高分散性無機化合物ナノ粒子及びその製造方法
【課題】溶液中における良好な分散性を有し、機能性分子で修飾された高分散性無機化合物ナノ粒子を得る。
【解決手段】機能性分子と、一級アミノ基、二級アミノ基、及び三級アミノ基のうち少なくとも2個のアミノ基を有する高分子窒素化合物と、このアミノ基の少なくとも1個に結合する無機化合物ナノ粒子とからなり、機能性分子で修飾された高分子窒素化合物で被覆されている高分散性無機化合物ナノ粒子。この高分散性無機化合物ナノ粒子は、無機化合物ナノ粒子を上記のような機能性分子修飾高分子窒素化合物溶液と混合し、超音波処理し、遠心分離し、上清を採取し、乾燥することによって製造することができる。
【解決手段】機能性分子と、一級アミノ基、二級アミノ基、及び三級アミノ基のうち少なくとも2個のアミノ基を有する高分子窒素化合物と、このアミノ基の少なくとも1個に結合する無機化合物ナノ粒子とからなり、機能性分子で修飾された高分子窒素化合物で被覆されている高分散性無機化合物ナノ粒子。この高分散性無機化合物ナノ粒子は、無機化合物ナノ粒子を上記のような機能性分子修飾高分子窒素化合物溶液と混合し、超音波処理し、遠心分離し、上清を採取し、乾燥することによって製造することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な機能性分子と結合した分散性の良好な高分散性無機化合物ナノ粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノテクノロジーの研究が盛んに行われ、様々な産業分野において、材料となる物質の微粒子化(ナノ粒子化)が研究されている。ナノ粒子化した物質は、流動性の向上、表面積の増大、表面での反応性を顕著化させるなどの性質を示すため、このような物性の変化を応用することによって、例えば、圧縮成型時の密度向上、吸着容量の増大、化学反応触媒としての機能向上、他の物質との複合化などを容易に達成できるようになる。他材料との混合および複合化による機能付与は、例えば、塗料、表面改質材料、化粧品、高屈折率ガラス、セラミックス、強磁性材料、半導体材料などに多く利用されている。
【0003】
このように、物質をナノ粒子化することは、極めて重要な技術であり、化学、生化学、分子生物学、医学分野への応用も有望である。最近では例えば、微小な粒子に標識化合物を結合させて特定の分子構造を同定、検出、定量、可視化することが試みられている。粒子としては、保存時の安定性が非常に優れ、生体に無害なリン酸カルシウム系化合物、シリカなどが用いられている。このような粒子をナノ粒子化して用いることができれば、より多くの標識化合物分子と結合させることができ、感度の大幅な向上を実現できると考えられる。
たとえば、タンパク質は一部の有色タンパク質などの特殊な例を除くと、溶液中では透明であるため目視することはできない。また、多くの物質が混在している状態で特定のタンパク質のみを検出することも困難である。このため、タンパク質に特異的な光特性を持った色素分子を結合する、放射性同位元素で標識する、あるいは他の酵素などを結合するといった解決手段が開発され、混合物中の目的タンパク質の検出、定量がなされている。上記の解決手段はタンパク質のみならず、DNAやRNA、糖類などが混在する溶液系や生体内部環境などにおける目的物質の同定、検出、定量を目的として多用されている。
これら標識された分子が特異的な分子構造を認識するような抗原や抗体タンパク質、糖類、受容体、リガンド、ヌクレオチドなどである場合、これらの物質は特定の分子構造を同定、検出、定量、可視化するためにも利用される。特に標識物質を分光学的に検出、定量する場合は、以前は放射性同位元素による標識が盛んに行われていたが、近年では色素が多用されている(色素標識法)。標識物質の濃度が低い場合には酵素などで標識し、少量の酵素で基質の転換反応を長時間行わせることにより検出を可能としている(酵素標識法)。
さらには、より最近の傾向として、微小な粒子を用いた標識法が注目されている。これは微小な粒子を用いることで、色素などの標識化合物を粒子に高濃度で蓄積させることが可能となるからである。
しかしながら、無機化合物のナノ粒子は溶液中の凝集性が強く、その粒子表面を標識物質で被覆すると、より凝集性が強くなるため、粒子が粗大化し、感度の低下を招くという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は従って、標識物質で被覆しても、無機化合物ナノ粒子の凝集性が低く、分散性の良好な高分散性無機化合物ナノ粒子を提供するとともに、その効率の良い製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ポリアミン化合物が無機化合物粒子に対して強い吸着性を有し、分散性向上効果を奏するという知見に基づいてなされたものである。
本発明は、機能性分子と、
一級アミノ基、二級アミノ基、及び三級アミノ基のうち少なくとも2個のアミノ基を有する高分子窒素化合物と、
上記アミノ基の少なくとも1個に結合する無機化合物ナノ粒子と、
からなり、上記高分子窒素化合物が上記機能性分子で修飾され、上記無機化合物ナノ粒子が上記機能性分子修飾高分子窒素化合物で被覆されていることを特徴とする機能性分子で修飾された高分散性無機化合物ナノ粒子を提供するものである。
【0006】
本発明に用いる高分子窒素化合物は、数平均分子量が800〜100000であることが好ましく、分子内に一級アミノ基、二級アミノ基、及び三級アミノ基が繰り返し構造単位内に存在することが好ましい。
【0007】
高分子窒素化合物は、直鎖状のポリアミン化合物、枝分れ状のポリアミン化合物、及び環状のポリアミン化合物の単体又は混合物であることが好ましい。
これらのポリアミン化合物のうち、ポリエチレンイミンが特に好適である。
【0008】
無機化合物ナノ粒子は、リン酸カルシウム系化合物又は金属酸化物のナノ粒子であることが好ましい。リン酸カルシウム系化合物としては、ハイドロキシアパタイトが特に好適である。
また、金属酸化物としては、アルミナ、シリカ、酸化マグネシウム、あるいは、酸化鉄(ヘマタイト)などが挙げられ、酸化マグネシウムが特に好適である。
【0009】
本発明において、機能性分子としては、有機化合物色素、無機化合物色素(顔料)、蛍光色素あるいは化学発光原子団を有する化学的に同定可能な分子、又は酵素、抗体、細胞刺激性因子、コラーゲン、ウイルス外皮タンパク質、細胞結合性リガンド、有色タンパク質、蛍光タンパク質、オリゴヌクレオチド、DNA、RNA、金属貯蔵タンパク質、単糖類、オリゴ糖、多糖類などの生体に由来し、特定の機能を有する分子が挙げられる。
【0010】
本発明による高分散性無機化合物ナノ粒子の製造方法は、機能性分子を一級アミノ基、二級アミノ基、及び三級アミノ基のうち少なくとも2個のアミノ基を有する高分子窒素化合物と反応させ、生成した機能性分子修飾高分子窒素化合物を含む溶液と無機化合物ナノ粒子とを混合し、超音波処理した後、遠心分離し、上清を採取し、乾燥することを特徴とする。
【0011】
本発明の高分散性無機化合物ナノ粒子を製造する際には、上記の高分子窒素化合物溶液の溶媒としては、水又は有機溶媒を用いることができ、有機溶媒としては、例えばアルコール類(例えば、エタノール、イソプロパノールなど)を用いることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、無機化合物ナノ粒子の表面を改質し、水溶液中における良好な分散性を有する、様々な機能性分子で被覆された高分散性無機化合物ナノ粒子を提供することができる。また、本発明の高分散性無機化合物ナノ粒子は、様々な標識化合物を初めとする機能性分子で被覆されているため、化学、生化学、医学分野などにおける応用が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の高分散性無機化合物ナノ粒子は、機能性分子と高分子窒素化合物とを反応させて得られた機能性分子修飾高分子窒素化合物によって無機化合物ナノ粒子が被覆されている。
機能性分子としては、特に制限はなく、有機化合物色素、無機化合物色素(顔料)、蛍光色素あるいは化学発光原子団を有する化学的に同定可能な分子、又は酵素、抗体、細胞刺激性因子、コラーゲン、ウイルス外皮タンパク質、細胞結合性リガンド、有色タンパク質、蛍光タンパク質、オリゴヌクレオチド、DNA、RNA、金属貯蔵タンパク質、単糖類、オリゴ糖、多糖類などの生体に由来し、特定の機能を有する分子が挙げられる。
また、高分子窒素化合物は、分子内に一級アミノ基、二級アミノ基、及び三級アミノ基のうち少なくとも2個のアミノ基を有するものであればよく、例えば、ポリアミン化合物を用いることができる。ポリアミン化合物は、直鎖状、枝分れ状、及び環状のいずれであってもよく、分子内に一級アミノ基、二級アミノ基、及び三級アミノ基が繰り返し構造単位内により多数存在すると、無機化合物ナノ粒子との結合サイトが増えるため好ましい。
【0014】
また、ポリアミン化合物としては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリリジンなどを用いることができ、特にポリエチレンイミン(図2)であることが好適である。ポリエチレンイミンは、エチレンイミン(図1)の重合体であり、重合に関与するアミノ基によって分子構造が異なる。図3は、一級アミノ基と二級アミノ基のみからなるポリエチレンイミンの分子構造を模式的に示し、図4は、一級アミノ基と三級アミノ基のみからなるポリエチレンイミンの分子構造を模式的に示している。
【0015】
ポリアミン化合物(高分子窒素化合物)の数平均分子量は、800〜100000であることが好ましい。数平均分子量が800未満であると、ポリアミン化合物が無機化合物ナノ粒子を完全に覆うことが困難となり、粒子同士の結合のため良好な分散性を得ることが困難になる。また、数平均分子量が100000を超えると、ポリアミン化合物同士の結合により、大きな凝集塊を作ってしまうため良好な分散性を得ることが困難になる。
【0016】
本発明の高分散性無機化合物ナノ粒子は、無機化合物粒子の固体酸点(電子対受容体)で高分子窒素化合物のアミノ基の少なくとも1個に結合することによって、高分子窒素化合物で被覆されている。無機化合物としては、リン酸カルシウム系化合物又は金属酸化物が挙げられる。
リン酸カルシウム系化合物は、Ca/P比1.0〜2.0のものであればよく、例えば、ハイドロキシアパタイト、フッ素アパタイトなどの各種のアパタイト、第一リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウムなどが挙げられ、これらは単独または混合物として用いることができる。
また、金属酸化物としては、酸化アルミニウム、二酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化鉄(ヘマタイト)などが挙げられる。
【0017】
本発明に用いる無機化合物のナノ粒子は、2nmから1000nm(1μm)の平均粒子径のものであるのが好ましい。平均粒子径が2nmより小さいナノ粒子は、産業上利用できる程度に多量に製造するのは困難であり、1000nmを越えるものは、あまり凝集せず、それ自体でも比較的に分散性が良好である。
【0018】
本発明に原料として用いる無機化合物ナノ粒子は、微粒子にナノ粒子が付着した状態のもの、ナノ粒子が凝集した状態のもの等であってよく、任意の方法で製造されたものであってよい。
一例として、本発明者らが開発したリン酸カルシウム系化合物ナノ粒子の製造方法を次に説明する。すなわち、リン酸カルシウム系化合物ナノ粒子は、リン酸カルシウム系化合物を熱処理し、得られたリン酸カルシウム系化合物粒子を有機溶媒に分散させ、解砕処理し、得られたリン酸カルシウム系化合物分散液を遠心分離し、上清を採取し、必要に応じて乾燥することによって製造することができる。この製造方法において解砕処理前に、熱処理済みリン酸カルシウム系化合物粒子をボールミル処理することもできる。
【0019】
上記方法に原料として使用するリン酸カルシウム系化合物は、公知の方法で合成し、熱処理する前に乾燥し、必要に応じて造粒することが好ましい。造粒は、公知の方法によって行うことができるが、スプレードライ法によって体積比が70%以上の多孔体にすることが好ましい。
上記方法では、まず、リン酸カルシウム系化合物を公知の加熱手段で熱処理して熱履歴を与える。熱処理温度に制限はないが、400℃から1050℃の温度範囲で熱処理されることが好ましい。400℃よりも低温であると、十分な強度が得られず、使用強度が低下してしまう。1050℃より高温であると、一部または全部が焼結してしまい、ナノ粒子の収率が低下する。
【0020】
熱処理後、例えば、超音波処理、ホモジナイザー、振とう器、乳鉢などの解砕処理によって有機溶媒に分散させる。有機溶媒としては、極性有機溶媒が好ましく、例えば、アルコール(例えば、エタノール、イソプロパノールなど)、エーテル(例えば、2−エトキシエタノールなど)、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシドなどを用いることができる。
【0021】
解砕処理前に、リン酸カルシウム系化合物粒子をボールミル装置によって処理することもできる。ボールミル装置は、通常、摺り運動によって試料を解砕するボール(メディア)を用いるが、ボールを用いずに処理を行うと、球状の(アスペクト比が1に近い)ナノ粒子を高い収率で得ることができる。このとき、有機溶媒等を介在させない(ポット内にリン酸カルシウム系化合物粒子のみが入れられた)ドライ状態(以下、ドライミル処理と称する)であることがよい。
【0022】
このように得られたリン酸カルシウム系化合物分散液を遠心分離し、有機溶媒相に分散されたリン酸カルシウム系化合物ナノ粒子を含む上清とそれより粒径の大きい粒子の沈殿とに分画する。その後、上清の有機溶媒を蒸発させ、リン酸カルシウム系化合物ナノ粒子を得る。
【0023】
本発明の高分散性無機化合物ナノ粒子は、機能性分子を一級アミノ基、二級アミノ基、及び三級アミノ基のうち少なくとも2個のアミノ基を有する高分子窒素化合物と反応させ、生成した機能性分子修飾高分子窒素化合物を含む溶液と無機化合物ナノ粒子とを混合し、超音波処理した後、遠心分離し、上清を採取し、乾燥することによって製造することができる。
高分散性無機化合物ナノ粒子の分散性は、本発明に使用する機能性分子と高分子窒素化合物との反応溶液の溶媒の種類によっては大きな差異はないため、溶媒としては、使用する高分子窒素化合物が可溶性の溶媒であれば任意のものを用いることができる。高分子窒素化合物が、例えば、PEIである場合には、溶媒として、水又はアルコール類(例えば、エタノール、イソプロパノールなど)を用いることができる。
【0024】
また、機能性分子の濃度については、使用目的などに応じて適宜決定することができる。
さらに、使用する高分子窒素化合物溶液の濃度についても、被覆すべき無機化合物ナノ粒子の種類、量、表面積などにより左右され、一義的に定めることはできない。しかし、高分子窒素化合物の濃度が薄すぎると、高分子窒素化合物は粒子と結合するが、完全に被覆することはできないため、粒子同士の結合により凝集が起こってしまう。高分子窒素化合物の濃度が高すぎると、高分子窒素化合物は粒子と結合するが、高分子窒素化合物同士でも結合してしまうため、大きなミセルを作ってしまい、結果として凝集作用を引き起こしてしまう。そのため、その都度被覆すべき無機化合物ナノ粒子の種類、量、表面積などに応じて適宜選定することが好ましい。
【0025】
さらに、無機化合物ナノ粒子に対する高分子窒素化合物の好適な被覆量は、被覆すべき無機化合物ナノ粒子の種類や表面積、使用する高分子窒素化合物の種類、分子量などによって変動し、一義的に決定することはできないが、例えば、ハイドロキシアパタイトナノ粒子をポリエチレンイミン(以下、PEIと略記する)で被覆する場合には、PEI/ナノ粒子重量比を1〜100mg/gとするのが好ましく、10〜50mg/gとするのがより好ましい。
酸化マグネシウムナノ粒子をPEIで被覆する場合には、PEI/ナノ粒子重量比を0.1〜10mg/gとするのが好ましく、1mg/gとするのが特に好ましい。また、酸化アルミニウム、二酸化珪素、酸化チタン又は酸化鉄(ヘマタイト)のナノ粒子をPEIで被覆する場合には、PEI/ナノ粒子重量比を1〜100mg/gとするのが好ましく、50mg/gとするのが特に好ましい。
【0026】
無機化合物ナノ粒子は、凝集しやすいので、高分子窒素化合物溶液と混合した後、超音波処理する。超音波処理により、無機化合物ナノ粒子を機械的に分散させることと同時に高分子窒素化合物を無機化合物ナノ粒子に均一に効率よく被覆することが可能になる。
上記のリン酸カルシウム系化合物ナノ粒子の製造方法を使用する場合には、熱処理済み粒子を解砕処理(超音波処理)する前に高分子窒素化合物溶液と混合してもよい。
【0027】
このように得られた高分子窒素化合物被覆無機化合物ナノ粒子分散液を遠心分離し、この被覆無機化合物ナノ粒子を含む上清を採取し、乾燥することによって、高分子窒素化合物で被覆された無機化合物ナノ粒子を得ることができる。
超音波処理時には、分散・被覆効果を高めるために高濃度の無機化合物ナノ粒子溶液に調整している。そのため、上記の遠心分離前には、必要に応じて蒸留水を加えて希釈してもよい。
【0028】
次に、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
以下の実施例で得られた高分子窒素化合物被覆無機化合物ナノ粒子は、下記の方法で評価した。
(a)粒子の形状
被覆ナノ粒子の形状は、透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察した。透過型電子顕微鏡には、株式会社日立製作所製H−7600を使用した。
(b)蛍光顕微鏡写真
機能性分子修飾ポリエチレンイミン(PEI)被覆ナノ粒子及びPEI被覆ナノ粒子について、蛍光顕微鏡により観察した。これらの観察には株式会社Leica製正立顕微鏡DMRを使用し、BP480/40の励起フィルター、BP600/40の吸収フィルターを用いた。上記ナノ粒子をスライドガラスに適量を滴下し、油浸レンズにて撮影を行った。
(c)粒度分布
被覆ナノ粒子分散液について、粒度分布を測定した。これらの粒度分布の測定には、ベックマン・コールター株式会社製サブミクロン粒子アナライザーN5を使用し、動的散乱法で行った。各実施例および比較例には3回測定した結果を示す。なお、各粒度分布図の縦軸は、ピーク強度(%)を示している。縦軸の目盛は、下側から順に20、40、60、80、及び100が印されている。また、横軸は、Log対数で表したナノ粒子の粒子径(nm)を示している。横軸の目盛は、左側から順に2、4、8、16、32、64、128、256、512、1024、及び2048が印されている。グラフは、青色が1回目、赤色が2回目、緑色が3回目の測定結果を示している。
(d)蛍光強度
一般に蛍光とは、蛍光物質がそれぞれに応じた特定波長の光エネルギーを吸収することで安定な基底状態から不安定な励起状態へと移り、再び基底状態に戻る時に放出するエネルギーの一部が光となったものである。Fluorescein−4−isothiocyanate(以下FITCと略す)の場合、495nmの光を吸収し、520nmの蛍光を発する。したがって、495nm付近での吸光スペクトルによりFITCの有無が確認できる。
そこで、FITC修飾PEI被覆ナノ粒子分散液について、吸光スペクトルを測定した。吸光スペクトルの測定には、島津製作所製紫外可視分光光度計BioSpec−1600を使用した。
【実施例1】
【0030】
FITC修飾PEIのハイドロキシアパタイトナノ粒子(以下HAナノ粒子と略す)へのコーティングおよび光特性
(1)FITC修飾PEI溶液の調製
蒸留水100mlに溶解したFITC5.4mgとPEI(和光純薬社製P−70;平均分子量70000)100mgとを混合し、さらに1.75mg/mlのポリエチレンイミン濃度となるように蒸留水で希釈し、FITC修飾PEI溶液を調製した。
(2)ハイドロキシアパタイト粒子の作製
リン酸塩水溶液とカルシウム塩水溶液とを混合し、ハイドロキシアパタイトを含有するスラリーを得た。このハイドロキシアパタイト含有スラリーをスプレードライ装置を用いて200℃で乾燥して、造粒した。さらに、分級して平均粒径10umとした。得られたハイドロキシアパタイト粒子を電気炉に入れて熱処理した。熱処理は、50℃/hrにて850℃まで昇温し、850℃で4時間保持して行い、ハイドロキシアパタイト粒子(以下HA粒子と略す)を得た。
(3)FITC修飾PEI被覆ハイドロキシアパタイトナノ粒子の作製
上記(2)のとおり作製して得られたHA粒子1.0gを内容量45mlのポット(ジルコニア製)に入れ、遊星型ボールミル(フリッチュ社製;P−7)によって、回転数800rpmで3時間のドライミル処理を行った。なお、ドライミル処理は、遊星型ボールミルのポット内にメディアを入れずに行った。ドライミル処理後のHA粒子を回収し、ドライミルHA粒子を得た。
ドライミルHA粒子10gを、上記(1)のように調製したFITC修飾PEI溶液30mlを加え分散させ、超音波発生装置(TAITEC社製;VP−30S)を用いて超音波処理(出力180Wにて5分間)によりHA粒子の解砕およびHA粒子表面へのFITC修飾PEIの被覆を行った。その後、蒸留水を加えて、全量を100mlとして、4100×gにて5分間、遠心分離を行った。遠心分離後の上清、すなわちFITC修飾PEI被覆HAナノ粒子を採取した。
【0031】
本実施例で得られたFITC修飾PEI被覆HAナノ粒子の各種分析結果について以下に示す。
(a)粒子の形状
図5にFITC修飾PEI被覆HAナノ粒子の透過電子顕微鏡写真を示す。このTEM写真に示すように、30nm〜175nm程度の球状または楕円球状のHAナノ粒子が単分散または数個単位で集まった状態で分散していた。
(b)蛍光顕微鏡写真
図6は1000倍にて撮影した蛍光顕微鏡写真である。白色部がFITCによる蛍光である。粒子がとても小さいため、全体的にうすぼんやりと光って見える。白の濃い部分は粒子が凝集している部分である。
(c)粒度分布
図7は、FITC修飾PEI被覆HAナノ粒子分散液の動的散乱法による粒度分布図であり、分散液中のナノ粒子の平均粒径は約192nmであった。
【実施例2】
【0032】
FITC修飾PEIのアルミナナノ粒子へのコーティングおよび光特性
アルミナナノ粒子にFITC修飾PEIを下記の方法で被覆させた。
アルミナナノ粒子(シーアイ化成株式会社製NanoTek Powder;Al2O3)1gに、実施例1と同様に調製したFITC修飾PEI溶液30mlを加え分散させ、超音波発生装置(TAITEC社製;VP−30S)を用いて超音波処理(出力180Wにて1分間)によりアルミナナノ粒子にFITC修飾PEIを被覆した。その後、蒸留水を加えて、全量を100mlとして、4100×gにて5分間、遠心分離を行った。遠心分離後の上清、すなわちFITC修飾PEI被覆アルミナナノ粒子を採取した。
本実施例で得られたFITC修飾PEI被覆アルミナナノ粒子の各種分析結果について以下に示す。
(a)粒子の形状
図8にFITC修飾PEI被覆アルミナナノ粒子の透過電子顕微鏡写真を示す。このTEM写真に示すように、5nm〜150nm程度の球状のナノ粒子が数個〜複数個単位で集まった状態で分散していた。
(b)蛍光顕微鏡写真
図9は1000倍にて撮影した蛍光顕微鏡写真である。白色部がFITCによる蛍光である。粒子がとても小さいため、全体的にうすぼんやりと光って見える。白の濃い部分は粒子が凝集している部分である。
(c)粒度分布
図10は、FITC修飾PEI被覆アルミナナノ粒子分散液の動的散乱法による粒度分布図であり、図から、分散液中のナノ粒子の平均粒径は約198nmであった。
(d)蛍光スペクトル
図11にFITC修飾PEI被覆アルミナナノ粒子分散液の吸収スペクトルを示す。図から500nm付近をピークトップとしたブロードな吸収ピークが見られた。
【実施例3】
【0033】
FITC修飾PEIのシリカナノ粒子へのコーティングおよび光特性
FITC修飾PEI被覆シリカナノ粒子は、原料粒子にシリカナノ粒子(シーアイ化成株式会社製NanoTek Powder;SiO2)を用いた以外は実施例2と同様にして作製し、各種分析を行った。
【0034】
本実施例で得られたFITC修飾PEI被覆シリカナノ粒子の各種分析結果について以下に示す。
(a)粒子の形状
図12にはFITC修飾PEI被覆シリカナノ粒子の透過電子顕微鏡写真を示す。このTEM写真に示すように、9nm〜120nm程度の球状または楕円球状のシリカナノ粒子が単分散または複数個単位で集まった状態で分散していた。
(b)蛍光顕微鏡写真
図13は1000倍にて撮影した蛍光顕微鏡写真である。白色部がFITCによる蛍光である。粒子がとても小さいため、全体的にうすぼんやりと光って見える。白の濃い部分は粒子が凝集している部分である。
(c)粒度分布
図14は、FITC修飾PEI被覆シリカナノ粒子分散液の動的散乱法による粒度分布図であり、図から、分散液中のナノ粒子の平均粒径は約243nmであった。
(d)蛍光スペクトル
図15にFITC修飾PEI被覆シリカナノ粒子分散液の吸収スペクトルを示す。図から500nm付近をピークトップとしたブロードな吸収ピークが見られた。
【実施例4】
【0035】
ローダミン修飾PEIのHAナノ粒子へのコーティングおよび光特性
(1)ローダミン修飾PEI溶液の調製
蒸留水100mlに溶解したローダミン(RhodamineB isothiocyanate)7.5mgとPEI(和光純薬社製P−70;平均分子量70000)100mgとを混合し、さらに1.75mg/mlのポリエチレンイミン濃度となるように蒸留水で希釈し、ローダミン修飾ポリエチレンイミン溶液を調製した。
(2)ローダミン修飾PEI被覆HAナノ粒子の作製
上記(1)のように調製したローダミン修飾PEI溶液を用いた以外は実施例1と同様にしてローダミン修飾PEI被覆HAナノ粒子を作製した。
【0036】
本実施例で得られたローダミン修飾PEI被覆HAナノ粒子の各種分析結果について以下に示す。
(a)粒子の形状
図16にローダミン修飾PEI被覆HAナノ粒子の透過電子顕微鏡写真を示す。このTEM写真に示すように、50nm〜180nm程度の球状または楕円球状のHAナノ粒子が単分散または数個単位で集まった状態で分散していた。
(b)蛍光顕微鏡写真
図17にローダミン修飾PEI被覆HAナノ粒子の蛍光顕微鏡写真を示す。撮影倍率は1000倍であり、同一の視野をAは位相差観察、Bは蛍光観察で撮影したものである。粒子がとても小さく、ローダミンによる蛍光が非常に強いため、露光時間を短くして撮影したものであるが、全体的にうすぼんやりと光って見える。特に赤色の濃い部分は粒子が凝集している部分である。
(c)粒度分布
図18は、ローダミン修飾PEI被覆HAナノ粒子分散液の動的散乱法による粒度分布図であり、図から、分散液中のナノ粒子の平均粒径は約181nmであった。
【比較例1】
【0037】
FITC単独での光特性
実施例1〜3と同様なFITC濃度となるように、FITCを蒸留水に溶解したFITC溶液について、各種分析結果を以下に示す。
(b)蛍光顕微鏡写真
図19にFITC溶液の蛍光顕微鏡写真を示す。撮影倍率は100倍であり、同一の視野をAは位相差観察、Bは蛍光観察で撮影したものである。写真の左側にのみ溶液を滴下した。左側のFITC溶液部のみ、蛍光が観察された。
(d)蛍光強度
図20にFITC溶液の吸収スペクトルを示す。図から200nm付近のピークと500nm付近をピークトップとしたブロードな吸収ピークが見られた。
【比較例2】
【0038】
PEIとFITCの結合の証明
FITC修飾PEI溶液の調製
蒸留水100μlに溶解したFITC5.4mgとPEI(和光純薬社製P−70;平均分子量70000)100mgとを混合し、さらに1.75mg/mlのポリエチレンイミン濃度となるように蒸留水で希釈し、FITC修飾PEI溶液を調製した。
調製したFITC修飾PEI溶液はゲルろ過クロマトにより分級を行い、過剰なFITCを除去した。
得られたFITC修飾PEI溶液について、各種分析結果を以下に示す。
(b)蛍光顕微鏡写真
図21ABにFITC修飾PEI溶液の蛍光顕微鏡写真を示す。撮影倍率は100倍であり、同一の視野をAは位相差観察、Bは蛍光観察で撮影したものである。写真の左側にのみ溶液を滴下した。左側の溶液部のみ、蛍光が観察された。
(d)蛍光強度
図22にFITC修飾PEI溶液の吸収スペクトルを示す。参考例1と同様に200nm付近のピークと500nm付近をピークトップとしたブロードな吸収ピークが見られた。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】エチレンイミンモノマーの分子式を示す図である。
【図2】ポリエチレンイミンの分子構造を示す図である。
【図3】一級、二級アミノ基のみからなるポリエチレンイミンの分子構造を示す模式図である。
【図4】一級、三級アミノ基のみからなるポリエチレンイミンの分子構造を示す模式図である。
【図5】実施例1で製造したFIPC修飾PEI被覆ハイドロキシアパタイトナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例1で製造したFIPC修飾PEI被覆ハイドロキシアパタイトナノ粒子の蛍光顕微鏡写真である。
【図7】実施例1で製造したFIPC修飾PEI被覆ハイドロキシアパタイトナノ粒子の粒度分布図である。
【図8】実施例2で製造したFIPC修飾PEI被覆アルミナナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図9】実施例2で製造したFIPC修飾PEI被覆アルミナナノ粒子の蛍光顕微鏡写真である。
【図10】実施例2で製造したFIPC修飾PEI被覆アルミナナノ粒子の粒度分布図である。
【図11】実施例2で製造したFIPC修飾PEI被覆アルミナナノ粒子の蛍光スペクトル図である。
【図12】実施例3で製造したFIPC修飾PEI被覆シリカナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図13】実施例3で製造したFIPC修飾PEI被覆シリカナノ粒子の蛍光顕微鏡写真である。
【図14】実施例3で製造したFIPC修飾PEI被覆シリカナノ粒子の粒度分布図である。
【図15】実施例3で製造したFIPC修飾PEI被覆シリカナノ粒子の蛍光スペクトル図である。
【図16】実施例4で製造したローダミン修飾PEI被覆ハイドロキシアパタイトナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図17】実施例4で製造したローダミン修飾PEI被覆ハイドロキシアパタイトナノ粒子の蛍光顕微鏡写真である。
【図18】実施例4で製造したローダミン修飾PEI被覆ハイドロキシアパタイトナノ粒子の粒度分布図である。
【図19】比較例1で調製したFITC溶液の蛍光顕微鏡写真である。
【図20】比較例1で調製したFITC溶液の蛍光スペクトル図である。
【図21】比較例2で調製したFITC修飾PEI溶液の蛍光顕微鏡写真である。
【図22】比較例2で調製したFITC修飾PEI溶液の蛍光スペクトル図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な機能性分子と結合した分散性の良好な高分散性無機化合物ナノ粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノテクノロジーの研究が盛んに行われ、様々な産業分野において、材料となる物質の微粒子化(ナノ粒子化)が研究されている。ナノ粒子化した物質は、流動性の向上、表面積の増大、表面での反応性を顕著化させるなどの性質を示すため、このような物性の変化を応用することによって、例えば、圧縮成型時の密度向上、吸着容量の増大、化学反応触媒としての機能向上、他の物質との複合化などを容易に達成できるようになる。他材料との混合および複合化による機能付与は、例えば、塗料、表面改質材料、化粧品、高屈折率ガラス、セラミックス、強磁性材料、半導体材料などに多く利用されている。
【0003】
このように、物質をナノ粒子化することは、極めて重要な技術であり、化学、生化学、分子生物学、医学分野への応用も有望である。最近では例えば、微小な粒子に標識化合物を結合させて特定の分子構造を同定、検出、定量、可視化することが試みられている。粒子としては、保存時の安定性が非常に優れ、生体に無害なリン酸カルシウム系化合物、シリカなどが用いられている。このような粒子をナノ粒子化して用いることができれば、より多くの標識化合物分子と結合させることができ、感度の大幅な向上を実現できると考えられる。
たとえば、タンパク質は一部の有色タンパク質などの特殊な例を除くと、溶液中では透明であるため目視することはできない。また、多くの物質が混在している状態で特定のタンパク質のみを検出することも困難である。このため、タンパク質に特異的な光特性を持った色素分子を結合する、放射性同位元素で標識する、あるいは他の酵素などを結合するといった解決手段が開発され、混合物中の目的タンパク質の検出、定量がなされている。上記の解決手段はタンパク質のみならず、DNAやRNA、糖類などが混在する溶液系や生体内部環境などにおける目的物質の同定、検出、定量を目的として多用されている。
これら標識された分子が特異的な分子構造を認識するような抗原や抗体タンパク質、糖類、受容体、リガンド、ヌクレオチドなどである場合、これらの物質は特定の分子構造を同定、検出、定量、可視化するためにも利用される。特に標識物質を分光学的に検出、定量する場合は、以前は放射性同位元素による標識が盛んに行われていたが、近年では色素が多用されている(色素標識法)。標識物質の濃度が低い場合には酵素などで標識し、少量の酵素で基質の転換反応を長時間行わせることにより検出を可能としている(酵素標識法)。
さらには、より最近の傾向として、微小な粒子を用いた標識法が注目されている。これは微小な粒子を用いることで、色素などの標識化合物を粒子に高濃度で蓄積させることが可能となるからである。
しかしながら、無機化合物のナノ粒子は溶液中の凝集性が強く、その粒子表面を標識物質で被覆すると、より凝集性が強くなるため、粒子が粗大化し、感度の低下を招くという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は従って、標識物質で被覆しても、無機化合物ナノ粒子の凝集性が低く、分散性の良好な高分散性無機化合物ナノ粒子を提供するとともに、その効率の良い製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ポリアミン化合物が無機化合物粒子に対して強い吸着性を有し、分散性向上効果を奏するという知見に基づいてなされたものである。
本発明は、機能性分子と、
一級アミノ基、二級アミノ基、及び三級アミノ基のうち少なくとも2個のアミノ基を有する高分子窒素化合物と、
上記アミノ基の少なくとも1個に結合する無機化合物ナノ粒子と、
からなり、上記高分子窒素化合物が上記機能性分子で修飾され、上記無機化合物ナノ粒子が上記機能性分子修飾高分子窒素化合物で被覆されていることを特徴とする機能性分子で修飾された高分散性無機化合物ナノ粒子を提供するものである。
【0006】
本発明に用いる高分子窒素化合物は、数平均分子量が800〜100000であることが好ましく、分子内に一級アミノ基、二級アミノ基、及び三級アミノ基が繰り返し構造単位内に存在することが好ましい。
【0007】
高分子窒素化合物は、直鎖状のポリアミン化合物、枝分れ状のポリアミン化合物、及び環状のポリアミン化合物の単体又は混合物であることが好ましい。
これらのポリアミン化合物のうち、ポリエチレンイミンが特に好適である。
【0008】
無機化合物ナノ粒子は、リン酸カルシウム系化合物又は金属酸化物のナノ粒子であることが好ましい。リン酸カルシウム系化合物としては、ハイドロキシアパタイトが特に好適である。
また、金属酸化物としては、アルミナ、シリカ、酸化マグネシウム、あるいは、酸化鉄(ヘマタイト)などが挙げられ、酸化マグネシウムが特に好適である。
【0009】
本発明において、機能性分子としては、有機化合物色素、無機化合物色素(顔料)、蛍光色素あるいは化学発光原子団を有する化学的に同定可能な分子、又は酵素、抗体、細胞刺激性因子、コラーゲン、ウイルス外皮タンパク質、細胞結合性リガンド、有色タンパク質、蛍光タンパク質、オリゴヌクレオチド、DNA、RNA、金属貯蔵タンパク質、単糖類、オリゴ糖、多糖類などの生体に由来し、特定の機能を有する分子が挙げられる。
【0010】
本発明による高分散性無機化合物ナノ粒子の製造方法は、機能性分子を一級アミノ基、二級アミノ基、及び三級アミノ基のうち少なくとも2個のアミノ基を有する高分子窒素化合物と反応させ、生成した機能性分子修飾高分子窒素化合物を含む溶液と無機化合物ナノ粒子とを混合し、超音波処理した後、遠心分離し、上清を採取し、乾燥することを特徴とする。
【0011】
本発明の高分散性無機化合物ナノ粒子を製造する際には、上記の高分子窒素化合物溶液の溶媒としては、水又は有機溶媒を用いることができ、有機溶媒としては、例えばアルコール類(例えば、エタノール、イソプロパノールなど)を用いることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、無機化合物ナノ粒子の表面を改質し、水溶液中における良好な分散性を有する、様々な機能性分子で被覆された高分散性無機化合物ナノ粒子を提供することができる。また、本発明の高分散性無機化合物ナノ粒子は、様々な標識化合物を初めとする機能性分子で被覆されているため、化学、生化学、医学分野などにおける応用が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の高分散性無機化合物ナノ粒子は、機能性分子と高分子窒素化合物とを反応させて得られた機能性分子修飾高分子窒素化合物によって無機化合物ナノ粒子が被覆されている。
機能性分子としては、特に制限はなく、有機化合物色素、無機化合物色素(顔料)、蛍光色素あるいは化学発光原子団を有する化学的に同定可能な分子、又は酵素、抗体、細胞刺激性因子、コラーゲン、ウイルス外皮タンパク質、細胞結合性リガンド、有色タンパク質、蛍光タンパク質、オリゴヌクレオチド、DNA、RNA、金属貯蔵タンパク質、単糖類、オリゴ糖、多糖類などの生体に由来し、特定の機能を有する分子が挙げられる。
また、高分子窒素化合物は、分子内に一級アミノ基、二級アミノ基、及び三級アミノ基のうち少なくとも2個のアミノ基を有するものであればよく、例えば、ポリアミン化合物を用いることができる。ポリアミン化合物は、直鎖状、枝分れ状、及び環状のいずれであってもよく、分子内に一級アミノ基、二級アミノ基、及び三級アミノ基が繰り返し構造単位内により多数存在すると、無機化合物ナノ粒子との結合サイトが増えるため好ましい。
【0014】
また、ポリアミン化合物としては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリリジンなどを用いることができ、特にポリエチレンイミン(図2)であることが好適である。ポリエチレンイミンは、エチレンイミン(図1)の重合体であり、重合に関与するアミノ基によって分子構造が異なる。図3は、一級アミノ基と二級アミノ基のみからなるポリエチレンイミンの分子構造を模式的に示し、図4は、一級アミノ基と三級アミノ基のみからなるポリエチレンイミンの分子構造を模式的に示している。
【0015】
ポリアミン化合物(高分子窒素化合物)の数平均分子量は、800〜100000であることが好ましい。数平均分子量が800未満であると、ポリアミン化合物が無機化合物ナノ粒子を完全に覆うことが困難となり、粒子同士の結合のため良好な分散性を得ることが困難になる。また、数平均分子量が100000を超えると、ポリアミン化合物同士の結合により、大きな凝集塊を作ってしまうため良好な分散性を得ることが困難になる。
【0016】
本発明の高分散性無機化合物ナノ粒子は、無機化合物粒子の固体酸点(電子対受容体)で高分子窒素化合物のアミノ基の少なくとも1個に結合することによって、高分子窒素化合物で被覆されている。無機化合物としては、リン酸カルシウム系化合物又は金属酸化物が挙げられる。
リン酸カルシウム系化合物は、Ca/P比1.0〜2.0のものであればよく、例えば、ハイドロキシアパタイト、フッ素アパタイトなどの各種のアパタイト、第一リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウムなどが挙げられ、これらは単独または混合物として用いることができる。
また、金属酸化物としては、酸化アルミニウム、二酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化鉄(ヘマタイト)などが挙げられる。
【0017】
本発明に用いる無機化合物のナノ粒子は、2nmから1000nm(1μm)の平均粒子径のものであるのが好ましい。平均粒子径が2nmより小さいナノ粒子は、産業上利用できる程度に多量に製造するのは困難であり、1000nmを越えるものは、あまり凝集せず、それ自体でも比較的に分散性が良好である。
【0018】
本発明に原料として用いる無機化合物ナノ粒子は、微粒子にナノ粒子が付着した状態のもの、ナノ粒子が凝集した状態のもの等であってよく、任意の方法で製造されたものであってよい。
一例として、本発明者らが開発したリン酸カルシウム系化合物ナノ粒子の製造方法を次に説明する。すなわち、リン酸カルシウム系化合物ナノ粒子は、リン酸カルシウム系化合物を熱処理し、得られたリン酸カルシウム系化合物粒子を有機溶媒に分散させ、解砕処理し、得られたリン酸カルシウム系化合物分散液を遠心分離し、上清を採取し、必要に応じて乾燥することによって製造することができる。この製造方法において解砕処理前に、熱処理済みリン酸カルシウム系化合物粒子をボールミル処理することもできる。
【0019】
上記方法に原料として使用するリン酸カルシウム系化合物は、公知の方法で合成し、熱処理する前に乾燥し、必要に応じて造粒することが好ましい。造粒は、公知の方法によって行うことができるが、スプレードライ法によって体積比が70%以上の多孔体にすることが好ましい。
上記方法では、まず、リン酸カルシウム系化合物を公知の加熱手段で熱処理して熱履歴を与える。熱処理温度に制限はないが、400℃から1050℃の温度範囲で熱処理されることが好ましい。400℃よりも低温であると、十分な強度が得られず、使用強度が低下してしまう。1050℃より高温であると、一部または全部が焼結してしまい、ナノ粒子の収率が低下する。
【0020】
熱処理後、例えば、超音波処理、ホモジナイザー、振とう器、乳鉢などの解砕処理によって有機溶媒に分散させる。有機溶媒としては、極性有機溶媒が好ましく、例えば、アルコール(例えば、エタノール、イソプロパノールなど)、エーテル(例えば、2−エトキシエタノールなど)、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシドなどを用いることができる。
【0021】
解砕処理前に、リン酸カルシウム系化合物粒子をボールミル装置によって処理することもできる。ボールミル装置は、通常、摺り運動によって試料を解砕するボール(メディア)を用いるが、ボールを用いずに処理を行うと、球状の(アスペクト比が1に近い)ナノ粒子を高い収率で得ることができる。このとき、有機溶媒等を介在させない(ポット内にリン酸カルシウム系化合物粒子のみが入れられた)ドライ状態(以下、ドライミル処理と称する)であることがよい。
【0022】
このように得られたリン酸カルシウム系化合物分散液を遠心分離し、有機溶媒相に分散されたリン酸カルシウム系化合物ナノ粒子を含む上清とそれより粒径の大きい粒子の沈殿とに分画する。その後、上清の有機溶媒を蒸発させ、リン酸カルシウム系化合物ナノ粒子を得る。
【0023】
本発明の高分散性無機化合物ナノ粒子は、機能性分子を一級アミノ基、二級アミノ基、及び三級アミノ基のうち少なくとも2個のアミノ基を有する高分子窒素化合物と反応させ、生成した機能性分子修飾高分子窒素化合物を含む溶液と無機化合物ナノ粒子とを混合し、超音波処理した後、遠心分離し、上清を採取し、乾燥することによって製造することができる。
高分散性無機化合物ナノ粒子の分散性は、本発明に使用する機能性分子と高分子窒素化合物との反応溶液の溶媒の種類によっては大きな差異はないため、溶媒としては、使用する高分子窒素化合物が可溶性の溶媒であれば任意のものを用いることができる。高分子窒素化合物が、例えば、PEIである場合には、溶媒として、水又はアルコール類(例えば、エタノール、イソプロパノールなど)を用いることができる。
【0024】
また、機能性分子の濃度については、使用目的などに応じて適宜決定することができる。
さらに、使用する高分子窒素化合物溶液の濃度についても、被覆すべき無機化合物ナノ粒子の種類、量、表面積などにより左右され、一義的に定めることはできない。しかし、高分子窒素化合物の濃度が薄すぎると、高分子窒素化合物は粒子と結合するが、完全に被覆することはできないため、粒子同士の結合により凝集が起こってしまう。高分子窒素化合物の濃度が高すぎると、高分子窒素化合物は粒子と結合するが、高分子窒素化合物同士でも結合してしまうため、大きなミセルを作ってしまい、結果として凝集作用を引き起こしてしまう。そのため、その都度被覆すべき無機化合物ナノ粒子の種類、量、表面積などに応じて適宜選定することが好ましい。
【0025】
さらに、無機化合物ナノ粒子に対する高分子窒素化合物の好適な被覆量は、被覆すべき無機化合物ナノ粒子の種類や表面積、使用する高分子窒素化合物の種類、分子量などによって変動し、一義的に決定することはできないが、例えば、ハイドロキシアパタイトナノ粒子をポリエチレンイミン(以下、PEIと略記する)で被覆する場合には、PEI/ナノ粒子重量比を1〜100mg/gとするのが好ましく、10〜50mg/gとするのがより好ましい。
酸化マグネシウムナノ粒子をPEIで被覆する場合には、PEI/ナノ粒子重量比を0.1〜10mg/gとするのが好ましく、1mg/gとするのが特に好ましい。また、酸化アルミニウム、二酸化珪素、酸化チタン又は酸化鉄(ヘマタイト)のナノ粒子をPEIで被覆する場合には、PEI/ナノ粒子重量比を1〜100mg/gとするのが好ましく、50mg/gとするのが特に好ましい。
【0026】
無機化合物ナノ粒子は、凝集しやすいので、高分子窒素化合物溶液と混合した後、超音波処理する。超音波処理により、無機化合物ナノ粒子を機械的に分散させることと同時に高分子窒素化合物を無機化合物ナノ粒子に均一に効率よく被覆することが可能になる。
上記のリン酸カルシウム系化合物ナノ粒子の製造方法を使用する場合には、熱処理済み粒子を解砕処理(超音波処理)する前に高分子窒素化合物溶液と混合してもよい。
【0027】
このように得られた高分子窒素化合物被覆無機化合物ナノ粒子分散液を遠心分離し、この被覆無機化合物ナノ粒子を含む上清を採取し、乾燥することによって、高分子窒素化合物で被覆された無機化合物ナノ粒子を得ることができる。
超音波処理時には、分散・被覆効果を高めるために高濃度の無機化合物ナノ粒子溶液に調整している。そのため、上記の遠心分離前には、必要に応じて蒸留水を加えて希釈してもよい。
【0028】
次に、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
以下の実施例で得られた高分子窒素化合物被覆無機化合物ナノ粒子は、下記の方法で評価した。
(a)粒子の形状
被覆ナノ粒子の形状は、透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察した。透過型電子顕微鏡には、株式会社日立製作所製H−7600を使用した。
(b)蛍光顕微鏡写真
機能性分子修飾ポリエチレンイミン(PEI)被覆ナノ粒子及びPEI被覆ナノ粒子について、蛍光顕微鏡により観察した。これらの観察には株式会社Leica製正立顕微鏡DMRを使用し、BP480/40の励起フィルター、BP600/40の吸収フィルターを用いた。上記ナノ粒子をスライドガラスに適量を滴下し、油浸レンズにて撮影を行った。
(c)粒度分布
被覆ナノ粒子分散液について、粒度分布を測定した。これらの粒度分布の測定には、ベックマン・コールター株式会社製サブミクロン粒子アナライザーN5を使用し、動的散乱法で行った。各実施例および比較例には3回測定した結果を示す。なお、各粒度分布図の縦軸は、ピーク強度(%)を示している。縦軸の目盛は、下側から順に20、40、60、80、及び100が印されている。また、横軸は、Log対数で表したナノ粒子の粒子径(nm)を示している。横軸の目盛は、左側から順に2、4、8、16、32、64、128、256、512、1024、及び2048が印されている。グラフは、青色が1回目、赤色が2回目、緑色が3回目の測定結果を示している。
(d)蛍光強度
一般に蛍光とは、蛍光物質がそれぞれに応じた特定波長の光エネルギーを吸収することで安定な基底状態から不安定な励起状態へと移り、再び基底状態に戻る時に放出するエネルギーの一部が光となったものである。Fluorescein−4−isothiocyanate(以下FITCと略す)の場合、495nmの光を吸収し、520nmの蛍光を発する。したがって、495nm付近での吸光スペクトルによりFITCの有無が確認できる。
そこで、FITC修飾PEI被覆ナノ粒子分散液について、吸光スペクトルを測定した。吸光スペクトルの測定には、島津製作所製紫外可視分光光度計BioSpec−1600を使用した。
【実施例1】
【0030】
FITC修飾PEIのハイドロキシアパタイトナノ粒子(以下HAナノ粒子と略す)へのコーティングおよび光特性
(1)FITC修飾PEI溶液の調製
蒸留水100mlに溶解したFITC5.4mgとPEI(和光純薬社製P−70;平均分子量70000)100mgとを混合し、さらに1.75mg/mlのポリエチレンイミン濃度となるように蒸留水で希釈し、FITC修飾PEI溶液を調製した。
(2)ハイドロキシアパタイト粒子の作製
リン酸塩水溶液とカルシウム塩水溶液とを混合し、ハイドロキシアパタイトを含有するスラリーを得た。このハイドロキシアパタイト含有スラリーをスプレードライ装置を用いて200℃で乾燥して、造粒した。さらに、分級して平均粒径10umとした。得られたハイドロキシアパタイト粒子を電気炉に入れて熱処理した。熱処理は、50℃/hrにて850℃まで昇温し、850℃で4時間保持して行い、ハイドロキシアパタイト粒子(以下HA粒子と略す)を得た。
(3)FITC修飾PEI被覆ハイドロキシアパタイトナノ粒子の作製
上記(2)のとおり作製して得られたHA粒子1.0gを内容量45mlのポット(ジルコニア製)に入れ、遊星型ボールミル(フリッチュ社製;P−7)によって、回転数800rpmで3時間のドライミル処理を行った。なお、ドライミル処理は、遊星型ボールミルのポット内にメディアを入れずに行った。ドライミル処理後のHA粒子を回収し、ドライミルHA粒子を得た。
ドライミルHA粒子10gを、上記(1)のように調製したFITC修飾PEI溶液30mlを加え分散させ、超音波発生装置(TAITEC社製;VP−30S)を用いて超音波処理(出力180Wにて5分間)によりHA粒子の解砕およびHA粒子表面へのFITC修飾PEIの被覆を行った。その後、蒸留水を加えて、全量を100mlとして、4100×gにて5分間、遠心分離を行った。遠心分離後の上清、すなわちFITC修飾PEI被覆HAナノ粒子を採取した。
【0031】
本実施例で得られたFITC修飾PEI被覆HAナノ粒子の各種分析結果について以下に示す。
(a)粒子の形状
図5にFITC修飾PEI被覆HAナノ粒子の透過電子顕微鏡写真を示す。このTEM写真に示すように、30nm〜175nm程度の球状または楕円球状のHAナノ粒子が単分散または数個単位で集まった状態で分散していた。
(b)蛍光顕微鏡写真
図6は1000倍にて撮影した蛍光顕微鏡写真である。白色部がFITCによる蛍光である。粒子がとても小さいため、全体的にうすぼんやりと光って見える。白の濃い部分は粒子が凝集している部分である。
(c)粒度分布
図7は、FITC修飾PEI被覆HAナノ粒子分散液の動的散乱法による粒度分布図であり、分散液中のナノ粒子の平均粒径は約192nmであった。
【実施例2】
【0032】
FITC修飾PEIのアルミナナノ粒子へのコーティングおよび光特性
アルミナナノ粒子にFITC修飾PEIを下記の方法で被覆させた。
アルミナナノ粒子(シーアイ化成株式会社製NanoTek Powder;Al2O3)1gに、実施例1と同様に調製したFITC修飾PEI溶液30mlを加え分散させ、超音波発生装置(TAITEC社製;VP−30S)を用いて超音波処理(出力180Wにて1分間)によりアルミナナノ粒子にFITC修飾PEIを被覆した。その後、蒸留水を加えて、全量を100mlとして、4100×gにて5分間、遠心分離を行った。遠心分離後の上清、すなわちFITC修飾PEI被覆アルミナナノ粒子を採取した。
本実施例で得られたFITC修飾PEI被覆アルミナナノ粒子の各種分析結果について以下に示す。
(a)粒子の形状
図8にFITC修飾PEI被覆アルミナナノ粒子の透過電子顕微鏡写真を示す。このTEM写真に示すように、5nm〜150nm程度の球状のナノ粒子が数個〜複数個単位で集まった状態で分散していた。
(b)蛍光顕微鏡写真
図9は1000倍にて撮影した蛍光顕微鏡写真である。白色部がFITCによる蛍光である。粒子がとても小さいため、全体的にうすぼんやりと光って見える。白の濃い部分は粒子が凝集している部分である。
(c)粒度分布
図10は、FITC修飾PEI被覆アルミナナノ粒子分散液の動的散乱法による粒度分布図であり、図から、分散液中のナノ粒子の平均粒径は約198nmであった。
(d)蛍光スペクトル
図11にFITC修飾PEI被覆アルミナナノ粒子分散液の吸収スペクトルを示す。図から500nm付近をピークトップとしたブロードな吸収ピークが見られた。
【実施例3】
【0033】
FITC修飾PEIのシリカナノ粒子へのコーティングおよび光特性
FITC修飾PEI被覆シリカナノ粒子は、原料粒子にシリカナノ粒子(シーアイ化成株式会社製NanoTek Powder;SiO2)を用いた以外は実施例2と同様にして作製し、各種分析を行った。
【0034】
本実施例で得られたFITC修飾PEI被覆シリカナノ粒子の各種分析結果について以下に示す。
(a)粒子の形状
図12にはFITC修飾PEI被覆シリカナノ粒子の透過電子顕微鏡写真を示す。このTEM写真に示すように、9nm〜120nm程度の球状または楕円球状のシリカナノ粒子が単分散または複数個単位で集まった状態で分散していた。
(b)蛍光顕微鏡写真
図13は1000倍にて撮影した蛍光顕微鏡写真である。白色部がFITCによる蛍光である。粒子がとても小さいため、全体的にうすぼんやりと光って見える。白の濃い部分は粒子が凝集している部分である。
(c)粒度分布
図14は、FITC修飾PEI被覆シリカナノ粒子分散液の動的散乱法による粒度分布図であり、図から、分散液中のナノ粒子の平均粒径は約243nmであった。
(d)蛍光スペクトル
図15にFITC修飾PEI被覆シリカナノ粒子分散液の吸収スペクトルを示す。図から500nm付近をピークトップとしたブロードな吸収ピークが見られた。
【実施例4】
【0035】
ローダミン修飾PEIのHAナノ粒子へのコーティングおよび光特性
(1)ローダミン修飾PEI溶液の調製
蒸留水100mlに溶解したローダミン(RhodamineB isothiocyanate)7.5mgとPEI(和光純薬社製P−70;平均分子量70000)100mgとを混合し、さらに1.75mg/mlのポリエチレンイミン濃度となるように蒸留水で希釈し、ローダミン修飾ポリエチレンイミン溶液を調製した。
(2)ローダミン修飾PEI被覆HAナノ粒子の作製
上記(1)のように調製したローダミン修飾PEI溶液を用いた以外は実施例1と同様にしてローダミン修飾PEI被覆HAナノ粒子を作製した。
【0036】
本実施例で得られたローダミン修飾PEI被覆HAナノ粒子の各種分析結果について以下に示す。
(a)粒子の形状
図16にローダミン修飾PEI被覆HAナノ粒子の透過電子顕微鏡写真を示す。このTEM写真に示すように、50nm〜180nm程度の球状または楕円球状のHAナノ粒子が単分散または数個単位で集まった状態で分散していた。
(b)蛍光顕微鏡写真
図17にローダミン修飾PEI被覆HAナノ粒子の蛍光顕微鏡写真を示す。撮影倍率は1000倍であり、同一の視野をAは位相差観察、Bは蛍光観察で撮影したものである。粒子がとても小さく、ローダミンによる蛍光が非常に強いため、露光時間を短くして撮影したものであるが、全体的にうすぼんやりと光って見える。特に赤色の濃い部分は粒子が凝集している部分である。
(c)粒度分布
図18は、ローダミン修飾PEI被覆HAナノ粒子分散液の動的散乱法による粒度分布図であり、図から、分散液中のナノ粒子の平均粒径は約181nmであった。
【比較例1】
【0037】
FITC単独での光特性
実施例1〜3と同様なFITC濃度となるように、FITCを蒸留水に溶解したFITC溶液について、各種分析結果を以下に示す。
(b)蛍光顕微鏡写真
図19にFITC溶液の蛍光顕微鏡写真を示す。撮影倍率は100倍であり、同一の視野をAは位相差観察、Bは蛍光観察で撮影したものである。写真の左側にのみ溶液を滴下した。左側のFITC溶液部のみ、蛍光が観察された。
(d)蛍光強度
図20にFITC溶液の吸収スペクトルを示す。図から200nm付近のピークと500nm付近をピークトップとしたブロードな吸収ピークが見られた。
【比較例2】
【0038】
PEIとFITCの結合の証明
FITC修飾PEI溶液の調製
蒸留水100μlに溶解したFITC5.4mgとPEI(和光純薬社製P−70;平均分子量70000)100mgとを混合し、さらに1.75mg/mlのポリエチレンイミン濃度となるように蒸留水で希釈し、FITC修飾PEI溶液を調製した。
調製したFITC修飾PEI溶液はゲルろ過クロマトにより分級を行い、過剰なFITCを除去した。
得られたFITC修飾PEI溶液について、各種分析結果を以下に示す。
(b)蛍光顕微鏡写真
図21ABにFITC修飾PEI溶液の蛍光顕微鏡写真を示す。撮影倍率は100倍であり、同一の視野をAは位相差観察、Bは蛍光観察で撮影したものである。写真の左側にのみ溶液を滴下した。左側の溶液部のみ、蛍光が観察された。
(d)蛍光強度
図22にFITC修飾PEI溶液の吸収スペクトルを示す。参考例1と同様に200nm付近のピークと500nm付近をピークトップとしたブロードな吸収ピークが見られた。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】エチレンイミンモノマーの分子式を示す図である。
【図2】ポリエチレンイミンの分子構造を示す図である。
【図3】一級、二級アミノ基のみからなるポリエチレンイミンの分子構造を示す模式図である。
【図4】一級、三級アミノ基のみからなるポリエチレンイミンの分子構造を示す模式図である。
【図5】実施例1で製造したFIPC修飾PEI被覆ハイドロキシアパタイトナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例1で製造したFIPC修飾PEI被覆ハイドロキシアパタイトナノ粒子の蛍光顕微鏡写真である。
【図7】実施例1で製造したFIPC修飾PEI被覆ハイドロキシアパタイトナノ粒子の粒度分布図である。
【図8】実施例2で製造したFIPC修飾PEI被覆アルミナナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図9】実施例2で製造したFIPC修飾PEI被覆アルミナナノ粒子の蛍光顕微鏡写真である。
【図10】実施例2で製造したFIPC修飾PEI被覆アルミナナノ粒子の粒度分布図である。
【図11】実施例2で製造したFIPC修飾PEI被覆アルミナナノ粒子の蛍光スペクトル図である。
【図12】実施例3で製造したFIPC修飾PEI被覆シリカナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図13】実施例3で製造したFIPC修飾PEI被覆シリカナノ粒子の蛍光顕微鏡写真である。
【図14】実施例3で製造したFIPC修飾PEI被覆シリカナノ粒子の粒度分布図である。
【図15】実施例3で製造したFIPC修飾PEI被覆シリカナノ粒子の蛍光スペクトル図である。
【図16】実施例4で製造したローダミン修飾PEI被覆ハイドロキシアパタイトナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図17】実施例4で製造したローダミン修飾PEI被覆ハイドロキシアパタイトナノ粒子の蛍光顕微鏡写真である。
【図18】実施例4で製造したローダミン修飾PEI被覆ハイドロキシアパタイトナノ粒子の粒度分布図である。
【図19】比較例1で調製したFITC溶液の蛍光顕微鏡写真である。
【図20】比較例1で調製したFITC溶液の蛍光スペクトル図である。
【図21】比較例2で調製したFITC修飾PEI溶液の蛍光顕微鏡写真である。
【図22】比較例2で調製したFITC修飾PEI溶液の蛍光スペクトル図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能性分子と、
一級アミノ基、二級アミノ基、及び三級アミノ基のうち少なくとも2個のアミノ基を有する高分子窒素化合物と、
上記アミノ基の少なくとも1個に結合する無機化合物ナノ粒子と、
からなり、上記高分子窒素化合物が上記機能性分子で修飾され、上記無機化合物ナノ粒子が上記機能性分子修飾高分子窒素化合物で被覆されていることを特徴とする機能性分子で修飾された高分散性無機化合物ナノ粒子。
【請求項2】
請求項1記載の高分散性無機化合物ナノ粒子において、上記高分子窒素化合物は、数平均分子量が800〜100000のものである高分散性無機化合物ナノ粒子。
【請求項3】
請求項1記載の高分散性無機化合物ナノ粒子において、上記高分子窒素化合物は、分子内に一級アミノ基、二級アミノ基、及び三級アミノ基が繰り返し構造単位内に存在するものである高分散性無機化合物ナノ粒子。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項記載の高分散性無機化合物ナノ粒子において、上記高分子窒素化合物は、直鎖、枝分かれ鎖又は環状のポリアミン化合物の単体又は混合物である高分散性無機化合物ナノ粒子。
【請求項5】
請求項4記載の高分散性無機化合物ナノ粒子において、上記ポリアミン化合物は、ポリエチレンイミンである高分散性無機化合物ナノ粒子。
【請求項6】
請求項1記載の高分散性無機化合物ナノ粒子において、上記無機化合物は、リン酸カルシウム系化合物又は金属酸化物である高分散性無機化合物ナノ粒子。
【請求項7】
請求項6記載の高分散性無機化合物ナノ粒子において、上記リン酸カルシウム系化合物は、ハイドロキシアパタイトである高分散性無機化合物ナノ粒子。
【請求項8】
請求項6記載の高分散性無機化合物ナノ粒子において、上記金属酸化物は、アルミナ、シリカ、酸化マグネシウム、あるいは酸化鉄である高分散性無機化合物ナノ粒子。
【請求項9】
請求項1記載の高分散性無機化合物ナノ粒子において、機能性分子が有機化合物色素、無機化合物色素(顔料)、蛍光色素あるいは化学発光原子団を有する化学的に同定可能な分子である高分散性無機化合物ナノ粒子。
【請求項10】
請求項1記載の高分散性無機化合物ナノ粒子において、機能性分子が酵素、抗体、細胞刺激性因子、コラーゲン、ウイルス外皮タンパク質、細胞結合性リガンド、有色タンパク質、蛍光タンパク質、オリゴヌクレオチド、DNA、RNA、金属貯蔵タンパク質、単糖類、オリゴ糖、多糖類などの生体に由来し、特定の機能を有する分子である高分散性無機化合物ナノ粒子。
【請求項11】
請求項1記載の高分散性無機化合物ナノ粒子を製造するため、機能性分子を一級アミノ基、二級アミノ基、及び三級アミノ基のうち少なくとも2個のアミノ基を有する高分子窒素化合物と反応させ、生成した機能性分子修飾高分子窒素化合物を含む溶液と無機化合物ナノ粒子とを混合し、超音波処理した後、遠心分離し、上清を採取し、乾燥することを特徴とする高分散性無機化合物ナノ粒子の製造方法。
【請求項12】
上記高分子窒素化合物は、数平均分子量が800〜100000のものである請求項11記載の高分散性無機化合物ナノ粒子の製造方法。
【請求項13】
上記高分子窒素化合物は、分子内に一級アミノ基、二級アミノ基、及び三級アミノ基が繰り返し構造単位内に存在するものである請求項11記載の高分散性無機化合物ナノ粒子の製造方法。
【請求項14】
上記高分子窒素化合物は、直鎖、枝分かれ鎖又は環状のポリアミン化合物の単体又は混合物である請求項11記載の高分散性無機化合物ナノ粒子の製造方法。
【請求項15】
上記ポリアミン化合物は、ポリエチレンイミンである請求項14記載の高分散性無機化合物ナノ粒子の製造方法。
【請求項16】
上記無機化合物は、リン酸カルシウム系化合物又は金属酸化物である請求項11記載の高分散性無機化合物ナノ粒子の製造方法。
【請求項17】
上記リン酸カルシウム系化合物は、ハイドロキシアパタイトである請求項16記載の高分散性無機化合物ナノ粒子の製造方法。
【請求項18】
上記金属酸化物は、アルミナ、シリカ、酸化マグネシウム、酸化鉄である請求項16記載の高分散性無機化合物ナノ粒子の製造方法。
【請求項19】
高分子窒素化合物溶液の溶媒が水又は有機溶媒である請求項11記載の高分散性無機化合物ナノ粒子の製造方法。
【請求項20】
機能性分子が有機化合物色素、無機化合物色素(顔料)、蛍光色素あるいは化学発光原子団を有する化学的に同定可能な分子である請求項11記載の高分散性無機化合物ナノ粒子の製造方法。
【請求項21】
機能性分子が酵素、抗体、細胞刺激性因子、コラーゲン、ウイルス外皮タンパク質、細胞結合性リガンド、有色タンパク質、蛍光タンパク質、オリゴヌクレオチド、DNA、RNA、金属貯蔵タンパク質、単糖類、オリゴ糖、多糖類などの生体に由来し、特定の機能を有する分子である請求項11記載の高分散性無機化合物ナノ粒子の製造方法。
【請求項1】
機能性分子と、
一級アミノ基、二級アミノ基、及び三級アミノ基のうち少なくとも2個のアミノ基を有する高分子窒素化合物と、
上記アミノ基の少なくとも1個に結合する無機化合物ナノ粒子と、
からなり、上記高分子窒素化合物が上記機能性分子で修飾され、上記無機化合物ナノ粒子が上記機能性分子修飾高分子窒素化合物で被覆されていることを特徴とする機能性分子で修飾された高分散性無機化合物ナノ粒子。
【請求項2】
請求項1記載の高分散性無機化合物ナノ粒子において、上記高分子窒素化合物は、数平均分子量が800〜100000のものである高分散性無機化合物ナノ粒子。
【請求項3】
請求項1記載の高分散性無機化合物ナノ粒子において、上記高分子窒素化合物は、分子内に一級アミノ基、二級アミノ基、及び三級アミノ基が繰り返し構造単位内に存在するものである高分散性無機化合物ナノ粒子。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項記載の高分散性無機化合物ナノ粒子において、上記高分子窒素化合物は、直鎖、枝分かれ鎖又は環状のポリアミン化合物の単体又は混合物である高分散性無機化合物ナノ粒子。
【請求項5】
請求項4記載の高分散性無機化合物ナノ粒子において、上記ポリアミン化合物は、ポリエチレンイミンである高分散性無機化合物ナノ粒子。
【請求項6】
請求項1記載の高分散性無機化合物ナノ粒子において、上記無機化合物は、リン酸カルシウム系化合物又は金属酸化物である高分散性無機化合物ナノ粒子。
【請求項7】
請求項6記載の高分散性無機化合物ナノ粒子において、上記リン酸カルシウム系化合物は、ハイドロキシアパタイトである高分散性無機化合物ナノ粒子。
【請求項8】
請求項6記載の高分散性無機化合物ナノ粒子において、上記金属酸化物は、アルミナ、シリカ、酸化マグネシウム、あるいは酸化鉄である高分散性無機化合物ナノ粒子。
【請求項9】
請求項1記載の高分散性無機化合物ナノ粒子において、機能性分子が有機化合物色素、無機化合物色素(顔料)、蛍光色素あるいは化学発光原子団を有する化学的に同定可能な分子である高分散性無機化合物ナノ粒子。
【請求項10】
請求項1記載の高分散性無機化合物ナノ粒子において、機能性分子が酵素、抗体、細胞刺激性因子、コラーゲン、ウイルス外皮タンパク質、細胞結合性リガンド、有色タンパク質、蛍光タンパク質、オリゴヌクレオチド、DNA、RNA、金属貯蔵タンパク質、単糖類、オリゴ糖、多糖類などの生体に由来し、特定の機能を有する分子である高分散性無機化合物ナノ粒子。
【請求項11】
請求項1記載の高分散性無機化合物ナノ粒子を製造するため、機能性分子を一級アミノ基、二級アミノ基、及び三級アミノ基のうち少なくとも2個のアミノ基を有する高分子窒素化合物と反応させ、生成した機能性分子修飾高分子窒素化合物を含む溶液と無機化合物ナノ粒子とを混合し、超音波処理した後、遠心分離し、上清を採取し、乾燥することを特徴とする高分散性無機化合物ナノ粒子の製造方法。
【請求項12】
上記高分子窒素化合物は、数平均分子量が800〜100000のものである請求項11記載の高分散性無機化合物ナノ粒子の製造方法。
【請求項13】
上記高分子窒素化合物は、分子内に一級アミノ基、二級アミノ基、及び三級アミノ基が繰り返し構造単位内に存在するものである請求項11記載の高分散性無機化合物ナノ粒子の製造方法。
【請求項14】
上記高分子窒素化合物は、直鎖、枝分かれ鎖又は環状のポリアミン化合物の単体又は混合物である請求項11記載の高分散性無機化合物ナノ粒子の製造方法。
【請求項15】
上記ポリアミン化合物は、ポリエチレンイミンである請求項14記載の高分散性無機化合物ナノ粒子の製造方法。
【請求項16】
上記無機化合物は、リン酸カルシウム系化合物又は金属酸化物である請求項11記載の高分散性無機化合物ナノ粒子の製造方法。
【請求項17】
上記リン酸カルシウム系化合物は、ハイドロキシアパタイトである請求項16記載の高分散性無機化合物ナノ粒子の製造方法。
【請求項18】
上記金属酸化物は、アルミナ、シリカ、酸化マグネシウム、酸化鉄である請求項16記載の高分散性無機化合物ナノ粒子の製造方法。
【請求項19】
高分子窒素化合物溶液の溶媒が水又は有機溶媒である請求項11記載の高分散性無機化合物ナノ粒子の製造方法。
【請求項20】
機能性分子が有機化合物色素、無機化合物色素(顔料)、蛍光色素あるいは化学発光原子団を有する化学的に同定可能な分子である請求項11記載の高分散性無機化合物ナノ粒子の製造方法。
【請求項21】
機能性分子が酵素、抗体、細胞刺激性因子、コラーゲン、ウイルス外皮タンパク質、細胞結合性リガンド、有色タンパク質、蛍光タンパク質、オリゴヌクレオチド、DNA、RNA、金属貯蔵タンパク質、単糖類、オリゴ糖、多糖類などの生体に由来し、特定の機能を有する分子である請求項11記載の高分散性無機化合物ナノ粒子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2007−76995(P2007−76995A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−271101(P2005−271101)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]