説明

高周波加熱式焼却炉

【課題】廃棄物の高周波加熱を促進し、効率よく焼却処理を行えるようにし、しかも焼却筒の長寿命化を図ることができるようにする。また、廃棄物が破砕したプレス缶と可燃物の混合物であっても、高周波加熱による焼却処理の際にプレス缶同士の固着が生じず、そのため、再破砕などの後処理工程を要しないようにする。
【解決手段】高周波加熱装置10の内部に焼却器12が装着されており、該焼却器は、非磁性材料からなる焼却筒18と、該焼却筒を受ける焼却筒受け皿20と、前記焼却筒内に組み込まれている火格子22を備え、該火格子上に位置する廃棄物Wを高周波加熱により焼却し、火格子から落下する焼却灰を焼却筒受け皿で受ける構造であって、焼却筒内の火格子の下方に、強磁性の導電性材料からなり、落下する焼却灰を通過させる複数の空隙を備えた加熱促進体28が設置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波加熱装置の内部に焼却器を装着し、該焼却器内の火格子上に位置する廃棄物を、高周波加熱により焼却して減容する焼却炉に関し、更に詳しく述べると、火格子の下方に強磁性で導電性の材料からなる加熱促進体を設置して、廃棄物の加熱を促進するようにした高周波加熱式焼却炉に関するものである。この技術は、例えば原子力施設で発生する可燃性及び難燃性の放射性廃棄物の焼却処理に有用であり、特に、放射性廃棄物を収納した金属製のペール缶をプレスにより圧縮したもの(以下、「プレス缶」と略す)を破砕し可燃物と混合して焼却するような場合に有用な技術である。
【背景技術】
【0002】
原子力施設では、放射性廃棄物の累積量が年々増加し、保管場所の確保が困難になりつつあるのが現状である。このため、可燃性及び難燃性の放射性廃棄物は焼却によって減容し、金属等の不燃物は溶融炉にて溶融した後、焼却灰とともに固化体にすることによって減容化を図っている。例えば、プレス缶を破砕し、可燃物と混合して焼却することが行われている。この焼却処理には、高周波加熱式焼却炉を使用している。
【0003】
従来の高周波加熱式焼却炉の一例を図5に示す。この焼却炉は、高周波加熱装置10の内部に焼却器12が装着されている構造である。高周波加熱装置10は、高周波コイル14と、その内側に位置するスリーブ16とを備えている。他方、焼却器12は、焼却筒18と、該焼却筒18を受ける焼却筒受け皿20と、焼却筒18内に組み込まれる火格子22を備えている(例えば特許文献1参照)。焼却筒受け皿20は、台座24上に載置される。焼却筒18、焼却筒受け皿20は金属材料からなり、高周波コイル14への通電で発生する高周波磁界によって渦電流が流れ、それによって加熱される。焼却筒18内には、その下端部近傍の空気流入口26から空気が流入し、火格子22の上に投入された廃棄物Wは加熱・焼却され、焼却灰Aは焼却筒受け皿20の上に落下する。
【0004】
ところで、渦電流の起電力は、マックスウェルの式によって次のように表わされる。
μ・∂H/∂t=−rotE …(1)
ここで、μは材料の透磁率、Hは磁場の強さ、Eは渦電流の起電力である。また、渦電流には、表皮効果により、材料の内部に浸透するにつれて減少する性質があり、渦電流が表面の1/e(eは自然対数の底)に減少する深さは、浸透深さと呼ばれ、次式で表わされる。
δ=k(ρ/μf)1/2 …(2)
ここで、δは浸透深さ、kは比例定数、ρは材料の抵抗率、μは材料の透磁率、fは周波数である。
【0005】
(1)式から明らかなように、渦電流の起電力は、材料の透磁率に比例する。透磁率の値は、その材質が強磁性体か非磁性体かによって大きく異なり、強磁性体では非磁性体の数千倍と飛躍的に大きくなる。また(2)式から明らかなように、透磁率が大きくなると浸透深さが小さくなり、渦電流は材料の表面を流れるようになる。
【0006】
上記のような従来構造の高周波加熱式焼却炉において、焼却筒、火格子、焼却筒受け皿を強磁性の金属材料(例えば炭素鋼)で製作した場合、渦電流は部材表面を流れるため、局所的に加熱される欠点があり、そのため各部材の寿命は短くなる。特に焼却筒は、渦電流による熱と燃焼による熱とが加わるため、より一層高温になり、その寿命は非常に短くなる。そこで、焼却筒、焼却筒受け皿を非磁性の金属材料で製作し、それによって渦電流の浸透深さを大きくして、局所的な加熱を緩和することが行われている。
【0007】
しかし、非磁性材料からなる焼却筒の中に、廃棄物Wとしてプレス缶の破砕物と可燃物とを混合して投入し焼却処理すると、強磁性体で製作されているプレス缶に渦電流が集中し、重なりあったプレス缶の中心部分が非常に高温になり、その結果、プレス缶同士が固着してしまう事象が生じる。その理由を、図6により更に詳しく検討する。
【0008】
廃棄物W(破砕したプレス缶と可燃物の混合物)を貫通する磁場Hにより発生する渦電流は、主として焼却筒受け皿20に流れる渦電流i1 と廃棄物Wに流れる渦電流i2 である。一般に焼却筒受け皿20は非磁性材料で製作され、プレス缶は強磁性材料で製作されている。ところで、前記のように強磁性材料は非磁性材料よりも透磁率が大きいため、より多くの渦電流が流れ、またヒステリシス損もあるため、非磁性材料よりも大きな発熱が生じる。即ち、この場合、廃棄物W(破砕したプレス缶と可燃物の混合物)に流れる渦電流i2 >焼却筒受け皿20に流れる渦電流i1 となる。
【0009】
周知のように、強磁性体は、その温度がキュリー点を超えると、透磁率が非磁性体の透磁率とほぼ同じ大きさになる。プレス缶は炭素鋼で製作されており、そのキュリー点は鉄のキュリー点770℃とほぼ等しい。キュリー点を超えると渦電流は小さくなるが、プレス缶と焼却筒受け皿20の透磁率がほぼ等しくなるため、渦電流は両者にほぼ均等に分散することになる。このため、重なりあったプレス缶の内側では高温になり、可燃物の燃焼による熱も加わり、プレス缶同士が固着するものと考えられる。
【0010】
焼却後に残ったプレス缶は、投入容器に入れた後、溶融炉に投入することになるが、プレス缶同士の固着が生じると、嵩が大きくなり投入容器に入らなくなる恐れがある。そのため、固着したプレス缶を再度破砕しなければならなくなり、作業工程数が増える問題も生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−192099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、廃棄物の高周波加熱を促進し、効率よく焼却処理を行えるようにし、しかも焼却筒の長寿命化を図ることができるようにすることである。本発明が解決しようとする他の課題は、廃棄物が破砕したプレス缶と可燃物の混合物であっても、高周波加熱による焼却処理の際にプレス缶同士の固着が生じず、そのため、再破砕などの後処理工程を要しないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、高周波加熱装置の内部に焼却器が装着されており、該焼却器は、非磁性材料からなる焼却筒と、該焼却筒を受ける焼却筒受け皿と、前記焼却筒内に組み込まれている火格子を備え、該火格子上に位置する廃棄物を高周波加熱により焼却し、火格子から落下する焼却灰を焼却筒受け皿で受けるようにした高周波加熱式焼却炉において、前記焼却筒内の火格子の下方に、強磁性の導電性材料からなり、落下する焼却灰を通過させる複数の空隙を備えた加熱促進体が設置されていることを特徴とする高周波加熱式焼却炉である。
【0014】
火格子と加熱促進体との間隔は任意であり、両者を重ねて焼却筒内に組み込む構成も可能である。その場合、火格子の機械的強度(廃棄物を支える機能)の一部を加熱促進体が受け持つように機能配分することもできる。
【0015】
ここで焼却処理対象の廃棄物は、典型的には、破砕したプレス缶と可燃物とを含む混合物からなる放射性廃棄物である。その場合、前記加熱促進体は、主成分が鉄、コバルト、ニッケルのいずれかを含む材料からなる。そのキュリー点がプレス缶材料のキュリー点と同等以上の材料からなるのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の高周波加熱式焼却炉は、焼却筒内の火格子の下方に、強磁性の導電性材料からなる加熱促進体が設置されているので、高周波磁界によって該加熱促進体に渦電流が流れて加熱され、火格子上の廃棄物の加熱・焼却が促進される。それによって効率よく焼却処理を行うことができる。また、焼却筒は非磁性材料からなるため、過度に高温になることが無く、長寿命化を図ることができる。更に、廃棄物が、破砕したプレス缶を含んでいても、高周波加熱による焼却の際に、プレス缶同士が固着するのを防止でき、それによって再破砕というような煩瑣な後処理が不要となり、工程の簡略化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る高周波加熱式焼却炉の一実施例を示す説明図。
【図2】その加熱促進体の一例を示す説明図。
【図3】その動作説明図。
【図4】本発明に係る高周波加熱式焼却炉の他の実施例を示す要部の説明図。
【図5】従来の高周波加熱式焼却炉の一例を示す説明図。
【図6】その動作説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る高周波加熱式焼却炉は、基本的には従来同様、高周波加熱装置の内部に焼却器が装着されている構造である。本発明では、前記焼却器は、非磁性材料からなる焼却筒と、該焼却筒を受ける焼却筒受け皿と、前記焼却筒内に組み込まれている火格子と、強磁性の導電性材料からなり前記火格子の下方に位置する加熱促進体とを備え、火格子上の廃棄物を高周波加熱により焼却し、火格子から落下する焼却灰を、加熱促進体の空隙を通して焼却筒受け皿で受けるように構成されている。このように、本発明では、火格子と燃焼筒受け皿との間に加熱促進体が設置されており、その点に本発明の特徴がある。なお、火格子と加熱促進体との間隔は任意であり、両者を重ねて焼却筒内に組み込む構成も可能である。その場合、火格子の機械的強度(廃棄物を支える機能)の一部を加熱促進体が受け持つように機能配分することもできる。
【0019】
前記加熱促進体は、例えば、主成分が鉄、コバルト、ニッケルのいずれかを含む材料からなる。なお、これら鉄、コバルト、ニッケルのキュリー点は、それぞれ773℃、1115℃、354℃である。特に廃棄物が破砕したプレス缶と可燃物とを含む混合物の場合には、前記加熱促進体は、そのキュリー点がプレス缶材料のキュリー点と同等以上の材料からなることが好ましい。
【実施例】
【0020】
〔実施例1〕
図1は、本発明に係る高周波加熱式焼却炉の一実施例を示す説明図である。図面を分かりやすくするために、図5(従来技術)と同じ部材には同一符号を付す。本発明の高周波加熱式焼却炉は、高周波加熱装置10と、その内部に装着されている焼却器12とからなる。本実施例では、高周波加熱装置10は、巻き回された縦型円筒状の高周波コイル14の内側に、円筒状のスリーブ16を立設した構造である。焼却器12は、そのスリーブ16内に設置されるものであり、非磁性材料からなる焼却筒18、該焼却筒18を受ける焼却筒受け皿20、前記焼却筒18内に位置する火格子22、及び強磁性で且つ導電性の材料からなり前記火格子22の下方に位置する加熱促進体28を備えている。焼却筒受け皿20は、台座24上に載置される。焼却筒18は円筒状をなし、下端部近傍に空気流入口26が形成されている。図示されているように、火格子22は焼却筒18内のほぼ中央で支持され、加熱促進体28は焼却筒18内で前記火格子22と焼却筒受け皿20との間にて支持される。
【0021】
なお、加熱促進体28は、円盤状をなし、焼却灰が通過するための多数の空隙30を有する形状である。空隙30の一例を図2に示す。ここでは、空隙30は、ほぼ四半分の円弧状スリットであり、曲率半径を変えて、且つまた径方向での位置をずらせて、ほぼ全面にわたるように形成されている。このようにすることで、渦電流の経路が確保される。なお、空隙形状およびその開口率は、渦電流の流れを阻害せず、且つ焼却灰の通過が許容されるのであれば、任意であってよい。本実施例では、廃棄物Wとして、破砕したプレス缶と可燃物とを含む混合物を想定している。その場合、加熱促進体28の主成分は、鉄、コバルト、ニッケルのいずれかを含む材料とする。
【0022】
高周波コイル14への高周波通電によって高周波磁界が発生し、それによって焼却器12に渦電流が流れ、発熱する。火格子22上の廃棄物Wも高周波加熱され、また空気流入口26から焼却器12内に導入された空気が加熱促進体28の空隙を通過して上昇し高温に加熱されて、廃棄物Wは焼却される。生じた焼却灰Aは、火格子22から落下し、加熱促進体28の空隙を通過して焼却筒受け皿20上に堆積する。
【0023】
図3は、この高周波加熱式焼却炉における磁場と渦電流の様子を示す説明図である。高周波磁場Hにより発生する渦電流は、主として焼却筒受け皿20に流れる渦電流i1 、廃棄物Wに流れる渦電流i2 、加熱促進体28に流れる渦電流i3 である。これらの渦電流による加熱によって、廃棄物Wは焼却される。ここで、加熱促進体28の主成分をコバルトあるいは鉄コバルト合金として、そのキュリー点がプレス缶のキュリー点(約770℃)よりも高く設定しておくと、プレス缶の温度が約770℃を超えれば渦電流が大幅に減少し、大部分の渦電流が加熱促進体28に流れることになり、プレス缶の温度上昇を抑制することができる。
【0024】
また、加熱促進体28の主成分を鉄とした場合であっても、加熱促進体28が流入空気により冷却されるためにプレス缶の温度よりも低くなるので、プレス缶の温度がキュリー点を超えた場合には大部分の渦電流が加熱促進体28を流れることになり、上記と同様の効果が生じる。
【0025】
このようにして、
加熱促進体28に流れる渦電流i3 >廃棄物(プレス缶と可燃物の混合物)Wに流れる渦電流i2 >焼却筒受け皿20に流れる渦電流i1
となり、加熱促進体28に流れる渦電流を最も大きくすることができ、主な加熱源を加熱促進体28とすることができる。このようにして、プレス缶および焼却筒18で発生する熱を低減し、その温度を抑制できることにより、プレス缶同士の固着を防ぎ、焼却筒18の寿命を長くすることが可能となる。
【0026】
なお、加熱促進体28の温度が、そのキュリー点を超えると、発生する渦電流が小さくなるため、加熱促進体28自体に温度スイッチの役割を果たす副次的な機能を持たせることができる。これにより、制御回路を設置することなく、焼却筒18内に流入する空気の温度を一定の範囲内に自己温度調節することが可能となる効果が得られる。
【0027】
更に、加熱促進体28による加熱で、焼却筒18内に流入する空気の温度上昇を高く維持できる場合には、加熱促進体28のキュリー点がプレス缶と同等以上でなくとも廃棄物Wの焼却を行うことができる。
【0028】
なお、火格子22と加熱促進体28との間隔は、自由に調整可能である。火格子22と加熱促進体28との距離を短くすれば、焼却筒18内に流入し加熱促進体28で加熱される空気の温度を、より効率的に廃棄物Wに加えることができる。
【0029】
〔実施例2〕
次に、実施例1における焼却器12の構造をより簡略化できる例を、図4により説明する。全体的な構成は図1と同様でよいので、変更されている要部のみを図示する。この実施例2は、実施例1で別々に配置していた火格子22と加熱促進体28とを、各々の機能を保持した状態で一体化したものである。即ち、火格子22′の直下に加熱促進体28′を一体に設置する。なお、加熱促進体28′と火格子22′は、平面的には同形である。ここで、火格子22′は、廃棄物Wと加熱促進体28′との固着を防止する機能を果たしており、加熱促進体28′は、本来の加熱促進機能の他に、上層の火格子22′を補強し廃棄物Wの重量を支える機能も果たしている。この場合、火格子22′は、シリカ、アルミナ系の断熱材でよく、厚さは数十mmとするが、廃棄物Wの量、燃焼温度等の予め確認される条件によって適宜設定するものとする。加熱促進体28′の材料は、実施例1と同様でよい。このような構成にすると、加熱促進体28′により加熱を促進できると同時に、焼却筒18内の構造を簡略化できる。
【符号の説明】
【0030】
10 高周波加熱装置
12 焼却器
14 高周波コイル
16 スリーブ
18 焼却筒
20 焼却筒受け皿
22,22′ 火格子
24 台座
26 空気流入口
28,28′ 加熱促進体
30 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波加熱装置の内部に焼却器が装着されており、該焼却器は、非磁性材料からなる焼却筒と、該焼却筒を受ける焼却筒受け皿と、前記焼却筒内に組み込まれている火格子を備え、該火格子上に位置する廃棄物を高周波加熱により焼却し、火格子から落下する焼却灰を焼却筒受け皿で受けるようにした高周波加熱式焼却炉において、
前記焼却筒内の火格子の下方に、強磁性の導電性材料からなり、落下する焼却灰を通過させる複数の空隙を備えた加熱促進体が設置されていることを特徴とする高周波加熱式焼却炉。
【請求項2】
焼却処理対象の廃棄物は、破砕したプレス缶と可燃物とを含む混合物であり、前記加熱促進体は、主成分が鉄、コバルト、ニッケルのいずれかを含む材料からなる請求項1記載の高周波加熱式焼却炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−144984(P2011−144984A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5130(P2010−5130)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】