説明

高周波数帯域用の電気絶縁材料及びそれを用いた通信ケーブル

【課題】5〜18GHzが使用周波数帯域に含まれる電気絶縁材料、つまり5〜18GHzの高周波数帯域において優れた誘電特性を有し、前記高周波数帯域においても十分使用が可能な電気絶縁材料を提供することにある。
【解決手段】5〜18GHzが使用周波数帯域で使用される電気絶縁材料であって、オレフィン系樹脂に、酸化防止剤としてヒンダードフェノール構造を有しないフェノール系の酸化防止剤を配合してなる電気絶縁材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、5〜18GHzが使用周波数帯域に含まれる電気絶縁材料であって、5〜18GHzの高周波数帯域において優れた誘電特性を有する電気絶縁体材料及びそれを用いた通信ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、通信ケーブルの高速大容量化が進んでおり、該通信ケーブルで使用される周波数帯域(以下、使用周波数帯域という)も5〜18GHzの高周波数帯域に達している。このため、5〜18GHzの高周波数帯域が使用周波数帯域に含まれる高周波用の通信ケーブル(つまり、5〜18GHzの高周波数帯域でも十分に使用可能な通信ケーブル)に用いられる電気絶縁材料として、5〜18GHzの高周波数帯域において優れた誘電特性を有する電気絶縁材料が要求されている。
一方、前記通信ケーブルは、車載用途などの高温環境下で使用される例も増加している。このように、通信ケーブルが高温環境下で使用されたりする場合には、前記通信ケーブルに用いられる電気絶縁材料には、耐熱寿命特性を維持させるために各種の酸化防止剤の添加は避けられない。また、前記電気絶縁材料に化学架橋や電子線架橋を施すにあたり、分子切断を抑制するため、多量の酸化防止剤が添加される。しかしながら、この酸化防止剤は高周波数帯域における誘電特性に悪影響を及ぼすことが考えられ、5〜18GHzが使用周波数帯域に含まれる電気絶縁材料を得るためには、前記電気絶縁材料に添加される酸化防止剤の選択が重要な問題となる。しかし、従来の空洞共振器摂動法では、5GHz程度までの低周波数帯域での誘電特性の測定しか行えず、その低周波数帯域での評価結果に基づき、前記酸化防止剤を選定せざるを得なかった。
【0003】
このような点に関する技術としては、例えば特許文献1が知られている。誘電正接(tanδ)が小さく、耐熱安定性が改善された通信用電線・ケーブルの被覆材料として、エチレン系樹脂にイオウを含まないヒンダードフェノール酸化防止剤及びアリールアミン型酸化防止剤を添加するものであるが、高周波数帯域としては2500MHzまでしか開示されておらず、これよりも高い周波数帯域での特性に関しては推測できない。また、特許文献2には、種々の酸化防止剤を含有する高周波同軸ケーブル用の絶縁材料が記載されているが、この発明においても2.45GHzまでのデータしか開示されておらず、それよりはるかに高い周波数帯域での特性に関しては不明である。
なお、本発明の高周波数帯域での通信ケーブルとしては、データケーブル、高速伝送ケーブル、インフィニバンドケーブル、マイクロUSBケーブル、車載ETCなどに用いられる高周波同軸ケーブル等が知られている。
【特許文献1】特開2002−42555号公報
【特許文献2】特開2004−349160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記従来技術による諸問題を解決し、以下の目的を課題とする。即ち、本発明は、5〜18GHzが使用周波数帯域に含まれる電気絶縁材料を提供すること、つまり5〜18GHzの高周波数帯域において優れた誘電特性を有し、前記高周波数帯域においても十分使用が可能な電気絶縁材料を提供することを目的とする。そして、5〜18GHzの高周波数帯域において十分使用が可能な高周波用の通信ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる課題を解決するための手段としては、以下のとおりである。
<1> 5〜18GHzが使用周波数帯域に含まれる電気絶縁材料であって、オレフィン系樹脂に、酸化防止剤としてヒンダードフェノール構造を有しないフェノール系の酸化防止剤を配合してなる電気絶縁材料である。
<2> フェノール系の酸化防止剤が、下記一般式(1)で表されるセミヒンダードフェノール系の酸化防止剤、及び下記一般式(2)で表されるレスヒンダードフェノール系の酸化防止剤の少なくともいずれかであることを特徴とする前記<1>に記載の電気絶縁材料である。
【化1】

【化2】

前記一般式(1)及び前記一般式(2)において、R及びRは高分子鎖を表す。
【0006】
<3> セミヒンダードフェノール系の酸化防止剤が、3,9−ビス[2−{3−(3−ターシャリーブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2、4−8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、及びエチレンビス(オキシエチエレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、トリエチレングリコールビス[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネートから選ばれる1種である前記<2>に記載の電気絶縁材料である。
<4> レスヒンダードフェノール系の酸化防止剤が、4,4´−チオビス(3−メチル−6−ターシャリーブチル)フェノール、1,1,3−トリス−(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−ターシャリーブチルフェニル)ブタン、4,4´−ブチリデンビス(3−メチル−6−ターシャリーブチル)フェノールから選ばれる1種である前記<2>に記載の電気絶縁材料である。
【0007】
<5> オレフィン系樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレン及びエチレン−プロピレン共重合体の少なくともいずれかである前記<1>から<4>のいずれかに記載の電気絶縁材料である。
<6> オレフィン系樹脂100重量部に対して、酸化防止剤が0.005〜2重量部配合されてなる前記<1>から<5>のいずれかに記載の電気絶縁材料である。
<7> 化学架橋または電子線架橋を施した前記<1>から<6>のいずれかに記載の電気絶縁材料である。
【0008】
<8> 前記<1>から<7>のいずれかに記載の電気絶縁材料を、絶縁体層として用いた通信ケーブルである。
<9> 同軸ケーブルである前記<8>に記載の通信ケーブルである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、前記従来技術における諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、5〜18GHzが使用周波数帯域に含まれる電気絶縁材料であって、5〜18GHzの高周波数帯域において優れた誘電特性を有する電気絶縁材料を提供できる。また、前記電気絶縁材料を絶縁体層として用いた通信ケーブルにあっては、5〜18GHzの高周波数帯域における前記絶縁体層の誘電損失が小さく、信号減衰量も小さいため、5〜18GHzの高周波数帯域において十分使用可能である。また前記酸化防止剤を配合してなる電気絶縁材料を絶縁体層として用いた前記通信ケーブルは、高温環境下で使用しても長寿命を有するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】電気絶縁材料に配合される酸化防止剤の化学構造式を示す図である。
【図2】酸化防止剤の他の化学構造式を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明の電気絶縁材料は、5〜18GHzが使用周波数帯域に含まれる電気絶縁材料であって、オレフィン系樹脂に、酸化防止剤としてヒンダードフェノール構造を有しないフェノール系の酸化防止剤を配合してなる電気絶縁材料である。
【0012】
前記ヒンダードフェノール構造を有しないフェノール系の酸化防止剤としては、下記一般式(1)に表されるセミヒンダードフェノール系の酸化防止剤、及び下記一般式(2)に表されるレスヒンダードフェノール系の酸化防止剤が挙げられる。
【化3】

【化4】

前記一般式(1)及び前記一般式(2)において、R及びRは高分子鎖を表す。
【0013】
さらに、前記セミヒンダードフェノール系の酸化防止剤としては、3,9−ビス[2−{3−(3−ターシャリーブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2、4−8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(例えば、アデカ社のアデカスタブAO−80)、エチレンビス(オキシエチエレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート](例えば、チバスペシャルティケミカルズ社のイルガノックス245)、トリエチレングリコールビス[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート(例えば、アデカ社のアデカスタブAO−70)が挙げられる。
また、前記レスヒンダードフェノール系の酸化防止剤としては、4,4´−チオビス(3−メチル−6−ターシャリーブチル)フェノール(例えば、大内新興化学工業社のノクラック300)、1,1,3−トリス−(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−ターシャリーブチルフェニル)ブタン(例えば、アデカ社のアデカスタブAO−30)、4,4´−ブチリデンビス(3−メチル−6−ターシャリーブチル)フェノール(例えば、アデカ社のアデカスタブAO−40)が挙げられる。
これらの酸化防止剤は、その分子構造から、周波数による影響を比較的受け難く、高周波帯域における誘電特性が良好になるものと考えられる。
【0014】
なお、高周波数帯域における電気絶縁材料の誘電特性は、Tanδの測定に用いられている空洞共振厳密測定法(JISR 1641)を用いて、評価できる。
前記空洞共振厳密測定法(JISR 1641)に基づき、3GHz、6GHz、12GHz及び18GHz測定用の空洞共振器(川島製作所製)を用い、各周波数における誘電正接(tanδ)をそれぞれ測定した結果、オレフィン系樹脂に酸化防止剤を配合してなる電気絶縁材料において、前記酸化防止剤として、ヒンダードフェノール構造を有しないフェノール系の酸化防止剤を配合してなる電気絶縁材料、具体的には、前記酸化防止剤として、セミヒンダードフェノール系の酸化防止剤及び/またはレスヒンダードフェノール系の酸化防止剤を配合してなる電気絶縁材料は、周波数による影響を受けず、3〜18GHzの各周波数における誘電正接(tanδ)が安定していることが確認された。
【0015】
通常、オレフィン系樹脂に酸化防止剤を配合してなる電気絶縁材料では、周波数が高くなるほどtanδの増加傾向が見られるが、ヒンダードフェノール構造を有しないフェノール系の酸化防止剤を配合してなる電気絶縁材料では、他の酸化防止剤(ヒンダードフェノール系の酸化防止剤)を配合してなる電気絶縁材料よりも、その傾向が小さいことが確認された。
【0016】
また、前記酸化防止剤の添加量は、オレフィン系樹脂100重量部に対して酸化防止剤を0.005〜2重量部であることが好ましい。前記添加量範囲の前記酸化防止剤を配合してなる電気絶縁材料では、高周波数帯域において特に優れた誘電特性を示し(18GHzにおける誘電正接が2.4×10−4以下)、5〜18GHzが使用周波数帯域に含まれる電気絶縁材料として十分に実用的であると同時に、当該電気絶縁材料を絶縁体層として用いた通信ケーブルでは、高周波領域において優れた電気特性(信号減衰量が4.0dB/m以下)及び優れた熱老化特性(200℃及び220℃における酸化誘導期間が長い)を示し、高周波用通信ケーブルとして高温環境下で使用しても長寿命を有するものとなる。
【0017】
そして、前記酸化防止剤を配合してなる電気絶縁材料において、オレフィン系樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びエチレン−プロピレン共重合体の少なくともいずれかである場合に、特に優れた効果を発揮するものである。
前記ポリエチレンとしては、宇部丸善ポリエチレン社の低密度ポリエチレンB028(密度が、0.928であり、190℃、2.16kgfにおけるメルトフローレート(以下、MFRという)が、0.4である)が挙げられる。
前記ポリプロピレンとしては、プライムポリプロ社のE−100GPL(密度が、0.90であり、230℃、2.16kgfにおけるMFRが、0.9である)が挙げられる。
前記エチレン−プロピレン重合体としては、日本ポリプロ社のFB3312(密度が、0.9であり、230℃、2.16kgfにおけるMFRが、3である)が挙げられる。
【0018】
前記ポリエチレン、ポリプロピレン、及びエチレン−プロピレン共重合体は通信ケーブル等に最も多用されており、他の特性からも好ましい電気絶縁材料であるため、この種の材料が使用できることは製造上等からも好ましいものである。
【0019】
さらに、前記電気絶縁材料を絶縁体層として用いることにより、5〜18GHzの高周波数帯域における電気特性に優れた通信ケーブル(例えば、高周波同軸ケーブル、高周波耐熱同軸ケーブル、携帯電話基地局用同軸ケーブル、マイクロUSB、車載ETCなどに用いられる高周波同軸ケーブル等)を提供することができる。
【実施例】
【0020】
表1及び表2に示す実施例及び比較例によって、本発明の効果を示す。
実施例1〜28及び比較例1〜21の電気絶縁材料は、宇部丸善ポリエチレン社の低密度ポリエチレン(B028)に、酸化防止剤を配合してなる電気絶縁材料である。
表1に、前記電気絶縁材料の組成及び高周波数帯域における誘電特性の評価を示す。
【0021】
実施例1〜28は、前記低密度ポリエチレン(LDPE)100重量部に対し、酸化防止剤として、セミヒンダードフェノール系酸化防止剤(アデカスタブAO−80やイルガノックス245)、またはレスヒンダードフェノール系酸化防止剤(ノクラック300やアデカスタブAO−30)を配合してなる電気絶縁材料である。
一方、比較例1〜21は、前記低密度ポリエチレン100重量部に対し、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(チバスペシャルティケミカルズ社のイルガノックス1010、イルガノックス1076、イルガノックス3114、イルガノックス1330)を配合してなる電気絶縁材料である。
なお、各実施例及び各比較例の電気絶縁材料に配合される各酸化防止剤の化学構造式について、図1示す。
【0022】
表1に示す電気絶縁材料の評価、つまり各周波数(3GHz,6GHz,12GHz,18GHz)における誘電正接(tan)の測定結果は、以下のように行った。
JIS R1641に従い、直径φ180mm、厚さ1mmのシート状の電気絶縁材料について、測定周波数3.0GHzにて測定した誘電正接(tanδ)の値を、周波数3GHzにおける誘電特性の評価結果とした。
同様にして、JIS R1641に従い、直径φ85mm、厚さ1mmのシート状の電気絶縁材料について、測定周波数5.8GHzにて測定した誘電正接(tanδ)の値を、周波数6GHzにおける誘電特性の評価結果とした。また、同様にして、JIS R1641に従い、直径φ50mm、厚さ1mmのシート状の電気絶縁材料について、測定周波数11.3GHz若しくは16.8GHzにてそれぞれ測定した誘電正接(tanδ)の値を、周波数12GHz若しくは18GHzにおけるそれぞれの誘電特性の評価結果とした。
【0023】
【表1】

【0024】
表1に示すように、セミヒンダードフェノール系の酸化防止剤やレスヒンダードフェノール系の酸化防止剤を配合してなる実施例1〜28の電気絶縁材料では、誘電正接(tanδ)が周波数の影響を受けず、安定していた。特に、前記酸化防止剤が0.005〜2重量部の範囲で配合された実施例1〜12の電気絶縁材料は、3〜18GHzの高周波数帯域において、前記誘電正接(tanδ)が高いものでも2.4×10−4以下であった。
【0025】
一方、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤を配合してなる比較例の電気絶縁材料では、3〜18GHzの高周波数帯域において、誘電正接(tanδ)が周波数の影響を受ける。
特に、前記酸化防止剤を0.2重量部以上配合してなる電気絶縁材料(比較例4〜6、比較例9〜11、比較例14〜16及び比較例19〜21)では、周波数が高くなると、誘電正接(tanδ)が大きく上昇することが判る。また、該電気絶縁材料の18GHzにおける誘電正接(tanδ)が、4.0×10−4を超えるなど、5〜18GHzを使用周波数帯域に含む電気絶縁材料として、使用することができない。
【0026】
次に、オレフィン系樹脂に酸化防止剤を配合してなる電気絶縁材料を、絶縁体層として用いた同軸ケーブルを作製し(実施例29〜56及び比較例22〜42)、該同軸ケーブルの信号減衰量及び酸化誘導期間の測定を行い、前記電気絶縁材料を絶縁体層として用いた同軸ケーブル(通信ケーブル)の評価(信号衰退量及び熱老化特性)を行った。
表2に、前記同軸ケーブルの絶縁体層に用いられる電気絶縁材料の組成及び高周波数帯域における信号衰退量及び熱老化特性の評価を示す。
【0027】
各実施例及び各比較例の同軸ケーブルは、導体径0.60mmの内部銅導体上に、オレフィン系樹脂に酸化防止剤を配合してなる電気絶縁材料(その組成を表2に示す)を、外径が1.60mmとなるようにそれぞれ被覆し(絶縁体層の形成)、その上に外部導体として、アルミニウム−ポリエチレンテレフタレート複合シート(ポリエチレンテレフタレート厚さ25μm)並びに銅編組の層を形成し、ポリ塩化ビニルのシースを施した構造である。
なお、前記オレフィン系樹脂として、宇部丸善ポリエチレン社の低密度ポリエチレン(B028)を用いた。また、前記同軸ケーブルの絶縁体層には架橋を施した。
【0028】
前記同軸ケーブルの信号減衰量(dB/m)の測定は、ネットワークアナライザー8722ES(アジレント社製)を用いて行った。前記信号減衰量の測定結果は、前記同軸ケーブルを、25℃、湿度50%で1週間保管した後に測定したものである。
また、前記同軸ケーブルの熱老化特性(酸化劣化防止性能)の評価は、示差走査熱量分析計(Seiko Instruments社製 DSC220)を用い、ASTM D3895に準拠し、測定温度200℃及び220℃における酸化誘導期間(min)をそれぞれ測定することによって行った。具体的には、アルミ製容器(φ5mm)に、3mgの試料(同軸ケーブルの絶縁体層)を入れて、SUSメッシュの蓋をかぶせ、前記示差走査熱量分析計にセットした後、窒素雰囲気下で昇温(+20℃/min)し、測定温度(200℃,220℃)で5分間保持する。その後、前記雰囲気(窒素雰囲気)を空気雰囲気に切り替えることにより、空気雰囲気下で前記試料に発熱反応が生じるまでの時間(酸化劣化開始時間)を測定し、酸化誘導期間(min)とした。なお、ASTM D3895による測定方法では、通常、酸素雰囲気下で発熱反応が生じるまでの時間を測定するが、この実施例では、空気雰囲気下で発熱反応が生じる時間を、酸化誘導期間として測定した。
【0029】
【表2】

【0030】
表2に示すように、セミヒンダードフェノール系の酸化防止剤やレスヒンダードフェノール系の酸化防止剤を0.005〜2重量部の範囲で配合してなる電気絶縁材料(実施例1〜12の電気絶縁材料に相当)を、絶縁体層として用いた実施例29〜40の同軸ケーブルでは、3〜18GHzの各周波数における信号減衰量が4.0dB/m以下であり、高周波数帯域において特に優れた電気特性を有する。また200℃における酸化誘導期間が8分以上、220℃における酸化誘導期間が2分以上であり、優れた熱老化特性を有する。
【0031】
これに対し、セミヒンダードフェノール系の酸化防止剤やレスヒンダードフェノール系の酸化防止剤の添加量が、0.003重量部以下である電気絶縁材料(実施例13〜20の電気絶縁材料に相当)を絶縁体層として用いた実施例41〜48の同軸ケーブルでは、200℃及び220℃における酸化誘導期間が短く、熱老化特性が低下する。
また、セミヒンダードフェノール系の酸化防止剤やレスヒンダードフェノール系の酸化防止剤の添加量が、3重量部以上である電気絶縁材料(実施例21〜28の電気絶縁材料に相当)を絶縁体層として用いた実施例49〜56の同軸ケーブルでは、18GHzにおける信号減衰量が4.0dB/mを超え、電気特性が低下する。
【0032】
さらに、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を配合してなる電気絶縁材料を絶縁体層として用いた比較例23〜42の同軸ケーブルは、高周波数帯域での信号衰退量、若しくは熱老化特性に問題があった。
例えば、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤を0.003重量部配合してなる電気絶縁材料を絶縁体層として用いた比較例23、28、33及び38の同軸ケーブルは、200℃及び220℃における酸化誘導期間が短く、熱老化特性が劣る。
また例えば、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤を2重量部配合してなる電気絶縁材料を絶縁体層として用いた比較例26、31、36及び41の同軸ケーブルは、18GHzにおける信号減衰量が5.0dB/mを超え、5〜18GHzが使用周波数帯域に含まれる高周波用の通信ケーブルとして、実用上問題となる。
【0033】
さらにまた、実施例1〜28に記載される方法と同様に電気絶縁材料を作製して、前記電気絶縁材料の組成及び高周波帯域における誘電正接(tanδ)の測定を行った。即ち、セミヒンダードフェノール系の酸化防止剤であるトリエチレングリコールビス[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート(アデカ社のアデカスタブAO−70)と、レスヒンダードフェノール系の酸化防止剤である4,4´−ブチリデンビス(3−メチル−6−ターシャリーブチル)フェノール(アデカ社のアデカスタブAO−40)を、それぞれ配合した電気絶縁材料(実施例57〜70)である。なお、前記酸化防止剤の化学構造式は図2に記載した。
また、表3に示した電気絶縁材料の評価、即ち、各周波数(3GHz、6GHz、12GHz、18GHz)における誘電正接(tanδ)の測定結果は、表1で行った評価方法と全く同様に測定された結果である。
【0034】
【表3】

【0035】
表3から明らかなとおり、実施例57〜70に記載されたセミヒンダードフェノール系の酸化防止剤(アデカ社のアデカスタブAO−70)やレスヒンダードフェノール系の酸化防止剤(アデカ社のアデカスタブAO−40)を配合してなる電気絶縁材料では、3〜18GHzの高周波帯域において、誘電正接(tanδ)が周波数の影響を受けず安定していることが判る。これは、高周波用の通信ケーブル用として十分に実用的なものである。
そして、特に前記酸化防止剤が0.005〜2重量部の範囲で配合された電気絶縁材料(実施例57〜62)は、3〜18GHzの高周波数帯域において、前記誘電正接(tanδ)が2.4×10−4以下と優れたものであった。
【0036】
次に、実施例57〜70に記載した電気絶縁材料を絶縁体層として用い、実施例29〜56に記載される同軸ケーブルと同様の高周波同軸ケーブルを作製した。この高周波同軸ケーブル(実施例71〜84)について、信号減衰量(dB/m)及び酸化誘導期間(min)の測定を表2で行った評価方法と全く同様の方法で測定して、高周波同軸ケーブルの誘電特性及び熱老化特性として評価した。結果を表4に記載した。
【0037】
【表4】

【0038】
表4の実施例71〜84に示すように、セミヒンダードフェノール系の酸化防止剤としてアデカ社のアデカスタブAO−70を、またレスヒンダードフェノール系の酸化防止剤としてアデカ社のアデカスタブAO−40を配合した電気絶縁材料を絶縁体層とした高周波同軸ケーブルは、高周波数帯域において優れた誘電特性(tanδとして)を示した。特に、前記酸化防止剤を0.005〜2重量部の範囲で配合してなる電気絶縁材料を絶縁体層として用いた高周波同軸ケーブル(実施例71〜76)は、3〜18GHzの各周波数における信号減衰量が4.0dB/m以下と高周波数帯域において特に優れた誘電特性を有するものであった。また、熱老化特性も200℃における酸化誘導期間が8分以上、220℃における酸化誘導期間が2分以上であり、優れた高周波同軸ケーブルが得られる。
なお、酸化防止剤(アデカスタブAO−70並びにアデカスタブAO−40)の添加量が、0.003重量部以下である電気絶縁材料を絶縁体層として用いた高周波同軸ケーブル(実施例77〜80)では、減衰量は4.0dB/m以下であるが、200℃及び220℃における酸化誘導期間が若干短くなることが判った。また、酸化防止剤(アデカスタブAO−70並びにアデカスタブAO−40)の添加量が、3重量部以上である電気絶縁材料を絶縁体層として用いた高周波同軸ケーブル(実施例81〜84)では、酸化誘導期間は2minを十分クリアするが、18GHzにおける信号減衰量が4.0dB/mを若干超えることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上述べたように、本発明の電気絶縁材料は、高周波数帯域における誘電正接(tanδ)が小さく、5〜18GHzが使用周波数帯域に含まれる電気絶縁材料として十分に実用的な電気絶縁材料である。また、前記電気絶縁材料を絶縁体層として用いることによって、高周波同軸ケーブルなどの通信ケーブルとして実用的なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5〜18GHzが使用周波数帯域に含まれる電気絶縁材料であって、オレフィン系樹脂に、酸化防止剤としてヒンダードフェノール構造を有しないフェノール系の酸化防止剤を配合してなることを特徴とする電気絶縁材料。
【請求項2】
フェノール系の酸化防止剤が、下記一般式(1)で表されるセミヒンダードフェノール系の酸化防止剤、及び下記一般式(2)で表されるレスヒンダードフェノール系の酸化防止剤の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の電気絶縁材料。
【化1】

【化2】

前記一般式(1)及び前記一般式(2)において、R及びRは高分子鎖を表す。
【請求項3】
セミヒンダードフェノール系の酸化防止剤が、3,9−ビス[2−{3−(3−ターシ
ャリーブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2、4−8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、及びエチレンビス(オキシエチエレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、「トリエチレングリコールビス[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート」から選ばれる1種であることを特徴とする請求項2に記載の電気絶縁材料。
【請求項4】
レスヒンダードフェノール系の酸化防止剤が、4,4´−チオビス(3−メチル−6−ターシャリーブチル)フェノール、1,1,3−トリス−(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−ターシャリーブチルフェニル)ブタン、4,4´−ブチリデンビス(3−メチル−6−ターシャリーブチル)フェノールから選ばれる1種であることを特徴とする請求項2に記載の電気絶縁材料。
【請求項5】
オレフィン系樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレン及びエチレン−プロピレン共重合体の少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の電気絶縁材料。
【請求項6】
オレフィン系樹脂100重量部に対して、酸化防止剤が0.005〜2重量部配合されてなることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の電気絶縁材料。
【請求項7】
化学架橋または電子線架橋を施したことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の電気絶縁材料。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の電気絶縁材料を、絶縁体層として用いたことを特徴とする通信ケーブル。
【請求項9】
同軸ケーブルであることを特徴とする請求項8に記載の通信ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−258565(P2011−258565A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168858(P2011−168858)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【分割の表示】特願2008−228428(P2008−228428)の分割
【原出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】