説明

高分岐ポリマーを用いた界面接着性制御

【課題】マトリクス樹脂に対する混合、分散性に優れ、マトリクス樹脂中で凝集を起こさず、しかも従来の線状高分子からなる剥離剤と比べて、該組成物の成形加工工程における混合・成形機械や金型への離型性、或いはフィルム等の他の樹脂成形品に対する剥離性等に優れる内部剥離剤を提供すること。
【解決手段】分子内に2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAを、該モノマーA 1モルに対して5モル%ないし200モル%の量の重合開始剤Bの存在下で重合させることで得られる高分岐ポリマーからなる内部剥離剤並びに該内部剥離剤を含有する樹脂組成物、それから得られる樹脂成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高分岐ポリマーからなる内部剥離剤に関し、詳細には、特定の高分岐ポリマーを樹脂組成物に添加することにより、該組成物の成形加工工程における混合・成形機械や金型への離型性、或いはフィルム等の他の樹脂成形品に対する剥離性等に優れる内部剥離剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー(高分子)材料は、近年、多分野でますます利用されている。それに伴い、それぞれの分野に応じて、マトリクスとしてのポリマーの性状とともに、その表面や界面の特性が重要となっており、特に、剥離性や離型性といった界面接着性の制御に関する特性の向上が求められている。
例えば、接着分野においては、剥離紙やプラスチックフィルムなどからなる剥離フィルムと、粘着性物質との間の接着又は固着を防止することを目的として、基材(フィルム等)表面をコーティング加工することによって剥離性を付与することが行われている。
【0003】
また、樹脂の成形分野においては、自動車、各種電気機器(テレビ、パソコン、携帯電話等)、建材、事務用品の部品や構造部材として、プラスチックや合成ゴム等の樹脂を射出成形、押出成形等により、所望の形状に形成され、成形加工工程における各種機械や金型等への離型性(剥離性)の向上が求められている。
樹脂等に剥離性を付与するために、成形品の原料となる樹脂に剥離性を付与する添加剤(剥離剤或いは離型剤)を配合する技術が提案されており、例えば、線状高分子化合物を離型剤として用いた方法が提案されている(特許文献1ないし3参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の線状高分子化合物を剥離剤として用いた方法は、樹脂成形品の母体となる樹脂は炭素原子を骨格とする有機物であるため、マトリクスである樹脂と剥離剤との相溶性が高く、樹脂中で凝集等を起こさずに混合・分散させやすいという特徴を有している反面、剥離性が十分なものとは言えるものではなく、剥離性能の向上が求められていた。
また、フィルム等の剥離性に関しても、基材に対する剥離性を付与するために、樹脂と基材との界面に活性を持たせる技術が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、従来検討されていなかった高分岐ポリマーを剥離剤として採用することにより、マトリクス樹脂に対する混合、分散性に優れ、マトリクス樹脂中で凝集を起こさず、しかも従来の線状高分子からなる剥離剤と比べて、該組成物の成形加工工程における混合・成形機械や金型への離型性、或いはフィルム等の他の樹脂成形品に対する剥離性等に優れる内部剥離剤とすることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、第1観点として、分子内に2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAを、該モノマーA 1モルに対して5モル%ないし200モル%の量の重合開始剤Bの存在下で重合させることで得られる高分岐ポリマーからなる内部剥離剤に関する。
第2観点として、前記モノマーAがジビニルベンゼンである、第1観点に記載の内部剥離剤に関する。
第3観点として、前記重合開始剤Bが2,2’−アゾビス(イソ酪酸ジメチル)である
、第1観点又は第2観点に記載の内部剥離剤に関する。
第4観点として、前記重合開始剤Bが2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)である第1観点又は第2観点に記載の内部剥離剤に関する。
第5観点として、第1観点ないし第4観点のうち何れか1項に記載の内部剥離剤、及び熱可塑性樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物に関する。
第6観点として、前記内部剥離剤の含有量が熱可塑性樹脂に対して0.3質量%ないし20質量%である、第5観点に記載の熱可塑性樹脂組成物に関する。
第7観点として、前記熱可塑性樹脂がポリカーボネート樹脂である、第5観点又は第6観点に記載の熱可塑性樹脂組成物に関する。
第8観点として、第5観点ないし第7観点のうち何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物より熱処理を経て作られた樹脂成形品に関する。
第9観点として、前記樹脂成形品の内部に比べて該樹脂成形品の表面部において前記内部剥離剤の含有割合がより高いことを特徴とする、第8観点記載の樹脂成形品に関する。
第10観点として、第1観点ないし第4観点のうち何れか1項に記載の内部剥離剤、及び熱硬化性樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物に関する。
第11観点として、前記内部剥離剤の含有量が熱硬化性樹脂に対して0.3質量%ないし20質量%である、第10観点に記載の熱硬化性樹脂組成物に関する。
第12観点として、第10観点又は第11観点に記載の熱硬化性樹脂組成物より熱処理を経て作られた樹脂成形品に関する。
第13観点として、前記樹脂成形品の内部に比べて該樹脂成形品の表面部において前記内部剥離剤の含有割合がより高いことを特徴とする、第12観点に記載の樹脂成形品に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の内部剥離剤は、従来の離型剤として用いられた線状高分子が一般的に紐状の形状であるのに対し、積極的に枝分かれ構造を導入した高分岐ポリマーからなる。このため、線状高分子からなる従来の離型剤と比較して、本発明の内部剥離剤は分子間の絡み合いが少なく微粒子的挙動を示し、すなわちマトリクスである樹脂中での移動が容易となる。
そして本発明の内部剥離剤は、界面(成形品表面)に容易に移動して界面接着性の制御に寄与することができ、樹脂の離型性や剥離性の向上につながる。
また本発明の内部剥離剤は、マトリクスである樹脂との相溶性が高く、樹脂中で凝集等を起こさずに混合・分散が可能である。
【0008】
また本発明の樹脂成形品は、成形品内部(深部)と比べて、成形品表面(界面)に前記内部剥離剤が多く存在した状態にあることから、混合・成形機械等の各種機械や金型への離型性、或いはフィルム等の他の樹脂成形品に対する剥離性等に優れたものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、HA−DVB/PSブレンド薄膜の最表面におけるHA−DVBの表面分率を示す図である。
【図2】図2は、HA−DVB/PSブレンド薄膜の表面分率に対する界面せん断接着強さを示す図である。
【図3】図3は、PC単独フィルム又はHA−DVB/PCバルクフィルム(未熱処理・熱処理)とPETフィルムからなる積層膜における剥離強度試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の内部剥離剤は、分子内に2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAを、該モノマーA 1モルに対して5モル%ないし200モル%の量の重合開始剤Bの
存在下で重合させることで得られる高分岐ポリマーからなる。
【0011】
本発明において、分子内に2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAとしては、例えば、以下の(A1)ないし(A7)に示した有機化合物が例示される。
(A1)ビニル系炭化水素:
(A1−1)脂肪族ビニル系炭化水素類;イソプレン、ブタジエン、3−メチル−1,2−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,2−ポリブタジエン、ペンタジエン、ヘキサジエン、オクタジエン等
(A1−2)脂環式ビニル系炭化水素;シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、シクロオクタジエン、ノルボルナジエン等
(A1−3)芳香族ビニル系炭化水素;ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、トリビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルナフタレン、ジビニルフルオレン、ジビニルカルバゾール、ジビニルピリジン等
(A2)ビニルエステル、アリルエステル、ビニルエーテル、アリルエーテル、ビニルケトン:
(A2−1)ビニルエステル;アジピン酸ジビニル、マレイン酸ジビニル、フタル酸ジビニル、イソフタル酸ジビニル、イタコン酸ジビニル、ビニル(メタ)アクリレート等
(A2−2)アリルエステル;マレイン酸ジアリル、フタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、アジピン酸ジアリル、アリル(メタ)アクリレート等
(A2−3)ビニルエーテル;ジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル等
(A2−4)アリルエーテル;ジアリルエーテル、ジアリロキシエタン、トリアリロキシエタン、テトラアリロキシエタン、テトラアリロキシプロパン、テトラアリロキシブタン、テトラメタリロキシエタン等
(A2−5)ビニルケトン;ジビニルケトン、ジアリルケトン等
(A3)(メタ)アクリル酸エステル:
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、アルコキシチタントリ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2−メチル−1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジオキサングリコールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−1−アクリロイロキシ−3−メタクリロイロキシプロパン、2−ヒドロキシ−1,3−ジ(メタ)アクリロイロキシプロパン、9,9−ビス[4−(2−(メタ)アクリロイロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、ウンデシレノキシエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビス[4−(メタ)アクリロイルチオフェニル]スルフィド、ビス[2−(メタ)アクリロイルチオエチル]スルフィド、1,3−アダマンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−アダマンタンジメタノールジ(メタ)アクリレート等
(A4)ポリアルキレングリコール鎖を有するビニル系化合物:
ポリエチレングリコール(分子量300)ジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(分子量500)ジ(メタ)アクリレート等
(A5)含窒素ビニル系化合物:
ジアリルアミン、ジアリルイソシアヌレート、ジアリルシアヌレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、ビスマレイミド等
(A6)含ケイ素ビニル系化合物:
ジメチルジビニルシラン、ジビニルメチルフェニルシラン、ジフェニルジビニルシラン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ジビニル−1,
1,3,3−テトラフェニルジシラザン、ジエトキジビニルシラン等
(A7)含フッ素ビニル系化合物:
1,4−ジビニルパーフルオロブタン、1,4−ジビニルオクタフルオロブタン、1,6−ジビニルパーフルオロヘキサン、1,6−ジビニルドデカフルオロヘキサン、1,8−ジビニルパーフルオロオクタン、1,8−ジビニルヘキサデカフルオロオクタン等
【0012】
これらのうち好ましいものは、上記(A1−3)群の芳香族ビニル系炭化水素化合物、(A2)群のビニルエステル、アリルエステル、ビニルエーテル、アリルエーテルおよびビニルケトン、(A3)群の(メタ)アクリル酸エステル、(A4)群のポリアルキレングリコール鎖を有するビニル系化合物、並びに(A5)群の含窒素ビニル系化合物であり、特に好ましいのは、(A1−3)群に属するジビニルベンゼン、(A2)群に属するフタル酸ジアリル、(A3)群に属するエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−アダマンタンジメタノールジ(メタ)アクリレート、並びに(A5)群に属するメチレンビス(メタ)アクリルアミドであり、これらの中でもジビニルベンゼンがより好ましい。
【0013】
本発明における重合開始剤Bとしては、好ましくはアゾ系重合開始剤が用いられる。アゾ系重合開始剤としては、油溶性アゾ重合開始剤及び水溶性アゾ重合開始剤等が使用できる。
油溶性アゾ重合開始剤としては、
(1)アゾニトリル系;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビスシクロヘキサン−1−カルボニトリル、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)等、
(2)アゾアミド系;2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)等、
(3)その他;2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2,2’−アゾビス(イソ酪酸ジメチル)、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)等、等が挙げられる。
これらのうちで好ましいものは(3)その他であり、特に好ましいものは、2,2’−アゾビス(イソ酪酸ジメチル)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)である。
水溶性アゾ重合開始剤としては、
(1)アゾニトリル系;2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル等、
(2)アゾアミド系;2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミド)ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]等、
(3)脂環式アゾアミド系;2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジサルフェートジハイドレート、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]等、等が挙げられる。
【0014】
これらのうち、油溶性アゾ重合開始剤である2,2’−アゾビス(イソ酪酸ジメチル)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)が特に好ましい。
【0015】
前記重合開始剤Bは、前記分子内に2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーA 1モルに対して5モル%ないし200モル%の量で使用され、好ましくは20モル%ないし150モル%、より好ましくは50モル%ないし100モル%の量で使用される。
【0016】
本発明の内部剥離剤は、前述のモノマーAに対して所定量の重合開始剤Bの存在下で重合させて得られ、該重合方法としては公知の方法、例えば溶液重合、分散重合、沈殿重合、及び塊状重合等が挙げられ、中でも溶液重合または沈殿重合が好ましい。特に分子量制御の点から有機溶媒中で重合することが好ましい。
このとき用いられる有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素系溶媒;n−ヘキサン、n−ヘプタン、ミネラルスピリット、シクロヘキサン等の脂肪族または脂環式炭化水素系溶媒;塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、メチレンジクロライド、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、オルトジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系またはエステルエーテル系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジ−n−ブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、2−エチルヘキシルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、N−メチルピロリドン等の複素環式化合物系溶媒、ならびにこれらの2種以上の混合溶媒が挙げられる。
これらのうち好ましいのは、芳香族炭化水素系溶媒、塩素系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒、アミド系溶媒、スルホキシド系溶媒等であり、特に好ましいものはトルエン、キシレン、オルトジクロロベンゼン、酢酸ブチル、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等である。
【0017】
上記重合反応を有機溶媒の存在下で行う場合、重合反応物全体における有機溶媒の含量は、好ましくは1重量%〜300重量%、さらに好ましくは10重量%〜100重量%である。
重合反応は常圧、加圧密閉下、または減圧下で行われ、加圧密閉下で行うのが好ましい。重合反応の温度は好ましくは50〜200℃、さらに好ましくは70〜150℃である。
【0018】
重合反応の終了後、得られた高分岐ポリマーを任意の方法で回収し、必要に応じて洗浄等の後処理を行なう。反応溶液から高分子を回収する方法としては、再沈殿等の方法が挙げられる。
【0019】
なお、得られた高分岐ポリマーの重量平均分子量(以下Mwと略記)は、ポリスチレン換算で好ましくは10,000〜1,000,000、さらに好ましくは20,000〜800,000、最も好ましくは40,000〜700,000である。
【0020】
本発明はまた、前記内部剥離剤と熱可塑性樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物、或いは
、前記内部剥離剤と熱硬化性樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物にも関する。
前記熱可塑性樹脂組成物に用いられる熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(ABS)、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレートを含む)等が挙げられ、特にポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂であることが好ましい。
また前記熱硬化性樹脂組成物に用いられる熱硬化性樹脂としても特に限定されないが、例えばフェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
これら熱可塑性樹脂組成物或いは熱硬化性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂或いは熱硬化性樹脂に対する前記内部剥離剤の配合量は、熱可塑性樹脂或いは熱硬化性樹脂に対して好ましくは0.3質量%ないし20質量%であり、特に10質量%ないし20質量%であることが好ましい。
【0021】
上記熱可塑性樹脂組成物或いは熱硬化性樹脂組成物には、熱可塑性樹脂或いは熱硬化性樹脂に一般的に添加される添加剤、例えば、帯電防止剤、滑剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、蛍光剤、加工助剤、架橋剤、分散剤、発泡剤、難燃剤、消泡剤、補強剤、顔料などを併用してもよい。
【0022】
本発明の上記熱可塑性樹脂組成物或いは熱硬化性樹脂組成物は、射出成形、押出成形、プレス成形、ブロー成形等の任意の成形方法でフィルムやシート、或いは成形品等の樹脂成形品を得ることができ、成形後にさらに熱処理を経ることにより、内部剥離剤が成形品表面への移動が増加し、剥離性の向上につながる。熱処理温度は、樹脂組成物に用いた熱可塑性樹脂のガラス転移点ないしガラス転移点+50℃近辺の温度が好ましく、処理時間は特に限定されないが、熱処理温度に依存しておよそ12時間ないし48時間である。
【0023】
本発明の樹脂成形品は、前述の通り、成形品内部(深部)と比べて、成形品表面(界面)に前記内部剥離剤が多く存在した状態にある。このため、成形品作成時に使用する混合・成形機械等の各種機械や金型への離型性、或いはフィルム等の他の樹脂成形品に対する剥離性等に優れたものとすることができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、これによって本発明が限定されるものではない。
なお、実施例にて使用した分析装置及び分析条件は、下記のとおりである。
【0025】
[GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)]
装置:東ソー(株)製 HLC−8220 GPC
カラム:Shodex(登録商標) KF−804L+KF−805L
カラム温度:40℃
溶媒:テトラヒドロフラン
検出器:UV(254nm)、RI
検量線:標準ポリスチレン
[スピンコート]
装置:(株)共和理研製 スピンコーター K−359SD2
[真空加熱]
装置:東京理化器械(株)製 真空定温乾燥器 VOS−201SD
[プレス成型]
装置:テスター産業(株)製 卓上型テストプレスS型 SA−303−II−S
[XPS(X線光電子分光)測定]
装置:Physical Electronics社製 PHI ESCA 5800
X線源:単色化AI Kα線(2mmΦ)
X線出力:200W,14mA
光電子放出角度:45度
[引っ張り試験機]
装置:(株)エー・アンド・デイ製 テンシロン万能試験機
【0026】
<参考例1:高分岐ポリマー(HA−DVB)の製造>
HA−DVBは、Journal of Applied Polymer Science,Vol.100,664−670(2006)に記載の方法を参考に製造した。なお、分子内に2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAとしてジビニルベンゼン(新日鐵化学(株)製 DVB−960)5.2g、重合開始剤Bとして2、2’−アゾビス(イソ酪酸ジメチル)(大塚化学(株)製 MAIB)7.4gを使用した。
このHA−DVBのGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは63,000、分散度:Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)は4.4であった。
【0027】
<実施例1:HA−DVB/PSブレンド薄膜の作製>
参考例1で製造したHA−DVB、及び線状ポリスチレン(Aldrich社製、製品番号32781−6:以下PSと称する)を、それぞれ質量比で5/95、10/90、20/80、30/70となるように混合し、さらに混合物の固形分濃度がそれぞれ5質量%となるように、HA−DVB及びPSの総質量に対して95質量部のトルエンに溶解した。(HA−DVB及びPSの総質量に対するHA−DVBの質量分率(以下バルク分率と称する)をそれぞれ5%、10%、20%、30%とする)。
【0028】
得られた各トルエン溶液を、それぞれポリイミドフィルム(東レ・デュポン(株)製、カプトン(登録商標)Hタイプ、75μm厚)上に2,000rpm、60秒でスピンコートした後、25℃で24時間乾燥し、HA−DVB分率の異なった4種のHA−DVB/PSブレンド薄膜を成膜した。このブレンド薄膜をさらに真空中150℃で24時間熱処理を行った。
【0029】
得られたブレンド薄膜の最表面(表面よりおよそ深度10nm程度の範囲)をXPS測定し、HA−DVBの表面分率を求めた。結果を図1に示す。
図1に示すように、HA−DVBの表面分率は、バルク分率と比較して増加していることから、熱処理を経た前記HA−DVB/PSブレンド薄膜の最表面にHA−DVBがより多く存在していることが確認された。
【0030】
<実施例2:HA−DVB/PSブレンド薄膜の接着強度試験>
実施例1で作製したHA−DVB/PSブレンド薄膜のそれぞれについて、同じバルク分率を有する薄膜2枚を被着面積が25mm2になるように表面同士を貼り合わせた。貼
り合わせた二層膜をシリコン基板上に置き、二層膜の上から錘を乗せ、窒素雰囲気下120℃で1時間、0.35MPaの圧力を印加させながら接着した。
得られた接着二層膜それぞれについて、引張り試験機を用いた引張りせん断接着強さ試験(JIS K6850)に基づき、二層膜を5mm/分の速度で引き離し、界面せん断接着強さを評価した。結果を図2に示す。
図2に示すように、HA−DVBの表面分率の増加に伴い、界面せん断接着強さが著しく減少しており、すなわち、HA−DVBの最表面濃度を調整することにより、接着性(剥離性)が制御できることを示すという結果が得られた。
【0031】
<実施例3:HA−DVB/PCバルクフィルムの作製>
参考例1で製造したHA−DVB0.1g及び市販のポリカーボネート(以下PCと称する)0.9gを、クロロホルム15gに溶解した。この溶液をメタノール2kgを用いて再沈殿させ、析出した固体をろ過、乾燥した。
得られた固体を、5MPa、250℃で5分間プレス成型し、厚さ150μmのHA−DVB/PCバルクフィルムを作製した。
また、HA−DVBを添加しない以外は同様の手順にて、PC単独の厚さ150μmのPC単独フィルムを作製した。
【0032】
<実施例4;HA−DVB/PCバルクフィルムの剥離強度試験>
実施例3で作製したHA−DVB/PCバルクフィルムを、PETフィルム(エー・アンド・デイ製、レオバイブロン動的粘弾性自動測定器用標準サンプル、30μm厚)と貼り合わせ、プレス機を用い200℃で5分間、3MPaの圧力を印加させながら熱圧着した。同様にPC単独フィルムと前記PETフィルムを貼り合わせ、熱圧着した。
得られたそれぞれの積層膜について、引張り試験機を用いた180°剥離試験(JIS
K6854)に基づき、積層膜を300mm/分の速度で引き離し、剥離強度を評価した。結果を図3に示す。
【0033】
<実施例5;HA−DVB/PCバルクフィルム(熱処理)の剥離強度試験>
実施例3で作製したHA−DVB/PCバルクフィルムを、予め真空中150℃で24時間熱処理を行った以外は、実施例4と同様の操作を行い、剥離強度の評価を行った。結果を図3に合わせて示す。
【0034】
図3に示すように、PC単独フィルムの場合と比較して、HA−DVB/PCバルクフィルムでは剥離強度が低下した。また熱処理(150℃、24時間)を経たHA−DVB/PCバルクフィルムの剥離強度は、未熱処理のHA−DVB/PCバルクフィルムに比べさらに低下した。すなわちこの結果は、HA−DVBを添加することにより、PCフィルムの剥離性が向上し、さらに熱処理を経ることで、HA−DVBの表面の存在割合が増加し、剥離性がさらに向上したという結果を示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0035】
【特許文献1】特許第3094656号公報
【特許文献2】特開平11−124482号公報
【特許文献3】特開平7−90029号公報
【非特許文献】
【0036】
【非特許文献1】Journal of Applied Polymer Science,Vol.100,664−670(2006)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に2個以上のラジカル重合性二重結合を有するモノマーAを、該モノマーA 1モルに対して5モル%ないし200モル%の量の重合開始剤Bの存在下で重合させることで得られる高分岐ポリマーからなる内部剥離剤。
【請求項2】
前記モノマーAがジビニルベンゼンである、請求項1に記載の内部剥離剤。
【請求項3】
前記重合開始剤Bが2,2’−アゾビス(イソ酪酸ジメチル)である、請求項1又は請求項2に記載の内部剥離剤。
【請求項4】
前記重合開始剤Bが2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)である、請求項1又は請求項2に記載の内部剥離剤。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうち何れか1項に記載の内部剥離剤、及び熱可塑性樹脂を含有する熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
前記内部剥離剤の含有量が熱可塑性樹脂に対して0.3質量%ないし20質量%である、請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂がポリカーボネート樹脂である、請求項5又は請求項6に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項5ないし請求項7のうち何れか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物より熱処理を経て作られた樹脂成形品。
【請求項9】
前記樹脂成形品の内部に比べて該樹脂成形品の表面部において前記内部剥離剤の含有割合がより高いことを特徴とする、請求項8記載の樹脂成形品。
【請求項10】
請求項1ないし請求項4のうち何れか1項に記載の内部剥離剤、及び熱硬化性樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物。
【請求項11】
前記内部剥離剤の含有量が熱硬化性樹脂に対して0.3質量%ないし20質量%である、請求項10に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項12】
請求項10又は請求項11に記載の熱硬化性樹脂組成物より熱処理を経て作られた樹脂成形品。
【請求項13】
前記樹脂成形品の内部に比べて該樹脂成形品の表面部において前記内部剥離剤の含有割合がより高いことを特徴とする、請求項12に記載の樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−189525(P2010−189525A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34661(P2009−34661)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】