説明

高効率メタノール製造方法

【課題】 天然ガスなどの低級炭化水素から効率よくメタノールを製造する方法を提供する。
【解決手段】 水蒸気と炭酸ガスとを添加した低級炭化水素ガスを触媒の存在下で改質して水素と一酸化炭素とを主成分とする合成ガスを生成する改質工程と、該改質工程で得た合成ガスを触媒の存在下で反応させてメタノールの合成を行うメタノール合成工程と、該メタノール合成工程で合成されたメタノールを分離すると共に、未反応ガスを含む残りのガスをリサイクルガスとして合成ガスに合流させるリサイクル工程と、該リサイクルガスの少なくとも一部から水素ガスを分離し、該水素ガスを合成ガスに合流させる水素分離工程とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ガスなどの低級炭化水素から効率よくメタノールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタノールは、酢酸などの基礎化学品の原料や次世代燃料として注目されているDME(ジメチルエーテル)の原料として使用できる他、燃料電池のエネルギー源としての用途も検討されており、今後ますます需要が伸びることが期待されている。メタノールの製造は、通常、天然ガスなどの低級炭化水素から水素と一酸化炭素とを主成分とする合成ガスを生成し、この合成ガスを気相合成法に基づいて反応させて粗メタノールを得る方法がとられてきた。
【0003】
例えば、特許文献1には、スチームが添加された炭化水素ガスをNi系触媒の存在下で800〜1000℃に加熱してスチームリフォーミングし、得られた合成ガスをCu系触媒の存在下で50〜150気圧、200〜300℃で反応させてメタノールを合成する技術が記載されている。この合成ガスからのメタノール合成では、下記の2つの反応式が関与していることが知られている。
CO+2H=CHOH
CO+3H=CHOH+H
【0004】
上記2つの反応式の量論関係から分かるように、メタノール合成においては、その原料となる合成ガス中の化合物Xのモル濃度を[X]としたとき、[H]=2[CO]+3[CO]の量論式の成立するときが最も高効率となる。更に、下記に示すようにR値を仮定したとき、上記量論式から、R=2の成立するときが最もメタノール合成が高効率となる。
([H]−[CO])/([CO]+[CO])=R
【0005】
しかしながら、特許文献1に示す方法によってスチームリフォーミングを行った場合は、一酸化炭素に比べて水素が過剰に生成されるため、Rが2より大きくなってメタノールを効率よく合成することができなかった。そこで、非特許文献1に示すように、スチームリフォーミングで得た合成ガスに系外から所定量の二酸化炭素を供給したり、原料となる低級炭化水素ガスにスチーム及び炭酸ガスを添加してスチームリフォーミングと共にCOリフォーミングを行ったりすることによって、R=2を達成する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平01−180841号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】H.Holm−Larsen著、「CO2 reforming for large scale methanol plants−an actual case」、Studies in Surface Science and Catalysis、2001、p.441−446
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記方法によってR=2となるように調整した場合は、カーボン析出を抑えるため、原料ガスにスチームを多めに添加してスチーム/カーボン比(HO分子のモル数を炭化水素ガスに含まれるカーボン原子のモル数で割った値であり、S/C比と称することもある)を2.5程度の高い値にする必要があった。その結果、リフォーマーの必要熱量(heat duty)が大きくなって、製造コストが高くなることがあった。
【0009】
本発明はかかる状況に鑑みてなされたものであり、天然ガスなどの低級炭化水素から効率よくメタノールを製造する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明が提供するメタノールの製造方法は、水蒸気と炭酸ガスとを添加した低級炭化水素ガスを触媒の存在下で改質して水素と一酸化炭素とを主成分とする合成ガスを生成する改質工程と、該改質工程で得た合成ガスを触媒の存在下で反応させてメタノールの合成を行うメタノール合成工程と、該メタノール合成工程で合成されたメタノールを分離すると共に、未反応ガスを含む残りのガスをリサイクルガスとして合成ガスに合流させるリサイクル工程と、該リサイクルガスの少なくとも一部から水素ガスを分離し、該水素ガスを合成ガスに合流させる水素分離工程とからなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、天然ガスなどの低級炭化水素から効率よくメタノールを製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のメタノールの製造方法を実施する際に使用されるメタノール製造装置の概略フロー図である。
【図2】天然ガスの改質により一定量の合成ガスを生成するときの原料ガスのS/C比と原料ガス供給量との関係を表したグラフである。
【図3】天然ガスの改質により合成ガスを生成するときの原料ガスのS/C比と反応出口でのカーボン活性との関係を表したグラフである。
【図4】従来のメタノールの製造装置を示す概略フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
先ず、図1の概略フロー図を参照しながら、本発明のメタノールの製造方法を実施する際に使用されるメタノール製造装置の一具体例について説明する。このメタノール製造装置は、水蒸気と炭酸ガスとを添加した低級炭化水素ガスを触媒の存在下で改質して水素と一酸化炭素とを主成分とする合成ガスを生成するリフォーマー1と、リフォーマー1で得た合成ガスを触媒の存在下で反応させてメタノールの合成を行うメタノール反応器3と、メタノール反応器3で合成されたメタノールを分離すると共に、未反応ガスを含む残りのガスをリサイクルガスとして合成ガスに合流させるリサイクル手段4と、該リサイクルガスの少なくとも一部から水素ガスを分離し、該水素ガスを合成ガスに合流させる水素分離手段6とによって構成されている。
【0014】
より具体的に説明すると、リフォーマー1の入口には原料に使用する低級炭化水素ガス(ストリームS1)の供給ラインが接続している。この供給ラインには、後述する加熱炉2の燃料に使用する低級炭化水素ガス(ストリームS4)を一部抜き取るための分岐ラインが設けられている。
【0015】
原料に使用する低級炭化水素ガスには、後述する改質触媒の触媒毒となるメルカプタンなどの硫黄化合物が含まれている場合がある。この硫黄化合物を除去するため、リフォーマー1の上流側には、例えば硫黄化合物を水素化分解するCo-Mo系やNi-Mo系触媒と、得られた硫化水素を吸着除去する酸化亜鉛の吸着剤とからなる硫黄除去手段(図示せず)を設けるのが好ましい。
【0016】
供給ラインには、COリフォーミングのための二酸化炭素ガス(ストリームS2)を供給するライン、及びスチームリフォーミングのためのスチーム(ストリームS3)を供給するラインが合流している。これらCOとスチームのラインには図示しない流量計やバルブなどの流量制御手段が設けられているのが好ましく、これにより二酸化炭素ガス及びスチームの流量を個別に制御することが可能となる。
【0017】
リフォーマー1は、例えば内部に改質触媒が充填された管式反応器によって構成されており、その中心軸が上下方向を向くように加熱炉2内に設置されている。そして、加熱炉2のバーナーで燃料を燃焼した時に発生する輻射熱によってリフォーマー1内部を加熱するようになっている。
【0018】
バーナーの燃料には、前述したストリームS4の天然ガスの他、後述するメタノールセパレーター5から排出されるストリームS10の流体、メタノール合成工程のリサイクルループのパージのために排出されるストリームS11の流体、及び水素分離手段6から排出されるストリームS12の流体を使用することができる。そして、これら燃料の燃焼によって排出される燃焼排ガスは、ストリームS5として加熱炉2から排出される。
【0019】
このリフォーマー1に使用する改質触媒には、担体としてのマグネシア(MgO)に、ルテニウム(Ru)及び/又はロジウム(Rh)を200wtppm以上2000wtppm以下担持したものを使用するのが好ましく、200wtppm以上700wtppm以下担持したものを使用するのがより好ましい。その理由は、MgO担体に上記所定量のRu及び/又はRhを担持した触媒は、カーボンが析出しにくいため、一般的なNi系触媒を使用する際に課される制限(一般的にはカーボン析出を避けるためにS/C比を2.0以上で運転する)を超えてより効率のよい条件で改質反応を行うことができるからである。
【0020】
また、リフォーマー1内には、GHSV(ガス空間速度)が2000hr−1以上10000hr−1以下となるように改質触媒を充填するのが好ましい。この値が2000hr−1未満では触媒管の必要本数が多くなりすぎ、10000hr−1を超えると合成ガス中のメタン残が著しく増大する。
【0021】
マグネシア担体には、市販の金属酸化物を用いてもよいし、市販の金属水酸化物を焼成して得られるマグネシアを用いてもよい。いずれの場合であっても、マグネシアの純度は98質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましい。特に、鉄、ニッケル、及び二酸化ケイ素(SiO)等の不純物は、カーボンの析出活性を高めたり、高温、還元ガス雰囲気下で分解したりするので担体に含まれていないのが望ましい。これらの不純物が含まれる場合は、1質量%以下が好ましく、0.1質量%以下がより好ましい。
【0022】
このマグネシア担体を、1000℃以上1500℃以下で焼成した後、例えば含浸法によりRu及び/又はRhを担持させることによって触媒を作製することができる。含浸法は、担体を水中に分散させた後、RuやRhの金属塩若しくはその水溶液を添加して混合することによって担体に触媒金属を含浸させるものである。金属塩には水溶性塩を用いるのが好ましく、例えば、硝酸塩、塩化物等の無機酸塩、酢酸塩やシュウ酸塩等の有機酸塩を使用するのが好ましい。あるいは、水溶性塩に代えて、RuやRhのアセチルアセトナト塩等をアセトン等の有機溶媒に溶解し、これを担体に含浸させてもよい。
【0023】
上記方法で含浸させた後、担体を水溶液から分離し、水溶性塩の場合は100〜200℃、好ましくは100〜150℃の乾燥温度で乾燥する。一方、有機溶媒を用いて含浸した場合は、その溶媒の沸点より50〜100℃高い温度で乾燥する。乾燥後は焼成を行う。焼成の温度及び時間は、所望する担体の比表面積に応じて適宜選定されるが、一般的には、300〜1300℃の温度で1〜5時間かけて焼成する。
【0024】
Ru及び/又はRhを担持させる方法には、上記した含浸法の他、担体を排気してから細孔容積分の金属塩溶液を少量ずつ加え、担体表面を均一に濡れた状態にし、その後、乾燥及び焼成を行う方法であるincipient−wetness法や、霧状の金属塩水溶液を担体に吹き付け、その後乾燥及び焼成を行うSpray法を採用してもよい。改質触媒の形態は特に限定はなく、例えば粉末状、顆粒状、球形状、円柱状、円筒状等の各種の形状を使用することができる。通常は、充填される触媒床の方式に応じて適切な形状を選定する。
【0025】
リフォーマー1の後段にはメタノール反応器3が設けられている。このメタノール反応器3には、メタノール合成において使用される一般的な反応器を使用してよい。例えばチューブ内に銅系触媒が充填されたシェルアンドチューブ熱交換器型の反応器を使用することができる。チューブ側の反応条件も特に限定はなく、メタノール合成の一般的な条件である5〜15MPaG程度、200〜300℃程度でメタノールの合成反応を行うことができる。その際、シェル側にボイラ水を供給することによって、メタノール合成反応の反応熱を水蒸気として回収することができる。
【0026】
なお、メタノール合成工程は前段の改質工程に比べて低温かつ高圧で反応させるので、リフォーマー1とメタノール反応器3との間には合成ガスを所定の温度まで冷却する図示しない冷却手段、及び合成ガスを所定の圧力まで昇圧する図示しない圧縮機が設けられている。また、リフォーマー1とメタノール反応器3を接続するラインには、後述する水素分離手段6で分離された高純度の水素ガス(ストリームS6)の供給ラインが合流している。これらリフォーマー1を出た合成ガスと高純度の水素ガス(ストリームS6)とが合流した後のガスがストリームS7となる。
【0027】
リフォーマー1とメタノール反応器3を接続するラインには、更にメタノール合成工程のリサイクルガスのラインが合流している。すなわち上記ストリームS7のガスとリサイクルガスが合流した後のガスがストリームS8となる。そして、このストリームS8のガスがメタノール反応器3に供給される。
【0028】
メタノール反応器3の後段にはリサイクル手段4が設けられている。リサイクル手段4は、具体的にはメタノール反応器3から出た反応ガスを冷却する冷却器と、この冷却器の冷却によって凝縮された粗メタノールを、未反応ガスを含む残りのガスから分離する気液分離槽とから構成されている。そして、この未反応ガスを含む残りのガスは、リサイクルガスとして高圧のままメタノール反応器3の上流側にリサイクルされ、前述したストリームS7に合流する。
【0029】
気液分離槽の後段にはメタノールセパレータ5が設けられており、ここで気液分離槽から排出される粗メタノールを精製して高純度のメタノールを製造する。粗メタノールの精製には例えばリボイラーとコンデンサーを備えた蒸留搭を使用することができ、ここで粗メタノールを蒸留することによって塔底もしくは塔中段から純度の高いメタノールが得られる。そして搭頂からストリームS10として排出される流体は、前述したストリームS4と共に加熱炉2のバーナーで燃焼処理される。
【0030】
ところで、前述した未反応ガスを含む残りのガスには、主にメタンからなる低級炭化水素成分が含まれている。この低級炭化水素成分は、メタノール合成反応にとって不活性であるため、リサイクルループ内に徐々に蓄積していく。この蓄積した低級炭化水素成分の濃度をある程度抑えるため、リサイクルループにはリサイクルガスの一部を抜き出すパージラインが設けられている。このパージラインを介して抜き取られたガス(ストリームS11)は、前述したストリームS4やストリームS10と共に加熱炉2のバーナーで燃焼処理される。
【0031】
図1のメタノール製造装置には、このパージラインを介して抜き出されたガスの少なくとも一部を回収する回収ラインが設けられている。そして、この回収ラインは水素分離手段6に接続している。水素分離手段6では、このパージライン及び回収ラインを介してリサイクルループから回収されたガスに対して分画操作を施して高純度の水素ガスを取り出している。この高純度の水素ガスはストリームS6として前述したようにリフォーマーから出た合成ガスに合流する。なお、上記回収ラインは、パージラインを介さずに直接リサイクルループから分岐してもよい。
【0032】
水素分離手段6には、例えばPSA(Pressure Swing adsorption)装置や水素分離膜を使用することができる。PSA装置は、吸着剤が充填された複数の充填搭からなる装置であり、ガスが供給される充填搭を一定の時間間隔で切り替えることによって各充填搭毎に加圧減圧を繰り返して特定のガス成分の吸着脱着を行い、これにより高純度の水素ガスを得るものである。一方、水素分離膜はパラジウムや高分子で形成された膜によって分子ふるいの原理で水素分子のみを選択的に透過させて高純度の水素ガスを得るものである。
【0033】
このように、リサイクルループのガスを一部抜き出し、この抜き出したガスから分離した水素ガスを合成ガスに合流することによって、メタノール合成にとって最も効率のよい条件であるR=2の条件でメタノール合成反応を行うことが可能となる。なお、ストリームS6のラインには図示しない流量計やバルブなどから構成される流量制御手段が設けられているのが好ましく、これにより当該水素ガスが合流された後のストリームS7内のR値の制御が容易になる。また、高純度の水素ガスが分離された後に残るガスは、ストリームS12として、前述したストリームS4、ストリームS10及びストリームS11と共に加熱炉2のバーナーで燃焼処理される。
【0034】
次に、本発明のメタノールの製造方法の一具体例について、上記説明した図1のメタノール製造装置を参照しながら説明する。この本発明の一具体例のメタノールの製造方法は、水蒸気と炭酸ガスとを添加した低級炭化水素ガスを触媒の存在下で改質して水素と一酸化炭素とを主成分とする合成ガスを生成する改質工程と、該改質工程で得た合成ガスを触媒の存在下で反応させてメタノールの合成を行うメタノール合成工程と、該メタノール合成工程で合成されたメタノールを分離すると共に、未反応ガスを含む残りのガスをリサイクルガスとして合成ガスに合流させるリサイクル工程と、該リサイクルガスの少なくとも一部から水素ガスを分離し、該水素ガスを合成ガスに合流させる水素分離工程とからなる
【0035】
より具体的に説明すると、先ず、系外から原料供給ラインを介して送られてきた低級炭化水素ガスは、加熱炉2に送る燃料のための一部のガスが抜き取られた後、COリフォーミング用の二酸化炭素ガスとスチームリフォーミング用のスチームが添加されて原料ガスとなる。
【0036】
二酸化炭素ガスの添加量は、この原料ガスにおけるCO/カーボン比が0.1以上0.6以下となるように制御するのが好ましい。ここで、CO/カーボン比とは、原料ガス中のCO分子のモル数を原料ガス中の炭化水素ガスに含まれるカーボン原子のモル数で割った値である。CO/カーボン比を0.1以上とすることによってCOをメタノール原料として有効に利用することができる。一方、0.6以下とすることによってリフォーマー1のdutyが過大になるのを抑えることができる。
【0037】
一方、スチームの添加量は、上記原料ガスにおけるスチーム/カーボン比(S/C比)が0.7以上1.7以下となるように制御するのが好ましく、0.8以上1.5以下となるように制御するのがより好ましい。なぜなら、天然ガスの改質により一定量の合成ガスを生成するときの原料ガスのS/C比と原料ガス供給量との関係を表した図2のグラフから分かるように、S/C比の上限を1.7以下にすることによって、原料ガスの必要量をその最適値の約1割増しまでに抑えることができ、よってリフォーマー1のdutyが過大になるのを抑えることができるからである。
【0038】
S/C比の下限については、天然ガスの改質反応によって合成ガスを生成するときの原料ガスのS/C比と反応出口でのカーボン活性との関係を表した図3のグラフから分かるように、スチーム/カーボン比を0.7以上にすることによって、カーボンが析出する閾値である1.0以下にカーボン活性を抑えることができる。つまり、スチーム/カーボン比を0.7以上にすることによって反応器出口でのカーボン析出を防ぐことができる。なお、カーボン活性については、後でより詳細に説明する。
【0039】
これら低級炭化水素ガスと二酸化炭素ガスとスチームとからなる原料ガスを、改質触媒が充填されているリフォーマー1の管内に供給する。リフォーマー1は加熱炉2における輻射熱によって外部から加熱されており、これによりリフォーマー1に供給された原料ガスは、リフォーマー1の管内を流れる間に所定の温度まで加熱されると共に改質触媒の触媒作用を受けて、水素と一酸化炭素とを主成分とする合成ガスに改質される。
【0040】
このリフォーマー1の管内は、出口側の反応温度が850℃以上950℃以下、反応圧力が1.0MPaG以上3.0MPaG以下となるように制御することが好ましい。反応条件をこれら範囲内に制御すると共に、原料ガスの組成を前述したスチーム/カーボン比及びCO/カーボン比の範囲内に制御することによって、カーボンを析出させることなく効率よく原料ガスを改質することができる。
【0041】
更に、リフォーマー1出口の合成ガスは、カーボン活性が0.36以上1.0以下であることが好ましい。なぜなら、カーボン活性が0.36未満では、図3から分かるように、S/C比が1.7より大きくなってリフォーマー1のdutyが過大になるからである。一方、カーボン活性は高くなればなる程リフォーマー1でのエネルギー効率はよくなるものの、1.0を超えると反応器出口にカーボンが析出しやすくなる。ここでカーボン活性とは、カーボン発生の起こりやすさを示す指標であり、カーボン活性が1.0以下であればカーボン発生は熱力学的に起こらないが、カーボン活性が1.0を超えると、カーボン発生のポテンシャルは増大する。
【0042】
カーボン活性は、ある温度及び圧力における生成ガスの分圧と、カーボン生成反応の平衡定数の比から求めることができる。例えば、下記式1で示される一酸化炭素からの炭素析出反応(Boundouard反応)に関しては、炭酸ガスと一酸化炭素の分圧とこの反応の平衡定数の比から下記式2によりカーボン活性(Ac)を求めることができる。なお、下記式2において、KはBoundouard反応の平衡定数、Pco及びPcoはそれぞれ、運転条件下でのCO及びCOの分圧である。
[式1]
2CO=C+CO
[式2]
Ac=K・((Pco)/Pco
【0043】
このように、カーボン活性(Ac)は、リフォーマー1への原料ガスの組成、反応条件(温度、圧力)が定まれば、生成物の収支計算より、求めることができる。よって、これらのパラメータを適宜調整することによってリフォーマー1出口でのカーボン活性Acを所望の値に制御することが可能となる。なお、上記式2の平衡定数と温度の関係は、例えば、D.R.Stull et.al.,The Chemical Thermodynamics of Organic Compounds,John Wiley(1969)を参考にして求めることができる。
【0044】
リフォーマー1から出た合成ガスは、図示しない冷却手段で所定の温度まで冷却された後、更に図示しない圧縮機で所定の圧力に昇圧される。この合成ガスに、水素分離手段6で分離された高純度の水素ガスを合流させる。この水素ガスの合流では、合流後のストリームS7のガスのR値が2.0となるように水素ガスの流量を調節する。これにより、高効率でメタノール合成を行うことが可能となる。更に、このストリームS7にメタノール合成工程のリサイクルガスを合流させる。そして、この合流した後のストリームS8のガスをメタノール反応器3に供給する。
【0045】
メタノール反応器3を出たガスは次にリサイクル手段4に送られ、ここで熱交換器などの冷却器でガスを冷却された後、凝縮により生じた液体画分と未反応ガスを含む残りのガスとが分離される。ここで得られた液体画分はメタノールと水からなる粗メタノールであり、後段のメタノールセパレータ5に送られて、ここで例えば蒸留塔によって精製される。これにより高純度のメタノールが得られる。
【0046】
一方、未反応ガスを含む残りのガスは、リサイクルガスとしてメタノール反応器3の上流側にリサイクルされ、前述したようにリフォーマー1で生成された合成ガスに合流する。
【0047】
メタンなどのメタノール合成にとって不活性な成分がリサイクルループ内に徐々に蓄積するのを防ぐため、リサイクルガスの一部を系外に取り出して加熱炉2のバーナーで燃焼処理する。本発明は、この抜き取ったガスの少なくとも一部を水素分離手段6に送り、この水素分離手段6において高純度の水素ガスを分離する。そして、得られた高純度の水素ガスを、リフォーマー1で生成された合成ガスに合流する。
【0048】
これにより、ストリームS7のR値を所望の値に制御することが可能となる。すなわち、ストリームS6の流量を適宜調整することによって、ストリームS7のR値をメタノール合成にとって最も効率の高いR=2にすることが可能となる。これにより、高純度の水素ガスを添加する前のリフォーマー1の出口の生成ガスのR値を2より低くすることができるので、リフォーマー1の原料ガスのスチーム/カーボン比を下げることができる。その結果、リフォーマー1の必要熱量を下げることが可能となる。
【0049】
スチーム/カーボン比は低ければ低いほどリフォーマー1の必要熱量を下げることができるので、消費エネルギーを削減する観点からは好ましいが、スチーム/カーボン比を下げることによってカーボン活性Acが増加するので、カーボンが析出しやすくなる。この場合は、前述したMgO担体に上記所定量のRu及び/又はRhを担持した触媒を用いることによってカーボンの析出を抑えることが可能となる。
【実施例】
【0050】
[実施例1]
図1のブロックフロー図に沿って天然ガスからメタノールを製造する場合を想定してプロセス計算を行った。リフォーマー1の運転条件は、出口温度875℃、出口圧力2.0MPaG、入口における原料ガスのスチーム/カーボン比1.5、CO/カーボン比0.25とした。また、リフォーマー1のHeat Dutyを288Gcal/h、ストリームS8の流量を2,500,000Nm/hとした。更に、ストリームS7でのR値が2.0となるように、リサイクルループからパージのため抜き出したガスの一部から25,000Nm/hの水素ガスを分離して合成ガスに添加した。このプロセス計算の結果を下記の表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
上記表1の結果から分かるように、メタノール合成工程では最適なR=2を確保しつつ、リフォーマー1の出口ガスのR値を2より低い値に抑えることができるので、メタノールの原料ガスとなる二酸化炭素の添加量を増やすことができる上、リサイクルループにおけるメタンの濃度を下げることができる。その結果、メタノールの生産量を3640t/d(152t/h)にすることができた。なお、上記改質反応条件ではリフォーマー1出口の合成ガスのカーボン活性(Ac)は0.43となる。カーボンが析出し易い条件となっているが、MgO担体にRu及び/又はRhを200wtppm以上2000wtppm以下担持した改質触媒を使用することによってカーボンを析出させることなく良好に改質反応を行うことができる。
【0053】
[比較例1]
実施例1との比較のため、図4のブロックフロー図のように、水素分離工程を有していないことを除いて上記実施例1と同じ条件でプロセス計算を行った。そのプロセス計算の結果を下記の表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
上記表2の結果から分かるように、ストリームS7のR値は1.8と実施例1に比べて低くなり、リサイクルループにおけるメタンの濃度も実施例1に比べて高くなったので、メタノールの生産量は実施例1に比べて約5%低い3450t/d(144t/h)になった。
【0056】
[実施例2]
リフォーマー1の入口における原料ガスのスチーム/カーボン比を1.35、CO/カーボン比を0.29とし、リサイクルループからパージのため抜き出したガスの一部から42,000Nm/hの水素ガスを分離して合成ガスに添加した以外は上記した実施例1の条件と同じ条件でプロセス計算を行った。そのプロセス計算の結果を下記の表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
上記表3の結果から分かるように、実施例1より多い量の水素ガスを合成ガスに添加したので、実施例1より低いスチーム/カーボン比でリフォーマーを運転することができる。その結果、実施例1よりも二酸化炭素の添加量を増やすことができるので、メタノールの生産量は実施例1に比べて約3%高い3740t/d(156t/h)になった。
【0059】
なお、この実施例2の改質反応条件ではリフォーマー1出口の合成ガスのカーボン活性(Ac)は0.49となる。カーボンがより析出し易い条件となっているが、MgO担体にRu及び/又はRhを200wtppm以上2000wtppm以下担持した改質触媒を使用することによってカーボンを析出させることなく良好に改質反応を行うことができる。
【0060】
[比較例2]
実施例2との比較のため、図4のブロックフロー図のように、水素分離工程を有していないことを除いて上記実施例2と同じ条件でプロセス計算を行った。そのプロセス計算の結果を下記の表4に示す。
【0061】
【表4】

【0062】
上記表4の結果から分かるように、ストリームS7のR値は1.68と実施例2に比べて低くなり、リサイクルループにおけるメタンの濃度も実施例2に比べて高くなったので、メタノールの生産量は実施例2に比べて約8%低い3450t/d(144t/h)になった。
【0063】
[比較例3]
図4に示す従来のフローに従って、水素ガスの添加に代えて二酸化炭素ガスの添加量を調整することによってストリームS7でのR値を2.0にする場合を想定してプロセス計算を行った。すなわち、この比較例3では、水素分離工程を有しておらず、ストリームS2の流量を制御してストリームS7でのR値を2.0にした以外は実施例2と同じ条件でプロセス計算を行った。なお、この反応条件ではリフォーマー1入口における原料ガスのスチーム/カーボン比は1.75、CO/カーボン比は0.20となる。そのプロセス計算の結果を下記の表5に示す。
【0064】
【表5】

【0065】
上記表5の結果から分かるように、合成ガスに水素が添加されないため、リフォーマー1出口においてR値を2にすべくリフォーマー入口でのスチーム/カーボン比を1.75と実施例2に比べて高くする必要が生じ、よって添加できる二酸化炭素ガスの量が実施例2に比べて低くなった。その結果、メタノールの生産量は実施例2に比べて約7%低い3480t/d(145t/h)になった。なお、この改質反応条件ではリフォーマー1出口での合成ガスのカーボン活性Acは0.35となった。
【0066】
[比較例4]
図4に示す従来のフローに従って、従来のスチームリフォーミングによって改質する場合を想定してプロセス計算を行った。すなわち、この比較例4では、水素分離工程を有しておらず、ストリームS2の流量をゼロにした以外は実施例2と同じ条件でプロセス計算を行った。なお、この反応条件ではリフォーマー1入口における原料ガスのスチーム/カーボン比は3.00、CO/カーボン比は0.00となる。そのプロセス計算の結果を下記の表6に示す。
【0067】
【表6】

【0068】
上記表6の結果から分かるように、二酸化炭素を添加しなかったためメタノールの原料となるカーボン量が減少した上、ストリームS7でのR値が2.85となったので、メタノールの生産量は実施例2に比べて約19%低い3000t/d(125t/h)になった。なお、この改質反応条件ではリフォーマー1出口の合成ガスのカーボン活性Acは0.15となった。
【符号の説明】
【0069】
1 リフォーマー
2 加熱炉
3 メタノール反応器
4 リサイクル手段
5 メタノールセパレータ
6 水素分離手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水蒸気と炭酸ガスとを添加した低級炭化水素ガスを触媒の存在下で改質して水素と一酸化炭素とを主成分とする合成ガスを生成する改質工程と、該改質工程で得た合成ガスを触媒の存在下で反応させてメタノールの合成を行うメタノール合成工程と、該メタノール合成工程で合成されたメタノールを分離すると共に、未反応ガスを含む残りのガスをリサイクルガスとして合成ガスに合流させるリサイクル工程と、該リサイクルガスの少なくとも一部から水素ガスを分離し、該水素ガスを合成ガスに合流させる水素分離工程とからなることを特徴とするメタノールの製造方法。
【請求項2】
前記水素ガスの分離にPSA装置を用いることを特徴とする、請求項1に記載のメタノールの製造方法。
【請求項3】
前記改質工程における原料ガスのスチーム/カーボン比が0.7以上1.7以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のメタノールの製造方法。
【請求項4】
前記改質工程で得た合成ガスのカーボン活性が0.36以上1.0以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のメタノールの製造方法。
【請求項5】
前記改質工程で使用する触媒が、1000℃以上1500℃以下で焼成されたMgOに、200wtppm以上2000wtppm以下のRu及び/又はRhが担持されたものであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のメタノールの製造方法。
【請求項6】
前記改質工程における反応条件が、出口側反応温度850℃以上950℃以下、反応圧力1.0MPaG以上3.0MPaG以下であり、そのGHSVが2000hr−1以上10000hr−1以下であり、その原料ガスのCO/カーボン比が0.1以上0.6以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のメタノールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−219068(P2012−219068A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87704(P2011−87704)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)
【Fターム(参考)】