説明

高剛性および耐衝撃性ボリアミド樹脂組成物

【発明の詳細な説明】
[発明の目的]
(産業上の利用分野)
本発明は、その成形体の剛性、耐衝撃性および耐熱性が優れているポリアミド樹脂組成物に関する。
(従来の技術)
ポリアミド樹脂は、その成形体が優れた機械的性質を有することから、特に自動車や電気製品などの部品用の射出成形材料として幅広く利用されている。
しかし、過度の外力や熱が加えられるような条件で使用される部品等の材料として適用した場合には、剛性、耐衝撃性および耐熱性の点において必ずしも満足できるものではないのが現状である。
(発明が解決しようとする課題)
本発明は、従来のポリアミド樹脂の不十分な点を改良し、その成形体が優れた剛性、耐衝撃性および耐熱性を有するポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。
[発明の構成]
(問題点を解決するための手段および作用)
本発明のポリアミド樹脂組成物は、(A)ポリアミド樹脂またはポリアミド樹脂を含む樹脂混合物、(B)前記(A)成分に均一に分散された層状珪酸塩および(C)耐衝撃性改良材、からなることを特徴とする。
本発明の組成物を構成する(A)成分は、ポリアミド樹脂またはポリアミド樹脂を含む樹脂混合物である。
ポリアミド樹脂とは、分子中に酸アミド結合(−CONH−)を有するものであり、具体的には、ε−カプロラクタム、6−アミノカプロン酸、ε−エナントラクタム、7−アミノヘプタン酸、11−アミノウンデカン酸、9−アミノノナン酸、α−ピロリドン、α−ピペリドンなどから得られる重合体または共重合体;ヘキサメチレンジアミン、ナノメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタキシリレンジアミンなどのジアミンとテレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸などのジカルボン酸とを重縮合して得られる重合体もしくは共重合体もしくはこれらのブレッド物を例示することができる。
(A)成分のポリアミド樹脂は、平均分子量が9,000〜30,000のものが好ましい。
(A)成分がポリアミド樹脂と他のポリマーとの混合物の場合に用いる他の樹脂としては、ポリプロピレン、ABS樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどを例示することができる。
(A)成分を混合物にする場合には、ポリアミド樹脂の含有量が80重量%以上であることが好ましい。
(B)成分は層状珪酸塩である。この(B)成分はポリアミド樹脂組成物から得られる成形体に優れた機械的性質および耐熱性を付与することに資する成分である。
その形状は、通常、厚みが6〜20Åで、一辺の長さが0.002〜1μmの範囲のものが好ましい。
層状珪酸塩とは、一辺が0.002〜1μm、厚みが6〜20Åの物質の一単位を示すものである。
層状珪酸塩の層間距離とは、層状珪酸塩の平板の重心間の距離をいう。そして層状珪酸塩が均一に分散するとは、層状珪酸塩(B)が(A)成分中に分散した際、その50%以上が塊を形成することなく一枚一枚に分離し、互いに平行および/またはランダムに、20Å以上の層間距離を保って分子状に分散している状態をいう。なお、層状珪酸塩の70%以上がこのような状態にあれば、更に好ましい。
このような層状珪酸塩の原料としては、珪酸マグネシウムまたは珪酸アルミニウムの層から構成される層状フィロ珪酸鉱物を例示することができる。具体的には、モンモリロナイト、サポナイト、バイデライト、ノントロナイト、ヘクトライトスティブンサイトなどのスメクタイト系粘土鉱物やバーミキュライト、ハロイサイトなどを例示することができ、これらは天然のものであっても、合成されたものであってもよい。これらのなかでもモンモリロナイトが好ましい。
かかる(B)成分の層状珪酸塩をポリアミド樹脂もしくはポリアミドを含む樹脂中に均一に分散させる方法については特に制限はないが、本発明の層状珪酸塩の原料が多層状粘土鉱物である場合には、膨潤化剤と接触させて、予め層間を拡げて層間にモノマーを取り込みやすくした後、ポリアミドモノマーと混合し、重合する方法(特開昭62−74957号公報参照)によってもよい。また、膨潤化剤に高分子化合物を用い、予め層間を100Å以上に拡げて、これをポリアミド樹脂もしくはこれを含む樹脂と溶融混練して均一に分散させる方法によってもよい。
(B)成分の配合割合は、(A)成分100重量部に対して0.05〜30重量部が好ましく、0.1〜10重量部がさらに好ましい。(B)成分の配合割合が0.05重量部未満であると、成形体の剛性、耐熱性の向上が小さいので好ましくなく、30重量部を超えると、樹脂組成物の流動性が極端に低下し、射出成形用の材料としては適さない場合があるので好ましくない。
(C)成分は耐衝撃性改良材である。この(C)成分としては、成形体の耐衝撃性を改良できるものであれば特に制限されない。(C)成分としては、例えば下記の各耐衝撃性改良材から選ばれる少なくとも1種のものを用いることができる。
■エチレンと不飽和カルボン酸および不飽和カルボン酸金属塩から得られる共重合体からなる耐衝撃性改良材、■0.01〜10モル%の酸基を含有するオレフィン共重合体からなる耐衝撃性改良材、ならびに■0.01〜10モル%の酸基を含有するビニル系芳香族化合物および共役ジエン系化合物から得られるブロック共重合体または前記ブロック共重合体の水素添加物からなる耐衝撃性改良材、などを例示することができる。
前記■の耐衝撃性改良材を構成する共重合体においては、共重合体中のエチレン単位の割合が90〜98モル%であり、残部が実質的に不飽和カルボン酸単位および不飽和カルボン酸金属塩単位からなるものである。エチレン単位の割合が、あまり少なすぎる場合は、剛性は高いが耐衝撃性の低い材料となるために好ましくなく、あまり多すぎる場合はポリアミドとの相溶性が悪くなり、衝撃強度の向上があまり無くなり、層剥離する場合もあるために好ましくない。
不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸などを例示することができ、この不飽和カルボン酸は、その一部がメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステルまたはブチルエステルなどであってもよい。
不飽和カルボン酸の金属塩は、前記不飽和カルボン酸と元素周期律表のI A、I B、II A、II B、III A族およびVIII族の第4周期の金属との塩である。かかる金属としては、ナトリウム、カリウム、銅、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、鉄、コバルトおよびニッケルなどを例示することができる。これらのなかでもナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウムおよび亜鉛が好ましい。
前記■の耐衝撃性改良材を構成するオレフィン共重合体としては、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、アミレンなどのオレフィン系炭化水素から得られる共重合体を例示することができる。
このオレフィン系共重合体には、不飽和結合を有する構成単位を含有させてもよい。前記単位は、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネンなどを共重合させることによって導入することができる。
オレフィン共重合体としては、エチレン単位およびプロピレン単位を70モル%以上含有するブロックもしくはランダム共重合体で、前記エチレン単位およびプロピレン単位のモル比が、1:2〜6:1で、2.16kg/230℃におけるメルトフローレート(M.F.R)が1〜10のものが好ましい。
かかるオレフィン共重合体は、0.01〜10モル%の酸基を含有するものである。酸基の含有量があまり少なすぎると、ポリアミドとの相溶性が悪く、耐衝撃性があまり向上しないために好ましくなく、あまり多すぎても耐衝撃性の向上にはある程度以上は効果がなく、生産性が悪くなるために好ましくない。
オレフィン共重合体に酸基を導入する方法としては、共重合時にベンゾイルペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシドなどのラジカル発生剤と、無水マレイン酸またはアクリル酸などを反応させる方法を適用することができる。
前記■の耐衝撃性改良材を構成する共重合体の製造原料であるビニル系芳香族化合物としては、スチレン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、α−メチルスチレンおよびビニルトルエンなどを例示することができる。これらは2種以上を併用することができる。
また、同様に製造原料である共役ジエン系化合物としては、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエンおよび2,3−ジメチルブタジエンなどを例示することができる。これらは2種以上を併用することができる。
前記共重合体は、ビニル系芳香族化合物単位からなる重合体(I)と共役ジエン系化合物単位からなる重合体(II)が、次式:I−II−I(式中、Iは同一でも、相異なっていてもよい)で示されるブロック構造であるものが好ましい。前記共重合体がこのような構成であることにより、耐衝撃性の向上と良好な成形性と維持できるものである。また、重合体(II)は、その一部が水素添加されていてもよい。
前記共重合体を構成する前記重合体(I)と重合体(II)の割合は、重合体(II)が60モル%以上であるものが好ましい。重合体(II)の割合があまり少なすぎると耐衝撃性向上効果が発揮されないために好ましくない。
かかる共重合体は、0.01〜10モル%の酸基を含有するものである。酸基の含有量がこの範囲外であると、前記■の場合と同様な理由から好ましくない。
オレフィン共重合体に酸基を導入する方法としては、前記■と同様な方法を適用することができる。
(C)成分の配合割合は、(A)成分100重量部に対して5〜70重量部が好ましく、8〜60重量部がさらに好ましい。(C)成分の配合割合が5重量部未満であると、成形体の耐衝撃性の改良が不十分となるので好ましくなく、70重量部を超えると剛性(曲げ弾性率)および耐熱性が次第に低下するので好ましくない。
本発明の樹脂組成物には、上記(A)〜(C)成分のほかにも、その用途に応じて染料、顔料、繊維状補強物、粒子状補強物、離型剤などの成形性改良剤、可塑剤、耐熱性改良剤、発泡剤、難燃剤などを配合することができる。
本発明の樹脂組成物の製造方法は、各構成成分を均一に分散させることができる方法であれば特に制限されるものではない。例えば、(B)成分の珪酸塩の原料が多層状粘土鉱物である場合には、膨潤化剤と接触させて、予め層間を拡げて層間にモノマーを取り込みやすくしたのち、(A)成分を形成するモノマーに混合し、重合する方法(特開昭62−74957号公報参照)により(A)および(B)成分を混合し、さらに(C)成分の耐衝撃性改良材を配合する方法、(A)および(B)成分の溶融混練物に、(C)成分を混練・配合する方法、または(A)および(B)成分からなる粉末状またはペレット状の成形物に(C)成分を配合したのち、溶融混練する方法などを適用することができる。
現在ポリアミド樹脂の耐衝撃性を向上させるために耐衝撃性改良材を複合させる発明が各種提案されている。しかし低温で優れた耐衝撃性を示す組成物は剛性、耐熱性が低下するという欠点があった。本発明は、ポリアミド樹脂もしくはこれを含む樹脂に層状珪酸塩を均一分散した組成物に耐衝撃性改良剤を複合することにより、その欠点を改良したものである。その理由は明らかではないが層状珪酸塩を均一に分散するために耐衝撃性を損なうことなく、剛性、耐熱性を向上させることができたと考える。
(実施例)
実施例1 層状珪酸塩の一単位の幅が平均9.5Åで一辺の長さが約0.1μmの原料であるモンモリロナイト100gを10■の水に分散し、これに51.2gの12−アミノドデカン酸と24mlの濃塩酸を加え、5分間攪拌した後、濾過した。さらにこれを十分洗浄した後、真空乾燥した。この操作により、12−アミノドデカン酸アンモニウムイオンとモンモリロナイトの複合体を調製した。複合体中の層状珪酸塩分は約80%となった。
次に、攪拌機付の反応容器に10kgのε−カプロラクタム、1kgの水および100gの前記複合体を入れ、100℃で反応系内が均一な状態になるように攪拌した。さらに温度を260℃に上昇させ、15kg/cm2の加圧下で1時間攪拌した。その後、放圧し、水分を反応容器から揮散させながら、常圧下、260℃で3時間反応を行った。反応終了後、反応容器の下部ノズルから、ストランド状に取り出した反応物を水冷し、カッティングを行い、ポリアミド樹脂(平均分子量15,000)およびモンモリロナイトからなるペレットを得た。このペレットを熱水中に浸漬し、未反応のモノマー約10%を抽出し、除去したのち、真空中で乾燥した。
次に、エチレン単位95モル%、メタクリル酸単位2モル%、メタクリル酸亜鉛単位2モル%およびメタクリル酸メチル単位1モル%から構成される共重合体からなる耐衝撃性改良材(耐衝撃性改良材a)を、対応するモノマーを用いて高圧法ポリエチレン製造装置およびけん化装置により調製した。
その後、前記ペレットと耐衝撃性改良材aを65:35の重量比でブレンダーにより30分間混合した。次に、前記混合物を2軸混練押出し機TEX30((株)日本製鋼所製)により、押出し機の設定温度C1:250℃、C2:270℃、C3:270℃、ダイ温度:270℃、の条件で混練して本発明の組成物を得た。
このようにして得られた組成物を下記の条件で射出成形した試験片を調製し、この試験片を用いて下記の各試験を行った。結果を表に示す。なお、表中の各構成成分の配合量は、実際の配合量を重量部に換算して表示した。以下において同様である。
射出成形機;東芝機械(株)製 IS−80シリンダー設定温度:C1240℃;C2260℃;C3270℃;C4(ノズル)270℃射出圧力:600kg/cm2金型温度:88℃射出時間:10秒冷却時間:20秒測定試験引張り降伏点強さ:ASTM−D−638破断点伸び:ASTM−D−638曲げ弾性率:ASTM−D−790(いずれの試験も23℃において絶乾状態で行った。)
耐衝撃性:ASTM−D−256(−30℃の絶乾状態を行った。)
熱変形温度:ASTM−D−648(絶乾状態で試験した。)
実施例2および3 実施例1において、反応容器に入れた膨潤モンモリロナイトの量を200g(実施例2)または400g(実施例3)としたほかは実施例1と同様にして組成物を得た。
この組成物を用い、実施例1と同様にして各試験を行った。結果を表に示す。
比較例1 実施例1において、反応容器に複合体を仕込まずにε−カプロラクタム10kgと水1kgのみを仕込んだほかは同様にしてペレットを調製した。さらに、このペレットに耐衝撃性改良材aを配合しないほかは実施例1と同様にして各試験を行った。結果を表に示す。
比較例2 実施例2において、反応容器に複合体を仕込まずにε−カプロラクタム10kgと水1kgのみを仕込んだほかは実施例2と同様にして各試験を行った。結果を表に示す。
実施例4 実施例2において、耐衝撃性改良材aのかわりに、M.F.R(2.16kg/230℃)が3g/minのエチレン単位とプロピレン単位のモル比が47:53からなるランダム共重合体100重量部に、無水マレイン酸0.7重量部およびベンゾイルペルオキシド0.2重量部を加え、溶融反応させて得た耐衝撃性改良材bを用い、混練時のブレッド比をポリアミド珪酸塩複合体;b=80:20にしたほかは、実施例2と同様にして組成物を得た。
この組成物を用い、実施例1と同様にして各試験を行った。結果を表に示す。
比較例3 実施例4において、反応容器に複合体を仕込まずにε−カプロラクタム10kgと水1kgのみを仕込んだほかは実施例4と同様にして各試験を行った。結果を表に示す。
実施例5 実施例4において、耐衝撃性改良材bのかわりに、M.F.R(2.16kg/230℃)が3.4g/10minのポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン(モル比10:80:10)からなる部分的に水素化されたブロック共重合体で、実施例4と同様の方法で0.05モル%マレイン酸で変成されたもの(耐衝撃性改良材c)を用いたほかは、実施例4と同様にして組成物を得た。
この組成物を用い、実施例1と同様にして各試験を行った。結果を表に示す。
比較例4 実施例5において、反応容器に複合体を仕込まずにε−カプロラクタム10kgと水1kgのみを仕込んだほかは実施例5と同様にして各試験を行った。結果を表に示す。
表より明らかなように、比較例のものは、引張り強さ等の測定試験結果のいずれかにおいて特性が低下しているのに対して、本実施例では、どの特性においても低下しておらず、総合的に優れたものであることが分る。


[発明の効果]
本発明の組成物から得られる成形体は、優れた剛性(引張り強さおよび曲げ弾性率)、耐衝撃性および耐熱性を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】(A)ポリアミド樹脂またはポリアミド樹脂を含む樹脂混合物、(B)前記(A)成分中に、一単位の一辺が0.002〜1μm、厚みが6〜20Åで、各々平均20Åの層間距離を保って、分子状に均一に分散している層状珪酸塩および(C)耐衝撃性改良材、を含有し、前記(A)成分および(B)成分の組成物を調製した後、これに前記(C)成分を混入させたことを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】配合割合が、(A)成分100重量部に対し、(B)成分0.05〜30重量部および(C)成分5〜70重量部である請求項1記載のポリアミド樹脂組成物。

【特許番号】第2528163号
【登録日】平成8年(1996)6月14日
【発行日】平成8年(1996)8月28日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭63−179095
【出願日】昭和63年(1988)7月20日
【公開番号】特開平2−29457
【公開日】平成2年(1990)1月31日
【出願人】(999999999)宇部興産株式会社
【出願人】(999999999)トヨタ自動車株式会社
【出願人】(999999999)株式会社豊田中央研究所
【参考文献】
【文献】特開昭62−74957(JP,A)
【文献】特開昭62−45651(JP,A)
【文献】特開昭63−145357(JP,A)