説明

高分子電解質、高分子電解質膜、膜―電極接合体、および燃料電池

【課題】 新規な高分子電解質、該高分子電解質からなる高分子電解質膜、該高分子電解質膜を備える膜−電極接合体および、該膜−電極接合体を備える出力特性と湿潤時の機械的耐久性を両立した燃料電池の提供。
【解決手段】 直鎖状の腕構造を平均2.5個以上有する星型重合体からなる高分子電解質であって、前記腕構造はイオン伝導性基を有する重合体ブロック(A)とイオン伝導性基を有さない重合体ブロック(C)を含み、前記星型重合体の前記腕構造の末端が(C)−(A)−のブロック構造を有することを特徴とする高分子電解質、これからなる高分子電解質膜、該高分子電解質膜を備える膜−電極接合体および、該膜−電極接合体を備える燃料電池の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質、該高分子電解質からなる高分子電解質膜、該高分子電解質膜を備える膜−電極接合体、および該膜−電極接合体を備える燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池用の高分子電解質膜が種々検討されている。代表的なものにフッ素系材料からなる高分子電解質膜があるが、フッ素系材料は製造が煩雑であること、環境負荷が高いことから代替が求められている。加えて、燃料電池の高性能化に対する要求が強まっており、低湿度下での高出力化、湿潤時の高耐久性の両立が求められている。この要求は水素を燃料に用いた燃料電池を使用した場合においては、特に強い。例えば非フッ素系の高分子電解質膜としてはエンプラ系材料からなる高分子電解質膜が提案されているが、導入するイオン伝導性基の密度を上げることが困難なため、低湿度下での高いイオン伝導性を実現することが困難である。
【0003】
そこでイオン伝導性基を有する重合体ブロックを含むブロック共重合体からなる高分子電解質膜が提案されている。これらはブロック共重合体の部分構造である重合体ブロックにイオン伝導性基を偏在させることで高いイオン伝導性基密度を実現でき、結果として低湿度下でのイオン伝導性を向上することができる。これらブロック共重合体からなり、強靭性とイオン伝導性を両立できる高分子電解質膜として、イオン伝導性基を有する重合体ブロック、イオン伝導性基を有さないゴム状の重合体ブロック、イオン伝導性基を有さない非ゴム状の重合体ブロックからなる高分子電解質膜が提案されている(特許文献1、2参照)。
【0004】
しかしながら、近年、一層の高性能化(高電流密度下で高い電圧を実現すること、および耐久性等)が強く求められており、従来のブロック共重合体からなる高分子電解質膜では、その要求に十分応えることができていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2007/94185号公報
【特許文献2】特表2009−503137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、新規な高分子電解質、該高分子電解質からなる高分子電解質膜、該高分子電解質膜を備える膜−電極接合体および、該膜−電極接合体を備える出力特性と湿潤時の機械的耐久性を両立した燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、構造と配列を特定した複数の重合体ブロックからなる腕構造を特定の数の範囲で有する星型重合体からなる高分子電解質によって、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1] 直鎖状の腕構造を平均2.5個以上有する星型重合体からなる高分子電解質であって、前記腕構造はイオン伝導性基を有する重合体ブロック(A)とイオン伝導性基を有さない重合体ブロック(C)を含み、前記星型重合体の前記腕構造の末端が(C)−(A)−のブロック構造を有することを特徴とする高分子電解質;
[2] 前記腕構造が、前記重合体ブロック(C)よりも20℃以上軟化温度が低い、イオン伝導性基を有さない重合体ブロック(B)をさらに含むことを特徴する[1]の高分子電解質;
[3] 前記イオン伝導性基を有する重合体ブロック(A)が、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位からなり、かつ、前記イオン伝導性基を有さない重合体ブロック(C)が下記一般式(a)
【化1】

(式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素数3〜8のアルキル基を表し、但しR〜Rの少なくとも1つは炭素数3〜8のアルキル基を表す。)
で示される繰り返し単位からなる[1]または[2]の高分子電解質;
[4] 上記[1]〜[3]のいずれかの高分子電解質からなる高分子電解質膜;
[5] 上記[4]の高分子電解質膜を備える膜−電極接合体、および
[6] 上記[5]の膜−電極接合体を備える燃料電池を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、出力特性と湿潤時の機械的耐久性を両立した燃料電池を提供する。また、該燃料電池が備える膜−電極接合体、該膜−電極接合体が備える高分子電解質膜、該高分子電解質膜を成す高分子電解質を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の高分子電解質は、直鎖状の腕構造を平均2.5個以上有する星型重合体からなる高分子電解質であって、前記腕構造はイオン伝導性基を有する重合体ブロック(A)(以下、単に重合体ブロック(A)と称する)とイオン伝導性基を有さない重合体ブロック(C)(以下、単に重合体ブロック(C)と称する)を含み、前記星型重合体の前記腕構造の末端が(C)−(A)−のブロック構造を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の高分子電解質は単一種の星型重合体である必要はなく、複数種の混合物であってもよい。また、本発明の目的を阻害しない範囲で、他の重合体、低分子量有機化合物、無機化合物などを含んでもよい。また、本発明の高分子電解質が有する複数の腕構造は、それぞれ同じであっても異なっていてもよく、緻密な構造制御のために複数種の腕構造を併用することもできるが、生産効率などの観点から同じであることが好ましい。
【0012】
本発明の高分子電解質を成す星型重合体とは複数の直鎖状の腕構造の一端が互いに結合している重合体を言う。結合していない腕構造の他端は星型重合体の末端を形成し、該末端は重合体ブロック(C)であって、これと隣接して重合体ブロック(A)が結合して、(C)−(A)−のブロック構造となっている。
【0013】
本発明の高分子電解質を成す星型重合体は、ミクロ相分離を起こすことで、重合体ブロック(A)同士が集合し、イオンチャンネルが形成され、プロトン等のイオンの通り道となる。また、本発明の高分子電解質は、直鎖状の腕構造を平均2.5個以上有する星型重合体からなるため、公知の直鎖状重合体が形成するモルフォロジーと異なり、星型重合体特有のエントロピー効果と各ブロックが形成する相間の相互作用により、特有のモルフォロジーを形成する。特に腕構造末端付近のブロックにより形成される相は、連通性の高い相を形成しやすい。そのため、前記腕構造の末端が(C)−(A)−のブロック構造を有することにより、重合体ブロック(C)同士により形成される相の連通性が向上し、使用温度での形態安定性、耐久性、耐熱性、湿潤下での力学特性等がさらに改善される。また、重合体ブロック(A)同士により形成される相の連通性も向上するため、イオン伝導度がさらに改善される。
【0014】
なおここで、「ミクロ相分離」とは微視的な意味での相分離を意味し、より詳しくは形成されるドメインサイズが可視光の波長(3800〜7800Å)以下である相分離を意味するものとする。
【0015】
上記の重合体ブロック(A)としては、イオン伝導性基を有する芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位からなる重合体ブロック、ポリエーテルケトンブロック、ポリスルフィドブロック、ポリホスファゼンブロック、ポリフェニレンブロック、ポリベンゾイミダゾールブロック、ポリエーテルスルホンブロック、ポリフェニレンオキシドブロック、ポリカーボネートブロック、ポリアミドブロック、ポリイミドブロック、ポリ尿素ブロック、ポリスルホンブロック、ポリスルホネートブロック、ポリベンゾオキサゾールブロック、ポリベンゾチアゾールブロック、ポリフェニルキノキサリンブロック、ポリキノリンブロック、ポリトリアジンブロック、ポリアクリレートブロック、ポリメタクリレートブロック等が挙げられ、中でもイオン伝導性基を有する芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位からなる重合体ブロック、ポリエーテルケトンブロック、ポリスルフィドブロック、ポリホスファゼンブロック、ポリフェニレンブロック、ポリベンゾイミダゾールブロック、ポリエーテルスルホンブロック、ポリフェニレンオキシドブロックが好ましく、合成の容易さという観点から、イオン伝導性基を有する芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位からなる重合体ブロックがより好ましい。
【0016】
重合体ブロック(A)は重合体ブロック(A)に相当する部分(重合体ブロック(A)のイオン伝導性基を水素に置換した構造からなる重合体ブロック。以下、重合体ブロック(A)と称する)に選択的にイオン伝導性基を導入することで形成できる。重合体ブロック(A)が芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位からなる場合、かかる芳香族ビニル化合物が有する芳香環は炭素環式芳香環であるのが好ましく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ピレン環等が挙げられる。これら重合体ブロック(A)を形成できる単量体としては、例えばスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、2−メトキシスチレン、3−メトキシスチレン、4−メトキシスチレン、ビニルビフェニル、ビニルターフェニル、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、4−フェノキシスチレンなどの芳香族ビニル化合物が挙げられる。芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位からなる重合体ブロック(A)の芳香環にイオン伝導性基を導入する場合、これら単量体の芳香環上にはイオン伝導性基を導入する反応を阻害する官能基がないことが望ましい。例えば、スチレンの芳香環上の水素(特に4位の水素)がアルキル基(特に炭素数3以上のアルキル基)などで置換されているとイオン伝導性基の導入が困難な場合があるので、該芳香環は他の官能基で置換されていないか、アリール基などのそれ自体がイオン伝導性基を導入可能な置換基で置換されていることが好ましく、イオン伝導性基の導入容易性、イオン伝導性基の高密度化などの観点から、スチレン、ビニルビフェニルがより好ましい。
【0017】
また、上記の芳香族ビニル化合物のビニル基上の水素原子のうち、芳香環のα−位の炭素(α−炭素)に結合した水素原子が他の置換基で置換され、α−炭素が4級炭素であってもよい。かかる置換基としては、炭素数1〜4のアルキル基(メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、もしくはtert−ブチル基)、炭素数1〜4のハロゲン化アルキル基(クロロメチル基、2−クロロエチル基、3−クロロエチル基等)またはフェニル基等を挙げられる。これらの置換基が芳香環のα−位の炭素(α−炭素)に結合した水素原子を置換した芳香族ビニル化合物としては、α−メチルスチレン、α−メチル−4−メチルスチレン、α−メチル−4−エチルスチレン、1,1−ジフェニルエチレン等が挙げられる。
【0018】
これら芳香族ビニル化合物は1種または2種以上組み合わせて重合体ブロック(A)を重合する際の単量体として使用できるが、中でもスチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−エチルスチレン、α−メチル−4−メチルスチレン、α−メチル−2−メチルスチレンが好ましい。これらの2種以上を共重合させて、重合体ブロック(A)を形成する場合の重合方法はランダム共重合でもブロック共重合でもグラフト共重合でもテーパード共重合でもよい。
【0019】
重合体ブロック(A)は、本発明の効果を損わない範囲内で1種または複数の他の単量体単位を含んでいてもよい。かかる他の単量体単位を構成する単量体としては、例えば、炭素数4〜8の共役ジエン(1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、イソプレン、1,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、1,3−ヘプタジエン、)、炭素数2〜8のアルケン(エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、1−ヘプテン、2−ヘプテン、1−オクテン、2−オクテン等)、(メタ)アクリル酸エステル((メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等)、ビニルエステル(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル等)、ビニルエーテル(メチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル等)等が挙げられる。上記他の単量体との共重合形態はランダム共重合であることが望ましい。これら単量体の含有量は好ましくは5モル%以下である。
【0020】
重合体ブロック(A)の分子量は、高分子電解質膜の性状、要求性能、他の重合体成分等によって適宜選択される。分子量が大きい場合、高分子電解質膜の力学特性が高くなる傾向にあるが、大きすぎると高分子電解質の成形、製膜が困難になり、分子量が小さい場合、ミクロ相分離構造、ひいては、イオンチャンネルを形成しにくくなるため、イオン伝導性を示さなくなる傾向にあり、また力学特性が低くなる傾向にある。
【0021】
重合体ブロック(A)の分子量は、ポリスチレン換算の数平均分子量として、通常、1,000〜100,000の範囲が好ましく、2,000〜80,000の範囲がより好ましく、3,000〜60,000の間から選択されるのがさらに好ましく、4,000〜50,000の範囲が特に好ましい。
【0022】
また、重合体ブロック(A)は、本発明の効果を損わない範囲内で公知の方法により架橋されていてもよい。架橋を導入することにより、重合体ブロック(A)が形成するイオンチャンネル相が膨潤しにくくなり、電解質膜中の構造が保持されやすく、性能が安定しやすい傾向にある。
【0023】
本発明の高分子電解質は、上記重合体ブロック(A)にイオン伝導性基を導入した重合体ブロック(A)を有する。本発明でイオン伝導性に言及する場合のイオンとしてはプロトンなどが挙げられる。イオン伝導性基としては、該高分子電解質を用いて作製される高分子電解質、膜−電極接合体が十分なイオン伝導度を発現できるような基であれば特に限定されないが、中でも−SOMまたはPOHM、COM(式中、Mは水素原子、アンモニウムイオンまたはアルカリ金属イオンを表す)で表されるスルホン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基またはそれらの塩を用いることができ、特に高いイオン伝導性を示す観点から、スルホン酸基、ホスホン酸基またはそれらの塩が好適に用いられる。
【0024】
重合体ブロック(A)中の繰り返し単位は全てがイオン伝導性基を有する必要はなく、性能に応じて適宜イオン伝導性基の量を加減できる。重合体ブロック(A)中のイオン伝導性基の位置については特に制限はないが、通常は重合体ブロック(A)中にランダムに導入する。繰り返し単位として芳香環を有する化合物がある場合、イオンチャンネル形成を容易にする観点から、芳香族環上に導入するのが好ましい。該芳香族ビニル化合物単位の芳香環上にイオン伝導性基を導入することで、高分子電解質の耐ラジカル性を向上させるのに特に有効である。
【0025】
イオン伝導性基の導入量は、得られる高分子電解質膜の要求性能等によって適宜選択されるが、燃料電池用の高分子電解質膜として使用するのに十分なイオン伝導性を発現するためには、通常、高分子電解質のイオン交換容量が0.30meq/g以上となるような量であることが好ましく、0.50meq/g以上となるような量であることがより好ましく、0.80meq/g以上となるような量であることが特に好ましい。高分子電解質のイオン交換容量の上限については、イオン交換容量が大きくなりすぎると親水性が高まり耐水性が不十分になる傾向となるので、3.50meq/g以下であるのが好ましく、3.00meq/g以下であることがより好ましい。
【0026】
重合体ブロック(C)は、拘束相として機能する。重合体ブロック(C)としては、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位からなる重合体ブロック、ポリエーテルケトンブロック、ポリスルフィドブロック、ポリホスファゼンブロック、ポリフェニレンブロック、ポリベンゾイミダゾールブロック、ポリエーテルスルホンブロック、ポリフェニレンオキシドブロック、ポリカーボネートブロック、ポリアミドブロック、ポリイミドブロック、ポリ尿素ブロック、ポリスルホンブロック、ポリスルホネートブロック、ポリベンゾオキサゾールブロック、ポリベンゾチアゾールブロック、ポリフェニルキノキサリンブロック、ポリキノリンブロック、ポリトリアジンブロック、ポリアクリレートブロック、ポリメタクリレートブロック等が挙げられ、中でも芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位からなる重合体ブロック、特に下記の一般式(a)
【化2】


(式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素数3〜8のアルキル基を表し、但し、少なくとも1つは炭素数3〜8のアルキル基を表す)で示される芳香族ビニル系化合物に由来する繰り返し単位から構成されるブロックが、合成が容易であり、かつ拘束機能を得やすいこという観点から好ましい。すなわち、イオン伝導性基を有さない星型重合体を重合後にイオン伝導性基を導入して重合体ブロック(A)を形成する場合にR〜Rによって重合体ブロック(C)へのイオン伝導性基の導入が妨げられるので重合体ブロック(C)の形成が容易である。また、軟化温度が比較的高くなるので、使用温度域を広くできる。
【0027】
上記一般式(a)で示される繰り返し単位を構成する芳香族ビニル系化合物としては、4−イソプロピルスチレン、4−n−プロピルスチレン、4−イソプロピルスチレン、4−n−ブチルスチレン、4−イソブチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、4−n−オクチルスチレン、α−メチル−4−t−ブチルスチレン、α−メチル−4−イソプロピルスチレン、などが挙げられる。
【0028】
これらは1種または2種以上組み合わせて使用できるが、中でも4−t−ブチルスチレン、4−イソプロピルスチレン、α−メチル−4−t−ブチルスチレン、α−メチル−イソプロピルスチレンが好ましい。これらの2種以上を共重合させる場合の形態は、ランダム共重合でもブロック共重合でもグラフト共重合でもテーパード共重合でもよい。
【0029】
重合体ブロック(C)は、本発明の効果を損わない範囲内で1種または複数の他の単量体単位を含んでいてもよい。かかる他の単量体単位を構成する単量体としては、例えば、炭素数4〜8の共役ジエン(1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、イソプレン、1,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、1,3−ヘプタジエン等)、炭素数2〜8のアルケン(エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、1−ヘプテン、2−ヘプテン、1−オクテン、2−オクテン等)、(メタ)アクリル酸エステル((メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等)、ビニルエステル(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル等)、ビニルエーテル(メチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル等)等が挙げられる。上記他の単量体との共重合形態はランダム共重合であることが望ましい。これら単量体の含有量は好ましくは5モル%以下である。
【0030】
重合体ブロック(C)の分子量は、高分子電解質の性状、要求性能、他の重合体成分等によって選択される。分子量が大きい場合、高分子電解質の力学特性が高くなる傾向にあるが、大きすぎると高分子電解質の成形、製膜が困難になり、分子量が小さい場合、力学特性が低くなる傾向にある。ポリスチレン換算の数平均分子量として、通常、1,000〜100,000の範囲が好ましく、1,500〜80,000の範囲がより好ましく、2,000〜60,000の範囲がより好ましく、2,500〜50,000の範囲が特に好ましい。
【0031】
本発明の星型重合体における、互いに結合した直鎖状の腕構造の平均数(f値)は、2.5以上である。本発明の高分子電解質を成す星型重合体の腕構造の末端には重合体ブロック(C)が存在する。腕構造の平均数が2.5個以上あることで、該星型重合体は溶媒中で、単分子でミセル構造を形成する。溶液から製膜する際に、溶媒が蒸発する過程において単分子で形成されたミセルが並び、ミクロ相分離構造が形成される。また、腕数が少ない場合は、溶液中でいくつかの分子が集合して、ミセルを形成し、溶媒が蒸発する過程において該ミセルが並ぶことにより、ミクロ相分離構造が形成される。形成されたミセルが並ぶ際に、最外層の部位が隣接するミセルと絡み合うことにより、電解質膜としての力学強度が向上できる。f値が30を超えると製法上精密に制御することが困難になるだけでなく、単分子で形成するミセル同士が並ぶ際に、最外層を構成する重合体ブロック(C)同士が絡みあいにくくなる。また該f値が小さい場合には、星型重合体の構造の特徴が発揮できにくくなる場合がある。かかるf値は2.5以上、30以下の範囲であることが好ましく、3以上、20以下の範囲であることがより好ましい。
【0032】
また本明細書でいうf値は、星型重合体のGPCで測定できるピークトップの分子量を、GPCで測定できる腕構造に相当するピークトップの分子量で除した値である。腕構造の分子量が互いに同一でない場合、前記GPCで測定できる星型重合体のピークトップの分子量を、該GPCで測定できる腕構造のピークトップの分子量の平均値で除した値をf値とする。
【0033】
また、イオンチャンネルを形成できる少なくとも一つの重合体ブロック(A)は、腕構造の末端に配置した重合体ブロック(C)に結合している。ミセル同士が並んで形成される界面付近は、例えばハニカム構造のように連通性が高くなりやすい。それ故、イオンの伝達を担うイオンチャンネルを形成できる重合体ブロック(A)は、腕構造の末端付近に配置させることが好ましく、末端重合体ブロック(C)に連結させることが好ましい。
【0034】
本発明の高分子電解質を成す星型重合体は、複数の直鎖状の腕構造が前記重合体ブロック(C)によって構成される末端を成さない他端で互いに結合している。該星型重合体は腕構造が互いに結合するための核構造を有していることが好ましい。該核構造は、腕構造が放射状に広がることが可能であれば、特に限定されるものではない。具体的には、テトラクロロシランなどの多官能性カップリング剤から構成される核構造、ジビニルベンゼン等の多官能性芳香族ビニル化合物から構成される核構造、ポリパラメチルスチレン等のグラフト化が可能な分子量の小さい直鎖状重合体から構成される核構造などが挙げられる。これらの中でも、製造の容易性、星型重合体の特徴を発揮させやすい観点から、ジビニルベンゼン等の多官能性芳香族ビニル化合物から構成される核構造が特に好ましい。
【0035】
本発明の高分子電解質において核構造が大きくなりすぎると、得られる高分子電解質膜の強靭性が低下する傾向にあることから、前記核構造は前記腕構造1個当たり3〜30倍モルの核構造を形成する単量体からなることが好ましく、4〜25倍モルの核構造を形成する単量体からなることが好ましい。
【0036】
また、本発明の高分子電解質の腕構造が、2つ以上の重合体ブロック(A)および/または2つ以上の重合体ブロック(C)を有する場合には、それぞれの構造(構成繰り返し単位、重合度、イオン伝導性基の割合など)はそれぞれ同じである必要はない。
【0037】
さらに重合体ブロック(A)および/または重合体ブロック(C)はそれぞれ単一の繰り返し単位によって構成されている必要はない。重合体ブロック(A)はイオン伝導性基を有する繰り返し単位と、イオン伝導性基を有さない繰り返し単位とがランダムに共重合した構造であってもよく、重合体ブロック(A)がイオン伝導性基を有さない繰り返し単位を有する場合、かかるイオン伝導性基を有さない繰り返し単位は重合体ブロック(C)とのミクロ相分離性を高めるために、重合体ブロック(C)を構成する繰り返し単位とは異なることが望ましい。
【0038】
前記星型重合体を形成する腕構造は、重合体ブロック(C)よりも20℃以上軟化温度が低い、イオン伝導性基を有さない重合体ブロック(B)(以下、単に重合体ブロック(B)と称する)をさらに構成成分としてもよい。腕構造が重合体ブロック(B)を構成成分とする場合、該重合体ブロック(B)の軟化温度と重合体ブロック(C)の軟化温度の間の温度を使用温度域とすると、本発明の高分子電解質はより一層所望の性能を得ることができる。すなわち、本発明の高分子電解質は、重合体ブロック(B)の軟化温度よりも高い温度で使用することで、前記重合体ブロック(B)同士が集合して相を形成し、弾力性を帯び、かつ柔軟になる。また、前記重合体ブロック(C)の軟化温度よりも低い温度で使用することで、前記重合体ブロック(C)同士が集合し、使用温度での形態安定性、耐久性、耐熱性、湿潤下での力学特性等が改善される。また、重合体ブロック(B)の軟化温度が低いことで、膜−電極接合体や燃料電池の作成にあたっての成型性(組立性、接合性、締付性など)が改善される。
【0039】
また、本発明の高分子電解質の腕構造が、2つ以上の重合体ブロック(B)を有する場合には、それぞれの構造(構成繰り返し単位、重合度、イオン伝導性基の割合など)はそれぞれ同じである必要はない。さらに重合体ブロック(B)は単一の繰り返し単位によって構成されている必要はない。重合体ブロック(A)がイオン伝導性基を有する芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位からなる場合、重合体ブロック(B)とのミクロ相分離を起こす上で有利であり、この結果イオン伝導性を高めることができる。
【0040】
本発明の高分子電解質膜は、重合体ブロック(B)がさらに存在することによって、上記した好適な使用温度域において、弾力性を帯び、かつ柔軟になり、膜−電極接合体や燃料電池の作成にあたっては成型性(組立性、接合性、締付性など)に優れる。ここで、星型重合体中に軟化温度が異なる重合体ブロック(C)が複数ある場合は、最も低い軟化温度を示す重合体ブロック(C)よりも重合体ブロック(B)の軟化温度が20℃以上低い。同様に星型重合体中に軟化温度が異なる重合体ブロック(B)が複数ある場合は、最も高い軟化温度を示す重合体ブロック(B)よりも重合体ブロック(C)の軟化温度が20℃以上高い。幅広い使用温度域において高い弾力性を帯び、かつ柔軟性を発揮しやすいことから、重合体ブロック(B)の軟化温度は、重合体ブロック(C)に比べて40℃以上低いことが好ましく、70℃以上低いことが好ましい。かかる重合体ブロック(B)を構成する繰り返し単位としては、炭素数2〜8のアルケン単位、炭素数5〜8のシクロアルケン単位、炭素数7〜10のビニルシクロアルカン単位、炭素数7〜10のビニルシクロアルケン単位、炭素数4〜8の共役ジエン単位、炭素数5〜8の共役シクロアルカジエン単位、炭素数1〜12の側鎖を有するアクリル酸エステル単位、および炭素数1〜12の側鎖を有するメタクリル酸エステル単位が挙げられる。炭素数2〜8のアルケンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、1−ヘプテン、2−ヘプテン、1−オクテン、2−オクテンなど、炭素数5〜8のシクロアルケンとしてはシクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテンおよびシクロオクテンなど、炭素数7〜10のビニルシクロアルカンとしてはビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘプタン、ビニルシクロオクタンなど、炭素数7〜10のビニルシクロアルケンとしてはビニルシクロペンテン、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘプテン、ビニルシクロオクテンなど、炭素数4〜8の共役ジエンとしては1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、イソプレン、1,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、1,3−ヘプタジエン、など、炭素数5〜8の共役シクロアルカジエンとしては、シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエンなど、炭素数1〜12の側鎖を有するアクリル酸エステルとしてはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸オクチルなど、炭素数1〜12の側鎖を有するメタクリル酸エステルとしてはメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸オクチルなどがそれぞれ挙げられる。これら単量体は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの群から選ばれる繰り返し単位は単独または2種以上組み合わせて用いてもよい。2種以上を重合(共重合)させる場合の形態はランダム共重合でもブロック共重合でもグラフト共重合でもテーパード共重合でもよい。また、(共)重合に供する単量体が炭素−炭素二重結合を複数有する場合にはそのいずれが重合に用いられてもよく、共役ジエンの場合には1,2−結合であっても1,4−結合であってもよい。
【0041】
好適な使用温度域や成型温度との兼ね合いから、重合体ブロック(B)の軟化温度は50℃以下であることが好ましく、40℃以下であることがより好ましく、30℃以下であることがさらに好ましい。
ここで軟化温度とは、測定対象の高分子電解質から高分子電解質膜を作成し、広域動的粘弾性測定装置(レオロジ社製「DVE−V4FTレオスペクトラー」)を使用して、該高分子電解質膜を用いて、引張りモードで、貯蔵弾性率E’、損失弾性率E’’及び損失正接tanδを測定し、損失正接のピーク温度Tα(℃)を軟化温度とする。
【0042】
重合体ブロック(B)を形成するための単量体が、ビニルシクロアルケン、共役ジエン、共役シクロアルカジエンのように炭素−炭素二重結合を複数有している場合には、通常、重合後の重合体ブロックに炭素−炭素二重結合が残る。このように重合体ブロックが炭素−炭素二重結合を有している場合、耐熱劣化性の向上などの観点から、かかる炭素−炭素二重結合はその30モル%以上が水素添加されているのが好ましく、50モル%以上が水素添加されているのがより好ましく、80モル%以上が水素添加されているのがより一層好ましい。炭素−炭素二重結合の水素添加率は、一般に用いられている方法、例えば、ヨウ素価測定法、H−NMR測定等によって算出することができる。このように重合体ブロック(B)が炭素−炭素二重結合を有さないかまたは低減した構造とすることで、高分子電解質膜の劣化が抑制できる。
【0043】
重合体ブロック(B)は、高分子電解質膜にした際に、使用温度領域において弾力性を帯び、かつ柔軟になり、膜−電極接合体や燃料電池の作成にあたって成型性(組立性、接合性、締付性など)を改善しやすい観点から、炭素数2〜8のアルケン単位、炭素数5〜8のシクロアルケン単位、炭素数7〜10のビニルシクロアルケン単位、炭素数4〜8の共役ジエン単位および炭素数5〜8の共役シクロアルカジエン単位よりなる群から選ばれる少なくとも一種の繰り返し単位からなる重合体ブロックであることが好ましく、炭素数3〜8のアルケン単位、炭素数4〜8の共役ジエン単位から選ばれる少なくとも1種の繰返し単位からなる重合体ブロックであることがより好ましく、炭素数4〜6のアルケン単位、炭素数4〜6の共役ジエン単位から選ばれる少なくとも1種の繰返し単位からなる重合体ブロックであることがより一層好ましい。アルケン単位として最も好ましいのはイソブテン単位、1,3−ブタジエン単位の二重結合を飽和させた構造単位(1−ブテン単位、2−ブテン単位)、イソプレン単位の二重結合を飽和させた構造単位(2−メチル−1−ブテン単位、3−メチル−1−ブテン単位、2−メチル−2−ブテン単位)であり、特に柔軟性の高さから1,3−ブタジエン単位の二重結合を飽和した構造単位(1−ブテン単位、2−ブテン単位)またはイソプレン単位の二重結合を飽和した構造単位(2−メチル−1−ブテン単位、3−メチル−1−ブテン単位、2−メチル−2−ブテン単位)が好ましい。共役ジエン単位として最も好ましいのは1,3−ブタジエン単位、イソプレン単位である。また、本発明の高分子電解質を製造するにあたり、イオン伝導性基を有さない星型重合体を重合後、イオン伝導性基を導入する場合、重合体ブロック(B)が飽和炭化水素構造であれば、イオン伝導性基が導入されにくいので重合体ブロック(B)の形成が容易である。
【0044】
また、重合体ブロック(B)は、上記単量体以外に、使用温度領域において高分子電解質に弾力性を与えるという重合体ブロック(B)の目的を損わない範囲で他の単量体、例えばスチレン、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル系化合物;塩化ビニル等のハロゲン含有ビニル化合物、ビニルエステル(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル等)、ビニルエーテル(メチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル等)等を含んでいてもよい。この場合上記単量体と他の単量体との共重合形態はランダム共重合であることが好ましい。これら単量体の含有量は好ましくは5モル%以下である。
【0045】
重合体ブロック(B)の分子量は、ポリスチレン換算の数平均分子量として、通常、5,000〜200,000の範囲が好ましく、7,000〜150,000の範囲がより好ましく、8,000〜100,000の範囲がさらに好ましく、10,000〜70,000の範囲が特に好ましい。
【0046】
本発明の高分子電解質は、腕構造の末端が重合体ブロック(C)であって、さらに隣接して重合体ブロック(A)が結合していることで、(C)−(A)−のブロック構造を形成している。該腕構造は、重合体ブロック(C)よりも20℃以上軟化温度が低い重合体ブロック(B)を含んでいてもよい。核構造(Y)を含む共有結合順序の例として、C−A−Y、C−A−C−Y、C−A−B−Y、C−A−B−C−Y、C−A−C−B−Y、C−A−C−B−C−Y、C−A−B−A−B−Y、C−A−B−C−B−Yといった構造が挙げられる。これらの中でも、高い力学強度と高いイオン伝導性を両立できる点から、重合体ブロック(B)と核構造(Y)とが結合していることが好ましく、製造の容易性の観点から、C−A−C−B−Yの構造が特に好ましい。
【0047】
前記重合体ブロック(A)の総量と前記重合体ブロック(C)の総量との質量比は、80:20〜4:96であるのが好ましく、65:35〜6:94であるのがより好ましく、55:45〜8:92であるのがさらに好ましい。前記重合体ブロック(C)の組成が小さくなりすぎると、乾燥時、および湿潤時の強度を保持できにくくなる。また、前記重合体ブロック(A)の組成が小さくなりすぎると、該ブロックに導入されるイオン伝導性基の量が少なくなり、高分子電解質膜にした際のイオン伝導性を充分に確保することができにくくなる。なお、これら質量比は重合体ブロック(A)のイオン伝導性基を水素で置換した構造を重合体ブロック(A)の質量とした場合の値である。
【0048】
前記重合体ブロック(B)の総量と前記重合体ブロック(C)の総量との質量比は、80:20〜15:85であるのが好ましく、70:30〜20:80であるのがより好ましく、60:40〜25:75であるのがさらに好ましい。前記重合体ブロック(C)の組成が小さくなりすぎると、電解質膜としての強度を保持できにくくなる。また、前記重合体ブロック(B)の組成が小さくなりすぎると、強靭性を保持できにくくなり、脆くなる傾向にある。
【0049】
また、本発明の高分子電解質を成す星型重合体を構成する、腕構造部分の数平均分子量は特に制限されないが、イオン伝導性基が導入されていない状態でのポリスチレン換算の数平均分子量として、通常、7,000〜400,000が好ましく、10,000〜250,000がより好ましく、15,000〜150,000がより一層好ましく、20,000〜100,000が特に好ましい。
【0050】
また、本発明の高分子電解質を成す星型重合体の数平均分子量は特に制限されないが、イオン伝導性基が導入されていない状態でのポリスチレン換算の数平均分子量として、通常、14,000〜5,000,000が好ましく、20,000〜2,500,000がより好ましく、30,000〜2,000,000がより一層好ましく、40,000〜1,500,000が特に好ましい。
【0051】
本発明の高分子電解質を成す星型重合体の製造方法に関しては、特に限定されず、公知の方法を用いることができるが、イオン伝導性基を有さない星型重合体を製造した後、イオン伝導性基を導入する方法が好ましい。
【0052】
腕構造部分の製造方法は、ラジカル重合法、アニオン重合法、カチオン重合法、配位重合法等から適宜選択されるが、工業的な容易さから、ラジカル重合法、アニオン重合法、カチオン重合法が好ましく選択される。特に、分子量制御、分子量分布制御、重合体構造制御、重合体ブロック同士の結合の容易さ等からいわゆるリビング重合法が好ましく、具体的にはリビングラジカル重合法、リビングアニオン重合法、リビングカチオン重合法が好ましい。
【0053】
また、前記腕構造部分から星型重合体を製造する方法としては、前記腕構造部分を重合した後に、ジビニルベンゼン等の多官能性芳香族ビニル化合物等の核形成剤を添加して形成させる方法が好ましい。
【0054】
本発明の高分子電解質を成す星型重合体の製造方法の例を以下に示す。まず、イオン伝導性基を有さない星型重合体を製造する方法について説明した後、該星型重合体にイオン伝導性基を導入する方法を説明する。
【0055】
4−tert−ブチルスチレン等の芳香族ビニル系化合物を主たる繰返し単位とする重合体ブロック(C)、スチレン等の芳香族ビニル系化合物を主たる繰返し単位とする重合体ブロック(A)および共役ジエン等からなる重合体ブロック(B)を構成成分とする腕構造からなるイオン伝導性基を有さない星型重合体の製造方法について述べる。この場合、工業的容易さ、分子量、分子量分布、重合体ブロック(C)、重合体ブロック(B)および重合体ブロック(A)の結合の容易さ等からリビングアニオン重合法が好ましい。具体的には、シクロヘキサン溶媒中でアニオン重合開始剤を用いて、10〜100℃の温度条件下で、4−tert−ブチルスチレン等の芳香族ビニル系化合物を重合し、その後スチレン、4−tert−ブチルスチレン、共役ジエンを逐次重合させた後、ジビニルベンゼンを添加し重合させることでC−A−C−B−Y型星型重合体を得る方法、等を採用することができる。
【0056】
このようにして製造されたイオン伝導性基を有さない星型重合体は、重合体ブロック(B)を構成する炭素数4〜8の共役ジエン単位の二重結合を水素添加する反応に供してもよい。該水素添加反応の方法としては、アニオン重合等で得られた星型重合体の溶液を耐圧容器に仕込み、Ni/Al系等のZiegler系水素添加触媒を用いて、水素雰囲気下において水素添加反応を行う方法を例示できる。
【0057】
次に、得られたイオン伝導性基を有さない星型重合体にイオン伝導性基を結合させて本発明の高分子電解質を成すイオン伝導性基を有する星型重合体を得る方法について述べる。
【0058】
まず、イオン伝導性基を有さない星型重合体にイオン伝導性基としてスルホン酸基を導入する方法について述べる。スルホン化は、公知のスルホン化を適用でき、かかる方法としては、星型重合体の有機溶媒溶液や懸濁液を調製し、スルホン化剤を添加し混合する方法や星型重合体に直接ガス状のスルホン化剤を添加する方法等が例示される。
【0059】
使用するスルホン化剤としては、硫酸、硫酸と脂肪族酸無水物との混合物系、クロロスルホン酸、クロロスルホン酸と塩化トリメチルシリルとの混合物系、三酸化硫黄、三酸化硫黄とトリエチルホスフェートとの混合物系、さらに2,4,6−トリメチルベンゼンスルホン酸に代表される芳香族有機スルホン酸等が例示される。また、使用する有機溶媒としては、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素類、ヘキサン等の直鎖式脂肪族炭化水素類、シクロヘキサン等の環式脂肪族炭化水素類等が例示でき、必要に応じて複数の組合せから、適宜選択して使用してもよい。
【0060】
得られた星型重合体のスルホン化物を含む反応溶液から、スルホン化物を固形物として取り出す方法としては、水中に反応溶液を注ぎスルホン化物を沈殿させた後に溶媒を常圧留去する方法や、反応溶液中に停止剤の水を徐々に添加して懸濁させ、スルホン化物を析出させた後に溶媒を常圧留去する方法などが挙げられるが、スルホン化物が微分散化し、その後の水での洗浄効率が高くなる観点から、反応溶液中に停止剤の水を徐々に添加して、懸濁させ、スルホン化物を析出させる方法が好適に用いられる。
【0061】
次にイオン伝導性基を有さない星型重合体にイオン伝導性基としてホスホン酸基を導入する方法について述べる。ホスホン化は、公知のホスホン化法を適用でき、具体的には、星型重合体の有機溶媒溶液や懸濁液を調製し、無水塩化アルミニウムの存在下、該星型重合体をクロロメチルエーテル等と反応させ、芳香環にハロメチル基を導入後、さらに三塩化リンと無水塩化アルミニウムを加えて反応させ、最後に加水分解反応を行ってホスホン酸基を導入する方法などが挙げられる。または、該星型重合体に三塩化リンと無水塩化アルミニウムを加えて反応させ、芳香環にホスフィン酸基を導入後、硝酸によりホスフィン酸基を酸化してホスホン酸基とする方法等が例示できる。
【0062】
スルホン化またはホスホン化の程度としては、すでに述べたごとく、星型重合体のイオン交換容量が0.30meq/g以上、さらに0.50meq/g以上、特に0.80meq/g以上となるまで、しかし、3.50meq/g以下、特に3.00meq/g以下であるようにスルホン化またはホスホン化されることが望ましい。これにより実用的なイオン伝導性能が得られる。スルホン化またはホスホン化された星型重合体のイオン交換容量、もしくは星型重合体における芳香族ビニル系化合物中のスルホン化率またはホスホン化率は、酸価滴定法、赤外分光スペクトル測定、核磁気共鳴スペクトル(H−NMRスペクトル)測定等の分析手段を用いて算出することができる。
【0063】
イオン伝導性基は、適当な金属イオン(例えばアルカリ金属イオン)あるいは対イオン(例えばアンモニウムイオン)で中和されている塩の形で導入されていてもよい。例えば、適当な方法でイオン交換することにより、スルホン酸基を塩型にした星型重合体を得ることができる。
【0064】
本発明の高分子電解質は、本発明の効果を損わない限り、各種添加剤、例えば、軟化剤、安定剤、光安定剤、帯電防止剤、離型剤、難燃剤、発泡剤、顔料、染料、増白剤等を各単独でまたは2種以上組み合わせて含有していてもよい。
【0065】
軟化剤としては、パラフィン系、ナフテン系もしくは芳香族系のプロセスオイル等の石油系軟化剤、パラフィン、植物油系軟化剤、可塑剤等が挙げられる。
【0066】
安定剤は、フェノール系安定剤、イオウ系安定剤、リン系安定剤等を包含し、具体例としては、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスチリル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2,−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロジナマミド)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレート、3,9−ビス{2−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等のフェノール系安定剤;ペンタエリスリチルテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ジステアリル3,3’−チオジプロピオネート、ジラウリル3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’−チオジプロピオネート等のイオウ系安定剤;トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ジアステリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等のリン系安定剤等が挙げられる。
【0067】
本発明の高分子電解質を成す星型重合体の含有量は、イオン伝導性の観点から、90質量%以上であることが好ましく、93質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがより一層好ましい。
【0068】
本発明の高分子電解質膜は、燃料電池用高分子電解質膜として必要な性能、膜強度、ハンドリング性等の観点から、その膜厚が5〜200μmの範囲であることが好ましく、7〜100μmの範囲であることがより好ましい。膜厚が5μm未満である場合には、膜の機械的強度やガスの遮断性が不充分となる傾向がある。逆に、膜厚が200μmを超える場合には、膜抵抗が大きくなり、充分なプロトン伝導性が発現しないため、電池の発電特性が低くなる傾向がある。該膜厚はより好ましくは8〜70μmである。
【0069】
本発明の高分子電解質膜の調製方法については、例えば、本発明の高分子電解質を成す星型重合体および必要に応じて上記した添加剤をこれらを溶解する溶媒と混合して、5質量%以上の該星型重合体の均一溶液を調製し、離形処理済みのPETフィルム等に、コーターやアプリケーター等を用いて塗布した後、溶媒を除去することによって、所望の厚みを有する高分子電解質膜を得る方法などの公知の成膜方法を用いることができる。
【0070】
本発明の高分子電解質膜を均一溶液から調製する場合に使用する溶媒は、高分子電解質の構造を破壊することなく、溶液塗工が可能な程度の粘度の溶液を調製することが可能なものであれば特に制限されない。具体的には、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン等の直鎖式脂肪族炭化水素類、シクロヘキサン等の環式脂肪族炭化水素類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール等のアルコール類、あるいはこれらの混合溶媒等が例示できる。高分子電解質を成す星型重合体の構成、分子量、イオン交換容量等に応じて、上記に例示した溶媒の中から、1種または2種以上の組合せを適宜選択し使用することができるが、特に強靭性を有する高分子電解質膜を調製しやすい観点から、トルエンとイソブチルアルコールの混合溶媒、トルエンとイソプロパノールの混合溶媒、シクロヘキサンとイソプロパノールの混合溶媒、シクロヘキサンとイソブチルアルコールの混合溶媒、テトラヒドロフラン溶媒、テトラヒドロフランとメタノールの混合溶媒が好ましく、特に、トルエンとイソブチルアルコールの混合溶媒、トルエンとイソプロパノールの混合溶媒が好ましい。
【0071】
また、コーターやアプリケーター等を用いて塗布した後、適切な条件で溶媒を除去することによって、所望の厚みを有する高分子電解質膜を得る場合における溶媒除去の条件は、高分子電解質のスルホン酸基等のイオン伝導性基が脱落する温度以下で、溶媒を完全に除去できる条件であれば任意に選択することが可能である。所望の物性を発現させるため、複数の温度を任意に組み合わせたり、通風気下と減圧条件下等を任意に組み合わせてもよい。具体的には、60〜100℃の熱風乾燥で4分以上乾燥させて溶媒を除去する方法や、100〜140℃の熱風乾燥にて2〜4分乾燥させて溶媒を除去する方法や、25℃で1〜3時間、予備乾燥させた後、80〜120℃の熱風乾燥で5〜10分かけて乾燥する方法や、25℃で1〜3時間、予備乾燥させた後、25〜40℃の雰囲気下、減圧条件下で1〜12時間乾燥させる方法などが挙げられる。良好な強靭性を有する高分子電解質膜を調製しやすい観点から、60〜100℃の熱風で4分以上かけて乾燥させて溶媒を除去する方法や、25℃で1〜3時間、予備乾燥させた後、80〜120℃程度の熱風乾燥にて5〜10分かけて乾燥する方法や、25℃で1〜3時間、予備乾燥させた後、25〜40℃の雰囲気下、減圧条件下で1〜12時間乾燥させる方法などが好適に用いられる。
【0072】
次に、本発明の高分子電解質膜を用いた膜−電極接合体について述べる。膜−電極接合体の製造については特に制限はなく、公知の方法を適用することができ、例えば、イオン伝導性バインダー、導電性触媒担体、分散媒を含む触媒ペーストを印刷法やスプレー法により、ガス拡散層上に塗布し乾燥することで触媒層とガス拡散層との接合体を形成させ、ついで1対の接合体をそれぞれ触媒層を内側にして、高分子電解質膜の両側にホットプレスなどにより接合させる方法や、上記触媒ペーストを印刷法やスプレー法により高分子電解質膜の両側に塗布し、乾燥して触媒層を形成させ、それぞれの触媒層に、ホットプレスなどによりガス拡散層を圧着させる方法がある。さらに別の製造方法として、イオン伝導性バインダーを含む溶液または懸濁液を、高分子電解質膜の両面および/または1対のガス拡散電極の触媒層面に塗布し、高分子電解質膜と触媒層面とを張り合わせ、熱圧着などにより接合させる方法がある。この場合、該溶液または懸濁液は電解質膜および触媒層面のいずれか一方に塗付してもよいし、両方に塗付してもよい。さらに他の製造方法として、まず、上記触媒ペーストをポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製などの基材フィルムに塗布し、乾燥して触媒層を形成させ、ついで、1対のこの基材フィルム上の触媒層を高分子電解質膜の両側に加熱圧着により転写し、基材フィルムを剥離することで高分子電解質膜と触媒層との接合体を得、それぞれの触媒層にホットプレスによりガス拡散層を圧着する方法がある。これらの方法においては、イオン伝導性基をNaなどの金属との塩にした状態で行い、接合後の酸処理によってプロトン型に戻す処理を行ってもよい。
【0073】
上記膜−電極接合体を構成するイオン伝導性バインダーとしては、例えば、「Nafion」(登録商標、デュポン社製)や「Gore−select」(登録商標、ゴア社製)などの既存のパーフルオロスルホン酸系ポリマーからなるイオン伝導性バインダー、スルホン化ポリエーテルスルホンやスルホン化ポリエーテルケトンからなるイオン伝導性バインダー、リン酸や硫酸を含浸したポリベンズイミダゾールからなるイオン伝導性バインダー等を用いることができる。また、本発明の高分子電解質膜を構成する高分子電解質をイオン伝導性バインダーとして用いてもよい。なお、高分子電解質とガス拡散電極との密着性を一層高めるためには、ガス拡散電極と密着する面に位置する高分子電解質膜と同様の構造(重合体の繰り返し単位、共重合比率、分子量、イオン伝導性基、イオン交換容量などが共通、または類似している、特に重合体の繰り返し単位、イオン伝導性基が共通、または類似している)からなるイオン伝導性バインダーを用いることが好ましい。
【0074】
上記膜−電極接合体の触媒層の構成材料について、導電性触媒担体としては特に制限はなく、例えば炭素材料が挙げられる。炭素材料としては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛などが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上混合して使用される。触媒金属としては、水素やメタノールなどの燃料の酸化反応および酸素の還元反応を促進する金属であればよく、例えば、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タングステン、マンガン、パラジウム等、あるいはそれらの合金、例えば白金−ルテニウム合金が挙げられる。中でも白金や白金合金が多くの場合用いられる。触媒となる金属の粒径は、通常は、10〜300オングストロームである。これら触媒はカーボン等の導電性触媒担体に担持させた方が触媒使用量は少なくコスト的に有利である。また、触媒層には、必要に応じて撥水剤が含まれていてもよい。撥水剤としては例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエン共重合体、ポリエーテルエーテルケトン等の各種熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0075】
上記膜−電極接合体のガス拡散層は、導電性およびガス透過性を備えた材料から構成され、かかる材料として例えばカーボンペーパーやカーボンクロス等の炭素繊維よりなる多孔性材料が挙げられる。また、かかる材料には、撥水性を向上させるために、撥水化処理を施してもよい。
【0076】
上記のような方法で得られた膜−電極接合体を、極室分離と電極へのガス供給流路の役割を兼ねた導電性のセパレータ材の間に挿入することにより、燃料電池が得られる。本発明の膜−電極接合体は、燃料ガスとして水素を使用した純水素型、メタノールを改質して得られる水素を使用したメタノール改質型、天然ガスを改質して得られる水素を使用した天然ガス改質型、ガソリンを改質して得られる水素を使用したガソリン改質型、メタノールを直接使用する直接メタノール型等の燃料電池用膜−電極接合体として使用可能である。
【実施例】
【0077】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0078】
[参考例1:ポリスチレン、水添ポリイソプレンおよびポリ(4−tert−ブチルスチレン)からなる星型重合体の製造]
特許文献1と類似の方法で、1400mLオートクレーブに、脱水シクロヘキサン700mlおよびsec−ブチルリチウム(1.10M−シクロヘキサン溶液)3.82mlを仕込んだ後、4−tert−ブチルスチレン11.5ml、スチレン7.3ml、4−tert−ブチルスチレン18.5ml、イソプレン46.4mlを逐次添加し、60℃で重合させ、ポリ(4−tert−ブチルスチレン)―b−ポリスチレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−b−ポリイソプレン(以下、TSTIと略記する)のブロック構造からなる腕構造を形成後、さらにジビニルベンゼンを8.2ml添加し、60℃で重合させることでポリ(4−tert−ブチルスチレン)―b−ポリスチレン−のブロック構造が末端を構成するTSTIを腕構造とする星型重合体(以下、TSTIYと略する)を合成した。
腕構造TSTIを形成した時点でサンプリングして確認した該腕構造部分の分子量(GPC測定におけるピークトップの分子量、ポリスチレン換算)は57,900であり、星型重合体の分子量(GPC測定におけるピークトップの分子量、ポリスチレン換算)は178,700であり、その除した値であらわされる腕構造の数(f値)は平均3.1であった。また、H−NMR測定から求めたポリイソプレン部位の1,4−結合量は94.0モル%、スチレン単位の含有量は9.0質量%、4−tert−ブチルスチレン単位の含有量は43.3質量%であった。
【0079】
合成したTSTIYのシクロヘキサン溶液を調製し、十分に窒素置換を行った耐圧容器に仕込んだ後、Ni/Al系のZiegler系水素添加触媒を用いて、水素雰囲気下において70℃で18時間水素添加反応を行い、ポリ(4−tert−ブチルスチレン)―b−ポリスチレン−のブロック構造が末端を構成するポリ(4−tert−ブチルスチレン)―b−ポリスチレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)−b−水添ポリイソプレンを腕構造とする星型重合体(以下、TSTEYと略記する)を得た。得られたTSTEYの残存二重結合量をH−NMRスペクトル測定により算出したところ、検出限界以下であった。
【0080】
[製造例1:スルホン化TSTEYの合成]
特許文献1と同様の方法で、塩化メチレン31.1ml中、0℃にて無水酢酸15.6mlと硫酸7.0mlとを反応させてスルホン化試薬を調製した。一方、参考例1で得られた星型重合体TSTEY10gを、2L攪拌機付きのガラス製反応容器に入れ、真空-窒素導入を3回繰り返した後、窒素を導入した状態で、塩化メチレン450mlを加え、常温にて4時間攪拌して溶解させた。溶解後、スルホン化試薬18mlを、5分かけて徐々に滴下した。常温にて48時間攪拌後、停止剤の蒸留水22mlを加えて反応を停止した。その後、攪拌下、蒸留水500mlを徐々に滴下し、重合体を凝固析出させた。塩化メチレンを常圧留去にて除去した後、ろ過した。ろ過により得られた固形分をビーカーに移し、蒸留水を1.0L添加して、攪拌下で洗浄を行った後、ろ過により固形分を回収した。この洗浄およびろ過の操作を洗浄水のpHに変化がなくなるまで繰り返し、最後に回収した重合体を真空乾燥して本発明の高分子電解質を成す星型重合体であるスルホン化TSTEYを得た。得られたスルホン化TSTEYのスチレン単位のベンゼン環のスルホン化率はH−NMR分析から100モル%、イオン交換容量は0.85meq/gであった。
【0081】
[参考例2:ポリスチレン、水添ポリイソプレンおよびポリ(4−tert−ブチルスチレン)からなるブロック共重合体の製造]
特許文献1と同様の方法で、1400mLオートクレーブに、脱水シクロヘキサン520mlおよびsec−ブチルリチウム(1.00M−シクロヘキサン溶液)2.00mlを仕込んだ後、4−tert−ブチルスチレン35ml、スチレン8.2ml、イソプレン106ml、スチレン8.2ml、および4−tert−ブチルスチレン35mlを逐次添加し、60℃で重合させ、ポリ(4−tert−ブチルスチレン)―b−ポリスチレン−b−ポリイソプレン−b−ポリスチレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)(以下、TSISTと略記する)を合成した。得られたTSISTの数平均分子量(GPC測定、ポリスチレン換算)は105,000であり、H−NMR測定から求めたポリイソプレン部位の1,4−結合量は94.0%、スチレン単位の含有量は10.5質量%、4−tert−ブチルスチレン単位の含有量は42.0質量%であった。
【0082】
合成したTSISTのシクロヘキサン溶液を調製し、十分に窒素置換を行った耐圧容器に仕込んだ後、Ni/Al系のZiegler系水素添加触媒を用いて、水素雰囲気下において70℃で18時間水素添加反応を行い、ポリ(4−tert−ブチルスチレン)―b−ポリスチレン−b−水添ポリイソプレン−b−ポリスチレン−b−ポリ(4−tert−ブチルスチレン)(以下、TSESTと略記する)を合成した。得られたTSESTの残存二重結合量をH−NMRスペクトル測定により算出したところ、検出限界以下であった。
【0083】
[製造例2:スルホン化TSESTの合成]
特許文献1と同様の方法で、塩化メチレン31.1ml中、0℃にて無水酢酸15.6mlと硫酸7.0mlとを反応させてスルホン化試薬を調製した。一方、参考例2で得られたブロック共重合体TSEST10gを、2L攪拌機付きのガラス製反応容器に入れ、真空-窒素導入を3回繰り返した後、窒素を導入した状態で、塩化メチレン450mlを加え、常温にて4時間攪拌して溶解させた。溶解後、スルホン化試薬18mlを、5分かけて徐々に滴下した。常温にて48時間攪拌後、停止剤の蒸留水22mlを加えて反応を停止した。その後、攪拌下、蒸留水500mlを徐々に滴下し、重合体を凝固析出させた。塩化メチレンを常圧留去にて除去した後、ろ過した。ろ過により得られた固形分をビーカーに移し、蒸留水を1.0L添加して、攪拌下で洗浄を行った後、ろ過により固形分を回収した。この洗浄およびろ過の操作を洗浄水のpHに変化がなくなるまで繰り返し、最後に回収した重合体を真空乾燥して比較例に用いる高分子電解質を成す直鎖状重合体であるスルホン化TSESTを得た。得られたスルホン化TSESTのスチレン単位のベンゼン環のスルホン化率はH−NMR分析から100モル%、イオン交換容量は0.90meq/gであった。
【0084】
<実施例1>
(1)高分子電解質膜の作製
製造例1で合成したスルホン化TSTEYを本発明の高分子電解質とする本発明の高分子電解質膜を作成した。該スルホン化TSTEYの19.0質量%のトルエン/イソブチルアルコール(質量比8/2)溶液を調製し、離形処理済みPETフィルム[三菱樹脂(株)製、MRV(商品名)]上に約250μmの厚みでコートし、100℃で4分乾燥後、PETフィルムから剥離することで、厚さ17μmの膜を得た。得られた膜を用い、広域動的粘弾性測定装置(レオロジ社製「DVE−V4FTレオスペクトラー」)を使用して、引張りモード(周波数 11Hz)で、−80℃から250℃まで、昇温速度を毎分3℃として、貯蔵弾性率E’、損失弾性率E’’及び損失正接tanδを測定し、損失正接のピーク温度Tα(℃)を軟化温度とした。この結果、水添ポリイソプレンブロックの軟化温度は−50℃、ポリ(4−tert−ブチルスチレンブロックの軟化温度は175℃であった。
【0085】
<比較例1>
(高分子電解質膜の作製)
製造例2で合成したスルホン化TSESTを高分子電解質とする高分子電解質膜を作成した。該スルホン化TSESTの19.0質量%のトルエン/イソブチルアルコール(質量比8/2)溶液を調製し、離形処理済みPETフィルム[三菱樹脂(株)製、MRV(商品名)]上に約250μmの厚みでコートし、100℃で4分乾燥後、PETフィルムから剥離することで、厚さ17μmの膜を得た。得られた膜を用い、広域動的粘弾性測定装置(レオロジ社製「DVE−V4FTレオスペクトラー」)を使用して、引張りモード(周波数 11Hz)で、−80℃から250℃まで、昇温速度を毎分3℃として、貯蔵弾性率E’、損失弾性率E’’及び損失正接tanδを測定し、損失正接のピーク温度Tα(℃)を軟化温度とした。この結果、水添ポリイソプレンブロックの軟化温度は−50℃、ポリ(4−tert−ブチルスチレンブロックの軟化温度は175℃であった。
【0086】
(実施例および比較例の高分子膜の性能試験およびその結果)
以下の1)〜3)の試験において、試料として、各実施例または比較例で得られた星型重合体、および直鎖状重合体から調製した膜を評価した。
【0087】
1)線膨張率
得られた電解質膜から横1cm×縦4cmの試験片を切り抜き、80℃の水中に4時間浸漬した後の縦方向の試験片の長さを計測し、以下の式から線膨張率を算出した。
線膨張率(%)=(試験後の試験片の長さ(cm)−4(cm))/4(cm)×100
【0088】
2)水素を用いた燃料電池用単セルの発電試験
得られた電解質膜を用いて作成した燃料電池用単セルについて、出力性能を評価した。
Pt−Ru合金触媒担持カーボンに、Nafionの10質量%水分散液を、カーボンとNafionとの質量比が1:1になるように添加混合し、ついでn−プロパノールを、水/n−プロパノールの質量比が1/1になるまで添加混合し、均一に分散されたペーストを調製した。このペーストを、スプレー法にてカーボンペーパーの片面に均一に塗布した後、130℃で30分乾燥させ、アノード用電極を作製した。
また、Pt触媒担持カーボンに、Nafionの10質量%溶液を、カーボンとNafionとの質量比が1:0.75になるように添加混合し、ついでn−プロパノールを、水/n−プロパノールの質量比が1/1になるまで添加混合して、均一に分散されたペーストを調製し、アノード用電極と同様の方法にてカソード用電極を作製した。
その後、実施例、比較例で作製した高分子電解質膜をそれぞれ用いて、上記2種類の電極でそれぞれ膜と触媒面とが向かい合うように挟み、その外側を2枚の耐熱性フィルムおよび2枚のステンレス板で順に挟み、ホットプレス(115℃、2.0MPa、8分)により膜−電極接合体を作製した。ついで作製した膜−電極接合体を、2枚のガス供給流路の役割を兼ねた導電性のセパレータで挟み、さらにその外側を2枚の集電板および2枚の締付板で挟み燃料電池用の評価セル(電極面積は25cm)を作製した。
発電は燃料として水素を用い、酸化剤として空気を用いて行った。まずセル温度を80℃に設定して、実施例、比較例で作成した評価セルをセットし、前処理を行った。100%R.H.に加湿した水素(ストイキ1.5で供給)、空気(ストイキ2.0で供給)を用いて発電を6回実施した後、一度、セル温度を室温まで冷却しながら、両極に乾燥窒素を1000ml/分で12時間供給して乾燥させた。次いで、水素(加湿40%R.H.)、空気(加湿70%R.H.)をそれぞれ150ml/分で供給してから、セル温度を80℃に設定し、温度が安定した後、水素(46ml/分、加湿40%R.Hで供給)、空気(170ml/分、加湿70%R.H.で供給)を1時間供給して安定させた。
以上の前処理の後、水素(ストイキ1.5、加湿40%R.H.で供給)、空気(ストイキ2.0、加湿70%R.H.で供給)を用いて、発電試験を実施し、0.5A/cm時のセル電圧およびセル抵抗値を測定した。
【0089】
3)膜強度(引裂強さ)の測定
2.5cm×7.5cmの長方形型試験片の一方の短辺の中心から長軸方向に沿って5cmの切込みを入れ、材料を25℃水中に12時間浸漬させた後の試験片を、インストロンジャパン社製5566型引張試験機にセットし、引張速度250mm/分の条件において応力を測定し、膜厚で除した値を膜強度とした。
実施例1と比較例1で作成した電解質膜に関する1)〜3)の性能試験結果を表1に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
表1からわかるように、実施例1の星型重合体を用いた電解質膜は、機械的強度、線膨張率の特性を低下させることなく、発電時のセル抵抗を低く保つことができ、その結果、電圧、ひいては出力を大幅に向上することができる。
【0092】
上記結果から、本発明の高分子電解質膜を用いた膜−電極接合体および燃料電池は、低湿度下での高い発電特性と湿潤時の耐久性を兼ね備えていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖状の腕構造を平均2.5個以上有する星型重合体からなる高分子電解質であって、
前記腕構造はイオン伝導性基を有する重合体ブロック(A)とイオン伝導性基を有さない重合体ブロック(C)を含み、
前記星型重合体の前記腕構造の末端が(C)−(A)−のブロック構造を有することを特徴とする高分子電解質。
【請求項2】
前記腕構造が、前記重合体ブロック(C)よりも20℃以上軟化温度が低い、イオン伝導性基を有さない重合体ブロック(B)をさらに含むことを特徴する請求項1に記載の高分子電解質。
【請求項3】
前記イオン伝導性基を有する重合体ブロック(A)が、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位からなり、かつ、前記イオン伝導性基を有さない重合体ブロック(C)が下記一般式(a)
【化1】

(式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素数3〜8のアルキル基を表し、但しR〜Rの少なくとも1つは炭素数3〜8のアルキル基を表す)
で表される繰り返し単位からなることを特徴とする請求項1または2に記載の高分子電解質。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の高分子電解質からなる高分子電解質膜。
【請求項5】
請求項4に記載の高分子電解質膜を備える膜−電極接合体。
【請求項6】
請求項5に記載の膜−電極接合体を備える燃料電池。

【公開番号】特開2011−216244(P2011−216244A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81463(P2010−81463)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】