説明

高分子電解質膜、膜電極接合体および燃料電池

【課題】 高いプロトン伝導性と、低いメタノールのクロスオーバーが両立した高分子電解質膜を提供する。
【解決手段】水分を含浸させることで高分子電解質膜中に形成される水クラスターの球相当径の平均値が2.0〜4.0nmであり、該球相当径の変動係数が30〜50%であることを特徴とする、高分子電解質膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子電解質型燃料電池等に用いる高分子電解質膜に関する。特に、高分子電解質膜中に形成される水クラスターのサイズ分布を適切に制御することにより、高分子電解質膜に高いプロトン伝導性と、低いメタノールのクロスオーバー性を付与する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー・環境問題を背景とした社会的要求や動向と呼応して、常温でも作動し高出力密度が得られる燃料電池が電気自動車用電源、定置型電源として注目されている。燃料電池は、電極反応による生成物が原理的に水であり、地球環境への悪影響がほとんどないクリーンな発電システムである。燃料電池には、固体高分子型燃料電池(PEFC)、リン酸型燃料電池(PAFC)、アルカリ型燃料電池(AFC)、固体酸化物型燃料電池(SOFC)、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)などがある。なかでも、PEFCは、比較的低温で作動して高出力密度が得られることから、電気自動車用電源として期待されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池の構成は、一般的には、膜電極接合体(Membrane and Electrode Assembly、以下「MEA」ともいう)をセパレータで挟持した構造となっている。MEAは、例えば、電解質膜が一対の触媒層および導電層により挟持されてなるものである。
【0004】
触媒層は、プロトン伝導材料と導電材に活性金属触媒が担持された混合物により形成された多孔性のものである。また、導電層は、カーボンクロスなどのガス拡散基材表面にカーボン粒子および撥水剤などからなるカーボン撥水層が形成されてなるものが用いられる場合が多い。
【0005】
PEFCでは、以下のような電気化学的反応が進行する。まず、アノード電極側の触媒層に供給された燃料ガスに含まれる水素は、下記式(1)に示すように活性金属触媒により酸化されてプロトンおよび電子となる。次に、生成したプロトンは、アノード電極側の触媒層に含まれるプロトン伝導材料、さらにアノード電極側の触媒層と接触している電解質膜を通り、カソード電極側の触媒層に達する。また、アノード電極側の触媒層で生成した電子は、アノード電極側の触媒層を構成している導電材、さらにアノード電極側の触媒層の電解質膜と異なる側に接触している導電層、セパレータおよび外部回路を通してカソード電極側の触媒層に達する。そして、カソード電極側の触媒層に達したプロトンおよび電子は、下記式(2)に示すように活性金属触媒によりカソード電極側に供給されている酸化剤ガスに含まれる酸素と反応し水を生成する。燃料電池では、上述した電気化学的反応を通して、電気を外部に取り出すことが可能となる。
【0006】
アノード電極側の触媒層:H 2 →2H + +2e - (1)
カソード電極側の触媒層:1/2O 2 +2H + +2e - →H 2 O(2)
【0007】
そのため、高分子電解質膜は高いプロトン伝導性を有する必要がある。プロトンを効率良くカソード電極に移動させるために、高分子電解質膜内には一定量の水分が含まれている。現在広く用いられている高分子電解質膜はパーフルオロ系の高分子電解質膜であるナフィオン(デュポン社製)であるが、ナフィオンのプロトン伝導度は十分に高いとは言えないため、より高いプロトン伝導性を有する高分子電解質膜の開発が当業界で進められている。
一方、高分子電解質膜には、電極に挟まれたセパレータとしての機能を有することが求められる。セパレータとしての機能には、電子の絶縁性に加えて、燃料ガスである水素ガスおよび酸素ガスの遮断性が含まれる。
【0008】
以上、水素を燃料とした燃料電池について説明したが、近年は燃料として水素の代わりにメタノールを用いた燃料電池(DMFC)の開発も盛んに行われている。メタノールは、水素に比べ容易かつ安全に運搬可能であるという特徴を有しているため、DMFCは、携帯電子機器の電源等への幅広い適用が期待されている。
【0009】
しかし、水に対する親和性の高いメタノールは、水分を含んだ高分子電解質膜中を拡散し、アノード電極側からカソード電極側へ透過し易い性質があり、その抑制が課題となっている。高分子電解質膜を通した燃料ガスの透過は「クロスオーバー」と呼ばれ、燃料電池の効率を低下させる要因の1つになっている。クロスオーバーしたメタノールは、カソード電極上で酸素ガスと直接反応するため、外部回路を流れる電子の量は、クロスオーバーした燃料ガスの量に応じて、本来流れるべき電子の量より減少し、エネルギー損失となる。このエネルギー損失は、アノード電極とカソード電極間の電圧低下となって現れる。
現在、高分子電解質膜として広く用いられているパーフルオロ系の高分子電解質膜であるナフィオン(デュポン社製)は、メタノールのクロスオーバーが不十分なレベルであり、その大きさの低減が望まれている。
【0010】
クロスオーバーを低減させる方法の1つに、高分子電解質膜上にガス遮断性の高い層(ガス遮断層)を設ける方法(例えば、特許文献1)があるが、この方法では、ガス遮断層によるプロトン伝導阻害の弊害が大きく、有効な解決策とは言えない。
また、高分子に架橋構造を導入することで高分子電解質膜中の水分含有量を制限する方法(例えば、特許文献2)によりクロスオーバーを低減する技術が開示されている。しかし、架橋の度合を適切な範囲に制御することが難しく、実用には不向きであると考えられる。
【0011】
一方、高分子電解質膜中の水分の分布パターンは、プロトン伝導性のみならず、クロスオーバーとの間にも密接な関係があることは従来から指摘されており、プロトン伝導路を形成している水クラスターの直径を前述のナフィオンよりも小さくすることでクロスオーバーを低減する方法が開示されている(特許文献3)。この方法では、水クラスターの直径を小さくするために、イオン性基に極性基が近接した化学構造の電解質ポリマーを使用し、さらに多孔性の基材を使う等の手段でポリマー分子鎖を拘束している。しかし、この方法も、メタノールのクロスオーバーの低減効果はあるが、プロトン伝導性は低下する方向であり、高いプロトン伝導性との両立が難しい問題があった。
【0012】
特許文献3には、メタノールのクロスオーバーを低減するための水クラスター直径について、3nm以下にすること、という1つの目安を示してはいるが、水クラスターサイズの統計的な分布まで踏み込んだ議論はしていない。
水クラスターサイズの統計的な分布は、高分子電解質膜の親水性部位を鉛イオンで修飾し、これを透過型電子顕微鏡で観察し、得られた画像を画像処理ソフトウェアで処理することにより、測定することが可能である。高分子電解質膜の親水性部位を鉛イオンで修飾し透過型電子顕微鏡で観察することで、親水性部位の高分子電解質膜内の分布を観察する方法は、非特許文献1などに記載されている。前述の水クラスターサイズの領域を観察するためには、透過型電子顕微鏡の拡大倍率を25万倍以上にして観察を行う必要があるが、当業界では公知の方法である(特許文献4)。前述のナフィオンを鉛イオンで修飾し、十分な拡大倍率で観察すると、球相当径が約4nm前後のクラスターが無数に分散した形態が観察される(図1)。しかしながら、この手段で観察されるクラスターサイズの統計的な分布とクロスオーバーとの関係に焦点を当てた事例は、公知の特許・文献にはない。
【0013】
【特許文献1】特開平8−88012号公報
【特許文献2】特開2003−257453号公報
【特許文献3】特開2003−257452号公報
【特許文献4】特開2005−307025号公報
【非特許文献1】マクロモレキュールス 第35巻(2002年) 1348〜1355頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、高分子電解質膜中に形成される水クラスターのサイズ分布を適切に制御することにより、高いプロトン伝導性と、低いメタノールのクロスオーバーを両立させた高分子電解質膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、発明者が鋭意検討した結果、下記手段により上記課題を解決しうることを見出した。
(1)水分を含浸させることで高分子電解質膜中に形成される水クラスターの球相当径の平均値が2.0〜4.0nmであり、該球相当径の変動係数が30〜50%であることを特徴とする、高分子電解質膜。
(2)前記水クラスターの球相当径の平均値が2.6〜3.2nmであることを特徴とする、(1)に記載の高分子電解質膜。
(3)前記水クラスターの球相当径の変動係数が35〜45%であることを特徴とする(1)または(2)に記載の高分子電解質膜。
(4)イオン交換容量が1.9〜2.6meq/gであることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の高分子電解質膜。
(5)主鎖に芳香環を有する固体電解質であって、イオウ原子を含む連結基を介して前記芳香環に結合しているスルホン酸基を有することを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の高分子電解質膜。
(6)下記一般式(1)で表されるスルホアルキル基を側鎖に有し、かつ、主鎖に用いられる繰り返し単位の少なくとも1つが、下記一般式(2)〜一般式(7)のいずれかの構造を有することを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の高分子電解質膜。
一般式(1)
【化1】

一般式(2)
【化2】

一般式(3)
【化3】

一般式(4)
【化4】

一般式(5)
【化5】

一般式(6)
【化6】

一般式(7)
【化7】

(7)(1)〜(6)のいずれか1項に記載の高分子電解質膜を含む膜電極接合体。
(8)(7)に記載の膜電極接合体を有する燃料電池。
(9)水分を含浸させることで高分子電解質中に形成される水クラスターの球相当径の平均値が1.0〜4.0nmであり、該球相当径の変動係数が10〜50%である高分子電解質を少なくとも2種類以上ブレンドして製膜することを特徴とする、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の高分子電解質膜の製造方法。
(10)高分子電解質を製造する際に、該高分子電解質へのスルホ基あるいはリン酸基の導入量を変えること、高分子電解質のポリマー主鎖へのフッ素の導入量を変えることでポリマー主鎖の疎水性を変えること、および高分子電解質のスルホ基が存在するポリマー側鎖の長さを変えることのいずれか1つ以上を行うことを特徴とする、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の構成によれば、メタノールのクロスオーバーが低減することに加え、プロトン伝導性が向上する効果が得られる。よって、本発明の高分子電解質膜をPEFCに適用することにより、高出力化が期待できる。この高出力化の効果は、DMFCだけではなく、他のPEFCでも期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。本明細書において、アルキル基等の「基」は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、置換基を有していてもよいし、有していなくてもよい。さらに、炭素数が限定されている基の場合、該炭素数は、置換基が有する炭素数を含めた数を意味している。
【0018】
本発明の高分子電解質膜は、高分子電解質中に形成される水クラスターのサイズ分布を最適化することにより、高いプロトン伝導性と、低いメタノールのクロスオーバーを両立させた高分子電解質膜である。
【0019】
本発明の高分子電解質膜は、膜中の親水性部位に、スルホ基、または、リン酸基が含まれている。高分子電解質膜に水分を含浸させると、これらの基の複数個とその周りに分布する水分がクラスターを形成する。
一方、本発明の高分子電解質膜を、カチオンが鉛イオンである塩の水溶液(例えば、酢酸鉛水溶液)に浸漬すると、前記のクラスターに相当する部位に鉛イオンが分布する。鉛イオンの分布部位は、鉛イオンが存在していない部位に対し電子線阻止能が高いため、透過型電子顕微鏡で観察すると黒く観察される。本発明の高分子電解質膜を、鉛イオンを含んだ水溶液に浸漬した後に透過型電子顕微鏡で観察すると、前述したナフィオンの場合と同様に、黒いクラスターが無数に分散している画像が得られる。
【0020】
本発明の高分子電解質膜は、このようにして観察される黒いクラスターのサイズ分布が、球相当径の平均値が2.0〜4.0nmであり、球相当径の変動係数が30〜50%であることを特徴とする。該球相当径の平均値については、さらに2.6〜3.2nmであることが好ましく、該球相当径の変動係数については、さらに35〜45%であることが好ましい。本発明の高分子電解質膜は、ナフィオンと比較すると、前述の黒いクラスターの球相当径の変動係数が大きい。
【0021】
本発明の高分子電解質膜でメタノールのクロスオーバーが小さくなる理由は、メタノールの通路となる水クラスターのサイズ分布が広く、サイズの小さなクラスターも多数含まれるため、メタノールの通路の狭窄部が多数存在するためと考えられる。
一方、プロトン伝導性の向上については、本発明者が期待していなかった効果である。前記の狭窄部の分布が散発的な本発明の高分子電解質膜では、メタノール分子よりもサイズの小さいプロトンは伝導阻害を受けにくいと考えられるが、なぜプロトン伝導性が向上するかは考察することができない。
これに対し、水クラスターのサイズ分布が狭くて一様に小さい状況では、メタノールのクロスオーバーは少ないが、プロトンの伝導阻害も生じてしまう。
【0022】
ここで、本発明において用いる、水クラスターサイズの統計的な分布の測定方法を説明する。
まず、高分子電解質膜は、25℃に保持した酢酸鉛1.0mol/Lの水溶液に18時間浸漬することで、高分子電解質膜中で水クラスターが占める領域を鉛イオンで修飾し、その後、余分な鉛イオンを純水で水洗し、真空乾燥した後にエポキシ樹脂で包埋する。しかる後に、厚さ50nmの超薄切片に仕上げ、カーボン膜を張ったメッシュ上に支持する。
1軸回転ホルダーを用い、−70°〜+70°の間で2°刻みで前述の超薄切片を傾けながら、透過型電子顕微鏡で、拡大倍率25万倍以上で観測し、画像をCCDカメラで取得する。
次いで、取得した画像データを、3次元画像処理ソフトウェア(例えば、米国テンプレート・グラフィックス・ソフトウェア社製、Amira4.1)にて3次元化し、3次元の濃淡画像を得る。この画像で、黒いクラスター状の領域が、鉛イオンが分布する部位であり、水クラスターが占める領域に相当する。
この画像は、前記の黒いクラスター状の領域の輪郭が十分には明確でないため、判別分析法を用いた二値化処理により、その輪郭を明確化する。判別分析法については、電子通信学会論文誌 Vol.J63-D No.4、(1980年)、349〜356頁 大津辰之氏の「判別および最小2乗基準に基づく自動しきい値選定法」に記載されている。
二値化処理を行うと、鉛イオンで修飾された部位が黒、それ以外の部位は白の、2段の階調で表現された画像となる。殆どの場合、黒の領域は、球状の不定形粒子となるので、その粒子の体積分布を、適当な画像処理ソフトウェアを使用して測定し、その測定データから、粒子の球相当直径の平均値と変動係数を算出する。以上の方法により算出される球相当直径の平均値と変動係数を、本発明では水クラスターサイズの統計的な分布を表す指標とする。
尚、本発明で言う球相当直径の変動係数とは、球相当直径の標準偏差を球相当直径の平均値で割った値に100を乗じた値であり、単位は%である。
【0023】
本発明の高分子電解質膜は、水クラスターサイズ分布が前述のように規定された高分子電解質膜である。その作製にあたっては、例えば、以下の要因を変えることで、水クラスターの平均的な大きさと大きさの変動係数を調節することができる。
水クラスターの平均的大きさの調節は、高分子電解質を製造する際に、高分子電解質へのスルホ基あるいはリン酸基の導入量を変えること、高分子電解質のポリマー主鎖へのフッ素の導入量を変えることでポリマー主鎖の疎水性を変えること、および、高分子電解質のスルホ基が存在するポリマー側鎖の長さを変えることのいずれか1つ以上によって行うことができる。一般には、スルホ基あるいはリン酸基の導入量が多いほど、ポリマー主鎖の疎水性が強いほど、側鎖の長さが長いほど、水クラスターの平均的な大きさは大きくなる。また、ポリマー主鎖の化学構造を柔軟な構造にすると、水クラスターの平均的な大きさは大きくなる傾向がある。
一方、水クラスターの大きさの変動係数の調節手段としては、ポリマーにスルホ基あるいはリン酸基を導入する際の反応温度あるいは撹拌条件を変える、あるいは、水クラスターの平均的な大きさが互いに異なる複数の高分子電解質をブレンドする方法が挙げられる。後者の方法は、ブレンドする高分子電解質の種類と比率を変えることで(例えば、水分を含浸させることで高分子電解質中に形成される水クラスターの球相当径の平均値が1.0〜4.0nmであり、該球相当径の変動係数が10〜50%である高分子電解質を少なくとも2種類以上ブレンドすることで)、水クラスターの平均的大きさと変動係数を任意の値に調節することができる。但し、ブレンド前の高分子電解質よりも変動係数を大きくする方向に調節範囲は限定される。
【0024】
本発明において、高分子電解質膜を製膜する方法に特に制限はないが、溶液状態より製膜する方法(溶液キャスト法)あるいは溶融状態より製膜する方法(溶融プレス法または溶融押し出し法)等が可能である。具体的には前者については、例えば、電解質であるイオン交換ポリマーを含む溶液をガラス板上に流延塗布し、溶媒を除去することにより製膜できる。製膜に用いる溶媒は、電解質であるイオン交換ポリマーを溶解し、その後に除去し得るものであれば特に制限はなく、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒、または、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、ジクロロメタン、トリクロロエタン等のハロゲン系溶媒、イソプロピルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコールが好適に用いられる。
【0025】
本発明の高分子電解質膜の厚みは特に制限はないが、10〜200μmが好ましく、10〜100μmが好ましく、20〜60μmがより好ましい。10μm以上とすることにより、より実用に適した強度を有するものとなり、200μm以下とすることにより、膜抵抗の低減つまり発電性能向上がより向上する傾向にあり好ましい。
高分子電解質膜の厚みは、溶液キャスト法の場合、高分子電解質であるイオン交換ポリマーの溶液濃度の調整または基板上へ塗布する厚さの調整により制御できる。溶融状態より製膜する場合、高分子電解質膜の厚みは、溶融プレス法または溶融押し出し法等で得た所定厚さのフィルムを所定の倍率に延伸することで制御できる。
【0026】
本発明の高分子電解質膜のイオン交換容量は、好ましくは0.8〜4.0meq/gであり、より好ましくは1.3〜3.5meq/gであり、さらに好ましくは1.9〜2.6meq/gである。
一般的には、イオン交換容量を増大させると、プロトン伝導度は向上するが、イオン交換容量が大きすぎると、高分子電解質膜の機械的強度低下と、メタノールのクロスオーバー増大が生じ易くなる。本発明の高分子電解質膜は、イオン交換容量を増大させてもメタノールのクロスオーバーが増大しにくい特長がある。
【0027】
なお、本発明におけるイオン交換容量とは、高分子電解質膜の単位質量あたりに導入されたイオン交換基のモル数を表し、値が大きいほどイオン交換基含量が高いことを示す。イオン交換容量は、1H−NMRスペクトロスコピー、元素分析、特公平1−52866号公報に記載の酸塩基滴定、非水酸塩基滴定(規定液はカリウムメトキシドのベンゼン・メタノール溶液)等により測定が可能である。
【0028】
本発明の高分子電解質膜は、高分子電解質としてパーフルオロスルホン酸、あるいは、主鎖に芳香族環を有するスルホアルキル化芳香族炭化水素系ポリマーを用いることが可能であるが、どちらかといえば後者を用いることが好ましい。
【0029】
特に、下記一般式(1)で表されるスルホアルキル基を側鎖に導入したスルホアルキル化芳香族炭化水素系ポリマーを電解質として用いることが好ましい。
スルホアルキル化芳香族炭化水素系ポリマーの具体例としては、このような1977年イギリスのICI社によって開発された下記一般式(2)で代表される構造単位を有するポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ドイツBASF社で開発された半結晶性のポリアリールエーテルケトン(PAEK)、住友化学工業等で販売されている下記一般式(3)で代表される構造単位を有するポリエーテルケトン(PEK)、テイジンアモコエンジニアリングプラスチックスで販売されているポリケトン(PK)、住友化学工業、テイジンアモコエンジニアリングプラスチックスや三井化学等で販売されている下記一般式(4)で代表される構造単位を有するポリエーテルスルホン(PES)、ソルベイアドバンスドポリマーズ(株)で販売されている下記一般式(5)で代表される構造単位を有するポリスルホン(PSU)、東レ、大日本化学工業、トープレン、出光石油化学や呉羽化学工業等で販売されている下記一般式(6)で代表される構造単位を有するリニア或いは架橋型のポリフェニレンサルフィッド(PPS)、旭化成工業、日本ジーイープラスチックス、三菱エンジニアリングプラスチックスや住友化学工業で販売されている下記一般式(7)で代表される構造単位を有する変性ポリフェニレンエーテル(PPE)等のエンジニアリングプラスチック或いはそのポリマアロイに下記一般式(1)で表されるスルホアルキル基を側鎖に導入した芳香族炭化水素系ポリマーが挙げられる。
このうち、主鎖の耐酸化劣化特性の観点から、主鎖に用いられる繰り返し単位の少なくとも1つは、下記一般式(2)〜一般式(7)のいずれかの構造を有することが好ましい。
【0030】
一般式(1)
【化8】

一般式(2)
【化9】

一般式(3)
【化10】

一般式(4)
【化11】

一般式(5)
【化12】

一般式(6)
【化13】

一般式(7)
【化14】

【0031】
また、本発明では、高分子電解質として、特開平9−102322号公報に開示されている、炭化フッ素系ビニルモノマーと炭化水素系ビニルモノマーとの共重合によって作られた主鎖と、スルホン酸基を有する炭化水素系側鎖とから構成される、スルホン酸型ポリスチレン−グラフト−エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、特開平9−102322号公報に開示されているスルホン酸型ポリスチレン−グラフト−ETFE、米国特許第4,012,303号および米国特許第4,605,685号に開示されている、炭化フッ素系ビニルモノマーと炭化水素系ビニルモノマーとのコポリマーによって作製された膜に、α,β,β−トリフルオロスチレンをグラフト重合させ、これにスルホン酸基を導入して高分子電解質膜とした、スルホン酸型ポリ(トリフルオロスチレン)−グラフト−ETFEなどを用いることもできる。
【0032】
<<高分子電解質膜の他の成分>>
また、本発明の高分子電解質膜は、通常のポリマーに使用される可塑剤、安定剤、離型剤等の添加剤を本発明の目的に反しない範囲内で含んでいてもよい。
【0033】
本発明の高分子電解質膜には、膜特性を向上させるため、必要に応じて、酸化防止剤、繊維、吸水剤、可塑剤、相溶剤等を添加してもよい。これら添加剤の含有量は高分子電解質膜の全体量に対し1〜30質量%の範囲が好ましい。
【0034】
酸化防止剤としては、(ヒンダード)フェノール系、一価または二価のイオウ系、三価〜五価のリン系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系、シアノアクリレート系、サリチレート系、オキザリックアシッドアニリド系の各化合物が好ましい例として挙げられる。具体的には特開平8−53614号公報、特開平10−101873号公報、特開平11−114430号公報、特開2003−151346号公報に記載の化合物が挙げられる。
【0035】
繊維としては、パーフルオロカーボン繊維、セルロース繊維、ガラス繊維、ポリエチレン繊維等が好ましい例として挙げられ、具体的には特開平10−312815号公報、特開2000−231928号公報、特開2001−307545号公報、特開2003−317748号公報、特開2004−63430号公報、特開2004−107461号公報に記載の繊維が挙げられる。
【0036】
吸水剤(親水性物質)としては、架橋ポリアクリル酸塩、デンプン−アクリル酸塩、ポバール、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリグリコールジアルキルエーテル、ポリグリコールジアルキルエステル、シリカゲル、合成ゼオライト、アルミナゲル、チタニアゲル、ジルコニアゲル、イットリアゲルが好ましい例として挙げられ、具体的には特開平7−135003号公報、特開平8−20716号公報、特開平9−251857号公報に記載の吸水剤が挙げられる。
【0037】
可塑剤としては、リン酸エステル系化合物、フタル酸エステル系化合物、脂肪族一塩基酸エステル系化合物、脂肪族二塩基酸エステル系化合物、二価アルコールエステル系化合物、オキシ酸エステル系化合物、塩素化パラフィン、アルキルナフタレン系化合物、スルホンアルキルアミド系化合物、オリゴエーテル類、カーボネート類、芳香族ニトリル類が好ましい例として挙げられ、具体的には特開2003−197030号公報、特開2003−288916号公報、特開2003−317539号公報に記載の可塑剤が挙げられる。
【0038】
さらに本発明の高分子電解質膜には、(1)膜の機械的強度を高める目的、および(2)膜中の酸濃度を高める目的で種々のポリマーを含有させてもよい。
(1)機械的強度を高める目的には、分子量10,000〜1,000,000で本発明で用いる高分子電解質と相溶性のよい高分子化合物が適する。例えば、パーフッ素化ポリマー、ポリスチレン、ポリエチレングリコール、ポリオキセタン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホンが挙げられる。これらのポリマーは、2種類以上を併用してもよい。これらのポリマーの含有量としては全体に対し1〜30質量%の範囲が好ましい。
相溶剤としては、沸点または昇華点が250℃以上のものが好ましく、300℃以上のものがより好ましい。
(2)酸濃度を高める目的には、ナフィオンに代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー、側鎖にリン酸基を有するポリ(メタ)アクリレート、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリベンズイミダゾールなどの耐熱芳香族高分子のスルホン化物などのプトロン酸部位を有するポリマーなどが好ましく、含有量としては全体に対し1〜30質量%の範囲が好ましい。
【0039】
本発明の高分子電解質膜の特性としては、以下の諸性能を持つものが好ましい。
プロトン伝導度は例えば60℃純水浸漬時において、0.12S/cm以上であることが好ましく、0.16S/cm以上であるものがより好ましい。
強度としては例えば引っ張り強度が10MPa以上であることが好ましく、20MPa以上であるものがさらに好ましい。
使用形態における貯蔵弾性率は500MPa以上であることが好ましく、1000MPa以上であるのが特に好ましい。
【0040】
本発明の高分子電解質膜は安定した吸水率および含水率を持つものが好ましい。実用上十分なプロトン伝導度を高分子電解質膜に持たせるためには、含水率は体積ベースで15%以上になっていることが好ましい。水クラスター同士が連結してプロトン伝導路を形成するためには、水クラスターが十分な大きさと存在密度で生成する必要があり、そのために必要な含水率が前記の値と考えられる。但し、含水率が体積ベースで40%以上になると、膜の機械的強度が実用上許容できない程度まで低下すること、吸水することによる膜の膨張が許容外に大きくなる。従って、含水率の好ましい範囲は、体積ベースで15〜40%、より好ましくは20〜35%である。
本発明の高分子電解質膜は、アルコール類、水およびこれらの混合溶媒に対し、溶解度は実質的に無視できる程度であることが好ましい。また上記溶媒に浸漬した時の重量減少、形態変化も実質的に無視できる程度であることが好ましい。
膜状に形成した場合のイオン伝導方向は表面から裏面の方向が、それ以外の方向に対し高い方が好ましいが、ランダムであってもよい。
本発明の高分子電解質膜の耐熱温度は、200℃以上であることが好ましく、250℃以上がより好ましい。耐熱温度は例えば1℃/分の測度で加熱していったときの重量減少5%に達した時間として定義できる。この重量減少は、水分等の蒸発分を除いて計算される。
【0041】
<<膜電極接合体および燃料電池>>
以下に、本発明の高分子電解質膜を使用した膜電極接合体(MEA)の例および、該膜電極接合体を用いた燃料電池の例について説明する。
図2は膜電極接合体の断面概略図の一例を示したものである。MEA10は、高分子電解質膜11と、それを挟んで対向する電極(アノード電極12及カソード電極13)を備える。これらの電極は、好ましくは、触媒層12b、13bと、導電層12a、13aから構成される。但し、膜電極接合体は、触媒層のみを有していれば、導電層を有することを必須の要件とするものではない。
【0042】
一方、触媒層12b、13bは、好ましくは、活性金属触媒の微粒子を含む導電料とバインダーを含む。ここで、活性金属触媒の微粒子を含む導電材は、炭素材に白金などを担持した触媒であることが好ましい。活性金属触媒として白金以外に金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、クロム、タングステン、マンガン、バナジウム等の金属や合金あるいは化合物を用いることができる。通常用いられる活性金属触媒の粒子サイズは、2〜10nmの範囲である。粒子サイズを10nm以下とすることにより、単位質量当りの表面積が大きくなるので活性が高まり有利であり、2nm以上とすることにより、より分散しやすくなるため好ましい。炭素材としては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラックやカーボンナノチューブ等の繊維状炭素あるいは活性炭、黒鉛等を用いることができ、これらは単独あるいは混合して使用することができる。
【0043】
ここで、触媒層のバインダーとしては、プロトン供与基を持った固体であれば制限はないが、高分子電解質膜に用いられる酸残基を有する高分子化合物、ナフィオン(登録商標)に代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー、側鎖にリン酸基を有するポリ(メタ)アクリレート、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリベンズイミダゾール等の耐熱芳香族高分子、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリオキセタン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリフェニレンスルフィド、スルホン化ポリフェニレンオキシド、スルホン化ポリフェニレンの膜が挙げられ、具体的には、特開2002−110174号公報、特開2002−105200号公報、特開2004−10677号公報、特開2003−132908号公報、特開2004−179154号公報、特開2004−175997号公報、特開2004−247182号公報、特開2003−147074号公報、特開2004−234931号公報、特開2002−289222号公報、特開2003−208816号公報に記載のものが挙げられる。
バインダーを高分子電解質膜と同種の材料とすると、高分子電解質膜と触媒層との電気化学的密着性が高まるので好ましい。
【0044】
活性金属触媒の使用量は、0.03〜10mg/cm2の範囲が電池出力と経済性の観点から適している。活性金属触媒を担持する導電材の量は、活性金属触媒の質量に対して、1〜10倍が適している。触媒層のバインダーとしてのプロトン伝導材料の量は、活性金属触媒を担持する導電材の質量に対して、0.1〜2倍が適している。
【0045】
活性金属触媒を担持する方法としては、熱還元法、スパッタ法、パルスレーザーデポジション法、真空蒸着法などが挙げられる(例えば、WO2002/054514号公報など)。
【0046】
電極触媒層に過剰な水分が滞留することによる性能劣化を防止する目的で、触媒層に撥水剤を含有させることは、本発明の高分子電解質膜を使用したMEAにおいても好ましく実施することができる。撥水剤としてはフッ素樹脂が好ましいが、耐熱性および耐酸化性に優れた撥水剤であれば、フッ素樹脂以外の撥水剤を用いてもよい。撥水剤に導電性をもたせるために炭素系の撥水材料を用いることができる。導電性をもつ炭素系の撥水材料として、活性炭、カーボンブラック、炭素繊維を用いることが可能で、具体的には特開2005−276746号公報に記載のものが挙げられる。
【0047】
触媒層の厚さは5〜200μmが好ましく、10〜100μmが特に好ましい。高分子電解質膜の平均厚みをdM、アノード電極の平均厚みをdA、カソード電極の平均厚みをdCとした際、200μm>dM>dC>dAであることが好ましく、100μm>dM>dC>dAであることがより好ましい。
【0048】
一方、導電層(電極基材、透過層、あるいは裏打ち材とも呼ばれる)は、集電機能および水がたまりガスの透過が悪化するのを防ぐ役割を担うものが好ましく、多孔質シートがより好ましい。
導電層は、具体的には、カーボンペーパーやカーボンクロスまたは炭素繊維を素材とする不織布などであり、厚みは100〜500μmが好ましく、150〜400μmが特に好ましい。撥水化のためにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)処理を施したものを使用することもできる。
【0049】
図3は燃料電池構造の一例を示す。燃料電池はMEA10と、MEA10を挟持する一対のセパレータからなる集電体17およびガスケット14とを有する。アノード電極側の集電体17にはアノード電極側給排気口15が設けられ、カソード電極側の集電体17にはカソード電極給排気口16設けられている。アノード電極側給排気口15からは、水素、アルコール類(メタノール等)等のガス燃料またはアルコール水溶液等の液体燃料が供給され、カソード電極側給排気口16からは、酸素ガス、空気等の酸化剤ガスが供給される。
【0050】
PEFCにおける活性分極はアノード電極側(燃料極側)に比べ、カソード電極側(空気極側)が大きい。これは、アノード電極側に比べ、カソード電極側の反応(酸素の還元)が遅いためである。カソード電極側の活性向上を目的として、活性金属触媒として、Pt−Cr、Pt−Ni、Pt−Co、Pt−Cu、Pt−Feなどのさまざまな白金基二元活性金属触媒を用いることができる。
燃料に一酸化炭素を含む化石燃料改質ガスを用いる燃料電池においては、COによる触媒被毒を抑制することが重要である。この目的のために、Pt−Ru、Pt−Fe、Pt−Ni、Pt−Co、Pt−Moなどの白金基二元活性金属触媒、Pt−Ru−Mo、Pt−Ru−W、Pt−Ru−Co、Pt−Ru−Fe、Pt−Ru−Ni、Pt−Ru−Cu、Pt−Ru−Sn、Pt−Ru−Auなどの白金基三元活性金属触媒を用いることができる。
【0051】
電極の機能は、(1)燃料を活性金属に輸送すること、(2)燃料の酸化(アノード電極)、還元(カソード電極)反応の場を提供すること、(3)酸化還元により生じた電子を集電体に伝達すること、(4)反応により生じたプロトンを電解質膜に輸送すること、である。(1)のために触媒層は、液体および気体燃料が奥まで透過できる多孔質性であることが必要である。(2)は上記で述べた活性金属触媒が、(3)は同じく上記で述べた導電材が担う。(4)の機能を果たすために、通常、触媒層に前述のバインダーを混在させる。
【0052】
次に、アノード電極およびカソード電極の作製方法について説明する。ナフィオンに代表されるプロトン伝導材料を溶媒に溶解し、活性金属触媒を担持した導電材と混合した分散液(触媒層塗布液)を分散する。
分散液の溶媒はヘテロ環化合物(3−メチル−2−オキサゾリジノン、N−メチルピロリドン等)、環状エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、鎖状エーテル類(ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等)、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル等)、多価アルコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等)、ニトリル化合物(アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等)、非極性溶媒(トルエン、キシレン等)、塩素系溶媒(メチレンクロリド、エチレンクロリド等)、アミド類(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセタミド等)、水等が好ましく用いられ、この中でもヘテロ環化合物、アルコール類、多価アルコール類、アミド類が好ましく用いられる。
【0053】
分散方法は、攪拌による方法でも良いが、超音波分散、ボールミル等を用いることもできる。得られた分散液はカーテンコーティング法、押し出しコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、スライドコーティング法、印刷コーティング法等の塗布法を用いて塗布することができる。
【0054】
分散液の塗布について説明する。塗布工程においては、上記分散液を用いて、押出成型によって製膜してもよいし、これらの分散液をキャストまたは塗布して製膜してもよい。この場合の支持体は特に限定されないが、好ましい例としては、ガラス基板、金属基板、高分子フィルム、反射板等を挙げることができる。高分子フィルムとしては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系高分子フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のエステル系高分子フィルム、ポリトリフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系高分子フィルム、ポリイミドフィルム等が挙げられる。塗布方式は公知の方法でよく、例えば、カーテンコーティング法、押し出しコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、スライドコーティング法、印刷コーティング法等を用いることができる。特に、支持体として導電性多孔質体(カーボンペーパー、カーボンクロス)を用いると触媒層と導電層を有する電極が作製できる。
【0055】
これらの操作はカレンダーロール、キャストロール等のロールまたはTダイを用いたフィルム成形機で行なうこともでき、プレス機器を用いたプレス成形とすることもできる。さらに延伸工程を追加し、膜厚制御、膜特性改良を行ってもよい。この他の方法として、上記のようにペースト状にした分散液を通常のスプレー等を用いて電解質膜に直接噴霧して触媒層を形成する方法等も用いることができる。噴霧時間と噴霧量を調節することで均一な触媒層を形成することができる。
【0056】
塗布工程の乾燥温度は乾燥速度に関連し、材料の性質に応じて選択することができる。好ましくは−20℃〜150℃であり、より好ましくは20℃〜120℃であり、さらに好ましくは50℃〜100℃である。乾燥時間は短時間であるほうが生産性の観点から好ましいが、あまり短時間であると気泡、表面の凹凸等の欠陥の原因となる。このため、乾燥時間は1分〜48時間が好ましく、5分〜10時間がより好ましく、10分〜5時間がさらに好ましい。また、湿度の制御も重要であり、25〜100%RHが好ましく、50〜95%RHがさらに好ましい。
【0057】
塗布工程における塗布液(分散液)中には金属イオンの含量が少ない物が好ましく、特に遷移金属イオン、中でも鉄イオン、ニッケルイオン、コバルトイオンは少ない物が好ましい。遷移金属イオンの含量は500ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましい。従って、前述の工程で使用する溶媒も、これらのイオンの含量の低いものが好ましい。
【0058】
さらに塗布工程を経た後に表面処理を行なってもよい。表面処理としては、粗面処理、表面切削処理、除去処理、コーティング処理を行なってもよく、これらは高分子電解質膜あるいは多孔質導電シートとの密着を改良できることがある。
【0059】
膜電極接合体の製造方法は、例えば、高分子電解質膜と、触媒層、導電層等を接合しMEAを作製する。作製方法については特に制限はなく、公知の方法を適用することが可能である。
【0060】
まず、触媒層と高分子電解質膜の密着方法について説明する。上記方法等により、導電層に触媒層を塗設したものを、高分子電解質膜にホットプレス法(好ましくは120〜250℃、0.4〜10MPa)で圧着する。また、適当な支持体(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シート等)に触媒層を塗設したものを、高分子電解質膜に転写しながら圧着した後、導電層を挟み込む方法を採用してもよい。
【0061】
具体的には、MEAの作製には、次の4つの方法が好ましい。
(1)プロトン伝導材料塗布法:白金担持カーボン材料、プロトン伝導材料、溶媒を基本要素とする触媒層ペースト(インク)を高分子電解質膜の両側に直接塗布し、多孔質導電シート等の導電層を熱圧着(ホットプレス)して5層構成のMEAを作製する。
(2)多孔質導電シート塗布法:触媒層ペーストを多孔質導電シート(導電層)表面に塗布し、触媒層を形成させた後、高分子電解質膜と熱圧着(ホットプレス)し、5層構成のMEAを作製する。塗布の支持体が異なる以外は上記(1)と同様である。
(3)Decal法:触媒層ペーストを支持体(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シート等)上に塗布し、触媒層を形成させた後、高分子電解質膜に触媒層のみを熱圧着(ホットプレス)により転写させ3層のMEAを形成させ、多孔質導電シートを圧着し、5層構成のMEAを作製する。
(4)触媒後担持法:白金未担持カーボン材料をプロトン伝導材料とともに混合したインクを高分子電解質膜、多孔質導電シートまたはPTFE上に塗布・製膜した後、白金イオンを当該固体電解質に含浸させ、白金粒子を膜中で還元析出させて触媒層を形成させる。触媒層を形成させた後は、上記(1)〜(3)の方法にてMEAを作製する。
【0062】
上記ホットプレスの温度は、高分子電解質膜の種類によるが、通常は100℃以上であり、好ましくは130℃以上、より好ましくは150℃以上である。
【0063】
上記のMEAの作製に用いる高分子電解質膜がイオン交換部位のカチオンが置換された塩を用いる場合にはさらに以下の工程が必要である。
燃料電池用途として使用するには、本発明で用いる高分子電解質膜がプロトン伝導性を有する必要性がある。そのために、酸との接触によって、本発明で用いる高分子電解質膜の塩置換率を接触する前の1%以下にする。電極触媒と本発明で用いる高分子電解質膜を接合した後に酸と接触させることによって、電極接合時に受ける熱履歴による膜の含水率およびイオン伝導性の低下を回復させることができる。
【0064】
酸と接触させる方法としては、塩酸、硫酸、硝酸、有機スルホン酸のような酸性水溶液に浸漬または酸性水溶液を噴霧する公知の方法を使用することができる。使用する酸性水溶液の濃度は、イオン伝導性の低下状況、浸漬温度、浸漬時間等にも依存するが、例えば、0.0001〜5規定の酸性水溶液を好適に用いることができる。浸漬温度は多くの場合は室温であれば十分に転化することができ、浸漬時間を短縮する場合は、酸性水溶液を加温してもよい。浸漬時間は、酸性水溶液の濃度および浸漬温度に依存するが、概ね10分間〜24時間の範囲で好適に実施することができる。
【0065】
燃料電池運転の際に、高分子電解質膜の内部を移動するプロトンが酸として機能することによって置換したカチオンが洗い流され、より高いイオン伝導性を発現させる方法等も用いることができる。
このようにして製造された膜電極接合体を用いて燃料電池を製造する方法を説明する。
【0066】
固体高分子電解質型燃料電池は、MEA、集電体、燃料電池フレーム、ガス供給装置等より構成される。このうち、集電体(バイポーラプレート)は、表面等にガス流路を有するグラファイト製または金属製の流路形成材兼集電体である。こうした集電体の間にMEAを挿入して複数積み重ねることにより、燃料電池スタックを作製することができる。
【0067】
燃料電池の作動温度は、高温であるほど触媒活性が上がるために好ましいが、通常は水分管理が容易な50℃〜120℃で運転させる。酸素や燃料ガスの供給圧力は、高いほど燃料電池出力が高まるため好ましいが、膜の破損等によって両者が接触する確率も増加するため適当な圧力範囲例えば1気圧から3気圧の範囲に調整することが好ましい。
【0068】
本発明の高分子電解質膜を使用したMEAの内部抵抗は単セルとして測定される。前述のようにMEAおよび集電体よりなる単セル、燃料電池フレーム、ガス供給装置より構成される固体高分子型燃料電池において単セルの内部抵抗は供給されるアノード電極の燃料ガス、カソード電極の空気または酸素ガス各々のガス流量、ガス供給圧力、ガス供給湿度により変化する。固体高分子型燃料電池の単セルの80℃における内部抵抗の最小値が100mΩ・cm2以下が好ましく、90Ω・cm2以下がより好ましく、80Ω・cm2以下がさらに好ましい。また、120℃における内部抵抗の最小値が600mΩ・cm2以下が好ましく、550mΩ・cm2以下がより好ましく、500mΩ・cm2以下がさらに好ましい。
【0069】
本発明の高分子電解質膜は、アノード側に導入する燃料として、水素、アルコール類(メタノール、イソプロパノール、エチレングリコールなど)、エーテル類(ジメチルエーテル、ジメトキシメタン、トリメトキシメタンなど)、ギ酸、水素化ホウ素錯体、アスコルビン酸を用いた燃料電池に適用することが可能である。カソード側に導入する酸化剤ガスとしては、酸素(大気中の酸素も含む)、過酸化水素などが挙げられる。
【0070】
前述の燃料および酸化剤ガスを、アノード側およびカソード側それぞれの触媒層に供給する方法には、(1)ポンプ等の補機を用いて強制循環させる方法(アクティブ型)と、(2)補機を用いない方法(例えば、液体の場合には毛管現象や自然落下により、気体の場合には大気に触媒層を晒し供給するパッシブ型)の2通りがあり、これらを組み合わせることも可能である。前者は、反応ガスの加圧調湿等を行い、高出力化ができる等の利点がある反面、より小型化がし難い欠点がある。後者は、小型化が可能な利点がある反面、高い出力が得られにくい欠点がある。
【0071】
燃料電池の単セル電圧は一般的に1.2V以下であるので、負荷の必要電圧に合わせて、単セルを直列スタッキングして用いる。スタッキングの方法としては、単セルを平面上に並べる「平面スタッキング」および、単セルを、両側に燃料流路の形成されたセパレータを介して積み重ねる「バイポーラースタッキング」が用いられる。前者は、カソード電極(空気極)が表面に出るため、空気を取り入れ易く、薄型にできることから小型燃料電池に適している。この他にも、MEMS技術を応用し、シリコンウェハー上に微細加工を施し、スタッキングする方法も提案されている。
【0072】
燃料電池は、様々な家庭用給湯発電装置、輸送機器の動力、携帯電子機器のエネルギー源としての利用が期待されている。例えば、好ましく適用できる給湯発電装置としては、家庭用、集合住宅用、病院用、輸送機器としては、自動車、船舶、携帯機器としては、携帯電話、モバイルノートパソコン、電子スチルカメラなどが挙げられる。好ましく適用できるポータブル機器としては、ポータブル発電機、野外照明機器などが挙げられる。また、産業用や家庭用などのロボットあるいはその他の玩具の電源としても好ましく用いることができる。さらには、これらの機器に搭載された2次電池の充電用電源としても有用である。さらに非常用電源の用途も提案されている。
【実施例】
【0073】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0074】
実施例1
(高分子電解質(P−1)〜(P−9)の合成)
【0075】
モノマーとして、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−クロロフェニルフェニル)スルホンを用い、丸善:第4版実験化学講座、28巻、高分子合成、P.357に記載の一般的な重合法に従い、ベンゼン環と硫黄原子を含んだアルキル鎖を介してベンゼン環に接続されたスルホ基を有するポリマーからなる高分子電解質を合成した。
【0076】
ポリスルホンの合成
かきまぜ機、窒素導入管、Dean−Starkトラップを備えた500ml三口フラスコに2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(22.8g、0.1mol)、ビス(4−クロロフェニル)スルホン(28.7g、 0.1mol)、炭酸カリウム(17.25g、 0.125mol)、ジメチルアセトアミド(DMAc)(150ml)、トルエン(75ml)を入れた。この混合物を窒素雰囲気下、6時間還流し、その後、過剰のトルエンを減圧することにより除いた。さらに、反応混合物を160℃で10〜12時間加熱した。粘性のある溶液を100℃に冷却後、クロロベンゼン(75ml)を加え、副生した無機塩をガラスろ過器でろ過した。ろ液を酢酸で中和し、溶液(25ml)に対して水−メタノール(250ml、1:1)を使用してポリマーを沈殿させた。得られたポリマーをろ別し、水、メタノール、水の順でよく洗浄した後、ポリマー中に残存する塩を除くため、1時間沸騰水中で還流した。ポリマーをろ別し、減圧乾燥(100℃)して、目的のポリマーであるポリスルホンを得た。
【0077】
クロロメチル化
SnCl4を加えたクロロメチルメチルエーテル(ClCH2OCH3)を、ポリスルホン11g(3.9×10-4mol)を1,1,2,2−テトラクロロエタン200mlに溶かした溶液(約60℃)に加えた。このとき、クロロメチルメチルエーテルの量を変えてスルホ基を導入する側鎖の数を変えることにより水クラスターの球相当径の平均値を増減させた。この溶液を、500ml三口フラスコに入れ水冷管を付け窒素置換下、攪拌し反応させた。このときの、反応温度および反応時間を変えることで、水クラスターの大きさの変動係数を変えた。
その後、メタノール(MeOH)3mlを加え反応を停止し、室温付近になるまで放置した。その後、ビーカーに溶液を移し、400mlのMeOHを加えポリマーを沈殿させ、吸引ろ過で沈殿部とろ液に分けた。沈殿部に再び200mlのMeOHを加えポリマーを沈殿させ、吸引ろ過で沈殿部とろ液に分けた。沈殿部を真空乾燥させ目的物であるクロロメチル化ポリスルホンを9.3g得た。
【0078】
スルホン化
カリウム−tert−ブトキシド((CH33COK))4.6g(4.1×10-2mol)および3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸ナトリウム(HS−(CH23−SO3Na)6.6g(3.7×10-2mol)を500mlの三口フラスコに入れ、脱水ジメチルホルムアミド(DMF)100mlを加えた。この溶液を、窒素気流下、80℃にて、10分間攪拌した。
上記で合成したクロロメチル化ポリスルホン5gを脱水DMF100mlに溶かしたものを、上記で作製した溶液が入った三口フラスコに滴下ロートを用いて加え、水冷管を付け窒素気流下、80℃にて、5時間攪拌させ反応させた。その後加熱を停止しオイルバスから引き上げ、室温付近になるまで放置させた。その後、吸引ろ過を行い沈殿部とろ液に分け、沈殿部を乾燥させ、目的物であるスルホン酸基が導入されたポリマーを得た。
【0079】
(高分子電解質膜(M−1)〜(M−17)の作製)
次いで、水クラスターの大きさと、その変動係数が、所望の値になる様に、下記表に記載のとおり、前記高分子電解質(P−1)〜(P−9)を適宜ブレンドし、25℃で、15重量%の濃度になるようにN,N’−ジメチルホルムアミド/メタノール=1/1の混合溶媒に溶解した。この溶液を、アプリケーターを用いてガラス上に展開し、30℃で20時間風乾した後、さらに80℃で真空乾燥することにより、膜厚50μmの高分子電解質膜(M−1)〜(M−17)を作製した。
【0080】
(高分子電解質(P−1)〜(P−17)および高分子電解質膜(M−1)〜(M−17)中の水クラスターの球相当径の平均値と変動係数の測定)
上記により得られた高分子電解質(P−1)〜(P−17)および高分子電解質膜(M−1)〜(M−17)は、酢酸鉛1.0mol/Lの水溶液に25℃で18時間浸漬することにより高分子電解質または高分子電解質膜中で水クラスターが占める領域を鉛イオンで修飾し、その後、純水で水洗し真空乾燥した後にエポキシ樹脂で包埋した。この後に、厚さ50nmの超薄切片に仕上げ、カーボン膜を張ったメッシュ上に支持した。
1軸回転ホルダーを用い、−70°〜+70°の間で2°刻みで前述の超薄切片を傾けながら、透過型電子顕微鏡(米国FEI製、Tecnai G2 F30、加速電圧300kV)を用い、拡大倍率27万倍で観測し、画像をCCDカメラでオート取得(解像度1024×1024ピクセル)した。
次いで、取得した画像データを、3次元画像処理ソフトウェア(米国テンプレート・グラフィックス・ソフトウェア社製、Amira4.1)にて3次元の濃淡画像を得た。次いで、この3次元の濃淡画像を判別分析法により二値化処理を行った。
二値化処理後、鉛イオンで修飾された部位である黒い球状の不定形粒子の体積分布を、画像処理ソフトウェアを使用して測定し、その測定データから、粒子の球相当直径の平均値と変動係数を算出した。このように算出した球相当直径の平均値と変動係数を、高分子電解質および高分子電解質膜中の水クラスター球相当径の平均値と変動係数とした。
高分子電解質(P−1)〜(P−9)およびナフィオンに対応する電解質膜のイオン交換容量、水クラスターの球相当直径の平均値および変動係数は、下記の表の通りである。
【0081】
【表1】

【0082】
上記で得られた高分子電解質膜(M−1)〜(M−17)のイオン交換容量、水クラスターの球相当直径の平均値、および変動係数は、下記表の通りである。
【0083】
【表2】

【0084】
上記表に記載の高分子電解質膜(M−1)〜(M−17)のメタノール透過量およびプロトン伝導度を、以下の方法で評価した。
メタノール透過量は、高分子電解質膜をエレクトロケム社製のセルにセットし、60℃で、片面に1mol/Lのメタノール水溶液を0.2mL/minの速度で供給し、もう片面に空気を50mL/minの速度で供給した。メタノール透過量は排気された空気中のメタノール濃度を測定して求めた。
【0085】
高分子電解質膜のプロトン伝導度の測定には、北斗電工製、電気化学測定システム、HAG5010(HZ-3000 50V 10A Power Unit, HZ-3000 Automatic Polarization System)およびエヌエフ回路設計ブロック製、周波数特性分析器(Frequency Response Analyzer)5080を使用し、4端子法でインピーダンス測定を行い、プロトン伝導度を求めた。サンプルである高分子電解質膜は幅16mm前後、長さ25mm前後の大きさに裁断した。サンプルは60℃の純水中に浸漬した状態のものを用いた。電極として直径500μmの白金線を使用した。電極はサンプルの表側に、互いに平行にかつサンプルの長手方向に対して直交するように配置した。
以上で評価した、各高分子電解質膜のメタノール透過量およびプロトン伝導度は、下記表の通りである。
【0086】
【表3】

【0087】
上記表の結果から、水クラスターの球相当径の変動係数を適切な範囲に調節した本発明の高分子電解質膜は、比較例の高分子電解質膜より大きいプロトン伝導度を有しながら、メタノール透過量が少ないことがわかる。
変動係数が本発明の範囲より小さい場合、水クラスターの球相当径の平均値を小さくすることでメタノール透過量を少なくすることは可能だが、その場合プロトン伝導度が減少する。一方、変動係数が本発明の範囲より大きいと、プロトン伝導度が本発明の場合より減少する。これらについても、表の結果から読み取ることができる。
【0088】
実施例2
(燃料電池用膜電極接合体の作製)
実施例1で作製した高分子電解質膜のうち下記表に示す高分子電解質膜を用い、膜電極接合体(MEA)を作製し、メタノールを用いた燃料電池(DMFC)としての性能を評価した。
アノード触媒層の作製のため、Pt:Ru:C=27:13:60(質量比)である白金−ルテニウム担持カーボン、純水、市販の5質量%ナフィオン117溶液(アルドリッチ製)、およびイソプロパノールを、質量比で1:2:8:8となるように混合し、アノード触媒層用インクを作製した。
また、カソード触媒層の作製のため、アノード触媒層用インクに対し、前述の白金−ルテニウム担持カーボンを、Pt:C=50:50(質量比)である白金担持カーボンに変更した以外は同様に行って、カソード触媒層用インクを作製した。
上記触媒層用インクは、それぞれ、市販のポリトリフルオロエチレンフィルム支持体(サンゴバン製)上に、白金塗布量が0.2mg/cm2となるように塗布し乾燥させた後、ホットプレスにより、スルホン酸部位をスルホン酸ナトリウム塩に置換した高分子電解質膜に接合した。
ホットプレスは、温度130℃、圧力は3MPa、時間は5分間で行った。その後、80℃の1Nの硫酸にMEAを2時間浸漬し、次いで水洗し、膜電極接合体の四辺を専用治具で拘束した後室温で16時間乾燥した。下記表に、本実施例で作製したMEAに使用した高分子電解質膜を示す。
【0089】
(DMFCセルの組み上げと性能評価)
上記で作製した膜電極接合体の両側に市販のカーボンペーパー(東レ製)を配置し、DMFCセルを組み上げた(発電領域5cm2)。燃料として、濃度4mol/Lのメタノール水溶液を0.5mL/minの速度で、酸化剤として60℃、100%RHの空気を130mL/minの速度で供給し、セル温度を60℃として、DMFCの発電特性評価を行った。結果を、下記表に示す。本発明の高分子電解質膜を用いた燃料電池セルは、比較例の高分子電解質膜を用いた試料よりも出力電圧が高かった。本発明の高分子電解質膜をDMFCに用いた場合の性能が良好であることが、下記表の結果より確認された。尚、下記表中、出力電圧(V)は、電流密度50mA/cm2のときの値を示している。
【0090】
【表4】

【0091】
実施例3
(水素燃料PEFC用MEAの作製)
実施例1で作製した高分子電解質膜のうち、下記表に示す高分子電解質膜を用いたMEAを作製し、水素燃料PEFCとしての性能を評価した。
アノード触媒層およびカソード触媒層の作製のため、Pt:C=50:50(質量比)である白金担持カーボン、純水、市販の5質量%ナフィオン117溶液(アルドリッチ製)、およびイソプ
上記触媒層用インクは、それぞれ、市販のポリトリフルオロエチレンフィルム支持体(サンゴバン製)上に、白金塗布量が0.2mg/cm2となるように塗布し乾燥させた後、ホットプレスにより、スルホン酸部位をスルホン酸ナトリウム塩に置換した高分子電解質膜に接合した。
ホットプレスおよび、その後の酸処理、水洗、乾燥は、実施例2と同様に行った。
【0092】
(水素燃料PEFCセルの組み上げと性能評価)
上記で作製した膜電極接合体の両側に市販のカーボンペーパー(東レ製)を配置し、PEFCセルを組み上げた(発電領域5cm2)。燃料として、80℃、100%RHの水素を圧力0.1MPaで供給し、酸化剤として80℃100%RHの空気を圧力0.25MPaで供給し、セル温度を80℃として、発電特性評価を行った。その結果を下記表に示す。本発明の高分子電解質膜は、水素を燃料としたPEFCにおいても比較例の高分子電解質膜より出力電圧が高く、性能が良好であることが確認された。尚、下記表中、出力電圧(V)は、電流密度50mA/cm2のときの値を示している。
【0093】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】ナフィオン膜の親水性部位を鉛イオンで修飾した試料の透過型電子顕微鏡写真である。膜中の水クラスターに対応する直径が4nm前後のクラスターが観察される。
【図2】膜電極接合体の構成の一例を示す概略断面図である。
【図3】燃料電池の構造の一例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0095】
10・・・膜電極接合体(MEA)
11・・・高分子電解質膜
12・・・アノード電極
12a・・・アノード極導電層
12b・・・アノード極触媒層
13・・・カソード電極
13a・・・カソード極導電層
13b・・・カソード極触媒層
14・・・ガスケット
15・・・アノード極ガス給排口
16・・・カソード極ガス給排口
17・・・集電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分を含浸させることで高分子電解質膜中に形成される水クラスターの球相当径の平均値が2.0〜4.0nmであり、該球相当径の変動係数が30〜50%であることを特徴とする、高分子電解質膜。
【請求項2】
前記水クラスターの球相当径の平均値が2.6〜3.2nmであることを特徴とする、請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項3】
前記水クラスターの球相当径の変動係数が35〜45%であることを特徴とする請求項1または2に記載の高分子電解質膜。
【請求項4】
イオン交換容量が1.9〜2.6meq/gであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の高分子電解質膜。
【請求項5】
主鎖に芳香環を有する固体電解質であって、イオウ原子を含む連結基を介して前記芳香環に結合しているスルホン酸基を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の高分子電解質膜。
【請求項6】
下記一般式(1)で表されるスルホアルキル基を側鎖に有し、かつ、主鎖に用いられる繰り返し単位の少なくとも1つが、下記一般式(2)〜一般式(7)のいずれかの構造を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の高分子電解質膜。
一般式(1)
【化1】

一般式(2)
【化2】

一般式(3)
【化3】

一般式(4)
【化4】

一般式(5)
【化5】

一般式(6)
【化6】

一般式(7)
【化7】

【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の高分子電解質膜を含む膜電極接合体。
【請求項8】
請求項7に記載の膜電極接合体を有する燃料電池。
【請求項9】
水分を含浸させることで高分子電解質中に形成される水クラスターの球相当径の平均値が1.0〜4.0nmであり、該球相当径の変動係数が10〜50%である高分子電解質を少なくとも2種類以上ブレンドして製膜することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項10】
高分子電解質を製造する際に、該高分子電解質へのスルホ基あるいはリン酸基の導入量を変えること、高分子電解質のポリマー主鎖へのフッ素の導入量を変えることでポリマー主鎖の疎水性を変えること、および高分子電解質のスルホ基が存在するポリマー側鎖の長さを変えることのいずれか1つ以上を行うことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の高分子電解質膜の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−238515(P2009−238515A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−81730(P2008−81730)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】