高効率有機光電池のための新しい構造及び基準
有機光起電力セルは、アノードとカソードと、そのアノード及びカソードの間の複数の有機半導体層を含む。アノードとカソードの少なくとも1つが透明である。その複数の有機半導体層の各々の2つの隣接する層は直接接触している。その複数の有機半導体層は、光伝導性物質のみから本質的になる中間層と、少なくとも3層の2つの組を含む。少なくとも3層の第一の組は中間層とアノードとの間にある。第一の組の各層は異なる有機半導体物質のみから本質的になり、その有機半導体物質はカソードにより近い複数の有機半導体層のうちの隣接層の物質よりも高いLUMO及び高いHOMOを有する。少なくとも3層の第二の組は中間層とカソードとの間にある。第二の組の各層は異なる有機半導体物質のみから本質的になり、その有機半導体物質はアノードにより近い複数の有機半導体層のうちの隣接層の物質よりも低いLUMO及び低いHOMOを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(アメリカ合衆国政府の権利)
この発明は、米国エネルギー省の国立再生可能エネルギー研究所によって授与された契約番号3394012のもとで米国政府の援助によって行われた。同政府はこの発明に一定の権利を有する。
【0002】
(共同研究契約)
特許請求の範囲に記載した発明は、共同の大学・企業研究契約に関わる1つ以上の以下の団体:プリンストン大学、サザン・カリフォルニア大学、及びグローバルフォトニックエナジーコーポレーションにより、1つ以上の団体によって、1つ以上の団体のために、及び/又は1つ以上の団体と関係して行われた。上記契約は、特許請求の範囲に記載の発明がなされた日及びそれ以前に発効しており、特許請求の範囲に記載された発明は、前記契約の範囲内で行われた活動の結果としてなされた。
【0003】
(発明の分野)
本発明は概略、有機感光性光電子デバイスに関する。より詳細には、本発明は、光によって発生した励起子を空間的に分離するためのエネルギーカスケードを利用した有機感光性光電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0004】
光電子デバイスは、電磁放射を電子的に作り出すか又は検出するいずれかのため、あるいは環境の電磁放射から電気を作り出すために、物質の光及び電子特性に頼っている。
【0005】
感光性光電子デバイスは、電磁放射を電気信号又は電気に変換する。太陽電池(光起電力(photovoltaic, PV)デバイスともよばれる)は、特に電力を生み出すために用いられる一つのタイプの感光性光電子デバイスである。光伝導体セルは、吸収された光による変化を検出するためにデバイスの抵抗を監視する信号検出回路とあわせて用いられる一つのタイプの感光性光電子デバイスである。光検出器(これは印加されたバイアス電圧を受けうる)は、その光検出器が電磁放射に曝されたときに生じた電流を測定する電流検出回路とあわせて使用される一つのタイプの感光性光電子デバイスである。
【0006】
これら3つの群の感光性光電子デバイスは、以下で定義する整流接合が存在するか否かにしたがって、さらにまた、そのデバイスが外部印加電圧(バイアスもしくはバイアス電圧としても知られる)で駆動されるのか否かにしたがって区別できる。光伝導体セルは整流接合をもたず、且つ通常はバイアスをかけて駆動される。PVデバイスは少なくとも一つの整流接合をもち、バイアスをかけずに駆動される。光検出器は少なくとも一つの整流接合をもち、且つ常にではないが通常はバイアスをかけて駆動される。
【0007】
本明細書で用いるとおり、「整流」の用語は、とりわけ、インターフェースが非対称の伝導特性を有すること、すなわち、そのインターフェースが好ましくは一方向への電荷輸送を助けることを意味する。「半導体」の用語は、熱的もしくは電磁的励起によって電荷担体(電荷キャリア)が生じた時に電気を伝導することができる物質を意味する。「光伝導」の用語は、一般に、電磁放射エネルギーが吸収され、その結果、電荷担体の励起エネルギーに変換され、その担体が物質中で電荷を伝導(すなわち輸送)できるプロセスに関連する。「光伝導性物質」の用語は、電磁放射を吸収して電荷担体を生じさせるそれらの特性のために利用される半導体物質をいう。本明細書で「トップ(top)」とは基材(基板)から最も離れていることを意味し、一方、「ボトム(bottom)」はその基材(基板)に最も近いことを意味する。第一の層が第二の層に「物理的に接触」している、あるいは「直接上に」あるということが特定されていない限り、間に介在する層が存在してもよい(例えば、第一の層が第二の層の「上」もしくは「上を覆って」いる場合)。しかし、これは表面処理(例えば、水素プラズマへの第一の層の曝露)を排除しない。
【0008】
適切なエネルギーの電磁放射が有機半導体物質の上に照射された場合、光子が吸収されて励起分子状態を生じさせることができる。有機光導電物質中では、その生じた分子状態は一般に「励起子」(すなわち、擬粒子として輸送される、結合された状態にある電子−正孔対)であると考えられる。励起子は、対再結合(「消光」)前に感知可能な寿命を有し、対再結合は当初の電子及び正孔が互いに再結合することをいう(別のペアからの正孔もしくは電子との再結合とは対照的である)。光電流を生み出すためには、励起子を形成する電子−正孔が、典型的には整流接合で分離される。
【0009】
感光性デバイスにおいては、この整流接合は光起電力ヘテロ接合といわれる。有機光起電力ヘテロ接合のタイプには、ドナー物質とアクセプター物質との界面に形成されたドナー-アクセプターヘテロ接合、及び光伝導性物質と金属との界面に形成されたショットキーバリアヘテロ接合が含まれる。
【0010】
図1は一つの例のドナー-アクセプターヘテロ接合を説明するエネルギー準位ダイヤグラムである。有機物質との関連で、「ドナー」及び「アクセプター」の用語は、2つの接触はしているが異なる有機物質の最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)エネルギーレベルの相対的な位置をいうものである。別な物質と接触している一つの物質のLUMOエネルギー準位がより低ければ、その物質はアクセプターである。そうでなければそれはドナーである。外部バイアスの不存在下では、ドナー-アクセプター接合にある電子にとっては、アクセプター物質中に移動することがエネルギー的には好ましい。
【0011】
本明細書で用いるように、第一のエネルギー準位が真空エネルギー準位10により近い場合は、第一のエネルギー準位は第二のHOMO又はLUMOエネルギー準位よりも「より大きい」又は「より高い」。より高いHOMOエネルギー準位は、真空準位に対して、より小さな絶対エネルギーをもつイオン化ポテンシャル(ionization potential,「IP」)に相当する。同様に、より高いLUMOエネルギー準位は、真空準位に対して、より小さな絶対エネルギーをもつ電子親和力(electron affinity,「EA」)に相当する。上端(トップ)に真空準位を有する従来のエネルギー準位ダイヤグラム上で、物質のLUMOエネルギー準位は、同じ物質のHOMOエネルギー準位よりも高い。
【0012】
ドナー152又はアクセプター154における光子6の吸収が励起子8を作り出した後、その励起子8は整流界面で解離する。ドナー152は正孔(白丸)を輸送し、アクセプター154は電子(濃い丸)を輸送する。
【0013】
有機半導体中の顕著な特性は担体移動度である。移動度は、電荷担体が電場に応答して導電性物質を通って移動できる場合を測定する。有機感光性デバイスとの関連では、高い電子移動度によって、好ましくは電子によって導電する物質を電子輸送物質ということができる。高い正孔移動度によって、好ましくは正孔によって導電する物質を正孔輸送物質ということができる。デバイス中での移動度及び/又は位置によって、好ましくは電子によって導電する層を電子輸送層(electron transport layer, 「ETL」)ということができる。デバイス中での移動度及び/又は位置によって、好ましくは正孔によって導電する層を正孔輸送層(hole transport layer, 「HTL」)ということができる。必須ではないが、好ましくは、アクセプター物質は電子輸送物質であり、ドナー物質は正孔輸送物質である。
【0014】
担体移動度と相対的なHOMO及びLUMO準位とに基づいて、光起電力ヘテロ接合においてドナー及びアクセプターとして働くように2種の光伝導性物質をどのようにペアにするかは当技術分野で周知であり、ここでは扱わない。
【0015】
本明細書で用いるように、「有機」の用語には、重合体(ポリマー)物質ならびに小分子(small molecule)有機物質を含み、これらは有機光電子デバイスを作製するために用いることができる。「小分子(small molecule)」は、重合体ではない全ての有機物質をいい、「小分子」は実際には非常に大きくてもよい。小分子は、ある状況では、繰り返し単位を含むことができる。例えば、置換基として長鎖アルキル基を用いることは、分子を「小分子」から除外しない。小分子は、重合体中に、例えば重合体骨格上のペンダント基として、あるいはその骨格の一部として、組み込まれることもできる。小分子はデンドリマーのコアとしても働くことができ、デンドリマーはそのコア部分上に構築された一連の化学的殻からなる。デンドリマーのコア部分は、蛍光性又は燐光性の小分子であってよい。デンドリマーは小分子でありうる。一般に、小分子は分子から分子へと同じ分子量をもつ明確された化学式をもち、一方で重合体は分子から分子へと変わりうる分子量をもつ明確にされた化学式をもつ。本明細書で用いるように、「有機」の用語は、ヒドロカルビル、及びヘテロ原子で置換されたヒドロカルビル配位子の金属錯体を含む。
【0016】
PVデバイスの性能指数(figure of merit)はフィルファクター(ff)であり、以下の式で定義される。
【数1】
式中、ffは常に1未満であり、なぜなら短絡回路電流Isc及び開路電圧Vocは、実際の使用においては同時には決して得られないからである。それにもかかわらず、ffが1に近づくにつれて、デバイスはより少ない直列抵抗又は内部抵抗をもち、そのためにIscとVocの積の大きな割合を、最適条件下で負荷に対して受け渡す。Pincがデバイスの電力入射である場合、デバイスの電力効率ηpは以下の式で計算できる。
【数2】
【0017】
有機PVデバイスの電力効率ηpは、励起子の生成、拡散、及びイオン化又は収集を含めて、光電導に必要とされる様々なプロセスに左右される。これらのプロセスのそれぞれに伴う効率ηがある。下付文字は以下のように用いることができる:電力効率に対してP、外部量子効率に対してEXT、光子吸収に対してA、励起子拡散に対してED、電荷収集にCC、そして内部量子効率に対してINT、である。この表記を用いて:
【数3】
【0018】
有機感光性デバイスについての追加の背景説明及び技術状況(それらの一般的構造、特性、物質、及び特徴を含めて)の説明のために、Forrestらの米国特許第6,657,378号、Forrestらの米国特許第6,580,027号、及びBulovicらの米国特許第6,352,777号を参照により本願に援用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許第6,657,378号明細書
【特許文献2】米国特許第6,580,027号明細書
【特許文献3】米国特許第6,352,777号明細書
【特許文献4】米国特許第6,451,415号明細書
【特許文献5】米国特許第6,420,031号明細書
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Peumansら, Applied Physics Letters 76, 2650-52 (2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
高効率有機光電池のための新しい構造及び基準を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0022】
〔本発明のまとめ〕
本明細書に開示した新しい構造を用いる有機光電池の例は、アノードと、カソードと、そのアノードとカソードとの間の複数の有機半導体層とを含む。アノードとカソードのうち少なくとも一つは透明である。その複数の有機半導体層の各2つの隣接する層は直接接触している。複数の有機半導体層は、実質的に光伝導性物質のみからなる中間層と、2組の少なくとも3層とを含む。少なくとも3層の第一の組は、前記の中間層とアノードとの間にある。第一の組の各層は、本質的に、カソードにより近い複数の有機半導体層のうちの隣接する層の物質と比べて、より高いLUMO及びより高いHOMOを有する異なる半導体物質のみからなる。少なくとも3層の第二の組は、前記の中間層とカソードとの間にある。第二の組の各層は、本質的に、アノードにより近い複数の有機半導体層のうちの隣接する層の物質と比べて、より低いLUMO及びより低いHOMOを有する異なる半導体物質のみからなる。
【0023】
第一の組のうちアノードに最も近い層のHOMOと、第二の組のうちカソードに最も近い層のLUMOとの間のエネルギー差は、0.5eV〜3.0eVであることが好ましく、物質が入手できるようになれば、より大きな差が可能である。したがって、より好ましくは、そのエネルギー差は少なくとも1eVである。
【0024】
少なくとも3層の第一の組の各層の有機半導体物質は、カソードにより近い複数の有機半導体層のうちの隣接する層の物質に対して少なくとも0.026eV高いHOMO及びLUMOを有することが好ましい。同様に、少なくとも3層の第二の組の各層の有機半導体物質は、アノードにより近い複数の有機半導体層のうちの隣接する層の物質に対して少なくとも0.026eV低いHOMO及びLUMOを有することが好ましい。
【0025】
少なくとも3層の第一の組と中間層とからなる隣接層の間のHOMOの差(複数)と、少なくとも3層の第二の組と中間層とからなる隣接層の間のLUMOの差(複数)とを合わせた合計は、0.15eV〜1.0eVであることが好ましい。
【0026】
少なくとも3層の第一の組と中間層とからなる隣接層の間のHOMOの差(複数)と、少なくとも3層の第二の組と中間層とからなる隣接層の間のLUMOの差(複数)とを合わせた合計を、第一の組と第二の組の中の層の数の合計で割ったものが、少なくとも0.026eVであることが好ましい。
【0027】
好ましい平均の段差の大きさ(ステップサイズ)の別な表現としては、少なくとも3層の第一の組と中間層とからなる隣接層の間のHOMOの差(複数)の合計をその第一の組の層の数で割ったものが、少なくとも0.026eVであり、且つ、少なくとも3層の第二の組と中間層とからなる隣接層のLUMOの差(複数)の合計をその第二の組の層の数で割ったものが、少なくとも0.026eVである。
【0028】
第一の組及び第二の組の有機半導体物質は、光伝導性物質であっても、光伝導性物質でなくてもよい。好ましくは、それらは光伝導性である。
【0029】
前記の中間層に隣接する3層の第一の組の一つの層(a layer)と、前記中間層に隣接する3層の第二の組の一つの層(a layer)は、その各々の有機半導体物質の3つの単分子層(monolayer)の厚さ以下であることが好ましい。層の厚さの配置の一例として、第一の組と第二の組の各層が、その各々の有機半導体物質の3つの単分子層の厚さ以下であることが好ましい。層の厚さの配置の別な例としては、少なくとも3層の第一の組の層の厚さがアノードに向かって次第に増大し、且つ、少なくとも3層の第二の組の層の厚さがカソードに向かって次第に増大する。層の厚さの増大を採用する場合は、少なくとも3層の第一の組のうちアノードに最も近い層と、少なくとも3層の第二の組のうちカソードに最も近い層が、10の単分子層の厚さ以下であることが好ましい。
【0030】
上記の複数の層は、少なくとも3層の第一の組の物質のバンドギャップ(bandgaps)が、アノードに向かって次第に増大するように配置することができる。これは、アノードが反射性である場合に特に有利である。アノードが反射性である場合は、少なくとも3層の第二の組の最大の物質バンドギャップが、第一の組の物質の最も小さな物質バンドギャップよりも小さいことも好ましい。
【0031】
上記の複数の層は、少なくとも3層の第二の組の物質バンドギャップ(bandgaps)が、カソードに向かって次第に増大するように配置することができる。これは、カソードが反射性である場合に特に有利である。カソードが反射性である場合は、少なくとも3層の第一の組の最大の物質バンドギャップが、第二の組の物質の最小の物質バンドギャップよりも小さいことも好ましい。
【0032】
中間層の光伝導性物質は、励起状態において、とりわけ、エキシマー(eximer)又はエキシプレックス(exciplex)を形成する分子のみから実質的になるものであってよい。そのような分子複合体を用いる場合は、その中間層の光伝導性物質の関係あるHOMO及びLUMOはそのエキシマー又はエキシプレックスのものであり、これは通常、構成分子のHOMO及びLUMOとは異なる。したがって、分子複合体を用いて、中間層に隣接する少なくとも3層の第一の組のうちのある層のLUMO及びHOMOはその分子複合体と比較してより高く、且つ、中間層に隣接する少なくとも3層の第二の組のうちのある層のLUMO及びHOMOはその分子複合体と比較してより低い。
【0033】
本明細書に開示した新しい構造を用いる感光性デバイスを作製する方法の例は、第一の電極を準備するステップ;その第一の電極の上に一連の少なくとも7層を堆積させ、各層が異なる有機半導体物質のみから本質的になり、その配列のうち少なくとも中間層の有機半導体物質が光伝導性物質であるステップ;及び、少なくとも7層のその配列の上に第二の電極を堆積させるステップ、を含む。第一の電極及び第二の電極のうち一つがアノードであり、他方はカソードである。少なくとも7層の一連の有機半導体物質は、アノードからカソードへと、その配列を横切ってLUMOが低下する配列及びHOMOが低下する配列をもたらすように配置される。
【0034】
少なくとも7層のうちアノードに最も近い層の有機半導体物質のHOMOと、少なくとも7層のうちカソードに最も近い層の有機半導体物質のLUMOとの間のエネルギー差は、0.5eV〜3.0eVが好ましく、より好ましくは、エネルギー差は少なくとも1eVである。
【0035】
本明細書に開示した新しい構造にしたがって負荷に光電流をもたらすための方法の例は、アノードとカソードの間に一連の様々な有機半導体物質の層を具え、その一連の層はアノードとカソードの間に熱平衡において内蔵電場(built-in field)を模擬するように配置されるステップ;その一連の層の中間層内での光吸収によって励起子を生成するステップ;中間層内で生じた励起子を空間的に分離し、その模擬された内蔵電場が、その中間層からの励起子の束縛電子をカソードに向かって一連の層の1つ以上の中へと誘引し、一方でその中間層内からの励起子の束縛正孔をアノードに向かってその複数の有機半導体層の1つ以上の中へと誘引するステップ;そして、その空間的に分離した励起子からの光電流を、アノードからカソードへと電気的に接続された負荷に流すステップ、を含む。アノードとカソードとを横切る開路電圧は、好ましくは少なくとも1V(ボルト)である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、ドナー-アクセプターヘテロ接合を説明するエネルギー準位図である。
【図2】図2は、ドナー-アクセプターヘテロ接合を含む有機感光性デバイスを示す。
【図3】図3は、平面的なヘテロ接合を形成するドナー-アクセプター二重層を示す。
【図4】図4は、ドナー層とアクセプター層との間に混合ヘテロ接合を含むハイブリッドヘテロ接合を示す。
【図5】図5はバルクヘテロ接合を示す。
【図6】図6はショットキーバリアヘテロ接合を含む有機感光性デバイスを示す。
【図7】図7は直列のタンデム感光性セルを示す。
【図8】図8は並列のタンデム感光性セルを示す。
【図9】図9は、高い短絡電流密度をもたらすが低い開路電圧しかもたらさないドナー-アクセプターヘテロ接合を示す。
【図10】図10は、最大の開路電圧をもたらすが、ゼロの短絡電流密度しかもたらさないヘテロ接合を示す。
【図11】図11は、本発明の原理にしたがって、光によって発生した励起子を空間的に分離するエネルギーカスケードの例を示す。
【図12】図12は、単一セルのデバイスとして構成された図11のエネルギーカスケードの例を示す。
【図13】図13は、本発明の原理にしたがってエネルギーカスケードを構築するために用いることができる多数の有機半導体のうちのいくつかの例を示す。 これらの図は必ずしも寸法を縮尺したものではない。
【発明を実施するための形態】
【0037】
〔詳細な説明〕
有機感光性デバイスは少なくとも1つの光活性領域を含み、その領域中で光が吸収されて励起子が生じ、励起子は続いて電子と正孔とに解離されうる。図2は有機感光性光電子デバイス100の例を示し、このデバイス中で光活性領域150はドナー-アクセプターヘテロ接合を含む。この「光活性領域」は感光性デバイスの一部分であり、これが電磁放射を吸収して励起子を生成し、励起子は電流を生じさせるために解離しうる。デバイス100は、アノード120、アノード平滑化層122、ドナー152、アクセプター154、励起子阻止層(exciton blocking layer, 「EBL」)156、及びカソード170を、基材(基板)110の上に含む。
【0038】
EBL156の例は、Forrestらの米国特許第6,451,415号明細書に記載されており、EBLに関連するその記載を参照によって本願に援用する。EBLの追加の背景的説明は、Peumansらの「Efficient photon harvesting at high optical intensities in ultrathin organic double-heterostructure photovoltaic diodes」, Applied Physics Letters 76, 2650-52 (2000)にもある。EBLは、励起子がドナー及び/又はアクセプター物質から外に移動することを防ぐことによって消光することを低減する。
【0039】
「電極」及び「接点(コンタクト)」の用語は、光によって生じた電流を外部回路に送るため、あるいはバイアス電流又はバイアス電圧をデバイスに供給するための媒体を提供する層をいうために本明細書中では同義的に用いられる。図2に示したように、アノード120及びカソード170は例である。電極は、金属又は「金属代替物」からなることができる。本明細書で「金属」の用語は、元素として純粋な金属から構成された物質と、元素として純粋な2種以上の金属から構成される物質である合金の両方を包含するように用いる。「金属代替物」の用語は、通常の定義内での金属ではないが、伝導度などの金属同様の特性を有する物質、例えば、ドーピングされたワイドバンドギャップ半導体、縮退型半導体、導電性酸化物、及び導電性ポリマーなどをいう。電極は単層又は多層(複合電極)を含むことができ、透明、半透明、又は不透明であってよい。電極と電極物質の例には、Bolovicらの米国特許第6,352,777号明細書及びParthasarathyらの米国特許第6,420,031号明細書(それぞれを、これらの各特徴の開示を参照により本願に援用する)に開示されているものが含まれる。本明細書で用いるように、層が、関連する波長において周囲の電磁放射の少なくとも50%を透過させる場合は、その層は「透明」であるという。
【0040】
基材110は、所望する構造的特性をもたらす任意の好適な基材であってよい。基材は、柔軟性又は剛性、平面又は非平面であってよい。基材は、透明、半透明、又は不透明であってよい。剛性のプラスチック及びガラスが、好ましい剛性基材物質の例である。柔軟なプラスチック及び金属箔は、好ましい柔軟性基材物質の例である。
【0041】
アノード平滑化層122は、アノード層120とドナー層152の間に配置してよい。アノード平滑化層は、Forrestらの米国特許第6,657,378号明細書に記載されており、この特徴に関連するその開示を参照により本願に援用する。
【0042】
図2では、光活性領域150は、ドナー物質152とアクセプター物質154とを含む。光活性領域に用いるための有機物質には有機金属化合物が含まれてよく、これにはシクロメタル化有機金属化合物が含まれる。本明細書で用いられるように「有機金属」の用語は、当業者によって通常理解されているとおりであり、例えば、Gary L. Miessler及びDonald A. Tarrによる「Inorganic Chemistry」(第2版),Prentice Hall (1999)の第13章にあるとおりである。
【0043】
有機層は、真空蒸着、スピンコーティング、有機気相堆積、インクジェット印刷、及び当技術分野で公知のその他の方法を使用して作製しうる。
【0044】
様々なタイプのドナー-アクセプターヘテロ接合の例を、図3〜5に示している。図3は、平面的なヘテロ接合を形成するドナー-アクセプター二重層を示している。図4は、ドナー物質とアクセプター物質との混合物を含む混合ヘテロ接合153を含むハイブリッドヘテロ接合を示している。図5は、理想化した「バルク」ヘテロ接合を示している。理想的な光電流の場合、バルクヘテロ接合は、ドナー物質252及びアクセプター物質254の間に単一の連続界面を有する。とはいえ、実際のデバイスには、複数の界面が通常は存在する。混合及びバルクヘテロ接合は、物質の複数のドメインを有する結果として、多数のドナー-アクセプター界面を有することができる。逆のタイプの物質によって囲まれたドメイン(例えば、アクセプター物質によって囲まれたドナー物質のドメイン)は、電気的に独立していてよく、それによってこれらのドメインは光電流に寄与しないようにできる。その他のドメインは、パーコレーション経路(連続的な光電流経路)によって接続してもよく、それによってこれらその他のドメインが光電流に寄与しうる。混合ヘテロ接合とバルクヘテロ接合との間の違いは、ドナー物質とアクセプター物質との間の相分離の程度にある。混合ヘテロ接合では、非常に僅かな相分離しかないか、あるいは相分離は全くない(ドメインは非常に小さく、例えば、数ナノメートル未満である)が、一方、バルクヘテロ接合では、顕著な相分離がある(例えば、数ナノメートル〜100nmの大きさのドメインを形成する)。
【0045】
小分子混合ヘテロ接合は、例えば、真空蒸着又は気相蒸着を用いてのドナー及びアクセプター物質の共蒸着によって形成できる。小分子バルクヘテロ接合は、例えば、制御成長、蒸着後アニーリングを伴う共蒸着、又は溶液法によって形成できる。ポリマーの混合又はバルクヘテロ接合は、例えば、ドナー及びアクセプター物質のポリマーブレンドの溶液法によって形成することができる。
【0046】
光活性領域が、混合層(153)又はバルク層(252、254)、及びドナー層(152)及びアクセプター層(154)のうち一つ又は両方を含む場合は、光活性領域は「ハイブリッド」ヘテロ接合を含むと言われる。図4の層の配列が一例である。ハイブリッドヘテロ接合の追加の説明のために、Jiangeng Xueらによる「High efficiency organic photovoltaic cells employing hybridized mixed-planar heterojunctions」と題された、米国特許出願公開第2005/0224113A1公報を参照により本願に援用する。
【0047】
一般に、平面的ヘテロ接合は良好な担体伝導度を有するが、低い励起子分離しかもたない。混合層は低い担体伝導度と良好な励起子分離とを有し、バルクヘテロ接合は良好な担体伝導度と良好な励起子分離とを有するが、物質の袋小路の末端で電荷集積が起こり、これが効率を低下させるおそれがある。別に記載しない限り、平面、混合、バルク、及びハイブリッドのヘテロ接合は、本明細書に開示した態様を通じて、ドナー-アクセプターヘテロ接合として、交換可能に用いることができる。
【0048】
図6は、有機感光性光電子デバイス300の例を示し、このデバイスでは、光活性領域350はショットキーバリアヘテロ接合の一部である。デバイス300は、透明接点320、有機光伝導性物質358を含む光活性領域350、及びショットキー接点370を含む。ショットキー接点370は典型的には金属層として形成される。光伝導層358がETLである場合は、高い仕事関数の金属、例えば金を用いてよく、一方、光伝導層がHTLである場合は、低い仕事関数の金属、例えば、アルミニウム、マグネシウム、又はインジウムなどを用いてよい。ショットキーバリアセル内では、ショットキーバリアに伴う内蔵電場が励起子中の電子と正孔を別々に引っぱる。一般に、この電場が助ける励起子の解離は、ドナー-アクセプター界面での解離ほど有効ではない。
【0049】
図示したデバイスは、要素190に連結してよい。デバイスが光起電力デバイスである場合は、要素190は電力を消費又は貯蔵する抵抗負荷である。デバイスが光検出器である場合は、要素190はその光検出器が光に曝されたときに生じる電流を測定する電流検出回路であり、これはそのデバイスにバイアスを印加することもできる(例えば、2005年5月26日に刊行された、公開されたForrestらの米国特許出願公開第2005−0110007A1公報に記載されているとおりである)。デバイスから整流接合を取り除いた場合(例えば、光活性領域として単一の光電導性物質を用いることによって)、その結果生じる構造は光伝導セルとして用いることができ、その場合、要素190は、光の吸収によるデバイスを横切る抵抗の変化を監視するための信号検出回路である。別途記載しない限り、これらの配置及び変更のそれぞれは、本明細書に開示した図面及び態様のそれぞれにおいてデバイスに用いることができる。
【0050】
有機感光性光電子デバイスは、透明な電荷移動層、電極、又は電荷再結合ゾーンをも含むことができる。電荷移動層は、有機又は無機であってよく、光伝導的に活性であってもそうでなくてもよい。電荷移動層は電極に類似しているが、そのデバイスへの外部への電気的接点をもたず、光電子デバイスの一つのサブセクションから、それに隣接するサブセクションへと電荷担体を運ぶだけである。電荷再結合ゾーンは電荷移動層に類似しているが、光電子デバイスの隣接するサブセクション間での電子と正孔の再結合を可能にする。電荷再結合ゾーンは、ナノクラスター、ナノ粒子、及び/又はナノロッドを含む、半透明の金属又は金属代替物の再結合中心を含んでもよく、これらは例えば、Forrestらの米国特許第6,657,378号明細書;2006年2月16日に公表された、Randらによる、「Organic Photosensitive Devices」という題名の、公開された米国特許出願公開第2006−0032529A1公報;及び2006年2月9日に公表された、Forrestらによる「Stacked Organic Photosensitive Devices」という題名の、公開された米国特許出願公開第2006−0027802A1公報に記載されているとおりであり、そのそれぞれを、再結合ゾーン物質と構造のその開示に対して参照により本願に援用する。電荷再結合ゾーンは、その中に再結合ゾーンが組み込まれた透明なマトリクス層を含んでも、あるいは含まなくてもよい。電荷移動層、電極、又は電荷再結合ゾーンは、光電子デバイスのサブセクションのカソード及び/又はアノードとして働くこともできる。電極又は電荷移動層は、ショットキーコンタクトとして働くこともできる。
【0051】
図7及び8は、そのような透明電荷移動層、電極、及び電荷再結合ゾーンを含むタンデム型デバイスの例を示す。図7中のデバイス400では、光活性領域150及び150’は、介在する伝導領域460で直列に電気的に重ねられている。外部の電気的接続なしに図示されているように、介在する伝導領域460は電荷再結合ゾーンであるか、あるいは電荷移動層であってよい。再結合ゾーンとしては、領域460は透明マトリクス層を伴って又は透明マトリクス層なしで、再結合センター461を含む。マトリクス層が全くない場合は、そのゾーンを形成する物質の配置は、領域460を横切って連続的でなくてもよい。図8中のデバイス500は、並列に電気的に重ねられた光活性領域150及び150’を示し、トップセル(上側のセル)は倒置した構成をしている(すなわち、カソードが下)。図7及び8のそれぞれにおいて、光活性領域150及び150’、並びに阻止層156及び156’は、用途に応じて、同じそれぞれの物質あるいは異なる物質から形成されていることができる。同様に、光活性領域150及び150’は、同じタイプ(すなわち、平面状、混合、バルク、ハイブリッド)のヘテロ接合であることも、異なるタイプであることもできる。
【0052】
上述したデバイスのそれぞれにおいて、層(例えば励起子阻止層)を省略してもよい。その他の層(例えば、反射層又は追加の光活性領域)を追加することもできる。層の順序は変えても、あるいは反転させてもよい。濃縮用構造(コンセントレーター)又は捕捉性構造(トラッピングコンフィギュレーション)を採用して効率を高めることもでき、それは例えばForrestらの米国特許第6,333,458号明細書、及びPeumansらの米国特許第6,440,769号明細書に記載されているとおりであり、これらは参照により本願に援用する。デバイスの所望する領域に光エネルギーを集中させるためにコーティングを用いてもよく、これは例えば、2005年12月1日に公表された、Peumansらによる「A periodic dielectric multilayer stack」と題された、公表された米国特許出願公開第2005−0266218A1公報に開示されているとおりであり、これは参照により本願に援用する。上記タンデムデバイスでは、透明な絶縁層をセルとセルの間に形成してもよく、そのセル間の電気的接続は電極を介してもたらされる。また、上記のタンデムデバイスでは、光活性領域の1つ以上が、ドナー-アクセプターヘテロ接合に代えてショットキーバリアヘテロ接合であってもよい。これらの具体的に記載したもの以外の配置を用いることもできる。
【0053】
従来の無機半導体光起電力電池は、p−n接合を用いて内部電場を構築している。図1に示したように、有機光起電力電池は、従来の無機光起電力電池で用いられたものと類似したドナー-アクセプターヘテロ接合を含む。しかし、p−n型接合の構築に加えてそのヘテロ接合のエネルギー準位のオフセット量も、有機デバイスで重要な役割を演じていることがいまや認められる。
【0054】
有機光起電力電池においてフィルファクター(ff)と外部量子効率(ηEXT)との間にほぼ比例関係があると仮定すると、デバイス性能を最大にするためには、短絡電流密度(JSC)を開路電圧(VOC)とバランスさせることが必要である。
【0055】
このバランスをとることに伴う問題を図9及び10に示している。図9において、ドナー952とアクセプター954との間の大きなステップは、大きな短絡回路電流密度をもたらすが、低い開路電圧ももたらす。対して、図10に示した物質の配置は、ゼロの短絡回路電流密度を生じさせる構造における最大の開路電圧を示す。
【0056】
有機ドナー-アクセプターヘテロ接合では、開路電圧は、〔(ドナーのHOMO)−(アクセプターのLUMO)−(そのドナー励起子の励起子結合エネルギー(EBD)とアクセプター励起子の励起子結合エネルギー(EBA)のそれぞれの励起子結合エネルギーの1/2)〕に等しい。ドナーとアクセプターの励起子結合エネルギーの1/2の合計は、実験的に約0.3〜0.4eVと見積もられている。Markus C. Scharberら, “Design Rules for Donors in Bulk-Heterojunction Solar Cells--Towards 10% Energy Conversion Efficiency”, Advanced Materials 18, 789-794 (2006); 及びL.J.A Kosterら, “Ultimate efficiency of polymer/fullerene bulk heterojunction solar cells”, Applied Physics Letters 88, 093511 (2006)を参照されたい。相対的に、無機半導体デバイス中の励起子結合エネルギーはもっと小さく、そのため、p−n接合構造を用いての結合エネルギーによる感知できるほどの開路電圧の不利益は全くない。したがって、現在の理論的限界を超えて有機起電力電池の効率を最大化する(開路電圧と短絡電流密度を最大化する)ためには、新しい設計概念(アーキテクチャー)が必要とされている。
【0057】
短絡電流密度と開路電圧との間にこれまで必要とされていたバランスを取ることを切り離した感光性デバイスのための新しい設計概念を本明細書に開示し、それは単一のp−n接合に代えて、光合成を思わせるエネルギーカスケードプロセスを用いる。
【0058】
図1に示すように、古典的なドナー-アクセプターヘテロ接合を用いると、励起子の分離は、光で生成した励起子を分離するための単一の整流接合の存在に左右される(すなわち、古典的なドナー-アクセプターヘテロ接合デバイスでは、デバイスはいくつかの整流接合を含むことができるが、個々の励起子はただ一つの界面で分離する)。本明細書に示したように、様々な有機半導体物質の一連の層(複数)を横切って(熱平衡にある)内蔵電場を構造的に模擬(シミュレート)し、励起子の束縛電子を中間層から複数の有機半導体層の1つ以上の中へとカソードに向けて引きつけ、一方で、励起子の束縛正孔を中間層から複数の有機半導体層の1つ以上の中へとアノードに向けて引きつけて、励起子を空間的に分離することができる。本質的に、たとえ逆電流が可能であったとしても、模擬した電場勾配は、少なくとも2つの空間的に分離した界面を横切って励起子をばらばらに分離する。
【0059】
図11は、様々な有機半導体物質の一連の層から構成された新しい構造のエネルギーバンドダイヤグラムを示しており、各層は次の層と直接接触している。中間層1153は、光伝導性半導体物質のみから本質的になる。少なくとも3つの有機半導体層(1152a、1152b、1152c)の第一の組(1152)は、中間層1153とアノード120との間に配置されており、且つ、少なくとも3つの有機半導体層(1154a、1154b、1154c)の第二の組(1154)は中間層1153とカソード170との間に配置されている。第一の組1152の各層は、カソードにより近い複数の有機半導体層のうちの隣接する層の物質と比べてより高いLUMOとより高いHOMOをもっている様々な有機半導体物質のみから本質的になる。第二の組1154の各層は、アノードにより近い複数の有機半導体層のうちの隣接する層の物質と比べてより低いLUMOとより低いHOMOをもっている様々な有機半導体物質のみから本質的になる。
【0060】
好ましくは、中間層153のアノード側のHOMO(複数)の間のステップ(steps)はそれぞれ1kT〜3kTであり、且つ中間層153のカソード側のLUMO(複数)の間のステップもそれぞれ1kT〜3kTの間である。そのような小さなステップは整流する必要がない(逆電流を可能にする)一方で、前記の第一及び第二の組の層がかなり薄く保たれている場合(さらに以下に説明するように、少数(a few)の単分子層)には、前記のステップはアノードとカソードとの間の内蔵電場を模擬する(EBI,4)。言い換えれば、この新しい設計概念によるデバイスは、たとえ第一の組の複数層1152、中間層1153、及び第二の組の複数層1154の間のどの界面も整流されていなくても、効率的且つ完全に動作可能の両方でありうる。図11Gに示したように、この新しい構造の結果は、励起子8が空間的に分離され、同時に少なくとも2つの別の境界面を越えて別々に引っ張られる(「空間的分離」)ということである。
【0061】
このアプローチの利点は、開路電圧(VOC)を考慮した場合に明確になる。開路電圧は、第一の組のうちアノードに最も近い層のHOMOと第二の組のうちカソードに最も近い層のLUMOとの間の差である。上記の新しい構造の結果として、それぞれ末端の物質の励起子結合エネルギーは因子としては除外される。したがって、開路電圧は(中間層1153のエネルギーギャップ−6kT)[6kTはそれぞれ1kTの6ステップに対応する]と同じ程度の大きさになりうる一方で、同時に高い電流密度を有する。たとえ赤外吸収物質が含まれていたとしても、1eVを超える開路電圧が容易に得られる。好ましい開路電圧範囲は0.5eV〜3.0eVであるけれども、新しい有機半導体物質が入手可能になったときにはより大きなVOCが可能になる。
【0062】
少なくとも1kT(0.026eV)の、第一の組1152の中のLUMOステップ(steps)と第二の組1154の中のHOMOステップ(steps)を有することが好ましく、なぜなら、模擬内蔵電場4を作り出すためにそれで充分だからである。より大きな電圧ステップの違いが有利であり、そこではより大きなステップ(steps)が内蔵電場4の効果を高めるからである。しかし、このカスケードを横切る累積電圧の増大は、図11に見ることができるように、開路電圧(VOC)を低下させる。したがって、隣接する層の間のHOMO及びLUMO電圧差を選択することにおいて二律背反がある。この理由により、第一の組1152中のLUMOと第二の組1154中のHOMOの間の各電圧ステップは、5kT(0.13V)以下であることが好ましく、より好ましくは3kT(0.078eV)以下である。
【0063】
しかし、開路電圧(VOC)を低下させるものは、個々のステップ自体よりもむしろ電圧ステップの合計である。したがって、実用的な意味では、利用可能な物質及びその他のパラメータ、例えば、物質の安定性、コスト、及び堆積の容易さに応じて3kTより大きな段差量をもつステップ(あるいは数(a few)ステップさえ)を含むことは価値あるトレードオフでありえる。好ましくは、第一の組1152からなる複数隣接層及び中間層1153の間のHOMOステップと、第二の組1154からなる複数隣接層及び中間層1153の間のLUMOステップとを合わせた合計は、各ステップの平均(前記の合わせた合計−エネルギーカスケードのステップ数)が少なくとも1kT(0.026eV)であるので、6kT(0.15eV)〜40kT(1.0eV)である。もちろん、上述したように、個々のステップは平均よりも大きいか又は小さくてもよいが、各ステップは少なくとも1kTであることが好ましい。エネルギーカスケード中のステップ数は、(カスケード中の有機半導体層の数−1)である。
【0064】
デバイスが多数の小さなステップを有することの基準に合致しているか否かの一つの尺度は、平均のステップの大きさが少なくとも1kTであるかどうかであり、なぜなら、平均のステップの大きさは、各個別のステップの大きさよりも容易に実験によって定量できるからである。上述したように、平均のステップの大きさは、全カスケードを横切るステップの差を用いて得られる。別なアプローチは、中間層のアノード側上のステップ(複数)の平均を測定し、且つ別個に中間層のカソード側上のステップ(複数)の平均を測定することである。第一の組1152からなる隣接複数層及び中間層1153の間のHOMO差の合計を第一の組1152の層の数で割ったものが、少なくとも1kTであることが好ましく、且つ、第二の組1154からなる隣接複数層及び中間層1153の間のLUMO差の合計を第二の組1154の層の数で割ったものが、少なくとも1kTであることが好ましい。
【0065】
好ましくは、束縛担体がそれとともに反対(の電荷)の束縛担体を引っ張ってくることの可能性を最小化するために、第一の組1152中の複数の物質の各LUMOステップが、対応するHOMOステップと少なくとも同じくらいの大きさであるべきであり(「対応する」のは、同じ物質界面においてである)、且つ、第二の組1154中の複数の物質の各HOMOステップが、対応するLUMOステップと少なくとも同じくらいの大きさであるべきである。第一の組1152の物質のLUMOステップを、対応するHOMOステップと比較して、アノードに近づくにつれて漸進的により大きくすること、及び第二の組1154の物質のHOMOステップを、対応するLUMOステップと比較して漸進的により大きくすることは、各遷移に対する累積エネルギーを増大させることを必要とすることによって、束縛担体(束縛キャリア)の引っ張りをさらに最小化する。
【0066】
上記の第一及び第二の層の組はまた、光伝導性物質から構成されていることが好ましいが、この構造は、第一の組1152及び/又は第二の組1154中のいくつかの層が光伝導性物質でない場合でさえ、理論上は作動する。
【0067】
模擬された内蔵電場4の有効性を高めるため、第一の組1152のうち中間層1153に最も近い層1152aと、第二の組1154のうち中間層1153に最も近い層1154aは、それぞれ、その各々の有機半導体物質の3単分子層(three monolayers)の厚さ以下であることが好ましい。これらの層をより厚くすることは、内蔵電場4の有効性を小さくし、そのため層1152aと1154aは、連続的被覆をもたらす一方で可能な限り薄く作られることが好ましい。
【0068】
第一の組1152と第二の組1154のその他の層も、それぞれ、その各々の有機半導体物質の3単分子層の厚さ以下であってよい。しかし、たとえ層の厚さがアノード及びカソードにむけて僅かに増大したとしても、模擬電場の錯覚は保たれることができ、それは励起子生成のための追加の光伝導性領域を提供することによって有利でありえる(中間層中で作り出される励起子に加えて、励起子はまた、第一の組及び第二の組の層中でも作り出される)。第一の組1152と第二の組1154の厚さが増大する場合、厚さの増大は、中間層1153から離れながら漸進的であることが好ましい。しかし、第一の組1152のうちアノード120に最も近い層と、第二の組1154のうちカソード170に最も近い層とは、(各物質に対して)それぞれ10単分子層(ten monolayers)以下であることが好ましい。
【0069】
中間層1153の厚さは、光吸収のための領域を増大させるために最大化されうるが、対再結合を最小化するために、この層を形成する光伝導性物質の2励起子拡散長以下であることが好ましい。
【0070】
図12は、図2に示した配置に似て、単一セル感光性デバイス1100として配置された図11の例を示す。図示したように、図11の各層は光伝導性物質からなり、そのエネルギーカスケードは全体で光活性領域1150といわれる。光活性領域1150によって例示されるこのエネルギーカスケードは、図7及び8に図示した光活性領域150及び150’の代替として、タンデム構造に用いることもできる。励起子阻止層156がセル1100に含まれる場合は、それは光伝導性物質からなるものではないことが好ましい。図示しないが、励起子阻止層を、第一の組1152とアノード120との間に含めることもできる。
【0071】
このエネルギーカスケードの各有機半導体層において、各層の「必須」物質は、それが何であれ各層の担体輸送特性を定める成分(1つ又は複数)である。例えば、担体輸送がマトリクス物質中のドーパントを介している場合は、その層を特徴づける関連分子は、ドーパント分子の成分である。
【0072】
アノード又はカソードが反射性である場合は、より大きなバンドギャップ物質が、より小さなバンドギャップ物質よりもその反射性電極により近くなるように有機半導体物質(複数)を配置することがさらに有利である。一般に、物質のエネルギーギャップ(HOMOとLUMOの差)は、吸収波長の逆数に比例する。反射性電極はその構造中に定常波を作り出し、定常波はその反射性界面から約λ/4n離れたピークをもつ(λは光の波長であり、nは有機半導体物質の正規化した屈折率である(n〜2))。したがって、青を吸収する、より大きなバンドギャップ物質(例えば、400nm/4x2=50nm)は、赤及び/又は赤外を吸収するより小さなバンドギャップ物質(例えば、800nm/4x2=100nm)よりも、反射性界面により近く配置されるべきである。スペーサー又は追加の光活性領域(すなわち、タンデム配置)を反射性電極と一連の有機半導体層との間に含めて、この効果を最大化してもよい。
【0073】
アノード120が反射性である場合は、少なくとも3層の第一の組1152の物質バンドギャップは、アノード120に向かって漸進的に増大することが好ましく、且つ少なくとも3層の第二の組1154のうちの最大の物質バンドギャップは、第一の組1152の物質の最も小さな物質バンドギャップよりもさらに小さいことが好ましい。
【0074】
同様に、カソード170が反射性である場合は、少なくとも3層の第二の組1154の物質バンドギャップは、カソード170に向かって漸進的に増大することが好ましく、且つ少なくとも3層の第一の組1152の最大の物質バンドギャップは、第二の組1154の物質の最も小さな物質バンドギャップよりもさらに小さいことが好ましい。
【0075】
中間層1153の光伝導性物質の光吸収特性は、分子複合体(molecular complex)、例えば、エキシプレックスあるいはエキシマー、から生じうる。そのような分子複合体では、2つ以上の分子が共同吸収に関与でき、その場合、この複合体は構成分子とは異なるHOMO及びLUMOを有する。これらの複合体は励起状態でのみ存在する。この複合体の成分が同じ種類である場合には複合体はエキシマーであり、一方、2種の異なる種類の分子からの複合体はエキシプレックスである。そのような分子複合体の例は、基底状態では解離しているか又はわずかに弱く会合しているが、その励起状態ではより強く会合する分子凝集体である。分子複合体の背景的議論については、Nicholas J. Turroによる“Modern Molecular Photochemisty”, University Science Books (1991)の第5章を参照されたい。エキシマー又はエキシプレックスを中間層1153に用いる場合は、隣接層に対する関連するHOMO及びLUMOは、層1153の構成分子のHOMO又はLUMOよりもむしろその分子複合体のものである。
【0076】
光活性領域1150を単一セルデバイスに構成する場合は、光活性領域1150の合計の厚さが、この領域(+この領域に到達するために入射光が通過する全てのその他の物質)の光吸収係数の逆数よりも小さいことが好ましい。同様に、光活性領域1150をタンデム構造に構成する場合は、光入射面の反対側の電極へとタンデム構造を横切る全体の厚さが、その合わせた構造を通じての光吸収係数の逆数よりも小さいことが好ましい。
【0077】
図12に示した例はボトムのアノード120とトップのカソード170を図示しているが、倒置構造(ボトムにカソード170)ももちろん形成できる。
【0078】
エネルギーカスケードは7層を有するものとして実証したが、より多くの層を含めることができる。中間層1153の片側のカスケードの層の数は、中間層1153の他方の側の層の数と異なっていてもよい。
【0079】
物質の第一の組1152の層は正孔を伝導することが好ましく、物質の第二の組1154の層は電子を伝導することが好ましいので、各層のために選択される物質は、直列抵抗を最小化するために、各電荷担体に対する好ましい伝導特性(例えば、高い担体伝導度、高い担体移動度)を有することが好ましい。しかし、これらの層はかなり薄いので、物質の第一の組1152に相対的に劣る正孔キャリアを含み、第二の組1154に相対的に劣る電子キャリアを含む作動可能なデバイスを構成することができる。
【0080】
本発明は、上記の構造を作製する方法としてさらに特徴づけることができる。制御可能に数単分子層(a few monolayers)の厚さを作ることができる、層を作るための任意の方法を、上記の有機光伝導層を形成するために使用でき、かつ、様々な方法を様々な層を形成するために使用できる。薄い有機層の厚さを正確に制御するために使用できる堆積法の例には、真空熱蒸着(vacuum thermal deposition, VTE)、有機分子ビーム蒸着(organic molecular beam deposition, OMBD)、有機気相ジェット蒸着(organic vapor jet depostion, OVJD)、及び有機気相蒸着(organic vapor phase deposition, OVPD)が含まれる。分子自己会合、静電膜成長、及びDNAガイド式会合法も使用できる。
【0081】
上記構造を形成するための方法の一態様には、第一の電極、例えば基板上の電極、を準備することが含まれる。その後、一連の少なくとも7層が前記の第一の電極上に堆積され、各層は、様々な有機半導体物質のみから実質的になる。この配列の少なくとも中間層の有機半導体物質は、上で説明したように光伝導性物質である。その後、第二の電極を、少なくとも7層の配列の上に堆積させる。第一の電極及び第二の電極のうちの一つはアノードであり、他方はカソードである。一連の少なくとも7層の有機半導体物質は、アノードからカソードへと横切って、LUMOが低下する配列及びHOMOが低下する配列をもたらすように構成される。
【0082】
HOMO(複数)とLUMO(複数)のステップ(複数)は、上記の模擬された内蔵電場を作り出し、より大きく且つより多くのステップ(複数)は、より大きな電場を作り、これは好ましい。しかし、各ステップはまた、開路電圧(VOC)を増大させ、これは好ましくない。一連の少なくとも7層のうちアノードに最も近い層の有機半導体物質のHOMOと、一連の少なくとも7層のうちカソードに最も近い層の有機半導体物質のLUMOとの間のエネルギー差が制限されて、そのエネルギー差(これはVOCに相当する)が0.5eV〜3.0eVとなることが好ましい。このエネルギー差は、少なくとも1eVであることがさらに好ましい。このエネルギー差は、入手可能な有機半導体物質、あるいは入手可能となる有機半導体物質を用いて、可能な限り高くできる。実用的には、この差(すなわち、VOC)は、入手可能な物質を用いて3eVを超えないことが予想されるが、より大きな差も可能である。
【0083】
[実施例]
本明細書に記載したデバイスを構成することの実用性を実証するため、図13には様々な有機半導体物質について、そのHOMO及びLUMOを示している。この図は横向きの方向であり、左側が真空準位(0ev)である。列挙した物質の完全な名称は以下の通りである。
PTCDA: 3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物
TAZ: 3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール
BCP: 2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン
C60: C60
C70: C70
PTCBI: 3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸ビスベンゾイミダゾール
SC5: 1,3,5-トリス-フェニル-2-(4-ビフェニル)ベンゼン
OPCOT: オクタフェニル-シクロオクタテトラエン
CBP: 4,4’-N,N-ジカルバゾール-ビフェニル
Alq3: 8-トリス-ヒドロキシキノリンアルミニウム
FPtl: 下記の白金(II)(2-4,6-ジフルオロフェニル)ピリジナト-N,C2’)β-ジケトネート
【化1】
FIrpic: ビス(2-(4,6-ジフルオロフェニル)ピリジル-N,C2’)イリジウム(III)ピコリネート
α-NPD: 4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニル-アミノ]ビフェニル
(ppy)2Ir(acac): ビス(2-フェニルピリジン)イリジウム(III)アセチルアセトネート
HMTPD: 4,4’-ビス[N,N’-(3-トリル)アミノ]-3,3’-ジメチルビフェニル
NPD: N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(1-ナフチル)-ベンジジン
Tetracene: テトラセン
ZnPc: 亜鉛フタロシアニン
NiPc: ニッケルフタロシアニン
CuPc: 銅フタロシアニン
ppz2Ir(dpm): イリジウム(III)ビス(1-フェニルピラゾラト,N,C2’)(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオネート-O,O’)
SnPc: スズフタロシアニン
m-MTDATA: 4,4’,4’’-トリス(3-メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン
fac-Ir(ppz)3: fac-トリス(1-フェニルピラゾラト,N,C2’)イリジウム(III)
PbPc: 鉛フタロシアニン
Pentacene: ペンタセン
Ru(acac)3: トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム(III)
fac-Ir(acac)3: fac-トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(III)
fac-Ir(mpp)3: fac-トリス(3-メチル-2-フェニルピリジン)イリジウム(III)
【0084】
本発明はこれらの物質に限定されず、多くの追加の物質のデータは有機半導体の文献から容易に得られる。加えて、物質のバンドギャップ、いくつかの分子のHOMO及びLUMOは、置換基を変更することによって調整できる。
【0085】
当技術分野で公知のとおり、HOMO及びLUMOの測定の誤差は大きなものになりうる。例えば、電流光電子スペクトル及び電気化学測定では、特に異なる研究室からの試験を比較した場合、HOMOの変動は±0.1eVほどの大きさになり、LUMOの変動は0.2〜0.5eVほどの大きさになりうる。正確性を試験することは絶えず改善されている。その一方で、上述したデバイスのための候補物質を文献から選択し、次にその候補物質の各LUMOとHOMOを同じ装置において同じ条件下で測定して実験誤差を最小にすることが推奨される。
【0086】
上の記載中のkTの使用に関し、kはボルツマン定数であり、Tは駆動温度である。有機感光性デバイスの駆動温度は、約300°Kの公称駆動温度をもち、T=−40℃〜+100℃の駆動温度を有するように通常は特定される。この公称駆動温度を用いると、1kTは約0.026eV(すなわち、1.381E−23(J/K)/1.602E−19(J/eV)x300°K)、及び3kTは約0.078eVである。
【0087】
上述したとおり、本発明の有機感光性デバイスは、入射電磁波から電力を生成するために使用でき(例えば、光起電力デバイス)、あるいは入射電磁波を検出するために使用できる(例えば、光検出器または光伝導性セル)。本明細書に記載した構造はまた、有機感光性セル以外のデバイスにも応用できる。例えば、この構造は、有機発光ダイオード及び有機トランジスタにも有用性を有する。
【符号の説明】
【0088】
100・・・有機感光性光電子デバイス
110・・・基材
120・・・アノード
122・・・アノード平滑化層
150・・・光活性領域
150’ ・・・光活性領域
152・・・ドナー
154・・・アクセプター
156・・・励起子阻止層
156’ ・・・励起子阻止層
170・・・カソード
300・・・有機感光性光電子デバイス
320・・・透明接点
350・・・光活性領域
358・・・有機光伝導性物質
370・・・ショットキー接点
400・・・デバイス
460・・・介在する伝導領域
461・・・再結合センター
500・・・デバイス
【技術分野】
【0001】
(アメリカ合衆国政府の権利)
この発明は、米国エネルギー省の国立再生可能エネルギー研究所によって授与された契約番号3394012のもとで米国政府の援助によって行われた。同政府はこの発明に一定の権利を有する。
【0002】
(共同研究契約)
特許請求の範囲に記載した発明は、共同の大学・企業研究契約に関わる1つ以上の以下の団体:プリンストン大学、サザン・カリフォルニア大学、及びグローバルフォトニックエナジーコーポレーションにより、1つ以上の団体によって、1つ以上の団体のために、及び/又は1つ以上の団体と関係して行われた。上記契約は、特許請求の範囲に記載の発明がなされた日及びそれ以前に発効しており、特許請求の範囲に記載された発明は、前記契約の範囲内で行われた活動の結果としてなされた。
【0003】
(発明の分野)
本発明は概略、有機感光性光電子デバイスに関する。より詳細には、本発明は、光によって発生した励起子を空間的に分離するためのエネルギーカスケードを利用した有機感光性光電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0004】
光電子デバイスは、電磁放射を電子的に作り出すか又は検出するいずれかのため、あるいは環境の電磁放射から電気を作り出すために、物質の光及び電子特性に頼っている。
【0005】
感光性光電子デバイスは、電磁放射を電気信号又は電気に変換する。太陽電池(光起電力(photovoltaic, PV)デバイスともよばれる)は、特に電力を生み出すために用いられる一つのタイプの感光性光電子デバイスである。光伝導体セルは、吸収された光による変化を検出するためにデバイスの抵抗を監視する信号検出回路とあわせて用いられる一つのタイプの感光性光電子デバイスである。光検出器(これは印加されたバイアス電圧を受けうる)は、その光検出器が電磁放射に曝されたときに生じた電流を測定する電流検出回路とあわせて使用される一つのタイプの感光性光電子デバイスである。
【0006】
これら3つの群の感光性光電子デバイスは、以下で定義する整流接合が存在するか否かにしたがって、さらにまた、そのデバイスが外部印加電圧(バイアスもしくはバイアス電圧としても知られる)で駆動されるのか否かにしたがって区別できる。光伝導体セルは整流接合をもたず、且つ通常はバイアスをかけて駆動される。PVデバイスは少なくとも一つの整流接合をもち、バイアスをかけずに駆動される。光検出器は少なくとも一つの整流接合をもち、且つ常にではないが通常はバイアスをかけて駆動される。
【0007】
本明細書で用いるとおり、「整流」の用語は、とりわけ、インターフェースが非対称の伝導特性を有すること、すなわち、そのインターフェースが好ましくは一方向への電荷輸送を助けることを意味する。「半導体」の用語は、熱的もしくは電磁的励起によって電荷担体(電荷キャリア)が生じた時に電気を伝導することができる物質を意味する。「光伝導」の用語は、一般に、電磁放射エネルギーが吸収され、その結果、電荷担体の励起エネルギーに変換され、その担体が物質中で電荷を伝導(すなわち輸送)できるプロセスに関連する。「光伝導性物質」の用語は、電磁放射を吸収して電荷担体を生じさせるそれらの特性のために利用される半導体物質をいう。本明細書で「トップ(top)」とは基材(基板)から最も離れていることを意味し、一方、「ボトム(bottom)」はその基材(基板)に最も近いことを意味する。第一の層が第二の層に「物理的に接触」している、あるいは「直接上に」あるということが特定されていない限り、間に介在する層が存在してもよい(例えば、第一の層が第二の層の「上」もしくは「上を覆って」いる場合)。しかし、これは表面処理(例えば、水素プラズマへの第一の層の曝露)を排除しない。
【0008】
適切なエネルギーの電磁放射が有機半導体物質の上に照射された場合、光子が吸収されて励起分子状態を生じさせることができる。有機光導電物質中では、その生じた分子状態は一般に「励起子」(すなわち、擬粒子として輸送される、結合された状態にある電子−正孔対)であると考えられる。励起子は、対再結合(「消光」)前に感知可能な寿命を有し、対再結合は当初の電子及び正孔が互いに再結合することをいう(別のペアからの正孔もしくは電子との再結合とは対照的である)。光電流を生み出すためには、励起子を形成する電子−正孔が、典型的には整流接合で分離される。
【0009】
感光性デバイスにおいては、この整流接合は光起電力ヘテロ接合といわれる。有機光起電力ヘテロ接合のタイプには、ドナー物質とアクセプター物質との界面に形成されたドナー-アクセプターヘテロ接合、及び光伝導性物質と金属との界面に形成されたショットキーバリアヘテロ接合が含まれる。
【0010】
図1は一つの例のドナー-アクセプターヘテロ接合を説明するエネルギー準位ダイヤグラムである。有機物質との関連で、「ドナー」及び「アクセプター」の用語は、2つの接触はしているが異なる有機物質の最高被占軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)エネルギーレベルの相対的な位置をいうものである。別な物質と接触している一つの物質のLUMOエネルギー準位がより低ければ、その物質はアクセプターである。そうでなければそれはドナーである。外部バイアスの不存在下では、ドナー-アクセプター接合にある電子にとっては、アクセプター物質中に移動することがエネルギー的には好ましい。
【0011】
本明細書で用いるように、第一のエネルギー準位が真空エネルギー準位10により近い場合は、第一のエネルギー準位は第二のHOMO又はLUMOエネルギー準位よりも「より大きい」又は「より高い」。より高いHOMOエネルギー準位は、真空準位に対して、より小さな絶対エネルギーをもつイオン化ポテンシャル(ionization potential,「IP」)に相当する。同様に、より高いLUMOエネルギー準位は、真空準位に対して、より小さな絶対エネルギーをもつ電子親和力(electron affinity,「EA」)に相当する。上端(トップ)に真空準位を有する従来のエネルギー準位ダイヤグラム上で、物質のLUMOエネルギー準位は、同じ物質のHOMOエネルギー準位よりも高い。
【0012】
ドナー152又はアクセプター154における光子6の吸収が励起子8を作り出した後、その励起子8は整流界面で解離する。ドナー152は正孔(白丸)を輸送し、アクセプター154は電子(濃い丸)を輸送する。
【0013】
有機半導体中の顕著な特性は担体移動度である。移動度は、電荷担体が電場に応答して導電性物質を通って移動できる場合を測定する。有機感光性デバイスとの関連では、高い電子移動度によって、好ましくは電子によって導電する物質を電子輸送物質ということができる。高い正孔移動度によって、好ましくは正孔によって導電する物質を正孔輸送物質ということができる。デバイス中での移動度及び/又は位置によって、好ましくは電子によって導電する層を電子輸送層(electron transport layer, 「ETL」)ということができる。デバイス中での移動度及び/又は位置によって、好ましくは正孔によって導電する層を正孔輸送層(hole transport layer, 「HTL」)ということができる。必須ではないが、好ましくは、アクセプター物質は電子輸送物質であり、ドナー物質は正孔輸送物質である。
【0014】
担体移動度と相対的なHOMO及びLUMO準位とに基づいて、光起電力ヘテロ接合においてドナー及びアクセプターとして働くように2種の光伝導性物質をどのようにペアにするかは当技術分野で周知であり、ここでは扱わない。
【0015】
本明細書で用いるように、「有機」の用語には、重合体(ポリマー)物質ならびに小分子(small molecule)有機物質を含み、これらは有機光電子デバイスを作製するために用いることができる。「小分子(small molecule)」は、重合体ではない全ての有機物質をいい、「小分子」は実際には非常に大きくてもよい。小分子は、ある状況では、繰り返し単位を含むことができる。例えば、置換基として長鎖アルキル基を用いることは、分子を「小分子」から除外しない。小分子は、重合体中に、例えば重合体骨格上のペンダント基として、あるいはその骨格の一部として、組み込まれることもできる。小分子はデンドリマーのコアとしても働くことができ、デンドリマーはそのコア部分上に構築された一連の化学的殻からなる。デンドリマーのコア部分は、蛍光性又は燐光性の小分子であってよい。デンドリマーは小分子でありうる。一般に、小分子は分子から分子へと同じ分子量をもつ明確された化学式をもち、一方で重合体は分子から分子へと変わりうる分子量をもつ明確にされた化学式をもつ。本明細書で用いるように、「有機」の用語は、ヒドロカルビル、及びヘテロ原子で置換されたヒドロカルビル配位子の金属錯体を含む。
【0016】
PVデバイスの性能指数(figure of merit)はフィルファクター(ff)であり、以下の式で定義される。
【数1】
式中、ffは常に1未満であり、なぜなら短絡回路電流Isc及び開路電圧Vocは、実際の使用においては同時には決して得られないからである。それにもかかわらず、ffが1に近づくにつれて、デバイスはより少ない直列抵抗又は内部抵抗をもち、そのためにIscとVocの積の大きな割合を、最適条件下で負荷に対して受け渡す。Pincがデバイスの電力入射である場合、デバイスの電力効率ηpは以下の式で計算できる。
【数2】
【0017】
有機PVデバイスの電力効率ηpは、励起子の生成、拡散、及びイオン化又は収集を含めて、光電導に必要とされる様々なプロセスに左右される。これらのプロセスのそれぞれに伴う効率ηがある。下付文字は以下のように用いることができる:電力効率に対してP、外部量子効率に対してEXT、光子吸収に対してA、励起子拡散に対してED、電荷収集にCC、そして内部量子効率に対してINT、である。この表記を用いて:
【数3】
【0018】
有機感光性デバイスについての追加の背景説明及び技術状況(それらの一般的構造、特性、物質、及び特徴を含めて)の説明のために、Forrestらの米国特許第6,657,378号、Forrestらの米国特許第6,580,027号、及びBulovicらの米国特許第6,352,777号を参照により本願に援用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許第6,657,378号明細書
【特許文献2】米国特許第6,580,027号明細書
【特許文献3】米国特許第6,352,777号明細書
【特許文献4】米国特許第6,451,415号明細書
【特許文献5】米国特許第6,420,031号明細書
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Peumansら, Applied Physics Letters 76, 2650-52 (2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
高効率有機光電池のための新しい構造及び基準を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0022】
〔本発明のまとめ〕
本明細書に開示した新しい構造を用いる有機光電池の例は、アノードと、カソードと、そのアノードとカソードとの間の複数の有機半導体層とを含む。アノードとカソードのうち少なくとも一つは透明である。その複数の有機半導体層の各2つの隣接する層は直接接触している。複数の有機半導体層は、実質的に光伝導性物質のみからなる中間層と、2組の少なくとも3層とを含む。少なくとも3層の第一の組は、前記の中間層とアノードとの間にある。第一の組の各層は、本質的に、カソードにより近い複数の有機半導体層のうちの隣接する層の物質と比べて、より高いLUMO及びより高いHOMOを有する異なる半導体物質のみからなる。少なくとも3層の第二の組は、前記の中間層とカソードとの間にある。第二の組の各層は、本質的に、アノードにより近い複数の有機半導体層のうちの隣接する層の物質と比べて、より低いLUMO及びより低いHOMOを有する異なる半導体物質のみからなる。
【0023】
第一の組のうちアノードに最も近い層のHOMOと、第二の組のうちカソードに最も近い層のLUMOとの間のエネルギー差は、0.5eV〜3.0eVであることが好ましく、物質が入手できるようになれば、より大きな差が可能である。したがって、より好ましくは、そのエネルギー差は少なくとも1eVである。
【0024】
少なくとも3層の第一の組の各層の有機半導体物質は、カソードにより近い複数の有機半導体層のうちの隣接する層の物質に対して少なくとも0.026eV高いHOMO及びLUMOを有することが好ましい。同様に、少なくとも3層の第二の組の各層の有機半導体物質は、アノードにより近い複数の有機半導体層のうちの隣接する層の物質に対して少なくとも0.026eV低いHOMO及びLUMOを有することが好ましい。
【0025】
少なくとも3層の第一の組と中間層とからなる隣接層の間のHOMOの差(複数)と、少なくとも3層の第二の組と中間層とからなる隣接層の間のLUMOの差(複数)とを合わせた合計は、0.15eV〜1.0eVであることが好ましい。
【0026】
少なくとも3層の第一の組と中間層とからなる隣接層の間のHOMOの差(複数)と、少なくとも3層の第二の組と中間層とからなる隣接層の間のLUMOの差(複数)とを合わせた合計を、第一の組と第二の組の中の層の数の合計で割ったものが、少なくとも0.026eVであることが好ましい。
【0027】
好ましい平均の段差の大きさ(ステップサイズ)の別な表現としては、少なくとも3層の第一の組と中間層とからなる隣接層の間のHOMOの差(複数)の合計をその第一の組の層の数で割ったものが、少なくとも0.026eVであり、且つ、少なくとも3層の第二の組と中間層とからなる隣接層のLUMOの差(複数)の合計をその第二の組の層の数で割ったものが、少なくとも0.026eVである。
【0028】
第一の組及び第二の組の有機半導体物質は、光伝導性物質であっても、光伝導性物質でなくてもよい。好ましくは、それらは光伝導性である。
【0029】
前記の中間層に隣接する3層の第一の組の一つの層(a layer)と、前記中間層に隣接する3層の第二の組の一つの層(a layer)は、その各々の有機半導体物質の3つの単分子層(monolayer)の厚さ以下であることが好ましい。層の厚さの配置の一例として、第一の組と第二の組の各層が、その各々の有機半導体物質の3つの単分子層の厚さ以下であることが好ましい。層の厚さの配置の別な例としては、少なくとも3層の第一の組の層の厚さがアノードに向かって次第に増大し、且つ、少なくとも3層の第二の組の層の厚さがカソードに向かって次第に増大する。層の厚さの増大を採用する場合は、少なくとも3層の第一の組のうちアノードに最も近い層と、少なくとも3層の第二の組のうちカソードに最も近い層が、10の単分子層の厚さ以下であることが好ましい。
【0030】
上記の複数の層は、少なくとも3層の第一の組の物質のバンドギャップ(bandgaps)が、アノードに向かって次第に増大するように配置することができる。これは、アノードが反射性である場合に特に有利である。アノードが反射性である場合は、少なくとも3層の第二の組の最大の物質バンドギャップが、第一の組の物質の最も小さな物質バンドギャップよりも小さいことも好ましい。
【0031】
上記の複数の層は、少なくとも3層の第二の組の物質バンドギャップ(bandgaps)が、カソードに向かって次第に増大するように配置することができる。これは、カソードが反射性である場合に特に有利である。カソードが反射性である場合は、少なくとも3層の第一の組の最大の物質バンドギャップが、第二の組の物質の最小の物質バンドギャップよりも小さいことも好ましい。
【0032】
中間層の光伝導性物質は、励起状態において、とりわけ、エキシマー(eximer)又はエキシプレックス(exciplex)を形成する分子のみから実質的になるものであってよい。そのような分子複合体を用いる場合は、その中間層の光伝導性物質の関係あるHOMO及びLUMOはそのエキシマー又はエキシプレックスのものであり、これは通常、構成分子のHOMO及びLUMOとは異なる。したがって、分子複合体を用いて、中間層に隣接する少なくとも3層の第一の組のうちのある層のLUMO及びHOMOはその分子複合体と比較してより高く、且つ、中間層に隣接する少なくとも3層の第二の組のうちのある層のLUMO及びHOMOはその分子複合体と比較してより低い。
【0033】
本明細書に開示した新しい構造を用いる感光性デバイスを作製する方法の例は、第一の電極を準備するステップ;その第一の電極の上に一連の少なくとも7層を堆積させ、各層が異なる有機半導体物質のみから本質的になり、その配列のうち少なくとも中間層の有機半導体物質が光伝導性物質であるステップ;及び、少なくとも7層のその配列の上に第二の電極を堆積させるステップ、を含む。第一の電極及び第二の電極のうち一つがアノードであり、他方はカソードである。少なくとも7層の一連の有機半導体物質は、アノードからカソードへと、その配列を横切ってLUMOが低下する配列及びHOMOが低下する配列をもたらすように配置される。
【0034】
少なくとも7層のうちアノードに最も近い層の有機半導体物質のHOMOと、少なくとも7層のうちカソードに最も近い層の有機半導体物質のLUMOとの間のエネルギー差は、0.5eV〜3.0eVが好ましく、より好ましくは、エネルギー差は少なくとも1eVである。
【0035】
本明細書に開示した新しい構造にしたがって負荷に光電流をもたらすための方法の例は、アノードとカソードの間に一連の様々な有機半導体物質の層を具え、その一連の層はアノードとカソードの間に熱平衡において内蔵電場(built-in field)を模擬するように配置されるステップ;その一連の層の中間層内での光吸収によって励起子を生成するステップ;中間層内で生じた励起子を空間的に分離し、その模擬された内蔵電場が、その中間層からの励起子の束縛電子をカソードに向かって一連の層の1つ以上の中へと誘引し、一方でその中間層内からの励起子の束縛正孔をアノードに向かってその複数の有機半導体層の1つ以上の中へと誘引するステップ;そして、その空間的に分離した励起子からの光電流を、アノードからカソードへと電気的に接続された負荷に流すステップ、を含む。アノードとカソードとを横切る開路電圧は、好ましくは少なくとも1V(ボルト)である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、ドナー-アクセプターヘテロ接合を説明するエネルギー準位図である。
【図2】図2は、ドナー-アクセプターヘテロ接合を含む有機感光性デバイスを示す。
【図3】図3は、平面的なヘテロ接合を形成するドナー-アクセプター二重層を示す。
【図4】図4は、ドナー層とアクセプター層との間に混合ヘテロ接合を含むハイブリッドヘテロ接合を示す。
【図5】図5はバルクヘテロ接合を示す。
【図6】図6はショットキーバリアヘテロ接合を含む有機感光性デバイスを示す。
【図7】図7は直列のタンデム感光性セルを示す。
【図8】図8は並列のタンデム感光性セルを示す。
【図9】図9は、高い短絡電流密度をもたらすが低い開路電圧しかもたらさないドナー-アクセプターヘテロ接合を示す。
【図10】図10は、最大の開路電圧をもたらすが、ゼロの短絡電流密度しかもたらさないヘテロ接合を示す。
【図11】図11は、本発明の原理にしたがって、光によって発生した励起子を空間的に分離するエネルギーカスケードの例を示す。
【図12】図12は、単一セルのデバイスとして構成された図11のエネルギーカスケードの例を示す。
【図13】図13は、本発明の原理にしたがってエネルギーカスケードを構築するために用いることができる多数の有機半導体のうちのいくつかの例を示す。 これらの図は必ずしも寸法を縮尺したものではない。
【発明を実施するための形態】
【0037】
〔詳細な説明〕
有機感光性デバイスは少なくとも1つの光活性領域を含み、その領域中で光が吸収されて励起子が生じ、励起子は続いて電子と正孔とに解離されうる。図2は有機感光性光電子デバイス100の例を示し、このデバイス中で光活性領域150はドナー-アクセプターヘテロ接合を含む。この「光活性領域」は感光性デバイスの一部分であり、これが電磁放射を吸収して励起子を生成し、励起子は電流を生じさせるために解離しうる。デバイス100は、アノード120、アノード平滑化層122、ドナー152、アクセプター154、励起子阻止層(exciton blocking layer, 「EBL」)156、及びカソード170を、基材(基板)110の上に含む。
【0038】
EBL156の例は、Forrestらの米国特許第6,451,415号明細書に記載されており、EBLに関連するその記載を参照によって本願に援用する。EBLの追加の背景的説明は、Peumansらの「Efficient photon harvesting at high optical intensities in ultrathin organic double-heterostructure photovoltaic diodes」, Applied Physics Letters 76, 2650-52 (2000)にもある。EBLは、励起子がドナー及び/又はアクセプター物質から外に移動することを防ぐことによって消光することを低減する。
【0039】
「電極」及び「接点(コンタクト)」の用語は、光によって生じた電流を外部回路に送るため、あるいはバイアス電流又はバイアス電圧をデバイスに供給するための媒体を提供する層をいうために本明細書中では同義的に用いられる。図2に示したように、アノード120及びカソード170は例である。電極は、金属又は「金属代替物」からなることができる。本明細書で「金属」の用語は、元素として純粋な金属から構成された物質と、元素として純粋な2種以上の金属から構成される物質である合金の両方を包含するように用いる。「金属代替物」の用語は、通常の定義内での金属ではないが、伝導度などの金属同様の特性を有する物質、例えば、ドーピングされたワイドバンドギャップ半導体、縮退型半導体、導電性酸化物、及び導電性ポリマーなどをいう。電極は単層又は多層(複合電極)を含むことができ、透明、半透明、又は不透明であってよい。電極と電極物質の例には、Bolovicらの米国特許第6,352,777号明細書及びParthasarathyらの米国特許第6,420,031号明細書(それぞれを、これらの各特徴の開示を参照により本願に援用する)に開示されているものが含まれる。本明細書で用いるように、層が、関連する波長において周囲の電磁放射の少なくとも50%を透過させる場合は、その層は「透明」であるという。
【0040】
基材110は、所望する構造的特性をもたらす任意の好適な基材であってよい。基材は、柔軟性又は剛性、平面又は非平面であってよい。基材は、透明、半透明、又は不透明であってよい。剛性のプラスチック及びガラスが、好ましい剛性基材物質の例である。柔軟なプラスチック及び金属箔は、好ましい柔軟性基材物質の例である。
【0041】
アノード平滑化層122は、アノード層120とドナー層152の間に配置してよい。アノード平滑化層は、Forrestらの米国特許第6,657,378号明細書に記載されており、この特徴に関連するその開示を参照により本願に援用する。
【0042】
図2では、光活性領域150は、ドナー物質152とアクセプター物質154とを含む。光活性領域に用いるための有機物質には有機金属化合物が含まれてよく、これにはシクロメタル化有機金属化合物が含まれる。本明細書で用いられるように「有機金属」の用語は、当業者によって通常理解されているとおりであり、例えば、Gary L. Miessler及びDonald A. Tarrによる「Inorganic Chemistry」(第2版),Prentice Hall (1999)の第13章にあるとおりである。
【0043】
有機層は、真空蒸着、スピンコーティング、有機気相堆積、インクジェット印刷、及び当技術分野で公知のその他の方法を使用して作製しうる。
【0044】
様々なタイプのドナー-アクセプターヘテロ接合の例を、図3〜5に示している。図3は、平面的なヘテロ接合を形成するドナー-アクセプター二重層を示している。図4は、ドナー物質とアクセプター物質との混合物を含む混合ヘテロ接合153を含むハイブリッドヘテロ接合を示している。図5は、理想化した「バルク」ヘテロ接合を示している。理想的な光電流の場合、バルクヘテロ接合は、ドナー物質252及びアクセプター物質254の間に単一の連続界面を有する。とはいえ、実際のデバイスには、複数の界面が通常は存在する。混合及びバルクヘテロ接合は、物質の複数のドメインを有する結果として、多数のドナー-アクセプター界面を有することができる。逆のタイプの物質によって囲まれたドメイン(例えば、アクセプター物質によって囲まれたドナー物質のドメイン)は、電気的に独立していてよく、それによってこれらのドメインは光電流に寄与しないようにできる。その他のドメインは、パーコレーション経路(連続的な光電流経路)によって接続してもよく、それによってこれらその他のドメインが光電流に寄与しうる。混合ヘテロ接合とバルクヘテロ接合との間の違いは、ドナー物質とアクセプター物質との間の相分離の程度にある。混合ヘテロ接合では、非常に僅かな相分離しかないか、あるいは相分離は全くない(ドメインは非常に小さく、例えば、数ナノメートル未満である)が、一方、バルクヘテロ接合では、顕著な相分離がある(例えば、数ナノメートル〜100nmの大きさのドメインを形成する)。
【0045】
小分子混合ヘテロ接合は、例えば、真空蒸着又は気相蒸着を用いてのドナー及びアクセプター物質の共蒸着によって形成できる。小分子バルクヘテロ接合は、例えば、制御成長、蒸着後アニーリングを伴う共蒸着、又は溶液法によって形成できる。ポリマーの混合又はバルクヘテロ接合は、例えば、ドナー及びアクセプター物質のポリマーブレンドの溶液法によって形成することができる。
【0046】
光活性領域が、混合層(153)又はバルク層(252、254)、及びドナー層(152)及びアクセプター層(154)のうち一つ又は両方を含む場合は、光活性領域は「ハイブリッド」ヘテロ接合を含むと言われる。図4の層の配列が一例である。ハイブリッドヘテロ接合の追加の説明のために、Jiangeng Xueらによる「High efficiency organic photovoltaic cells employing hybridized mixed-planar heterojunctions」と題された、米国特許出願公開第2005/0224113A1公報を参照により本願に援用する。
【0047】
一般に、平面的ヘテロ接合は良好な担体伝導度を有するが、低い励起子分離しかもたない。混合層は低い担体伝導度と良好な励起子分離とを有し、バルクヘテロ接合は良好な担体伝導度と良好な励起子分離とを有するが、物質の袋小路の末端で電荷集積が起こり、これが効率を低下させるおそれがある。別に記載しない限り、平面、混合、バルク、及びハイブリッドのヘテロ接合は、本明細書に開示した態様を通じて、ドナー-アクセプターヘテロ接合として、交換可能に用いることができる。
【0048】
図6は、有機感光性光電子デバイス300の例を示し、このデバイスでは、光活性領域350はショットキーバリアヘテロ接合の一部である。デバイス300は、透明接点320、有機光伝導性物質358を含む光活性領域350、及びショットキー接点370を含む。ショットキー接点370は典型的には金属層として形成される。光伝導層358がETLである場合は、高い仕事関数の金属、例えば金を用いてよく、一方、光伝導層がHTLである場合は、低い仕事関数の金属、例えば、アルミニウム、マグネシウム、又はインジウムなどを用いてよい。ショットキーバリアセル内では、ショットキーバリアに伴う内蔵電場が励起子中の電子と正孔を別々に引っぱる。一般に、この電場が助ける励起子の解離は、ドナー-アクセプター界面での解離ほど有効ではない。
【0049】
図示したデバイスは、要素190に連結してよい。デバイスが光起電力デバイスである場合は、要素190は電力を消費又は貯蔵する抵抗負荷である。デバイスが光検出器である場合は、要素190はその光検出器が光に曝されたときに生じる電流を測定する電流検出回路であり、これはそのデバイスにバイアスを印加することもできる(例えば、2005年5月26日に刊行された、公開されたForrestらの米国特許出願公開第2005−0110007A1公報に記載されているとおりである)。デバイスから整流接合を取り除いた場合(例えば、光活性領域として単一の光電導性物質を用いることによって)、その結果生じる構造は光伝導セルとして用いることができ、その場合、要素190は、光の吸収によるデバイスを横切る抵抗の変化を監視するための信号検出回路である。別途記載しない限り、これらの配置及び変更のそれぞれは、本明細書に開示した図面及び態様のそれぞれにおいてデバイスに用いることができる。
【0050】
有機感光性光電子デバイスは、透明な電荷移動層、電極、又は電荷再結合ゾーンをも含むことができる。電荷移動層は、有機又は無機であってよく、光伝導的に活性であってもそうでなくてもよい。電荷移動層は電極に類似しているが、そのデバイスへの外部への電気的接点をもたず、光電子デバイスの一つのサブセクションから、それに隣接するサブセクションへと電荷担体を運ぶだけである。電荷再結合ゾーンは電荷移動層に類似しているが、光電子デバイスの隣接するサブセクション間での電子と正孔の再結合を可能にする。電荷再結合ゾーンは、ナノクラスター、ナノ粒子、及び/又はナノロッドを含む、半透明の金属又は金属代替物の再結合中心を含んでもよく、これらは例えば、Forrestらの米国特許第6,657,378号明細書;2006年2月16日に公表された、Randらによる、「Organic Photosensitive Devices」という題名の、公開された米国特許出願公開第2006−0032529A1公報;及び2006年2月9日に公表された、Forrestらによる「Stacked Organic Photosensitive Devices」という題名の、公開された米国特許出願公開第2006−0027802A1公報に記載されているとおりであり、そのそれぞれを、再結合ゾーン物質と構造のその開示に対して参照により本願に援用する。電荷再結合ゾーンは、その中に再結合ゾーンが組み込まれた透明なマトリクス層を含んでも、あるいは含まなくてもよい。電荷移動層、電極、又は電荷再結合ゾーンは、光電子デバイスのサブセクションのカソード及び/又はアノードとして働くこともできる。電極又は電荷移動層は、ショットキーコンタクトとして働くこともできる。
【0051】
図7及び8は、そのような透明電荷移動層、電極、及び電荷再結合ゾーンを含むタンデム型デバイスの例を示す。図7中のデバイス400では、光活性領域150及び150’は、介在する伝導領域460で直列に電気的に重ねられている。外部の電気的接続なしに図示されているように、介在する伝導領域460は電荷再結合ゾーンであるか、あるいは電荷移動層であってよい。再結合ゾーンとしては、領域460は透明マトリクス層を伴って又は透明マトリクス層なしで、再結合センター461を含む。マトリクス層が全くない場合は、そのゾーンを形成する物質の配置は、領域460を横切って連続的でなくてもよい。図8中のデバイス500は、並列に電気的に重ねられた光活性領域150及び150’を示し、トップセル(上側のセル)は倒置した構成をしている(すなわち、カソードが下)。図7及び8のそれぞれにおいて、光活性領域150及び150’、並びに阻止層156及び156’は、用途に応じて、同じそれぞれの物質あるいは異なる物質から形成されていることができる。同様に、光活性領域150及び150’は、同じタイプ(すなわち、平面状、混合、バルク、ハイブリッド)のヘテロ接合であることも、異なるタイプであることもできる。
【0052】
上述したデバイスのそれぞれにおいて、層(例えば励起子阻止層)を省略してもよい。その他の層(例えば、反射層又は追加の光活性領域)を追加することもできる。層の順序は変えても、あるいは反転させてもよい。濃縮用構造(コンセントレーター)又は捕捉性構造(トラッピングコンフィギュレーション)を採用して効率を高めることもでき、それは例えばForrestらの米国特許第6,333,458号明細書、及びPeumansらの米国特許第6,440,769号明細書に記載されているとおりであり、これらは参照により本願に援用する。デバイスの所望する領域に光エネルギーを集中させるためにコーティングを用いてもよく、これは例えば、2005年12月1日に公表された、Peumansらによる「A periodic dielectric multilayer stack」と題された、公表された米国特許出願公開第2005−0266218A1公報に開示されているとおりであり、これは参照により本願に援用する。上記タンデムデバイスでは、透明な絶縁層をセルとセルの間に形成してもよく、そのセル間の電気的接続は電極を介してもたらされる。また、上記のタンデムデバイスでは、光活性領域の1つ以上が、ドナー-アクセプターヘテロ接合に代えてショットキーバリアヘテロ接合であってもよい。これらの具体的に記載したもの以外の配置を用いることもできる。
【0053】
従来の無機半導体光起電力電池は、p−n接合を用いて内部電場を構築している。図1に示したように、有機光起電力電池は、従来の無機光起電力電池で用いられたものと類似したドナー-アクセプターヘテロ接合を含む。しかし、p−n型接合の構築に加えてそのヘテロ接合のエネルギー準位のオフセット量も、有機デバイスで重要な役割を演じていることがいまや認められる。
【0054】
有機光起電力電池においてフィルファクター(ff)と外部量子効率(ηEXT)との間にほぼ比例関係があると仮定すると、デバイス性能を最大にするためには、短絡電流密度(JSC)を開路電圧(VOC)とバランスさせることが必要である。
【0055】
このバランスをとることに伴う問題を図9及び10に示している。図9において、ドナー952とアクセプター954との間の大きなステップは、大きな短絡回路電流密度をもたらすが、低い開路電圧ももたらす。対して、図10に示した物質の配置は、ゼロの短絡回路電流密度を生じさせる構造における最大の開路電圧を示す。
【0056】
有機ドナー-アクセプターヘテロ接合では、開路電圧は、〔(ドナーのHOMO)−(アクセプターのLUMO)−(そのドナー励起子の励起子結合エネルギー(EBD)とアクセプター励起子の励起子結合エネルギー(EBA)のそれぞれの励起子結合エネルギーの1/2)〕に等しい。ドナーとアクセプターの励起子結合エネルギーの1/2の合計は、実験的に約0.3〜0.4eVと見積もられている。Markus C. Scharberら, “Design Rules for Donors in Bulk-Heterojunction Solar Cells--Towards 10% Energy Conversion Efficiency”, Advanced Materials 18, 789-794 (2006); 及びL.J.A Kosterら, “Ultimate efficiency of polymer/fullerene bulk heterojunction solar cells”, Applied Physics Letters 88, 093511 (2006)を参照されたい。相対的に、無機半導体デバイス中の励起子結合エネルギーはもっと小さく、そのため、p−n接合構造を用いての結合エネルギーによる感知できるほどの開路電圧の不利益は全くない。したがって、現在の理論的限界を超えて有機起電力電池の効率を最大化する(開路電圧と短絡電流密度を最大化する)ためには、新しい設計概念(アーキテクチャー)が必要とされている。
【0057】
短絡電流密度と開路電圧との間にこれまで必要とされていたバランスを取ることを切り離した感光性デバイスのための新しい設計概念を本明細書に開示し、それは単一のp−n接合に代えて、光合成を思わせるエネルギーカスケードプロセスを用いる。
【0058】
図1に示すように、古典的なドナー-アクセプターヘテロ接合を用いると、励起子の分離は、光で生成した励起子を分離するための単一の整流接合の存在に左右される(すなわち、古典的なドナー-アクセプターヘテロ接合デバイスでは、デバイスはいくつかの整流接合を含むことができるが、個々の励起子はただ一つの界面で分離する)。本明細書に示したように、様々な有機半導体物質の一連の層(複数)を横切って(熱平衡にある)内蔵電場を構造的に模擬(シミュレート)し、励起子の束縛電子を中間層から複数の有機半導体層の1つ以上の中へとカソードに向けて引きつけ、一方で、励起子の束縛正孔を中間層から複数の有機半導体層の1つ以上の中へとアノードに向けて引きつけて、励起子を空間的に分離することができる。本質的に、たとえ逆電流が可能であったとしても、模擬した電場勾配は、少なくとも2つの空間的に分離した界面を横切って励起子をばらばらに分離する。
【0059】
図11は、様々な有機半導体物質の一連の層から構成された新しい構造のエネルギーバンドダイヤグラムを示しており、各層は次の層と直接接触している。中間層1153は、光伝導性半導体物質のみから本質的になる。少なくとも3つの有機半導体層(1152a、1152b、1152c)の第一の組(1152)は、中間層1153とアノード120との間に配置されており、且つ、少なくとも3つの有機半導体層(1154a、1154b、1154c)の第二の組(1154)は中間層1153とカソード170との間に配置されている。第一の組1152の各層は、カソードにより近い複数の有機半導体層のうちの隣接する層の物質と比べてより高いLUMOとより高いHOMOをもっている様々な有機半導体物質のみから本質的になる。第二の組1154の各層は、アノードにより近い複数の有機半導体層のうちの隣接する層の物質と比べてより低いLUMOとより低いHOMOをもっている様々な有機半導体物質のみから本質的になる。
【0060】
好ましくは、中間層153のアノード側のHOMO(複数)の間のステップ(steps)はそれぞれ1kT〜3kTであり、且つ中間層153のカソード側のLUMO(複数)の間のステップもそれぞれ1kT〜3kTの間である。そのような小さなステップは整流する必要がない(逆電流を可能にする)一方で、前記の第一及び第二の組の層がかなり薄く保たれている場合(さらに以下に説明するように、少数(a few)の単分子層)には、前記のステップはアノードとカソードとの間の内蔵電場を模擬する(EBI,4)。言い換えれば、この新しい設計概念によるデバイスは、たとえ第一の組の複数層1152、中間層1153、及び第二の組の複数層1154の間のどの界面も整流されていなくても、効率的且つ完全に動作可能の両方でありうる。図11Gに示したように、この新しい構造の結果は、励起子8が空間的に分離され、同時に少なくとも2つの別の境界面を越えて別々に引っ張られる(「空間的分離」)ということである。
【0061】
このアプローチの利点は、開路電圧(VOC)を考慮した場合に明確になる。開路電圧は、第一の組のうちアノードに最も近い層のHOMOと第二の組のうちカソードに最も近い層のLUMOとの間の差である。上記の新しい構造の結果として、それぞれ末端の物質の励起子結合エネルギーは因子としては除外される。したがって、開路電圧は(中間層1153のエネルギーギャップ−6kT)[6kTはそれぞれ1kTの6ステップに対応する]と同じ程度の大きさになりうる一方で、同時に高い電流密度を有する。たとえ赤外吸収物質が含まれていたとしても、1eVを超える開路電圧が容易に得られる。好ましい開路電圧範囲は0.5eV〜3.0eVであるけれども、新しい有機半導体物質が入手可能になったときにはより大きなVOCが可能になる。
【0062】
少なくとも1kT(0.026eV)の、第一の組1152の中のLUMOステップ(steps)と第二の組1154の中のHOMOステップ(steps)を有することが好ましく、なぜなら、模擬内蔵電場4を作り出すためにそれで充分だからである。より大きな電圧ステップの違いが有利であり、そこではより大きなステップ(steps)が内蔵電場4の効果を高めるからである。しかし、このカスケードを横切る累積電圧の増大は、図11に見ることができるように、開路電圧(VOC)を低下させる。したがって、隣接する層の間のHOMO及びLUMO電圧差を選択することにおいて二律背反がある。この理由により、第一の組1152中のLUMOと第二の組1154中のHOMOの間の各電圧ステップは、5kT(0.13V)以下であることが好ましく、より好ましくは3kT(0.078eV)以下である。
【0063】
しかし、開路電圧(VOC)を低下させるものは、個々のステップ自体よりもむしろ電圧ステップの合計である。したがって、実用的な意味では、利用可能な物質及びその他のパラメータ、例えば、物質の安定性、コスト、及び堆積の容易さに応じて3kTより大きな段差量をもつステップ(あるいは数(a few)ステップさえ)を含むことは価値あるトレードオフでありえる。好ましくは、第一の組1152からなる複数隣接層及び中間層1153の間のHOMOステップと、第二の組1154からなる複数隣接層及び中間層1153の間のLUMOステップとを合わせた合計は、各ステップの平均(前記の合わせた合計−エネルギーカスケードのステップ数)が少なくとも1kT(0.026eV)であるので、6kT(0.15eV)〜40kT(1.0eV)である。もちろん、上述したように、個々のステップは平均よりも大きいか又は小さくてもよいが、各ステップは少なくとも1kTであることが好ましい。エネルギーカスケード中のステップ数は、(カスケード中の有機半導体層の数−1)である。
【0064】
デバイスが多数の小さなステップを有することの基準に合致しているか否かの一つの尺度は、平均のステップの大きさが少なくとも1kTであるかどうかであり、なぜなら、平均のステップの大きさは、各個別のステップの大きさよりも容易に実験によって定量できるからである。上述したように、平均のステップの大きさは、全カスケードを横切るステップの差を用いて得られる。別なアプローチは、中間層のアノード側上のステップ(複数)の平均を測定し、且つ別個に中間層のカソード側上のステップ(複数)の平均を測定することである。第一の組1152からなる隣接複数層及び中間層1153の間のHOMO差の合計を第一の組1152の層の数で割ったものが、少なくとも1kTであることが好ましく、且つ、第二の組1154からなる隣接複数層及び中間層1153の間のLUMO差の合計を第二の組1154の層の数で割ったものが、少なくとも1kTであることが好ましい。
【0065】
好ましくは、束縛担体がそれとともに反対(の電荷)の束縛担体を引っ張ってくることの可能性を最小化するために、第一の組1152中の複数の物質の各LUMOステップが、対応するHOMOステップと少なくとも同じくらいの大きさであるべきであり(「対応する」のは、同じ物質界面においてである)、且つ、第二の組1154中の複数の物質の各HOMOステップが、対応するLUMOステップと少なくとも同じくらいの大きさであるべきである。第一の組1152の物質のLUMOステップを、対応するHOMOステップと比較して、アノードに近づくにつれて漸進的により大きくすること、及び第二の組1154の物質のHOMOステップを、対応するLUMOステップと比較して漸進的により大きくすることは、各遷移に対する累積エネルギーを増大させることを必要とすることによって、束縛担体(束縛キャリア)の引っ張りをさらに最小化する。
【0066】
上記の第一及び第二の層の組はまた、光伝導性物質から構成されていることが好ましいが、この構造は、第一の組1152及び/又は第二の組1154中のいくつかの層が光伝導性物質でない場合でさえ、理論上は作動する。
【0067】
模擬された内蔵電場4の有効性を高めるため、第一の組1152のうち中間層1153に最も近い層1152aと、第二の組1154のうち中間層1153に最も近い層1154aは、それぞれ、その各々の有機半導体物質の3単分子層(three monolayers)の厚さ以下であることが好ましい。これらの層をより厚くすることは、内蔵電場4の有効性を小さくし、そのため層1152aと1154aは、連続的被覆をもたらす一方で可能な限り薄く作られることが好ましい。
【0068】
第一の組1152と第二の組1154のその他の層も、それぞれ、その各々の有機半導体物質の3単分子層の厚さ以下であってよい。しかし、たとえ層の厚さがアノード及びカソードにむけて僅かに増大したとしても、模擬電場の錯覚は保たれることができ、それは励起子生成のための追加の光伝導性領域を提供することによって有利でありえる(中間層中で作り出される励起子に加えて、励起子はまた、第一の組及び第二の組の層中でも作り出される)。第一の組1152と第二の組1154の厚さが増大する場合、厚さの増大は、中間層1153から離れながら漸進的であることが好ましい。しかし、第一の組1152のうちアノード120に最も近い層と、第二の組1154のうちカソード170に最も近い層とは、(各物質に対して)それぞれ10単分子層(ten monolayers)以下であることが好ましい。
【0069】
中間層1153の厚さは、光吸収のための領域を増大させるために最大化されうるが、対再結合を最小化するために、この層を形成する光伝導性物質の2励起子拡散長以下であることが好ましい。
【0070】
図12は、図2に示した配置に似て、単一セル感光性デバイス1100として配置された図11の例を示す。図示したように、図11の各層は光伝導性物質からなり、そのエネルギーカスケードは全体で光活性領域1150といわれる。光活性領域1150によって例示されるこのエネルギーカスケードは、図7及び8に図示した光活性領域150及び150’の代替として、タンデム構造に用いることもできる。励起子阻止層156がセル1100に含まれる場合は、それは光伝導性物質からなるものではないことが好ましい。図示しないが、励起子阻止層を、第一の組1152とアノード120との間に含めることもできる。
【0071】
このエネルギーカスケードの各有機半導体層において、各層の「必須」物質は、それが何であれ各層の担体輸送特性を定める成分(1つ又は複数)である。例えば、担体輸送がマトリクス物質中のドーパントを介している場合は、その層を特徴づける関連分子は、ドーパント分子の成分である。
【0072】
アノード又はカソードが反射性である場合は、より大きなバンドギャップ物質が、より小さなバンドギャップ物質よりもその反射性電極により近くなるように有機半導体物質(複数)を配置することがさらに有利である。一般に、物質のエネルギーギャップ(HOMOとLUMOの差)は、吸収波長の逆数に比例する。反射性電極はその構造中に定常波を作り出し、定常波はその反射性界面から約λ/4n離れたピークをもつ(λは光の波長であり、nは有機半導体物質の正規化した屈折率である(n〜2))。したがって、青を吸収する、より大きなバンドギャップ物質(例えば、400nm/4x2=50nm)は、赤及び/又は赤外を吸収するより小さなバンドギャップ物質(例えば、800nm/4x2=100nm)よりも、反射性界面により近く配置されるべきである。スペーサー又は追加の光活性領域(すなわち、タンデム配置)を反射性電極と一連の有機半導体層との間に含めて、この効果を最大化してもよい。
【0073】
アノード120が反射性である場合は、少なくとも3層の第一の組1152の物質バンドギャップは、アノード120に向かって漸進的に増大することが好ましく、且つ少なくとも3層の第二の組1154のうちの最大の物質バンドギャップは、第一の組1152の物質の最も小さな物質バンドギャップよりもさらに小さいことが好ましい。
【0074】
同様に、カソード170が反射性である場合は、少なくとも3層の第二の組1154の物質バンドギャップは、カソード170に向かって漸進的に増大することが好ましく、且つ少なくとも3層の第一の組1152の最大の物質バンドギャップは、第二の組1154の物質の最も小さな物質バンドギャップよりもさらに小さいことが好ましい。
【0075】
中間層1153の光伝導性物質の光吸収特性は、分子複合体(molecular complex)、例えば、エキシプレックスあるいはエキシマー、から生じうる。そのような分子複合体では、2つ以上の分子が共同吸収に関与でき、その場合、この複合体は構成分子とは異なるHOMO及びLUMOを有する。これらの複合体は励起状態でのみ存在する。この複合体の成分が同じ種類である場合には複合体はエキシマーであり、一方、2種の異なる種類の分子からの複合体はエキシプレックスである。そのような分子複合体の例は、基底状態では解離しているか又はわずかに弱く会合しているが、その励起状態ではより強く会合する分子凝集体である。分子複合体の背景的議論については、Nicholas J. Turroによる“Modern Molecular Photochemisty”, University Science Books (1991)の第5章を参照されたい。エキシマー又はエキシプレックスを中間層1153に用いる場合は、隣接層に対する関連するHOMO及びLUMOは、層1153の構成分子のHOMO又はLUMOよりもむしろその分子複合体のものである。
【0076】
光活性領域1150を単一セルデバイスに構成する場合は、光活性領域1150の合計の厚さが、この領域(+この領域に到達するために入射光が通過する全てのその他の物質)の光吸収係数の逆数よりも小さいことが好ましい。同様に、光活性領域1150をタンデム構造に構成する場合は、光入射面の反対側の電極へとタンデム構造を横切る全体の厚さが、その合わせた構造を通じての光吸収係数の逆数よりも小さいことが好ましい。
【0077】
図12に示した例はボトムのアノード120とトップのカソード170を図示しているが、倒置構造(ボトムにカソード170)ももちろん形成できる。
【0078】
エネルギーカスケードは7層を有するものとして実証したが、より多くの層を含めることができる。中間層1153の片側のカスケードの層の数は、中間層1153の他方の側の層の数と異なっていてもよい。
【0079】
物質の第一の組1152の層は正孔を伝導することが好ましく、物質の第二の組1154の層は電子を伝導することが好ましいので、各層のために選択される物質は、直列抵抗を最小化するために、各電荷担体に対する好ましい伝導特性(例えば、高い担体伝導度、高い担体移動度)を有することが好ましい。しかし、これらの層はかなり薄いので、物質の第一の組1152に相対的に劣る正孔キャリアを含み、第二の組1154に相対的に劣る電子キャリアを含む作動可能なデバイスを構成することができる。
【0080】
本発明は、上記の構造を作製する方法としてさらに特徴づけることができる。制御可能に数単分子層(a few monolayers)の厚さを作ることができる、層を作るための任意の方法を、上記の有機光伝導層を形成するために使用でき、かつ、様々な方法を様々な層を形成するために使用できる。薄い有機層の厚さを正確に制御するために使用できる堆積法の例には、真空熱蒸着(vacuum thermal deposition, VTE)、有機分子ビーム蒸着(organic molecular beam deposition, OMBD)、有機気相ジェット蒸着(organic vapor jet depostion, OVJD)、及び有機気相蒸着(organic vapor phase deposition, OVPD)が含まれる。分子自己会合、静電膜成長、及びDNAガイド式会合法も使用できる。
【0081】
上記構造を形成するための方法の一態様には、第一の電極、例えば基板上の電極、を準備することが含まれる。その後、一連の少なくとも7層が前記の第一の電極上に堆積され、各層は、様々な有機半導体物質のみから実質的になる。この配列の少なくとも中間層の有機半導体物質は、上で説明したように光伝導性物質である。その後、第二の電極を、少なくとも7層の配列の上に堆積させる。第一の電極及び第二の電極のうちの一つはアノードであり、他方はカソードである。一連の少なくとも7層の有機半導体物質は、アノードからカソードへと横切って、LUMOが低下する配列及びHOMOが低下する配列をもたらすように構成される。
【0082】
HOMO(複数)とLUMO(複数)のステップ(複数)は、上記の模擬された内蔵電場を作り出し、より大きく且つより多くのステップ(複数)は、より大きな電場を作り、これは好ましい。しかし、各ステップはまた、開路電圧(VOC)を増大させ、これは好ましくない。一連の少なくとも7層のうちアノードに最も近い層の有機半導体物質のHOMOと、一連の少なくとも7層のうちカソードに最も近い層の有機半導体物質のLUMOとの間のエネルギー差が制限されて、そのエネルギー差(これはVOCに相当する)が0.5eV〜3.0eVとなることが好ましい。このエネルギー差は、少なくとも1eVであることがさらに好ましい。このエネルギー差は、入手可能な有機半導体物質、あるいは入手可能となる有機半導体物質を用いて、可能な限り高くできる。実用的には、この差(すなわち、VOC)は、入手可能な物質を用いて3eVを超えないことが予想されるが、より大きな差も可能である。
【0083】
[実施例]
本明細書に記載したデバイスを構成することの実用性を実証するため、図13には様々な有機半導体物質について、そのHOMO及びLUMOを示している。この図は横向きの方向であり、左側が真空準位(0ev)である。列挙した物質の完全な名称は以下の通りである。
PTCDA: 3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物
TAZ: 3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール
BCP: 2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン
C60: C60
C70: C70
PTCBI: 3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸ビスベンゾイミダゾール
SC5: 1,3,5-トリス-フェニル-2-(4-ビフェニル)ベンゼン
OPCOT: オクタフェニル-シクロオクタテトラエン
CBP: 4,4’-N,N-ジカルバゾール-ビフェニル
Alq3: 8-トリス-ヒドロキシキノリンアルミニウム
FPtl: 下記の白金(II)(2-4,6-ジフルオロフェニル)ピリジナト-N,C2’)β-ジケトネート
【化1】
FIrpic: ビス(2-(4,6-ジフルオロフェニル)ピリジル-N,C2’)イリジウム(III)ピコリネート
α-NPD: 4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニル-アミノ]ビフェニル
(ppy)2Ir(acac): ビス(2-フェニルピリジン)イリジウム(III)アセチルアセトネート
HMTPD: 4,4’-ビス[N,N’-(3-トリル)アミノ]-3,3’-ジメチルビフェニル
NPD: N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(1-ナフチル)-ベンジジン
Tetracene: テトラセン
ZnPc: 亜鉛フタロシアニン
NiPc: ニッケルフタロシアニン
CuPc: 銅フタロシアニン
ppz2Ir(dpm): イリジウム(III)ビス(1-フェニルピラゾラト,N,C2’)(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオネート-O,O’)
SnPc: スズフタロシアニン
m-MTDATA: 4,4’,4’’-トリス(3-メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン
fac-Ir(ppz)3: fac-トリス(1-フェニルピラゾラト,N,C2’)イリジウム(III)
PbPc: 鉛フタロシアニン
Pentacene: ペンタセン
Ru(acac)3: トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム(III)
fac-Ir(acac)3: fac-トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(III)
fac-Ir(mpp)3: fac-トリス(3-メチル-2-フェニルピリジン)イリジウム(III)
【0084】
本発明はこれらの物質に限定されず、多くの追加の物質のデータは有機半導体の文献から容易に得られる。加えて、物質のバンドギャップ、いくつかの分子のHOMO及びLUMOは、置換基を変更することによって調整できる。
【0085】
当技術分野で公知のとおり、HOMO及びLUMOの測定の誤差は大きなものになりうる。例えば、電流光電子スペクトル及び電気化学測定では、特に異なる研究室からの試験を比較した場合、HOMOの変動は±0.1eVほどの大きさになり、LUMOの変動は0.2〜0.5eVほどの大きさになりうる。正確性を試験することは絶えず改善されている。その一方で、上述したデバイスのための候補物質を文献から選択し、次にその候補物質の各LUMOとHOMOを同じ装置において同じ条件下で測定して実験誤差を最小にすることが推奨される。
【0086】
上の記載中のkTの使用に関し、kはボルツマン定数であり、Tは駆動温度である。有機感光性デバイスの駆動温度は、約300°Kの公称駆動温度をもち、T=−40℃〜+100℃の駆動温度を有するように通常は特定される。この公称駆動温度を用いると、1kTは約0.026eV(すなわち、1.381E−23(J/K)/1.602E−19(J/eV)x300°K)、及び3kTは約0.078eVである。
【0087】
上述したとおり、本発明の有機感光性デバイスは、入射電磁波から電力を生成するために使用でき(例えば、光起電力デバイス)、あるいは入射電磁波を検出するために使用できる(例えば、光検出器または光伝導性セル)。本明細書に記載した構造はまた、有機感光性セル以外のデバイスにも応用できる。例えば、この構造は、有機発光ダイオード及び有機トランジスタにも有用性を有する。
【符号の説明】
【0088】
100・・・有機感光性光電子デバイス
110・・・基材
120・・・アノード
122・・・アノード平滑化層
150・・・光活性領域
150’ ・・・光活性領域
152・・・ドナー
154・・・アクセプター
156・・・励起子阻止層
156’ ・・・励起子阻止層
170・・・カソード
300・・・有機感光性光電子デバイス
320・・・透明接点
350・・・光活性領域
358・・・有機光伝導性物質
370・・・ショットキー接点
400・・・デバイス
460・・・介在する伝導領域
461・・・再結合センター
500・・・デバイス
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードとカソード(前記アノードとカソードのうち少なくとも一つは透明である);及び
前記アノードと前記カソードとの間の複数の有機半導体層(前記複数の有機半導体層の各2つの隣接する層は直接接触している)
を含む有機光起電力セルであって、
前記複数の有機半導体層が、
最低空軌道(LUMO)と最高被占軌道(HOMO)とを有する光伝導性物質のみから本質的になる中間層;
前記中間層と前記アノードとの間の少なくとも3層の第一の組(前記第一の組の各層は、前記カソードにより近い複数の有機半導体層のうちの隣接する層の物質と比べて、より高いLUMO及びより高いHOMOを有する異なる半導体物質のみから本質的になる);及び
前記中間層と前記カソードとの間の少なくとも3層の第二の組(前記第二の組の各層は、前記アノードにより近い複数の有機半導体層のうちの隣接する層の物質と比べて、より低いLUMO及びより低いHOMOを有する異なる半導体物質のみから本質的になる)
を含む、有機光起電力セル。
【請求項2】
前記第一の組のうち前記アノードに最も近い層のHOMOと、前記第二の組のうち前記カソードに最も近い層のLUMOとの間のエネルギー差が0.5eV〜3.0eVである、請求項1に記載の有機光起電力セル。
【請求項3】
前記第一の組のうち前記アノードに最も近い層のHOMOと、前記第二の組のうち前記カソードに最も近い層のLUMOとの間のエネルギー差が少なくとも1eVである、請求項2に記載の有機光起電力セル。
【請求項4】
少なくとも3層の前記第一の組の各層の有機半導体物質が、前記カソードにより近い複数の有機半導体層のうちの隣接する層の物質に対して少なくとも0.026eV高いHOMO及びLUMOを有し、且つ、少なくとも3層の前記第二の組の各層の有機半導体物質が、前記アノードにより近い複数の有機半導体層のうちの隣接する層の物質に対して少なくとも0.026eV低いHOMO及びLUMOを有する、請求項2に記載の有機光起電力セル。
【請求項5】
少なくとも3層の前記第一の組と前記中間層とからなる隣接層の間のHOMOの差(複数)と、少なくとも3層の前記第二の組と前記中間層とからなる隣接層の間のLUMOの差(複数)とを合わせた合計が、0.15eV〜1.0eVである、請求項1に記載の有機光起電力セル。
【請求項6】
少なくとも3層の前記第一の組と前記中間層とからなる隣接層の間のHOMOの差(複数)と、少なくとも3層の前記第二の組と前記中間層とからなる隣接層の間のLUMOの差(複数)とを合わせた合計を、前記第一の組と前記第二の組の中の層の数の合計で割ったものが、少なくとも0.026eVである、請求項1に記載の有機光起電力セル。
【請求項7】
少なくとも3層の前記第一の組と前記中間層とからなる隣接層の間のHOMOの差(複数)の合計を前記第一の組の層の数で割ったものが少なくとも0.026eVであり、且つ少なくとも3層の前記第二の組と前記中間層とからなる隣接層のLUMOの差(複数)の合計を前記第二の組の層の数で割ったものが少なくとも0.026eVである、請求項1に記載の有機光起電力セル。
【請求項8】
前記第一の組及び前記第二の組の有機半導体物質が光伝導性物質である、請求項1に記載の有機光起電力セル。
【請求項9】
前記中間層に隣接する3層の前記第一の組の一つの層と、前記中間層に隣接する3層の第二の組の一つの層は、それぞれがその各々の有機半導体物質の3つの単分子層の厚さ以下である、請求項1に記載の有機光起電力セル。
【請求項10】
前記第一の組と前記第二の組の各層が、その各々の有機半導体物質の3つの単分子層の厚さ以下である、請求項9に記載の有機光起電力セル。
【請求項11】
少なくとも3層の前記第一の組の層の厚さが前記アノードに向かって次第に増大し、且つ少なくとも3層の前記第二の組の層の厚さが前記カソードにむかって次第に増大する、請求項9に記載の有機光起電力セル。
【請求項12】
少なくとも3層の前記第一の組のうち前記アノードに最も近い層と、少なくとも3層の前記第二の組のうち前記カソードに最も近い層が、10単分子層の厚さ以下である、請求項11に記載の有機光起電力セル。
【請求項13】
少なくとも3層の前記第一の組の物質のバンドギャップが、前記アノードに向かって次第に増大する、請求項1に記載の有機光起電力セル。
【請求項14】
前記アノードが反射性である、請求項13に記載の有機光起電力セル。
【請求項15】
少なくとも3層の前記第二の組の最大の物質バンドギャップが、前記第一の組の物質の最も小さな物質バンドギャップよりも小さい、請求項14に記載の有機光起電力セル。
【請求項16】
少なくとも3層の前記第二の組の物質バンドギャップが前記カソードに向かって次第に増大する、請求項1に記載の有機光起電力セル。
【請求項17】
前記カソードが反射性である、請求項16に記載の光起電力セル。
【請求項18】
少なくとも3層の前記第一の組の最大の物質バンドギャップが、前記第二の組の物質の最小の物質バンドギャップよりも小さい、請求項17に記載の光起電力セル。
【請求項19】
前記中間層の前記光伝導性物質が、励起状態においてエキシマーを形成する分子のみから実質的になり、前記光伝導性物質のHOMO及びLUMOは前記エキシマーのものであり、
前記中間層に隣接する少なくとも3層の前記第一の組のうちのある層のLUMO及びHOMOが前記エキシマーと比較してより高く、且つ前記中間層に隣接する少なくとも3層の第二の組のうちのある層のLUMO及びHOMOが前記エキシマーと比較してより低い、請求項1に記載の有機光起電力セル。
【請求項20】
前記中間層の前記光伝導性物質が、励起状態においてエキシプレックスを形成する2種の異なる種類の分子のみから実質的になり、前記光伝導性物質のHOMO及びLUMOは前記エキシプレックスのものであり、
前記中間層に隣接する少なくとも3層の前記第一の組のうちのある層のLUMO及びHOMOが前記エキシプレックスと比較してより高く、且つ前記中間層に隣接する少なくとも3層の第二の組のうちのある層のLUMO及びHOMOが前記エキシプレックスと比較してより低い、請求項1に記載の有機光起電力セル。
【請求項21】
第一の電極を準備するステップ;
前記第一の電極の上に一連の少なくとも7層を堆積させるステップであって、各層が異なる有機半導体物質のみから本質的になり、その配列のうち少なくとも中間層の有機半導体物質が光伝導性物質であるステップ;及び、
少なくとも7層の前記配列の上に第二の電極を堆積させるステップ、
を含み、
前記第一の電極及び前記第二の電極のうち一つがアノードであり、他方はカソードであり、且つ
少なくとも7層の一連の前記有機半導体物質が、アノードからカソードへと、その配列を横切って最低空軌道(LUMO)(複数)が低下する配列及び最高被占軌道(HOMO)(複数)が低下する配列をもたらすように配置されている、方法。
【請求項22】
前記の一連の少なくとも7層のうち前記アノードに最も近い層の有機半導体物質のHOMOと、前記の一連の少なくとも7層のうち前記カソードに最も近い層の有機半導体物質のLUMOとの間のエネルギー差が0.5eV〜3.0eVである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記の一連の少なくとも7層のうち前記アノードに最も近い層の有機半導体物質のHOMOと、前記の一連の少なくとも7層のうち前記カソードに最も近い層の有機半導体物質のLUMOとの間のエネルギー差が少なくとも1eVである、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
アノードとカソードの間に一連の様々な有機半導体物質の層を備え、前記一連の層を前記アノードと前記カソードの間に熱平衡において内蔵電場を模擬するように配置するステップ;
前記一連の層の中間層内での光吸収によって励起子を生成するステップ;
前記中間層内で生じた前記励起子を空間的に分離し、前記の模擬された内蔵電場が、前記中間層からの前記励起子の束縛電子を前記カソードに向かって前記一連の層の1つ以上の中へと誘引し、一方で前記中間層内からの前記励起子の束縛正孔を前記アノードに向かって複数の前記有機半導体層の1つ以上の中へと誘引するステップ;及び
前記の空間的に分離した励起子からの光電流を、前記アノードから前記カソードへと電気的に接続された負荷に流すステップ、
を含む方法。
【請求項25】
前記アノードと前記カソードとを横切る開路電圧が0.5V〜3.0Vである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記アノードと前記カソードとを横切る開路電圧が少なくとも1.0Vである、請求項25に記載の方法。
【請求項1】
アノードとカソード(前記アノードとカソードのうち少なくとも一つは透明である);及び
前記アノードと前記カソードとの間の複数の有機半導体層(前記複数の有機半導体層の各2つの隣接する層は直接接触している)
を含む有機光起電力セルであって、
前記複数の有機半導体層が、
最低空軌道(LUMO)と最高被占軌道(HOMO)とを有する光伝導性物質のみから本質的になる中間層;
前記中間層と前記アノードとの間の少なくとも3層の第一の組(前記第一の組の各層は、前記カソードにより近い複数の有機半導体層のうちの隣接する層の物質と比べて、より高いLUMO及びより高いHOMOを有する異なる半導体物質のみから本質的になる);及び
前記中間層と前記カソードとの間の少なくとも3層の第二の組(前記第二の組の各層は、前記アノードにより近い複数の有機半導体層のうちの隣接する層の物質と比べて、より低いLUMO及びより低いHOMOを有する異なる半導体物質のみから本質的になる)
を含む、有機光起電力セル。
【請求項2】
前記第一の組のうち前記アノードに最も近い層のHOMOと、前記第二の組のうち前記カソードに最も近い層のLUMOとの間のエネルギー差が0.5eV〜3.0eVである、請求項1に記載の有機光起電力セル。
【請求項3】
前記第一の組のうち前記アノードに最も近い層のHOMOと、前記第二の組のうち前記カソードに最も近い層のLUMOとの間のエネルギー差が少なくとも1eVである、請求項2に記載の有機光起電力セル。
【請求項4】
少なくとも3層の前記第一の組の各層の有機半導体物質が、前記カソードにより近い複数の有機半導体層のうちの隣接する層の物質に対して少なくとも0.026eV高いHOMO及びLUMOを有し、且つ、少なくとも3層の前記第二の組の各層の有機半導体物質が、前記アノードにより近い複数の有機半導体層のうちの隣接する層の物質に対して少なくとも0.026eV低いHOMO及びLUMOを有する、請求項2に記載の有機光起電力セル。
【請求項5】
少なくとも3層の前記第一の組と前記中間層とからなる隣接層の間のHOMOの差(複数)と、少なくとも3層の前記第二の組と前記中間層とからなる隣接層の間のLUMOの差(複数)とを合わせた合計が、0.15eV〜1.0eVである、請求項1に記載の有機光起電力セル。
【請求項6】
少なくとも3層の前記第一の組と前記中間層とからなる隣接層の間のHOMOの差(複数)と、少なくとも3層の前記第二の組と前記中間層とからなる隣接層の間のLUMOの差(複数)とを合わせた合計を、前記第一の組と前記第二の組の中の層の数の合計で割ったものが、少なくとも0.026eVである、請求項1に記載の有機光起電力セル。
【請求項7】
少なくとも3層の前記第一の組と前記中間層とからなる隣接層の間のHOMOの差(複数)の合計を前記第一の組の層の数で割ったものが少なくとも0.026eVであり、且つ少なくとも3層の前記第二の組と前記中間層とからなる隣接層のLUMOの差(複数)の合計を前記第二の組の層の数で割ったものが少なくとも0.026eVである、請求項1に記載の有機光起電力セル。
【請求項8】
前記第一の組及び前記第二の組の有機半導体物質が光伝導性物質である、請求項1に記載の有機光起電力セル。
【請求項9】
前記中間層に隣接する3層の前記第一の組の一つの層と、前記中間層に隣接する3層の第二の組の一つの層は、それぞれがその各々の有機半導体物質の3つの単分子層の厚さ以下である、請求項1に記載の有機光起電力セル。
【請求項10】
前記第一の組と前記第二の組の各層が、その各々の有機半導体物質の3つの単分子層の厚さ以下である、請求項9に記載の有機光起電力セル。
【請求項11】
少なくとも3層の前記第一の組の層の厚さが前記アノードに向かって次第に増大し、且つ少なくとも3層の前記第二の組の層の厚さが前記カソードにむかって次第に増大する、請求項9に記載の有機光起電力セル。
【請求項12】
少なくとも3層の前記第一の組のうち前記アノードに最も近い層と、少なくとも3層の前記第二の組のうち前記カソードに最も近い層が、10単分子層の厚さ以下である、請求項11に記載の有機光起電力セル。
【請求項13】
少なくとも3層の前記第一の組の物質のバンドギャップが、前記アノードに向かって次第に増大する、請求項1に記載の有機光起電力セル。
【請求項14】
前記アノードが反射性である、請求項13に記載の有機光起電力セル。
【請求項15】
少なくとも3層の前記第二の組の最大の物質バンドギャップが、前記第一の組の物質の最も小さな物質バンドギャップよりも小さい、請求項14に記載の有機光起電力セル。
【請求項16】
少なくとも3層の前記第二の組の物質バンドギャップが前記カソードに向かって次第に増大する、請求項1に記載の有機光起電力セル。
【請求項17】
前記カソードが反射性である、請求項16に記載の光起電力セル。
【請求項18】
少なくとも3層の前記第一の組の最大の物質バンドギャップが、前記第二の組の物質の最小の物質バンドギャップよりも小さい、請求項17に記載の光起電力セル。
【請求項19】
前記中間層の前記光伝導性物質が、励起状態においてエキシマーを形成する分子のみから実質的になり、前記光伝導性物質のHOMO及びLUMOは前記エキシマーのものであり、
前記中間層に隣接する少なくとも3層の前記第一の組のうちのある層のLUMO及びHOMOが前記エキシマーと比較してより高く、且つ前記中間層に隣接する少なくとも3層の第二の組のうちのある層のLUMO及びHOMOが前記エキシマーと比較してより低い、請求項1に記載の有機光起電力セル。
【請求項20】
前記中間層の前記光伝導性物質が、励起状態においてエキシプレックスを形成する2種の異なる種類の分子のみから実質的になり、前記光伝導性物質のHOMO及びLUMOは前記エキシプレックスのものであり、
前記中間層に隣接する少なくとも3層の前記第一の組のうちのある層のLUMO及びHOMOが前記エキシプレックスと比較してより高く、且つ前記中間層に隣接する少なくとも3層の第二の組のうちのある層のLUMO及びHOMOが前記エキシプレックスと比較してより低い、請求項1に記載の有機光起電力セル。
【請求項21】
第一の電極を準備するステップ;
前記第一の電極の上に一連の少なくとも7層を堆積させるステップであって、各層が異なる有機半導体物質のみから本質的になり、その配列のうち少なくとも中間層の有機半導体物質が光伝導性物質であるステップ;及び、
少なくとも7層の前記配列の上に第二の電極を堆積させるステップ、
を含み、
前記第一の電極及び前記第二の電極のうち一つがアノードであり、他方はカソードであり、且つ
少なくとも7層の一連の前記有機半導体物質が、アノードからカソードへと、その配列を横切って最低空軌道(LUMO)(複数)が低下する配列及び最高被占軌道(HOMO)(複数)が低下する配列をもたらすように配置されている、方法。
【請求項22】
前記の一連の少なくとも7層のうち前記アノードに最も近い層の有機半導体物質のHOMOと、前記の一連の少なくとも7層のうち前記カソードに最も近い層の有機半導体物質のLUMOとの間のエネルギー差が0.5eV〜3.0eVである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記の一連の少なくとも7層のうち前記アノードに最も近い層の有機半導体物質のHOMOと、前記の一連の少なくとも7層のうち前記カソードに最も近い層の有機半導体物質のLUMOとの間のエネルギー差が少なくとも1eVである、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
アノードとカソードの間に一連の様々な有機半導体物質の層を備え、前記一連の層を前記アノードと前記カソードの間に熱平衡において内蔵電場を模擬するように配置するステップ;
前記一連の層の中間層内での光吸収によって励起子を生成するステップ;
前記中間層内で生じた前記励起子を空間的に分離し、前記の模擬された内蔵電場が、前記中間層からの前記励起子の束縛電子を前記カソードに向かって前記一連の層の1つ以上の中へと誘引し、一方で前記中間層内からの前記励起子の束縛正孔を前記アノードに向かって複数の前記有機半導体層の1つ以上の中へと誘引するステップ;及び
前記の空間的に分離した励起子からの光電流を、前記アノードから前記カソードへと電気的に接続された負荷に流すステップ、
を含む方法。
【請求項25】
前記アノードと前記カソードとを横切る開路電圧が0.5V〜3.0Vである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記アノードと前記カソードとを横切る開路電圧が少なくとも1.0Vである、請求項25に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2010−503978(P2010−503978A)
【公表日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−519542(P2009−519542)
【出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【国際出願番号】PCT/US2007/015967
【国際公開番号】WO2008/008477
【国際公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(591003552)ザ、トラスティーズ オブ プリンストン ユニバーシティ (68)
【出願人】(500047572)ザ、リージェンツ、オブ、ザ、ユニバーシティ、オブ、ミシガン (12)
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF MICHIGAN
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【国際出願番号】PCT/US2007/015967
【国際公開番号】WO2008/008477
【国際公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(591003552)ザ、トラスティーズ オブ プリンストン ユニバーシティ (68)
【出願人】(500047572)ザ、リージェンツ、オブ、ザ、ユニバーシティ、オブ、ミシガン (12)
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF MICHIGAN
【Fターム(参考)】
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