説明

高周波モジュール

【課題】線路を伝播する不要な高周波信号を抑制するとともに、スルーホールから不要な高周波信号が輻射されるのを低減するように構成された高周波モジュールを提供する。
【解決手段】バイアス線路123、124のそれぞれから分岐部131、141で分岐させ合流部132、142で合流させた分岐線路130、140を設けている。分岐線路140の電気長L2と分岐部141から合流部142までのバイアス線路124の電気長L1との差(L2−L1)が、不要な高周波信号の実効的な波長λgの1/2またはその奇数倍に略等しくなるように電気長L1、L2を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信機などに用いられる高周波モジュールに関し、特に不要な電磁波による高周波特性の劣化や外部への輻射を抑制した高周波モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高周波モジュールは、高周波基板にトランジスタ、ダイオードなどのディスクリート部品や、ICなどの集積部品等を搭載して構成されている。高周波基板には、モジュールの要件により様々な形態のものがあるが、例えば図8に示すように、基板表面に形成された信号配線層901、904と、基板内部に形成されたアース層902、電源配線層及び内部信号配線層903等で構成された多層構造の基板900がある。高周波基板900各層の間には絶縁体905が充填されており、高周波モジュールの要件により様々な絶縁体が用いられる。
【0003】
ディスクリート部品や集積部品等の電子部品は、一般には基板表面の信号配線層901、904に実装され、内部の電源配線層903からの電源供給や内部信号配線層903との間の信号伝送のために、高周波基板900の上下方向(厚さ方向)に層間を電気的に接続するスルーホール906が形成される。スルーホール906には、基板の上表面から下表面までのすべての層を貫通する貫通スルーホールと、層間を部分的に貫通する層間スルーホールがある。
【0004】
ディスクリート部品や集積部品等には信号線が接続されるが、該信号線を通過する信号をバイアスする場合には、該信号線にバイアス回路が接続される。バイアス回路は、バイアスを印加するために電源線路にも接続されるが、信号線路を通過する信号がバイアス回路を経由して電源線路に漏れ出さないようにするために、漏れを抑制するための各種の工夫がなされている(例えば、特許文献1、2)。
【0005】
一方、無線通信機やレーダ装置などの高周波モジュールでは、信号強度のダイナミックレンジが広いため、バイアス回路を経由して電源線路に信号がわずかに漏出しても、電源線路を経由して別のディスクリート部品や集積部品等に結合・混信することで、通信品質の低下や対象物の検出精度の低下等を招くおそれがある。
【0006】
また、基板の層間を電気的に接続するスルーホールが貫通スルーホールとして形成されている場合には、漏れ信号が貫通スルーホールを介して外部に輻射されるおそれがある。基板の層間を部分的に接続する層間スルーホールは、製造上高コストとなることから、コストを低減するために貫通スルーホールを用いるのが好ましい。しかし、貫通スルーホールを用いることで、外部に不要波が輻射されて規制値を超えてしまうおそれがある。そのため、不要波の輻射を抑制するために、従来より各種の工夫がなされている(例えば、特許文献3)。
【0007】
特許文献1には、図9に示すように、信号線路911からバイアス線路912に高周波信号が漏出するのを防止するために、矩形状または放射状のオープンスタブ913をバイアス線路912に形成した技術が開示されている。また、特許文献2には、両端を抵抗で閉じたループ回路をプリント基板に形成することで、パターン配線から放射される不要輻射を抑制する技術が記載されている。さらに、特許文献3には、基板に形成されたスルーホールで発生する輻射雑音を抑制するために、スルーホールの両端をVIAキャップで覆う技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−284120号公報
【特許文献2】特開2004−022735号公報
【特許文献3】特開2001−177287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の技術では以下のような問題がある。特許文献1に記載のオープンスタブ913は、電気長に合わせて銅箔パターンをエッチングして形成されるが、製造時のエッチング等のばらつきにより、オープンスタブ913のサイズがばらついてしまう。オープンスタブ913のサイズのばらつきは、電気長のばらつきとなり、電気長が変化してバイアス線路912に漏出する高周波信号の抑制効果を低減させてしまうという問題がある。
【0010】
また、特許文献2に記載の輻射信号の抑制技術では、スルーホールやその他の部位から放射される不要輻射信号をループ回路で共振させ、発生した電流を抵抗で熱エネルギーに変えて電力を消費させる、といった効果が得られる。しかし、輻射波でなくバイアス線路及びスルーホールを伝播する不要信号に対しては、これをループ回路で吸収させることはできない。
【0011】
さらに、特許文献3に記載されているVIAキャップを用いる技術では、バイアス線路に漏出した高周波信号がスルーホールを介して輻射されるのを抑制するために、対策が要求されるスルーホールのすべてにVIAキャップを設ける必要がある。そのため、スルーホールを多数有して複雑な構造の高周波モジュールに対しては、VIAキャップを適用するのが難しい。
【0012】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、線路を伝播する不要な高周波信号を抑制するとともに、スルーホールから不要な高周波信号が輻射されるのを低減するように構成された高周波モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の高周波モジュールの第1の態様は、基板と、前記基板の表面層または内部の層に配索された所定の線路と、を有する高周波モジュールであって、前記所定の線路から分岐させるための分岐部と前記所定の線路に再び合流させるための合流部とを有する分岐線路を備え、前記分岐線路の電気長と前記所定の線路の前記分岐部から前記合流部までの電気長との間に所定の電気長差を有するように前記分岐線路の長さが決定されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の高周波モジュールの他の態様は、前記所定の線路を伝播する不要な高周波信号の実効的な波長をλgとするとき、前記所定の電気長差はλg/2またはその奇数倍に略等しいことを特徴とする。
【0015】
本発明の高周波モジュールの他の態様は、前記分岐線路は、前記基板の表面に形成されていることを特徴とする。
【0016】
本発明の高周波モジュールの他の態様は、前記合流部は、前記所定の線路がスルーホールに接続される接続点に設けられていることを特徴とする。
【0017】
本発明の高周波モジュールの他の態様は、それぞれの一端が前記所定の線路の異なる位置に接続される第1のスルーホール及び第2のスルーホールと、前記基板の前記所定の線路が配索された層と異なる層に配索されて前記第1のスルーホールと前記第2のスルーホールとを電気的に接続する接続用線路と、を備え、前記所定の線路と前記第1のスルーホール及び前記第2のスルーホールのそれぞれとの接続点をそれぞれ前記分岐部及び前記合流部とし前記分岐線路は、前記分岐部から前記第1のスルーホールの前記接続用線路との接続点までの線路と、前記接続用線路と、前記第2のスルーホールの前記接続用線路との接続点から前記合流部までの線路と、を有していることを特徴とする。
【0018】
本発明の高周波モジュールの他の態様は、前記第1のスルーホール及び前記第2のスルーホールは、前記基板を貫通する貫通スルーホールであることを特徴とする。
【0019】
本発明の高周波モジュールの他の態様は、前記第1のスルーホール及び前記第2のスルーホールは、少なくとも一端が前記基板の内部の層まで形成されている層間スルーホールであることを特徴とする。
【0020】
本発明の高周波モジュールの他の態様は、前記所定の線路を2以上の異なる周波数の不要な高周波信号が伝播するとき、両端が前記分岐線路の異なる位置に接続される別の分岐線路を1以上備え、前記分岐部から前記別の分岐線路を経由して前記合流部までの線路のそれぞれの電気長と前記所定の線路の前記分岐部から前記合流部までの電気長との差が、前記2以上の異なる周波数のいずれか1つに対応する実効的な波長の1/2またはその奇数倍に略等しいことを特徴とする。
【0021】
本発明の高周波モジュールの他の態様は、前記所定の線路は、高周波信号が伝播する信号線に接続されたバイアス線路であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、線路を伝播する不要な高周波信号を抑制するとともに、スルーホールから不要な高周波信号が輻射されるのを低減するように構成された高周波モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態に係る高周波モジュールの構成を示す平面図である。
【図2】バイアス線路における高周波信号の通過特性のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図3】本発明の第2実施形態に係る高周波モジュールの構成を示す平面図及び断面図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る高周波モジュールの構成を示す平面図である。
【図5】本発明の第4実施形態に係る高周波モジュールの構成を示す平面図及び断面図である。
【図6】本発明の第5実施形態に係る高周波モジュールの構成を示す平面図及び断面図である。
【図7】本発明の第5実施形態に係る高周波モジュールの別の構成例を示す平面図及び断面図である。
【図8】従来の多層構造の基板の一例を示す断面図である。
【図9】従来のオープンスタブを付加したバイアス線路を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の好ましい実施の形態における高周波モジュールについて、図面を参照して詳細に説明する。なお、同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。
【0025】
(第1実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る高周波モジュールを、図1を用いて説明する。図1は、第1実施形態の高周波モジュールの構成を示す平面図である。本実施形態の高周波モジュール100は、高周波基板150の表面上に搭載された電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)110を備えている。ここでは、電子部品として高周波モジュール100がディスクリート部品であるFET110を備える場合を一例に説明するが、以下の説明はFET以外の電子部品に対しても同様に適用できるものである。
【0026】
FET110は、ソース111、ゲート112、及びドレイン113を有しており、ゲート112及びドレイン113にそれぞれ第1信号線121及び第2信号線122が接続されている。FET110を増幅器として動作させる場合には、ゲート112及びドレイン113にそれぞれ所定の直流電圧を印加させる必要がある。そのため、第1信号線121及び第2信号線122に、それぞれバイアス線路123、124が接続されている。バイアス線路123、124は、それぞれ図示しないバイアス回路を経由して直流電源に接続されている。
【0027】
第1信号線121には、高周波信号が伝播されてゲート112に入力される。また、第2信号線122には、ドレイン113から出力された高周波信号が伝播される。以下では、第1信号線121及び第2信号線122を伝播する高周波信号の実効的な波長をλgとする。
【0028】
第1信号線121及び第2信号線122を伝播する高周波信号は、それぞれの信号線に接続されたバイアス線路123、124に漏出するおそれがある。高周波信号がバイアス線路123、124に漏出すると、バイアス線路123、124から電源線路を経由して別のディスクリート部品や集積部品等に結合・混信することになり、通信品質の低下や対象物の検出精度の低下等を招く、といった問題が生じる。バイアス線路123、124に漏出した高周波信号を、以下では不要な高周波信号という。
【0029】
そこで、本実施形態の高周波モジュール100では、不要な高周波信号が電源側に漏出するのを防止するために、バイアス線路123、124のそれぞれから分岐させた分岐線路130、140を設けている。分岐線路130、140は、それぞれバイアス線路123、124から分岐される分岐部131、141と、それぞれバイアス線路123、124に再び合流される合流部132、142とを有している。分岐部131、141は、不要な高周波信号がそれぞれバイアス線路123、124を伝播する方向の上流側にあり、合流部132、142は下流側にある。
【0030】
以下では、説明簡単のため、ドレイン113側の第2信号線122からバイアス線路124に漏出する不要な高周波信号を抑制するために設けられた分岐線路140について説明する。ゲート112側の第1信号線からバイアス線路123に漏出する不要な高周波信号を抑制するために設けられた分岐線路130についても、以下の説明と同様にして高周波信号の伝播が抑制される。
【0031】
第2信号線122からバイアス線路124に漏出した不要な高周波信号は、分岐部141でバイアス線路124と分岐線路140の2つに分岐して伝播する。そして、バイアス線路124及び分岐線路140を伝播する不要な高周波信号は、合流部142で合波される。分岐部141から合流部142までのバイアス線路124の電気長をL1とし、分岐線路140の電気長をL2とするとき、電気長L1とL2の大きさが異なるようにすることで、バイアス線路124を伝播する不要な高周波信号と分岐線路140を伝播する不要な高周波信号とが、合流部142で合波されるときにそれぞれで位相が異なるようにすることができる。
【0032】
バイアス線路124を伝播する不要な高周波信号と分岐線路140を伝播する不要な高高周波信号との間の位相差を180°またはその奇数倍とし、2つの不要な高周波信号が相互に逆位相となるようにすることで、両者を合波して相殺させることができる。そこで、上記2つの不要な高周波信号が合流部142で逆位相となるように電気長L1とL2との差を設定するのがよい。すなわち、電気長差(L2−L1)がλg/2に略等しくなるように電気長L1、L2を設定するのがよい。あるいは、電気長差(L2−L1)がn・(λg/2)に略等しくなるように電気長L1、L2を設定してもよい。ここで、nは奇数の整数である。
【0033】
本実施形態の高周波モジュール100において、分岐線路140を設けることにより不要な高周波信号が抑制される効果を、図2を用いて以下に説明する。図2は、高周波信号の中心周波数を20GHzとし、バイアス線路124における高周波信号の通過特性をシミュレーションにより求めた結果を示している。同図(a)は、本実施形態の分岐線路140を設けたときの通過特性のシミュレーション結果を示し、同図(b)は、比較例としてバイアス回路に従来の図9に例示するようなオープンスタブを設けたときのシミュレーション結果を示している。
【0034】
図2に示すシミュレーション結果は、分岐線路140及びオープンスタブを銅箔パターンのエッチングにより形成したときのそれぞれの製造誤差を仮定して求めたものである。符号11は分岐線路140及びオープンスタブの製造誤差が無いとしたとき、符号12は製造誤差を+50μmとしたとき、符号13は製造誤差を−50μmとしたとき、のそれぞれのシミュレーション結果を示している。
【0035】
図2では、バイアス線路における高周波信号の通過特性がー20dB以下に抑制されている周波数幅、すなわち20dBのアイソレーションが確保されている周波数幅を両矢印14、15で示している。同図より、本実施形態の分岐線路140を設けたときの周波数幅14の方が、従来のオープンスタブを設けたときの周波数幅15より広くなっており、本実施形態の高周波モジュール100では広い周波数幅で不要な高周波信号を抑制できることがわかる。
【0036】
本実施形態の高周波モジュール100において不要な高周波信号を抑制するためには、分岐線路140の電気長が所定の長さになるように高精度に形成する必要がある。分岐線路140の製造誤差は、エッチング等により幅方向に発生するおそれがあるが、長手方向の長さに影響するおそれは極めて小さい。その結果、電気長が所定の長さになるように分岐線路140を高精度に形成することが可能となる。これに対し、図9に示すようなオープンスタブ913では、エッチング等による製造誤差がオープンスタブ913の電気長に直接影響してしまう。
【0037】
上記のように構成された本実施形態の高周波モジュール100では、不要な高周波信号が伝播するバイアス線路123、124に、それぞれ分岐部131、141と合流部132、142を両端部とする分岐線路130、140を形成し、分岐部131、141から合流部132、142までのそれぞれのバイアス線路123、124の電気長と分岐線路130、140のそれぞれの電気長とのそれぞれの電気長差が、λg/2、またはその奇数倍に略等しくなるようにすることで、バイアス線路123、124を伝播する不要な高周波信号を抑制することが可能となる。本実施形態の高周波モジュール100は、分岐線路130、140といった簡単な構成を追加するだけで、不要な高周波信号を抑制して良好な高周波特性が得られる。
【0038】
(第2実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る高周波モジュールを、図3を用いて説明する。図3は、第2実施形態の高周波モジュールの構成を示す平面図及び断面図である。本実施形態の高周波モジュール200に用いられる基板250は、同図(b)に示すように多層構造を有しており、基板250の両表面に信号配線層251、254を設け、基板250の内部にアース層252及び電源配線層253を設けている。各層の間には、誘電体259が充填されている。なお、基板250の多層構造は、図3に示すものに限定されず、例えば基板250の内部にさらに別の信号配線層を設けるような構造であってもよい(以下の別の実施形態でも同様である)。
【0039】
本実施形態においても、第1実施形態と同様に、一例として信号配線層251にバイアス線路223が形成されているものとする。そして、バイアス線路223を電源配線層253の電源線路225に接続するために、基板250を一方の表面(信号配線層251)から他方の表面(信号配線層254)まで貫通させて形成されたスルーホール260が設けられている。スルーホール260には、信号配線層251のバイアス線路223と電源配線層253の電源線路225とが電気的に接続されている。
【0040】
第1実施形態と同様に、バイアス線路223に不要な高周波信号が伝播していた場合、バイアス線路223に接続される貫通スルーホール260が不要な高周波信号の輻射源となるおそれがある。すなわち、バイアス線路223を伝播する不要な高周波信号が貫通スルーホール260に漏れ込むと、貫通スルーホール260から不要な高周波信号が輻射されて周辺の電子部品等に悪影響を与えたり、電波法などの規制値を超えてしまうおそれがある。
【0041】
そこで、本実施形態の高周波モジュール200では、貫通スルーホール260に不要な高周波信号が漏れこまないようにするために、バイアス線路223に分岐部231及び合流部232を有する分岐線路230を形成している。本実施形態においても、バイアス線路223の分岐部231から合流部232までの電気長L1と分岐線路230の電気長L2との差が、λg/2またはその奇数倍となるように形成されている。
【0042】
本実施形態の高周波モジュール200では、さらに、合流部232がスルーホール260の上端に形成されている。すなわち、バイアス線路223が接続されているスルーホール260の上端に、分岐線路230の合流部232があわせて接続されている。分岐線路230をこのように形成することで、バイアス線路223を図面左側からスルーホール260に向かって伝播する不要な高周波信号が分岐部231で2つの線路に分配された後、貫通スルーホール260に漏れ込む直前の合流部232でバイアス線路223を伝播した不要な高周波信号と分岐線路230を伝播した不要な高周波信号とが相殺される。これにより、貫通スルーホール260に漏れ込む不要な高周波信号を低減することができ、貫通スルーホール260から不要な高周波信号が輻射されないようにすることができる。
【0043】
(第3実施形態)
本発明の第3の実施形態に係る高周波モジュールを、図4を用いて説明する。図4は、第3実施形態の高周波モジュールの構成を示す平面図である。本実施形態の高周波モジュール300は、第2実施形態の高周波モジュール200と同様の構造を有しており、バイアス線路223に分岐線路330が分岐して接続され、合流部332がスルーホール260の上端に形成されている。
【0044】
バイアス線路223が接続されている信号線路を伝播する高周波信号は、所定の高周波信号発生器を用いて生成されるが、高周波信号を所定の高周波周波数にするのに逓倍器が用いられることがある。一例として、20GHzの高周波信号を生成するために、10GHzの高周波信号を生成する信号発生器と、信号発生器で生成された高周波信号の周波数10GHzを2逓倍する逓倍器を用いることができる。この場合、バイアス線路223を伝播する不要な高周波信号として、20GHzの高周波信号に加えて、周波数が半分の10GHzの高周波信号も含まれるおそれがある。
【0045】
従って、2以上の周波数の不要な高周波信号がバイアス線路223を伝播する可能性があるときは、それぞれの周波数に対応する2以上の分岐線路を設ける必要がある。但し、分岐線路を形成する信号配線層251には電子部品等が配置されるため、分岐線路の設置スペースが制約される。
【0046】
そこで、本実施形態の高周波モジュール300では、分岐線路の設置スペースが増大しないようにして2以上の周波数の不要な高周波信号の伝播を抑制するために、分岐線路330の途中にさらに別の分岐線路333を設けている。ここでは、不要な高周波信号の周波数が2つある場合について説明するが、3以上ある場合も同様にして分岐経路を形成することができる。以下では、説明簡単のため、不要な高周波信号として10GHzと20GHzの2種類の信号がバイアス線路223を伝播するものとする。
【0047】
図4に示す分岐線路330では、分岐部331から分岐線路330の一部330aを通過して別の分岐線路333を経由し、さらに分岐線路330の別の一部330bを通過して合流部332に至る線路の電気長L3は、別の分岐線路333を経由しないで分岐線路330のみを通過する線路の電気長L2より短くなっている。これより、電気長L3とバイアス線路223の分岐部331から合流部332までの電気長L1との差(L3−L1)が、20GHzの高周波信号の実効的な波長の1/2またはその奇数倍となるように別の分岐線路333を形成する。また、電気長差(L2−L1)が10GHzの高周波信号の実効的な波長の1/2またはその奇数倍となるように分岐線路330を形成する。
【0048】
本実施形態の高周波モジュール300で用いる分岐線路330及び別の分岐線路333を上記のように形成することにより、低周波側の不要な高周波信号を低減させるための分岐線路330の設置スペースのみで、高周波側の不要な高周波信号を低減させるための別の分岐線路333を形成することができ、基板のスペースを有効に利用することが可能となる。
【0049】
(第4実施形態)
本発明の第4の実施形態に係る高周波モジュールを、図5を用いて説明する。図5は、第4実施形態の高周波モジュールの構成を示す平面図及び断面図である。本実施形態の高周波モジュール400でも、基板450に多層基板を用いており、基板450の両表面に信号配線層451、454を設け、基板450の内部にアース層452及び電源配線層453を設けている。
【0050】
上記第1乃至第3実施形態では、不要な高周波信号を抑制するための分岐線路を基板の表面である信号配線層上に形成していた。しかしながら、信号配線層にディスクリート部品や集積部品等を高集積させた高周波モジュールでは、信号配線層に分岐線路を形成するための十分なスペースを確保できないことがある。そこで、本実施形態の高周波モジュール400では、分岐線路を信号配線層でなく基板の内部に形成するようにしている。
【0051】
本実施形態の高周波モジュール400では、不要な高周波信号を低減させるための分岐線路を、スルーホール461、462と、基板内部の電源配線層453を用いて形成している。ここでは、スルーホール461、462を、信号配線層451から電源配線層453までの区間に形成された層間スルーホールとしている。
【0052】
層間スルーホール461、462は、信号配線層451でバイアス線路423に接続されている。不要な高周波信号がバイアス線路423を図面左側から右側に伝播するとき、層間スルーホール461とバイアス線路423との接続点が分岐部431となり、層間スルーホール462とバイアス線路423との接続点が合流部432となる。また、層間スルーホール461と462とは、電源配線層453において接続用線路434で電気的に接続されている。これにより、本実施形態で用いられる分岐線路430は、分岐部431から層間スルーホール461、接続用線路434、及び層間スルーホール462を順次経由して合流部432に至る線路で構成される。
【0053】
上記より、分岐線路430の電気長L2は、層間スルーホール461、462のそれぞれの電気長と、接続用線路434の電気長を加算した長さとなる。そして、分岐線路430の電気長L2と分岐部431から合流部432までのバイアス線路423の電気長L1との差(L2−L1)が、不要な高周波信号の実効的な波長λgの1/2またはその奇数倍となるように電気長L1、L2を設定する。
【0054】
ところで、分岐部431から合流部432までのバイアス線路423と接続用線路434とをともに直線状に形成すると、両者の電気長がほぼ等しくなる。ぞの結果、電気長差(L2−L1)は、層間スルーホール461と462のそれぞれの電気長を加算したものにほぼ等しくなる。よって、電気長差(L2−L1)が波長λgの1/2またはその奇数倍となるようにするには、層間スルーホール461、462の電気長を調整する必要がある。しかしながら、基板450の各層間の距離(各層間の誘電体層の厚さ)は、通常は予め決められたものから選択されるため、所定の大きさとなるように任意に調整することは難しい。
【0055】
そこで、本実施形態の高周波モジュール400では、分岐線路430の電気長L2を任意に調整可能とするために、接続用線路434を層間スルーホール461と462との間で直線状とせず、電源配線層453上で適宜配索させて線路長を調整できるようにしている。これにより、電気長差(L2−L1)が波長λgの1/2またはその奇数倍となるように、接続用線路434の長さを電源配線層453上で調整している。なお、電源配線層453上で線路434の長さを調整するのに代えて、電源配線層453以外の、例えばアース層452上で層間スルーホール461または462から分岐させた別の線路を設けて電気長L2を調整するようにすることも可能である。
【0056】
上記説明のように、本実施形態の高周波モジュール400では、分岐線路430を信号配線層451でなく基板450の内部に形成するようにしたことから、分岐線路430を形成するためのスペースを容易に確保することが可能となる。
【0057】
(第5実施形態)
本発明の第5の実施形態に係る高周波モジュールを、図6を用いて説明する。図6は、第5実施形態の高周波モジュールの構成を示す平面図及び断面図である。第4実施形態の高周波モジュール400では、分岐線路430を形成するために層間スルーホール461、462を設けていた。これに対し、本実施形態の高周波モジュール500では、より低コストで形成できる貫通スルーホールを用いて分岐線路を形成している。
【0058】
本実施形態の高周波モジュール500は、信号配線層551から信号配線層554までの基板550の厚さ方向全体を貫通させた貫通スルーホール561、562を備えている。貫通スルーホール561、562は、信号配線層551上でバイアス線路523と接続されており、不要な高周波信号がバイアス線路523を図面左側から右側に伝播するとき、貫通スルーホール561とバイアス線路523との接続点が分岐部531となり、貫通スルーホール562とバイアス線路523との接続点が合流部532となっている。
【0059】
また、信号配線層554上には、貫通スルーホール561と562とを電気的に接続する接続用線路534が形成されている。本実施形態で用いられる分岐線路530は、分岐部531から貫通スルーホール561、接続用線路534、及び貫通スルーホール562を経由して合流部532に至る線路で形成されている。
【0060】
本実施形態においても、分岐線路530の電気長L2と分岐部531から合流部532までのバイアス線路523の電気長L1との差(L2−L1)が、不要な高周波信号の実効的な波長λgの1/2またはその奇数倍となるように分岐線路530が形成されている。貫通スルーホール561、562の長さ、すなわち基板550の厚さは、機械的な要件で決定されていることから、電気長差(L2−L1)が上記の条件を満たすように基板550の厚さを任意に選択することは難しい。そこで、接続用線路534を信号配線層554上で適宜配索させることで、電気長L2を調整することができる。
【0061】
また、貫通スルーホール561、562を用いた場合でも、両者間を電気的に接続する接続用線路534を信号配線層554以外の基板550の内部の層に形成してもよい。一例を図7に示す。図7では、接続用線路534を電源配線層553上に形成している。これにより、分岐線路530’は、分岐部531から接続用線路534との接続部までの貫通スルーホール561と、接続用線路534と、接続用線路534との接続部から合流部532までの貫通スルーホール562と、から構成され、図6に示す分岐線路530より電気長L2を短く調整することができる。
【0062】
本実施形態の高周波モジュール500では、分岐線路の形成に2つの貫通スルーホールを用い、該2つの貫通スルーホールを電気的に接続する線路を多層基板のいずれかの層に形成することで、分岐線路の電気長を好適に調整して不要な高周波信号の伝播を抑制することができる。
【0063】
上記実施形態の説明では、分岐線路を1つだけ形成する場合について説明したが、これに限定されず、バイアス線路に分岐線路を2以上形成してもよい。これにより、不要な高周波信号の伝播を抑制する効果をさらに高めることが可能となる。また、分岐線路の特性インピーダンスを調整して実効の電気長を調整することが可能なのは言うまでも無い。さらに、バイアス線路以外の不要な高周波信号が伝播する可能性のある信号線路に対して、分岐部と合流部を有する分岐線路を設けて本発明の高周波モジュールとすることも可能である。
【0064】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係る高周波モジュールの一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態における高周波モジュールの細部構成及び詳細な動作等に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0065】
100、200、300,400、500 高周波モジュール
110 FET
111 ソース
112 ゲート
113 ドレイン
121 第1信号線
122 第2信号線
123、124、223、423、523 バイアス線路
130、140、230、330、430、530 分岐線路
131、141、231、331、431、531 分岐部
132、142、232、332、432、532 合流部
333 別の分岐線路
150、250、450、550 基板
251、254、451、454、551、554信号配線層
252、452、552 アース層
253、453、553 電源配線層
225 電源線路
259 誘電体
260、461、462、561、562 スルーホール
434、534 接続用線路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板の表面層または内部の層に配索された所定の線路と、を有する高周波モジュールであって、
前記所定の線路から分岐させるための分岐部と前記所定の線路に再び合流させるための合流部とを有する分岐線路を備え、
前記分岐線路の電気長と前記所定の線路の前記分岐部から前記合流部までの電気長との間に所定の電気長差を有するように前記分岐線路の長さが決定されている
ことを特徴とする高周波モジュール。
【請求項2】
前記所定の線路を伝播する不要な高周波信号の実効的な波長をλgとするとき、前記所定の電気長差はλg/2またはその奇数倍に略等しい
ことを特徴とする請求項1に記載の高周波モジュール。
【請求項3】
前記分岐線路は、前記基板の表面に形成されている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の高周波モジュール。
【請求項4】
前記合流部は、前記所定の線路がスルーホールに接続される接続点に設けられている
ことを特徴とする請求項3に記載の高周波モジュール。
【請求項5】
それぞれの一端が前記所定の線路の異なる位置に接続される第1のスルーホール及び第2のスルーホールと、
前記基板の前記所定の線路が配索された層と異なる層に配索されて前記第1のスルーホールと前記第2のスルーホールとを電気的に接続する接続用線路と、を備え、
前記所定の線路と前記第1のスルーホール及び前記第2のスルーホールのそれぞれとの接続点をそれぞれ前記分岐部及び前記合流部とし
前記分岐線路は、前記分岐部から前記第1のスルーホールの前記接続用線路との接続点までの線路と、前記接続用線路と、前記第2のスルーホールの前記接続用線路との接続点から前記合流部までの線路と、を有している
ことを特徴とする請求項1または2に記載の高周波モジュール。
【請求項6】
前記第1のスルーホール及び前記第2のスルーホールは、前記基板を貫通する貫通スルーホールである
ことを特徴とする請求項5に記載の高周波モジュール。
【請求項7】
前記第1のスルーホール及び前記第2のスルーホールは、少なくとも一端が前記基板の内部の層まで形成されている層間スルーホールである
ことを特徴とする請求項5に記載の高周波モジュール。
【請求項8】
前記所定の線路を2以上の異なる周波数の不要な高周波信号が伝播するとき、
両端が前記分岐線路の異なる位置に接続される別の分岐線路を1以上備え、
前記分岐部から前記別の分岐線路を経由して前記合流部までの線路のそれぞれの電気長と前記所定の線路の前記分岐部から前記合流部までの電気長との差が、前記2以上の異なる周波数のいずれか1つに対応する実効的な波長の1/2またはその奇数倍に略等しい
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の高周波モジュール。
【請求項9】
前記所定の線路は、高周波信号が伝播する信号線に接続されたバイアス線路である
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の高周波モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−81103(P2013−81103A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220396(P2011−220396)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】