説明

高分子電解質繊維およびその製造方法

【課題】新規な高分子電解質繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の高分子電解質繊維の製造方法は、高分子電解質、ゾル・ゲル反応前駆体、およびゾル・ゲル反応触媒を含む溶液を用い、エレクトロスプレーデポジション法により繊維を作製する。ここで、限定されるわけではないが、高分子電解質は、複数の荷電基をもつ高分子化合物であり、前記荷電基は、負荷電基、正荷電基、両性荷電基から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせからなることが好ましい。また、限定されるわけではないが、ゾル・ゲル反応前駆体は金属アルコキシドからなることが好ましい。また、限定されるわけではないが、ゾル・ゲル反応触媒は、酸または塩基からなることが好ましい。また、限定されるわけではないが、溶液は、繊維化促進剤を含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な高分子電解質繊維に関する。
また、本発明は、新規な高分子電解質繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電基をもつ繊維、いわゆる「イオン交換繊維」は、気相中のガス成分の吸着除去や液相中のイオン性物質の除去を目的とした分離・精製・浄化プロセスにおけるフィルターから、有機合成における触媒まで広く利用されている。
【0003】
従来、イオン交換繊維の製造には、(1)ポリオレフィンなどの繊維又は中空繊維に荷電基を導入する方法、(2)複合紡糸によって作製した繊維に荷電基を導入する方法、(3)ガラス繊維の表面をイオン交換樹脂で被覆する方法などが用いられてきた。このような方法において荷電基を導入する基材として使用されている繊維の直径は数ミクロン以上であり、イオン交換繊維を利用した高効率プロセス実現のために繊維の細径化による比表面積の増大が求められている。また、従来の製造方法では、高分子又は無機材料の紡糸を行った後に荷電基の導入を行うため、複数の工程を必要とし、製造コストも大きかった。
【0004】
一方、電場を利用した微細加工技術であるエレクトロスプレーデポジション法は常温、大気圧下で簡便に、ナノ〜ミクロンオーダーの直径を持つ繊維の作製が可能であり、近年工業化可能なナノファイバー製造法として注目を集めている(例えば、非特許文献1参照。)。さらに、エレクトロスプレーデポジション法において、同軸二重管をスプレーノズルとして使用することによってワンステップでナノ〜ミクロンオーダーの直径を持つ中空繊維の作製も可能である(例えば、非特許文献2参照。)。
【0005】
エレクトロスプレーデポジション法を用いた高分子電解質繊維の作製は、アミノ基やカルボキシル基などの弱電解質を荷電基とする高分子電解質繊維の作製について既に報告されている(例えば、非特許文献3及び非特許文献4参照。)。
【0006】
また、エレクトロスプレーデポジション法を用いて作製した高分子繊維に、2次的な化学処理によってスルホン酸基や4級塩基を導入することによって強電解質を荷電基とする高分子繊維を製造している(例えば、非特許文献5参照。)。
【0007】
【非特許文献1】本宮達也監修、ナノファイバーテクノロジーを用いた高度産業発掘戦略、シーエムシー出版社、2004年
【非特許文献2】I. G. Loscrertales, A. Barrero, M. Marquez, R. Spretz, R. Velarde-Oritz, G. Larsen, J. Am .Chem. Soc. 2004, 126, 5376-5377.
【非特許文献3】L. Li, Y.-L. Hsieh, Polymer 2005, 46, 5133-5139.
【非特許文献4】M. G. McKee, M. T. Hunley, J. M. Layman, T. E. Long, Macromolecules 2006, 39, 575-583.
【非特許文献5】H. Matsumoto, Y. Wakamatsu, M. Minagawa, A. Tannioka, J. Colloid Interface Sci.,2006, 263, 143-150.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、エレクトロスプレーデポジション法を用いた高分子電解質繊維の作製は、アミノ基やカルボキシル基などの弱電解質を荷電基とする高分子電解質繊維の作製について既に報告されている。
【0009】
しかし、スルホン酸基や4級塩基などの強電解質を荷電基とする高分子電解質の繊維化は難しいとされている。エレクトロスプレーは、電場によってスプレーノズル先端の溶液表面に誘起された電荷間の静電反発に基づく現象であるため、強電解質を荷電基とする高分子電解質のように電気伝導度の高い溶液では、電場によって誘起された電荷が溶液内を電流として流れることによってノズル先端の溶液表面における電荷の蓄積が妨げられる(帯電緩和)のがその理由であると考えられる。
【0010】
また、エレクトロスプレーデポジション法を用いて作製した高分子繊維に、2次的な化学処理によってスルホン酸基や4級塩基を導入することによって強電解質を荷電基とする高分子繊維を製造している。
【0011】
しかし、この方法では、紡糸後に荷電基を導入する反応工程を必要とするため、製造コストの上昇につながる。
【0012】
そのため、このような課題を解決する、新規な高分子電解質繊維の開発が望まれている。
また、新規な高分子電解質繊維の製造方法の開発が望まれている。
【0013】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、新規な高分子電解質繊維を提供することを目的とする。
また、本発明は、新規な高分子電解質繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の高分子電解質繊維は、高分子電解質およびゾル・ゲル反応生成物を含む。
【0015】
ここで、限定されるわけではないが、高分子電解質は、複数の荷電基をもつ高分子化合物であり、前記荷電基は、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基の負荷電基、アミノ基、ピリジル基、イミダゾール基、4級アンモニウム基、4級ピリジニウム塩基、4級イミダゾール基の正荷電基、ベタイン基、ホスファチジルコリン基、アミノ酸基の両性荷電基から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせからなることが好ましい。
【0016】
また、限定されるわけではないが、高分子電解質は、パーフルオロスルホン酸とポリテトラフルオロエチレンの共重合体、ポリスチレンスルホン酸及びその共重合体、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、硫酸セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリビニルピリジン及びその4級化物、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウム、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン及びその4級化物、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの単独重合体及び共重合体から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせからなることが好ましい。
【0017】
また、限定されるわけではないが、ゾル・ゲル反応生成物は、ゾル・ゲル反応前駆体からの反応生成物であり、前記ゾル・ゲル反応前駆体は金属アルコキシドからなり、前記金属アルコキシドの金属は、Si、Ta、Nb、Ti、Zr、Al、Ge、B、Na、Ga、Ce、V、Ta、P、Sbから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせからなり、前記金属アルコキシドのアルコキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基を含む、炭素数n(nは1〜8の整数)を有するアルコキシ基から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせからなることが好ましい。
【0018】
また、限定されるわけではないが、電解質繊維は中空構造を有することができる。
【0019】
本発明の高分子電解質繊維の製造方法は、高分子電解質、ゾル・ゲル反応前駆体、およびゾル・ゲル反応触媒を含む溶液を用い、エレクトロスプレーデポジション法により繊維を作製する。
【0020】
ここで、限定されるわけではないが、高分子電解質は、複数の荷電基をもつ高分子化合物であり、前記荷電基は、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基の負荷電基、アミノ基、ピリジル基、イミダゾール基、4級アンモニウム基、4級ピリジニウム塩基、4級イミダゾール基の正荷電基、ベタイン基、ホスファチジルコリン基、アミノ酸基の両性荷電基から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせからなることが好ましい。
【0021】
また、限定されるわけではないが、高分子電解質は、パーフルオロスルホン酸とポリテトラフルオロエチレンの共重合体、ポリスチレンスルホン酸及びその共重合体、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、硫酸セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリビニルピリジン及びその4級化物、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウム、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン及びその4級化物、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの単独重合体及び共重合体から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせからなることが好ましい。
【0022】
また、限定されるわけではないが、ゾル・ゲル反応前駆体は金属アルコキシドからなり、前記金属アルコキシドの金属は、Si、Ta、Nb、Ti、Zr、Al、Ge、B、Na、Ga、Ce、V、Ta、P、Sbから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせからなり、前記金属アルコキシドのアルコキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基を含む、炭素数n(nは1〜8の整数)を有するアルコキシ基から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせからなることが好ましい。
【0023】
また、限定されるわけではないが、ゾル・ゲル反応触媒は、酸または塩基からなり、前記酸は、塩酸、硫酸、硝酸、ほう酸の無機酸、酢酸、くえん酸の有機酸から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせからなり、前記塩基はアンモニアからなることが好ましい。
【0024】
また、限定されるわけではないが、溶液は、繊維化促進剤を含むことが好ましい。
また、限定されるわけではないが、繊維化促進剤は、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルアミドから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせからなることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、以下に記載されるような効果を奏する。
【0026】
本発明は、高分子電解質およびゾル・ゲル反応生成物を含むので、新規な高分子電解質繊維を提供することができる。
【0027】
本発明は、高分子電解質、ゾル・ゲル反応前駆体、およびゾル・ゲル反応触媒を含む溶液を用い、エレクトロスプレーデポジション法により繊維を作製するので、新規な高分子電解質繊維の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、高分子電解質繊維およびその製造方法にかかる発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0029】
高分子電解質繊維の製造方法について説明する。高分子電解質繊維の製造方法は、高分子電解質、ゾル・ゲル反応前駆体、およびゾル・ゲル反応触媒を含む溶液を用い、エレクトロスプレーデポジション法により繊維を作製する方法である。
【0030】
高分子電解質とは、多くの荷電基をもつ高分子化合物である。荷電基としては、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基などの負荷電基、アミノ基、ピリジル基、イミダゾール基、4級アンモニウム基、4級ピリジニウム塩基、4級イミダゾール基などの正荷電基、ベタイン基、ホスファチジルコリン基、アミノ酸基などの両性荷電基から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせを採用することができる。
【0031】
具体的な高分子電解質としては、パーフルオロスルホン酸とポリテトラフルオロエチレンの共重合体(例えば、Nafion(登録商標))、ポリスチレンスルホン酸及びその共重合体、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、硫酸セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリビニルピリジン及びその4級化物、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウム、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン及びその4級化物、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの単独重合体及び共重合体などから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせを採用することができる。
【0032】
高分子電解質の濃度は1〜50質量%の範囲内にあることが好ましい。また、高分子電解質の濃度は5〜20質量%の範囲内にあることがさらに好ましい。
【0033】
高分子電解質の濃度が50質量%を越えると、溶液電気伝導の増加によって帯電緩和現象がおこり電場印加時においてもスプレーが生じないおそれがある。特に高分子電解質の荷電基が強電解質である場合、濃度は20質量%以下であることが好ましい。
【0034】
高分子電解質の濃度が5質量%より小さいと、スプレーによって形成体が均一な繊維構造を形成することが難しくなるおそれがある。特に高分子電解質の濃度が1質量%より小さいと、この効果がより顕著になるおそれがある。
【0035】
ゾル・ゲル反応前駆体について説明する。ゾル・ゲル反応では金属化合物を出発物質(前駆体)とする。特に金属アルコキシドは反応性に富み、溶液中で酸素−金属−酸素の結合を有する金属酸化物ゾルを形成するため、ゾル・ゲル反応前駆体として好ましい。ゾル・ゲル反応前駆体溶液には、金属アルコキシドのほかに、加水分解の触媒として酸または塩基を添加することができる。また、必要に応じて、加水分解を促進させるための水や前駆体溶液を希釈するための溶媒も添加ことができる。
【0036】
ゾル・ゲル反応前駆体となる金属アルコキシドの金属としては、Si、Ta、Nb、Ti、Zr、Al、Ge、B、Na、Ga、Ce、V、Ta、P、Sbなどから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせを採用することができる。エレクトロスプレーデポジション法に使用するゾル・ゲル反応前駆体は液体であることが好ましいため、Si、Tiが特に好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基を含む、炭素数n(nは1〜8の整数)を有するアルコキシ基から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせを採用することができる。メトキシ及びエトキシがより好ましい。特に好ましい金属アルコキシドとしてテトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランなどを挙げることができる。
【0037】
ゾル・ゲル反応前駆体となる金属アルコキシドの濃度は0.1〜50質量%の範囲内にあることが好ましい。また、金属アルコキシドの濃度は0.5〜10質量%の範囲内にあることがさらに好ましい。
【0038】
金属アルコキシドの濃度が0.1質量%以上であると、電場印加時における帯電緩和を抑制できるという利点がある。金属アルコキシドの濃度が0.5質量%以上であると、この効果がより顕著になる。
【0039】
金属アルコキシドの濃度が50質量%以下であると、作成された繊維中に含まれる高分子電解質成分の比率が大きくなるという利点がある。金属アルコキシドの濃度が10質量%以下であると、この効果に加えて、さらに繊維径の細径化にも効果がある。
【0040】
ゾル・ゲル反応触媒としては酸または塩基が使用される。酸としては塩酸、硫酸、硝酸、ほう酸などの無機酸、酢酸、くえん酸などの有機酸から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせを採用することができる。塩基としては反応後の除去が容易である揮発性のアンモニアが使用される。エレクトロスプレーデポジション法を用いた繊維及び中空繊維の作製では、線状無機高分子体の形成を促進する酸触媒が好ましい。
【0041】
ゾル・ゲル反応触媒を構成する酸の濃度は、0.01〜5質量%の範囲内にあることが好ましい。また、酸の濃度は0.05〜1質量%の範囲内にあることがさらに好ましい。
【0042】
酸の濃度が0.01質量%以上であると、加水分解・縮合反応の進行によって無機分子の分子量が増加し、電場印加時の帯電緩和を抑制できる利点がある。酸の濃度が0.05質量%以上であると、この効果がより顕著になる。
【0043】
酸の濃度が5質量%以下であると、加水分解・縮合反応の進行による無機分子の分子量の増加に伴う高分子電解質溶液の紡糸性の低下を避けることができるという利点がある。酸の濃度が1質量%以下であると、この効果がより顕著になる。
【0044】
ゾル・ゲル反応触媒を構成する塩基の濃度は1.0×10−7〜2.0×10−4質量%の範囲内にあることが好ましい。また、塩基の濃度は5.0×10−7〜2.0×10−6質量%の範囲内にあることがさらに好ましい。
【0045】
塩基の濃度が1.0×10−7質量%以上であると、加水分解・縮合反応の進行によって無機分子の分子量が増加し、電場印加時の帯電緩和を抑制できる利点がある。塩基の濃度が5.0×10−7質量%以上であると、この効果がより顕著になる。
【0046】
塩基の濃度が2.0×10−4質量%以下であると、加水分解・縮合反応の進行による無機分子の分子量の増加に伴う高分子電解質溶液の紡糸性の低下を避けることができるという利点がある。塩基の濃度が2.0×10−6質量%以下であると、この効果がより顕著になる。
【0047】
高分子電解質繊維の製造方法においては、溶液に繊維化促進剤を含めることができる。 ゾル・ゲル前駆体である金属アルコキシドと相溶性のある繊維化促進剤として、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルアミドなどの親水性高分子から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせを採用することができる。
【0048】
繊維化促進剤の濃度は0.01〜10質量%の範囲内にあることが好ましい。また、繊維化促進剤の濃度は0.1〜5質量%の範囲内にあることがさらに好ましい。
【0049】
繊維化促進剤の濃度が0.01質量%以上であると、繊維化促進剤の効果によって紡糸性が向上するという利点がある。繊維化促進剤の濃度が0.1質量%以上であると、この効果がより顕著になる。
【0050】
繊維化促進剤の濃度が10質量%以下であると、作製された高分子電解質繊維に含まれる高分子電解質の比率が大きくなるという利点がある。繊維化促進剤の濃度が5質量%以下であると、この効果がより顕著になる。
【0051】
高分子電解質溶液の溶媒としては、水、メタノール、エタノール、1−プロピルアルコール、2−プロピルアルコール、ブタノール、酢酸、ギ酸などのプロトン性極性溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロホルム、トリクロロエチレン、ベンゼン、エチルベンゼン、キシレン、トルエン、ジエチルエーテル、1,4−ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、塩化メチレンなどの無極性溶媒などの群から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせからなる混合物を採用することができる。
【0052】
高分子電解質繊維の製造方法においては、同軸二重管ノズル(後述する)を用いることにより、中空構造を有する電解質繊維を作製することができる。同軸二重管ノズルの内管に供給するコア形成剤としては、ミネラルオイルなどゾル・ゲル前駆体を含む高分子電解質溶液(外管液)と相溶性のない疎水性の液体が好ましい。また、外管液と相溶性のない高分子溶液を採用することもできる。
【0053】
ノズルと導電性基板(後述する)間の印加電場は5〜500kV/mの範囲内にあることが好ましい。エレクトロスプレーの現象には少なくとも5kV/m程度の電場が必要である。電場強度が大きいほど、スプレー性及び紡糸性は向上するが印加電圧が500kV/mを越えると、ノズル先端部分のスプレー状態が不安定になる。
【0054】
単一管からなるノズル(後述する)における、シリンジの供給流速は1〜500μL/分の範囲内にあることが好ましい。シリンジの供給流速が1μL/分以上であると、ノズル先端部分において溶液供給不足が起こらず安定したスプレー状態を長時間保持できるという利点がある。シリンジの供給流速が500μL/分以下であると、ノズル先端からの液垂れのない安定したスプレー状態を長時間保持できるという利点がある。
【0055】
同軸二重管ノズルの内管における、シリンジの供給流速は0.1〜500μL/分の範囲内にあることが好ましい。シリンジの供給流速が0.1μL/分より小さいと、中空構造の形成が妨げられるおそれがある。シリンジの供給流速が500μL/分を越えると、電場印加時に安定なスプレーを維持できなくなるおそれがある。
【0056】
同軸二重管ノズルの外管における、シリンジの供給流速は1〜500μL/分の範囲内にあることが好ましい。シリンジの供給流速が1μL/分より小さいと均一な中空構造の形成が妨げられるおそれがある。シリンジの供給流速が500μL/分を越えると、電場印加時に安定なスプレーを維持できなくなるおそれがある。
【0057】
高分子電解質繊維の製造方法において、紡糸の温度は10〜50℃の範囲内にあることが好ましい。紡糸の温度が50℃を超えると、一部の高分子電解質溶液では溶媒が蒸発するおそれがある。紡糸の温度が10℃未満であると、一部の高分子電解質溶液では溶媒が凝固するおそれがある。
【0058】
本発明の方法により作製された高分子電解質繊維について説明する。
【0059】
高分子電解質繊維は、高分子電解質およびゾル・ゲル反応生成物を含むものである。
ゾル・ゲル反応生成物は、ゾル・ゲル反応前駆体からの反応生成物である。ゾル・ゲル反応前駆体の一つである金属アルコキシドでは、ゾル・ゲル反応触媒下で加水分解反応および、脱水或いは脱アルコール縮合反応が進行し、金属−酸素の結合からなる重合体が生成される。とくに、金属が珪素である場合は、珪素−酸素の結合(シロキサン結合)からなる重合体(ポリシロキサン)が生成される。エレクトスプレー・デポジションでは、溶液中でまず加水分解反応が進行し、続いてエレクトロスプレー中の溶媒の蒸発と共に重縮合反応が進行すると考えられる。
【0060】
高分子電解質繊維の平均繊維径は5nm〜50μmの範囲内にあることが好ましい。また、高分子電解質繊維の平均繊維径は50nm〜5μmの範囲内にあることがさらに好ましい。
【0061】
高分子電解質繊維の平均繊維径が50μm以下であると、高分子電解質繊維及び高分子電解質繊維集合体の比表面積の増大効果が期待できる。平均繊維径が細くなるほど、この効果がより顕著になる。繊維径がナノオーダーになると繊維1本の機械的強度が十分でなくハンドリングも難しくなるため、平均繊維径は5nm以上あることが好ましく、50nm以上あることがさらに好ましい。
【0062】
高分子電解質繊維集合体としては、不織布、膜、膜モジュール及び高分子電解質繊維が基板または多孔質体などの支持体と一体化さているものを挙げることができる。
【0063】
以上のことから、本発明を実施するための最良の形態によれば、以下の効果が得られる。
【0064】
本発明者達は、ゾル・ゲル反応前駆体が溶媒蒸発によって硬化が促進されることに注目し、高分子電解質溶液にゾル・ゲル反応前駆体を加えることによって、ノズル先端における帯電緩和現象を抑制できることを見出し、エレクトロスプレーデポジション法による高分子電解質の紡糸を実現した。本発明の製造方法では繊維のサイズ制御も容易であるため、ナノ〜マイクロスケールの直径をもつ高分子電解質繊維を常温・大気圧下で効率よく製造できる。
【0065】
また、ゾル・ゲル反応前駆体を加えた高分子電解質溶液では、同軸二重管ノズルを用いたエレクトロスプレーデポジション法によって中空構造の高分子電解質繊維の作製も可能であることを見出した。
また、ナノ〜ミクロンオーダーの直径を持つ高分子電解質からなる繊維又は中空繊維から、それらの集合体を効率良く製造することができる。
【0066】
このような繊維あるいは繊維集合体は水処理材料、フィルター材料、燃料電池材料、センサー材料などに使用できる。ナノ〜マイクロスケールの中空構造の高分子電解質繊維は新規なイオン交換材料であり、高容量中空糸膜モジュール、ナノ・マイクロ流体デバイス、ナノ・マイクロチューブ燃料電池への展開が期待される。
【0067】
なお、本発明は上述の発明を実施するための最良の形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【実施例】
【0068】
つぎに、本発明にかかる実施例について具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことはもちろんである。
【0069】
[実施例1](ゾル・ゲル反応前駆体とゾル・ゲル反応触媒の添加の効果)
【0070】
<サンプル溶液の作製>
市販の20質量%Nafion溶液(和光純薬製DE2021、溶媒は水34質量%と1−プロパノール44質量%)にテトラエトキシシラン(TEOS、関東化学製有機合成用試薬)とホウ酸(H3BO3、和光純薬製特級試薬)を加えてサンプル溶液を調製した。この溶液では、高分子電解質(Nafion)濃度は13.1質量%、ゾル・ゲル反応前駆体(TEOS)濃度は1.6質量%、ゾル・ゲル反応触媒(H3BO3)濃度は0.2質量%である。また、Nafionはパーフルオロスルホン酸とポリテトラフルオロエチレン共重合体であり、強電解質であるスルホン酸基を荷電基とするフッ素系の高分子電解質である。化学的安定性とプロトン導電性に優れた高分子電解質であるため、燃料電池用電解質膜、センサー材料、触媒として使用されている。
【0071】
<高分子電解質繊維の作製>
エレクトロスプレーデポジション法には図1に示すような装置を使用した。装置は、直流高圧安定化電源1(パルス電子工業製HDV−20K)、シリンジポンプ2(ミナトコンセプト製MCIP-III)、導電性基板3(アルミニウム板)から構成される。サンプル溶液は、内径1mmステンレススチール製の単一管からなるノズル4を取り付けた容量1mLのガラス製のシリンジ5に入れ、このシリンジをシリンジポンプに取り付ける。なお、図1ではノズルと導電性基板の位置は縦方向に設置されているが、ノズルを導電性基板に対して横方向に設置することも可能である。エレクトロスプレー条件は、印加電圧15kV、ノズル−導電性基板間距離10cm、シリンジ溶液供給流速5μL/分とした。
【0072】
<観察・測定方法>
スプレー状態については、ノズル先端部に250Wメタルハライドランプ(メジロプロシジョン製LS−M250)を照射し、散乱像を用いて観察を行った。また、走査型電子顕微鏡(SEM、TOPCON製SM−200)を用いて繊維の構造観察を行った。観察は加速電圧10kVの条件で行った。なお観察試料として、高分子繊維表面にファインコーター(日本電子製JFC−1200)を用いて厚さ約5nmの金コートしたものを用いた。得られた2次電子像から繊維上の任意の100点の繊維径を測定し、平均繊維径を求めた。
【0073】
<観察・測定結果>
電場印加後にノズル先端からの溶液のスプレーが確認された。図2にSEM観察より得られた高分子電解質繊維の2次電子像を示す。作製された高分子電解質繊維の平均繊維径は2.5μmであった。
【0074】
高分子電解質溶液にゾル・ゲル反応前駆体および反応触媒を添加することにより、Nafion単独溶液では起こらなかったスプレーが実現し、エレクトロスプレーデポジション法を用いたワンステップでの高分子電解質の繊維化が可能になった。ここでは、ゾル・ゲル反応前駆体と反応触媒の添加が電場印加時の帯電緩和の抑制に寄与していると考えられる。
【0075】
高い電気伝導性を持つ高分子電解質溶液に、反応の進行により溶液粘度を増加させる物質を添加すれば、電場印加時に溶液内に発生する電流によって引き起こされる帯電緩和を抑制することができ、エレクトロスプレーデポジション法を用いたワンステップの高分子電解質溶液の繊維化が可能になると考えられる。
【0076】
[比較例1]
【0077】
<サンプル溶液の作製>
比較のため、13.1質量%Nafion単独溶液を調製した。
【0078】
<高分子電解質繊維の作製>
高分子電解質繊維の作製に使用した装置および作製条件は実施例1と同じである。
【0079】
<観察・測定方法>
スプレー状態の観察および走査型電子顕微鏡を用いた高分子電解質繊維観察方法と繊維径評価方法は実施例1と同じである。
【0080】
<観察・測定結果>
電場を印加してもNafion単独溶液のスプレーは確認できなかった。
【0081】
[実施例2](繊維化促進剤の添加の効果)
【0082】
<サンプル溶液の作製>
市販の20質量%Nafion溶液(和光純薬製DE2021、溶媒は水34質量%と1−プロパノール44質量%)と、平均重量分子量約8万のポリビニルアルコール(PVA、和光純薬製)を水に溶解した7質量%水溶液を重量比40:20の割合で混合し、さらにテトラエトキシシラン(TEOS、関東化学製有機合成用試薬)とホウ酸(H3BO3、和光純薬製特級試薬)を加えてサンプル溶液を調製した。この溶液の高分子電解質(Nafion)濃度は13.1質量%、繊維化促進剤(PVA)濃度は2.6質量%、ゾル・ゲル反応前駆体(TEOS)濃度は1.6質量%、ゾル・ゲル反応触媒(H3BO3)濃度は0.2質量%である。
【0083】
<高分子電解質繊維の作製>
高分子電解質繊維の作製に使用した装置および作製条件は実施例1と同じである。
【0084】
<観察・測定方法>
スプレー状態の観察および走査型電子顕微鏡を用いた高分子電解質繊維観察方法と繊維径評価方法は実施例1と同じである。
【0085】
<観察・測定結果>
電場印加後は実施例1よりさらに安定したスプレーが得られた。図3にSEM観察より得られた高分子電解質繊維の2次電子像を示す。2次電子像より得られた高分子電解質繊維の平均繊維径は430nmであった。
【0086】
高分子電解質溶液に繊維化促進剤とゾル・ゲル反応前駆体および反応触媒を添加することにより、安定したスプレー性が実現し、均一な繊維の作製が可能になった。また、促進剤を添加してない場合に比べて繊維径も細くなった。この理由として、高分子量の線状高分子の添加による高分子電解質溶液の紡糸性の向上が考えられる。
【0087】
[実施例3](シリンジ供給流速の効果)
【0088】
<サンプル溶液の作製>
市販の20質量%Nafion溶液(和光純薬製DE2021、溶媒は水34質量%と1−プロパノール44質量%)と、平均重量分子量約8万のポリビニルアルコール(PVA、和光純薬製)を水に溶解した7質量%水溶液を重量比40:20の割合で混合し、さらにテトラエトキシシラン(TEOS、関東化学製有機合成用試薬)とホウ酸(H3BO3、和光純薬製特級試薬)を加えてサンプル溶液を調製した。ここでは、実施例2と同じように高分子電解質(Nafion)濃度を13.1質量%、繊維化促進剤(PVA)濃度を2.6質量%、ゾル・ゲル反応前駆体(TEOS)の濃度を1.6質量%とゾル・ゲル反応触媒(H3BO3)濃度を0.2質量%とした。
【0089】
<高分子電解質繊維の作製>
高分子電解質繊維の作製に使用した装置は実施例1と同じである。エレクトロスプレー条件は、印加電圧15kV、ノズル−導電性基板間距離10cm、シリンジ供給流速を10μL/分とした。
【0090】
<観察・測定方法>
スプレー状態の観察および走査型電子顕微鏡を用いた高分子電解質繊維観察方法と繊維径評価方法は実施例1と同じである。
【0091】
<観察・測定結果>
シリンジ供給流速10μL/分の条件では、電場印加後のスプレー状態の安定性は低下した。2次電子像より得られた高分子電解質繊維の平均繊維径は490nmであった。
【0092】
実施例2(シリンジ供給流速5μL/分、平均繊維径430nm)と比較すると、シリンジ供給流速の増加によって、高分子電解質繊維の繊維径は少し増加した。この理由として、シリンジ供給流速の増加によって単位時間あたりの溶液スプレー量の増加がおこることが考えられる。
【0093】
[実施例4](ゾル・ゲル反応前駆体とゾル・ゲル反応触媒の濃度の効果)
【0094】
<サンプル溶液の作製>
市販の20質量%Nafion溶液(和光純薬製DE2021、溶媒は水34質量%と1−プロパノール44質量%)と、平均重量分子量約8万のポリビニルアルコール(PVA、和光純薬製)を水に溶解した7質量%水溶液を重量比40:20の割合で混合し、さらにテトラエトキシシラン(TEOS、関東化学製有機合成用試薬)とホウ酸(H3BO3、和光純薬製特級試薬)を加えてサンプル溶液を調製した。ここでは、実施例2と同じように高分子電解質(Nafion)濃度を13.1質量%、繊維化促進剤(PVA)濃度を2.6質量%に固定し、ゾル・ゲル反応前駆体(TEOS)の濃度を3.2質量%と6.4質量%に変えた溶液を調製した。ゾル・ゲル反応触媒(H3BO3)濃度はそれぞれ、0.4質量%、0.8質量%とした。
【0095】
<高分子電解質繊維の作製>
高分子電解質繊維の作製に使用した装置は実施例1と同じである。エレクトロスプレー条件は、印加電圧15kV、ノズル−導電性基板間距離10cm、シリンジ供給流速10μL/とした。
【0096】
<観察・測定方法>
スプレー状態の観察および走査型電子顕微鏡を用いた高分子電解質繊維観察方法と繊維径評価方法は実施例1と同じである。
【0097】
<観察・測定結果>
電場印加後は実施例2と同様の安定したスプレー状態が得られた。図4および図5にそれぞれ、TEOS3.2質量%溶液とTEOS6.4質量%溶液から作製した高分子電解質繊維の2次電子像を示す。得られた高分子電解質繊維の平均繊維径はTEOS3.2質量%溶液から作製した繊維が890nm、TEOS6.4質量%溶液から作製した繊維が1.82μmであった。
【0098】
ゾル・ゲル反応前駆体濃度の増加に伴って、高分子電解質繊維の繊維径は増加した。この理由として、前駆体濃度の増加に伴い、ゾル・ゲル反応によって溶液中で形成される無機分子の高分子量化が促進されることが考えられる。
【0099】
[実施例5](ノズルと導電性基板間の印加電圧の効果)
【0100】
<サンプル溶液の作製>
市販の20質量%Nafion溶液(和光純薬製DE2021、溶媒は水34質量%と1−プロパノール44質量%)と、平均重量分子量約8万のポリビニルアルコール(PVA、和光純薬製)を水に溶解した7質量%水溶液を重量比40:20の割合で混合し、さらにテトラエトキシシラン(TEOS、関東化学製有機合成用試薬)とホウ酸(H3BO3、和光純薬製特級試薬)を加えてサンプル溶液を調製した。ここでは、実施例2と同じように高分子電解質(Nafion)濃度を13.1質量%、繊維化促進剤(PVA)濃度を2.6質量%、ゾル・ゲル反応前駆体(TEOS)の濃度を1.6質量%とゾル・ゲル反応触媒(H3BO3)濃度を0.2質量%とした。
【0101】
<高分子電解質繊維の作製>
高分子電解質繊維の作製に使用した装置は実施例1と同じである。エレクトロスプレー条件は、印加電圧20kV、ノズル−導電性基板間距離10cm、シリンジ供給流速を5μL/分とした。
【0102】
<観察・測定方法>
スプレー状態の観察および走査型電子顕微鏡を用いた高分子電解質繊維観察方法と繊維径評価方法は実施例1と同じである。
【0103】
<観察・測定結果>
印加電圧20kVの条件でも電場印加後は安定したスプレー状態が得られた。2次電子像より得られた高分子電解質繊維の平均繊維径は520nmであった。
【0104】
実施例2(印加電圧15kV、平均繊維径430nm)と比較すると、印加電圧の増加によって、高分子電解質繊維の繊維径は増加した。この理由として、電圧の増加に伴う帯電量の増加によって単位時間あたりの溶液スプレー量の増加がおこることが考えられる。
【0105】
[実施例6](同軸二重管ノズルにおける、シリンジの供給流速の効果)
【0106】
<サンプル溶液の作製>
市販の20質量%Nafion溶液(和光純薬製DE2021、溶媒は水34質量%と1−プロパノール44質量%)と、平均重量分子量約8万のポリビニルアルコール(PVA、和光純薬製)を水に溶解した7質量%水溶液を重量比40:20の割合で混合し、さらにテトラエトキシシラン(TEOS、関東化学製有機合成用試薬)とホウ酸(H3BO3、和光純薬製特級試薬)を加えてサンプル溶液を調製した。ここでは、高分子電解質(Nafion)濃度を12.9質量%、繊維化促進剤(PVA)濃度を2.3質量%、ゾル・ゲル反応前駆体(TEOS)の濃度を3.2質量%とゾル・ゲル反応触媒(H3BO3)濃度を0.4質量%とし、この溶液を外管液とした。
【0107】
<高分子電解質繊維の作製>
高分子電解質繊維の作製に使用した装置は概ね実施例1と同じである。異なる点は、ステンレススチール製ノズルのかわりに図6に示すようなスチール製の同軸二重管ノズルを使用したこと、二重管ノズルの内管、外管が、それぞれ試料溶液の入ったシリンジを搭載したシリンジポンプと接続されている点である。外管に上述の高分子電解質溶液、内管にミネラルオイル(アルドリッチ製試薬)を供給し、エレクトロスプレーを行った。エレクトロスプレー条件は、印加電圧15kV、ノズル−導電性基板間距離10cm、外管の供給流速10μL/分、内管の供給流速3μL/分とした。また、外管の供給流速を10μL/分に固定し、内管の供給流速を1μL/分に変化させた場合についてもスプレーを行った。
【0108】
<観察・測定方法>
スプレー状態の観察および走査型電子顕微鏡を用いた高分子電解質繊維観察方法と繊維径評価方法は実施例1と同じである。また、高分解能透過型分析電子顕微鏡(TOPCON製EM−002B/P−20およびSTEMシステム)を用いて作製した繊維試料の断面構造観察も行った。観察は加速電圧200kVの条件で行った。なお、観察試料として高分子繊維をオスミウム酸溶液で染色した後、エポキシ樹脂に包埋し、ウルトラミクロトームを用いて切片化したものを使用した。
【0109】
<観察・測定結果>
電場印加後は安定したスプレー状態が得られた。スプレーの結果、外管の供給流速10μL/分、内管の供給流速3μL/分のとき、図7に示す断面構造を持つ芯鞘型繊維が得られた。外側の黒い部分がオスミウム酸で染色した高分子電解質(Nafion)、内側の白い部分がミネラルオイルである。この繊維をオクタンに12時間浸漬することによって芯部分を除去し、図8に示す中空構造の繊維を得た。中空構造繊維の外径は1.51μm、内径は1.22μmであった。また、外管の供給流速10μL/分、内管の供給流速1μL/分のとき、中空構造繊維の外径は1.58μm、内径は1.00μmであった。
【0110】
二重管ノズルを使用することによって、高分子電解質中空構造繊維を作製することができた。また、内管供給流速の変化によって中空構造繊維の内径と壁の厚さが変化した。このことからスプレー直後の同軸ジェット内では内管からのスプレーと外管からのスプレーの界面で摩擦などの力が働いているものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】エレクトロスプレーデポジション法に使用する装置を示す図である。
【図2】ゾル・ゲル前駆体とゾル・ゲル反応触媒を添加した後の高分子電解質繊維の2次電子像を示すSEM写真である。
【図3】繊維化促進剤を添加した後の高分子電解質繊維の2次電子像を示すSEM写真である。
【図4】TEOS3.2質量%溶液から作製した高分子電解質繊維の2次電子像を示すSEM写真である。
【図5】TEOS6.4質量%溶液から作製した高分子電解質繊維の2次電子像を示すSEM写真である。
【図6】エレクトロスプレーデポジション法に使用する装置の同軸二重管ノズルを示す図である。
【図7】同軸二重管ノズルを用いて作製した高分子電解質繊維の芯鞘構造を示すTEM写真である。
【図8】芯部分を除去した中空高分子電解質繊維を示すSEM写真である。
【符号の説明】
【0112】
1‥‥電源、2‥‥シリンジポンプ、3‥‥導電性基板、4‥‥ノズル、5‥‥シリンジ、6‥‥同軸二重管ノズル、7‥‥内管、8‥‥内管液、9‥‥外管、10‥‥外管液、11‥‥同軸スプレージェット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質およびゾル・ゲル反応生成物を含む
高分子電解質繊維。
【請求項2】
高分子電解質は、複数の荷電基をもつ高分子化合物であり、
前記荷電基は、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基の負荷電基、アミノ基、ピリジル基、イミダゾール基、4級アンモニウム基、4級ピリジニウム塩基、4級イミダゾール基の正荷電基、ベタイン基、ホスファチジルコリン基、アミノ酸基の両性荷電基から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせからなる
請求項1記載の高分子電解質繊維。
【請求項3】
高分子電解質は、パーフルオロスルホン酸とポリテトラフルオロエチレンの共重合体、ポリスチレンスルホン酸及びその共重合体、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、硫酸セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリビニルピリジン及びその4級化物、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウム、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン及びその4級化物、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの単独重合体及び共重合体から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせからなる
請求項1記載の高分子電解質繊維。
【請求項4】
ゾル・ゲル反応生成物は、ゾル・ゲル反応前駆体からの反応生成物であり、
前記ゾル・ゲル反応前駆体は金属アルコキシドからなり、
前記金属アルコキシドの金属は、Si、Ta、Nb、Ti、Zr、Al、Ge、B、Na、Ga、Ce、V、Ta、P、Sbから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせからなり、
前記金属アルコキシドのアルコキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基を含む、炭素数n(nは1〜8の整数)を有するアルコキシ基から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせからなる
請求項1記載の高分子電解質繊維。
【請求項5】
繊維径が5nm〜50μmである
請求項1記載の高分子電解質繊維。
【請求項6】
高分子電解質は、パーフルオロスルホン酸とポリテトラフルオロエチレンの共重合体からなる
請求項1記載の高分子電解質繊維。
【請求項7】
ゾル・ゲル反応生成物は、ゾル・ゲル反応前駆体からの反応生成物であり、
前記ゾル・ゲル反応前駆体はテトラエトキシシランからなる
請求項6記載の高分子電解質繊維。
【請求項8】
電解質繊維は、中空構造を有する
請求項1記載の高分子電解質繊維。
【請求項9】
繊維径(外径)が5nm〜50μmである
請求項8記載の高分子電解質繊維。
【請求項10】
高分子電解質、ゾル・ゲル反応前駆体、およびゾル・ゲル反応触媒を含む溶液を用い、エレクトロスプレーデポジション法により繊維を作製する
高分子電解質繊維の製造方法。
【請求項11】
高分子電解質は、複数の荷電基をもつ高分子化合物であり、
前記荷電基は、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基の負荷電基、アミノ基、ピリジル基、イミダゾール基、4級アンモニウム基、4級ピリジニウム塩基、4級イミダゾール基の正荷電基、ベタイン基、ホスファチジルコリン基、アミノ酸基の両性荷電基から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせからなる
請求項10記載の高分子電解質繊維の製造方法。
【請求項12】
高分子電解質は、パーフルオロスルホン酸とポリテトラフルオロエチレンの共重合体、ポリスチレンスルホン酸及びその共重合体、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、硫酸セルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリビニルピリジン及びその4級化物、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウム、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン及びその4級化物、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの単独重合体及び共重合体から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせからなる
請求項10記載の高分子電解質繊維の製造方法。
【請求項13】
ゾル・ゲル反応前駆体は金属アルコキシドからなり、
前記金属アルコキシドの金属は、Si、Ta、Nb、Ti、Zr、Al、Ge、B、Na、Ga、Ce、V、Ta、P、Sbから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせからなり、
前記金属アルコキシドのアルコキシ基は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基を含む、炭素数n(nは1〜8の整数)を有するアルコキシ基から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせからなる
請求項10記載の高分子電解質繊維の製造方法。
【請求項14】
ゾル・ゲル反応触媒は、酸または塩基からなり、
前記酸は、塩酸、硫酸、硝酸、ほう酸の無機酸、酢酸、くえん酸の有機酸から選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせからなり、
前記塩基はアンモニアからなる
請求項10記載の高分子電解質繊維の製造方法。
【請求項15】
溶液は、繊維化促進剤を含む
請求項10記載の高分子電解質繊維の製造方法。
【請求項16】
繊維化促進剤は、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルアミドから選ばれるいずれか1種、またはいずれか2種以上の組み合わせからなる
請求項15記載の高分子電解質繊維の製造方法。
【請求項17】
高分子電解質は、パーフルオロスルホン酸とポリテトラフルオロエチレンの共重合体からなる
請求項10記載の高分子電解質繊維の製造方法。
【請求項18】
ゾル・ゲル反応前駆体はテトラエトキシシランからなり、
ゾル・ゲル反応触媒はほう酸からなる
請求項17記載の高分子電解質繊維の製造方法。
【請求項19】
溶液は、ポリビニルアルコールを含む
請求項17記載の高分子電解質繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−327148(P2007−327148A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−157917(P2006−157917)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】