説明

高分散の固液分散体およびそれを配合したコーティング液

【課題】 無機粉体の有機溶剤への分散性を高めて、分散剤を添加することなく、高分散の固液分散体を提供する。
【解決手段】 分子中にフッ素原子を有するシランカップリング剤と分子中にケイ素−窒素結合を有するシランカップリング剤との2種類のシランカップリング剤で表面処理した無機粉体と、有機溶剤とで固液分散体を構成する。上記分子中にフッ素原子を有するシランカップリング剤と分子中にケイ素−窒素結合を有するシランカップリング剤との比率は、質量比で70:30〜30:70であることが好ましく、上記無機粉体としては、その平均一次粒子径が5〜200nmの微粒子二酸化チタン、微粒子酸化亜鉛が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分散の固液分散体およびそれを配合したコーティング液に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、微粒子二酸化チタンは、一次粒子径を100nm以下の超微細状にすることによって、可視光線部における光透過性を大きくし、かつ紫外部での光遮蔽性を大きくすることができるという特徴ある性質を有している。
【0003】
しかしながら、この微粒子二酸化チタンも、他の無機粉体と同様に、一次粒子径が小さくなればなるほど、それに応じて粒子同士の凝集力が強くなり、そのため、有機溶剤に対して充分に分散させることができず、充分な分散状態を得ようとすれば、強力な分散が必要になる。そこで、例えば、サンドグラインダーミルなど、強力な分散装置を用いて分散させることが行われることになるが、たとえ、そのような強力な分散装置を用いたとしても、機械的手段によるだけでは、ある程度までしか分散させることができず、その分散には、自ずと限界がある。
【0004】
そこで、微粒子二酸化チタンなどの無機粉体の有機溶剤への分散性を向上させるため、界面活性剤などの分散剤を添加することが行われている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【0005】
しかしながら、分散剤を添加して固液分散体を調製することは、それだけ不純物を固液分散体中に存在させることになり、その結果、上記固液分散体の溶剤成分を除いた後で分散剤由来の固形分が無機粉体近傍に存在することになる。
【0006】
そのため、上記固液分散体を例えば樹脂と混合し、その樹脂組成物を用いて成形体を作製する場合、それら分散剤由来の固形分が成形体の硬化を阻害させたり、特性を低下させるなどの問題を生じさせる原因になる。
【0007】
【特許文献1】特開2002−160330号公報
【特許文献2】特開平7−247119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決し、無機粉体の有機溶剤への分散性を高め、分散剤を用いることなく、高分散の固液分散体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、無機粉体を特定複数種のシランカップリング剤で表面処理することによって、無機粉体の有機溶剤に対する分散性を大きく向上させることができることを見出し、それに基づいて、本発明を完成するにいたった。
【0010】
すなわち、本発明は、分子中にフッ素原子を有するシランカップリング剤と分子中にケイ素−窒素結合を有するシランカップリング剤との2種類のシランカップリング剤で表面処理した無機粉体と、有機溶剤とで構成したことを特徴とする高分散の固液分散体に関するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の固液分散体は、上記特定のシランカップリング剤で表面処理した無機粉体が有機溶剤中に高度に分散しているが、そのような高分散状態は、分散剤の添加を要することなく、達成できる。従って、本発明の固液分散体によれば、前記したような残存分散剤による悪影響を及ぼすことがない。
【0012】
例えば、無機粉体として、平均一次粒子径が5〜200nmの微粒子二酸化チタン、微粒子酸化亜鉛などのような紫外部の光線を遮蔽し可視光線部の光線を透過させる微細粉体を用いて本発明の固液分散体を構成し、それを、例えば、透明な樹脂に配合し、その樹脂組成物を用いて塗膜を作製すれば、透明で、かつ残存した分散剤による悪影響を受けない高品質の紫外線遮蔽フィルムを容易に製造することができる。
【0013】
また、無機粉体として微粒子二酸化チタンを用いた場合は、その微粒子二酸化チタンの有する屈折率の高さを生かして、高屈折率の膜を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の固液分散体は、前記のように、特定複数種のシランカップリング剤で表面処理した無機粉体と、それを分散する分散媒としての有機溶剤とで構成される。
【0015】
上記無機粉体としては、一次粒子に分散できるものであれば特に限定されることはないが、本発明は紫外線遮蔽能を有し、かつ可視光線に対して透明性を示す塗膜や、高屈折率を有する塗膜の作製に適用したときに、特にその効果を顕著に発現することから、平均一次粒子径が5〜200nmの範囲内にある微粒子状の二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化セリウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、アンチモンドープ酸化スズ、スズドープ酸化インジウムなどの酸化物が好ましく、特に微粒子二酸化チタンや微粒子酸化亜鉛などが、本発明の固液分散体を塗膜の作製に適用したときに、特に塗膜を高透明性で、かつ高屈折率のものにすることができることから好ましい。
【0016】
また、上記無機粉体は、その粒子形状に関して、特に限定されることはなく、例えば、球状、楕円状、針状、板状などのいずれであってもよい。
【0017】
上記無機粉体は、そのまま用いてもよいし、また、シランカップリング剤による表面処理に先立ち、その表面を異種金属の酸化物や水酸化物で被覆したり、あるいは異種金属を粒子内に固溶させたものであってもよい。
【0018】
例えば、無機粉体が二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウムなどの場合、その粒子表面を、ケイ素、ジルコニウム、アルミニウムなどの異種金属の酸化物や水酸化物で被覆したり、粒子中にアンチモンやスズなどの異種金属を部分的に固溶させたものを用いてもよい。
【0019】
本発明においては、上記無機粉体の粒子表面を表面処理するシランカップリング剤として、分子中にフッ素原子を有するシランカップリング剤と分子中にケイ素−窒素結合を有するシランカップリング剤との2種類のシランカップリング剤を用いる。
【0020】
上記分子中にフッ素原子を有するシランカップリング剤としては、例えば、パーフルオロオクチルエチルトリエトキシシラン〔示性式:n−C17(CHSi(OC〕、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン〔示性式:CF(CHSi(OCH〕、トリフルオロプロピルトリクロルシラン〔示性式:CFSiCl〕、パーフルオロオクチルメチルノナエトキシシラン〔示性式:n−C17(CH)Si(OC〕、パーフルオロヘキシルエチルトリクロルシラン〔示性式:CF(CF(CHSiCl〕、パーフルオロオクチルメチルトリクロルシラン〔示性式:CF(CF(CH)SiCl〕、パーフルオロオクチルエチルトリメトキシシラン〔示性式:CF(CF(CHSi(OCH〕、パーフルオロオクチルエチルメチルジクロルシラン〔示性式:CF(CF(CHSi(CH)Cl〕、トリフルオロエチルトリメトキシシラン〔示性式:CF(CHSi(OCH〕、トリフルオロエチルメチルジメトキシシラン〔示性式:CF(CHSi(CH)(OCH〕などが挙げられ、特にトリフルオロプロピルトリメトキシシランが分散性付与効果が優れていることから好ましい。
【0021】
また、分子中にケイ素−窒素結合を有するカップリング剤としては、ケイ素−窒素結合を2個有するジシラザン系化合物、ケイ素−窒素結合を3個有するトリシラザン系化合物、ケイ素−窒素結合を4個有するテトラシラザン系化合物のいずれも用いることができ、そのような分子中にケイ素−窒素結合を有するシランカップリング剤としては、例えば、ヘキサメチルジシラザン〔示性式:(CHSiNHSi(CH〕、1,1,3,3,5,5−ヘキサメチルシクロトリシラザン〔分子式:Si21〕、1,1,3,3,5,5,7,7−オクタメチルシクロテトラシラザン〔分子式:Si28〕、などが挙げられ、特にヘキサメチルジシラザンが分散性付与効果が優れていることから好ましい。
【0022】
このような2種類のシランカップリング剤による表面処理が、無機粉体の有機溶剤に対する分散性を優れたものにする理由については、現在のところ、必ずしも明確ではないが、分子中にフッ素原子を有するシランカップリング剤中のフッ素原子や、フッ素原子中にケイ素−窒素結合を有するシランカップリング剤中のケイ素−窒素結合による電荷偏在が、分散媒としての有機溶剤中における分散粒子の電荷バランスに何らかの好ましい相乗効果をもたらし、その結果として優れた一次粒子分散性を発現しているものと考えられる。
【0023】
例えば、分子中にフッ素原子を有するシランカップリング剤や、分子中にケイ素−窒素結合を有するシランカップリング剤を、それぞれ単独で用いた場合は、いずれも、充分な分散性の向上が得られず、また、それらのいずれかとビニルシラン系のシランカップリング剤やメタクリロキシシラン系のシランカップリング剤とを併用した場合も充分な分散性の向上が得られない。
【0024】
上記分子中にフッ素原子を有するシランカップリング剤と分子中にケイ素−窒素結合を有するシランカップリング剤との比率としては、質量比で70:30〜30:70が好ましく、60:40〜40:60がより好ましく、55:45〜45:55がさらに好ましく、とりわけ50:50(つまり、1:1)が好ましい。すなわち、分子中にフッ素原子を有するシランカップリング剤が上記比率より少ない場合は、分散性付与効果が低下して、無機粉体が凝集しやすく、得られる固液分散体が層分離を起こしやすくなり、また、分子中にフッ素原子を有するシランカップリング剤が上記比率より多い場合も、得られる固液分散体が層分離を起こしやすくなって、いずれの場合も充分な分散性の向上が得られなくなるおそれがある。
【0025】
無機粉体に対するシランカップリング剤の表面処理量としては、分子中にフッ素原子を有するシランカップリング剤と分子中にケイ素−窒素結合を有するシランカップリング剤とを合わせたシランカップリング剤全体の量として、無機粉体に対して1〜50質量%(つまり、無機粉体100質量部に対してシランカップリング剤が1〜50質量部)が好ましく、5〜40質量%がより好ましく、10〜30質量%がさらに好ましい。なお、無機粉体をシランカップリング剤で表面処理した場合、シランカップリング剤は無機粉体の粒子表面を被覆することになるので、上記無機粉体に対するシランカップリング剤の表面処理量は無機粉体に対するシランカップリング剤の被覆量に相当する。ただし、上記被覆は、必ずしも、無機粉体の粒子表面をシランカップリング剤で完全に覆っていることは要求されず、有機溶剤への分散性が充分に向上していさせすれば、部分的に無機粉体の粒子表面が露出していてもよい。
【0026】
無機粉体に対するシランカップリング剤の表面処理量が、上記より少ない場合は、無機粉体の有機溶剤への分散性を充分に向上させることができず、逆に多すぎる場合は、処理に利用されなかったシランカップリング剤が不純物として無機粉体近傍に残留し、樹脂に配合した後の強度低下や密着性の低下を引き起すなど、分散剤を添加した場合と同様の問題を生じさせる原因になる。
【0027】
上記2種類のシランカップリング剤の無機粉体への処理順序としては、あらかじめシランカップリング剤同士を混合して同時に処理してもよいし、どちらか一方のシランカップリング剤を先に処理した後、他方のシランカップリング剤を後から処理してもよい。このように、分子中にフッ素原子を有するシランカップリング剤と分子中にケイ素−窒素結合を有するシランカップリング剤とを二段階に分けて処理しても、それらの処理量や両者の比率の関係で、二層処理の状態(つまり、先に処理したシランカップリング剤の上に後から処理したシランカップリング剤が被覆するような状態)にはならず、両者が混在した状態で無機粉体の粒子表面を被覆するようになり、分子中にフッ素原子を有するシランカップリング剤と分子中にケイ素−窒素結合を有するシランカップリング剤との併用による相乗効果が奏されるようになる。
【0028】
無機粉体をシランカップリング剤で表面処理する方法としては、大きく分けて乾式法と湿式法とがあるが、本発明ではいずれの方法も採用することができる。
【0029】
乾式法では、例えば、ヘンシェルミキサーなどの高速攪拌機や、あるいは、ジェットミルなどの気流式粉砕機を用い、無機粉体を攪拌、粉砕しながら、シランカップリング剤または事前にシランカップリング剤を有機溶剤と混合して調製しておいた液体を添加していく方法を採用することができる。
【0030】
湿式法では、例えば、あらかじめシランカップリング剤を有機溶剤と混合した液体を調製しておき、また、無機粉体を溶剤と混合したスラリーを別途調製し、それらを攪拌機で充分に混合した後、さらに横型連続式サンドグラインダーミルなどの攪拌、粉砕が可能な装置を用いて処理を行なう方法を採用することができる。
【0031】
上記表面処理終了後のスラリーは、ニーダーに投入して減圧加熱を行なうなど、溶剤成分を除去し、さらに120〜150℃の温度でキュアリングを行うことによって、目的とする表面処理無機粉体を得ることができる。
【0032】
なお、本発明において、無機粉体の表面処理時に用いる溶剤は、上記の通り、有機溶剤であるが、これは、有機溶剤であれば、シランカップリング剤の表面処理反応を大きく阻害するおそれがないからである。このような有機溶剤としては、特に限定されることはないものの、例えば、トルエン、酢酸ブチル、プロピルアルコール、ブチルアルコール、メチルエチルケトン、キシレンなどが好適に用いられる。これらの有機溶剤のうち多くのものは、本発明の固液分散体の調製にあたって分散媒として使用可能であるが、その場合、トルエンは単独での使用は適切でなく、イソプロピルアルコールなどの極性溶媒と混合して用いることが好ましい。
【0033】
本発明の固液分散体は、上記のように特定の2種類のシランカップリング剤で表面処理した無機粉体を有機溶剤中に分散させることによって得られる。
【0034】
この有機溶剤としては、例えば、酢酸ブチル、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、メチルエチルケトン、さらには、トルエンやキシレンなどの無極性溶媒とエチルアルコールやイソプロピルアルコールなどの極性溶媒との混合溶媒などを用いることができ、特にメチルエチルケトン、イソプロピルアルコール、トルエンとイソプロピルアルコールとの混合溶媒などが好ましい。
【0035】
表面処理した無機粉体の有機溶剤への分散にあたっては、あらかじめ上記表面処理した無機粉体と有機溶剤とを予備混合した後、サンドミル、ボールミルなどの湿式粉砕機能を有する混合装置を用いて分散を行うと、無機粉体同士の凝集を避けやすいので好ましい。
【0036】
固液分散体の調製にあたって、表面処理した無機粉体と有機溶剤との配合比率としては、固液分散体中に表面処理した無機粉体、すなわち、固液分散体を蒸発乾固した後の固形分の質量が、10〜70質量%になるようにすることが好ましく、15〜50質量%になるようにすることがより好ましく、20〜40質量%になるようにすることがさらに好ましい。表面処理した無機粉体が、上記より多くなると、固液分散体の分散性が低下し、充分な分散ができなくなるおそれがあり、逆に上記より少なくなってしまうと、無機粉体固有の特性を充分に発揮させることができなくなるおそれがある。
【0037】
このようにして得られた本発明の固液分散体は、表面処理した無機粉体の濃度が0.025質量%になるまで希釈した場合の透明度がヘーズ値(HAZE値)で30%以下という高い透明性を有している。
【0038】
この「ヘーズ値」とは、曇値ともいう曇り程度の指標であり、この値が小さいほど、透明度が高いことを示している。このヘーズ値の測定は、JIS K 7105に記載の方法に基づいて行われる。そして、その測定結果は拡散光透過率(Td)/全光線透過率(Tt)×100で示す100分率で表されることが多く、本発明においても、それを採用し、ヘーズ(%)で表示する。
【0039】
本発明において、無機粉体として平均一次粒子径が5〜200nm程度の微粒子無機粉体を用いると、それらの微粒子無機粉体をシランカップリング剤で表面処理し、固液分散体を調製したときにも、それら微粒子無機粉体の有する紫外線遮蔽能や可視光線部での透明性、高い屈折率を生かすことができる。そして、そのような平均一次粒子径が5〜200nmの微粒子無機粉体としては、微粒子二酸化チタン、微粒子酸化亜鉛などが好ましく、特に微粒子二酸化チタンはそれらの中でも高い紫外線遮蔽能や高い透明性、高い屈折率を有することから好ましい。
【0040】
本発明において、上記微粒子無機粉体に関し、その平均一次粒子径が5〜200nmのものを好ましいとしているのは、平均一次粒子径が5nmより小さいものは、無機粉体粒子の凝集力が強くなって、無機粉体を均一に分散させることができず、平均一次粒子径が200nmより大きくなると、透明性が低下し、また、無機粉体が分散体中で沈降して、分散安定性が低下するおそれがあるという理由によるものであり、特に平均一次粒子径が10〜100nmの微粒子状のものが好ましい。なお、本発明において、上記無機粉体の平均一次粒子径は、無機粉体を透明型電子顕微鏡で撮影し(撮影個数は1,000個以上)、撮影された個々の粒子の定方向径(粒子の面積を2分する水平線の長さ)をプロットし、それらを平均することによって求めたものである。
【0041】
本発明の固液分散体を用いてコーティング液を調製するにあたり、樹脂としては、特に制約されることはないが、例えば、アクリル樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、塩ビ−酢ビ樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリル−スチレン共重合体などを好適に用いることができる。
【0042】
コーティング液の調製にあたって、それらの樹脂成分に対する固液分散体の配合量は、特に制約されることはないものの、固液分散体中の表面処理無機粉体(本発明において、この「表面処理無機粉体」とは、前記の分子中にフッ素原子を有するシランカップリング剤と分子中にケイ素−窒素結合を有するシランカップリング剤との2種類のシランカップリング剤で表面処理した無機粉体をいう)が、樹脂成分100質量部に対して10〜800質量部、特に10〜400質量部になるようにすることが好ましい。
【0043】
なお、上記コーティング液の調製にあたっては、固液分散体と樹脂以外に、必要に応じて、有機溶剤を用いてもよいし、さらに、それら以外に、安定剤、硬化剤、重合開始剤などの添加剤を適宜コーティング液に添加してもよい。
【0044】
コーティング液を調製する方法としては、例えば、固液分散体と樹脂とを直接混合する方法や、樹脂をあらかじめ溶剤に溶解し、得られた樹脂溶液と固液分散体とを混合する方法などが採用することができる。その際の混合装置としては、羽根型攪拌機、ディスパー、ホモミキサー、ディソルバー、インペラーミルなどを用いることができる。
【0045】
上記コーティング液を用いて塗膜を作製するにあたっては、例えば、アクリル板、塩化ビニル樹脂板、フィルム、ガラス板などの基材に対して、上記コーティング液をバーコート、スプレーコートなどの塗装機により塗布したり、スピンコート、ディップコートなどにより塗工する方法などを採用することができ、それによって、紫外線遮蔽能と高い透明性、高屈折率などを併せ持った塗膜を作製することができる。
【実施例】
【0046】
つぎに、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はそれらの実施例に制限されるものではない。なお、以下において、液や分散体の濃度を示す%は、特にその単位を付記しないかぎり、質量%である。
【0047】
実施例1
この実施例1では、無機粉体として平均一次粒子径が15nmの微粒子二酸化チタンを用い、分子中にフッ素原子を有するシランカップリング剤としてトリフルオロプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業社製シランカップリング剤KBM−7103(商品名)〕を用い、分子中にケイ素−窒素結合を有するシランカップリング剤としてヘキサメチルジシラザン〔トーレダウコーニング社製シランカップリング剤Z−6079(商品名)〕を用い、以下に示すように、シランカップリング剤による表面処理および固液分散体の調製を行った。
【0048】
まず、比表面積が80m/gで、平均一次粒子径が15nmの微粒子二酸化チタン粉末(テイカ社製MT−100HD)300gをヘンシェルミキサーに入れ、約100℃で、回転速度1500rpmで攪拌しながら、上記トリフルオロプロピルトリメトキシシランとトルエンとの質量比1:1の混合液45gと、上記ヘキサメチルジシラザンとトルエンとの質量比1:1の混合液45gとを、エアースプレーを用いて霧化しつつ、上記微粒子二酸化チタンに吹き付け、微粒子二酸化チタンのシランカップリング剤による表面処理を行った。さらに、上記処理混合物を回転速度1500rpmで15分間攪拌した後、120℃で3時間乾燥することによって、シランカップリング剤による微粒子二酸化チタンの表面で処理を終了した。上記のシランカップリング剤による表面処理により、微粒子二酸化チタンの粒子表面はシランカップリング剤により被覆されていた。この際のシランカップリング剤の表面処理量(シランカップリング剤の被覆量)は、微粒子二酸化チタンに対し15質量%(つまり、微粒子二酸化チタン100質量部に対してシランカップリング剤の表面処理量は15質量部)であった。
【0049】
このシランカップリング剤の表面処理量は、表面処理後の微粒子二酸化チタンを550℃で3時間熱処理し、その強熱残分を蛍光X線にて定量分析し、Si量から分子量換算で求めたものである。
【0050】
上記シランカップリング剤による表面処理後の微粒子二酸化チタン粉末20g、トルエンとイソプロピルアルコールとの質量比1:1の混合溶剤60gおよび直径0.5mmのジルコンビーズ250gを、200mlのマヨネーズ瓶に仕込み、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製#5110型)にて240分間分散処理を行った後、ジルコンビーズを取り除いて固液分散体を得た。この固液分散体の固形分濃度は25質量%であった。この固液分散体の固形分濃度は、固液分散体を550℃で3時間加熱し、その強熱残存物から求めたものである。
【0051】
実施例2
この実施例2では、無機粉体として平均一次粒子径が15nmの微粒子酸化亜鉛を用い、シランカップリング剤は実施例1と同様のものを用い、以下に示すように、微粒子酸化亜鉛へのシランカップリング剤による表面処理および固液分散体の調製を行った。
【0052】
比表面積が50m/gで、平均一次粒子径が15nmの微粒子酸化亜鉛(テイカ社製MZ−500)300gをヘンシェルミキサーに入れ、約100℃で、回転速度1500rpmで攪拌しながら、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(前記の信越化学工業社製シランカップリング剤KBM−7103で、分子中にフッ素原子を有するシランカップリング剤)とトルエンとの質量比1:1の混合液30gと、ヘキサメチルジシラザン(前記のトーレダウコーニング社製シランカップリング剤Z−6079で、分子中にケイ素−窒素結合を有するシランカップリング剤)とトルエンとの質量比1:1の混合液30gとをエアースプレーを用いて霧化しつつ、微粒子酸化亜鉛に吹き付けて、微粒子酸化亜鉛の表面処理を行った。さらに、処理混合物を回転速度1500rpmで15分間攪拌した後、120℃で3時間乾燥することによって、シランカップリング剤による微粒子酸化亜鉛の表面処理を終了した。このシランカップリング剤の表面処理量を実施例1と同様に求めたところ、シランカップリング剤の表面処理量は微粒子酸化亜鉛に対して10質量%であった。
【0053】
上記シランカップリング剤による表面処理後の微粒子酸化亜鉛粉末20g、トルエンとイソプロピルアルコールとの質量比1:1の混合溶剤60gおよび直径0.5mmのジルコンビーズ250gを、80mlのマヨネーズ瓶に仕込み、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製#5110型)にて240分間分散処理を行った後、ジルコンビーズを取り除いて固液分散体を得た。この固液分散体の固形分濃度は25質量%であった。この固液分散体の固形分濃度は、固液分散体を550℃で3時間加熱し、その強熱残存物から求めたものである。
【0054】
実施例3
この実施例3では、無機粉体として平均一次粒子径が7nmの微粒子酸化スズを用い、シランカップリング剤は実施例1と同様のものを用い、以下に示すように、微粒子酸化スズへのシランカップリング剤による表面処理および固液分散体の調製を行なった。
【0055】
比表面積が50m/gで平均一次粒子径が7nmの微粒子酸化スズ300gをヘンシェルミキサーに入れ、約100℃で回転速度1500rpmで攪拌しながら、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(前記の信越化学工業社製シランカップリング剤KBM−7103で、分子中にフッ素原子を有するシランカップリング剤)とトルエンとの質量比1:1の混合液30gと、ヘキサメチルジシラザン(前記のトーレダウコーニング社製シランカップリング剤Z−6079で、分子中にケイ素−窒素結合を有するシランカップリング剤)とトルエンとの質量比1:1の混合液30gとをエアースプレーを用いて霧化しつつ、微粒子酸化スズの表面処理を行った。さらに、処理混合物を回転速度1500rpmで15分間攪拌した後、120℃で3時間乾燥処理することによって、シランカップリング剤による微粒子酸化スズの表面処理を終了した。このシランカップリング剤の表面処理量を実施例1と同様に求めたところ、シランカップリング剤の表面処理量は微粒子酸化スズに対して15質量%であった。
【0056】
上記シランカップリング剤による表面処理後の微粒子酸化スズ粉末20g、トルエンとイソプロピルアルコールとの質量比1:1の混合溶剤60gおよび直径0.5mmのジルコンビーズ250gを、200mlのマヨネーズ瓶に仕込み、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製#5110型)にて240分間分散処理を行なった後、ジルコンビーズを取り除いて固液分散体を得た。この固液分散体の固形分濃度は25質量%であった。この固液分散体の固形分濃度は、固液分散体を550℃で3時間加熱し、その強熱残存物から求めたものである。
【0057】
実施例4
この実施例4では、無機粉体として平均一次粒子径が20nmのアンチモンドープ酸化スズを用い、シランカップリング剤は実施例1と同様のものを用い、以下に示すように、微粒子アンチモンドープ酸化スズへのシランカップリング剤による表面処理および固液分散体の調製を行なった。
【0058】
比表面積が77m/gで平均一次粒子径が20nmのアンチモンドープ酸化スズ〔三菱マテリアル社製T−1(商品名)〕300gをヘンシェルミキサーに入れ、約100℃で、回転速度1500rpmで攪拌しながら、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(前記の信越化学工業社製シランカップリング剤KBM−7103で、分子中にフッ素原子を有するシランカップリング剤)とトルエンとの質量比1:1の混合液30gと、ヘキサメチルジシラザン(前記のトーレダウコーニング社製シランカップリング剤Z−6079で、分子中にケイ素−窒素結合を有するシランカップリング剤)とトルエンとの質量比1:1の混合液30gとを、エアースプレーを用いて霧化しつつ、アンチモンドープ酸化スズの表面処理を行なった。さらに、処理混合物を回転速度1500rpmで15分間攪拌した後、120℃で3時間乾燥処理することによって、シランカップリング剤によるアンチモンドープ酸化スズの表面処理を終了した。このシランカップリング剤の表面処理量を実施例1と同様に求めたところ、シランカップリング剤の表面処理量はアンチモンドープ酸化スズに対して15質量%であった。
【0059】
上記シランカップリング剤による表面処理後のアンチモンドープ酸化スズ粉末20g、トルエンとイソプロピルアルコールとの質量比1:1の混合溶剤60gおよび直径0.5mmのジルコンビーズ250gを、200mlのマヨネーズ瓶に仕込み、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製#5110型)にて240分間分散処理を行なった後、ジルコンビーズを取り除いて固液分散体を得た。この固液分散体の固形分濃度は25質量%であった。この固液分散体の固形分濃度は、固液分散体を550℃で3時間加熱し、その強熱残存物から求めたものである。
【0060】
実施例5
この実施例5では、無機粉体として平均一次粒子径が15nmの酸化ジルコニウムを用い、シランカップリング剤は実施例1と同様のものを用い、以下に示すように、酸化ジルコニウムへのシランカップリング剤による表面処理および固液分散体の調製を行なった。
【0061】
比表面積が80m/gで平均一次粒子径が15nmの酸化ジルコニウム300gをヘンシェルミキサーに入れ、約100℃で、回転速度1500rpmで攪拌しながら、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(前記の信越化学工業社製シランカップリング剤KBM−7103で、分子中にフッ素原子を有するシランカップリング剤)とトルエンとの質量比1:1の混合液45gと、ヘキサメチルジシラザン(前記のトーレダウコーニング社製シランカップリング剤Z−6079で、分子中ケイ素−窒素結合を有するシランカップリング剤)とトルエンとの重量比1:1の混合液45gとを、エアースプレーを用いて霧化しつつ、上記酸化ジルコニウムに吹き付け、酸化ジルコニウムのシランカップリング剤による表面処理を行なった。さらに、上記処理混合物を回転速度1500rpmで15分間攪拌した後、120℃で3時間乾燥することによって、シランカップリング剤による酸化ジルコニウムの表面処理を終了した。このシランカップリング剤の表面処理量を実施例1と同様に求めたところ、シランカップリング剤の表面処理量は酸化ジルコニウムに対して15質量%であった。
【0062】
上記シランカップリング剤による表面処理後の酸化ジルコニウム20g、トルエンとイソプロピルアルコールとの質量比1:1の混合溶剤60gおよび直径0.5mmのジルコンビーズ250gを、200mlのマヨネーズ瓶に仕込み、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製#5110型)にて240分間分散処理を行なった後、ジルコンビーズを取り除いて固液分散体を得た。この固液分散体の固形分濃度は25質量%であった。この固液分散体の固形分濃度は、固液分散体を550℃で3時間加熱し、その強熱残存物から求めたものである。
【0063】
実施例6
この実施例6では、無機粉体として平均一次粒子径が25nmの酸化ケイ素を用い、シランカップリング剤は実施例1と同様のものを用い、以下に示すように、酸化ケイ素へのシランカップリング剤による表面処理および固液分散体の調製を行なった。
【0064】
比表面積が140m/gで平均一次粒子径が25nmの酸化ケイ素300gをヘンシェルミキサーに入れ、約100℃で、回転速度1500rpmで攪拌しながら、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(前記の信越化学工業社製シランカップリング剤KBM−7103で、分子中にフッ素原子を有するシランカップリング剤)とトルエンとの質量比1:1の混合液90gと、ヘキサメチルジシラザン(前記のトーレダウコーニング社製シランカップリング剤Z−6079で、分子中にケイ素−窒素結合を有するシランカップリング剤)とトルエンとの質量比1:1の混合液90gとを、エアースプレーを用いて霧化しつつ、上記酸化ケイ素に吹き付け、酸化ケイ素のシランカップリング剤による表面処理を行なった。さらに、上記処理混合物を回転速度1500rpmで15分間攪拌した後、120℃で3時間乾燥することによって、シランカップリング剤による酸化ケイ素の表面処理を終了した。このシランカップリング剤の表面処理量を実施例1と同様に求めたところ、シランカップリング剤の表面処理量は酸化ケイ素に対して30質量%であった。
【0065】
上記シランカップリング剤による表面処理後の酸化ケイ素10g、トルエンとイソプロピルアルコールとの質量比1:1の混合溶剤70gおよび直径0.5mmのジルコンビーズ250gを、200mlのマヨネーズ瓶に仕込み、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製#5110型)にて240分間分散処理を行なった後、ジルコンビーズを取り除いて固液分散体を得た。この固液分散体の固形分濃度は12.5質量%であった。この固液分散体の固形分濃度は、固液分散体を550℃で3時間加熱し、その強熱残存物から求めたものである。
【0066】
実施例7
この実施例7では、無機粉体として平均一次粒子径が25nmの酸化セリウムを用い、
シランカップリング剤は実施例1と同様のものを用い、以下に示すように、酸化セリウムへのシランカップリング剤による表面処理および固液分散体の調製を行なった。
【0067】
比表面積が171m/gで平均一次粒子径が10nmの酸化セリウム300gをヘンシェルミキサーに入れ、約100℃で、回転速度1500rpmで攪拌しながら、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(前記の信越化学工業社製シランカップリング剤KBM−7103で、分子中にフッ素原子を有するシランカップリング剤)とトルエンとの質量比1:1の混合液90gと、ヘキサメチルジシラザン(前記のトーレダウコーニング社製シランカップリング剤Z−6079で、分子中にケイ素−窒素結合を有するシランカップリング剤)とトルエンとの質量比1:1の混合液90gとを、エアースプレーを用いて霧化しつつ、上記酸化セリウムに吹き付け、酸化セリウムのシランカップリング剤による表面処理を行なった。さらに、上記処理混合物を回転速度1500rpmで15分間攪拌した後、120℃で3時間乾燥することによって、シランカップリング剤による酸化セリウムの表面処理を終了した。このシランカップリング剤の表面処理量を実施例1と同様に求めたところ、シランカップリング剤の表面処理量は酸化セリウムに対して30質量%であった。
【0068】
上記シランカップリング剤による表面処理後の酸化セリウム20g、トルエンとイソプロピルアルコールとの質量比1:1の混合溶剤60gおよび直径0.5mmのジルコンビーズ250gを、200mlのマヨネーズ瓶に仕込み、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製#5110型)にて240分間分散処理を行なった後、ジルコンビーズを取り除いて固液分散体を得た。この固液分散体の固形分濃度は25質量%であった。この固液分散体の固形分濃度は、固液分散体を550℃で3時間加熱し、その強熱残存物から求めたものである。
【0069】
実施例8
この実施例8では、固液分散体の調製にあたって使用する有機溶剤をトルエンとイソプロピルアルコールとの混合溶剤からメチルエチルケトンに変更した以外は、実施例1と同様にシランカップリング剤による表面処理および固液分散体の調製を行った。
【0070】
すなわち、実施例1と同様にシランカップリング剤による表面処理を行った微粒子二酸化チタン粉末20g、メチルエチルケトン60gおよび直径0.5mmのジルコンビーズ250gを、200mlのマヨネーズ瓶に仕込み、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製#5110型)にて240分間分散処理を行なった後、ジルコンビーズを取り除いて固液分散体を得た。この固液分散体の固形分濃度は25質量%であった。この固液分散体の固形分濃度は、固液分散体を550℃で3時間加熱し、その強熱残存物から求めたものである。
【0071】
実施例9
この実施例9では、固液分散体の調製にあたって使用する有機溶剤をトルエンとイソプロピルアルコールとの混合溶剤からイソプロピルアルコールに変更した以外は、実施例1と同様に、シランカップリング剤による表面処理および固液分散体の調製を行った。
【0072】
すなわち、実施例1と同様にシランカップリング剤による表面処理を行った微粒子二酸化チタン粉末20g、イソプロピルアルコール60gおよび直径0.5mmのジルコンビーズ250gを、200mlのマヨネーズ瓶に仕込み、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製#5110型)にて240分間分散処理を行なった後、ジルコンビーズを取り除いて固液分散体を得た。この固液分散体の固形分濃度は25質量%であった。この固液分散体の固形分濃度は、固液分散体を550℃で3時間加熱し、その強熱残存物から求めたものである。
【0073】
比較例1
実施例1と同様の微粒子二酸化チタンをシランカップリング剤による表面処理をすることなくそのまま用い、固液分散体の調製を試みた。しかしながら、ペースト状になり、分散体は得られなかった。従って、以後の評価は行わなかった。
【0074】
比較例2
実施例1と同様の微粒子二酸化チタンを、実施例1と同様の分子中にフッ素原子を有するシランカップリング剤のみで表面処理し、この表面処理微粒子二酸化チタンを用いた以外は、実施例1と同様に固液分散体の調製を行った。しかしながら、この比較例2では、分子中にケイ素−窒素結合を有するシランカップリング剤での表面処理をしていないため、調製されたものは、2層に分離し、安定な固液分散体は得られなかった。
【0075】
比較例3
実施例1と同様の微粒子二酸化チタンを、実施例1と同様の分子中にケイ素−窒素結合を有するシランカップリング剤のみで表面処理し、この表面処理微粒子二酸化チタンを用いた以外は、実施例1と同様に固液分散体の調製を行った。しかしながら、この比較例3では、分子中にフッ素原子を有するシランカップリング剤での表面処理をしていないため、調製されたものは、2層に分離し、安定な固液分散体は得られなかった。
【0076】
比較例4
分子中にフッ素原子を有するシランカップリング剤に代えてビニルシラン系シランカップリング剤であるビニルトリメトキシシラン〔示性式:(CO)SiCH=CH〕を用いた以外は、実施例1と同様に微粒子二酸化チタンの表面処理を行い、得られた表面処理微粒子二酸化チタンを用いた以外は、実施例1と同様に固液分散体の調製を行った。しかしながら、上記表面処理後の微粒子二酸化チタンが溶剤中で激しく凝集してペースト状になり、安定した固液分散体は得られなかった。
【0077】
つまり、この比較例4では、実施例1と同様の微粒子二酸化チタンを用い、分子中にフッ素原子を有するシランカップリング剤に代えてビニルシラン系シランカップリング剤を用いた以外、実施例1と同様に表面処理および固液分散体の調製をしているが、上記のように、表面処理後の微粒子二酸化チタンの激しい凝集が生じて、高分散の固液分散体は得られなかった。
【0078】
比較例5
分子中にフッ素原子を有するシランカップリング剤に代えてメタクリロキシシラン系シランカップリング剤であるγーメタクリロキシプロピルトリメトキシシラン〔示性式:(CHO)SiCOC(O)C(CH)=CH〕を用いた以外は、実施例1と同様に微粒子二酸化チタンの表面処理を行い、得られた表面処理微粒子二酸化チタンを用いた以外は、実施例1と同様に固液分散体の調製を試みた。しかしながら、上記表面処理後の微粒子二酸化チタンが激しく凝集してペースト状になり、安定した固液分散体は得られなかった。
【0079】
つまり、この比較例5では、実施例1と同様の微粒子二酸化チタンを用い、分子中にフッ素原子を有するシランカップリング剤に代えてメタクリロキシシラン系シランカップリング剤を用いた以外は、実施例1と同様に表面処理および固液分散体の調製をしているが、上記のように、表面処理後の微粒子二酸化チタンの激しい凝集が生じて、高分散の固液分散体は得られなかった。
【0080】
固液分散体の透明度の測定:
実施例1〜9および比較例2〜5で調製した固液分散体をトルエンとイソプロピルアルコールとの質量比1:1の混合溶剤で希釈して固液分散体中の表面処理無機粉体の濃度を0.025%にした。
【0081】
得られた固液分散体の透明度を直読ヘーズコンピューター(スガ試験機社製HDM−2DP型)を用いて測定した。その結果を表1に示す。上記固液分散体の透明度はヘーズ(%)で表され、このヘーズ(%)値が小さいほど透明性が高いことを示している。そして、この透明性でもって、分散性を評価し、透明性が高いものほど分散性が高いと評価する。
【0082】
【表1】

【0083】
表1に示すように、実施例1〜9は、比較例2〜5に比べて、透明度を示すヘーズ(%)値が小さかった。この結果から、実施例1〜9の固液分散体は、比較例2〜5の固液分散体に比べて、分散度が高いことがわかる。
【0084】
コーティング液の調製とその評価:
実施例1の固液分散体と、紫外線硬化型ウレタンアクリレート樹脂〔荒川化学社製ビームセット577(商品名)〕と、重合開始剤〔チバガイギー社製イルガキュア(IRGACURE:登録商標)184/819=1/1(質量比)〕とを混合、攪拌してコーティング液を調製した。
【0085】
重合開始剤の配合量は、紫外線硬化型ウレタンアクリレート樹脂に対して3%(紫外線硬化型ウレタンアクリレート樹脂100質量部に対して重合開始剤3質量部)であり、紫外線硬化型ウレタンアクリレート樹脂と固液分散体の配合割合は表2に記載のように変動させた。ただし、固液分散体の量は表面処理した微粒子二酸化チタンに換算した量で示しており、表2では、これを「固液分散体中の顔料分」として表示する。
【0086】
得られたコーティング液をそれぞれ別々にPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムに平均乾燥膜厚が3μmになるようにバーコーターNo.6で塗布し、自然乾燥後、紫外線源としての高圧水銀ランプ(300mJ/cm)を用いて紫外線を照射することにより塗膜を作製した。
【0087】
得られた各塗膜のヘーズ値を上記の直読ヘーズコンピューターを用いて測定し、さらに鉛筆硬度をJIS K 5400に従って評価した。その結果を表2に樹脂に対する顔料分の比率(すなわち、紫外線硬化型ウレタンアクリレート樹脂100質量部に対する表面処理した微粒子二酸化チタンの質量部)と共に示す。
【0088】
【表2】

【0089】
表2に示すように、実施例1の固液分散体を用いた場合、ブランク(すなわち、実施例1の固液分散体を用いずに、紫外線硬化型ウレタンアクリレート樹脂のみの場合)に比べて、ヘーズ(%)値の増加はそれほど大きくなく、また、鉛筆硬度の低下もそれほど大きくなく、充分な実用性を有していた。
【0090】
以上説明したように、本発明の固液分散体は、それ自身の分散度が高く、つまり、上記特定2種類のシランカップリング剤で表面処理した無機粉体の有機溶剤への分散度が高く、また、有機溶剤系の樹脂や樹脂溶液と容易に混合でき、紫外線遮蔽能、透明性、屈折率が高く、かつ適度な硬度を有する塗膜を作製することができる。その結果、本発明の固液分散体は、コスト的に有利に、FPD(フラットパネルディスプレー)のAR(反射防止:Anti Reflection)層の高屈折率層、HC(ハードコート)層の屈折率調整剤およびその他、光学部材の屈折率調整材料として提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子中にフッ素原子を有するシランカップリング剤と分子中にケイ素−窒素結合を有するシランカップリング剤との2種類のシランカップリング剤で表面処理した無機粉体と、有機溶剤とで構成したことを特徴とする高分散の固液分散体。
【請求項2】
分子中にフッ素原子を有するシランカップリング剤と分子中にケイ素−窒素結合を有するシランカップリング剤との比率が、質量比で70:30〜30:70である請求項1記載の固液分散体。
【請求項3】
シランカップリング剤で表面処理した無機粉体の濃度が0.025質量%になるように固液分散体をトルエンとイソプロピルアルコールとの質量比1:1の混合溶剤で希釈した固液分散体希釈液の透明度が、JIS K 7105に記載の方法で測定したヘーズ値で30%以下である請求項1または2記載の固液分散体。
【請求項4】
シランカップリング剤で表面処理した無機粉体を10〜50質量%含有する請求項1〜3のいずれかに記載の固液分散体。
【請求項5】
無機粉体に対するシランカップリング剤の表面処理量が、無機粉体に対して1〜50質量%である請求項1〜4のいずれかに記載の固液分散体。
【請求項6】
無機粉体の平均一次粒子径が、5〜200nmである請求項1〜5のいずれかに記載の固液分散体。
【請求項7】
無機粉体が、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化セリウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウムおよびアンチモンドープ酸化スズよりなる群から選択される少なくとも1種の無機酸化物である請求項1〜6のいずれかに記載の固液分散体。
【請求項8】
有機溶剤が、メチルエチルケトン、イソプロピルアルコールまたはトルエンとイソプロピルアルコールとの混合溶剤である請求項1〜7のいずれかに記載の固液分散体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の固液分散体を、コーティング液の樹脂成分100質量部に対して、表面処理した無機粉体換算で10〜800質量部配合したことを特徴とするコーティング液。

【公開番号】特開2008−37995(P2008−37995A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−213120(P2006−213120)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(000215800)テイカ株式会社 (108)
【Fターム(参考)】