説明

高分散複合凝集体の製造方法およびナノ分散評価技術および欠陥導入技術

【課題】ナノマテリアルの分散状態を瞬間的に封じ込めた高分散複合凝集体を作製し、高分散複合凝集体から、分散に関する情報を客観的、全体的に引き出す分散評価技術、および、それを応用した欠陥導入技術を提供する。
【解決手段】多層カーボンナノチューブ(以下MWCNT)とそれよりも粒径が小さく、空隙率(吸油量)の大きなカーボンブラック(以下CB)を混合し、超音波分散させると、CBはMWCNTの分散状態を封じ込めたような高分散複合凝集体を形成する(魔法の立体網効果)。この高分散複合凝集体を示差熱分析にかけると、600℃付近でCBが自然発火する。このときMWCNTは熱的ダメージを受け欠陥が生じ燃焼温度が低下する。その熱的なダメージの受け方に分散性が反映することを応用すると、客観的に全体的に分散に関する情報を得ることができる(複合化燃焼法)。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本願発明は、カーボンナノチューブと粒径が小さく吸油量の大きいカーボンブラック(例えばBP2000(CABOT):粒子径12nm、吸油量330cc/100g))の高分散複合凝集体およびその製造方法さらには分散評価技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノテクノロジーにおいて、分散は最も重要な要素技術の一つである。超音波分散は、最も一般的に使われている分散技術である。
しかしながら、今日までに最適な超音波分散条件が出せるほどの有益な情報が得られるような分散評価技術は提案されていない。
したがって、今日の超音波分散技術は作業者の勘に頼っているのが現状である。
最適な処理時間、分散媒の種類、超音波発生器の特性(出力、周波数等)、処理容器、処理量に関して、どのような条件が最適なのかが全く不明なのである。
さらに言えば、どのような条件が重要なのかさえ不明な状況にある。
【0003】
今日までに、分散評価技術は多数提案されている。その理由は2つあると考えている。
1つめの理由は、分散評価は需要の大きな技術であるということ、2つ目の理由は卓越した技術が無いということだと思う。
ところで、ナノ材料の分散の仕方は2通りあると予想されている。
一個ずつを引き剥がすような「剥落分散」と小さな集合体に分割するように分散させる「分割分散」である(図1)。
しかしながら、これらは今日までに実証されていない。
これらを実証できるような分散評価技術を開発できれば、究極のナノ分散評価技術といえる。そして、ナノテクノロジーにおける偉大なるブレイクスルーを成し遂げ、ナノテクの歴史を変えられると言っても過言ではない。
【0004】
特許公開2006−124613で、分散液をメッシュの大きさの異なるフィルターを通過させ、分散液の透明度を調べる方法が提案されている。
この方法では、超音波を止めた瞬間から測定するまでの間にかなりの分散状態の変化があることが予想される。
また、得られる情報量も少なく、詳細に最適な分散条件が出せるような結果を得るのは困難であることが予想される。ましてや「剥落分散」か「分割分散」かの判別は不可能であろう。
【0005】
特許公開2006−45034の図7において、CB単独およびMWCNT単独のTG−DTAの測定結果が示され、図8においてCB−MWCNT複合凝集体のTG−DTAの結果が示されている。
その結果、CB−MWCNT複合凝集体のTG−DTAにおいて、CBの燃焼は単独のCBと、複合化したものに変化は見られないのに対して、MWCNTの燃焼においては、複合化したものは、単独のMWCNTよりもかなり低温で燃焼することが示されている。
【先行技術文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−124613号公報
【特許文献2】特開2006−45034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許公開2006−45034でCB−MWCNT複合凝集体のTG−DTAにおいて、分散条件を変化させた場合にCBの燃焼に変化は見られなかった。一方、MWCNTのDTAピークは、分散条件を変化させることにより、ピークの出現位置や波形が変化していることに気付いた(図2)。
よく分散させて作製したCB−MWCNT複合凝集体ほど、MWCNTのDTAピークは低温側にシフトすることに気付いた。
このことを応用すれば、客観的な分散評価技術を開発できると考えた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前期目的を達成するために〔請求項1〕で、ある物質(以下、物質A)を分散させるときに、粒径が小さく、かつ凝集した時の空隙率が大きなナノ材料(以下、ナノ材料B)を混合し、ある物質の分散状態を封じ込めたような高分散複合凝集体を作製する技術であることを特徴とする。
〔請求項2〕は〔請求項1〕において、物質Aの分散状態に関する情報を引き出すのに、高分散複合凝集体の中のナノ材料Bを自然発火させ、物質Aに熱的なダメージを与え、燃焼温度の低下の度合いを測定することにより、材料全体の分散に関する情報を客観的に引き出す分散評価技術。であることを特徴とする。
〔請求項3〕は〔請求項1〕において、物質Aの分散状態に関する情報を引き出すのに、高分散複合凝集体を電子顕微鏡観察する主観的、局所的な分散評価技術。であることを特徴とする。
〔請求項4〕は〔請求項1〕において、物質Aおよびナノ材料Bがナノカーボン材料(カーボンナノチューブ、カーボンブラック、フラーレン類、活性炭、ナノダイヤモンド、ナノグラファイト、カーボンナノホーン等)であることを特徴とする高分散複合凝集体製造方法であることを特徴とする。
〔請求項5〕は〔請求項1〕において、分散方法が、超音波分散、ミリング処理、三本ロールであることを特徴とする高分散複合凝集体製造技術であることを特徴とする。
〔請求項6〕は〔請求項1〕において、用いる分散媒がエタノール、アセトン、トルエン、メタノール、ブタノール、二硫化炭素、ベンゼンであることを特徴とする高分散複合凝集体製造技術であることを特徴とする。
〔請求項7〕は、求項1〕〜〔請求項6〕の方法により製造した高分散複合凝集体であることを特徴とする。
〔請求項8〕は〔請求項7〕において、製造した高分散複合凝集体を物質Aの再分散材料として、樹脂、ゴム、金属、セラミック等に混合する技術であることを特徴とする。
〔請求項9〕は、〔請求項8〕の方法で製造した樹脂、ゴム、金属、セラミック等であることを特徴とする。
〔請求項10〕は、〔請求項7〕において、高分散複合凝集体のナノ材料Bのみを自然発火させ物質Aに全体的に均一に熱的なダメージを与える欠陥導入技術であることを特徴とする。
〔請求項11〕はm〔請求項10〕により得られた欠陥導入物質であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
超音波を止めた瞬間の分散に関する全体的な情報を客観的に得ることができる。
その結果、最適な超音波処理条件を出せるようになる。ナノテクノロジーにおける障壁を打ち破り(ブレイクスルー)、ナノテクノロジーを飛躍的に発展させることができる。
また、製造した高分散複合凝集体を高分散状態で混入することが可能な再分散用の材料として使用することにより、製品の特性向上の効果が得られる。
さらに、製造した高分散複合凝集体から、ナノ材料Bのみを燃焼除去させれば、均一に欠陥導入され、化学的に活性になった物質Aが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
まず、最適なカーボンブラックの探索を行った。
一貫性の無いように選択した数十種類のCBサンプルを入手した。
また、アーク放電法で作製し、すり鉢粉砕した結晶性のよいMWCNT粉末(自然発火温度は800℃)を用意した。
各CBとMWCNT粉末を等量とり、次の2通りの混合(分散)処理を施した。
・サンプル瓶の中で混合したサンプル
・十分な超音波処理を施したサンプル
【0011】
2つのサンプルをTG−DTA分析したところ、結果は次に示す3つのイタイプに分類できた。
・600℃付近に1つの大きなDTAピークが現れる(全体の1割程度。以下、タイプAと呼ぶ)(図3)
・CBとMWCNTの2つのDTAピークが確認できるが、分散による相違は確認できない(全体の7割程度。以下、タイプBと呼ぶ)(図4)。
・CBとMWCNTの2つのDTAピークが確認で、分散による相違が確認できる。よく分散した場合のMWCNTのDTAピークがより低温側にシフトしている(全体の2割程度。以下、タイプCと呼ぶ)(図5)。
【0012】
CBの特性と各タイプの相関を調査したところ、特に粒子径と吸油量に強い相関があることに気付いた。
タイプA:吸油量が小さい。
タイプB:粒子径が大きい、あるいは粒子径が小さくかつ吸油量が小さい。
タイプC:粒子径が小さいかつ吸油量が大きい。
これらの結果から、粒子径が小さく吸油量の大きなCABOTのBP2000(粒子径:12nm、吸油量:330cc/100g)が最適な(分散方法によるMWCNTのDTAピークの出現位置が大きく異なる)CBであると予想した。
結果は予想通りであった。CB−MWCNT複合凝集体をTG−DTA分析した場合のMWCNTのDTAは分散条件により、650℃−750℃の100℃の範囲を移動した(図6)。
BP2000以外のCBで、移動する温度範囲が50℃を超えるものはなかったことを考慮すると、この方法には卓越して最適なCBであると言える。
また、TGの変曲点が、ちょうど半分のところに見られることから、CBが燃焼し終わった後でMWCNTの燃焼が始まることがうかがえる。
【0013】
一般的に粒子径の小さなCBは凝集速度が速い。また、吸油量の大きな物質は分散させやすいことが知られている。
吸油量の大きなCBは、ストラクチャ性(凝集するときに直線的につながりやすい性質)が強い。
したがって、粒径が小さく吸油量の大きなCBは、分散しやすく凝集しやすい特徴を持っていることになる。また、凝集した時には糸くずが絡み合ったようなスカスカな立体構造を形成している。
【0014】
(タイプCの場合) 粒径が小さく吸油量の大きなCBとMWCNTを混合して超音波分散させた場合、
(超音波処理ON)CBが分散する→MWCNTが分散する。
(超音波OFF)CBが凝集し、糸くずが絡み合ったような立体構造を形成する。→MWCNTは動けなくなり、分散状態を封じ込められたような複合凝集体が得られる(以下、高分散複合凝集体と呼ぶ)(図7)。
これを「魔法の立体網効果(Magical 3D Net Effect)」と命名した。
【0015】
CB−MWCNT高分散凝集体から、MWCNTの分散に関する情報を引き出す方法として、一般的には電子顕微鏡観察法がある。
しかし、電子顕微鏡観察は主観的、局所的であるので、「都合のよいところだけを狙って写真撮影」すれば、いかなる解釈も可能になり、信憑性が無い。
このサンプル全体のMWCNTの分散に関する情報を客観的に引き出せれば、卓越した分散評価技術が開発できるはずである。
【0016】
CB−MWCNT高分散凝集体をTG−DTAにかけた場合、600℃付近でCBが自然発火する。このとき、MWCNTは熱的なダメージを受け、欠陥が導入され燃焼温度が低下する(ちなみにMWCNTは、本来であれば800℃付近で自然発火するはずである)。
その時に分散性が反映する。すなわち、MWCNTがほとんど分散していない状態の時、束の内側の部分は熱的ダメージを受けにくく、MWCNTの燃焼によるDTAは750℃付近に現れる。
十分な超音波分散処理を施し、1本1本のMWCNTに分散させた場合には、MWCNTの熱的なダメージは極めて大きくなり、MWCNTの燃焼によるDTAは650℃付近にまでシフトする。
この分散評価技術を「複合化燃焼法(Composite Combustion Method)と命名した(図8)。
【0017】
ここで、タイプAに関して考察する。
吸油量の小さなCBとMWCNTを混合した場合、TG−DTA分析において、600℃付近でCBが自然発火した場合、吸油量が小さいと、発熱量が大きいという特徴がある。その際、MWCNTは過大な熱的なダメージを受け、同時に燃焼してしまうのである。
【0018】
タイプBに関して考察する。
粒子径の大きなCBとMWCNTを混合した場合には、CBの凝集速度は遅く、
MWCNTの凝集を止めることができない。したがって、複合化燃焼法で分散条件の相違により有意差は確認できなかった(図9)。
粒子径が小さく吸油量の小さなCBの場合、吸油量の小さい物質は分散しにくいので、超音波分散しても1個1個の粒子になるまで分散しきれず、複数個のCBの凝集体が1つの粒子のようにふるまっていると考えられる。その結果、粒子径の大きなCBと同様の結果になるものと考えられる(図10)。
【0019】
次に本願発明の実施例を説明する。これらの実施例により、最適な超音波分散条件が出せ、「剥落分散」と「分割分散」を実証する史上初の快挙を成し遂げた。
【実施例1】
【0020】
0.03gのMWCNTと0.03gのCB(BP2000(CABOT))を、それぞれ50mlのガラス製ビーカーと、テフロン製ビーカーに入れた。
それぞれアセトンを50ml加え、別々に超音波処理(1時間、周波数マルチモード)を行った。ドラフトチャンバー内にて、自然乾燥させると、CB−MWCNTの複合凝集体が得られた。
【0021】
得られたCB−MWCNT複合凝集体をTG−DTA分析(サンプル5mg、白金皿、昇温速度:5℃/min)にかけた。
両者ともに、CBのピークが600℃付近に現れた。MWCNTのピークはガラス製が680℃付近であったのに対し、テフロン製は700℃付近であった。
これにより、超音波分散で使用する容器の材質は、分散処理能力が低下するテフロン製よりもガラス製の方がよいことが実証できた。
【実施例2】
【0022】
0.03gのMWCNTと0.03gのCB(BP2000(CABOT))を、それぞれ50mlのガラス製ビーカーと、ステンレス製ビーカーに入れた。
それぞれアセトンを50ml加え、別々に超音波処理(1時間、周波数マルチモード)を行った。ドラフトチャンバー内にて、自然乾燥させると、CB−MWCNTの複合凝集体が得られた。
【0023】
得られたCB−MWCNT複合凝集体をTG−DTA分析(サンプル5mg、白金皿、昇温速度:5℃/min)にかけた。
ガラス製ビーカーの場合、CBのピークが600℃付近に現れたのに対して、ステンレスビーカーの場合、CBのピークは550℃に現れた。MWCNTのピークはガラス製が680℃付近であったのに対し、ステンレス製は630℃付近であった。
TG−DTA分析後の残さは、ガラス製はほとんどなかったのに対し、ステンレス製では0.2mg程度の残さが確認できた。
これは、ステンレス製の容器を使用すると、分散液中に不純物が混入しやすく、その触媒作用で、全体的にDTAピークが低下していると考えられる。CBとMWCNTのDTAの差は共に80℃なので、分散能力には差はないことが実証できた。
これにより、超音波分散で使用する容器の材質は、不純物が混入しやすいステンレス製よりもガラス製の方がよいことが実証できた。
【実施例4】
【0024】
0.03gのMWCNTと0.03gのCB(BP2000(CABOT))を、それぞれ50mlのガラス製ビーカーと、ガラス製サンプル管(ビーカーよりも背が高い)に入れた。
それぞれアセトンを50ml加え、別々に超音波処理(1時間、周波数マルチモード)を行った。ドラフトチャンバー内にて、自然乾燥させると、CB−MWCNTの複合凝集体が得られた。
【0025】
得られたCB−MWCNT複合凝集体をTG−DTA分析(サンプル5mg、白金皿、昇温速度:5℃/min)にかけた。
両者ともに、CBのピークが600℃付近に現れた。MWCNTのピークはビーカーが680℃付近であったのに対し、サンプル管は660℃付近であった。
これにより、超音波分散で使用する容器の形態は細長い方がよいことが実証できた。
【実施例4】
【0026】
3つのガラス製の50mlのサンプル管に、それぞれ0.03gのMWCNTと0.03gのCB(BP2000(CABOT))を入れた。
それぞれにアセトンを50mlとエタノール50ml、トルエン50mlを加え、別々に超音波処理(1時間、周波数マルチモード)を行った。ドラフトチャンバー内にて、自然乾燥させると、CB−MWCNTの複合凝集体が得られた。
【0027】
得られたCB−MWCNT複合凝集体をTG−DTA分析(サンプル5mg、白金皿、昇温速度:5℃/min)にかけた。
全てにおいて、CBのピークが600℃付近に現れた。MWCNTのピークはアセトン分散媒が660℃付近であったのに対し、エタノール分散媒は650℃付近、トルエン分散媒は700℃付近であった。
これにより、超音波分散で使用する最適な分散媒は、エタノール>アセトン>トルエンの順になる。(特に、出力の大きな超音波発生機を使用した場合には、アセトンはキャビテーションの影響が強く現れ、不利になることも確認している)。
【実施例5】
【0028】
4つのガラス製の50mlサンプル管に、それぞれMWCNTとCB(BP2000(CABOT))を0.01gずつ、0.03gずつ、0.1gずつ、0.3gずつ入れた。
それぞれにエタノール50mlを加え、別々に超音波処理(1時間、周波数マルチモード)を行った。ドラフトチャンバー内にて、自然乾燥させると、CB−MWCNTの複合凝集体が得られた。
【0029】
得られたCB−MWCNT複合凝集体をTG−DTA分析(サンプル5mg、白金皿、昇温速度:5℃/min)にかけた。
全てにおいて、CBのピークが600℃付近に現れた。MWCNTのピークは0.01gずつでは650℃、0.03gずつでも650℃、0.1gずつだと660℃、0.3gずつだと700℃であった。
これにより、超音波分散で使用する最適なサンプル処理量が有り、上限を超えると極端に分散能力が低下することを示せた。
【実施例6】
【0030】
同一仕様の4つのガラス製の50mlサンプル管に、それぞれ0.03gのMWCNTと0.03gのCB(BP2000(CABOT))を入れ、エタノールを50ml加えた。
4つ同時に超音波処理(1時間、周波数マルチモード)を行った。ドラフトチャンバー内にて、自然乾燥させると、CB−MWCNTの複合凝集体が得られた。
【0031】
得られたCB−MWCNT複合凝集体をTG−DTA分析(サンプル5mg、白金皿、昇温速度:5℃/min)にかけた。
全てにおいて、CBのピークが600℃付近に現れた。MWCNTのピークは670℃付近であった。
これにより、4ロット同時処理が1ロット単独処理よりも分散能力が低下することを示せた(ただし、この結果は超音波発生機の出力等に依存性があることを確認している)。
【実施例7】
【0032】
3つのガラス製の50mlのサンプル管に、それぞれ0.03gのMWCNTと0.03gのCB(BP2000(CABOT))を入れ、50mlとエタノール50mlを加えた。
3つのサンプルは、それぞれ次の3つの固定方法で、固定して超音波処理(1時間、周波数マルチモード)を行った。
その固定方法は、「固定しない」、「柔らかい物は用いずに、硬いクランプ、ムッフ、スタンドで固定」「ラバー等の柔らかい物で挟みクランプ、ムッフ、スタンドで固定」である。
ドラフトチャンバー内にて、自然乾燥させると、CB−MWCNTの複合凝集体が得られた。
【0033】
得られたCB−MWCNT複合凝集体をTG−DTA分析(サンプル5mg、白金皿、昇温速度:5℃/min)にかけた。
全てにおいて、CBのピークが600℃付近に現れた。MWCNTのピークは「固定しない」が650℃付近であったのに対し、「柔らかい物は用いずに、硬いクランプ、ムッフ、スタンドで固定」は660℃付近、「ラバー等の柔らかい物で挟みクランプ、ムッフ、スタンドで固定」690℃付近であった。
これにより、超音波分散で使用する最適な固定方法は、「固定しない」>「柔らかい物は用いずに、硬いクランプ、ムッフスタンドで固定」>「ラバー等の柔らかい物で挟みクランプ、ムッフスタンドで固定」である。つまり、固定はしないほうがよい、固定する場合には柔らかい物を用いては極端に能力を低下させることを示した。
【実施例8】
【0034】
2つのガラス製の50mlサンプル管に、それぞれ0.03gのMWCNTと0.03gのCB(BP2000(CABOT))を入れた。
それぞれにエタノール50ml、トルエン50mlを加え、別々に超音波処理(60分間、周波数マルチモード)を行った。
ドラフトチャンバー内にて、自然乾燥させると、CB−MWCNTの複合凝集体が得られた。
同様にして、超音波処理時間を0分間、2分間、10分間、30分間処理した複合凝集体を作製した。
【0035】
得られたCB−MWCNT複合凝集体をTG−DTA分析(サンプル5mg、白金皿、昇温速度:5℃/min)にかけた。
全てにおいて、CBのピークが600℃付近に現れた。
エタノール分散媒を用いた場合の、超音波処理時間によるDTAの経時変化の特徴は、2分間処理して650℃に小さなピークが出現する。処理時間が長くなるほど、650℃のピークは大きくなる。
超音波処理前に、750℃に現れていたDTAピークは、超音波処理時間が長くなるほど小さくなりながら、低温側にシフトしている。
一方、トルエン分散媒を用いた場合の超音波処理時間によるDTAの経時変化の特徴は、650℃にピークは出現しない。
超音波処理前に、750℃に現れていたDTAピークは、同じ形状のままで、超音波処理時間が長くなるほど低温側にシフトしている。そして、30分以上処理しても700℃よりも低温にシフトすることはなかった(図11)。
【0036】
各サンプル(CB−MWCNT複合凝集体)を電子顕微鏡(SEM)観察すると、以下のような特徴があった。その像の特徴は、(BP2000の)綿の中に(MWCNTの)糸や縄が埋め込まれているように見える。
エタノール分散媒で超音波処理を行った場合、処理時間が長くなるほど、1本にまで分散しているMWCNTの数が増加してゆく。束は形成するMWCNTの本数が小さくなり、小さな束になってゆく。束の数は変わっていない。
トルエン分散媒で超音波処理を行った場合、処理時間が長くなるほど、束は形成するMWCNTの本数が小さくなり、小さな束になってゆく。束の数は増加している。
60分間処理したものでも、1本まで分散しているMWCNTを見つけることは出来なかった。
【0037】
これらの現象は、エタノール分散媒で超音波処理を行った場合には、剥落分散が主体になり、トルエン分散媒で超音波処理を行った場合には分割分散が主体になると考えれば説明できる。
そして、剥落分散の場合には、完全に1本ずつに分散できるのに対して、分割分散の場合には、時間を懸けても完全に1本ずつに分散できるとは限らないことが示せた。
「複合化燃焼法」により、剥落分散と分割分散の証拠を得ることができた。これは、史上初の快挙である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】剥落分散と分割分散
【図2】CB単独、MWCNT単独、CB−MWCNT複合体のDTAの特徴
【図3】CB−MWCNT複合体のDTA(600℃に1本のピーク)
【図4】CB−MWCNT複合体のDTA(分散条件による有意差が無い場合)
【図5】CB−MWCNT複合体のDTA(分散条件による有意差がある場合)
【図6】高分散BP2000−MWCNTのTG−DTA
【図7】「魔法の立体網効果」の原理図(CBの粒子径が小さく吸油量の大きい場合)
【図8】「複合化燃焼法」の原理図(剥落分散の場合)
【図9】「魔法の立体網効果」の原理図(CBの粒子径が大きい場合)
【図10】「魔法の立体網効果」の原理図(CBの粒子径が小さく吸油量の小さい場合)
【図11】各分散液での各超音波処理時間におけるDTAの変化

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある物質(以下、物質A)を分散させるときに、粒径が小さく、かつ凝集した時の空隙率が大きなナノ材料(以下、ナノ材料B)を混合し、ある物質の分散状態を封じ込めたような高分散複合凝集体を作製する技術。
【請求項2】
〔請求項1〕において、物質Aの分散状態に関する情報を引き出すのに、高分散複合凝集体の中のナノ材料Bを自然発火させ、物質Aに熱的なダメージを与え、燃焼温度の低下の度合いを測定することにより、材料全体の分散に関する情報を客観的に引き出す分散評価技術。
【請求項3】
〔請求項1〕において、物質Aの分散状態に関する情報を引き出すのに、高分散複合凝集体を電子顕微鏡観察する主観的、局所的な分散評価技術。
【請求項4】
〔請求項1〕において、物質Aおよびナノ材料Bがナノカーボン材料(カーボンナノチューブ、カーボンブラック、フラーレン類、活性炭、ナノダイヤモンド、ナノグラファイト、カーボンナノホーン等)であることを特徴とする高分散複合凝集体製造方法。
【請求項5】
〔請求項1〕において、分散方法が、超音波分散、ミリング処理、三本ロールであることを特徴とする高分散複合凝集体製造技術。
【請求項6】
〔請求項1〕において、用いる分散媒がエタノール、アセトン、トルエン、メタノール、ブタノール、二硫化炭素、ベンゼンであることを特徴とする高分散複合凝集体製造技術。
【請求項7】
〔請求項1〕〜〔請求項6〕の方法により製造した高分散複合凝集体。
【請求項8】
〔請求項7〕において、製造した高分散複合凝集体を物質Aの再分散材料として、樹脂、ゴム、金属、セラミック等に混合する技術。
【請求項9】
〔請求項8〕の方法で製造した樹脂、ゴム、金属、セラミック等の物質
【請求項10】
〔請求項7〕において、高分散複合凝集体のナノ材料Bのみを自然発火させ物質Aに全体的に均一に熱的なダメージを与える欠陥導入技術
【請求項11】
〔請求項10〕により得られた欠陥導入物質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−178647(P2011−178647A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61495(P2010−61495)
【出願日】平成22年2月28日(2010.2.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名:第37回フラーレン・ナノチューブ総合シンポジウム講演要旨集 主催:フラーレン・ナノチューブ学会 開催日:2009年9月1日
【出願人】(510074553)
【Fターム(参考)】