説明

高分子電解質膜の製造方法、及び該製造方法で製造された高分子電解質膜

【課題】膜厚方向のプロトン伝導性に優れた高分子電解質膜を製造する方法を提供すること。
【解決手段】高分子電解質膜の製造方法は、疎水性セグメントと親水性セグメントとを有するブロック共重合体が溶剤に溶解してなる溶液を、支持体上に塗布して、前記ブロック共重合体の塗布膜を形成する工程と、前記ブロック共重合体の塗布膜を、相対湿度90%以上の気体と接触させる工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質膜の製造方法、及び該製造方法で製造された高分子電解質膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、発電効率や環境性に優れた新しい発電技術が注目を集めている。中でも固体高分子形燃料電池は出力密度が高く、また、他の方式の燃料電池に比べて運転温度が低く起動や停止が容易であることから、電気自動車や分散発電などの電源装置として開発が進んでいる。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、燃料として純水素ガス、改質水素ガス、メタノールを用いるいずれの型でも、高分子電解質膜を2枚の電極で挟んだ膜電極接合体を複数積層したスタックと呼ばれるもので構成されている。
【0004】
高分子電解質膜には、出力の向上や燃料の有効利用の点から、プロトン伝導性と燃料透過抑止性に優れていることが求められる。高分子電解質膜として公知であるナフィオン(登録商標)に代表されるフッ素系高分子電解質膜は、燃料透過性が大きいという問題がある。このため、最近では、炭化水素系ポリマーからなる高分子電解質膜(炭化水素系高分子電解質膜)が用いられることが多い。
【0005】
炭化水素系高分子電解質(以下、単に「高分子電解質」と称する場合がある。)膜は、一般的に、高分子電解質の溶剤溶液を支持体上に流延し、次いで乾燥して製造されるが、その際、得られる高分子電解質膜のプロトン伝導性や燃料透過抑止性が低下する場合があった。
【0006】
そこで、これまでに、プロトン伝導性や燃料透過抑止性の低下し難い高分子電解質膜の製造方法が開発されている。例えば、特許文献1には、高分子電解質の溶液を支持体上に流延して流延膜を得た後、当該流延膜から溶剤を除去するにあたり、残留溶剤量を特定の値以下に調整する高分子電解質膜の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−156622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
固体高分子形燃料電池において、プロトンは高分子電解質膜の一方の面から他方の面に移動するため、高分子電解質膜は膜厚方向のプロトン伝導性に優れることが重要であると考えられる。しかしながら、上記製造方法では、膜厚方向のプロトン伝導性に優れた高分子電解質膜を作製することができない場合があった。
【0009】
本発明は、かかる問題を解決すべくなされたものであり、本発明者は、膜厚方向のプロトン伝導性に優れた高分子電解質膜を製造する方法を提供することを課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意検討した結果、高分子電解質膜の製造工程において、高分子電解質(特に、炭化水素系ブロック共重合体)の流延膜を高湿度の気体と接触させた後、当該流延膜から溶剤を除去すれば、膜厚方向のプロトン伝導性に優れた高分子電解質膜を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、上記課題を解決することができた、本発明に係る炭化水素系高分子電解質膜の製造方法は、疎水性セグメントと親水性セグメントとを有するブロック共重合体が溶剤に溶解してなる溶液を、支持体上に塗布して、前記ブロック共重合体の塗布膜を形成する工程と、前記ブロック共重合体の塗布膜を、相対湿度90%以上の気体と接触させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
本明細書において、前記「支持体上」とは、ブロック共重合体の塗布膜が支持体の直上に設けられる場合や、他の皮膜を介在して設けられる場合も含むことを意味する。
【0013】
本発明において、前記気体が、大気または過熱水蒸気であることや、前記気体と接触させる工程を、180℃以下で行うこと、前記気体と接触させる工程を、50℃以下で行い、かつ前記気体と接触させる工程前の前記塗布膜中の固形分濃度に対する、前記気体と接触させる工程後の前記塗布膜中の固形分濃度の変化量を、10以下とすることは、好ましい実施態様である。
【0014】
また、前記ブロック共重合体の前記疎水性セグメントが化学式1
【0015】
【化1】

(化学式1)
【0016】
(式中、Zはそれぞれ独立してO原子又はS原子を、Ar1はそれぞれ独立して2価の芳香族基を、nは1〜100の数を、それぞれ表す。)
で表され、前記親水性セグメントが化学式2
【0017】
【化2】

(化学式2)
【0018】
(式中、Xはそれぞれ独立してH又は1価の陽イオンを、Yはスルホニル基又はカルボニル基を、Ar2はそれぞれ独立して2価の芳香族基を、Lはそれぞれ独立してO原子又はS原子を、mは1〜100の数をそれぞれ表す。)で表され、前記疎水性セグメントと前記親水性セグメントとが、化学式3
【0019】
【化3】

(化学式3)
【0020】
(式中、pは0又は1を表し、pが1の場合、Wは直接結合、スルホニル基、カルボニル基からなる群より選ばれる1種以上を表す。)
で表される基で結合されることや、Ar2が化学式4
【0021】
【化4】

(化学式4)
で表されることも好ましい実施態様である。
【0022】
また、前記ブロック共重合体において、前記化学式2中のmと前記化学式1中のnの比率(m/n)が、0.4〜1.5であることも、好ましい実施態様である。
【0023】
本発明には、上記製造方法によって製造された炭化水素系高分子電解質膜や、当該電解質膜を用いた膜電極接合体、及び、当該膜電極接合体を用いた燃料電池も包含される。
【発明の効果】
【0024】
本発明の高分子電解質膜の製造方法は、ブロック共重合体の塗布膜から溶剤を除去する前に、その表面に高湿度の気体を接触させるため、膜厚方向のプロトン伝導性に優れた電解質膜を得ることができた。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明にかかる炭化水素系高分子電解質膜の製造方法は、疎水性セグメントと親水性セグメントとを有するブロック共重合体が溶剤に溶解してなる溶液を、支持体上に塗布して、前記ブロック共重合体の塗布膜を形成する工程と、前記ブロック共重合体の塗布膜を、相対湿度90%以上の気体と接触させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0026】
本発明の製造方法により、膜厚方向のプロトン伝導性に優れた高分子電解質膜が得られるメカニズムについての詳細は不明であるが、以下のように推測される。
【0027】
すなわち、従来の高分子電解質膜の製造方法では、疎水性セグメントと親水性セグメントとを有するブロック共重合体の塗布膜を作製した後、大気中で塗布膜から溶剤を除去して高分子電解質膜を得ていた。大気は疎水性物質であるため、大気と接触する電解質膜の表面に疎水性セグメントが集まることとなって、当該疎水性セグメントリッチな表層が電解質膜の一方の面から他方の面へのプロトンの移動を妨げていた。
【0028】
これに対し、本発明では、疎水性セグメントと親水性セグメントとを有するブロック共重合体の塗布膜から、溶剤を大気中で除去する前に、当該塗布膜を高湿度の気体で処理しているため、ブロック共重合体の塗布膜表面は、プロトン移動に関与する親水性セグメントがリッチになるか、少なくとも疎水性セグメントがリッチになるのを防ぎ、バランスの取れた表面となる。このため、上記処理後の塗布膜から溶剤を除去しても、表面が親水性セグメントリッチな電解質膜を得ることができ、その結果、上記問題を解消することができたものと推測される。
【0029】
以下、本発明の高分子電解質膜の製造方法について詳細に説明する。
【0030】
(ブロック共重合体の塗布膜を形成する工程)
本工程で用いる溶剤としては、ブロック共重合体を均一に溶解または分散し得るものであれば特に限定されるものではなく、ブロック共重合体の構造に応じて適宜選択すればよいが、極性溶剤であることが好ましく、非プロトン性極性溶剤であることがさらに好ましい。非プロトン性極性溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−モルフォリン−N−オキシド、ヘキサメチレンホスホンアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン、ジフェニルスルホンなどが挙げられる。特に、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシドが好ましい。これらの溶剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。溶剤の沸点は100℃〜300℃の範囲であることが好ましい。沸点が100℃未満であると、得られる高分子電解質膜の表面にシワや変形などが発生する場合がある。沸点が300℃を超えると、高分子電解質膜の製造に多大なエネルギーが必要となる場合がある。
【0031】
ブロック共重合体の溶液の固形分濃度は、ブロック共重合体の分子量や、塗布する際の温度などによって適宜決定することができ、具体的には5質量%〜50質量%の範囲であることが好ましい。固形分濃度が5質量%未満であると、後工程で行う溶剤の除去に時間を要して膜の品位が低下する場合がある。固形分濃度が50質量%を超えると、溶液の粘度が高くなりすぎてハンドリングが困難になることがある。より好ましくは5質量%〜35質量%である。
【0032】
ブロック共重合体の溶液の粘度は、特に限定されるものではないが、支持体上に良好に塗布することができる範囲であることが好ましい。より好ましくは、塗布する温度において、粘度が1〜1000Pa・sの範囲である。
【0033】
ブロック共重合体の溶液を支持体上に塗布する方法としては、公知の方法を用いることができるが、一定の濃度の溶液を一定の厚みになるように塗布することが好ましい。例えば、ドクターブレード、アプリケーターなど、一定のギャップの空隙に溶液を押しこんで塗布厚みを一定にする方法や、スロットダイなどを用いて、ブロック共重合体溶液を一定速度で供給して塗布する方法、スプレーなどを用いてブロック共重合体溶液を吹き付ける方法が挙げられる。支持体上への塗布は、バッチ方式で行ってもよいが、連続して行うほうが生産性がよいため好ましい。
【0034】
ブロック共重合体の塗布膜の厚みは、特に制限されないが、10μm〜1000μmであることが好ましく、50μm〜500μmであることがより好ましい。塗布膜の厚みが10μmよりも薄いと高分子電解質膜としての形態を保てなくなる場合がある。また、塗布膜の厚みが1000μmよりも厚いと不均一な高分子電解質膜ができ易くなる。
【0035】
本工程で用いる支持体としては、ブロック共重合体を溶解または分散させるのに用いる溶剤に溶解しないものであれば特に限定されるものではないが、平坦で、柔軟なものが好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアラミド、ポリベンザゾールなどの樹脂フィルムや、それらの表面にシリカやチタニア、及びジルコニアなどの無機化合物をコートしたもの、あるいはステンレス鋼などの金属質からなるフィルムなどが挙げられる。耐熱性及び耐溶剤性の面から、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアラミドが好ましく、さらにコストや品位の面からポリエチレンテレフタレートがより好ましい。
【0036】
(相対湿度90%以上の気体と接触させる工程)
本工程によって、ブロック共重合体の塗布膜の表面に親水性セグメントを集めることができるものと推測される。
【0037】
本工程で用いる気体は、相対湿度90%以上の気体であればよく、例えば、相対湿度90%以上の大気や、当該大気中にさらにミスト状の水を添加して相対湿度を100%超にした大気、過熱水蒸気などが挙げられる。
【0038】
当該工程の温度条件は、特に限定されるものではないが、180℃以下(好ましくは80℃以下、より好ましくは50℃以下)であることが好ましい。温度条件を180℃超にした場合には、親水性セグメントの移動に対して、乾燥による膜全体の固化が早いため、十分な効果が得られない場合がある。
【0039】
本発明では、当該工程を、50℃以下で行い、かつ前記気体と接触させる工程前の前記塗布膜中の固形分濃度に対する、前記気体と接触させる工程後の前記塗布膜中の固形分濃度の変化量を、10以下(より好ましくは7以下、さらに好ましくは5以下)とするのが好ましい。固形分濃度の変化量を10以下に抑えることにより、塗布膜中における各セグメントの移動自由度を高く維持できるため、塗布膜の表面に親水性セグメントを配し易くなる。塗布膜の固形分濃度の変化量の算出方法については後述する。
【0040】
ブロック共重合体の塗布膜と上記気体とを接触させる時間は、塗布膜の表面に親水性セグメントを配することができれば特に限定されるものではなく、0.1分〜30分(より好ましくは0.3分〜20分)であることが好ましい。
【0041】
本工程は、例えば、相対湿度90%以上の気体の供給手段を備えた加熱炉に、支持体と共に塗布膜を投入したり、水のミストを含む気体や過熱水蒸気を塗布膜表面に当てたりするなどして行うことができる。
【0042】
(溶剤を除去する工程)
上記工程を経て得られる塗布膜から溶剤を除去することによって、高分子電解質膜を得ることができる。
【0043】
塗布膜から溶剤を除去する方法としては、特に限定されるものではないが、塗布膜を加熱して行うのが均一の高分子電解質膜を得ることができる点で好ましい。また、ブロック共重合体の分解や変質を避けるため、減圧下でできるだけ低い温度で加熱してもよい。
【0044】
疎水性セグメントと親水性セグメントの膜厚方向の分布を均一にするために、塗布膜中からの溶剤の除去速度を調整してもよい。例えば、加熱して溶剤を除去する際に、最初の段階では低温にして蒸発速度を下げる方法が挙げられる。
【0045】
塗布膜の加熱温度は、溶剤の沸点以下であることが好ましく、300℃以下か、200℃以下であることがより好ましい。加熱温度が300℃を超えると、溶剤の除去効率は向上するが、溶剤やブロック共重合体の分解・変質が起こったり、得られる高分子電解質膜の形態が悪くなる場合がある。また加熱温度の下限については、50℃が好ましい。加熱温度が50℃未満であると、十分に溶剤を除去することが困難になる場合がある。加熱方法は、熱風、赤外線、マイクロ波など公知の任意の方法で行うことができる。また、窒素などの不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0046】
(酸処理工程)
本発明で用いるブロック共重合体がスルホン酸基を有する場合、高分子電解質膜の当該スルホン酸基は、陽イオンとの塩になっていてもよいが、適当な酸処理によりフリーのスルホン酸に変換してもよい。
【0047】
スルホン酸基のスルホン酸への変換は、硫酸、塩酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸等から選択される少なくとも一種の酸性成分の水溶液中に、常温下もしくは加熱下で高分子電解質膜を浸漬処理して行う方法が挙げられる。上記水溶液中の酸性成分の濃度は1質量%〜75質量%の範囲が好ましい。濃度が1質量%未満だと、プロトンへの変換に、大量の水溶液が必要となり生産性に問題を生じる場合がある。濃度が75質量%を超えると、水溶液中での酸性成分の解離度が低下し、変換効率が低下する場合がある。
【0048】
(洗浄工程)
上記酸性成分の水溶液との接触によって高分子電解質膜に酸性成分が残存している場合には、酸性成分を溶解し得る高分子電解質膜の貧溶媒に、高分子電解質膜を浸漬して、高分子電解質中の酸性成分を除去する操作を行ってもよい。用いる貧溶媒としては、水、アルコール、ケトン、エーテル、低分子炭化水素、含ハロゲン溶剤などが挙げられる。酸性成分が水に溶解する場合には、水を用いることが好ましい。
【0049】
(乾燥工程)
上記工程を経て得られる高分子電解質膜に、高分子電解質膜の貧溶媒が残存していると、溶媒の蒸発や滲出によって、高分子電解質膜にシワや凸凹などの形態不良や、癒着、変形などの問題が生じる可能性が高くなる。このため、高分子電解質膜に残留する溶媒量を低減しておくことが好ましい。
【0050】
高分子電解質膜の乾燥方法については特に限定されるものではなく、適切な温度での風乾、赤外線や遠赤外線による加熱、減圧による留去などが挙げられる。乾燥温度は特に限定されるものではなく、例えば20〜50℃で行えばよい。
【0051】
(高分子電解質膜)
本発明の製造方法によって得られる高分子電解質膜の形状は特に限定されず、シート、ロールなど、任意の形態であってよい。また、高分子電解質膜を製造する際に用いた支持体は剥がさずにおいてもよいが、製造後に剥離して、高分子電解質膜を別の支持体と積層すると、加工性が向上して好ましい。別の支持体としては、粘着層を有する樹脂フィルムが挙げられる。かかる樹脂フィルムとしては、結晶化ポリオレフィン、非晶ポリオレフィン、ポリエステルなどからなるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、粘着層としては、アクリル樹脂系粘着剤、ポリエチレン−ビニルアルコール系粘着剤、シリコーン系粘着剤、変性ポリオレフィン樹脂系粘着剤などからなるものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。新たな支持体は、高分子電解質膜の片面もしくは両面に積層することができる。高分子電解質膜の片面にのみ、新たな支持体を積層する場合には、高分子電解質膜を内側に巻いたほうが、輸送時や保管時の湿度変化による形状への影響を受け難くなって好ましい。
【0052】
(高分子電解質膜の特性)
<膜厚>
本発明の製造方法によって得られる高分子電解質膜は、目的に応じて任意の膜厚にすることができるが、プロトン伝導性の面からはできるだけ薄いことが好ましい。具体的には5〜200μmであることが好ましく、5〜100μmであることがさらに好ましく、10〜70μmであることが最も好ましい。高分子電解質膜の厚みが5μmより薄いと高分子電解質膜の取り扱いが困難となり燃料電池を作製した場合に短絡等が起こる場合がある。また、厚みが200μmよりも厚いと高分子電解質膜の電気抵抗値が高くなり燃料電池の発電性能が低下する場合がある。
【0053】
<イオン交換容量>
高分子電解質膜イオン交換容量は0.5meq/g〜2.7meq/gであるのが好ましく、0.7meq/g〜2.5meq/gであればさらに好ましい。イオン交換容量が0.5meq/g未満であると、マグネシウムイオンの輸送性が低下し、電池性能が低下する場合がある。イオン交換容量が2.7meq/gを超えると、高分子電解質膜の形態保持性が乏しくなり、電池の製造が困難になる場合がある。
【0054】
(炭化水素系高分子電解質の構造)
本発明で製造する炭化水素系高分子電解質としては、主として芳香族基から構成されている主鎖骨格を有する芳香族系高分子電解質であることが好適である。この芳香族系高分子電解質としては、イオン性基を有する芳香族炭化水素系ポリマーを例として挙げることができる。そのようなポリマーとしては、ポリマー主鎖に芳香族あるいは芳香環とエーテル結合、スルホン結合、イミド結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、スルフィド結合、カーボネート結合及びケトン結合から選択される少なくとも1種以上の結合基を有する構造を持つ非フッ素系あるいは部分フッ素系のイオン伝導性ポリマーが挙げられる。具体的には、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン、ポリアリーレン系ポリマー、ポリフェニルキノキサリン、ポリアリールケトン、ポリエーテルケトン、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド等の構成成分の少なくとも1種を含むポリマーに、イオン性基が導入されているポリマーを挙げることができる。上記ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン等は、その分子鎖にスルホン結合、エーテル結合、ケトン結合を有しているポリマーの総称であり、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンスルホンなどを含み、特定のポリマー構造に限定されるものではない。
【0055】
イオン性基としては、スルホン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基、スルホンアミド基、スルホンイミド基、及びそれらの誘導体の少なくとも1種を挙げることができ、スルホン酸基、あるいはホスホン酸基が好ましい。
【0056】
上記のポリマーのうち、特に芳香環上にスルホン酸基を持つポリマーは、上記例のような骨格を持つポリマーに対して適当なスルホン化剤を反応させることにより得ることができる。このようなスルホン化剤としては、例えば、芳香族系炭化水素系ポリマーにスルホン酸基を導入する例として報告されている、濃硫酸や発煙硫酸を使用するもの(例えば、SolidState Ionics,106,P.219(1998))、クロル硫酸を使用するもの(例えば、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,22,P.295(1984))、無水硫酸錯体を使用するもの(例えば、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,22,P.721(1984)、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,23,P.1231(1985))等が有効である。イオン性基含有ポリマー、特にイオン伝導性がスルホン酸基であるポリマーを得るためには、これらの試薬を用い、それぞれのポリマーに応じた反応条件を選定することにより実施することができる。また、特許第2884189号に記載のスルホン化剤等を用いることも可能である。
【0057】
上記イオン性基を有する芳香族炭化水素系ポリマーは、重合に用いるモノマーの中の少なくとも1種に酸性基を含むモノマーを用いて合成することもできる。例えば、芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物から合成されるポリイミドにおいては、芳香族ジアミンの少なくとも1種にスルホン酸基やホスホン酸基を含有するジアミンを用いて酸性基含有ポリイミドとすることが出来る。芳香族ジアミンジオールと芳香族ジカルボン酸から合成されるポリベンズオキサゾール、芳香族ジアミンジチオールと芳香族ジカルボン酸から合成されるポリベンズチアゾール、芳香族テトラミンと芳香族ジカルボン酸から合成されるポリベンズイミダゾールの場合は、芳香族ジカルボン酸の少なくとも1種にスルホン酸基含有ジカルボン酸やホスホン酸基含有ジカルボン酸を使用することにより酸性基含有ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリベンズイミダゾールとすることが出来る。芳香族ジハライドと芳香族ジオールから合成されるポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトンなどは、モノマーの少なくとも1種にスルホン酸基含有芳香族ジハライドやスルホン酸基含有芳香族ジオールを用いることで合成することができる。この際、スルホン酸基含有ジオールを用いるよりも、スルホン酸基含有ジハライドを用いる方が、重合度が高くなりやすいとともに、得られた酸性基含有ポリマーの熱安定性が高くなるので好ましい。
【0058】
イオン性基を有する芳香族炭化水素系ポリマーは、何らかの高次構造を有していてもよい。中でも、ブロック共重合体や側鎖にイオン性基を導入した重合体など、親水性部と疎水性部の相分離によって共連続構造を形成する重合体を用いると、耐久性や、プロトン伝導性の面でより好ましい。そのようなブロック共重合体としては、イオン性基を有する親水性セグメントと、イオン性基を有さない疎水性セグメントからなるセグメント化ブロック共重合体を挙げることができ、そのようなポリマーを製造する手段としては、前記のセグメントを構成するオリゴマーを、直接あるいは他の化合物を用いて反応させることによって得ることを挙げることができる。
【0059】
イオン性基を有する芳香族炭化水素系ポリマーは、スルホン酸基含有ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリエーテルケトン系ポリマーなどのポリアリーレンエーテル系化合物、ポリアリーレン系化合物であることがより好ましい。
【0060】
以下、上記構造を有する炭化水素系高分子電解質の具体的態様について、説明する。
【0061】
(ブロック共重合体)
本発明の製造方法で用いる、疎水性セグメントと親水性セグメントとを有するブロック共重合体としては、下記化学式1で表される疎水性セグメントと、
【0062】
【化5】

(化学式1)
【0063】
(式中、Zはそれぞれ独立してO原子又はS原子を、Ar1はそれぞれ独立して2価の芳香族基を、nは1〜100の数を、それぞれ表す。)
下記化学式2で表される親水性セグメントとが、
【0064】
【化6】

(化学式2)
【0065】
(式中、Xはそれぞれ独立してH又は1価の陽イオンを、Yはスルホニル基又はカルボニル基を、Ar2はそれぞれ独立して2価の芳香族基を、Lはそれぞれ独立してO原子又はS原子を、mは1〜100の数をそれぞれ表す。)
下記化学式3で表される基で結合されるブロック共重合体が挙げられる。
【0066】
【化7】

(化学式3)
【0067】
(式中、pは0又は1を表し、pが1の場合、Wは直接結合、スルホニル基、カルボニル基からなる群より選ばれる1種以上を表す。)
【0068】
以下、上記ブロック共重合体を構成する各セグメントとその製造方法、当該セグメントを用いた共重合体の製造方法について説明する。
【0069】
(疎水性セグメント)
ブロック共重合体を構成する疎水性セグメントの構造は、得られる高分子電解質膜の熱水浸漬時の耐膨潤性を発現させるため、下記化学式1
【0070】
【化8】

(化学式1)
【0071】
(式中、Zはそれぞれ独立してO原子又はS原子を、Ar1はそれぞれ独立して2価の芳
香族基を、nは1〜100の数を、それぞれ表す。)で表されるものであることが好ましい。
【0072】
化学式1において、ZはO原子であることが、原料の入手や合成の容易さから好ましい。ただし、ZがS原子であると高分子電解質膜の耐酸化性が向上する場合がある。
【0073】
Ar1は、主として芳香族性の基から構成される公知の任意の2価の芳香族基であればよく、例えば下記化学式5A〜5Pで表される2価の芳香族基を挙げることができる。
【0074】
【化9】


(式中、Rはメチル基を、qは0〜2の整数を、それぞれ表す。)
【0075】
化学式5A〜5P中、qが1又は2であると、高分子量の疎水性セグメントを得ることが困難になる場合があるため、qは0が好ましい。Ar1としては、化学式5A、5C、5E、5F、5K、5M、5Nで表される2価の芳香族基であることがより好ましく、以下に示す化学式5A’、5F’、5M’で表される2価の芳香族基であることがさらに好ましく、化学式5A’で表される2価の芳香族基であることが最も好ましい。また、Ar1はそれぞれ異なる2価の芳香族基で構成されてもよい。その場合、より優れた特性を示すためには、少なくとも化学式5A’、5F’、5M’で表される2価の芳香族基のいずれかを含んでいることが好ましく、化学式5A’もしくは5M’で表される2価の芳香族基のいずれかを含んでいることがより好ましい。化学式5A’で表される2価の芳香族基を含むと、耐膨潤性及び耐久性に優れる高分子電解質膜を得ることができる。化学式5M’で表される2価の芳香族基を含むと、耐久性に優れる高分子電解質膜を得ることができる。
【0076】
【化10】

【0077】
化学式1において、nは1〜100の数を表す。なお、個々の疎水性セグメントについてみた場合、nは整数であるべきであるが、分子内あるいは分子間でセグメントの分子量に分布がある場合に、nをその平均値とすると、nが必ずしも整数ではなくなる。そこで、共重合体の構造を規定する際には、平均値で表記するのが実質的に有効である。nはNMR法、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法など公知の任意の方法で求めることができる。nは10〜70であることが好ましく、20〜60であることがさらに好ましい。nが20〜60であれば、プロトン伝導性や耐久性がさらに向上した高分子電解質膜を得ることができる。nが1未満であると、高分子電解質膜の膨潤性が大きくなり過ぎたり耐久性が低下する場合がある。nが100を超えると、疎水性セグメントの分子量の制御が困難になり、設計した構造のブロック共重合体の合成が困難になる場合がある。
【0078】
(疎水性セグメントの製造方法)
疎水性セグメント(疎水性オリゴマー)の製造方法としては特に限定されるものではなく、例えば、下記化学式6A又は6Bで表されるモノマーを、各種ビスフェノール類又は各種ビスチオフェノール類(例えば、上記化学式5A〜5M’の両末端がOH基又はSH基の化合物)と反応させることによって合成することができる。
【0079】
【化11】

【0080】
その際、各種ビスフェノール類又は各種ビスチオフェノール類が過剰になるようにして、オリゴマーの末端基がOH基又はSH基となるようにすることが好ましい。オリゴマーの重合度は、化学式6A又は6Bのモノマーと、各種ビスフェノール類又は各種ビスチオフェノール類とのモル比で調整することができる。
【0081】
化学式6A又は6Bのモノマーと、各種ビスフェノール類又は各種ビスチオフェノール類とは、公知の任意の方法で反応させることができるが、塩基性化合物の存在下で芳香族求核置換反応によって反応させることが好ましい。
【0082】
反応温度は、0〜350℃の範囲で行うことができるが、50〜250℃の範囲で行うことが好ましい。反応温度が0℃より低い場合には十分に反応が進まない場合があり、350℃より高い場合にはオリゴマーが分解する場合がある。
【0083】
反応は、無溶媒下で行うこともできるが、溶媒中で行うことが好ましい。使用できる溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、スルホランなどの非プロトン性極性溶媒を挙げることができるが、これらに限定されることはなく、芳香族求核置換反応において安定な溶媒として使用できるものであればよい。これらの溶媒は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0084】
芳香族求核置換反応を溶媒中で行う場合、得られるオリゴマー濃度が1〜25質量%となるようにモノマー等を仕込むことが好ましく、より好ましくは5〜15質量%である。1質量%未満の場合は、重合度が上がり難い傾向がある。一方、25質量%を超える場合には、オリゴマーが析出して反応が停止する場合がある。
【0085】
塩基性化合物としては、各種ビスフェノール類や各種ビスチオフェノール類を活性なフェノキシド構造やチオフェノキシド構造になし得るものであれば特に限定されず、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。
【0086】
反応中に副生物として生成する水は、トルエンなどの共沸溶媒と共に留去して系外に除去したり、モレキュラーシーブなどの吸水材を使用したり、あるいは重合溶媒と共に留去することで除去することができる。
【0087】
反応中に副生成物として生成する無機塩は、疎水性オリゴマーの貧溶媒に反応溶液を滴下したり、疎水性オリゴマーを貧溶媒で洗浄するなど、公知の任意の方法で除去することができる。オリゴマーの貧溶媒としては、水や任意の有機溶媒が挙げられるが、無機塩の除去には水が好ましい。反応溶液を最初に滴下する貧溶媒としては水と有機溶媒のいずれでもよい。
【0088】
貧溶媒の有機溶媒としては、任意の有機溶媒から選択することができるが、反応に用いた非プロトン性極性溶媒と混和するものであることが好ましい。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソプロピルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒や、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0089】
合成や精製の際に用いた有機溶媒は、できるだけ除去しておくことが好ましい。有機溶媒の除去は、乾燥によって行うことが好ましく、10〜150℃の範囲の温度で疎水性オリゴマーを減圧乾燥することがより好ましい。
【0090】
(親水性セグメント)
ブロック共重合体を構成する親水性セグメントの構造は、下記化学式2
【0091】
【化12】

(化学式2)
【0092】
(式中、Xはそれぞれ独立してH又は1価の陽イオンを、Yはスルホニル基又はカルボニル基を、Ar2はそれぞれ独立して2価の芳香族基を、Lはそれぞれ独立してO原子又はS原子を、mは1〜100の数をそれぞれ表す。)で表されることが好ましい。
【0093】
化学式2中、XはHであるとプロトン伝導性が高くなるため好ましい。なお、ブロック共重合体を加工、成形する際には、XはNa、K、Liなど1価の金属イオンであると、共重合体の安定性が高まることから好ましい。またXはモノアミンなどの有機カチオンであってもよい。
【0094】
化学式2中、Yがスルホニル基であるとブロック共重合体の溶媒への溶解性が高まる傾向にあるため好ましい。
【0095】
Ar2は、主として芳香族性の基から構成される公知の任意の2価の芳香族であればよく、例えば、下記化学式4A〜4Cで表される2価の芳香族基を挙げることができ、4Bで表される2価の芳香族基であることが、耐膨潤性や重合反応性に優れることから好ましい。
【0096】
【化13】


(式中、L’はスルフィド基又はスルホニル基を表す。)
【0097】
化学式2において、mは1〜100の数を表す。なお、化学式1におけるnと同様の理由から、共重合体の構造を規定する際には、mは平均値で表記するのが実質的に有効である。mはNMR法、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法など公知の任意の方法で求めることができる。mは3〜70であることが好ましく、10〜55であることがさらに好ましい。mが1未満であると、ランダム共重合体からなる膜と同程度の特性しか得られないため好ましくない。mが100を超えると、設計した構造の共重合体の合成が困難になる場合がある。
【0098】
(親水性セグメントの製造方法)
親水性セグメント(親水性オリゴマー)の製造方法としては特に限定されるものではなく、例えば、下記化学式7で表されるスルホン化モノマーを各種ビスフェノール類または各種ビスチオフェノール類と反応させて合成することができる。また、下記化学式7で表されるスルホン化モノマーとともに4,4’−ジクロロジフェニルスルホンや2,6−ジクロロベンゾニトリルのようなジハロゲン化物を用いて、各種ビスフェノール類または各種ビスチオフェノール類と反応させて合成してもよい。
【0099】
【化14】

(化学式7)
【0100】
化学式7において、XはH又は1価の陽イオンを、Yはスルホニル基又はカルボニル基を、Aはハロゲン元素をそれぞれ表す。XはNa又はKであることが、AはF又はClであることがそれぞれ好ましい。また、各種ビスフェノール類または各種ビスチオフェノール類が過剰になるようにして、オリゴマーの末端基がOH基またはSH基となるようにすることが好ましい。オリゴマーの重合度は、化学式7のモノマーと各種ビスフェノール類または各種ビスチオフェノール類とのモル比で調整することができる。
【0101】
化学式7のモノマーと、各種ビスフェノール類または各種ビスチオフェノール類とは、公知の任意の方法で反応させることができるが、塩基性化合物の存在下で芳香族求核置換反応によって反応させることが好ましい。
【0102】
その際の反応温度、用い得る塩基性化合物、副生物として生成する水の除去方法については、疎水性セグメントの製造において用い得る反応温度、塩基性化合物、及び除去方法を援用できる。
【0103】
芳香族求核置換反応を溶媒中で行う場合、得られるオリゴマー濃度が5〜50質量%となるようにモノマー等を仕込むことが好ましく、より好ましくは20〜40質量%である。5質量%未満の場合は、重合度が上がり難い傾向がある。一方、50質量%を超える場合には、反応系の粘性が高くなり過ぎて反応物の後処理が困難になる傾向がある。
【0104】
反応中に副生成物として生成する無機塩は、反応溶液の濾過、遠心沈降後のデカンテーション、反応溶液に水を添加した後の透析や塩析など、公知の任意の方法によって除去することができ、濾過が製造効率、収率の面から好ましい。濾過や遠心沈降で無機塩を除去した場合、親水性オリゴマーの貧溶媒に反応溶液を滴下することで親水性オリゴマーを回収することができる。また、透析で無機塩を除去した場合は蒸発乾固によって、塩析で無機塩を除去した場合は濾過によって、それぞれ親水性オリゴマーを回収することができる。
【0105】
単離した親水性オリゴマーは、貧溶媒による洗浄や、再沈、透析などによって精製することが好ましく、作業効率と精製効率の面から洗浄が好ましい。貧溶媒としては、疎水性オリゴマーの製造の際に用い得るものとして列挙した貧溶媒を用いることができる。
【0106】
合成や精製の際に用いた有機溶媒は、できるだけ除去しておくことが好ましい。有機溶媒の除去は乾燥によって行うことが好ましく、10〜150℃で減圧乾燥することがより好ましい。
【0107】
(連結基)
ブロック共重合体において、上記疎水性セグメントと親水性セグメントは、下記化学式3
【0108】
【化15】

(化学式3)
【0109】
(式中、pは0又は1を表し、pが1の場合、Wは直接結合(単結合)、スルホニル基、カルボニル基からなる群より選ばれる1種以上を表す。)で表される連結基で結合されていることが好ましい。かかる構成により、熱水に対する耐膨潤性の高い高分子電解質膜を得ることができる。
【0110】
化学式3中、pが0の場合、ブロック共重合体の合成がやや困難になるため、pは1の方が好ましい。Wがベンゼン環同士の直接結合であると、高分子電解質膜の特性や耐久性を向上できる。Wがスルホニル基の場合、ブロック共重合体の合成時の副反応を低減できる。
【0111】
(ブロック共重合体の構造)
本発明で用いるブロック共重合体としては、分子中に、上記化学式1で表される疎水性セグメントの少なくとも一種と、上記化学式2で表される親水性セグメントの少なくとも一種、及び上記化学式3で表される連結基を有する、ジ又はマルチブロック共重合体であることが好ましい。高分子電解質膜の強度が向上するため、マルチブロック共重合体であることが特に好ましい。
【0112】
前記疎水性セグメントと親水性セグメントとが、前記連結基を介して互いに結合されているブロック共重合体としては、例えば、親水性セグメントと疎水性セグメントとが、連結基を介して交互に連結されているブロック共重合体や、各セグメントがランダムに連結されており、親水性セグメントと疎水性セグメントは連結基を介して連結されているブロック共重合体が挙げられる。
【0113】
親水性セグメントは水溶性が高いため、親水性セグメントのみからなるブロック(共)重合体は、高分子電解質膜として使用する際に溶出するなどの問題を起こす可能性がある。このため、本発明のブロック共重合体は、分子中に、親水性セグメントと疎水性セグメントとを含んでいることを必要とする。ブロック共重合体中の親水性セグメントの含有率は10質量%〜70質量%であることが好ましく、30質量%〜60質量%であることがより好ましい。親水性セグメントの含有率が10質量%未満である場合には、プロトン伝導性が著しく低下する場合がある。親水性セグメントの含有率が70質量%を超える場合には、水に対する膨潤性が大きくなり、膜強度が著しく低下する場合がある。
【0114】
ブロック共重合体において、親水性セグメントと疎水性セグメントのモル比であるm/nの値は0.4〜1.5(より好ましくは0.6〜1.3)であることが好ましい。かかる範囲にあると、プロトン伝導膜に好適な重合体となる。m/nの値が0.4より小さいと、燃料電池の出力が著しく低下する場合があり、m/nの値が1.5を超えると電解質膜の膨潤が著しく大きくなる場合がある。
【0115】
なお、各セグメント(オリゴマー)の分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー法などの公知の任意の方法で求めることができるが、末端基を定量して数平均分子量を求めることが好ましい。末端基の定量は、滴定法、比色法、ラベル法、NMR法、元素分析など公知の任意の方法を用いることができるが、NMR法が簡便で正確性に優れるため好ましく、1H−NMR法がより好ましい。
【0116】
ブロック共重合体を構成する疎水性オリゴマーは、ベンゾニトリル構造を有することを特徴とするが、その構造ゆえに溶媒への溶解性が乏しい。よって、NMR測定の際に、適当な重水素化溶媒に溶解しない場合には、N−メチル−2−ピロリドンなど、疎水性オリゴマーが溶解する通常の溶媒に溶解した溶液に、重水素化ジメチルスルホキシドなどの重水素化溶媒を加えて測定することが好ましい。
【0117】
ブロック共重合体のスルホン酸基は、酸でも陽イオンとの塩であってもよいが、スルホン酸基の安定性の面からは陽イオンとの塩であることが好ましい。スルホン酸基が塩である場合の酸への変換は、例えば、成形後に酸処理することで行うことができる。
【0118】
(ブロック共重合体の特性)
ブロック共重合体は、N−メチル−2−ピロリドンを溶媒とした0.5g/dLの溶液について30℃で測定される対数粘度が、0.5〜5.0dL/gの範囲であることが好ましい。対数粘度が0.5dL/g未満であると、成形性に乏しく膜に成形することが困難になる場合がある。また、対数粘度が5.0dL/gを超えると、ブロック共重合体を溶解した溶液の粘度が高くなり過ぎて、加工性に悪影響を及ぼすため好ましくない。対数粘度は1.0〜4.0dL/gの範囲であることがより好ましく、1.5〜3.5dL/gの範囲であることがさらに好ましい。
【0119】
(ブロック共重合体の製造方法)
ブロック共重合体は、公知の任意の方法で合成することができる。例えば、予め合成しておいた親水性オリゴマー及び疎水性オリゴマーを、連結剤で結合することによって製造できる。連結剤と両オリゴマーの合計とのモル比は、1付近になるようにすることが好ましい。
【0120】
また、予め合成しておいた親水性オリゴマー及び疎水性オリゴマーのいずれかの末端基を連結剤で修飾しておき、その後、もう一方のオリゴマーを反応させることによっても製造することができる。この場合、修飾したオリゴマーと、もう一方のオリゴマーは等モルで反応させることが好ましいが、反応中の副反応によるゲル化を防ぐためには、修飾したオリゴマーをわずかに過剰にするのが好ましい。過剰の度合いは、オリゴマー分子量や目的とする共重合体の分子量によっても異なるが、0.1モル%〜50モル%の範囲であることが好ましく、0.5モル%〜10モル%の範囲であることがより好ましい。また、連結剤で末端を修飾するのは、疎水性オリゴマーのほうが好ましい。親水性オリゴマーの構造によっては修飾反応がうまく進行しない場合がある。
【0121】
オリゴマー同士を結合、あるいは片方のオリゴマーの末端を修飾する連結剤としては、下記化学式9A〜9Dで表される構造の化合物を挙げることができ、中でも化学式9A及び9Bの化合物が好ましく、化学式9Aの化合物がさらに好ましい。
【0122】
【化16】

【0123】
疎水性オリゴマー及び親水性オリゴマーは、それぞれ独立して、構造、分子量、及び分子量分布の異なるオリゴマーからなる群より選ばれる1種以上のオリゴマーを用いることができる。
【0124】
ブロック共重合体の製造は、オリゴマー合成後に精製、単離したオリゴマーを用いて行っても、このオリゴマーの溶液を用いて行ってもよい。また、未精製のもの(オリゴマー合成後の反応溶液)を用いてブロック共重合体を製造してもよい。いずれのオリゴマーを精製、単離してもよいが、疎水性オリゴマーのほうが容易である点で好ましい。
【0125】
ブロック共重合の製造の際、親水性オリゴマー中のスルホン酸基はアルカリ金属塩であることが好ましく、NaかKであることがより好ましい。スルホン酸基と塩を形成するイオンが複数の種類からなる場合は、前もって、元素分析で組成を分析しておくと、正確な分子量を求めることができる。また、親水性オリゴマーをいったん過剰の酸で処理した後、金属塩やアルカリ金属水酸化物で処理して、スルホン酸基と塩を形成するイオンを一種にしてもよい。親水性オリゴマーは、ブロック共重合体合成の直前に乾燥して、吸着した水分を除去しておくことが好ましい。乾燥は親水性オリゴマーを100℃以上に加熱して行えばよく、減圧乾燥するのがより好ましい。
【0126】
ブロック共重合体の製造に用いる連結剤としては、フッ素で置換された芳香族系連結剤であることが好ましい。フッ素は反応性が高く、セグメント長の低下などの副反応を抑制できるからである。当該芳香族系連結剤は、1分子中に3個以上のフッ素原子を有していることが好ましく、2個以上のフッ素原子が隣接していることがより好ましく、パーフルオロ化合物であることがより好ましい。反応性がより高いからである。
【0127】
当該芳香族系連結剤は電子吸引性を置換基として有していてもよく、電子吸引性基はフッ素原子に対してオルト位又はパラ位にあると好ましい。電子吸引性基としては、例えばシアノ基、スルホニル基、スルフィニル基、カルボニル基などが挙げられる。
【0128】
当該芳香族系連結剤としては、単数の芳香族環(電子吸引性基を置換基として有していてもよい)、あるいは複数の芳香族基が電子吸引性基で連結された芳香族環がパーフルオロ化された化合物を挙げることができる。具体的には、ヘキサフルオロベンゼン、デカフルオロビフェニル、デカフルオロベンゾフェノン、デカフルオロジフェニルスルホン、ペンタフルオロベンゾニトリルが挙げられ、デカフルオロビフェニルやデカフルオロジフェニルスルホンが好ましく、デカフルオロビフェニルがより好ましい。これらの連結剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0129】
また、これらの化合物中のフッ素原子の一部が置換された化合物を連結剤として用いることもできる。フッ素原子を置換するものとしては、水素原子や、塩素、臭素、ヨウ素などの他のハロゲン原子、フェノキシ基、フェニル基、メチル基などの炭化水素基などが挙げられる。
【0130】
親水性オリゴマー及び疎水性オリゴマーを、連結剤で結合してブロック共重合体を製造する場合には、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、スルホランなどの非プロトン性極性溶媒中、オリゴマーのフェノール又はチオフェノール末端の1〜5モル倍量の炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどの塩基性化合物の存在下、50〜160℃の範囲で反応させて行うことが好ましく、70℃〜130℃の範囲がより好ましい。
【0131】
反応は窒素などの不活性ガス気流下で行うことが好ましい。反応溶液中の固形分濃度は、1質量%〜25質量%であればよいが、反応性および疎水性オリゴマーの溶解性が悪いことを考慮すると、5質量%〜20質量%であることが好ましい。最も好ましくは8質量%〜15質量%である。ここでの固形分濃度とは、溶液中のブロック共重合体濃度のことである。疎水性オリゴマーが溶解しているかどうかは、目視により透明であるかどうか、濁っているか否かで判断することができる。
【0132】
ブロック共重合体の重合度、及びブロック共重合体中の親水性セグメントと疎水性セグメントの含有率は、反応に用いるオリゴマーのモル比で調整することができる。また、反応溶液の粘度から終点を判断して、冷却や末端停止などによって重合反応を停止させて重合度等を調整してもよい。
【0133】
反応溶液からのブロック共重合体の単離と精製は公知の任意の方法で行うことができる。例えば、反応溶液を、水、アセトン、メタノールなどのブロック共重合体の貧溶媒に滴下することによってブロック共重合体を固化させて行う方法が挙げられる。貧溶媒としては水が取扱いやすく、無機塩を除去できるため好ましい。また、残存オリゴマー成分や、親水性の高い成分を除去するために、60℃〜100℃の熱水や、水と有機溶媒(アセトンなどのケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒)の混合溶媒などで洗浄することが好ましい。
【0134】
本発明のブロック共重合体は、第三成分を混合して組成物として用いることもできる。第三成分としては、例えば、繊維状物質;リンタングステン酸、リンモリブデン酸などのヘテロポリ酸;低分子のスルホン酸、ホスホン酸、リン酸誘導体などの酸性化合物;ケイ酸化合物、ジルコニウムリン酸などを挙げることができる。第三成分の含有率は、組成物中50質量%未満であることが好ましい。50質量%以上であると成形物の物理特性が損なわれる場合がある。第三成分としては、当該組成物を用いて得られる成形物の膨潤性を抑制する上で繊維状物質が好ましく、チタン酸カリウム繊維などの無機繊維状物質がより好ましい。
【0135】
また、上記第三成分とともに、あるいは第三成分に代えて、他の重合体を混合した組成物として用いることもできる。これらの重合体としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類;ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン12などのポリアミド類;ポリ(メタ)アクリル酸エステル類などのアクリレート系樹脂;ポリ(メタ)アクリル酸系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等のジエン系ポリマーを含む各種ポリオレフィン;ポリウレタン系樹脂;酢酸セルロース、エチルセルロースなどのセルロース系樹脂;ポリアリレート、アラミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾールなどの芳香族系ポリマー;エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ベンゾオキサジン樹脂などの熱硬化性樹脂等が挙げられる。
【0136】
ブロック共重合体を組成物として使用する場合には、本発明のブロック共重合体は、組成物全体の50質量%以上100質量%未満含まれていることが好ましい。より好ましくは70質量%以上100質量%未満である。ブロック共重合体の含有率が組成物全体の50質量%未満の場合には、この組成物を用いて得られる高分子電解質膜のスルホン酸基濃度が低くなり良好なプロトン伝導性が得られなかったり、スルホン酸基を含有するユニットが非連続相となり伝導するイオンの移動度が低下する場合がある。
【0137】
本発明の組成物は、必要に応じて、例えば酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、粘着付与剤、可塑剤、架橋剤、粘度調整剤、静電気防止剤、抗菌剤、消泡剤、分散剤、重合禁止剤などの各種添加剤を含んでもよい。
【0138】
(燃料電池用電極接合体)
本発明の製造方法によって製造された高分子電解質膜を用いることにより、燃料電池用接合体を得ることができる。この接合体の作製方法としては、従来から公知の方法を用いて行うことができ、例えば、電極表面に接着剤を塗布し高分子電解質膜と電極とを接着する方法、または高分子電解質膜と電極とを加熱加圧する方法等がある。この中でも、本発明のスルホン酸基含有ブロック共重合体およびその組成物を主成分とした接着剤を電極表面に塗布して接着する方法が好ましい。高分子電解質膜と電極との接着性が向上し、また、高分子電解質膜のプロトン伝導性を損なうことが少なくなると考えられるためである。
【0139】
上記接合体を用いて、燃料電池を作製することもできる。本発明の高分子電解質膜は、耐熱性、加工性、プロトン伝導性に優れているため、高温での運転にも耐えることができ、良好な出力を有する燃料電池を提供することができる。本発明の高分子電解質膜は、水素を燃料とする固体高分子形燃料電池(PEFC)の他にも、メタノール透過性が小さいため、メタノールを燃料とするメタノール直接型燃料電池(DMFC)にも適している。また、耐熱性やバリアー性に優れるため、メタノール、ガソリン、エーテルなどの炭化水素から改質器によって水素を取り出して用いるタイプの燃料電池にも適している。
【実施例】
【0140】
以下、実施例および比較例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、前記及び後記の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更して実施することが可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお下記実施例および比較例において「部」、「%」とあるのは、それぞれ質量部、質量%を意味する。
【0141】
先ず、実施例および比較例によって製造したブロック共重合体の固形分濃度の変化量、対数粘度、イオン交換容量、プロトン伝導性の測定方法について、以下説明する。
【0142】
(固形分濃度変化量)
ブロック共重合体の溶液を支持体上に塗布して形成された塗布膜であって、高湿度の気体を接触させる前の塗布膜の固形分濃度(a)と、高湿度の気体を接触させた後の塗布膜の固形分濃度(b)を求めて、下記式に基づいて算出した。
変化量=固形分濃度(a)−固形分濃度(b)
【0143】
(対数粘度)
ブロック共重合体の粉末を、0.5g/dLの濃度でN−メチルピロリドンに溶解し、30℃の恒温槽中でウベローデ型粘度計を用いて粘度測定を行い、対数粘度ln[ta/tb]/cで評価した(taは試料溶液の落下秒数、tbは溶剤のみの落下秒数、cは試料溶液のポリマー濃度[単位:dL/g])。
【0144】
(イオン交換容量)
120℃で1時間乾燥した高分子電解質膜100mgを、0.01NのNaOH水溶液50mlに浸漬し、25℃で一晩撹拌した。その後、0.05NのHCl水溶液で中和滴定した。中和滴定には、平沼産業(株)製、電位差滴定装置COMTITE−980を用いた。イオン交換容量(IEC)は下記式で計算して求めた。
イオン交換容量[meq/g]=(10−滴定量[ml])/2
【0145】
(膜厚方向のプロトン伝導性)
ポリテトラフルオロエチレン製のプローブ上で、高分子電解質膜から切り出した短冊状膜試料の表面に白金線(直径:0.2mm)を押し当てた。その際、押し当てる白金線の一つを試料の表面に、他の白金線を試料の裏面に配した。その後、80℃90%RHの恒温・恒湿オーブン(株式会社ナガノサイエンス、LH33−12P)中に試料を保持し、白金線間のインピーダンスをSOLARTRON社の1250 FREQUENCY RESPONSE ANALYSERを用いて測定した。極間距離(試料を正面から見た場合の白金線間の距離)を変化させて測定し、極間距離とC−C(cole−cole)プロットから見積もられる抵抗測定値をプロットした勾配から、以下の式により膜と白金線間の接触抵抗をキャンセルした導電率を算出して、膜厚方向のプロトン伝導性を評価した。
導電率[S/cm]=(1/膜幅[cm])×(膜厚[cm])×(抵抗極間勾配[Ω/cm])
【0146】
(合成例1 ブロック共重合体の製造)
<疎水性オリゴマーの製造>
2,6−ジクロロベンゾニトリル(略号:DCBN)49.97g(290.5mmol)、4,4’−ビフェノール(略号:BP)54.99g(295.3mmol)、炭酸カリウム46.94g(339.6mmol)、N−メチル−2−ピロリドン(略号:NMP)750mL、トルエン150mLを、窒素導入管、撹拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた1000mL枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で撹拌しつつ窒素気流下で加熱した。トルエンとの共沸による脱水を140℃で行った後、トルエンをすべて留去した。その後、200℃に昇温し、15時間加熱した。窒素導入管、撹拌翼、冷却還流管、温度計を取り付けた別の1000mL枝付きフラスコに、NMP200mLとパーフルオロビフェニル4.85gを入れ、窒素気流下、攪拌しながら、オイルバス中で110℃に加熱した。そこに、DCBNとBPの反応溶液を、滴下漏斗を用いて2時間かけて撹拌しながら投入し、投入完了後、さらに2時間撹拌した。反応溶液を室温まで冷却した後、3000mLの純水に注ぎオリゴマーを固化させ、さらに純水で3回洗浄して、NMP及び無機塩を除去した。水洗したオリゴマーは、濾別した後、100℃で2時間乾燥させた後、室温まで冷却し、3000mLのアセトンで2回洗浄し、過剰のパーフルオロビフェニルを除去した。再びオリゴマーを濾別し、120℃で16時間減圧乾燥して疎水性オリゴマーを得た。H−NMR測定による数平均分子量は13880であった。疎水性オリゴマーの化学構造を以下に示す。
【0147】
【化17】

【0148】
<親水性オリゴマーの製造>
4,4’−ジクロロジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸ソーダ(略号:S−DCDPS)250.0g(508.9mmol)、BP97.04g(520.7mmol)、炭酸ナトリウム66.23g(624.9mmol)、NMP650mL、トルエン150mLを、窒素導入管、撹拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた2000mL枝付きフラスコに入れ、オイルバス中で撹拌しつつ窒素気流下で加熱した。トルエンとの共沸による脱水を140℃で行った後、トルエンをすべて留去した。その後、200℃に昇温し、16時間加熱した。続いて、NMP500mLを投入し、撹拌しながら室温まで冷却した。得られた溶液を、25G2ガラスフィルターで吸引濾過したところ、黄色の透明な溶液が得られた。得られた溶液を3Lのアセトンに滴下してオリゴマーを固化させた。オリゴマーはさらにアセトンで3回洗浄した後、濾別して減圧乾燥し親水性オリゴマーを得た。H−NMR測定による数平均分子量は25560であった。親水性オリゴマーの化学構造を以下に示す。
【0149】
【化18】

【0150】
<共重合反応>
上記の親水性オリゴマー45.00g、および疎水性オリゴマー24.61g、炭酸ナトリウム0.28g、NMP400mLを、窒素導入管、撹拌翼、ディーンスタークトラップ、温度計を取り付けた1000mL枝付きフラスコに入れ、窒素気流下50℃のオイルバス中で撹拌し溶解させ、次いで110℃まで加熱し、10時間反応させた。その後、室温まで冷却し、3Lの純水中に滴下して、反応溶液中の生成物(ブロック共重合体)を固化させた。得られたブロック共重合体を純水で3回洗浄した後、純水に浸漬させたまま80℃で16時間処理し、次いでブロック共重合体を純水から取出して熱水洗浄を行った。熱水洗浄をもう一度繰り返した後、水を除去したブロック共重合体を1000mLのイソプロパノールと500mLの水との混合溶媒に室温で16時間浸漬し、その後ブロック共重合体を取り出して純水で洗浄した。同じ操作(混合溶媒への浸漬及び純水での洗浄)をもう一度行った。その後、濾過でブロック共重合体を濾別し、120℃で12時間減圧乾燥した。得られたブロック共重合体の対数粘度は、2.1dL/gであった。ブロック共重合体の化学構造式を以下に示す。
【0151】
【化19】

【0152】
(実施例1)
合成例1で得たブロック共重合体を、NMPを溶剤として用いて溶解させ、共重合体濃度が12質量%の共重合体溶液を調製した。調製したブロック共重合体溶液を、支持体である幅30cmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に、ブレードコーターにて、幅22cm、厚み110μmになるよう温度25℃で連続的に塗布して、ブロック共重合体の塗布膜を形成した。その後、その塗布膜を25℃下、相対湿度90%の大気と30分間接触させた。接触処理前と接触処理後の塗布膜の固形分濃度の変化量は1であった。
【0153】
接触処理後、塗布膜を温度120℃で3分間乾燥して、自己支持性を有する共重合体膜を支持体上に密着した状態で得た。引き続き、支持体から共重合体膜を剥がすことなく連続的に、30℃、20質量%硫酸水溶液に12分間浸漬し、次いで、支持体から共重合体膜を剥がすことなく30℃の純水に18分間浸漬した後、30℃純水に18分間浸漬し、さらに、支持体から共重合体膜を剥がすことなく30℃、相対湿度60±5%の環境下で30分間風乾させ、支持体のポリエチレンテレフタレートフィルムに密着した、厚さ10μmの高分子電解質膜を得た。
【0154】
得られた高分子電解質膜を支持体であるポリエチレンテレフタレートフィルムから剥離して、プロトン伝導性を測定したところ、0.25S/cmと非常に高い膜厚方向プロトン伝導度を示した。
【0155】
(比較例1)
合成例1で得られたブロック共重合体を、NMPを溶剤として用いて溶解させ、共重合体濃度が12質量%の共重合体溶液を調製した。調製した共重合体溶液を、支持体である幅30cmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に、ブレードコーターにて、幅22cm、厚み110μmになるよう温度25℃で連続的に塗布後、高湿度の大気と接触させることなく、温度120℃で3分間乾燥して、自己支持性を有する共重合体膜(高分子電解質膜)を支持体上に密着した状態で得た。引き続き、支持体から共重合体膜を剥がすことなく連続的に、30℃、20質量%硫酸水溶液に12分間浸漬し、次いで、支持体から共重合体膜を剥がすことなく30℃の純水に18分間浸漬し、その後、30℃純水に18分間浸漬し、さらに、支持体から共重合体膜を剥がすことなく30℃、相対湿度60±5%の環境下で30分間風乾させ、支持体のポリエチレンテレフタレートフィルムに密着した、厚さ10μmの高分子電解質膜を得た。
【0156】
得られた10μmの高分子電解質膜をポリエチレンテレフタレートフィルムから剥離して、プロトン伝導性を測定したところ、0.22S/cmを示し、実施例1に対して膜厚方向のプロトン伝導性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明の製造方法によれば、膜厚方向のプロトン伝導性に優れる高分子電解質膜を製造することができることから、ダイレクトメタノール燃料電池(DMFC)や固体高分子形燃料電池(PEFC)などに用いる高分子電解質膜を提供する手段として、産業界に大きく寄与するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性セグメントと親水性セグメントとを有するブロック共重合体が溶剤に溶解してなる溶液を、支持体上に塗布して、前記ブロック共重合体の塗布膜を形成する工程と、
前記ブロック共重合体の塗布膜を、相対湿度90%以上の気体と接触させる工程と、
を含むことを特徴とする炭化水素系高分子電解質膜の製造方法。
【請求項2】
前記気体が、大気または過熱水蒸気である請求項1に記載の炭化水素系高分子電解質膜の製造方法。
【請求項3】
前記気体と接触させる工程を、180℃以下で行う請求項1または2に記載の炭化水素系高分子電解質膜の製造方法。
【請求項4】
前記気体と接触させる工程を、50℃以下で行い、かつ前記気体と接触させる工程前の前記塗布膜中の固形分濃度に対する、前記気体と接触させる工程後の前記塗布膜中の固形分濃度の変化量を、10以下とする請求項1から3のいずれか一項に記載の炭化水素系高分子電解質膜の製造方法。
【請求項5】
前記ブロック共重合体の前記疎水性セグメントが
化学式1
【化1】

(化学式1)
(式中、Zはそれぞれ独立してO原子又はS原子を、Ar1はそれぞれ独立して2価の芳香族基を、nは1〜100の数を、それぞれ表す。)
で表され、
前記親水性セグメントが化学式2
【化2】

(化学式2)
(式中、Xはそれぞれ独立してH又は1価の陽イオンを、Yはスルホニル基又はカルボニル基を、Ar2はそれぞれ独立して2価の芳香族基を、Lはそれぞれ独立してO原子又はS原子を、mは1〜100の数をそれぞれ表す。)で表され、
前記疎水性セグメントと前記親水性セグメントとが、化学式3
【化3】

(化学式3)
(式中、pは0又は1を表し、pが1の場合、Wは直接結合、スルホニル基、カルボニル基からなる群より選ばれる1種以上を表す。)
で表される基で結合される請求項1から4のいずれか一項に記載の炭化水素系高分子電解質膜の製造方法。
【請求項6】
Ar2が化学式4
【化4】

(化学式4)
で表される請求項5に記載の炭化水素系高分子電解質膜の製造方法。
【請求項7】
前記ブロック共重合体において、前記化学式2中のmと前記化学式1中のnの比率(m/n)が、0.4〜1.5である請求項5または6に記載の炭化水素系高分子電解質膜の製造方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の製造方法によって製造されたことを特徴とする炭化水素系高分子電解質膜。
【請求項9】
請求項8に記載の炭化水素系高分子電解質膜を用いたことを特徴とする膜電極接合体。
【請求項10】
請求項9に記載の膜電極接合体を用いたことを特徴とする燃料電池。


【公開番号】特開2012−129174(P2012−129174A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282347(P2010−282347)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】