説明

高分子電解質型燃料電池用単電池

【課題】低コストの固体高分子電解質型燃料電池用単電池を提供する。
【解決手段】膜電極接合体本体部の周囲に配置された枠体11を有する膜電極接合体10をアノードセパレータ40及びカソードセパレータ30ではさんで構成された単電池である。枠体11は、セパレータ30,40を隙間なく嵌入するくぼみ部と、酸化剤ガス及び燃料ガス用のマニフォルド孔13と、枠体内部に設けられ前記マニフォルド孔と流体流路33,34を連通するガス供給用連絡通路を備える。単電池は組立時において、枠体11同士が押圧されて前記マニフォルド孔13が外部と密閉されるとともに、前記隣接する単電池のアノードセパレータ40とカソードセパレータ30が面接触し、前記アノードセパレータとカソードセパレータと前記枠体とが押圧されて流体流路33,34が外部と密閉される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数が積層状態に配置されて構成されるセルスタックを備える固体高分子電解質型燃料電池に用いられる単電池に関し、さらには、電解質膜の周縁部に配設されているガスケットとセパレータとのシール構造の改良を施した高分子電解質型燃料電池用単電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子電解質型燃料電池の最も代表的なものは、高分子電解質膜、前記電解質膜の一方の面に接合されたアノード側電極層、前記電解質膜の他方の面に接合されたカソード側電極層からなる膜電極接合体本体部と膜電極接合体本体部の周縁を支持し周縁部にシール構造を有する枠体とを有する膜電極接合体と、前記膜電極接合体を挟むアノード側導電性セパレータおよびカソード側導電性セパレータから構成される。セパレータの内の前記膜電極接合体と当接する中央部の周縁には、アノードおよびカソードにそれぞれ燃料ガスおよび酸化剤ガスを供給するための手段が形成されている。セパレータに用いられる素材としては、高い導電性、燃料ガスに対する高いガス気密性、および水素や酸素の酸化還元する際の反応に対する高い耐食性を持つ必要から、グラッシーカーボンや膨張黒鉛などのカーボン材で構成されるのが一般的である(特許文献1)。
【特許文献1】特開2003−77495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、セパレータは周縁側に位置するガス供給手段部分と、中央側に位置する流路形成部から構成されている。周縁部のガス供給手段部分は、本来導電性である必要がないにも拘らず、気密性を確保するため、中央側に位置する流路形成部分と一体に構成されることが多い。当該流路形成部分は導電性及び耐性の確保のため、高価で加工性の悪いカーボン材で形成されており、固体高分子電解質型燃料電池のコスト低減の障害となっていた。セパレータメーカは安価で加工性の良い金属製セパレータ等の開発を行っているが、高分子膜近傍は強酸性雰囲気となるため、腐食という問題がいまだ解決できていない。
【0004】
したがって、本発明が解決しようとする技術的課題は、高価なカーボン素材を必要とする部分を必要最低限の部分に限定することにより、低コストの固体高分子電解質型燃料電池用単電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記技術的課題を解決するために、以下の構成の高分子電解質型燃料電池用単電池を提供する。
【0006】
本発明によれば、高分子電解質膜と前記電解質膜の両表面にそれぞれ設けられた電極層とを備える膜電極接合体本体部と、前記膜電極接合体本体部の周縁部を挟みかつ該高分子電解質膜の外縁を囲むように形成された板状の枠体とを備える膜電極接合体と、
前記膜電極接合体本体部の電極層を被覆すると共に前記膜電極接合体本体部の両面を挟み、前記電極層と接触して流体流路を画定する流路形成溝を備えるアノードセパレータ及びカソードセパレータと、枠体内部をその面方向に延在し、マニフォルド孔と流体流路とを連通するガス供給用連絡通路を備え、
前記枠体は、内周縁にくぼみ部が設けられ、前記くぼみ部の周囲に酸化剤ガス及び燃料ガスそれぞれについて各一対のマニフォルド孔を備え、前記枠体同士が押圧状態で面接触して前記マニフォルド孔が外部と気密に隔離されるとともに、アノードセパレータとカソードセパレータが面接触し、前記アノードセパレータとカソードセパレータと前記枠体とが押圧状態となって流体流路を外部と気密に隔離するように構成されることを特徴とする高分子電解質型燃料電池用単電池を提供する。
【0007】
上記構成において、前記枠体は、さらに前記くぼみ部内に設けられたセパレータ用ガスケットと、前記マニフォルダ孔の周囲に設けられたマニフォルダ孔用のガス用ガスケットとを有し、
前記複数の単電池の圧縮下において、前記枠体に設けられたガス用ガスケット及びセパレータ用ガスケットが積層方向に変形して、前記マニフォルド孔及び流体流路を外部と気密に隔離することが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、くぼみ部にセパレータが嵌め込まれてガス流路が形成されるので、セパレータを小さく構成することができる。また、マニフォルドと電極部分を連通するガス供給用連絡通路は、枠体内に設けられているため、当該通路を密閉する必要がなく、容易に、電極層とセパレータの間にガスを供給することができる。したがって、電極を包含する部分にのみセパレータを配置すればよいので、低コストの燃料電池用単電池を簡単な構成で製作することができる。
【0009】
また、くぼみ部にガスケットを設けることにより、枠体とセパレータとの間の密閉をより確実にすることができるとともに、電極部分からのガスの流出を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1Aは本発明の高分子電解質型燃料電用単電池に用いられる膜電極接合体のカソード側の正面図、図1Bは図1Aの膜電極接合体のアノード側の正面図を示す。図2は、図1AのII-II線断面における膜電極接合体の部分拡大断面図である。
【0012】
高分子電解質型燃料電(PEFC)は、複数の単電池を積層させて構成されたセルスタックを有する。なお、単電池は両端から、ボルト孔15を挿通される締結ボルトとナット(ともに図示なし)とで締結されて構成されている。本実施形態のPEFCでは、単電池10は50個積層されて、ボルト孔15に挿通されるボルトとナットとが締結力10kNで締結されている。
【0013】
単電池100は、膜電極接合体10の両面周縁部の枠体11、より正確には、ガスケットを一対の導電性のセパレータ、具体的にはカソードセパレータ30及びアノードセパレータ40で挟んで構成されている。
【0014】
膜電極接合体10は、高分子電解質膜1と高分子電解質膜1の一方の面に接合されたカソード側電極層3と高分子電解質膜1の他方の面に接合されたアノード側電極層4とで構成された膜電極接合体本体部2と、膜電極接合体本体部2の周縁部分を挟み、膜電極接合体本体部2の周囲に配置された枠体11とを備える。
【0015】
膜電極接合体本体部2の電極層3,4がセパレータ30,40の表面と当接する。カソードセパレータ30の酸化剤ガス流路溝33とカソード側電極層3で、燃料ガス流路が画定される。一方、アノードセパレータ40の燃料ガス流路溝43とアノード側電極層4で燃料ガス流路が画定される。これにより、燃料ガス流路を流通する燃料ガスはアノードセパレータ40側の電極層4に接触してPEFCの電気化学反応を生じさせる。また、積層された単電池においては、隣接した膜電極接合体本体部2が互いに電気的に直列、または並列に接続される。
【0016】
枠体11は例えば、WO 02/061869などに示されているように、高分子電解質膜1の周縁部に熱可塑性樹脂を射出成形することによって、膜電極接合体本体部2と一体的に結合されている。
【0017】
枠体11を構成する熱可塑性樹脂は、PEFCの運転温度以下において、化学的に清浄かつ安定であって、適度の弾性率と比較的高い加重たわみ温度を有する。具体的には枠体11は化学的安定性の観点から、非晶性樹脂ではなく結晶性樹脂で構成されることが好ましく、その中でも機械的強度が大きくかつ耐熱性の高い材料が好ましい。例えば、いわゆるスーパーエンジニアリングプラスチックグレードのものが好適であり、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、結晶ポリマー(LCP)ポリエーテルニトリル(PEN)などが例示できる。これらは、数千から数万MPaの圧縮弾性率と、150℃以上の撓み荷重温度を有しており好適な材料である。また、汎用されている樹脂材料であっても、例えば、ガラスフィラーが充填されたポリプロピレン(GFPP)などは、非充填のポリプロピレン(圧縮弾性率1000〜1500MPa)の数倍の弾性率を有し、かつ150℃近い撓み荷重温度を有しており、好適に使用できる。本実施の形態においては、熱可塑性樹脂であるガラスフィラー添加ポリプロピレン(出光石油化学株式会社R250G)が用いられている。
【0018】
枠体11のカソード側の表面には、燃料ガス及び酸化剤ガス及び冷却水が流通するそれぞれ一対の貫通孔、すなわち、各一対の酸化剤ガスマニフォルド孔12,燃料ガスマニフォルド孔13及び冷却水マニフォルド孔14が設けられている。単電池が積層された状態では、これらの貫通孔が積層して、燃料ガスマニフォルド及び酸化剤マニフォルド及び水マニフォルドを形成する。さらに枠体11には締結用ボルトを通す4個のボルト孔15が設けられている。
【0019】
枠体11には、カソードが位置する側の表面に酸化剤ガスマニフォルド孔12及び燃料ガスマニフォルド孔13を囲むガスケット22,23が設けられている。また、水マニフォルド孔14を部分的に囲むガスケット24が設けられている。ガスケット24は、単電池10の組立状態において、カソードセパレータ30の背面側に位置する冷却水流路溝34(図3C参照)の連絡部34Aが当接する位置には配設されないようになっている。ガスケット22,23,24は、ガスケット27によって相互に連結されており、電極層3側との密閉がされるようになっている。
【0020】
枠体11のカソード側表面には、その内縁部に一段低いくぼみ部28を有し、当該段部にガスケット25が設けられている。ガスケット24は、くぼみ部28上に突出する傾斜部16上においてつながっている。当該くぼみ部28には、カソードセパレータ30が嵌入する。
【0021】
酸化剤ガスマニフォルド孔12とくぼみ部28との間は、枠体11内部をその面方向に延在する酸化剤ガス供給用連絡通路18によって連通されている。本実施形態において、酸化剤ガス供給用連絡通路18は複数本設けられている。酸化剤ガス供給用連絡通路18は、酸化剤ガスマニフォルド12とくぼみ部28とを連通するものであり、カソードセパレータ30と電極層3とによって画定された酸化剤ガス流路に酸化剤ガスを供給する。すなわち、酸化剤ガスマニフォルド孔12を流動する酸化剤ガスは、その一部が酸化剤ガス供給用連絡通路18を通って酸化剤ガス流路に流れ込む。また、酸化剤ガス流路を通った酸化剤ガスは、他方の酸化剤マニフォルド孔12側の酸化剤ガス供給用連絡通路18を通って、他方の酸化剤マニフォルド孔12に流入する。この構成については、詳細は後述する。
【0022】
枠体11のアノード側表面には、内周部に一段高い突部17を有し、その内側の内縁部に一段低い段差29が設けられている。段差29上には、ガスケット26が設けられている。当該段差29には、アノードセパレータ40が嵌入する。
【0023】
また、燃料ガスマニフォルド孔13とくぼみ部29との間は、枠体11内部をその面方向に延在する燃料ガス供給用連絡通路19によって連通されている。本実施形態において、燃料ガス供給用連絡通路19は複数本設けられている。燃料ガス供給用連絡通路19は、燃料ガスマニフォルド13とくぼみ部29とを連通するものであり、アノードセパレータ40と電極層4とによって画定された燃料ガス流路に燃料ガスを供給する。すなわち、燃料ガスマニフォルド孔13を流動する燃料ガスは、その一部が燃料ガス供給用連絡通路19を通って燃料ガス流路に流れ込む。また、燃料ガス流路を通った燃料ガスは、他方の燃料マニフォルド孔13側の燃料ガス供給用連絡通路19を通って、他方の燃料ガスマニフォルド孔13に流入する。この構成については、詳細は後述する。
【0024】
なお、上記各ガスケット22,23,24,25,26,27は、熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーから構成される。この熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーは、PEFCの運転条件下において化学的に安定で、特に加水分解をおこさないなど耐熱水性を有する。例えば、ガスケットの圧縮弾性率は200MPa以下であることが好ましい。好適な材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリウレタン、シリコーン、フッ素樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチック・ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、及び熱可塑性ポリイミドなどからなる群より選ばれる。これによって、PEFCの締結荷重において良好なシール性を確保することができる。本実施形態においては、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーであるサントプレン8101−55(Advanced Elasotomer System社製)を用いている。
【0025】
図3Aにカソードセパレータの正面図を示す。図3Bにカソードセパレータの背面図を示す。図3Cに図3Aの3C−3C線断面におけるカソードセパレータの部分拡大断面図を示す。
【0026】
カソードセパレータ30は、導電体材料で構成されており、枠体11のくぼみ部28によって形成される段差内に隙間なく嵌入する大きさを有する。本実施形態においては、カソードセパレータは、東海カーボン株式会社製グラッシーカーボン(厚さ3mm)を用いており、124mm角の大きさである。カソードセパレータ30の内側の主面には、くぼみ部28に当接する縁部31が設けられており、当該縁部31の内側に一段高く構成された電極層当接部32が設けられている。電極層当接部32には、酸化剤ガス流路溝33が5本並行して設けられている。酸化剤ガス流路溝33は、一対の酸化剤ガスマニフォルド孔12間を結ぶようにして形成されており当該酸化剤ガス流路溝33の端部33Aは、酸化剤ガス供給用連絡通路18のごく近傍部分に位置し、電極層当接部32の縁まで延在している。
【0027】
カソードセパレータ30の背面側には、並行する5本の溝で構成された冷却水流路溝34が設けられている。冷却水流路溝34の端部34Aは、水マニフォルド孔14の冷却水連通溝20に対応するように設けられており、当該冷却水連通溝20を通ってカソードセパレータ30の背面側に流動した冷却水を当該冷却水流路溝34に送り込むことができるようになっている。なお、後述するように、カソードセパレータ30は、隣接する単電池のアノードセパレータ40の背面と面接触するため、冷却水流路溝34と隣接する単電池のアノードセパレータ40の背面によって画定される流路が冷却水流路として形成される。また、当該冷却水はくぼみ部28に設けられたガスケット25、26によって、電極層3,4側への浸水が防止される。
【0028】
図4Aにアノードセパレータの正面図を示す。図4Bに図4Aの4B−4B線断面におけるアノードセパレータの部分拡大断面図を示す。
【0029】
アノードセパレータ40は、導電体材料で構成されており、枠体11のくぼみ部29によって形成される段差内に隙間なく嵌入する大きさを有する。本実施形態においては、アノードセパレータは、東海カーボン株式会社製グラッシーカーボン(厚さ3mm)を用いており、124mm角の大きさである。アノードセパレータ40の内側の主面には、くぼみ部29に当接する縁部41が設けられており、当該縁部41の内側に一段高く構成された電極層当接部42が設けられている。電極層当接部42には、燃料ガス流路溝43が3本並行して設けられている。燃料ガス流路溝43は、一対の燃料ガスマニフォルド孔13間を結ぶようにして形成されており、当該燃料ガス流路溝43の端部43Aは、燃料ガス供給用連絡通路19のごく近傍部分に位置し、電極層当接部42の縁まで延在している。
【0030】
アノードセパレータ40及びカソードセパレータ30の背面には、耐熱性の材料からなるスクイーズドパッキンなどの一般的なシール部材を配設してもよい。これによって、隣接する単電池の間において、水マニフォルド孔14の単電池10間の連接部からの燃料ガス、酸化剤ガス及び水の流出が防止される。
【0031】
上記構成の膜電極接合体10、カソードセパレータ30及びアノードセパレータ40を組み合わせて構成される単電池の構成を図5及び図6に示す。図5は、アノードセパレータとカソードセパレータを配設した状態にある図1の膜電極接合体のV-V線断面における部分拡大断面図であり、アノードセパレータとカソードセパレータを配設した状態にある図1の膜電極接合体のVI-VI線断面における部分拡大断面図である。
【0032】
膜電極接合体10、アノード側及びカソード側の中央部に組み合わせたカソードセパレータ30及びアノードセパレータ40により、単電池が構成される。そして、単電池を複数枚積層したセルスタックを締結する締結圧により、各ガスケット22,23,24,27は、隣合う単電池の枠体同士が面接触して積層方向に圧縮され、それぞれのマニフォルドと外部とを気密に遮蔽する。また、単電池の組立時において、セパレータは隣り合う単電池のセパレータと面接触するため、ガスケット25,26は、枠体11とセパレータの縁部31,41によって積層方向に圧縮されて電極部分を密閉し、燃料ガス及び酸化剤ガスが外部に漏れ出すのを防止する。
【0033】
組立時においては、一方のマニフォルド、すなわち供給側のマニフォルド12,13から、酸化剤ガス供給用連絡通路18及び燃料ガス供給用連絡通路19に分岐して、流路溝33,43に流入する。そして、セパレータと電極層で画定された燃料ガス及び酸化剤ガスのそれぞれの流路を通って、他方の酸化剤ガス供給用連絡通路18及び燃料ガス供給用連絡通路19を通って、他方のマニフォルド、すなわち、排出側のマニフォルドに排出される。
【0034】
また、隣接する単電池のカソードセパレータ30とアノードセパレータ40との間には、冷却水の流路が形成される。膜電極接合体10の入り口側マニフォルド14から供給される冷却水は冷却水の一方の冷却水連通溝20を通ってカソードセパレータ30の冷却水流路用溝34に入り、他方の冷却水連通溝20を通って出口側のマニフォルド孔14に排出される。冷却水連通溝20は5本の溝で構成されている。このように流れる冷却水はマニフォルド孔14から冷却水連通溝20にわたる部分では、膜電極接合体のガスケット24が隣接する膜電極接合体との間で圧縮されて外部への漏出が防止される。膜電極接合体10のくぼみ部28の上側ではガスケット22,23,24,27が隣り合う膜電極接合体の枠体との間で圧縮され外部への流出が防止され、くぼみ部ではガスケット25,26によって電極層への浸入が防止されるため、電極層に冷却水が接触することはない。
【0035】
本実施形態においては、セパレータ30,40は、電極部全面を被覆するような大きさで、膜電極接合体10の枠体11の中央に組み合わされる。また、電極層への燃料ガス及び酸化剤ガスは、枠体の内部を通過するため、セパレータは電極層を被覆できる大きさであれば十分である。したがって、カーボン材の使用量を大幅に削減することができる。
【0036】
上記構成の枠体11は、例えば、射出成形などの手段により製造することができる。そして、枠体11内部をその面方向に延在する酸化剤ガス供給用連絡通路18及び燃料ガス供給用連絡通路19は、射出成形用の金型内に配置されるコアなどを用いることによって、成形される。
【0037】
図7A〜図7Dは、枠体を製造するための射出成形用金型及びその製造工程を説明するための図である。
【0038】
まず、図7Aに示す第1工程において、枠体11の所定位置に酸化剤ガス供給用連絡通路18及び燃料ガス供給用連絡通路19を形成するためのコアT5が移動する。コアT5は、エジェクタープレートT3に図示左右方向に移動可能に支持されている。コアT5は、外側の面T5Aが傾斜するように構成されており、矢印90に示すようにエジェクタープレートT3の下方向への移動に伴い矢印91に示すように斜めに移動する。
【0039】
ここで、第1金型T1は、枠体部T1Aが枠体11のマニフォルド孔を形成するような形状に対応する形状を有するように構成されている。コアT5は、内側面に通路形成用ピンT5Bが設けられており、第1金型T1のコア収納部T1Bに収納されたとき、枠体部T1Aに酸化剤ガス供給用連絡通路18及び燃料ガス供給用連絡通路19を形成させる位置に配置されるように構成されている。
【0040】
また、第1金型T1の枠内部分には、膜電極接合体本体部2を配置できるような平坦部T1Cが構成されている。図7Bは平坦部T1Cに膜電極接合体本体部2を配置した状態を示している。平坦部T1Cは、枠体部T1Aの枠内縁側から、枠体11の枠面と略平行に伸びる頂面を有する。さらに、膜電極接合体本体部2を平面上に収容して配置したとき、膜電極接合体本体部2の周縁が第1金型T1の枠内部T1Aの部分に位置するように構成されている。つまり、平坦部T1Cは、その頂面が延伸して構成される第1金型T1の枠内部分において、膜電極接合体本体部2の外縁よりも数ミリ程度小さく構成されている。
【0041】
次に、図7Bの矢印92に示すように、第2金型T2と第4金型T4とが図示した方向に移動して第1金型T1に当接され、成形用キャビティが形成される。第2金型T2は、上面にランナーがT2A、第2スプルーT2Bが設けられており、第4金型の射出口T4Aから射出された溶融樹脂を、第1スプルーT4Bを通して成形用キャビティに射出する。
【0042】
第2金型T2は、突出部T2Cが第1金型T1の平坦部T1Cに載置された膜電極接合体本体部2を挟むように構成されており、樹脂射出時において膜電極接合体本体部2の表面に樹脂が射出されないように構成されている。また、枠体部T1Aに配置されたコアT5の通路形成用ピンT5Bによって、枠体部T1Aに酸化剤ガス供給用連絡通路18及び燃料ガス供給用連絡通路19が形成される。
【0043】
図7Cに示すように枠体11の射出成形が終了すると、矢印93に示すように第2金型T2及び第4金型T4を上昇させ、第1金型から取り除く。このとき第1金型T1の枠体部T1Aには、射出成型物としての枠体11が作製されている。
【0044】
次に図7Dの矢印94に示すようにエジェクタープレートT3を上昇させる。エジェクタープレートT3に支持されているコアT5は、上昇して枠体11を第1金型T1から押し出すと共に、その傾斜面T5Aに沿って矢印95に示すように図示左右方向に広がって、枠体に挿入された状態となっている通路形成用ピンT5Bが抜ける。通路形成用ピンT5Bが抜けた後には、酸化剤ガス供給用連絡通路18及び燃料ガス供給用連絡通路19が形成される。
【0045】
この後、膜電極接合体本体部3が接合された枠体11に好適な方法によりガスケット7が形成されて膜電極接合体10が製作される。
【0046】
(実施例)
図1Aに示す構造を有する膜電極接合体を作成した。高分子電解質膜1は、Dupont社のNaphion117、50μm厚)をトムソン型により140mm角の形状に打ち抜いた。次に、比表面積800m2/g、DBP吸油量360ml/100gのケッチェンブラックEC(ケッチェンブラック・インターナショナル社製ファーネスブラック)に、白金を重量比1:1の割合で担持させた。この触媒粉末10gに、水35gおよび水素イオン伝導性高分子電解質のアルコール分散液(旭硝子(株)製、9%FSS)59gを混合し、超音波攪拌機を用いて分散させて、触媒層インクを作製した。この触媒インクを、ポリプロピレンフィルム(東レ(株)製トレファン50−2500)に塗工し、乾燥して触媒層を形成した。得られた触媒層を120mm×120mmに切断し、高分子電解質膜のアノード側およびカソード側両面に、温度135℃、圧力32kgf/cm2の条件で転写し、触媒層電極を形成した。触媒層電極形成後触媒層の表面に、123mm角のガス拡散電極を(ジャパンゴアテックス製 カーベルCF400 厚み400ミクロン)嵌めこんだ後、圧力20kgf/cm2の条件で圧接して電極層を作成し、膜電極接合体本体部4を製作した。
【0047】
この膜電極接合体本体部2をインサート部品として、グラスファイバー添加ポリプロピレン(出光石油化学株式会社 R250G)を用いての枠体11を形成し、膜電極接合体を得た。
【0048】
枠体11は、各一対の酸化剤ガスマニフォルド孔12、燃料ガスマニフォルド孔13、水マニフォルド孔14が設けられ、また単電池を締結するボルトを貫通させるための複数個のボルト孔15を設けた。さらに、カソードが位置する側の表面に、酸化剤ガスマニフォルド孔12、燃料ガスマニフォルド孔13、水マニフォルド孔14を囲むガスケット22,23,24を設けた。
【0049】
また、アノード側およびカソード側の両面において、電極部分の外周と枠体部分の内周にくぼみ部をつけ、低いほうの段差部にセパレータの周縁部31,41と当接する方向にガスケット26,26を設けた。また、マニフォルド孔12,13から電極部分に燃料ガス及び酸化剤ガスを供給するための流路として酸化剤ガス供給用連絡通路18及び燃料ガス供給用連絡通路19を枠体11に沿って延在して配置した。
【0050】
セパレータは東海カーボン株式会社製グラッシーカーボン(t=3mm)を材料として用いた。セパレータはアノード用とカソード用の2種を製作し、各々の表面に上記の各種溝を切削機械加工で製作した。
【0051】
以上のように製作した膜電極接合体10とアノードセパレータ40とカソードセパレータ30を用いて、膜電極接合体10をアノードセパレータ40とカソードセパレータ30で両側から挟み込むことにより、単位電池を製作した。
【0052】
このような単位電池を50個積層し、両端部には金属製の集電板と電気絶縁材料の絶縁板、さらに端板と締結ロッドで固定し、水素と空気を通じ、冷却水を循環して電池試験を行った。水素利用率70%、酸素利用率20%、水素加湿バブラー温度85℃、酸素加湿バブラー温度75℃、電池温度75℃の条件での電池出力は、1050W(30A−35V)であった。
【0053】
以上説明したように、低いコストで、高いガスシール性をもつ高分子電解質型燃料電池用単電池を製作することが可能であり、もって燃料電池の信頼性向上に寄与することができる。
【0054】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、低いコストで、高いガスシール性をもつ燃料電池を製作することが可能である。この燃料電池はコージェネレーションシステムや電気自動車などに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1A】本発明の高分子電解質型燃料電用単電池に用いられる膜電極接合体のカソード側の正面図。
【図1B】図1の膜電極接合体のアノード側の正面図。
【図2】図1のII-II線断面における膜電極接合体の部分拡大断面図。
【図3A】カソードセパレータの正面図。
【図3B】カソードセパレータの背面図。
【図3C】図3Aの3C−3C線断面におけるカソードセパレータの部分拡大断面図。
【図4A】アノードセパレータの正面図。
【図4B】図4Aの4B−4B線断面におけるアノードセパレータの部分拡大断面図。
【図5】アノードセパレータとカソードセパレータを配設した状態にある図1の膜電極接合体のV-V線断面における部分拡大断面図。
【図6】アノードセパレータとカソードセパレータを配設した状態にある図1の膜電極接合体のVI-VI線断面における部分拡大断面図。
【図7A】枠体を製造するための射出成形用金型及びその製造工程の説明図。
【図7B】枠体を製造するための射出成形用金型及びその製造工程の説明図。
【図7C】枠体を製造するための射出成形用金型及びその製造工程の説明図。
【図7D】枠体を製造するための射出成形用金型及びその製造工程の説明図。
【符号の説明】
【0057】
1 高分子電解質膜
2 膜電極接合体本体部
3 アノード側電極層
4 カソード側電極層
10 膜電極接合体
11 枠体
12 酸化剤マニフォルド孔
13 燃料ガスマニフォルド孔
14 水マニフォルド孔
15 ボルト孔
16 傾斜部
17 突部
18 酸化剤ガス供給用連絡通路
19 燃料ガス供給用連絡通路
22,23,24,25,26,27 ガスケット
28,29 くぼみ部
30 カソードセパレータ
31 縁部
32 電極層当接部
33 酸化剤ガス流路溝
34 冷却水流路溝
40 アノードセパレータ
41 縁部
42 電極層当接部
43 燃料ガス流路溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜と前記電解質膜の両表面にそれぞれ設けられた電極層とを備える膜電極接合体本体部と、前記膜電極接合体本体部の周縁部を挟みかつ該高分子電解質膜の外縁を囲むように形成された板状の枠体とを備える膜電極接合体と、
前記膜電極接合体本体部の電極層を被覆すると共に前記膜電極接合体本体部の両面を挟み、前記電極層と接触して流体流路を画定する流路形成溝を備えるアノードセパレータ及びカソードセパレータと、枠体内部をその面方向に延在し、マニフォルド孔と流体流路とを連通するガス供給用連絡通路を備え、
前記枠体は、内周縁にくぼみ部が設けられ、前記くぼみ部の周囲に酸化剤ガス及び燃料ガスそれぞれについて各一対のマニフォルド孔を備え、前記枠体同士が押圧状態で面接触して前記マニフォルド孔が外部と気密に隔離されるとともに、アノードセパレータとカソードセパレータが面接触し、前記アノードセパレータとカソードセパレータと前記枠体とが押圧状態となって流体流路を外部と気密に隔離するように構成されることを特徴とする高分子電解質型燃料電池用単電池。
【請求項2】
前記枠体は、さらに前記くぼみ部内に設けられたセパレータ用ガスケットと、前記マニフォルダ孔の周囲に設けられたマニフォルダ孔用のガス用ガスケットとを有し、
前記複数の単電池の圧縮下において、前記枠体に設けられたガス用ガスケット及びセパレータ用ガスケットが積層方向に変形して、前記マニフォルド孔及び流体流路を外部と気密に隔離することを特徴とする、請求項1に記載の高分子電解質型燃料電池用単電池。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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