説明

高分子電解質多層薄膜触媒およびその製造方法

【課題】製造が容易であるうえ、過酸化水素の製造工程に用いる場合、酸促進剤を含んでいない反応溶媒の下で高収率の過酸化水素を得ることができる触媒の提供。
【解決手段】担体上に金属粒子の挿入された高分子電解質多層薄膜を含む触媒、その製造方法、および該触媒を用いて酸素および水素から過酸化水素を直接製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、担体上に金属粒子の挿入された高分子電解質多層薄膜を含む触媒、その製造方法、および該触媒を用いて酸素および水素から過酸化水素を直接製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、過酸化水素は全体供給量の95%以上がアントラキノン工程(Anthraquinone Process)によって生産されているが、この工程は過酸化水素の生成のために必要な反応段階の数が多く、各段階を経ながら副反応による副生成物の形成によりアントラキノン溶液の再生過程とアントラキノン溶液からの過酸化水素の分離および精製過程が要求される(非特許文献1)。よって、アントラキノン工程による過酸化水素の生産は、多くのエネルギーと処理費用を必要として過酸化水素の価格競争力を低下させる要因となる。
このようなアントラキノン工程の問題点を解決するための方法の一環として、水以外に副生成物が発生しない酸素と水素から過酸化水素を直接製造する反応に関する研究が長らく行われてきたが、技術的な難易度により、まだ商用化工程が確立されていない実情である。
【0003】
アントラキノン工程の問題点の一つとしては酸素と水素との混合問題が挙げられる。酸素と水素の混合物は混合比による爆発可能範囲が非常に広くて爆発の危険性が相当大きい。1気圧で空気中の水素濃度が4〜75mol%であれば、点火源により爆発可能であり、空気の代わりに酸素を用いる場合には、爆発可能な水素濃度が4〜94mol%とさらに広くなる。このような範囲は圧力が高くなるほど広くなり、これによって爆発可能性も増加する(非特許文献2)。よって、水素と酸素を反応物として用いる過酸化水素の直接製造反応では、水素と酸素の混合比を安全な範囲内で調節し、窒素や二酸化炭素などの不活性気体を用いて水素と酸素の濃度を希釈するなどの方法が用いられている。
このような安全に関する問題と共に、もう一つの問題点としては、過酸化水素が相当不安定な化合物なので、生成されても水と酸素によく分解されることと、過酸化水素の生成に有用な触媒が水合成にも有用なので、高い過酸化水素選択度を得ることが容易でないことである。よって、酸素と水素から過酸化水素を製造する研究では、かかる問題点を解決するために、高活性触媒に関する研究と共に、強酸およびハライド添加剤に関する研究が行われてきた。
【0004】
過酸化水素の直接製造反応は主に、金、白金、パラジウムなどの貴金属触媒を用いて行われてきた(非特許文献3〜10)。その中でも、パラジウム触媒が比較的優れた活性を示すものと報告されており、これは通常アルミナ、シリカ、炭素などの多様な担体に担持されて使用されてきた(非特許文献11)。
【0005】
また、触媒と共に、過酸化水素の選択度を向上させる目的で、一般に、過酸化水素分解反応の抑制のために溶媒に酸を添加して反応を行わせるとともに、酸素と水素から水が形成される反応を抑制するためにハロゲンイオンを溶媒または触媒に添加する(非特許文献12〜18)。このような酸およびハロゲンイオンの添加剤は、過酸化水素の選択度を向上させる役割をするが、腐食の問題を誘発するとともに、担体に担持されたパラジウムなどの金属を溶出させて触媒の活性を低下させ、過酸化水素の製造後に分離および精製過程を必要とする問題点を生じさせる。一方、P.F.Escrig等は、硫を含むイオン交換樹脂と錯体を形成したパラジウム触媒を用いる場合、酸添加なしで極小量のハロゲンイオンのみを添加した条件でも高い活性を示すものと報告した(特許文献1および2)。
【0006】
最近では、酸素と水素からの過酸化水素の直接製造に効率的な高活性触媒を開発するために、ナノ技術が適用された多様な方法が試しに行われている。例えば、Q.Liu等は活性炭上にパラジウムナノ粒子を担持した触媒を開発し(非特許文献19)、B.Zhou等は100面に相調節(phase control)したナノ粒子が優れた活性を示すものと主張し(特許文献3および4)、J.K.Edwards等は硝酸で処理した活性炭にパラジウム−金二元金属を担持した触媒が優れた水素選択度を示すものと報告した(非特許文献20)。ところが、高分子ナノ粒子を触媒として用いるためには大量製造、金属溶出防止、反応中の焼結現象および金属触媒粒子の相転移による触媒活性変化などの様々な技術的難点が存在している。
【0007】
前述したように、酸素と水素から過酸化水素を直接製造する方法は、その技術の重要性により長らく研究が行われてきたのは事実であるが、まだ学問的な研究段階に止まっており、小規模の触媒製造および反応に関する研究に局限されている。よって、実際商業化のためには、製造が容易であるうえ、酸およびハロゲンイオンの添加剤使用量を最小化することが可能な反応条件で画期的な性能を持つ触媒の開発が切実に求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国登録特許第6,822,103号
【特許文献2】米国登録特許第7,179,440号
【特許文献3】米国登録特許第6,168,775号
【特許文献4】米国登録特許第6,746,597号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.M. Campos-Martin, G. Blanco-Brieva, J.L.G. Fierro, Angew. Chem. Int. Ed., Vol.4, p6962 (2006)
【非特許文献2】C. Samanta, V.R. Choudhary, Catal. Commun., Vol.8, p73 (2007)
【非特許文献3】P. Landon, P.J. Collier, A.J. Papworth, C.J. Kiely, G.J. Hutchings, Chem. Commun., p2058 (2002)
【非特許文献4】G. Li, J. Edwards, A.F. Carley, G.J. Hutchings, Catal. Commun., Vol.8, p247 (2007)
【非特許文献5】D.P. Dissanayake, J.H. Lunsford, J. Catal., Vol.206, p173 (2002)
【非特許文献6】D.P. Dissanayake, J.H. Lunsford, J. Catal., Vol.214, p113 (2003)
【非特許文献7】P. Landon, P.J. Collier, A.F. Carley, D. Chadwick, A.J. Papworth, A. Burrows, C.J. Kiely, G.J. Hutchings, Phys. Chem. Chem. Phys., Vol.5, p1917 (2003)
【非特許文献8】J.K. Edwards, B.E. Solsona, P. Landon, A.F. Carley, A. Herzing, C.J. Kiely, G.J. Hutchings, J. Catal., Vol.236, p69 (2005)
【非特許文献9】J.K. Edwards, A. Thomas, B.E. Solsona, P. Landon, A.F. Carley, G.J. Hutchings, Catal. Today, Vol.122, p397 (2007)
【非特許文献10】Q. Liu, J.C. Bauer, R.E. Schaak, J.H. Lunsford, Appl. Catal. A, Vol.339, p130 (2008)
【非特許文献11】V.R. Choudhary, C. Samanta, T.V. Choudhary, Appl. Catal. A, Vol.308, p128 (2006)
【非特許文献12】Y.-F. Han, J.H. Lunsford, Catal. Lett., Vol.99, p13 (2005)
【非特許文献13】Y.-F. Han, J.H. Lunsford, J. Catal., Vol.230, p313 (2005)
【非特許文献14】V.R. Choudhary, C. Samanta, J. Catal., Vol.238, p28 (2006)
【非特許文献15】V.R. Choudhary, P. Jana, J. Catal., Vol.246, p434 (2007)
【非特許文献16】C. Samanta, V.R. Choudhary, Catal. Commun., Vol.8, p73 (2007)
【非特許文献17】C. Samanta, V.R. Choudhary, Appl. Catal. A, Vol.326, p28 (2007)
【非特許文献18】V.R. Choudhary, C. Samanta, T.V. Choudhary, Catal. Commun., Vol.8, p1310 (2007)
【非特許文献19】Q. Liu, J. C. Bauer, R. E. Schaak, J. H. Lunsford, Angew. Chem. Int. Ed., Vol.47, p6221 (2008)
【非特許文献20】J. K. Edwards, B. Solsona, D. Ntainjua, A. F. Carley, A. A. Herzing, C. J. Kiely, G. J. Hutchings, Science, Vol.323, p1037 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明者は、製造が容易であるうえ、過酸化水素の製造上で高い活性を示す触媒を開発しようと努力した結果、金属粒子の挿入された高分子電解質多層薄膜を担体上に形成させた触媒は、従来の触媒に比べて高い収率の過酸化水素を得ることができ、酸添加なしで極小量のハロゲンイオンのみを添加した条件でも高い活性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
よって、本発明の主な目的は、多様な反応で高い活性を持つ触媒を提供することにある。
本発明の他の目的は、担体上に金属粒子の挿入された高分子電解質多層薄膜を形成させる方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、前記触媒を用いて水素と酸素から過酸化水素を直接製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、担体と、前記担体の表面に形成された高分子電解質多層薄膜と、前記多層薄膜に挿入された金属粒子とを含んでなる触媒を提供する。
また、本発明は、担体上に高分子電解質多層薄膜を形成する段階と、前記高分子電解質に金属前駆体を挿入する段階と、前記金属前駆体を還元剤によって金属に還元する段階とを含んでなる、触媒の製造方法を提供する。
また、本発明は、担体上に、金属前駆体と錯体を形成した高分子電解質多層薄膜を形成する段階と、前記金属前駆体を還元剤によって金属粒子に還元する段階とを含んでなる、触媒の製造方法を提供する。
また、本発明は、前記触媒を用いて、酸促進剤を含まない反応溶媒の下で、水素と酸素から過酸化水素を製造する方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の触媒は、高分子電解質多層薄膜の間に金属が強く結合して反応過程で金属の溶出が起こらないため、活性が低下しない。また、使用目的に応じて高分子電解質の種類、pH、積層回数などを調節し、挿入された金属の濃度および粒子サイズを調節することができる。本発明に係る触媒は、その製造が容易であるうえ、過酸化水素の製造だけでなく、金属粒子を触媒として用いる多様な反応での活性増加にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】陰イオン担体上に陽イオン系高分子電解質と陰イオン系高分子電解質を順次交互に積層した後、金属前駆体溶液に混合し、金属を還元させる方式で触媒を製造する方法を示す概略図である。
【図2】陰イオン担体上に陽イオン系高分子電解質と、金属前駆体と錯体を形成した陰イオン系高分子電解質を順次交互に積層した後、金属を還元させる方式で触媒を製造する方法を示す概略図である。
【図3】陽イオン担体上に陰イオン系高分子電解質と陽イオン系高分子電解質を順次交互に積層した後、金属前駆体溶液に混合し、金属を還元させる方式で触媒を製造する方法を示す概略図である。
【図4】陽イオン担体上に陰イオン系高分子電解質と、金属前駆体と錯体を形成した陽イオン系高分子電解質を順次交互に積層した後、金属を還元させる方式で触媒を製造する方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の一様態によれば、本発明は、担体と、前記担体の表面に形成された高分子電解質多層薄膜と、前記多層薄膜に挿入された金属粒子とを含んでなる触媒を提供する。
本発明の担体は、陽イオン系または陰イオン系高分子電解質が容易に固定できるように一定の電荷を持っていることが好ましい。よって、本発明の好適な具現例によれば、前記担体は陽イオン樹脂または陰イオン樹脂である。
担体に使用される陽イオン樹脂として、側鎖にスルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、およびホスホン酸基よりなる群から選ばれる陽イオン作用基を持っている高分子樹脂を使用することができる。このような陽イオン作用基を持つイオン樹脂の例としては、フルオロ系高分子、ベンズイミダゾール系高分子、ポリイミド系高分子、ポイエーテルイミド系高分子、ポリフェニレンスルフィド系高分子、ポリスルホン系高分子、ポリエーテルスルホン系高分子、ポリエーテルケトン系高分子、ポリエーテル−エーテルケトン系高分子、およびポリフェニルキノキサリン系高分子の中から選ばれる1種以上を含むことができ、好ましくはポリ(ペルフルオロスルホン酸)(一般にナフィオンとして市販される)、ポリ(ペルフルオロカルボン酸)、スルホン酸基を含むテトラフルオロエチレンとフルオロビニルエーテルの共重合体、脱フッ素化された硫化ポリエーテルケトン、アリールケトン、ポリ[2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンズイミダゾール]およびポリ(2,5−ベンズイミダゾール)の中から選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0015】
担体に使用される陰イオン樹脂は、ハロゲン化合物および/または重炭酸塩型陰イオン樹脂、炭酸塩および水酸化物型樹脂、またはこれらの混合物を含む。ハロゲン化合物類型樹脂の例はJP−A−57−139026(本願で参考文献として引用される)に開示されている。重炭酸塩類型樹脂の例はWO95/20559、WO97/33850、RU特許第2002726号および同第2001901号(これらはそれぞれ本願で参照文献として引用される)に開示されている。市販の適切な陰イオン樹脂としては、AmberliteTM IRA400および900部類(ジビニルベンゼンと架橋結合したポリスチレン系樹脂)(Rohm and Haas)、LewatitTM M 500 WS(Bayer)、DuoliteTM A368、A−101D、ES−131およびA−161(Rohm and Haas)、およびDOWEXTM MSA−1、マラソンAおよびマラソンMSA(the dow chemical company)などがある。
【0016】
本発明の担体は、前記イオン性樹脂担体以外にも、非イオン性担体を使用してもよい。このような非イオン性担体は、電荷を帯びている高分子電解質物質が担体上に形成できるものであれば、その種類に限定はない。本発明に適した担体の例としては活性炭、シリカ(silica)、アルミナ(alumina)、シリカ−アルミナ(silica-alumina)、ゼオライト(zeolite)および当該分野における公知の他の物質が挙げられるが、好ましくはアルミナである。このような非イオン性担体は、前記イオン性樹脂担体に比べてコスト面で低廉であり、当業界では汎用される物質である。よって、本発明において、アルミナなどの非イオン性担体がイオン性樹脂担体と比較して、同一の効率を持つか或いは効率が多少低くても、費用節減の観点で使用できる。
【0017】
本発明の前記担体の表面に固定される高分子電解質は陽イオン系または陰イオン系電解質である。陽イオン系高分子電解質は、ポリ(アリルアミン)、ポリジアリルジメチルアンモニウム、ポリ(エチレンジアミン)およびポリ(アクリルアミド−co−ジアリルジメチルアンモニウム)よりなる群から選ばれた1種以上の電解質であるが、これに限定されない。また、本発明の陰イオン系高分子電解質は、ポリ(4−スチレンスルホネート)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(ビニルホスホン酸)、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−11−プロパンスルホン酸)、ポリ(アネトールスルホン酸)およびポリ(ビニルスルホネート)よりなる群から選ばれた1種以上の電解質であるが、これに限定されない。前記陽イオン系または陰イオン系高分子電解質として多様な種類を使用することにより、高分子電解質のイオン結合強度を調節することができる。よって、還元剤を用いて金属前駆体を還元する場合、金属粒子のサイズを調節することができる。
【0018】
本発明で高分子電解質を用いて多層薄膜を形成する場合、高分子電解質の分子量を調節して高分子電解質多層薄膜の厚さを調節し、これにより挿入された金属の濃度および粒子サイズを調節することができる。よって、本発明の好適な具現例によれば、前記高分子電解質の分子量は1,000〜1,000,000であり、より好ましくは2,000〜500,000である。例えば、PAH(poly(allyamine)hydrochloride)の場合、3,000〜20,000、好ましくは4,000〜12,000の重量分子量を用いて高分子電解質を形成することができる。
本発明の高分子電解質の多層薄膜の層数は2〜30であり、より好ましくは2〜15である。本発明の触媒は、金属粒子が担体表面ではなく高分子電解質の間に挿入されることを特徴とし、これにより単層の高分子電解質のみからなる触媒に比べて活性度が非常に優れる。よって、多層薄膜の層数が2より小さければ本発明の多層薄膜を形成することができなくなり、 多層薄膜の層数が30より大きければその活性度に大きな差がないため、それ以上の層を形成することは不要である。
【0019】
本発明の多層薄膜に挿入された金属粒子は、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、銀、オスミウム、ニッケル、銅、コバルト、チタニウムまたはその混合物であり、好ましくはパラジウム、白金またはその混合物である。このような金属粒子は金属前駆体を高分子電解質に挿入した後、還元剤で還元させることにより生成される。本発明で好ましく使用するパラジウムを含有した金属前駆体の例としては、テトラクロロ白金酸(II)(H2PtCl4)、テトラクロロ白金酸(IV)(H2PtCl6)、テトラクロロ白金酸(II)カリウム
(K2PtCl4)、テトラクロロ白金酸(IV)カリウム(H2PtCl6)、またはその混合物などがあるが、これに限定されるものではない。
また、本発明の金属粒子は、使用目的に応じて様々に調節することができるもので、その平均粒径は1〜1,000nmであり、好ましくは1〜500nm、より好ましくは1〜100nmである。
【0020】
本発明の一様態によれば、本発明は、(a)担体を第1高分子電解質溶液および第2高分子電解質溶液と交互に混合し、前記担体上に高分子多層薄膜を形成させる段階(ここで、前記第1高分子電解質溶液および第2高分子電解質溶液は互いに異なるように陽イオン系または陰イオン系電解質溶液である。)と、(b)前記高分子電解質多層薄膜が形成された担体を金属前駆体溶液と混合し、前記高分子電解質に前記金属前駆体を挿入する段階と、(c)前記高分子電解質多層薄膜に挿入された金属前駆体を還元剤によって金属に還元する段階とを含んでなる、触媒の製造方法を提供する。
【0021】
このような製造方法は、使用された担体の電荷種類、高分子電解質溶液の交互の順序によって様々な場合がありうるが、それの例を説明すると、次のとおりである。
第1の具現例としては、(a)蒸留水を溶媒として用いて、スルホン酸官能基(SO3-)を持つ陰イオン系イオン樹脂上に陽イオン性高分子電解質を積層する段階と、(b)積層された陽イオン性高分子電解質上に陰イオン性高分子電解質を積層する段階と、(c)積層を繰り返し行って高分子電解質多層薄膜を形成する段階と、(d)担体上に高分子電解質多層薄膜が形成された物質を金属前駆体溶液に入れて高分子電解質多層薄膜の間に金属イオンを挿入する段階と、(e)高分子電解質多層薄膜の間に挿入された金属を還元剤によって還元させる段階とを含んでなる、担体上に金属粒子の含まれた高分子電解質多層薄膜を形成する方式によって触媒を製造する。
第2の具現例としては、(a)蒸留水を溶媒として用いて、ハロゲン含有陽イオン系(NR3+Cl-)イオン樹脂上に陰イオン性高分子電解質を積層する段階と、(b)積層された陰イオン性高分子電解質上に陽イオン性高分子電解質を積層する段階と、(c)積層を繰り返し行って高分子電解質多層薄膜を形成する段階と、(d)担体上に高分子電解質多層薄膜が形成された物質を金属前駆体溶液に入れて高分子電解質多層薄膜の間に金属イオンを挿入する段階と、(e)高分子電解質多層薄膜の間に挿入された金属を還元剤によって還元させる段階とを含んでなる、担体上に金属粒子の含まれた高分子電解質多層薄膜を形成する方式によって触媒を製造する。
【0022】
前記製造方法で使用される高分子電解質を溶解させる溶媒としては、例えば、水、n−ヘキサン、エタノール、トリエチルアミン、THF(tetrahydrofuran)、DMSO(dimethyl sulfoxide)、酢酸エチル、イソプロピールアルコール、アセトン、アセトニトリル、ベンゼン、ブチルアルコール、クロロホルム、ジエチルエーテル、またはこれらの混合物が挙げられる。
また、本発明の触媒製造方法で使用される陽イオン系または陰イオン系高分子電解質溶液のpHは8〜11であり、好ましくは8〜10である、また、前記金属前駆体溶液のpHは2〜6であり、好ましくは4〜6であり、より好ましくは2〜4である。
このような高分子電解質のpH範囲を調節すると、高分子電解質多層薄膜の厚さを調節することができ、これにより挿入された金属の濃度および粒子サイズを調節することができる。
本発明の触媒製造方法で使用された金属前駆体は、蒸留水などの一般な溶媒以外にも、酸または塩基を添加し溶液のpHを調節して溶解させた前駆体も使用することができる。また、2種の金属の前駆体を同時に使用してもよい。
【0023】
また、本発明において金属前駆体の還元に用いられる還元剤は、化学的還元剤および水素などを含むが、これに限定されるものではない。よって、前記還元剤は水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、ヒドラジン(N24)、ギ酸ナトリウム(HCOONa)、炭酸水素アンモニウム(NH4HCO3)、水素(H2)またはこれに限定されない他の物質から1種以上選択して使用することができ、好ましくは水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)または水素(H2)である。
本発明の担体上に金属粒子の挿入された高分子電解質多層薄膜を形成するためには、前記方法以外に、他の方法を使用してもよい。よって、本発明の別の様態によれば、本発明は、(a)担体を第1高分子電解質溶液および第2高分子電解質溶液と交互に混合し、前記担体上に高分子多層薄膜を形成させる段階(ここで、前記第1高分子電解質溶液と第2高分子電解質溶液は互いに異なるように陽イオン系または陰イオン系であり、前記第1高分子電解質または第2高分子電解質溶液の一つ以上は金属前駆体と錯体を形成したものである。)と、(b)前記高分子電解質多層薄膜に挿入された金属前駆体を還元剤によって金属に還元する段階とを含んでなる、触媒の製造方法を提供する。
【0024】
このような製造方法は、使用された担体の電荷種類、高分子電解質溶液または金属前駆体と錯体を形成した高分子電解質溶液の種類、およびその交互の順序によって様々な場合がありうるが、その例を説明すると、次のとおりである。
第1の具現例としては、(a)蒸留水を溶媒として用いて、スルホン酸官能基(SO3-)を持つ陰イオン系イオン樹脂上に陽イオン性高分子電解質を積層する段階と、(b)積層された陽イオン性高分子電解質上に、金属イオンと錯体を形成した陰イオン性高分子電解質を積層する段階と、(c)積層を繰り返し行って高分子電解質多層薄膜を形成する段階と、(d)担体上に高分子電解質多層薄膜が形成された物質を金属前駆体溶液に入れて高分子電解質多層薄膜の間に金属イオンを挿入する段階と、(e)高分子電解質多層薄膜の間に挿入された金属を還元剤によって還元させる段階とを含んでなる、担体上に金属粒子の含まれた高分子電解質多層薄膜を形成する方式によって触媒を製造する。
第2の具現例としては、(a)蒸留水を溶媒として用いて、ハロゲン含有陽イオン系(NR3+Cl-)イオン樹脂上に陰イオン性高分子電解質を積層する段階と、(b)積層された陰イオン性高分子電解質上に、金属イオンと錯体を形成した陽イオン性高分子電解質を積層する段階と、(c)積層を繰り返し行って高分子電解質多層薄膜を形成する段階と、(d)担体上に高分子電解質多層薄膜が形成された物質を金属前駆体溶液に入れて高分子電解質多層薄膜の間に金属イオンを挿入する段階と、(e)高分子電解質多層薄膜の間に挿入された金属を還元剤によって還元させる段階とを含んでなる、担体上に金属粒子の含まれた高分子電解質多層薄膜を形成する方式によって触媒を製造する。
【0025】
本発明の製造方法によって形成された高分子電解質多層薄膜は、それぞれの層と層との間に静電気的引力(electrostatic interaction)、水素結合(hydrogen bonding)、ファン・デル・ワールス相互作用(van der waals interaction)、または共有結合(covalent bonding)などで連結されて物理化学的に非常に安定な構造を成し、このような高分子電解質多層薄膜の間に挿入された金属は、包接された(encapsulation)形態または含有された形態(embedment)で存在する。また、この挿入された金属粒子は高分子電解質多層薄膜と静電気的引力、水素結合、ファン・デル・ワールス相互作用、またたは共有結合などで非常に強く結合されている。よって、一般に従来の技術で製造される金属を担持した触媒の問題点の一つ、すなわち反応中に溶出が起こって活性の低下が発生する問題点は、本発明で提供する高分子電解質多層薄膜の間に金属を挿入する触媒製造方式によって根本的に解決することができる。
【0026】
本発明の一様態によれば、本発明は、前記触媒の存在下で、酸促進剤を含んでいない反応溶媒の下で水素と酸素から過酸化水素を製造する方法を提供する。
前記過酸化水素の製造は、溶媒(反応媒質)としてメタノール、エタノールまたは水を用いて液相反応で行うことができる。反応物としての酸素と水素は、爆発危険性を減らすために、窒素で希釈された混合ガスを使用することが好ましく、水素:酸素:窒素の体積比は3:40:57に維持し、反応に用いられる全体ガス量と溶媒の速度比は3200程度を維持しながら、冷却水ジャケット付き管型反応器を用いて反応圧力30〜60bar、好ましくは45〜55bar、反応温度20〜40℃、好ましくは20〜30℃を維持しながら反応を行うことがよい。
【0027】
酸素と水素の反応から過酸化水素を製造する反応では、反応器の腐食を防止するために強酸添加なしで極小量のハロゲン添加剤のみを添加することが好ましく、ハロゲン添加剤としては臭化水素酸(Hydrobromic acid)、臭化ナトリウム(Sodium Bromide:NaBr)、臭化カリウム(Potassium Bromide:KBr)などを使用することができる。ハロゲン添加剤の濃度は、溶媒として用いたメタノールの質量を基準に1〜100ppmにすることが好ましく、より好ましくは5〜50ppm、最も好ましくは10〜20ppmにする。
【実施例】
【0028】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。但し、これらの実施例は本発明を例示するためのもので、本発明の範囲を限定するものではない。
下記実施例において、酸素および水素から過酸化水素を直接製造する反応において、各触媒の活性を比較するために、反応時間は特に明示していない限り、150時間に固定した。
実施例1:陰イオン系担体上への高分子電解質多層薄膜の形成
スルホン酸官能基(SO3-)を持つ陰イオン系イオン樹脂上に、金属粒子の含まれた高分子電解質多層薄膜を形成する方法は、次のとおりである。全ての過程は常温で行った。
まず、10mM PAH(Poly(allyamine)hydrochloride、重量分子量56,000)水溶液および10mM PSS(Poly(4-styrenesulfonate)、重量分子量70,000)水溶液を製造した後、塩酸および水酸化ナトリウムを用いてpHを9に調整した。K2PdCl4をパラジウム前駆体として用いて蒸留水に1mMとなるように溶解させた後、pHを3に調整した。
【0029】
スルホン酸官能基(SO3-)を持つ陰イオン系イオン樹脂10gを蒸留水300mLに入れて10分間洗浄することを3回繰り返し行った。洗浄した蒸留水を除去した後、スルホン酸官能基(SO3-)を持つ陰イオン系イオン樹脂入りのビーカーに10mM PAH水溶液300mLを入れ、20分間攪拌を行った。ビーカーに残っている溶液を除去した後、さらに蒸留水300mLに入れて5分間洗浄することを3回繰り返し行った。
前記スルホン酸官能基(SO3-)を持つ陰イオン系イオン樹脂上にPAH層が形成された物質を10mM PSS水溶液300mLに入れた後、20分間攪拌を行った。ビーカーに残っている溶液を除去した後、さらに蒸留水300mLに入れて5分間洗浄することを3回繰り返し行った。その後、多層薄膜の積層数が7となるように前記過程を繰り返し行った。
前記スルホン酸官能基(SO3-)を持つ陰イオン系イオン樹脂上に高分子電解質多層薄膜が形成された物質を、1mM K2PdCl4水溶液250mLに入れた後、30分間攪拌を行った。ビーカーに残っている溶液を除去した後、さらに蒸留水300mLに入れて5分間洗浄することを3回繰り返し行った。
前記スルホン酸官能基(SO3-)を持つ陰イオン系イオン樹脂上に金属イオンの挿入された高分子電解質多層薄膜が形成された物質を、蒸留水300mLに入れた後、攪拌しながら50mM NaBH4水溶液20mLをゆっくり滴下して還元した。さらに30分間攪拌の後、残っている溶液を除去し、しかる後に、さらに蒸留水300mLに入れて5分間洗浄することを3回繰り返し行った。
【0030】
前記過程によって製造した物質を触媒と用いて、酸素および水素の反応から過酸化水素を製造する方法は、次のとおりである。
自体製作した冷却水ジャケット付き管型反応器に触媒10ccを充填した後、1bar、反応温度25℃を維持した状態でメタノールを3時間入れながら洗浄を行った。その後、溶媒をメタノールの代わりにHBr15ppm含有メタノールで取り替えて入れ、反応圧力を50barに上げた後、水素:酸素:窒素の体積比は3:40:57、反応に使用される全体ガスと溶媒の速度比は3200程度を維持した状態で反応を行った。反応の後、過酸化水素の収率は滴定によって求め、水素選択度はガスクロマトグラフィーを用いて分析した。その結果を表1に示す。
【0031】
実施例2〜9:陰イオン系担体上への高分子電解質多層薄膜の形成
陽イオン性/陰イオン性高分子電解質の種類、高分子電解質水溶液のpHおよび積層回数を前記実施例1と異にして、高分子電解質多層薄膜を形成した。また、触媒活性評価方法は実施例1と同様にして行った。
本発明では、陽イオン系高分子電解質としてPAH(Poly(allyamine)hydrochloride、重量分子量56,000)、PDDA((Polydiallyldimethylammonium)、重量分子量100,000)、およびPEI(Poly(ethyleneimine)、重量分子量25,000)を使用し、陰イオン系高分子電解質としてPSS(Poly(4-styrenesulfonate)、重量分子量70,000)およびPAA(Poly(acrylic)acid)を使用した。
詳細な触媒製造条件および活性評価結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
実施例10:陽イオン系(強塩基性)担体上への高分子電解質多層薄膜の形成
ハロゲン含有強塩基性陽イオン系(NR3+Cl-)イオン樹脂上に金属粒子の含まれた高分子電解質多層薄膜を形成する方法は、次のとおりである。全ての過程は常温で行った。
ハロゲン含有強塩基性陽イオン系(NR3+Cl-)イオン樹脂10gを蒸留水300mLに入れて10分間洗浄することを3回繰り返し行った。洗浄した蒸留水を除去した後、ハロゲン含有強塩基性陽イオン系(NR3+Cl-)イオン樹脂入りのビーカーに10mM PSS水溶液300mLを入れて20分間攪拌した。ビーカーに残っている溶液を除去した後、さらに蒸留水300mLに入れて5分間洗浄することを3回繰り返し行った。
ハロゲン含有強塩基性陽イオン系(NR3+Cl-)イオン樹脂上にPSS層が形成された物質に、10mM PAH水溶液300mLを入れた後、20分間攪拌を行った。ビーカーに残っている溶液を除去した後、さらに蒸留水300mLに入れて5分間洗浄することを3回繰り返し行った。多層薄膜の積層数が6となるように前記過程を繰り返し行った。
その後、実施例1と同様の方法で、ハロゲン含有強塩基性陽イオン系(NR3+Cl-)イオン樹脂上に金属粒子が挿入された高分子電解質多層薄膜物質を製造した。
製造した物質を触媒として用いて、実施例1と同様の方法で、酸素と水素の反応から過酸化水素を製造した。
【0034】
実施例11〜15:陽イオン系(強塩基性)担体上への高分子電解質多層薄膜の形成
陽イオン性/陰イオン性高分子電解質の種類、高分子電解質水溶液のpHおよび積層回数を前記実施例10と異にして、高分子電解質多層薄膜を形成した。また、触媒活性評価方法は実施例1と同様にして行った。
詳細な触媒製造条件と活性評価結果を下記表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
実施例16:陽イオン系(弱塩基性)担体上への高分子電解質多層薄膜の形成
担体の種類として、アンモニア含有弱塩基性陽イオン系(NH2)イオン樹脂を使用した。これを除いては実施例10と同様の条件で高分子電解質多層薄膜を形成した。実施例10と同様の方法で活性評価を行った。その結果、製造された触媒にはパラジウムが0.2%含まれており、活性評価の結果、過酸化水素の収率5.4wt%、水素選択度68%を得ることができた。
【0037】
実施例17〜22:非イオン系担体上への高分子電解質多層薄膜の形成
アルミナ無機担体上に、金属粒子の含まれた高分子電解質多層薄膜を形成した。担体の種類を除いた触媒製造方法および活性評価方法は実施例1と同様にした。
詳細な触媒製造条件と活性評価結果を下記表3に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
実施例23:陰イオン系担体上に、金属前駆体と錯体を形成した陰イオン系高分子電解質多層薄膜の形成
実施例1と同様にして、スルホン酸官能基(SO3-)を持つ陰イオン系イオン樹脂上に高分子電解質多層薄膜を形成したが、金属と錯体を形成した陰イオン系高分子電解質(PSS---Pd2+)を用いて積層した。金属と錯体を形成した陰イオン系高分子電解質水溶液は、10mM PSSおよび0.25mM K2PdCl4から構成されており、pHを5に調節した。
積層回数が7となるように積層した後、別途の金属イオン導入過程なしで、実施例1と同様に還元を行い、スルホン酸官能基(SO3-)を持つ陰イオン系イオン樹脂上に、金属粒子の挿入された高分子電解質多層薄膜を形成した。製造された触媒にはパラジウムが0.25wt%含まれている。
その後、実施例1と同様にして活性評価を行った。活性評価の結果、過酸化水素の収率6.9wt%、水素選択度70%を得た。
【0040】
実施例24:陰イオン系担体上に、金属前駆体と錯体を形成した陽イオン系高分子電解質多層薄膜の形成
実施例1と同様にして、スルホン酸官能基(SO3-)を持つ陰イオン系イオン樹脂上に高分子電解質多層薄膜を形成したが、金属と錯体を形成した陽イオン系高分子電解質(PAH---PdCl42-)を用いて積層した。金属と錯体を形成した陽イオン系高分子電解質水溶液は、10mM PAHおよび0.25mM K2PdCl4から構成されており、pHを5に調節した。
積層回数が7となるように積層した後、別途の金属イオン導入過程なしで、実施例1と同様に還元を行い、スルホン酸官能基(SO3-)を持つ陰イオン系イオン樹脂上に、金属粒子の挿入された高分子電解質多層薄膜を形成した。製造された触媒にはパラジウムが0.19wt%含まれている。
その後、実施例1と同様にして活性評価を行った。活性評価の結果、過酸化水素の収率5.8wt%、水素選択度69%を得た。
【0041】
実施例25:陽イオン系担体上に、金属前駆体と錯体を形成した陰イオン系高分子電解質多層薄膜の形成
実施例10と同様にして、ハロゲン含有陽イオン系(NR3+Cl-)イオン樹脂上に高分子電解質多層薄膜を形成したが、金属と錯体を形成した陰イオン系高分子電解質(PSS---Pd2+)を用いて積層した。金属と錯体を形成した陰イオン系高分子電解質水溶液は、10mM PSSおよび0.25mM K2PdCl4から構成されており、pHを5に調節した。
積層回数が6となるように積層した後、別途の金属イオン導入過程なしで、実施例10と同様に還元を行い、ハロゲン含有陽イオン系(NR3+Cl-)イオン樹脂上に、金属粒子の挿入された高分子電解質多層薄膜を形成した。製造された触媒にはパラジウムが0.18wt%含まれている。
その後、実施例10と同様にして活性評価を行った。活性評価の結果、過酸化水素の収率4.3wt%、水素選択度68%を得た。
【0042】
実施例26:陽イオン系担体上に、金属前駆体と錯体を形成した陽イオン系高分子電解質多層薄膜の形成
実施例10と同様にして、ハロゲン含有陽イオン系(NR3+Cl-)イオン樹脂上に高分子電解質多層薄膜を形成したが、金属と錯体を形成した陽イオン系高分子電解質(PAH--PdCl42-)を用いて積層した。金属と錯体を形成した陽イオン系高分子電解質水溶液は、10mM PAHおよび0.25mM K2PdCl4から構成されており、pHを5に調節した。
積層回数が6となるように積層した後、別途の金属イオン導入過程なしで、実施例10と同様に還元を行い、ハロゲン含有陽イオン系(NR3+Cl-)イオン樹脂上に、金属粒子の挿入された高分子電解質多層薄膜を形成した。製造された触媒にはパラジウムが0.14wt%含まれている。
その後、実施例10と同様にして活性評価を行った。活性評価の結果、過酸化水素の収率2.4wt%、水素選択度65%を得た。
【0043】
比較例1
活性炭に1wt%のパラジウムが担持された商用Pd/C触媒を用いて、実施例1と同様の方法で活性評価を行った。活性評価の結果、反応時間48時間を経過した後、過酸化水素の収率0.1wt%、水素選択度30%を得た。
このような結果は、本発明の高分子電解質多層薄膜を含む触媒が、高分子電解質を使用していない触媒に比べて高い活性を示すことを反映するのである。
【0044】
比較例2
スルホン酸官能基(SO3-)を持つ陰イオン系イオン樹脂上に0.23wt%のパラジウムがドープされた商用樹脂を触媒として用いて、実施例1と同様の方法で活性評価を行った。活性評価の結果、反応時間80時間を経過した後、過酸化水素の収率2.9wt%、水素選択度68%を得た。
このような結果は、本発明のイオン樹脂上に高分子電解質多層薄膜を形成した触媒が、高分子電解質層を形成していない触媒に比べて高い活性を示すことを反映するのである。
【0045】
比較例3
スルホン酸官能基(SO3−)を持つ陰イオン系イオン樹脂10g入りのビーカーに10mM PAH水溶液300mLを入れて20分間攪拌した。その後、実施例1と同様の方式で、陰イオン系イオン樹脂と陽イオン系高分子電解質との間にパラジウム金属イオンを挿入した後、還元剤を用いて金属を還元させて触媒を製造した。製造された触媒にはパラジウムが0.12wt%含有されている。
実施例1と同様の方法で活性評価を行った。活性評価の結果、反応時間80時間を経過した後、過酸化水素の収率1.4wt%、水素選択度67%を得た。
このような結果は、本発明のイオン樹脂上に高分子電解質多層薄膜を形成した触媒が、単一の高分子電解質層のみを形成した触媒に比べて高い活性を示すことを反映するのである。
【0046】
比較例4
アルミナ無機担体10g入りのビーカーに10mM PAH水溶液300mLを入れて20分間攪拌した。その後、実施例1と同様の方式で、担体と陽イオン系高分子電解質との間にパラジウム金属イオンを挿入した後、還元剤を用いて金属を還元させて触媒を製造した。製造された触媒にはパラジウムが0.05wt%含有されている。
実施例1と同様の方法で活性評価を行った。活性評価の結果、反応時間80時間を経過した後、過酸化水素の収率0.4wt%、水素選択度62%を得た。
このような結果は、本発明の非イオン性アルミナ担体上に高分子電解質多層薄膜を形成した触媒が、単一の高分子電解質層のみを形成した触媒に比べて高い活性を示すことを反映するのである。
【0047】
比較例5
アルミナ無機担体10g入りのビーカーに10mM PSS水溶液300mLを入れて20分間攪拌した。その後、実施例1と同様の方式で、担体と陰イオン系高分子電解質との間にパラジウム金属イオンを挿入した後、還元剤を用いて金属を還元させて触媒を製造した。製造された触媒にはパラジウムが0.07wt%含有されている。
実施例1と同様の方法で活性評価を行った。活性評価の結果、反応時間80時間を経過した後、過酸化水素の収率0.8wt%、水素選択度64%を得た。
このような結果は、本発明の非イオン性アルミナ担体上に高分子電解質多層薄膜を形成した触媒が、単一の高分子電解質層のみを形成した触媒に比べて高い活性を示すことを反映するのである。
以上、本発明の内容の特定部分を詳細に記述したが、当業界における通常の知識を有する者にとっては、このような具体的記述は好適な実施様態に過ぎないもので、これにより本発明の範囲が制限されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体と、前記担体の表面に形成された高分子電解質多層薄膜と、前記多層薄膜に挿入された金属粒子とを含んでなる、触媒。
【請求項2】
前記担体が陽イオン樹脂、陰イオン樹脂または非イオン性担体である、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記高分子電解質多層薄膜は、陽イオン系高分子電解質と陰イオン系高分子電解質とを交互に反復してなる、請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
前記陽イオン系高分子電解質は、ポリ(アリルアミン)、ポリジアリルジメチルアンモニウム、ポリ(エチレンジアミン)、およびポリ(アクリルアミド−co−ジアリルジメチルアンモニウム)よりなる群から選ばれた1種以上の電解質である、請求項3に記載の触媒。
【請求項5】
前記陰イオン系高分子電解質は、ポリ(4−スチレンスルホネート)、ポリ(アクリル酸)、ポリ(アクリルアミド)、ポリ(ビニルホスホン酸)、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチル−11−プロパンスルホン酸)、ポリ(アネトールスルホン酸)、およびポリ(ビニルスルホネート)よりなる群から選ばれた1種以上の電解質である、請求項3に記載の触媒。
【請求項6】
前記高分子電解質の分子量が1,000〜1,000,000である、請求項1に記載の触媒。
【請求項7】
前記多層薄膜の層数が2〜15である、請求項1に記載の触媒。
【請求項8】
前記金属粒子がパラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、銀、オスミウム、ニッケル、銅、コバルト、チタニウムまたはその混合物である、請求項1に記載の触媒。
【請求項9】
前記金属粒子の平均サイズ 1〜1,000nmである、請求項1に記載の触媒。
【請求項10】
(a)担体を第1高分子電解質溶液および第2高分子電解質溶液と交互に混合し、前記担体上に高分子多層薄膜を形成させる段階(ここで、前記第1高分子電解質溶液および第2高分子電解質溶液は互いに異なるように陽イオン系または陰イオン系電解質溶液である。)と、
(b)前記高分子電解質多層薄膜が形成された担体を金属前駆体溶液と混合し、前記高分子電解質に前記金属前駆体を挿入する段階と、
(c)前記多層薄膜に挿入された金属前駆体を還元剤によって金属に還元する段階とを含んでなる、触媒の製造方法。
【請求項11】
(a)担体を第1高分子電解質溶液および第2高分子電解質溶液と交互に混合し、前記担体上に高分子多層薄膜を形成させる段階(ここで、前記第1高分子電解質溶液と第2高分子電解質溶液は互いに異なるように陽イオン系または陰イオン系であり、前記第1高分子電解質溶液または第2高分子電解質溶液の一つ以上は金属前駆体と錯体を形成するものである。)と、
(b)前記高分子電解質多層薄膜に挿入された金属前駆体を還元剤によって金属に還元する段階とを含んでなる、触媒の製造方法。
【請求項12】
前記陽イオン系又は陰イオン系高分子電解質溶液のpHが8〜11であり、前記金属前駆体溶液のpHが2〜6である、請求項10に記載の触媒の製造方法。
【請求項13】
前記還元剤は水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、ヒドラジン(N24)、ギ酸ナトリウム(HCOONa)、炭酸水素アンモニウム(NH4HCO3)、および水素(H2)から選ばれた1種以上である、請求項10または11に記載の触媒の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれかの1項に記載の触媒の存在下で、水素と酸素から過酸化水素を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−526652(P2012−526652A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−510735(P2012−510735)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【国際出願番号】PCT/KR2010/002137
【国際公開番号】WO2010/131839
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(507268341)エスケー イノベーション カンパニー リミテッド (57)
【Fターム(参考)】