説明

高分子電解質膜の製造方法、並びに当該製造方法によって製造された高分子電解質膜およびその利用

【課題】 直接メタノール形燃料電池等の構成材料として有用な、高いメタノール遮断性と、メタノール等に対する膨潤抑制性と、メタノール水溶液に対する耐久性とを有する高分子電解質膜の製造方法および該電解質膜を提供する。
【解決手段】少なくとも芳香族単位を有する高分子化合物、および芳香族単位を有しない高分子化合物を含む高分子フィルムに、スルホン酸基が導入されてなる高分子電解質膜の製造方法であって、該スルホン酸基が導入されてなる該高分子電解質膜前駆体において該スルホン酸基の一部をスルホニルハライド基に変性する第1変性工程と、該スルホニルハライド基同士が該スルホニルハライド基と反応しうる基を2個以上有する化合物を介して架橋構造を生成する架橋工程と、該架橋工程で架橋されずに残るスルホニルハライド基をスルホン酸基に変性する第2変性工程と、を含む、高分子電解質膜の製造方法によって、解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質膜の製造方法、並びに当該製造方法によって製造された高分子電解質膜およびその利用に関するものである。特に、固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池等に用いる高分子電解質膜の製造方法、当該製造方法によって製造された高分子電解質膜、並びに当該高分子電解質膜を使用した膜−電極接合体および燃料電池等の利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化等の環境問題等の観点から、高効率でクリーンなエネルギー源の開発が求められている。それに対する一つの候補として燃料電池が注目されている。燃料電池は、水素ガスやメタノール等の燃料と酸素等の酸化剤をそれぞれ電解質で隔てられた電極に供給し、一方で燃料の酸化を、他方で酸化剤の還元を行い、直接発電するものである。
【0003】
上述した燃料電池の材料のなかで、最も重要な部材の一つが電解質である。このような燃料と酸化剤とを隔てる電解質としては、これまで様々なものが開発されているが、近年、特にスルホン酸基などのプロトン伝導性官能基を含有する高分子化合物から構成される高分子電解質の開発が盛んである。こうした高分子電解質は、固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池の他にも、例えば、湿度センサー、ガスセンサー、エレクトロクロミック表示素子などの電気化学素子の原料としても使用される。
【0004】
これら高分子電解質の利用法の中でも、特に、固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池は、新エネルギー技術の柱の一つとして期待されている。例えば、プロトン伝導性官能基を有する高分子化合物からなる電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池は、低温における作動、小型軽量化が可能などの特徴を有し、自動車などの移動体、家庭用コージェネレーションシステム、および民生用小型携帯機器などへの適用が検討されている。また、直接液体形燃料電池、特に、メタノールを直接燃料に使用する直接メタノール形燃料電池は、単純な構造と燃料供給やメンテナンスの容易さ、さらには高エネルギー密度化が可能などの特徴を有し、リチウムイオン二次電池代替として、携帯電話やノート型パソコンなどの民生用小型携帯機器への応用が期待されている。
【0005】
ここで、固体高分子形燃料電池に使用される電解質膜としては、1950年代に開発されたスチレン系の陽イオン交換膜があるが、燃料電池動作環境下における安定性に乏しく、充分な寿命を有する燃料電池を製造するには至っていない。
【0006】
一方、実用的な安定性を有する電解質膜としては、ナフィオン(Nafion)(登録商標)に代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸膜が広く検討されている。パーフルオロカーボンスルホン酸膜は、高いプロトン伝導性を有し、耐酸性、耐酸化性などの化学的安定性に優れているとされている。
【0007】
しかしながらナフィオン(登録商標)は、フッ素系電解質膜であるため、使用原料が高く、また複雑な製造工程を経るため、非常に高価であり、しかも廃棄時の環境への高負荷も懸念される。また電極反応で生じる過酸化水素やその副生物であるヒドロキシラジカルで劣化すると指摘されている。さらに直接液体形燃料電池の燃料であるメタノールなどの水素含有液体の透過(クロスオーバーともいう)が大きく、いわゆる化学ショート反応が起こる。これにより、カソード電位、燃料効率、セル特性などの低下が生じ、直接メタノール形燃料電池などの直接液体形燃料電池の電解質膜として用いるのが困難である。またナフィオン(登録商標)は、膜自身の形態変化、つまり膨潤が大きいため、膜自身に機械的応力がかかり、膜が破損する恐れがある。さらに、ナフィオン(登録商標)は、そのメタノールなどの水素含有液体の透過率が高いため、未発電時にもクロスオーバーによる燃料の消失が懸念される。
【0008】
特許文献1には、「本発明は、燃料電池用電解質膜及びその製造方法、並びに燃料電池及びその製造方法に関する。従来、直接型メタノール固体高分子燃料電池は電解質として固体高分子電解質を用いるが、メタノールが膜を透過してしまい、直接酸化されて起電力が低下する、触媒活性を上げるために温度を上げると摂氏130度付近で膜が融解してしまうという問題点があった。そこで、本発明は、メタノールおよび水に対して実質的に膨潤しない多孔性基材(1)の細孔(2)にプロトン伝導性を有するポリマー(3)を充填した電解質膜を作製し、メタノールの透過をできるだけ抑制し、かつ高温環境下での使用にも耐える、燃料電池用電解質膜及びその電解質膜を有してなる燃料電池並びにその燃料電池の製造方法を提供するとともに、有機溶媒および水に耐膨潤性を有する多孔性基板にエネルギー照射する工程と当該基板にモノマーを接触させ、重合反応を生じさせる工程を含んでなる電解質膜の製造方法を提供する。」との開示が有る。
【0009】
特許文献2には、「固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池の構成材料として有用な高分子電解質膜、その材料である高分子フィルム、電解質膜の製造方法並びに電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池を提供することを課題とする。また、固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池の構成材料として有用な、優れたプロトン伝導性を有し、かつ高いメタノール遮断性を有する高分子電解質膜およびその製造方法、またその高分子電解質膜の材料である高分子フィルムおよびその製造方法を提供することを課題とする。「(A)芳香族単位を有する高分子化合物、(B)芳香族単位がない高分子化合物、を必須成分として含む、高分子フィルム。」で課題を解決する。また上記に「さらに、(C)熱可塑性エラストマーを必須成分として含む高分子フィルム。」で課題を解決する」との開示が有る。
【0010】
特許文献3には、「高い耐久性を有する固体高分子型燃料電池用電解質膜および固体高分子型燃料電池用電極を提供すること」を課題として、解決手段として、「本発明の固体高分子型燃料電池用電解質膜および固体高分子型燃料電池用電極は、イオン交換基としてスルホン酸基(−SO3H) をもつイオン導電性高分子を有し、スルホン酸基の一部が−A1−R−A2− 基(R:電子供与性基、A1〜A2はそれぞれ独立して構造が決定されp−,m−若しくはo−フェニレン、ナフタリン)で架橋されたことを特徴とする。本発明の固体高分子型燃料電池用電解質膜および固体高分子型燃料電池用電極は、すぐれた耐久性を有する」との開示が有る。
【0011】
特許文献4には、「寸法変化安定性、耐水性、強度および弾性率に優れるとともに、高いプロトン伝導性を有する、高温加湿条件下においても使用可能な架橋型高分子電解質、該高分子電解質の製造方法および該高分子電解質からなるプロトン伝導膜を提供すること」を課題とし、解決手段として、「本発明に係る架橋型高分子電解質は、主鎖にポリフェニレン、ポリアゾール、ポリイミド、ポリアリーレンスルフィド、ポリスルホンまたはポリエーテルスルホン構造を有する重合体が、強酸性架橋基を介して架橋されていることを特徴とする。また、前記スルホン酸基を有する重合体は、ある特定の一般式で表される繰り返し単位を有することが好ましい。」との開示が有る。
【特許文献1】国際公開第00/54351号パンフレット(国際公開日:平成12(2000)年9月14日)
【特許文献2】国際公開第06/019029号パンフレット(国際公開日:平成18(2006)年2月23日)
【特許文献3】特開2005−243298号公報(公開日:平成17(2005)年9月8日)
【特許文献4】特開2005−154578号公報(公開日:平成17(2005)年6月16日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
高分子電解質膜として、種々のものが提案されている。例えば、特許文献1には、高分子の多孔質支持体に電解質モノマーを充填し、当該モノマーを高分子量化する方法、および当該方法によって得られる高分子電解質膜について開示されている。この高分子電解質膜は、燃料として使用するメタノールや水に対する膨潤を多孔質支持体によって抑制するため、それらの透過(クロスオーバー)が抑制されるとされている。しかしながら、その製造工程が複雑であるため、製造コストや生産性の面で問題点を、特許文献1に開示された技術は有している。また、高分子電解質膜に充分なプロトン伝導性を発現させるためには、電解質部分のプロトン伝導性基の含有量を高くする必要があり、この部分の耐久性や、電解質と支持体との界面の耐久性に懸念がある。さらに特許文献2には、固体高分子形燃料電池用の高分子電解質膜の材料である、芳香族単位を有する高分子化合物と、芳香族単位を有しない高分子化合物とを、必須成分としてふくむ高分子フィルムが例示されており、この高分子フィルムを用いて高分子電解質膜を作製すれば、優れたプロトン伝導性を有し、かつ高いメタノール遮断性を有する高分子電解質膜が得られるとある。しかし、この特許文献にはメタノールなどの水素含有液体に対する耐久性については言及されておらず、実際、電解質成分は全成分の一部となるため必然的に電解質部分のプロトン伝導性基の濃度が大きくなるため、メタノールなどの水素含有液体に対する耐久性に懸念がある。
【0013】
ほかにメタノールなどのクロスオーバー、メタノールや水などに対する膜の膨潤を抑える技術としては、共有結合などによる電解質高分子の架橋構造が注目されてきた。そのような技術で、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマーに架橋を適応したものでは、特許文献3といったものが開示されている。しかし、これらはもともとメタノールなどのクロスオーバー、メタノールや水などに対する膨潤の相当大きい膜への架橋構造の適応であるため、十分な効果があるとはいえず、実際メタノールなどのクロスオーバー抑制の効果については示されていない。また、特許文献4には、主鎖が特定の芳香族炭化水素系高分子の電解質に強酸性基の架橋構造を導入したものが開示されている。この技術によると、未架橋構造のものと比べて架橋構造を持ったものは含水時の膜の膨潤が抑えられている。しかし、ポリマー間に架橋構造を導入したのみでは、メタノールなどのクロスオーバーを抑制するには十分ではないと考えられ、実際、この特許文献においてもメタノールなどのクロスオーバー抑制については示されていない。
【0014】
本発明の目的は、上記問題を鑑みてなされたものであり、固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、直接メタノ−ル形燃料電池の高分子電解質膜の製造方法として有用な製造方法、並びに、それらの製造方法によって製造された高分子電解質膜を提供することである。つまり、プロトン伝導度を燃料電池用電解質膜として使用できるよう保ちつつ、メタノールなどの水素含有液体の透過性(クロスオーバー)をできるだけ小さくし、なおかつメタノールや水などに対する膨潤を抑制し、さらにメタノールに対する耐久性を持った高分子電解質膜の製造方法、並びに、それらの製造方法によって製造された高分子電解質膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、少なくとも芳香族単位を有する高分子化合物、および芳香族単位を有しない高分子化合物を含む高分子フィルムに、スルホン酸基が導入されてなる高分子電解質膜の製造方法であって、該スルホン酸基が導入されてなる該高分子電解質膜前駆体において該スルホン酸基の少なくとも一部をスルホニルハライド基に変性する第1変性工程と、該第1変性工程にて生成したスルホニルハライド基同士が該スルホニルハライド基と反応しうる基を2個以上有する化合物を介して架橋構造を生成する架橋工程と、該架橋工程で架橋されずに残るスルホニルハライド基をスルホン酸基に変性する第2変性工程とを含む、高分子電解質膜の製造方法によって高分子電解質膜を得ることにより、該高分子電解質膜のプロトン伝導性を充分に確保しつつも、メタノールなどの水素含有燃料成分の透過を抑制できること、およびメタノールや水などに対する膨潤を抑制し、かつメタノールに対する耐久性を持たせることができることを見出し、本願発明を完成させるに至った。本発明は、かかる新規知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を包含する。
【0016】
すなわち本発明にかかる高分子電解質膜の製造方法は、
少なくとも芳香族単位を有する高分子化合物、および芳香族単位を有しない高分子化合物を含む高分子フィルムに、スルホン酸基が導入されてなる高分子電解質膜の製造方法であって、該スルホン酸基が導入されてなる該高分子電解質膜前駆体において該スルホン酸基の少なくとも一部をスルホニルハライド基に変性する第1変性工程と、該第1変性工程にて生成したスルホニルハライド基同士が該スルホニルハライド基と反応しうる基を2個以上有する化合物を介して架橋構造を生成する架橋工程と、該架橋工程で架橋されずに残るスルホニルハライド基をスルホン酸基に変性する第2変性工程とを含む、高分子電解質膜の製造方法である。
【0017】
また本発明にかかる高分子電解質膜の製造方法は、前記スルホニルハライド基が、スルホニルクロライド基であってもよい。
【0018】
前記本発明にかかる高分子電解質膜の製造方法を用いることによって、後述のごとく、充分なプロトン伝導性を有しながら、低メタノール透過性(クロスオーバー)を備え、かつメタノールや水などに対する膨潤が抑制され、メタノールに対する耐久性を持った高分子電解質膜を製造することが、簡便な方法でが可能となる。
【0019】
また本発明にかかる高分子電解質膜の製造方法は、前記芳香族単位を有する高分子化合物が、下記の(i)〜(iii)から選択される1種のポリマー、またはこれらポリマーの混合物であってもよい:
(i)ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、およびポリフェニレンサルファイドからなるポリマーの群より選択される、少なくとも1種のポリマー;
(ii)上記(i)に記載のポリマーを含む共重合体;
(iii)上記(i)および(ii)に記載のポリマーの誘導体。
【0020】
上記態様によれば、得られる高分子フィルムおよび高分子電解質膜の加工性や機械的特性が優れるとともに、プロトン伝導性基の導入が容易であるという効果を享受できる。また適当なブロック共重合体、グラフト共重合体、酸変性品などを用いれば前記芳香族単位を有しない高分子化合物との相溶性や分散状態を調節することも可能となる。
【0021】
また本発明にかかる高分子電解質膜の製造方法は、前記芳香族単位を有しない高分子化合物が、下記一般式(1)の繰り返し単位を有する高分子化合物から選択される1種のポリマー、またはこれらの混合物であってもよい:
−(CX12−CX34)− ・・・(1)
(式中、X14は、H、CH3、Cl、F、OCOCH3、CN、COOH、COOCH3、およびOC49からなる群から選択されるいずれかであって、X14は互いに独立で、同一であっても異なっていてもよい。)。
【0022】
また本発明にかかる高分子電解質膜の製造方法は、前記芳香族単位を有しない高分子化合物が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、およびそれらの誘導体からなる群より選択される1種のポリマー、またはこれらの混合物であってもよい。
【0023】
上記態様によれば、化学的安定性が高くかつメタノール遮断性に優れた高分子電解質膜が得られるとともに、安価に当該高分子電解質膜を製造することができるという効果を享受できる。
【0024】
また本発明にかかる高分子電解質膜の製造方法は、高分子電解質膜を、溶融成形にて製造する工程を含んでよい。溶融成形によって加工する工程を含むことで、簡便な製造方法とすることができる。
【0025】
また本発明にかかる高分子電解質膜の製造方法は、前記スルホン酸基を、スルホン酸基導入剤を用いて導入してよい。このような方法により、優れたプロトン伝導性および高いメタノール遮断性を両立する高分子電解質膜が簡便かつ高い生産性で得ることができる。
【0026】
一方、本発明にかかる高分子電解質膜は、上記本発明にかかる高分子電解質膜の製造方法によって製造された高分子電解質膜である。上記本発明にかかる高分子電解質膜は、メタノール透過性が小さく、なおかつメタノールや水などに対する膨潤が抑制され、メタノールに対する耐久性を持った高分子電解質膜であるため、燃料電池の材料として優れている。
【0027】
また本発明にかかる膜−電極接合体は、上記本発明にかかる高分子電解質膜を用いてなるものである。本発明にかかる膜−電極接合体は、高いプロトン伝導性、メタノール遮断性を有し、なおかつメタノールや水などに対する膨潤が抑制され、メタノールに対する耐久性を持った高分子電解質膜を備えているため、固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池用の膜−電極接合体として特に優れている。
【0028】
また本発明にかかる燃料電池は、上記本発明にかかる高分子電解質膜を用いてなるものである。本発明にかかる燃料電池は、本発明にかかる高分子電解質膜の製造方法により得られた高分子電解質膜を使用した燃料電池(固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池等)である。よって、本発明にかかる燃料電池は、高いプロトン伝導性、メタノール遮断性を有し、なおかつメタノールや水などに対する膨潤が抑制され、メタノールに対する耐久性を持った高分子電解質膜を備えているため、優れた性能を有する。特に本発明は、固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池への利用が特に好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、
少なくとも芳香族単位を有する高分子化合物、および芳香族単位を有しない高分子化合物を含む高分子フィルムに、スルホン酸基が導入されてなる高分子電解質膜の製造方法であって、該スルホン酸基が導入されてなる該高分子電解質膜前駆体において該スルホン酸基の少なくとも一部をスルホニルハライド基に変性する第1変性工程と、該第1変性工程にて生成したスルホニルハライド基同士が該スルホニルハライド基と反応しうる基を2個以上有する化合物を介して架橋構造を生成する架橋工程と、該架橋工程で架橋されずに残るスルホニルハライド基をスルホン酸基に変性する第2変性工程とを含む、高分子電解質膜の製造方法により、高分子電解質膜を得ることにより、メタノール透過性をできるだけ小さくし、なおかつメタノールや水などに対する膨潤が抑制され、メタノールに対する耐久性を持った高分子電解質膜を製造することが可能である。また、本発明の方法によれば、上記好ましい物性に加え、さらに、加工性、機械的特性、および化学的安定性に優れた高分子電解質膜を簡便に製造することが可能となる。
【0030】
それゆえ、本発明は燃料電池の分野において利用可能であり、特に固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池等に好ましく利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の一実施形態について説明すれば以下の通りである。なお、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
【0032】
<1.本発明にかかる高分子電解質膜の製造方法>
すなわち本発明にかかる高分子電解質膜の製造方法(以下「本発明の製造方法」という)は、上記課題を解決するために、少なくとも芳香族単位を有する高分子化合物、および芳香族単位を有しない高分子化合物を含む高分子フィルムに、スルホン酸基が導入されてなる高分子電解質膜の製造方法であって、該スルホン酸基が導入されてなる該高分子電解質膜前駆体において該スルホン酸基の少なくとも一部をスルホニルハライド基に変性する第1変性工程と、該第1変性工程にて生成したスルホニルハライド基同士が該スルホニルハライド基と反応しうる基を2個以上有する化合物を介して架橋構造を生成する架橋工程と、該架橋工程で架橋されずに残るスルホニルハライド基をスルホン酸基に変性する第2変性工程とを、含むことを特徴としている。
【0033】
このような本発明の製造方法は、大きく分けて2通りの製造方法に分けられる。その一つは、スルホン酸基を持った高分子電解質膜前駆体(なお、以下では最終生成物でなくても、高分子電解質膜前駆体のことを、単に「高分子電解質膜」とも呼ぶ場合が有り、また、特に区別をしない場合「高分子電解質膜(前駆体)とも表現する場合が有る。)をあらかじめ作製し、このスルホン酸基をスルホニルハライド基に変性した後に、該スルホニルハライド基と反応しうる基を2個以上有する化合物を介してこのスルホニルハライド基を用いて架橋させ、架橋されずに残ったスルホニルハライド基をスルホン酸基に変性して目的の高分子電解質膜を製造する方法と、スルホン酸基を持った高分子電解質前駆体(膜ではなく、主には溶液の状態)をあらかじめ作製し、このスルホン酸基をスルホニルハライド基に変性した後に、このスルホニルハライド基を用いて架橋させつつ膜の形態にする方法である。これらの方法は適宜使用できるが、ここではより簡便であり好ましい前者について説明する。
【0034】
さらに、前者の方法では、スルホン酸基を持った高分子電解質膜(前駆体)をあらかじめ作製するが、この方法にはスルホン酸基を持ったモノマーを重合し高分子電解質樹脂とし、これをキャスト法などにより膜形状にして電解質膜(前駆体)とする方法と、スルホン酸基を持たない高分子フィルムを作製した後、スルホン酸基導入剤を用いてスルホン酸基を導入、電解質膜(前駆体)とする方法がある。これらの方法は適宜使用できるが、ここでは一例として、より簡便な後者について説明する。つまり、以下説明する方法は、スルホン酸基を持たない高分子フィルムをあらかじめ作製し、これにスルホン酸基を導入して高分子電解質膜(前駆体)とし、その後このスルホン酸基をスルホニルハライド基に変性し、該スルホニルハライド基と反応しうる基を2個以上有する化合物を介してこのスルホニルハライド基を用いて架橋させ、さらに架橋工程で架橋されずに残るスルホニルハライド基をスルホン酸基に変性し、目的の高分子電解質膜を製造する方法である。以下工程毎に説明する。
【0035】
(1−1)高分子フィルム作製工程
本発明の製造方法における高分子フィルム作製工程で用いられる、前記芳香族単位を有する高分子化合物としては、例えば、ポリアリールエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリスルホン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルホキシド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリベンズイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリエーテルスルホン、スチレン−(エチレン−ブチレン)スチレン共重合体、スチレン−(ポリイソブチレン)−スチレン共重合体、ポリ1,4−ビフェニレンエーテルエーテルスルホン、ポリアリーレンエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、シアン酸エステル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン−ポリスチレングラフト共重合体、ポリエチレン−ポリスチレンブロック共重合体、ポリプロピレン−ポリスチレングラフト共重合体、(エチレン−グリシジルメタクリレート)−ポリスチレングラフト共重合体、(エチレン−エチルアクリレート)−ポリスチレングラフト共重合体、ポリプロピレン−(アクリロニトリル−スチレン)グラフト共重合体、ポリカーボネート−ポリスチレングラフト共重合体、ポリカーボネート−(アクリロニトリル−スチレン)グラフト共重合体、酢酸ビニル樹脂−ポリスチレンブロック共重合体、アクリル樹脂−ポリスチレンブロック共重合体、モディパーシリーズ(日本油脂株式会社製、登録商標)、エポフレンドシリーズ(ダイセル化学株式会社製)などが例示できる。特に、化学的安定性および熱的安定性や、プロトン伝導性置換基の導入のし易さ、得られるプロトン伝導性高分子電解質のプロトン伝導性、さらに得られプロトン伝導性高分子電解質膜のメタノール遮断性、などを考慮すると、前記芳香族単位を有する高分子化合物は、下記の(i)〜(iii)から選択される1種のポリマー、またはこれらポリマーの混合物であることが好ましい。
(i)ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、およびポリフェニレンサルファイドからなるポリマーの群より選択される、少なくとも1種のポリマー;
(ii)上記(i)に記載のポリマーを含む共重合体;
(iii)上記(i),(ii)に記載のポリマーの誘導体。
【0036】
一方、本発明の製造方法に使用可能な芳香族単位を有しない高分子化合物とは、文字通り構造中に芳香族単位を一切有しない化合物のことを意味する。高分子化合物中に芳香族単位が含まれているか否かは、NMR等の公知の方法により容易に確認することができるために、「芳香族単位を有する高分子化合物」および「芳香族単位を有しない高分子化合物」を当業者は容易に理解し得る。かかる芳香族単位がない高分子化合物としては、例えば、エチレン;プロピレン;1−ブテン;1−ペンテン;1−ヘキセン;3−メチル−1−ブテン;4−メチル−1−ペンテン;5−メチル−1−ヘプテンなどのα−オレフィンの単独重合体またはこれらの共重合体などを含むポリオレフィン樹脂、ノルボルネン系樹脂などの環状ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル;塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体;塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体;塩化ビニル−オレフィン共重合体などを含む塩化ビニル系樹脂、ナイロン6;ナイロン66などを含むポリアミド樹脂、および、ポリテトラフルオロエチレン;テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体;テトラフルオロエチレン−エキサフルオロプロピレン共重合体;テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体;ポリクロロトリフルオロエチレン;ポリビニリデンフルオライド;ポリビニルフルオライドなどのフッ素系樹脂などが例示される。
【0037】
前記芳香族単位を有しない高分子化合物は、他の高分子化合物成分に対する相溶性や分散性、高分子フィルムを製造する際の加工性や得られる高分子フィルムのハンドリング性、さらにはそれから得られる高分子電解質膜のメタノール遮断性、化学的安定性、および熱的安定性などを考慮すると、下記一般式(1)の繰り返し単位を有する高分子化合物から選択される1種のポリマー、またはこれらの混合物であることが好ましい:
−(CX12−CX34)− ・・・(1)
(式中、X14は、H、CH3、Cl、F、OCOCH3、CN、COOH、COOCH3、およびOC49からなる群から選択されるいずれかであって、X14は互いに独立で、同一であっても異なっていてもよい。)。
【0038】
さらに、工業的入手の容易さや、得られる高分子フィルムの機械的特性やハンドリング性、得られる高分子電解質膜のプロトン伝導性やメタノール遮断性、化学的安定性などを考慮すると、前記芳香族単位を有しない高分子化合物は、ポリエチレンおよび/またはポリプロピレンを含むことが好ましい。また高分子フィルムの製造に通常用いられる、各種添加剤、例えば相溶性向上のための相溶化剤、樹脂劣化防止のための酸化防止剤、フィルムとしての成型加工における取り扱いを向上するための帯電防止剤や滑剤などは、高分子電解質膜への加工性や性能に影響を及さない限りにおいて、適宜用いられ得る。特に異なる材料を組み合わせて高分子フィルムを製造する場合には、互いの相溶性を上げるために相溶化剤を用いることが好ましい。
【0039】
高分子フィルムの製造方法は、公知の方法が適宜使用され得る。例えば、インフレーション法、Tダイ法などの溶融押出成形、カレンダー法、キャスト法、切削法、エマルション法、ホットプレス法、などが例示され得る。さらに、本発明の製造方法においては、高分子フィルムの分子配向などを制御するために、得られた高分子フィルムに対して二軸延伸などの処理を施したり、結晶化度を制御するための熱処理を施したりしてもよい。また、高分子フィルムの機械的強度を向上させるために各種フィラーを添加したり、ガラス不織布などの補強剤と高分子フィルムとをプレスにより複合化させたりすることも、本発明の範疇である。
【0040】
上記方法の中でも生産性や得られる高分子フィルムの機械的特性、フィルムの厚み制御のし易さ、種々の樹脂への適用性、環境への負荷などを考慮すると、溶融押出成形で高分子フィルムを製造することが好ましい。具体的には、高分子フィルムの材料を、Tダイがセットされた押出機に投入し、溶融混練しながらフィルム化を行なう方法が適用され得る。さらに、芳香族単位を有しない高分子化合物のペレットやパウダーを所定の配合比で予め混合し、同様に溶融混練しながらフィルム化を行う方法が適用できる。このとき、使用する押出機が二軸押出機であれば、これらの成分を溶融して均一に分散させた高分子フィルムを得ることができる。また、予め所定の配合比になるように二軸押出機で溶融混練したペレットを使用してフィルム化を実施しても構わないし、マスターバッチ化したペレットを使用して、所定の配合比になるように溶融混練しながらフィルム化しても構わない。また、組み合わせる成分の分散性に問題がない場合には、Tダイをセットした単軸押出機でフィルム化を実施しても構わない。
【0041】
製造される高分子フィルムの厚さは、用途に応じて任意の厚さを選択することができる。例えば、高分子フィルムから得られる高分子電解質膜の内部抵抗を低減することを考慮した場合、高分子フィルムの厚みは薄い程よい。一方、得られた高分子電解質膜のメタノール遮断性やハンドリング性を考慮すると、高分子フィルムの厚みは薄すぎると好ましくない場合がある。これらを考慮すると、高分子フィルムの厚みは、1.2μm以上350μm以下であることが好ましい。上記高分子フィルムの厚さが上記数値の範囲内であれば、フィルム化が容易であり、かつプロトン伝導性基を導入する際の加工時や乾燥時にもシワが発生しにくい。また、破損が生じ難いなどハンドリング性が向上する。また、得られた高分子電解質膜のプロトン伝導性も所望の範囲で発現させることができる。
【0042】
(1−2)スルホン化工程
本発明の製造方法におけるスルホン化工程は、高分子フィルムにスルホン酸基を導入する工程である。換言すれば、スルホン化工程は、高分子フィルムとスルホン酸基導入剤とを接触させる工程である。または、本工程は高分子フィルムに対して、いわゆる高分子電解質膜としての機能を発現させる工程であるともいえる。
【0043】
上記導入工程としては、公知のスルホン酸基の導入方法を使用できる。特に、高分子フィルムを有機溶媒存在下でスルホン酸基導入剤と接触させる方法は、優れたプロトン伝導性及び高いメタノール遮断性を両立する高分子電解質膜が簡便かつ高い生産性で得られるため好ましい。
【0044】
上記スルホン酸基の含有量に由来する高分子電解質のイオン交換容量は、好ましくは0.3ミリ当量/g以上であり、より好ましくは0.5ミリ当量/g以上である。上記イオン交換容量が0.3ミリ当量/g以上であれば、高分子電解質膜が好ましいプロトン伝導性を発現し易くなる。なおスルホン酸基は後述のスルホニルハライド化工程において消費されるので、その消費分を考慮して設定することが好ましい。つまり、後に消費される分を、最終的に必要とされるスルホン酸基量に加えた量を設定すればよい。
【0045】
有機溶媒存在下で高分子フィルムとスルホン酸基導入剤とを接触させることで、プロトン伝導性基導入剤が高分子フィルムと直接接触し劣化するのを抑制しつつ、所望量のスルホン酸基を導入することが可能となる。
【0046】
本発明で使用可能なスルホン酸基導入剤としては、例えば、クロロスルホン酸、発煙硫酸、三酸化硫黄、三酸化硫黄−トリエチルフォスフェート、濃硫酸、トリメチルシリルクロロサルフェート等の公知のスルホン酸基導入剤を用いることが好ましい。工業的入手の容易さやスルホン酸基の導入の容易さや得られる高分子電解質膜の特性を考慮すると、クロロスルホン酸単体又はクロロスルホン酸を含む混合物を用いることが好ましい。つまり、本発明では、上記スルホン酸基導入剤は、クロロスルホン酸であることが好ましい。スルホン酸基導入剤がクロロスルホン酸であると、プロトン伝導性基であるスルホン酸基が導入しやすく、高いプロトン伝導性を有する高分子電解質膜を得やすくなるためである。
【0047】
上記工程に利用可能な有機溶媒は、スルホン酸基導入剤を分解することなく、芳香族単位へのスルホン酸基導入を阻害せずに、フィルム中の熱可塑性高分子や酸化防止剤の分解などの劣化を引き起こさないようなものであれば使用可能であり、特に限定されるものではない。このように有機溶媒を使用することによって、高分子フィルムが膨潤しやすくなり、フィルム内部までスルホン酸基導入剤を拡散させることができる。また、スルホン酸基導入剤と高分子フィルムとが直接接触し、過度の反応が生じてフィルムが劣化するのを抑制することができる。
【0048】
本発明においては、スルホン酸基の導入のしやすさや得られる高分子電解質膜の特性を考慮すると、特に、上記有機溶媒はハロゲン化炭化水素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素としては、例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロフォルム、1−クロロプロパン、1−クロロブタン、2−クロロブタン、1,4−ジクロロブタン、1−クロロ−2−メチルプロパン、1−クロロペンタン、1−クロロヘキサン、クロロシクロヘキサンなどを挙げることができる。特に、工業的入手の容易さやスルホン酸基の導入のしやすさ、得られる電解質膜の特性を考慮すると、ハロゲン化炭化水素は、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン及び1−クロロブタンからなる群から選択される少なくとも1種を含む有機溶媒であることが好ましい。すなわち、本発明では、上記有機溶媒が、ジクロロメタン又は1−クロロブタンを含むものであることが好ましい。有機溶媒が、ジクロロメタン又は1−クロロブタンであると、これらは工業的入手が容易であるとともに、プロトン伝導性基が導入しやすく、得られる高分子電解質膜のプロトン伝導性及びメタノール遮断性が両立できる。
【0049】
スルホン酸基導入剤の使用量としては、高分子フィルムに対して、0.1倍量以上100倍量以下(重量比)、さらには0.5重量以上50倍量以下(重量比)であるのが好ましい。スルホン化剤の使用量が、上記の好ましい数値範囲内であれば、スルホン酸基の導入量が好適な範囲となり、得られる高分子電解質膜のプロトン伝導性などの特性が充分担保できる。また、高分子フィルムが化学的に劣化することを防止でき、得られる高分子電解質膜の機械的強度の低下も防げる。このため、ハンドリングが容易である。加えて、スルホン酸基を好適な範囲で導入でき、メタノール遮断性を維持しつつ、水溶性やメタノール水溶液に可溶になるなど、高分子電解質膜の実用的な特性の低下を防止できる。
【0050】
また、有機溶媒中のスルホン化剤の濃度は、スルホン酸基の目標とする導入量や反応条件(温度や時間等)を勘案して適宜設定すればよい。具体的には、0.05重量%以上20重量%以下であることが好ましく、より好ましい範囲は、0.2重量%以上10重量%以下である。0.05重量%〜20重量%の範囲内であれば、スルホン化剤と高分子フィルム中の芳香族単位とが接触しやすく、所望のスルホン酸基量を導入でき、また導入する時間も短時間でよい。また、スルホン酸基の導入も均一となり、得られた高分子電解質膜の機械的特性も十分担保できる。
【0051】
また、高分子フィルムとスルホン酸基導入剤とを接触させる際の反応温度については特に限定されるものではないが、0℃以上100℃以下が好ましく、10℃以上30℃以下がさらに好ましい。反応温度が、0℃以上であれば、設備上冷却等の措置が必要でなく、反応に必要以上の時間がかかることを防止できる。また100℃以下であれば、反応を適切に調節することができ、副反応の発生を防止でき、膜の特性を低下させる問題を回避できる。さらに、高分子フィルムとスルホン酸基導入剤とを接触させる際の反応温度は、使用する有機溶媒の沸点以下であることが、耐圧容器を用いる必要がないため好ましいといえる。
【0052】
また、高分子フィルムとスルホン酸基導入剤とを接触させる際の反応時間については特に限定されるものではないが、その下限としては0.5時間以上が好ましく、2時間以上がさらに好ましい。一方、反応時間の上限としては100時間以下であること好ましい。反応時間が、0.5時間以上である場合は、スルホン酸基導入剤と高分子フィルム中の芳香族単位との接触が充分であり、所望量のスルホン酸基を導入することができる。また、反応時間が100時間以下であれば、生産性を損なうことなく、高分子電解質膜の特性向上を図ることができる。なお実際には、使用するスルホン酸基導入剤や有機溶媒などの反応雰囲気、目標とする生産量などを考慮して、所望の特性を有する高分子電解質膜を効率的に製造することができ反応条件を適宜設定すればよい。
【0053】
なお、上記スルホン化において、スルホン化剤の種類、量(特に過剰量)によって反応が最終的にスルホニルクロライドの状態で平衡している場合がある。例えば上記スルホン酸基導入剤として好ましいとされているクロロスルホン酸は、初期スルホン酸基導入剤として働くが、やがて導入されたスルホン酸基は、スルホン酸基導入剤として寄与しなかったクロロスルホン酸との平衡反応により、一部スルホニルクロライドの状態で存在する。よってこのような系においては、最終的に一部スルホニルクロライドとして存在する基をスルホン酸基と変性する必要がある。その方法としては、過剰量の水、あるいは薄い酸に接触させる方法が簡便である。この方法により速やかにスルホニルクロライド基がスルホン酸基へと変性する。この際の水、薄い酸の温度は0℃から80℃が好ましく、さらには20℃から60℃の範囲が特別な装置の必要も無くより好ましい。水、あるいは薄い酸に接触させる時間は、反応が速やかに進行することから、温度にもよるが好ましくは1時間以上、さらに好ましくは2時間以上である。
【0054】
また、本発明の製造方法においては、このスルホン化工程の後、スルホン酸基をスルホニルハライド基へと変性する第1変性工程が存在する。よって、前記スルホニルクロライド基をスルホン酸基へと変性させずにそのまま、つまり水などと接触させる工程を経ずに架橋工程へと導くことで第1工程を省略することも可能である。この場合はスルホン化工程が、第1変性工程を含んでいるとみなすことができ、第1変性工程が存在しないということにはならない。
【0055】
なお本発明の製造方法で製造された高分子電解質膜の特性をさらに向上させるために、電子線、γ線、イオンビーム等の放射線を照射させることも可能である。これらにより、高分子電解質膜中に架橋構造などが導入でき、さらにメタノール遮断性が向上する場合がある。またプラズマ処理やコロナ処理などの各種表面処理により、高分子電解質膜表面の触媒層の接着性を上げるなどの特性向上を図ることもできる。
【0056】
(1−3)第1変性工程
本発明の製造方法における第1変性工程は、電解質中のスルホン酸基をスルホニルハライド基に変換する工程である。スルホニルハライド基とは下記(2)で示される基である:
−SO2X ・・・(2)
(式中、Xはハロゲン元素を示す。)。
【0057】
特に、スルホニルハライド基として好適なのは取り扱いのしやすさ、反応性から下記(3)で示されるスルホニルクロライド基である。
【0058】
−SO2Cl ・・・(3)
スルホン酸基をスルホニルハライド化する方法は、公知の技術を用いることが出る。その方法として、ハロゲン化剤と直接、あるいは溶媒に溶かしたハロゲン化剤と前記スルホン化工程で得た高分子電解質膜とを接触させればよい。ハロゲン化剤としては、クロロスルホン酸、塩化チオニル、5塩化リン、3塩化リン、オキシ塩化リン、ホスゲン、オキサリルクロリド、5臭化リン、3塩化シアヌル酸、フッ化カリウムなどがあげられる。その他、例えば先にクロロスルホン化しておき、その後フルオロスルホン化するといった多段階の反応を用いることもできる。ここで用いる溶媒は、高分子電解質膜、ハロゲン化剤と反応せず、ハロゲン化反応を阻害しないものであれば良い。例としては一般的な非プロトン溶媒、ハロゲン系の溶媒などが挙げられる。反応温度、反応時間、使用量などは所望のハロゲン化反応を達成するために適宜設定すればよい。具体的には、反応時間は0.5時間から500時間、好ましくは1時間から200時間で設定すればよく、反応温度は0℃から80℃が好ましく、さらには20℃から60℃の範囲が特別な装置の必要も無くより好ましい。また使用量は、スルホン酸基に対してモル比で0.001から1000倍、好ましくは0.1から100倍で設定すればよい。
【0059】
ここで所望のハロゲン化反応とは、後述の適切な架橋条件を達成するための反応であり、他工程のスルホン酸基導入量、架橋反応量とも関連して設定される。
【0060】
本発明においては、プロトン伝導に寄与するスルホン酸基を用いて架橋を行い、メタノール透過性をできるだけ小さくし、なおかつメタノールや水などに対する膨潤を抑制し、メタノールに対する耐久性を持たせるという効果を得る。したがって、燃料電池用の高分子電解質膜として重要なプロトン伝導度を確保することと、架橋度を上げ本発明の効果を上げることはトレードオフの関係になる。このことから、必要なプロトン伝導度を確保しながら、本発明の効果を発現するような架橋の条件を設定することが必要である。ここで架橋の条件は、前記スルホン化工程でのスルホン酸基導入量、本変性工程におけるスルホン酸基からスルホニルハライド基への変性量、後述する架橋工程における架橋反応量で設定される。
【0061】
前記架橋の条件は、具体的には本発明の効果を達成する範囲で、できるだけ架橋の導入が少ない、つまりスルホン酸基を残す設定が好ましいが、所望する特性のバランスにより設定すればよい。実際には実施例で示される、各評価を行い、材料に応じた適切な条件を設定する。
【0062】
(1−4)架橋工程
本発明の製造方法における架橋工程は、スルホニルハライド基を用いて架橋構造を導入する工程である。この工程は、具体的にはスルホニルハライド基と反応しうる基を2個以上有する化合物と、前記変性工程で得たスルホニルハライド基を持った高分子電解質膜とを接触させる工程である。ここでスルホニルハライド基と反応しうる基とは、芳香族環の炭素、特に好ましくは電子供与基に隣接した芳香族環の炭素、カルボキサミド基、カルボキサミド金属塩、スルホンアミド基、スルホンアミド金属塩、アミド基、アミノ基などがあげられる。このようなスルホニルハライド基と反応しうる基を2個以上有する化合物としては、ベンゼンとその誘導体、ナフタレンとその誘導体、その他多環式芳香族化合物とその誘導体、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルフィド、ジフェニルメタン、1,2−ジフェニルエタン、1,4−ベンゼンジスルホニルアミドとその金属塩、4,4‘−ビフェニルジスルホニルアミドとその金属塩、などがあげられる。
【0063】
これら該スルホニルハライド基と反応しうる基を2個以上有する化合物との接触は、高分子電解質膜が該スルホニルハライド基と反応しうる基を2個以上有する化合物直接とであっても、該スルホニルハライド基と反応しうる基を2個以上有する化合物が溶媒に溶解した状態とであってもよい。反応温度、反応時間、使用量などは所望の架橋反応を達成するために適宜設定すればよい。具体的には、反応時間は0.5時間から500時間、好ましくは1時間から200時間で設定すればよく、反応温度は0℃から80℃が好ましく、さらには20℃から60℃の範囲が特別な装置の必要も無くより好ましい。また使用量は、スルホン酸基に対して0.001から1000倍、好ましくは0.1から100倍で設定すればよい。また、架橋反応を促進させるための触媒を使用することも好ましい。
【0064】
(1−5)第2変性工程
本発明の製造方法における第2変性工程は、前記架橋工程において、架橋に寄与しなかったスルホニルハライド基を、スルホン酸基に戻す工程である。この工程は、過剰量の水、あるいは薄い酸に、前記架橋工程に供した膜を、接触させる方法が簡便である。この方法により速やかに架橋に寄与しなかったスルホニルハライド基がスルホン酸基へと変性する。この際の水、薄い酸の温度は0℃から80℃が好ましく、さらには20℃から60℃の範囲が特別な装置の必要も無くより好ましい。水、あるいは薄い酸に接触させる時間は、反応が速やかに進行することから、温度にもよるが好ましくは1時間以上、さらに好ましくは2時間以上である。
【0065】
<2.本発明にかかる高分子電解質膜の利用>
本発明にかかる高分子電解質膜は、様々な産業上の利用が考えられ、その利用(用途)については、特に制限されるものではないが、例えば、上記高分子電解質膜を用いてなる膜−電極接合体を挙げることができる。かかる膜−電極接合体は、例えば、燃料電池、特に、固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、直接メタノール液体形燃料電池等の燃料電池に用いることができる。
【0066】
すなわち、本発明には、上記高分子電解質膜を用いてなる燃料電池が含まれていてもよい。
【0067】
上記膜−電極接合体や燃料電池によれば、上述したような優れたプロトン伝導性および高いメタノール遮断性を両立する高分子電解質膜を備えているため、高い発電特性と長期耐久性を有する。
【0068】
次に、本発明の高分子電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池の一実施形態について、図面を用いて説明する。なお、本実施の形態では、固体高分子形燃料電池を例に挙げて説明するが、直接液体形燃料電池、直接メタノール液体形燃料電池についても、固体高分子形燃料電池と同様に実施可能である。
【0069】
図1は、本実施の形態にかかる高分子電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池の要部断面の構造を模式的に示す図である。同図に示すように、本実施の形態にかかる固体高分子形燃料電池10は、高分子電解質膜1、触媒層2・2、拡散層3・3、セパレーター4・4を備えている。
【0070】
高分子電解質膜1は、固体高分子形燃料電池10のセルの略中心部に位置している。触媒層2は、高分子電解質膜1に接触するように設けられている。拡散層3は、触媒層2に隣接して設けられており、さらにその外側にセパレーター4が配置されている。セパレーター4には、燃料ガスまたは液体(メタノール水溶液など)、並びに、酸化剤を送り込むための流路5が形成されている。これらの部材は、固体高分子形燃料電池10のセルとして構成されていると換言できる。
【0071】
一般的に、高分子電解質膜1に触媒層2を接合したものや、高分子電解質膜1に触媒層2と拡散層3を接合したものは、膜−電極接合体(以下、「MEA」と表記する)といわれ、固体高分子形燃料電池(直接液体形燃料電池、直接メタノール液体形燃料電池)の基本部材として使用される。
【0072】
MEAを作製する方法は、従来検討されている、パーフルオロカーボンスルホン酸からなる高分子電解質膜やその他の炭化水素系高分子電解質膜(例えば、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリフェニレンサルファイドなど)で行われる公知の方法が適用可能である。
【0073】
MEAの具体的作製方法の一例を下記に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0074】
触媒層2の形成は、高分子電解質の溶液あるいは分散液に、金属担持触媒を分散させて、触媒層形成用の分散溶液を調合する。この分散溶液をポリテトラフルオロエチレンなどの離型フィルム上にスプレーで塗布して分散溶液中の溶媒を乾燥・除去し、離型フィルム上に所定の触媒層2を形成させる。この離型フィルム上に形成した触媒層2を高分子電解質膜1の両面に配置し、所定の加熱・加圧条件下でホットプレスし、高分子電解質膜1と触媒層2を接合し、離型フィルムをはがすことによって、高分子電解質膜1の両面に触媒層2が形成されたMEAが作製できる。
【0075】
また、上記分散溶液を、コーターなどを用いて拡散層3上に塗工して、分散溶液中の溶媒を乾燥・除去し、拡散層3上に触媒層2が形成された触媒担持ガス拡散電極を作製し、高分子電解質膜1の両側にその触媒担持ガス拡散電極の触媒層2側を配置し、所定の加熱・加圧条件下でホットプレスすることによって、高分子電解質膜1の両面に触媒層2と拡散層3とが形成されたMEAが製造できる。なお、上記触媒担持ガス拡散電極には、市販のガス拡散電極(米国E−TEK社製、など)を使用しても構わない。
【0076】
上記高分子電解質の溶液としては、パーフルオロカーボンスルホン酸高分子化合物のアルコール溶液(アルドリッチ社製ナフィオン(登録商標)溶液など)やスルホン化された芳香族高分子化合物(例えば、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリフェニレンサルファイドなど)の有機溶媒溶液などが使用できる。上記金属担持触媒としては、高比表面積の導電性粒子が担体として使用可能であり、例えば、活性炭、カーボンブラック、ケッチェンブラック、バルカン、カーボンナノホーン、フラーレン、カーボンナノチューブなどの炭素材料が例示できる。
【0077】
金属触媒としては、燃料の酸化反応および酸素の還元反応を促進するものであれば使用可能であり、燃料極と酸化剤極で同じであっても異なっていても構わない。例えば、白金、ルテニウムなどの貴金属あるいはそれらの合金などが例示でき、それらの触媒活性の促進や、反応副生物による被毒を抑制するための助触媒を添加しても構わない。
【0078】
上記触媒層形成用の分散溶液は、スプレーで塗布したり、コーターで塗工したりしやすい粘度に調整されるべく、水や有機溶媒で適宜希釈されても構わない。また、必要に応じて触媒層2に撥水性を付与するため、テトラフルオロエチレンなどのフッ素系化合物を混合してもよい。
【0079】
上記拡散層3としては、カーボンクロスやカーボンペーパーなどの多孔質の導電性材料が使用可能である。これらは燃料や酸化剤の拡散性や反応副生物や未反応物質の排出性を促進するため、テトラフルオロエチレンなどで被覆して撥水性を付与したものを使用するのが好ましい。また、高分子電解質膜1と触媒層2との間に必要に応じて前述したような高分子電解質からなる接着層を設けてもよい。
【0080】
高分子電解質膜1と触媒層2とを加熱・加圧条件下でホットプレスする条件は、使用する高分子電解質膜1や触媒層2に含まれる高分子電解質の種類に応じて適宜設定する必要がある。上記条件としては、一般的に高分子電解質膜1や触媒層2に含まれる高分子電解質の熱劣化や熱分解温度以下であって、高分子電解質膜1あるいは触媒層2に含まれる高分子電解質のガラス転移点や軟化点以上の温度、さらには高分子電解質膜1および触媒層2に含まれる高分子電解質のガラス転移点や軟化点以上の温度条件下であることが好ましい。
【0081】
加圧条件としては、概ね0.1MPa以上20MPa以下の範囲であることが、高分子電解質膜1と触媒層2が充分に接触するとともに、使用材料の著しい変形にともなう特性低下がなく好ましい。特にMEAが高分子電解質膜1と触媒層2とからのみ形成される場合は、拡散層3を触媒層2の外側に配置して特に接合することなく接触させるのみで使用しても構わない。
【0082】
上記のような方法で得られたMEAを、燃料ガスまたは液体、並びに、酸化剤を送り込む流路5が形成された一対のセパレーター4などの間に挿入することにより、本実施の形態にかかる固体高分子形燃料電池10が得られる。
【0083】
上記セパレーター4としてはカーボングラファイトやステンレス鋼の導電性材料のものが使用できる。特にステンレス鋼などの金属製材料を使用する場合は、耐腐食性の処理を施していることが好ましい。
【0084】
上記の固体高分子形燃料電池10に対して、燃料ガスまたは液体として、水素を主たる成分とするガスや、メタノールを主たる成分とするガスまたは液体を、酸化剤として、酸素を含むガス(酸素あるいは空気)を、それぞれ別個の流路5より、拡散層3を経由して触媒層2に供給することにより、固体高分子形燃料電池は発電する。このとき燃料として、例えば、含水素液体を使用する場合には直接液体形燃料電池となるし、メタノールを使用する場合には直接メタノール液体形燃料電池となる。つまり、固体高分子形燃料電池10について例示した上記実施形態は、そのまま直接液体形燃料電池、直接メタノール液体形燃料電池についても適用可能といえる。
【0085】
なお、本実施の形態にかかる固体高分子形燃料電池10を単独で、あるいは複数積層して、スタックを形成して使用することや、それらを組み込んだ燃料電池システムとすることもできる。
【0086】
次いで、本発明の高分子電解質膜を使用した直接メタノール液体形燃料電池の一実施形態について、図面を用いて説明する。
【0087】
図2は、本実施の形態にかかる高分子電解質膜からなる直接メタノール液体形燃料電池の要部断面の構造を模式的に示す図である。同図に示すように、本実施の形態にかかる直接メタノール液体形燃料電池20は、MEA16、燃料タンク17、支持体19を備えている。燃料タンク17は、燃料(メタノールあるいはメタノール水溶液)充填部(供給部)18を備えており、支持体19には酸化剤流路15が形成されている。
【0088】
上述した方法で得られたMEA16が、燃料充填部18を有する燃料タンク17の両側に必要数が平面状に配置されている。さらにその外側には、酸化剤流路15が形成された支持体19が配置されている。つまり、2つの支持体19・19に狭持されることによって、直接メタノール液体形燃料電池20のセル、スタックが構成される。
【0089】
なお、上述した例以外にも、本発明にかかる高分子電解質膜は、特開2001−313046号公報、特開2001−313047号公報、特開2001−93551号公報、特開2001−93558号公報、特開2001−93561号公報、特開2001−102069号公報、特開2001−102070号公報、特開2001−283888号公報、特開2000−268835号公報、特開2000−268836号公報、特開2001−283892号公報等で公知になっている固体高分子形燃料電池や直接メタノール液体形燃料電池の電解質膜として、使用可能である。これらの公知文献に基づけば、当業者であれば、本発明の高分子電解質膜を用いて容易に固体高分子形燃料電池や直接メタノール液体形燃料電池を構成することができる。
【0090】
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0091】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更可能である。
【0092】
(実施例1)
<高分子電解質膜の調製>
芳香族単位を有する高分子化合物としてポリフェニレンサルファイド(大日本インキ化学工業株式会社製、LD10p11)、芳香族単位がない高分子化合物として高密度ポリエチレン(三井化学株式会社製、HI−ZEX 3300F)を使用した。
【0093】
ポリフェニレンサルファイドのペレット50重量部、高密度ポリエチレンのペレット50重量部とをドライブレンドした。ドライブレンドしたペレット混合物を、スクリュー温度290℃、Tダイ温度290℃の条件で、Tダイをセットした二軸押出機により、溶融押出成形し、高分子フィルムを得た(高分子フィルム中に高密度ポリエチレンを50重量%含有する)。
【0094】
ガラス容器に、ジクロロメタン823g、クロロスルホン酸4.1gを秤量し、0.5重量%のクロロスルホン酸溶液を調製した。前記高分子フィルムを1.9g秤量し、前記クロロスルホン酸溶液に浸漬し、25℃で20時間、放置した(クロロスルホン酸添加量は、高分子フィルムの重量に対して2.2倍量)。その後、高分子フィルムを回収し、イオン交換水で中性になるまで洗浄した。
【0095】
洗浄後の高分子フィルムを23℃に調温した恒温恒湿器内で、相対湿度98%、80%、60%および50%の湿度調節下で、それぞれ30分間放置してフィルムを乾燥し、プロトン伝導性基としてスルホン酸基が導入された電解質膜前駆体を得た。
【0096】
<スルホン酸基のスルホニルクロライド基への変性>
前記工程で得た、高分子電解質膜を80℃に設定した真空オーブンで完全に乾燥させた。塩化チオニル63gを、溶媒としてジクロロメタン567gに溶解し、10重量%の塩化チオニル/ジクロロメタン溶液を作製した。この溶液に、前記乾燥させた電解質膜2.1gを量り取り、室温(25℃)にて24時間浸漬した。その後表面に付着した溶液を軽くふき取り、すぐに次工程である架橋反応へ供した。
【0097】
<スルホニルクロライド基を用いた架橋反応>
スルホニルハライド基と反応しうる基を2個以上有する化合物としてのジフェニルエーテル50mlに、触媒としての塩化アルミニウム0.2gを80℃にて溶解した。この溶液に、前記スルホン酸基をスルホニルクロライド基に変性した高分子電解質膜を80℃にて24時間浸漬した。その後エタノールを用いて軽く洗浄し、次いで十分量の純水に室温(25℃)にて2時間、ゆるやかに攪拌しながら浸漬し、洗浄した。
【0098】
洗浄後の高分子フィルムを23℃に調温した恒温恒湿器内で、相対湿度98%、80%、60%および50%の湿度調節下で、それぞれ30分間放置してフィルムを乾燥し、目的の高分子電解質膜を得た。
【0099】
<プロトン伝導度の測定方法>
イオン交換水中に保管した高分子電解質膜(約10mm×40mm)を取り出し、高分子電解質膜表面の水をろ紙で拭き取った。2極非密閉系のポリテトラフルオロエチレン製のセルに高分子電解質膜を設置し、さらに白金電極を電極間距離30mmとなるように、膜表面(同一側)に設置した。23℃での膜抵抗を、交流インピーダンス法(周波数:42Hz〜5MHz、印可電圧:0.2V、日置電機製LCRメーター 3531Z HITESTER)により測定し、プロトン伝導度を算出した。結果を表1に示す。
【0100】
<メタノール遮断性の測定方法>
25℃の環境下で、ビードレックス社製膜透過実験装置(KH−5PS)を使用して、高分子電解質膜でイオン交換水と64重量%のメタノール水溶液を隔離した。所定時間(2時間)経過後にイオン交換水側に透過したメタノールを含む溶液を採取し、ガスクロマトグラフ(島津製作所製ガスクロマトグラフィーGC−201)で透過したメタノール量を定量した。この定量結果から、メタノール透過速度を求め、メタノール透過係数を算出した。メタノール透過係数は、以下の数式1にしたがって算出した。結果を表1に示す。
【0101】
【数1】

<膨潤性の評価方法>
上記方法で得られた電解質膜を64重量%メタノール水溶液に浸漬し、60℃のオーブン中に静置した。1000時間経過後、電解質膜を回収し、目視にて浸漬前との状態を比較した。膨潤のある場合は面積を測定し、その比を算出した。結果を表1に示す。
【0102】
<メタノール耐久性の評価方法>
100ccの耐圧容器に、上記方法で得られた電解質膜を約1平方cm四方の大きさに切り取り、64重量%メタノール水溶液約100ccと一緒に投入した。そして耐圧容器のふたをしっかり取り付け、100℃の通風オーブンにて120時間保管した。その後耐圧容器をオーブンより取り出し、室温まで冷却した後、内容物のうち電解質膜を取り出し、目視とピンセットによるハンドリングで試験前の電解質膜との比較を行った。結果を表1に示す。
【0103】
【表1】

(比較例1)
デュポン社製ナフィオン(登録商標)115を高分子電解質膜とした。結果を表1に示す。
【0104】
(比較例2)
<高分子フィルムの調製>
芳香族単位を有する高分子化合物として、ポリフェニレンサルファイド(大日本インキ工業株式会社製、DIC−PPS LD10p11)を使用した。
【0105】
前記ポリフェニレンサルファイドのペレットを、スクリュー温度290℃、Tダイ温度290℃の条件で、2軸混練押出し機にTダイをセットした二軸押出機により、溶融押出成形し、高分子フィルムを得た。
【0106】
<高分子電解質膜の調製>
上記方法で得られた高分子フィルムを使用した。1−クロロブタン70.9g、クロロスルホン酸1.1gを秤量し、1.5重量%のクロロスルホン酸溶液を調製し、高分子フィルムを0.16gとした以外は、実施例1と同様にして高分子電解質膜を得た(クロロスルホン酸添加量は、高分子フィルムに対して6.9倍量)。結果を表1に示す。
【0107】
(比較例3)
スルホン酸基のスルホニルクロライド基への変性、スルホニルクロライド基を用いた架橋反応を行わないこと以外は、実施例1で得た高分子電解質膜を用いた。結果を表1に示す。
【0108】
表1の実施例1と比較例1との比較から、本発明の製造方法によって得られた高分子電解質膜は、固体高分子形燃料電池用の高分子電解質膜である比較例1と同オーダーのプロトン伝導度を有し、固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池の高分子電解質膜として有用であることが示された。
【0109】
表1の実施例1と比較例1、2、3との比較から、本発明の製造方法によって得られた高分子電解質膜は、小さいメタノール透過係数を持ち、なおかつメタノール水溶液に対する膨潤が少なく、メタノールに対する耐久性を持つことが明らかとなり、直接メタノール形燃料電池などの直接液体形燃料電池用の高分子電解質膜として有用であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明の固体高分子形燃料電池(直接メタノール形燃料電池)の要部断面図である。
【図2】本発明の直接メタノール形燃料電池の要部断面図である。
【符号の説明】
【0111】
1 高分子電解質膜
2 触媒層
3 拡散層
4 セパレーター
5 流路
10 固体高分子形燃料電池
15 酸化剤流路
16 膜−電極接合体(MEA)
17 燃料タンク
18 燃料充填部
19 支持体
20 直接メタノール形燃料電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも芳香族単位を有する高分子化合物、および芳香族単位を有しない高分子化合物を含む高分子フィルムに、スルホン酸基が導入されてなる高分子電解質膜の製造方法であって、
該スルホン酸基が導入されてなる該高分子電解質膜前駆体において該スルホン酸基の少なくとも一部をスルホニルハライド基に変性する第1変性工程と、
該第1変性工程にて生成したスルホニルハライド基同士が該スルホニルハライド基と反応しうる基を2個以上有する化合物を介して架橋構造を生成する架橋工程と、
該架橋工程で架橋されずに残るスルホニルハライド基をスルホン酸基に変性する第2変性工程と、
を含む、高分子電解質膜の製造方法。
【請求項2】
前記スルホニルハライド基が、スルホニルクロライド基である請求項1に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項3】
前記芳香族単位を有する高分子化合物は、下記の(i)〜(iii)から選択される1種のポリマー、またはこれらポリマーの混合物であることを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載の高分子電解質膜の製造方法:
(i)ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、およびポリフェニレンサルファイドからなるポリマーの群より選択される、少なくとも1種のポリマー;
(ii)上記(i)に記載のポリマーを含む共重合体;
(iii)上記(i)および(ii)に記載のポリマーの誘導体。
【請求項4】
前記芳香族単位を有しない高分子化合物は、下記一般式(1)の繰り返し単位を有する高分子化合物から選択される1種のポリマー、またはこれらの混合物であることを特徴とする請求項1〜3ののいずれか1項に記載の高分子電解質膜の製造方法:
−(CX12−CX34)− ・・・(1)
(式中、X14は、H、CH3、Cl、F、OCOCH3、CN、COOH、COOCH3、およびOC49からなる群から選択されるいずれかであって、X14は互いに独立で、同一であっても異なっていてもよい。)。
【請求項5】
前記芳香族単位を有しない高分子化合物は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、およびそれらの誘導体からなる群より選択される1種のポリマー、またはこれらの混合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項6】
前記高分子フィルムを、溶融成形にて製造する工程を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項7】
前記のスルホン酸基を、スルホン酸基導入剤を用いて導入することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の高分子電解質膜の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の高分子電解質膜の製造方法によって製造されることを特徴とする、固体高分子形燃料電池用高分子電解質膜。
【請求項9】
請求項8に記載の高分子電解質膜を含むことを特徴とする、膜−電極接合体。
【請求項10】
請求項8に記載の高分子電解質膜、または請求項9に記載の膜−電極接合体を含むことを特徴とする、燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−123811(P2008−123811A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−305720(P2006−305720)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】