説明

高周波コイル装置

【課題】ループコイルに近接して前置増幅回路を配置することによってループコイルと前置増幅回路との間での磁気共鳴信号の伝送損失を低減しながらも、前置増幅回路が近接することによるループコイルの感度低下を抑えることによって磁気共鳴信号の受信を高品質に行うことを可能とする。
【解決手段】1箇所で第1の方向にループ面の一部が重なり合うように配置された高周波ループコイル21a,22aのループ面が重なり合う位置で高周波ループコイル21a,22aのループ面に対して第1の方向に重なり合うように、ループコイル21a,22aのそれぞれにより受信された磁気共鳴信号をそれぞれ増幅する前置増幅器28a,29aを含んだ電気回路部25aを配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体で生じた磁気共鳴信号を受信する高周波コイル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴診断装置では、微弱な磁気共鳴信号を感度良く受信するために、複数のループコイルを搭載したアレイコイルを被検体の関心領域に近接して配置することが行われている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
複数のループコイルを並べてある場合、ループコイル間での相互誘導が生じる。この相互誘導は、前置増幅回路などの電気回路部にも影響する。この影響を低減するために従来は、前置増幅回路等の電気回路部をループコイルから十分に離して配置していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−261081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながらループコイルと前置増幅回路とが離れていると、その間の伝送線路も長くなるため、ループコイルにて受信された磁気共鳴信号が前置増幅回路に入力されるまでに大きく減衰してしまい、信号対ノイズ(S/N)特性が悪化してしまうおそれがあった。
【0006】
本発明はこのような事情を考慮してなされたものであり、その目的とするところは、ループコイルに近接して前置増幅回路を配置することによってループコイルと前置増幅回路との間での磁気共鳴信号の伝送損失を低減しながらも、前置増幅回路が近接することによるループコイルの感度低下を抑えることによって磁気共鳴信号の受信を高品質に行うことを可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様による高周波コイル装置は、被検体で生じた磁気共鳴信号を受信するために磁気共鳴診断装置にて使用される高周波コイル装置において、所定方向にループ面の一部が重なり合うように配置された複数の高周波ループコイルと、前記複数の高周波ループコイルのループ面が重なり合う位置で前記複数の高周波ループコイルのループ面に対して前記所定方向に重なり合うとともに、前記複数の高周波コイルのそれぞれのループ軸を避けて配置され、前記複数のループコイルのそれぞれにより受信された前記磁気共鳴信号を処理するための第1の電気回路を設けた第1の電気回路部とを備える。
【0008】
本発明の第2の態様による高周波コイル装置は、被検体で生じた磁気共鳴信号を受信するために磁気共鳴診断装置にて使用される高周波コイル装置において、その一部が重なり合うように配置された複数の高周波ループコイルと、前記複数の高周波ループコイルの重なり合うとともに、前記複数の高周波コイルのそれぞれのループ軸を避けて配置され、前記磁気共鳴信号を処理するための電気回路を設けた電気回路部とを備える。
【0009】
本発明の第3の態様による高周波コイル装置は、被検体で生じた磁気共鳴信号を受信するために磁気共鳴診断装置にて使用される高周波コイル装置において、その一部が重なり合うように配置された複数の高周波ループコイルと、前記複数の高周波ループコイルのうち少なくとも4つの高周波ループコイルが重なり合うとともに、前記複数の高周波コイルのそれぞれのループ軸を避けて配置され、これら少なくとも4つの高周波ループコイルにより受信された磁気共鳴信号をそれぞれ増幅するための複数の前置増幅器を設けた電気回路部とを備える。
【0010】
本発明の第4の態様による高周波コイル装置は、被検体で生じた磁気共鳴信号を受信するために磁気共鳴診断装置にて使用される高周波コイル装置において、その一部が重なり合うように配置された複数の高周波ループコイルと、前記複数の高周波ループコイルのうちの少なくとも2つが重なり合って形成された複数の重なり部分のうちの複数の第1の重なり部分またはその近傍に配置されて前記磁気共鳴信号を増幅するための複数の前置増幅器と、前記複数の重なり部分のうちの前記第1の重なり部分とは異なる第2の重なり部分またはその近傍に配置されて前記複数の前置増幅器でそれぞれ増幅された複数の磁気共鳴信号を合成するための合成回路とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る磁気共鳴診断装置100の構成を示す図。
【図2】図1中のRFコイルユニット6cとして使用され得る高周波コイル装置300の構成を示す図。
【図3】図2中にて電気回路部25aが重ねられている部分のループコイルの構造を示す図。
【図4】クッション材41により覆われた状態の高周波コイル装置300の外観を示す斜視図。
【図5】図4中のA−A矢視断面図。
【図6】図4中のB−B矢視断面図。
【図7】図4に示す高周波コイル装置300を図4に表されるのとは反対側から見た外観を示す斜視図。
【図8】本発明の一実施形態の高周波コイル装置300を2つ組み合わせて使用する使用状況を示す斜視図。
【図9】図8中の矢印Cで示す方向から見た様子を示す図。
【図10】2つの高周波コイル装置300を図8に示すように組み合わせた状態における両高周波コイル装置300のオーバーラップ部分の平面図。
【図11】2つの高周波コイル装置300を図8に示すように組み合わせた状態における両高周波コイル装置300のオーバーラップ部分のループコイルの様子を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。
【0013】
図1は本実施形態に係る磁気共鳴診断装置100の構成を示す図である。磁気共鳴診断装置100は、静磁場磁石1、傾斜磁場コイル2、傾斜磁場電源3、寝台4、寝台制御部5、RFコイルユニット6a,6b,6c、送信部7、選択回路8、受信部9および計算機システム10を具備する。
【0014】
静磁場磁石1は、中空の円筒形をなし、内部の空間に一様な静磁場を発生する。この静磁場磁石1としては、例えば永久磁石、超伝導磁石等が使用される。
【0015】
傾斜磁場コイル2は、中空の円筒形をなし、静磁場磁石1の内側に配置される。傾斜磁場コイル2は、互いに直交するX,Y,Zの各軸に対応する3種のコイルが組み合わされている。傾斜磁場コイル2は、上記の3種のコイルが傾斜磁場電源3から個別に電流供給を受けて、磁場強度がX,Y,Zの各軸に沿って傾斜する傾斜磁場を発生する。なお、Z軸方向は、例えば静磁場方向と同方向とする。X,Y,Z各軸の傾斜磁場は、例えば、スライス選択用傾斜磁場Gs、位相エンコード用傾斜磁場Geおよびリードアウト用傾斜磁場Grにそれぞれ対応される。スライス選択用傾斜磁場Gsは、任意に撮影断面を決めるために利用される。位相エンコード用傾斜磁場Geは、空間的位置に応じて磁気共鳴信号の位相を変化させるために利用される。リードアウト用傾斜磁場Grは、空間的位置に応じて磁気共鳴信号の周波数を変化させるために利用される。
【0016】
被検体200は、寝台4の天板4aに載置された状態で傾斜磁場コイル2の空洞(撮影空間)内に挿入される。寝台4は、寝台制御部5により駆動され、天板4aをその長手方向(図1中における左右方向)および上下方向に移動させる。通常、この長手方向が静磁場磁石1の中心軸と平行になるように寝台4が設置される。
【0017】
RFコイルユニット6aは、1つまたは複数のコイルを円筒状のケースに収容して構成される。RFコイルユニット6aは、傾斜磁場コイル2の内側に配置される。RFコイルユニット6aは、送信部7から高周波パルス(RFパルス)の供給を受けて、高周波磁場を発生する。
【0018】
RFコイルユニット6b,6cは、天板4a上に載置されたり、天板4aに内蔵されたり、あるいは被検体200に装着される。そして撮影時には、被検体200とともに撮影空間内に挿入される。RFコイルユニット6b,6cとしては、アレイコイルが利用される。すなわちRFコイルユニット6b,6cは、それぞれ複数の要素コイルを備える。RFコイルユニット6b,6cに備えられた要素コイルはそれぞれ、被検体200から放射される磁気共鳴信号を受信する。要素コイルのそれぞれの出力信号は、個別に選択回路8に入力される。受信用のRFコイルユニットは、RFコイルユニット6b,6cに限らず、様々なタイプのものが任意に装着可能である。また受信用のRFコイルユニットは、1つまたは3つ以上が装着されても良い。
【0019】
送信部7は、ラーモア周波数に対応するRFパルスをRFコイルユニット6aに供給する。
【0020】
選択回路8は、RFコイルユニット6b,6cから出力される多数の磁気共鳴信号のうちのいくつかを選択する。そして選択回路8は、選択した磁気共鳴信号を受信部9へ与える。どのチャネルを選択するかは、計算機システム10から指示される。
【0021】
受信部9は、前段増幅器、位相検波器およびアナログディジタル変換器を有する処理系を複数チャネル備えている。これら複数チャネルの処理系へは、選択回路8が選択する磁気共鳴信号がそれぞれ入力される。前段増幅器は、磁気共鳴信号を増幅する。位相検波器は、前置増幅器から出力される磁気共鳴信号の位相を検波する。アナログディジタル変換器は、位相検波器から出力される信号をディジタル信号に変換する。受信部9は、各処理系により得られるディジタル信号をそれぞれ出力する。
【0022】
計算機システム10は、インタフェース部11、データ収集部12、再構成部13、記憶部14、表示部15、入力部16および主制御部17を有している。
【0023】
インタフェース部11には、傾斜磁場電源3、寝台制御部5、送信部7、受信部9および選択回路8等が接続される。インタフェース部11は、これらの接続された各部と計算機システム10との間で授受される信号の入出力を行う。
【0024】
データ収集部12は、受信部9から出力されるディジタル信号を収集する。データ収集部12は、収集したディジタル信号、すなわち磁気共鳴信号データを、記憶部14に格納する。
【0025】
再構成部13は、記憶部14に記憶された磁気共鳴信号データに対して、後処理、すなわちフーリエ変換等の再構成を実行し、被検体200内の所望核スピンのスペクトラムデータあるいは画像データを求める。
【0026】
記憶部14は、磁気共鳴信号データと、スペクトラムデータあるいは画像データとを、患者毎に記憶する。
【0027】
表示部15は、スペクトラムデータあるいは画像データ等の各種の情報を主制御部17の制御の下に表示する。表示部15としては、液晶表示器などの表示デバイスを利用可能である。
【0028】
入力部16は、オペレータからの各種指令や情報入力を受け付ける。入力部16としては、マウスやトラックボールなどのポインティングデバイス、モード切替スイッチ等の選択デバイス、あるいはキーボード等の入力デバイスを適宜に利用可能である。
【0029】
主制御部17は、CPUやメモリ等を有しており、磁気共鳴診断装置100を総括的に制御する。
【0030】
図2はRFコイルユニット6cとして使用され得る高周波コイル装置300の構成を示す図である。
【0031】
高周波コイル装置300は、ループコイル21a〜21d,22a〜22d,23a〜23d,24a〜24d、電気回路部25a〜25d,26および信号線27a〜27dを含む。ループコイル21a〜21d,22a〜22d,23a〜23d,24a〜24dは、ループ面を同一方向(以下、第1の方向と称する)に向けて、かつ隣接するものどうしの一部が第1の方向にオーバーラップするように配列されている。ループコイル21a〜21dのそれぞれ、ループコイル22a〜22dのそれぞれ、ループコイル23a〜23dのそれぞれ、あるいはループコイル24a〜24dのそれぞれは、第2の方向に沿って配列されている。ループコイル21a,22a,23a,24aのそれぞれ、ループコイル21b,22b,23b,24bのそれぞれ、ループコイル21c,22c,23c,24cのそれぞれ、あるいはループコイル21d,22d,23d,24dのそれぞれは、第2の方向に直交した第3の方向に沿って配列されている。ループコイル21a〜21d,22a〜22d,23a〜23d,24a〜24dは例えば、ガラス・エポキシ基板上に互いに絶縁された導電体のパタンとして形成される。
【0032】
なお、第2の方向および第3の方向はいずれも第1の方向に直交する。高周波コイル装置300がRFコイルユニット6cとして使用されるときには通常、第1、第2および第3の方向は、Y軸方向、Z軸方向およびX軸方向にそれぞれ合わせられる。
【0033】
第2の方向についての各ループコイルのループ面の幅は、いずも同一である。第3の方向についての各ループコイルのループ面の幅は、ループコイル21a〜21d,24a〜24dの幅が互いに等しく、ループコイル22a〜22d,23a〜23dの幅が等しい。ループコイル21a〜21d,24a〜24dの幅に対してループコイル22a〜22d,23a〜23dの幅はそれぞれ小さい。ただし、各ループコイルのループ面の幅は、それぞれ任意であって良い。
【0034】
隣接するループコイルどうしのオーバーラップ量は、隣接するループコイルどうしの相互誘導を中和できる量に定める。すなわち、2つのループコイルの電気的カップリングを抑えるため、互いに発生する高周波磁場のループ内での総和が0になるように適当な量に設定される。
【0035】
高周波コイル装置300がRFコイルユニット6cとして使用される場合には、各ループコイルのループ面が天板4aの上面に沿い、かつ第2の方向が天板4aの長手方向を向く状態でセットされる。かくして各ループコイルのループ面は、天板4a上に載置された被検体200を向く。また、被検体200はその体軸方向を天板4aの長手方向に向けた状態で天板4a上に載置されるため、第3の方向が被検体200の体軸方向に交差する。
【0036】
電気回路部25a〜25d,26は、ループコイルどうしがオーバーラップしている部分に対して第1の方向に重ねる状態で配置されている。例えば電気回路部25aは、ループコイル21aとループコイル22aとのオーバーラップ部分およびループコイル21bとループコイル22bとのオーバーラップ部分に重ねて配置されている。
【0037】
電気回路部25b〜25d,26も、対象となるループコイルはそれぞれ異なるが、電気回路部25aと同様な状態で配置されている。電気回路部25a〜25dは、それぞれ前置増幅器、チューニング回路、あるいはバランなどを4チャネル分ずつ備えている。電気回路部25a〜25dは、それぞれ重なっている4つのループコイルが出力する磁気共鳴信号をそれぞれ前置増幅する。電気回路部26は、信号線27a〜27dによって電気回路部25a〜25dがそれぞれ接続されている。図2においては、符号28a〜28d,29a〜29d,30a〜30d,31a〜31dが、それぞれ前置増幅器を示す。すなわち、電気回路部25aには前置増幅器28a,28b,29a,29bが、電気回路部25bには前置増幅器30a,30b,31a,31bが、電気回路部25cには前置増幅器28c,28d,29c,29dが、電気回路部25dには前置増幅器30c,30d,31c,31dがそれぞれ設けられている。前置増幅器28a〜28dはそれぞれループコイル21a〜21dに、前置増幅器29a〜29dはそれぞれループコイル22a〜22dに、前置増幅器30a〜30dはそれぞれループコイル23a〜23dに、前置増幅器31a〜31dはそれぞれループコイル24a〜24dに対応する。
【0038】
ループコイル21a〜21d,22a〜22d,23a〜23d,24a〜24dにはそれぞれ、電気回路部25a〜25dが重ねられている部分にギャップおよびトラップ回路が設けられている。
【0039】
図3は電気回路部25aが重ねられている部分のループコイルの構造を示す図である。
【0040】
トラップ回路32a,32b,33a,33bは、電気回路部25aが重ねられる位置にてループコイル21a,21b,22a,22bにそれぞれ取り付けられている。またループコイル21a,21b,22a,22bには、電気回路部25aが重ねられる位置にギャップ34a,34b,35a,35bが設けられている。このギャップ34a,34b,35a,35bを挟んだループコイル21a,21b,22a,22bの両端部に前置増幅器28a,28b,29a,29bが接続されている。
【0041】
なお、電気回路部25b〜25cが重ねられている部分も、図3と同様な構成となっている。
【0042】
このような構成により、前置増幅器28a〜28d,29a〜29d,30a〜30d,31a〜31dは、いずれも対応するループコイル21a〜21d,22a〜22d,23a〜23d,24a〜24dに近接して設けられている。このために、ループコイル21a〜21d,22a〜22d,23a〜23d,24a〜24dと前置増幅器28a〜28d,29a〜29d,30a〜30d,31a〜31dとをそれぞれ接続する信号線は短くすることが可能であり、磁気共鳴信号の伝送損失を小さく抑えることができる。しかも、電気回路部25a〜25dはループコイル21a〜21d,22a〜22d,23a〜23d,24a〜24dのそれぞれのループ軸を避けて配置されているため、電気回路部25a〜25dによる受信感度の低下も小さく抑えられる。
【0043】
電気回路部26は、電気回路部25a〜25dのそれぞれから4チャネルずつ、合計16チャネルの磁気共鳴信号を信号線27a〜27dを介して収集し、これらの磁気共鳴信号を合成する合成回路を備える。この合成回路は例えば、第3の方向に並んだ4つのループコイルを1セットとして、1セットの4つのループコイルに関する4チャネルの磁気共鳴信号をQD合成して1セット当たり4本の合成信号を生成する。これら4本の合成信号は、同相合成信号、反相合成信号、QD信号およびAntiQD信号である。同相合成信号は、1セットのうちの外側の2つのループコイルでそれぞれ受信された磁気共鳴信号を同相で合成して得られる。反相合成信号は、1セットのうちの内側の2つのループコイルでそれぞれ受信された磁気共鳴信号を反相で合成して得られる。QD信号は、1セットのうちの外側の2つのループコイルでそれぞれ受信された磁気共鳴信号を反相で合成して得られる信号と、1セットのうちの内側の2つのループコイルでそれぞれ受信された磁気共鳴信号を同相で合成して得られる信号とを同相で合成して得られる。AntiQD信号は、1セットのうちの外側の2つのループコイルでそれぞれ受信された磁気共鳴信号を反相で合成して得られる信号と、1セットのうちの内側の2つのループコイルでそれぞれ受信された磁気共鳴信号を同相で合成して得られる信号とを反相で合成して得られる。電気回路部26は、1セット当たり4本、すなわち合計で16本の合成信号を、図示しないケーブルを介して出力する。
【0044】
信号線27a〜27dは、いずれもループコイルどうしがオーバーラップしている部分に沿って配線されている。これにより、信号線とループコイルとの間での相互誘導も小さく抑えることができる。
【0045】
ところで高周波コイル装置300は、例えば発泡ポリエチレンからなるクッション材によって覆われている。
【0046】
図4はクッション材41により覆われた状態の高周波コイル装置300の外観を示す斜視図である。図5は図4中のA−A矢視断面図である。
【0047】
クッション材41は、ループコイルを支持しているガラス・エポキシ基板44を芯材として、その全周を覆うように形成されている。このためにクッション材41には、各ループコイル21a〜21d,22a〜22d,23a〜23d,24a〜24dのループ面をそれぞれ通る開口41a〜41rが形成されている。
【0048】
このような開口41a〜41rにより、ループコイル21a〜21d,22a〜22d,23a〜23d,24a〜24dにより発生した熱を、効率的に放出することができる。また、開口41a〜41rを設けていることによりクッション材41の量を減らすことができ、軽量化を図ることができる。さらには、高周波コイル装置300が被検体200に装着される場合には、開口41a〜41rを介した通気により被検体200の不快感が和らげられる。
【0049】
なお、第2の方向に並んだ開口の中では、第2の方向についての内側に位置する開口に比べて外側に位置する開口の方が開口面積が大きい。すなわち、開口41b,41cに比べて開口41a,41dが、開口41f,41gに比べて開口41e,41hが、開口41j,41mに比べて開口41i,41mが、開口41p,41qに比べて開口41n,41rが、それぞれ開口面積が大きい。
【0050】
これにより、ループコイル21a〜21d,22a〜22d,23a〜23d,24a〜24dにより発生した熱をさらに効率的に放出できるとともに、さらなる軽量化が図られる。
【0051】
クッション材41には、その表面を窪ませて凹部41s〜41xが形成されている。凹部41s〜41xは、ループコイル21aとループコイル21bとのオーバーラップ部分、ループコイル21bとループコイル21cとのオーバーラップ部分、ループコイル21cとループコイル21dとのオーバーラップ部分、ループコイル24aとループコイル24bとのオーバーラップ部分、ループコイル24bとループコイル24cとのオーバーラップ部分、あるいはループコイル24cとループコイル24dとのオーバーラップ部分のそれぞれの近傍に形成されている。
【0052】
当該オーバーラップ部分には、図5に示すようにガラス・エポキシ基板44が存在しているために開口を設けることは好ましくないが、凹部41s〜41xを形成することで軽量化を図っている。
【0053】
なお、凹部41s〜41xが設けられているのと反対側にも凹部を形成しても良い。
【0054】
クッション材41には、開口41hと開口41mとの間に凸部41αが形成されている。また開口41h,41mのそれぞれに対して第2の方向に並んだ状態にて、クッション材41の端部に突部41β,41γがそれぞれ形成されている。
【0055】
さて、クッション材41は電気回路部25a〜25d,26は覆っていない。代わりにカバー42a〜42d,43が、電気回路部25a〜25d,26を覆うようにそれぞれ取り付けられている。
【0056】
図6は図4中のB−B矢視断面図である。なお図6では、ループコイルの図示は省略している。
【0057】
カバー42dは、固定具51にねじ52a,52bを用いてねじ止めされている。固定具51は、ガラス・エポキシ基板44を挟み込んで保持する。固定具51の一部は、ガラス・エポキシ基板44に対して垂直な方向に起立して突部51a,51bを形成している。電気回路部25dの基板53は、突部51a,51bの先端面とカバー42dとの間に挟み込まれた状態で保持される。かくして突部51a,51bは、ガラス・エポキシ基板44に対して電気回路部25dを離間させるスペーサとして機能している。また突部51a,51bは中空となっていて、ねじ52a,52bの挿通部としても機能している。さらに突部51a,51bは、シールド板54をガラス・エポキシ基板44と電気回路部25dとの間に位置する状態で保持している。シールド板54は例えば銅板よりなり、ガラス・エポキシ基板44と電気回路部25dとの間を遮蔽している。
【0058】
なお、カバー42b〜42cについても、図6と同様な構成となっている。
【0059】
電気回路部25a〜25dは、ループコイルどうしのオーバーラップ部分に重ねられているために、ループコイルとの間の相互誘導は小さいものの発生する。しかしながらシールド板54を設けていることにより、このような相互誘導をも低減することができるため、さらにループコイルの感度を向上できる。
【0060】
カバー42b〜42cには図4に示すように、その表面を窪ませて凹部45a〜45dが形成されている。この凹部45a〜45dが形成されていることにより、軽量化されているとともに、電気回路部25a〜25dにより生じる熱をカバー42a〜42dの外部に効率的に放出できる。
【0061】
図7は図4に示す高周波コイル装置300を図4に表されるのとは反対側から見た外観を示す斜視図である。
【0062】
図7に示すようにクッション材41には、切欠部41yが形成されている。この切欠部41yは、ループコイル21a,22a,23a,24aのそれぞれの端部が、切欠部41yの上部に張り出す状態に形成されている。
【0063】
図8は本実施形態の高周波コイル装置300を2つ組み合わせて使用する使用状況を示す斜視図である。図9は図8中の矢印Cで示す方向から見た様子を示す図である。
【0064】
図8および図9に示すように、一方の高周波コイル装置300の端部を他方の高周波コイル装置300の切欠部41yに突き当てた状態とすることにより、一方の高周波コイル装置300に備えられたループコイル21d,22d,23d,24dの一部と、他方の高周波コイル装置300に備えられたループコイル21a,22a,23a,24aの一部とをそれぞれオーバーラップさせることができる。また、切欠部41yを設けていることにより、一方の高周波コイル装置300に備えられたループコイル21d,22d,23d,24dと、他方の高周波コイル装置300に備えられたループコイル21a,22a,23a,24aとの第1の方向についての離間距離を、切欠部41yを設けない場合に比べて小さくできる。
【0065】
図10は2つの高周波コイル装置300を図8に示すように組み合わせた状態における両高周波コイル装置300のオーバーラップ部分の平面図である。
【0066】
図10に示すように高周波コイル装置300を2つ組み合わせた状態では、一方の高周波コイル装置300のクッション材41に形成されている凸部41αが、他方の高周波コイル装置300のクッション材41の側端に形成された窪み41δに嵌る。また一方の高周波コイル装置300のクッション材41に形成された凸部41β,41γが、他方の高周波コイル装置300のクッション材41に形成された開口41e,41iにそれぞれ入り込む。凸部41β,41γは、このときに開口41eと開口41iとの間に位置する部材を図10に示すように挟み込むように位置が決められている。
【0067】
これにより、2つの高周波コイル装置300は、第2および第3の方向に関する相対的な位置が決定される。また、凸部41β,41γが開口41e,41iにそれぞれ係合することにより、2つの高周波コイル装置300が第2の方向へ容易に離脱してしまうことが防止される。
【0068】
図11は2つの高周波コイル装置300を図8に示すように組み合わせた状態における両高周波コイル装置300のオーバーラップ部分のループコイルの様子を示す平面図である。
【0069】
上述したような各種の係合により、一方の高周波コイル装置300の端部に備えられたループコイル21d,22d,23d,24dと、他方の高周波コイル装置300の端部に備えられたループコイル21a,22a,23a,23dとが、図11に示すようにそれぞれ第2の方向に沿って並ぶことになる。また、一方の高周波コイル装置300の端部に備えられたループコイル21d,22d,23d,24dと、他方の高周波コイル装置300の端部に備えられたループコイル21a,22a,23a,23dとのオーバーラップ量L1は、1つの高周波コイル装置300にて隣接しているループコイルどうしのオーバーラップ量L2とほぼ等しくなる。かくして、両高周波コイル装置300に設けられた合計32個のループコイルが、4×8で整列した状態を容易に形成できる。
【0070】
この実施形態は、次のような種々の変形実施が可能である。
【0071】
ループコイルの数は、2つ以上の任意数であって良い。またループコイルの配列も、ループコイルどうしがオーバーラップ部分が形成される状態であれば任意であって良い。
【0072】
電気回路部の数も、任意数であって良い。例えば、ループコイルが上記実施形態の通りの配置であっても、前置増幅器などを2チャネル分備えた8つの電気回路部を2つずつのループコイルにそれぞれ対応付けて設けるようにしても良い。この場合には、電気回路部は対応する2つのループコイルのオーバーラップ部分に重ねて配置すればよい。逆に、前置増幅器などを8チャネル分備えた2つの電気回路部を8つずつのループコイルにそれぞれ対応付けて設けるようにしても良い。この場合には、電気回路部は対応する8つのループコイルのうちのいずれか2つ以上がオーバーラップする部分に重ねて配置すればよい。
【0073】
上記した特徴的な構成の全てを備える必要は無い。
【0074】
上記実施形態では、電気回路部25a〜25d,26は、ループコイルのオーバーラップ部分から若干はみ出しているが、そのはみ出し量は僅かであるので受信品質への影響は小さい。ただし、電気回路部の全てをループコイルのオーバラップ部に重ならせることによって、電気回路部による受信品質への影響をさらに小さく抑えることが可能となる。
【0075】
電気回路部26に備えられる合成回路が信号合成を行う1セットには、任意のループコイルを含んで良い。例えば、1セットには、第2の方向に並んだ4つのループコイル、第1または第2の方向に並んだ2つのループコイル、あるいは2×2で並んだ4つのループコイルをそれぞれ含むことができる。
【0076】
電気回路部26は、高周波コイル装置300の外部に設けられても良い。
【0077】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0078】
1…静磁場磁石、2…傾斜磁場コイル、3…傾斜磁場電源、4…寝台、5…寝台制御部、6a,6b,6c…コイルユニット、7…送信部、8…選択回路、9…受信部、10…計算機システム、21a〜24a,21b〜24b,21c〜24c,21d〜24d…ループコイル、25a〜25d,26…電気回路部、27a〜27d…信号線、28a〜28d,29a〜29d,30a〜30d,31a〜31d…前置増幅器、32a〜33b…トラップ回路、34a〜35b…ギャップ、41…クッション材、41a〜41m…開口、41s〜41x…凹部、41y…切欠部、42a〜42d…カバー、44…ガラス・エポキシ基板、45a〜45d…凹部、51…固定具、51a,51b…突部、52a,52b…ねじ、53…基板、54…シールド板、100…磁気共鳴診断装置、300…高周波コイル装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体で生じた磁気共鳴信号を受信するために磁気共鳴診断装置にて使用される高周波コイル装置において、
所定方向にループ面の一部が重なり合うように配置された複数の高周波ループコイルと、
前記複数の高周波ループコイルのループ面が重なり合う位置で前記複数の高周波ループコイルのループ面に対して前記所定方向に重なり合うとともに、前記複数の高周波コイルのそれぞれのループ軸を避けて配置され、前記複数のループコイルのそれぞれにより受信された前記磁気共鳴信号を処理するための第1の電気回路を設けた第1の電気回路部とを具備したことを特徴とする高周波コイル装置。
【請求項2】
前記第1の電気回路は、前記複数のループコイルのそれぞれにより受信された前記磁気共鳴信号をそれぞれ増幅する前置増幅器を含むことを特徴とする請求項1に記載の高周波コイル装置。
【請求項3】
前記複数の高周波ループコイルおよび前記第1の電気回路は、それぞれ異なる第1および第2の基板にそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項1に記載の高周波コイル装置。
【請求項4】
前記第1の基板と前記第2の基板との間にシールド板を備えることを特徴とする請求項3に記載の高周波コイル装置。
【請求項5】
送信高周波磁場による誘導電力を遮断するために前記複数の高周波ループコイルのそれぞれに取り付けられる複数のトラップ回路をさらに備え、これら複数のトラップ回路を前記第2の基板に重なり合うように前記第1の基板に配置したことを特徴とする請求項3に記載の高周波コイル装置。
【請求項6】
前記複数の高周波ループコイルと前記第1の電気回路部とからなるコイル群を複数備えることを特徴とする請求項1に記載の高周波コイル装置。
【請求項7】
複数の前記コイル群は、それぞれのコイル群に含まれる高周波ループコイルの少なくとも1つが他のコイル群に含まれる高周波ループコイルと前記所定の方向に重なり合うように配置され、
さらに前記複数のコイル群のそれぞれの前記第1の電気回路から出力される信号を合成する合成回路を含んだ第2の電気回路を備えることを特徴とする請求項6に記載の高周波コイル装置。
【請求項8】
前記第1の電気回路から前記第2の電気回路へ信号を伝達する信号線を、前記高周波ループコイルのループ面どうしが前記所定方向に重なり合う部分に対して前記所定方向に重ねて配置したことを特徴とする請求項7に記載の高周波コイル装置。
【請求項9】
前記第2の電気回路を設けた第2の電気回路部を、前記複数の高周波ループコイルのループ面が重なり合う位置で前記複数の高周波ループコイルのループ面に対して前記所定方向に重なり合うとともに、前記複数の高周波コイルのそれぞれのループ軸を避けて配置したことを特徴とする請求項7に記載の高周波コイル装置。
【請求項10】
被検体で生じた磁気共鳴信号を受信するために磁気共鳴診断装置にて使用される高周波コイル装置において、
その一部が重なり合うように配置された複数の高周波ループコイルと、
前記複数の高周波ループコイルの重なり合うとともに、前記複数の高周波コイルのそれぞれのループ軸を避けて配置され、前記磁気共鳴信号を処理するための電気回路を設けた電気回路部とを具備したことを特徴とする高周波コイル装置。
【請求項11】
被検体で生じた磁気共鳴信号を受信するために磁気共鳴診断装置にて使用される高周波コイル装置において、
その一部が重なり合うように配置された複数の高周波ループコイルと、
前記複数の高周波ループコイルのうち少なくとも4つの高周波ループコイルが重なり合うとともに、前記複数の高周波コイルのそれぞれのループ軸を避けて配置され、これら少なくとも4つの高周波ループコイルにより受信された磁気共鳴信号をそれぞれ増幅するための複数の前置増幅器を設けた電気回路部とを具備したことを特徴とする高周波コイル装置。
【請求項12】
被検体で生じた磁気共鳴信号を受信するために磁気共鳴診断装置にて使用される高周波コイル装置において、
その一部が重なり合うように配置された複数の高周波ループコイルと、
前記複数の高周波ループコイルのうちの少なくとも2つが重なり合って形成された複数の重なり部分のうちの複数の第1の重なり部分またはその近傍に配置されて前記磁気共鳴信号を増幅するための複数の前置増幅器と、
前記複数の重なり部分のうちの前記第1の重なり部分とは異なる第2の重なり部分またはその近傍に配置されて前記複数の前置増幅器でそれぞれ増幅された複数の磁気共鳴信号を合成するための合成回路とを具備したことを特徴とする高周波コイル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−6097(P2013−6097A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−224397(P2012−224397)
【出願日】平成24年10月9日(2012.10.9)
【分割の表示】特願2007−245435(P2007−245435)の分割
【原出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【出願人】(594164531)東芝医用システムエンジニアリング株式会社 (892)
【Fターム(参考)】