した。内温を30〜35℃に保ちながら1時間攪拌した。さらに内温を50℃まで昇温し、そのまま2時間保温することで重合反応液を得た。
別途用意した撹拌機、温度計および冷却器を備え付けた500mL容の四つ口フラスコにヘプタン300gを仕込み、これを攪拌しながら、前で得られた重合反応液を1時間かけて滴下し、重合生成物のスラリー溶液を得た。これを濾別し、ヘプタンで洗浄した後、乾燥することにより、微黄色粉末の高分子錯体Eを4.17g得た。収率は、ニッケル錯体C3およびDEAAの総量に対して83%であった。
得られた高分子錯体Eの重量平均分子量(Mw)は、12,000、数平均分子量(Mn)は、7,400、Mw/Mnは、1.6であった。また、着色低減率は94.4%であった。
【0134】
(紫外線吸収部材の作製)
実施例11
実施例1で得られた重合性組成物Aに2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業株式会社製の商品名;V−70)37.1mgを添加し、完全に溶解させた後、これをスピンコーター(株式会社アクティブ製、型番:ACT−300A)を用いてソーダライムガラス基材上に塗布し、窒素雰囲気下において30℃で15時間静置し、乾燥、重合させた。その後、80℃で1時間かけて重合反応を完結させ、紫外線吸収部材Aを得た。膜厚は5μmであった。得られた紫外線吸収部材について、紫外線(UV−A)吸収能、着色度および耐光性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0135】
実施例12
実施例2で得られた重合性組成物Bに2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業株式会社製の商品名;V−70)97.7mgを添加し、完全に溶解させた後、これを50mlサンプル瓶に移し、攪拌子を入れた。サンプル瓶内の雰囲気を窒素で十分に置換し蓋をして密封した。マグネティックスターラーを用いて室温下(28℃)1時間攪拌した。その後、スピンコーター(株式会社アクティブ製、型番:ACT−300A)を用いてソーダライムガラス基材上に塗布し、窒素雰囲気下において30℃で10時間静置し、乾燥、重合させた。その後、80℃で1時間かけて重合反応を完結させ、紫外線吸収部材Bを得た。膜厚は11μmであった。得られた紫外線吸収部材について、紫外線(UV−A)吸収能、着色度および耐光性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0136】
実施例13
実施例3で得られた重合性組成物Cに2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業株式会社製の商品名;V−70)90.1mgを添加し、完全に溶解させた後、これをスピンコーター(株式会社アクティブ製、型番:ACT−300A)を用いてソーダライムガラス基材上に塗布し、窒素雰囲気下において30℃で15時間静置し、乾燥、重合させた。その後、80℃で1時間かけて重合反応を完結させ、紫外線吸収部材Cを得た。膜厚は4μmであった。得られた紫外線吸収部材について、紫外線(UV−A)吸収能、着色度および耐光性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0137】
実施例14
実施例9で得られた高分子錯体D(2.05g)をエタノール(12.2g)に溶解させ、これを、バーコーター(日本シーダース株式会社製、100μm)を用いてPETフィルム(フィルム厚100μm)上に塗布し、窒素雰囲気下において30℃で10分間予備乾燥後、80℃恒温槽で5分間乾燥させ、紫外線吸収部材Dを得た。膜厚は8μmであった。得られた紫外線吸収部材について、紫外線(UV−A)吸収能、着色度および耐光性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0138】
実施例15
実施例10で得られた高分子錯体E(3.00g)をMEK(8.00g)に溶解させ、ここにジペンタエリスリトールペンタおよびヘキサアクリレート(0.73g)と、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業株式会社製の商品名;V−70)12.6mgを加えて完全に溶解させた。これを、バーコーター(日本シーダース株式会社製、100μm)を用いてPETフィルム(フィルム厚100μm)上に塗布し、窒素雰囲気下において30℃で10時間静置し、乾燥、重合させた。その後、80℃で1時間かけて重合反応を完結させ、紫外線吸収部材Eを得た。膜厚は14μmであった。得られた紫外線吸収部材について、紫外線(UV−A)吸収能、着色度および耐光性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0139】
実施例16
実施例6で得られた重合性組成物Fにビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシド(BASF製の商品名:IGACURE819)198.5mgを添加し、完全に溶解させた後、これをスピンコーター(株式会社アクティブ製、型番:ACT−300A)を用いてソーダライムガラス基材上に塗布し、窒素雰囲気において30℃で10分間予備乾燥後、80℃恒温槽で5分間乾燥させた。その後、露光装置(ナノテック株式会社製の商品名:マスクアライナーLA 410s、株式会社三永電機製作所製の商品名:超高圧水銀ランプL2501L)を用いて露光(単色化なし、波長365nmにおける光強度40mW/cm、2.5秒間照射)し、重合させ、紫外線吸収部材Fを得た。膜厚は4μmであった。得られた紫外線吸収部材について、紫外線(UV−A)吸収能、着色度および耐光性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0140】
比較例2
実施例12において重合性組成物Bに代えて、比較例1で得られた重合性組成物Iを用いた以外は同様にして、紫外線吸収部材Iを得た。膜厚は14μmであった。得られた紫外線吸収部材について、紫外線(UV−A)吸収能、着色度および耐光性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0141】
[紫外線吸収部材の評価]
(1)紫外線(UV−A)吸収能
紫外線吸収部材について分光光度計(株式会社日立製作所製、型番:U−4100)を用いてλ=380nmおよびλ=400nmにおける紫外線透過率を測定し、以下の判定を行った。
なお、ベースライン測定は空気層を用いて行った。
◎:透過率10%T未満
〇:透過率10%T以上、50%T未満
×:透過率50%T以上
【0142】
(2)着色度
紫外線吸収部材について目視で着色度評価を行った。なお、評価基準は比較例2で得られた紫外線吸収部材Gの着色度を基準とした。
◎:着色が極めて小さい
〇:着色が小さい
×:着色が比較的大きい
【0143】
(3)耐光性
紫外線吸収部材について分光光度計(株式会社日立製作所製、型番:U−4100)を用いてλ=380nmにおける吸光度を測定し、その後、この紫外線吸収部材にキセノンウェザーメーター(スガ試験機株式会社製、型番:X25)を用いて放射強度60W/m(λ=300〜400nm域における積算)の光を500時間照射した。光照射後の紫外線吸収部材について、再度λ=380nmにおける吸光度を測定し、光照射による紫外線吸収能の変化を吸収残存率として算出し、評価した。
【0144】
吸収残存率は以下の式によって算出した。
吸収残存率(%)=(光照射後のλ=380nmにおける吸光度/光照射前のλ=380nmにおける吸光度)×100
【0145】
【表3】

【0146】
実施例11〜16で得られた紫外線吸収部材A〜Fは、比較例2で得られた紫外線吸収部材Iに比べて明らかに着色が低減されており、加えて、いずれも比較例2と同等レベルの耐光性を有している。さらにUV−A吸収能については、実施例11、12、15、16で得られた紫外線吸収部材A、B、E、Fの場合には、400nmにおける透過率を大幅に低下させることが可能である。実施例11〜16で得られた紫外線吸収部材A〜F間のUV−A吸収能の差は、用いるニッケル錯体の種類に起因するものであり、用途に応じて用いるニッケル錯体の種類を選択することができる。例えば、400nmの透過率を十分に低下させたい場合にはニッケル錯体C1、C3、C4等を用いて実施例11、12、15、16に示されるような組成で紫外線吸収部材を作製することが有効であり、主に380nmの透過率を低下させ且つ着色を十分に抑制したい場合にはニッケル錯体C2を用いて実施例13、14に示されるような組成で紫外線吸収部材を作製することが有効である。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明によれば、式(1)で表される少なくとも1種類のニッケル錯体に、側鎖にアミド基を有する高分子化合物が配位した構造を有する高分子錯体または分子構造中に1個以上のアミド基を有する少なくとも1種類のラジカル重合性モノマーが配位した構造を有する単量体錯体を含有する重合性組成物を用いて紫外線吸収部材を作製することにより、式(1)で表されるニッケル錯体自身の持つ優れた紫外線吸収能や高耐光性の長所に加えて、可視光域の吸光強度が大幅に低減されるため、高度な可視光透過率を有する低着色の紫外線吸収部材を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

(式中、XおよびYはそれぞれ互いに独立して酸素原子または硫黄原子であり、
は1つのベンゼン環の6個の炭素原子のうち5員環と共有された2個の炭素原子を除いた4個の炭素原子に結合する4個の水素原子のうち1ないし4個を置換することができ、ベンゼン環の水素原子を置換した置換基はそれぞれ互いに独立して、炭素数1〜3のフルオロアルキル基、ハロゲノ基、炭素数1〜8のアルキルスルホニル基、アミノスルホニル基、炭素数1〜16のアルキルアミノスルホニル基、モルホリノスルホニル基、ピペリジノスルホニル基、ピロリジノスルホニル基、チオモルホリノスルホニル基またはピペラジノスルホニル基であり、
は、存在しないか、または存在する場合は、1つのベンゼン環の6個の炭素原子のうち5員環と共有された2個の炭素原子とRが結合した炭素原子を除いた最大3個の炭素原子に結合する水素原子のうち1ないし3個を置換することができ、ベンゼン環の水素原子を置換した置換基はそれぞれ互いに独立して、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基であり、
は、存在しないか、または存在する場合は、1つのベンゼン環の6個の炭素原子のうち5員環と共有された2個の炭素原子を除いた4個の炭素原子に結合する4個の水素原子のうち1ないし4個を置換することができ、ベンゼン環の水素原子を置換した置換基はそれぞれ互いに独立して、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜3のフルオロアルキル基、ハロゲノ基、炭素数1〜8のアルキルスルホニル基、アミノスルホニル基、炭素数1〜16のアルキルアミノスルホニル基、モルホリノスルホニル基、ピペリジノスルホニル基、ピロリジノスルホニル基、チオモルホリノスルホニル基またはピペラジノスルホニル基を示す。)で表される少なくとも1種類のニッケル錯体に、側鎖にアミド基を有する高分子化合物が配位した構造を有する高分子錯体。
【請求項2】
式(1):
【化2】

(式中、XおよびYはそれぞれ互いに独立して酸素原子または硫黄原子であり、
は1つのベンゼン環の6個の炭素原子のうち5員環と共有された2個の炭素原子を除いた4個の炭素原子に結合する4個の水素原子のうち1ないし4個を置換することができ、ベンゼン環の水素原子を置換した置換基はそれぞれ互いに独立して、炭素数1〜3のフルオロアルキル基、ハロゲノ基、炭素数1〜8のアルキルスルホニル基、アミノスルホニル基、炭素数1〜16のアルキルアミノスルホニル基、モルホリノスルホニル基、ピペリジノスルホニル基、ピロリジノスルホニル基、チオモルホリノスルホニル基またはピペラジノスルホニル基であり、
は、存在しないか、または存在する場合は、1つのベンゼン環の6個の炭素原子のうち5員環と共有された2個の炭素原子とRが結合した炭素原子を除いた最大3個の炭素原子に結合する水素原子のうち1ないし3個を置換することができ、ベンゼン環の水素原子を置換した置換基はそれぞれ互いに独立して、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基であり、
は、存在しないか、または存在する場合は、1つのベンゼン環の6個の炭素原子のうち5員環と共有された2個の炭素原子を除いた4個の炭素原子に結合する4個の水素原子のうち1ないし4個を置換することができ、ベンゼン環の水素原子を置換した置換基はそれぞれ互いに独立して、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜3のフルオロアルキル基、ハロゲノ基、炭素数1〜8のアルキルスルホニル基、アミノスルホニル基、炭素数1〜16のアルキルアミノスルホニル基、モルホリノスルホニル基、ピペリジノスルホニル基、ピロリジノスルホニル基、チオモルホリノスルホニル基またはピペラジノスルホニル基を示す。)で表される少なくとも1種類のニッケル錯体に、分子構造中に1個以上のアミド基を有する少なくとも1種類のラジカル重合性モノマーが配位した構造を有する単量体錯体を含む重合性組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の高分子錯体を含有する膜を有することを特徴とする紫外線吸収部材。
【請求項4】
請求項2に記載の重合性組成物またはその重合体を含有する膜を有することを特徴とする紫外線吸収部材。

【公開番号】特開2013−112790(P2013−112790A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262366(P2011−262366)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】