説明

高分散性セルロース組成物

【課題】 水道水や食品原料と共に混合するようなイオンの存在下でも、たやすく粒子が崩壊・分散し、充分な増粘性および安定性(耐熱性、懸濁性、等)を付与することのできる食品用の素材として、セルロースを主体とした新規なゲルを提供すること。
【解決手段】 植物細胞壁を原料とする、結晶性で、かつ、微細な繊維状のセルロース57〜78質量%と、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム5〜20質量%と、親水性物質12〜28質量%からなる乾燥組成物であり、水中で安定に懸濁する成分を30質量%以上含有し、0.5質量%水分散液とした時の損失正接が1未満であり、かつ、0.01%塩化カルシウム水溶液中で容易に分散することを特徴とする高分散性セルロース組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塩類の存在下においても、容易に粒子が崩壊し、微細な繊維状のセルロースが水中に分散する高分散性のセルロース組成物、およびそれを含む食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
食品に使用されるセルロース系の素材としては、セルロース粉末、結晶セルロース、微小繊維状セルロース(ミクロフィブリル化セルロース、MFC)、微生物セルロース(バクテリアセルロース、網状セルロース)等が知られている。
セルロース粉末は、粒子が大きいので特に飲料などの固形分濃度の低い食品や柔らかい食感の食品に配合されると、食したときにざらつきが感じられる場合が多い。そのため、シュレデッドチーズ(固結防止)や、クッキー(焼成時の保形性向上)など、用途は限られる。
結晶セルロースは、水中で微小な粒子に崩壊するグレードが開発され、ざらつき感は極めて少なく、特に液状食品の懸濁安定性などに機能を発揮する。一方、比較的低粘度であるという特徴を有し、そのため増粘剤として用いるには配合量を多くする必要があった。
【0003】
微小繊維状セルロースとしては特許文献1〜4などが知られている。これらは基本的に、セルロース物質の懸濁液を小径オリフィスに複数回通過させ、そのとき3000〜8000psi(約21〜約56MPa)あるいは100kg/cm(約10MPa)以上の圧力差を与えることによって製造されている。しかしながらこのような圧力差では処理回数を重ねても、微小繊維化が充分に進行せず、粗大な繊維状物質が多量に残っていた。そのためザラツキ感やきしみ感などの不良な食感を与え、また、微小繊維状成分の絶対量が少ないことから、食品に充分な粘度および安定性を付与するに至らない場合が多かった。
【0004】
上記技術をさらに発展させたものとして超微細フィブリル化セルロース(特許文献5)がある。まず、この技術では、原料としてパルプを使用する。但し、その起源の樹種やパルプ化方法を問わない。これを叩解機(ビーター、ジョルダン、コニカルリファイナー、シングルディスクリファイナー、ダブルディスクリファイナー、等)で予備叩解する。予備叩解は、KAJAANI社製の繊維長分布測定装置(FS−200)で測定される数平均繊維長が0.8mm以上の場合、フリーネスを400mlCSF以下になるまで、また、0.8mm未満の場合は600mlCFS以下になるまで行う。次いで粒度が16〜120番の砥粒からなる砥粒板を装着した砥粒板擦り合せ装置(増幸産業株式会社製「スーパーグラインデル」)を用いて、フリーネスを300mlCSF以下にする。さらに高圧ホモジナイザー(ナノマイザー株式会社製「ナノマイザー」、マイクロフルイディックス社製「マイクロフルイダイザー」、等)を用いて、500〜2000kg/cm(約49〜196MPa)の圧力で処理することにより、保水度(JAPAN TAPPI No.26に指示されている方法)が350%以上、数平均繊維長が0.05〜0.1mm、繊維の全本数に対する積算本数の95%以上が0.25mm以下であり、繊維の軸比が50以上であるという「超微細フィブリル化セルロース」が調製される。なお、特許文献5によると、粒子の形状は光学顕微鏡と電子顕微鏡による直接観察の結果「繊維幅は1μm以下であり、一番短い繊維で50μm程度」であり、よって「軸比は50以上」である。
【0005】
この超微細フィブリル化セルロースは、塗工紙製造用の塗料や染色紙製造用の染顔料キャリヤーに配合する添加剤として適性があるのだが、食品用素材として使用するには太く、長い成分が多すぎる。その一方、細くて水に懸濁安定な成分が少ないため、食品の安定化効果が不充分であり、しかもザラツキなどの不良な食感がもたらされてしまう。細さ、そしてそれによってもたらされる水懸濁性は、例えばJAPAN TAPPI No.26に示されている保水度を測定する場合の濾過操作において、篩目に目詰まりして操作できないか、あるいは全ての成分が篩を通過してしまい、値を得ることが出来ないくらいにならないと、食品用素材としては使用が限られてしまう。
【0006】
ビートパルプを原料としたミクロフィブリル化セルロース(特許文献6)の開示もある。これは「セルロース」と称しているが、実際はビートパルプに含まれるペクチンやヘミセルロースとセルロースが会合した物質であり、それが高粘度であるなどの特徴を発揮する大きな要因となっている。そのペクチンおよびヘミセルロースは「カルボン酸による帯電」という形で定義されているのだが、化学的組成の実態は不明である。
また特許文献7には、約80%以上の一次壁からなる細胞から得られたセルロースナノフィブリルとその他の添加剤(30質量%以下)を配合した組成物に関する開示がある。この「セルロースナノフィブリル」は実質的に特許文献6の技術とほぼ同じと思われるが、異なる点は純粋なセルロース使用の開示がある点である。該発明において「一次壁からなる細胞」を原料とする意義は、結晶化度の高低にあると思われる。すなわち、二次壁(例えば木材)から誘導されるセルロースミクロフィブリルは結晶化度が高く(70%より高い)ので、数十nm〜数μmよりも細くできないとのことであり、一方、該発明の主題は「本質的に非晶質(結晶化度50%以下)のセルロースナノフィブリルの補充(=何らかの機能を付与するために食品等に添加するということ)」である。よって、実質的に「約80%以上の一次壁からなる細胞から得られたセルロースナノフィブリル」とは結晶化度が50%以下であると解釈される。
【0007】
微生物セルロースはバクテリアセルロース、細菌網状セルロース、発酵セルロースなどとも呼ばれるものであり、アセトバクター属、グルコノバクター属、シュードモナス属、アグロバクテリウム属などに属する微生物が産出するセルロースのことである。このセルロースはきわめて純粋で、かつ、ミクロフィブリルが発達した状態で微生物の細胞外に放出される。そのため精製が容易であり、その結果として得られるものは結晶化度が高く、セルロースの結晶構造解析用の材料として有用であった。このセルロースは、他の植物細胞壁由来のセルロースとは異なるユニークなミクロフィブリル構造を持つことから、音響用材料、製紙用添加剤、食品添加剤としての応用が検討されてきた。食品用においては、増粘、あるいは懸濁安定機能が認められ、微生物を培養する培地に特定の高分子物質を添加したり、攪拌しながら培養したり、そのようにして得られたものを離解したり、さらには、再分散性の乾燥粉末として使用する試みがあった(特許文献8〜10)。しかしながら、微生物の培養によるセルロースの生産は、培地のコストが高いこと、セルロースの生産速度が低いことなどの課題を解決するに至らず、現状では、経済的な生産技術が確立されていない。
【0008】
上記技術の課題を解決する試みとして特許文献11の技術が存在する。確かに実施例に開示されている物質は、イオン交換水中で、エースホモジナイザー(日本精機株式会社製、AM−T型)で、15000rpmで15分間撹拌するような強い条件では、粒子が崩壊して、微細な繊維状のセルロースが水中に分散した。しかしながら、多くの食品工業で使用されている塩類等(カルシウムイオン、食品成分)を含む水中で、回転型のホモジナイザー(例えば、特殊機化工業株式会社製TKホモミクサー)による撹拌では粒子が充分に崩壊せず、粘度が発現しなかった。
【0009】
【特許文献1】特開昭56−100801号公報
【特許文献2】特開昭61−215601号公報
【特許文献3】特開昭60−186548号公報
【特許文献4】特開平9−59302号公報
【特許文献5】特開平8−284090号公報
【特許文献6】特表平11−501684号公報
【特許文献7】特表2000−503704号公報
【特許文献8】特開平3−157402号公報
【特許文献9】特開平8−291201号公報
【特許文献10】特表2000−512850号公報
【特許文献11】特開2004−41119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、特開2004−41119号公報に開示のセルロース系素材の、水分散性を改善し、食品業界、ひいては各産業分野において広く使用できるものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、微細な繊維状のセルロースに対して、特定の成分を、特定の比率で配合することにより、塩類の存在下でも容易に分散する乾燥組成物を調製できることを発見し、本発明をなすに至った。すなわち本発明は下記の通りである。
(i) 植物細胞壁を原料とする、結晶性で、かつ、微細な繊維状のセルロース57〜78質量%と、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム5〜20質量%と、親水性物質12〜28質量%からなる乾燥組成物であり、水中で安定に懸濁する成分を30質量%以上含有し、0.5質量%水分散液とした時の損失正接が1未満であり、かつ、0.01%塩化カルシウム水溶液中で容易に分散することを特徴とする高分散性セルロース組成物。
(ii) 水中で安定に懸濁する成分を50質量%以上含有し、かつ、0.5質量%水分散液とした時の損失正接が0.6未満であることを特徴とする(i)記載の高分散性セルロース組成物。
(iii) (i)または(ii)記載の高分散性セルロース組成物を含むことを特徴とする食品組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の高分散性セルロース組成物は、従来技術に比べて著しく水中での崩壊・分散性に優れる。そのため、水道水や食品原料と共に混合してもよく粒子が崩壊・分散するので、食品製造における実用性が高い。食品に配合されると食感に悪影響を及ぼすことなく、ボディや安定性(耐熱性、懸濁性、等)を付与することができる。また、特定の多糖類との組み合わせにより、耐熱性に優れるゲルおよび新規な食感を有するゲルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本願発明について、特にその好ましい形態を中心に、具体的に説明する。
本発明の微細な繊維状のセルロースは植物細胞壁を起源としたセルロース性物質を原料とする。具体的には、工業的に使用が可能なセルロース性物質、例えば木材(針葉樹、広葉樹)、コットンリンター、ケナフ、マニラ麻(アバカ)、サイザル麻、ジュート、サバイグラス、エスパルト草、バガス、稲わら、麦わら、葦、竹などの天然セルロースを主成分とするパルプが使用される。これら天然セルロースを主成分とするパルプは、コストが低く、安定的に入手することができるので、これを原料として、経済的に製品を市場に供給することができる。原料確保およびコストの問題があるので、植物細胞壁を起源としないセルロース性物質である微生物セルロースは本発明の原料には含まれない。
【0014】
綿花、パピルス草、こうぞ、みつまた、ガンピなども使用が可能だが、原料の安定的な確保が困難であること、セルロース以外の成分の含有量が多いこと、ハンドリングが難しいことなどの理由で好ましくない場合がある。ビートパルプや果実繊維パルプなどの柔細胞由来の原料もまた同様である。再生セルロースを原料とした場合、充分な性能が発揮されないので、再生セルロースもまた本発明の原料としては含まれない。
特に好ましいのはイネ科植物の細胞壁を起源としたセルロース性物質であり、具体的にはバガスパルプ、稲わらパルプ、麦わらパルプ、竹パルプである。これらのパルプは木材パルプや麻パルプと異なり、極めて容易に微細化されるので、効率よく高性能の製品を作り得ることができる。
【0015】
本発明で使用されるセルロースは「微細な繊維状」である。本明細書中で「微細な繊維状」とは、光学顕微鏡および電子顕微鏡にて観察および測定されるところの、長さ(長径)が0.5μm〜1mm、幅(短径)が2nm〜60μm、長さと幅の比(長径/短径)が5〜400であることを意味する。
本発明で使用される微細な繊維状のセルロースは結晶性を有する。具体的には、X線回折法(シーゲル法)で測定されるところの結晶化度が50%を越える。好ましくは55%以上である。本発明物質はセルロース以外の成分を含有するが、それらの成分は非晶性であり、非晶性としてカウントされる。よって測定の結果、結晶化度が50%であれば、セルロースの結晶化度としては50%以上であるといえる。例えば49%などの場合は、微細な繊維状のセルロースを他の成分から分離し、測定しなければならない。
【0016】
本発明で使用されるカルボキシメチルセルロース・ナトリウムは、1質量%水溶液の粘度が2000〜6000mPa・sのものが好ましく使用される。2000mPa・s未満だと水分散時の粘度が低下する傾向があり、6000mPa・sを越える場合は、水道水中での粒子の崩壊・分散が不良となる場合がある。カルボキシメチル基の置換度は0.5〜1.5が好ましく、より好ましくは0.6〜0.8である。
【0017】
本発明で使用される親水性物質とは、冷水への溶解性が高く、粘性を殆どもたらさず、常温で固体の物質であり、デキストリン類、水溶性糖類(ブドウ糖、果糖、庶糖、乳糖、異性化糖、キシロース、トレハロース、カップリングシュガー、パラチノース、ソルボース、還元澱粉糖化飴、マルトース、ラクツロース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖等)、糖アルコール類(キシリトール、マルチトール、マンニトール、ソルビトール等)、より選ばれる1種または2種以上の物質をいう。低分子量物質の方が水道水中での粒子の崩壊・分散性が良くなる傾向にあり、ブドウ糖、蔗糖、トレハロースなどは良好な性質を示すが、製造時の乾燥性や、製品の吸湿性、経時安定性に劣る傾向がある。バランスが最も良い物質は、DE(dextrose equivalent)が20以上のデキストリンであり、前述の課題を全てクリアできる。
【0018】
本発明の高分散性セルロース組成物は、微細な繊維状セルロース:カルボキシメチルセルロース・ナトリウム:親水性物質=57〜78:5〜20:12〜28質量%という組成からなる乾燥物であり、顆粒状、粒状、粉末状、鱗片状、小片状、またはシート状等を呈する。この組成物は水性媒体中に投入し、機械的な剪断力を与えた時、粒子が崩壊し、微細な繊維状のセルロースの水相への分散を生じることを特徴とする。上記の組成範囲をはずれると、著しく水性媒体中での粒子の崩壊・分散性が低下し、イオン濃度を下げるか、高温で撹拌するか、あるいは、強力に長時間撹拌する等の対処なしには各種産業、特に食品工業においては特定の用途以外には使用に耐えなくなる。好ましくは、微細な繊維状セルロース:カルボキシメチルセルロース・ナトリウム:親水性物質=60〜75:5〜20:15〜25質量%の範囲であり、さらに好ましくは、62〜73:7〜18:17〜23質量%の範囲である。
【0019】
本発明の高分散性セルロース組成物は、0.01%塩化カルシウム水溶液中にて撹拌すると、容易に粒子が崩壊・分散し、高粘度を発現する。その程度(0.01%塩化カルシウム水溶液分散性)は、純水中で強力な条件で撹拌して発揮される粘度に対して、0.01%塩化カルシウム水溶液中に実用的な条件で撹拌した時の粘度が50%以上となるものである。
なお、「純水中で強力な条件で撹拌して発揮される粘度」とは、下記の方法で測定される粘度を意味する。
【0020】
(1)固形分濃度が1質量%の水分散液となるようにサンプルと純水を量り取り、エースホモジナイザー(商標、日本精機株式会社製、AM−T型)で、15000rpmで15分間(25℃)分散する。
(2)25℃の雰囲気中に3時間静置する。
(3)よく撹拌した後、回転粘度計(株式会社トキメック製、B形粘度計)をセットし、撹拌終了30秒後にローターの回転を開始し、それから30秒後の指示値より粘度を算出する。なお、ローター回転数は60rpmとし、ローターは粘度によって適宜変更する。
【0021】
また、「0.01%塩化カルシウム水溶液中に実用的な条件で撹拌した時の粘度」とは、下記の方法で測定される粘度を意味する。
(1)固形分濃度が1質量%の水分散液となるようにサンプルと0.01%塩化カルシウム水溶液を量り取り、T.K.ホモミクサー(商標、特殊機化工業株式会社製 MARK II 2.5型)で8000rpm、10分間(25℃)分散する。
(2)25℃の雰囲気中に3時間静置する。
(3)よく撹拌した後、回転粘度計(株式会社トキメック製、B形粘度計)をセットし、撹拌終了30秒後にローターの回転を開始し、それから30秒後の指示値より粘度を算出する。なお、ローター回転数は60rpmとし、ローターは粘度によって適宜変更する。
【0022】
0.01%塩化カルシウム水溶液は、水道水の「硬度」として表現される数値は「90」であり、日本の水道水の最高レベルのイオン濃度である。このようなイオン存在下においては、カルボキシメチルセルロース・ナトリウムをはじめとした水溶性高分子の膨潤・溶解性に影響を及ぼすことが知られているが、これに起因して粒子の崩壊・分散を促進する性質が著しく低下してしまう。そのため、ドレッシングや乳成分配合の食品など、多くの食品に使用する場合は、純水中で予備分散するか、あるいは高圧ホモジナイザーのような強力な分散機を必要とした。この問題を解決するために本発明者らは鋭意検討し、前述通りの配合組成を見出すに至ったのである。特開2004−41119号公報には、その課題の認識がなく、そのために本発明のごとき特定の物質を配合し、特定の配合比率にした時にはじめて、高硬度の水道水中において容易に粒子が崩壊・分散することについてはなんら開示がなかった。
【0023】
本発明の高分散性セルロース組成物には、微細な繊維状のセルロースと、カルボキシメチルセルロース・ナトリウムと、親水性物質以外に、懸濁安定性や風味、外観等の改善を目的として、デンプン類、油脂類、蛋白質類、食塩、各種リン酸塩等の塩類、乳化剤、酸味料、甘味料、香料、色素等の食品に使用できる成分を適宜配合されていても良い。その他の成分の配合量は、計10質量%以下が好ましく、製造性、機能、価格等を適宜考慮して決定される。
【0024】
本発明の高分散性セルロース組成物は、水中で安定に懸濁する成分を、全セルロース中に30質量%以上含有する。この成分の含有量が30質量%未満であると、前述の増粘性等の機能が十分に発揮されない。含有量は多いほど好ましいが、50質量%以上であればより好ましい。本明細書中で、「水中で安定に懸濁する成分」とは、具体的には、0.1質量%濃度の水分散液として、これを9800m/sで5分間遠心分離した時においても、沈降することなく水中に安定に懸濁しているという性質を有する成分であり、全セルロース量に対する割合で示される。(「水中で安定に懸濁する成分」の測定方法は後述する。)
【0025】
該成分は高分解能走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察および測定される長さ(長径)が0.5〜30μmであり、幅(短径)が2〜600nmであり、長さと幅の比(長径/短径比)が20〜400である繊維状のセルロースからなる。好ましくは、幅が100nm以下であり、より好ましくは50nm以下である。
【0026】
本発明の高分散性セルロース組成物は、0.5質量%濃度の水分散液とした時に、歪み10%、周波数10rad/sの条件で測定される損失正接(tanδ)が1未満であり、好ましくは0.6未満である。損失正接の値は、水分散液の動的粘弾性を示すものであり、値が低いほど水分散液がゲル的な性質をとる。ゲルとは、たとえば高分子水溶液においては、溶質(高分子鎖)が三次元的な網目構造を形成し、溶媒(水)を不動化(固定化)する状態と考えられている。一般論として、ゲル形成性水溶性高分子の場合、低濃度では損失正接が1以上であるが、濃度が上がるに連れて値が下がり、ゲルを形成する濃度では1未満となるといわれている。一方、本発明の高分散性セルロース組成物は、前述の測定条件では損失正接が1未満であるが、流動性があり、真性のゲルではない。すなわち、低周波数あるいは低歪みにおいては分散質(微細な繊維状のセルロース)が三次元網目構造を形成し、分散媒(水)を固定化する性質、すなわちゲル的性質を有する、ということである。損失正接が1以上であると、懸濁安定性や後述する他の多糖類とのゲル形成性が劣る。0.6未満であるとそれらの性能はさらに秀でたものとなる。
【0027】
本発明の高分散性セルロース組成物の製造方法について説明する。
本発明の微細な繊維状のセルロースの原料は前述したように、植物細胞壁を起源としたセルロース性物質を原料とする。ここでは、その一般的な物性について解説する。本発明に使用される微細な繊維状のセルロースは、平均重合度が400以上で、かつ、α−セルロース含有量が60〜100質量%であるセルロース性物質を用いることが好ましい。但し、その範囲内でも平均重合度が1300未満で、かつ、α−セルロース含有量が90質量%を越えるものは含まれない。より好ましくはα−セルロース含有量が85質量%以下、最も好ましくは75質量%以下である。特に好ましい原料は、イネ科植物の細胞壁を起源としたセルロース性物質であり、具体的にはバガスパルプ、稲わらパルプ、麦わらパルプ、竹パルプである。原料の平均重合度が1300未満であり、かつ、α−セルロース含有量が90質量%を越える場合は、0.5質量%の水分散液とした時の損失正接値を1未満とすることがきわめて難しい。(平均重合度およびα−セルロース含量の測定方法は後述する。)
【0028】
本発明で使用される微細な繊維状のセルロースの製造方法のポイントは、簡単に表現すれば、原料中に存在するセルロースミクロフィブリルをできるだけ微細化された状態でかつ、短繊維化させることなく取り出すことにある。ここでいう、「短繊維化」とは、セルロースミクロフィブリルの繊維長を、たとえば、切断等の作用により短くすること、あるいは短くなった状態を意味する。「微細化」とはセルロースミクロフィブリルの繊維径を、たとえば、引き裂く等の作用により細くすること、あるいは細くなった状態を意味する。現在の技術では「微細化」は多少なりとも「短繊維化」を伴い、引き裂き作用のみを与えて「微細化」のみを進行させる装置はない。
【0029】
特に、原料セルロース性物質の平均重合度が低いと「短繊維化」が生じやすく、粗大な繊維がなくなるまで微細化処理をおこなうと、短繊維化も同時に進行し、結果として、得られる微細な繊維状のセルロースの0.5質量%の水分散液の損失正接値は1以上となる。
また、原料セルロース性物質のα−セルロース含有量も、上記損失正接値に影響を及ぼす。すなわち、α−セルロース含有量が高いと、「微細化」と「短繊維化」が同時に進行するために、0.5質量%の水分散液の損失正接値は1以上となりやすく好ましくない。ちなみに、α−セルロースとは17.5質量%NaOH水溶液に溶解しない成分であるから、重合度が比較的大きく、かつ、結晶性も高いと考えられる。原料のセルロース性物質に含まれるα−セルロース以外の成分、すなわち、β−セルロース、γ−セルロース、ヘミセルロースなどの含有量が増えると、「短繊維化」よりも「微細化」が優位に進行する傾向にある。このため、α−セルロース以外の成分の含有量が増えると、水分散液の損失正接値は1未満となりやすくなる。これは、α−セルロース成分は結晶性の高いミクロフィブリル成分を構成し、その他の成分はそれらの周辺に位置するという構造をとっているためであると推定している。
【0030】
本発明においては、「短繊維化」をできるだけ抑えながら、「微細化」を進行させるため、用いる原料セルロース性物質は、より平均重合度が高く、α−セルロース含有量が低いものが好ましい。しかしながら、一般的に、α−セルロース成分は重合度が高いため、α−セルロース含有量が低いと、平均重合度も同時に下がる傾向にある。そのため、両者の最適なバランスについては詳細な検討が必要である。
その結果、原料のセルロース性物質の平均重合度が400以上、1300未満の場合は、α−セルロース含有量が60〜90質量%、平均重合度が1300以上の場合は、同含有量が60〜100質量%のときに、「短繊維化」よりも「微細化」が特に優位に進行することを見出した。なお、α−セルロース含有量が60質量%未満の場合は、相対的に微細な繊維状のセルロースとなり得る成分が減少する傾向がある。
【0031】
本発明に使用される原料は、微細化の促進を目的として、前処理を行ってから使用してもよい。前処理法の例としてはたとえば、希薄なアルカリ水溶液(たとえば、1mol/LのNaOH水溶液)に数時間浸漬したり、希薄な酸水溶液に浸漬したり、酵素処理したり、あるいは爆砕処理することなどがあげられる。
【0032】
次に、本発明の高分散性セルロース組成物の製造方法の例を示す。
(1)セルロール繊維状粒子水分散液の調製
本発明に使用される原料のセルロース性物質は、好ましくは、ろ水度(Freeness(カナダ標準ろ水度):JIS P 8121)が400ml以下となるように微小繊維化される。より好ましくは350ml以下。さらに好ましくは沈降体積が70体積%以上である。
【0033】
カナダ標準ろ水度の場合、黄銅製のふるい板(厚さ0.51mm、直径0.51mmの穴が表面1000mm2当たり969個ある)で濾過するような操作を含む。0.3質量%のセルロース(パルプ)繊維水分散液を通す時、セルロース繊維がふるい板の上に積層することにより、水の落下速度が変わることを利用し、セルロース繊維の叩解の程度を判定するというものである。セルロース繊維の叩解(以下、微小繊維化、という)の程度が進行すると、ろ水度は段々小さくなるが、(製紙用パルプ繊維として)過剰に短く、細くなると、繊維がふるい板を通過するようになり、ろ水度は段々大きくなってゆく。すなわち微小繊維化が進行すると、ろ水度ははじめは減少するが、その後増加する。繊維がふるい板を通過する場合は、底穴から排出される水が極端に白濁するので検知することができる。
【0034】
微小繊維化が進むことは、本発明物質の製造方法において好ましいことであるが、そのような場合は、もはやろ水度で微小繊維化を判定することができない。その場合は、沈降体積で判断する。沈降体積とは、微細な繊維状のセルロース粒子が均一に懸濁するように水に分散して得られる、セルロース分0.5質量%水分散液100mLを注ぎ込んだ内径25mmのガラス管を、数回上下反転して内容物を撹拌した後、室温で4時間静置した時に観察される白濁した懸濁層の体積を意味する。
微小繊維化の程度は、「ろ水度400ml以下」が最も低く、次いで「ろ水度350ml以下」、そして「沈降体積70体積%以上」が最も微小繊維化が進んだ状態である。
【0035】
微小繊維化の方法としては、まず、長さ4mm以下の繊維状粒子に粉砕する。この場合、全個数(本数)の50%以上は約0.5mm以上であることが好ましい。より好ましくは全ての粒子が3mm以下、最も好ましくは2.5mm以下である。方式としては、乾式/湿式いずれの方式でも可能である。乾式ならばシュレッダー、ハンマーミル、ピンミル、ボールミルなどが使用できるし、湿式ならば高速回転型ホモジナイザー、カッターミルなどが使用できる。必要に応じて各装置に投入しやすいサイズに加工した後に処理する。複数回処理を行ってもよい。湿式媒体撹拌型粉砕機のような強力な粉砕機にかけると過剰に短繊維化してしまうので好ましくない。
好ましい機械は、湿式のコミトロール(商標、URSCHEL LABORATORIES, Inc.)である。コミトロールを使用する場合は、例えば原料パルプを5〜15mm角に裁断した後、水分72〜85%程度に含水させ、カッティングヘッドあるいはマイクロカットヘッドを装着した装置に投入して処理すればよい。
【0036】
ついで、得られた繊維状粒子を水に投入し、プロペラ撹拌、回転型ホモジナイザーなどを用いて、繊維状粒子を凝集させることなく分散する。パルプ化の工程等の結果、既に繊維状粒子の長さが短くなっている原料の場合は、上記、ミルによる粉砕を行わずとも、この分散操作のみで長さ4mm以下の繊維状粒子の水分散液とすることができる場合もある。この分散操作における、分散液のセルロース分濃度は0.1〜5質量%が好ましい。この時、繊維状成分の懸濁安定化、凝集防止を目的として、水溶性高分子および/もしくは親水性物質を配合しても良い。カルボキシメチルセルロース・ナトリウムの配合は望ましい実施態様の一つである。
【0037】
このような操作で、ろ水度400ml以下となった場合は、後述する(2)の操作を実施する。もし、ならなかった場合は、さらに高速回転型ホモジナイザー、ピストン型ホモジナイザー、砥石回転型粉砕機などの装置を用いて、前述の水分散液を微小繊維化処理する。好ましい装置は砥石回転型粉砕機である。砥石回転型粉砕機とは、コロイドミルあるいは石臼型粉砕機の一種であり、例えば、粒度が16〜120番の砥粒からなる砥石をすりあわせ、そのすりあわせ部に前述の水分散液を通すことで、粉砕処理される装置のことである。必要に応じて、複数回処理を行ってもよい。砥石を適宜変更するのは好ましい実施態様の一つである。具体的な装置としては、ピュアファインミル(グランダーミル)(商標、株式会社栗田機械製作所)、セレンディピター、スーパーマスコロイダー、スーパーグラインデル(以上、いずれも商標、増幸産業株式会社)などがあげられる。
このような操作を行い、好ましくはろ水度400ml以下、より好ましくはろ水度350ml以下、さらに好ましくは沈降体積70体積%以上となるように微小繊維化する。
【0038】
(2)高圧ホモジナイザー処理
(1)で調製された微小繊維化された繊維状セルロース粒子を含む水分散液を高圧ホモジナイザーにて、60〜414MPaの圧力で処理する。必要に応じて複数回処理を行う。遠心分離等の操作によってより微細な成分を分取してもよい。
繊維状セルロース粒子の平均重合度が2000以上で、かつ、α−セルロース含有量が90質量%を越える場合は10回以上あるいは20回以上、高圧ホモジナイザー処理する必要がある場合があるが、生産効率を考慮すると、原料や、工程(1)における砥石回転型粉砕機の処理条件を適当に選択することにより、6回以下にとどめることが好ましい。
【0039】
一般的に、処理回数を増やすと、粘度は上昇した後、徐々に低下してくる。これは、処理回数が増えるに従い、「微細化」の方が、「短繊維化」よりも早くその限界に到達するため、「微細化」の限界に達するまで系の粘度が上昇したあとは、処理回数の増加に応じて、実質的に「短繊維化」のみが進行し、系の粘度を低下させていると考えられる。
セルロース粒子の濃度は低いほど「微細化」が優勢に進む傾向にあり、結果として見かけ粘度の最高到達値が高くなり、かつ、損失正接が低くなる。処理圧もまた低いほど最高到達粘度が高くなり、損失正接が低くなる傾向があるが、処理回数を増やす必要があり、結果として生産性が低くなる。その場合、α−セルロース含有量が高いと、最高到達粘度に達しにくい。処理圧が高いとより少ない処理回数で最高到達粘度に到達するが、「短繊維化」が進みやすく、絶対値はより低くなる。
【0040】
以上の知見により、本願発明におけるホモジナイザー処理圧は、60MPa以上、414MPa以下が好ましい。60MPa未満だと「微細化」が充分に進まず、414MPaを越える圧力をかけることの出来る装置は、現在では見あたらない。より好ましくは70〜250MPaであり、さらに好ましくは80〜150MPaである。
処理される水分散液のセルロース粒子濃度はおおよそ0.1〜5質量%が好ましい。さらに好ましくは0.3〜3質量%である。
処理温度は5〜95℃程度を適宜選択すればよい。より高温で処理する方が、微細化が進みやすいが、原料によっては著しく短繊維化が進む場合がある。例えば木材パルプの場合は75℃以上では微細化が進み、高粘度化しやすいが、麦わらパルプやバガスパルプの場合は低粘度化する傾向があるので、15〜55℃で処理することが好ましい。
【0041】
具体的な装置としては、バルブ式ホモジナイザー(Invensys APV社、Niro Soavi社、株式会社イズミフードマシナリー、三和機械株式会社)、エマルジフレックス(商標、AVESTIN,Inc.)、アルティマイザーシステム(商標、株式会社スギノマシン)、ナノマイザーシステム(ナノマイザー株式会社)、マイクロフルイダイザー(商標、MFIC Corp.)などがある。バルブ式ホモジナイザーの使用は、比較的微小繊維化の程度の低いものを処理することができるので、生産性が向上するので好ましい。特に均質バルブの、バルブとバルブシートの接触面の幅(半径方向)が0.7mm以下であると、微細化が効率よく進み、かつ、処理初期の長繊維セルロースの閉塞が減少するので好ましい。
【0042】
(3)カルボキシメチルセルロース・ナトリウムと親水性物質の配合
(2)で処理された水分散液に、所定量のカルボキシメチルセルロース・ナトリウムと親水性物質を配合する。それらの投入は、水溶液としてから投入してもよいし、また、粉体のまま投入してもよい。粉体を投入する場合は、混合スラリーの固形分濃度を高くすることが出来るので生産性の観点からは好ましいが、ままこになりやすいので、適当な撹拌・混合機を選択して混合する必要がある。特に混合の程度は0.01%塩化カルシウム水溶液中での分散性に大きく影響し、充分に混合する必要がある。適当な装置の例としては、ローター/ステーター型の攪拌型ホモジナイザーや高圧ホモジナイザー(5〜20MPa)などが上げられる。具体的な混合の例としては、T.K.ホモミクサーMARK II f型(商標、特殊機化工業(株)製)を用いて、600mlを10000rpmで30分以上撹拌する場合、T.K.オートホモミクサーM2−40型(商標、特殊機化工業(株)製)を用いて、30Lを8000rpmで30分以上撹拌する場合、T.K.ホモミックスラインミルLM−S型(商標、特殊機化工業(株)製)を用いて、3600rpm、10L/minの処理速度で1パス以上処理する場合、バルブ式ホモジナイザー(Invensys APV社製10.58型)を用いて、10MPaの圧力で1パス以上処理する場合などが挙げられる。
【0043】
また、必要に応じてこの工程で、懸濁安定性や風味、外観等の改善を目的として、デンプン類、油脂類、蛋白質類、水溶性高分子、食塩、各種リン酸塩等の塩類、乳化剤、酸味料、甘味料、香料、色素等の食品に使用できる成分を配合することができる。
水溶性高分子の具体的な例はアラビアガム、アラビノガラクタン、アルギン酸およびその塩、カードラン、ガッティーガム、カラギーナン、カラヤガム、寒天、キサンタンガム、グアーガム、酵素分解グアーガム、クインスシードガム、ジェランガム、ゼラチン、タマリンド種子ガム、難消化性デキストリン、トラガントガム、ファーセルラン、プルラン、ペクチン、ローカントビーンガム、水溶性大豆多糖類、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム、メチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウムなどから選ばれた1種または2種以上の物質である。
【0044】
0.01%塩化カルシウム水溶液中での分散性を向上させる効果があるので、油脂類の配合は好ましい態様の一つである。油脂類は、大豆油、ヤシ油、とうもろこし油、つばき油、パーム油、パーム核油、アマニ油、サラダ油、ゴマ油、綿実油、菜種油、オリーブ油、ひまわり油、ババスウ油、カカオ脂、コメ油、サフラワー油、からし油、ジンジャー油、落花生油、キリ油、ヒマシ油、鯨油、牛脂、ラード、硬化油、乳脂肪、バター、等の動植物油類、グリセリン脂肪酸エステル及びその誘導体である酢酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド等のモノグリセリド誘導体、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、レシチン、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の界面活性剤類、オレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等の脂肪酸類及びそれらのエステル類、ラウリルアルコール、セチルアルコール、セリルアルコール等の高級アルコール類、カルナウバロウ、カンデリラロウ、コメヌカロウ、シェラック、ミツロウ、ラノリン等のワックス類、パラフィンワックス、流動パラフィン、スクワレン等の炭化水素類、ポリジメチルシロキサン等のシリコーンオイル類から選ばれる1種または2種以上の組み合わせが使用され、その配合量は0.05〜1%が好ましい。
【0045】
界面活性剤の場合、親水性のものより疎水性のものが好ましく、HLB値として13以下が好ましい。油脂類はそのまま加えることができるが、動植物油等に界面活性剤、水等を加えて均質化することによって得られる乳化物の形態にした後に添加してもかまわない。また、油脂類を含有しているマーガリン、生クリーム等の形態で配合してもかまわない。
【0046】
(4)乾燥
(3)で得られたスラリーは、公知の方法で乾燥される。しかしながら、乾燥物が硬いかたまりにならないような方法が望ましく、例えば、凍結乾燥法、噴霧乾燥法、棚段式乾燥法、ドラム乾燥法、ベルト乾燥法、ガラス板等に薄く伸展し乾燥する方法、流動床乾燥法、マイクロウェーブ乾燥法、起熱ファン式減圧乾燥法などが適当である。高温で長時間乾燥すると、水分散性が悪化する。これは、セルロース粒子(繊維)間の角質化が強く進行するためと思われる。温度は120℃以下、特に110℃以下が水分散性の観点から好ましい。乾燥時間は短時間であることが望ましく、水分が所定の値に達したら、直ちに乾燥を終了することが望ましい。乾燥後の水分は、取り扱い性、経時安定性を考慮すれば、15質量%以下が好ましい。より好ましくは10質量%以下である。最も好ましくは6質量%以下である。2質量%未満になると静電気が帯電し、粉末の取り扱いが困難になる場合がある。
【0047】
乾燥物は必要に応じて粉砕する。粉砕機としてはカッターミル、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミルなどが使用され、目開き2mmの篩をほぼ全通する程度に粉砕することが好ましい。より好ましくは目開き425μmの篩をほぼ全通し、かつ、平均としては10〜250μmとなるように粉砕する。押しつぶす作用のある粉砕機は粒子の細孔をつぶしてしまい、水分散性を悪化させる傾向があるので、ボールミルなどは不適当である。好ましい粉砕機はカッターミル、ジェットミルである。
【0048】
上記の方法で得られる、本発明の高分散性セルロース組成物は水不溶性物質であるセルロースを主成分とするが、著しく微細な繊維状であるため食品に配合した場合、ザラツキや粉っぽさといった不良な食感がない。また、増粘性、保形性、懸濁安定性、乳化安定性、耐熱安定性(耐熱保形性、蛋白質の変性防止)やボディ感を付与する性能に優れる。かつ、水道水等の塩類を含む水性媒体中において、容易に粒子が崩壊・分散する。これらの性質は、食品分野のみならず、医薬品、化粧品、工業用途においても使用が可能である。
【0049】
本発明の高分散性セルロース組成物は、特開2004−41119号公報に開示の通り、アルギン酸類、ガラクトマンナン、グルコマンナンからなる群から選ばれる少なくとも1種の多糖類と水中で混合・撹拌後、静置(加熱処理)することにより、耐熱性のゲルを形成する。また、グルコマンナンとのゲルは凍結・解凍することにより、「スポンジ状の構造を有するゲル状組成物」を形成する。
【0050】
本発明の高分散性セルロース組成物を含む食品組成物の例としては、「コーヒー、紅茶、抹茶、ココア、汁粉、ジュース、豆乳等の嗜好飲料」、「生乳、加工乳、乳酸菌飲料等の乳成分含有飲料」、「カルシウム強化飲料等の栄養強化飲料並びに食物繊維含有飲料等を含む各種の飲料類」、「バター、チーズ、ヨーグルト、コーヒーホワイトナー、ホイッピングクリーム、カスタードクリーム、プリン等の乳製品類」、「アイスクリーム、ソフトクリーム、ラクトアイス、アイスミルク、シャーベット、フローズンヨーグルト等の冷菓類」、「マヨネーズ、マーガリン、スプレッド、ショートニング等の油脂加工食品類」、「スープ類」、「シチュー類」、「ソース、タレ、ドレッシング等の調味料類」、「練りがらしに代表される各種練り調味料」、「ジャム、フラワーペーストに代表される各種フィリング」、「各種のアン、ゼリー、嚥下障害者用食品を含むゲル・ペースト状食品類」、「パン、麺、パスタ、ピザ、コーンフレーク等の穀物を主成分とする食品類」、「キャンディー、クッキー、ビスケット、ホットケーキ、チョコレート、餅等を含む和・洋菓子類」、「蒲鉾、ハンペン等に代表される水産練り製品」、「ハム、ソーセージ、ハンバーグ等に代表される畜産製品」、「クリームコロッケ、中華用アン、グラタン、ギョーザ等の各種の惣菜類」、「塩辛、カス漬等の珍味類」、「経管流動食等の流動食類」、「サプリメント類」および「ペットフード類」等があげられる。これらの食品はレトルト食品、冷凍食品、電子レンジ用食品等のように、形態または用時調製の加工手法が異なっていても本発明に含まれる。
【0051】
現在、食品に配合される主要なセルロース製品は結晶セルロース(複合体)である。結晶セルロース複合体は水中で撹拌するとコロイド状の結晶セルロース微粒子が発生し、通常このような状態で食品に配合される。コロイド状結晶セルロース粒子は粒子表面のマイナス荷電に由来する粒子間反発力と、粒子の棒状形態に由来する三次元的網目構造によって、懸濁安定性や乳化安定性などの機能を発揮していた。しかしながら、構成単位が粒子であるがゆえに、低pHになると粒子表面の荷電が中和されて懸濁安定性が低下したり、網目構造を形成するにはある程度の量が必要であった。
【0052】
しかしながら、本発明の高分散性セルロース組成物はコロイド状の結晶セルロース粒子とは異なり、きわめて微細な繊維状の形状を有する。水中では折れ曲がったり、丸まったりすることなく、比較的まっすぐな状態で存在する。そのため、おおきな排除体積を有する。この立体障害が、増粘性、保形性、懸濁安定性、乳化安定性、耐熱安定性などの機能を発揮する原因と考えられる。そのため、きわめて低添加量で機能が発揮され、しかも、低pHや高イオン濃度環境においても粘度や懸濁安定性に影響を受けることが少ない。食品組成物中における高分散性セルロース組成物の配合量は、配合する目的によって異なるが例を上げれば、低カロリーペーストで1〜5質量%、ファットスプレッドで0.05〜2質量%、冷菓類で0.01〜1質量%、マヨネーズタイプのドレッシングで0.1〜0.5質量%、たれや液状ドレッシングで0.1〜0.5質量%、飲料で0.0005〜0.1質量%である。
【0053】
食品組成物に配合する場合は、他の粉末原料とともに配合し、公知の方法で製造すればよい。しかしながら、本発明品を単独で、あるいはいくつかの成分と共に0.25〜1質量%の濃度で水分散液としてから食品組成物に配合することはより好ましい使用方法である。水への分散の際に、温度を60〜80℃とし、高速回転型のホモジナイザーやピストン型のホモジナイザーを用いて実施することはさらに好ましい。
コーヒーや紅茶などの飲料には、味をまろやかにしたり、栄養成分を強化したり、あるいは、乳の味を付与する目的で、牛乳やクリーム、全脂粉乳、脱脂粉乳などの乳成分を配合することが多い。しかしながら、長期間の保存や、加熱などにより、乳成分(脂肪球)の乳化が損なわれ、油脂成分が飲料の上面に浮上し、飲料上面における容器との接触部位にリング状に集まることがある。それが、進行すると上面全体が白い膜で覆われるようになる。飲料をふると一時的に解消されるが、静置するとすぐに薄膜で覆われる。ひどい場合には、油脂が容器内壁にリング状に固着したり、あるいは、それがはがれて飲料中に混入するようになる。そうするともはや商品は商品価値を失い、顧客によるクレームとなる。これが「オイルオフ」「オイルリング」と呼ばれる問題である。また、乳化が壊れると、乳蛋白が凝集し、容器底部に沈殿することもある。これもまた、外観の悪化と味質の低下を引き起こしてしまう。近年は、缶のみならず、ビンやPETボトルといった種々の透明容器が汎用されるようになり、さらにはホットで販売されるPETボトル入り飲料まで出現するに至り、有効な安定化技術の出現が待ち望まれている。
【0054】
本発明品は乳成分を含有する飲料に配合すると、上記のような問題の解決に有効である。本発明でいう乳成分とは、液状乳類(生乳、牛乳、等)、粉乳類(全粉乳、脱脂粉乳、等)、練乳類(無糖練乳、加糖練乳、等)、クリーム類(クリーム、ホイップクリーム、等)、発酵乳などを意味し、その配合量は無脂乳固形分として0.1〜12%、乳脂肪分として0.01〜6%である。配合量は目的とする飲料(例えば、乳飲料、乳入り清涼飲料、等)に応じて適宜選択される。
【0055】
本発明でいう乳成分を含有する飲料とは、具体的には、加工乳、発酵乳飲料、酸性乳飲料、ミルク入り茶類(紅茶、抹茶、緑茶、麦茶、ウーロン茶、等)、ミルク入りジュース類(果汁入り飲料、野菜汁入り飲料、等)、ミルク入りコーヒー、ミルク入りココア、栄養バランス飲料、流動食などのことである。原料としては、高分散性セルロース組成物と、乳成分と、飲料の主成分と、水の他に、甘味料、香料、色素、酸味料、香辛料、乳化剤(グリセリン脂肪酸エステル・モノグリセリド、グリセリン脂肪酸エステル・有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン酸脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、リゾレシチン、ステアロイル乳酸カルシウム等。脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は炭素数6〜22の飽和または不飽和の脂肪酸であり、例えばカプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エルカ酸などである。有機酸モノグリセリドの有機酸は酢酸、乳酸、クエン酸、コハク酸、ジアセチル酒石酸などである。)、カゼインナトリウム、増粘安定剤(κカラギーナン、ιカラギーナン、λカラギーナン、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ローカストビーンガム、グアーガム、タラガム、ペクチン等)、結晶セルロース、食物繊維(難消化性デキストリン、ポリデキストロース、酵素分解グアーガム、水溶性大豆多糖類等)、栄養強化剤(ビタミン、カルシウム等)、フレーバー素材(コーヒー粉末、ミルクフレーバー、ブランデー等)、食品素材(果肉、果汁、野菜、野菜汁、デンプン、穀類、豆乳、ハチミツ、植物性油脂、動物性油脂等)、調味料(みそ、しょうゆ、塩、グルタミン酸ナトリウム等)、などを配合してもよい。
【0056】
乳成分を含有する飲料の製造は、公知の方法に従う。一例を挙げれば、粉体原料(砂糖、脱脂粉乳など)を温水に加えて撹拌・溶解(分散)し、コーヒー抽出液や果汁、クリームなどの液体原料を配合し、均質化後、容器に充填して製造される。殺菌は製品の原料、商品形態(缶、ビン、PETボトル、紙パック、カップ、等)、希望する保存条件(チルド、常温、加温、等)や賞味期限に応じて、HTST殺菌、ホットパック殺菌、レトルト殺菌などの方法を適宜選択して実施される。乳成分を含有する飲料は、高分散性セルロース組成物を含む全成分が配合された後、少なくとも1回は均質化処理を施すことが望ましい。これによって、乳成分が高度に安定化される。
【0057】
高分散性セルロース組成物は粉体原料とともに配合してもよい。但し、高分散性セルロース組成物は飲料中で微細な繊維状のセルロースに分散した状態で存在しなければ効果が発揮されないので、高速回転型のホモジナイザー等の強い撹拌機で撹拌することが望ましい。あるいは、あらかじめ水あるいは温水で水分散性乾燥組成物を撹拌して、分散液を調製してから配合してもよい。分散液調製時に、温度を60〜80℃とし、ピストン型高圧ホモジナイザー(10MPa以上)を用いることは好ましい実施態様の一つである。
【0058】
高分散性セルロース組成物の、乳成分を含有する飲料に対する配合量は、好ましくは0.001〜0.5%(固形分)である。より好ましくは0.005〜0.2%であり、さらに好ましくは0.007〜0.1%である。配合量が少ないとオイルオフ防止等の効果が充分発揮されず、また、配合量が多すぎると系の粘度が上がり、飲料本来の食感(のどごし、糊状感、等)が損なわれて、商品価値が低下してしまう。オイルオフ発生等の機構の詳細は不明ながら、おそらく乳成分由来の脂肪球が熱振動によって衝突し、乳化が壊れ、油脂成分は浮上し、蛋白質は沈降すると思われる。本発明品は、微細な繊維状のセルロースが飲料全体にネットワークを形成し、それが立体障害となって、脂肪球同士の衝突を妨げ、乳化破壊を防止しているのではないかと考える。また、セルロースは乳成分(脂肪球)と弱く相互作用する傾向があるので、脂肪球が微細な繊維状のセルロースの近傍に束縛され、そのために脂肪球の熱振動を抑制している可能性もある。
【0059】
ミルクコーヒー飲料の場合は、0.008〜0.08%の配合が適当である。従来の結晶セルロースなどのセルロース系添加剤の場合、グリセリン脂肪酸エステルとの併用でオイルオフが抑制されるが、60℃くらいの高温で保存すると、乳成分と結晶セルロースが相互作用して凝集が生じる場合があった。しかしながら本発明の飲料は、0.08%以下という低配合量でも、チルド保存(5℃)や常温保存(25℃)のみならず、ホット(60℃)においても、オイルオフやオイルリングはもちろん、乳蛋白の沈降や系の凝集、分離のほとんどない、均一な外観を維持することができる。もちろん、乳化剤やカラギーナン、カゼインナトリウム、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム、結晶セルロースなど、従来より効果が認められている物質を配合してもよい。これによって、例えば、オイルオフ等の外観の変化なしに、PETボトル入りのミルクコーヒーをホットで販売することが可能となる。
【実施例】
【0060】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、測定は以下の通り行った。
<セルロース性物質の平均重合度>
ASTM Designation: D 1795−90「Standerd Test Method for Intrinsic Viscosity of Cellulose」に準じて行う。
<セルロース性物質のα−セルロース含有量>
JIS P8101−1976(「溶解パルプ試験方法」5.5 αセルロース)に準じて行う。
【0061】
<セルロース繊維(粒子)の形状(長径、短径、長径/短径比)>
セルロース繊維(粒子)のサイズの範囲が広いので、一種類の顕微鏡で全てを観察することは不可能である。そこで、繊維(粒子)の大きさに応じて光学顕微鏡、走査型顕微鏡(中分解能SEM、高分解能SEM)を適宜選択し、観察・測定する。
光学顕微鏡を使用する場合は、後述の「0.25%粘度」測定の際に調製されるセルロース繊維(粒子)の水分散液を適当な濃度に調整し、それをスライドガラスにのせ、さらにカバーグラスをのせて観察する。
また、中分解能SEM(JSM−5510LV、日本電子株式会社製)を使用する場合は、サンプル水分散液を試料台にのせ、風乾した後、Pt−Pdを約3nm蒸着して観察する。
高分解能SEM(S−5000、株式会社日立サイエンスシステムズ製)を使用する場合は、サンプル水分散液を試料台にのせ、風乾した後、Pt−Pdを約1.5nm蒸着して観察する。
【0062】
セルロース繊維(粒子)の長径、短径、長径/短径比は撮影した写真から15本(個)以上を選択し、測定した。繊維はほぼまっすぐから、髪の毛のようにカーブしているものがあったが、糸くずのように丸まっていることはなかった。短径(太さ)は、繊維1本の中でもバラツキがあったが、平均的な値を採用した。高分解能SEMは、短径が数nm〜200nmの繊維の観察時に使用したのだが、一本の繊維が長すぎて、一つの視野に収まらなかった。そのため、視野を移動しつつ写真撮影を繰り返し、その後写真を合成して解析した。
【0063】
<損失正接(=損失弾性率/貯蔵弾性率)>
(1)固形分濃度が0.5質量%の水分散液となるようにサンプルと純水を量り取り、エースホモジナイザー(商標、日本精機株式会社製、AM−T型)で、15000rpmで15分間分散する。
(2)25℃の雰囲気中に3時間静置する。
(3)動的粘弾性測定装置にサンプル液を入れてから5分間静置後、下記の条件で測定し、周波数10rad/sにおける損失正接(tanδ)を求める。
装置 :ARES(100FRTN1型)
(商標、Rheometric Scientific,Inc.製)
ジオメトリー:Double Wall Couette
温度 :25℃
歪み :10%(固定)
周波数 :1→100rad/s(約170秒かけて上昇させる)
【0064】
<0.25%粘度>
(1)固形分濃度が0.25質量%の水分散液となるようにサンプルと純水を量り取り、エースホモジナイザー(商標、日本精機株式会社製、AM−T型)で、15000rpmで15分間分散する。
(2)25℃の雰囲気中に3時間静置する。
(3)よく撹拌した後、回転粘度計(株式会社トキメック製、B形粘度計、BL形)をセットし、撹拌終了30秒後にローターの回転を開始し、それから30秒後の指示値より粘度を算出する。なお、ローター回転数は60rpmとし、ローターは粘度によって適宜変更する。
【0065】
<沈降体積>
(1)0.5質量%の水分散液となるようにサンプルと純水を量り取り、蓋付きのガラス容器に入れ、手で20回振盪・撹拌する。
(2)サンプル液100mLを内径25mmのガラス管に注ぎ込み、5回上下反転して内容物を撹拌した後、室温で4時間静置する。
(3)白濁した(あるいは半透明の)懸濁層の体積を目視で観察し、それを沈降体積(%)とする。
【0066】
<「水中で安定に懸濁する成分」の含有量>
(1)セルロース濃度が0.1質量%の水分散液となるようにサンプルと純水を量り取り、エースホモジナイザー(商標、日本精機株式会社製、AM−T型)で、15000rpmで15分間分散する。
(2)サンプル液20gを遠沈管に入れ、遠心分離機にて9800m/sで5分間遠心分離する。
(3)上層の液体部分を取り除き、沈降成分の質量(a)を測定する。
(4)次いで、沈降成分を絶乾し、固形分の質量(b)を測定する。
(5)下記の式を用いて「水中で安定に懸濁する成分」の含有量(c)を算出する。
c=5000×(k1+k2) [質量%]
但し、k1およびk2は下記の式を用いて算出して使用する。
k1=0.02−b+s2
k2=k1×w2/w1
(カルボキシメチルセルロース・ナトリウム+親水性物質)/セルロース
=d/f [配合比率]
w1=19.98−a+b+0.02×d/f
w2=a−b
s2=0.02×d×w2/{f×(w1+w2)}
【0067】
「水中で安定に懸濁する成分」の含有量が非常に多い場合は、沈降成分の重量が小さな値となるので、上記の方法では測定精度が低くなってしまう。その場合は(3)以降の手順を以下のようにして行う。
(3’)上層の液体部分を取得し、重量(a’)を測定する。
(4’)次いで、上層成分を絶乾し、固形分の重量(b’)を測定する。
(5’)下記の式を用いて「水中で安定に懸濁する成分」の含有量(c)を算出する。
c=5000×(k1+k2) [質量%]
但し、k1およびk2は下記の式を用いて算出して使用する。
k1=b’−s2×w1/w2
k2=k1×w2/w1
(カルボキシメチルセルロース・ナトリウム+親水性物質)/セルロース
=d/f [配合比率]
w1=a’−b’
w2=19.98−a’+b’−0.02×d/f
s2=0.02×d×w2/{f×(w1+w2)}
もし、(3)の操作で上層の液体部分と沈降成分の境界が明瞭ではなく分離が難しい場合は適宜セルロース濃度を下げて操作を行う。
【0068】
<0.01%塩化カルシウム水溶液分散性>
(1)固形分濃度が1質量%の水分散液となるようにサンプルと純水を量り取り、エースホモジナイザー(商標、日本精機株式会社製、AM-T型)で、15000rpmで15分間(25℃)分散する。
(2)25℃の雰囲気中に3時間静置する。
(3)よく撹拌した後、回転粘度計(株式会社トキメック製、B形粘度計)をセットし、撹拌終了30秒後にローターの回転を開始し、それから30秒後の指示値より粘度(Va)を算出する。なお、ローター回転数は60rpmとし、ローターは粘度によって適宜変更する。
(4)次に、固形分濃度が1質量%の水分散液となるようにサンプルと0.01%塩化カルシウム水溶液を量り取り、T.K.ホモミクサー(商標、特殊機化工業株式会社製 MARK II 2.5型)で8000rpm、10分間(25℃)分散する。
(5)25℃の雰囲気中に3時間静置する。
(6)よく撹拌した後、回転粘度計(株式会社トキメック製、B形粘度計)をセットし、撹拌終了30秒後にローターの回転を開始し、それから30秒後の指示値より粘度(Vb)を算出する。なお、ローター回転数は60rpmとし、ローターは粘度によって適宜変更する。
(7)下記の式を用いて「0.01%塩化カルシウム水溶液分散性」を算出す
る。
0.01%塩化カルシウム水溶液分散性[%]=(Vb/Va)×100
【0069】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明する。
[実施例1]
市販麦わらパルプ(平均重合度=930、α−セルロース含有量=68質量%)を、6×12mm角の矩形に裁断し、4質量%となるように水を加え、家庭用ミキサーで5分間撹拌した。これを高速回転型ホモジナイザー(ヤマト科学、商標、ULTRA−DISPERSER、LK−U型)で1時間分散したところ、繊維長が4mm以下になった。
この水分散液を砥石回転型粉砕機(商標、「セレンディピター」MKCA6−3型、グラインダー:MKE6−46、グラインダー回転数:1800rpm)で処理した。処理回数は2回で、グラインダークリアランスを60→40μmと変えて処理した。得られた水分散液の沈降体積は95体積%だった。
【0070】
次いで得られた水分散液を水で希釈して2質量%にし、高圧ホモジナイザー(株式会社スギノマシン製、商標、「アルティマイザーシステム」HJP25030型、処理圧力:175MPa)で8パスし、セルローススラリーAを得た。結晶化度は74%だった。0.25%粘度は69mPa・sだった。光学顕微鏡で観察したところ、長径が10〜700μm、短径が1〜30μm、長径/短径比が10〜150の微細な繊維状のセルロースが観察された。損失正接は0.43だった。保水度を測定しようとしたが、全てがカップろ過器を通過してしまい、値を求めることができなかった。「水中で安定に懸濁する成分」の含有量は89質量%だった。それを高分解能SEMで観察したところ、長径が1〜20μm、短径が6〜300nm、長径/短径比が30〜350のきわめて微細な繊維状のセルロースが観察された。
【0071】
セルロース:カルボキシメチルセルロース・ナトリウム:トレハロース=60:12:28(質量部)となるように、セルローススラリーAにカルボキシメチルセルロース・ナトリウム(1質量%水溶液粘度:2300mPa・s)とトレハロースを添加し、15kgを攪拌型ホモジナイザー(特殊機化工業株式会社製、商標、T.K.AUTO HOMO MIXER M2−40型)で、8000rpmで30分間撹拌・混合した。
次いでこの混合液をアプリケータにより厚さ2mmでアルミニウム板状にキャストし、熱風乾燥機で120℃で60分間乾燥してフィルムを得た。これをカッターミル(不二パウダル株式会社製、商標、「フラッシュミル」)で、目開き1mmの篩をほぼ全通する程度に粉砕し、高分散性セルロース組成物Aを得た。
【0072】
高分散性セルロース組成物Aの結晶化度は59%以上、0.25%粘度は45mPa・s、損失正接は0.65であり、「水中で安定に懸濁する成分」の含有量は97質量%だった。それを高分解能SEMで観察したところ、長径が1〜20μm、短径が10〜300nm、長径/短径比が30〜350のきわめて微細な繊維状のセルロースが観察された。0.01%塩化カルシウム水溶液分散性は85%だった。
【0073】
[実施例2]
市販木材パルプ(平均重合度=1820、α−セルロース含有量=77質量%)を、6×16mm角の矩形に裁断し、固形分濃度が80質量%になるように水を加えた。これを、水とパルプチップができるだけ分離しないよう注意して、カッターミル(商標、「コミトロール」、モデル1700、カッティングヘッド/水平刃間隙:2.03mm、インペラー回転数:3600rpm)に1回通したところ、繊維長が0.75〜3.75mmになった。
【0074】
セルロース濃度が2質量%、そしてカルボキシメチルセルロース・ナトリウムの濃度が0.0706質量%になるようにカッターミル処理品とカルボキシメチルセルロース・ナトリウム(1質量%水溶液粘度:2700mPa・s)と水を量り取り、繊維の絡みがなくなるまで撹拌した。この水分散液を砥石回転型粉砕機(増幸産業株式会社製、商標、「セレンディピター」MKCA6−3型、グラインダー:MKE6−46、グラインダー回転数:1800rpm)で処理した。処理回数は2回で、グラインダークリアランスを110→80μmと変えて処理した。得られた水分散液の沈降体積は89体積%だった。
【0075】
次いで得られた水分散液をそのまま高圧ホモジナイザー(商標、「マイクロフルイダイザー」M−110Y型、処理圧力:95MPa)で4パスし、セルローススラリーBを得た。結晶化度は79%以上だった。0.25%粘度は68mPa・sだった。光学顕微鏡で観察したところ、長径が10〜400μm、短径が1〜5μm、長径/短径比が10〜300の微細な繊維状セルロースが観察された。損失正接は0.64だった。保水度を測定しようとしたが、一部はカップろ過器を通過し、他の部分は目詰まりを起こしてしまい、結局、値を求めることができなかった。「水中で安定に懸濁する成分」の含有量は43質量%だった。それを高分解能SEMで観察したところ、長径が1〜20μm、短径が10〜150nm、長径/短径比が30〜300のきわめて微細な繊維状のセルロースが観察された。
【0076】
セルロース:カルボキシメチルセルロース・ナトリウム:デキストリン=70:18:12(質量部)となるように、セルローススラリーBにカルボキシメチルセルロース・ナトリウム(1質量%水溶液粘度:3400mPa・s)とデキストリン(DE:23)を添加し、15kgを攪拌型ホモジナイザー(特殊機化工業株式会社製、商標、T.K.AUTO HOMO MIXER M2−40型)で、8000rpmで30分間撹拌・混合した。
次いでこの混合液をアプリケータにより厚さ2mmでアルミニウム板状にキャストし、熱風乾燥機で120℃で60分間乾燥してフィルムを得た。これをカッターミル(不二パウダル株式会社製、商標、「フラッシュミル」)で、目開き1mmの篩をほぼ全通する程度に粉砕し、高分散性セルロース組成物Bを得た。
【0077】
高分散性セルロース組成物Bの結晶化度は68%以上、0.25%粘度は61mPa・s、損失正接は0.60であり、「水中で安定に懸濁する成分」の含有量は65質量%だった。それを高分解能SEMで観察したところ、長径が1〜20μm、短径が15〜130nm、長径/短径比が30〜300のきわめて微細な繊維状のセルロースが観察された。0.01%塩化カルシウム水溶液分散性は61%だった。
【0078】
[実施例3]
市販バガスパルプ(平均重合度=1320、α−セルロース含有量=77%)を、6×16mm角の矩形に裁断した。次いでセルロース濃度が3質量%、カルボキシメチルセルロース・ナトリウムの濃度が0.176質量%となるように、それぞれと水を量り取り、家庭用ミキサーで5分間撹拌した。
この水分散液を砥石回転型粉砕機(商標、「セレンディピター」MKCA6−3型、グラインダー:MKE6−46、グラインダー回転数:1800rpm)で3回処理した。得られた水分散液の沈降体積は100体積%だった。
【0079】
次いで得られた水分散液を水で希釈して2質量%にし、高圧ホモジナイザー(商標、「マイクロフルイダイザー」M−140K型、処理圧力110MPa)で4パスし、セルローススラリーCを得た。結晶化度は73%以上だった。0.25%粘度は120mPa・sだった。光学顕微鏡および中分解能SEMで観察したところ、長径が10〜500μm、短径が1〜25μm、長径/短径比が5〜190の微細な繊維状のセルロースが観察された。損失正接は0.32だった。「水中で安定に懸濁する成分」は99質量%だった。
【0080】
セルロース:カルボキシメチルセルロース・ナトリウム:デキストリン:サラダ油=76:6:17.3:0.7(質量部)となるように、セルローススラリーCにカルボキシメチルセルロース・ナトリウム(1質量%水溶液粘度:3400mPa・s)とデキストリン(DE:23)とサラダ油を添加し、15kgを攪拌型ホモジナイザー(特殊機化工業株式会社製、商標、T.K.AUTO HOMO MIXER M2−40型)で、8000rpmで30分間撹拌・混合した。これをドラムドライヤーにて乾燥し、スクレーパーで掻き取り、得られたものをカッターミル(不二パウダル株式会社製、商標、「フラッシュミル」)で、目開き2mmの篩をほぼ全通する程度に粉砕し、高分散性セルロース組成物Cを得た。高分散性セルロース組成物Cの結晶化度は57%以上、0.25%粘度は101mPa・s、損失正接は0.52、「水中で安定に懸濁する成分」は100質量%だった。「水中で安定に懸濁する成分」を高分解能SEMで観察したところ、長径が1〜15μm、短径が10〜330nm、長径/短径比が20〜250のきわめて微細な繊維状のセルロースが観察された。0.01%塩化カルシウム水溶液分散性は55%だった。
【0081】
[実施例4]
市販バガスパルプ(平均重合度=1320、α−セルロース含有量=77%)を、6×16mm角の矩形に裁断し、固形分濃度が77質量%になるように水を加えた。これを、水とパルプチップができるだけ分離しないよう注意して、カッターミル(商標、「コミトロール」、モデル1700、カッティングヘッド/水平刃間隙:2.03mm、インペラー回転数:3600rpm)に1回通したところ、繊維長が0.5〜2.5mmになった。セルロース濃度が2質量%、そしてカルボキシメチルセルロース・ナトリウムの濃度が0.118質量%になるようにカッターミル処理品とカルボキシメチルセルロース・ナトリウムと水を量り取り、繊維の絡みがなくなるまで撹拌した。得られた水分散液のろ水度は280mlだった。
得られた水分散液をそのまま、高圧ホモジナイザー(Niro Soavi社製、商標、高圧ホモジナイザーNS−3015型、Rタイプ・ホモバルブ使用、処理圧力90MPa)で9パスし、セルローススラリーDを得た。
【0082】
セルロース:カルボキシメチルセルロース・ナトリウム:デキストリン:ナタネ油=64:17:18.7:0.3(質量部)となるように、セルローススラリーDにカルボキシメチルセルロース・ナトリウム(1質量%水溶液粘度:3400mPa・s)とデキストリン(DE:28)を添加し、15kgを攪拌型ホモジナイザー(特殊機化工業株式会社製、商標、T.K.AUTO HOMO MIXER M2−40型)で、8000rpmで10分間撹拌・混合した後、前述の高圧ホモジナイザーで20MPa、1パス処理した。これをドラムドライヤーにて乾燥し、スクレーパーで掻き取り、得られたものをカッターミル(不二パウダル株式会社製、商標、「フラッシュミル」)で、目開き2mmの篩をほぼ全通する程度に粉砕し、高分散性セルロース組成物Dを得た。高分散性セルロース組成物Dの結晶化度は54%以上、0.25%粘度は62mPa・s、損失正接は0.48、「水中で安定に懸濁する成分」は100質量%だった。光学顕微鏡にて観察したところ、長径が10〜800μm、短径が1〜25μm、長径/短径比が5〜200の繊維状のセルロースが観察された。また、「水中で安定に懸濁する成分」を高分解能SEMで観察したところ、長径が0.5〜10μm、短径が20〜100nm、長径/短径比が15〜200のきわめて微細な繊維状のセルロースが観察された。0.01%塩化カルシウム水溶液分散性は66%だった。
【0083】
[比較例1]
セルロース:カルボキシメチルセルロース・ナトリウム=85:15(質量部)となるように、セルローススラリーAにカルボキシメチルセルロース・ナトリウム(1質量%水溶液粘度:2300mPa・s)を添加し、15kgを攪拌型ホモジナイザー(特殊機化工業株式会社製、商標、T.K.AUTO HOMO MIXER M2−40型)で、8000rpmで10分間撹拌・混合した。
次いでこの混合液をドラムドライヤーにて乾燥し、スクレーパーで掻き取った。これをカッターミル(不二パウダル株式会社製、商標、「フラッシュミル」)で、目開き1mmの篩をほぼ全通する程度に粉砕し、セルロース組成物aを得た。
セルロース組成物aの結晶化度は71%以上、0.25%粘度は61mPa・s、損失正接は0.51であり、「水中で安定に懸濁する成分」の含有量は75質量%だった。それを高分解能SEMで観察したところ、長径が1〜20μm、短径が10〜300nm、長径/短径比が30〜350のきわめて微細な繊維状のセルロースが観察された。0.01%塩化カルシウム水溶液分散性は28%だった。
【0084】
[比較例2]
セルロース:カルボキシメチルセルロース・ナトリウム=80:20(質量部)となるように、セルローススラリーBにカルボキシメチルセルロース・ナトリウム(1質量%水溶液粘度:約3400mPa・s)を添加し、15kgを攪拌型ホモジナイザー(特殊機化工業株式会社製、商標、T.K.AUTO HOMO MIXER M2−40型)で、8000rpmで10分間撹拌・混合した。
次いでこの混合物をドラムドライヤーにて乾燥し、スクレーパーで掻き取った。これをカッターミル(商標、「フラッシュミル」)で、目開き1mmの篩をほぼ全通する程度に粉砕し、セルロース組成物bを得た。
セルロース組成物bの結晶化度は77%以上、0.25%粘度は66mPa・s、損失正接は0.65であり、「水中で安定に懸濁する成分」の含有量は38質量%だった。それを高分解能SEMで観察したところ、長径が1〜20μm、短径が10〜150nm、長径/短径比が30〜300のきわめて微細な繊維状のセルロースが観察された。0.01%塩化カルシウム水溶液分散性は39%だった。
【0085】
[比較例3]
セルロース:カルボキシメチルセルロース・ナトリウム=85:15(質量部)となるように、セルローススラリーCにカルボキシメチルセルロース・ナトリウム(1質量%水溶液粘度:1700mPa・s)を添加し、15kgを攪拌型ホモジナイザー(特殊機化工業株式会社製、商標、T.K.AUTO HOMO MIXER M2−40型)で、8000rpmで10分間撹拌・混合した。これをドラムドライヤーにて乾燥し、スクレーパーで掻き取り、得られたものをカッターミル(不二パウダル株式会社製、商標、「フラッシュミル」)で、目開き2mmの篩をほぼ全通する程度に粉砕し、セルロース組成物cを得た。セルロース組成物cの結晶化度は69%以上、0.25%粘度は89mPa・s、損失正接は0.87、「水中で安定に懸濁する成分」は98質量%だった。「水中で安定に懸濁する成分」を高分解能SEMで観察したところ、長径が1〜17μm、短径が10〜350nm、長径/短径比が20〜250のきわめて微細な繊維状のセルロースが観察された。0.01%塩化カルシウム水溶液分散性は21%だった。
【0086】
[比較例4]
セルロース:カルボキシメチルセルロース・ナトリウム:デキストリン:ナタネ油=80:10:9.5:0.5(質量部)となるように、セルローススラリーDにカルボキシメチルセルロース・ナトリウム(1質量%水溶液粘度:3400mPa・s)とデキストリン(DE:28)を添加し、15kgを攪拌型ホモジナイザー(特殊機化工業株式会社製、商標、T.K.AUTO HOMO MIXER M2−40型)で、8000rpmで10分間撹拌・混合した。これをドラムドライヤーにて乾燥し、スクレーパーで掻き取り、得られたものをカッターミル(不二パウダル株式会社製、商標、「フラッシュミル」)で、目開き2mmの篩をほぼ全通する程度に粉砕し、セルロース組成物dを得た。セルロース組成物dの結晶化度は67%以上、0.25%粘度は67mPa・s、損失正接は0.75、「水中で安定に懸濁する成分」は95質量%だった。光学顕微鏡にて観察したところ、長径が10〜800μm、短径が1〜25μm、長径/短径比が5〜200の繊維状のセルロースが観察された。また、「水中で安定に懸濁する成分」を高分解能SEMで観察したところ、長径が0.5〜10μm、短径が20〜100nm、長径/短径比が15〜200のきわめて微細な繊維状のセルロースが観察された。0.01%塩化カルシウム水溶液分散性は40%だった。
【0087】
[実施例5〜8]
高分散性セルロース組成物A〜Dを用いて、しゃぶしゃぶ用のごまダレを作成した。まず、水道水(硬度90)に高分散性セルロース組成物A〜Dを加え、回転型ホモジナイザー(特殊機化工業株式会社製、商標、「T.K.ホモミクサー」MARK II 2.5型)6000rpmで1分間(60℃)撹拌し、1質量%分散液を調製した。次いで、食酢以外の成分を回転型ホモジナイザー6000rpmで5分間(60℃)攪拌した後、食酢(酸度4.5%)を水道水で2倍に希釈してから加え、さらに5分間(60℃)攪拌した。配合組成は、グラニュー糖30%、ごま油7%、ごまペースト5%、食塩4%、食酢2%、高分散性セルロース組成物0.2%(固形分)、キサンタンガム0.05%、のこりは水道水、とした。ついでガラス製容器に充填し、密栓し、80℃で20分間加熱・殺菌処理した。得られたごまダレサンプルは25℃で一ヶ月間静置した。
ごまダレは、適度なボディ感(粘度)があって、かつ、ごまペーストおよび油成分が分離しないような系の安定性が要求されるが、それらについて評価した結果を、表1に示す。いずれの例においても適度な粘度を有し、かつ、1ヶ月放置後も分離・凝集のない均一な状態を呈した。
【0088】
[比較例5〜12]
高分散性セルロース組成物のかわりにセルロース組成物a〜dを用い、かつ、1質量%分散液を調製する場合、分散媒として水道水および純水を用いた場合について、実施例5に準じてしゃぶしゃぶ用ごまダレを調製し、評価した。評価結果を表2に示す。
純水を用いた場合はいずれの場合も分離・凝集のない均一な状態を呈していたが、水道水を用いた場合はいずれの場合も分離を生じた。これは回転型ホモジナイザー(60℃)で撹拌した際に、純水であれば充分に粒子が崩壊し、セルロース粒子が純水中に分散するが、カルシウムイオンやマグネシウムイオンが存在するような水道水中では粒子が充分に崩壊せず、そのために、ごまの蛋白質等の成分の懸濁安定機能、および、油の乳化安定機能が充分に発揮できなかったためである。
【0089】
[実施例9〜12]
高分散性セルロース組成物A〜Dを用いて、ノンオイルドレッシングを作成した。まず、水道水(硬度90)に高分散性セルロース組成物A〜Dを加え、回転型ホモジナイザー(特殊機化工業株式会社製、商標、「T.K.ホモミクサー」MARK II 2.5型)6000rpmで5分間(25℃)撹拌し、次いでキサンタンガムを配合して7500rpmで10分間撹拌し、高分散性セルロース0.4質量%、キサンタンガム0.4質量%の分散液を調製した。この分散液を80℃の水道水に加え、プロペラ攪拌機で600rpmで2分間(80℃)撹拌した。これに砂糖、食塩、コンソメ顆粒、グルタミン酸ナトリウムを加えて400rpm、4分間(80℃)撹拌し、さらに香辛料、りんご酢、レモン酢を加えて400rpm、1分間(80℃)撹拌した。得られたドレッシングはガラス製容器に充填し、5℃で30日間静置した。なお、配合組成は、りんご酢(酸度5%)19%、砂糖5%、食塩3%、レモン果汁1%、コンソメ顆粒0.9%、高分散性セルロース組成物0.2%、キサンタンガム0.2%、香辛料(ガーリック、イタリアンパセリ、あらびきこしょう、あらびきとうがらし)0.2%、グルタミン酸ナトリウム0.1%、のこりは水道水とした。
本ドレッシングはいずれもpHが3.3、粘度が200〜300mPa・sであり、1ヶ月静置後も香辛料が全体に均一に懸濁し、かつ、上部に離水のない外観を呈していた。
【0090】
[比較例13〜20]
高分散性セルロース組成物のかわりにセルロース組成物a〜dを用い、かつ、分散媒として水道水および純水を用い、あとは実施例9に準じてノンオイルドレッシングを調製し、評価した。
純水を用いた場合はいずれも香辛料が30〜70%程度懸濁するが、上部は離水してクリアな層を呈した。水道水を用いた場合は、いずれも香辛料が下部10%以下に沈降してしまい、上部20%程度がクリアな層となった。
【0091】
この結果は、セルロース組成物は純水中であっても、より高温で、かつ、より強力な分散力で撹拌しなければ、粒子が充分に崩壊しないことを意味する。これに対して本願発明の高分散性セルロース組成物は、イオン存在下で、かつ、25℃でも粒子がよく崩壊するので、香辛料をよく懸濁安定化させることができた。
多くの食品は、純水で予備分散した後に使用するという工程をとることができない。水道水や他の食品成分と一緒に混合撹拌することがほとんどであり、本発明品はそのような使い方でも機能を発揮できる点、実用的な意義が大きい。
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の高分散性セルロース組成物は水不溶性物質であるセルロースを主成分とするが、著しく微細な繊維状であるため食品に配合した場合、ザラツキや粉っぽさといった不良な食感がない。また、増粘性、保形性、懸濁安定性、乳化安定性、耐熱安定性(耐熱保形性、蛋白質の変性防止)やボディ感を付与する性能に優れる。かつ、水道水等の塩類を含む水性媒体中において、容易に粒子が崩壊・分散する。これらの性質は、食品分野のみならず、医薬品、化粧品、工業用途においても使用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物細胞壁を原料とする、結晶性で、かつ、微細な繊維状のセルロース57〜78質量%と、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム5〜20質量%と、親水性物質12〜28質量%からなる乾燥組成物であり、水中で安定に懸濁する成分を30質量%以上含有し、0.5質量%水分散液とした時の損失正接が1未満であり、かつ、0.01%塩化カルシウム水溶液中で容易に分散することを特徴とする高分散性セルロース組成物。
【請求項2】
水中で安定に懸濁する成分を50質量%以上含有し、かつ、0.5質量%水分散液とした時の損失正接が0.6未満であることを特徴とする請求項1記載の高分散性セルロース組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載の高分散性セルロース組成物を含む事を特徴とする食品組成物。

【公開番号】特開2006−8857(P2006−8857A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−188205(P2004−188205)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】