説明

高周波基板、高周波基板を備える送信器、受信器、送受信器およびレーダ装置

【課題】 製造上の不具合に起因する伝送特性の劣化を抑えることができる高周波基板、高周波基板を備える送信器、受信器、送受信器およびレーダ装置を提供する。
【解決手段】 積層型導波管線路5とストリップ配線8とを接続するための変換部6が設けられる第2誘電体基板11の誘電体層の比誘電率を、積層型導波管線路5が設けられた第1誘電体基板10の誘電体層の比誘電率よりも小さくする。誘電体層の比誘電率よりも小さくすることで、第2誘電体基板11の表面に形成されるストリップ配線8を伝搬する高周波信号の波長を長くすることができ、ストリップ導体のパターニング精度が低く、パターン形状や寸法にばらつきが発生するような場合であっても、高周波信号の伝送特性の劣化を抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてマイクロ波帯またはミリ波帯で用いる高周波素子を実装するための高周波基板および高周波基板を備える送信器、受信器、送受信器およびレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話や無線LAN(Local Area Network)に代表される無線通信技術の研究開発が盛んに行われている。無線通信の研究開発においては、光通信に代表されるFTTH(Fiber to The Home)の伝送速度では100Mbps以上を達成しているものもある。
【0003】
しかし、現在市販されている無線通信機器の伝送速度は、光通信のそれには及ばない。多くの無線通信機器では、マイクロ波が搬送波として利用されているが、マイクロ波ではデータ伝送速度が遅く、たとえば、ハイビジョン映像のデータ伝送において、画質劣化を抑えた大容量非圧縮映像データの伝送には向いていない。
【0004】
そこで、マイクロ波よりも高い周波数の電磁波、たとえば20GHz以上の準ミリ波およびミリ波を利用する無線通信が、大容量のデータを伝送するための手段として、以前から注目され、研究開発が進められている。
【0005】
特に60GHz帯では、世界共通で、広い帯域が無線通信向けに割り当てられており、このような60GHz帯の電磁波を利用する無線通信は、現在実用化され、光ファイバ通信に代えて、事業所間通信などに用いられ、普及しつつある。また、自動車の安全運転をサポートするものとして、ミリ波帯の電磁波を用いたレーダシステムが一般の乗用車に搭載されるようにもなっている。
【0006】
これらの無線通信システムや、レーダシステムを実現するために、ミリ波信号を処理するデバイスや、ミリ波回路の研究開発が進められている。ミリ波回路の伝送線路として代表的なのは、マイクロストリップ線路やコプレーナ線路、積層型導波管線路である。これらの中で最もミリ波帯の伝送損失が低く、かつ放射が無く、広帯域であるのが積層型導波管線路である。
【0007】
したがって、ミリ波回路の配線設計においては、積層型導波管線路を利用することが損失を抑える観点から最も好ましく、半導体素子に接続されたマイクロストリップ線路や半導体素子に接続されたコプレーナ線路などの高周波伝送配線路から変換されたマイクロストリップ線路を積層型導波管線路に接続させる変換構造が知られている。
【0008】
特許文献1記載の変換器は、誘電体基板と、地導体パターンと、ストリップ導体パターンと、ストリップ導体パターンに連続して形成された導波管上壁用導体パターンと、地導体パターンと導波管上壁用導体パターンとを接続する接続用導体とを備え、誘電体基板と、地導体パターンと、ストリップ導体パターンとでマイクロストリップ線路を構成し、誘電体基板と、導波管上壁用導体パターンと、地導体パターンと、接続用導体とで誘電体導波管を構成している。
【0009】
この変換器によって、マイクロストリップ線路と導波管とをリッジやプローブを用いずに接続することができ、接続用導体であるヴィアの配置を調整することで、導波管のインピーダンスを調整して、大きな反射を生じることなく高周波信号を伝搬させることができるようになっている。
【0010】
また、高周波信号処理用の半導体素子とマイクロストリップ線路などの伝送線路との接続には、ボンディングワイヤを用いる。ミリ波などの高周波領域では、ボンディングワイヤの持つインダクタンス成分により伝送特性に影響が生じるため、伝送線路側に整合回路を設けて伝送特性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−208806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1記載の変換器では、各導体パターンの寸法、形状および接続用導体の配置位置などにより高周波信号の伝送特性が大きく影響を受ける。誘電体基板の積層ずれが生じたり、パターニング精度が低いことによって導体パターンの寸法、形状の変動が生じたりすると変換器において高周波信号の反射などが起きて伝送特性が劣化してしまう。
【0013】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、製造上の不具合に起因する伝送特性の劣化を抑えることができる高周波基板、高周波基板を備える送信器、受信器、送受信器およびレーダ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、第1誘電体層と、前記第1誘電体層を挟む一対の主導体層と、前記一対の主導体層を電気的に接続するビアホール導体群とを有する第1誘電体基板であって、前記第1誘電体層の、前記主導体層と前記ビアホール導体群とで囲まれた領域に高周波信号を伝搬する積層型導波管線路が設けられた第1誘電体基板と、
前記第1誘電体基板に積層される第2誘電体基板であって、前記第1誘電体層の比誘電率よりも小さい比誘電率を有する第2誘電体層と、前記第2誘電体層表面に形成される高周波伝送線路導体と、前記高周波伝送線路導体と前記積層型導波管線路とを電磁結合させるための変換部とを有する第2誘電体基板とを備えることを特徴とする高周波基板である。
【0015】
また本発明は、上記の高周波基板と、
前記高周波基板の前記第2誘電体層表面に実装され、前記高周波伝送線路導体に接続された、高周波信号を出力する送信素子と、
前記第1誘電体基板の前記第2誘電体基板が積層される側とは反対側に接合されるアンテナ基板であって、前記積層型導波管線路に接続された、前記高周波信号を放射するアンテナを含むアンテナ基板とを備えることを特徴とする送信器である。
【0016】
また本発明は、上記の高周波基板と、
前記高周波基板の前記第2誘電体層表面に実装され、前記高周波伝送線路導体に接続された、高周波信号が入力される受信素子と、
前記第1誘電体基板の前記第2誘電体基板が積層される側とは反対側に接合されるアンテナ基板であって、前記積層型導波管線路に接続された、前記高周波信号を捕捉するアンテナを含むアンテナ基板とを備えることを特徴とする受信器である。
【0017】
また本発明は、上記の高周波基板と、
前記高周波基板の前記第2誘電体層表面に実装され、前記高周波伝送線路導体に接続された、高周波信号を出力する送信素子と、
前記送信素子で出力された高周波信号を分岐する分岐器と、
前記積層型導波管線路に接続され、前記分岐器で分岐された一方の前記高周波信号を放射する送信アンテナと、
前記積層型導波管線路に接続され、高周波信号を捕捉する受信アンテナと、
前記分岐器で分岐された他方の前記高周波信号と前記受信アンテナで捕捉された前記高周波信号とを混合して中間周波信号を出力するミキサとを含むことを特徴とする送受信器である。
【0018】
また本発明は、上記の送受信器と、
前記ミキサからの中間周波信号に基づいて、探知対象物との距離または相対速度を少なくとも検出する検出器とを含むことを特徴とするレーダ装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、第2誘電体層表面に形成される高周波伝送線路導体と、第1誘電体基板に設けられる積層型導波管線路とを、変換部により電磁的に結合させ、高周波伝送線路導体の伝送モードである準TEMモードと、積層型導波管線路の伝送モードであるTEモードとを変換することで、高周波信号の伝送方向に対して効率的に電磁結合が行われる。これにより、極めて反射の小さい結合が可能となり、広帯域な伝送特性を実現する。
【0020】
変換部が設けられる第2誘電体基板の第2誘電体層は、前記第1誘電体層の比誘電率よりも小さい比誘電率を有するので、第2誘電体層表面に形成される高周波伝送線路導体を伝搬する高周波信号の波長を長くすることができる。
【0021】
これにより、高周波伝送線路導体のパターニング精度が低く、パターン形状や寸法にばらつきが発生するような場合であっても、誘電体層中を伝播する高周波信号の管内波長に対する寸法公差の変動量が小さくなるため、所望の高周波信号の伝送特性の劣化を抑えることができる。
【0022】
また本発明の送信器、受信器および送受信器によれば、上記の高周波基板に対して、第2誘電体基板に送信素子、受信素子、分岐器などを実装し、第1誘電体基板に送受信用のアンテナなどを接合することで、送信素子で処理された高周波信号をアンテナに伝送して放射させたり、アンテナで捕捉した高周波信号を、受信素子に伝送する場合に、高周波信号の伝送特性の劣化が抑えられるので、小型でかつ良好な送受信性能を実現できる。
【0023】
また本発明のレーダ装置によれば、高周波信号の伝送特性の劣化が抑えられた送受信器を用いることで、検出精度が高いレーダ装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の一形態である高周波基板1を備えるアンテナモジュール2の構成を示す概略図である。
【図2】積層型導波管線路5および変換部6の接続部分の拡大図である。
【図3】誘電体層31,32,33,34を層ごとに展開し、高周波基板1の一表面側から見た平面図である。
【図4】本発明の他の実施形態である高周波基板70を備えるアンテナモジュール71の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明の実施の一形態である高周波基板1を備えるアンテナモジュール2の構成を示す概略図である。
【0026】
アンテナモジュール2は、高周波基板1とアンテナ基板3を含み、高周波基板1の表面には、高周波信号処理用の集積回路としてMMIC(モノリシックマイクロ波集積回路)4が実装される。
【0027】
高周波基板1は、MMIC4などの高周波半導体デバイス同士の接続、および送受信用のアンテナ基板3との接続において、積層型導波管線路5および積層型導波管線路への変換部6を用いている。また、MMIC4と積層型導波管線路5への変換部6とは、ボンディングワイヤ7とマイクロストリップ線路8とを介して接続しているが、その間にスタブなどの整合回路を設けてもよい。また、MMIC4と変換部6との接続をワイヤボンディングではなく、金属バンプやはんだボールなどによるフリップチップ接続で実現してもよい。
【0028】
高周波基板1の、MMIC4が実装されている実装面1aとは反対の面1bにおいて、高周波基板1は、アンテナ基板3に接合される。
【0029】
高周波基板1とアンテナ基板3とは、高周波基板1に設けられた積層型導波管線路5の接続ポート5aと、アンテナ基板3に設けられた導波管9の一方端9aにより電磁結合される。アンテナ基板3に設けられた導波管9は、アンテナ基板3を厚み方向に貫通する貫通孔による中空導波管で実現される。導波管9の他方端9bは、アンテナ基板3の裏面に解放される開口であり、この開口がスロットアンテナとして開口寸法に応じた周波数の高周波を放射または受信する。
【0030】
MMIC4が送信用MMICの場合、アンテナモジュール2は、送信器として機能する。送信用のMMIC4から出力されてボンディングワイヤ7および変換部6を経て積層型導波管線路5を伝送した高周波信号は、接続ポート5aに至る。接続ポート5aから出力された高周波信号は、アンテナ基板3の導波管9を伝送し、他方端9bのスロットアンテナから放射される。
【0031】
MMIC4が受信用MMICの場合、アンテナモジュール2は、受信器として機能する。導波管9の他方端9bのスロットアンテナで受信した高周波信号は、アンテナ基板3の導波管9を伝送し、接続ポート5aを介して積層型導波管線路5を伝送する。積層型導波管線路5を伝送した高周波信号は、変換部およびボンディングワイヤ7を経てMMIC4に入力される。
【0032】
MMIC4が送受信用MMICの場合、アンテナモジュール2は、送受信器として機能する。送信信号および受信信号としての高周波信号は、上記の送信器および受信器と同様に高周波基板1に設けられた積層型導波管線路5およびアンテナ基板3に設けられた導波管9を伝送する。
【0033】
本発明の特徴は、高周波基板1が、第1誘電体基板10と第2誘電体基板11とで構成され、これらの誘電体基板を構成するそれぞれの誘電体の比誘電率が異なっていることである。
【0034】
第1誘電体基板10は、積層型導波管線路5が設けられ、アンテナ基板3との接続ポート5aを有する。第2誘電体基板11は、MMIC4の実装面1aを有し、積層型導波管線路5と接続するための変換部6が設けられる。
【0035】
積層型導波管線路5は、誘電体層が2つの導体層とこれらを電気的に接続するビアホール導体群とで囲まれるように構成され、高周波信号を伝送させるための線路のうち、誘電体(導波管)に高周波信号を伝送させるものである。
【0036】
積層型導波管線路5の一方端は、上記のようにアンテナ基板3との接続ポート5aであり、他方端は、変換部6との接続部5bである。
【0037】
変換部6は、実装面1aに設けられる変換導体12と、変換導体12が形成される部分の誘電体と、変換導体12と接続し、誘電体を厚み方向に貫通する貫通導体と、実装面1aとは反対の面1bに設けられ、貫通導体と接続する接地導体とで構成される。接地導体には、開口が設けられ、この開口と積層型導波管線路5の接続部5bとが接続する。
【0038】
本発明の高周波基板1では、実装面1aを有し、変換部6が設けられる第2誘電体基板11を構成する誘電体の比誘電率を、積層型導波管線路5が設けられる第1誘電体基板10を構成する誘電体の比誘電率よりも小さくしている。
【0039】
誘電体の比誘電率を小さくすることで、第2誘電体基板11の実装面1aに設けられるマイクロストリップ線路8や整合回路などの平面配線中を伝搬する高周波信号の波長を長くすることができる。
【0040】
これにより、平面配線のパターニング精度が低く、配線形状や寸法にばらつきが発生するような場合であっても、誘電体層中を伝播する高周波信号の管内波長に対する寸法公差の変動量が低くなるため、所望の高周波信号の伝送特性の劣化を抑えることができる。また、半導体素子と平面回路を接続するボンディングワイヤとを整合させる整合回路を設けた場合に、整合回路の伝送特性の劣化を抑えられる。
【0041】
積層型導波管線路5および変換部6について詳細に説明する。
図2は、積層型導波管線路5および変換部6の接続部分の拡大図である。図2(a)は、平面図を示し、図2(b)は層方向から見た透視図を示し、図3(c)は断面図を示す。
【0042】
高周波基板1は、第1誘電体基板10と第2誘電体基板11とで構成されるが、これらの誘電体基板は、1または複数の誘電体層が積層され、これらの誘電体層間に導体層が設けられ内層配線が形成される。
【0043】
たとえば、本実施形態では、第2誘電体基板11は、1層の誘電体層31を有し、第1誘電体基板10は、3層の誘電体層32,33,34を有し、これらが、高周波基板1のMMICが実装された表面側からこの順に積層される。第2誘電体層である誘電体層31の比誘電率が、第1誘電体層である誘電体層32,33,34の比誘電率よりも小さくなるように、誘電体層31と誘電体層32,33,34とでは、用いる材質などが異なっている。
【0044】
高周波基板1には、第2誘電体基板11の実装面1aを含む誘電体層31と、誘電体層31に形成されるマイクロストリップ線路8と、第1誘電体基板10の誘電体層のうち、誘電体層31に隣接する誘電体層32を含んで形成され、マイクロストリップ線路8と変換部6を介して接続する第1の積層型導波管副線路部21と、第1誘電体基板10の誘電体層のうち、誘電体層31,32,33を含んで形成され、第1の積層型導波管副線路部21と接続する第2の積層型導波管副線路部22と、第1誘電体基板10の誘電体層のうち、誘電体層31,32,33,34を含んで形成され、第2の積層型導波管副線路部22と接続する第3の積層型導波管副線路部23と、第1誘電体基板10の誘電体層のうち、誘電体層33,34を含んで形成され、第3の積層型導波管副線路部23と接続する積層型導波管主線路部24とが形成される。第1の積層型導波管副線路部21、第2の積層型導波管副線路部22および第3の積層型導波管副線路部23は、マイクロストリップ線路8と積層型導波管主線路部24とを低損失で接続するためのものであり、積層型導波管主線路部24からマイクロストリップ線路8に近づくにつれ、下側主導体層が変換導体12に近づくように構成されている。
【0045】
マイクロストリップ線路8は、第2誘電体基板11を構成する誘電体層31を厚み方向に挟んで対向するストリップ導体8aとグランド(接地)導体8bとで構成される。
【0046】
マイクロストリップ線路8と積層型導波管線路5との接続部分を構成し、第2誘電体基板11の表面に設けられる変換導体12は、第1の積層型導波管副線路部21、第2の積層型導波管副線路部22、積層型導波管主線路部23のそれぞれの主導体層のうち、高周波基板1の表面に設けられる上側主導体層211,221,231で構成され、これら上側主導体層211,221,231が一体的に形成されたものである。
【0047】
変換導体12の信号伝送方向に対する幅方向寸法Wは、主導体層の幅方向寸法と同一であり、伝送させる高周波信号の周波数などによって適宜設定すればよく、また、幅寸法は伝送させる高周波信号の遮断周波数を考慮して設定される。たとえば、伝送させる高周波信号の周波数が76.5GHzのときはW=1.15mmであり、遮断周波数は約43GHzで設定される。
【0048】
また、下側主導体層212,222,232の信号伝送方向端部は、伝送信号の波長λの1/4ずつ信号伝送方向にずれて設けられる。変換導体12の信号伝送方向に平行な長さ方向寸法Lは、平面視したときに下側主導体層212,222,232を覆うように3λ/4に設定される。たとえば、伝送させる高周波信号の周波数が70〜85GHzのときはL=0.9mmである。
【0049】
変換導体12の上記幅方向寸法Wおよび長さ方向寸法Lは、変換部6として最小限必要な寸法であって、変換導体12は、幅方向寸法が両側に大きくなるように形成されてもよく、長さ方向寸法がストリップ導体8aとの接続部分とは反対側に向かって延びるように形成されてもよい。
【0050】
積層型導波管線路5および変換部6は、上記のような一対の導体層(上側主導体層および下側主導体層)とともにビアホール導体群41,42を含んで構成される。
【0051】
ビアホール導体群41,42は、積層型導波管線路5および変換部6を伝送する高周波信号の遮断波長以下の間隔(たとえば、伝送する高周波信号の波長の2分の1未満の間隔)で信号伝送方向に沿って配列し、積層型導波管線路5においては電気的な側壁を形成し、この側壁と一対の導体層によって積層型導波管が構成される。
【0052】
側壁形成用のビアホール導体群41,42において、隣り合うビアホール導体の間隔が伝送する高周波信号の遮断波長よりも大きいと、この積層型導波管線路に給電された電磁波はビアホール導体とビアホール導体との隙間から漏れてしまい、側壁と一対の主導体層によって形成される積層型導波管に沿って伝搬しなくなってしまう。これに対し、側壁形成用ビアホール導体群41,42において、隣り合うビアホール導体の間隔が遮断波長以下であると、電磁波はビアホール導体とビアホール導体との隙間から漏れることなく反射しながら積層型導波管線路5の信号伝送方向に伝搬される。
【0053】
なお、側壁形成用ビアホール導体群41,42を構成するビアホール導体は、隣り合うビアホール導体の間隔が、一定間隔に設けられることが好ましいが、少なくとも伝送する信号の遮断波長以下の間隔であれば良く、その範囲内で適宜設定することができる。
【0054】
また、積層型導波管線路5を形成する2列の側壁形成用ビアホール導体群41,42の外側にさらに側壁形成用ビアホール導体群を設けて、側壁形成用ビアホール導体群による疑似的な側壁を、伝送方向に対する幅方向に2重、3重に形成することにより、電磁波の漏れをより効果的に防止することができる。
【0055】
図3を参照して誘電体層毎に具体的に説明する。図3(a)〜図3(d)は、誘電体層31,32,33,34を層ごとに展開し、高周波基板1の一表面側から見た平面図である。図3(e)は、誘電体層34を他表面側から見た平面図である。
【0056】
図3(a)に示すように、第2誘電体基板11を構成する誘電体層31の一表面には、ストリップ導体8aと、これに接続される上側主導体層211,221,231(変換導体12)が形成される。また、誘電体層31の内部には、貫通導体として2列の側壁形成用ビアホール導体群41,42が形成される。
【0057】
さらに、変換導体12の端部と積層型導波管主線路部24の端部とは一表面側から見たときに重なるように配置されており、図3(a)には、この変換導体12の端部と積層型導波管主線路部24端部とを電気的に接続するビアホール導体からなる境界壁形成用ビアホール導体群43が、信号伝送方向とは垂直な方向に伝送信号の遮断波長以下の間隔で誘電体層31内部に配置され、この境界からの高周波信号の漏れを防止する。なお、境界壁形成用ビアホール導体群43における両端の2本のビアホール導体は、側壁形成用ビアホール導体群41,42と共有される。
【0058】
図3(b)に示すように、第1誘電体基板10を構成する誘電体層32の表面には、マイクロストリップ線路8を構成するグランド導体8b、副導体層51が一体的に形成される。また、誘電体層32の内部には、2列の側壁形成用ビアホール導体群41,42が形成される。
【0059】
さらに、グランド導体8bの端部と下側主導体層212の端部とは一表面側から見たときに重なるように配置されており、グランド導体8b端部と下側主導体層212端部とを電気的に接続するビアホール導体からなる境界壁形成用ビアホール導体群43が、信号伝送方向とは垂直な方向に信号の遮断波長以下の間隔で配列され、この境界からの高周波信号の漏れを防止するように境界壁を形成している。なお、このビアホール導体群43の配列における両端の2本のビアホール導体は、側壁形成用ビアホール導体群41,42と共有している。
【0060】
図3(c)に示すように、第1誘電体基板10を構成する誘電体層33の表面には、下側主導体層212、副導体層52、積層型導波管主線路部24を構成する上側主導体層61が電気的に接続されて一体的に形成されている。また、誘電体層33の内部には、2列の側壁形成用ビアホール導体群41,42が形成される。
【0061】
さらに、下側主導体層212の端部と下側主導体層222の端部とは一表面側から見たときに重なるように配置されており、下側主導体層212端部と下側主導体層222端部とを電気的に接続するビアホール導体からなる境界壁形成用ビアホール導体群43が、信号伝送方向とは垂直な方向に信号の遮断波長以下の間隔で配列され、この境界からの高周波信号の漏れを防止するように境界壁を形成している。なお、このビアホール導体群43の配列における両端の2本のビアホール導体は、側壁形成用ビアホール導体群41,42と共有している。
【0062】
図3(d)に示すように、第1誘電体基板10を構成する誘電体層34の表面には、下側主導体層222、副導体層53が形成される。また、誘電体層34の内部には、2列の側壁形成用ビアホール導体群41,42が形成される。
【0063】
さらに、下側主導体層222の端部と下側主導体層232の端部とは一表面側から見たときに重なるように配置されており、下側主導体層222端部と下側主導体層232端部とを電気的に接続するビアホール導体からなる境界壁形成用ビアホール導体群43が、信号伝送方向とは垂直な方向に信号の遮断波長以下の間隔で配列され、この境界からの高周波信号の漏れを防止するように境界壁を形成している。なお、このビアホール導体群43の配列における両端の2本のビアホール導体は、側壁形成用ビアホール導体群41,42と共有している。
【0064】
図3(e)に示すように、誘電体層34の裏面には、下側主導体層232、積層型導波管主線路部24を構成する下側主導体層62が形成される。なお、図3(e)には示していないが、下側主導体層232の端部には、図3(d)に示す境界壁形成用ビアホール導体群43が接続されている。また、積層型導波管主線路部24を構成する下側主導体層62には、図3(d)に示す側壁形成用ビアホール導体群41,42が接続されている。
【0065】
さらに、第1誘電体基板10のように積層型導波管線路を構成する誘電体層が複数層からなる場合は、誘電体層間に主導体層と平行に副導体層を設けることが好ましい。副導体層は、同じ列に属し、同じ誘電体層を貫通する各ビアホール導体群を、列ごとにそれぞれ個別に電気的に接続し、ビアホール導体群の配列方向に延びる帯状の導体層である。
【0066】
このような副導体層は、図3における導体層51,52,53が、これに相当し、ビアホール導体群と副導体層とによって、格子状に形成された側壁が得られ、様々な方向の電磁波漏れを遮蔽することができる。また、副導体層は、ビアホール導体の大きなランドとしても機能し、積層ずれによって生じるビアホール導体の厚み方向の接続不良を抑制することができる。ビアホール導体の厚み方向の接続不良が生じると、接続不良部分で電磁波の漏れが発生しやすくなり、伝送損失が大きくなってしまうが、副導体層を設けることでこれを防止することができる。
【0067】
このような変換部6の構成とすることで、MMIC4から出力された高周波信号またはMMIC4に入力される高周波信号の伝送モードは、マイクロストリップ線路8の伝送モードである準TEMモードと、積層型導波管線路5の伝送モードであるTEモードとが互いに変換され、広帯域、低損失の信号伝送を実現できる。
【0068】
上記のように、変換部6が設けられる第2誘電体基板11を構成する誘電体の比誘電率が、積層型導波管線路5が設けられる第1誘電体基板10を構成する誘電体の比誘電率よりも小さくなるのであれば、誘電体の材質は問わない。好ましくは、第2誘電体基板11を構成する誘電体の比誘電率が、第1誘電体基板10を構成する誘電体の比誘電率の3/4倍以下、より好ましくは、1/2倍以下であるのがよい。これにより、高周波信号の伝送特性の劣化を有効に抑えることができる。
【0069】
第1誘電体基板10および第2誘電体基板11を構成する誘電体としては、アルミナ、窒化アルミニウム、ガラスセラミックスなどのセラミックス材料、ポリイミド、ガラスエポキシ、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、液晶ポリマー、フッ素樹脂、フッ素ガラス樹脂などの有機材料を用いることができる。
【0070】
第1誘電体基板10および第2誘電体基板11を構成する誘電体が、いずれもセラミックス材料である場合は、たとえば、第1誘電体基板10を構成する誘電体として比誘電率が9〜10程度のアルミナを用い、第2誘電体基板11を構成する誘電体として比誘電率が2〜4程度のガラスセラミックスを用いることが好ましい。
【0071】
第1誘電体基板10および第2誘電体基板11を構成する誘電体が、いずれもセラミックス材料である場合は、以下のように高周波基板1を製造することができる。
【0072】
第1誘電体基板10用に、アルミナ質セラミックスの原料粉末に適当な有機溶剤・溶媒を添加混合して泥漿状になすとともにこれを従来周知のドクターブレード法やカレンダーロール法等を採用してシート状となすことによって複数枚のセラミックグリーンシートを得、第2誘電体基板11用に、ガラスセラミックス原料粉末に適当な有機溶剤・溶媒を添加混合してセラミックグリーンシートを得る。
【0073】
その後、これらセラミックグリーンシートの各々に適当な打ち抜き加工を施すとともに、導体ペーストをビアホールへ充填し、配線パターン、ベタパターンを印刷したものを積層し、焼成することによって、第1誘電体基板10および第2誘電体基板11、すなわち高周波基板1が製造される。
【0074】
また、ストリップ導体、グランド導体および一対の主導体層としては、たとえば誘電体層がアルミナ質セラミックスからなる場合には、タングステン・モリブデンなどの金属粉末に適当なアルミナ・シリカ・マグネシア等の酸化物や有機溶剤・溶媒等を添加混合した導体ペーストを厚膜印刷法によりセラミックグリーンシート上に印刷し、しかる後、約1600℃の高温で同時焼成し、厚み10〜15μm以上となるようにして形成する。なお、金属粉末としては、ガラスセラミックスの場合は銅・金・銀が、アルミナ質セラミックス、窒化アルミニウム質セラミックスの場合はタングステン・モリブデンが好適である。また、主導体層の厚みは5〜50μm程度である。
【0075】
このように、第1誘電体基板10および第2誘電体基板11を構成する誘電体として異なる種類の材質を用いる場合、それぞれの焼結温度が異なることになる。
【0076】
ガラスセラミックスの場合は、焼結温度が850〜1000℃であり、アルミナの場合は1500〜1700℃あるので、まず、グリーンシートの積層体を、ガラスセラミックスの焼結温度で焼成する。このとき、アルミナのグリーンシートは、焼結しないので収縮が起こらず、ガラスセラミックスが焼結するときにアルミナのグリーンシートによってガラスセラミックスの収縮が抑制される。これにより、ガラスセラミックスの拘束焼成が可能となる。
【0077】
さらに、ガラスセラミックスの焼結後、アルミナの焼結温度で焼成する。このとき、ガラスセラミックスはすでに焼結されているので、アルミナの焼結時にガラスセラミックスの収縮は起こらない。したがって、アルミナが焼結するときにガラスセラミックスによってアルミナの収縮が抑制される。これにより、アルミナの拘束焼成が可能となる。
【0078】
以上のように、別途、拘束焼成用の治具などを使用することなく、拘束焼成が可能であり、高い寸法精度で高周波基板1を製造することができる。
【0079】
また、第1誘電体基板10を構成する誘電体が、セラミックス材料であり、第2誘電体基板11を構成する誘電体が、樹脂材料である場合は、たとえば、第1誘電体基板10を構成する誘電体として比誘電率が9〜10程度のアルミナを用い、第2誘電体基板11を構成する誘電体として比誘電率が2〜4程度のポリイミド、ガラスエポキシ、PTFE、液晶ポリマー、フッ素樹脂、フッ素ガラス樹脂を用いることが好ましい。
【0080】
このような構成の場合は、第1誘電体基板10と、第2誘電体基板11とを個別に製造し、導電性接着剤などで貼り合わせることで高周波基板1を製造することができる。
【0081】
積層型導波管線路5と変換部6との間のずれが、伝送特性には大きな影響を与えるので、第1誘電体基板10と、第2誘電体基板11とを個別に製造することで、これらの貼り合わせ工程を、画像認識技術などを適用して高精度することができ、積層型導波管線路5と変換部6との間のずれを抑制することができる。
【0082】
さらに、第2誘電体基板11にMMIC4を予め実装したのち、MMIC4実装済みの第2誘電体基板11と、第1誘電体基板10とを貼り合わせることもできる。
【0083】
図4は、本発明の他の実施形態である高周波基板70を備えるアンテナモジュール71の構成を示す概略図である。
【0084】
本実施形態のアンテナモジュール71と、図1に示したアンテナモジュール2との構成の違いは、本実施形態では、MMIC4の保護キャップ72を備えること、第2誘電体基板73が、保護キャップ72の内部空間に収まる程度の大きさに設けられることである。
【0085】
なお、図1に示したアンテナモジュール2と同じ構成については、同じ参照符号を付し、説明は省略する。
【0086】
保護キャップ72を設ける目的は、外部からの不要電磁波が信号線路に結合して信号にノイズが混入することを防ぐとともに、外部へ電磁波を放射することにより、他の機器に悪影響を及ぼすことを防止するものである。保護キャップ72は、アルミニウムなどの金属からなる金属筐体によって形成するのが好ましい。保護キャップ72を金属筐体とすることによって、電磁波の遮蔽性が高く、放熱性がよくなる。また、金属筐体に限らず、樹脂筐体やセラミックス筐体の内面に金属めっきや金属メタライズを施したものでもよい。
【0087】
MMIC4を駆動させるためのバイアス配線74は第1誘電体基板10に内部に形成され、第2誘電体基板73の裏面の接続パッドに接続される。
【0088】
また本発明の他の実施形態として、高周波基板1を備える送受信器およびレーダ装置が実現可能である。
【0089】
送受信器は、高周波基板1と、第2誘電体基板11に実装される送信用のMMIC4と、MMIC4から出力された高周波信号を分岐する分岐器と、アンテナ基板3に設けられる送信アンテナで、積層型導波管線路5に接続され、分岐器で分岐された一方の高周波信号を放射する送信アンテナと、積層型導波管線路5に接続され、アンテナ基板3に設けられる、高周波信号を捕捉する受信アンテナと、分岐器で分岐された他方の高周波信号と受信アンテナで捕捉された高周波信号とを混合して中間周波信号を出力するミキサとを含む。
【0090】
また、レーダ装置は、上記の送受信器と、ミキサからの中間周波信号に基づいて、探知対象物との距離または相対速度を少なくとも検出する検出器とを含む。
【0091】
本発明の送受信器は、高周波基板1を用いることにより、高周波信号の伝送特性の劣化が抑えられるので、小型でかつ良好な送受信性能を実現できる。
【0092】
また本発明のレーダ装置は、高周波信号の伝送特性の劣化が抑えられた送受信器を用いることで、検出精度を向上させることができる。
【0093】
なお、本発明は、上記実施例に限定されるものではない。高周波伝送線路導体と積層型導波管線路とを電磁結合させるための変換部6は、上記構造に限らず、公知の高周波伝送線路導体と積層型導波管線路との接続構造が適用できる。
【符号の説明】
【0094】
1 高周波基板
2 アンテナモジュール
3 アンテナ基板
4 MMIC(モノリシックマイクロ波集積回路)
5 積層型導波管線路
6 変換部
10 第1誘電体基板
11 第2誘電体基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1誘電体層と、前記第1誘電体層を挟む一対の主導体層と、前記一対の主導体層を電気的に接続するビアホール導体群とを有する第1誘電体基板であって、前記第1誘電体層の、前記主導体層と前記ビアホール導体群とで囲まれた領域に高周波信号を伝搬する積層型導波管線路が設けられた第1誘電体基板と、
前記第1誘電体基板に積層される第2誘電体基板であって、前記第1誘電体層の比誘電率よりも小さい比誘電率を有する第2誘電体層と、前記第2誘電体層表面に形成される高周波伝送線路導体と、前記高周波伝送線路導体と前記積層型導波管線路とを電磁結合させるための変換部とを有する第2誘電体基板とを備えることを特徴とする高周波基板。
【請求項2】
前記高周波伝送線路導体は、ストリップ線路を構成するストリップ導体であり、
前記変換部は、前記第2誘電体層表面に形成され、前記ストリップ導体に電気的に接続される変換導体を含むことを特徴とする請求項1記載の高周波基板。
【請求項3】
請求項1または2記載の高周波基板と、
前記高周波基板の前記第2誘電体層表面に実装され、前記高周波伝送線路導体に接続された、高周波信号を出力する送信素子と、
前記第1誘電体基板の前記第2誘電体基板が積層される側とは反対側に接合されるアンテナ基板であって、前記積層型導波管線路に接続された、前記高周波信号を放射するアンテナを含むアンテナ基板とを備えることを特徴とする送信器。
【請求項4】
請求項1または2記載の高周波基板と、
前記高周波基板の前記第2誘電体層表面に実装され、前記高周波伝送線路導体に接続された、高周波信号が入力される受信素子と、
前記第1誘電体基板の前記第2誘電体基板が積層される側とは反対側に接合されるアンテナ基板であって、前記積層型導波管線路に接続された、前記高周波信号を捕捉するアンテナを含むアンテナ基板とを備えることを特徴とする受信器。
【請求項5】
請求項1または2記載の高周波基板と、
前記高周波基板の前記第2誘電体層表面に実装され、前記高周波伝送線路導体に接続された、高周波信号を出力する送信素子と、
前記送信素子で出力された高周波信号を分岐する分岐器と、
前記積層型導波管線路に接続され、前記分岐器で分岐された一方の前記高周波信号を放射する送信アンテナと、
前記積層型導波管線路に接続され、高周波信号を捕捉する受信アンテナと、
前記分岐器で分岐された他方の前記高周波信号と前記受信アンテナで捕捉された前記高周波信号とを混合して中間周波信号を出力するミキサとを含むことを特徴とする送受信器。
【請求項6】
請求項6記載の送受信器と、
前記ミキサからの中間周波信号に基づいて、探知対象物との距離または相対速度を少なくとも検出する検出器とを含むことを特徴とするレーダ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−206326(P2010−206326A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47309(P2009−47309)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】