説明

高分子電解質組成物および高分子電解質膜

【課題】良好な長期安定性の燃料電池を実現する高分子電解質膜が得られる高分子電解質組成物の提供。
【解決手段】下記含硫黄芳香族化合物[A]等からなる群より選ばれる一種以上と高分子電解質とを含有することを特徴とする高分子電解質組成物。含硫黄芳香族化合物[A]:下記式(1)で表される含硫黄芳香族化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質組成物および高分子電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(以下、「燃料電池」と略記することがある。)は、水素と酸素の電気化学的反応を利用した発電装置であり、燃料電池に使用される高分子電解質膜として、フッ素系高分子電解質膜や炭化水素系高分子電解質膜が注目されている。
【0003】
ところで、フッ素系高分子電解質膜や炭化水素系高分子電解質膜を用いた燃料電池は、長期運転を行った場合の運転安定性(以下、「長期安定性」と呼ぶことがある)が必ずしも十分でないことが指摘されている。この長期安定性を妨げる要因の1つとして、電池稼動時に発生する過酸化物(例えば、過酸化水素等)又は該過酸化物から発生するラジカルによる膜の劣化が知られている。それゆえ、高分子電解質膜の過酸化物やラジカルに対する耐久性(以下、「ラジカル耐性」と呼ぶことがある)を向上させることが、固体高分子型燃料電池の長期安定性の向上に繋がるとされている。
【0004】
このようなラジカル耐性を向上させた高分子電解質膜として、特許文献1には、スルホン化ポリマーと、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンおよびビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトからなる酸化防止剤とを含む高分子電解質組成物からなる高分子電解質膜が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−201403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の酸化防止剤は、非脂肪族炭化水素系高分子電解質への分散性および相溶性が低く、酸化防止剤自体の耐久性も低い。そのため、上記の高分子電解質膜を備えた燃料電池は、電池の起動・停止を繰り返すような長期運転を行なうと、ラジカルによる高分子電解質膜の劣化によって、イオン伝導性が低下し易く、結果として燃料電池自体の発電性能が低下し易い。
そこで、本発明の目的は、良好な長期安定性の燃料電池を実現する高分子電解質膜が得られる高分子電解質組成物、該高分子電解質組成物を用いた燃料電池部材および長期安定性に優れた固体高分子型燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は下記[1]〜[11]を提供するものである。
[1] 下記含硫黄芳香族化合物[A]〜[D]からなる群より選ばれる一種以上の含硫黄芳香族化合物と高分子電解質とを含有することを特徴とする高分子電解質組成物。

含硫黄芳香族化合物[A]:下記式(1)で表される含硫黄芳香族化合物。



(式(1)中、Yは硫黄原子を含む2価の基を表す。C〜Cはそれぞれ炭素原子を表す。環Ar01は、CおよびCを含み、置換基を有していてもよい炭素数4〜50の芳香環を表す。環Ar02は、CおよびCを含み、置換基を有していてもよい炭素数4〜50の芳香環を表す。Ar01が有していてもよい置換基およびAr02が有していてもよい置換基はそれぞれ、水酸基、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、メチル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数5〜21のアロイル基および置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールスルホニル基からなる群より選ばれる1種以上の基である。XおよびXは、それぞれ同一または相異なり、水素原子、水酸基、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、メチル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数5〜21のアロイル基または置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールスルホニル基を表す。)

含硫黄芳香族化合物[B]:下記式(2)で表される含硫黄芳香族化合物。



(式(2)中、Yは上記と同義である。Zは、直接結合、下記式(2−1)〜(2−9)のいずれかで示される2価の基を表す。C〜Cはそれぞれ炭素原子を表す。環Ar03は、CおよびCを含み、置換基を有していてもよい炭素数4〜50の芳香環を表す。環Ar04は、CおよびCを含み、置換基を有していてもよい炭素数4〜50の芳香環を表す。



(式(2−1)〜(2−9)中、Eは水素原子、水酸基、メチル基、メトキシ基または炭素数4〜50の芳香族基を表す。))

含硫黄芳香族化合物[C]:下記式(3)で表される含硫黄芳香族化合物。



(式(3)中、YおよびZはそれぞれ上記と同義である。C〜C12はそれぞれ炭素原子を表す。X〜Xは、それぞれ同一または相異なり、水素原子、水酸基、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルチオ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基または置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルスルホニル基を表す。Zが直接結合の場合、XおよびXは互いに結合することにより、環を形成していてもよい。)

含硫黄芳香族化合物[D]:下記式(4)で表される含硫黄芳香族化合物。



(式(4)中、YおよびZは上記と同義である。C13〜C16はそれぞれ炭素原子を表す。環Ar05は、C15およびC16を含み、置換基を有していてもよい炭素数4〜50の芳香環を表す。XおよびXは、それぞれ同一または相異なり、水素原子、水酸基、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルチオ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基または置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルスルホニル基を表す。)
[2] 前記高分子電解質組成物が含有する前記含硫黄芳香族化合物は、含硫黄芳香族化合物[B]〜[D]からなる群より選ばれる一種以上の含硫黄芳香族化合物であることを特徴とする[1]に記載の高分子電解質組成物。
[3] 上記Yが硫黄原子またはスルフィニル基であることを特徴とする[1]または[2]に記載の高分子電解質組成物。
[4] 上記含硫黄芳香族化合物[B]が下記式(6)で表されることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の高分子電解質組成物。



(式(6)中、YおよびZはそれぞれ上記と同義である。R01〜R08は、それぞれ同一または相異なり、水素原子、水酸基、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルチオ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基または置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルスルホニル基を表す。)
[5] 上記含硫黄芳香族化合物が、上記高分子電解質100重量部に対して0.01〜30重量部含有されることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の高分子電解質組成物。
[6] 上記高分子電解質が芳香族炭化水素系高分子電解質であることを特徴とする特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載の高分子電解質組成物。
[7] 上記高分子電解質がフッ素系高分子電解質であることを特徴とする特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載の高分子電解質組成物。
[8] [1]〜[7]のいずれかに記載の高分子電解質組成物を含有することを特徴とする高分子電解質膜。
[9] [1]〜[7]のいずれかに記載の高分子電解質組成物と、触媒成分とを含有することを特徴とする触媒組成物。
[10] [8]に記載の高分子電解質膜および[9]に記載の触媒組成物からなる群より選ばれる1種以上を有することを特徴とする膜電極接合体。
[11] [10]に記載の膜電極接合体を有することを特徴とする固体高分子形燃料電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電解質組成物を用いることで、ラジカル耐性に優れた高分子電解質膜等の燃料電池用部材を得ることができる。かかる燃料電池用部材を備えた燃料電池は長期安定性に優れるものとなるので、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の高分子電解質組成物に係る好適な実施態様について具体的に説明する。
【0010】
本発明の電解質組成物は、下記含硫黄芳香族化合物[A]〜[D]からなる群より選ばれる一種以上の含硫黄芳香族化合物と高分子電解質とを含有することを特徴とする。
【0011】
まず、含硫黄芳香族化合物[A]について説明する。
含硫黄芳香族化合物[A]:下記式(1)で表される含硫黄芳香族化合物。



(式(1)中、Yは硫黄原子を含む2価の基を表す。C〜Cはそれぞれ炭素原子を表す。環Ar01は、CおよびCを含み、置換基を有していてもよい炭素数4〜50の芳香環を表す。環Ar02は、CおよびCを含み、置換基を有していてもよい炭素数4〜50の芳香環を表す。Ar01が有していてもよい置換基およびAr02が有していてもよい置換基はそれぞれ、水酸基、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、メチル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数5〜21のアロイル基および置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールスルホニル基からなる群より選ばれる1種以上の基である。XおよびXは、それぞれ同一または相異なり、水素原子、水酸基、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、メチル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数5〜21のアロイル基または置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールスルホニル基を表す。)
【0012】
上記式(1)中、Yは硫黄原子を含む2価の基を表す。Yとして、好ましくは、2価または4価の硫黄原子を含む2価の基であり、より好ましくは、硫黄原子(−S−で示される基)、スルフィニル基(−SO−で示される基)があげられ、さらに好ましくは硫黄原子である。
【0013】
上記式(1)中、C〜Cは炭素原子を表す。C−C結合およびC−C結合は、それぞれ、芳香環中の炭素―炭素結合である。
【0014】
環Ar01は、CおよびCを含み、置換基を有していてもよい炭素数4〜50の芳香環を表す。環Ar02は、CおよびCを含み、置換基を有していてもよい炭素数4〜50の芳香環を表す。該芳香環の好ましい炭素数としては、4〜30であり、より好ましくは4〜25であり、特に好ましくは6〜20である。
【0015】
上記の炭素数4〜50の芳香環として、ベンゼン、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルフィド、ベンゾフェノン、ビフェニル、などの単環性芳香環、ビフェニレン、インダセン、アセナフチレン、フルオレン、フェナレン、フェナントレン、アントラセン、フルオランテン、トリフェニレン、ピレン、ナフタセン、ペリレンなどの縮環系芳香環、フラン、ベンゾフラン、ジベンゾフランなどのヘテロ原子を環内に含む芳香環などがあげられる。
【0016】
上記炭素数4〜50の芳香環は置換基を有してもよく、該置換基は、水酸基、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、メチル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数5〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールスルホニル基から選ばれる基である。
上記炭素数4〜50の芳香環上の置換基として好ましくは、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数5〜21のアロイル基および置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールスルホニル基から選ばれる基であり、
より好ましくは、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数5〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールスルホニル基から選ばれる基であり、
よりさらに好ましくは、シアノ基、カルボキシ基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数5〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールスルホニル基から選ばれる基であり、
特に好ましくは、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数5〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールスルホニル基から選ばれる基である。
【0017】
上記XおよびXは、それぞれ独立に水素原子、水酸基、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、メチル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数5〜21のアロイル基または置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールスルホニル基である。好ましくは、水素原子、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数5〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールスルホニル基であり、より好ましくは、水素原子、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数5〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールスルホニル基であり、よりさらに好ましくは、水素原子、シアノ基、カルボキシ基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数5〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールスルホニル基であり、特に好ましくは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数5〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールスルホニル基である。
【0018】
上記のハロゲノ基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基があげられ、好ましくはフルオロ基である。
【0019】
上記の置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリール基として、フェニル、o−メチルフェニル、m−メチルフェニル、p−メチルフェニル、o−フェノキシフェニル、m−フェノキシフェニル、p−フェノキシフェニル、o−クロロフェニル、m−クロロフェニル、p−クロロフェニル、ビフェニルなどの単環性アリール基、1−ナフチル、2−ナフチル、1−アントラシル、2−アントラシル、4−アントラシル基などの縮環系アリール基、2−チエニル、3−チエニル、2−フリル、3−フリル基などのヘテロアリール基などがあげられる。
【0020】
上記の置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールオキシ基として、前述の置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリール基の例示の群より選ばれるアリール基で水酸基の水素原子を置換した基などがあげられる。
【0021】
上記の置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールチオ基として、前述の置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリール基の例示の群より選ばれるアリール基でメルカプト基の水素原子を置換した基などがあげられる。
【0022】
上記の置換基を有していてもよい炭素数5〜21のアロイル基として、前述の置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリール基の例示の群より選ばれるアリール基でホルミル基の水素原子を置換した基などがあげられる。
【0023】
上記の置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールスルホニル基として、フェニルスルホニル、o−メチルフェニルスルホニル、m−メチルフェニルスルホニル、p−メチルフェニルスルホニル、o−フェノキシフェニルスルホニル、m−フェノキシフェニルスルホニル、p−フェノキシフェニルスルホニル、o−クロロフェニルスルホニル、m−クロロフェニルスルホニル、p−クロロフェニルスルホニルなどの単環性アリールスルホニル基、1−ナフチルスルホニル、2−ナフチルスルホニル、1−アントラシルスルホニル、2−アントラシルスルホニル、4−アントラシルスルホニル基などの縮環系アリールスルホニル基、2−チエニルスルホニル、3−チエニルスルホニルなどのヘテロアリールスルホニル基があげられる。
【0024】
上記式(1)で表される含硫黄芳香族化合物[A]の例としては、フェニルスルフィド、ビス(2-ヒドロキシ-5-クロロフェニル)スルフィド、4-ベンゾイル 4'-メチルジフェニル スルフィド、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド、ビス(4-メタクリロイルチオフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、フェニルp-トリルスルフィド、5,5'-チオジサリチル酸、2,2'-チオビス(4,6-ジクロロフェノール) 二ナトリウム、2,2'-チオビス(4,6-ジクロロフェノール)、4,4'-チオビスベンゼンチオール4-クロロフェニル スルホキシド、ジフェニル スルホキシド、p-トリルスルホキシド、1、1’-チオビス(2-ナフトール)、1、1'-チオビス(2-ナフタレン)、ビス(2-ナフチル) スルホキシドなどをあげることができる。
【0025】
次に、含硫黄芳香族化合物[B]について説明する。
含硫黄芳香族化合物[B]:下記式(2)で表される含硫黄芳香族化合物。



(式(2)中、Yは上記と同義である。Zは、直接結合、下記式(2−1)〜(2−9)のいずれかで示される2価の基を表す。C〜Cはそれぞれ炭素原子を表す。環Ar03は、CおよびCを含み、置換基を有していてもよい炭素数4〜50の芳香環を表す。環Ar04は、CおよびCを含み、置換基を有していてもよい炭素数4〜50の芳香環を表す。



(式(2−1)〜(2−9)中、Eは水素原子、水酸基、メチル基、メトキシ基または炭素数4〜50の芳香族基を表す。))
【0026】
上記式(2)中、Yは式(1)におけるYと同義であり、その好ましい例も式(1)におけるYの具体例、好ましい例と同様である。
【0027】
上記式(2)中、C〜Cは炭素原子を表す。C−C結合およびC−C結合は、それぞれ、芳香環基中の炭素―炭素結合である。
【0028】
環Ar03は、CおよびCを含み、置換基を有していてもよい炭素数4〜50の芳香環を表す。環Ar04は、CおよびCを含み、置換基を有していてもよい炭素数4〜50の芳香環を表す。該芳香環の好ましい炭素数としては、4〜30であり、より好ましくは4〜25であり、特に好ましくは6〜20である。
【0029】
上記の炭素数4〜50の芳香環として、ベンゼン、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルフィド、ベンゾフェノン、ビフェニル、などの単環性芳香環、ビフェニレン、インダセン、アセナフチレン、フルオレン、フェナレン、フェナントレン、アントラセン、フルオランテン、トリフェニレン、ピレン、ナフタセン、ペリレンなどの縮環系芳香環、フラン、ベンゾフラン、ジベンゾフラン、チオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェンなどのヘテロ原子を環内に含む芳香環などがあげられる。
【0030】
上記炭素数4〜50の芳香環は置換基を有してもよく、該置換基としては、例えば、水酸基、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルチオ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基および置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルスルホニル基から選ばれる基である。非脂肪族炭化水素系高分子電解質への分散、相溶性を向上させ、酸化防止剤自体の耐久性を高めるために、ここでの上記炭素数4〜50の芳香環上の置換基として好ましくは、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基があげられ、より好ましくは、シアノ基、カルボキシ基、ホルミル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基があげられ、特に好ましくは、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基があげられる。
【0031】
ハロゲノ基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基があげられ、好ましくはフルオロ基があげられる。
【0032】
上記の置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基として、直鎖状または分岐鎖状アルキル基があげられる。好ましい炭素数としては1〜6であり、より好ましくは1〜4であり、よりさらに好ましくは1〜4であり、特に好ましくは1である。具体的には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル、トリフルオロメチル基などがあげられる。
【0033】
上記の置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基として、前述の置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基の例示の群より選ばれるアルキル基で水酸基の水素原子を置換した基などがあげられる。その好ましい例は前述のアルキル基の好ましい例示の群より選ばれるアルキル基で水酸基の水素原子を置換した基などがあげられる。
【0034】
上記の置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルチオ基として、前述の置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基の例示の群より選ばれるアルキル基でメルカプト基の水素原子を置換した基があげられる。その好ましい例は前述のアルキル基の好ましい例示の群より選ばれるアルキル基でメルカプト基の水素原子を置換した基などがあげられる。
【0035】
上記の置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基として、フェニル、o−メチルフェニル、m−メチルフェニル、p−メチルフェニル、o−メトキシフェニル、m−メトキシフェニル、p−メトキシフェニル、o−フェノキシフェニル、m−フェノキシフェニル、p−フェノキシフェニル、o−クロロフェニル、m−クロロフェニル、p−クロロフェニル、ビフェニル基などの単環性アリール基、1−ナフチル、2−ナフチル、1−アントラシル、2−アントラシル、4−アントラシル基などの縮環系アリール基、2−チエニル、3−チエニル、2−フリル、3−フリル基などのヘテロアリール基などがあげられる。
【0036】
上記の置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基として、前述の置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基の例示の群より選ばれるアリール基で水酸基の水素原子を置換した基などがあげられる。その好ましい例は前述のアリール基の好ましい例示の群より選ばれるアリール基で水酸基の水素原子を置換した基などがあげられる。
【0037】
上記の置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基として、前述の置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基の例示の群より選ばれるアリール基でメルカプト基の水素原子を置換した基などがあげられる。その好ましい例は前述のアリール基の好ましい例示の群より選ばれるアリール基でメルカプト基の水素原子を置換した基などがあげられる。
【0038】
上記の置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアシル基として、前述の置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基の例示の群より選ばれるアルキル基でホルミル基の水素原子を置換した基があげられる。その好ましい例は前述のアルキル基の好ましい例示の群より選ばれるアルキル基でホルミル基の水素原子を置換した基などがあげられる。
【0039】
上記の置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基として、前述の置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基の例示の群より選ばれるアリール基でホルミル基の水素原子を置換した基などがあげられる。その好ましい例は前述のアリール基の好ましい例示の群より選ばれるアリール基でホルミル基の水素原子を置換した基などがあげられる。
【0040】
上記の置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基として、フェニルスルホニル、o−メチルフェニルスルホニル、m−メチルフェニルスルホニル、p−メチルフェニルスルホニル、o−メトキシフェニルスルホニル、m−メトキシフェニルスルホニル、p−メトキシフェニルスルホニル、o−フェノキシフェニルスルホニル、m−フェノキシフェニルスルホニル、p−フェノキシフェニルスルホニル、o−クロロフェニルスルホニル、m−クロロフェニルスルホニル、p−クロロフェニルスルホニル、ビフェニルスルホニル基などの単環性アリールスルホニル基、1−ナフチルスルホニル、2−ナフチルスルホニル、1−アントラシルスルホニル、2−アントラシルスルホニル、4−アントラシルスルホニル基などの縮環系アリールスルホニル基、2−チエニルスルホニル、3−チエニルスルホニル、2−フリルスルホニル、3−フリルスルホニル基などのヘテロアリールスルホニル基があげられる。
【0041】
上記の置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルスルホニル基において、好ましい炭素数としては1〜6であり、より好ましくは1〜4であり、よりさらに好ましくは1〜4であり、特に好ましくは1である。具体的には、メチルスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、イソプロピルスルホニル、ブチルスルホニル、イソブチルスルホニル、sec−ブチルスルホニル、t−ブチルスルホニル、ペンチルスルホニル、ヘキシルスルホニル、ヘプチルスルホニル、オクチルスルホニル、デシルスルホニル基などがあげられる。
【0042】
上記式(2)中、Zは、直接結合、上記式(2−1)〜(2−9)のいずれかで示される2価の基を表す。好ましくは直接結合、(2−1)〜(2−3)、(2−7)〜(2−9)であり、より好ましくは直接結合、(2−2)、(2−3)、(2−7)、(2−8)であり、特に好ましくは直接結合、(2−2)、(2−3)、(2−7)である。
【0043】
上記式(2−1)〜(2−9)中、Eは水素原子、水酸基、メチル基、メトキシ基または置換基を有してもよい炭素数4〜50の芳香族基を示し、好ましくは置換基を有してもよい炭素数4〜50の1価の芳香族基である。該芳香族基の炭素数としては好ましくは4〜30であり、より好ましくは4〜20であり、特に好ましくは4〜12である。
【0044】
で示される炭素数4〜50の芳香族基としては、ベンゼン、トルエン、メトキシベンゼン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、フルオレン、フラン、ベンゾフラン、ジベンゾフラン、チオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、チアントレン、フェノキサチインなどの芳香族化合物に由来する芳香族基があげられ、Eで示される炭素数4〜50の1価の芳香族基としては、ベンゼン、トルエン、メトキシベンゼン、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン、フルオレン、フラン、ベンゾフラン、ジベンゾフラン、チオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、チアントレン、フェノキサチインから芳香環上の水素原子を一つ取り去って得られる基をあげることができる。
【0045】
該炭素数4〜50の1価の芳香族基は、置換基を有してもよく、水酸基、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルチオ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基および置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルスルホニル基から選ばれる基があげられる。非脂肪族炭化水素系高分子電解質への分散、相溶性を向上させ、酸化防止剤自体の耐久性を高めるために、該炭素数4〜50の1価の芳香族基上の置換基として好ましくは、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基があげられ、より好ましくは、シアノ基、カルボキシ基、ホルミル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基があげられ、特に好ましくは、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基があげられる。
【0046】
ここでの、ハロゲノ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルチオ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基および置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルスルホニル基から選ばれる基の具体例およびその好ましい例としては、上記環Ar03または環Ar04における炭素数4〜50の芳香環上の置換基と同じものがあげられる。
【0047】
上記式(2)で表される含硫黄芳香族化合物[B]の具体例としては、下記(B−001)〜(B−018)で表される化合物をあげることができる。

【0048】
次に、含硫黄芳香族化合物[C]について説明する。
含硫黄芳香族化合物[C]:下記式(3)で表される含硫黄芳香族化合物。



(式(3)中、YおよびZはそれぞれ上記と同義である。C〜C12はそれぞれ炭素原子を表す。X〜Xは、それぞれ同一または相異なり、水素原子、水酸基、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルチオ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基または置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルスルホニル基を表す。Zが直接結合の場合、XおよびXは互いに結合することにより、C10及びC11を含む環を形成していてもよい。)
【0049】
式(3)中、YおよびZは式(1)におけるYおよび式(2)におけるZと同義であり、その具体例、好ましい例も式(1)におけるYおよび式(2)におけるZの具体例、好ましい例と同様なものをあげることができる。
【0050】
上記式(3)中、C〜C12は炭素原子を表す。C−C10結合およびC11−C12結合は、2重結合である。
【0051】
式(3)中、X〜Xは、それぞれ同一または相異なり、水素原子、水酸基、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルチオ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基または置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルスルホニル基を表す。
〜Xはそれぞれ、好ましくは、水素原子、水酸基、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基であり、
より好ましくは、水素原子、シアノ基、カルボキシ基、ホルミル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基であり、特に好ましくは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基である。
ここでのハロゲノ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルチオ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基および置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルスルホニル基から選ばれる基の具体例およびその好ましい例としては、上記環Ar03または環Ar04における炭素数4〜50の芳香環上の置換基の具体例およびその好ましい例と同じものがあげられる。
【0052】
また、Zが直接結合の場合、XおよびXは互いに結合することにより、環を形成してもよい。該環としては、C10およびC11を含み、置換基を有していてもよい炭素数4〜50の環が好ましく、該環は芳香族性を有することが好ましい。より好ましくは置換基を有していてもよい炭素数6〜20の環があげられ、特に好ましくは置換基を有していてもよい炭素数6〜12の環があげられる。なお、ここでの芳香族性とは、モリソンボイド有機化学(中)第6版(東京化学同人)に記載のように、環状基の環内に4n+2(nは任意の整数を示す)個のπ電子を含むことである。
【0053】
およびXが互いに結合することにより形成される環状基を下記式(501)の形で示すと、下記式(501−1)〜(501−4)で表される基を該環状基として例示することができる。




【0054】
該環状基上の置換基としては、水酸基、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルチオ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基または置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルスルホニル基から選ばれる基である。具体例およびその好ましい例は、上記Ar03またはAr04で表される炭素数4〜50の芳香環が有してもよい基の具体例およびその好ましい例と、同様なものをあげることができる。
【0055】
上記式(3)で表される含硫黄芳香族化合物[C]の具体例としては、下記(C−001)〜(C−021)などをあげることができる。


【0056】

【0057】
次に、含硫黄芳香族化合物[D]について説明する。
含硫黄芳香族化合物[D]:下記式(4)で表される含硫黄芳香族化合物。



(式(4)中、YおよびZは上記と同義である。C13〜C16はそれぞれ炭素原子を表す。環Ar05は、C15およびC16を含み、置換基を有していてもよい炭素数4〜50の芳香環を表す。XおよびXは、それぞれ同一または相異なり、水素原子、水酸基、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルチオ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基または置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルスルホニル基を表す。)
【0058】
上記式(4)中、YおよびZは式(1)におけるYおよび式(2)におけるZと同義であり、その具体例、好ましい例も式(1)におけるYおよび式(2)におけるZの具体例、好ましい例と同様なものをあげることができる。
【0059】
上記式(4)中、C13〜C16は炭素原子を表す。C13−C14結合は、2重結合である。なお、C15−C16結合は、芳香環基中の炭素―炭素結合である。
【0060】
環Ar05は、C15およびC16を含み、置換基を有していてもよい炭素数4〜50の芳香環を表す。環Ar05の具体例およびその好ましい例は、上記の環Ar03または環Ar04の例と同様なものをあげることができる。
【0061】
上記炭素数4〜50の芳香環は置換基を有してもよく、該置換基としては、例えば、水酸基、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルチオ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基および置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルスルホニル基から選ばれる基である。具体例およびその好ましい例は、上記環Ar03または環Ar04における炭素数4〜50の芳香環が有してもよい基として説明したものと、同様なものをあげることができる。
【0062】
上記式(4)中、XおよびXは、それぞれ同一または相異なり、水素原子、水酸基、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルチオ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基または置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルスルホニル基である。XおよびXの具体例およびその好ましい例は、上記X〜Xと、同様なものをあげることができる。
【0063】
上記式(4)で表される含硫黄芳香族化合物[D]の具体例としては、下記(D−001)〜(D−006)をあげることができる。

【0064】
上記含硫黄芳香族化合物[A]〜[D]のうち、好ましくは含硫黄芳香族化合物[B]〜[D]であり、より好ましくは含硫黄芳香族化合物[B]、[D]であり、特に好ましくは含硫黄芳香族化合物[B]である。
【0065】
好ましい含硫黄芳香族化合物[B]として、下記式(6)で表される含硫黄芳香族化合物をあげることができる。


(式(6)中、YおよびZは上記と同義である。R01〜R08は、それぞれ同一または相異なり、水素原子、水酸基、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルチオ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基または置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルスルホニル基を表す。)
【0066】
上記式(6)中、YおよびZは式(1)におけるYおよび式(2)におけるZと同義であり、その具体例、好ましい例も式(1)におけるYおよび式(2)におけるZの具体例、好ましい例と同様なものをあげることができる。
【0067】
上記式(6)中、R01〜R08は、それぞれ同一または相異なり、水素原子、水酸基、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルチオ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基または置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルスルホニル基を表す。
01〜R08は、好ましくは、水素原子、水酸基、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基であり、
より好ましくは、水素原子、シアノ基、カルボキシ基、ホルミル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基であり、
特に好ましくは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基である。
ここでの、ハロゲノ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルチオ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基および置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルスルホニル基から選ばれる基の具体例およびその好ましい例としては、上記環Ar03または環Ar04における炭素数4〜50の芳香環上の置換基と同じものがあげられる。
【0068】
上記式(6)で表される含硫黄芳香族化合物の具体例としては、上記(B−001)〜(B−004)、(B−007)〜(B−013)をあげることができる。
【0069】
本発明の高分子電解質組成物は、上記含硫黄芳香族化合物と高分子電解質とを配合することで調製することができる。その配合量は、高分子電解質が有しているイオン伝導性等の特性を著しく損なうことない範囲で選択される。好適には、高分子電解質100重量部に対して、含硫黄芳香族化合物が0.01〜30重量部であり、0.1〜20重量部であるとより好ましく、0.5〜10重量部であるとさらに好ましい。
【0070】
本発明に用いられる含硫黄芳香族化合物の分子量としては、高分子電解質組成物の調製時における溶液への溶解性もしくは分散性の観点から、80以上1300以下が好ましく、160以上1300以下がより好ましく、170以上1000以下がよりさらに好ましく、200以上800以下が特に好ましい。このような範囲に分子量を有する含硫黄芳香族化合物は高分子電解質組成物の調製時における溶液への溶解性もしくは分散性が高いため好ましい。
【0071】
分析により含硫黄芳香族化合物の分子量を求める場合は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される該数平均分子量を用いることができる。
以下にGPC測定条件を示す。
・カラム:東ソー社製 TSKgel GMHHR−M
・カラム温度:40℃
・移動相溶媒:N,N−ジメチルホルムアミド(LiBrを10mmol/dm3になるように添加)
・溶媒流量:0.5mL/分
・検出:示差屈折率法
・標準物質:東ソー社製 標準ポリスチレン A300、A1000、A2500、A5000、F1、F2、F10、F40、F128、F288
なお、GPC法での分析が困難な場合については、代わりに質量分析法を用いることができる。
【0072】
<高分子電解質>
次に、前記本発明の高分子電解質組成物が含有する高分子電解質について説明する。該高分子電解質としては、Nafion(デュポン社登録商標)、旭化成製のAciplex(旭化成登録商標)、旭硝子製のFlemion(旭硝子登録商標)などのイオン交換基を有するフッ素系高分子電解質や、脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素にスルホ基(−SO3H)、カルボキシル基(−COOH)、ホスホン基(−PO32)、スルホニルイミド基(−SO2NHSO2−)、フェノール性水酸基等のイオン交換基を導入した炭化水素系高分子電解質などが用いられる。炭化水素系高分子電解質はラジカル耐性が低いことが懸念されるので、本発明の高分子電解質組成物が含有する高分子電解質が炭化水素系高分子電解質である場合、本発明が奏する、優れたラジカル耐性を有する高分子電解質膜等が得られるという効果をよりよく享受できる。また、フッ素系高分子電解質に比して、耐熱性等の観点からも炭化水素系高分子電解質は有利である。なお、高分子電解質は、フッ素系高分子電解質と炭化水素系高分子電解質を組み合わせて含有してもよいが、この場合、高分子電解質の全量(100重量%)に対して、炭化水素系高分子電解質が、51重量%以上であると好ましく、70重量%以上であるとより好ましくは、85重量%以上であるとさらに好ましくは、90重量%以上であると特に好ましい。
【0073】
なお、炭化水素系高分子電解質とは、当該高分子電解質を構成する元素重量含有比で表してハロゲン原子が15重量%以下である高分子電解質を意味する。かかる炭化水素系高分子電解質は、前記のフッ素系高分子電解質と比較して安価であるという利点を有するため、より好ましい、特に好適な炭化水素系高分子電解質とは実質的にハロゲン原子を含有していないものであり、このような炭化水素系高分子電解質は燃料電池の作動時に、ハロゲン化水素を発生して、他の部材を腐食させたりする恐れがない。
【0074】
なお、フッ素系高分子電解質とは、当該高分子電解質を構成する元素重量含有比で表してフッ素原子が15重量%を超える高分子電解質を意味する。具体例としては上記例示の市販のフッ素系高分子電解質などをあげることができる。
【0075】
上述のイオン交換基として、酸性のイオン交換基(すなわち、カチオン交換基)又は塩基性のイオン交換基(すなわち、アニオン交換基)があげられる。高いプロトン伝導性を得る観点から、イオン交換基はカチオン交換基であることが好ましく、カチオン交換基を有する高分子電解質を用いることにより、一層発電性能に優れた燃料電池が得られる。カチオン交換基としては、例えば、スルホ基(−SO3H)、カルボキシル基(−COOH)、ホスホン基(−PO32)、スルホニルイミド基(−SO2NHSO2−)、フェノール性水酸基等があげられる。これらの中でも、カチオン交換基としては、スルホ基又はホスホン基がより好ましく、スルホ基が特に好ましい。なお、これらのイオン交換基は、部分的に、あるいは全てが、金属イオンや4級アンモニウムイオン等で交換されて塩を形成していてもよいが、燃料電池用部材として使用する際には、実質的に全てが遊離酸の形態であることが好ましい。これらのイオン交換基は、高分子電解質の主鎖、側鎖の何れか/又は両方に導入されていてもよいが、好ましくは主鎖へ導入されているものがあげられる。
【0076】
以下、好適なイオン交換基を有する炭化水素系高分子電解質に関し詳述する。このような炭化水素系高分子電解質の具体例としては、例えば、下記の(A)〜(F)で表される高分子電解質が挙げられる。
(A)主鎖が脂肪族炭化水素からなる高分子に、イオン交換基が導入された高分子電解質;
(B)主鎖が脂肪族炭化水素からなり、主鎖の一部の水素原子がフッ素原子で置換された高分子に、イオン交換基が導入された高分子電解質;
(C)主鎖が芳香環を有する高分子に、イオン交換基が導入された高分子電解質;
(D)主鎖が、シロキサン基やフォスファゼン基等の無機の単位構造を有する高分子にイオン交換基が導入された高分子電解質;
(E)高分子電解質(A)〜(D)の調製に使用する高分子の主鎖を構成する構造単位から選ばれる2種以上の構造単位を組み合わせた共重合体に、イオン交換基が導入された高分子電解質;
(F)主鎖や側鎖に窒素原子を含む炭化水素系高分子に、硫酸やリン酸等の酸性化合物をイオン結合により導入した高分子電解質
【0077】
なお、以下においては、イオン交換基がスルホ基である高分子電解質を主として例示するが、このスルホ基を別のイオン交換基に置き換えた高分子電解質でもよい。
【0078】
前記(A)の高分子電解質としては、例えば、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリ(α−メチルスチレン)スルホン酸等が挙げられる。
【0079】
前記(B)の高分子電解質としては、特開平9−102322号公報に記載された炭化フッ素系ビニルモノマーと炭化水素系ビニルモノマーとの共重合によって製造された高分子を主鎖とし、スルホ基を有する炭化水素鎖を側鎖とし、共重合様式がグラフト重合であるスルホン酸型ポリスチレン−グラフト−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)が挙げられる。また、米国特許第4,012,303号公報又は米国特許第4,605,685号公報に記載された方法により得られる炭化フッ素系ビニルモノマーと炭化水素系ビニルモノマーとの共重合体に、α,β,β−トリフルオロスチレンをグラフト重合させ、これにスルホ基を導入して固体高分子電解質としたスルホン酸型ポリ(トリフルオロスチレン)−グラフト−ETFEも挙げることができる。
【0080】
前記(C)の高分子電解質は、主鎖に酸素原子等のヘテロ原子を含むものであってもよい。このような高分子電解質としては、例えば、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリ(アリーレンエーテル)、ポリイミド、ポリ((4−フェノキシベンゾイル)−1,4−フェニレン)、ポリフェニルキノキサレン等の単独重合体のそれぞれに、スルホ基が導入されたものが挙げられる。具体的には、スルホアリール化ポリベンズイミダゾール、スルホアルキル化ポリベンズイミダゾール(例えば、特開平9−110982号公報参照)等が挙げられる。前記(C)の高分子電解質は、主鎖が酸素原子等のヘテロ原子で中断されている化合物であってもよく、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリ(アリーレンエーテル)、ポリイミド、ポリ((4−フェノキシベンゾイル)−1,4−フェニレン)、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニルキノキサレン、スルホアリール化ポリベンズイミダゾール、スルホアルキル化ポリベンズイミダゾール、ホスホアルキル化ポリベンズイミダゾール、ホスホン化ポリ(フェニレンエーテル)が挙げられる。このような高分子電解質は、特開平9−110982号公報、J.Appl.Polym.Sci.,18,1969(1974)にも記載されている。
【0081】
前記(D)の高分子電解質としては、例えば、ポリフォスファゼンにスルホ基が導入されたもの等が挙げられる。これらは、Polymer Prep.,41,No.1,70(2000)に記載された方法に準じて容易に製造することができる。
【0082】
前記(E)の高分子電解質は、スルホ基が導入されたランダム共重合体、スルホ基が導入された交互共重合体、スルホ基が導入されたブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0083】
前記(F)の高分子電解質としては、例えば、特表平11−503262号公報に記載されたようなリン酸を含有させたポリベンズイミダゾール等が挙げられる。
【0084】
燃料電池用として良好な耐熱性を有する高分子電解質膜を得るためには、芳香族炭化水素系高分子電解質、特に主鎖に芳香環を有するもの(すなわち、上記(C))が好ましく、より機械強度に優れ、高耐熱性であることからも好ましい。上記(C)の中でも、さらには主鎖を構成する芳香環を有し、且つ該芳香環に直接結合または他の原子もしくは原子団を介して間接的に結合したイオン交換基を有する炭化水素系高分子電解質が好ましい。特に、主鎖を構成する芳香族を有し、さらに芳香環を有する側鎖を有してもよく、主鎖を構成する芳香環か側鎖の芳香環の、どちらかの芳香環に直接結合したイオン交換基を有する炭化水素系高分子電解質が好ましい。
【0085】
さらに、本実施形態の高分子電解質膜に使用する高分子電解質としては、イオン交換基を有する構造単位とイオン交換基を有しない構造単位とからなる共重合体が、高分子電解質膜としたとき、耐水性や機械強度に優れる傾向があるので、好ましい。この2種の構造単位の共重合様式は、ランダム共重合、交互共重合、ブロック共重合、グラフト共重合の何れでもよく、好ましくは、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合であり、より好ましくは、ランダム共重合、ブロック共重合であり、特に好ましくはブロック共重合である。これらの共重合様式の組み合わせでもよい。
【0086】
本発明に適用する高分子電解質においては、プロトン伝導性を担うイオン交換基の導入量は、イオン交換容量で表して、0.5meq/g以上が好ましく、1.0meq/g以上がより好ましく、2.0meq/g以上が更に好ましく、2.7meq/g以上が特に好ましい。また、5.5meq/g以下が好ましく、5.0meq/g以下がより好ましい。イオン交換容量が前記の範囲であると、燃料電池用高分子電解質として、十分なプロトン伝導性が発現され、比較的耐水性も良好であるという利点もある。
【0087】
特に好ましい高分子電解質としては、下記式(11a)、(12a)、(13a)又は(14a)[以下、「式(11a)〜(14a)」と呼ぶことがある]



(式中、Ar1〜Ar9は、それぞれ同一または相異なり、主鎖に芳香環を有し、さらに芳香環を有する側鎖を有してもよい2価の芳香族基を表す。該主鎖の芳香環か側鎖の芳香環の少なくとも1つが該芳香環に直接結合したイオン交換基を有する。
Z、Z’はそれぞれ同一または相異なり−CO−で示される基、−SO2−で示される基のいずれかを表し、X、X’、X”はそれぞれ同一または相異なり−O−で示される基、−S−で示される基のいずれかを表す。Yは直接結合もしくは下記一般式(15)で表される基を表す。pは0、1又は2を表し、q、rはそれぞれ同一または相異なり1、2又は3を表す。)
で示されるイオン交換基を有する構造単位と、
下記式(11b)、(12b)、(13b)又は(14b)[以下、「式(11b)〜(14b)」と呼ぶことがある。]



(式中、Ar11〜Ar19は、それぞれ同一または相異なり側鎖としての置換基を有していてもよい2価の芳香族基を表す。Z、Z’はそれぞれ同一または相異なり−CO−で示される基、−SO2−で示される基のいずれかを表し、X、X’、X”はそれぞれ同一または相異なり−O−で示される基、−S−で示される基のいずれかを表す。Yは直接もしくは下記一般式(15)で表される基を表す。p’は0、1又は2を表し、q’、r’はそれぞれ同一または相異なり1、2又は3を表す。)
で表される、イオン交換基を有しない構造単位と、を有し、その共重合様式がランダム共重合、ブロック共重合、ブロック共重合又はグラフト共重合のいずれか、もしくはこれらの共重合様式を組合わせた高分子電解質が例示される。

(式中、R1及びR2はそれぞれ同一または相異なり、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基又は置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアシル基を表し、R1とR2とが連結して環を形成していてもよい。R1とR2とが連結して形成される環を有する式(15)の基としては、シクロヘキシリデン基などの炭素数5〜20の2価の環状炭化水素基があげられる。)
【0088】
式(11a)〜(14a)におけるAr1〜Ar9は、2価の芳香族基を表す。ここで、2価の芳香族基とは、芳香族化合物から、2個の水素原子を取り去った残基である。以降、同様の意味で、「2価の芳香族基」と言う言葉を用いる。2価の芳香族基としては、例えば、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン等の2価の単環性芳香族基、1,3−ナフタレンジイル、1,4−ナフタレンジイル、1,5−ナフタレンジイル、1,6−ナフタレンジイル、1,7−ナフタレンジイル、2,6−ナフタレンジイル、2,7−ナフタレンジイル等の2価の縮環系芳香族基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイル、ピロール、2H−ピロール、イミダゾール、ピラゾール、イソオキサゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、インドリジン、イソインドール、3H−インドール、インドール、1H−インダゾール、プリン、4H−キノリジン、キノリン、イソキノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、カルバゾール、カルボリン、フェナントリジン、アクリジン、ペリミジン、フェナントロリン、フェナジン、フラザン、フェノキサジン、ピロリジン、ピロリン、イミダゾリン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、ピラゾリン、ピペリジン、ピペラジン、インドリン、イソインドリン、キヌクリジン、オキサゾール、ベンゾオキサゾール、1,3,5−トリアジン、ブリン、テトラゾール、テトラジン、トリアゾール、フェナルサジン、ベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾールからなる群より選ばれる少なくとも1種から芳香環上の水素原子を2個取り去って得られるヘテロ芳香族基か、下記式(N−01)〜(N−07)で表される構造からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を含むヘテロ芳香族基等があげられる。好ましくは2価の単環性芳香族基、2価の縮環系芳香族基であり、より好ましくは2価の単環性芳香族基である。


【0089】
また、式(11a)〜(14a)におけるAr1〜Ar9で表される芳香族基の芳香環上の水素原子は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基又は置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアシル基で置換されていてもよい。
【0090】
式(11a)〜(14a)におけるAr1〜Ar9で表される芳香族基は、芳香環に少なくとも一つのイオン交換基を有する。これらのイオン交換基は、高分子電解質の主鎖、側鎖の何れか/又は両方に導入されていてもよいが、好ましくは主鎖を構成する芳香環に少なくとも一つのイオン交換基を有する芳香族基である。該イオン交換基として、上述のように酸性のイオン交換基が好ましく、酸性のイオン交換基の中でも、スルホ基又はホスホン基がより好ましく、スルホ基が特に好ましい。
【0091】
また、式(14a)で表されるイオン交換基を有する構造単位の例の一つとして、下記式(14a−1)で表される構造単位をあげることができる。



(上記式(14a−1)中、Ar110、Ar120、Ar130は、それぞれ独立に、2価の芳香族基を示し、該芳香環上の水素原子はフッ素原子で置換されていてもよい。Yは、−CO−、−SO−、−SO−、−CONH−,−COO−、−(CFu000−(u000は1〜10の整数である)、−C(CF3)2−または直接結合を示す。Z000は、−O−、−S−、直接結合、−CO−、−SO−、−SO−、−(CHl000−(l000は1〜10の整数である)または−C(CH−を示す。R110は、直接結合、−O(CHp000−、−O(CFp000−、−(CHp000−または−(CFp000−を示す(p000は、1〜12の整数を示す)。R120、R130は、それぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属原子または炭化水素基を示す。ただし、上記式中に含まれる全てのR120およびR130のうち少なくとも1個は水素原子である。x100は、0〜4の整数。x200は、1〜5の整数。a000は、0〜1の整数。b000は、0〜3の整数を示す。)
【0092】
式(14a−1)におけるAr110、Ar120およびAr130は、2価の芳香族基を表す。このような2価の芳香族基としては、式(11a)〜(14a)におけるAr1〜Ar9と同様の2価の芳香族基があげられる。
【0093】
120、R130は、それぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属原子または炭化水素基を示す。アルカリ金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ルビジウムがあげられ、炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n − プロピル基、i s o − プロピル基、t e r t − ブチル基、i s o− ブチル基、n − ブチル基、s e c − ブチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチル基、アダマンタンメチル基、2 − エチルヘキシル基、ビシクロ[ 2 .2 .1 ] へプチル基、ビシクロ[ 2 .2 .1 ] へプチルメチル基、テトラヒドロフルフリル基、2 − メチルブチル基、3 ,3 − ジメチル− 2 ,4 − ジオキソランメチル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチルメチル基、ビシクロ[ 2 .2 .1 ] ヘプチルメチル基などの直鎖状炭化水素基、分岐状炭化水素基、脂環式炭化水素基、複素環を有する炭化水素基などが挙げられる。これらのうちn − ブチル基、ネオペンチル基、テトラヒドロフルフリル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチルメチル基、ビシクロ[ 2 .2 .1 ] ヘプチルメチル基が好ましく、さらにはネオペンチル基が好ましい。なお、R120、R130は、水素原子であることが好ましい。
【0094】
上記式(14a−1)で表される構造単位は、さらに下記式(14a−2)で表される構造単位であることが好ましい。



(式(14a−2)中、Y001は−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF2)l−(ここでのlは1〜10の整数である)、−C(CF32−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Z001は直接結合または、−(CH2)l−(ここでのlは1〜10の整数である)、−C(CH32−、−O−、−S−、−CO−、−SO2−からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を示し、Ar001は−SO3Hまたは−O(CH2)pSO3Hまたは−O(CF2)pSO3Hで表される置換基を有する芳香族基を示す。pは1〜12の整数を示し、m001は0〜10の整数を示し、n001は0〜10の整数を示し、k001は1〜4の整数を示す。)
【0095】
上記式(14a−2)で表されるイオン交換基を有する構造単位の具体例としては、後述の式(4a−13)〜(4a−20)で表される構造単位をあげることができる
【0096】
一方、式(11b)〜(14b)におけるAr11〜Ar19は、互いに独立なに2価の芳香族基を表す。このような2価の芳香族基としては、例えば、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン等の2価の単環性芳香族基、1,3−ナフタレンジイル、1,4−ナフタレンジイル、1,5−ナフタレンジイル、1,6−ナフタレンジイル、1,7−ナフタレンジイル、2,6−ナフタレンジイル、2,7−ナフタレンジイル等の2価の縮環系芳香族基、ピリジンジイル、キノキサリンジイル、チオフェンジイル、ピロール、2H−ピロール、イミダゾール、ピラゾール、イソオキサゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、インドリジン、イソインドール、3H−インドール、インドール、1H−インダゾール、プリン、4H−キノリジン、キノリン、イソキノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、カルバゾール、カルボリン、フェナントリジン、アクリジン、ペリミジン、フェナントロリン、フェナジン、フラザン、フェノキサジン、ピロリジン、ピロリン、イミダゾリン、イミダゾリジン、ピラゾリジン、ピラゾリン、ピペリジン、ピペラジン、インドリン、イソインドリン、キヌクリジン、オキサゾール、ベンゾオキサゾール、1,3,5−トリアジン、ブリン、テトラゾール、テトラジン、トリアゾール、フェナルサジン、ベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾールからなる群より選ばれる少なくとも1種の芳香環上の水素原子を2個取り去って得られるヘテロ芳香族基、及び下記式(N−01)〜(N−07)で表される構造からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造を含むヘテロ芳香族基等があげられる。好ましくは2価の単環性芳香族基、2価の縮環系芳香族基であり、より好ましくは2価の単環性芳香族基である。


【0097】
また、Ar11〜Ar19で表される芳香族基の芳香環上の水素原子は、フッ素原子、ホルミル基、シアノ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基又は置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアシル基で置換されていてもよい。なお、ここでいう「置換基を有していてもよい」の置換基とはイオン交換基を包含するものではない。
【0098】
ここで、前述の2価の芳香族基(式(11a)〜(14a)におけるAr1〜Ar9で表される芳香族基及び式(11b)〜(14b)におけるAr11〜Ar19で表される芳香族基)の置換基を以下に例示する。
【0099】
置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ブチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ペンチル基、2,2−ジメチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−メチルペンチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、イコシル基等の炭素数1〜20のアルキル
基、及びこれらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が置換され、その総炭素数が20以下であるアルキル基が挙げられる。
【0100】
置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ペントキシ基、2,2−ジメチルプロポキシ基、シクロペントキシ基、n−ヘキソキシ基、シクロヘキソキシ基、2−メチルペントキシ基、2−エチルヘキソキシ基、ドデシロキシ基、ヘキサデシロキシ基、イコシロキシ基等の炭素数1〜20のアルコキシ基、及びこれらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が置換され、その総炭素数が20以下であるアルコキシ基が挙げられる。
【0101】
置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、フェナントレニル基、アントラセニル基等のアリール基、及びこれらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が置換され、その総炭素数が20以下であるアリール基が挙げられる。
【0102】
置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基、フェナントレニルオキシ基、アントラセニルオキシ基等のアリールオキシ基、及びこれらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が置換され、その総炭素数が20以下であるアリールオキシ
基が挙げられる。
【0103】
置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、1−ナフトイル基、2−ナフトイル基等の炭素数2〜20のアシル基、及びこれらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が置換され、その総炭素数が21以下であるアシル基が挙げられる。
【0104】
芳香環置換基は、フェニル基、ナフチル基、フェナントレニル基、アントラセニル基等のアリール基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基、フェナントレニルオキシ基、アントラセニルオキシ基等のアリールオキシ基、ベンゾイル基、1−ナフトイル基、2−ナフトイル基等の芳香環を有するアシル基であると、ポリマーの耐熱性が良好となる傾向があり、より実用的な燃料電池用部材が得られるため好ましい。
【0105】
芳香環を有するアシル基を芳香環置換基として有する重合体を含む高分子電解質においては、該アシル基を有する2つの構造単位が隣接し、該2つの構造単位にあるアシル基同士が結合したり、このようにしてアシル基同士が結合した後、転位反応を生じたり、する場合がある。また、このように芳香環置換基同士が結合したり、結合後に転位反応を生じたりするような反応が生じたか否かは、例えば13C−核磁気共鳴スペクトルの測定により確認することができる。
【0106】
該炭化水素系高分子電解質は、イオン交換基を有する構造単位及び、イオン交換基を有しない構造単位とを有し、イオン交換基を有する構造単位の密な相が膜厚方向に連続相を形成できれば、よりプロトン伝導性に優れる高分子電解質膜が得られるといった利点があるので好ましい。
【0107】
本発明において、好適な高分子電解質は、前記式(11a)〜(14a)で表される構造単位からなる、イオン交換基を有する構造単位と、前記式(11b)〜(14b)で表される構造単位からなる、イオン交換基を有しない構造単位とを有するものである。さらに好適なイオン交換基を有する構造単位とイオン交換基を有しない構造単位の組み合わせとしては、下記の表1の<a>〜<m>に示す構造単位の組み合わせをあげることができる。
【0108】
【表1】

【0109】
更に好ましくは、<b>、<c>、<d>、<g>、<h>、<i>、<j>、<l>、又は<m>であり、より更に好ましくは<g>、<h>、<l>、又は<m>であり、<g>、<h>、<l>が特に好ましい。
【0110】
好適な共重合体の例として、以下に示すイオン交換基を有する構造単位の群から選ばれる1種又は2種以上の構造単位と、以下に示すイオン交換基を有しない構造単位の群から選ばれる1種又は2種以上の構造単位と、からなる共重合体をあげることができる。また、これら構造単位同士は、直接結合で結合されているか、適当な原子又は原子団で結合された形態でもよい。ここでいう構造単位同士を結合する原子又は原子団の典型的な例としては、2価の芳香族基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はこれらを組み合わせてなる2価の基をあげることができる。
【0111】
(イオン交換基を有する構造単位)

【0112】

【0113】
(イオン交換基を有しない構造単位)

【0114】

【0115】

【0116】
式(4b−15)〜(4b−32)中、r000は0または1以上の整数を示す。r000は、好ましくは100以下であり、 より好ましくは1以上80以下である。
【0117】
前記例示の中でも、イオン交換基を有する構造単位を表す式としては、(4a−1)及び/又は、(4a−2)及び/又は、(4a−3)及び/又は、(4a−4)及び/又は、(4a−5)及び/又は、(4a−6)及び/又は、(4a−7)及び/又は、(4a−8)及び/又は、(4a−9)及び/又は、(4a−10)及び/又は、(4a−11)及び/又は、(4a−12)が好ましく、
(4a−10)及び/又は、(4a−11)及び/又は、(4a−12)がより好ましく、
(4a−11)及び/又は、(4a−12)が特に好ましい。
【0118】
前記例示の中でも、イオン交換基を有しない構造単位を表す式としては、
(4b−1)及び/又は、(4b−2)及び/又は、(4b−3)及び/又は、(4b−4)及び/又は、(4b−5)及び/又は、(4b−6)及び/又は、(4b−7)及び/又は、(4b−8)及び/又は、(4b−9)及び/又は、(4b−10)及び/又は、(4b−11)、(4b−12)及び/又は、(4b−13)及び/又は及び/又は、(4b−14)が好ましく、
(4b−2)及び/又は、(4b−3)及び/又は、(4b−9)及び/又は、(4b−10)及び/又は、(4b−13)及び/又は、(4b−14)がより好ましく、
(4b−2)及び/又は、(4b−3)及び/又は、(4b−13)及び/又は、(4b−14)がよりさらに好ましく、
(4b−2)及び/又は、(4b−3)及び/又は、(4b−14)が特に好ましい。
【0119】
該炭化水素系高分子電解質は、イオン交換基を有する構造単位と、イオン交換基を有さない構造単位とを有するものであり、この2種の構造単位の共重合様式は、ランダム共重合、交互共重合、ブロック共重合、グラフト共重合の何れでもよく、これらの共重合様式の組み合わせでもよい。好ましくは、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合であり、より好ましくは、ランダム共重合、ブロック共重合であり、特に好ましくはブロック共重合である。
【0120】
本発明において、好適なブロック共重合体は、前記式(11a)〜(14a)で表される構造単位からなる、イオン交換基を有するセグメントと、前記式(11b)〜(14b)で表される構造単位からなる、イオン交換基を実質的に有しないセグメントとを有するものである。また、好適なイオン交換基を有するセグメントを構成する構造単位とイオン交換基を実質的に有しないセグメントを構成する構造単位の組み合わせとしては、下記の表2の<a>〜<m>に示すセグメントの組み合わせをあげることができる。
【0121】
【表2】

【0122】
更に好ましくは、<b>、<c>、<d>、<g>、<h>、<i>、<j>、<l>、又は<m>であり、より更に好ましくは<g>、<h>、<l>、又は<m>であり、<g>、<h>、<l>が特に好ましい。
【0123】
前記例示の中でも、イオン交換基を有するセグメントを構成する繰り返し単位に用いられる構造単位を表す式としては(4a−1)及び/又は(4a−2)及び/又は(4a−3)及び/又は(4a−4)及び/又は(4a−5)及び/又は(4a−6)及び/又は(4a−7)及び/又は(4a−8)及び/又は(4a−9)及び/又は(4a−10)及び/又は(4a−11)及び/又は(4a−12)が好ましく、
(4a−10)及び/又は(4a−11)及び/又は(4a−12)がより好ましく、(4a−11)及び/又は(4a−12)が特に好ましい。
【0124】
本発明に係る上記ブロック共重合体の好ましい形態の一つとして、イオン交換基を有するセグメントの主鎖が、複数の芳香環が直接連結してなるポリアリーレン構造を有することがあげられる。そのようなセグメントの構造単位として、好ましくは前述の(4a−10)及び/又は(4a−11)及び/又は(4a−12)及び/又は(4a−13)及び/又は(4a−14)及び/又は(4a−15)及び/又は(4a−16)及び/又は(4a−17)及び/又は(4a−18)及び/又は(4a−19)及び/又は(4a−20)があげられ、
より好ましくは(4a−10)及び/又は(4a−11)及び/又は(4a−12)があげられ、
特に好ましくは(4a−11)及び/又は(4a−12)があげられる。
このような構造単位を繰り返し単位を含むセグメント(すなわち、イオン交換基を有するセグメント)を有する高分子電解質、特に、このような繰り返し単位からなるセグメントを有する高分子電解質は、優れたイオン伝導性を発現できるものであり、当該セグメントがポリアリーレン構造となるために化学的安定性も比較的良好となる傾向がある。
ここで「ポリアリーレン構造」とは、主鎖を構成している芳香環同士が直接結合で結合されている形態であり、具体的には、該芳香環同士の結合の総数を100%としたとき、直接結合の割合が80%以上の構造であると好ましく、90%以上の構造であるとより好ましく、95%以上の構造であるとさらに好ましい。なお、直接結合で結合されている形態以外の形態とは、芳香環同士が2価の原子又は2価の原子団で結合している形態である。
【0125】
イオン交換基を有しないセグメントを構成する繰り返し単位に用いられる構造単位を表す式としては、(4b−1)及び/又は(4b−2)及び/又は(4b−3)及び/又は(4b−4)及び/又は(4b−5)及び/又は(4b−6)及び/又は(4b−7)及び/又は(4b−8)及び/又は(4b−9)及び/又は(4b−10)及び/又は(4b−11)及び/又は(4b−12)及び/又は(4b−13)及び/又は及び/又は(4b−14)が好ましく、(4b−2)及び/又は(4b−3)及び/又は(4b−9)及び/又は(4b−10)及び/又は(4b−13)及び/又は(4b−14)がより好ましく、(4b−2)及び/又は(4b−3)及び/又は(4b−13)及び/又は(4b−14)がよりさらに好ましく、(4b−2)及び/又は(4b−3)及び/又は(4b−14)が特に好ましい。
【0126】
また、イオン交換基を有するセグメントとイオン交換基を実質的に有しないセグメントとは、直接結合している形態でもよく、適当な原子又は原子団で連結している形態でもよい。ここでいうセグメント同士を結合する原子又は原子団の典型的な例としては、2価の芳香族基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はこれらを組み合わせてなる2価の基をあげることができる。
【0127】
好適なブロック共重合体の例として、上記に示すイオン交換基を有する構造単位の群から選ばれる1種又は2種以上の構造単位を含むセグメント(すなわち、イオン交換基を有するセグメント)と、上記に示すイオン交換基を有しない構造単位の群から選ばれる1種又は2種以上の構造単位を含むセグメント(すなわち、イオン交換基を実質的に有しないセグメント)と、からなるブロック共重合体をあげることができる。
【0128】
ここで、「イオン交換基を有するセグメント」とは、イオン交換基が、該セグメントを構成する構造単位1個あたりで平均0.5個以上含まれているセグメントを意味し、構造単位1個あたりでイオン交換基が平均1.0個以上含まれているとより好ましい。
一方、「イオン交換基を実質的に有しないセグメント」とは、イオン交換基が、該セグメントを構成する構造単位1個あたりで平均0.5個未満であるセグメントを意味し、構造単位1個あたりでイオン交換基の個数が平均0.1個以下であるとより好ましく、平均0.05個以下であるとさらに好ましい。
典型的には、イオン交換基を有するセグメントとイオン交換基を実質的に有しないセグメントとが、直接結合で結合されているか、適当な原子又は原子団で結合された形態のブロック共重合体である。
【0129】
上記式(11a)〜(14a)で表される構造単位から選ばれる1種以上の構造単位からなるセグメントの重合度は2以上であり、3以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上が更に好ましい。また、かかるセグメントの重合度は1000以下が好ましく、500以下が好ましい。この重合度が2以上、好ましくは5以上であれば、燃料電池用の高分子電解質として、十分なプロトン伝導度を発現し、この重合度が1000以下であれば、製造がより容易である利点がある。
【0130】
また、式(11b)〜(14b)で表される構造単位から選ばれる構造単位からなるセグメントの重合度は1以上であり、2以上が好ましく、3以上がより好ましい。また、セグメントの重合度は100以下が好ましく、90以下がより好ましく、80以下が更に好ましい。このような範囲内であれば、燃料電池用の高分子電解質として、十分な機械強度を有し、製造が容易であるので好ましい。
【0131】
また、本発明で用いられる炭化水素系高分子電解質の分子量は、ポリスチレン換算の数平均分子量で表して、5000〜1000000であることが好ましく、10000〜800000であることがより好ましく、10000〜600000であることがより更に好ましく、中でも15000〜400000であることが特に好ましい。このような範囲の分子量の高分子電解質を用いることにより、後述の方法にて作成される高分子電解質膜は、その膜の形状を安定的に維持できる傾向がある。該数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される。
【0132】
<高分子電解質膜>
本発明の高分子電解質膜は、上記の含硫黄芳香族化合物と高分子電解質とを含有する高分子電解質組成物を含むことを特徴とする。高分子電解質膜は、以下の(i)〜(iv)の工程を含む溶液キャスト法により製造される高分子電解質膜が好ましい。
(i)上述のような高分子電解質組成物を、高分子電解質および/または高分子電解質組成物を溶解し得る有機溶媒に溶解し、高分子電解質溶液を調製する工程;
(ii)前記(i)で得られた高分子溶液を、比較的平滑な表面を有する支持基材上に流延塗工し、該支持基材上に高分子電解質流延膜を形成する工程;
(iii)前記(ii)で支持基材上に形成された高分子電解質流延膜から、前記有機溶媒を除去して、該支持基材上に高分子電解質膜を形成する工程;
(iv)前記(iii)の工程を行った後、支持基材と高分子電解質膜とを分離する工程
【0133】
ここで、前記溶液キャスト法に関する各工程(i)〜(iv)に関し順次説明する。
まず、(i)では上述のように高分子電解質溶液を調製する。ここで該高分子電解質溶液調製に使用する有機溶媒としては、使用する1種又は2種以上の高分子電解質を溶解し得るものが選ばれる。また、高分子電解質および/または高分子電解質組成物に加えて、添加剤などの成分を用いる場合は、これら他の成分も共に溶解し得る溶媒が好ましい。
使用する有機溶媒は、使用する高分子電解質および/または高分子電解質組成物を溶解し得る溶媒であり、好ましくは、この高分子電解質および/または高分子電解質組成物を、25℃で1重量%以上の濃度で溶解し得る有機溶媒である。より好適には、高分子電解質および/または高分子電解質組成物を5〜50重量%の濃度で溶解し得る有機溶媒を用いる。
また、この有機溶媒は、前記支持基材上に前記高分子電解質流延膜を形成した後に、加熱処理により除去し得る程度の揮発性が必要である。ただし、該有機溶媒は少なくとも1種、101.3kPa(1気圧)における沸点が150℃以上である有機溶媒を含むことが好ましい。前記高分子電解質および/または高分子電解質組成物を溶解し得る有機溶媒として沸点が150℃未満の有機溶媒のみを用いると、後述する工程(iii)で高分子電解質流延膜から有機溶媒を除去して高分子電解質膜を形成しようとすると、形成した高分子電解質膜に凹凸状の外観不良が発生するおそれがある。これは、沸点が150℃未満である有機溶媒では、前記高分子電解質流延膜から急激に有機溶媒が揮発してしまうためである。
【0134】
前記高分子電解質溶液の調製に好適な有機溶媒としては、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ-ブチロラクトン(GBL)などの非プロトン性極性溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの塩素系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのアルキレングリコールモノアルキルエーテルが挙げられる。これらは単独で用いることもできるが、2種以上の有機溶媒を混合して用いることもできる。中でも、非プロトン性極性溶媒を含む有機溶媒が好ましく、実質的に非プロトン性極性溶媒からなる有機溶媒が特に好ましい。ここでいう「実質的に非プロトン性極性溶媒からなる有機溶媒」とは企図せず含有される水分などの存在を排除するものではない。該非プロトン性極性溶媒は、支持基材に対して親和性が比較的小さく、該支持基材に非プロトン性極性溶媒が吸収され難いという利点もある。また、上述の好適な高分子電解質であるブロック共重合体の溶解性が高いという点では、該非プロトン性極性溶媒の中でも、DMSO、DMF、DMAc、NMP、GBL又はこれらから選ばれる2種以上の混合溶媒が好ましい。
【0135】
次に、工程(ii)について説明する。
この工程は、前記工程(i)で得られた高分子電解質溶液を支持基材上に流延塗工する工程である。該流延塗工の方法としては、ローラーコート法、スプレイコート法、カーテンコート法、スロットコート法、スクリーン印刷法などの各種手段を用いることができるが、好ましくは、ダイと呼ばれる一定クリアランスが設けられた金型により、所定の幅及び厚みに高分子電解質溶液を賦型する手段があげられる。このようにして支持基材上に形成された高分子電解質流延膜は、塗工時に高分子電解質溶液中の有機溶媒の一部が揮発するために膜の形状を有するものとなる。この際の高分子電解質流延膜の膜厚は、3〜50μmになるようにしておくことが好ましい。このような膜厚の高分子電解質流延膜を得るには、使用する高分子電解質溶液の高分子電解質濃度、塗工装置の塗出量などを適宜調整すればよい。また、該支持基材が連続的に走行する基材である場合は、その支持基材の走行速度等で調節することもできる。
【0136】
工程(ii)で使用する支持基材としては、流延塗工に供する高分子電解質溶液に対して十分な耐久性を有し、後述する工程(iii)での処理条件に対しても耐久性を有する材質からなるものが選択される。この場合の耐久性とは、高分子電解質溶液によって支持基材自身が実質的に溶け出さないことや、工程(iii)の処理条件により、支持基材自身が膨潤や収縮を起こさず寸法安定性がよいことなどを意味するものである。
【0137】
該支持基材としては、たとえばガラス板;SUS箔、銅箔等の金属箔;ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム等のプラスチックフィルムをあげることができる。また、このプラスチックフィルムには、上述したような耐久性を著しく損なわない範囲で、そのフィルム表面に対し、UV処理、離型処理、エンボス処理などの表面処理を行ってもよい。
【0138】
次に工程(iii)に関し説明する。
この工程は前記工程(ii)において前記支持基材上に形成された高分子電解質流延膜に含有される前記有機溶媒を除去して、該支持基材上に高分子電解質膜を形成する工程である。このような除去には、乾燥又は洗浄溶媒による洗浄が推奨される。このような乾燥と洗浄とを組み合わせて、前記有機溶媒を除去することがより一層好ましく、乾燥と洗浄とを組み合わせる場合には、まず乾燥を行って、前記支持基材上に形成された高分子電解質流延膜に含有される前記有機溶媒のほとんど全てを除去した後、洗浄溶媒による洗浄を行うことが特に好ましい。
【0139】
ここでは、工程(iii)として好適な方法である乾燥と洗浄とを、この順で実施することについて詳述する。工程(ii)を経て得られた支持基材上に形成された高分子電解質流延膜から有機溶媒を乾燥除去するには、加熱、減圧、通風などの処理を採用することができるが、生産性が良好である点と、操作が容易である点で加熱処理が好ましい。この場合、高分子電解質流延膜が形成された支持基材(以下、場合により「第1の積層フィルム」という)を、直接加熱、温風接触などにより加熱処理する。高分子電解質流延膜中の高分子電解質を著しく損なわない点で、温風処理が特に好ましい。たとえば、該第1の積層フィルムが長尺状であり、かかる長尺状の第1の積層フィルムを連続的に処理する場合は、乾燥炉中に該第1の積層フィルムを通過させればよい。このときの乾燥炉は、40〜150℃の範囲、好ましくは50〜140℃に温度設定された温風を、該第1の積層フィルムの通過方向に対し垂直方向及び/又は対向方向に沿って送風する。こうすることにより、支持基材上にある高分子電解質流延膜から有機溶媒等の揮発成分が乾燥(蒸発)除去され、該支持基材上に高分子電解質膜が形成された第2の積層フィルムが形成される。
【0140】
このようにして得られた第2の積層フィルムの高分子電解質膜中には、まだ若干量の有機溶媒が含有されているため、この有機溶媒を洗浄溶媒で洗浄する。洗浄溶媒で洗浄することにより、外観等に優れる高分子電解質膜が得られ易い。前記高分子電解質溶液の調製において好適な有機溶媒である、DMSO、DMF、DMAc、NMP又はGBL、あるいはこれらの組合せからなる混合溶媒を使用した場合、前記洗浄溶媒には純水、特に超純水を使用することが好ましい。
【0141】
上述のように、第1の積層フィルムが長尺状であって連続的に走行している場合、乾燥炉を通過して連続的に形成された第2の積層フィルムは、たとえば洗浄溶媒を充填した洗浄槽中を通過させることにより洗浄することができる。また、乾燥炉を通過して連続的に形成された第2の積層フィルムを適当な巻芯に巻き取って巻取り体として後、この巻取り体を、洗浄処理を担う洗浄装置へと移し変え、移し変えた巻取り体から第2の積層フィルムを洗浄槽へと送り出す形式で洗浄を行うこともできる。こうすることで、第2の積層フィルムにある高分子電解質膜の有機溶媒含有量はより一層低減することが可能である。
【0142】
かくして得られた第2の積層フィルムから支持基材を剥離などによって除去することにより高分子電解質膜は得られる。この高分子電解質膜は好適な溶液キャスト法により得られたものであるため、実質的に無多孔質の膜となる。なお、ここでいう実質的に無多孔質とは、ボイドなどの微小貫通孔が高分子電解質膜に形成されていないことを意味する。ただし、この高分子電解質膜は、燃料電池の作動に支障のない程度の少数量のボイド又は小さい径のボイドであれば、当該ボイドを有するような膜であってもよい。
また、上述の溶液キャスト法による高分子電解質膜製造では、主として支持基材が連続的に走行している場合を説明したが、無論枚葉の支持基材を用いても、高分子電解質膜を得ることができる。この場合、枚葉の支持基材上に塗工された高分子電解質溶液は、適当な乾燥炉中に保管することで、有機溶媒を除去することができるし、このようにして得られた枚葉の第2の積層フィルムは、洗浄溶媒を備えた洗浄槽に浸漬等することで洗浄処理を行うことができる。
また、洗浄後の第2の積層フィルムは、支持基材を除去した後、残存又は付着している洗浄溶媒を乾燥除去させてもよいし、洗浄後の第2の積層フィルムをそのまま加熱等することで残存又は付着している洗浄溶媒を乾燥除去した後、支持基材を除去してもよい。
【0143】
以上、前記溶液キャスト法による実質的に無多孔質の高分子電解質膜の製造方法を説明したが、既述のとおり、この高分子電解質膜には上記の含硫黄芳香族化合物と高分子電解質以外の成分(以下、「その他の成分」と記すことがある)を含有させることができる。
その他の成分としては、通常の高分子に使用される可塑剤、安定剤、離型剤、保水剤等の添加剤があげられる。
なお、これらその他の成分は、溶液キャスト法を用いる際に、使用する高分子電解質溶液を調製する際に、該高分子電解質溶液にこれらの成分を添加しておけばよい。
【0144】
<燃料電池>
次に、前記本発明の高分子電解質膜を有する燃料電池について説明する。本発明の燃料電池は、本発明の高分子電解質膜の両面に、触媒および集電体としての導電性物質を接合することにより製造することができる。
ここで触媒としては、水素又は酸素との酸化還元反応を活性化できるものであれば特に制限はなく、公知の触媒を用いることができるが、白金又は白金系合金の微粒子を触媒として用いることが好ましい。白金又は白金系合金の微粒子はしばしば活性炭や黒鉛などの粒子状または繊維状のカーボンに担持されて用いられることもある。
また、カーボンに担持された白金又は白金系合金を、パーフルオロアルキルスルホン酸樹脂の溶剤と共に混合して調製したペースト(触媒インク)を、ガス拡散層に塗布・乾燥することにより、ガス拡散層と積層一体化した触媒層が得られる。得られた触媒層を、高分子電解質膜に接合させれば、燃料電池用の膜−電極接合体を得ることができる。具体的な方法としては例えば、J. Electrochem. Soc.: Electrochemical Science and Technology, 1988, 135(9), 2209 に記載されている方法等の公知の方法を用いることができる。また、触媒インクを、高分子電解質膜に塗布し、乾燥して、この膜の表面上に、直接触媒層を形成させても、燃料電池用の膜−電極接合体を得ることができる。
ここで、触媒層に使用する高分子電解質として、前記のパーフルオロアルキルスルホン酸樹脂の代わりに、本発明の高分子電解質および/または高分子電解質組成物を用い、触媒組成物とすることもできる。この触媒組成物を用いて得られる触媒層は、前記の高分子電解質膜と同様に、良好な長期安定性を発現できるため、触媒層として好適である。
集電体としての導電性物質に関しても公知の材料を用いることができるが、多孔質性のカーボン織布、カーボン不織布またはカーボンペーパーが、原料ガスを触媒へ効率的に輸送するために好ましい。
このようにして製造された本発明の燃料電池は、燃料として水素ガス、改質水素ガス、メタノールを用いる各種の形式で使用可能である。
【0145】
なお、本発明の高分子電解質膜を用いた膜−電極接合体および燃料電池においては、高分子電解質膜中に導入した含硫黄芳香族化合物が触媒層へ移行することもある。このような移行は、該高分子電解質膜の両面に触媒および集電体としての導電性物質を接合する工程および/又は燃料電池の運転時などに起こることがある。なお、ここでの運転とは、燃料電池のエージング、起動、作動、および停止の何れかをさす。このような形態も、前記の高分子電解質膜および前記の触媒層と同様に、良好な長期安定性を発現できるため、好適である。
【実施例】
【0146】
以下に本発明を実施例により説明する。
【0147】
実施例1
<チアントレンを含む膜の製造>
高分子電解質としては、特開2009−275219号公報記載の方法を参考にして、下記

で示される繰り返し単位からなる、スルホン酸基を有するセグメント(イオン交換基を有するセグメント)と、
下記


(ここでnは繰返し単位数を示す。)

で示される、イオン性基を実質的に有しないセグメントとを有するブロック共重合体A(イオン交換容量=2.5meq/g、数平均分子量1.52×10、重量平均分子量3.19×10)を準備した。このときの分子量の測定条件を以下に示す。

分子量の測定:
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、下記条件でポリスチレン換算の数平均分子量、重量平均分子量を測定した。なお、GPCの分析条件としては、下記の条件を用いた。

・カラム:東ソー社製 TSKgel GMHHR−M
・カラム温度:40℃
・移動相溶媒:N,N−ジメチルホルムアミド(LiBrを10mmol/dm3になるように添加)
・溶媒流量:0.5mL/分
・検出:示差屈折率

このブロック共重合体Aをジメチルスルホキシドに約10重量%の濃度になるように溶解させ、併せてここにチアントレン(ブロック共重合体A/チアントレンの重量比=95重量%/5重量%)を溶解させることで高分子電解質溶液を調製した。次いで、この高分子電解質溶液をPET基材上に均一に塗り広げ、その後高分子電解質溶液を90℃で常圧乾燥した。得られる乾燥塗膜を2N硫酸に浸漬、洗浄した後、イオン交換水で洗浄し、更に常温乾燥し、PET基材から剥離することで高分子電解質膜Aを得た。
【0148】
実施例2<チアントレンを含む膜の燃料電池評価>
(触媒インクの製造)
市販の5重量%ナフィオン溶液(溶媒:水と低級アルコールの混合物)7mLに、白金が担持された白金担持カーボン(SA50BK、エヌ・イー・ケムキャット製、白金含有量;50重量%)を1.00g投入し、さらにエタノールを55g、水を6.4g加える。得られた混合物を1時間超音波処理した後、スターラーで5時間攪拌して触媒インクを得た。
【0149】
(膜−電極接合体の製造)
次に、高分子電解質膜Aの片面の中央部における3cm角の領域に、スプレー法により上記の触媒インクを塗布した。この際、吐出口から膜までの距離は6cmとし、ステージ温度は75℃に設定した。同様の方法で重ね塗りを行った後、塗布物をステージ上に15分間放置し、これにより溶媒を除去してアノード触媒層を形成させた。得られたアノード触媒層は、その組成と塗布重量から算出して0.6mg/cm2の白金を含有するものであった。続いて、高分子電解質膜のアノード触媒層と反対側の面にも同様に触媒インクを塗布して、0.6mg/cm2の白金を含むカソード触媒層を形成した。これにより、膜−電極接合体を得た。
【0150】
(燃料電池セルの製造)
上記の膜−電極接合体の両外側に、ガス拡散層としてカーボンクロスと、ガス通路用の溝を切削加工したカーボン製セパレータとをこの順で配置し、さらにその外側に集電体及びエンドプレートを順に配置し、これらをボルトで締め付けることによって、有効電極面積9cm2の燃料電池セルを製造した。
【0151】
(燃料電池セルの特性評価[負荷変動試験])
得られた燃料電池セルを95℃に保ちながら、低加湿状態の水素(25mL/分、背圧0.1MPaG)と低加湿状態の空気(63mL/分、背圧0.05MPaG)をセルに導入し、開回路と一定電流での負荷変動試験を行うことで、高分子電解質膜や燃料電池セルの長期安定性を評価した。この条件で燃料電池セルを約200時間作動させた後、膜−電極接合体を取り出してエタノール/水の混合溶液に投入し、さらに超音波処理することで触媒層を取り除いた。そして、残った高分子電解質膜Aのイオン交換基を有するセグメントの分子量を次の手順で測定した。すなわち、膜中のポリアリーレン系ブロック共重合体4mgに対し、ジメチルスルホキシド8mlを添加し溶解させた後、テトラメチルアンモニウム水酸化物の25%メタノール溶液10μLを100℃で2時間反応させ、放冷後、得られた溶液の分子量をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した。負荷変動試験前と試験後のイオン交換基を有するセグメントの重量平均分子量、及び、負荷変動試験前後におけるイオン交換基を有するセグメントの重量平均分子量の維持率を表3に示す。この維持率が高いほど、高分子電解質膜の劣化が小さいことを意味する。なお、GPCの測定条件は下記の通りとした。

・カラム:東ソー社製 TSKgel GMHHR−M
・カラム温度:40℃
・移動相溶媒:N,N−ジメチルホルムアミド(LiBrを10mmol/dm3になる
ように添加)
溶媒流量:0.5mL/分
・検出:示差屈折率
【0152】
比較例1<高分子電解質膜Bの燃料電池評価>
実施例1において、チアントレンを加えない以外は全て同様にすることで、高分子電解質膜Bを得た。また、高分子電解質膜Bを実施例2と同様の方法で負荷変動試験を実施し、同様にGPC分析を行った。負荷変動試験前と試験後のイオン交換基を有するセグメントの重量平均分子量、及び、負荷変動試験前後におけるイオン交換基を有するセグメントの重量平均分子量の維持率を表3に示す。
【0153】
【表3】

【0154】
表3より、本発明の含硫黄芳香族化合物を添加して調製された高分子電解質膜は、添加しないものと比較して、負荷変動試験前後でもイオン交換基を有するセグメントの分子量が十分維持されており、優れた長期安定性を有することが判明した。
【0155】
実施例3<フェノキサチインを含む膜の製造>
高分子電解質としては、下記

で示される繰り返し単位からなる、スルホン酸基を有するセグメント(イオン交換基を有するセグメント)と、
下記


(ここでnは繰返し単位数を示す。)

で示される、イオン交換基を実質的に有しないセグメントとを有するブロック共重合体B(数平均分子量2.83×10、重量平均分子量6.90×10、分子量の測定条件は実施例1と同様である)を、下記に記す[ブロック共重合体Bの合成]の方法を参考にして準備した。
【0156】
[ブロック共重合体Bの合成]
共沸蒸留装置を備えたフラスコに、窒素雰囲気下、4,4’−ジヒドロキシ−1,1’−ビフェニル10.2g(54.7mmol)、炭酸カリウム8.32g(60.2mmol)、N,N−ジメチルアセトアミド96g、トルエン50gを加えた。バス温155℃で2.5時間トルエンを加熱還流することで系内の水分を共沸脱水した。生成した水とトルエンを留去した後、室温まで放冷し、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン22.0g(76.6mmol)を加えた。バス温を160℃に昇温し、14時間保温撹拌した。放冷後、反応液を、メタノール1000gと35重量%塩酸200gとの混合溶液に加え、析出した沈殿を濾過した後、イオン交換水で中性になるまで洗浄し、乾燥した。得られた粗生成物27.2gをN,N−ジメチルアセトアミド97gに溶解し、不溶物を濾過した後、メタノール1100gと35重量%塩酸100gとの混合溶液に加え、析出した沈殿を濾過した後、イオン交換水で中性になるまで洗浄し、乾燥し下記式(E)で表されるイオン交換基を実質的に有しないセグメントを誘導する前駆体25.9gを得た。
GPC分子量: Mn=1700、Mw=3200


(nは繰り返し単位数を表す。)
【0157】
次に、アルゴン雰囲気下、フラスコに無水臭化ニッケル2.12g(9.71mmol)、N−メチルピロリドン96gを加え、バス温70℃で攪拌した。無水臭化ニッケルが溶解したのを確認した後、バス温を50℃に冷却し、2,2’−ビピリジル1.82g(11.7mmol)を加え、ニッケル含有溶液を調製した。
アルゴン雰囲気下、フラスコに上記式(E)で表されるイオン交換基を実質的に有しないセグメントを誘導する前駆体4.02g、N−メチルピロリドン384gを加え50℃に調整した。得られた溶液に、亜鉛粉末3.81g(58.2mmol)、メタンスルホン酸1重量部とN−メチルピロリドン9重量部との混合溶液1.05g、及び、4,4’−ジクロロビフェニル−2,2’−ジスルホン酸ジ(2,2−ジメチルプロピル)24.0g(45.9mmol)を加え、50℃で30分間撹拌した。これに、前記ニッケル含有溶液を注ぎ込み、50℃で6時間重合反応を行い、黒色の重合溶液を得た。
得られた重合溶液を、13重量%塩酸3360gに投入し、室温で30分間撹拌した。生じた沈殿を濾過した後、13重量%塩酸3360gを加え、室温で30分間撹拌し、濾過し、イオン交換水で濾液のpHが4を越えるまで洗浄した。得られた粗ポリマーに、イオン交換水840gと、メタノール790gを加え、バス温90℃で1時間加熱撹拌した。粗ポリマーをろ過し、乾燥することで、スルホン酸前駆基(スルホン酸(2,2−ジメチルプロピル)基)を有するポリマー(F)23.9gを得た。
【0158】
次に、以下のようにしてスルホン酸前駆基をスルホ基に変換した。
上述のようにして得られたスルホン酸前駆基を有するポリマー(F)23.9g、イオン交換水47.8g、無水臭化リチウム15.9g(183mmol)及びN−メチルピロリドン478gをフラスコに入れ、バス温126℃で12時間加熱撹拌し、ポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液を13重量%塩酸3340gに投入し、1時間攪拌した。析出した粗ポリマーを濾過し、メタノール10重量部と35%塩酸10重量部との混合溶液2390gで洗浄する操作を3回繰り返した。その後、濾液のpHが4を越えるまでイオン交換水で洗浄した。続いて、得られたポリマーに大量のイオン交換水を加え、90℃以上に昇温し、約10分間加熱保温し濾過する洗浄操作を、5回繰り返した。得られたポリマーを乾燥することにより下記

で示される繰り返し単位からなる、スルホン酸基を有するセグメント(イオン交換基を有するセグメント)と、
下記


(nは繰り返し単位数を表す。)

で示されるイオン交換基を実質的に有しないセグメントとを含むブロック共重合体B17.3gを得た。

重量平均分子量:6.80×10
イオン交換容量(meq/g):4.6
(分子量の測定条件は実施例1と同様である)
【0159】
ブロック共重合体Bをジメチルスルホキシドに約5.8重量%の濃度になるように溶解させ、併せてここにフェノキサチイン(ブロック共重合体B/フェノキサチインの重量比=100重量%/5重量%)を溶解させることで高分子電解質溶液を調製した。
次いで、この高分子電解質溶液をPET基材上に均一に塗り広げ、その後高分子電解質溶液を100℃で常圧乾燥する。得られる乾燥塗膜を2N硫酸に浸漬、洗浄した後、イオン交換水で洗浄し、更に常温乾燥し、PET基材から剥離することで高分子電解質膜Cを得た。該高分子電解質膜Cを用いた燃料電池は、長期安定性に優れる。
【0160】
実施例4<チオキサントンを含む膜の製造>
実施例3において、フェノキサチインの代わりにチオキサントンを用いることで、高分子電解質膜Dを得た。該高分子電解質膜Dを用いた燃料電池は、長期安定性に優れる。
【0161】
実施例5<ジベンゾチオフェンを含む膜の製造>
実施例3において、フェノキサチインの代わりにジベンゾチオフェンを用いることで、高分子電解質膜Eを得た。該高分子電解質膜Eを用いた燃料電池は、長期安定性に優れる。
【0162】
実施例6<4-ベンゾイル4’-メチルジフェニルスルフィドを含む膜の製造>
実施例3において、フェノキサチインの代わりに4-ベンゾイル4’-メチルジフェニルスルフィドを用いることで、高分子電解質膜Fを得た。該高分子電解質膜Fを用いた燃料電池は、長期安定性に優れる。
【0163】
実施例7<チアントレンを含む膜の製造>
高分子電解質としては、特開2005−197236号公報記載の方法を参考にして、高分子電解質としては、下記



で示される繰り返し単位からなる、スルホン酸基を有するセグメント(イオン交換基を有するセグメント)と、
下記

(ここでkは繰返し単位数を示す。)

で示される、イオン交換基を実質的に有しない構造単位を有するブロック共重合体C(イオン交換容量=2.00meq/g、数平均分子量=102000、重量平均分子量=253000、なお、数平均分子量および重量平均分子量は実施例1のGPC条件での分析により得た)を準備した。
このブロック共重合体CをN−メチルピロリドン/メタノール=60重量%/40重量%の溶液に約20重量%の濃度になるように溶解させ、併せてここにチアントレン(ブロック共重合体C/チアントレンの重量比=100重量%/5重量%)を溶解させることで高分子電解質溶液を調製した。次いで、この高分子電解質溶液をPET基材上に均一に塗り広げ、その後高分子電解質溶液を80℃で40分予備乾燥した後、120℃で40分乾燥した。得られる乾燥塗膜を大量の蒸留水に一晩浸漬した後、風乾し、PET基材から剥離することで高分子電解質膜Gを得た。
【0164】
実施例8<チアントレンを含む膜の燃料電池評価>
上記の高分子電解質膜Aの代わりに高分子電解質膜Gを用いて上記実施例2と同様な手法により、膜−電極接合体および該膜−電極接合体を有する燃料電池セルを製造した。
【0165】
(燃料電池セルの特性評価[開回路試験])
高分子電解質膜Gを使用して製造した燃料電池セルについて特性評価を行なった。すなわち、
作製した燃料電池セルを95℃に保ちながら、アノード触媒層側には低加湿状態の水素(25mL/分、背圧0.1MPaG)を供給し、カソード触媒層側には低加湿状態の空気(63mL/分、背圧0.05MPaG)を供給して、開回路試験を行った。各原料ガスの加湿は水の入ったバブラーにガスを通すことで行い、水素バブラーの水温は95℃、空気用バブラーの水温は30℃とした。
この条件で燃料電池セルを100時間継続して作動させた。
該試験後、実施例2と同様に高分子電解質膜を取出しGPC分析を行った。該試験前後におけるイオン交換基を有するセグメントの重量平均分子量の維持率を表4に示す。
【0166】
比較例2<ブロック共重合体C膜の燃料電池評価>
実施例7において、チアントレンを加えない以外は全て同様にすることで、高分子電解質膜Hを得た。また、高分子電解質膜Hを実施例8と同様の方法で発電特性試験を実施し、評価した。該試験前後におけるイオン交換基を有するセグメントの重量平均分子量の維持率を表4に示す。
【0167】
【表4】

【0168】
表4より、本発明の含硫黄芳香族化合物を添加して調製された高分子電解質膜は、添加しないものと比較して、開回路試験前後でも高分子電解質の分子量が高く維持されており、優れた長期安定性を有することが判明した。
【0169】
実施例9<チアントレンを含む膜の製造>
チアントレン(0.05g)をテトラヒドロフラン20gに溶解し、市販の20質量%ナフィオン(登録商標)溶液(アルドリッチ社製、溶媒:水と低級アルコールの混合物)2.88g、エタノール3.2gを加え、室温にて6時間攪拌することで、劣化防止剤溶液を得た。
得られた劣化防止剤溶液をナフィオン XL(登録商標)膜の片面の中央部における3cm×3cmの領域に、スプレー法にて塗布した。この際、吐出口から膜までの距離は6cm、ステージ温度は60℃に設定した。さらに重ね塗りを行い溶媒を除去することで劣化防止剤層を形成し、3cm×3cmの領域に固形分が5.47mg配置された高分子電解質膜001を得た。
【0170】
実施例10<チアントレンを含む膜の燃料電池評価>
[触媒インクの作成]
市販の5質量%ナフィオン(登録商標)溶液(アルドリッチ社製、溶媒:水と低級アルコールの混合物)6.30gに、白金が担持された白金担持カーボン(SA50BK、エヌ・イー・ケムキャット製、白金含有量;50質量%)1.00g投入し、さらにエタノール43.45g、水6.43gを加えた。得られた混合物を1時間超音波処理した後、スターラーで5時間攪拌して触媒インクを得た。
【0171】
[膜電極接合体の作製]
一方の表面に劣化防止剤層を形成した高分子電解質膜001について、劣化防止剤層を有さない表面の中央部における3cm×3cmの領域に、スプレー法にて上記の触媒インクを塗布した。この際、吐出口から膜までの距離は6cm、ステージ温度は75℃に設定した。同様にして重ね塗りをした後、溶媒を除去してアノード触媒層を形成させた。アノード触媒層として14.2mgの固形分(白金目付け:0.6mg/cm)が塗布された。
続いて、劣化防止剤層の上に同様に触媒インクを塗布して、カソード触媒層を形成させ膜電極接合体を得た。カソード触媒層として14.2mgの固形分(白金目付け:0.6mg/cm)が塗布された。
【0172】
[燃料電池セルの組み立て]
上述のようにして得られたMEAの両外側に、ガス拡散層としてカーボンクロスと、ガス通路用の溝を切削加工したカーボン製セパレータとを配し、さらにその外側に集電体及びエンドプレートを順に配置し、これらをボルトで締め付けることによって、有効電極面積9cmの燃料電池セルを組み立てた。
【0173】
[燃料電池セルの耐久性評価]
実施例8と同様の方法にて、上記開回路試験を100時間実施した。
上記開回路試験において発生した排水を、セル中のガス排出口から空気極側と燃料極側から共に採取し、これをイオンクロマトグラフィーにかけ、フッ化物イオンおよび硫酸イオンの溶出速度を算出した。イオンクロマトグラフィーの測定条件を以下に示す。結果を表5に示す。
機器:Dionex社製 DX−500
カラム:Dionex社製 IonPac AS−17C
溶離液:10mMの水酸化カリウム(KOH)水溶液
溶離液の流速:1.0ml/min
【0174】
(比較例3)
高分子電解質膜001の代わりにナフィオン XL(登録商標)膜を用いたこと以外は、実施例10と同様の方法にて膜電極接合体および、燃料電池セルを作製し、同様に上記開回路試験を100時間実施し、評価した。結果を表5に示す。
【0175】
【表5】

【0176】
表5より、実施例10は排水中のフッ化物イオンおよび硫酸イオンの溶出速度が比較例3より小さいものであり、高分子電解質の劣化を抑制していることがわかる。これより、本発明の含硫黄芳香族化合物はフッ素系高分子電解質に対しても安定化剤として大変有用であることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記含硫黄芳香族化合物[A]〜[D]からなる群より選ばれる一種以上の含硫黄芳香族化合物と高分子電解質とを含有することを特徴とする高分子電解質組成物。

含硫黄芳香族化合物[A]:下記式(1)で表される含硫黄芳香族化合物。



(式(1)中、Yは硫黄原子を含む2価の基を表す。C〜Cはそれぞれ炭素原子を表す。環Ar01は、CおよびCを含み、置換基を有していてもよい炭素数4〜50の芳香環を表す。環Ar02は、CおよびCを含み、置換基を有していてもよい炭素数4〜50の芳香環を表す。Ar01が有していてもよい置換基およびAr02が有していてもよい置換基はそれぞれ、水酸基、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、メチル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数5〜21のアロイル基および置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールスルホニル基からなる群より選ばれる1種以上の基である。XおよびXは、それぞれ同一または相異なり、水素原子、水酸基、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、メチル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数5〜21のアロイル基または置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリールスルホニル基を表す。)
含硫黄芳香族化合物[B]:下記式(2)で表される含硫黄芳香族化合物。



(式(2)中、Yは上記と同義である。Zは、直接結合、下記式(2−1)〜(2−9)のいずれかで示される2価の基を表す。C〜Cはそれぞれ炭素原子を表す。環Ar03は、CおよびCを含み、置換基を有していてもよい炭素数4〜50の芳香環を表す。環Ar04は、CおよびCを含み、置換基を有していてもよい炭素数4〜50の芳香環を表す。



(式(2−1)〜(2−9)中、Eは水素原子、水酸基、メチル基、メトキシ基または炭素数4〜50の芳香族基を表す。))

含硫黄芳香族化合物[C]:下記式(3)で表される含硫黄芳香族化合物。



(式(3)中、YおよびZはそれぞれ上記と同義である。C〜C12はそれぞれ炭素原子を表す。X〜Xは、それぞれ同一または相異なり、水素原子、水酸基、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルチオ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基または置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルスルホニル基を表す。Zが直接結合の場合、XおよびXは互いに結合することにより、環を形成していてもよい。)

含硫黄芳香族化合物[D]:下記式(4)で表される含硫黄芳香族化合物。



(式(4)中、YおよびZは上記と同義である。C13〜C16はそれぞれ炭素原子を表す。環Ar05は、C15およびC16を含み、置換基を有していてもよい炭素数4〜50の芳香環を表す。XおよびXは、それぞれ同一または相異なり、水素原子、水酸基、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルチオ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基または置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルスルホニル基を表す。)
【請求項2】
前記高分子電解質組成物が含有する前記含硫黄芳香族化合物は、含硫黄芳香族化合物[B]〜[D]からなる群より選ばれる一種以上の含硫黄芳香族化合物であることを特徴とする請求項1に記載の高分子電解質組成物。
【請求項3】
上記Yが硫黄原子またはスルフィニル基であることを特徴とする請求項1または2に記載の高分子電解質組成物。
【請求項4】
上記含硫黄芳香族化合物[B]が下記式(6)で表されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高分子電解質組成物。



(式(6)中、YおよびZはそれぞれ上記と同義である。R01〜R08は、それぞれ同一または相異なり、水素原子、水酸基、ハロゲノ基、シアノ基、カルボキシ基、ホスホノ基、スルホ基、ホルミル基、メルカプト基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルチオ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールオキシ基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールチオ基、置換基を有していてもよい炭素数2〜21のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜21のアロイル基、置換基を有していてもよい炭素数3〜20のアリールスルホニル基または置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキルスルホニル基を表す。)
【請求項5】
上記含硫黄芳香族化合物が、上記高分子電解質100重量部に対して0.01〜30重量部含有されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高分子電解質組成物。
【請求項6】
上記高分子電解質が芳香族炭化水素系高分子電解質であることを特徴とする特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の高分子電解質組成物。
【請求項7】
上記高分子電解質がフッ素系高分子電解質であることを特徴とする特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の高分子電解質組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の高分子電解質組成物を含有することを特徴とする高分子電解質膜。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の高分子電解質組成物と、触媒成分とを含有することを特徴とする触媒組成物。
【請求項10】
請求項8に記載の高分子電解質膜および請求項9に記載の触媒組成物からなる群より選ばれる1種以上を有することを特徴とする膜電極接合体。
【請求項11】
請求項10に記載の膜電極接合体を有することを特徴とする固体高分子形燃料電池。

【公開番号】特開2013−47286(P2013−47286A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184721(P2011−184721)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】