説明

高周波帯域等分配回路

【課題】製造容易で安価でありながらも、入力整合・アイソレーション・電力等分配・分配位相差90°を実現し、また、動作周波数を任意に変化させられ、コグニティブ無線やソフトウェア無線に適用できる高周波帯域等分配回路を提供すること。
【解決手段】誘電体の下面にグランド層が形成された高周波回路基板と、その高周波回路基板の上面に設けられるマイクロストリップ線路と、そのマイクロストリップ線路に電気的に接続され、高周波を入出力する入出力線路と、を備えた高周波帯域等分配回路において、入力線路との接続位置と出力線路との接続位置に、それぞれ動作周波数を制御する容量性負荷を設け、その容量値により動作周波数の値を制御する。マイクロストリップ線路を、高周波の入力線路と出力線路に連なり動作周波数の略波長となる線状の2つの線路と、その2つの線路の間に接続され動作周波数の略波長となる線状の2つの副線路とから構成してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波帯において入力整合・アイソレーション・電力等分配・分配位相差90°を実現する小型分配回路に関する。詳しくは、これらの特性を保持しながら動作周波数のみを変化させることができるチューナブル高周波帯等分配回路であり、特に、移動体通信における使用周波数が過密な周波数領域通信において、動作周波数を任意に選んで通信を行うコグニティブ無線通信やソフトウェア無線通信への適用が可能な通信機器に不可欠な高周波帯域等分配回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ギガヘルツ帯(1〜5GHz)の移動通信システムが展開されるようになり、その帯域に対応可能な高周波回路のマイクロ波集積回路化やモノリシックマイクロ波集積回路化が要求されている。
【0003】
従来、周波数がGHz帯の電力分配・合成回路は、1波長の長さを有する3dBブランチラインカップラが主に用いられている。
しかし、1波長として動作させるため、小型化は困難である。更に、線路長を自由に変化させられないため、チューナブル化は不可能であった。
また、電力分配・合成回路は、入力整合・アイソレーション・電力等分配・分配位相差90°が要求されるため、その調整は経験と勘に頼らざるを得ず、製造の困難性や高コスト化の原因となっていた。
【0004】
特許文献1〜4には、3dBブランチラインカップラとして動作させるための技術が開示されている。
しかしながら、従来の電力等分配回路は、十分な小型化が達成されていず、また性能の再現性や製造コストなどの点で問題点があった。更に、チューナブル化についての開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−68123号公報
【特許文献2】特開2004−134894号公報
【特許文献3】特開2004−135102号公報
【特許文献4】特開2004−349960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、マイクロストリップ線路構造を基にして、製造容易で安価でありながらも、入力整合・アイソレーション・電力等分配・分配位相差90°を実現し、また、動作周波数を任意に変化させられ、コグニティブ無線やソフトウェア無線に適用できる高周波帯域等分配回路を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の高周波帯域等分配回路は次の構成を備える。すなわち、誘電体の下面にグランド層が形成された高周波回路基板と、その高周波回路基板の上面に設けられるマイクロストリップ線路と、そのマイクロストリップ線路に電気的に接続され、高周波を入出力する入出力線路と、を備えた高周波帯域等分配回路において、入力線路との接続位置と出力線路との接続位置に、それぞれ動作周波数を制御する容量性負荷を設け、その容量値により動作周波数の値を制御することを特徴とする。
【0008】
ここで、マイクロストリップ線路を、高周波の入力線路と出力線路に連なり動作周波数の略波長となる線状の2つの線路と、その2つの線路の間に接続され動作周波数の略波長となる線状の2つの副線路とから構成してもよい。
【0009】
2つのマイクロストリップ線路の特性インピーダンスを同じに構成してもよい。
【0010】
2つのマイクロストリップ線路の特性インピーダンスを異なるように構成してもよい。
【0011】
入出力線路との接続位置に設ける容量性負荷としては、容量の可変なチップキャパシタが有用に用いられる。
【0012】
入出力線路との接続位置に設ける容量性負荷としては、容量の可変なバラクタダイオードも有用に用いられる。
【0013】
高周波を入出力する入出力線路を、マイクロストリップ線路の任意の位置にタップ接続される構成にしてもよい。
【0014】
マイクロストリップ線路の線路長θ1,θ2を、次式によって定めてもよい。
【0015】
【数1】

【0016】
マイクロストリップ線路の特性インピーダンスZを、次式によって定めてもよい。
【0017】
【数2】

【0018】
(ただし、Z0は外部回路の特性インピーダンスである。)
【0019】
容量性負荷の容量値Cを、次式によって定めてもよい。
【0020】
【数3】

【発明の効果】
【0021】
本発明によると、マイクロストリップ線路を用いたために製造容易で小型安価でありながらも性能が安定し、入力整合・アイソレーション・電力等分配・分配位相差90°の高周波帯等分配回路を提供できる。そして、入出力線路との接続位置に設けた容量性負荷の容量値により動作周波数の値を制御し、チューナブル高周波帯等分配回路を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例のチューナブル高周波帯等分配回路を示す説明図
【図2】本発明の実施例のチューナブル高周波帯域等分配回路の特性を示すグラフ
【図3】チューニングキャパシタを変化させた場合の等分配周波数特性の変化を示すグラフ
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を、図面に示す実施例を基に説明する。なお、実施形態は、従来公知の技術を援用して適宜設計変更可能である。
【0024】
図1は、本発明の実施例のチューナブル高周波帯等分配回路を示す説明図である。
本実施例の帯等分配回路は、誘電体の下面にグランド層が形成された高周波回路基板の前記誘電体の上面に形成される。その高周波回路基板は、周知のものであるためここでは図示しない。帯等分配回路は、高周波回路基板の上面に設けられるマイクロストリップ線路と、そのマイクロストリップ線路に電気的に接続され、高周波を入出力する入出力線路と、を備えた高周波帯域等分配回路において、高周波の入力線路と出力線路に連なり動作周波数の2θ1の長さの線状の2つのマイクロストリップ線路と、その2つの線路の間に接続され動作周波数の2θ2の長さの線状の2つの副マイクロストリップ線路とから成り、2θ1と2θ2の4つのマイクロストリップ線路により略ロ字状に形成される。
【0025】
マイクロストリップ線路の線路長θ1,θ2は、次式によって定められる。
【0026】
【数1】

【0027】
高周波を入出力する入出力線路は、マイクロストリップ線路の任意の位置にタップ接続する構成にしてもよい。高周波回路基板としては、PTFE、ガラスエポキシ、アルミナ、導体としては、銅箔が好適に利用できる。
【0028】
2つのマイクロストリップ線路の特性インピーダンスZは同一でもよいし、異なる値に設定してもよい。その特性インピーダンスZを、次式によって定められる。
【0029】
【数2】

【0030】
ただし、Z0は外部回路の特性インピーダンスである。
【0031】
入力線路との接続位置と出力線路との接続位置に、それぞれ容量性負荷Cを設け、その容量値により動作周波数の値を制御する。入出力線路との接続位置に設ける容量性負荷としては、容量の可変なチップキャパシタやバラクタダイオードが利用できる。
容量性負荷の容量値Cは、次式によって定められる。
【0032】
【数3】

【0033】
図2は、本発明の実施例のチューナブル高周波帯域等分配回路の特性を示すグラフである。
通過信号の中心周波数に2GHzを想定したものであり、S11は入力整合を示し、S21、S31は伝達特性を示し、S41はアイソレーションを示している。
【実施例】
【0034】
図3は、本発明によるチューナブル高周波帯等分配回路の実施例において、そのチューニングキャパシタCの値を変化させた場合の等分配周波数特性の変化を示すグラフである。
図示のように、チューニングキャパシタの容量値を変化させた場合、等分配値である3dBの値は変化しないが、動作周波数が変化することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の高周波帯域等分配回路によると、製造容易で小型安価でありながらも安定した性能を有し、入力整合・アイソレーション・電力等分配・分配位相差90°を実現でき、また、動作周波数を任意に変化させられるので、特に、使用周波数が過密な周波数領域の各種移動体通信において、動作周波数を任意に選んで通信を行うコグニティブ無線やソフトウェア無線など、諸々の場面に活用でき、産業上利用価値が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体の下面にグランド層が形成された高周波回路基板と、その高周波回路基板の上面に設けられるマイクロストリップ線路と、そのマイクロストリップ線路に電気的に接続され、高周波を入出力する入出力線路と、を備えた高周波帯域等分配回路において、
入力線路との接続位置と出力線路との接続位置に、それぞれ動作周波数を制御する容量性負荷を設け、その容量値により動作周波数の値を制御する
ことを特徴とする高周波帯域等分配回路。
【請求項2】
マイクロストリップ線路が、高周波の入力線路と出力線路に連なり動作周波数の略波長となる線状の2つの線路と、その2つの線路の間に接続され動作周波数の略波長となる線状の2つの副線路とから成る
請求項1に記載の高周波帯域等分配回路。
【請求項3】
2つのマイクロストリップ線路の特性インピーダンスが同じである
請求項1または2に記載の高周波帯域等分配回路。
【請求項4】
2つのマイクロストリップ線路の特性インピーダンスが異なる
請求項1または2に記載の高周波帯域等分配回路。
【請求項5】
入出力線路との接続位置に設ける容量性負荷が、容量の可変なチップキャパシタである
請求項1ないし4のいずれかに記載の高周波帯域等分配回路。
【請求項6】
入出力線路との接続位置に設ける容量性負荷が、容量の可変なバラクタダイオードである
請求項1ないし4のいずれかに記載の高周波帯域等分配回路。
【請求項7】
高周波を入出力する入出力線路が、マイクロストリップ線路の任意の位置にタップ接続される
請求項1ないし6のいずれかに記載の高周波帯域等分配回路。
【請求項8】
マイクロストリップ線路の線路長θ1,θ2を、次式
【数1】

によって定める
請求項1ないし7のいずれかに記載の高周波帯域等分配回路。
【請求項9】
マイクロストリップ線路の特性インピーダンスZを、次式
【数2】

(ただし、Z0は外部回路の特性インピーダンスである。)
によって定める
請求項1ないし8のいずれかに記載の高周波帯域等分配回路。
【請求項10】
容量性負荷の容量値Cを、次式
【数3】

によって定める
請求項1ないし9のいずれかに記載の高周波帯域等分配回路。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−124635(P2012−124635A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272329(P2010−272329)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(000210964)中央電子株式会社 (81)