説明

高分子電解質膜補強用フッ素樹脂コートポリマーフィルム、補強された高分子電解質膜および膜電極組立体

【課題】高分子電解質膜に対して十分に高い初期接着強度を示すと共に、その後の使用環境においても高い接着強度が十分に維持される、そのような接着手段を具備した高分子電解質膜補強用のポリマーフィルムを提供する。
【解決手段】フルオロオレフィン、シクロヘキシル基含有アクリル酸エステルおよび水酸基含有ビニルエーテルを構成成分とする含フッ素共重合体(A)と、イソシアネート基を2以上有する架橋剤(B)との反応生成物のコーティングを、ポリマーフィルムの少なくとも片面に形成してなる、高分子電解質膜補強用フッ素樹脂コートポリマーフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電解質膜補強用フッ素樹脂コートポリマーフィルム、そのようなポリマーフィルムで補強された高分子電解質膜およびそのような高分子電解質膜を含む燃料電池用または電解用の膜電極組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池や電気分解、電気透析に用いられる高分子電解質膜は、その電気抵抗を低くすることにより効率を高めるため、非常に薄い、例えば50μm以下のものが採用されている。このように薄い高分子電解質膜は、構造支持材としての物理的強度を有していないため、取扱いが不便である上、膜が破損しやすいという問題点がある。かかる問題点を克服するため、一般に高分子電解質膜を補強することが必要である。
【0003】
高分子電解質型燃料電池用の電極膜複合体における薄いイオン交換膜の機械的強度を高めるため、アノード集電体、アノード触媒層、イオン交換膜、カソード触媒層、カソード集電体よりなる5層構造の集電体の周囲に、シール材が重なるように一体化させる技術が知られている(特許文献1)。また、高分子電解質型燃料電池のイオン交換膜の周辺部を補強するため、イオン交換膜、該イオン交換膜の両側に配置されたガス拡散電極、該ガス拡散電極の外側に配置された集電体を含んでなる高分子電解質型燃料電池において、該イオン交換膜の周辺部に樹脂膜を設け、さらに該ガス拡散電極を、イオン交換膜と樹脂膜との両方にまたがって接合または接触させる技術が知られている(特許文献2)。さらに、固体高分子電解質型燃料電池における固体高分子電解質膜の破損を防止するため、固体高分子電解質膜周縁部分に密着して配され電極に重なりを有する額縁状の保護膜を、固体高分子電解質膜の少なくとも一方の面側に設ける技術が知られている(特許文献3)。また、固体高分子型燃料電池の薄いイオン交換膜の破損を防止するため、イオン交換膜と、その両面に設けた触媒層と拡散層から成るガス拡散電極を備えた固体高分子型燃料電池において、触媒層の形状と一致する窓を開けた額縁状の補強膜をイオン交換膜の少なくとも一方の面側に設ける技術が知られている(特許文献4)。
【0004】
特許文献5に、フルオロオレフィン、シクロヘキシル基含有アクリル酸エステルおよび水酸基含有ビニルエーテルを構成成分とする含フッ素共重合体を、イソシアネート基を持つ架橋剤とともにポリエステルフィルムの片面および/または両面に塗布し、加熱することにより、基材フィルムとの密着に優れた離型性フィルムが得られることが記載されている。しかしながら、特許文献5には、かかる離型性フィルムが高分子電解質膜との接着性に優れることを示唆するような記載は一切ない。
【0005】
【特許文献1】特開平8−45517号公報
【特許文献2】特開平5−174845号公報
【特許文献3】特開平5−21077号公報
【特許文献4】特開平10−154521号公報
【特許文献5】特開2001−129940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜4に記載の各技術における補強用のフィルム自体は十分な強度を有している。しかしながら、補強用フィルムと固体高分子電解質膜とを接着するための手段によっては、補強効果が十分に得られないことがわかった。特に、特許文献1に記載の液状シリコンゴム接着剤を用いた接着、特許文献2に記載のイオン交換樹脂溶液を接着剤として用いたホットプレス、および特許文献3に記載のフッ素系樹脂シートの電解質膜に対する熱圧加工では、初期の接着強度が不十分である。また、特許文献4に記載のフッ素樹脂系粘着剤を用いた接着では、温水中や高温高湿環境の運転条件下で接着強度が低下するため、実用上の耐久性が不十分である。
【0007】
したがって、本発明の目的は、高分子電解質膜に対して十分に高い初期接着強度を示すと共に、その後の使用環境においても高い接着強度が十分に維持される、そのような接着手段を具備した高分子電解質膜補強用のポリマーフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によると、
[1]下記式(1)に示すフルオロオレフィン、式(2)に示すシクロヘキシル基含有アクリル酸エステルおよび式(3)に示す水酸基含有ビニルエーテルを構成成分とする含フッ素共重合体(A)と、イソシアネート基を2以上有する架橋剤(B)との反応生成物のコーティングを、ポリマーフィルムの少なくとも片面に形成してなる、高分子電解質膜補強用フッ素樹脂コートポリマーフィルム;
【化1】

(式中、XはFまたはHであり、YはH、Cl、FまたはCFである。)
【化2】

(式中、Rは水素またはメチル基である。)
【化3】

(式中、Rは炭素数2〜5のアルキレン基、またはシクロヘキシレン基である。)
[2]該含フッ素共重合体(A)が、該フルオロオレフィン40〜90モル%、該シクロヘキシル基含有アクリル酸エステル1〜30モル%および該水酸基含有ビニルエーテル1〜30モル%を含む、[1]に記載のフッ素樹脂コートポリマーフィルム;
[3]高分子電解質膜の少なくとも片面の周縁部において額縁状に、[1]または[2]に記載のフッ素樹脂コートポリマーフィルムをそのフッ素樹脂コート面が接触するように接合させた、補強された高分子電解質膜;
[4]該高分子電解質膜がフッ素系イオン交換樹脂を含む、[3]に記載の補強された高分子電解質膜;ならびに
[5][3]または[4]に記載の補強された高分子電解質膜を含む、燃料電池用または電解用の膜電極組立体
が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、特許文献5において離型剤として記載されている特定の含フッ素樹脂コーティングを高分子電解質膜補強用ポリマーフィルムに適用することにより、高分子電解質膜に対して十分に高い初期接着強度を示すと共に、その後の使用環境においても高い接着強度が維持され、高分子電解質膜の耐久性が向上する。「離型剤」として教示されている材料が「接着剤」として有効であることは、まったく意外な発見であった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、フルオロオレフィン、シクロヘキシル基含有アクリル酸エステルおよび水酸基含有ビニルエーテルを構成成分とする含フッ素共重合体(A)と、イソシアネート基を2以上有する架橋剤(B)との反応生成物(フッ素樹脂)のコーティングを、ポリマーフィルムの少なくとも片面に形成してなる、高分子電解質膜補強用フッ素樹脂コートポリマーフィルムに関する。図1に、高分子電解質膜補強用フッ素樹脂コートポリマーフィルムの略横断面図を示す。図1において、フッ素樹脂コートポリマーフィルム10は、フッ素樹脂コート11とポリマーフィルム12とを含んでなる。
【0011】
本発明において用いられる補強用ポリマーフィルムとしては、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムが好ましいが、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの他のポリエステルフィルムや、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルホン(PS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)や液晶ポリマーなどスーパーエンジニアリングプラスチックのフィルムを用いることも出来る。補強用ポリマーフィルムの厚さは、一般に1〜200μm、好ましくは5〜100μmの範囲内である。
【0012】
本発明において用いられる含フッ素共重合体(A)は、フルオロオレフィン、シクロヘキシル基含有アクリル酸エステルおよび水酸基含有ビニルエーテルを必須構成成分とする。本発明において、フルオロオレフィンは、上記式(1)で表される分子中に少なくとも2個のフッ素原子を有するオレフィンであって、例えばフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロペン等が好適である。これらのフルオロオレフィンは、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
本発明において、シクロヘキシル基含有アクリル酸エステルは上記式(2)で表され、具体例としては、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート等を挙げることが出来るが、シクロヘキシルメタクリレートが特に好ましい。
【0014】
本発明において、水酸基含有ビニルエーテルは上記式(3)で表され、具体例としては、ヒドロキシメチルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ヒドロキシシクロヘキシルビニルエーテル等が挙げられるが、特にヒドロキシブチルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシシクロヘキシルビニルエーテルが好適である。これらの水酸基含有ビニルエーテルはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
本発明において含フッ素共重合体は、前記フルオロオレフィン、シクロヘキシル基含有アクリル酸エステルおよび水酸基含有ビニルエーテルを構成成分とするものであるが、さらにこれらの成分に加えて、使用目的などに応じて20モル%を超えない範囲で他の共重合可能な成分を含むこともできる。該共重合可能な成分としては、例えばエチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類やエチレン、プロピレン等のオレフィン類、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロオレフィン類、酢酸ビニル、n−酪酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル類等が挙げられる。
【0016】
本発明における含フッ素共重合体を構成する各成分の好ましい共重合割合は、フルオロオレフィンが40〜90モル%、シクロヘキシル基含有アクリル酸エステルが1〜30モル%、水酸基含有ビニルエーテルが1〜30モル%である。フルオロオレフィンの割合が40モル%より少ない場合には、得られるフッ素樹脂コーティングの耐水性が低下することにより、燃料電池等の運転条件下での耐久性が損なわれる。またフルオロオレフィンの割合が90モル%より多い場合には、溶剤に対する溶解性が低下し、フィルムに塗工することが困難になる。シクロヘキシル基含有アクリル酸エステルの割合が1モル%より少ないと、樹脂溶液の保存安定性が低下して好ましくなく、これが30%より多い場合には重合時における重合速度が低下して好ましくない。水酸基含有ビニルエーテルの割合が1モル%より少ないと、硬化反応が起こりにくくなり、これが30モル%より多い場合には共重合反応が困難となる。
【0017】
上記含フッ素共重合体は、溶媒の存在下又は不存在下で、上記構成成分を、重合開始剤を用いて共重合させることにより製造することができる。重合開始剤としては、重合に用いられる溶媒の種類に応じて、水溶性重合開始剤または油溶性重合開始剤を適宜用いることができる。水溶性重合開始剤としては、例えば過硫酸カリウム等の過硫酸塩、過酸化水素、もしくはこれらと亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム等の還元剤との組み合わせからなるレドックス開始剤、さらには、これらに少量の鉄、第一鉄塩、硝酸銀等を共存させた無機系開始剤、コハク酸パーオキサイド、ジグルタル酸パーオキサイド、モノコハク酸パーオキサイド等の二塩基酸塩等の有機系開始剤等が用いられる。また油溶性開始剤としては、例えばt−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシアセテート等のパーオキシエステル型過酸化物、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジノルマルプロピルパーオキシカーボネート等のジアルキルパーオキシジカーボネート、ベンゾイルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル等が用いられる。これらの重合開始剤の使用量は、その種類、共重合反応条件等に応じて適宜選ばれるが、単量体全量に対して、0.005〜5質量%、好ましくは0.1〜1質量%の範囲で選ばれる。
【0018】
含フッ素共重合体の重合法については特に制限はなく、例えば塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法等を用いることができるが、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、フッ素原子を1個以上有する飽和ハロゲン化炭化水素類等を溶媒とする溶液重合法や水性媒体中での乳化重合法等が好ましく用いられる。水性媒体中で共重合させる場合には、通常分散安定剤として懸濁剤や乳化剤を用い、かつ塩基性緩衝剤を添加して、重合中の反応液のpH値を4以上、好ましくは6以上にすることが望ましい。共重合反応における反応温度は、重合開始剤や重合媒体の種類に応じ、通常−30℃〜150℃の範囲内で適宜選ばれる。例えば、水性媒体中で重合を行う場合には、通常0〜100℃、好ましくは10〜90℃の範囲内で選ばれる。また、反応圧力については特に制限はないが、通常9.8×10〜9.8×10N/m、好ましくは9.8×10〜5.9×10N/mの範囲内で選ばれる。さらに、共重合反応は適当な連鎖移動剤を添加して行うことができる。
【0019】
本発明においては、含フッ素共重合体(A)とイソシアネート基を2以上有する架橋剤(B)との反応生成物が、ポリマーフィルムの片面又は両面に形成される。イソシアネート基を2以上有する架橋剤(B)としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネート、トリス(フェニルイソシアネート)チオフォスフェート等のトリイソシアネート、イソシアヌレート類を有する多価イソシアネート等が挙げられる。
【0020】
本発明において、含フッ素共重合体とイソシアネート基を2以上有する架橋剤とから塗工液を調製する際に用いられる溶媒としては、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素類、n−ブタノール等のアルコール類、酢酸ブチル、酢酸エチル等のエステル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、エチルセロソルブ等のグリコールエーテル類、市販の各種シンナー類等が挙げられる。塗工液の含フッ素共重合体濃度は、一般に5〜80質量%、好ましくは10〜60質量%である。
【0021】
含フッ素共重合体と架橋剤を溶媒と混合する方法としては、ボールミル、ペイントシェーカー、サンドミル、3本ロールミル、ニーダー等を用いて行うことができる。この際、顔料、分散安定剤、粘度調節剤、レベリング剤、紫外線吸収剤等を添加することもできる。
【0022】
本発明のフッ素樹脂コートポリマーフィルムの製造方法としては、ベースのポリマーフィルムに、含フッ素共重合体とイソシアネート基を2以上有する架橋剤と溶媒とからなる塗工液を塗布する方法、または該塗工液を未延伸フィルムに塗布したのち延伸する、いわゆる、インラインコート法が挙げられる。塗工液を塗布する方法としては、公知の塗工法が適用でき、例えばグラビアロール法、スプレー法、ロールコーター法等を用いて塗布することができるが、塗工厚を調節する上でグラビアロール法が適している。また、ベースのポリマーフィルムは、塗工液との親和性を向上させ乾燥後の含フッ素共重合体樹脂との密着性を好適なものにするために、あらかじめコロナ処理等の物理的処理や化学的処理が施されていることが望ましい。塗工液の乾燥後の塗工厚は、0.1〜2μmが好ましく、より好ましくは0.5〜1.5μmである。塗工厚が0.1μm未満の場合にはフッ素が本来持つ良好な剥離強度が得られにくく、塗工厚を2μmより厚くしてもそれ以上の性能の発現は認められず、コストアップとなり好ましくない。
【0023】
上記塗工液を塗布したフィルムの塗布面において、含フッ素共重合体とイソシアネート基を2以上有する架橋剤との反応生成物のコーティングを形成することにより、本発明のフッ素樹脂コートポリマーフィルムが得られる。反応生成物を形成する条件としては、塗布面を100〜140℃、5〜120秒間熱処理後、35〜110℃の温度で5〜72時間保持することが好ましく、より好ましくは、上記熱処理後、40〜80℃の温度で40〜50時間保持することが好ましい。
【0024】
補強される高分子電解質膜としては、プロトン(H)伝導性が高く、電子絶縁性であり、かつ、ガス不透過性であるものであれば、特に限定はされず、公知の高分子電解質膜であればよい。代表例として、含フッ素高分子を骨格とし、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン基等の基を有する樹脂が挙げられる。高分子電解質膜の厚さは、抵抗に大きな影響を及ぼすため、電子絶縁性およびガス不透過性を損なわない限りにおいてより薄いものが求められ、具体的には、1〜70μm、好ましくは5〜50μmの範囲内に設定される。本発明における高分子電解質膜の材料は、全フッ素系高分子化合物に限定はされず、炭化水素系高分子化合物や無機高分子化合物との混合物、または高分子鎖内にC−H結合とC−F結合の両方を含む部分フッ素系高分子化合物であってもよい。炭化水素系高分子電解質の具体例として、スルホン酸基等の電解質基が導入されたポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル系樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテル等、およびこれらの誘導体(脂肪族炭化水素系高分子電解質)、スルホン酸基等の電解質基が導入されたポリスチレン、芳香環を有するポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート等、およびこれらの誘導体(部分芳香族炭化水素系高分子電解質)、スルホン酸基等の電解質基が導入されたポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド等、およびこれらの誘導体(全芳香族炭化水素系高分子電解質)等が挙げられる。部分フッ素系高分子電解質の具体例としては、スルホン酸基等の電解質基が導入されたポリスチレン−グラフト−エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、ポリスチレン−グラフト−ポリテトラフルオロエチレン等、およびこれらの誘導体が挙げられる。全フッ素系高分子電解質膜の具体例としては、側鎖にスルホン酸基を有するパーフルオロポリマーであるナフィオン(登録商標)膜(デュポン社製)、アシプレックス(登録商標)膜(旭化成社製)およびフレミオン(登録商標)膜(旭硝子社製)が挙げられる。また、無機高分子化合物としては、シロキサン系またはシラン系の、特にアルキルシロキサン系の有機珪素高分子化合物が好適であり、具体例としてポリジメチルシロキサン、γ‐グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。また、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜にイオン交換樹脂を含浸させた補強型高分子電解質膜であるGORE−SELECT(登録商標)(ジャパンゴアテックス社製)を好適に用いることもできる。
【0025】
上記高分子電解質膜に、本発明のフッ素樹脂コートポリマーフィルムをそのフッ素樹脂コート面が接触するように接合させることにより、補強された高分子電解質膜を得ることができる。フッ素樹脂コートポリマーフィルムと高分子電解質膜との接合方法は、60℃〜200℃、好ましくは100〜150℃で加熱することによって行うことができる。また加熱と同時に適宜加圧してもよく、その場合熱プレスや熱ロールを利用すればよい。接合部位は、一般に高分子電解質膜の少なくとも片面の周縁部であり、通常は、後述する電極層と接しない額縁状の部分とすることができる。このように補強された高分子電解質膜の略横断面図を図2に示す。図2において、補強された高分子電解質膜20は、高分子電解質膜23と、その片面の周縁部において額縁状に接合されたフッ素樹脂コートポリマーフィルムとを含んでなり、フッ素樹脂コート21が高分子電解質膜23に接触している。
【0026】
本発明により補強された高分子電解質膜の両面に電極層を組み合わせることにより、膜電極組立体を形成することができる。膜電極組立体に用いられる電極層は、触媒粒子とイオン交換樹脂を含むものであれば特に限定はされず、従来公知のものを使用することができる。触媒は、通常、触媒粒子を担持した導電材からなる。触媒粒子としては、水素の酸化反応あるいは酸素の還元反応に触媒作用を有するものであればよく、白金(Pt)その他の貴金属のほか、鉄、クロム、ニッケル等、およびこれらの合金を用いることができる。導電材としては炭素系粒子、例えばカーボンブラック、活性炭、黒鉛等が好適であり、特に微粉末状粒子が好適に用いられる。代表的には、表面積20m/g以上のカーボンブラック粒子に、貴金属粒子、例えばPt粒子またはPtと他の金属との合金粒子を担持したものがある。特に、アノード用触媒については、Ptは一酸化炭素(CO)の被毒に弱いため、メタノールのように副反応でCOを生成する燃料、またはメタン等を改質したガスを使用する場合には、Ptとルテニウム(Ru)との合金粒子を用いることが好ましい。電極層中のイオン交換樹脂は、触媒を支持し、電極層を形成するバインダーとなる材料であり、触媒によって生じたイオン等が移動するための通路を形成する役割をもつ。このようなイオン交換樹脂としては、先に高分子電解質膜に関連して説明したものと同様のものを用いることができる。アノード側では水素やメタノール等の燃料ガス、カソード側では酸素や空気等の酸化剤ガスが触媒とできるだけ多く接触することができるように、電極層は多孔性であることが好ましい。また、電極層中に含まれる触媒量は、0.01〜1mg/cm、好ましくは0.1〜0.5mg/cmの範囲内にあることが好適である。電極層の厚さは、一般に1〜20μm、好ましくは5〜15μmの範囲内にあることが好適である。
【0027】
固体高分子形燃料電池に用いられる膜電極組立体には、さらにガス拡散層が組み合わされる。ガス拡散層は、導電性および通気性を有するシート材料である。代表例として、カーボンペーパー、カーボン織布、カーボン不織布、カーボンフェルト等の通気性導電性基材に撥水処理を施したものが挙げられる。また、炭素系粒子とフッ素系樹脂から得られた多孔性シートを用いることもできる。例えば、カーボンブラックを、ポリテトラフルオロエチレンをバインダーとしてシート化して得られた多孔性シートを用いることができる。ガス拡散層の厚さは、一般に50〜500μm、好ましくは100〜400μmの範囲内にあることが好適である。
【0028】
電極層とガス拡散層と補強された高分子電解質膜とを接合することにより膜電極接合体を作製する。接合方法としては、高分子電解質膜を損なうことなく接触抵抗が低い緻密な接合が達成されるものであれば、従来公知のいずれの方法でも採用することができる。接合に際しては、まず電極層とガス拡散層を組み合わせてアノード電極またはカソード電極を形成した後、これらを高分子電解質膜に接合することができる。例えば、適当な溶媒を用いて触媒粒子とイオン交換樹脂を含む電極層形成用コーティング液を調製してガス拡散層用シート材料に塗工することによりアノード電極またはカソード電極を形成し、これらを高分子電解質膜にホットプレスで接合することができる。また、電極層を高分子電解質膜と組み合わせた後に、その電極層側にガス拡散層を組み合わせてもよい。電極層と高分子電解質膜とを組み合わせる際には、スクリーン印刷法、スプレー塗布法、デカール法等、従来公知の方法を採用すればよい。
【0029】
上述のようにして得られた膜電極組立体を、従来公知の方法に従い、そのアノード側とカソード側が所定の側にくるようにセパレータ板および冷却部と交互に5〜100セル積層することにより固体高分子形燃料電池スタックを組み立てることができる。
【実施例】
【0030】
実施例1
フルオロオレフィン、シクロヘキシル基含有アクリル酸エステル、水酸基含有ビニルエーテルを構成成分とする含フッ素共重合体(関東電化工業社製KD200)の30質量%酢酸エチル溶液に、架橋剤としてヘキサメチレンジイソシアネートをKD200のOH価の1.4倍当量になるように溶解して、塗工液を調製した。得られた塗工液を、厚さ50μm、大きさ20cm×30cmの二軸延伸PENフィルム(帝人デュポン社製テオネックス:片面易接着処理品)の易接着処理面にワイヤーバーコーターで塗工し、140℃で1分間熱処理後、70℃で48時間熱処理し、塗工厚1μmのフッ素樹脂コートPENフィルムを得た。得られたフィルムを外寸8×8cm、内寸5×5cmの額縁状に打ち抜いた後、そのコーティング面を厚さ30μm、外寸8×8cmの固体高分子電解質膜(ジャパンゴアテックス社製ゴアセレクト)と重ね合わせ、熱プレスにより160℃で5分間熱圧着し、PENフィルム補強高分子電解質膜を得た。
【0031】
実施例2
片面をコロナ放電処理した厚さ50μm、大きさ20cm×30cmのPPSフィルムの該処理面に、実施例1と同様の塗工液を実施例1と同様の方法で塗布し、塗工厚1μmのフッ素樹脂コートPPSフィルムを得た。同様に得られたフィルムを外寸8×8cm、内寸5×5cmの額縁状に打ち抜いた後、そのコーティング面を厚さ30μm、外寸8×8cmの固体高分子電解質膜(ジャパンゴアテックス社製ゴアセレクト)と重ね合わせ、熱プレスにより160℃で5分間熱圧着し、PPSフィルム補強高分子電解質膜を得た。
【0032】
比較例1
片面にアクリル系粘着材を適用した厚さ50μm、外寸8×8cm、内寸5×5cmの額縁状のPENフィルムの該粘着面を、厚さ30μm、外寸8×8cmの固体高分子電解質膜(ジャパンゴアテックス社製ゴアセレクト)と重ね合わせ、圧着しPEN補強高分子電解質膜を得た。
【0033】
比較例2
外寸8×8cm、内寸5×5cmの額縁状の片面易接着処理PENフィルム(帝人デュポン社製テオネックス:片面易接着処理品)の易接着面を厚さ30μm、外寸8×8cmの固体高分子電解質膜(ジャパンゴアテックス社製ゴアセレクト)と重ね合わせ、熱プレスにより160℃で5分間熱圧着し、PENフィルム補強高分子電解質膜を得た。
【0034】
比較例3
大きさ20cm×30cmの片面易接着処理PENフィルム(帝人デュポン社製テオネックス:片面易接着処理品)の易接着面に酢酸ビニル樹脂エマルジョン(PVAC)接着剤をワイヤーバーコーターにて塗工し、80℃で3分間乾燥し、塗工厚3μmのPVACコートPENフィルムを得た。得られたフィルムを外寸8×8cm、内寸5×5cmの額縁状に打ち抜いた後、そのコーティング面を厚さ30μm、外寸8×8cmの固体高分子電解質膜(ジャパンゴアテックス社製ゴアセレクト)と重ね合わせ、熱プレスにより160℃で5分間熱圧着し、PENフィルム補強高分子電解質膜を得た。
【0035】
(接着強度評価および耐久試験)
得られた補強高分子電解質膜の接着強度は、高分子電解質膜とフッ素樹脂コートポリマーフィルムとの間の剥離強度を、JIS K 6854−2:1999に従い測定することにより評価した。剥離強度は、同様に製作した幅25mm、長さ200mmの試験片を用い、引張試験機(島津製作所社製AG−1)において、剥離速度100mm/分で測定した。
補強高分子電解質膜の使用耐久性は、プレッシャークッカー(ヤマト科学社製SP510)において120℃の飽和水蒸気中に試験片を100時間放置した後、上記と同様に剥離強度を測定することにより評価した。
結果を表1に示す。
【0036】
表1.耐久試験前後の剥離強度比較
【表1】

【0037】
本発明の方法により作製した補強高分子電解質膜は、耐久試験前後で十分な接着強度を保っていたのに対して、比較例のものは、耐久試験後には、接着強度を維持できていなかった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明による高分子電解質膜補強用フッ素樹脂コートポリマーフィルムを示す略横断面図である。
【図2】本発明による補強された高分子電解質膜を示す略横断面図である。
【符号の説明】
【0039】
10 フッ素樹脂コートポリマーフィルム
11 フッ素樹脂コート
12 ポリマーフィルム
20 補強された高分子電解質膜
21 フッ素樹脂コート
22 ポリマーフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)に示すフルオロオレフィン、式(2)に示すシクロヘキシル基含有アクリル酸エステルおよび式(3)に示す水酸基含有ビニルエーテルを構成成分とする含フッ素共重合体(A)と、イソシアネート基を2以上有する架橋剤(B)との反応生成物のコーティングを、ポリマーフィルムの少なくとも片面に形成してなる、高分子電解質膜補強用フッ素樹脂コートポリマーフィルム。
【化1】

(式中、XはFまたはHであり、YはH、Cl、FまたはCFである。)
【化2】

(式中、Rは水素またはメチル基である。)
【化3】

(式中、Rは炭素数2〜5のアルキレン基、またはシクロヘキシレン基である。)
【請求項2】
該含フッ素共重合体(A)が、該フルオロオレフィン40〜90モル%、該シクロヘキシル基含有アクリル酸エステル1〜30モル%および該水酸基含有ビニルエーテル1〜30モル%を含む、請求項1に記載のフッ素樹脂コートポリマーフィルム。
【請求項3】
高分子電解質膜の少なくとも片面の周縁部において額縁状に、請求項1または2に記載のフッ素樹脂コートポリマーフィルムをそのフッ素樹脂コート面が接触するように接合させた、補強された高分子電解質膜。
【請求項4】
該高分子電解質膜がフッ素系イオン交換樹脂を含む、請求項3に記載の補強された高分子電解質膜。
【請求項5】
請求項3または4に記載の補強された高分子電解質膜を含む、燃料電池用または電解用の膜電極組立体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−173693(P2009−173693A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−10832(P2008−10832)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(000107387)ジャパンゴアテックス株式会社 (121)
【Fターム(参考)】